説明

真空ポンプ

【課題】大型化することなく、騒音や振動の低減を図った真空ポンプを提供すること。
【解決手段】ケーシング本体22は、ロータ27やベーン28が摺動するシリンダ室Sと、このシリンダ室Sから排出された圧縮空気を膨張させる膨張室33と、シリンダ室Sと膨張室33とを接続する排気経路40とを備え、この排気経路40に少なくとも一の折り返し部40Cを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた真空ポンプが知られている。この種の真空ポンプでは、回転圧縮要素を電動モータ等の駆動装置で駆動することによって真空を得ることができる。真空ポンプは、例えば、自動車のエンジンルームに搭載されて、ブレーキ倍力装置を作動させるための真空を発生させるために使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−222090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の真空ポンプでは、回転圧縮要素を駆動させてケーシング内に吸込んだ空気を圧縮して排出口から排出することにより、この排気口から排出する際に大きな騒音や振動を発生する。従来の構成では、これら騒音や振動の低減を図るべく、排気口にサイレンサを設けたり、防振ゴムを設けた頑強なブラケットを介して車両に取り付けていたため、部品点数が増加して真空ポンプが大型化してしまうという問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、大型化することなく、騒音や振動の低減を図った真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、ケーシング内に回転圧縮要素を備えた真空ポンプにおいて、前記ケーシングは、前記回転圧縮要素を摺動させるシリンダ室と、このシリンダ室から排出された圧縮空気を膨張させる膨張室と、前記シリンダ室と前記膨張室とを接続する排気経路とを備え、この排気経路に少なくとも一の折り返し部を設けたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、シリンダ室と膨張室とを接続する排気経路に少なくとも一の折り返し部を設けたため、その分排気経路の経路長を長く形成することができる。このため、シリンダ室から排出された圧縮空気は、経路長の長い排気経路を流れる際に、当該排気経路の壁面にぶつかって乱反射することにより、当該圧縮空気の音エネルギを減衰させることができる。更に、排気経路で減衰された圧縮空気は、膨張室に流入し、この膨張室内で更に膨張、分散してより一層減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0007】
この構成において、前記排気経路及び前記膨張室は、前記ケーシングにおける前記シリンダ室の周縁部に並設されていることを特徴とする。この構成によれば、ケーシングに排気経路、膨張室及びシリンダ室を一体に形成することができ、真空ポンプの大型化を抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、前記排気経路に多孔質材料で形成された消音部材を配置したことを特徴とする。この構成によれば、排気経路を流れる圧縮空気が消音部材を通過する際に整流されるとともに、当該圧縮空気の音エネルギが消音部材に吸収されるため、排気する際の騒音及び振動を一層低減することができる。
【0009】
また、本発明は、前記ケーシングは、前記シリンダ室を形成するシリンダライナを備え、このシリンダライナは前記排気経路に繋がる排気孔を備え、この排気孔は、前記シリンダ室の内側の孔径が外側よりも大きく、内側から外側に向けて縮径するテーパ孔に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、シリンダライナに形成する排気孔をテーパ孔としたことにより、シリンダ室から排出される圧縮空気の脈動を抑制することができ、この脈動に伴う排気時の騒音及び振動を低減することができる。
【0010】
また、本発明は、前記回転圧縮要素を駆動する回転軸を備え、この回転軸の先端部を前記ケーシングに設けた軸受けで支持したことを特徴とする。この構成によれば、回転軸の振れが抑制されるため、作動音の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シリンダ室と膨張室とを接続する排気経路に少なくとも一の折り返し部を設けたため、その分排気経路の経路長を長く形成することができる。このため、シリンダ室から排出された圧縮空気は、経路長の長い排気経路を流れる際に、当該排気経路の壁面にぶつかって乱反射することにより、当該圧縮空気の音エネルギを減衰させることができる。更に、排気経路で減衰された圧縮空気は、膨張室に流入し、この膨張室内で更に膨張、分散してより一層減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る真空ポンプを使用したブレーキ装置の概要図である。
【図2】真空ポンプの側部部分断面図である。
【図3】真空ポンプをその前側から見た図である。
【図4】シリンダライナに形成した排気孔を示す図2の部分拡大図である。
【図5】各構成に対応する騒音値を記載した表である。
【図6】別の実施形態にかかる真空ポンプの側部部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る真空ポンプ1を負圧源として使用したブレーキ装置100の概要図である。ブレーキ装置100は、例えば、自動車等の車両の左右の前輪に取り付けられたフロントブレーキ2A,2B、及び左右の後輪に取り付けられたリアブレーキ3A,3Bを備えている。これらの各ブレーキは、マスターシリンダ4とブレーキ配管9によりそれぞれ接続されており、マスターシリンダ4からブレーキ配管9を介して送られる油圧によって各ブレーキが作動する。
また、ブレーキ装置100は、ブレーキペダル5と連結されたブレーキブースター(ブレーキ倍力装置)6を備え、このブレーキブースター6には、空気配管8を介して、真空タンク7及び真空ポンプ1が直列に接続されている。ブレーキブースター6は、真空タンク7内の負圧を利用してブレーキペダル5の踏力を倍力するものであり、小さな踏力でマスターシリンダ4のピストン(図示せず)を移動させることにより、十分なブレーキングパワーを引き出せるようになっている。
真空ポンプ1は、車両のエンジンルーム内に配置され、真空タンク7内の空気を車両外部へ排出し、当該真空タンク7内を真空状態とする。なお、自動車等に用いる真空ポンプ1の使用範囲は、例えば、−60kPa〜−80kPaである。
【0014】
図2は、真空ポンプ1の側部部分断面図であり、図3は、図2の真空ポンプ1をその前側(同図中の右側)から見た図である。ただし、図3は、シリンダ室Sの構成を示すべく、ポンプカバー24,サイドプレート26等の部材を取り外した状態を図示している。なお、以下では、説明の便宜上、図2および図3の上部にそれぞれ矢印で示す方向が、真空ポンプ1の上下前後左右を示すものとして説明する。また、前後方向については軸方向、左右方向については幅方向ともいう。
【0015】
図2に示すように、真空ポンプ1は電動モータ(駆動機)10と、この電動モータ10を駆動源として作動するポンプ本体20とを備えており、これら電動モータ10及びポンプ本体20が一体に連結された状態で自動車等の車体に固定支持されている。
【0016】
電動モータ10は、略円筒形状に形成されたケース11の一方の端部(前端)の略中心からポンプ本体20側(前側)に向かって延びる出力軸(回転軸)12を有している。出力軸12は、ポンプ本体20を駆動する駆動軸として機能するものであり、前後方向に延びる回転中心X1を基準として回転する。出力軸12の先端部12Aはスプライン軸に形成されており、ポンプ本体20のロータ27の軸方向に貫通する軸孔27Aの一部に形成されたスプライン溝27Dと係合し、出力軸12とロータ27とが一体に回転可能に連結される。
電動モータ10は、電源(図示略)の投入により、出力軸12が、図3中の矢印R方向(反時計回り)に回転し、これによりロータ27を、回転中心X1を中心として同方向(矢印R方向)に回転させるようになっている。
【0017】
ケース11は、有底円筒形状に形成されたケース本体60と、このケース本体60の開口を塞ぐカバー体61とを備え、ケース本体60は、その周縁部60Aが外方に折り曲げて形成されている。カバー体61は、ケース本体60の開口と略同径に形成された円板部(壁面)61Aと、この円板部61Aの周縁に連なり、ケース本体60の内周面に嵌まる円筒部61Bと、この円筒部61Bの周縁を外方に折り曲げて形成した屈曲部61Cとを備えて一体に形成され、円板部61A及び円筒部61Bがケース本体60内に進入し、屈曲部61Cが、ケース本体60の周縁部60Aに当接して固定されている。これにより、電動モータ10には、ケース11の一方の端部(前端)が内側に窪み、ポンプ本体20がインロー嵌合により取り付けられる嵌合穴部63が形成される。
また、円板部61Aの略中央には、出力軸12が貫通する貫通孔61Dと、この貫通孔61Dの周囲にケース本体60の内側に延びる円環状のベアリング保持部61Eとが形成され、このベアリング保持部61Eの内周面61Fに、上記出力軸12の前方側を軸支するベアリング62の外輪が保持される。
【0018】
ポンプ本体20は、図2に示すように、電動モータ10のケース11の前側に形成された嵌合穴部63に嵌合されるケーシング本体22と、このケーシング本体22内に配置されてシリンダ室Sを形成するシリンダライナ23と、当該ケーシング本体22を前側から覆うポンプカバー24とを備えている。本実施形態ではケーシング本体22、シリンダライナ23及びポンプカバー24を備えて、真空ポンプ1のケーシング31を構成している。
【0019】
ケーシング本体22は、例えば、アルミニウム等の熱伝導性の高い金属材料を用いて、図3に示すように、前側から見た形状が上記した回転中心X1を略中心とした上下方向に長い略矩形に形成されている。ケーシング本体22の上部には、このケーシング本体22に設けられたシリンダ室S内に連通する連通孔22Aが形成され、この連通孔22Aには吸込ニップル30が圧入されている。この吸込ニップル30は、図2に示すように、上向きに延びる直管であり、当該吸込ニップル30の一端30Aには、外部機器(例えば、真空タンク7(図1参照))から負圧空気を供給するための管またはチューブが接続される。
【0020】
ケーシング本体22には、前後方向に延びる軸心X2を基準とした孔部22Bが形成され、この孔部22Bに円筒状に形成されたシリンダライナ23が圧入されている。なお、シリンダライナ23をケーシング本体22の孔部22Bに圧入することに替えて、シリンダライナ23を鋳込んだ状態でケーシング本体22を鋳造する構成としても良い。軸心X2は、上述の電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に対して平行で、かつ、図3に示すように、回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心している。本構成では、回転中心X1を中心とするロータ27の外周面27Bが、軸心X2を基準に形成されているシリンダライナ23の内周面23Aに接するように軸心X2が偏心されている。
【0021】
シリンダライナ23は、ロータ27と同一の金属材料(本実施形態では、鉄)で形成されており、このシリンダライナ23の内周面23Aには、例えば、無電解ニッケルめっき処理等が施され、内周面23Aの硬度が高められている。
本実施形態では、ケーシング本体22に形成された孔部22Bにシリンダライナ23を圧入する(もしくは鋳込む)ことにより、ケーシング本体22の前後方向の長さ範囲内でシリンダライナ23を収容することができるため、このシリンダライナ23がケーシング本体22から突出することが防止され、ケーシング本体22の小型化を図ることができる。
更に、ケーシング本体22はロータ27よりも熱伝導性の高い材料で形成されている。これによれば、ロータ27及びベーン28が回転駆動した際に発生した熱がケーシング本体22に速やかに伝達できることにより、ケーシング本体22から十分に放熱することができる。
【0022】
シリンダライナ23には、上記したケーシング本体22の連通孔22Aとシリンダ室S内とを繋ぐ開口23Bが形成されており、吸込ニップル30を通じた空気は、連通孔22A,開口23Bを通じてシリンダ室S内に供給される。また、ケーシング本体22及びシリンダライナ23の下部には、これらケーシング本体22及びシリンダライナ23を貫通し、シリンダ室Sで圧縮された空気が排出される排気孔22C,23Cが設けられている。シリンダライナ23に設けられた排気孔23Cについては後述する。
【0023】
シリンダライナ23の後端および前端には、それぞれシリンダ室Sの開口を塞ぐサイドプレート25,26が配設されている。これらサイドプレート25,26は、その直径がシリンダライナ23の内周面23Aの内径よりも大きく設定されており、ウェーブワッシャー25A,26Aにより付勢されて、シリンダライナ23の前端及び後端にそれぞれ押し付けられている。これにより、シリンダライナ23の内側は、吸込ニップル30に連なる開口23B及び排気孔23C,22Cを除いて、密閉されたシリンダ室Sが形成される。なお、ウェーブワッシャー25A,26Aの替わりにシールリングを設ける構成としても良い。
【0024】
シリンダ室Sには、ロータ27が配設されている。ロータ27は、電動モータ10の回転中心X1に沿って延びる円柱形状を有し、ポンプ本体20の駆動軸である出力軸12が挿通される軸孔27Aを有すると共に、この軸孔27Aから径方向に離れた位置に、複数のガイド溝27Cが軸孔27Aを中心とする等角度間隔で周方向に間隔を空けて設けられる。上記軸孔27Aの一部には、出力軸12の先端部12Aに設けられたスプライン軸に係合するスプライン溝27Dが形成され、ロータ27と出力軸12とがスプライン連結されるようになっている。
本実施形態では、ロータ27の前端面には、軸孔27Aの周囲に当該軸孔27Aよりも拡径した円柱状の凹部27Fが形成され、この凹部27F内に延出する出力軸12の先端にプッシュナット70が取り付けられ、このプッシュナット70により、ロータ27が出力軸12の先端側へ移動することが規制される。
【0025】
ロータ27の前後方向の長さは、シリンダライナ23のシリンダ室Sの長さ、すなわち、上述の2枚にサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しく設定され、ロータ27とサイドプレート25,26との間は略閉塞されている。
また、ロータ27の外径は、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bが、シリンダライナ23の内周面23Aのうちの右斜め下方に位置する部分と微小なクリアランスを保つように設定されている。これにより、サイドプレート25,26により区画されたシリンダ室S内は、図3に示すように、ロータ27の外周面27Bと、シリンダライナ23の内周面23Aとの間には、三日月形状の空間が構成される。
【0026】
ロータ27には、三日月形状の空間を区画する複数(本例では5枚)のベーン28が設けられている。ベーン28は、板状に形成されていて、その前後方向の長さは、ロータ27と同様、2枚のサイドプレート25,26の相互に対向する内面間の距離と略等しくなるように設定されている。これらベーン28は、ロータ27に設けられたガイド溝27Cから出没自在に配設されている。各ベーン28は、ロータ27の回転に伴い、遠心力によってガイド溝27Cに沿って外側へ突出し、その先端をシリンダライナ23の内周面23Aに当接させる。これにより、上述の三日月形状の空間は、相互に隣接する2枚のベーン28,28と、ロータ27の外周面27Bと、シリンダライナ23の内周面23Aとによって囲まれる5つの圧縮室Pに区画される。これら圧縮室Pは、出力軸12の回転に伴うロータ27の矢印R方向の回転に伴い、同方向に回転し、その容積が、開口23B近傍で大きく、一方、排気孔23Cで小さくなる。つまり、ロータ27,ベーン28の回転により、開口23Bから1つの圧縮室Pに吸入された空気は、ロータ27の回転に伴って回転しつつ圧縮されて、排気孔23Cから吐出される。本構成では、ロータ27及び複数のベーン28を備えて回転圧縮要素を構成する。
【0027】
ポンプカバー24は、前側のサイドプレート26にウェーブワッシャー26Aを介して配置され、ケーシング本体22にボルト66で固定されている。ケーシング本体22の前面には、図3に示すように、シリンダライナ23、後述する膨張室33及び排気経路40を囲んでシール溝22Dが形成され、このシール溝22Dには環状のシール材67(図2)が配置されている。ポンプカバー24には、膨張室33に対応する位置に排気口24Aが設けてある。この排気口24Aは、膨張室33に流入した空気を機外(真空ポンプ1の外部)に排出するためのものであり、この排気口24Aは、機外からポンプ内への空気の逆流を防止するためのチェックバルブ29が取り付けられている。
【0028】
上記したように、真空ポンプ1は、電動モータ10とポンプ本体20とを連結して構成されており、電動モータ10の出力軸12に連結されたロータ27及びベーン28がポンプ本体20のシリンダライナ23内で摺動する。このため、ポンプ本体20を電動モータ10の出力軸12の回転中心X1に合わせて組み付けることが重要である。
このため、本実施形態では、電動モータ10は、ケース11の一端側に出力軸12の回転中心X1を中心とした嵌合穴部63が形成されている。一方、ケーシング本体22の背面には、図2に示すように、シリンダ室Sの周囲に後方へ突出した円筒状の嵌合部22Fが一体に形成されている。この嵌合部22Fは、電動モータ10の出力軸12の回転中心X1と同心に形成されており、電動モータ10の嵌合穴部63にインロー嵌合する外径に形成されている。これにより、本構成では、電動モータ10の嵌合穴部63にケーシング本体22の嵌合部22Fを嵌め込むだけで、簡単に中心位置を合わせることができ、電動モータ10とポンプ本体20との組み付け作業を容易に行うことができる。また、ケーシング本体22の背面には、嵌合部22Fの周囲にシール溝22Eが形成され、このシール溝22Eには環状のシール材35が配置されている。
【0029】
ところで、ベーン型の真空ポンプ1では、ロータ27及びベーン28がシリンダ室S内を回転することにより空気を圧縮しているため、シリンダ室Sの排気孔23C、22Cから圧縮空気が間欠的に吐出される。このため、シリンダ室Sの排気孔23C、22Cでは、一定の基本周波数で圧力脈動が生じることにより、この圧力脈動に起因して、騒音及び振動が発生することがある。
この騒音及び振動を抑制するために、ケーシング本体22には、シリンダ室Sの排気孔23C、22Cに連通する排気経路40と、この排気経路40に通じて導入された圧縮空気を膨張させる膨張室33とが形成されている。
本実施形態では、シリンダライナ23は、図3に示すように、このシリンダライナ23の軸心X2が回転中心X1に対して左側斜め上方に偏心してケーシング本体22に形成されている。このため、ケーシング本体22内には、シリンダライナ23が偏心したのと反対の方向に大きなスペースを確保することができ、このスペースにはシリンダライナ23の周縁部に沿って上記した排気経路40と膨張室33とが形成されている。これによれば、ケーシング本体22に排気経路40と膨張室33とを一体に形成することができるため、当該排気経路40と膨張室33をケーシング本体22の外部に設ける必要がなく、ケーシング本体22の小型化を図ることができ、ひいては真空ポンプ1の小型化を図ることができる。
【0030】
膨張室33は、排気経路40を通じて流入した圧縮空気を膨張、分散させる空間であり、膨張室33に流入した圧縮空気は、膨張、分散した後に当該膨張室33の内壁にぶつかって乱反射することにより、圧縮空気の音エネルギが減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減が図られる。本実施形態では、膨張室33は、シリンダライナ23の下方から出力軸12の上方に至るまで、当該シリンダライナ23の周縁部に沿った大きな閉空間として形成され、ポンプカバー24に形成された排気口24Aに連通している。この排気口24Aは、排気経路40及び膨張室33における空気の流れ方向(矢印M方向)に対して、排出空気の流れを略垂直に変化させるよう設けられており、空気の流れの向きを変化させることにより、音エネルギを減少させることもできる。
【0031】
排気経路40は、膨張室33よりも経路断面積が小さく形成された空間であり、この排気経路40に流入する圧縮空気を積極的に当該排気経路40の内壁にぶつけて音エネルギの減衰を図るものである。本実施形態では、ケーシング本体22は、シリンダ室Sの外側に設けられた隔壁41を備え、この隔壁41により区画された空間として排気経路40が形成される。
具体的には、隔壁41はシリンダ室Sと略同心の円弧状に形成され、隔壁41の一端41Aは排気孔22Cを超えた位置で孔部22Bに連結されている。また、隔壁41の他端41Bは、排気経路40としての空間を閉塞しない位置まで延びている。
これにより、排気経路40は、この隔壁41とシリンダ室Sとの間に形成されて排気孔22Cからの圧縮空気が流入する内側経路40Aと、当該隔壁41の外側に形成されて上記した膨張室33に接続される外側経路40Bとを備え、この内側経路40Aと外側経路40Bとは、隔壁41の他端41B側で連結されて折り返し部40Cを形成する。従って、シリンダ室Sから排気孔22C、23Cを通じて排出された圧縮空気は、矢印Mに示すように、内側経路40Aを流れた後に折り返し部40Cで反転して外側経路40Bを流れ、膨張室33に流入される。
この構成では、排気経路40は、隔壁41により形成される折り返し部40Cを備えるため、排気経路40の経路長を長く形成することができ、当該排気経路40を流れる圧縮空気は、経路長の長い排気経路40を流れる際に、当該排気経路40の壁面にぶつかって乱反射することにより、当該圧縮空気の音エネルギを減衰させることができる。この場合、排気経路40の経路断面形状を軸方向に延ばした横長形状として、排気経路40の壁面の表面積をできるだけ大きくすると、この壁面に空気がぶつかる機会が増えて消音効果が増大する。
更に、排気経路40で減衰された圧縮空気は、その後、膨張室33に流入し、この膨張室33内で更に膨張、分散してより一層減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態では、排気経路40は、内側経路40Aの入口部と外側経路40Bの出口部とにそれぞれ消音部材44A,44Bを備える。これら消音部材44A,44Bは、例えば、銅やステンレス等の金属粒子を焼結させて略矩形に形成した多孔質部材であり、各内側経路40A、外側経路40Bの側壁に設けた溝部45,46にそれぞれ挿し込まれて固定されている。
この構成によれば、排気経路40を流れる圧縮空気は、各消音部材44A,44Bの微小空間を通過する際に整流されるとともに、当該圧縮空気の音エネルギが消音部材に吸収されるため、排気経路40から膨張室33に流入する圧縮空気の音エネルギを減衰することができ、排気する際の騒音及び振動を一層低減することができる。この場合、一方の消音部材44Aを排気孔22Cの近くに、他方の消音部材44Bを膨張室33の近くに配置するとより大きな消音効果を奏する。
【0033】
図4は、シリンダライナ23に形成された排気孔23Cを示す図2の部分拡大図である。上述のように、排気する際に発生する騒音及び振動は、ロータ27及びベーン28の回転に伴い、シリンダ室Sの排気孔23C、22Cから圧縮空気の脈動に起因していることが分かっている。
出願人は、この圧力脈動を低減しようと、排気孔23Cの形状を種々変化させて騒音値を計測したところ、図4に示すように、排気孔23Cは、シリンダ室Sの内側の孔径d1が外側の孔径d2よりも大きく、この孔径d1からd2に縮径するテーパ面23C1を有するテーパ孔に形成すると騒音が抑制されることがわかった。
具体的には、排気孔23Cのシリンダ室Sの内側の孔径d1は、ケーシング本体22の排気孔22Cの孔径d3と略同一(本実施形態では直径10.5mm)に設定されている。また、外側の孔径d2は、上記した孔径d1の70%程度の大きさが望ましく、本実施形態では、直径7mmに設定されている。また、テーパ面23C1の角度αは120°に設定されている。
この構成では、シリンダライナ23に形成される排気孔23Cは、シリンダ室Sの内側の孔径d1が外側の孔径d2よりも大きく、内側から外側に向けて縮径するテーパ面23C1を有するテーパ孔としたことにより、排気孔23Cからの排気抵抗を極端に高めることなく、シリンダ室Sからの排気量を絞ることができるため、シリンダ室から排出される圧縮空気の脈動を抑制することができ、この脈動に伴う排気時の騒音及び振動を低減することができる。
【0034】
次に、上記した構成により騒音値の低減効果について説明する。
図5は、各構成に対応する騒音値を記載したものである。この騒音値は、真空ポンプ1の周囲に複数(例えば10箇所)の測定用のマイクを配置し、この状態で真空ポンプ1を作動させた際の騒音値をマイク毎に測定し、これら測定値の平均値を算出したものである。
この図5によれば、膨張室33のみを設けた構成の騒音値(71.7dB)に対して、排気経路40を設けることにより騒音値(63.4dB)が8.3dB(約12%)低減した。また、排気経路40に消音部材44A,44Bを配置することにより騒音値(59.7dB)が更に3.7dB(約6%)低減し、この構成に排気孔23Cをテーパ孔とした構成を加えると、騒音値(58.6dB)が更に1.1dB(約1.9%)低減する結果となった。
このように、各種の工夫を施すことにより、騒音値の低減された真空ポンプ1を実現することができ、この真空ポンプ1を車両に搭載した場合に、真空ポンプ1の騒音による不快感を抑制することができる。
【0035】
以上、本実施形態によれば、ケーシング本体22は、ロータ27やベーン28が摺動するシリンダ室Sと、このシリンダ室Sから排出された圧縮空気を膨張させる膨張室33と、シリンダ室Sと膨張室33とを接続する排気経路40とを備え、この排気経路40に少なくとも一の折り返し部40Cを設けたため、この折り返し部40Cにより折り返される分、排気経路40の経路長を長く形成することができる。このため、シリンダ室Sから排出された圧縮空気は、経路長の長い排気経路40を流れる際に、当該排気経路40の壁面にぶつかって乱反射することにより、当該圧縮空気の音エネルギを減衰させることができる。更に、排気経路40で減衰された圧縮空気は、膨張室33に流入し、この膨張室33内で更に膨張、分散してより一層減衰されるため、排気する際の騒音及び振動の低減を図ることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、排気経路40及び膨張室33は、ケーシング本体22におけるシリンダ室Sの周縁部に並設されているため、このケーシング本体22に排気経路40、膨張室33及びシリンダ室Sを一体に形成することができ、真空ポンプ1の大型化を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、排気経路40に多孔質材料で形成された消音部材44A,44Bを配置したため、排気経路40を流れる圧縮空気が消音部材44A,44Bを通過する際に整流されるとともに、当該圧縮空気の音エネルギが消音部材44A,44Bに吸収されるため、排気する際の騒音及び振動を一層低減することができる。
【0038】
また、本実施形態によれば、ケーシング本体22、シリンダ室Sを形成するシリンダライナ23を備え、このシリンダライナ23は排気経路40に繋がる排気孔23Cを備え、この排気孔23Cは、シリンダ室Sの内側の孔径d1が外側の孔径d2よりも大きく、内側から外側に向けて縮径するテーパ面23C1と有するテーパ孔に形成されているため、シリンダ室Sから排出される圧縮空気の脈動を抑制することができ、この脈動に伴う排気時の騒音及び振動を低減することができる。
【0039】
次に、別の実施形態について説明する。
図6は、別の実施形態にかかる真空ポンプの側部部分断面図である。
この実施形態にかかる真空ポンプ80は、ロータ27を回転する出力軸12の先端部を支持するパイロットベアリングを備える点で上記した実施形態と構成が異なる。同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態では、出力軸12は、先端部12Aにパイロットベアリング81が取り付けられる軸受取付部12A1を一体に備え、この軸受取付部12A1は、前側のサイドプレート26の貫通孔26B、ポンプカバー84の軸受保持孔84Aを貫通してポンプ本体20の外側に延出している。ポンプカバー84の内面には、軸受保持孔84Aが形成され、この軸受保持孔84Aにパイロットベアリング81が保持されている。この構成では、内面にパイロットベアリング81を保持できる程度の深さの軸受保持孔84Aが形成されるため、ポンプカバー84の板厚が厚く形成されている。
この構成によれば、出力軸12の先端部がパイロットベアリング81により支持されるため、当該出力軸12の振れが抑制されることにより、ロータ27及びベーン28をシリンダ室S内で安定して回転させることができる。従って、ロータ27及びベーン28の作動音の低減を図ることができる。
【0040】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。例えば、本実施形態では、排気経路40は、1つの折り返し部40Cを備える構成としているが、設置できるのであれば、2つ以上の折り返し部を設けても良い。また、本実施形態では、排気経路40に2つの消音部材44A,44Bを配置して構成を説明したが、この消音部材は1つでも3つ以上でも構わない。また、消音部材として金属粒子を焼結させた焼結金属性のものを例示したが、温度条件が整えば、焼結樹脂で形成された消音部材を配置することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1、80 真空ポンプ
10 電動モータ
11 ケース
12 出力軸(回転軸)
20 ポンプ本体
22 ケーシング本体
22A 連通孔
22B 孔部
22C 排気孔
23 シリンダライナ
23C 排気孔
23C1 テーパ面
24、84 ポンプカバー
27 ロータ(回転圧縮要素)
28 ベーン(回転圧縮要素)
31 ケーシング
33 膨張室
40 排気経路
40A 内側経路
40B 外側経路
40C 折り返し部
41 隔壁
41A 一端
41B 他端
44A,44B 消音部材
81 パイロットベアリング
84A 軸受保持孔
S シリンダ室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に回転圧縮要素を備えた真空ポンプにおいて、
前記ケーシングは、前記回転圧縮要素を摺動させるシリンダ室と、このシリンダ室から排出された圧縮空気を膨張させる膨張室と、前記シリンダ室と前記膨張室とを接続する排気経路とを備え、この排気経路に少なくとも一の折り返し部を設けたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記排気経路及び前記膨張室は、前記ケーシングにおける前記シリンダ室の周縁部に並設されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記排気経路に多孔質材料で形成された消音部材を配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ケーシングは、前記シリンダ室を形成するシリンダライナを備え、このシリンダライナは前記排気経路に繋がる排気孔を備え、この排気孔は、前記シリンダ室の内側が外側よりも径が大きく、内側から外側に向けて縮径するテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記回転圧縮要素を駆動する回転軸を備え、この回転軸の先端部を前記ケーシングに設けた軸受けで支持したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167589(P2012−167589A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28480(P2011−28480)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(510063502)ナブテスコオートモーティブ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】