説明

眼鏡レンズ

【課題】色相安定性と金型腐食抑制効果を得るとともに、押出圧縮成形等のレンズ成形時の長期高温保持状態にさらされてもポリカーボネート樹脂の黄変が少なく、高温成形耐熱性を有しており、かつ製品屑等を再利用するために再押出し等の熱履歴を加えても色相の変化が小さいという本来の特性を損なうことのないポリカーボネート樹脂製眼鏡レンズを提供する。
【解決手段】(1)総塩素量500ppm以下のポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(2)スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体であるエポキシ化合物0.003〜0.2重量部、(3)脂肪酸エステル系離型剤0.05〜0.5重量部、(4)ヒンダードフェノール酸化防止剤0.01〜0.3重量部、(5)ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線安定剤0.1〜0.4重量部、および(6)リン系熱安定剤0.005〜0.1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物より成形された眼鏡レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、金型腐食抑制、耐沸水性、成形耐熱性に優れ、且つリプロ性能が高く熱履歴を有しても黄色化が少ない、色相安定性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を使用した眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は高屈折率で透明性や耐衝撃性に優れた特性を有し、最近はレンズの素材、なかでも眼鏡レンズの素材として幅広く使用されている。ポリカーボネート樹脂製の眼鏡レンズは、従来のガラスレンズや注型重合による特許文献1に示されるようなプラスチックレンズより薄くて、軽くて、衝撃強度が著しく高く、したがって安全で、かつ機能性が高いため、眼鏡レンズとして視力補正用レンズ、サングラスおよび保護眼鏡等に用いられるようになってきた。例えば、特許文献2には、眼鏡レンズ用のポリカーボネート樹脂組成物が示されている。
【0003】
ポリカーボネート組成物を用いて射出成形するときにはスプルー部,ランナー部及びゲート部などの製品屑等を再利用するため熱履歴が加わりレンズ自身が色相悪化(黄色化)するという欠点があった。加えて眼鏡レンズの成形法に、押出圧縮成形という特殊な成形法が用いられることがあり、ポリカーボネート樹脂成形品に射出圧縮成形に比べ長い時間熱履歴が加わるため射出圧縮成形に比べて眼鏡レンズ成形品の色相悪化傾向が見られる。これまで述べてきたように、押出圧縮成形法、射出圧縮成形法,射出押出成形法,射出プレス成形法など様々な成形法を用いて眼鏡レンズは成形されている。前述したような成形法に共通していることとして、熱履歴に強い材料が求められているということであり、成形温度も成形メーカーによってそれぞれまったく異なっていることが多く、その中で350℃以上の高温条件下で成形を行っているところも少なくない。
【0004】
すなわち、黄変の少ない色相に優れるポリカーボネート樹脂組成物としてリペレット性、高温条件下における長期熱安定性及び350℃以上の高温成形における熱安定性のすべてが求められているという現状にある。
【0005】
また、ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されるポリカーボネート樹脂においては、有機溶媒として例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等の塩素系有機溶媒が用いられる。これら微量の塩素系有機溶媒や各種添加剤の分解によって生じる酸性物質および添加剤に含まれる酸性の不純物等が金型表面に付着した状態で湿気に晒される事によって、金型の腐食が著しく促進されると考えられており、グリセリンモノステアレートなどの高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステルをポリカーボネート樹脂に添加する事で金型腐食の抑制に効果があるポリカーボネート樹脂組成物が得られる事が開示されている(特許文献3)。さらには脂環式エポキシ化合物をポリカーボネート樹脂に添加する事で金型の腐食を抑制するポリカーボネート樹脂組成物が開示されている(特許文献4)が、いずれも眼鏡レンズ部材に求められる特性の全てを満足するものではなかった。
【0006】
さらに、眼鏡レンズ部材は人の目に直接触れるため、成形に用いられるポリカーボネート樹脂には色相安定性が強く求められる。ポリカーボネート樹脂組成物中のイオウ含有酸性化合物やリン系化合物がエポキシ化合物と反応し、中和作用を得ることで分子量低下や着色が抑制されて品質の向上されたポリカーボネート樹脂組成物が得られる事が開示されている(特許文献5)が、その効果の程度が明確でなく、さらには眼鏡レンズ部材に求められる特性のすべてを満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−288289号公報
【特許文献2】特開2006−154783号公報
【特許文献3】特公昭62−034791号公報
【特許文献4】特許第2579653号公報
【特許文献5】特開平05−239332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、色相安定性と金型腐食抑制効果を得るとともに、押出圧縮成形等のレンズ成形時の長期高温保持状態にさらされてもポリカーボネート樹脂の黄変が少なく、高温成形耐熱性を有しており、かつ製品屑等を再利用するために再押出し等の熱履歴を加えても色相の変化が小さいという本来の特性を損なうことのないポリカーボネート樹脂製眼鏡レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するため、ポリカーボネート樹脂組成物に用いるエポキシ化合物、離型剤,熱安定剤、紫外線吸収剤について鋭意研究した結果、特定のエポキシ化合物を特定量用い、特定の離型剤さらには特定の熱安定剤を特定量で用いることで、成形性を阻害することなく、且つレンズの透明性を損なうことなく、成形時の熱による色相変化が改善されることを見出し、本発明に到達したものである。
【0010】
すなわち本発明によれば、
1.(1)総塩素量500ppm以下のポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(2)スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体であるエポキシ化合物0.003〜0.2重量部、(3)脂肪酸エステル系離型剤0.05〜0.5重量部、(4)ヒンダードフェノール酸化防止剤0.01〜0.3重量部、(5)ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線安定剤0.1〜0.4重量部、および(6)リン系熱安定剤0.005〜0.1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物より成形された眼鏡レンズ。
2.脂肪酸エステル系離型剤は、一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルおよびグリセリンと飽和脂肪酸とのトリエステルの混合物である前項1記載の眼鏡レンズ。
3.脂肪酸エステル系離型剤は、ペンタエリスリトールと飽和脂肪酸とのフルエステルである前項1記載の眼鏡レンズ。
4.ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ペンタエリスリトール骨格を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤である前項1記載の眼鏡レンズ。
5.ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤は、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールである前項1記載の眼鏡レンズ。
6.ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤は、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]である前項1記載の眼鏡レンズ。
7.リン系熱安定剤は、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル骨格を有するリン系熱安定剤である前項1記載の眼鏡レンズ。
8.ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットの総塩素量が50ppm以下である請求項1記載の眼鏡レンズ。
9.ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、単軸押出機にて280℃で連続して2回の再押出成形して得られたペレットの色相変化(ΔE)が2.5以下である前項1記載の眼鏡レンズ。
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
「二軸押出機で成形して得られたペレット(バージンペレット)」の色相:L、a、b
「単軸押出機にて再押出成形して得られたペレット(リペレット)」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L−L’
Δa:a−a’
Δb:b−b’
10.ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、射出成形機にてシリンダー温度300℃、金型温度105℃、1分サイクルで成形して得られた5mm厚成形板50枚のYI値の最大値と最小値の差が0.15以下である前項1記載の眼鏡レンズ。
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られる眼鏡レンズは、優れた耐衝撃性、透明性、紫外線遮断性、色相安定性、金型腐食抑性、耐沸水性、成形耐熱性を維持したまま、且つリプロ性能が高く熱履歴を有しても黄色化が少ないので、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】金型腐食性の評価に使用した金型(キャビティーサイズ横42mm×縦24mm×深さ3mmt、金型鋼材NAK80にて作成した腐食評価用入れ子(20mmφ)挿入)の概要図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂である。ここで用いる二価フェノールの具体例としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これら二価フェノールは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0014】
前記二価フェノールのうち、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を主たる二価フェノール成分とするのが好ましく、特に全二価フェノール成分中70モル%以上、特に80モル%以上がビスフェノールAであるものが好ましい。最も好ましいのは、二価フェノール成分が実質的にビスフェノールAである芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0015】
ポリカーボネート樹脂を製造する基本的な手段を簡単に説明する。カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる溶液法では、通常酸結合剤および有機溶媒の存在下に二価フェノール成分とホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノールやp−tert−ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。
【0016】
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノール成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌し、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法である。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応させる。また反応を促進するために通常のエステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等があげられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0017】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、総塩素量が500ppm以下であり、好ましくは400ppm以下である。総塩素量が500ppmを超えると色相安定性や金型腐食性に劣り好ましくない。ポリカーボネート樹脂中の総塩素量は、理学電機工業(株)製 走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IIを用いて測定される。
【0018】
総塩素量が500ppm以下のポリカーボネート樹脂を得る方法としては、ポリカーボネート樹脂製造時に使用するハロゲン化炭化水素系の有機溶媒を粉粒化工程後の乾燥工程にて、ポリカーボネート樹脂粉粒体を高温で長時間乾燥させる方法等により得ることができる。
【0019】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して1.7×10〜3.0×10が好ましく、2.0×10〜2.6×10が特に好ましい。眼鏡レンズは精密成形であり、金型の鏡面を正確に転写して規定の曲率、度数を付与することが重要であり、溶融流動性のよい低粘度の樹脂が望ましいが、あまりに低粘度過ぎるとポリカーボネート樹脂の特徴である衝撃強度が保持できない。ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計を用いて塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には金型腐食抑制、眼鏡レンズ成形品の色相安定性ならびに良好な耐沸水性を付与するという目的でエポキシ化合物を添加する。そして、本発明における眼鏡レンズ部材に用いられる成形品の場合には、色相安定性と押出圧縮成形という長期熱履歴に耐えうる特性が必要である。このようなエポキシ化合物として、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体が使用される。
【0021】
上記のエポキシ化合物の添加量としては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.003〜0.2重量部が必要である。好ましくは0.004〜0.15重量部であり、より好ましくは0.005〜0.1重量部であり、さらに好ましくは0.005〜0.05重量部、特に好ましくは0.005〜0.02重量部である。エポキシ化合物の添加量が0.003重量部未満だと、本発明のポリカーボネート樹脂を成形する際の金型腐食の抑制効果が十分でなく、また耐沸水性の改善効果が十分でない。エポキシ化合物の添加量が0.2重量部を超えるとポリカーボネート樹脂の耐熱性およびリペレット性が悪化し、結果として成形品の色相安定性に悪影響を及ぼす問題がある。
【0022】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には溶融成形時において眼鏡レンズの樹脂成形品の金型からの離型性を向上させるために、脂肪酸エステル系離型剤が配合される。
脂肪酸エステル系離型剤としては、炭素原子数1〜20の一価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのエステル及び炭素原子数1〜25の多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の離型剤が使用される。好ましくはペンタエリスリトールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのフルエステルである離型剤が使用される。
【0023】
具体的に一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルとしては、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等が挙げられ、なかでもステアリルステアレートが好ましい。
【0024】
具体的に多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミネート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステルまたは部分エステル等が挙げられる。
【0025】
これらの離型剤は1種または2種以上が使用される。上記脂肪酸エステルのなかでも、一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルおよびグリセリンと飽和脂肪酸とのトリエステルの混合物、グリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリントリステアレーとステアリルステアレートとの混合物が好ましく使用される。
【0026】
離型剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.05〜0.5重量部であり、より好ましくは0.08〜0.4重量部、特に好ましくは0.1〜0.3重量部である。配合量が0.05重量部より少ない場合には、良好な離型性が得られず、0.5重量部を超えると眼鏡レンズの変色が悪化する。
【0027】
離型剤は、当該業者で知られるその他の離型剤とも併用可能であるが、併用した場合でも脂肪酸エステル系離型剤の含有量は0.05〜0.5重量部であり、離型剤の主成分であることが好ましい。
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が配合される。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばトリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートおよび3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。なかでも、ペンタエリスリトール骨格を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく使用される。特に、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0029】
これらヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01〜0.3重量部であり、より好ましくは0.02〜0.25重量部、特に好ましくは0.03〜0.2重量部である。配合量が0.01重量部より少ない場合には十分なリペレット性が得られないことに加え、成形品の色相安定性に悪影響を及ぼす。反面、0.3重量部を超えると、成形時の金型付着物の増加や機械物性の低下に繋がる可能性がある。
【0030】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤が配合される。ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−4′−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルが挙げられ、これらを単独あるいは2種以上の混合物で用いることができる。
【0031】
好ましくは、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾ−ルであり、より好ましくは、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]である。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.1〜0.4重量部であり、好ましくは0.12〜0.3重量部であり、より好ましくは0.15〜0.2重量部である。ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤の配合量が0.4重量部を超えると成形時に紫外線吸収剤が昇華し、眼鏡レンズの曇価(ヘイズ)が増大したり、色相の悪化を招く。また、紫外線吸収剤の配合量が0.1重量部未満であると紫外線吸収性能が不充分である。
【0033】
本発明の樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲でベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤以外のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤などを配合することができる。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、リン系熱安定剤が配合される。リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。なかでも、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル骨格を有するリン系熱安定剤が好ましく使用される。
【0035】
好ましくは、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトが使用され、特に好ましくはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが使用される。
【0036】
これらリン系熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005〜0.1重量部であり、より好ましくは0.008〜0.08重量部、特に好ましくは0.01〜0.05重量部である。配合量が0.005重量部より少ない場合には目的とするポリカーボネート樹脂の高温帯での安定化効果が少なくなり、0.1重量部を超えると成形品の色相安定化や乾熱性、曇価(ヘイズ)に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中には、眼鏡レンズに成形した場合、ポリカーボネート樹脂や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としてはポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアントラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0038】
具体的なブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名SolventViolet36[CA.No 68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[商標名バイエル社製「マクロレックスブルーRR」]および一般名SolventBlue45[CA.No 61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]が代表例として挙げられる。これらブルーイング剤は通常0.3〜1.2ppmの濃度でポリカーボネート樹脂中に配合される。あまりに多量のブルーイング剤を配合するとブルーイング剤の吸収が強くなり、視感透過率が低下してくすんだレンズとなる。特に視力補正用眼鏡レンズの場合、厚肉部と薄肉部がありレンズの厚みの変化が大きいので、ブルーイング剤の吸収が強いと、レンズの中央部と外周部に肉厚差による色相差が生じ、外観が著しく劣るレンズとなる。
【0039】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない量の硫黄系熱安定剤を使用することができる。該熱安定剤としては、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3、3’−チオジプロピオネート等が挙げられ、なかでもペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネートが好ましい。特に好ましくはペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である。該チオエーテル系化合物は住友化学工業(株)からスミライザーTP−D(商品名)およびスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に利用できる。ポリカーボネート樹脂中の硫黄系熱安定剤の含有量としては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましい。
【0040】
本発明のポリカーボネート樹脂には、さらに本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、熱線遮蔽剤、蛍光増白剤、顔料、光拡散剤、強化充填剤、他の樹脂やエラストマー等を配合することができる。
【0041】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットの総塩素量が50ppm以下であることが好ましい。ペレット中の総塩素量が50ppm以下であれば、色相安定性や金型腐食性に優れることとなり好ましい。
【0042】
本発明の眼鏡レンズの成形用材料として使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、単軸押出機にて280℃で連続して2回の再押出成形して得られたペレットの色相変化(ΔE)が2.5以下であることが好ましい。各ペレットの色相(L、a、b)値はJIS K−7105に従って、C光源反射法で測定され、色相変化(ΔE)は下記式により求められる。
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
「二軸押出機で成形して得られたペレット(バージンペレット)」の色相:L、a、b
「単軸押出機にて再押出成形して得られたペレット(リペレット)」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L−L’
Δa:a−a’
Δb:b−b’
【0043】
本発明の眼鏡レンズの成形用材料として使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形機でシリンダー温度370℃、金型温度80℃、1分サイクルにて成形して得られた成形板と10分滞留後に得られる成形板の色相変化(ΔE’)が0.4以下であることが好ましい。各成形板の色相(L、a、b)値はJIS K−7105に従って、C光源反射法で測定され、色相変化(ΔE’)は下記式により求められる。
ΔE’={(ΔL’)+(Δa’)+(Δb’)1/2
「滞留前の成形板」の色相:L’’、a’’、b’’
「滞留後の成形板」の色相:L’’’、a’’’、b’’’
ΔL’:L’’−L’’’
Δa’:a’’−a’’’
Δb’:b’’−b’’’
【0044】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、射出成形機にてシリンダー温度300℃、金型温度105℃、1分サイクルで成形して得られた5mm厚成形板50枚のYI値の最大値と最小値の差が0.15以下であることが好ましい。
【0045】
本発明でいう眼鏡レンズとは、特に限定されるものではなく、成形の時点でレンズの凸面および凹面共にガラスモールド面の転写によって光学的に仕上げ、所望の度数にあわせて成形されるフィニッシュレンズと凸面のみフィニッシュレンズと同様に光学的に仕上げられ、後に受注等による所望の度数に合わせて凹面側を光学的に仕上げるセミフィニッシュレンズの両者を指す。セミフィニッシュレンズは、必要な凹面加工に合わせて、カーブジェネレータもしくはNC制御されたバイト等によって研削もしくは切削され、必要に応じて平滑処理(ファイニング)が施され、この切削もしくは研削、平滑化(ファイニング)された面を、研磨剤および研磨布を介在させた研磨皿や柔軟性を有する研磨工具等を用いて研磨加工し、鏡面化させ光学的に仕上げ、その後、フィニッシュレンズも研磨されたセミフィニッシュレンズも、洗浄し、傷や異物などの検査を行い、さらに、レンズに所望に応じた色を付ける染色工程、プラスチックレンズのキズ付易さをカバーするための硬化膜を形成するハードコート処理工程、レンズの表面反射を低減し透過率を向上させる反射防止膜の成膜工程などを行って完成品として出荷され、各ユーザーで使用されるものが一般的である。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお評価は下記の方法で実施した。
【0047】
(1)総塩素量:ポリカーボネート樹脂粉末または各実施例で得たバージンペレットについて、理学電機工業(株)製 走査型蛍光X線分析装置ZSX Primus IIを用いて総塩素量を測定した。
【0048】
(2)透明性:各実施例で得たバージンペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度350℃、金型温度80℃、1分サイクルにて成形して得た成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)について、日本電色(株)製NDH−2000を用いて、ISO14782に準じてHazeを測定した。Hazeの数値が大きいほど光の拡散が大きく、透明性に劣ることを示す。
【0049】
(3)色相(リプロ性)の評価:各実施例で得たバージンペレットとリペレットをJIS K−7105に従って、色相(L、a、b)を日本電色社製SE−2000を用いてC光源反射法で測定し、次式により色差ΔEを求めた。ΔEが小さいほどリプロ性が優れることを示す。
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
「バージンペレット」の色相:L、a、b
「リペレット」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L−L’
Δa:a−a’
Δb:b−b’
【0050】
(4)高温耐熱性:各実施例で得たバージンペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いてシリンダー温度370℃、金型温度80℃、1分サイクルにて成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を成形した。連続して20ショット成形した後、該射出成形機のシリンダー中に樹脂を10分滞留させ、滞留後の成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を成形した。滞留前後の平板の色相(L,a,b)をJIS K−7105に従って、色相(L、a、b)を日本電色工業社製SE−2000を用いてC光源反射法で測定し、次式により色差ΔE’を求めた。ΔE’が小さいほど耐熱性が優れることを示す。
ΔE’={(ΔL’)+(Δa’)+(Δb’)1/2
「滞留前の成形板」の色相:L’’、a’’、b’’
「滞留後の成形板」の色相:L’’’、a’’’、b’’’
ΔL’:L’’−L’’’
Δa’:a’’−a’’’
Δb’:b’’−b’’’
【0051】
(5)耐沸水性:最大型締め力が85Tonの射出成形機にて、シリンダー温度350℃、金型温度80℃の条件で、1分サイクルにて成形して得た成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を、ヤマト科学(株)製オートクレーブSN510を使用して、温度120℃、湿度100%の条件で48時間処理した。処理前後のHazeを、日本電色(株)製NDH−2000を用いて、ISO14782に準じて測定し、処理前後のHazeの変化(ΔHaze)を下記式にて求めた。ΔHazeが大きいほど耐沸水性に劣る事を示す。
ΔHaze = 処理後の成形板のHaze − 処理前の成形板のHaze
【0052】
(6)色相安定性:各実施例で得たバージンペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いてシリンダー温度300℃、金型温度105℃、1分サイクルにて成形して得た成形板(縦70mm×横50mm×厚み5mm)を成形した。成形は連続して50ショット行い、各ショットで得られた成形板のYI(黄色度)をグレータマクベス社製Color−Eye7000Aを用いてC光源、視野角2°、透過法で測定した。測定にて得られたYI値の範囲(最大値と最小値の差)とその平均値を算出した。
【0053】
(7)金型腐食性
図1に示す形状の金型(キャビティーサイズ横42mm×縦24mm×深さ3mmt、金型鋼材NAK80にて作成した腐食評価用入れ子(20mmφ)挿入)を用いて最大型締め力が85Tonの射出成形機にて500ショット連続成形した後、腐食評価用入子を金型から取り外し、50℃×90%RHに設定した恒温恒湿機に2時間入れた後外観観察を目視にて行い、金型鏡面の腐食の有無を判定した。尚、判定基準は以下のとおりである。
○:腐食は鏡面の5%未満である
△:鏡面の5〜50%に腐食が認められる
×:鏡面の50%を超えて腐食が認められる
【0054】
(8)眼鏡レンズ成形品のYI(黄色度)の評価:各実施例で得たバージンペレットを用いて、350℃にて可塑化溶融されたバージンペレットを温度200℃に設定された金型に注入し、圧力約1700psiの圧力下にて室温23℃で約10分間冷却する押出圧縮成形法にて、直径80mm、淵の厚さ9mm、度数−2.0の眼鏡レンズ成形品を作成した。得られた眼鏡レンズ成形品のYI(黄色度)をグレータマクベス社製Color−Eye7000Aを用いてC光源、視野角2°、透過法で測定した。
【0055】
[実施例1]
常法によりビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量23,900、総塩素量357ppmのポリカーボネート樹脂粉粒体100部に、下記エポキシ化合物(E−1)0.0075部、離型剤として下記脂肪酸エステル系離型剤(R−1)0.25部、下記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(A−1)0.10部、紫外線吸収剤として2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(UV−1)0.20部、下記リン系熱安定剤(A−2)0.01部、およびブルーイング剤として下記式(I)で示される化合物を0.58ppmを添加し、タンブラーにて充分混合した後に、30mmΦベント式二軸押出成形機により温度290℃、真空度4.7kPaでペレット化した(バージンペレット)。さらにリペレットによる色相変化を観察するために、バージンペレットを30mmΦベント式単軸押出成形機にて280℃で連続して2回のペレット化を実施しリペレットを得た。これらのバージンペレットとリペレットを上記評価方法に従って評価した。その評価結果を表1に示した。
【0056】
【化1】

【0057】
[実施例2〜6、比較例1〜6]
表1記載のポリカーボネート樹脂粉粒体、エポキシ化合物、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、リン系熱安定剤を表1記載の量使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。その評価結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
[実施例7]
常法によりビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量22,400、総塩素量211ppmのポリカーボネート樹脂粉粒体100部に、下記エポキシ化合物(E−1)0.0075部、離型剤として下記脂肪酸エステル系離型剤(R−1)0.25部、下記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(A−1)0.10部、紫外線吸収剤として2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール](UV−2)0.18部、下記リン系熱安定剤(A−2)0.01部、下記リン系熱安定剤(A−3)0.02部、および上記式(I)で示されるブルーイング剤0.50ppmを添加し、タンブラーにて充分混合した後に、30mmΦベント式二軸押出成形機により温度290℃、真空度4.7kPaでペレット化した(バージンペレット)。さらにリペレットによる色相変化を観察するために、バージンペレットを30mmΦベント式単軸押出成形機にて280℃で連続して2回のペレット化を実施しリペレットを得た。これらバージンペレットとリペレットを上記評価方法に従って評価した。その評価結果を表2に示した。
【0060】
[実施例8〜12、比較例7〜12]
表2記載のポリカーボネート樹脂粉粒体、エポキシ化合物、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、リン系熱安定剤を表2記載の量使用する以外は、実施例7と同様の操作を行った。その評価結果を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
[実施例13〜14]
上記実施例1、実施例7で得られたバージンペレットを、成形機NISSEI ES4000を用いて、直径70mm,淵の厚さ3mm,度数−1.2の眼鏡レンズ成形品を成形した。成形条件は、310℃にて可塑化溶融されたバージンペレットを温度130℃設定された金型に注入し、プレスストローク3.2mmにて射出プレス成形を行った。そのときのサイクル時間は240秒で行った。金型は眼鏡レンズ成形品を1度の射出プレスで6個作ることができるものを用いた。
得られた眼鏡レンズ成形品をそれぞれ粉砕し、上記実施例1、実施例7で得られたバージンペレット80部に眼鏡レンズ成形品の粉砕品をそれぞれ20部添加した。この混合物を用いて同条件にて射出プレス成形を行った。
バージンペレットを使用して得られた眼鏡レンズ成形品および混合物を使用して得られた眼鏡レンズ成形品のYI(黄色度)を測定した結果を表3に示した。YI(黄色度)はグレータマクベス社製Color−Eye7000Aを用いてC光源、視野角2°、透過法で測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
なお、表1および表2記載の各記号は下記の化合物を示す。
(ポリカーボネート樹脂粉粒体)
PC−1;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量23,900、総塩素量635ppmのポリカーボネート樹脂粉末を140℃に設定した熱風循環乾燥機内に厚さ1cmの状態で4hr乾燥させた総塩素量357ppmのポリカーボネート樹脂粉末
PC−2;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量23,900、総塩素量635ppmのポリカーボネート樹脂粉末
PC−3;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量22,400、総塩素量554ppmのポリカーボネート樹脂粉末を140℃に設定した熱風循環乾燥機内に厚さ1cmの状態で4hr乾燥させた総塩素量211ppmのポリカーボネート樹脂粉末
PC−4;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量22,400、総塩素量554ppmのポリカーボネート樹脂粉末
(エポキシ化合物)
E−1;スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体(日油(株)製:マープルーフG−0250SP(商品名))
E−2;メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体(日油(株)製:マープルーフG−0150M(商品名))
E−3;エポキシ化大豆油(日油(株)製:ニューサイザー510R(商品名))
(離型剤)
R−1;ステアリン酸トリグリセリドとステアリルステアレートの混合物(理研ビタミン社製:リケマールSL−900A(商品名))
R−2;ペンタエリスリトールテトラステアレート(コグニスジャパン製:VPG−861(商品名))
(紫外線吸収剤)
UV−1;2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−2;2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]
(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
A−1;ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
(リン系熱安定剤)
S−1;トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト
S−2;以下のa−1成分、a−2成分およびa−3成分の71:15:14(重量比)の混合物
a−1成分:テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトの100:50:10(重量比)混合物
a−2成分:ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトの5:3(重量比)混合物
a−3成分:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、眼鏡レンズとして有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 ゲート
2 スプルー
3 腐蝕評価用入れ子(鋼材NAK80、20mmφ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)総塩素量500ppm以下のポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(2)スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体であるエポキシ化合物0.003〜0.2重量部、(3)脂肪酸エステル系離型剤0.05〜0.5重量部、(4)ヒンダードフェノール酸化防止剤0.01〜0.3重量部、(5)ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線安定剤0.1〜0.4重量部、および(6)リン系熱安定剤0.005〜0.1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物より成形された眼鏡レンズ。
【請求項2】
脂肪酸エステル系離型剤は、一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルおよびグリセリンと飽和脂肪酸とのトリエステルの混合物である請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
脂肪酸エステル系離型剤は、ペンタエリスリトールと飽和脂肪とのフルエステルである請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ペンタエリスリトール骨格を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤である請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤は、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールである請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
ベンゾトリアゾール骨格を有する紫外線吸収剤は、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]である請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
リン系熱安定剤は、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル骨格を有するリン系熱安定剤である請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項8】
ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットの総塩素量が50ppm以下である請求項1記載の眼鏡レンズ。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、単軸押出機にて280℃で連続して2回の再押出成形して得られたペレットの色相変化(ΔE)が2.5以下である請求項1記載の眼鏡レンズ。
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
「二軸押出機で成形して得られたペレット(バージンペレット)」の色相:L、a、b
「単軸押出機にて再押出成形して得られたペレット(リペレット)」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L−L’
Δa:a−a’
Δb:b−b’
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂組成物は、該ポリカーボネート樹脂組成物を二軸押出機で成形して得られたペレットを、射出成形機にてシリンダー温度300℃、金型温度105℃、1分サイクルで成形して得られた5mm厚成形板50枚のYI値の最大値と最小値の差が0.15以下である請求項1記載の眼鏡レンズ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−118325(P2012−118325A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268376(P2010−268376)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】