説明

真空制御システムおよび真空制御方法

【課題】真空容器の内部におけるガスの流れを制御する技術を提供する。
【解決手段】ガス供給部からプロセスガスの供給を受けてプロセス対象にプロセスを実行する真空容器500におけるプロセスガスの真空圧力と流れとを真空ポンプを使用して制御する真空制御システム10を提供する。真空制御システム10は、真空容器500において相互に相違する位置に配置された複数のガス排出口561,562の各々と真空ポンプ300との間に接続されている各真空制御バルブ100,200と、プロセス対象に供給されるプロセスガスの真空圧力を計測する圧力計測部631と、計測された真空圧力に応じて複数の真空制御バルブ561,562の各々の開度を操作する制御装置610と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造プロセスに使用される真空容器内の流体の挙動を真空制御バルブで制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスには、たとえば化学気相成長(CVD)のように真空の真空容器710(図20、図21参照)の内部にプロセス対象のウェハWを配置し、ウェハWのプロセス面Wsをプロセスガス(本明細書では、単にガスとも呼ばれる。)に暴露させる工程がある。プロセスガスは、薄膜構成元素を含んでおり、プロセス面Ws上で反応して膜物質が形成される。
【0003】
均一な膜形成のためには、ウェハWに対してプロセスガスのより安定した均一な供給が求められることになる。一方、従来のCVD工程では、図20、図21に示されるような構成によってプロセスガスを供給しつつ真空ポンプによる排気が行われる。この排気制御では、振り子720を移動させて開閉量を操作する振り子式バルブを使用して排気系のコンダクタンスを操作することによって一般に行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−117444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような方法では、コンダクタンスの調整のために振り子720の位置が移動すると、振り子720の移動に伴って開口部の中心が移動することになる。このような開口部の中心移動は、真空容器710の内部におけるガスの流れFL1,FL2に偏りを生じさせ、たとえばガスの供給が滞るよどみ領域の発生といったガス供給の不均一の原因となっていた。さらに、ガスの供給の不均一は、ウェハWの一方からガスを供給するとともに他方からガスを排気するような構成では、ウェハWの排気側の近傍における薄膜構成元素の濃度低下として発生していた。このようなガスの供給の偏りは、プロセス面Wsでの膜圧にも偏りが生じさせ、上述のような製品の高精度化や高密度化の進展に伴って影響が顕在化していた。
【0006】
本発明は、上述の従来の課題の少なくとも一部を解決するために創作されたものであり、真空容器の内部におけるガスの流れを制御する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
手段1は、ガス供給部からプロセスガスの供給を受けてプロセス対象にプロセスを実行する真空容器におけるプロセスガスの真空圧力と流れとを真空ポンプを使用して制御する真空制御システムである。本真空制御システムは、前記真空容器において相互に相違する位置に配置された複数のガス排出口の各々と前記真空ポンプとの間に接続されている各真空制御バルブと、前記プロセス対象に供給されるプロセスガスの真空圧力を計測する圧力計測部と、前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作する制御装置と、を備える。
【0008】
手段1では、真空容器において相互に相違する位置に配置された各排出部からの排出量を操作して、真空容器内のプロセスガスの真空圧力と流れの方向を制御することができる。これにより、半導体プロセスの条件設定として、プロセスガスの圧力や流量だけでなく、第3の操作パラメータとしてプロセスガスの流れの方向の操作が可能となるので、プロセスガスの流れの方向という新たな自由度を得ることができる。
【0009】
なお、真空ポンプは、複数の真空制御バルブから共通の真空ポンプに接続されていても良いし、複数の真空制御バルブの各々に対して一つずつ装備されていても良い。また、プロセスガスの流れの制御は、意図的に方向を操作するように実装しても良いし、以下のようにプロセス対象面上において、プロセスガスの供給部から各排気部に向かって均一なプロセスガスの流れを実現するように実装しても良い。
【0010】
手段2は、手段1において、前記複数のガス排出口は、前記真空容器の内部において前記プロセスが実行されるプロセス反応領域を相互に挟む位置に配置されている。前記圧力計測部は、前記プロセス反応領域の真空圧力を計測する。こうすれば、プロセス反応領域における真空圧力を制御しつつ、各ガス排出口の調整による真空容器内のガスの流れのベクトルの操作量を大きくすることができる。さらに、均一な排気流量とすれば、プロセス対象面上における均一なプロセスガスの流れを簡易に実現することができる。
【0011】
「プロセス反応領域を相互に挟む位置」とは、プロセスの対象となる平面と平行な平面内に配置される必要は無く上下方向にシフトして配置されていてもよい。さらに、ガス排出口の数が奇数の場合には、プロセスガスの供給部を中心とした環状の位置において等間隔あるいは不均一な間隔で配置されている位置も「プロセス反応領域を相互に挟む位置」に含まれる。
【0012】
手段3は、手段2において、前記制御装置は、前記プロセス反応領域から前記各ガス排出口までのコンダクタンスの相違と、前記真空ポンプと前記真空制御バルブを含む各排気系の個体差と、の少なくとも一方を補償し、前記複数の真空制御バルブの排気流量が相互に近づくように制御する。
【0013】
手段3によれば、前記プロセス反応領域から各排気部までのコンダクタンスの相違や各排気系に個体差があっても、プロセス対象面上においてプロセスガスの供給部から各排気部に向かって均一なプロセスガスの流れを実現することができる。さらに、コンダクタンスによる設計制限を緩和して、真空容器の内部の設計自由度を高めることもできる。
【0014】
手段4は、手段2において、前記制御装置は、前記プロセス反応領域から前記各ガス排出口までのコンダクタンスの相違と、前記真空ポンプと前記真空制御バルブを含む各排気系の個体差と、の少なくとも一方を補償し、前記複数の真空制御バルブの前記プロセス反応領域における実効排気速度が相互に近づくように制御する。
【0015】
手段4によれば、実測可能なガスの供給量とプロセスガスの真空圧力とに基づいて直接的に算出することが可能な実効排気速度を利用してガスの真空圧力と流れを簡易に制御することができる。
【0016】
手段5は、手段3または手段4において、前記制御装置は、前記相違と前記個体差の少なくとも一方を補償するオフセット値を格納するオフセット値格納部と、前記オフセット値格納部から読み出されたオフセット値を使用して、前記複数の真空制御バルブの開度を制御するための目標値を設定する目標値設定部と、を有する。こうすれば、複数の真空制御バルブの開度の制御を簡易に実現することができる。
【0017】
手段6は、手段5において、前記複数の真空制御バルブは、ガスの流れを遮断する遮断機能を有する。前記制御装置は、前記複数の真空制御バルブの各々の特性データに基づいて前記オフセット値を生成し、前記生成されたオフセット値を前記オフセット値格納部に格納する機能を有する。前記特性データは、前記複数の真空制御バルブのうちの一つを作動させ、前記複数の真空制御バルブのうちの他のバルブを遮断した状態で取得された前記目標値を設定するためのデータである。
【0018】
手段6によれば、複数の真空制御バルブの特性データを個別に取得することができるので、ガスの流れの線形性を利用して簡易な実装が可能である。目標値を設定するためのデータは、広い意味を有し、必ずしも目標値自体を表すデータに限られず、たとえば真空制御バルブの開度を表すデータ(開度の計測値)であってもよい。
【0019】
手段7は、手段5または手段6において、前記制御装置は、前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作するための共通の指令値である共通開度指令値を出力する共通の主制御部と、前記共通開度指令値に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を制御するために前記真空制御バルブ毎に設けられている複数の従属制御部と、を備える。前記各従属制御部は、前記各真空制御バルブの開度の実測値を取得し、前記各実測値と前記共通開度指令値と前記オフセット値とに応じて前記各真空制御バルブの開度を制御する。
【0020】
手段7によれば、各真空制御バルブの開度の実測値に基づいて制御されるので、制御入力と開度の間の関係の線形性を確保することができる。本構成は、この線形性を利用することにより、オフセット値によって各真空制御バルブの開度範囲が相互にシフトしても主制御部による共通の制御則で制御することができる。換言すれば、本構成は、開度の実測によって開度と制御入力の線形性を確保することによって、開度範囲が相互にシフトしても真空制御バルブの特性変化の抑制を実現しているのである。
【0021】
手段8は、手段1乃至7のいずれか一つの真空制御システムにおいて、前記複数の真空制御バルブは、作動流体によって弁開度を操作して前記真空容器内の真空圧力を制御する真空制御バルブであり、前記真空容器と前記真空ポンプとを接続する流路と、前記流路に形成されている弁座とを有する制御バルブ本体と、前記弁座との距離であるリフト量の調節による前記弁開度の操作と、前記弁座への当接による前記流路の遮断とを行う弁体と、ピストンと、前記弁体と前記ピストンとを結合するロッドと、を有する動作部と、前記制御バルブ本体に接続され、前記ピストンを収容するシリンダと、前記リフト量が小さくなる方向に前記動作部を付勢する付勢部と、前記ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との間の隙間を、前記ピストンの動作に追従しつつ密閉するベロフラムと、を備える。前記動作部及び前記シリンダは、前記ベロフラムによって密閉され、前記ロッドを囲む筒状の形状を有する空間であって、前記作動流体の作用圧力に応じて前記ピストンに対して前記リフト量を大きくする方向に荷重を発生させる弁開度操作室と、前記弁開度操作室と中心軸線を共有し、前記作動流体の供給に応じて前記動作部に対して前記リフト量を小さくする方向に荷重を発生させる遮断荷重発生室と、を備える。
【0022】
手段8では、ピストンの動作に追従しつつ密閉する膜状弾性体でピストンの外周面とシリンダの内周面との間の隙間を密閉する真空制御バルブで制御が行われる。このような構成の真空制御バルブは、低ヒステリシス特性を有しているので、真空制御システムの制御性能を顕著に向上させることができる。
【0023】
手段9は、手段8において、前記シリンダは、前記遮断荷重発生室に収容されている摺動凸部を有するヘッドカバーを備える。前記真空制御バルブは、前記遮断荷重発生室と前記摺動凸部との間を封止する封止面を有し、前記遮断荷重発生室への前記作動流体の供給に応じて前記封止面の面圧が高められる封止部を備える。
【0024】
手段9の真空制御バルブは、遮断荷重発生室への作動流体の供給に応じて封止面の面圧が高められる封止部が遮断荷重発生室に使用されている。これにより、弁開度の操作時、すなわち非遮断時においては、遮断荷重発生室の封止面の面圧を抑制して低摩擦の摺動で動かすことができる。この結果、たとえばベロフラムをしなくても、簡易な構成で低ヒステリシスでの弁開度の操作を実現することができる。
【0025】
手段10は、手段9において、前記摺動凸部は、前記弁開度操作室と中心軸線を共有し、前記弁開度操作室の内径よりも小さな外径の円筒状の形状を有し、前記動作部は、前記摺動凸部の内周面に囲まれた空間において前記動作の方向に延びるガイド部を有し、前記真空制御バルブは、前記ガイド部と前記摺動凸部との間に配置され、前記動作の方向の摺動を可能とし、前記ガイド部と前記摺動凸部の前記動作の方向と垂直な方向の位置関係を相互に拘束する軸受を備える。
【0026】
手段10の真空制御バルブには、円筒状の摺動凸部の内周面に囲まれた空間において動作の方向に延びるガイド部が動作部に備えられているので、ベロフラムの摺動面よりも軸受に近い位置に摺動凸部の摺動面が配置されることになる。これにより、ベロフラムよりも精度要求が厳しい、遮断荷重発生室と摺動凸部との間の摺動面の隙間の精度を簡易に向上させることができる。
【0027】
手段11は、手段8乃至10のいずれか一つにおいて、前記遮断荷重発生室は、前記ロッドの内部に形成されている。
【0028】
手段12は、手段8乃至11のいずれか一つにおいて、前記制御装置は、前記真空容器内の真空圧力を計測する圧力センサと、作動流体を供給するための作動流体供給部と、前記作動流体を排気するための作動流体排気部とに接続され、前記真空制御バルブに前記作動流体を供給する空気圧回路と、前記空気圧回路から前記真空制御バルブに供給される作動流体を操作して、前記真空容器内の真空圧力を制御する制御部と、を備える。
【0029】
手段13は、手段12において、前記制御装置は、前記真空ポンプの停止を表す情報を含む真空ポンプ停止信号の受信に応じて前記弁開度操作室と前記作動流体排気部との間の流路を接続するとともに、前記遮断荷重発生室と前記作動流体供給部との間の流路を接続する。
【0030】
手段13の真空制御システムでは、真空ポンプ停止信号の受信に応じて遮断荷重が印加される作動モードとなるので、真空ポンプの不測の停止によって真空ポンプ側の圧力が上昇しても遮断状態を確保することができるという利点を有している。なお、「真空ポンプ停止信号の受信」は、たとえば真空ポンプの作動状態を表す真空ポンプ側の内部接点の状態確認や真空ポンプの正常信号の不達といったものも含む広い意味を有している。
【0031】
手段14は、手段12又は13において、前記空気圧回路は、非通電状態で前記弁開度操作室と前記作動流体排気部との間の流路を接続する第1の電磁弁と、非通電状態で前記遮断荷重発生室と前記作動流体供給部との間の流路を接続する第2の電磁弁と、を有する。
【0032】
手段14の真空制御システムでは、非通電状態で前記弁開度操作室と前記作動流体排気部との間の流路を接続する第1の電磁弁と、非通電状態で前記遮断荷重発生室と前記作動流体供給部との間の流路を接続する第2の電磁弁とを有するので、電源オフや停電時においては必ず緊急遮断状態となる。これにより、緊急停止や停電時の安全確保を考慮したシステム設計を簡易に実現することができる。
【0033】
手段15は、ガス供給部からプロセスガスの供給を受けてプロセス対象にプロセスを実行する真空容器におけるプロセスガスの真空圧力と流れとを真空ポンプを使用して制御する真空制御方法である。この真空制御方法は、前記真空容器において相互に相違する位置に配置された複数のガス排出口の各々と前記真空ポンプとの間に接続されている各真空制御バルブを準備する工程と、前記プロセス対象に供給されるプロセスガスの真空圧力を計測する圧力計測工程と、前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作する制御工程と、を備える。
【0034】
なお、半導体の製造装置に限られず、半導体の製造方法にも適用することができ、さらに、真空容器内にガスを流すプロセス装置に利用することができる。
【発明の効果】
【0035】
第1手段によれば、プロセスガスの圧力や流量だけでなく、第3の操作パラメータとしてプロセスガスの方向の操作が可能となるので、半導体プロセスの条件設定に流れの方向という新たな自由度を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の真空制御システム10の構成を示す断面図。
【図2】真空制御システム10の平面図。
【図3】真空制御システム10の制御ブロック図。
【図4】真空制御システム10の制御系の作動内容を示すフローチャート。
【図5】オフセット弁開度指令値取得処理の内容を示すフローチャート。
【図6】真空制御バルブ100が単体で作動する様子を示す説明図。
【図7】有効排気速度の算出に使用される計算式を示す説明図。
【図8】変形例の真空制御システム10aの構成を示す断面図。
【図9】第2実施形態における非通電時(バルブ全閉)の真空制御バルブ30の構成を示す断面図。
【図10】非通電時の真空制御バルブ30が有するロッドカバー81の構成を示す拡大断面図。
【図11】バルブ全開時の真空制御バルブ30の構成を示す断面図。
【図12】真空制御バルブ30の真空圧力の制御時の作動状態を示す断面図。
【図13】パッキン70と内周面63との間の摩擦面を示す拡大断面図。
【図14】パッキン70の装着状態を示して封止原理を説明する模式図。
【図15】遮断荷重発生室39の非加圧時の状態を示して封止原理を説明する模式図。
【図16】遮断荷重発生室39への加圧時を示して封止原理を説明する模式図。
【図17】実施形態の真空制御システム20の構成を示す模式図。
【図18】実施形態の空気圧回路22の構成と作動内容とを示す模式図。
【図19】実施形態の真空制御システム20の制御ブロック図。
【図20】従来技術の真空容器710の内部におけるガスの流れを示す説明図。
【図21】従来技術の真空容器710の内部におけるガスの流れを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を具現化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
(A.第1実施形態の真空制御システムの構成)
図1は、第1実施形態の真空制御システム10の構成を示す断面図である。図2は、第1実施形態の真空制御システム10の平面図である。真空制御システム10は、化学気相成長(CVD)工程を実行する真空容器500に供給されるガスの流れを制御する。真空制御システム10は、2個の真空制御バルブ100,200と、1個のターボ分子ポンプ300と、を備えている。真空制御バルブ100は、真空容器500のガス排出口561とターボ分子ポンプ300との間に接続されている。真空制御バルブ200は、真空容器500のガス排出口562とターボ分子ポンプ300との間に接続されている。本実施例では、2個の真空制御バルブ100,200は同一の構成を有している。ターボ分子ポンプ300には、ドライポンプ(図示省略)が直列に接続されている。
【0039】
真空容器500は、プロセス対象であるウェハWを支持するウェハ台520と、ウェハWのプロセス面Wsに対してガスを分散して供給するガス分散部510と、真空制御バルブ100,200を保護するための遮蔽板530と、圧力計測部631と、を備えている。プロセス面Wsは、本第1実施形態では、ウェハ台520によって水平面、すなわち重力の方向に対して垂直な面に対して平行となるように支持されている。ガス分散部510には、真空容器500の外部からガスを供給するためのガス供給パイプ512と支持構造(図示省略)が接続されている。
【0040】
ガス分散部510は、プロセス面Wsに対して平行な対向面511を有する。対向面511は、プロセス面Wsに対してほぼ垂直な方向からガス流FLを供給する。遮蔽板530は、ガス排出口561、562の各々を覆う円盤状の形状を有している。圧力計測部631は、本第1実施形態では、水平面内においてプロセス中心Wcの近傍の圧力を検知する圧力検知部632を有している。本明細書では、「水平面内において」とは、水平面に投影された状態においてという意味である。プロセス中心Wcは、プロセスが実行される領域において予め設定された位置である。プロセスが実行される領域は、「プロセス反応領域」とも呼ばれる。プロセス反応領域においては、圧力損失がほとんど発生しないので、圧力検知部632は、プロセス反応領域の何処に配置してもよい。
【0041】
真空容器500の筐体は、図1、図2から分るように、ガス分散部510を格納するドーム形状を有するドーム部551と、2個のガス排出配管571,572と、架台554を介してウェハ台520が固定されている下部筐体553と、を備えている。ドーム部551は、水平面内においてプロセス中心Wcの近傍にガス供給口Gcを有している。
【0042】
2個のガス排出配管571,572は、図2から分るように、水平面内においてプロセス反応領域を相互に挟む位置に装備されている。2個のガス排出配管571,572には、それぞれ真空制御バルブ100,200の各々が接続されている。2個の真空制御バルブ100,200も、水平面内においてプロセス反応領域を相互に挟む位置で反対向きに接続されている。
【0043】
真空容器500のガスの流れは以下のとおりである。ガスは、図1に示されるように、ガス供給口Gcから真空容器500に供給される。ガス供給口Gcから供給されたガスは、前述のように、ガス分散部510の対向面511からプロセス面Wsに対してほぼ垂直な方向からガス流FLとして供給される。プロセス面Wsに供給されたガスは、プロセス面WsでCVD処理を実行しつつ、遮蔽板530を迂回してガス排出口561,562に吸い込まれる。ガス排出口561,562に吸い込まれたガスは、2個の真空制御バルブ100,200を介してターボ分子ポンプ300から排出される。ターボ分子ポンプ300は、入口301の近傍において有効排気速度Soa,Sob(m^3/sec)を発生させている。有効排気速度Soaは、ガス排出口561を経由する流路に対する分担分である。有効排気速度Sobは、ガス排出口562を経由する流路に対する分担分である。2つの有効排気速度Soa,Sobは第1実施形態では、相互に一致する。
【0044】
真空制御バルブ100は、真空容器500のガス排出口561と接続された上流側流路141と、ターボ分子ポンプ300に接続された下流側流路142と、上流側流路141と下流側流路142との間を開閉するポペット弁体110と、ポペット弁体110を閉側に付勢する付勢バネ133と、圧搾空気の力でポペット弁体110を開側に動かすシリンダ室135と、シリンダ室135に圧搾空気を誘導する空気流路134と、空気流路134に供給する圧搾空気を操作する電空制御弁131と、電空制御弁131に圧搾空気を供給するための空気ポート132と、電空制御弁131から圧搾空気を排出する排気ポート137(図2参照)と、を備えている。
【0045】
下流側流路142には、流路内部の圧力P2aを計測する検知面146を有する圧力センサ145が備えられている。真空制御バルブ200にも、同様に流路内部の圧力P2bを計測する検知面246を有する圧力センサ245が備えられている。ポペット弁体110は、弾性シール部材112を有し、付勢バネ133によって弁座143に押し付けられることによって上流側流路141と下流側流路142との間を遮断することができる。
【0046】
真空制御バルブ100のコンダクタンス操作は、ポペット弁体110のリフト量を操作することによって行われる。リフト量とは、本明細書では、ポペット弁体110と弁座143との間の距離Laを意味する。真空制御バルブ100のコンダクタンスは、リフト量Laを調整することによって上流側流路141と下流側流路142との間のコンダクタンスとして操作することができる。真空制御バルブ200は、真空制御バルブ100と同一の構成を有し、同様の方法でコンダクタンスを操作することができる。下流側流路142の内部圧力は、このようなコンダクタンスの操作によって変動する。この内部圧力P2aは、下流側流路142の内部に検知面146を有する圧力センサ145によって計測され、コントローラ610に送られる。真空制御バルブ200においても同様に内部圧力P2bが計測され、コントローラ610に送られる。
【0047】
(B.第1実施形態の真空制御系の構成と作動内容)
図3は、第1実施形態の真空制御システム10の制御ブロック図である。この制御系は、真空制御バルブ100のポペット弁体110のリフト量を制御する第1スレーブループと、真空制御バルブ200のポペット弁体210のリフト量を制御する第2スレーブループと、真空容器500の内部圧力を制御するマスターループとを有する二重ループ構造のカスケード制御として構成されている。スレーブループとマスターループの各制御ループは、たとえば周知のPID制御系として構成することができる。スレーブループとマスターループは、それぞれ主制御部と従属制御部とも呼ばれる。
【0048】
第1スレーブループは、電空制御部130の電空制御弁131(図1参照)がシリンダ室135の圧力を操作して、ポペット弁体110の位置を目標値に近づけることを目的とする制御ループである。電空制御弁131は、シリンダ室135の内部圧力を操作し、付勢バネ133の付勢力とのバランスによってリフト量を操作することができる。目標値は、コントローラ610によってポペット弁体110のリフト量を表す基準弁開度指令値pv1として電空制御弁131に与えられる。ポペット弁体110のリフト量は、弁体位置センサ138によって計測され、電空制御弁131にフィードバックされる。基準弁開度指令値pv1は、共通開度指令値とも呼ばれる。
【0049】
第1スレーブループは、フィードバック量と基準弁開度指令値pv1の偏差δ1を小さくするようにポペット弁体110のリフト量を操作する。これにより、第1スレーブループは、ポペット弁体110のリフト量をコントローラ610から与えられた基準弁開度指令値pv1に近づけるように制御することができる。リフト量の操作は、オリフィス径を操作することと物理的に等価である。
【0050】
なお、リフト量の代わりにシリンダ室135の内部圧力を計測してフィードバック量として利用してもよい。ただし、リフト量をフィードバックすれば、マスターループからの指令値(制御入力)とリフト量(開度)の非線形性に起因する精度の低下を抑制することができる。この精度の低下は、オフセット値によって各真空制御バルブの開度範囲が相互にシフトすることによって発生する。本構成は、開度の実測によって開度と制御入力の線形性を確保することによって、開度範囲が相互にシフトしても真空制御バルブの特性変化の抑制を実現しているのである。
【0051】
第2スレーブループは、目標値が基準弁開度指令値pv1でなく弁開度指令値pv2である点で、第1スレーブループと相違し、他の構成を共通とする。弁開度指令値pv2は、基準弁開度指令値pv1に対してオフセット弁開度指令値pvaを加算することによって生成される指令値である。オフセット弁開度指令値pvaは、補正値データ格納部620から読み出された値が利用される。オフセット弁開度指令値pvaは、制御系全体が定常状態で安定しているときの有効排気速度Sa,Sb(m^3/sec)が相互に一致するように設定された補正値である。補正値データ格納部620は、オフセット値格納部とも呼ばれる。
【0052】
有効排気速度Sa1(図3参照)は、プロセス中心Wcからガス排出口561(図1参照)を経由するターボ分子ポンプ300の入口301までの流路と、ターボ分子ポンプ300とを一体とみなし、プロセス中心Wcをターボ分子ポンプ300の入口として取り扱ったときの排気速度を意味する。プロセス中心Wcは、圧力計測部631による圧力計測位置である。有効排気速度Sa1は、プロセス中心Wcからターボ分子ポンプ300の入口301までのコンダクタンスによる低減を考慮された排気速度であって、プロセス中心Wcにおける有効な排気速度としての意味を有している。一方、有効排気速度Sb1(図3参照)は、プロセス中心Wcからガス排出口562(図1参照)を経由するターボ分子ポンプ300の入口301までのコンダクタンスによる低減が考慮された排気速度であって、プロセス中心Wcにおける有効な排気速度としての物理的意味を有している。
【0053】
有効排気速度Sa1,Sb1(m^3/sec)が相互に一致するということは、コンダクタンスの操作によって、ターボ分子ポンプ300がプロセス中心Wcにおいて同一の有効排気速度を発生させていることになる。一方、プロセス中心Wcでは、ガス排出口561を経由するルートとガス排出口562を経由するルートが同一の圧力を共有することになるので、同一の排気流量(Pa・m^3/sec)が実現されることになる。これにより、プロセス反応領域を相互に挟む位置に配置された2個のガス排出口561、562から同一の排気流量でガスが排出されることになる。
【0054】
マスターループは、コントローラ610が2個の真空制御バルブ100,200のコンダクタンスを操作して、真空容器500のプロセス中心Wcの近傍の圧力を圧力目標値P1tに近づけることを目的とする制御ループである。圧力目標値P1tは、プロセスに適した値として予め設定された固定圧力値である。弁開度指令値pv2は、基準弁開度指令値pv1に対して固定のオフセット弁開度指令値pvaの加算によって補正された値なので、弁開度指令値pv2と基準弁開度指令値pv1とは、一体として変動することになる。これにより、2個の真空制御バルブ100,200は、オフセットしたリフト量を中心位置として一体に動くことになるので、単一の真空制御バルブによる制御に対してもほとんど即応性を損なうことが無く簡易に制御則を組むことができるという利点を有している。
【0055】
図4は、第1実施形態の真空制御システム10の制御系の作動内容を示すフローチャートである。ステップS100では、ユーザは、オフセット弁開度指令値取得処理を実行する。オフセット弁開度指令値取得処理は、2個の真空制御バルブ100,200の各々を個別に作動させて特性データを取得し、オフセット弁開度指令値pvaを取得する処理である。オフセット弁開度指令値取得処理の内容の詳細は後述する。
【0056】
ステップS200では、ユーザは、圧力目標値入力処理を行う。圧力目標値入力処理とは、予め設定された固定目標値である圧力目標値P1tをコントローラ610に入力する処理である。圧力目標値P1tは、真空容器500で実行させるプロセスに適した値として決定される。
【0057】
ステップS300では、コントローラ610は、基準弁開度指令値決定処理を実行する。基準弁開度指令値決定処理とは、真空容器500の内部の計測圧力と圧力目標値P1tの偏差δmに応じて基準弁開度指令値pv1を逐次算出する処理である。基準弁開度指令値pv1は、予めコントローラ610に格納されている制御則に基づいて決定される。基準弁開度指令値pv1は、真空制御バルブ100を制御する第1スレーブループの目標値として利用される。
【0058】
ステップS400では、オフセット弁開度指令値加算処理が実行される。オフセット弁開度指令値加算処理とは、補正値データ格納部620から読み出されたオフセット弁開度指令値pvaが基準弁開度指令値pv1に対して加算される処理である。この加算処理によって、弁開度指令値pv2が生成される。弁開度指令値pv2は、真空制御バルブ200を制御する第2スレーブループの目標値として利用される。このように、2個の真空制御バルブ100,200は、相互にオフセットした目標値である基準弁開度指令値pv1と、弁開度指令値pv2とを目標値として一体的に制御される。
【0059】
ステップS500では、リフト量操作処理が実行される。リフト量操作処理は、2つのポペット弁体110、210の各々が基準弁開度指令値pv1と、弁開度指令値pv2とに応じて操作される処理である。これにより、実質的に真空制御バルブ100,200のオリフィス径が操作され、真空制御バルブ100,200のコンダクタンスが操作されることになる。
【0060】
ステップS600では、真空容器内圧力計測処理が実行される。真空容器内圧力計測処理とは、圧力計測部631によって真空容器500の内部圧力が計測される処理である。計測位置は、真空容器500の中のプロセス中心Wcの近傍である。これにより、プロセス中心Wcの近傍の圧力が圧力目標値P1tに近づくように制御されるとともに、真空制御バルブ100,200の双方から均等にガスが排出されることになる。
【0061】
このように、本第1実施形態は、オフセット弁開度指令値pvaを取得することができれば、単一の真空制御バルブによる制御に対してもほとんど即応性を損なうことが無く簡易に制御則を組むことができる。
【0062】
(C.第1実施形態におけるオフセット弁開度指令値の取得方法)
図5は、第1実施形態のオフセット弁開度指令値取得処理の内容を示すフローチャートである。ステップS110では、ユーザは、真空制御バルブ200を閉弁する。これにより、真空制御バルブ200の作動による影響を排除して、真空制御バルブ100による排気の特性データを取得することができる。
【0063】
図6は、第1実施形態の真空制御バルブ100が単体で作動する様子を示す説明図である。図6の例では、真空制御バルブ200が閉弁されているとともに、真空制御バルブ100が開弁状態となっているので、供給された全てのガスは、ガス排出口561を介して真空制御バルブ100に吸い込まれることになる。このように、真空制御バルブ100の特性データを取得することができる状態となっていることが分る。
【0064】
ステップS120では、ユーザは、目標値を設定する。目標値は、プロセス中心Wcの近傍の圧力目標値P1tと、ガス供給口Gcからのガス供給量(Q/2)とである。圧力目標値P1tは、想定されるプロセスに適した真空圧力として設定される。ガス供給量(Q/2)は、想定されるプロセスに適した流量Qのうち、真空制御バルブ100とターボ分子ポンプ300とが分担する流量として半分に設定される。
【0065】
ステップS130では、ユーザは、真空制御バルブ100による真空制御を実行させる。この真空制御の準備として、ユーザは、ターボ分子ポンプ300に直列に接続されたドライルポンプ(図示せず)によって真空引きを行って、真空容器500の内部圧力を分子領域まで低下させる。次に、ターボ分子ポンプ300を起動して安定運転状態とする。
【0066】
真空容器500の内部圧力が圧力目標値P1tの近傍に達したら、ユーザは、流量Q/2でガスの供給を開始するとともに、真空制御バルブ100による真空制御を起動させる。この制御は、図3の制御系において、マスターループと第1スレーブループとが機能し、第2スレーブループが停止した状態におけるカスケード制御として作動することになる。ガスは、本第1実施形態のガス供給制御では、ガス供給量(Q/2)が設定値とされ、その設定値で安定して供給されることになる。
【0067】
コントローラ610は、図8に示されるように、真空制御バルブ100に基準弁開度指令値pv1を送信し、真空圧力P1を圧力目標値P1tに近づける制御を実行する。コントローラ610は、ターボ分子ポンプ300の入口圧力P2aと、リフト量Laと、を真空制御バルブ100から取得する。入口圧力P2aは、下流側流路142の圧力として検知面146を有する圧力センサ145で計測され、コントローラ610に送信される。リフト量Laは、弁体位置センサ138から電空制御弁131を介してコントローラ610に送信される。
【0068】
ステップS140では、コントローラ610は、予め設定された安定条件を満たしたことを検知し、その検知に応じてリフト量Laを補正値データ格納部620に格納する。安定条件は、たとえばマスターループの偏差δmと第1スレーブループの偏差δ1の双方が一定時間だけ予め設定された閾値よりも小さいこととしてもよい。コントローラ610は、さらに、真空制御バルブ100の有効排気速度Sa1を算出し、補正値データ格納部620に格納する。
【0069】
図7は、有効排気速度Sa1の算出に使用される計算式を示す説明図である。有効排気速度Sa1は以下のようにして算出される。第1に、コントローラ610は、計算式F2(図7参照)を用いてプロセス中心Wcの近傍からターボ分子ポンプ300の入り口までのコンダクタンスCを算出する。第2に、コントローラ610は、計算式F4を用いてコンダクタンスCと、ターボ分子ポンプ300の排気速度Sa2とから有効排気速度Sa1を算出する。ここで、コンダクタンスCは、プロセス中心Wcの近傍で圧力計測部631によって計測される計測圧力P1mと、圧力センサ122によって計測されるターボ分子ポンプ300の入口圧力P2aの計測値とから算出することができる。一方、ターボ分子ポンプ300の排気速度Sa2は、連続の式F5によって算出することができる。このようにして、コントローラ610は、真空制御バルブ100の有効排気速度Sa1の算出し、算出結果を補正値データ格納部620に格納する。
【0070】
計算式F1〜F4は、真空理論に基づくものであって以下のように決定されている。計算式F2は、計算式F1を数学的に変形して導き出されたものである。計算式F1は、コンダクタンスの定義式に対して、ガス供給量(Q/2)と、ターボ分子ポンプ300の入口圧力P2aの計測値と、プロセス中心Wcの近傍の真空圧力P1(計測値)と、を代入したものである。計算式F4は、計算式F3を数学的に変形して導き出されたものである。計算式F3は、排気速度と、コンダクタンスと、有効排気速度Sa1との関係を表す理論式である。一方、計算式F5は、ガスの流れを圧縮性流体の一次元流れとして取り扱い、質量流量が一定であることを利用して決定されたものである。
【0071】
なお、第1実施形態では、発明概念を分りやすく説明するために、ターボ分子ポンプ300の入口圧力P2aの計測値からコンダクタンスCを算出している。しかしながら、第1実施形態の真空容器500では、プロセス中心Wcの近傍で圧力計測部631によって計測される計測圧力P1mが圧力目標値P1tに一致したときのリフト量Laを取得すれば十分である。これにより、プロセスに適した流量(分担分=Q/2)において、適切な圧力P1tを実現するバルブリフト量Laが取得できたことになるからである。換言すれば、ガス供給量(Q/2)において、プロセス中心Wcの近傍における適切な有効排気速度Sa1を実現するバルブリフト量Laが取得できたことになるからである(P1×Sa1=Q/2)。このように、コンダクタンスCの算出は必ずしも必要ない。
【0072】
ステップS150では、ユーザは、真空制御バルブ100による制御を停止して閉弁する。真空制御バルブ100の閉弁は、ガス供給を停止してから実行する。ターボ分子ポンプ300の停止は、ターボ分子ポンプ300の破損を防止するために、真空制御バルブ100の閉弁後に実行する。
【0073】
ステップS160では、ユーザは、真空制御バルブ200の目標値を設定する。設定目標値は、真空制御バルブ200の目標値と同一である。すなわち、目標値は、プロセス中心Wcの近傍の圧力目標値P1tと、ガス供給口Gcからのガス供給量(Q/2:真空制御バルブ200の分担分)とである。
【0074】
ステップS170では、ユーザは、真空制御バルブ200による真空制御を実行させる。真空制御の方法は、真空制御バルブ100による真空制御(ステップS130)と同一である。ステップS180では、コントローラ610は、予め設定された安定条件を満たしたことを検知し、その検知に応じてリフト量Lbを補正値データ格納部620に格納する。リフト量Lbの取得方法は、リフト量Laの取得方法と同一である。
【0075】
これにより、各分担流量(Q/2)において、プロセス中心Wcの圧力目標値P1tに一致したときの真空制御バルブ100のリフト量Laとこの時の指令値Caと、真空制御バルブ200のリフト量Lbとこの時の指令値Cbと、がそれぞれ取得できたことになる。リフト量Laは、分担流量(Q/2)において、プロセス中心Wcの圧力を圧力目標値P1tとするための真空制御バルブ100のリフト量である。リフト量Lbは、分担流量(Q/2)において、プロセス中心Wcの圧力を圧力目標値P1tとするための真空制御バルブ200のリフト量である。
【0076】
したがって、双方の真空制御バルブ100、200による真空制御を機能させれば、ガス供給量Qにおいて、双方に同一の分担流量(Q/2)で排気されることになる。この真空制御は、真空制御バルブ100、200の各々のコンダクタンス操作によって、ガス排出口561を経由するルートとガス排出口562を経由するルートによってプロセス中心Wcにおいて発生させている有効排気速度Sa1,Sb1(m^3/sec)を相互に一致させる制御として把握することもできる。オフセット弁開度指令値pvaは、指令値Caと指令値Cbの差として算出することができる。
【0077】
このように、第1実施形態の真空制御システム10は、半自動的にオフセット弁開度指令値pvaを算出し、補正値データ格納部620に格納することができる。これにより、第1実施形態の制御系を機能させることができる。この結果、プロセス面Wsにおけるガスの流れが真空制御系における真空制御バルブの作動に影響を抑制して、プロセス面Wsの近傍で均一な流れを実現させることができる。
【0078】
第1実施形態では、特に2個の真空制御バルブ100,200が一体として動き、バルブの開口部の中心も重力方向に対して同様に動くので、バルブの開口部の中心移動に起因するガスの流れの偏りも効果的に抑制されることになる。
【0079】
なお、上述の実施形態では、真空制御バルブ100側において、圧力センサ145(図6参照)で下流側流路において流路内部の圧力を計測する構成としているが、図8に示される変形例のようにガス排出口561、562の各々で圧力を計測する構成としてもよい。この変形例では、ガス排出口561の内部に圧力検知面582aを有する圧力センサ581aでガス排出口561の圧力を計測している。なお、真空制御バルブ200側においては、同様に流路内部の圧力P2bを計測する検知面582bを有する圧力センサ581bが備えられている。このような構成においても、計算式F1〜F5を使用して上述の実施形態と同様の取り扱いが可能だからである。
【0080】
このように、圧力の計測位置は、ガス排出口561とターボ分子ポンプの入口301の間のいずれかの位置と、ガス排出口562とターボ分子ポンプの入口301の間のいずれかの位置と、に装備されていればよい。ただし、上述の実施例のように真空制御バルブ100、200の下流で圧力P2a,P2bを計測すれば、バルブリフト量に対して鋭敏に圧力P2a,P2bが変動するので、高い精度でオフセット弁開度指令値を取得することができるという利点がある。
【0081】
(D.第2実施形態の真空制御システム20の構成)
第2実施形態の真空制御システム20は、低ヒステリシス特性を有する複数の真空制御バルブ30を使用している点で第1実施形態の真空制御システム10と相違する。真空制御バルブ30は、低ヒステリシス特性を有するので、高応答性且つ精密なコンダクタンス操作を可能とし、これにより反応ガスの流れのベクトル操作性を顕著に向上させることができる。
【0082】
なお、以下の説明では、単一の真空制御バルブ30と、単一の真空制御バルブ30を操作するシステムが説明されているが、本発明への適用に当たっては第1実施形態の真空制御バルブ100,200の各々に置き換えられることになる。
【0083】
図9は、非通電時(バルブ全閉)の真空制御バルブ30の構成を示す断面図である。図10は、非通電時の真空制御バルブ30が有するロッドカバー81の構成を示す拡大断面図である。図11は、バルブ全開時の真空制御バルブ30の構成を示す断面図である。真空制御バルブ30は、制御バルブ本体43と、シリンダチューブ31と、動作部材32とを備えている。制御バルブ本体43は、動作部材32の移動方向(軸線方向)に延びる円筒状の形状を有している。制御バルブ本体43には、軸線方向においてシリンダチューブ31側に開口する略円柱状の凹部である弁箱45が形成されている。弁箱45の開口部は、動作部材32が摺動可能に貫通している貫通孔82を有するロッドカバー81によって塞がれている。
【0084】
動作部材32は、弁箱45において真空制御バルブ30の弁開度を操作する弁体33と、貫通孔82を貫通するロッド32rと、ロッド32rの端部に接続されているピストン51とを備えている。弁体33は、ロッド32rに接続されており、動作部材32を軸方向に移動させてリフト量Laを変化させることができる。リフト量Laは、本実施形態では、弁開度に相当する。動作部材32は、動作部に相当する。
【0085】
弁体33は、制御バルブ本体43に形成されている弁座42に当接することによって流路を遮断する機能を有している。流路の遮断は、弁箱45の内部において弁体33を弁座42に当接させて二次側ポート44を弁箱45から隔離することによって行われる。遮断時の封止は、弁体33からその一部が突出したOリング75を弁座42に当接させて潰すことによって実現されている。弁座42は、たとえば弁体33に対して軸線方向に対向する環状の領域であって、二次側ポート44との接続口の周囲に形成されている表面粗さが小さな領域である。Oリング75は、弁座42に対して軸線方向に対向する位置に環状の形状を有している。
【0086】
ピストン51は、シリンダチューブ31の内周面53に向かって半径方向に延びる環状の形状を有し、シリンダチューブ31の内周面53において密閉された弁開度操作室36(図11参照)を形成している。ピストン51の外周端部には、軸線方向において弁開度操作室36の反対側に延びる円筒状の形状を有する筒状部材51vが接続されている。ピストン51には、弁開度操作室36を密封するベロフラム34が接続されている。
【0087】
弁開度操作室36は、ベロフラム34と、ロッドカバー81と、ロッド32rと、ピストン51(ベロフラムリテーナ52)と、によって囲まれている容積が可変のドーナツ状の密閉空間として形成されている。ベロフラム34は、その内周側の端部がピストン51とベロフラムリテーナ52の間において螺子54で締結されている。一方、ベロフラム34は、その外周側の端部34aがシリンダチューブ31とロッドカバー81との間で挟まれている。これにより、ベロフラム34とロッドカバー81との間と、ベロフラム34とシリンダチューブ31との間と、が密閉(封止)されている。弁開度操作室36は、ベロフラム34によって内周面53によって形成されている内部空間を区画することによって形成されている。弁開度操作室36には、開弁用空気流路37と接続流路87とを介して操作エアを供給することができる。なお、操作エアの供給方法については後述する。操作エアは作動流体に相当する。
【0088】
ベロフラム34は、シルクハット型の形状を有し、長い行程(ストローク)で追従あるいは転動(折り返し部分の移動)することが可能な可堯性の空間区画部材である。ベロフラム34は、ピストン51の外周面51s(図11参照)とシリンダチューブ31の内周面53との間の隙間を、ピストン51の動作に追従しつつ密閉するベロフラムである。ベロフラム34は、転動型ダイアフラムとも呼ばれ、動作部材32と弁開度操作室36との間に摩擦の要因となる面接触を形成しないので、摺動抵抗が極めて小さく低ヒステリシス特性や微小圧力応答性、高い密封性といった固有の特性を有している。ベロフラム34は、円滑に転動が行えるように、リニアベアリング65によって外周面51sと内周面53との隙間を確保するように構成されている。リニアベアリング65の詳細については後述する。
【0089】
ベロフラム34は、真空制御バルブ30において最も直径の大きなシリンダチューブ31の内周面53とピストン51との間の摺動部を密封しているので、摩擦面を排除して顕著に動作部材32の摺動摩擦抵抗を小さくすることができる。これにより、電空制御弁26から開弁用空気流路37に供給される操作エアの圧力操作によって、低ヒステリシス特性において高い応答性でのリフト量Laの調節が実現される。なお、動作部材32は、電動モータを使用して移動させる構成としても良い。
【0090】
一方、図10に示すように、ロッド32rとロッドカバー81との間の封止は以下のように構成されている。ロッドカバー81の貫通孔82には、弁箱45の側に近い位置に装着凹部83が形成され、装着凹部83よりもシリンダチューブ31側に近い位置に装着溝84が形成されている。装着凹部83には、比較的に耐圧性が低く動摩擦抵抗の小さな第1段軽荷重シール76と第2段軽荷重シール77とが装備されている。装着溝84には、比較的に耐圧性の高いパッキン74が装備されている。一方、ロッドカバー81には、パッキン74と第1段軽荷重シール76との間で装着凹部83に連通し、外部に貫通するリーク検出用ポート85が形成されている。
【0091】
リーク検出用ポート85は、パッキン74における漏洩と、第1段軽荷重シール76及び第2段軽荷重シール77における漏洩とを検知することができる。パッキン74における漏洩は、操作エアの漏洩として検知することができる。第1段軽荷重シール76及び第2段軽荷重シール77における漏洩は、リーク検出用ポート85にヘリウムガスを注入する一方、ヘリウムリークディテクタ(図示省略)に接続されている弁箱45を真空状態とすることによって検出することができる。
【0092】
ピストン51は、付勢バネ55によって付勢されている。付勢バネ55は、動作部材32のピストン51に対して、リフト量Laと弁開度操作室36の容積とがいずれも小さくなる方向に付勢力を印加している。付勢バネ55は、シリンダチューブ31の内周面53と環状の形状を有するヘッドカバー61に囲まれた空間に収容されている。付勢バネ55の一方は、ピストン51に対して弁開度操作室36とは軸線方向に反対側(裏側)において当接している。付勢バネ55の他方は、ヘッドカバー61に当接している。
【0093】
ヘッドカバー61は、円筒状の形状を有する筒部61bと、筒部61bよりも小さな直径を有する円筒状の形状を有する摺動凸部61aとを有している。ヘッドカバー61は、摺動凸部61a及び筒部61bと中心軸線を共有している。摺動凸部61aと筒部61bの直径差は、行程制限面61eを形成している。行程制限面61eは、ピストン51に形成されている行程制限端部51eに当接することによってピストン51の上昇量を制限する当接面である。これにより、ピストン51の行程は、上昇方向(リフト量La増大方向)が行程制限面61eによって制限される一方、下降方向(リフト量La減少方向)が弁座42によって制限されていることになる。
【0094】
摺動凸部61aは、動作部材32の内部に形成されている遮断荷重発生室39に収容されている。遮断荷重発生室39は、動作部材32の動作方向に延びる中心線に対し、弁開度操作室36の内側に形成されている。これにより、遮断荷重発生室39は、動作部材32の動作方向において弁開度操作室36に対して重なる位置に装備されていることになる。この結果、遮断荷重発生室39の装備に起因する真空制御バルブ30の大型化(特に動作部材32の動作方向の大型化)を抑制することができる。さらに、ヘッドカバー61の摺動半径を小さくすることができるので、遮断荷重発生室39の装備に起因する摺動抵抗の発生を抑制することもできる。
【0095】
遮断荷重発生室39による遮断荷重の印加は、真空制御バルブ30の製造性を向上させることもできる。製造時における付勢バネ55のセット時荷重(弁閉時の荷重)を軽減して製造を容易とすることができるからである。すなわち、付勢バネ55は、従来技術では、遮断時(リフト量Laがゼロの場合)において要請された遮断荷重を発生させるようなバネ係数と初期荷重(プリロード)を発生させる初期たわみ量で装備することが要請される。
【0096】
これにより、真空制御バルブ30の口径の大型化に伴ってバネ係数と初期たわみ量の双方が過大となるので、真空制御バルブ30の大型化だけでなく、製造も困難となることが本発明者によって見出された。しかしながら、本構成では、ヘッドカバー61と遮断荷重発生室39とで遮断荷重を発生させることによって、付勢バネ55の初期荷重を軽減させることができるからである。
【0097】
リニアベアリング65は、ヘッドカバー61とガイドロッド56の間の半径方向(軸線方向に垂直な方向)の位置関係を拘束しつつ、小さな摩擦で軸線方向(動作部材32の移動方向)への相対的な往復動を可能とする軸受である。リニアベアリング65は、円筒状の形状を有する摺動凸部61aの内周面の内側の空間であって、ガイドロッド56の外周面の外側に配置されている。
【0098】
ガイドロッド56は、動作部材32に接続されているので、リニアベアリング65は、ピストン51と内周面53との間の位置関係(隙間)をも維持(拘束)することができる。これにより、ベロフラム34は、その折り返し部分を円滑に移動させることによってほとんど摩擦を生じさせることなく、シリンダチューブ31に対して動作部材32を移動させることができる。
【0099】
ガイドロッド56には、ヘッドカバー61に対するガイドロッド56の動作量を計測するための弁体位置センサ35が装備されている。ガイドロッド56には、弁体位置センサのプローブ35aが挿入される挿入管35bがアダプタ35cを介して接続されている。弁体位置センサ35は、挿入管35bへのプローブ35aの挿入長さに応じた電気信号を発生させることができる。ヘッドカバー61に対するガイドロッド56の動作量は、挿入長さの変動量として図ることができるので、その変動量に応じてリフト量Laを計測することができる。弁体位置センサ35には、たとえばリニアパルスコーダ(登録商標)などが利用可能である。
【0100】
ヘッドカバー61は、中心軸線を共有する2つの筒状の摺動面を有している。第1の摺動面は、摺動凸部61aの外周面61asと内周面63との間の摺動面である。第2の摺動面は、摺動凸部61aの内周面62asとガイドロッド56との間の摺動面である。第1の摺動面及び第2の摺動面のクリアランス(隙間)は、リニアベアリング65によって正確に維持している。
【0101】
リニアベアリング65は、前述のように摺動凸部61aとガイドロッド56との間に配置されているとともに、摺動凸部61aとリニアベアリング65との間の相互の位置関係も動作部材32の動作に関わらず維持されている。これにより、簡易に遮断荷重発生室39と摺動凸部61aとの間の隙間の精度を向上させることができる。一方、リニアベアリング65は、貫通孔82に装備されているパッキン74との位置関係についても動作部材32の動作に関わらず維持され、ベロフラム34で密閉されているピストン51と内周面53との間の摺動面よりも近傍に維持されている。これにより、摺動面の隙間の精度要求が厳しい摺動面がリニアベアリング65の近傍に配置されていることになるので、簡易に封止性能の向上と摺動抵抗の低減の両立を図ることができる。
【0102】
第1の摺動面において、外周面61asには、その外周の全周に渡って凹形状を有する装着溝78(図10参照)が形成され、その装着溝78にV字状のパッキン70bが装着されている。第2の摺動面において、内周面62asには、その内周に渡って凹形状を有する装着溝79が形成され、その装着溝79にV字状のパッキン70aが装着されている。V字状のパッキン70a,70bは、Vパッキンとも呼ばれる。
【0103】
次に、図12を参照して、真空制御バルブ30のリフト量Laを操作する方法について説明する。図12は、真空制御バルブ30の真空圧力の制御時の作動状態を示す断面図である。真空制御バルブ30は、前述のように、弁体33と弁座42との間の距離であるリフト量Laを弁開度として調節することによって一次側ポート41と二次側ポート44との間のコンダクタンスを操作することができる。リフト量Laは、弁座42に対して動作部材32の位置を相対的に移動させることによって調節される。コンダクタンスは、流路における流体の流れやすさを意味している。
【0104】
リフト量Laは、動作部材32への駆動力と、その駆動力に相反する付勢バネ55の付勢力とのバランスによって操作される。動作部材32への駆動力は、弁開度操作室36の内部の操作エアの圧力の作用によって生じる。リフト量Laの制御においては、動作部材32とシリンダチューブ31との間の相対的な移動に起因する摩擦力の低減が望まれる。摩擦力は、ヒステリシスの原因となって精密な制御を阻害する大きな要因となるからである。
【0105】
動作部材32は、図10に示すように、シリンダチューブ31との間に3箇所の摩擦面を有している。第1の摩擦面は、装着溝78に装着されているパッキン70bと、内周面63との間の摩擦面である。第2の摩擦面は、装着溝79に装着されているパッキン70aと、ガイドロッド56との間の摩擦面である。第3の摩擦面は、ロッドカバー81の貫通孔82に装着されているパッキン74とロッド32rの外周面との間の摩擦面である。
【0106】
第3の摩擦面は、主として弁開度操作室36の操作圧力を低減させることによって摺動抵抗が低減されている。弁開度操作室36の操作圧力の低減は、本実施形態では、上述のように付勢バネ55のセット時荷重(弁閉時の荷重)を小さくすることよって実現可能となっている。また、本発明者の実験によれば、ロッド32rの外周面の表面粗さRaを0.2程度とすることによって、摺動抵抗の低減と必要な真空リーク特性の両立が確保できることが確認されている。なお、第3の摩擦面は、ベローズで動作部材32を覆うことによって封止するように構成してもよい。
【0107】
図13は、第1の摩擦面、すなわち、装着溝78に装着されているパッキン70と、内周面63との間の摩擦面を示す拡大断面図である。パッキン70は、ヒール部71と二股に分かれている一対のリップ部72a、72bとを有するV字状のパッキンである。パッキン70bは、一対のリップ部72b側が遮断荷重発生室39に向けられており、遮断荷重発生室39からの圧力を受けて面圧が高くなるように構成されている。第2の摩擦面は、第1の摩擦面と同様に封止されている。
【0108】
摺動部の設計においては、摺動部のクリアランスS2と、装着溝78の深さS1とパッキン70bの一対のリップ部72a、72bの幅方向の大きさの差の関係と、が設計パラメータとなる。本実施形態では、弁体33が弁座42に当接して遮断荷重を発生させるときにのみ遮断荷重発生室39の気密性が要求されるので、後述するようにパッキン70bの潰し量を小さくすることができる。これにより、パッキン70bと内周面63との間の摩擦量を低減させてヒステリシスを低減させることができる。
【0109】
次に、図14乃至図16を参照して、パッキン70bによる封止メカニズムを詳細に説明する。図14は、パッキン70bの装着状態を示して封止原理を説明する模式図である。図15は、遮断荷重発生室39の非加圧時の状態を示して封止原理を説明する模式図である。図16は、遮断荷重発生室39への加圧時を示して封止原理を説明する模式図である。図14及び図16においては、パッキン70bの面圧分布Pd1、Pd2が示されている。真空制御バルブ30は、遮断荷重発生室39への加圧が遮断時にのみ行われるので、リフト量Laの制御が行われている状態では、遮断荷重発生室39への加圧が行われない。
【0110】
図15に示されるように、パッキン70bは、潰し量Qで弾性変形させられた状態で装着溝78に装着されている。非加圧時には、パッキン70bの接触面圧と面圧領域とは、面圧分布Pd1として示されるように極めて小さい。面圧分布Pd1は、一対のリップ部72a、72bの剛性と潰し量Qに起因して発生する面圧分布だからである。これにより、電空制御弁26による真空制御が行われている状態(遮断荷重発生室39の非加圧時)においては、遮断荷重発生室39とヘッドカバー61との間には、極めて小さな動摩擦が発生することになる。
【0111】
一方、図16に示されるように、遮断荷重発生室39は、遮断荷重の印加時には、面圧分布Pd2によって示されるように十分な封止性能を実現することができる。さらに、遮断荷重の印加においては、弁体33が弁座42に当接する遮断状態なので、遮断荷重発生室39とヘッドカバー61との間に相対的な移動は必要なく、制御状態でも無いので動摩擦の発生は何らの問題も生じさせいないことが分る。さらに、本発明者は、摺動時の漏れが許容可能なので、面圧分布Pd1をも低減させることが可能であることをも見出した。これにより、遮断荷重の発生機能を装備するために、遮断荷重発生室39と摺動凸部61aとを設けても、その摺動が新たにヒステリシスの原因とならない設計を実現することができることが見出された。
【0112】
次に、図17乃至19を参照して、真空制御バルブ30を使用する真空制御システム20について説明する。
【0113】
図17は、実施形態の真空制御システム20の構成を示す模式図である。真空制御システム20は、エッチングプロセスを実行するための真空容器90と、真空制御バルブ30と、コントローラ21と、空気圧回路22と、ターボ分子ポンプ300と、ターボ分子ポンプ300に直列に接続されている真空引き用のドライポンプと、を備えている。真空容器90には、一定の供給量で反応性ガスGが供給されつつ、真空制御バルブ30を介してターボ分子ポンプ300によって排気される。真空容器90の真空圧力は、真空制御バルブ30のコンダクタンスを操作することによって制御される。ターボ分子ポンプ300は、真空ポンプに相当する。
【0114】
真空容器90は、反応性ガスGが供給される反応ガス供給孔91と、排気孔93と、真空圧力センサ92と、を備えている。反応ガス供給孔91には、マスフローセンサ(図示省略)で計測された一定量の反応性ガスGが供給される。排気孔93には、真空制御バルブ30の一次側ポート41が接続されている。真空圧力センサ92は、真空容器90の内部の真空圧力を計測して電気信号をコントローラ21に送信する。真空圧力は、コントローラ21による真空制御バルブ30の操作に使用される。
【0115】
弁開度操作室36の内部圧力は、空気圧回路22から開弁用空気流路37を介して操作エアが供給あるいは排気されることによって操作される。空気圧回路22は、操作エアを供給するための高圧側の作動流体供給部95と、操作エアを排気するための低圧側の作動流体排気部96とに接続されている。
【0116】
遮断用荷重は、空気圧回路22から遮断用空気流路38に操作エアが供給されることによって、弁体33を弁座42まで移動させ、その移動後に弁体33を弁座42に押し付ける荷重として機能する。遮断用荷重は、付勢バネ55による付勢荷重との合力として作用する。
【0117】
遮断用荷重は、本実施形態では、たとえばコントローラ21がターボ分子ポンプ300から真空ポンプ停止信号を受信し、真空制御システム20を緊急停止させる際に印加される。以下では、緊急停止を含む各作動モードにおける作動内容について説明する。コントローラ21は、制御部に相当する。真空ポンプ停止信号は、たとえば真空ポンプ停止信号が停止した場合、あるいはターボ分子ポンプ300の回転数が異常に低下した場合に発信される信号である。
【0118】
次に、図18を参照して空気圧回路22と真空制御バルブ30の作動内容を説明する。図18は、実施形態の空気圧回路22の構成と作動内容とを示す模式図である。空気圧回路22は、コントローラ21からの指令に応じて操作エアを供給し、これにより真空制御バルブ30を操作する回路である。空気圧回路22は、電空制御弁26と、3個の電磁弁SV1,SV2,SV3とを備えている。電空制御弁26は、操作エアの高圧側に接続されている給気弁26aと、操作エアの排気側に接続されている排気弁26bとを有している。
【0119】
コントローラ21は、本実施形態では、2個のPID制御回路24a,24bを内蔵するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)として構成されている。プログラマブルロジックコントローラ21は、たとえばラダー・ロジックを使用して高い信頼性を有する制御を実現することができる論理回路である。2個のPID制御回路24a,24bは、詳細については後述するが、真空容器90の真空圧力のフィードバック制御に使用される。コントローラ21は、3個の電磁弁SV1,SV2,SV3の各々へのオンオフ指令と、電空制御弁26へのパルス幅変調信号と、を空気圧回路22に送信する。電磁弁SV2と電磁弁SV3とは、それぞれ第1の電磁弁と第2の電磁弁とも呼ばれる。
【0120】
電空制御弁26は、たとえば周知のパルス幅変調方式で給気弁26aと排気弁26bの開弁時間(デューティ)を操作することによって、外部から供給される圧縮空気の開弁用空気流路37への供給圧力を操作することができる。電空制御弁26は、給気弁26aの開弁時間(デューティ)を大きくし、排気弁26bの開弁時間を小さくすることによって弁開度操作室36で動作部材32に作用するエア圧力を高くすることができる。これにより、弁体33のリフト量Laを大きくすることが可能となる。
【0121】
一方、電空制御弁26は、給気弁26aの開弁時間(デューティ)を小さくし、排気弁26bの開弁時間を大きくすることによって弁開度操作室36で動作部材32に作用するエア圧力を低くすることができる、これにより、付勢バネ55からの荷重によって弁体33のリフト量Laを小さくすることができる。
【0122】
電磁弁SV1は、電磁弁SV2に接続される流路を、電空制御弁26と作動流体供給部95のいずれかに切り替える電磁弁であり、非通電時には、電空制御弁26に接続される。電磁弁SV2は、開弁用空気流路37に接続される流路を、電磁弁SV1と作動流体排気部96のいずれかに切り替える電磁で弁であり、非通電時には、作動流体排気部96に接続される。電磁弁SV3は、遮断用空気流路38に接続される流路を、作動流体供給部95と作動流体排気部96のいずれかに切り替える電磁で弁であり、非通電時には、作動流体供給部95に接続される。
【0123】
次に、表Tを参照して、空気圧回路22の各作動モードの内容を説明する。表Tは、各作動モードにおける3個の電磁弁SV1,SV2,SV3の通電状態を示す表である。表Tでは、オンとオフをそれぞれ「ON」と「OFF」で表記している。
【0124】
真空制御システム20の緊急停止時の作動モードでは、電空制御弁26及び3個の電磁弁SV1,SV2,SV3が全てオフとなる。緊急停止は、真空制御システム20のシステム設計で定義されるワーストケースとしての作動モードであって、たとえばコントローラ21がドライポンプ(図示省略)から真空ポンプ停止信号を受信した場合の作動モードである。ドライポンプは、ターボ分子ポンプ300に直列に接続され、真空引き使用されるポンプである。本作動モードでは、大気開放状態の二次側ポート44と、真空側の一次側ポート41との間には、大気圧の全てが差圧として印加されることになる。この差圧荷重は、弁体33に対してリフト量Laを増大させる方向に印加され、弁体33を弁座42から離して真空容器90に大気を逆流させる方向に働くことになる。本実施形態の緊急停止では、遮断荷重によって上述の差圧に対抗して逆流を防止することができる。
【0125】
このように、高圧側の作動流体供給部95が遮断用空気流路38に接続されるとともに、排気側の作動流体排気部96が開弁用空気流路37に接続されることになる。これにより、遮断荷重を印加する遮断荷重発生室39の空気圧が上昇し、開弁側(リフト量La増大)の荷重を印加する弁開度操作室36の室内が大気圧まで低下することになる。この結果、動作部材32に接続されている弁体33が弁座42の方向に急速に移動して、真空制御バルブ30を閉状態(遮断)とするとともに遮断荷重の印加を継続する。
【0126】
なお、電磁弁SV3は、非通電時には、遮断用空気流路38に接続される流路を作動流体排気部96に接続されるように構成しても良い。ただし、上述のように、非通電時において作動流体供給部95に接続されるように構成すれば、停電時において、空気圧回路22への電力供給が停止されるので、表Tの矢印に示されるように、緊急停止時と同一の作動内容の作動モードとすることができる。
【0127】
このように、真空制御システム20の停電あるいは緊急停止においては、いずれの作動モードにおいても、真空制御バルブ30を閉弁するとともに遮断荷重を印加することができる。この結果、本実施形態の真空制御システム20では、空気圧回路22への電力供給が停止された状態においては、付勢バネ55の付勢力と遮断荷重発生室39の加圧とによって弁体33が弁座42に移動し、遮断荷重が印加されるように空気回路が構成されていることになる。
【0128】
このような構成では、電源オフや停電時においても必ず遮断状態となることが確保されているので、緊急停止や停電時の安全確保を考慮したシステム設計を簡易に実現することができるという利点がある。さらに、本実施形態では、コントローラ21は、真空ポンプ停止信号の受信に応じて、緊急停止の作動モードとなるので、ターボ分子ポンプ300の不測の停止によって仮に二次側ポート44の圧力が上昇しても遮断状態を確保することができるという利点をも有している。
【0129】
次に、真空制御バルブ30を閉状態とする作動モードでは、2個の電磁弁SV1,SV2,SV3がオンとなる一方、電磁弁SV3がオフとなっている。この作動モードは、ターボ分子ポンプ300が正常な運転状態において、真空制御バルブ30を閉状態とする。この作動モードでは、正常な運転状態において真空制御バルブ30を閉状態するために適切な潰し量でOリング75を潰す程度の荷重が付勢バネ55によって印加されるように設定されている。これにより、Oリング75の耐久性を高めることができる。
【0130】
このように、本実施形態は、緊急時に対応するための遮断荷重を発生させる機構を備えているので、通常の運転に適した潰し量でOリング75を潰す程度に付勢バネ55の付勢力を設定することができるという設計自由度を提供することもできる。
【0131】
一方、真空制御バルブ30を開状態とする作動モードでは、3個の電磁弁SV1,SV2,SV3の全てがオンとなる。これにより、高圧側の作動流体供給部95は、オン状態の2個の電磁弁SV1,SV2を経由して開弁用空気流路37に流路が接続される。一方、排気側の作動流体排気部96は、オン状態の電磁弁SV3を経由して遮断用空気流路38に流路が接続される。一方、電空制御弁26は、オン状態の電磁弁SV1によって開弁用空気流路37から流路が切り離された状態となっている。これにより、電空制御弁26の作動状態に関わらず、真空制御バルブ30を急速に開状態(リフト量Laが最大の状態)とすることができる。
【0132】
最後に、真空制御バルブ30で真空圧力を制御する作動モードでは、電磁弁SV1がオフとなる一方、2個の電磁弁SV2,SV3がいずれもオンとなる。これにより、高圧側の作動流体供給部95は、電空制御弁26とオフ状態の電磁弁SV1とオン状態の電磁弁SV2とを順に経由して開弁用空気流路37に流路が接続される。一方、排気側の作動流体排気部96は、オン状態の電磁弁SV3を通過して、遮断用空気流路38に流路が接続される。これにより、電空制御弁26は、開弁用空気流路37から操作エアを供給して弁開度操作室36の内部圧力を操作し、リフト量Laを調節することができる。
【0133】
次に、図19を参照して真空制御システム20の制御内容を説明する。図19は、実施形態の真空制御システム20の制御ブロック図である。この制御系は、真空制御バルブ30の弁体33のリフト量Laを制御するスレーブループSLと、真空容器90の内部圧力を制御するマスターループMLとを有する二重ループ構造のカスケード制御として構成されている。スレーブループSLとマスターループMLの各制御ループは、たとえば周知のPID制御系として構成することができる。
【0134】
スレーブループSLは、電空制御弁26によって弁開度操作室36の内部圧力を操作して、弁体33のリフト量Laを弁開度指令値Vpに近づけることを目的とする制御ループである。スレーブループSLでは、PID制御回路24bは、弁開度指令値Vp(目標値)とリフト量La(計測値)の偏差δmに応じて制御信号を生成し、パルス幅変調信号を電空制御弁26に送信する。電空制御弁26は、パルス幅変調信号に応じて弁開度操作室36の内部圧力を操作して弁体33が装着されている動作部材32への駆動力を調節する。
【0135】
リフト量Laは、弁体位置センサ35によって計測され、PID制御回路24bによってフィードバック量として使用される。これにより、真空制御バルブ30は、リフト量Laをフィードバック制御することができる。これにより、真空容器90とターボ分子ポンプ300との間の流路のコンダクタンスを調節することができる。
【0136】
マスターループMLでは、PID制御回路24aは、予め設定された目標圧力値Ptと計測圧力値Pmとの偏差δpに応じて、弁開度指令値Vpを決定してPID制御回路24bに送信する。計測圧力値Pmは、真空圧力センサ92によって計測される真空容器90の内部の圧力である。PID制御回路24aは、計測圧力値Pmが目標圧力値Ptに近づくように弁開度指令値Vpを調節する。
【0137】
なお、リフト量Laのフィードバックループを削除し、偏差δpをゼロに近づけるように弁開度操作室36の内部圧力を操作する簡易なシングルループ制御として構成してもよい。ただし、リフト量Laをフィードバックする二重ループ構成とすれば、マスターループMLからの指令値(制御入力)とリフト量(開度)の非線形性に起因する精度の低下を抑制することができる。この精度の低下は、オフセット値によって各真空制御バルブの開度範囲が相互にシフトすることによって発生する。本構成は、開度の実測によって開度と制御入力の線形性を確保することによって、いずれの開度範囲においても真空制御バルブの特性がフラットとなるように構成されている。
【0138】
真空制御システム20は、さらに、動作部材32を介して弁体33に対して遮断用荷重を印加するオープンループALを有している。プログラマブルロジックコントローラ21は、2個の電磁弁SV2,SV3をいずれもオフ状態とすることによって、遮断荷重発生室39(図10参照)に空気圧を印加することによって遮断用荷重を発生させる。遮断用荷重の大きさは、電磁弁SV1のオンオフに関わらず、遮断荷重発生室39の内径やヘッドカバー61の外形を適切に設定することによって予め設定することができる。
【0139】
以上詳述した本実施形態は以下の利点を有する。
【0140】
第2本実施形態の真空制御バルブ30では、最も直径が大きな主シリンダの内周面と主ピストンの外周面との間がベロフラムによって封止されているので、摺動抵抗を低減させてヒステリシスを緩和させることができる。これにより、第2実施形態の真空制御バルブ30は、低ヒステリシスでの正確な作動と、その作動状態の正確な計測を簡易に実現することができるので、精密かつ高い応答性の真空制御を実現することができる。
【0141】
さらに、本実施形態の真空制御バルブ30では、作動流体の供給によって遮断荷重を発生させる遮断荷重発生室39が動作部に形成されているので、動作部材32の占有空間を有効利用して遮断荷重発生室39を装備することができる。さらに、動作部の内部に遮断荷重発生室を形成することによって、遮断荷重発生室39の直径を小さくする方向の設計自由度を提供することができる。これにより、遮断荷重発生室39の装備に起因する真空制御バルブの大型化を抑制するとともに、遮断荷重発生室39の摺動面積を小さくして遮断荷重発生室39の摩擦に起因するヒステリシスを低減させることができる。
【0142】
本実施形態の真空制御システム20では、全ての電磁弁への電力供給が停止された状態においては、直ちに弁体33が弁座42に移動し、遮断荷重が印加されるように空気回路が構成されている。これにより、緊急停止や停電時の安全確保を考慮したシステム設計を簡易に実現することができる。
【0143】
本実施形態の真空制御システム20では、全ての電磁弁への電力供給が停止された状態においては、直ちに弁体33が弁座42に移動し、遮断荷重が印加されるように空気回路が構成されている。これにより、緊急停止や停電時の安全確保を考慮したシステム設計を簡易に実現することができる。
【0144】
なお、第2実施形態では、遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61との間がパッキンで封止されているが、遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61との間をベロフラムで封止するように構成しても良い。ただし、遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61との間をパッキンで封止すれば、真空制御バルブの構成を簡易とすることができるとともに小型化を図ることもできる。
【0145】
また、第2実施形態では、遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61との間を封止する封止面には、V字状のパッキンが使用されているが、たとえばOリングでもよい。Oリングも遮断荷重発生室39への作動流体の供給に応じて接触面圧が高くなる性質を有しているからである。遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61との間の封止には、一般に、遮断荷重発生室39への作動流体の供給に応じて封止面の面圧が高められる封止部を使用すれば真空制御バルブのヒステリシスを低下させることができる。ただし、V字状のパッキンを使用すれば、非加圧時の動摩擦力を小さくすることができる。
【0146】
第2実施形態では、動作部材32の内側に遮断荷重発生室39が形成され、付勢バネの内側に遮断用ピストン61が配置されているが、遮断荷重発生室39と遮断用ピストン61とが逆転された配置としてもよい。ただし、遮断荷重発生室39を動作部材32遮断用ピストン61の内部に形成する構成とすれば、動作部材32の内部空間を利用して遮断荷重発生室39を形成することができるので、真空制御バルブの小型化を図ることができる。
【0147】
第2実施形態では、一次側ポート(真空容器側接続口)を低圧側として二次側ポート(真空ポンプ側接続口)を高圧側として真空制御バルブが接続され、その差圧荷重に対抗する遮断荷重によって遮断状態を維持する形態として構成されている。しかし、高圧側と低圧側とを逆方向としても良い。こうすれば、遮断状態を維持する方向の差圧荷重に対抗して開状態することができる。さらに、真空容器だけでなく高圧容器の圧力制御にも利用可能である。
【0148】
(E.変形例)
なお、上述した各実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0149】
(a)上述の各実施形態では、ガス排出口561を経由するルートとガス排出口562を経由するルートからのガス排出を単一のターボ分子ポンプ300で実行しているが、たとえば各ルートにターボ分子ポンプを装備するようにしてもよい。こうすれば、ターボ分子ポンプからガス排出口までの流路を短くして有効排気速度を高くして高いポンプ効率を実現することができる。
【0150】
(b)上述の各実施形態では、プロセス反応領域を相互に挟む位置に配置された2個のガス排出口を利用する構成としているが、たとえば3個以上であってもよく、複数個のガス排出口を利用するものであればよい。さらに、4個のターボ分子ポンプの各々が各真空制御バルブ(真空制御バルブの数は4個)を介して各ガス排出口(ガス排出口の数は4個)に接続する構成でもよい。
【0151】
ガス排出口が奇数個(たとえば3個)の場合には、プロセスの供給部やプロセス中心Wcを中心とした環状の位置において等間隔に配置することが好ましい。「プロセス反応領域を相互に挟む位置」とは、水平面内、すなわち、プロセスの対象となる平面と平行な平面内に配置される必要は無く上下方向にシフトして配置されていてもよい。具体的には、双方の排気口が真空容器の側面(第1実施形態)ではなく下面あるいは上面に配置されていてもよく、一方が下面で他方が上面でもよい。さらに、ガス排出口の数が奇数の場合には、プロセスガスの供給部を中心とした環状の位置において等間隔あるいは不均一な間隔で配置されている位置も「プロセス反応領域を相互に挟む位置」に含まれる。
【0152】
(c)上述の各実施形態では、第1スレーブループと第2スレーブループの目標値の差を補正値として利用しているが、たとえば基準値に対して、第1スレーブループと第2スレーブループの双方の目標値が補正値を有するような構成としてもよい。このような構成は、たとえば真空制御バルブ側に補正値を格納するような構成で有効である。
【0153】
(d)圧力センサを各ガス排出口に追加して装備(上述の実施形態では計5個のセンサ)するようにしてもよい。こうすれば、ターボ分子ポンプの入口とガス排出口の間のコンダクタンスを取得して、排気系側の個体差を補償する補正、あるいはプロセス中心Wcからガス排出口までの真空容器内のコンダクタンスの相違を補償する補正と、を別個に実現することもできる。一般に、ガス供給部から各排気部までのコンダクタンスの相違と、真空ポンプと真空制御バルブを含む各排気系の個体差と、の少なくとも一方を補償するようなものであればよい。
【0154】
(e)上述の各実施形態では、化学気相成長(CVD)の工程への実装を例示しているが、たとえばエッチング処理やスパッタのような工程にも利用可能である。一般に、ガスを供給しつつ真空状態を維持する制御が要請される真空容器の真空制御に利用可能である。
【0155】
上述の各実施形態は、エッチング処理において顕著な効果を奏する。エッチング処理では、たとえば真空の真空容器の内部にプロセス対象のウェハWを配置し、ウェハWのプロセス面をエッチングガスに暴露させる工程がある。たとえば反応性イオンエッチングでは、真空容器の内部でエッチングガスを放電電離などでプラズマ化し、ウェハWを置く陰極で高周波磁界を発生させる。これにより、プラズマ中のイオン種やラジカル種がウェハWの方向に加速されて衝突する。この結果、イオンによるスパッタリングと、エッチングガスの化学反応が同時に起こるので、微細加工に適した高い精度でのエッチングが行える。
【0156】
このような高精度のエッチングは、MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)にも応用され、機械要素部品やセンサ、アクチュエータ、電子回路といった集積化されたデバイスの実用化が実現している。高精度のエッチングでは、ウェハWに対してエッチングガスのより安定した均一な供給が求められることになるからである。
【0157】
(f)上述の各実施形態では、プロセス反応領域を相互に挟む位置に配置されているが、相違する位置に配置されていればよい。これにより、半導体プロセスの条件設定として、プロセスガスの圧力や流量だけでなく、第3の操作パラメータとしてプロセスガスの方向の操作が可能となるので、プロセスガスの流れの方向という新たな自由度を得ることができるからである。プロセスガスの方向の操作は、たとえばプロセスの状態に基づいてフィードバックするようにしてもよい。
【0158】
(g)上述の各実施形態では、真空ポンプとしてターボ分子ポンプとドライポンプ等が使用されているが、たとえばドライポンプを単独で使用する構成であってもよく、広く一般に真空ポンプを使用するものであればよい。
【0159】
(h)上述の各実施形態では、半導体の製造プロセスに真空容器が利用されているが、他の用途であってもよい。ただし、半導体の製造プロセスでは、ガスの流れの微小な変動によるプロセスへの影響が大きいので、顕著な効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0160】
10…真空制御システム、100、200…真空制御バルブ、300…ターボ分子ポンプ、610…コントローラ、正値データ格納部…620。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給部からプロセスガスの供給を受けてプロセス対象にプロセスを実行する真空容器におけるプロセスガスの真空圧力と流れとを真空ポンプを使用して制御する真空制御システムであって、
前記真空容器において相互に相違する位置に配置された複数のガス排出口の各々と前記真空ポンプとの間に接続されている各真空制御バルブと、
前記プロセス対象に供給されるプロセスガスの真空圧力を計測する圧力計測部と、
前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作する制御装置と、
を備える真空制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の真空制御システムであって、
前記複数のガス排出口は、前記真空容器の内部において前記プロセスが実行されるプロセス反応領域を相互に挟む位置に配置されており、
前記圧力計測部は、前記プロセス反応領域の真空圧力を計測する真空制御システム。
【請求項3】
請求項2記載の真空制御システムであって、
前記制御装置は、前記プロセス反応領域から前記各ガス排出口までのコンダクタンスの相違と、前記真空ポンプと前記真空制御バルブを含む各排気系の個体差と、の少なくとも一方を補償し、前記複数の真空制御バルブの排気流量が相互に近づくように制御する真空制御システム。
【請求項4】
請求項2記載の真空制御システムであって、
前記制御装置は、前記プロセス反応領域から前記各ガス排出口までのコンダクタンスの相違と、前記真空ポンプと前記真空制御バルブを含む各排気系の個体差と、の少なくとも一方を補償し、前記複数の真空制御バルブの前記プロセス反応領域における実効排気速度が相互に近づくように制御する真空制御システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の真空制御システムであって、
前記制御装置は、
前記相違と前記個体差の少なくとも一方を補償するオフセット値を格納するオフセット値格納部と、
前記オフセット値格納部から読み出されたオフセット値を使用して、前記複数の真空制御バルブの開度を制御するための目標値を設定する目標値設定部と、
を有する真空制御システム。
【請求項6】
請求項5記載の真空制御システムであって、
前記複数の真空制御バルブは、ガスの流れを遮断する遮断機能を有し、
前記制御装置は、前記複数の真空制御バルブの各々の特性データに基づいて前記オフセット値を生成し、前記生成されたオフセット値を前記オフセット値格納部に格納する機能を有し、
前記特性データは、前記複数の真空制御バルブのうちの一つを作動させ、前記複数の真空制御バルブのうちの他のバルブを遮断した状態で取得された前記目標値を設定するためのデータである真空制御システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の真空制御システムであって、
前記制御装置は、
前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作するための共通の指令値である共通開度指令値を出力する共通の主制御部と、
前記共通開度指令値に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を制御するために前記真空制御バルブ毎に設けられている複数の従属制御部と、
を備え、
前記各従属制御部は、前記各真空制御バルブの開度の実測値を取得し、前記各実測値と前記共通開度指令値と前記オフセット値とに応じて前記各真空制御バルブの開度を制御する真空制御システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の真空制御システムであって、
前記複数の真空制御バルブは、作動流体によって弁開度を操作して前記真空容器内の真空圧力を制御する真空制御バルブであり、
前記真空容器と前記真空ポンプとを接続する流路と、前記流路に形成されている弁座とを有する制御バルブ本体と、
前記弁座との距離であるリフト量の調節による前記弁開度の操作と、前記弁座への当接による前記流路の遮断とを行う弁体と、ピストンと、前記弁体と前記ピストンとを結合するロッドと、を有する動作部と、
前記制御バルブ本体に接続され、前記ピストンを収容するシリンダと、
前記リフト量が小さくなる方向に前記動作部を付勢する付勢部と、
前記ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との間の隙間を、前記ピストンの動作に追従しつつ密閉するベロフラムと、
を備え、
前記動作部及び前記シリンダは、
前記ベロフラムによって密閉され、前記ロッドを囲む筒状の形状を有する空間であって、前記作動流体の作用圧力に応じて前記ピストンに対して前記リフト量を大きくする方向に荷重を発生させる弁開度操作室と、
前記弁開度操作室と中心軸線を共有し、前記作動流体の供給に応じて前記動作部に対して前記リフト量を小さくする方向に荷重を発生させる遮断荷重発生室と、
を備える真空制御システム。
【請求項9】
前記シリンダは、前記遮断荷重発生室に収容されている摺動凸部を有するヘッドカバーを備え、
前記真空制御バルブは、前記遮断荷重発生室と前記摺動凸部との間を封止する封止面を有し、前記遮断荷重発生室への前記作動流体の供給に応じて前記封止面の面圧が高められる封止部を備える請求項8に記載の真空制御システム。
【請求項10】
前記摺動凸部は、前記弁開度操作室と中心軸線を共有し、前記弁開度操作室の内径よりも小さな外径の円筒状の形状を有し、
前記動作部は、前記摺動凸部の内周面に囲まれた空間において前記動作の方向に延びるガイド部を有し、
前記真空制御バルブは、前記ガイド部と前記摺動凸部との間に配置され、前記動作の方向の摺動を可能とし、前記ガイド部と前記摺動凸部の前記動作の方向と垂直な方向の位置関係を相互に拘束する軸受を備える請求項9に記載の真空制御システム。
【請求項11】
前記遮断荷重発生室は、前記ロッドの内部に形成されている請求項8乃至10のいずれか1項に記載の真空制御システム。
【請求項12】
前記制御装置は、
前記真空容器内の真空圧力を計測する圧力センサと、
作動流体を供給するための作動流体供給部と、前記作動流体を排気するための作動流体排気部とに接続され、前記真空制御バルブに前記作動流体を供給する空気圧回路と、
前記空気圧回路から前記真空制御バルブに供給される作動流体を操作して、前記真空容器内の真空圧力を制御する制御部と、
を備える請求項8乃至11のいずれか1項に記載の真空制御システム。
【請求項13】
前記制御装置は、前記真空ポンプの停止を表す情報を含む真空ポンプ停止信号の受信に応じて前記弁開度操作室と前記作動流体排気部との間の流路を接続するとともに、前記遮断荷重発生室と前記作動流体供給部との間の流路を接続する請求項12に記載の真空制御システム。
【請求項14】
前記空気圧回路は、非通電状態で前記弁開度操作室と前記作動流体排気部との間の流路を接続する第1の電磁弁と、非通電状態で前記遮断荷重発生室と前記作動流体供給部との間の流路を接続する第2の電磁弁と、を有する請求項12又は13に記載の真空制御システム。
【請求項15】
ガス供給部からプロセスガスの供給を受けてプロセス対象にプロセスを実行する真空容器におけるプロセスガスの真空圧力と流れとを真空ポンプを使用して制御する真空制御方法であって、
前記真空容器において相互に相違する位置に配置された複数のガス排出口の各々と前記真空ポンプとの間に接続されている各真空制御バルブを準備する工程と、
前記プロセス対象に供給されるプロセスガスの真空圧力を計測する圧力計測工程と、
前記計測された真空圧力に応じて、前記複数の真空制御バルブの各々の開度を操作する制御工程と、
を備える真空制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−248916(P2011−248916A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159146(P2011−159146)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【分割の表示】特願2010−113695(P2010−113695)の分割
【原出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【Fターム(参考)】