説明

真空ポンプ

【課題】機械ロスを増加することなく、駆動機の耐久性の低下を防止できる真空ポンプを提供すること。
【解決手段】電動モータ10のケース11の円板部61Aに取り付けられるケーシング31と、このケーシング31内を電動モータ10の出力軸12により回転駆動されるロータ27と、このロータ27に出没自在に収容される複数のベーン28とを備えた真空ポンプ1において、ケーシング31は、ロータ27が回転駆動し、端部に開口を有する中空形状のシリンダ室Sと、このシリンダ室Sの開口を塞ぐサイドプレート25,26とを備え、このサイドプレート25と電動モータ10の円板部61Aとの間に形成される空間70を、シリンダ室Sと排気口24Aとを繋ぐ排気経路37に形成される膨張室33に連通させる連通孔を備えた.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン式の真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、駆動機の壁面に取り付けられるケーシングと、このケーシング内を前記駆動機の回転軸により回転駆動されるロータと、このロータに出没自在に収容される複数のベーンとを備えた真空ポンプが知られている。この種の真空ポンプでは、ケーシング内のロータ及びベーンを電動モータ等の駆動機で駆動することによって真空を得ることができる。真空ポンプは、例えば、自動車のエンジンルームに搭載されて、ブレーキ倍力装置を作動させるための真空を発生させるために使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の真空ポンプでは、端部に開口を有する中空形状のシリンダ室と、このシリンダ室の開口を塞ぐサイドプレートとを備えたケーシングを駆動機の壁面に取り付けることで、小型化の実現が模索されている。
この構成では、ケーシングを駆動機の壁面に取り付けた際に、この壁面とサイドプレートとの間に微小な空間が形成される。この空間は、ロータと回転軸との隙間及びロータとサイドプレートとの隙間を通じて、真空ポンプの運転中に発生する負圧の空間と連通することにより、この負圧により上記空間の空気が引き込まれ、当該空間内が大気圧以下(すなわち負圧)となることがある。
駆動機の壁面とサイドプレートとの間の空間内が負圧になると、駆動機内の空気が上記回転軸のベアリング近傍の孔部を通って当該空間内に流入する流れが生じることがある。駆動機内には、摺動により摩耗粉が存在することがあり、この摩耗粉がベアリングに付着することで駆動機の耐久性が低下するという問題が想定される。この場合、ベアリングをシールを有するものに変更することもできるが、シールベアリングを用いた構成では、機械ロスが増加するといった問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、機械ロスが増加することなく、駆動機の耐久性の低下を防止できる真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、駆動機の壁面に取り付けられるケーシングと、このケーシング内を前記駆動機の回転軸により回転駆動されるロータと、このロータに出没自在に収容される複数のベーンとを備えた真空ポンプにおいて、前記ケーシングは、前記ロータが回転駆動し、端部に開口を有する中空形状のシリンダ室と、このシリンダ室の開口を塞ぐサイドプレートとを備え、このサイドプレートと前記駆動機の壁面との間に形成される空間を、大気圧以上となる他の空間に連通させる連通孔を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、サイドプレートと駆動機の壁面との間に形成される空間が大気圧以下となった際には、連通孔を通じて大気圧以上の圧力の空気が空間に流入することにより、当該空間が速やかに大気圧(もしくは大気圧以上)に回復する。このため、駆動機内の空気が上記空間に流入する事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉による駆動機の耐久性の低下を防止できる。
【0006】
この構成において、本発明は、ケーシングは、シリンダ室と排気口とを繋ぐ排気経路に形成される膨張室を当該シリンダ室の周縁部に備え、この膨張室に前記連通孔を形成したことを特徴とする。また、本発明は、連通孔は、前記膨張室における前記回転軸よりも高い位置に形成されたことを特徴とする。また、本発明は、前記駆動機は、前記回転軸を軸支する軸受を備え、この軸受よりも高い位置となる前記壁面に前記連通孔を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、サイドプレートと駆動機の壁面との間に形成される空間を大気圧以上となる他の空間に連通させる連通孔を備えたため、この空間が大気圧以下となった際には、連通孔を通じて大気圧以上の圧力の空気が当該空間に流入することにより、当該空間が速やかに大気圧(もしくは大気圧以上)に回復する。このため、駆動機内の空気が上記空間に流入する事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉による駆動機の耐久性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態に係る真空ポンプの側部部分断面図である。
【図2】真空ポンプをその前側から見た図である。
【図3】ケーシング本体の背面図である。
【図4】空気の流れを説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプ1の側部部分断面図である。図2は、図1の真空ポンプ1をその前側(同図中の右側)から見た図である。ただし、図2は、シリンダ室Sの構成を示すべく、ポンプカバー24,サイドプレート26等の部材を取り外した状態を図示している。なお、以下では、説明の便宜上、図1および図2の上部にそれぞれ矢印で示す方向が、真空ポンプ1の上下前後左右を示すものとして説明する。また、前後方向については軸方向、左右方向については幅方向ともいう。
【0010】
図1に示す真空ポンプ1は、回転式のベーン型真空ポンプであり、例えば、自動車等のブレーキ倍力装置(図示略)の負圧源として使用される。この場合、真空ポンプ1は、通常、エンジンルーム内に配置されて、真空タンク(図示略)を介してブレーキ倍力装置に配管接続される。なお、自動車等に用いる真空ポンプ1の使用範囲は、例えば、−60kPa〜−80kPaである。
【0011】
図1に示すように、真空ポンプ1は電動モータ10と、この電動モータ10を駆動源として作動するポンプ本体20とを備えており、これら電動モータ10及びポンプ本体20が一体に連結された状態で自動車等の車体に固定支持されている。
【0012】
電動モータ10は、略円筒形状に形成されたケース11の一方の端部(前端)の略中心からポンプ本体20側(前側)に向かって延びる出力軸(回転軸)12を有している。出力軸12は、前後方向に延びる回転中心X1を基準として回転する。出力軸12の先端部12Aには、ポンプ本体20の後述するロータ27に嵌合し、当該ロータ27の回り止めとなるスプライン部12Bが形成されている。なお、出力軸12の外表面にキーを設けてロータ27の空回りを防止することも可能である。
電動モータ10は、電源(図示略)の投入により、出力軸12が、図2中の矢印R方向(反時計回り)に回転し、これによりロータ27を、回転中心X1を中心として同方向(矢印R方向)に回転させるようになっている。
【0013】
ケース11は、有底円筒形状に形成されたケース本体60と、このケース本体60の開口を塞ぐカバー体61とを備え、ケース本体60は、その周縁部60Aが外方に折り曲げて形成されている。カバー体61は、ケース本体60の開口と略同径に形成された円板部(壁面)61Aと、この円板部61Aの周縁に連なり、ケース本体60の内周面に嵌まる円筒部61Bと、この円筒部61Bの周縁を外方に折り曲げて形成した屈曲部61Cとを備えて一体に形成され、円板部61A及び円筒部61Bがケース本体60内に進入し、屈曲部61Cが、ケース本体60の周縁部60Aに当接して固定されている。これにより、電動モータ10には、ケース11の一方の端部(前端)が内側に窪み、ポンプ本体20がインロー嵌合により取り付けられる嵌合穴部63が形成される。
また、円板部61Aの略中央には、出力軸12が貫通する貫通孔61Dと、この貫通孔61Dの周囲にケース本体60の内側に延びる円環状のベアリング保持部61Eとが形成され、このベアリング保持部61Eの内周面61Fに、上記出力軸12を軸支するベアリング62の外輪が保持される。本実施形態では、ベアリング62として開放型のボールベアリングが採用されている。開放型のボールベアリングは、シールド型のものに比べて回転時の抵抗及び機械ロスが小さいため、電動モータの消費電力の低減を図ることができる。
【0014】
ポンプ本体20は、図1に示すように、電動モータ10のケース11の前側に形成された嵌合穴部63に嵌合されるケーシング本体22と、このケーシング本体22内に圧入されてシリンダ室Sを形成するシリンダ部23と、当該ケーシング本体22を前側から覆うポンプカバー24とを備えている。本実施形態ではケーシング本体22、シリンダ部23及びポンプカバー24を備えて、真空ポンプ1のケーシング31を構成している。
【0015】
ケーシング本体22は、例えば、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属材料を用いて、図2に示すように、前側から見た形状が上記した回転中心X1を略中心とした上下方向に長い略矩形に形成されている。ケーシング本体22の上部には、このケーシング本体22に設けられたシリンダ室S内に連通する連通孔22Aが形成され、この連通孔22Aには真空吸込ニップル30が圧入されている。この真空吸込ニップル30は、図1に示すように、上向きに延びる直管であり、当該真空吸込ニップル30の一端30Aには、外部機器(例えば、真空タンク(図示略))から負圧空気を供給するための管またはチューブが接続される。
【0016】
ケーシング本体22には、前後方向に延びる軸心X2を基準とした孔部22Bが形成され、この孔部22Bに円筒状に形成されたシリンダ部23が圧入されている。軸心X2は、上述の電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に対して平行で、かつ、図2に示すように、回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心している。本構成では、回転中心X1を中心とするロータ27の外周面27Bが、軸心X2を基準に形成されているシリンダ部23の内周面23Aに接するように軸心X2が偏心されている。
【0017】
シリンダ部23は、ロータ27と同一の金属材料(本実施形態では、鉄)で形成されている。この構成では、シリンダ部23とロータ27とは熱膨張係数が同じなので、シリンダ部23及びロータ27の温度変化にかかわらず、ロータ27が回転した際の当該ロータ27の外周面27Bとシリンダ部23の内周面23Aとの接触を防止できる。なお、シリンダ部23及びロータ27は、略同じ程度の熱膨張係数を有する金属材料であれば、異なる材料を用いても構わない。
また、ケーシング本体22に形成された孔部22Bにシリンダ部23を圧入することにより、ケーシング本体22の前後方向の長さ範囲内でシリンダ部23を収容することができるため、このシリンダ部23がケーシング本体22から突出することが防止され、ケーシング本体22の小型化を図ることができる。
更に、ケーシング本体22はロータ27よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。これによれば、ロータ27及びベーン28が回転駆動した際に発生した熱がケーシング本体22に速やかに伝達できることにより、ケーシング本体22から十分に放熱することができる。
【0018】
シリンダ部23には、上記したケーシング本体22の連通孔22Aとシリンダ室S内とを繋ぐ開口23Bが形成されており、真空吸込ニップル30を通じた空気は、連通孔22A,開口23Bを通じてシリンダ室S内に供給される。このため、本実施形態では、真空吸込ニップル30、ケーシング本体22の連通孔22A及びシリンダ部23の開口23Bを備えて吸気経路32が形成される。また、ケーシング本体22及びシリンダ部23の下部には、これらケーシング本体22及びシリンダ部23を貫通し、シリンダ室Sで圧縮された空気が吐出される吐出口22C,23Cが設けられている。
【0019】
シリンダ部23の後端および前端には、それぞれサイドプレート25,26が配設されている。これらサイドプレート25,26は、その直径がシリンダ部23の内周面23Aの内径よりも大きく設定されており、シールリング25A,26Aにより付勢されて、シリンダ部23の前端及び後端にそれぞれ押し付けられている。これにより、シリンダ部23の内側は、真空吸込ニップル30に連なる開口23B及び吐出口23C,22Cを除いて、密閉されたシリンダ室Sが形成される。
【0020】
シリンダ室Sには、ロータ27が配設されている。ロータ27は、厚肉円筒形状に形成されていて、その軸穴27Aには、上述のスプライン部12Bが形成された出力軸12が嵌合されている。このスプライン嵌合の構成により、ロータ27は出力軸12と一体となって回転する。ロータ27の前後方向の長さは、シリンダ部23の長さ、すなわち、上述の2枚にサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しく設定されている。また、ロータ27の外径は、図2に示すように、ロータ27の外周面27Bが、シリンダ部23の内周面23Aのうちの右斜め下方に位置する部分と微小なクリアランスを保つように設定されている。これにより、図2に示すように、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとの間には、三日月形状の空間が構成される。
【0021】
ロータ27には、三日月形状の空間を区画する複数(本例では5枚)のベーン28が設けられている。ベーン28は、板状に形成されていて、その前後方向の長さは、ロータ27と同様、2枚のサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しくなるように設定されている。これらベーン28は、ロータ27に設けられたガイド溝27Cから出没自在に配設されている。各ベーン28は、ロータ27の回転に伴い、遠心力によってガイド溝27Cに沿って外側へ突出し、その先端をシリンダ部23の内周面23Aに当接させる。これにより、上述の三日月形状の空間は、相互に隣接する2枚のベーン28,28と、ロータ27の外周面27Bと、シリンダ部23の内周面23Aとによって囲まれる5つの圧縮室Pに区画される。これら圧縮室Pは、出力軸12の回転に伴うロータ27の矢印R方向の回転に伴い、同方向に回転し、その容積が、開口23B近傍で大きく、一方、吐出口23Cで小さくなる。つまり、ロータ27,ベーン28の回転により、開口23Bから1つの圧縮室Pに吸入された空気は、ロータ27の回転に伴って回転しつつ圧縮されて、吐出口23Cから吐出される。本構成では、ロータ27及び複数のベーン28を備えて回転圧縮要素を構成する。
【0022】
本構成では、シリンダ部23は、図2に示すように、このシリンダ部23の軸心X2が回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心してケーシング本体22に形成されている。このため、ケーシング本体22内には、シリンダ部23が偏心したのと反対の方向に大きなスペースを確保することができ、このスペースにはシリンダ部23の周縁部に沿って、吐出口23C、22Cに連通する膨張室33が形成されている。
膨張室33は、シリンダ部23の下方から出力軸12の上方に至るまで、当該シリンダ部23の周縁部に沿った大きな閉空間として形成され、ポンプカバー24に形成された排気口24Aに連通している。この膨張室33に流入した圧縮空気は、当該膨張室33内で膨張、分散して当該膨張室33の隔壁にぶつかって乱反射する。これにより、圧縮空気の音エネルギが減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。本実施形態では、ケーシング本体22及びシリンダ部23にそれぞれ形成された吐出口22C,23C、膨張室33及び排気口24Aを備えて排気経路37を構成する。
【0023】
本実施形態では、シリンダ部23をロータ27の回転中心X1から偏心して配置することにより、ケーシング本体22にはシリンダ部23の上記回転中心X1側の周縁部に大きなスペースを確保することができる。このため、このスペースに大きな膨張室33を形成することにより、ケーシング本体22に膨張室33を一体に形成することができるため、当該膨張室33をケーシング本体22の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体22の小型化を図ることができ、ひいては真空ポンプ1の小型化を図ることができる。
【0024】
ポンプカバー24は、前側のサイドプレート26にシールリング26Aを介して配置され、ケーシング本体22にボルト66で固定されている。ケーシング本体22の前面には、図2に示すように、シリンダ部23や膨張室33を囲んでシール溝22Dが形成され、このシール溝22Dには環状のシール材67が配置されている。ポンプカバー24には、膨張室33に対応する位置に排気口24Aが設けてある。この排気口24Aは、膨張室33に流入した空気を機外(真空ポンプ1の外部)に排出するためのものであり、この排気口24Aは、機外からポンプ内への空気の逆流を防止するためのチェックバルブ29が取り付けられている。
【0025】
図3は、ケーシング本体22を背面図である。
上記したように、真空ポンプ1は、電動モータ10とポンプ本体20とを連結して構成されており、電動モータ10の出力軸12に連結されたロータ27及びベーン28がポンプ本体20のシリンダ部23内で摺動する。このため、ポンプ本体20を電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に合わせて組み付けることが重要である。
このため、本実施形態では、上記したように、電動モータ10は、ケース11の一端側に出力軸12の回転中心X1を中心とした嵌合穴部63が形成されている。一方、ケーシング本体22の背面には、図3に示すように、シリンダ室Sの周囲に後方へ突出した円筒状の嵌合部22Fが一体に形成されている。この嵌合部22Fは、電動モータ10の出力軸12の回転中心X1と同心に形成されており、電動モータ10の嵌合穴部63にインロー嵌合する外径に形成されている。さらに、嵌合部22Fの角部22Gには、ケーシング本体22を電動モータ10の嵌合穴部63に容易に嵌め込むことができるように面取り加工が施されている。
このため、この構成では、電動モータ10の嵌合穴部63にケーシング本体22の嵌合部22Fを嵌め込むだけで、簡単に中心位置を合わせることができるため、電動モータ10とポンプ本体20との組み付け作業を容易に行うことができる。また、ケーシング本体22の背面には、嵌合部22Fの周囲にシール溝22Eが形成され、このシール溝22Eには環状のシール材35が配置されている。
【0026】
ところで、本実施形態の真空ポンプ1は、電動モータ10の嵌合穴部63にケーシング本体22の嵌合部22Fを嵌め込んで固定している。この嵌合部22Fの内側には、図1に示すように、シリンダ室Sを形成するシリンダ部23が配置され、このシリンダ部23の後端(電動モータ10)側には、サイドプレート25が配置されているため、このサイドプレート25と電動モータ10の円板部61Aとの間には微小な空間70が形成される。
一方、真空ポンプ1を作動させた場合、各サイドプレート25,26とロータ27とが常時密着しているわけではないため、各圧縮室Pにて発生した負圧により、サイドプレート25,26とロータ27との隙間、ロータ27の軸穴27Aと出力軸12との隙間を通じて、上記した空間70から空気が引き込まれ、この空間70内が大気圧以下(すなわち負圧)となることがある。
すると、電動モータ10のケース11内の空気が開放型のベアリング(軸受)62近傍の孔部である貫通孔61Dを通って上記空間70に流入する流れが生じる可能性がある。この流れが生じた場合、電動モータ10のブラシ等の摺動により生じた摩耗粉が、ベアリング62に付着してしまう可能性があり、この摩耗粉の付着を回避することが望まれる。
【0027】
本構成では、サイドプレート25と電動モータ10の円板部61Aとの間に形成された微小な空間70内が負圧になることを防止するために、当該空間70と大気圧以上となる膨張室(他の空間)33とを連通する小径(本実施形態では直径1.6mm)の連通孔71がケーシング本体22に形成されている。これによれば、空間70が大気圧以下となった際には、図4に示すように、連通孔71を通じて大気圧以上の圧力の空気が空間70に流入することにより、当該空間70が速やかに大気圧(もしくは大気圧以上)に回復する。このため、電動モータ10のケース11内の空気が貫通孔61Dを通って上記空間70に流入する事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉がベアリング62に付着してしまうことを回避でき、ベアリング62、ひいては、電動モータ10の耐久性の低下を防止することができる。
この場合、ポンプ本体20内には連通孔71を通じて空気が流入するため、外部機器内の真空度の低下が懸念される。しかしながら、連通孔71を形成することで、最大負圧値は若干低下する(−95kPaが−93kPa)ものの、自動車のブレーキ倍力装置における通常の使用範囲(例えば、−60kPa〜−80kPa)では、まったく支障がないことが実験により判明している。
【0028】
連通孔71は、図2に示すように、膨張室33の上部におけるシリンダ部23に近い箇所で、出力軸12よりも上方に形成されている。上記空間70と連通する位置であれば、膨張室33の何処に連通孔71を形成しても、当該空間70の負圧の解消は実現できる。しかし、膨張室33の下方、すなわち排気口24Aの近傍に連通孔を設けた場合には下記の問題がある。
シリンダ室S内では、ベーンがシリンダ室Sの内周面23Aを摺動する際に徐々に摩耗するため、排気口24Aの近傍では、摩耗粉を含んだ空気が排出されやすい。このため、排気口24Aの近傍に連通孔を設けた場合には、摩耗粉を含んだ空気が連通孔を通じて空間70に流入することにより、この摩耗粉がベアリング62に付着する問題が生じうる。また、排気口24Aを通じて雨水が侵入する膨張室33内に侵入することも想定され、排気口24Aの近傍に連通孔を設けた場合には、雨水が連通孔を通じて、上記空間70に流入することが想定される。この場合、空間70には電動モータ10が隣接しているため、この電動モータ10内への水の流入は確実に防止する必要がある。
これらの問題の発生を抑制するために、本実施形態では、連通孔71は、膨張室33の上部における出力軸12よりも上方に形成されている。このため、万一、膨張室33内に摩耗粉や水が侵入したとしても、これら摩耗粉及び水は、出力軸12よりも上方まで移動する可能性が低いため、連通孔71を通じて空間70に流入されることを防止できる。
【0029】
このように、本実施形態では、サイドプレート25と電動モータ10の円板部61Aとの間に形成された微小な空間70と、大気圧以上となる膨張室(他の空間)33とを連通する連通孔71をケーシング本体22に形成したため、電動モータ10のケース11内の空気が貫通孔61Dを通って上記空間70に流入する事態が抑制されることで、この空気に含まれる摩耗粉がベアリング62に付着してしまうことを回避できる。一方で、真空ポンプ1の運転中には、電動モータ10のケース11内温度が上昇するため、この温度上昇による空気の膨張分をケース11の外部に積極的に排出する必要がある。
この電動モータ10は防水タイプに形成されているため、ケース本体60には、排気口となる開口が設けられていない。このため、何も対策を施さなければ、温度上昇による膨張した空気は、開放型のベアリング(軸受)62近傍の孔部である貫通孔61Dを通って排出されることとなり、電動モータ10のブラシ等の摺動により生じた摩耗粉が、ベアリング62に付着してしまうという問題が生じうる。
【0030】
このため、本実施形態では、電動モータ10は、ケース11の円板部61Aにおけるベアリング62よりも高い位置、すなわち、図1に示すように、出力軸12の真上であって、ケーシング本体22の嵌合部22Fに対向する円板部61Aに排気口(連通孔)72が形成されている。ケース11内が温度上昇した際には、この排気口72を通じて、温度上昇による膨張分が排出されるため、電動モータ10のケース11内の空気が貫通孔61Dを通って排出される事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉がベアリング62に付着してしまうことを回避でき、ベアリング62、ひいては、電動モータ10の耐久性の低下を防止することができる。
さらに、本実施形態では、排気口72から排出された空気は、シールリング25Aとの隙間を通じて上記空間70に流入することにより、当該排気口72は、シールリング25Aを介して当該空間70と連通することとなる。このため、排気口72は、真空ポンプ1の運転中には、当該空間70を電動モータ10のケース(大気圧以上の空間)11内と連通する連通孔としても機能する。
排気口72は、ケース11の円板部61Aにおけるベアリング62よりも高い位置に形成されているため、この排気口72を通じて、ケース11内の摩耗粉が排出されることを抑制できるとともに、当該排気口72を通じて水がケース11内に侵入することを抑制できる。
【0031】
以上、説明したように、本実施形態によれば、電動モータ10のケース11の円板部61Aに取り付けられるケーシング31と、このケーシング31内を電動モータ10の出力軸12により回転駆動されるロータ27と、このロータ27に出没自在に収容される複数のベーン28とを備えた真空ポンプ1において、ケーシング31は、ロータ27が回転駆動し、端部に開口を有する中空形状のシリンダ室Sと、このシリンダ室Sの開口を塞ぐサイドプレート25,26とを備え、このサイドプレート25と電動モータ10の円板部61Aとの間に形成される空間70を、シリンダ室Sと排気口24Aとを繋ぐ排気経路37に形成される膨張室33に連通させる連通孔71を備えたため、上記空間70が大気圧以下となった際には、連通孔71を通じて膨張室33内の大気圧以上の圧力の空気が当該空間70内に流入することにより、当該空間70が速やかに大気圧(もしくは大気圧以上)に回復する。このため、電動モータ10のケース11内の空気が上記空間70に流入する事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉による電動モータ10のベアリング62、ひいては電動モータ10の耐久性の低下を防止できる。
【0032】
また、本実施形態によれば、ケーシング31を構成するケーシング本体22は、シリンダ室Sと排気口24Aとを繋ぐ排気経路37に形成される膨張室33を当該シリンダ室Sの周縁部に備えるため、ケーシング本体22内にシリンダ室Sと膨張室33とを一体に形成することができ、真空ポンプ1の大型化を抑制することができる。さらに、膨張室33と空間70とを連通する連通孔71をケーシング本体22に形成したため、膨張室33内の空気を簡単に上記空間70に流入させることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、連通孔71は、膨張室33における出力軸12よりも高い位置に形成されているため、万一、膨張室33内に摩耗粉や水が侵入したとしても、これら摩耗粉及び水は、出力軸12よりも上方まで移動する可能性が低いため、連通孔71を通じて空間70に流入されることを防止できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、電動モータ10は、出力軸12を軸支するベアリング62を備え、このベアリング62よりも高い位置となるケース11の円板部61Aに排気口72を形成したため、ケース11内が温度上昇した際には、この排気口72を通じて、温度上昇による膨張分が排出されることにより、電動モータ10のケース11内の空気が貫通孔61Dを通って排出される事態が抑制されることにより、この空気に含まれる摩耗粉がベアリング62に付着してしまうことを回避でき、ベアリング62、ひいては、電動モータ10の耐久性の低下を防止することができる。
【0035】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、本実施形態では、排気口72は、出力軸12の真上であって、ケーシング本体22の嵌合部22Fに対向する円板部61Aに設けられていたが、これに限るものではなく、ベアリング62の上方であれば、シールリング25Aの内側に設けても良い。この場合、電動モータ10のケース11の円板部61Aには、ベアリング62よりも低い位置に水抜き孔を設けても良い。この水抜き孔は、万一、ケース11内に水が侵入した際に、この水を外部に排出させるための孔であり、円板部61Aの極力低い位置に設けるのが望ましい。なお、この水抜き孔は、上記した排気口72と同様に、真空ポンプ1の運転中に、上記空間70を電動モータ10のケース(大気圧以上の空間)11内と連通する連通孔として機能する。
【符号の説明】
【0036】
1 真空ポンプ
10 電動モータ(駆動機)
11 ケース
12 出力軸(回転軸)
20 ポンプ本体
22 ケーシング本体
23 シリンダ部
24 ポンプカバー
24A 排気口
27 ロータ
28 ベーン
30 真空吸込ニップル
33 膨張室(大気圧以上の他の空間)
37 排気経路
38 吸気側膨張室
60 ケース本体
61 カバー体
61A 円板部(壁面)
70 空間
71 連通孔
72 排気口(連通孔)
S シリンダ室
X1 回転中心
X2 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機の壁面に取り付けられるケーシングと、このケーシング内を前記駆動機の回転軸により回転駆動されるロータと、このロータに出没自在に収容される複数のベーンとを備えた真空ポンプにおいて、
前記ケーシングは、前記ロータが回転駆動し、端部に開口を有する中空形状のシリンダ室と、このシリンダ室の開口を塞ぐサイドプレートとを備え、このサイドプレートと前記駆動機の壁面との間に形成される空間を、大気圧以上となる他の空間に連通させる連通孔を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記ケーシングは、前記シリンダ室と排気口とを繋ぐ排気経路に形成される膨張室を当該シリンダ室の周縁部に備え、この膨張室に前記連通孔を形成したことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記連通孔は、前記膨張室における前記回転軸よりも高い位置に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記駆動機は、前記回転軸を軸支する軸受を備え、この軸受よりも高い位置となる前記壁面に前記連通孔を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−117441(P2012−117441A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267556(P2010−267556)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(510063502)ナブテスコオートモーティブ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】