説明

真空排気装置

【課題】真空槽内配置型コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる真空排気装置を提供する。
【解決手段】真空排気装置102は、真空槽10内を排気できる真空ポンプ11と、真空槽10内のガスを凍結トラップできるコールドトラップ35と、真空槽10内に配された凹型の蓋部32と、蓋部32に対置された平板状の座部33と、を備える。そして、蓋部32と座部33とによって、コールドトラップ35を格納できるコールドトラップ室37の形成が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空排気装置に関する。特に、本発明は、コールドトラップが併設された真空排気装置の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
真空槽内に残留するガス(例えば、水蒸気)の凍結トラップ用のコールドトラップが、真空排気装置に併設される場合がある。このようなコールドトラップは、例えば、極低温のフロン系混合冷媒を循環させるコイル状の配管により構成されている。
【0003】
これにより、当該配管の表面に、冷媒によって凍結された水蒸気が凍結トラップされるので、真空槽内の残留ガスの排気速度が速くなる。
【0004】
ところで、真空排気装置のコールドトラップの使用形態として、従来から様々な方式が提案されている。
【0005】
例えば、真空槽内にコールドトラップを配置する方式の真空槽内配置型コールドトラップがある( 例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
本方式のコールドトラップでは、真空槽内に直接にコールドトラップを配置しているので、コールドトラップによる残留ガスの凍結トラップ効率が高い。よって、本方式のコールドトラップは、真空槽内の残留ガスの排気速度を向上できるという利点がある。
【0007】
しかし、この方式の場合、真空槽に大気を導入( ベント) する都度、コールドトラップを常温に戻し、コールドトラップの表面での多量の霜発生を防止する必要がある。よって、本方式のコールドトラップは、コールドトラップの温度操作に長時間を要する。また、コールドトラップを真空槽から隔離できないので、コールドトラップの短時間の再生にも支障をきたす。
【0008】
つまり、この真空排気装置では、コールドトラップの連続使用や再生において難点(連続使用の中断および再生の長期化の問題)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8 −144050号公報
【特許文献2】特許第2674591号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本件発明者は、真空槽内にコールドトラップ専用の凹型の蓋部を設けることにより、真空槽内配置型コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うこと(つまり、連続使用の中断防止および再生時間の短縮化を図ること)ができることに気がついた。また、この蓋部の存在が、真空槽内の熱源からコールドトラップへの熱輻射線の遮蔽に好都合であることも気がついた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、真空槽内配置型コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる真空排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、真空槽内を排気できる真空ポンプと、前記真空槽内のガスを凍結トラップできるコールドトラップと、前記真空槽内に配された凹型の蓋部と、前記蓋部に対置された平板状の座部と、を備え、前記蓋部と前記座部とによって、前記コールドトラップを格納できるコールドトラップ室の形成が行われる真空排気装置を提供する。
【0013】
以上の構成により、真空槽内にコールドトラップ専用のコールドトラップ室を形成できるので、真空槽内配置型コールドトラップの特徴(利点)を損なわずに、コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる。
【0014】
本発明の真空排気装置では、前記蓋部の周縁が前記座部から離れることにより、前記コールドトラップが前記真空槽内に露出してもよい。また、前記蓋部の周縁が前記座部に当たることにより、前記コールドトラップ室が形成されてもよい。
【0015】
このようにして、真空槽内配置型コールドトラップの特徴(利点)を損なわずに、コールドトラップ室を適切に形成できる。
【0016】
また、本発明の真空排気装置では、前記真空槽の壁部が前記座部であってよい。
【0017】
これにより、真空排気装置の部品点数を削減できる。
【0018】
また、本発明の真空排気装置では、前記蓋部への駆動力を発生できる駆動装置を備えてもよい。そして、前記駆動装置の駆動部に支持されたピストンロッドが、前記壁部を気密に貫いて環状の前記コールドトラップと交差するように前記蓋部に延び、かつ、前記ピストンロッドの先端部が、前記蓋部に連結してもよい。
【0019】
また、本発明の真空排気装置では、前記蓋部は、前記ピストンロッドの軸方向に直交するように配された平板と、前記平板の周縁から前記ピストンロッドの軸方向に平行に延びる筒状壁と、を含んでもよい。そして、前記筒状壁によって押圧されている環状のシール部材が、前記コールドトラップ室と前記真空槽との間の気密性の確保に用いられてもよい。
【0020】
これにより、真空装置が、例えば、バッチ式の成膜装置の場合、真空槽内の基板(図示せず)の入れ替え時に、冷媒循環中のコールドコイルを大気に曝さなくて済む。よって、基板入れ替え時においてもコールドコイルの使用条件を変えずに連続的に動作できる。
【0021】
更に、前記コールドトラップ室のみに大気を導入するベントバルブを備えてもよく、前記コールドトラップ室が前記ベントバルブを用いて大気に開放されもよい。
【0022】
これにより、真空槽内を大気開放せずに、コールドトラップ室に配されたベントバルブを用いてコールドトラップ室のみに大気を導入できる。その結果、コールドトラップの再生を効率的に行うことができる。よって、本実施形態の真空排気装置では、コールドトラップの再生を短時間で行うことができる。
【0023】
また、本発明の真空排気装置では、前記蓋部は、前記ピストンロッドの軸方向に直交するように配された平板と、前記平板の周縁から前記ピストンロッドの軸方向に平行に延びる筒状壁を含んでもよい。そして、前記蓋部が前記壁部から離れることによって、前記筒状壁と前記壁部との間に、環状の空間を形成してもよい。更に、前記コールドトラップが、前記空間を介して前記真空槽内に露出してもよい。
【0024】
これにより、蓋部が真空槽内の奥深くまで移動すると、コールドトラップを上下方向において遮る部材が全く存在しなくなり、真空槽内の残留ガスのトラップを、コールドトラップによって効率的に行え、コールドトラップの排気能力を向上できる。
【0025】
また、本発明の真空排気装置では、前記真空槽内に配された熱源を備えてもよい。そして、前記蓋部を、前記コールドトラップの使用時において前記熱源からの熱輻射を遮蔽する位置に配置してもよい。
【0026】
これにより、真空装置での熱源動作中においても、熱源の発熱を考慮せずに、コールドコイルのガストラップを適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、真空槽内配置型コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる真空排気装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の真空排気装置を備えた真空装置の一例を模式的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態による真空排気装置の副ポンプ構造の説明に用いる断面図である。
【図3】本発明の実施形態による真空排気装置の副ポンプ構造の説明に用いる断面図である。
【図4】図2のコールドコイルおよびその周辺構造を示した模式図である。
【図5】図2のA部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
なお、以下の説明の便宜上、真空装置100において重力の作用する方向を「下方」といい、その反対方向を「上方」という場合がある。また、このような上下方向に直交する方向を「水平方向」という場合がある。
【0031】
図1は、本発明の実施形態の真空排気装置を備えた真空装置の一例を模式的に示した図である。
【0032】
本実施形態の真空装置100は、図1に示すように、適宜の真空処理が行われる真空槽10と、真空槽10の内部を減圧可能な真空排気装置102と、を備える。
【0033】
なお、真空槽10は、真空装置100を真空蒸着装置やスパッタリング装置などの真空成膜装置に用いる場合には、真空成膜室に該当する。例えば、本実施形態の真空装置100では、蒸着材料を入れた蒸着源40(後述の図2、3参照)と、この蒸着源40の熱によって蒸発された粒子を堆積させる樹脂製の基板41(後述の図2、3参照)と、が、真空槽10内に配されている。なお、このような蒸着源40は、ヒータやボードに直接通電し、発生する電熱を利用する方式の熱源や電子ビームを直接当てて加熱する方式の熱源によって構成できる。
【0034】
よって、以下、真空装置100として、真空蒸着装置100を例にとり、本実施形態の真空排気装置102の構成を説明する。
【0035】
真空排気装置102は、図1に示すように、真空槽10内を数Pa程度にまで排気できる粗引ポンプ13(低真空ポンプ)と、真空槽10内を蒸着処理が行われる高真空度になるまで排気できる主ポンプ11(高真空ポンプ)と、主ポンプ11の排気口を開閉できるメインバルブ20と、メインバルブ20の開閉用の駆動力を発生できる第1シリンダ21(駆動装置)と、を備える。
【0036】
また、真空排気装置102では、真空槽10内に配され、コールドトラップ室37を構成する凹型(矩形の箱型)の蓋部32(図2、3参照)と、この蓋部32への往復運動用の駆動力を発生できる第2シリンダ31と、を備える副ポンプ構造に特徴があるが、このような副ポンプ構造の詳細な説明は後述する。
【0037】
なお、コールドトラップとは、真空槽10内の残留ガス(例えば、水蒸気)を凍結トラップすることにより、残留ガスを吸着排気できる真空ポンプの一種であり、極低温(雰囲気の圧力での飽和蒸気圧に対する温度以下;例えば、−140℃〜−120℃程度)のフロン系混合冷媒を循環できる金属配管からなるコールドコイル35(図4参照)や平板状のコールドパネルなどの冷却部品を用いて構成できる。
【0038】
粗引ポンプ13には、メカニカルブースタポンプや油回転ポンプ、または、これらのポンプの組合せなどを用いることができる。主ポンプ11には、油蒸気噴射式の油拡散ポンプやターボ分子ポンプなどを用いることができる。
【0039】
また、メインバルブ20内の空間は、真空槽10内と主ポンプ11内との間の排気通路20A(図2、3参照)となっている。そして、上述の粗引ポンプ13は、粗引バルブ14を介して排気通路20Aおよび真空槽10内と連通している。このような粗引ポンプ13により、粗引バルブ14が開くと、真空槽10内のガスが粗引ポンプ13を用いて排気される。
【0040】
また、この粗引ポンプ13は、フォアラインバルブ16を介して主ポンプ11内に接続されている。フォアラインバルブ16が開くと、粗引ポンプ13が、主ポンプ11の起動を可能にする圧力にまで主ポンプ11内を減圧できる。
【0041】
次に、真空排気装置102の副ポンプ構造について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0042】
図2および図3は、本発明の実施形態による真空排気装置の副ポンプ構造の説明に用いる断面図である。図3では、凹型の蓋部32(詳細は後述)が平板状の座部33(詳細は後述)から離れることにより、コールドコイル35(コールドトラップ)が真空槽10内に露出した状態が図示されている。図2では、蓋部32が座部33に当たることにより、コールドコイル35がコールドコイル室37(コールドトラップ室)内に密封された状態が図示されている。
【0043】
なお、図2および図3では、便宜上、真空排気装置102の構成要素のうちの一部(例えば、粗引バルブ14など)の図示を省略している。
【0044】
まず、本実施形態の真空排気装置102の主ポンプ構造を概説する。
【0045】
メインバルブ20は、図2および図3に示すように、弁板22と弁座23とによって、構成されている。弁板22は、第1シリンダ21のシリンダ本体21Aに支持されたピストンロッド21Bの先端部に連結されている。そして、メインバルブ20による主ポンプ11の排気口の閉栓時には、第1シリンダ21の駆動力に基づいて、弁板22によって主ポンプ11と真空槽10に連通する排気通路20Aとが、環状の第1シール部材22C(例えば、Oリング)によって仕切られ(図2および図3の二点鎖線参照)、メインバルブ20による主ポンプ11の排気口の開栓時には、主ポンプ11と排気通路20Aとが連通される(図2および図3の実線参照)。
【0046】
なお、このようなメインバルブ20のバルブ構造は周知である。よって、ここでは、メインバルブ20の詳細な構成の説明は省略する。
【0047】
次に、本実施形態の真空排気装置102の特徴部である副ポンプ構造について述べる。
【0048】
コールドコイル室37は、図2に示すように、真空槽10内に配された金属製(例えば、ステンレス製)の凹型の蓋部32の周縁と、蓋部32と対置された金属製(例えば、ステンレス製)の平板状の座部33と、が互いに当接することにより形成され、コールドコイル35の隔離室に相当する。
【0049】
なお、本実施形態の真空排気装置102では、座部33は、真空槽10の側壁部によって形成されており、これにより、真空排気装置102の部品点数を削減することができる。
【0050】
真空排気装置102の第2シリンダ31は、蓋部32の駆動系として機能する装置であり、図2および図3に示すように、シリンダ本体31A(駆動部)とピストンロッド31B(駆動力伝達部)とからなる。
【0051】
シリンダ本体31Aは、適宜の固定手段によって、座部33を形成する真空槽10の側壁部に固定されている。シリンダ本体31Aに支持されたピストンロッド31Bは、座部33に形成された開口33Aを気密に貫いて、環状(例えば円環状や矩形の額縁状)のコールドコイル35のコイル面と交差するように真空槽10内に延び、ピストンロッド31Bの先端部が、蓋部32(正確には、後述の平板32Bの裏面側)の中央部において連結している。これにより、ピストンロッド21Bの伸縮によって、蓋部32を水平移動できる。
【0052】
詳しくは、図4に示すように、コールドコイル35は、冷凍機50からのフロン系混合冷媒を循環可能な金属配管を、水平方向に複数段(ここでは、3段)に亘って、コイル状に巻いて構成され、これにより、本実施形態の真空排気装置102の副ポンプとして機能できる。そして、このコールドコイル35が、真空槽10の側壁部の適所に固定され(固定手段の図示は省略)、ピストンロッド31Bが、真空槽10内においてコールドコイル35の内空間を通過している。
【0053】
一方、このコールドコイル室37(蓋部32)を平面視すると(水平方向から見た場合)、コールドコイル室37(蓋部32)は、コールドコイル35を完全に覆うことができる程度の外寸になっている。
【0054】
図2および図3に示すように、この蓋部32は、ピストンロッド31Bの軸方向に直交するように配された矩形の平板32Bと、平板32Bの周縁からピストンロッド31Bの軸方向に平行に延びる、筒状かつ額縁状の壁32A(以下、「筒状壁32A」という)を含む。また、本実施形態の真空排気装置102では、筒状壁32Aは、平板32Bの周縁部において一体に形成されている。
【0055】
また、図2のA部の拡大図(図5)に示すように、蓋部32の筒状壁32Aの先端部に環状の第2シール部材32C(例えば、Oリング)が配されている。この第2シール部材32Cにより、コールドコイル35を格納するコールドコイル室37の真空シールが適切に行われ、コールドコイル室37を気密に保つことができる。
【0056】
このようにして、図2に示すように、蓋部32の筒状壁32Aが座部33に当たることにより、筒状壁32Aによって押圧されている環状の第2シール部材32Cが、コールドトラップ室37と真空槽10との間の気密性の確保に用いられる。
【0057】
また、図5に示すように、コールドコイル室37を形成する座部33(真空槽10の側壁部)にベントバルブ52が設けられ、これにより、ベントバルブ52を用いてコールドコイル35をデフロスト(霜取りによる再生)することができる。
【0058】
更に、コールドコイル室37内の下方に設置された受皿51は、コールドコイル35の再生時に発生する水滴を受けることができる。この受皿51に溜まった水は、受皿51の底面に配された配管およびバルブ(いずれも図示せず)を用いてコールドコイル室37の外部に排水するとよい。
【0059】
以上の構成により、本実施形態の真空排気装置102は、以下の様々な効果を奏する。
【0060】
まず、第2シリンダ31の駆動力によってピストンロッド31Bのストロークが伸びると、蓋部32の筒状壁32Aが、図3に示すように座部33から離れ、蓋部32は、真空槽10の内側(座部33と反対側)に移動する。すると、蓋部32の筒状壁32Aと座部33との間に、環状の空間300が形成され、コールドコイル35が、この空間300を介して真空槽10内に露出する。
【0061】
これにより、多量の水蒸気を放出する樹脂製の基板41が真空槽10内に存在しても、基板41に近づけてコールドコイル35を配することができるので、真空槽10内を速やかに排気できる。特に、本実施形態の真空排気装置102では、蓋部32が水平方向に真空槽10内の奥深く移動すると、コールドコイル35を上下方向において遮る部材が存在しなくなり、真空槽10内の残留ガスのトラップを、コールドコイル35によって効率的に行え、コールドコイル35の排気能力を向上できる。
【0062】
また、本実施形態の真空排気装置102では、図3に示すように、蓋部32を、コールドコイル35の使用時において蒸着源40(熱源)からの熱輻射を遮蔽する位置に配置している。
【0063】
これにより、真空槽10内に蒸着源40(熱源)が存在する場合であっても、蒸着源40から射出されたコールドコイル35への熱輻射の強度を、蓋部32を用いて低減できるという効果がある。
【0064】
具体的には、本実施形態の真空排気装置102では、筒状壁32Aと座部33との間に環状の空間300が形成された状態でも、蒸着源40からコールドコイル35を投影した投影線200に示すように、蓋部32を用いて、蒸発源40の視野からコールドコイル35を隠すことができる。よって、蒸着源40からの熱輻射線は、蓋部32によって遮蔽(吸収または反射)されるので、コールドコイル35の周囲の温度を適温(例えば、約50℃以下)に保ち易くなる。
【0065】
なお、適温(例えば、約50℃以下)に保たれたコールドコイル35の周囲からの輻射熱では、コールドコイル35の表面の凍結水(氷)は溶解しないと考えられている。
【0066】
これにより、コールドコイル35にトラップされた凍結水の溶解を防止でき、コールドコイル35の排気能力を適切に維持できる。なお、蓋部32の表面を鏡面に仕上げると、熱輻射線の反射率を向上できるので都合がよい。
【0067】
一方、第2シリンダ31の駆動力によってピストンロッド31Bのストロークが縮むと、蓋部32の筒状壁32Aが、図2に示すように座部33に当接する。すると、コールドコイル室37が、蓋部32および座部33によって形成される。このため、真空槽10内とコールドコイル室37内との間を、蓋部32および座部33によって気密状態にできる。
【0068】
これにより、本実施形態の真空排気装置102では、真空槽10内を大気開放せずに、コールドコイル室37に配されたベントバルブ52を用いてコールドコイル室37のみに大気を導入できる。これにより、コールドコイル35の再生を効率的(つまり、短時間に)に行うことができる。
【0069】
また、本実施形態の真空排気装置102では、真空蒸着装置100が、例えば、バッチ式の場合、真空槽10内の基板(図示せず)の入れ替え時に、冷媒循環中のコールドコイル35を大気に曝さなくて済む。よって、基板入れ替え時においてもコールドコイル35の使用条件を変えずに連続的に動作できる。
【0070】
次に、本実施形態の真空排気装置102の動作を説明する。まず、真空排気装置102の通常の動作例を述べる。
【0071】
なお、ここでは、バッチ式の真空蒸着装置100を例にして、この真空蒸着装置100の真空槽10内への基板41の入れ替え直後の状態にあると仮定する。
【0072】
真空槽10内の基板41の入れ替えが終了すると、真空槽10を密閉した後、粗引バルブ14を開ける。これにより、真空槽10内および排気通路20Aが、粗引ポンプ13により減圧される。真空槽10内および排気通路20Aの圧力が所定の真空度にまで減圧されると、粗引バルブ14を閉める。
【0073】
次いで、メインバルブ20を開ける。同時に、蓋部32を用いて、コールドコイル35を真空槽10内に露出させる。
【0074】
これにより、真空槽10内および排気通路20Aが、主ポンプ11のガス排気およびコールドコイル35のガストラップにより更に減圧される。
【0075】
そして、真空槽10内および排気通路20Aの圧力が所定の高真空状態にまで減圧されると、真空槽10内において基板41に適宜の真空蒸着が行われる。この場合、蒸着源40から射出された熱輻射線がコールドコイル35に直接に入射しないよう、熱輻射線は蓋部32によって適切に遮蔽されているので都合がよい。つまり、真空蒸着装置100での真空蒸着中においても、蒸着源40の発熱を考慮せずに、コールドコイル35のガストラップを適切に行うことができる。
【0076】
基板41の真空蒸着が終わると、メインバルブ20を閉める。同時に、蓋部32を用いて、コールドコイル室37を形成(密閉)する。
【0077】
なお、ここでは、主ポンプ11の連続運転を前提としているので、フォアラインバルブ16は、常時、開いている。
【0078】
その後、適宜のベントバルブ(図示せず)を用いて、真空槽10内に大気に導入して、再び、基板41の入れ替えを行う。
【0079】
このようにして、バッチ式の真空蒸着装置100による真空蒸着処理の一サイクルが実行される。
【0080】
次に、真空排気装置102のコールドコイル35の再生の動作例を述べる。
【0081】
コールドコイル35の再生は、コールドコイル室37を形成(密閉)することにより行われる。蓋部32を座部33に当接させると、上述(図2)のとおり、コールドコイル35を格納するコールドコイル室37を形成(密閉)できる。
【0082】
この状態で、冷凍機50によるコールドコイル35への冷媒循環を止めて、コールドコイル35を常温に戻し、その後、ベントバルブ52を用いてコールドコイル室37のみに大気を導入する。
【0083】
なお、この場合、真空槽10を減圧状態(気密状態)に維持できる。よって、コールドコイル35の再生を短時間で行うことができる。
【0084】
次いで、コールドコイル35の再生が行われた後、コールドコイル室37が減圧される。
【0085】
コールドコイル室37の減圧は、例えば、コールドコイル室37に配された適宜の粗引バルブ(図示せず)を用いて粗引ポンプ13により減圧するとよい。
【0086】
次いで、コールドコイル35への冷媒循環を開始して、コールドコイル35を再び極低温まで冷やす。
【0087】
このようにして、コールドコイル35の再生が実行される。
【0088】
なお、コールドコイル35の再生の後、蓋部32の筒状壁32Aが座部33から離れて、コールドコイル35が真空槽10内に露出すると、真空槽10内および排気通路20Aが、主ポンプ11のガス排気および再生後のコールドコイル35のガストラップにより減圧される。
【0089】
以上のとおり、本実施形態の真空排気装置102は、真空槽10内を排気できる主ポンプ11と、真空槽10内のガスを凍結トラップできるコールドコイル35と、真空槽10内に配された凹型の蓋部32と、蓋部32に対置された平板状の座部33(本実施形態では、真空槽10の側壁部)と、を備える。そして、本実施形態の真空排気装置102では、蓋部32と座部33とによって、コールドコイル室37の形成が行われる。
【0090】
具体的には、蓋部32の筒状壁32Aが座部33に当たることにより、コールドコイル室37が形成される。その結果、コールドコイル室37の中にコールドコイル35が密封される。
【0091】
以上の構成により、真空槽10内にコールドコイル35専用のコールドコイル室37を形成できるので、真空槽内配置型コールドトラップ35の特徴(利点)を損なわずに、コールドコイル35の連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる。
【0092】
また、本実施形態の真空排気装置102では、蓋部32への駆動力を発生できる第2シリンダ31(駆動装置)を備え、第2シリンダ31のシリンダ本体31A(駆動部)が座部33に配されている。また、蓋部32が、第2シリンダ31のピストンロッド31Bの軸方向に直交するように配された平板32Bと、平板32Bの周縁からピストンロッド31Bの軸方向に平行に延びる筒状壁32Aと、を含む。そして、シリンダ本体31Aに支持されたピストンロッド31Bが、座部33を気密に貫いて環状のコールドコイル35のコイル面と交差するように蓋部32に延び、かつ、ピストンロッド31Bの先端部が、蓋部32(正確には、蓋部32の平板32Bの裏面側中央部)に連結している。
【0093】
そして、第2シリンダ31の駆動力に基づいて、蓋部32の筒状壁32Aが座部33に当接した場合、筒状壁32Aによって押圧されている環状の第2シール部材32Cが、コールドトラップ室37と真空槽10との間の気密性の確保に用いることができる。
【0094】
これにより、真空蒸着装置100が、例えば、バッチ式の場合、真空槽10内の基板(図示せず)の入れ替え時に、冷媒循環中のコールドコイル35を大気に曝さなくて済む。よって、基板入れ替え時においてもコールドコイル35の使用条件を変えずに連続的に動作できる。
【0095】
また、真空槽10内を大気開放せずに、コールドコイル室37に配されたベントバルブ52を用いてコールドコイル室37のみに大気を導入でき、コールドコイル35の再生を効率的に行うことができる。よって、本実施形態の真空排気装置102では、コールドコイル35の再生を短時間で行うことができる。
【0096】
更に、本実施形態の真空排気装置102では、蓋部32がピストンロッド31Bの軸方向(水平方向)に移動することにより、第2シリンダ31の駆動力に基づいて、蓋部32の筒状壁32Aが座部33から離れた場合、コールドコイル35が真空槽10内に露出する。
【0097】
このようにして、本実施形態の真空排気装置102では、蓋部32が真空槽10内の奥深くまで移動すると、コールドコイル35を上下方向において遮る部材が全く存在しなくなり、真空槽10内の残留ガスのトラップを、コールドコイル35によって効率的に行え、コールドコイル35の排気能力を向上できる。
【0098】
特に、本実施形態の真空排気装置102では、真空槽10内に蒸着源40(熱源)を配置する場合、蒸着源40から射出された熱輻射線がコールドコイル35に直接に入射しないよう、熱輻射線は蓋部32によって適切に遮蔽できるので都合がよい。つまり、真空蒸着装置100での真空蒸着中においても、蒸着源40の発熱を考慮せずに、コールドコイル35のガストラップを適切に行うことができる。
(変形例1)
本実施形態の真空排気装置102では、コールドトラップの一例として、金属配管からなるコールドコイル35を例示したが、これに限らない。
【0099】
例えば、コールドトラップの他の例として、冷媒通流用の中空を有する平板状のコールドパネルを配してもよい。なお、この場合、コールドパネルの中央部にピストンロッド31Bを通過させる孔を開けるとよい。
(変形例2)
本実施形態の真空排気装置102では、筒状壁32Aと平板32Bとが一体に構成されている例を述べたが、これに限らない。
【0100】
例えば、筒状壁32Aと平板32Bとを別体にして、両者を固定手段(ねじなど)によって連結してもよい。
(変形例3)
本実施形態の真空排気装置102を備える真空蒸着装置100では、真空槽10内の熱源の一例として、真空蒸着装置に用いる蒸着源40を述べたが、これに限らない。
【0101】
例えば、熱源の他の例として、真空槽10内の基板41を加熱する基板加熱装置がある。
【0102】
また、真空蒸着装置100以外の真空装置(例えば、スパッタリング装置)であっても、熱輻射線を射出する熱源が存在する。よって、本明細書に記載の技術は、このような様々な真空装置の熱源からの熱輻射線の遮蔽においても有用である。
(変形例4)
本実施形態の真空排気装置102では、第2シール部材32Cを筒状壁32Aの先端部に設ける例を述べたが、これに限らない。
【0103】
例えば、第2シール部材32Cを座部33に設けてもよい。つまり、筒状壁32Aによって押圧されている環状の第2シール部材32Cが、コールドトラップ室37と真空槽10との間の気密性の確保に用いられるとよい。
【0104】
また、第2シール部材32Cとして、Oリングを例示したが、これに限らない。
【0105】
例えば、第2シール部材32Cとして、リップタイプのゴムシールを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の真空排気装置によれば、真空槽内配置型コールドトラップの連続使用および再生を従来よりも効率に行うことができる。よって、本発明の真空排気装置は、真空装置の排気システムに利用できる。
【符号の説明】
【0107】
10 真空槽
11 主ポンプ
13 粗引ポンプ
14 粗引バルブ
16 フォアラインバルブ
20 メインバルブ
20A 排気通路
21 第1シリンダ
21A 第1シリンダのシリンダ本体
21B 第1シリンダのピストンロッド
22 弁板
22C 第1シール部材
23 弁座
31 第2シリンダ
31A 第2シリンダのシリンダ本体
31B 第2シリンダのピストンロッド
32 蓋部
32A 筒状壁
32B 平板
32C 第2シール部材
33 座部
33A 開口
35 コールドコイル(コールドトラップ)
37 コールドコイル室(コールドトラップ室)
40 蒸着源
41 基板
50 冷凍機
51 受皿
52 ベントバルブ
100 真空蒸着装置(真空装置)
102 真空排気装置
200 投影線
300 環状の空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内を排気できる真空ポンプと、
前記真空槽内のガスを凍結トラップできるコールドトラップと、
前記真空槽内に配された凹型の蓋部と、
前記蓋部に対置された平板状の座部と、
を備え、
前記蓋部と前記座部とによって、前記コールドトラップを格納できるコールドトラップ室の形成が行われる真空排気装置。
【請求項2】
前記蓋部の周縁が前記座部から離れることにより、前記コールドトラップが前記真空槽内に露出し、前記蓋部の周縁が前記座部に当たることにより、前記コールドトラップ室が形成される請求項1に記載の真空排気装置。
【請求項3】
前記真空槽の壁部が前記座部である請求項1または2に記載の真空排気装置。
【請求項4】
前記蓋部への駆動力を発生できる駆動装置を備え、
前記駆動装置の駆動部に支持されたピストンロッドが、前記壁部を気密に貫いて環状の前記コールドトラップと交差するように前記蓋部に延び、かつ、前記ピストンロッドの先端部が、前記蓋部に連結している請求項3に記載の真空排気装置。
【請求項5】
前記蓋部は、前記ピストンロッドの軸方向に直交するように配された平板と、前記平板の周縁から前記ピストンロッドの軸方向に平行に延びる筒状壁と、を含み、
前記筒状壁によって押圧されている環状のシール部材が、前記コールドトラップ室と前記真空槽との間の気密性の確保に用いられる請求項4に記載の真空排気装置。
【請求項6】
前記コールドトラップ室のみに大気を導入するベントバルブを備え、
前記コールドトラップ室が前記ベントバルブを用いて大気に開放される請求項5に記載の真空排気装置。
【請求項7】
前記蓋部は、前記ピストンロッドの軸方向に直交するように配された平板と、前記平板の周縁から前記ピストンロッドの軸方向に平行に延びる筒状壁を含み、
前記蓋部が前記壁部から離れることによって、前記筒状壁と前記壁部との間に、環状の空間が形成され、
前記コールドトラップが、前記空間を介して前記真空槽内に露出する請求項4に記載の真空排気装置。
【請求項8】
前記真空槽内に配された熱源を備え、
前記蓋部が、前記コールドトラップの使用時において前記熱源からの熱輻射を遮蔽する位置に配置されている請求項1ないし7のいずれかに記載の真空排気装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−62660(P2011−62660A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216791(P2009−216791)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】