説明

真空ポンプの制御装置及び制御方法

【課題】2段式の真空ポンプにおいて、定常運転中に発生した回生エネルギーを有効利用し、過負荷トリップ並びに過電圧トリップの発生を抑制することのできる真空ポンプの制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】第1のモータ52を駆動する第1のモータ駆動手段5と、第2のモータ54を駆動する第2のモータ駆動手段6と、第1のモータ駆動手段5または前記第2のモータ駆動手段6に生じた回生電力を抽出する回生電力抽出手段4と、第1のモータ駆動手段5及び第2のモータ駆動手段6の動作制御を行う制御手段20とを備え、第1のモータ駆動手段5と第2のモータ駆動手段6とは、回生電力抽出手段4に対し並列に接続され、制御手段20は、回生電力抽出手段4が第1のモータ駆動手段5と第2のモータ駆動手段6のいずれか一方から抽出した回生電力を他方のモータ駆動手段に供給するよう制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプの制御装置及び制御方法に関し、特に2段式の真空ポンプにおいて定常運転中に発生した回生エネルギーを有効に利用することのできる真空ポンプの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプ等の真空ポンプは、スクリューロータが高速回転することにより排気を行い、接続されたチャンバ等を真空状態とする。
このような真空ポンプにおいて、例えば高速状態のロータの回転を停止しようとすると、減速に伴い回生エネルギーが発生する。この回生エネルギーは、ロータの回転を急停止しようとしたときに、モータ制御を行うインバータ出力(周波数)よりもモータの実速度が速い状態となることにより生じる。
すなわち回生とは、モータが発電機として作用し、それにより生じたエネルギーをインバータに返そうとする状態をいう。
【0003】
また、この回生エネルギーは、従来から真空ポンプにおいて、例えば電気エネルギーに変換され、磁気浮上式ターボ分子ポンプの磁気軸受、排気室加熱ヒータ及び潤滑油ポンプの補助電源として利用されている(特許文献1乃至特許文献4)。
【特許文献1】特開平1−301999号公報
【特許文献2】特開平2−42196号公報
【特許文献3】特開2002−180990号公報
【特許文献4】特開2002−285993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで図6に示す2段式真空ポンプの構成において、ブースタポンプBPに急激なプロセスガスの流入が生じると、メインポンプMPにおいて、回生電力が生じる。
即ち、図4のフロー並びに図5のグラフを用いて説明すると、定常運転中(ステップS1)に、プロセスガスの流れ込み増加等により急激な負荷変動が発生した場合(ステップS2)、前段にあるブースタポンプBPでは負荷が増加し、スクリューロータ51を回転させるモータ52の回転数が減少する(ステップS3)。
【0005】
ブースタポンプBPでは、低下したモータ52の回転数を定格回転数に戻すために加速状態となり、これにより所定以上の大きな電力消費が発生した場合(ステップS4)、過負荷トリップ状態となり(ステップS5)、電力消費が所定の許容値以内であれば、定常運転となる(ステップS6)。
【0006】
一方、メインポンプMPでは、ブースタポンプBPへのガスの流れ込み増大により過大な負荷変動が発生すると(ステップS2)、ブースタポンプBPからのガスの流れ込みが増加する。このため、ブースタポンプBPとメインポンプMPとを結ぶ中間配管65内の圧力と、メインポンプMP内の圧力差が小さくなり、メインポンプMPの負荷が減少する。負荷が減少すると、それまでの負荷に対応してモータ制御がなされていたため、瞬間的にスクリューロータ53を回転させるモータ54の回転数が増加する(ステップS7)。
【0007】
これによりインバータ回路はメインポンプMPのモータ54を減速制御するが、そこで回生電力が発生し、その値が許容内であれば通常運転に戻り(ステップS6)、所定の許容値を超えていれば過電圧トリップ発生状態となる(ステップS9)。
このように、2段式真空ポンプの場合、停止制御時だけでなく、運転中においてもプロセスガスをブースタポンプ(BP)で大量に吸引した際にメインポンプ(MP)で回生エネルギーが発生していた。
しかしながら、その回生エネルギーは有効に利用されることなく熱エネルギーに変換され消費されていた。
【0008】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、2段式の真空ポンプにおいて、定常運転中に発生した回生エネルギーを有効利用し、過負荷トリップ並びに過電圧トリップの発生を抑制することのできる真空ポンプの制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係る真空ポンプの制御装置は、第1のポンプの排気を第2のポンプにより吸気し排気する2段式真空ポンプにおいて、各ポンプのスクリューロータを夫々回転させる第1のモータ及び第2のモータの制御を行う真空ポンプの制御装置であって、前記第1のモータを駆動する第1のモータ駆動手段と、前記第2のモータを駆動する第2のモータ駆動手段と、前記第1のモータ駆動手段または前記第2のモータ駆動手段に生じた回生電力を抽出する回生電力抽出手段と、前記第1のモータ駆動手段及び第2のモータ駆動手段の動作制御を行う制御手段とを備え、前記第1のモータ駆動手段と前記第2のモータ駆動手段とは、前記回生電力抽出手段に対し並列に接続され、前記制御手段は、前記回生電力抽出手段が前記第1のモータ駆動手段と前記第2のモータ駆動手段のいずれか一方から抽出した回生電力を他方のモータ駆動手段に供給するよう制御を行うことに特徴を有する。
【0010】
例えば、第1のポンプに急激なプロセスガスの流入により急激な負荷が生じた場合、低下した第1のモータの回転数を定格回転数に戻すために加速状態となり、これにより所定の電力が必要となる。一方、第2のポンプでは、瞬間的に負荷が小さくなるために第2のモータの回転数が上昇し、これにより回生電力が発生する。
しかしながら、本発明に係る構成によれば、第1のモータ駆動手段と前記第2のモータ駆動手段とは、前記回生電力抽出手段に対し並列に接続されているため、第1のポンプに急激な負荷が生じた場合等に、第2のモータ駆動手段において発生した前記回生電力が第1のモータ駆動手段において必要な電力として消費される。
よって、急激な負荷変動の発生に拘わらず、第1のモータ駆動手段及び第2のモータ駆動手段の電圧は略一定に維持され、従来のように過負荷トリップ或いは過電圧トリップといった現象を回避することができる。
【0011】
また、前記した課題を解決するために、本発明に係る真空ポンプの制御方法は、第1のポンプの排気を第2のポンプより吸気し排気する2段式真空ポンプにおいて、各ポンプのスクリューロータを夫々回転させる第1のモータ及び第2のモータの制御を行う真空ポンプの制御方法であって、前記第1のモータを駆動する第1のモータ駆動手段と、前記第2のモータを駆動する第2のモータ駆動手段のいずれか一方に生じた回生電力を抽出し、前記抽出された回生電力を他方のモータ駆動手段に供給することに特徴を有する。
【0012】
例えば、第1のポンプに急激なプロセスガスの流入により急激な負荷が生じた場合、低下した第1のモータの回転数を定格回転数に戻すために加速状態となり、これにより所定の電力が必要となる。一方、第2のポンプでは、瞬間的に負荷が小さくなるために第2のモータの回転数が上昇し、これにより回生電力が発生する。
しかしながら、本発明に係る制御方法によれば、例えば第1のポンプに急激な負荷が生じた場合等に、第2のモータ駆動手段において発生した前記回生電力が第1のモータ駆動手段において必要な電力として消費される。
よって、急激な負荷変動の発生に拘わらず、第1のモータ駆動手段及び第2のモータ駆動手段の電圧は略一定に維持され、従来のように過負荷トリップ或いは過電圧トリップといった現象を回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、2段式の真空ポンプにおいて、定常運転中に発生した回生エネルギーを有効利用し、過負荷トリップ並びに過電圧トリップの発生を抑制することのできる真空ポンプの制御装置及び制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る真空ポンプの制御装置の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は本発明に係る真空ポンプの制御装置の実施の形態を模式的に示す断面図である。
尚、図1に示す真空ポンプの制御装置100は、既に図6に示したような2段式真空ポンプ200に適用することができる。
【0015】
図示するように、この真空ポンプの制御装置100は、商用(三相交流)の周波数帯域を有する交流電源101からモータ52(第1のモータ)並びにモータ54(第2のモータ)が所定の回転数を得るよう電力変換するインバータ回路1と、このインバータ回路110を制御する制御部20(制御手段)とで構成される。
尚、図6に示すように、モータ52は、ブースタポンプBP(第1のポンプ)のスクリューロータ51を回転させるモータであり、モータ54は、メインポンプMP(第2のポンプ)のスクリューロータ53を回転させるモータである。
【0016】
インバータ回路1は、交流電源101の電力を直流化する整流器2と、整流器2によって直流化された電流を所定の値に平滑化する直流平滑コンデンサ3とを備える。また、モータ52に接続され、このモータ52に所定の電力を供給するインバータユニット5(第1のモータ駆動手段)と、モータ54に接続され、このモータ54に所定の電力を供給するインバータユニット6(第2のモータ駆動手段)とを備えている。さらには、直流平滑コンデンサ3の出力とインバータユニット5、6の電圧値とに基づき、インバータユニット5、6の電圧が所定の値を超えているか否かを検出する過電圧検出回路4(回生電力抽出手段)を備えている。
尚、インバータユニット5とインバータユニット6とは、過電圧検出回路4に対し並列に接続されている。
【0017】
続いて、このように構成された真空ポンプの制御装置1が制御する2段式真空ポンプ200(図6参照)において、過大な負荷が生じた場合の制御装置1の動作を図2のフロー並びに図3のグラフを用いて説明する。
【0018】
定常運転中(ステップST1)に、プロセスガスの流れ込み増加等により急激な負荷変動が発生した場合(ステップST2)、前段にあるブースタポンプBPでは負荷が増加し、モータ52の回転数が減少する(ステップST3)。
ブースタポンプBPでは、低下したモータ52の回転数を定格回転数に戻すために加速状態となり、所定の消費電力が発生する(ステップST5)。
【0019】
一方、メインポンプMPでは、ブースタポンプBPへのガスの流れ込み増大により過大な負荷変動が発生すると(ステップST2)、ブースタポンプBPからのガスの流れ込みが増加する。
このため、ブースタポンプBPとメインポンプMPとを結ぶ中間配管65内の圧力と、メインポンプMP内の圧力差が小さくなり、メインポンプMPの負荷が減少する。負荷が減少すると、それまでの負荷に対応して制御部20によるモータ制御がなされていたため、瞬間的にモータ54の回転数が増加する(ステップST4)。
これによりインバータユニット6は、制御部20の制御によりメインポンプMPのモータ54を減速制御するが、減速により回生電力が発生する。
【0020】
ここでインバータユニット6は、図1に示すようにインバータユニット5に並列に接続されている。
このため、過電圧検出回路4によって検出されたインバータユニット6の回生電力は、制御部20の制御によりステップST5で必要となるインバータユニット5での電力消費に用いられる(ステップST5)。
したがって、インバータユニット6の電圧は、図3のグラフに示すように過大に上昇することなく定常運転が継続される(ステップST6)。
【0021】
以上のように、本発明に係る実施の形態によれば、ブースタポンプBPに急激な負荷が生じた場合等には、インバータユニット6において回生電力が生じる一方、インバータユニット5において前記回生電力に応じた所定の電力がより必要となる。
しかしながら、本発明にかかる制御装置1においては、モータ52の駆動を行うインバータユニット5とモータ54の駆動を行うインバータユニット6とが、過電圧検出回路4に対し並列に接続されている。このため、インバータユニット6において発生した前記回生電力はインバータユニット5において必要な電力として消費される。
よって、急激な負荷変動の発生に拘わらず、インバータユニット5、6の電圧は略一定に維持され、従来のように過負荷トリップ或いは過電圧トリップといった現象を回避することができる。
【0022】
尚、本願発明は特にブースタポンプとして容積圧縮し排気するスクリュー式真空ポンプを用いた場合に効果的である。
即ち、容積圧縮して排気するスクリュー式真空ポンプをブースタポンプとして用いた場合、メインポンプとしてのスクリュー式真空ポンプも小型となるので、プロセスガスの流れ込みの増加等によりメインポンプの排気が間に合わず、特に中間配管の圧縮が急激に上がり易いためである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、半導体製造工程等のプロセスガスを流す工程で使用するスクリューロータを備える真空ポンプに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る真空ポンプの制御装置の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1の制御装置が制御する2段式真空ポンプにおいて過大な負荷が生じた場合の制御装置の動作を示すフローである。
【図3】図3は、図2のフローに対応するブースタポンプ並びにメインポンプの状態を示すグラフである。
【図4】図4は、従来の制御装置が制御する2段式真空ポンプにおいて過大な負荷が生じた場合の制御装置の動作を示すフローである。
【図5】図5は、図4のフローに対応するブースタポンプ並びにメインポンプの状態を示すグラフである。
【図6】図6は、2段式真空ポンプの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 インバータ回路
2 整流器
3 直流平滑コンデンサ
4 過電圧検出回路(回生電流抽出手段)
5 インバータユニット(第1のモータ駆動手段)
6 インバータユニット(第2のモータ駆動手段)
20 制御部(制御手段)
51 スクリューロータ
52 モータ(第1のモータ)
53 スクリューロータ
54 モータ(第2のモータ)
65 中間配管
100 真空ポンプの制御装置
101 交流電源
200 2段式真空ポンプ
BP ブースタポンプ(第1のポンプ)
MP メインポンプ(第2のポンプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のポンプの排気を第2のポンプにより吸気し排気する2段式真空ポンプにおいて、各ポンプのスクリューロータを夫々回転させる第1のモータ及び第2のモータの制御を行う真空ポンプの制御装置であって、
前記第1のモータを駆動する第1のモータ駆動手段と、前記第2のモータを駆動する第2のモータ駆動手段と、前記第1のモータ駆動手段または前記第2のモータ駆動手段に生じた回生電力を抽出する回生電力抽出手段と、前記第1のモータ駆動手段及び第2のモータ駆動手段の動作制御を行う制御手段とを備え、
前記第1のモータ駆動手段と前記第2のモータ駆動手段とは、前記回生電力抽出手段に対し並列に接続され、
前記制御手段は、前記回生電力抽出手段が前記第1のモータ駆動手段と前記第2のモータ駆動手段のいずれか一方から抽出した回生電力を他方のモータ駆動手段に供給するよう制御を行うことを特徴とする真空ポンプの制御装置。
【請求項2】
第1のポンプの排気を第2のポンプより吸気し排気する2段式真空ポンプにおいて、各ポンプのスクリューロータを夫々回転させる第1のモータ及び第2のモータの制御を行う真空ポンプの制御方法であって、
前記第1のモータを駆動する第1のモータ駆動手段と、前記第2のモータを駆動する第2のモータ駆動手段のいずれか一方に生じた回生電力を抽出し、
前記抽出された回生電力を他方のモータ駆動手段に供給することを特徴とする真空ポンプの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−92044(P2009−92044A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266007(P2007−266007)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】