説明

直火型連続加熱炉の制御方法および制御装置

【課題】鋼板の大きさやライン速度が変化した場合であっても、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御すること。
【解決手段】制御装置100は、先行材の大きさと後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量を算出し、算出された後行材の温度変動量に基づいて、先行材の目標温度および直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する。すなわち、制御装置100は、加熱炉の出側における板温を予測するのではなく、回帰モデルを利用して板温の変動量を直接予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接によって接続された複数の鋼板を連続的に焼鈍する直火型連続加熱炉の制御方法および制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスにおける連続加熱炉では、炉の出側における鋼板の温度(以下、板温と略記)を厳格に管理することによって鋼板の品質を保証している。このため、連続加熱炉では、鋼板の大きさやライン速度(通板速度)が変更された場合であっても、板温の変動を抑制することによって板温が目標板温になるように制御する必要がある。このような背景から、従来の連続加熱炉では、既に通板された鋼板(先行材)の大きさや目標板温とこれから通板される鋼板(後行材)の大きさや目標板温との間に差がある場合、先行材と後行材との間に後行材の大きさに近いつなぎ材を装入し、つなぎ材の目標板温を後行材の目標板温に設定している。
【0003】
しかしながら、つなぎ材の大きさと後行材の大きさとを常に同じにすることは容易ではなく、つなぎ材の大きさと後行材の大きさとを同じにできないことがある。そして、つなぎ材の大きさと後行材の大きさとに違いがある場合には、後行材の板温が変動し、後行材の板温を目標板温に制御できない。このため、つなぎ材の大きさと後行材の大きさとの違いによる後行材の板温変動量を予測し、予測された板温変動量分だけつなぎ材の尾端部の目標板温を変更することによって、後行材の板温を目標板温に制御する方法が提案されている(特許文献1参照)。なお、特許文献1には、ライン速度が変更された際、鋼板の大きさの変更時と同様の処理を行うことによって後行材の板温を目標板温に制御する技術も記載されている。
【0004】
また、特許文献2,3には、つなぎ材を用いずに後行材の板温を目標板温に制御する技術が記載されている。詳しくは、特許文献2には、先行材および後行材の板温を予測し、予測結果に基づいて評価関数を利用して求めた最適なタイミングで炉温指令値を変更することによって、先行材および後行材の板温を目標板温に制御する技術が記載されている。また、特許文献3には、直火型の連続焼鈍炉に特化した板温モデルを用いて先行材および後行材の板温を予測し、予測結果に基づいて先行材および後行材の板温が目標板温になるようにライン速度および目標板温を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−30127号公報
【特許文献2】特開2000−54032号公報
【特許文献3】特開平07−188781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1〜3記載の技術には以下に示すような問題点がある。すなわち、特許文献1に記載されているつなぎ材と後行材との板温を推定するモデルは、単位時間あたりに通板される鋼板の重量を変数とした数式であり、板温に対する板幅、板厚、およびライン速度の変化の影響を個別に考慮できる形式になっていない。このため、特許文献1記載の技術によれば、板幅、板厚、およびライン速度が変化した際、板温およびその変動量を正確に推定できないために、板温を目標板温に精度高く制御できない。また、つなぎ材を使用して板温を目標板温に制御するために、板温を安価に目標板温に制御することが難しい。
【0007】
一方、特許文献2記載の技術は、炉壁からの輻射熱で鋼板を間接的に加熱する間接加熱炉を対象としている。このため、特許文献2に記載されている板温の推定モデルは、輻射熱のみを考慮しており、鋼板を直接加熱する直火型の加熱炉には適用できない。また、特許文献2記載の技術で使用されている板温の推定モデルは、板厚方向の熱の移動のみを考慮した1次元の非定常熱伝導方程式であるので、板幅方向の板温を正確に推定できない。このため、特許文献2記載の技術によれば、鋼板の板幅が変化した際、板温およびその変動量を正確に推定できないために、板温を目標板温に精度高く制御できない。なお、一般に、間接加熱炉で用いられるモデルでは、板幅方向の板温は計算しない。これは、板幅が変化すると鋼板が加熱炉から奪う熱量が変化することによって炉温が変化することから、板幅方向の板温を計算する場合には、板幅の変化に伴い輻射熱量が変化するという複雑なモデルが必要になる上に、測定できない多数のパラメータによってモデルの調整が困難になるためである。
【0008】
これに対して、特許文献3記載の技術は、直火型の加熱炉に適用可能な板温の推定モデルを用いている。しかしながら、特許文献3記載の技術では、炉壁から鋼板への輻射伝熱、雰囲気から鋼板への輻射伝熱、および雰囲気から鋼板への対流伝熱の比率や測定が困難である雰囲気温度については仮定値を用いているために、板温およびその変動量を正確に推定することができない。また、板幅の変化に伴う板温の変化については考慮していない。このため、特許文献3記載の技術によれば、鋼板の板幅が変化した際、板温およびその変動量を正確に推定できないために、板温を目標板温に精度高く制御できない。
【0009】
このように、特許文献1〜3記載の技術によれば、直火型の加熱炉における鋼板の温度およびその変動量を正確に推定することができない。このため、鋼板の大きさやライン速度が変化した場合であっても、直火型加熱炉における鋼板の温度の変動量を正確に推定し、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御可能な技術の提供が期待されていた。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、鋼板の大きさやライン速度が変化した場合であっても鋼板の温度を目標温度に精度高く制御可能な直火型連続加熱炉の制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
直火型連続加熱炉における炉壁と鋼板との間および雰囲気温度と鋼板との間の熱の移動は物理的に複雑であるために、それらを完全に把握して鋼板の温度を予測することは技術的に困難である。そこで、本発明の発明者らは、鋼板の大きさやライン速度が変化した際の鋼板の温度の変動量を予測できれば、鋼板の温度の変動を抑制し、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御できるという技術思想を想到するに至った。そして、本発明の発明者らは、鋼板の板厚、板幅、およびライン速度の変更量と鋼板の温度の変動量との関係を解析したところ、それらの間には強い相関関係があり、鋼板の板厚、板幅、およびライン速度の変更量から鋼板の温度の変動量を高精度に予測できることを知見した。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る直火型連続加熱炉の制御方法は、溶接によって接続された複数の鋼板を連続的に焼鈍する直火型連続加熱炉の制御方法であって、既に通板された先行材の大きさとこれから通板される後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量を算出する予測ステップと、前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量に基づいて、前記先行材の目標温度および前記直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る直火型連続加熱炉の制御方法は、上記発明において、前記制御ステップは、先行材の大きさと後行材の大きさとに違いがある場合、前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量と後行材の目標温度との和を前記先行材の指定位置から尾端部までの範囲における先行材の目標温度としてフィードバック制御し、前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量と先行材の目標温度と後行材の目標温度との差分値との和を補償すべき温度変動量として燃料流量変更量を算出し、算出された燃料流量変更量と現在の燃料流量使用量との和を前記加熱装置に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御するステップを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る直火型連続加熱炉の制御方法は、上記発明において、前記制御ステップは、後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度の変動量と先行材の目標温度と後行材の目標温度との差分値との和を補償すべき後行材の温度変動量として燃料流量変更量を算出し、算出された燃料流量変更量と現在の燃料流量使用量との和を前記加熱装置に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御するステップを含むことを特徴とする。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る直火型連続加熱炉の制御装置は、溶接によって接続された複数の鋼板を連続的に焼鈍する直火型連続加熱炉の制御装置であって、既に通板された先行材の大きさとこれから通板される後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量を算出する予測手段と、前記予測手段によって算出された後行材の温度変動量に基づいて、前記先行材の目標温度および前記直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る直火型連続加熱炉の制御方法および制御装置によれば、鋼板の大きさやライン速度が変化した場合であっても、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉が適用される連続焼鈍ラインの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、図2に示す操業データDB内に格納される操業データの一例を示す図である。
【図4】図4は、鋼板の大きさが変更された際の板温制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は、先行材の目標温度のフィードバック制御処理を説明するための図である。
【図6】図6は、先行材の目標温度のフィードバック制御処理および燃料流量のフィードフォワード制御処理を説明するための図である。
【図7】図7は、燃料流量のフィードフォワード制御処理を説明するための図である。
【図8】図8は、鋼板のライン速度が変更された際の板温制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図9は、燃料流量のフィードフォワード制御処理を説明するための図である。
【図10】図10は、本発明による板幅変更に伴う板温変化の評価の一例を示す図である。
【図11】図11は、本発明によって予測された板幅変更に伴う板温変動と実際の板温変動との関係を示す図である。
【図12】図12は、従来法によって予測されたライン速度変更に伴う板温変動と実際の板温変動との関係を示す図である。
【図13】図13は、本発明によって予測されたライン速度変更に伴う板温変動と実際の板温変動との関係を示す図である。
【図14】図14は、従来法によって予測された板厚変更に伴う板温変動と実際の板温変動との関係を示す図である。
【図15】図15は、本発明によって予測された板厚変更に伴う板温変動と実際の板温変動との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉の制御方法および制御装置について説明する。
【0019】
〔連続焼鈍ラインの構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉が適用される連続焼鈍ラインの構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉が適用される連続焼鈍ラインの構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉が適用される連続焼鈍ライン1は、ペイオフリール2a,2b、溶接機3、クリーニングセクション4、テンションレベラ5a〜5d、入側ルーパ6、直火型連続加熱炉7、出側ルーパ8、スキンパスミル9、および後処理部10を主な構成要素として備えている。
【0021】
ペイオフリール2a,2bは、コイル状に巻き取られている鋼板Sを払い出して溶接機3に供給する設備である。溶接機3は、ペイオフリール2a(又はペイオフリール2b)から払い出された鋼板(先行材)の尾端部とペイオフリール2b(又はペイオフリール2a)から払い出された後行の鋼板(後行材)の先端部とを溶接する設備である。クリーニングセクション4は、溶接機3によって溶接された鋼板を洗浄液中に通板することによって鋼板に付着した油脂などを除去する設備である。
【0022】
テンションレベラ5a,5bは、クリーニングセクション4を通過した鋼板の歪みを矯正して入側ルーパ6に供給する設備である。入側ルーパ6は、後段の焼鈍処理のために、鋼板の張力を保ちながら鋼板を一時待機させるための設備である。入側ルーパ6によってタイミング調整された鋼板は、テンションコントロールユニット11aを経由して直火型連続加熱炉7に通板される。
【0023】
直火型連続加熱炉7は、加熱炉7a、均熱炉7b、および冷却炉7cを備え、溶接によって接続された複数の鋼板を加熱炉7a、均熱炉7b、および冷却炉7cに順次通板することによって複数の鋼板を連続的に焼鈍する。焼鈍後の鋼板は、ウォータークエンチ設備12およびテンションコントロールユニット11bを経由して出側ルーパ8に搬入される。出側ルーパ8は、後段の後処理のために、鋼板の張力を保ちながら鋼板を一時待機させるための設備である。
【0024】
スキンパスミル9は、テンションレベラ5c,5dと協働して、出側ルーパ8から送出された鋼板を調質圧延するための設備である。後処理部10は、鋼板から不要部分を切断するトリマ、鋼板にオイルを塗るオイラー、および検査プロセスで検出された不良部を切断するシャーなどを備える設備である。後処理部10を通過した鋼板は、テンションリール13a,13bに巻き取られる。
【0025】
〔制御装置の構成〕
次に、図2,図3を参照して、図1に示す直火型連続加熱炉7の制御装置の構成について説明する。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉の制御装置の構成を示すブロック図である。図3は、図2に示す操業データDB104内に格納される操業データの一例を示す図である。
【0027】
図2に示すように、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉の制御装置100は、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの情報処理装置によって構成され、情報処理装置内部のCPUなどの演算処理装置がコンピュータプログラムを実行することによって回帰モデル作成部101、板温変動量算出部102、および燃料流量変動量算出部103として機能する。制御装置100は、本発明に係る予測手段および制御手段として機能する。
【0028】
回帰モデル作成部101は、制御装置100に接続されている操業データDB104内に格納されている過去の操業データを利用して、鋼板の大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、鋼板の大きさおよびライン速度の変化に伴う鋼板の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを作成する。具体的には、図3に示すように、過去の操業データには、焼鈍処理された鋼板の鋼種、板厚、板幅、ライン速度、目標板温、および鋼板の温度の変動量(板温変動量)に関するデータが含まれている。
【0029】
回帰モデル作成部101は、図3に示す操業データを利用して鋼板のライン速度、板厚、および板幅の変更が加熱炉7aの出側における鋼板の温度に及ぼす影響の度合いを影響係数a〜a(<0)として重回帰分析により算出し、算出結果に基づいて以下の数式(1)に示すような回帰モデルを作成する。なお、鋼板の放射率は鋼種毎に異なるために、影響係数a〜aは鋼種によって変化する。このため、影響係数a〜aは鋼種毎に算出しておくことが望ましい。そして、回帰モデル作成部101は、算出された回帰モデルを制御装置100内部のROMなどの記憶装置に記憶する。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、数式(1)中、ΔT1は鋼板の大きさおよびライン速度の変化に伴う鋼板の温度変動量[℃]、LS,LSは先行材および後行材のライン速度[m/sec]、D,Dは先行材および後行材の板厚[mm]、W,Wは先行材および後行材の板幅[mm]、T,Tは先行材および後行材の加熱炉7aの出側における目標温度(目標出側板温)[℃]、aはライン速度変更の影響係数、aは板厚変更の影響係数、aは板幅変更の影響係数、aは断面積変更の影響係数を示している。また、数式(1)の右辺の第1項はライン速度の変動に伴う鋼板の温度変動量を示し、第2項は鋼板の板厚の変化に伴う鋼板の温度変動量を示し、第3項は鋼板の板幅の変化に伴う鋼板の温度変動量を示し、第4項は鋼板の断面積の変化に伴う鋼板の温度変動量を示している。
【0032】
板温変動量算出部102は、回帰モデル作成部101によって作成された回帰モデルを利用して鋼板の大きさおよびライン速度の変化に伴う鋼板の温度変動量ΔT1を算出する。そして、板温変動量算出部102は、算出された鋼板の温度変動量ΔT1に基づいて、炉温指示値を出力する板温指令系110をフィードバック制御する。燃料流量変更量算出部103は、板温変動量算出部102によって算出された鋼板の温度変動量ΔT1を利用して、鋼板の温度の変動を抑制するために必要な燃料流量の変更量を算出する。そして、燃料流量変更量算出部103は、算出された燃料流量の変更量に基づいて、加熱炉7aを加熱する加熱装置に燃料を供給する燃料弁の開度を制御する燃料制御系111をフィードフォワード制御する。
【0033】
このような構成を有する制御装置100は、以下に示す板温制御処理を実行することによって、鋼板の大きさが変更された場合やライン速度が変更された場合であっても、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御する。以下、鋼板の大きさが変更された場合とライン速度が変更された場合とに分けて、板温制御処理を実行する際の制御装置100の動作について説明する。
【0034】
〔大きさ変更時〕
始めに、図4に示すフローチャートを参照して、鋼板の大きさが変更された際の板温制御処理の流れについて説明する。
【0035】
図4は、鋼板の大きさが変更された際の板温制御処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すフローチャートは、連続焼鈍ライン1が稼働されたタイミングで開始となり、板温制御処理はステップS1の処理に進む。板温制御処理は連続焼鈍ライン1が稼働している間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0036】
ステップS1の処理では、板温変動量算出部102が、これから加熱炉7aに通板される後行材に関する各種設定計算を実行するタイミングで、後行材の大きさと既に通板されている先行材の大きさとの間に違いがあるか否かを判別する。後行材および先行材の大きさに関する情報は、加熱炉7aの入り側に設置された測定器を利用して測定される。判別の結果、大きさに違いがない場合、板温変動量算出部102は、板温制御処理を終了する。一方、大きさに違いがある場合には、板温変動量算出部102は、板温制御処理をステップS2の処理に進める。
【0037】
ステップS2の処理では、板温変動量算出部102が、先行材のライン速度LS=後行材のライン速度LSとして、回帰モデル作成部101によって作成された回帰モデルに先行材および後行材の板厚D,Dと先行材および後行材の板幅W,Wとを代入することによって、先行材との大きさの違いに伴う後行材の板温変動量ΔT1を算出する。これにより、ステップS2の処理は完了し、板温制御処理はステップS3の処理に進む。
【0038】
ステップS3の処理では、燃料流量変更量算出部103が、以下に示す数式(2)を利用して、ステップS2において算出された先行材との大きさの違いに伴う後行材の板温変動量ΔT1と先行材の目標出側板温Tと後行材の目標出側板温Tとの差分値ΔT2との和を補償すべき板温変動量ΔTとして算出する。
【0039】
【数2】

【0040】
補償すべき板温変動量ΔTが算出されると、燃料流量変更量算出部103は、熱バランス式を利用して補償すべき板温変動量ΔTから板温の変動を抑制するために必要な単位時間あたりの燃料流量変更量Fを算出する。具体的には、板温変動量ΔTを抑制するために必要な単位時間あたりの熱量(左辺)が後行材に投入される単位時間あたりの熱量(右辺)に等しいとすると、以下に示す数式(3)が成り立つ。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、数式(3)中、ρは後行材の比重[kg/m]、Cは後行材の比熱[kcal/kg・℃]、LSは後行材のライン速度[m/sec]、Dは後行材の板厚[mm]、Wは後行材の板幅[mm]、ΔTは補償すべき板温変動量[℃]、Fは単位時間当たりの燃料流量変更量[Nm/hr]、Calは燃料熱量[kcal/Nm]を示している。
【0043】
従って、燃料流量変更量算出部103は、数式(3)を数式(4)のように変形し、後行材の比重ρ、比熱C、ライン速度LS、板厚D、および板幅Wと、板温変動量ΔTおよび燃料熱量Calとを数式(4)に代入することによって、板温変動量ΔTを抑制するために必要な単位時間あたりの燃料流量変更量Fを算出することができる。これにより、ステップS3の処理は完了し、板温制御処理はステップS4の処理に進む。
【0044】
【数4】

【0045】
ステップS4の処理では、板温変動量算出部102が、図5に示すように、後行材の目標出側板温TとステップS2の処理によって算出された後行材の板温変動量ΔT1との和、換言すれば、先行材の目標出側板温TとステップS3の処理によって算出された補償すべき板温変動量ΔTとの和が先行材の指定位置から先行材の尾端部までの区間の目標板温になるように先行材の板温目標値(当初の板温目標値)を修正する。なお、図5に示す例は、補償すべき板温変動量ΔTが負の値、換言すれば、後行材の板温が目標出側板温に対し減少するおそれがある場合の目標出側板温の制御を示しており、後行材の板温が目標出側板温に対し減少しないように先行材の指定位置から先行材の尾端部までの区間の目標出側板温を増加させている。
【0046】
そして、図6に示すように、板温指令系110は、板温変動量算出部102によって修正された板温目標値と板温計112によって測定された加熱炉7aの出側における先行材の板温実績値との差分値に基づいて、加熱炉7aの出側における先行材の温度が目標出側板温T+ΔT1(=T+ΔT)になるように炉温指示値を炉温制御系113に出力する。なお、図6に示すように、炉温制御系113は、板温指令系110から出力された炉温指示値と炉温計114から出力された加熱炉7aの炉温実績値との差分値に基づいて、加熱炉7aの炉温が目標炉温になるように燃料制御系111に燃料流量指示値を出力する。このように、板温変動算出部102は、後行材の板温目標値Tと先行材との大きさの違いに伴う後行材の板温変動量ΔT1との和を先行材の指定位置から尾端部までの範囲における先行材の目標温度としてフィードバック制御する。
【0047】
また、燃料流量変更量算出部103は、図7に示すように、先行材の指定位置から後行材の尾端部までの区間の燃料流量変更量をステップS3の処理によって算出された燃料流量変更量Fに設定する。なお、図7に示す例は、補償すべき板温変動量ΔTが負の値、換言すれば、後行材の板温が目標出側板温に対し減少するおそれがある場合の燃料流量の制御を示しており、後行材の板温が目標出側板温に対し減少しないように燃料流量を増加させて加熱炉7aの炉温を増加させている。そして、図6に示すように、燃料制御系111は、燃料流量変更量算出部103によって設定された燃料流量変更量Fと炉温制御系113から出力された燃料流量指示値との和と流量計115によって計測された燃料流量実績値との差分値に基づいて、加熱装置に燃料を供給する燃料弁の開度を制御する。このように、燃料流量変更量算出部103は、燃料流量変更量Fと現在の燃料流量使用量との和を燃料制御系111に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御する。これにより、ステップS4の処理は完了し、一連の板温制御処理は終了する。
【0048】
〔ライン速度変更時〕
次に、図8に示すフローチャートを参照して、鋼板のライン速度が変更された際の板温制御処理の流れについて説明する。
【0049】
図8は、鋼板のライン速度が変更された際の板温制御処理の流れを示すフローチャートである。図8に示すフローチャートは、連続焼鈍ライン1が稼働されたタイミングで開始となり、板温制御処理はステップS11の処理に進む。板温制御処理は連続焼鈍ライン1が稼働している間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0050】
ステップS11の処理では、板温変動量算出部102が、後行材のライン速度が先行材のライン速度に対して変更されたか否かを判別する。判別の結果、ライン速度が変更されていない場合、板温変動量算出部102は、板温制御処理を終了する。一方、ライン速度が変更された場合には、板温変動量算出部102は、板温制御処理をステップS12の処理に進める。
【0051】
ステップS12の処理では、燃料流量変更量算出部103が、先行材の板厚D=後行材の板厚D、先行材の板幅W=後行材の板幅W、および先行材の目標出側板温T=後行材の目標出側板温Tとして、数式(2)に先行材および後行材のライン速度LS,LSを代入することによって、補償すべき板温変動量ΔTを算出する。そして、燃料流量変更量算出部103が、熱バランス式を利用して板温変動量ΔTから板温の変動を抑制するために必要となる単位時間あたりの燃料流量変更量Fを算出する。なお、この一連の処理は第1の実施形態におけるステップS2およびステップS3の処理と実質的に同じであるので詳細な説明は省略する。これにより、ステップS12の処理は完了し、板温制御処理はステップS13の処理に進む。
【0052】
ステップS13の処理では、燃料流量変更量算出部103が、図9に示すように、ライン速度が変更されたタイミング(時間t=t)で燃料流量変更量をステップS12の処理によって算出された燃料流量変更量Fに設定する。そして、燃料制御系11は、図6に示すように、燃料流量変更量算出部103によって設定された燃料流量変更量Fと炉温制御系113から出力された燃料流量指示値との和と流量計115によって計測された燃料流量実績値との差分値に基づいて、加熱装置に燃料を供給する燃料弁の開度を制御する。すなわち、燃料流量変更量算出部103は、燃料流量変更量Fと現在の燃料流量使用量との和を燃料制御系111に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御する。これにより、ステップS13の処理は完了し、一連の板温制御処理は終了する。
【0053】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である直火型連続加熱炉の制御装置100は、先行材の大きさと後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量ΔT1を算出し、算出された後行材の温度変動量ΔT1に基づいて、先行材の目標温度および直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する。すなわち、制御装置100は、加熱炉の出側における板温を予測するのではなく、回帰モデルを利用して板温の変動量を直接予測する。このような構成によれば、板温の変動量を精度高く算出できるので、鋼板の大きさやライン速度が変化した場合であっても、鋼板の温度を目標温度に精度高く制御することができる。
【0054】
〔実施例〕
以下、本発明および従来法を利用して、鋼板の板幅、ライン速度、および板厚を変更した際の板温変動の予測精度を評価した結果について述べる。なお、従来法では、以下の数式(5)に示す非定常熱伝導方程式を以下の数式(6)に示す境界条件式のもとで解くことによって加熱炉の出側における板温を算出し、算出された板温を用いて板温の変動量を算出した。これに対して、本発明では、回帰式を利用して板温の変動量を直接算出した。ここで、数式(5),(6)中のρは鋼板の比重[kg/m]、Cは鋼板の比熱[kcal/kg・℃]、λは鋼板の熱伝導度[kcal/mhr・℃]、tは時間[hr]、xは鋼板の板厚方向の座標[m]、φcgは統括熱吸収率、σはステファンボルツマン係数[kcal/m・hr・℃]、Trは炉温[℃]、Tsは鋼板表面温度[℃]、Tは板温[℃]を示している。
【0055】
【数5】

【数6】

【0056】
〔板幅変更時〕
従来法を利用して鋼板の板幅変更に伴う板温変化を評価した場合、図10に示すような板幅変更に伴う板温変化は確認できなかった。このため、従来法を利用した場合には、鋼板の板幅が変更された際、板温を目標温度に精度高く制御することは困難になる。これに対して、本発明を利用して鋼板の板幅変更に伴う板温変化を評価した場合、図10に示すような板幅変更に伴う板温変化が確認でき、また図11に示すように予測された温度変動量は実際の温度変動量を精度よく再現できた。このため、本発明によれば、鋼板の板幅が変更された場合であっても、板温を目標温度に精度高く制御できることが知見された。
【0057】
〔ライン速度変更時〕
従来法を利用して鋼板のライン速度変更に伴う板温変化を評価した場合、図12に示すように、板温変動の予測値と実績値とはある程度の一致を示し、予測誤差の標準偏差は7.5[℃]であった。これに対して、本発明を利用して鋼板のライン速度変更に伴う板温変化を評価した場合、図13に示すような板温変動の予測値と実績値とは良い一致を示し、予測誤差の標準偏差は3.9[℃]であった。以上のことから、本発明によれば、鋼板のライン速度が変更された際、従来法を利用した場合よりも板温を目標温度に精度高く制御できることが知見された。
【0058】
〔板厚変更時〕
従来法を利用して鋼板の板厚変更に伴う板温変化を評価した場合、図14に示すように、板温変動の予測値と実績値とはある程度の一致を示し、予測誤差の標準偏差は12.9[℃]であった。これに対して、本発明を利用して鋼板の板厚変更に伴う板温変化を評価した場合、図15に示すような板温変動の予測値と実績値とは良い一致を示し、予測誤差の標準偏差は8.9[℃]であった。以上のことから、本発明によれば、鋼板の板厚が変更された際、従来法を利用した場合よりも板温を目標温度に精度高く制御できることが知見された。
【0059】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例、および運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 連続焼鈍ライン
2a,2b ペイオフリール
3 溶接機
4 クリーニングセクション
5a〜5d テンションレベラ
6 入側ルーパ
7 直火型連続加熱炉
8 出側ルーパ
9 スキンパスミル
10 後処理部
11a,11b テンションコントロールユニット
12 ウォータークエンチ設備
13a,13b テンションリール
100 制御装置
101 回帰モデル作成部
102 板温変動量算出部
103 燃料流量変動量算出部
104 操業データDB
110 板温制御系
111 燃料制御系
112 板温計
113 炉温制御系
114 炉温計
115 流量計
S 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接によって接続された複数の鋼板を連続的に焼鈍する直火型連続加熱炉の制御方法であって、
既に通板された先行材の大きさとこれから通板される後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量を算出する予測ステップと、
前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量に基づいて、前記先行材の目標温度および前記直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する制御ステップと、
を含むことを特徴とする直火型連続加熱炉の制御方法。
【請求項2】
前記制御ステップは、
先行材の大きさと後行材の大きさとに違いがある場合、
前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量と後行材の目標温度との和を前記先行材の指定位置から尾端部までの範囲における先行材の目標温度としてフィードバック制御し、
前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度変動量と先行材の目標温度と後行材の目標温度との差分値との和を補償すべき温度変動量として燃料流量変更量を算出し、
算出された燃料流量変更量と現在の燃料流量使用量との和を前記加熱装置に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御するステップ
を含むことを特徴とする請求項1に記載の直火型連続加熱炉の制御方法。
【請求項3】
前記制御ステップは、
後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、
前記予測ステップにおいて算出された後行材の温度の変動量と先行材の目標温度と後行材の目標温度との差分値との和を補償すべき後行材の温度変動量として燃料流量変更量を算出し、
算出された燃料流量変更量と現在の燃料流量使用量との和を前記加熱装置に対する燃料流量指令値としてフィードフォワード制御するステップ
を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の直火型連続加熱炉の制御方法。
【請求項4】
溶接によって接続された複数の鋼板を連続的に焼鈍する直火型連続加熱炉の制御装置であって、
既に通板された先行材の大きさとこれから通板される後行材の大きさとに違いがある場合又は後行材のライン速度が先行材のライン速度から変化した場合、大きさおよびライン速度の変化量を入力変数、大きさおよびライン速度の変化に伴う後行材の温度変動量を出力変数とする回帰モデルを利用して、後行材の温度変動量を算出する予測手段と、
前記予測手段によって算出された後行材の温度変動量に基づいて、前記先行材の目標温度および前記直火型連続加熱炉の加熱装置に供給する燃料流量の少なくとも一方を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする直火型連続加熱炉の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−87319(P2013−87319A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227894(P2011−227894)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】