説明

眠気判定装置及び眠気判定プログラム

【課題】高精度に眠気を判定する眠気判定装置及び眠気判定プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】被験者の眠気を判定する眠気判定装置1であって、被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する特徴量抽出手段11と、特徴量抽出手段11で抽出した特徴量に基づいて被験者の眠気を判定する眠気判定手段12,13,14と、眠気判定手段12,13,14の判定結果に基づいて被験者の過去の眠気判定履歴を記憶する記憶手段10とを備え、眠気判定手段12,13,14は、記憶手段10に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度に眠気を判定する眠気判定装置及び眠気判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転者に安全な走行を行わせるために、運転者の眠気を判定する装置が開発されている。眠気判定装置としては、例えば、心拍、脳波、瞬きなどから眠気に応じて変化する特徴量を抽出し、その特徴量を閾値と比較することによって眠気を判定するものがある。特許文献1に示す装置では、被験者の生理指標からゆらぎ(変化)を抽出し、その生理指標のゆらぎの特徴的変化を抽出し、その特徴的変化の発生頻度が閾値を超えた有意な特徴的変化に基づいて眠気を判定している。
【特許文献1】特願2005−188566号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
長距離運転の場合や渋滞中の場合など、運転者が眠気を我慢しながら運転を行うことがある。眠気を我慢しているときには、眠気が深くなってきたり、眠気が深くなった状態からカーブ路や再発進などの刺激で眠気から覚醒したりと、眠気のピークが繰り返し、眠気の強さが変化(ハンチング)する場合がある。このように眠気を我慢しているときには心拍や脳波などの体調に影響を及ぼす場合があり、ピーク時に眠気の強さが同程度でも心拍や脳波などが変化することがある。つまり、同じような強さの眠気のピークが繰り返されているときでも、そのピーク時の心拍や脳波などが変化してしまう。そのため、従来の眠気判定装置のように一律の閾値で眠気を判定すると、同じような強さの眠気でも眠気有りと判定できる場合と判定できない場合があり、眠気判定精度が低下する。
【0004】
そこで、本発明は、高精度に眠気を判定する眠気判定装置及び眠気判定プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る眠気判定装置は、被験者の眠気を判定する眠気判定装置であって、被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、特徴量抽出手段で抽出した特徴量に基づいて被験者の眠気を判定する眠気判定手段と、眠気判定手段の判定結果に基づいて被験者の過去の眠気判定履歴を記憶する記憶手段とを備え、眠気判定手段は、記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くすることを特徴とする。
【0006】
この眠気判定装置では、特徴量抽出手段により被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する。眠気に応じて変化する特徴量は、例えば、心拍から抽出した特徴量、脳波から抽出した特徴量、呼吸から抽出した特徴量、瞬きから抽出した特徴量、唇の動きから抽出した特徴量、体の動き(背伸び、体ひねりなど)から抽出した特徴量である。そして、眠気判定装置では、眠気判定手段により特徴量に基づいて被験者の眠気を判定し、その眠気判定結果に基づいて被験者の過去の眠気判定履歴を記憶手段に記憶する。被験者が眠気を我慢し、眠気のピークを繰り返して眠気の強さが変化しているような場合、被験者には眠気の我慢による疲労が蓄積され、その疲労の蓄積が被験者の体調(例えば、心拍、脳波、体の各部の動き)に影響を及ぼすと考えられる。この蓄積した疲労は体を休めないかぎり残り続け、体調が回復しないと考えられる。そのため、過去に眠気のピークが発生し、再度、同程度の強さの眠気のピークが発生したときでも、被験者の体調から抽出される特徴量が前回のピーク時から変化すると予測される。そこで、眠気判定装置では、眠気判定手段で眠気判定を行うときに、眠気判定履歴から過去に眠気有りと判定したか否かを判断し、眠気有りと判定していた場合には判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くする。このように、眠気判定装置では、眠気有りと判定した後には眠気有りと判定し易くすることにより、眠気の強さが変化している状況(眠気のピークが繰り返しているとき)でも2度目、3度目のピーク時の眠気も確実に判定でき、眠気判定精度が向上する。
【0007】
本発明の上記眠気判定装置では、眠気判定手段は、記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合、眠気判定閾値を緩和する構成としてもよい。
【0008】
この眠気判定装置では、眠気判定手段により、特徴量と眠気判定閾値とを比較することによって眠気有りか否かを判定する。この判定を行うときに、眠気判定手段では、眠気判定履歴から過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気判定閾値を緩和することによって眠気有りと判定し易くする。このように、眠気判定装置では、眠気判定閾値を変更するという非常に簡単な方法により眠気の判定基準を変える。
【0009】
本発明の上記眠気判定装置では、眠気判定履歴は、被験者に対する眠気判定を開始してから継続して現在に至るまでの履歴であると好適である。
【0010】
この眠気判定装置では、被験者に対する眠気判定を開始してから継続して現在に至るまでの判定結果にから眠気判定履歴を記憶手段に記憶する。上記したように、被験者が眠気を我慢し、眠気の我慢による疲労が蓄積すると、被験者の体調が変化し、同程度の強さの眠気のピークに対して特徴量が変化する。しかし、体を一旦休め、疲労を取り除くと、体調が回復する。したがって、眠気判定を一旦終了し、再度、眠気判定が開始された場合、前回の眠気判定時に眠気を我慢し、疲労が蓄積していたとしても、判定を行っていない間にその疲労が取り除かれている可能性が高く、前回の眠気判定時の判定結果を今回の眠気判定に反映する必要性がない。一方、眠気判定が開始されて継続している場合、眠気判定開始後に眠気が発生したときには(一度、眠気有りと判定したときには)、眠気を我慢し、疲労が蓄積している可能性があるので、その判定開始後の判定結果を今回の眠気判定に反映する必要性がある。そこで、眠気判定を開始してから継続して現在に至るまでの判定結果だけを眠気判定履歴に反映する。
【0011】
本発明に係る眠気判定プログラムは、被験者の眠気を判定するための眠気判定プログラムであって、コンピュータに、被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する特徴量抽出機能と、特徴量抽出手段で抽出した特徴量に基づいて被験者の眠気を判定し、当該判定を行うときに記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くする眠気判定機能とを実現させることを特徴とする。この眠気判定プログラムによれば、このプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記眠気判定装置の作用及び効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、眠気有りと判定した後には眠気有りと判定し易くすることにより、眠気の強さが変化している状況でも眠気を確実に判定でき、眠気判定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る眠気判定装置及び眠気判定プログラムの実施の形態を説明する。
【0014】
本実施の形態では、本発明を、車両に搭載され、運転者の居眠りを検出する居眠り検出装置に適用する。本発明に係る居眠り検出装置は、運転者の体調を表す指標を計測し、その指標から抽出した特徴量に基づいて居眠りを検出し、居眠り状態を検出した場合には運転者が居眠り状態であることを告知する。
【0015】
図1〜図3を参照して、本実施の形態に係る居眠り検出装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る居眠り検出装置の構成図である。図2は、眠気強さ、居眠り判定用の特徴量、居眠り判定用の閾値の関係を示すグラフである。図3は、居眠り検出の一例として心拍を利用した場合の心拍の特徴量と居眠り判定用の閾値の関係を示すグラフである。
【0016】
居眠り検出装置1は、運転者の眠気に応じて変化する特徴量と居眠り判定用の閾値とを比較し、特徴量が閾値より大きくなった場合に居眠り状態と判定する。特に、居眠り検出装置1では、眠気のピークが繰り返し発生するハンチング状況でも高精度に居眠り状態を判定するために、居眠り判定用の閾値を可変とする。そのために、居眠り検出装置1は、指標計測手段2、出力手段3、ECU[ElectronicControl Unit]4を備え、ECU4に居眠り発生履歴格納バッファ10、特徴量抽出部11、居眠り発生履歴判断部12、居眠り検出部13、ハンチング対応部14、居眠り検出有無判断部15、居眠り出力部16が構成される。
【0017】
本実施の形態では、居眠り発生履歴格納バッファ10が特許請求の範囲に記載する記憶手段に相当し、特徴量抽出部11が特許請求の範囲に記載する特徴量抽出手段に相当し、居眠り発生履歴判断部12、居眠り検出部13及びハンチング対応部14が特許請求の範囲に記載する眠気判定手段に相当する。
【0018】
指標計測手段2は、運転者の眠気を判断するための体調を表す各種指標を計測する手段である。指標計測手段2では、各指標を計測し、計測した指標を示す指標信号をECU4に送信する。指標計測手段2としては、例えば、心拍センサ、脳波センサ、脈波センサ、呼吸センサ、運転者の顔や体などを撮像するカメラとその撮像画像を処理する画像処理装置である。カメラを用いる手段では、撮像画像から運転者の顔の瞬き、唇の動きなどを検出したり、あるいは、運転者の体の背伸び、体のひねりなどを検出する。
【0019】
出力手段3は、出力対象に対して運転者が居眠り状態であることや運転者に対して休息を促すような告知をするための手段である。出力手段3では、ECU4から出力信号を受信すると、各手段に応じた出力を行う。出力手段3としては、例えば、音で告知する手段(ブザー、オーディオ、ラジオ、クラクション)、光で告知する手段(メータ照明、室内照明)、触覚や温冷覚で告知する手段(シートに埋設した振動装置、エアコンの風や温度変化)、においで告知する手段(芳香剤の噴射)、システムへのコマンド出力である。出力対象としては、例えば、運転者、運転席以外に座っている乗員、トラックやタクシなどの営業車の運行を管理する管理者、車両制御システムである。
【0020】
ECU4は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、居眠り検出装置1を統括制御する。ECU4では、起動すると、一定時間毎に指標計測手段2からの指標信号を取り入れ、指標信号の指標を各バッファに格納し、一定時間毎の時系列データとして保持する。また、ECU4では、ROMに格納される各プログラムをCPUで実行することによって各部11〜16を構成し、一定時間毎に各部11〜16の処理を行う。
【0021】
居眠り発生履歴格納バッファ10は、RAMの所定の領域に構成され、居眠り発生履歴を格納するためのバッファである。居眠り発生履歴は、居眠り検出装置1が起動してから現在に至るまでに居眠り状態を検出したときのデータの履歴であり、検出したときの時刻や特徴量が閾値THを超えていた時間などのデータからなる。
【0022】
特徴量抽出部11は、指標計測手段2で計測した各指標から居眠り状態を判定するための特徴量を抽出する。抽出される特徴量は、眠気に応じて変化するパラメータであり、眠気が強くなるほど値が大きくなるように設定される。さらに、特徴量抽出部11は、各指標の特徴量から居眠り状態を判定するための閾値THの基本値を求める。
【0023】
ここでは、特徴量を抽出する一例として心拍センサで計測された心拍から特徴量を抽出する場合について説明する。まず、特徴量抽出部11では、心拍の時系列データにバンドパスフィルタ処理を施し、心拍の時系列データから所定の通過帯域(例えば、0.1Hz〜30Hz)の成分を取り出す。次に、特徴量抽出部11では、心拍の時系列データから心拍タイミング検出用の閾値TH以上となっている波形部分を切り出す。そして、特徴量抽出部11では、切り出した波形部分が最大となるタイミングを1とし、他のタイミングを0として2値化する。次に、特徴量抽出部11では、2値化した1となる各心拍タイミングtから次の1となる心拍タイミングti+1までの時間を求め、その時間間隔(ti+1−t)を各心拍タイミングtに付与する。この各心拍タイミングtに付与される時間情報が、心拍周期の情報となる。次に、特徴量抽出部11では、心拍周期の情報を補完して心拍周期の曲線を求め、心拍周期の時系列データを得る。
【0024】
次に、特徴量抽出部11では、任意のタイムスタンプである基準時間Tより前の解析単位区間幅Ttermにおける心拍周期の時系列データに対して高速フーリエ変換処理を施す。次に、特徴量抽出部11では、高速フーリエ変換によって解析単位区間幅Tterm毎に得られたパワースペクトルにおいて予め設定した周波数帯帯域毎に振幅パワースペクトルに対して積分処理を施す。周波数帯帯域は、計測される心拍についてゆらぎ(変化)が強く現れる周波数帯帯域とすればよい。そして、特徴量抽出部11では、一定時間が経過して基準時間Tになる毎に、解析単位区間幅Ttermにおける心拍周期の時系列データに対して高速フーリエ変換処理を施し、解析単位区間幅Tterm毎に振幅パワースペクトルに対して積分処理を施す。ここで得られる振幅スペクトルパワーの時系列データが、心拍ゆらぎの時系列データである。
【0025】
次に、特徴量抽出部11では、心拍ゆらぎの時系列データに対して微分処理を施す。次に、特徴量抽出部11では、現在時刻tからtd前の時刻を終端とする解析区間幅Aを設定する。そして、特徴量抽出部11では、解析区間幅Aでの心拍ゆらぎの微分値の時系列データの平均値meanと標準偏差sdを算出し、式(1)により閾値THを算出する。
【0026】
【数1】

【0027】
平均値meanから標準偏差sdの3倍離れた値を閾値THに設定するで、心拍ゆらぎ微分値が閾値THを超えることは99%あり得なことになり、統計的に有意差のある心拍ゆらぎの特徴的変化を検出することができる。
【0028】
次に、特徴量抽出部11では、各時刻毎に心拍ゆらぎの微分値が閾値THを超えたか否かを判定する。現在時刻tから過去に遡って一定時間に、心拍ゆらぎの微分値が閾値THを超えていない場合、特徴量抽出部11では、次の時刻t0+1において閾値THを更新する。一方、現在時刻tから過去に遡って一定時間に、心拍ゆらぎの微分値が閾値THを超えている場合、特徴量抽出部11では、次の時刻t0+1において閾値THを更新せずに、閾値THとして現在時刻tの閾値THを維持する。これによって、閾値THを超えた心拍ゆらぎの微分値を閾値設定に用いることを防止し、運転者の眠気の変化を精度良く判定することが可能となる。
【0029】
次に、特徴量抽出部11では、各周波数帯について、心拍ゆらぎの微分値が閾値THを超えた有無を判断する。そして、特徴量抽出部11では、所定の時間間隔毎に、閾値THを超えた心拍ゆらぎの特徴的変化をカウントし、閾値超え密度の時系列データを求める。この閾値超え密度の時系列データは、心拍ゆらぎの特徴的変化の発生頻度であり、居眠り状態を判定するための最終的な特徴量である。
【0030】
次に、特徴量抽出部11では、閾値超え密度の時系列データから時系列データの前半の特定区間Aの時系列データを取り出す。そして、特徴量抽出部11では、特定区間Aにおける時系列データから閾値超え密度最大値MMを抽出し、式(2)により閾値THを算出する。この式(2)で求められる閾値THは、居眠り状態を判定するための閾値の基本値となる。
【0031】
【数2】

【0032】
scaleは任意の実数であり、paramは任意の変数(例1:MM、例2:特定区間Aにおける閾値超え密度の標準偏差)であり、scaleとparamの値は統計的に有意差のあるゆらぎの特徴的変化が検出されるように調整すればよい。
【0033】
居眠り発生履歴判断部12は、居眠り発生履歴に基づいて、居眠り検出装置1が起動してから現在までに居眠り状態を検出したか否かを判定する。居眠り発生履歴に居眠り状態検出のデータがない場合、居眠り発生履歴判断部12は、ハンチング対応部14での処理を実行させずに、居眠り検出部13での処理を実行させる。一方、居眠り発生履歴に居眠り状態検出のデータがある場合、居眠り発生履歴判断部12では、ハンチング対応部14での処理を実行させた後に、居眠り検出部13での処理を実行させる。
【0034】
居眠り検出部13は、特徴量抽出部11で抽出した各指標の特徴量が閾値THを超えているか否かを判定する。この閾値THとしては、ハンチング対応部14での処理を実行している場合にはハンチング対応部14で求めた閾値TH(補正値)を用い、ハンチング対応部14での処理を実行していない場合には特徴量抽出部11で求めた閾値TH(基本値)を用いる。特徴量が閾値THを超えていない場合、居眠り検出部13は、居眠り状態ではないと判定する。特徴量が閾値THを超えた場合、居眠り検出部13は、閾値THを超えている時間を測定し、その測定時間が時間閾値THを超えている場合には居眠り状態と判定する。
【0035】
ここでは、居眠り状態を検出する一例として上記した心拍の特徴量(閾値超え密度の時系列データ)を用いて居眠り状態を検出する場合について説明する。居眠り検出部13では、特徴量抽出部11で求めた心拍の閾値超え密度の時系列データから時系列データの前半の特定区間A以降の時系列データを取り出す。そして、居眠り検出部13では、特定区間A以降の時系列データにおいて閾値THを超えているか否かを判定する。閾値THを超えていない場合、居眠り検出部13では、居眠り状態でないと判定する。一方、閾値THを超えた場合、居眠り検出部13では、閾値THを超えている時間を測定する。この閾値THを超えているデータは、統計的に有意差のあるゆらぎの特徴的変化であり、眠気が強いことを示している。そして、居眠り検出部13では、閾値THを超えている時間が時間閾値THを超えているか否かを判定する。時間閾値THを超えていない場合、居眠り検出部13では、居眠り状態でないと判定する。一方、時間閾値THを超えた場合、居眠り検出部13では、運転者は居眠り状態と判定する。なお、閾値THを超えている時間は、連続的に超えている時間でもよいし、あるいは、所定時間内に離散的に超えている時間の積算時間でもよい。
【0036】
ハンチング対応部14は、特徴量抽出部11で求めた閾値THの基本値から閾値補正量Bを減算し、その減算値を閾値THの補正値とする。閾値補正量Bは、複数の被験者に対する実験に基づいて、眠気の強さの変化と各指標の特徴量の大きさの変化との関係から予め設定される。このように、居眠り検出装置1を起動後に居眠り状態を検出した場合、眠気が強まったり弱まったりを繰り返すハンチング状況に対応するために、閾値THを小さくして、1度目の居眠り状態の検出より居眠り状態を検出し易くする。
【0037】
ここでは、ハインチング対応の一例として上記した心拍の特徴量を用いて閾値THを求める場合について説明する。ハンチング対応部14では、特定区間Aにおける閾値超え密度最大値MMと心拍について設定されている閾値補正量Bを用いて、式(3)により閾値THを算出する。この式(3)で求められる閾値THは、居眠り状態を判定するための閾値の補正値となる。
【0038】
【数3】

【0039】
ここでは、閾値TH(補正値)を式(3)で求めたが、式(2)で求めた閾値TH(基本値)から閾値補正量Bを減算してもよい。
【0040】
居眠り検出有無判断部15は、居眠り検出部13で居眠り状態を検出したか否かを判断する。居眠り検出部13で居眠り状態を検出していない場合、居眠り検出有無判断部15は、居眠り出力部16での処理を実行させない。一方、居眠り検出部13で居眠り状態を検出した場合、居眠り検出有無判断部15では、居眠り出力部16での処理を実行させる。
【0041】
居眠り出力部16は、居眠り状態であることを告知するために、出力信号を出力手段3に送信する。さらに、居眠り出力部16では、居眠り状態検出のデータ(検出時刻、閾値THを超えた時間など)を居眠り発生履歴格納バッファ10に格納する。
【0042】
図2には、眠気の強さF(破線)、特徴量C(実線)、閾値TH(一点鎖線)の時間変化を示している。眠気の強さFは、眠気の官能評価で求められる眠気のレベルであり、D0〜D5までの6段階で表され、D0が最も弱く(覚醒状態)であり、D5が最も強い。特徴量Cは、眠気が強いときに大きくなるような特徴量である。眠気の強さFが1度目のピークF1になったときには、特徴量Cが閾値TH(基本値)を所定時間超えているので、居眠り状態が検出される。このあと、居眠り状態が検出されたので、閾値THは基本値から小さい値(補正値)に変更される。そのため、眠気の強さFが2度目のピークF2になったときには、特徴量Cが1度目のピークF1のときより小さくなっているが、特徴量Cが閾値TH(補正値)を所定時間超えているので、居眠り状態が検出される。
【0043】
運転者が眠気を我慢している場合、眠気が強くなるピークが繰り返し、眠気の強さが変化(ハンチング)する。この眠気の強さは、各ピーク時には大きさがほとんど変わらない。しかし、眠気に対応して変化する特徴量は、1回目の眠気のピーク時より2回目の眠気のピーク時の方が小さくなっている。これは、眠気を我慢しているために、疲労が蓄積し、体調(心拍活動など)が低下したために特徴量が小さくなったと考えられる。そのため、閾値THを基本値のまま維持すると、2回目以降の眠気のピーク時には、眠気が強いにもかかわらず特徴量が閾値THに達しないため、居眠り状態を検出することができない。しかし、閾値THを基本値から小さくすることによって、2回目以降の眠気のピーク時にも、特徴量が閾値THを超え、居眠り状態を検出することができる。
【0044】
ちなみに、運転者が眠気を我慢しているときに、十分な休息を取り、体を休めた場合、蓄積した疲労も回復し、体調も戻る。その後、運転を再開すると、体調が戻った状態からの居眠り検出となるので、閾値THを基本値としても、居眠り状態を検出することができる。したがって、居眠り発生履歴は、居眠り検出装置1が起動時には前回データが消去され、起動後のデータしか格納されない。
【0045】
図3には、眠気の強さF(破線)、心拍の特徴量としての閾値超え密度の時系列データC(実線)、閾値TH(一点鎖線)の時間変化を示している。この時系列データCの最初の特定区間Aのデータを用いて閾値THの基本値が求められる。そして、特定区間A以降の時系列データCが閾値THの基本値と比較され、時系列データCが閾値TH(基本値)を離散的に所定時間以上超えているので、居眠り状態が検出される。このあと、居眠り状態が検出されたので、閾値THは基本値から小さい値(補正値)に変更される。閾値超え密度の大きさとしては時系列データCの後半部分では前半部分より小さくなっているが、閾値TH(補正値)も小さくなっており、時系列データCの後半部分でも閾値THを離散的に所定時間以上超えているので、居眠り状態が検出される。
【0046】
ここでは、眠気状態として検出する目標レベルとしては、眠気の強さのD2レベルとしている。したがって、閾値THを小さくしないと、時系列データCの後半部分では眠気の強さのD2以上を検出することができない。しかし、居眠り状態を検出後に閾値THを小さくすることによって、時系列データCの後半部分でも眠気の強さのD2を検出することが可能となる。
【0047】
図1を参照して、居眠り検出装置1の動作について説明する。特に、ECU4における処理については図4にフローチャートに沿って説明する。図4は、図1のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【0048】
運転者がエンジンを始動すると、居眠り検出装置1が起動する。居眠り検出装置1では、起動時には居眠り発生履歴にデータが格納されていない。そして、居眠り検出装置1では、起動後、以下の動作を繰り返し行う。
【0049】
指標計測手段2では、運転者から指標を計測し、その計測した値を指標信号としてECU4に送信する。ECU4では、指標信号を受信し、指標のデータを所定のバッファに格納する(S1)。これによって、指標の時系列データが生成されてゆく。そして、ECU4では、指標の時系列データから特徴量を抽出するとともに、その特徴量から居眠り状態判定用の閾値THの基本値を求める(S2)。
【0050】
ECU4では、居眠り発生履歴に基づいて、起動後に居眠り状態を検出したか否かを判定する(S3)。S3にて起動後に居眠り状態を検出したと判定した場合、ECU4では、眠気のハンチングに対応するために、閾値THの基本値から閾値補正量Bを減算して閾値THの補正値を求める(S4)。
【0051】
S3にて起動後に居眠り状態を検出したと判定した場合又はS4の処理を実行すると、ECU4では、特徴量が閾値THを超えるか否かを判定する(S5)。S4の処理を実行している場合(居眠り状態検出有りの場合)、閾値THとしては補正値(小さい値)であり、居眠り状態の検出レベルが通常より緩和されている。S4の処理を実行していない場合(居眠り状態検出無しの場合)、閾値THとして基本値(大きい値)であり、居眠り状態の検出レベルが通常レベルである。特徴量が閾値THを超えていない場合、ECU4は、居眠り状態ではないと判定する(S5)。特徴量が閾値THを超えている場合、ECU4では、閾値THを超えている時間が時間閾値THを超えている場合には居眠り状態検出と判定し、時間閾値THを超えていない場合には居眠り状態でないと判定する(S5)。
【0052】
ECU4では、S5での処理での居眠り状態検出の有無を判定する(S6)。S6にて居眠り状態検出無しと判定した場合、ECU4では、今回の処理を終了し、一定時間経過後に次回の処理を行う。S6にて居眠り状態検出有りと判定した場合、ECU4では、出力信号を出力手段3に送信する(S7)。出力信号を受信すると、出力手段3では、運転者が居眠り状態であること知らせるための出力を行う。この出力によって、運転者が居眠り状態であることに気づきあるいは運転者以外の者が運転者が居眠り状態であることに知って運転者を喚起する。これによって、運転者の眠気が弱まってゆくか、あるいは、運転者が休息を取る。さらに、ECU4では、居眠り状態検出データを居眠り発生履歴にバッファリングして今回の処理を終了し(S8)、一定時間経過後に次回の処理を行う。
【0053】
この居眠り検出装置1によれば、居眠り状態の検出後には居眠り状態を通常より検出し易くすることにより、眠気の強さがハンチングしている状況でも1度目以降の居眠り状態も確実に判定でき、眠気判定精度が向上する。また、居眠り検出装置1によれば、居眠り判定用の閾値THを変更するだけの簡単な方法により、居眠り状態を通常より検出し易くすることができる。
【0054】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0055】
例えば、本実施の形態では車両の運転者の居眠りを判定する居眠り検出装置に適用したが、他の乗り物の運転者、各種プラントの監視者、夜間の従業者などの様々な人の眠気を判定するために利用してもよい。
【0056】
また、本実施の形態では居眠り判定するための装置に適用したが、CD−ROMなどの記憶媒体に格納されたプログラムやインタネットなどのネットワークを介して利用可能なプログラムなどに適用し、このようなプログラムをコンピュータ上で実行することによって居眠りを判定する構成としてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では心拍の特徴量を利用して居眠り状態を判定する一例を示したが、脳波、脈波、呼吸、瞬き、顔や体のアクションなどから求められる眠気に応じて変化する特徴量を利用して居眠り状態を判定する構成としてもよいし、あるいは、これらの特徴量を幾つか組み合わせて居眠り状態を判定する構成としてもよい。また、心拍の特徴量の求める方法も、例で示した方法以外の方法も適用可能である。
【0058】
また、本実施の形態では居眠り発生履歴として居眠り検出装置を起動してから現在に至るまでの居眠り状態検出データを格納するようにしたが、居眠り検出装置の停止から再起動までが短期間の場合(前回の居眠り検出装置の作動中から眠気を我慢するような状態が回復していないような短期間の場合)には居眠り発生履歴として前回の居眠り検出装置の作動中の居眠り状態検出データを格納するようにしてもよい。
【0059】
また、本実施の形態ではハンチング対応処理として閾値THを1段階だけ小さくする構成としたが、居眠り状態が検出された回数に応じて閾値THを段階的に小さくしてゆく構成としてもよい。
【0060】
また、本実施の形態では特徴量に対する閾値THを変更することによって居眠り状態を検出し易くする構成としたが、居眠り状態を検出し易くする方法としては特徴量に対する閾値THを変更する以外の方法でも適用可能であり、例えば、特徴量が閾値THを超えた時間に対する時間閾値THを変更することによって居眠り状態を検出し易くするようにしてもよいし、特徴量を求めるときに居眠り状態と検出され易い特徴量として求めるようにしてもよい。
【0061】
また、本実施の形態では特徴量から居眠り状態判定用の閾値THを求める構成としたが、閾値THを予め設定した値としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施の形態に係る居眠り検出装置の構成図である。
【図2】眠気強さ、居眠り判定用の特徴量、居眠り判定用の閾値の関係を示すグラフである。
【図3】居眠り検出の一例として心拍を利用した場合の心拍の特徴量と居眠り判定用の閾値の関係を示すグラフである。
【図4】図1のECUにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1…居眠り検出装置、2…指標計測手段、3…出力手段、4…ECU、10…居眠り発生履歴格納バッファ、11…特徴量抽出部、12…居眠り発生履歴判断部、13…居眠り検出部、14…ハンチング対応部、15…居眠り検出有無判断部、16…居眠り出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の眠気を判定する眠気判定装置であって、
被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段で抽出した特徴量に基づいて被験者の眠気を判定する眠気判定手段と、
前記眠気判定手段の判定結果に基づいて被験者の過去の眠気判定履歴を記憶する記憶手段と
を備え、
前記眠気判定手段は、前記記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くすることを特徴とする眠気判定装置。
【請求項2】
前記眠気判定手段は、前記記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合、眠気判定閾値を緩和することを特徴とする請求項1に記載する眠気判定装置。
【請求項3】
前記眠気判定履歴は、被験者に対する眠気判定を開始してから継続して現在に至るまでの履歴であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載する眠気判定装置。
【請求項4】
被験者の眠気を判定するための眠気判定プログラムであって、
コンピュータに、
被験者の眠気に応じて変化する特徴量を抽出する特徴量抽出機能と、
前記特徴量抽出手段で抽出した特徴量に基づいて被験者の眠気を判定し、当該判定を行うときに記憶手段に記憶されている眠気判定履歴に基づいて過去に眠気有りと判定していた場合には眠気有りと判定していなかった場合と比較して眠気有りと判定し易くする眠気判定機能と
を実現させることを特徴とする眠気判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−35964(P2008−35964A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211212(P2006−211212)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】