説明

相互作用分析方法及び相互作用分析装置

分析対象の物質を含む溶液が極微量であっても、当該溶液をロスすることなくハイスループットに解析を行う。 分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液と、当該分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液とを、前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程と、上記分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子間相互作用を分析する際に適用される相互作用分析方法及び相互作用分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質間、タンパク質−DNA間あるいはタンパク質−低分子化合物間などの分子間における相互作用の分析は、生体分子の機能や医薬品の作用を解明する上で欠くことができない。分子間相互作用の分析方法としては、従来から各種知られているが、そのほとんどはいずれかの分子を標識するかあるいはいずれかの分子を担体に固定する必要があった。
【0003】
一方で、近年、遺伝子配列の高速解読技術や質量分析計によるタンパク質の高速同定技術を背景としてゲノミクスおよびプロテオミクスという分野が著しく進展している。また、これらの技術を背景として、医薬品などの低分子化学物質と遺伝子発現あるいはタンパク質との相互作用を鳥瞰的に理解しようとするケミカルジェノミクスという分野も開拓されている。これらの分野においては、多数の分子間相互作用を高感度にハイスループットに微量分析できる手法が求められている。特に高速化および非特異的な影響を回避する観点から、非修飾かつ非固定で分子間相互作用を多重解析できる手法が望まれている。
【0004】
非修飾かつ非固定で2種の分子間相互作用を分析する手法として、クロマトグラフィーを用いた手法が知られている。例えば、Stevens F.J.(特許文献1)は、2種の生体高分子間の相互作用をサイズ排除クロマトグラフィーの吸光度クロマトグラムから決定する方法を開示している。すなわち、2種のタンパク質分子の混合物における吸光度クロマトグラムと、それぞれのタンパク質分子単独における吸光度クロマトグラムの算術和とを比較し、複合体が形成されているか否かを判定するものである。
【0005】
また、非特許文献1あるいは非特許文献2には、タンパク質と低分子化合物の混合物をスピンカラム方式のゲルろ過カラムに通し、そのタンパク質分画に含まれる低分子化合物を質量分析計で同定する相互作用分析方法が報告されている。さらに、特許文献2には、標的分子とリガンドとの混合物を第一のサイズ排除クロマトグラフィーで分離し、標的分子とリガンドとの複合体を分取して解離させ、第二のサイズ排除媒体を通して標的分子とリガンドとを分離した後、質量分析計を用いてリガンドを同定する手法が開示されている。
【0006】
非修飾かつ非固定で2種の分子間相互作用を分析する別の手法としては、特許文献3として、競合結合とキャピラリ電気泳動法(CE)とを組み合わせた方法が報告されている。すなわち、関心のある検出可能な標的分子(タンパク質など)及びこの標的分子と強く結合してCEにおける泳動パターンを変化させる既知の強結合競合配位子(医薬品化合物など)を、試験試料と混合してキャピラリ電気泳動法に供し、未結合の標的分子に起因するピークの増大あるいは強結合競合配位子と複合体を形成している標的分子のピークの減少から、標的分子と結合する成分を含有する試験試料をスクリーニングする方法である。
【0007】
また、特許文献4には、標的分子と試験試料の混合液の第一プラグと、蛍光標識された強結合競合リガンドの第二プラグ若しくは蛍光標識された強結合競合リガンドの第一プラグと、標的分子と、試験試料の混合液の第二プラグとを、キャピラリ電気泳動に連続的に導入し、第二プラグが第一プラグをキャピラリ内で追い越し、蛍光検出部で作成された競合リガンドの泳動パターンから、標的分子と試験試料との相互作用を判定する手法が開示されている。
【特許文献1】米国特許公報4,762,617
【非特許文献1】Y.Dunayevskiy et al.,Rapid Comm.Mass Spectrometry,vol.11,1178−1184(1997)
【非特許文献2】F.J.Moy et al.,Anal.Chem.,vol.73,571−581(2001)
【特許文献2】国際公開公報WO 00/47999
【特許文献3】特許公表公報第2002−508515号
【特許文献4】特許公表公報第2003−502665号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のクロマトカラムあるいは電気泳動管などの分離流路を用いた分子間相互作用の分析技術においては、相互作用を検定される物質同士、例えば標的分子と試験試料とをあらかじめ混合した後に分離流路に導入されていた。そのため、多数の物質間の相互作用を検定する場合には、多数の物質同士を互いに混合したサンプル液をあらかじめ調製しておく必要があった。これは、多数の物質を検定する場合に煩雑な作業となるだけでなく、分析の微量化の面でも大きな制約となっていた。
【0009】
例えば、100種類の第一物質と100種類の第二物質と間の相互作用を組み合わせ検定したい場合、100×100=10,000通りの混合液をあらかじめ調製し、この10,000通りのサンプルをオートインジェクターなどにセットして分離流路に逐次導入して分析することになる。この準備作業は物質数が多くなればなるほど負担が大きくなり、多量のサンプルを並べうる大規模なオートインジェクターが必要となる。
【0010】
さらに、分析に要するサンプル量の微量化の観点からも次のような問題点がある。例えば、オートインジェクターを用いて正確にサンプルを注入するにはサンプル管に過剰量のサンプルが必要であるため、サンプル管からオートインジェクターが各サンプルを1μL採取してインジェクトする場合においても、サンプル管には少なくとも数μL以上のサンプル液を準備しておく必要がある。その上、数μLオーダーの微量なサンプルの場合、多数のサンプルを分析する待ち時間の間に、蒸発などによるサンプル液の濃度変化や消失の危険性があるため、さらに数倍のサンプル液量が望ましい。そのため、多数物質間の組み合わせ検定の場合、必要となるサンプル量は、実際にインジェクターが注入するサンプル量の数倍〜数十倍を要することとなり、非常に無駄が多かった。また、シリンジでサンプルを吸引してインジェクションバルブに注入する一般的なインジェクターでは、最小採取量は1μL程度であり、これより微量なサンプル液量での分子間相互作用の組み合わせ検定を効率よく実施する手法が望まれていた。
【0011】
また、分析に供するサンプル濃度を低減して必要サンプル量を抑制しようとした場合も、検出器における検出感度に依存するため制約があった。例えば、非標識物質を識別できる利点がある質量分析計を検出器として用いた場合も、イオン化しづらい化合物は濃度を低減すると良好なマスクロマトグラムが得られなくなるという問題があった。このサンプル濃度は多重化の際にも制約となりうる。例えば、質量分析計が混合物中でも個々の物質をその質量で識別できるという特徴を活かして、分析に供する物質を多重化してスループットを向上させる手法が用いられているが、分析時に高い物質濃度が要求される場合、その物質の多重化度に限界が生じていた。すなわち、相互作用解析に供する2つの物質の内、少なくとも片方の物質が1/10の低濃度で解析可能となれば、その物質の多重化度を約10倍向上させることが可能となり、スループットが向上するだけでなく、もう片方の物質のサンプル必要量が約1/10に低減できると期待される。従って、クロマトカラムあるいは電気泳動管などの分離流路を用いた分子間相互作用の分析技術においては、検出感度を向上する有効な手段が強く求められていたのである。
【0012】
そこで、本発明は、上述したような従来の相互作用分析方法における実状に鑑み、極微量なサンプル量でハイスループットに解析を行うことができる相互作用分析方法及び相互作用分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
【0014】
(1)分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液と、当該分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液とを、前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程と、上記分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出する工程とを含む相互作用分析方法。
【0015】
(2)検出したクロマトグラムと、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質が他の物質と相互作用していない場合のクロマトグラムとを比較する工程を更に含み、これらクロマトグラム間に差異が生じている場合には、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との間に相互作用が存在すると判定することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0016】
(3)前記分離流路が、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、金属キレートクロマトグラフィー、電気泳動管及び電気浸透流管からなる群から選ばれる少なくとも1のクロマトグラフィーであることを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0017】
(4)前記クロマトグラムを、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器及び電気化学検出器からなる群から選ばれる少なくとも1の検出器で検出することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0018】
(5)前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は、複数の物質を含むことを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0019】
(6)前記クロマトグラムは、前記第1溶液及び/又は前記第2溶液に含まれる物質の質量に基づいて検出されるマスクロマトグラムであることを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0020】
(7)前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は複数の物質を含み、これら複数の物質に関する多重化されたクロマトグラムを検出することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0021】
(8)前記第1溶液及び前記第2溶液を異なる液量で分離流路に導入することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0022】
(9)前記第1溶液の分離流路に対する導入量と比較して前記第2溶液の導入量を2倍以上とすることを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0023】
(10)前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程では、第2溶液の導入後、第1溶液の導入前に、気体又は液体の間隙試料を導入することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0024】
(11)前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は複数の液体試料からなり、これら複数の液体試料を連続して導入することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0025】
(12)前記分離流路がn次元(n≧2、整数)で構成され、(m−1)次元の分離流路(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路に導入する工程をm=2からm=nまで繰り返し、上記クロマトグラムを検出する工程では、n次元の分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出することを特徴とする(1)記載の相互作用分析方法。
【0026】
(13)(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を導入した後に当該分画を導入し、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を導入する前に当該分画を導入することを特徴とする(12)記載の相互作用分析方法。
【0027】
(14)(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入し、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入することを特徴とする(12)記載の相互作用分析方法。
【0028】
(15)前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程では、前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量が10μL以下、好ましくは3μL以下であることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【0029】
また、本発明を適用した相互作用分析装置は、上記相互作用分析方法に含まれる各工程を実施することができる。例えば、相互作用分析装置は、溶液に含まれる物質群を分離して溶出する分離流路を有する分離装置と、前記分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液及び前記分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液と有する容器部と、前記容器部から前記分離流路に対して、第1溶液及び第2溶液を導入する導入装置と、少なくとも前記導入装置の駆動制御を行う制御装置とを備える。そして、相互作用分析装置において、前記制御装置は前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入するように前記導入装置を制御する。
【0030】
さらに、相互作用分析装置は、前記分離流路から溶出した物質のクロマトグラムを検出する検出装置を更に備えることが好ましい。
【0031】
前記分離装置としては、サイズ排除クロマトグラフィー装置、イオン交換クロマトグラフィー装置、アフィニティークロマトグラフィー装置、吸着クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー装置、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー装置、金属キレートクロマトグラフィー装置、電気泳動管装置及び電気浸透流管装置からなる群から選ばれる少なくとも1のクロマトグラフィー装置を例示できる。
【0032】
前記検出装置としては、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器及び電気化学検出器からなる群から選ばれる少なくとも1の検出器を例示できる。
【0033】
前記制御装置は、第2溶液の導入後、第1溶液の導入前に、気体又は液体の間隙試料を導入するように前記導入装置を制御することもできる。
【0034】
前記容器部は、複数の第1溶液及び/又は複数の第2溶液を備えることもできる。
【0035】
前記分離装置としては、n次元(n≧2、整数)で構成された分離流路を有し、前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路に導入する工程をm=2からm=nまで繰り返すように制御するものであっても良い。このとき、前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を導入した後に当該分画を導入し、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を導入する前に当該分画を導入するように制御することもできる。
【0036】
また、前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入し、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入するように制御することもできる。
【0037】
さらに、前記分離流路に対する前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量は、10μL以下、好ましくは3μL以下とすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、分析対象の物質を含む溶液が極微量であっても、当該溶液をロスすることなくハイスループットに解析を行うことができる相互作用分析方法及び相互作用分析装置を提供することができる。
【0039】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−354000号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を適用した相互作用分析装置の概略を示す構成図である。
【図2−1】本発明を適用した相互作用分析装置を用いて、第1溶液及び第2溶液を分離流路に導入する過程を模式的に示す図である。
【図2−2】本発明を適用した相互作用分析装置を用いて、第1溶液及び第2溶液を分離流路に導入する過程を模式的に示す図である。
【図3−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図3−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図3−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図3−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図3−5】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図3−6】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(FK506)と第2溶液に含まれる物質(ヒトFKBP12)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図4−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(J−8)と第2溶液に含まれる物質(ウシCalmodulin)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図4−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(J−8)と第2溶液に含まれる物質(ウシCalmodulin)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図4−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質(J−8)と第2溶液に含まれる物質(ウシCalmodulin)との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図5−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質群との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図5−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質群との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図5−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質群との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図5−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質群との相互作用を分析した結果を示す特性図である。
【図6−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図6−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図6−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図6−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図6−5】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図7−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(J−8を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図7−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(J−8を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図7−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、2つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(J−8を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図8−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図8−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図8−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図8−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図8−5】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(FK506を含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図9−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(Ascomycinを含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図9−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(Ascomycinを含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図9−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(Ascomycinを含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図9−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(Ascomycinを含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図9−5】本発明を適用した相互作用分析方法により、3つの液体試料からなる第1溶液と第2溶液(Ascomycinを含む)とをカラムに導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−1】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−2】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−3】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−4】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−5】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【図10−6】本発明を適用した相互作用分析方法により、分離流路で分離した第1溶液を導入するとともに第2溶液を一定の間隔で繰り返して分離流路に導入して、相互作用分析を行った結果を示す特性図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0042】
1.相互作用分析方法
本発明を適用することによって、物質間の相互作用を分析する方法(以下、単に「相互作用分析方法」と称する)を提供することができる。相互作用分析方法では、先ず、分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液と分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液とを、分離流路に第2溶液及び第1溶液の順で導入する。また、相互作用分析方法では、第2溶液の一部を第1溶液に含まれる物質(溶出時間の早い物質)よりも後に分離流路に導入すればよく、例えば、第2溶液を所定の間隔で分離流路に導入するとともに、第2溶液を導入している間に第1の溶液を導入してもよい。
【0043】
言い換えると、本相互作用分析方法では、溶出時間が早い物質が、分離流路内で溶出時間が遅い物質を追い越すよう、第1溶液及び第2溶液を分離流路に導入する。
【0044】
ここで、分離流路とは、物質をサイズ、イオン強度、特定の物質に対する親和性、疎水性等の物性に従って分離して溶出することができるものである。例えば、分離流路としては、サイズ排除クロマトグラフィー装置、イオン交換クロマトグラフィー装置、アフィニティークロマトグラフィー装置、吸着クロマトグラフィー装置、疎水性クロマトグラフィー装置、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー装置及び金属キレートクロマトグラフィー装置におけるカラムを挙げることができる。また、分離流路としては、電気泳動管装置における泳動管及び電気浸透流管装置における浸透流管等を挙げることができる。
【0045】
第1溶液に含まれる物質及び第2溶液に含まれる物質としては、特に限定されず、各種の低分子化合物、タンパク質を挙げることができる。例えば、第2溶液に低分子化合物(リガンド物質)が含まれる場合、第1溶液に含まれる物質としては、低分子化合物と比較して分離流路からの溶出速度の速いタンパク質(標的物質)を使用する。ここで、物質における溶出時間は、分離流路の種類に依存する。したがって、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とにおいて、それぞれの溶出速度は分離流路の種類によっては逆転することも当然あり得る。
【0046】
タンパク質と低分子化合物との相互作用を分析するような場合、これら物質間の分子量の差異が大きいため、分離流路としてはサイズ排除クロマトグラフィーが好適である。この場合、分子量の大きな物質を含む溶液を第1溶液として、分子量の小さな物質含む溶液を第2溶液とすればよい。
【0047】
また、分析対象の2つの物質において荷電の差異が大きい場合には、分離流路としてはイオン交換クロマトグラフィー或いは電気泳動管が好適である。さらに、分離流路に充填された担体との間で相互作用する物質を分析対象とする場合には、当該物質と担体との相互作用の影響を考慮して物質の溶出速度を見積もり、第1溶液と第2溶液を調製する。例えば、グリセロプロピル基等のジオール基を化学結合したシリカ系のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムでは、タンパク質のような高分子物質は早く溶出される一方、低分子化合物はサイズ排除効果によるゲル内拡散と共に、化合物によってはカラム担体と化合物との間に比較的弱い吸着効果が認められる場合があり、これらの効果によって30mm以下の短い分離流路長でもほとんどすべての低分子化合物が遅く溶出される。したがって、グリセロプロピル基等のジオール基を化学結合したシリカ系のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムを分離流路として使用する場合には、低分子化合物を含む溶液を第2溶液とし、タンパク質を含む溶液を第1溶液とする。グリセロプロピル基等のジオール基を化学結合したシリカ系のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムは、多くの低分子化合物とタンパク質との相互作用解析に適用範囲が広いため、分離流路として使用することが好ましい。
【0048】
本相互作用分析方法において、分離流路に第2溶液及び第1溶液の順で導入することによって、第1溶液に含まれる物質は第2溶液に含まれる物質を分離流路内で追い越すこととなる。したがって、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とは、分離流路内で接触することとなる。
【0049】
第2溶液及び第1溶液を分離流路にこの順で導入する場合、分離流路の種類、長さ、導入速度等を考慮して、後から導入する第1溶液に含まれる物質が第2溶液に含まれる物質よりも速く溶出するようにしなくてはならない。言い換えると、後から導入する第1溶液に含まれる物質が第2溶液に含まれる物質よりも速く溶出するのであれば、第2溶液と第1溶液との間に気体及び/又は液体からなる間隔試料を介在させてもよい。
【0050】
本相互作用分析方法においては、次に、分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出する。具体的には、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とが相互作用する場合、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質について、それぞれ単独で分離流路に導入した場合のクロマトグラムと異なるクロマトグラムを検出することとなる。逆に、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とが相互作用しない場合、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質について、それぞれ単独で分離流路に導入した場合のクロマトグラムと同様なクロマトグラムを検出することとなる。
【0051】
ここで、クロマトグラムを検出するための装置としては、特に限定されないが、例えば、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器、電気化学検出器を例示できる。
【0052】
ところで、第1溶液及び/又は第2溶液には複数種類の物質が含まれていてもよい。すなわち、本相互作用分析方法においては、複数種類の物質を含む第1溶液と複数種類の物質を含む第2溶液とを使用してもよいし、単一の物質を含む第1溶液と複数種類の物質を含む第2溶液とを使用してもよいし、複数種類の物質を含む第1溶液と単一の物質を含む第2溶液とを使用してもよい。
【0053】
ここで、第1溶液及び/又は第2溶液に含まれる複数種類の物質とは、分析対象物質を意味する。したがって、単一の分析対象物質と当該分析対象物質以外の夾雑物質とを含む場合には、「単一の物質を含む」と呼ぶこととする。
【0054】
第1溶液に複数種類の物質を含む場合には、これら全ての物質のうちで第2溶液に含まれる物質よりも速く溶出する物質について、第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。言い換えると、第1溶液に含まれる全ての物質が第2溶液に含まれる全ての物質よりも速く分離流路から溶出する場合には、第1溶液に含まれる全ての物質と第2溶液に含まれる全ての物質との相互作用を分析することができる。
【0055】
なお、第1溶液及び/又は第2溶液に複数種類の物質を含むような場合であっても、上述したように、分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出することで、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。第1溶液及び/又は第2溶液に複数種類の物質を含む場合、検出するクロマトグラムは、複数種類の物質に対応して多重化されることとなる。また、多重化されたクロマトグラムを検出する装置としても、上述した全ての検出装置を使用することができる。
【0056】
特に、第2溶液に複数種類のタンパク質を含み、第1溶液に複数種類の低分子化合物を含むような場合には、クロマトグラムを検出する装置としては質量分析器を使用することが好ましい。質量分析装置によれば、複数の化合物を混合して多重化しても個々の化合物をその質量から識別できるため、汎用性とスループットの点で好適である。
【0057】
ところで、第1溶液及び/又は第2溶液は、それぞれ単一の物質又は複数種類の物質を含む複数の液体試料から構成されてもよい。すなわち、本相互作用分析方法においては、複数の液体試料からなる第1溶液と複数の液体試料からなる第2溶液とを使用してもよいし、単一の液体試料からなる第1溶液と複数の液体試料からなる第2溶液とを使用してもよいし、複数の液体試料からなる第1溶液と単一の液体試料からなる第2溶液とを使用してもよい。
【0058】
例えば、複数の液体試料からなる第1溶液と複数の液体試料からなる第2溶液とを使用する場合、本相互作用分析方法においては、複数の液体試料からなる第2溶液を全て分離流路に導入した後、複数の液体試料からなる第1溶液を分離流路に導入することになる。第1溶液又は第2溶液を導入する際には、各液体試料を気体及び/又は液体からなる間隙試料を介して分離流路に導入してもよいし、連続的に分離流路に導入してもよい。
【0059】
予め、第1溶液及び/又は第2溶液として複数の液体試料を準備しているような場合には、これら複数の液体試料を混合することで単一の液体試料からなる第1溶液及び/又は第2溶液とすることもできるが、複数の液体試料を混合することなく複数の液体試料のまま第1溶液及び/又は第2溶液とすることもできる。例えば、予め準備した複数の液体試料に含まれる物質が溶解性の悪い化合物であったり、当該液体試料に含まれる物質の濃度が低いような場合には、複数の液体試料を混合することなくそのまま第1溶液及び/又は第2溶液とすることが好ましい。これにより、複数の液体試料に含まれる物質が析出しまうことや、解析対象の物質がより低濃度化してしまうことを防止できる。
【0060】
なお、この場合においても、上述したように、分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出することで、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。第1溶液及び/又は第2溶液が複数の液体試料から構成されている場合、検出するクロマトグラムは、各液体試料に含まれる物質に対応して多重化されることとなる。また、多重化されたクロマトグラムを検出する装置としても、上述した全ての検出装置を使用することができる。この場合には、液体試料に含まれる物質を希釈することなく連続して分離流路に導入することが可能であり、多重化分析と同様にスループットを向上することができる。
【0061】
ところで、第1溶液及び第2溶液は、分離流路に対して等しい液量で導入されても良いが、互いに異なる液量で導入されてもよい。例えば、第1溶液の分離流路に対する導入量と比較して第2溶液の導入量を多くする、例えば2倍以上とすることが好ましい。例えば、第2溶液に含まれる物質が低分子化合物であって、分離流路としてサイズ排除クロマトグラフィーを使用する場合、第2溶液の液量を第1溶液の液量よりも多くすると、サイズ排除効果によるゲル内拡散と共にカラム担体と低分子化合物との間の比較的弱い相互作用によって、分離流路の入り口で低分子化合物のゾーンが短縮され濃縮効果が得られる。そのため、第2溶液に含まれる低分子化合物が低濃度であるような場合でも、良好なクロマトグラムが得られ、相互作用の分析を明瞭に行うことができる。換言すると、この場合には、第2溶液に含まれる低分子化合物の濃度が低くても分析を明瞭に行えるため、複数の液体試料を混合して各液体試料に含まれている低分子化合物の濃度が相対的に低くなったとしても、明瞭に相互作用分析を行えることとなる。
【0062】
ところで、本相互作用分析方法においては、複数の分離流路を使用するものであっても良い。複数の分離流路としてn個(n≧2、整数)の分離流路(n次元の分離流路とも言う)を想定すると、本相互作用分析方法においては、(m−1)次元の分離流路(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路に導入することとなる。このとき、最後の分離流路、すなわちこの場合、n次元目の分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出し、上述したように、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。なお、複数の分離流路としては、上述したような各種クロマトグラフィーカラムや、電気泳動管、電気浸透流管等を、適宜組み合わせて使用することができる。
【0063】
例えば、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第1溶液を分画した場合、第2溶液をn次元目の分離流路に導入した後に分画した第1溶液をn次元目の分離流路に導入する。すなわち、この場合、1〜(n−1)次元目の分離流路によって第1溶液を調製している。ここで、(n−1)次元目の分離流路から溶出される第1溶液は、上述したように、複数種類の物質を含んでいてもよいし、複数の液体試料から構成されていてもよい。
【0064】
また、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第1溶液を分画した場合、第2溶液をn次元目の分離流路に所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入してもよい。この場合、第1溶液の所定の分画に含まれる物質が、第2溶液に含まれる物質と相互作用しなければ、第2溶液に含まれる物質が所定の間隔で検出されることとなる。第1溶液の所定の分画に含まれる物質が、第2溶液に含まれる物質と相互作用すると、第2溶液に含まれる物質がずれて検出されることとなる。したがって、この場合、第2溶液に含まれる物質を検出することによって、第2溶液に含まれる物質が相互作用する物質を含む第1溶液の分画を特定することができる。
【0065】
一方、例えば、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第2溶液を分画した場合、分画した第2溶液をn次元目の分離流路に導入した後に第1溶液をn次元目の分離流路に導入する。すなわち、この場合、1〜(n−1)次元目の分離流路によって第2溶液を調製している。ここで、(n−1)次元目の分離流路から溶出される第2溶液は、上述したように、複数種類の物質を含んでいてもよいし、複数の液体試料から構成されていてもよい。
【0066】
また、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第2溶液を分画した場合、第1溶液をn次元目の分離流路に所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入してもよい。この場合、第2溶液の所定の分画に含まれる物質が、第1溶液に含まれる物質と相互作用しなければ、第1溶液に含まれる物質が所定の間隔で検出されることとなる。第2溶液の所定の分画に含まれる物質が、第1溶液に含まれる物質と相互作用すると、第1溶液に含まれる物質がずれて検出されることとなる。したがって、この場合、第1溶液に含まれる物質を検出することによって、第1溶液に含まれる物質が相互作用する物質を含む第2溶液の分画を特定することができる。
【0067】
上述したように、細胞の抽出液等の複雑な構成成分からなる溶液を1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して、第1溶液又は第2溶液に分画することによって、相互作用分析に供する物質群をあらかじめ分画することができ、複雑な構成成分から成る試料の詳細な相互作用分析が可能となる。
【0068】
なお、分離流路の下流に、上述したような各種クロマトグラフィーカラムや、電気泳動管、電気浸透流管等を、適宜組み合わせて接続することで、相互作用分析の後の試料をさらに分画することができる。この場合、本相互作用分析方法によって分析された相互作用を示す物質に関する詳細な解析が可能となる。
【0069】
2.相互作用分析装置
本発明を適用した相互作用分析装置は、上記「1.相互作用検出方法」で説明した方法を実現することができる装置である。例えば相互作用分析装置は、図1に示すように、溶液に含まれる物質群を分離して溶出する分離流路1を有する分離装置2と、分離流路1に導入する溶液等を保持する容器部3と、容器部3から前記分離流路に対して溶液を導入する導入装置4と、分離装置2から溶出した物質のクロマトグラムを検出する検出装置5と、装置全体の動作を制御する制御装置6とを備える。なお、本相互作用分析装置は、分離装置2、溶液部3、導入装置4及び検出装置5それぞれが制御装置を有するような構成であっても良い。
【0070】
分離装置2は、分離流路1に導入される溶液に含まれる物質をサイズ、イオン強度、特定の物質に対する親和性、疎水性等の物性に従って分離することができるものであれば特に限定されない。例えば、分離装置2としては、サイズ排除クロマトグラフィー装置、イオン交換クロマトグラフィー装置、アフィニティークロマトグラフィー装置、逆相あるいは順相などの吸着クロマトグラフィー装置、疎水性クロマトグラフィー装置、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー装置、金属キレートクロマトグラフィー装置、電気泳動管装置及び電気浸透流管装置からなる群から選ばれる少なくとも1のクロマトグラフィー装置を挙げることができる。ここで、分離流路1は、これら各種クロマトグラフィー装置に備わるカラムや、電気泳動管及び電気浸透流管を意味する。
【0071】
容器部3は、上記「1.相互作用検出方法」で説明した第1溶液、第2溶液、分離流路に導入する溶出液等をそれぞれ保持する複数の容器を備える。また、容器部3は、容器に保持された溶液を、後述する導入装置4に所定の液量で供給するための溶液供給装置を備える。ここで溶液供給装置としては、シリンジ等を挙げることができる。なお、溶液供給装置は、制御装置6により制御され、所定の容器から所定量の溶液を導入装置4に対して供給することができる。
【0072】
導入装置4は、例えば、分離流路1に導入する溶液を蓄えることができるサンプルループと、サンプルループに蓄えられた溶液を押し出すためのポンプ機構とを備える、いわゆるオートインジェクター装置を備える。
【0073】
検出装置5は、分離流路1の溶出側に配置され、分離流路1から溶出した物質のクロマトグラムを検出する。検出装置5は、例えば、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器、電気化学検出器から構成される。
【0074】
制御装置6は、分離装置2、容器部3、導入装置4及び検出装置5の動作を制御することによって、上記「1.相互作用検出方法」で説明した各工程を実施させる。すなわち、制御装置6は、先ず、容器部3に保持された容器から、分離流路1に対して第2溶液及び第1溶液をこの順で導入するように前記導入装置4を制御する。詳細には、例えば図2−1に示すように、第1容器10に保持された第2溶液11をシリンジ12で吸引した後、所定量のエアー13を吸引し、その後、第2容器14に保持された第1溶液15をシリンジ12で吸引する。次に、シリンジ12にエアー13を介して吸引された第2溶液11及び第1溶液15を、サンプルループ16に供給する。次に、サンプルループ16を回動して、第2溶液11側の端部を分離流路1の入口側に位置させる。次に、サンプルループ16内に供給された第2溶液11及び第1溶液15をこの順で分離流路1に導入する。
【0075】
上記「1.相互作用分析方法」で説明したように、分離流路に第2溶液及び第1溶液の順で導入することによって、第1溶液に含まれる物質は第2溶液に含まれる物質を分離流路1内で追い越すこととなる。したがって、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とは、分離流路1内で接触することとなる。
【0076】
そして、制御装置6は、検出装置5を制御して、分離流路1から溶出した物質に関するクロマトグラムを検出する。具体的には、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とが相互作用する場合、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質について、検出装置5は、それぞれ単独で分離流路に導入した場合のクロマトグラムと異なるクロマトグラムを検出することとなる。逆に、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質とが相互作用しない場合、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質について、検出装置5は、それぞれ単独で分離流路に導入した場合のクロマトグラムと同様なクロマトグラムを検出することとなる。
【0077】
なお、本相互作用分析装置によれば、第1溶液及び/又は第2溶液に複数種類の物質を含むような場合であっても、上述したように、分離流路1から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出することで、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。第1溶液及び/又は第2溶液に複数種類の物質を含む場合、検出するクロマトグラムは、複数種類の物質に対応して多重化されることとなる。また、多重化されたクロマトグラムを検出する装置としても、上述した全ての検出装置5を使用することができる。
【0078】
また、第1溶液及び/又は第2溶液が複数の液体試料から構成されている場合には、複数の容器に個々の液体試料を保持する。そして、制御装置6は、容器部3及び導入装置4を制御して、複数の液体試料を所定の順で分離流路1に導入させる。この場合、検出装置5で検出するクロマトグラムは、各液体試料に含まれる物質に対応して多重化されることとなる。また、多重化されたクロマトグラムを検出する装置としても、上述した全ての検出装置5を使用することができる。この場合には、液体試料に含まれる物質を希釈することなく連続して分離流路1に導入することが可能であり、多重化分析と同様にスループットを向上することができる。
【0079】
ところで、制御装置6は、第1溶液及び第2溶液を分離流路1に対して等しい液量で導入するように制御してもよいが、第1溶液及び第2溶液を異なる液量で導入するように制御してもよい。例えば、制御装置6は、第1溶液の分離流路1に対する導入量と比較して第2溶液の導入量を多くする、例えば2倍以上とするように制御することが好ましい。例えば、第2溶液に含まれる物質が低分子化合物であって、分離流路1としてサイズ排除クロマトグラフィーを使用する場合、第2溶液の液量を第1溶液の液量よりも多くすると、サイズ排除効果によるゲル内拡散と共にカラム担体と低分子化合物との間の比較的弱い吸着効果によって、分離流路1の入り口で低分子化合物のゾーンが短縮され濃縮効果が得られる。そのため、第2溶液に含まれる低分子化合物が低濃度であるような場合でも、良好なクロマトグラムが得られ、相互作用の分析を明瞭に行うことができる。換言すると、この場合には、第2溶液に含まれる低分子化合物の濃度が低くても分析を明瞭に行えるため、複数の液体試料を混合して各液体試料に含まれている低分子化合物の濃度が相対的に低くなったとしても、明瞭に相互作用分析を行えることとなる。
【0080】
ところで、本相互作用分析装置においては、分離装置2が複数の分離流路1を備えるような構成であっても良い(例えば、図2−2にn=2の構成を示す。)。複数の分離流路1としてn個(n≧2、整数)の分離流路1(n次元の分離流路とも言う)を想定すると、本相互作用分析装置においては、(m−1)次元の分離流路1(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路1に導入することとなる。このとき、最後の分離流路1、すなわちこの場合、n次元目の分離流路1から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出装置5で検出し、上述したように、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との相互作用を分析することができる。なお、複数の分離流路1としては、上述したような各種クロマトグラフィーカラムや、電気泳動管、電気浸透流管等を、適宜組み合わせて使用することができる。
【0081】
例えば、図2−2に示すように、1〜(n−1)次元目の分離流路1を利用して第1溶液を分画した場合、第2溶液をn次元目の分離流路1に導入した後に分画した第1溶液をn次元目の分離流路1に導入する。すなわち、この場合、1〜(n−1)次元目の分離流路によって第1溶液を調製している。ここで、(n−1)次元目の分離流路から溶出される第1溶液は、上述したように、複数種類の物質を含んでいてもよいし、複数の液体試料から構成されていてもよい。
【0082】
また、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第1溶液を分画した場合、制御装置6は、第2溶液をn次元目の分離流路に所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入するように制御してもよい。この場合、第1溶液の所定の分画に含まれる物質が、第2溶液に含まれる物質と相互作用しなければ、第2溶液に含まれる物質が所定の間隔で検出されることとなる。第1溶液の所定の分画に含まれる物質が、第2溶液に含まれる物質と相互作用すると、第2溶液に含まれる物質がずれて検出されることとなる。したがって、この場合、第2溶液に含まれる物質を検出することによって、第2溶液に含まれる物質が相互作用する物質を含む第1溶液の分画を特定することができる。
【0083】
一方、例えば、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第2溶液を分画した場合、分画した第2溶液をn次元目の分離流路に導入した後に第1溶液をn次元目の分離流路に導入する。すなわち、この場合、1〜(n−1)次元目の分離流路によって第2溶液を調製している。ここで、(n−1)次元目の分離流路から溶出される第2溶液は、上述したように、複数種類の物質を含んでいてもよいし、複数の液体試料から構成されていてもよい。
【0084】
また、1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して第2溶液を分画した場合、制御装置6は、第1溶液をn次元目の分離流路に所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入してもよい。この場合、第2溶液の所定の分画に含まれる物質が、第1溶液に含まれる物質と相互作用しなければ、第1溶液に含まれる物質が所定の間隔で検出されることとなる。第2溶液の所定の分画に含まれる物質が、第1溶液に含まれる物質と相互作用すると、第1溶液に含まれる物質がずれて検出されることとなる。したがって、この場合、第1溶液に含まれる物質を検出することによって、第1溶液に含まれる物質が相互作用する物質を含む第2溶液の分画を特定することができる。
【0085】
例えば、細胞の抽出液等の複雑な構成成分からなる溶液を1〜(n−1)次元目の分離流路を利用して、第1溶液又は第2溶液を分画することによって、相互作用分析に供する物質群をあらかじめ分画することができ、複雑な構成成分から成る試料の詳細な相互作用分析が可能となる。
【0086】
なお、本相互作用分析装置においては、分離流路1の下流に、上述したような各種クロマトグラフィーカラムや、電気泳動管、電気浸透流管等を、適宜組み合わせて接続する様な構成であっても良い。この場合、本相互作用分析装置によれば、相互作用分析の後の試料をさらに分画することができ、分析された相互作用を示す物質に関する詳細な解析が可能となる。
【0087】
以上のような本発明を適用した相互作用分析装置においては、例えば、100種類の第1溶液と100種類の第2溶液と間の相互作用を組み合わせて分析したい場合であっても、予め100×100=10,000通りの混合液を調製しておく必要がなく、100種類の第1溶液と100種類の第2溶液を容器部3に設置すればよい。従来の方法及び装置においては、10,000通りの混合液を予め準備する必要があるため、その分に対応する容器部を要することとなる。これに対して本相互作用分析装置においては、合計200種類の容器を設置できればよく、容器部3の省スペース化を達成することができる。
【0088】
また、従来の方法及び装置では、複数の第1溶液と複数の第2溶液とを全ての組み合わせで混合するため、極微量の溶液を調製することとなる。このとき、分析までの待ち時間の間に溶液がある程度蒸発して溶液の濃度変化や消失の危険性を回避するためには、容器内に過剰量のサンプルを予め準備する必要がある。したがって、従来の方法及び装置においては、混合する前の前の第1溶液及び第2溶液として、実際に分離流路に導入する全量よりも数倍〜数十倍量を必要となり、非常に無駄が多かった。
【0089】
これに対して、本相互作用分析装置においては、複数の第1溶液及び複数の第2溶液を予め混合する必要がないため、全ての組み合わせについて相互作用分析を行う場合であっても、分析に必要な量を準備すれば足りることとなる。このように、本相互作用分析装置によれば、複数の第1溶液及び複数の第2溶液における全ての組み合わせについて大規模に相互作用分析を行うような場合であっても、複数の第1溶液及び複数の第2溶液を無駄にすることを防止できる。
【0090】
また、本相互作用分析装置によれば、複数の第1溶液及び複数の第2溶液を極微量の混合液としないため、分析待ち時間の間の蒸発などによる濃度変化や消失の危険性を大幅に低減できる。さらに、本相互作用分析装置は、混合という操作が不必要であり、連続注入機構があれば事足るため、微小流路を用いた超小型の分析チップのような微小分析には特に好適である。1μL未満の溶液を分析対象とできる微小流路を用いた超小型の分析チップでは、組み合わせ検定における多数の検体間の微量混合は不都合であり、検体の連続注入の方が容易に実施できる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
〔実施例1〕
相互作用分析装置
本実施例で構築した相互作用分析装置は、分離流路1としてサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW2000(カラムサイズ1.0IDx10mm、1.0IDx30mmないしは1.0IDx100mm;Tosoh Corporation社製)を備える。また相互作用分析装置は、容器部3及び導入装置4としてオートインジェクター装置HTC−PAL(CTC Analytics AG社製)及びLCポンプ(Agilent1100、Yokogawa社製)を備える。さらに、相互作用分析装置は、検出装置5としてイオントラップ型質量分析計LCQdecaXP(ThermoQuest)を備える。
【0093】
(1)オートインジェクター装置(HTC−PAL)の構成
オートインジェクター装置HTC−PAL(CTC Analytics AG)は、5μL容量あるいは10μL容量のサンプルループ、10μL容量のシリンジ、および、クーリングユニット付きのサンプルトレイを備える。容量100μLのコニカルインサートを挿入した2mLスクリューバイアルに第1溶液を50μLずつ分注し、セプタム付きスクリューキャップを取り付けた後、54バイアル用ラックに並べてサンプルトレイの1つにセットした。また、第2溶液を各ウェルに40μLずつ分注しアルミシールで覆った384well−マイクロプレートを別のサンプルトレイにセットした。サンプルトレイの温度は10℃に設定した。
【0094】
オートサンプラー装置HTC−PAL(CTC Analytics AG)のマクロエディターを用いて、次のシーケンスから構成される解析方法をプログラムした(以下、Mixing−in−Columnメソッドと呼ぶ)を作成した。
【0095】
Mixing−in−Columnメソッド
1)シリンジ内部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
2)シリンジ内部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
3)サンプルシーケンスで指定されたウェルから第二物質(群)溶液 1μL吸引
4)エアー 0.5μL吸引
5)シリンジ外部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
6)シリンジ外部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
7)サンプルシーケンスで指定されたバイアルから第一物質(群)溶液 1μL吸引
8)インジェクションポートへ2.5μLインジェクト
9)シリンジ内部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
10)シリンジ内部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
9)インジェクションポート洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
10)インジェクションポート洗浄(溶媒2:MiliQ水)
ただし、第一物質溶液、第二物質溶液、および、エアーの容量は変更可能である。
【0096】
なお、オートサンプラー装置HTC−PALにおけるシーケンス制御の一例を以下に示す。
【0097】
syringe:10ul


(2)LCポンプ(Agilent1100)及びイオントラップ型質量分析計LCQdecaXPの構成
サイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW2000をオートインジェクターのインジェクションバルブの出口ポートに接続し、カラムの下流側はTeeコネクター(ピークミキシングティー;ジーエルサイエンス株式会社)を経由してイオントラップ型質量分析計LCQdecaXPのESIプローブに接続した。また、LCポンプ(Agilent1100)のクォータナリーポンプ(Qポンプ)からのカラム平衡化溶液の送液ラインをオートサンプラーのインジェクションバルブの入り口ポートに接続し、バイナリポンプ(Bポンプ)からのコンディショニング溶液の送液ラインをTeeコネクターに接続した。そして、クォータナリーポンプからカラム平衡化溶液として10mM 酢酸アンモニウム水溶液を40μL/minで送液し、バイナリポンプ(Bポンプ)からコンディショニング溶液として、ポジティブイオンモード測定の場合には0.5%ギ酸/メタノール溶液、ネガティブイオンモード測定の場合には0.5%アンモニア/メタノール溶液を10μL/minで送液した。また、相互作用分析のpHを安定化させる必要がある場合には、クォータナリーポンプから送液する平衡化溶液の10mM 酢酸アンモニウム水溶液に、PIPES緩衝液、ADA緩衝液、HEPES緩衝液、Bis−Tris−塩酸緩衝液、あるいは、Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)などの緩衝液を必要に応じて添加した。
【0098】
(3)測定
上述したMixing−in−Columnメソッドを用いて、サンプルシーケンスで指定したウェルおよびバイアルから第2溶液と第1溶液とをこの順で連続自動注入した。すなわち、一例としては、オートインジェクターのシリンジで、第2溶液1μLの次に、0.5μLの空気からなる間隙試料を挟んで、第1溶液1μLを吸引した。次いで、シリンジに連続吸引された計2.5μLのサンプルをサンプルループに注入した後、インジェクションバルブを切り替えてインジェクションポートからサイズ排除クロマトグラフィー用カラムへ第2溶液−間隙試料−第1溶液の順で導入し、同時に、質量分析計での質量クロマトグラムの測定を開始した。所定時間の質量クロマトグラムの測定が終わると、サンプルシーケンスに従って、順次、次の第2溶液と第1溶液を同様に吸引し、相互作用分析の組み合わせ検定を実施した。ただし、第1溶液、第2溶液、および、エアーの容量は変更可能である。
【0099】
〔測定例1〕Mixing−in−Columnメソッドを用いた相互作用分析
(サンプル調製)
第1溶液として、タンパク質を次の組成で含有する水溶液を調製した。なお、以下の説明において、第1溶液に含まれる物質を第一物質と呼ぶ。
【0100】
第1溶液(a);
第一物質なし(Reference)
10mM ADA緩衝液(pH6.5)
100μM CaCl
第1溶液(b);
第一物質Bovine Calmodulin
100μM Bovine Brain Calmodulin(Calbiochem;Code.208694)
100μM CaCl
第1溶液(c);
第一物質Human FKBP12
100μM Human FKBP12
10mM ADA緩衝液(pH6.5)
第2溶液として、低分子化合物を次の組成で含有する水溶液を調製した。なお、以下の説明において、第2溶液に含まれる物質を第二物質と呼ぶ。
【0101】
第2溶液(a);
第二物質なし(Reference)
5% DMSO
50μM Cyanocobalamin(Reference)
第2溶液(b);
第二物質J−8
100μM J−8
50μM Cyanocobalamin(Reference)
5% DMSO
第2溶液(c);
第二物質FK506
50μM FK506
50μM Cyanocobalamin(Reference)
5% DMSO
(測定および結果)
上述した相互作用分析装置およびMixing−in−Columnメソッドを用いて、第2溶液と第1溶液とをこの順でTSKsuperSW2000に導入し、各化合物(第一物質及び第二物質)のマスクロマトグラムを測定した。その結果を図3−1〜−6及び4−1〜−3に示す。
【0102】
図3−1〜−6から分かるように、第2溶液(c)及び第1溶液(c)をこの順で導入した結果、化合物FK506とヒトFKBP12との相互作用に対応する特異的なマスクロマトグラムの変化が観測された。すなわち、ヒトFKBP12を第一物質とした場合に、FK506のマスクロマトグラムにピーク(図3−4〜−6中矢印で示すピーク)が出現した。これは、カラム内でFKBP12がFK506を追い越した時に、FK506の一部がFKBP12と結合してタンパク質と共にカラムから溶出したことを示しており、FK506とFKBP12との間に相互作用があることを意味する。
【0103】
図4−1〜−3から分かるように、第2溶液(b)及び第1溶液(b)をこの順で導入した結果、化合物J−8とウシCalmodulinとの相互作用に対応する特異的なマスクロマトグラムの変化も観測された。すなわち、ウシCalmodulinを第一物質とした場合に、J−8のマスクロマトグラムの立ち上がり(図4−1〜−3中矢印で示す部分)が早まった。これは、カラム内でCalmodulinがJ−8を追い越した時に、J−8の一部がCalmodulinと相互作用してカラムから早く溶出したことを示しており、J−8とCalmodulinとの間に相互作用があることを意味する。
【0104】
また、これら図3−1〜−6及び4−1〜−3に示したように、第二物質の注入量を1μL、2μL、3μLと増加させた場合、化合物のマスクロマトグラムの強度の増大が認められ、第二物質の注入量を増加させることによって相互作用解析がより明瞭に判定できた。
【0105】
〔測定例2〕第二物質が多重化された相互作用分析
(サンプル調製)
第一物質を含む第1溶液として、タンパク質を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0106】
第1溶液(a);
第一物質なし
500uM ADA緩衝液(pH6.5)
第1溶液(b);
第一物質Bovine Calmodulin
50μM Bovine Calmodulin
500μM ADA緩衝液(pH6.5)
100μM CaCl
第1溶液(c);
第一物質Human Calmodulin
50μM Human Calmodulin
500μM ADA緩衝液(pH6.5)
100μM CaCl
複数の第二物質(第二物質群)を含む第2溶液として、低分子化合物を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0107】
第2溶液(a);
第二物質群なし
5% DMSO
38種の第2溶液(b);(それぞれが5〜8個の化合物を多重化した第二物質群を含む38種の第2溶液)
第二物質群あり
各25μM 5〜8種類の化合物
5% DMSO
ここで、第2溶液(b)として、それぞれ5〜8個の化合物を第二物質群として含む38種の第2溶液(Multi02−001〜Multi02−038)を用いた。例えば、Multi02−001の第2溶液には、Muliti02−001A、001B、001C、001D、001E、001F、001G、001Hとコード番号が付された8個の化合物(第二物質)が各々25μM濃度で含有されており、これらが第二物質群を構成している。そのように290個の化合物(第二物質)を多重化して、Multi02−001〜Multi02−038の38種の第2溶液を調製した。
【0108】
(測定および結果)
上述した相互作用分析装置及びMixing−in−Columnメソッドを用いて、第2溶液と第1溶液とをこの順でTSKsuperSW2000にそれぞれ1μLずつ導入し、各化合物(第一物質及び第二物質群)のマスクロマトグラムを測定した。クロマトグラムに差異が認められたケースのクロマトグラム結果を図5−1〜−4に示す。図5−1〜−4から分かるように、第二物質群に含まれる化合物のうちMulti02−022E、Multi02−023G、Multi02−026C、Multi02−038Gの4つの化合物において、Calmodulinを含まないコントロール(a)に比して、ウシ(b)およびヒト(c)のいずれのCalmodulinを第一物質として場合にも、特異的なマスクロマトグラムの変化が観測された。すなわち、これら4つの化合物に関するクロマトグラムは、Calmodulinを第一物質とした場合に立ち上がり(図5−1〜−5中破線で示す位置)が早まっていた。これは、カラム内においてCalmodulinが多重化された第二物質群を追い越し、その時にこれら4つの化合物がCalmodulinと相互作用した結果、カラムから早く溶出したことを示している。
【0109】
〔実施例2〕
相互作用分析装置
実施例2では、実施例1の装置構成を一部改変して、複数の第1溶液を注入するための装置構成とした。
【0110】
(1)オートインジェクター装置(HTC−PAL)の構成
オートインジェクターはHTC−PAL(CTC Analytics AG)を用い、10μL容量のサンプルループを用いる以外は、実施例1と同じ構成とした。
【0111】
本例では、オートサンプラー装置HTC−PAL(CTC Analytics AG)のマクロエディターを用いて、次のシーケンスから構成されるMixing−in−Columnメソッドを作成した。
【0112】
Mixing−in−Columnメソッド
1)シリンジ内部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
2)シリンジ内部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
3)サンプルシーケンスで指定されたウェルから第二物質(群)溶液 1μL吸引
4)エアー 0.2μL吸引
5)シリンジ外部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
6)シリンジ外部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
7)サンプルシーケンスで指定されたバイアルから第一物質(群)溶液 1μL吸引
8)シーケンス4)〜7)を必要回数(n回)繰り返す。
【0113】
9)インジェクションポートへ1.0+(1.2×n)μLインジェクト
10)シリンジ内部洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
11)シリンジ内部洗浄(溶媒2:MiliQ水)
12)インジェクションポート洗浄(溶媒1:50%メタノール水溶液)
13)インジェクションポート洗浄(溶媒2:MiliQ水)
ただし、第一物質溶液、第二物質溶液、および、エアーの容量は変更可能である。
【0114】
なお、オートサンプラー装置HTC−PALにおけるシーケンス制御の一例を以下に示す。このシーケンス制御では、3種のタンパク質No.3、No.4又はNo.5を含む3種類の第1溶液を順次吸引するものである。
【0115】
syringe:10ul



〔測定例3〕実施例2のMixing−in−Columnメソッドを用いた複数タンパク質の相互作用分析
(サンプル調製)
第1溶液として、タンパク質を次の組成で含有する水溶液を調製した。なお、以下の説明において、第1溶液に含まれる物質を第一物質と呼ぶ。
【0116】
第一物質を含む第1溶液として、タンパク質を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0117】
第1溶液(a);
第一物質なし(Reference)
10mM ADA緩衝液(pH6.5)、
100μM CaCl
第1溶液(b);
第一物質Bovine Calmodulin
100μM Bovine Brain Calmodulin(CaM;Calbiochem社製)
100μM CaCl
第1溶液(c);
第一物質Human FKBP12
100μM Human FKBP12
10mM ADA緩衝液(pH6.5)
第1溶液(d);
第一物質Human Serum Albumin
100μM Human Serum Albumin(HSA;Sigma社製)
10mM ADA緩衝液(pH6.5)
第二物質を含む第2溶液として、低分子化合物を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0118】
第2溶液(a);
第二物質なし(Reference)
5% DMSO
50μM Cyanocobalamin(Reference)
第2溶液(b);
第二物質J−8
100μM J−8
50μM Cyanocobalamin(Reference)
5% DMSO
第2溶液(c);
第二物質FK506
50μM FK506
50μM Cyanocobalamin(Reference)
5% DMSO
第2溶液(d);
第二物質Ascomycin
50μM Ascomycin
50μM Cyanocobalamin(Reference)
5% DMSO
(測定および結果)
実施例2に例示された装置およびMixing−in−Columnメソッドを用いて、第2溶液と複数の液体試料からなる第1溶液とをTSKsuperSW2000に導入し、各化合物(第一物質及び第二物質)のマスクロマトグラムを測定した。本例では以下の順序で各溶液を導入した。なお、各溶液の間には気体からなる間隙試料(エアー)を介在させた。
【0119】
・第2溶液(c)→第1溶液(a)
・第2溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(d)
・第2溶液(c)→第1溶液(c)
・第2溶液(c)→第1溶液(c)→第1溶液(d)
・第2溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(c)
測定結果を図6−1〜−5に示す。図6−1〜−5に示したように、FK506(第二物質)の次に、エアー、HSA、エアー及びHSAの順でカラムに導入した場合には、FK506の次に、エアー及びADA緩衝液を導入した場合と比べて変化が認められない。一方、FK506の次に、エアー、HSA、エアー及びFKBP12の順でカラムに導入した場合、及びFK506の次に、エアー、FKBP12、エアー及びHSAの順でカラムに導入した場合においては、FK506の次に、エアー及びFKBP12の順でカラムに導入した場合と同様にFK506のマスクロマトグラムにピーク(図6−3〜−5中矢印で示すピーク)が出現した。すなわち、導入された複数の液体試料のうちで、FKBP12を含む液体試料がカラム内でFK506を追い越した時に、FK506の一部がFKBP12と結合してタンパク質と共にカラムから溶出したことを示している。したがって、第2溶液に続いて複数の液体試料からなる第1溶液を順次導入した場合であっても、複数の液体試料のうちいずれかに第二物質と相互作用する物質が含まれていれば、その相互作用を検出できることが明らかとなった。
【0120】
同様に、以下の順序で各溶液を導入した。なお、各溶液の間には気体からなる間隙試料(エアー)を介在させた。
【0121】
・第2溶液(b)→第1溶液(a)
・第2溶液(b)→第1溶液(d)→第1溶液(d)
・第2溶液(b)→第1溶液(b)
・第2溶液(b)→第1溶液(b)→第1溶液(d)
・第2溶液(b)→第1溶液(d)→第1溶液(b)
測定結果を図7−1〜−3に示す。図7−1〜−3に示したように、J−8(第二物質)の次に、エアー、HSA、エアー及びHSAの順でカラムに導入した場合には、J−8の次に、エアー及びADA緩衝液を導入したした場合と比べて変化が認められない。一方、J−8の次に、エアー、HSA、エアー及びCaMの順でカラムに導入した場合、及びJ−8の次に、エアー、CaM、エアー及びHSAの順でカラムに導入した場合においては、J−8の次に、エアー及びCaMの順でカラムに導入した場合と同様にJ−8のマスクロマトグラムの立ち上がり(図7−1〜−3中矢印の位置)が早まった。これは、導入された複数の液体試料のうちで、Calmodulinを含む液体試料がカラム内でJ−8を追い越した時に、J−8の一部がCalmodulinと相互作用してカラムから早く溶出したことを示している。したがって、第2溶液に続いて複数の液体試料からなる第1溶液を順次導入した場合であっても、複数の液体試料のうちいずれかに第二物質と相互作用する物質が含まれていれば、その相互作用を検出できることがこの例からも明らかとなった。
【0122】
次に、第2溶液に続いて三つの液体試料からなる第1溶液をカラムに導入する場合について検討した。ここでは以下の順序で各溶液を導入した。なお、各溶液の間には気体からなる間隙試料(エアー)を介在させた。
【0123】
・第2溶液(c)→第1溶液(a)→第1溶液(a)→第1溶液(a)
・第2溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(d)→第1溶液(d)
・第2溶液(c)→第1溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(d)
・第2溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(c)→第1溶液(d)
・第2溶液(c)→第1溶液(d)→第1溶液(d)→第1溶液(c)
測定結果を図8−1〜−5に示す。図8−1〜−5に示すように、FK506(第二物質)の次に、エアー、HSA、エアー、HSA、エアー及びHSAの順でカラムに導入した場合には、FK506の次に、エアー、ADA緩衝液、エアー、ADA緩衝液、エアー及びADA緩衝液の順で導入した場合と比べて変化が認められない。一方、三つの液体試料のうちいずれか一つにFK506(第二物質)と相互作用する物質が含まれている場合には、FK506のマスクロマトグラムにピーク(図8−3〜−5中矢印で示すピーク)が出現した。この結果からも、第2溶液に続いて複数の液体試料からなる第1溶液を順次導入した場合であっても、複数の液体試料のうちいずれかに第二物質と相互作用する物質が含まれていれば、その相互作用を検出できることが明らかとなった。
【0124】
また、FK506の代わりにAscomycinを第二物質として使用した場合の測定結果を図9−1〜−5に示す。図9−1〜−5に示すように、AscomycinとFKBP12との間の相互作用も同様に検出できることが明らかとなった。
【0125】
[実施例3]
相互作用分析装置
実施例3では、図2−2に示したように、1次元目の分離流路(分離用カラム)の下流に2次元目の分離流路(相互作用解析用カラム)を配設し、第1溶液を第1インジェクターから1次元目の分離流路1に導入し、その1次元目の分離流路1からの溶出分画を第2インジェクターから導入される第2溶液とともに2次元目の分離流路1に導入し、その2次元目の分離流路1から溶出する第2溶液中に含まれる物質のクロマトグラムを検出して、第2溶液中の物質が1次元目のどの溶出分画と相互作用しているかを判定する相互作用分析装置を構築した。具体的に本例の相互作用分析装置は、1次元目の分離流路1としてサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW3000(カラムサイズ1.0IDx100mm;Tosoh Corporation社製)を備え、2次元目の分離流路1としてサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW2000(カラムサイズ1.0IDx30mm;Tosoh Corporation社製)を備える。また、本例の相互作用分析装置は、容器部3及び導入装置4としてオートインジェクター装置Waters2777サンプルマネージャー(CTC Analytics AG社製)及びLCポンプAgilent1100(Yokogawa Analytical Systems社製)及びMicro21LC(日本分光社製)を備える。さらに、本例の相互作用分析装置は、検出装置5としてイオントラップ型質量分析計LCQdecaXP(Thermoelectron社製)を備える。
【0126】
(1)オートインジェクター装置(Waters2777)の構成
オートインジェクター装置Waters2777(CTC Analytics AG)は、40μL容量のサンプルループが接続された第1インジェクターと10μL容量のサンプルループを接続した第2インジェクターの2つのインジェクターを備え、10μL容量のシリンジおよびクーリングユニット付きのサンプルトレイを備える。容量100μLのコニカルインサートを挿入した2mLスクリューバイアルに第1溶液を50μLずつ分注し、セプタム付きスクリューキャップを取り付けた後、54バイアル用ラックに並べてサンプルトレイの1つにセットした。また、第2溶液を各ウェルに40μLずつ分注しアルミシールで覆った384well−マイクロプレートを別のサンプルトレイにセットした。サンプルトレイの温度は10℃に設定した。
【0127】
オートインジェクター装置Waters2777(CTC Analytics AG)のマクロエディターを用いて、次のシーケンスから構成される解析方法をプログラムした(以下、2次元のMixing−in−Columnメソッドと呼ぶ)。2次元のMixing−in−Columnメソッドは、第1インジェクターから第1溶液をインジェクションするためのmethod「Inj1」と、第2インジェクターから第2溶液を所定の間隔で繰り返しインジェクションするためのmethod「Inj2」の2つのmethodから構成される。オートインジェクター装置Waters2777のサンプルシーケンスにおいては、容器部(サンプルトレイ)に配置した第1溶液をmethod「Inj1」で第1インジェクターから1次元目の分離流路1に導入し、その後で、容器部(サンプルトレイ)に配置した第2溶液をmethod「Inj2」で第2インジェクターから2次元目の分離流路に導入した。
【0128】
2次元のMixing−in−Column法のサンプルシーケンス例

サンプル数が多い場合には、以下同様に、Inj1とInj2を交互に繰り返して、第1溶液の次に第2溶液をインジェクトするサンプルシーケンスを作成した。
【0129】
2次元のMixing−in−Columnメソッド




(2)LCポンプ(Agilent1100)及びLCポンプ(micro21LC)及びイオントラップ型質量分析計LCQdecaXPの構成
LCポンプ(Agilent1100)のバイナリポンプ(Bポンプ)からのカラム平衡化溶液の送液ラインをオートインジェクターWaters2777の第1インジェクターの入り口ポートに接続した。また、1次元目のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW3000(ID1.0x100mm)を第1インジェクターの出口ポートに接続し、カラムの下流側はNanotight Y Connector(Upchurch Scientific)の片方の入り口ポートに接続し、その出口ポートを2次元目のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW2000(ID1.0x30mm)の上流のカラム端に接続した。一方、LCポンプ(Agilent1100)のクォータナリーポンプ(Qポンプ)からのカラム平衡化溶液の送液ラインを第2インジェクターの入り口ポートに接続し、その出口ポートからのラインを前記Nanotight Y Connector(Upchurch Scientific)のもう1つの入り口ポートに接続した。前記2次元目のサイズ排除クロマトグラフィー用カラムTSKsuperSW2000の下流側はTeeコネクター(ピークミキシングティー;ジーエルサイエンス株式会社)を経由してイオントラップ型質量分析計LCQdecaXPのESIプローブに接続した。そして、micro21Lc(日本分光)からのコンディショニング溶液の送液ラインをTeeコネクターに接続した。
【0130】
そして、バイナリポンプ(Bポンプ)およびクォータナリーポンプ(Qポンプ)の両方ともカラム平衡化溶液として10mM 酢酸アンモニウム水溶液を5μL/minで送液し、micro21LCポンプからコンディショニング溶液として1.0%ギ酸/メタノール溶液を2.5μL/minで送液した。
【0131】
(3)測定
上述した二次元のMixing−in−Column法を用いて、バイアルおよびサンプルウェルから第1溶液と第2溶液とをこの順で連続自動分注し、第2溶液中の物質のマスクロマトグラムを測定した。すなわち、一例としては、第1インジェクターから第1溶液を1次元目の分離流路1(分離用カラム)に注入した後、第2インジェクターから第2溶液を2次元目の分離流路1(相互作用解析用カラム)に一定の間隔で繰り返し注入した。その結果、第1溶液に含まれる物質がその物質特性に従って1次元目の分離流路1(分離用カラム)から所定の溶出時間で溶出し、第2インジェクター2から一定の間隔で繰り返しインジェクトされている第2溶液とNanotight Y Connectorで合流して2次元目の分離流路1(相互作用解析用カラム)に導入された。
【0132】
インジェクター2から一定の間隔で繰り返しインジェクトされている第2溶液に含まれる物質(群)は、2次元目の分離流路1(相互作用解析用カラム)から順次溶出し、イオントラップ型質量分析計LCQdecaXPでパルス状のマスクロマトグラムを示した。この時、第2溶液に含まれる物質(群)と相互作用する物質が1次元目の分離流路1(分離用カラム)から溶出して来なければ、一定の間隔で同等なパルス状のマスクロマトグラムが検出される。一方、第2溶液に含まれる物質(群)と相互作用する物質が1次元目の分離流路(分離用カラム)から溶出して来た場合には、2次元目の分離流路1(相互作用解析用カラム)での第2溶液中の物質のパルスの内、第1溶液中の相互作用物質で追い越されたパルスのマスクロマトグラムに変化が生じる。
【0133】
[測定例4]2次元のMixing−in−Columnメソッドを用いた相互作用分析
(サンプル調製)
第一物質溶液として、タンパク質を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0134】
(a)第一物質なし(Reference)
10mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH6.7)、
(b)第一物質Human Serum Albumin
100μM Human Serum Albumin(HSA;Sigma社製)
第二物質溶液として、低分子化合物を次の組成で含有する水溶液を調製した。
【0135】
(a)第二物質なし(Reference)
5% DMSO
(b)第二物質 Warfarin
100μM Warfarin
5% DMSO
(測定および結果)
実施例3に例示された装置および2次元のMixing−in−Columnメソッドを用いて、第一物質を第1インジェクターからTSKsuperSW3000(カラムサイズ1.0IDx100mm;Tosoh Corporation)に導入し、第二物質を第2インジェクターからTSKsuperSW2000(カラムサイズ1.0IDx30mm;Tosoh Corporation)に導入し、Warfarin化合物のマスクロマトグラムを測定した。結果を図10−1〜−6に示す。
【0136】
第1インジェクターからインジェクトされた第1溶液中に第一物質が含まれない場合には、一定の間隔で同等なパルス状のWarfarinのマスクロマトグラムが検出された(図10−3)。一方、第1インジェクターからインジェクトされた第1溶液中に第一物質HSAが含まれていた場合には、測定例4(b)での12.3minおよび14.8minに相当するピークの溶出が11.8minおよび14.1minと溶出が早まっていた(図10−5)。HSA自体は、2次元目のカラムから11.5minに溶出しており(図10−1)、図10−5に示した、溶出が早まったwarfarinパルスの溶出時間に相当する。すなわち、図10−3に示した12.3minおよび14.8minのWarfarinパルスを、1次元目のカラムから溶出したHSAが2次元目のカラム内で追い越して、図10−5に示した11.8minおよび14.1minのようにWarfarinパルスの溶出を早めたことを示している。すなわち、2次元目のカラムでの第二物質Warfarinのマスクロマトグラムの変化から、1次元目のカラムの溶出液中にWarfarinと相互作用する第一物質が含まれているか、また、その第一物質が一次元目のカラムからのどの溶出時間に溶出してきたかを判定することが可能であった。
【0137】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液と、当該分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液とを、前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程と、
上記分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出する工程と
を含む相互作用分析方法。
【請求項2】
検出したクロマトグラムと、第1溶液に含まれる物質及び/又は第2溶液に含まれる物質が他の物質と相互作用していない場合のクロマトグラムとを比較する工程を更に含み、
これらクロマトグラム間に差異が生じている場合には、第1溶液に含まれる物質と第2溶液に含まれる物質との間に相互作用が存在すると判定することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項3】
前記分離流路が、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、金属キレートクロマトグラフィー、電気泳動管及び電気浸透流管からなる群から選ばれる少なくとも1のクロマトグラフィーであることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項4】
前記クロマトグラムを、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器及び電気化学検出器からなる群から選ばれる少なくとも1の検出器で検出することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項5】
前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は、複数の物質を含むことを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項6】
前記クロマトグラムは、前記第1溶液及び/又は前記第2溶液に含まれる物質の質量に基づいて検出されるマスクロマトグラムであることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項7】
前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は複数の物質を含み、これら複数の物質に関する多重化されたクロマトグラムを検出することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項8】
前記第1溶液及び前記第2溶液を異なる液量で分離流路に導入することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項9】
前記第1溶液の分離流路に対する導入量と比較して前記第2溶液の導入量を2倍以上とすることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項10】
分離流路に前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程では、第2溶液の導入後、第1溶液の導入前に、気体又は液体の間隙試料を導入することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項11】
前記第1溶液及び/又は前記第2溶液は複数の液体試料からなり、これら複数の液体試料を連続して導入することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項12】
前記分離流路がn次元(n≧2、整数)で構成され、(m−1)次元の分離流路(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路に導入する工程をm=2からm=nまで繰り返し、
上記クロマトグラムを検出する工程では、n次元の分離流路から溶出する物質に関するクロマトグラムを検出することを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項13】
(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を導入した後に当該分画を導入し、
(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を導入する前に当該分画を導入することを特徴とする請求項12記載の相互作用分析方法。
【請求項14】
(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入し、
(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入することを特徴とする請求項12記載の相互作用分析方法。
【請求項15】
前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程では、前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量が10μL以下であることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項16】
前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する工程では、前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量が3μL以下であることを特徴とする請求項1記載の相互作用分析方法。
【請求項17】
溶液に含まれる物質群を分離して溶出する分離流路を有する分離装置と、
前記分離流路からの溶出時間が早い物質を含む第1溶液及び前記分離流路からの溶出時間が遅い物質を含む第2溶液と有する容器部と、
前記容器部から前記分離流路に対して、前記第1溶液の少なくとも一部を前記第2溶液の少なくとも一部よりも後に分離流路に導入する導入装置と、
少なくとも前記導入装置の駆動制御を行う制御装置とを備え、
前記制御装置は、分離流路に第2溶液及び第1溶液の順で導入するように前記導入装置を制御することを特徴とする相互作用分析装置。
【請求項18】
前記分離流路から溶出した物質のクロマトグラムを検出する検出装置を更に備えることを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置。
【請求項19】
前記分離装置は、サイズ排除クロマトグラフィー装置、イオン交換クロマトグラフィー装置、アフィニティークロマトグラフィー装置、吸着クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー装置、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー装置、金属キレートクロマトグラフィー装置、電気泳動管装置及び電気浸透流管装置からなる群から選ばれる少なくとも1のクロマトグラフィー装置であることを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置。
【請求項20】
前記検出装置は、質量検出器、分光検出器、UV検出器、蛍光検出器、発光検出器、屈折検出器及び電気化学検出器からなる群から選ばれる少なくとも1の検出器であることを特徴とする請求項18記載の相互作用分析方法。
【請求項21】
前記制御装置は、第2溶液の導入後、第1溶液の導入前に、気体又は液体の間隙試料を導入するように前記導入装置を制御することを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置
【請求項22】
前記容器部は、複数の第1溶液及び/又は複数の第2溶液を備えることを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置。
【請求項23】
前記分離装置はn次元(n≧2、整数)で構成された分離流路を有し、
前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路(2≦m≦n、整数)から溶出した分画をm次元目の分離流路に導入する工程をm=2からm=nまで繰り返すように制御することを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置。
【請求項24】
前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を導入した後に当該分画を導入し、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を導入する前に当該分画を導入するように制御することを特徴とする請求項23記載の相互作用分析装置。
【請求項25】
前記制御装置は、(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第1溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第2溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入し、
(m−1)次元の分離流路から溶出した分画に前記第2溶液に含まれる物質が含まれている場合には、m次元の分離流路に第1溶液を所定の間隔で導入するとともに当該分画を導入するように制御することを特徴とする請求項23記載の相互作用分析装置。
【請求項26】
前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量が10μL以下であることを特徴とする請求項17記載の相互作用分析装置。
【請求項27】
前記第1溶液及び前記第2溶液の導入量が3μL以下であることを特徴とする請求項17記載の相互作用分析方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図8−5】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図10−3】
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【図10−4】
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【図10−5】
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【図10−6】
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【国際公開番号】WO2005/036122
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514650(P2005−514650)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015156
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(501260082)株式会社リバース・プロテオミクス研究所 (15)
【Fターム(参考)】