説明

眼鏡用プラスチックレンズの保存方法、包装された眼鏡用プラスチックレンズ、および眼鏡用プラスチックレンズ包装体

【課題】分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を含む成分を重合することにより得られる眼鏡用プラスチックレンズを、変色による品質低下を防止しつつ保存する手段を提供する。
【解決手段】分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用プラスチックレンズを、品質を維持しつつ保存する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用プラスチックレンズは、光学面の傷、損傷、汚れなどの防止のため、包装された状態で保管、搬送される。ここで保管、搬送されるレンズとしては、完成品だけではなく、後加工工程(研削、研磨、コーティング)を必要とするレンズ基材、例えば、一方の面が光学的に仕上げられていないレンズブランク(セミフィニッシュレンズブランク)や両面とも光学的に仕上げられていないレンズブランクなどを含む(以下、光学的に仕上げられていない面を有するレンズについては単にレンズブランクとも記す)。また、ここでいう搬送や保管は、完成品の搬送や保管だけではなく、レンズ製造、加工の際の基材レンズの搬送や保管も含む。
【0003】
このようなレンズの包装方法としては、従来から種々の技術が提案、実施されている。例えば、和紙や不織布などからなる傷防止用シートでレンズを包み、紙製のレンズ包装用袋に入れることが一般に行われている。また、傷防止用のシートを別途用いずにレンズ包装用袋の内面に傷防止用の構造を設けることも提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、傷防止用のシートをレンズ表面に貼り付けたり、レンズを入れた袋を真空吸引することによりレンズ表面に傷防止用のシートを密着させることも提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、レンズブランクのように研削しろや研磨しろの分だけ厚く形成されているレンズ基材については、光学的に仕上げられた面を傷つけないように保持する部材でレンズ基材を保持した状態で箱に収納する方法が開示されている(特許文献3および4)。
【0006】
また、空気中の水分の影響による汚れや変形を防止するため外気を遮断するように包装することも提案されている(特許文献5および6)。
【0007】
眼鏡用プラスチックレンズは、眼鏡購入者のオーダに応じて、保管されているレンズの中からレンズを選択し、何らかの加工をする必要がある。例えば眼鏡店では、多くの種類の完成品のレンズを保管しておき、眼鏡装用者のオーダ内容(処方値、フレームの種類、レンズ種類、レンズ形状など)に応じて、該当するレンズを取り出し、オーダ内容に合わせてレンズの縁摺り加工を行い、眼鏡フレームに取り付ける。また、眼鏡店などから注文を受けたメーカーが、工場で加工を行う場合もある。その場合には、眼鏡店からの注文内容に応じて、保管されているレンズ基材から適当なものを取り出し、光学的に仕上げられていない面がある場合には研削や研磨を行い、またオーダに応じた染色やコーティングなどを行い、縁摺り加工をし、そのまま、または眼鏡フレームに取り付けて発注者に納品する。このように、眼鏡用プラスチックレンズは、包装された状態で比較的長期間保管されるのが一般的である。しかし、従来の包装方法では、レンズ保管中にレンズが変色し、オーダに応じて選んだ一組のレンズが、それぞれのレンズの保管期間の違いによって左右で色が異なってしまうという問題が生じる場合がある。
【0008】
ところで、特許文献7には、分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を重合することにより成形体を製造する方法が開示されている。上記成形体は、ポリカーボネートに匹敵する高い強度を有し、眼鏡レンズとして好適なものである。しかし、上記成形体からなるレンズにも、前述の問題が生じる。
【特許文献1】特開平9−216674号公報
【特許文献2】特開平6−347611号公報
【特許文献3】特開平11−11562号公報
【特許文献4】実開平2−121725号公報
【特許文献5】特開平2−98559号公報
【特許文献6】特開平2−109869号公報
【特許文献7】国際公開WO 03/084728号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる状況下、本発明は、分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を含む成分を重合することにより得られる眼鏡用プラスチックレンズを、変色による品質低下を防止しつつ保存する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] 下記成分(A)と下記成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉保存することを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化1】

[2] 前記不活性ガスは窒素ガスである[1]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[3] 前記包装材は、酸素透過度が0.5ml/m2・atm・24h以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[4] 前記包装材は水蒸気の透過を抑制する材質からなることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[5] 前記包装材中に乾燥剤を配置することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[6] 前記眼鏡用プラスチックレンズを、該レンズの光学面が包装材内面と接触しないように保持するレンズ保持部材によって保持した状態で、前記包装材中に配置した後、前記不活性ガスの充填を行うことを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[7] 前記レンズ保持部材は通気孔を有することを特徴とする[6]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[8] 前記包装材中への不活性ガスの充填は、前記包装材の開口部へ少なくとも1本のノズルを挿入し、該ノズルにより脱気とその後の不活性ガス注入を複数回繰り返した後、前記包装材の開口部を密閉することにより行われることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[9] 前記包装材中への不活性ガスの充填は、前記包装材の開口部へ、レンズの中心部を挟んで所定の間隔をおいて挿入された2本のノズルによって行われることを特徴とする[8]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[10] 前記包装材中への不活性ガスの充填は、
前記密閉前の包装材をチャンバー内に設置し、
前記チャンバー内を脱気し、
前記チャンバー内に不活性ガスを充填し、次いで
前記包装材の開口部を密閉することにより行われることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[11] 前記不活性ガス充填後のチャンバー内の圧力が、大気圧より小さくなるように該チャンバー内の圧力を調整することを特徴とする[10]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[12] 前記眼鏡用プラスチックレンズは、前記基材上にハードコート膜、反射防止膜、および撥水膜からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する[1]〜[11]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
[13] 下記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有している眼鏡用プラスチックレンズであって、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする包装された眼鏡用プラスチックレンズ。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化2】

[14] 下記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有している眼鏡用プラスチックレンズが、少なくとも酸素の透過を抑制し、不活性ガスが充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ包装体。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化3】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記イソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を含む成分を重合することにより得られる重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを、変色による品質低下を防ぎつつ保存することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、下記成分(A)と下記成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉保存することを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの保存方法に関する。
【0013】
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化4】

【0014】
眼鏡用プラスチックレンズ(以下、単にレンズともいう)は、包装された状態で比較的長期間保管されるのが一般的である。しかし、従来の包装方法では、レンズ保管中にレンズが変色し、オーダに応じて選んだ一組のレンズ(このように一組のレンズを選ぶことをペアリングと呼ぶ)が、それぞれのレンズの保管期間の違いによって左右で色が異なってしまうという問題が生じる場合がある。一方、先に説明したように、上記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体は、ポリカーボネートに匹敵する高い強度を有し、眼鏡レンズ用基材として好適なものである。しかし、この眼鏡レンズ用基材にも、上記の保存による変色の問題が生じてしまう。そこで、本発明者らは、上記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することにより得られる重合体の変色原因について検討を重ねた結果、包装材中の酸素がレンズの変色に影響していることを見出した。しかし、従来の密閉されていない包装では、酸素の影響は避けられない。そこで、レンズを真空に密封することも考えられる。しかし、この場合でも、真空にする際にレンズ包装袋にしわがよるため、レンズと包装袋との間に隙間が生じ、そこに残った空気中の酸素の影響は避けられない。また、真空にする際に包装袋とレンズが接触してレンズに傷がつくことを避けるため、包装袋とレンズとの間に緩衝材を入れる場合があるが、その緩衝材中の隙間に残った空気中の酸素が変色を引き起こすおそれもある。
【0015】
そこで、本発明では、上記眼鏡用プラスチックレンズを、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなる包装材中に、不活性ガスを充填した状態で密閉保存する。包装材中に不活性ガスを充填することにより、包装材中に存在した空気は包装材の外に追い出され、包装材中の酸素の濃度は低下する。これにより、酸素による変色を抑制することができ、品質を低下させることなく、レンズを長期保存することが可能となる。なお、本発明において、「密閉」とは、少なくとも酸素の透過を抑制し得る程度に、包装材内が外気から遮断されていることをいう。
【0016】
包装材中への不活性ガスの充填および包装材の密閉は、包装材内の空気を脱気した後に不活性ガスを充填することにより包装材内の空気を不活性ガスに置換し、その状態で包装材の開口部を密閉することにより行うことができる。このような包装には、脱気機能とガス充填機能とシール機能とを備えた市販の真空・ガス置換包装機を使用することができる。このような包装機としては、ノズル方式とチャンバー方式とがある。ノズル方式はノズルを包装材の開口部から挿入し、このノズルを介して脱気と不活性ガス注入を行う方法である。またチャンバー方式は、チャンバー内に包装材を入れた状態でチャンバー内を真空にし、その後チャンバー内に不活性ガスを充填することにより、包装材内の空気を不活性ガスに置換する方法である。ノズル方式の場合は、包装材内の脱気および不活性ガス充填を短時間で行うことができるため生産効率上好ましいというメリットがある。但し、脱気の際に過度に強い吸引力で脱気すると包装材が収縮し内容物であるレンズに密着してしわが寄った状態で固まり、その後の不活性ガス充填の際には包装材が膨らむため、包装過程において包装材のしわ部分で折れ曲がりが生じ包装材が破損してリークの原因になる場合がある。また、強い吸引力で脱気しても、前記しわ部分のようにレンズ外面と包装材内面とによって形成された空間ができそこに空気が残存してしまい十分に不活性ガスに置換できない場合もある。このため包装材がレンズに密着してしわが固まってしまわない程度の弱い吸引力での脱気と不活性ガス充填を複数回繰り返して行うことにより、包装材の損傷を防止しつつ不活性ガスを充填するようにすることが好ましい。これに対してチャンバー方式の場合はチャンバー内を低真空にしても包装袋は収縮しないので、ノズル方式のような問題が生じないという点で好ましい。
【0017】
包装材内に充填される不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等を用いることができる。中でも、コスト面や自家製造が容易な点などを考慮すると、不活性ガスとして窒素ガスを使用することが好ましい。窒素ガスは、公知の方法で製造されたものを使用することができる。一般に窒素は大気から分離精製して製造されるが、その製造方法としては、深冷分離法、PSA方式、ガス分離膜方式がある。深冷分離方式は装置が大掛かりであるが純度が高い窒素(純度99.999%以上)が製造でき、通常ボンベに小分けされたものが流通している。PSA方式やガス分離膜方式は、装置が小型で窒素を自家製造できることから近年注目されている。一般的にPSA方式で純度99〜99.99%、ガス分離膜方式で純度95〜99.9%の窒素ガスが製造できる(なお、製法により窒素ガスに他の不活性ガス(例えばアルゴン等の希ガス)が含まれる場合には、上記および後述の窒素ガス純度は、窒素ガスを含む不活性ガスの純度をいうものとする)。また、窒素ガスは通常製造の過程で水分も大幅に低減されるため、包装材中を窒素ガスで充填することにより、水分によるレンズの劣化防止効果も期待できる。また、包装材中に残存した空気中の水分を除去するために、乾燥剤(例えばシリカゲルなど)を包装材中にレンズとともに同封してもよい。
【0018】
本発明では、包装材内の酸素濃度を低減するという目的から、高純度の窒素ガスをガス置換効率の高い方法で充填することが好ましい。しかしながら、包装にかかるコストや時間なども考慮すべきである。
そこで本発明では、密閉された包装材内の酸素濃度の目標値を予め設定しておくことが好ましい。目標値を設定しておけば、包装材内の酸素濃度が目標値に達するように窒素充填を行えばよいので、作業効率を高めることができる。具体的には、例えば包装材内の酸素濃度を3.5体積%以下にすると黄変度(ΔYI値)を低く抑えることができるため好ましい。なお、包装材中の酸素濃度は0%に近いほど好ましいが、実用上、高純度の窒素ガス(純度99.9999%)の不純物としての酸素濃度は0.00001%以下であるので、この値を下限値とすることができる。
【0019】
本発明において使用される包装材は、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなる。より好ましくは酸素透過率の低いアルミニウムなどの金属箔層を有するものが好ましい。包装材の形状は特に限定されず、例えば、袋状、箱状、カップ状等の公知の形状のものを用いることができる。
【0020】
以下に、不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合を例にとり、本発明において使用可能な包装材と、該包装材を用いてレンズを包装する方法の具体例を説明する。但し、本発明は以下に示す態様に限定されるものではない。
【0021】
(包装方法1)
図1は、眼鏡用プラスチックレンズを包装袋に収納する直前の状態を示す外観斜視図、図2は同包装袋にレンズを収納した状態を示す外観斜視図、図3は図2のI−I線断面図である。
【0022】
図1には、眼鏡用プラスチックレンズを収容するレンズ包装袋1と、このレンズ包装袋1に収納される眼鏡用プラスチックレンズ2と、この眼鏡用プラスチックレンズの損傷を防止するために、レンズ1の光学面を含め外面を包むレンズ保護シート3が示されている。
【0023】
次に、図1に示すレンズ包装袋1について詳細に説明する。
レンズ包装袋1の大きさは、レンズを収納するために必要な十分な大きさであればよく、収容するレンズの大きさに応じて設定することができる。図1に示すレンズ包装袋は、長方形の袋に形成されている。この長方形形状の一辺には、包装するレンズを入れるための開口部を有し、残り3辺は閉じて袋状に形成されている。
【0024】
レンズ包装袋1は、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、好ましくは、酸素および水蒸気の透過を抑制するフィルムからなる。以下、酸素および水蒸気の透過を抑制する性質を、ガスバリア性といい、そのような性質を有するフィルムをガスバリア性フィルムという。上記フィルムの具体例を、図18に基づき説明する。
【0025】
図18はレンズ包装袋1に用いられているガスバリア性フィルム30の一部断面図である。このガスバリア性フィルム30は、材質が異なる複数の薄膜が積層した複合フィルム(例えば厚さが0.2mm程度)からなり、レンズ包装袋として形成されたときに最も内側に位置する第1層目の内部保護層30A、第2層目の金属箔層30B、第三層目の内部層30C、第4層目の外部保護層30Dの4つの層を順次ラミネートすることにより形成されている。
【0026】
第1層の内部保護層30Aは、例えば、平滑性および高い防湿性を有するとともに熱圧着により密着される層である熱可塑性のポリエチレン系樹脂フィルムからなり、例えば内部がポリエチレンで、その外側がポリエチレンテレフタレートからなる(好ましくは厚さ約30〜50μm)。
【0027】
第2層の金属箔層30Bは、例えば、ガスバリア性能の高い金属箔層からなり、例えばアルミニウム箔(好ましくは厚さ約7μm)が用いられる。
【0028】
第3層の内部層30Cは、防湿性の高い熱可塑性の樹脂層からなり、例えばポリエチレン系樹脂(好ましくは、厚さ約15μm)が用いられる。
【0029】
第4層の外部保護層30Dは、内層を保護する熱硬化性の樹脂フィルムからなり、例えばポリエステル系樹脂(好ましくは、厚さ約12μm)が用いられる。
【0030】
このようなガスバリア性フィルム30を用いたレンズ包装袋1の製作は、細長いシート状に形成したガスバリア性フィルム30を、外部保護層30Dが外面となるように幅方向に2つに折り畳み、長手方向に所定の間隔で熱圧着して圧着部分を形成し、その圧着部分を切断分離することにより行うことができる。このように形成されたレンズ包装袋1は、1枚のガスバリア性フィルムからなり、袋の底に位置する一辺にはガスバリア性フィルムが折り返された折り返し部13が形成されており、左右の両側辺は熱圧着により密着された側辺シール部11、12が形成されている。
【0031】
このレンズ包装袋1の表面には、レンズ関連情報を表示する表示部を形成することができ、例えばレンズの商標、レンズ種、処方値、管理のための識別情報(例えばバーコードなどの2次元識別情報)等が印刷、表示されている。
【0032】
このようにして形成されてレンズ包装袋1は、水蒸気および酸素の透過率が低いガスバリア性フィルムからなるため、レンズ2をレンズ包装袋1内部に収納後、前記開口部14を熱圧着してシールすることにより、充填した窒素を袋内に保持するとともに、水蒸気及び酸素を含む外部からガスの侵入を防ぐことにより、レンズを窒素雰囲気下に密閉保存することができる。
【0033】
なお、レンズ包装袋1に使用するガスバリア性フィルムの酸素透過度は、0.5ml/m2・atm・24h以下であることが好ましい。また、ガスバリア性フィルムの酸素透過度を基に目標保管期間内に包装材内に最大透過する酸素量を算出し、その算出した酸素量を加えても前記酸素濃度目標値以下になるように、包装材密閉時の酸素濃度を設定するとより好ましい。この場合、前記設定される包装材密閉時の酸素濃度は、包装材の収容部分の表面積、包装材に使用するガスバリア性フィルムの酸素透過度、目標保管期間、包装袋内の気体の体積をもとに計算することができる。用いる包装材の材質・形状が決まっている場合は、包装材密閉時に充填する不活性ガス(例えば窒素)の量を調整することにより、目標保管期間後の酸素濃度が前記酸素濃度目標値以下にするようにしても良い。
なお、アルミ箔など金属箔層を備えたレンズ包装袋は、酸素透過度がほぼ0ml/m2・atm・24hであることができるのでより好ましい。
【0034】
また、レンズ包装袋1に使用するガスバリア性フィルムの水蒸気透過度は、好ましくは5g/m2・24h以下、より好ましくは0.5g/m2・24h以下である。このような特性を有するガスバリア性フィルムであれば、水分によるレンズの劣化も防止できる。なお、アルミ箔など金属箔層を備えたレンズ包装袋は、水蒸気透過度がほぼ0g/m2・24hであることができるのでより好ましい。なお、酸素透過度、水蒸気透過度は、それぞれ公知の方法で測定することができる。
【0035】
次に、図1に示すレンズ保護シート3について説明する。
レンズ保護シートは、レンズと包装袋が摺れることにより生じる傷を防止するためのシートであり、例えば、和紙や不織布などからなる柔軟性を有する材料からなるシートを用いることができる。後述する包装袋内の脱気および窒素ガス充填時の包装袋内の気体の流動性を妨げないように通気性を有する材料を用いることが好ましい。図1に示す態様では、和紙からなる細長い長方形状のシートを用い、2つに折りにしたときに、その内面でレンズの光学面を覆うサイズのものを使用している。
【0036】
次に、包装材に保存されるレンズについて説明する。
図1に示すレンズ包装袋中に収容されるレンズ2は、好ましくは、凸面と凹面を有するメニスカスレンズで、両面が光学的に仕上げられ、必要に応じて、基材上にハードコート膜、反射防止膜、撥水膜などを設けた製品として完成したレンズである。以下、両面が光学的に仕上げられたレンズをフィニッシュレンズといい、必要な表面処理も施されたフィニッシュレンズを製品レンズという。
【0037】
次に、この包装方法の例で用いる包装機の一例について図4を参照して説明する。
図4は、ノズルを介して包装袋内の脱気、窒素ガス充填を行い、その後包装袋開口部を熱圧着によりシールするノズル式真空・ガス置換包装機の概略図であり、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。
このノズル式真空・ガス置換包装機401は、ノズルにより脱気・窒素ガス充填を行う際に、包装袋の開口部を密閉保持する機能と窒素ガス充填完了後に包装袋の開口部を熱圧着する機能とを有する密閉保持手段と、包装袋内の脱気および窒素ガス充填を行う脱気ガス充填手段と、包装工程中に包装袋を載置するための作業台440とを有する。
前記密閉保持手段は、シール台420と、シール台上に昇降可能に構成された押圧バー430と、この押圧バー430を昇降させる図示しない駆動手段とを有している。シール台420には、その上面側に、弾性材料からなる細長い直線状の下側弾性バー421と、細長い直線状のヒーターである下側シールヒーター422とが平行に並んで配置されている。押圧バー430には、その下面側に、弾性材料からなる細長い直線状の上側弾性バー431と、細長い直線状のヒーターである上側シールヒーター432とが平行に並んで配置されている。前記下側弾性バー421と上側弾性バー432、下側シールヒーター422と上側シールヒーター432は、それぞれ押圧バー430が下降してシール台420に接近したときに対向するように配置されている。
【0038】
前記脱気ガス充填手段は、脱気時の吸気口とガス充填時の排出口の役割をするノズル411と、このノズルを前後方向に移動させるノズル駆動手段412と、ノズル411に流路を介して連結される減圧手段としての真空ポンプ414と、ノズル411に流路を介して連結される不活性ガス供給手段としての窒素ガス発生装置415と、前記流路途中に設けられたノズル411からの脱気とガス充填を切り替えるためのバルブ413とを有する。ノズル411は、この例では間隔を置いて2本配置されており、バルブ413を制御することにより、2本同時に吸気、2本同時にガス供給、一方が吸気で他方がガス供給(交互または同時)、または、一方だけで吸気とガス供給できるように構成している。これらノズル411は、包装袋開口部への出し入れを容易にするとともに、前記の上下弾性バー421、431で挟んだときの気密性を良くするために、先端側が扁平に形成されている。
【0039】
また窒素ガス発生装置415としては、PSA式の窒素ガス発生装置を使用することができる。PSA式窒素ガス発生装置は小型であり、かつ高純度の窒素ガス(99〜99.99%)を自給できるため好ましい。また、窒素ガス発生装置415としては、ガス膜分離式の窒素ガス発生装置を用いても良い。ガス膜分離式は通常PSA式に比べ得られる窒素の純度が低いが、得られる窒素の不純物の比率が酸素濃度目標値以下になるように窒素ガスを発生させることにより、前記酸素濃度目標値以下にすることは可能である。なお、窒素ガスが充填されたボンベを用いても良い。この場合は深冷分離法により製造された高純度の窒素ガスを充填できるという利点がある。
【0040】
作業台440はシール台420の後方に取り付けられており、包装袋や被包装物(レンズ)の形状、大きさに応じて高さや角度が調整できるように構成されている。
上記押圧バー430の駆動、シールヒーター422、432の加熱、ノズル411の駆動、バルブ413の動作、真空ポンプの動作等は図示しない制御部により制御されており、シール温度やシール時間、真空ポンプの吸引力や吸引時間、ガス充填圧力や充填時間、脱気とガス充填の回数などを任意に設定できる。
なお、図4に示す態様では上下両方にヒーターを有しているが、片方だけヒーターを設け、もう片方はヒーター機能を有さない受け板にしてもよい。
【0041】
また、2本のノズルにより同時に吸気またはガス供給を行うとガス置換効率が高くなるため好ましい。一方のノズルから脱気、他方のノズルからガス供給するようにしてもよい。この場合、一方のノズルからの脱気と他方のノズルからのガス供給を交互に行っても良いし、同時に行っても良い。同時に行う場合は窒素ガス使用量が増えるが、脱気とガス充填による包装袋の膨張や収縮がないので包装袋が傷みにくいという利点がある。
【0042】
また、図4に示す態様では、吸気、ガス供給の際に、レンズ縁面の両外側を通って気体が流れされやすいようにするため、ノズル2本をレンズ中心を挟んで間隔を置いて配置してガス置換効率を高めている。2本のノズルの間隔は、レンズの径に合わせて適宜設定すればよい。また、ノズルを1本にしても良く、または3本以上のノズルを使用してもよい。
【0043】
次に包装の手順を説明する。
図5は、前記したようなノズル式真空・ガス置換包装機を用いた場合の包装工程の流れを示す図である。
まず、レンズ2を、レンズ保護シート3でレンズの両光学面を覆うようにして挟み、レンズ包装袋1に開口部14より挿入する(図1、図5のS1)。
次に、図4に示すノズル式真空・ガス置換包装機401のノズル411が下側弾性バー412と下側シールヒーター422を横切る位置まで前方に移動している状態で、レンズ包装袋1の開口部14にノズル411を挿入するとともに、開口部14のシールしたい部分を下側シールヒーター422の位置に合わせるようにレンズ包装袋1を作業台440の上に配置する(図4(a)、図5のS2)。そしてこの状態で押圧バー430を降下させノズル411ごと上下の弾性バー421、431で包装袋開口部14を上下から挟んで密閉する。この状態でノズル411を真空ポンプ414に連結し袋内の空気を脱気する(図5のS3)。なお、この時包装袋がレンズ表面に完全に密着してしわが固定されないように弱く吸引するように吸引時間、吸引圧力を設定する。こうすることにより、包装袋の膨張と収縮を繰り返すことによってしわ部分やレンズに強く当たる部分の包装フィルムが破損しリークの原因になることを防止できる。具体的には、吸引力は、(大気圧−15kPa)以下、より好ましくは(大気圧−10kPa)以下にすることが好ましい。なお、このように弱く吸気した場合、ガス置換率が低くなるため、本発明では脱気と窒素ガス注入を複数回繰り返すことにより、包装袋の破損を抑えつつガス置換率を高めることが好ましい。
【0044】
脱気が終了したらノズル411と窒素ガス発生装置415を連結し、ノズル411より窒素ガスを注入する(図5のS4)。窒素ガス注入が終了したら再度ノズル411を真空ポンプ414に連結させて包装袋内を脱気する(図5のS6)この時も前述の脱気(図5のS3)と同様に包装袋がレンズ表面に完全に密着してしわが固定されないように吸引時間、吸引圧力を設定する。
【0045】
脱気が終了したら再度ノズル411を窒素ガス発生装置415に連結させて包装袋内に最後の窒素ガス注入を行う(図5のS7)。この最後の窒素ガス注入では密閉後にレンズ包装袋が膨らんでかさばらないように、包装袋の膨らみが包装袋の最大容量の5〜90%、より好ましくは10〜70%の範囲内になるように窒素ガスを充填する。なお、以上は脱気と窒素ガス注入を2回繰り返す場合であるが、3回以上繰り返す場合は、上記S6の工程の前にS3とS4の工程を必要回数繰り返す(図5のS5)。この脱気と窒素ガス注入の回数は、包装袋内の酸素濃度が目標値以下となるように予め設定しておくことが好ましい。なお、包装袋内の酸素濃度が3.5体積%以下になるように設定するとより好ましい。このように、予め包装袋内の酸素濃度が所定値以下となる条件(吸引力、吸引時間、吸引と脱気の回数)を設定しておくことにより、作業効率を高めることができる。
【0046】
最後の窒素ガス注入が終了したら、ノズル411を下側シールヒーター422と交差しない位置まで後退させると同時に、加熱された上下シールヒーター422、432で挟んでレンズ包装袋の開口部を熱圧着する(図5のS8)。シールが完了したら押圧バー430を上方に移動させて包装物品を取り出し包装を完了する(図2、図3、図5のS9)。
【0047】
密閉後の状態の外観斜視図を図2に示す。図2に示すように包装袋は開口部14が熱圧着によりシールされて開口シール部15を形成しているため、三方がシール部(11、12、15)によってシールされた状態になっている。このレンズが密閉された状態のI−I線断面図を図3に示す。
【0048】
(包装方法2)
前述の包装方法1は、ノズル式の真空・ガス置換包装装置を用いて窒素ガスを充填した例である。次に、チャンバー式の真空・ガス置換包装装置を用いてレンズ包装袋に窒素ガスを充填する包装方法2について説明する。なお、使用するレンズ、包装袋、保護シートについては、包装方法1と同じなので説明を省略する。
【0049】
包装方法2で用いる包装機について図6を参照して説明する。
図6は、チャンバー内にレンズ包装袋を入れ、チャンバー内を脱気し、次いで窒素ガス充填した後にチャンバー内で包装袋開口部を熱圧着によってシールすることにより、包装袋内に窒素ガスを充填するチャンバー式真空・ガス置換包装機の概略断面図である。
このチャンバー式真空・ガス置換包装機501は、チャンバー540と、チャンバー540内を脱気および窒素ガス充填する脱気・ガス充填手段と、包装袋の開口部を熱圧着するシール手段と、チャンバー内に配置された包装袋を載置するための作業台544とを有する。
【0050】
チャンバー540は、チャンバー本体541と、このチャンバー本体541に開閉自在に接続されている上蓋542とを有し、この上蓋542とチャンバー本体541とをその接合面にパッキン543を介在させて閉じることにより、チャンバー540の内部に密閉された空間が形成される。チャンバー本体541には、後述する脱気用ポート516とガス供給ノズル511が接続されており、これらによりチャンバー内を真空にしたり、窒素ガス雰囲気にしたりすることができる。
【0051】
前記脱気・ガス充填手段は、
チャンバー内に窒素ガスを供給するためにチャンバー本体541に取り付けられたガス供給ノズル511と、
チャンバー内を真空にするための吸気口としてチャンバー本体541に設けられた脱気用ポート516と、
脱気ポート516に流路を介して連結される減圧手段としての真空ポンプ514と、
ガス供給ノズル511に流路を介して連結される不活性ガス供給手段としての窒素ガス発生装置515と、
脱気ポート516と真空ポンプ514とをつなぐ流路途中に設けられたバルブ512と、
ガス供給ノズル511と窒素ガス発生装置515とをつなぐ流路途中に設けられたバルブ513と
を有する。
【0052】
ガス供給ノズル511は、包装袋内部にガスを導入しやすいように、その先端が扁平に形成され、後述する上下シールヒーター522、523の間を通って窒素ガスが噴出すように配置されている。なお、窒素ガス発生装置515の詳細は、包装方法1と同様である。
【0053】
前記シール手段は、チャンバー本体541の底面上に設けられたシール台520と、上蓋542の内面に設けられたヒーター押圧手段530とを有している。シール台520には、その上面に細長い直線状のヒーターである下側シールヒーター522が配置されている。ヒーター押圧手段530は、上下に移動可能な昇降部531を有し、その最下面に細長い直線状のヒーターである上側シールヒーター532が配置されている。なお、このヒーター押圧手段530の昇降部531を上下させる機構については、特に限定されず、例えば、モーター、エアシリンダ、油圧シリンダなどの直線運動するアクチュエーターが利用できる。下側シールヒーター422と上側シールヒーター432は、昇降部531が下降してシール台520に接近したときに対向するように配置されている。
【0054】
作業台544は、チャンバー本体541底面のシール台520の後方に取り付けられており、包装袋や被包装物(レンズ)の形状、大きさに応じて高さや角度が調整できるように構成されている。
【0055】
上記ヒーター押圧手段530の駆動、シールヒーター522、532の加熱、バルブ413の動作、真空ポンプの動作等は、図示しない制御部により制御されており、シール温度やシール時間、真空ポンプの吸引力や吸引時間、ガス充填圧力や充填時間などを任意に設定できる。
なお、図6に示す態様では上下両方にヒーターを設けているが、片方だけをヒーターにし、もう片方はヒーター機能を有さない受け板にしてもよい。
【0056】
チャンバー方式は、ノズル方式に比べ脱気、ガス充填に時間がかかり、また包装作業がバッチ処理になる。よって、チャンバー方式を用いる場合は、複数の包装袋をチャンバー540内に入れ、一度に複数の包装袋のガス置換および密封を行うようにすると好ましい。他方、チャンバー方式は、チャンバー内を脱気するため脱気により包装袋がレンズに密着することがないので、高真空で吸引することができ、ガス置換効率が高く注入圧包装袋の損傷のおそれがないという点で好ましい。
【0057】
次に包装の手順を説明する。
図7は、前記したようなチャンバー式真空・ガス置換包装機を用いた場合の包装工程の流れを示す図である。
まず、レンズ2を、レンズ保護シート3でレンズの両光学面を覆うようにして挟み、レンズ包装袋1に開口部14より挿入する(図1、図7のS21)。
次に、レンズ包装袋1の開口部14がガス供給ノズル511の先端を向いた状態で、開口部14のシールしたい部分を下側シールヒーター522の位置に合わせるようにレンズ包装袋1を作業台544の上に配置し、上蓋542を閉じる(図6、図7のS22)。そしてこの状態で脱気用ポート516と真空ポンプ414を連結し、チャンバー内の空気を脱気する(図7のS23)。チャンバー内の脱気が終了したらガス供給ノズル511と窒素ガス発生装置515を連結し、ノズル511より窒素ガスをチャンバー内に充填する(図7のS24)。この窒素ガス充填では、密閉後大気中でレンズ包装袋が膨らんでかさばらないように、包装袋の膨らみが包装袋の最大容量の5〜90%、より好ましくは10〜70%の範囲内になるようにチャンバー内の窒素ガスの圧力を設定する。チャンバー内の窒素ガスの圧力を大気圧より低く設定すると、包装袋が密封時より膨らまないので、かさばらないという点で好ましい。なお、チャンバー内の真空圧およびチャンバー内に充填する窒素ガスの圧力、チャンバー内の酸素濃度は包装後の包装袋内の酸素濃度が3.5体積%以下になるように設定するとより好ましい。
なお、チャンバー内の酸素濃度を測定するための酸素濃度計を設置し、酸素濃度が所定の値以下になっているか測定することもできる。この場合、酸素濃度計によりモニタリングしながら、所定の酸素濃度以下になるように窒素ガスの供給や脱気を制御してもよい。
チャンバー内の窒素ガス充填が終了したら、ヒーター押圧手段530により昇降部531を押し下げ、加熱された上下シールヒーター422、432でレンズ包装袋の開口部を挟み熱圧着する(図7のS25)。熱圧着が完了したら昇降部531を上方に移動させて上蓋を開けて包装物品を取り出し包装を完了する(図2、図3、図7のS26)。
【0058】
(包装方法3)
前述の包装方法1、2は、製品レンズを包装するために好適な方法である。次に、光学的に仕上げられていない面を有するレンズ(以下、レンズブランクという)を包装するために好適な包装方法を、図8〜12に基づき説明する。
【0059】
包装方法3は、レンズブランクをレンズ保持部材で保持させた状態でレンズ包装袋に包装する例である。
図9は、レンズ保持部材によって保持された眼鏡用プラスチックレンズをレンズ包装袋に収納する直前の状態を示す外観斜視図、図10は同包装袋にレンズを収納した状態を示す外観斜視図、図11は図10のII−II線断面図、図8はレンズ保持部材の正面図である。
【0060】
包装方法3に好適なレンズは、凹面と凸面を有し、凸面側が光学的に仕上げられ、凹面側は、後の工程(通常眼鏡装用に応じた受注内容にしたがって加工が施される)で研削、研磨する研削しろおよび研磨しろ分だけ肉厚に形成されたレンズブランク(以下、セミフィニッシュレンズブランクという)である。図9〜11に示す態様では、セミフィニッシュレンズブランクを、図8に示すレンズ保持部材によって保持した状態で包装袋に封入する。これにより、レンズ表裏面とレンズ包装袋との間に空間を維持した状態でレンズを保持することができ、眼鏡用プラスチックレンズの光学的に仕上げられた面(光学面)が包装材内面と接触して傷つくことを防止することができる。
【0061】
次に、レンズ保持部材について説明する。
図9に示すように、レンズ202の周縁端面(周囲側面)には、レンズ保持部材220が接着状態で巻きつけられている。このレンズ保持部材220を取り外して展開すると、図8に示すように、長形の薄片状部材(以下長形薄片という)となっている。以下の説明では、図9に示す使用状態をレンズ保持部材といい、図8に示す使用前の展開したものを長形薄片ということとする。この長形薄片は可撓性を有しており、その長さLは、少なくともレンズの円周の長さを有し、さらに必要に応じて円周の長さより大きいことが好ましい。また、長さLがレンズの円周の長さよりも大きい場合には、レンズ保持部材として使用するときに重ね合わせ部が形成される。この重ね合わせ部の長さは、後述する切り目が使える範囲内で、適宜設定することができる。
【0062】
また、図8に示すように、長形薄片には、上縁から下縁にわたる切り目が、長さ方向に適当な間隔で、複数形成されている。なお、この切れ目は上縁および下縁付近の両方またはいずれか一方に形成しても良い。なお、図4に示す態様では、切り目はミシン目として形成されている。この切り目は、図9、図11に示すように使用状態において、レンズ保持部材をレンズから剥がして取り外すときの手掛かり(掴み代)として使用されたり、巻きつける際に長形薄片を適当な長さに切断するために使用される。
【0063】
長形薄片の幅Wは、図9および図11に示すように、当該長形薄片をレンズ保持部材として使用するときに、取り付けられるレンズの凸面側の頂点(最高点)から凹面側の終縁までのレンズ厚さ方向の距離より長くなるように設定することが好ましい。これにより、レンズ保持部材に保持した状態でレンズを封入した際に、包装袋内面とレンズが接触することを回避して傷を防止することができる。
【0064】
図8に示す長形薄片の一方の面には、接着剤による接着層が形成され、接着面になっている。即ち、長形薄片は接着テープのような形態を有する。長形薄片をレンズ保持部材として使用するときには、その接着面をレンズの周縁端面に接着させながら巻きつける。このとき、図9および図11に示すように、レンズ保持部材220のレンズ凸面側の縁は、レンズ凸面の頂点よりも突出するようになっている。また、レンズ保持部材220のレンズ凹面側の縁は、レンズ縁面の端部より突出するようになっている。このような構成とすることにより、前述のようにレンズの傷を防止することができる。
【0065】
また、長形薄片220には、その上下に通気孔220が複数設けられている。レンズの側面をレンズ保持部材で保持してレンズ包装袋に入れる場合、包装袋内をノズルによって脱気する際に包装袋の内面がレンズ保持部材に密着して包装袋内面と保持部材とレンズ外面とによって囲まれた空間の空気が脱気されにくい場合がある。しかし、レンズ保持部材のレンズ縁面の上下の位置に開口する通気孔220を設けることにより、これら通気孔220が脱気、窒素ガス充填時の気体の通路となり、気体の流動が容易になるため包装袋内のガス置換を効率的に行うことができる。なお、図8に示す態様では、通気孔222は、長形薄片の各切目に挟まれた部分ごとに、その上下に一つづつ円形の孔を設けることにより形成されている。この通気孔220の上下方向の両外側の間隔W1を、レンズの縁面の厚さ幅より大きく設定すれば、長形薄片をレンズ縁面に接着したときに通気孔がレンズ縁面に塞がれることなくレンズの両光学面側に開口して通気孔を形成することができる。
【0066】
なお、通気孔の形態は種々の変形が可能である。図12はレンズ保持部材に設けられる通気孔の他の例を示す図である。
図12(a)は、縦長の孔からなる通気孔223を複数設けた例である。この孔の上下方向の幅W2をレンズ縁面の厚さ幅より大きくすることによりレンズ縁面の上下に通気用の開口が形成される。
図12(b)は上下それぞれに開口する溝からなる通気溝224を設けた例である。この場合は包装袋内を吸気したときにレンズ包装袋の内面と完全に密着しないような深さおよび幅の溝を形成することにより、気体の流動を妨げることなくガス置換を効率的に行うことができる。なお、この場合は溝の開口部と包装袋が密着したときに包装袋が傷つかないように溝の開口部は丸めておくと良い。
【0067】
長形薄片の厚みは、レンズ保持部材として使用される場合において、レンズの光学面を上下方向にしてレンズを置いたときに、レンズの重さに耐え、レンズを支持できる程度の厚みに設定することができる。材質には、プラスチック、厚紙等の公知の材質を用いることができる。例えば、ポリスチレンからなる長形薄片を用いた場合、厚さは0.1〜0.5mmとすることができる。環境対策としては厚紙が好ましく、長期の保管における湿気対策考慮すると、プラスチック製がより好ましい。
【0068】
なお、レンズ保持部材としては、包装袋内で、レンズの両面に空間を設けた状態でレンズを保持でき、光学的に仕上げられた面が傷付くことを防止できるとともに、レンズの周囲の気体の流動性を妨げないものであれば、上記態様に限定されない。例えば、従来のカップ状のレンズ保持部材を使用することもできる。カップ状のレンズ保持部材の例を図13に示す。このカップ状レンズ保持部材601は、樹脂性のシートをカップ状に形成したもので、レンズの外形より大きい、正面視形状が略円形のレンズ収容凹部616を有し、その内側壁にレンズ保持用凸部619が複数形成されている。このレンズ保持用凸部619は、レンズの縁面と接触する側面保持部621とレンズの光学面の縁側と接触する光学面保持部620とからなり、レンズ光学面とレンズ収容凹部の底、並びに、レンズ縁面とレンズ収容凹部側壁とが接しないように隙間を維持した状態でレンズが保持される。レンズ収容凹部の側壁には、脱気、ガス充填の際の気体の流動を容易にするため通気孔622が複数けられている。また、レンズ収容凹部616の開口部の周りには、レンズの取り出しを容易するための凹部618が複数設けられており、レンズを取り出すときに掴みやすいようにしている。レンズ収容凹部616の深さはレンズの厚さ以上に設定されている。
【0069】
次に、図9〜13に示す態様で使用される包装袋について説明する。
レンズブランクスは、受注内容にある程度対応できるように研磨しろや研削しろを確保しているため、フィニッシュレンズよりも厚さが厚く、重量も重い。そのため、図1に示すようなレンズ包装袋では、包装袋が傷つき、一部が破れたり、孔が開いたりしやすい。特にアルミ箔層を有するガスバリア性フィルムの場合、ピンホールと呼ばれる微小の孔が生じてしまう場合がある。破れた部分や孔(ピンホール)などができてしまうと、そこから外気が入ってきてしまうため、包装袋中の酸素濃度が増加してしまう。そこで、本態様では、肉厚のレンズブランクスにも対応できるように、図9〜13に示すような、レンズ保持部材を用いてレンズを保持し、レンズ保持部材ごとレンズを収容可能な形状のレンズ包装袋を使用する。
【0070】
図9および図13に示すレンズ包装袋201は、一般にガゼット包装袋と呼ばれているもので、底辺をシールする底辺シール部217と両側面に折込部216を有する袋である。
【0071】
次に、このレンズ包装袋の製造方法について説明する。
後述するガスバリア性フィルムの一方の表面には、熱圧着性を有する層が形成されており、その面を内側にして両端の熱圧着性層を対向させて重ね合わせて熱圧着によりシールして、背貼りシール部218を形成し筒状にする。そしてこの背貼りシール部218の左右に折込部(マチ部)216を形成し、一方の開口部を熱圧着によりシールして底辺シール部217を形成する。レンズ包装袋の幅はレンズ保持部材の幅(レンズ直径方向)と同程度か少し大きい寸法とすることができる。また、折込部216の伸ばした状態での幅は、前記レンズ保持部材の幅(レンズ厚さ方向)と同程度か、それより少し大きい寸法とすることができる。レンズ包装袋の長さ(底辺シール部217から開口部214までの長さ)は、レンズ保持部材の外形より長い寸法にすることが好ましい。このようにすると、脱気や窒素注入の際にノズルを包装袋内に挿入する場合でも、ノズルが、レンズ保持部材に当たらずに吸引しやすい。また、内容物の厚さが厚い場合、内容物との間に所定の間隔(例えば3〜5cm)をあけてシールしなければならない場合がある。そのようにシールした場合、レンズ保持部材に保持されたレンズは、レンズ包装袋内で長さ方向に余裕があるため、レンズ包装箱に入れるときにはレンズをレンズ包装袋の底側に寄せた状態で開口シール部側を折り曲げて入れる場合がある。このようにレンズ包装袋を折り曲げる場合でも、包装袋内に充填されている窒素の量を少なくしておけば、膨らんでしまう心配がない。
【0072】
次にレンズ包装袋の材質について説明する。
レンズ包装袋は、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、好ましくは、酸素、窒素および水蒸気の透過率の低い材質からなる。包装方法3に好適なレンズ包装袋の酸素透過度、窒素透過度および水蒸気透過度については、先に包装方法1について述べたとおりである。
【0073】
包装方法3では、前述の包装方法1において使用したガスバリア性フィルムを用いることもできるが、より丈夫な材質からなるガスバリア性フィルムを用いることが好ましい。包装方法3において使用されるレンズ包装袋は、折込部を有し、しかも袋を折り曲げる場合もあるため、折込部の角部、特に、折り曲げた部分の折込部216の角部でピンホールが生じやすいためである。
【0074】
このような高強度のガスバリア性フィルムの具体的な例について説明する。
図19は、図9および図13に示すレンズ包装袋201に用いられているガスバリア性フィルム230の一部断面図である。このガスバリア性フィルム230は、材質が異なる複数の薄膜が積層した複合フィルムからなり、レンズ包装袋として形成されたときに最も内側に位置する第1層目の内部保護層230A、第2層目の内部層230B、第3層目の金属箔層230C、第4層目の外部保護層230Dの4つの層を順次ラミネートすることにより形成されている。
【0075】
第1層の内部保護層230Aは、例えば、高い防湿性を有するとともに熱圧着により密着される層である熱可塑性のポリエチレン系樹脂フィルム(例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE))からなる(好ましくは厚さ約50μm)。
【0076】
第2層の内部層230Bは、例えば、水蒸気、酸素および窒素の透過度の低いポリエチレンテレフタレート(PET)製である。
【0077】
第3層の金属箔層は230Cは、例えば、ガスバリア性能の高い金属箔層からなり、例えばアルミニウム箔(好ましくは厚さ約9μm)が用いられる。
【0078】
第4層の外部保護層230Dは、内層を保護するとともにガスバリア性を有する樹脂フィルムからなり、例えばナイロン(好ましくは、厚さ約15μm)が用いられる。
【0079】
包装方法3で使用されるガスバリア性フィルムは、金属層を包装方法1で使用したものよりも厚い(例えば約9μm)アルミニウム箔により構成し、外部保護層にナイロンを用いることが、高い耐ピンホール性を有することができるため、好ましい。上記ガスバリア性フィルムは酸素透過度、窒素透過度がそれぞれほぼ0ml/m2・atm・24h、水蒸気透過度がほぼ0g/m2・24hの性能を有しているため好ましい。
【0080】
包装方法3では、レンズを収容したレンズ包装袋を、図10に示すようなレンズ包装箱に収容する。図10に示すレンズ包装箱240は、例えば紙製の略直方体形状の箱からなり、内部に収容されるレンズ包装体があまり動かない程度の大きさの空間を有するように形成されている。このレンズ包装箱には、レンズ包装袋に収容されたレンズを出し入れするためのふた部である上面ふた部241が設けられており、この表面には内容物を識別するための識別情報(例えばバーコードなどの2次元識別情報や無線ICタグなど)を設けることができる。
【0081】
このような包装箱240は、搬送や保管の際に、図14に示すような収納ケースに入れられることが多い。その際このふた部を上にして収納すれば、識別情報が表に表れるため、目的のレンズの取り出しや、在庫管理などが容易に行うことができる。
【0082】
次に、包装の手順を説明する。
まず、図9に示すように、レンズブランクスの周囲にレンズ保持部材220を巻きつける。この時、通気孔222がレンズ縁面によって塞がれないようにレンズ保持部材を貼り付ける。そして、このレンズ保持部材が取り付けられたレンズをレンズ包装袋201に入れる。その後の脱気、窒素ガス充填、開口部のシールの手順は、包装方法1または包装方法2と同様の方法で行うことができる。なおこのガゼットタイプの包装袋の場合は折込部があるため、上下両方のシールヒーターで熱圧着するとより好ましい。
なお、包装方法3ではレンズ保持部材によりレンズを保持しているため、レンズ表面とレンズ包装袋内面とが密着するおそれは少ないが、強く吸引するとレンズ包装袋とレンズ保持部材とが密着してしわ寄った状態で固まってしまう場合がある。従って、この場合においても、そのようにならない程度の低い吸引力で脱気することが好ましい。なおこの場合は、包装袋の膨らみが包装袋の最大容量の10〜70%の範囲内になるように窒素ガスを充填することが好ましい。これは後述するとおりレンズ包装袋の上端側を折り曲げたときに袋が膨らんでかさばらないようにするためである。
【0083】
包装袋の開口部のシールが終了したら、レンズ保持部材によって保持されたレンズを底辺シール部217に向けて押し込んだ状態で、上端のあまった部分を折り曲げる。この折り曲げた状態で、レンズを収容したレンズ包装袋201を包装箱に入れる(図10参照)。このように包装箱に包装されたレンズは識別情報が設けられたふた部を上にして、図20に示す収納ケース250に収納することができる。なお、レンズ包装袋をレンズ包装箱に入れるときの向きは、ふた部側に包装袋の折込部が来るようにするとより好ましい。このようにすると収納ケースに収容された状態(上面ふた部241が上に来た状態)ではレンズ包装袋の折込み部が広い面積でレンズ包装箱の底に接触するため、安定に保持され、レンズ包装袋にピンホールが生じにくい。
【0084】
(包装方法4)
次に、図14〜16に基づき、カップ状に形成されたガスバリア性のレンズ包装容器にレンズを収容し、このレンズ包装容器の開口部をガスバリア性のフィルムでシールする例(包装方法4)について説明する。この例も、レンズブランクの包装に適した包装方法の例である。
【0085】
図14はレンズ保持部材によって保持された眼鏡用プラスチックレンズを、レンズ包装容器に収納する直前の状態を示す外観斜視図、図15は同包装容器にレンズを収納した状態を示す外観斜視図、図16は、図15のIII−III線断面図である。
以下各構成について説明する。なお、レンズについては、前述の包装方法3と同じなので説明を省略する。また、レンズ保持部材としては、通気孔を有していない点が異なるだけでその他の構成は同じである。
なお、本態様では、包装材中の水分を除去するために乾燥剤を入れている。乾燥剤は、レンズの光学的に仕上げられていない凹面側に配置している。なお、前記包装方法1〜3においても、包装袋内に乾燥剤を配置することができる。その場合の乾燥剤の配置位置は、包装方法1、2においては、レンズの凹面側のレンズ保護シートとレンズ包装袋との間が好ましい。また、包装方法3においては、包装方法4の場合と同様、レンズの光学的に仕上げられていない凹面側に配置することが好ましい。
【0086】
図14に示すレンズ包装容器301は、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、好ましくは酸素および水蒸気の透過を抑制するガスバリア性を有する材質からなる。例えば、エチレンビニルアルコール共重合体からなる樹脂層を有するポリプロピレン系の多層シート成形容器や、アルミ箔層を有するポリプロピレン系の多層シートからなる成形容器を用いることができる。このようなガスバリア性シートを、図8に示すようにカップ状に形成してレンズ包装容器301を作成することができる。なお、この包装容器の酸素透過度および水蒸気透過度については、前述と同様である。
【0087】
この包装容器301は、レンズを保持したレンズ保持部材220の外形より大きい、正面視形状が略円形のレンズ収容凹部316を有し、その内側壁にレンズ保持用凸部319が複数形成されている。このレンズ保持用凸部319は、レンズ保持部材の外側面と接触して、収納されたレンズ保持部材のがた付きを防止するとともに、レンズ保持部材とレンズ包装容器内側面との間に隙間を作り、容器内の気体の流動を容易にすることができる。レンズ収容凹部316の開口部の周囲には、その横方向に延在する、後述する上面シールフィルムを熱圧着する部分である上面シール面317が形成されており、その正面視形状の外形は略四角形に形成されている。また、前記凹部の開口部の周りには、レンズ保持体の取り出しを容易するための凹部318が複数設けられており、レンズ保持体を取り出すときに掴みやすいようにしている。レンズ収容凹部316の深さはレンズ保持部材の高さ以上に設定されている。
【0088】
レンズを保持したレンズ保持部材を収容したレンズ包装容器301の上面は、上面シールフィルム330によって密閉される。上面シールフィルム330は、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、好ましくは酸素および水蒸気の透過を抑制するガスバリア性を有する材質からなる。なお、この上面シールフィルムの酸素透過度および水蒸気透過度については、前述と同様である。このようなフィルムとしては、例えばガスバリア性能の高いアルミ箔層を有する多層フィルムが挙げられる。
【0089】
上面シールフィルム330の、レンズ包装容器301の上面シール面と接触する最も内側の層は前記レンズ包装容器の開口の周囲と熱圧着する層であり、例えば、熱可塑性の樹脂層からなる。この上面シートフィルム330は、少なくともレンズ包装容器301のレンズ収容凹部316の開口部を覆い、かつ、上面シール面との熱圧着することにより機密性を保持できるのに十分な熱圧着しろを有するサイズとすることができる。
【0090】
次に、包装手順について説明する。
包装方法3と同様の方法で、レンズをレンズ保持部材により保持する。次にレンズの凹面側に乾燥剤304を載せ、凸面を下向きにしてレンズ包装容器に入れる。そして、レンズ包装容器内の空気を窒素ガスに置換した状態で上面の開口に上面シールフィルムを載せ熱圧着によりシールする。なお、包装機としては、カップ内の気体を窒素ガスに置換する機能と上面の開口の全周囲を熱圧着する機能を有する市販のカップ状容器用の包装機を使用することができる。このようなカップ状容器用包装機においてカップ状容器内の気体を窒素ガスに置換する方法としては、真空チャンバー内でカップ状容器にレンズを入れた状態で真空にした後にチャンバー内に窒素ガスを充填して開口部をシールするチャンバー方式と、レンズを入れたカップ状容器に窒素ガスを吹き付けた後に開口部をシールするガスフラッシュ方式がある。ガス置換率の点では、チャンバー方式が好ましい。
このように包装された状態の斜視図を図15に示す。またそのIII−III線断面図を図16に示す。図16に示すように、レンズの凸面はレンズ保持部材により容器と接触しないように保持されている。乾燥剤304は凹面側に位置している。なお、上記の例では乾燥剤304をレンズ凹面上に配置したが、乾燥剤を予め上面シールフィルムの内側に取り付けておいても良い。また、上記の例では、レンズ保持部材によって保持したレンズをレンズ包装容器に入れているが、従来のレンズ保持容器と同様に、包装容器自体にレンズの光学面に空間を設けるように保持する機構を設けることによりレンズ保持部材を省略しても良い。
【0091】
次に、前述の方法により保存される眼鏡用プラスチックレンズについて説明する。
本発明の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法は、下記成分(A)と下記成分(B)とを重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックに適用されるものである。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何
れかである)
【化5】

【0092】
上記眼鏡用プラスチックレンズに本発明の方法を適用することにより、レンズを長期保存する場合にも、変色を防止することができる。なお、上記レンズは、必要に応じて、基材上にハードコート膜、反射防止膜、撥水膜などを設けることもできる。ハードコート膜、反射防止膜、撥水膜としては公知のものを適用できる。
【0093】
以下、上記成分(A)および成分(B)について説明する。

成分(A)
成分(A)は、分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマーである。上記イソシアネート末端プレポリマーの一方の原料であるジイソシアネートが、分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートであることで、プレポリマー製造時、または重合時の反応コントロールが容易になり、かつ、適度な弾性を有する成形体を得ることができる。さらに、高耐熱性と良好な機械特性を有する成形体を得ることができるという利点もある。
【0094】
分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートとは、主鎖または側鎖に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートであり、環状構造は、脂環、芳香環、または複素環のいずれであっても良い。但し、分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートは、黄変を防止すると共に十分弾性や硬度を保持するという観点から、脂環式ジイソシアネートであることが好ましい。脂環式ジイソシアネートに比べ、芳香環を有するイソシアネートでは得られた成形体の黄変が進みやすく、脂肪族鎖状のイソシアネートでは得られた成形体が柔らかくなり、形状保持性が低下する傾向がある。
【0095】
さらに、脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,2−ジイソシアナートシクロヘキサン、1,3−ジイソシアナートシクロヘキサン、1,4−ジイソシアナートシクロヘキサン等を挙げることができる。また、芳香環を有するジイソシアネートとしては、例えば、m−キシリレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。特に、前記脂環式ジイソシアネートは、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネートおよび1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0096】
上記成分(A)のイソシアネート末端プレポリマーのもう一方の原料であるジオールの平均分子量は300〜2500である。本発明において、平均分子量とは、数平均分子量をいうものとする。
ジオールの平均分子量が300以上であれば、高い靭性を有する成形体を得ることができ、2500以下であれば、適度な硬度を有し、良好な形状を保持できる成形体を得ることができる。上記平均分子量は、好ましくは、400〜1000である。
【0097】
300〜2500の平均分子量を有するジオールは、例えば、ポリエーテル系ジオールまたはポリエステル系ジオールであることができる。これらのジオールは、他成分との相溶性が良いことから好ましい。他成分との相溶性が良くないジオールの場合、得られる成形体の透明性を維持するために相溶化剤などの別成分を添加する必要が出てきたり、透明性が損なわれる可能性がある。
【0098】
このようなジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、エチレングリコールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、プロピレングリコールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、ジエチレングリコールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,4−ブタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、ネオペンチルグリコールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,10−デカンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,4−ブタンジオールとセバシン酸からなるポリエステルジオール、エチレングリコールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、プロピレングリコールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、ジエチレングリコールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、1,4−ブタンジオールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、ネオペンチルグリールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、1,6−ヘキサンジオールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、1,10−デカンジオールとε−カプロラクトンからなるポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートグリコール等が挙げられ、好ましくはポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、ネオペンチルグリコールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール、1,10−デカンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール等が挙げられる。
【0099】
成分(A)のイソシアネート末端プレポリマーの原料としては、分子中に硫黄原子を含みかつ300〜2500の平均分子量を有するジオールを用いることができる。ジオールの分子中に硫黄原子を導入すると、アッベ数の低下を抑制しながら屈折率を向上させることが可能となる。また、分子中での硫黄の存在状態は特に限定されるものではないが、スルフィド結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、ジチオエステル結合、チオカーボネート結合、ジチオカーボネート結合のうちの少なくとも1種の結合様式により分子中に取り込まれていることが望ましい。上記の結合様式で硫黄原子が分子中に取り込まれていれば、成分(A)と他成分との相溶性が良好であり、さらに、着色もなく、透明性に優れた成形体を得ることができる。一方、上記以外の結合様式で硫黄原子が分子中に取り込まれている場合は、例えば、成分(A)と他成分との相溶性が悪くなる傾向があり、得られる成形体の透明性を維持するために相溶化剤などの別成分を添加する必要が出てきたり、顕著な着色を示す可能性がある。以上の点からも、成分(A)のイソシアネート末端プレポリマーのもう一方の原料であるジオールは、スルフィド結合、ジスルフィド結合、チオエステル結合、ジチオエステル結合、チオカーボネート結合、又はジチオカーボネート結合のうちの少なくとも1種の結合様式により分子中に硫黄を含むことが好ましい。
【0100】
成分(A)であるイソシアネート末端プレポリマーのイソシアネート基含有率は、10〜20質量%の範囲であることが好ましい。上記イソシアネート基含有率が10質量%以上であれば、高硬度の成形体を得ることができ、20質量%以下であれば、高い靭性(十分な強度)を有する成形体を得ることができる。上記イソシアネート基含有率は、より好ましくは11〜15質量%の範囲である。
【0101】
成分(B)
成分(B)は、前記一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミンである。一般式(I)中のR1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである。R1、R2およびR3が上記置換基であることで、結晶性を抑制しかつ他成分との相溶性を高めることができる。また、これらの置換基がないか、あるいは数が少ないと結晶性が高く取り扱いにくくなり、他の置換基の場合には、他の成分との相溶性が悪くなり得られる材料の透明性が低下するおそれがある。
【0102】
前記芳香族ジアミンは、より具体的には、例えば、以下の化合物である。1,3,5−トリメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリエチル−2,6−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリチオメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリチオメチル−2,6−ジアミノベンゼン、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエン、3,5−ジチオメチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジチオメチル−2,6−ジアミノトルエン、1−エチル−3,5−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−エチル−3,5−ジメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1−エチル−3,5−ジチオメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−エチル−3,5−ジチオメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1−チオメチル−3,5−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−チオメチル−3,5−ジメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1−チオメチル−3,5−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−チオメチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、3−エチル−5−チオメチル−2,4−ジアミノトルエン、3−エチル−5−チオメチル−2,6−ジアミノトルエン、3−チオメチル−5−エチル−2,4−ジアミノトルエン等。
【0103】
上記芳香族ジアミンは、R1がメチル基であり、R2およびR3がそれぞれエチル基またはチオメチル基の何れかであることが、得られる成形体が白濁しにくく、かつ得られる成形体に十分な靭性を付与できるという観点から好ましい。前記芳香族ジアミンとしては、より具体的には、例えば、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエン、3,5−ジチオメチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジチオメチル−2,6−ジアミノトルエン等を挙げることができる。
【0104】
成分(A)と成分(B)との含有率は、成分(B)のアミノ基に対する、成分(A)のイソシアネート基のモル比が1.00〜1.15の範囲であることが、十分な靭性(強度)が得られるという観点から好ましい。上記モル比は、より好ましくは1.02〜1.12の範囲である。
【0105】
上記重合体は、公知の方法、好ましくは注型重合法によって製造することができる。具体的には、国際公開WO 02/074828号パンフレット、国際公開WO 03/084728号パンフレットに記載の方法を用いることが好ましい。
【0106】
本発明は、更に、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガス(例えば窒素ガス)が充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする包装された眼鏡用プラスチックレンズ、および、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガス(例えば窒素ガス)が充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの包装体に関する。前記眼鏡用プラスチックレンズは、前述の成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有するものである。ここで、包装体とは、眼鏡用プラスチックレンズを内包した包装材をいう。本発明の包装された眼鏡用プラスチックレンズおよび眼鏡用プラスチックレンズの包装体の詳細は、前述の通りである。
【0107】
本発明によれば、成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを包装材中で長期間、例えば5年以上保存した場合であっても、レンズの変色を抑制し、高い品質を維持することができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

(実施例1)
(1−a)プラスチックレンズの製造
平均分子量400のポリテトラメチレングリコールと4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)からなるイソシアネート基含有率が13%であるイソシアネート末端プレポリマー100質量部に、あらかじめモノブトキシエチルアシッドホスフェート0.024質量部およびジ(ブトキシエチル)アシッドホスフェート0.036質量部を添加し、均一に溶解させ、脱泡した。次に、3,5−ジエチル−2,4−トルエンジアミンと3,5−ジエチル−2,6−トルエンジアミンの混合物25.5質量部を60〜70℃で均一に混合し、短時間に高速にて攪拌した。さらに攪拌直後の混合物をレンズ成型用ガラス型に注入し、120℃で15時間加熱重合させ、プラスチックレンを得た。得られたレンズのサイズは、レンズ径70mm、中心肉厚7mm、凸面及び凹面の曲率半径は約100mm、レンズ重量40gであった。
【0109】
(1−b)包装方法
上記(1−a)で製造したレンズを、前述の包装方法1によって包装した。ただし、レンズ包装袋は、酸素透過度、窒素透過度がそれぞれほぼ0ml/m2・atm・24hであり、水蒸気透過度がほぼ0g/m2・24hであるガスバリア性フィルムを用いて製造した。このガスバリア性フィルムは複合フィルムからなり、レンズ包装袋として形成されたときに最も内側に位置する第1層が低密度ポリエチレン(30μm)、第2層がポリエチレン(20μm)、第3層がアルミニウム箔(7μm)、第4層がポリエチレン(13μm)、第5層がポリエチレンテレフタレート(12μm)からなる。包装袋の外形寸法は折り返し部の長さが約10cm、側片シール部の長さが約11cmである(側辺シール部のシール幅は約1cm、開口シール部のシール幅は約1cmである)。また、レンズ保護シートとしては、和紙製のシートを使用した。また、真空・ガス置換包装機としては、富士インパルス株式会社製のノズル式真空・ガス置換包装機(V−402)を使用した。また、包装機のノズルは2本からなり、レンズの中心部挟んで間隔をおいて配置し、一方のノズルからの脱気と他方ノズルからの窒素ガス注入を交互に行うことにより窒素ガスの充填を行った。また、ノズル式真空・ガス置換包装機の不活性ガス供給手段としては、高純度の窒素ガスが充填されたボンベを使用し、その窒素ガスの純度は99.999%以上、不純物としての酸素含有量は5ppm以下、露点は−60℃以下であった。
【0110】
(1−c)黄変度の測定
前記方法で包装したレンズを65℃の大気中に保管し、黄変度を測定した。
黄変度(ΔYI値)の測定は、JIS K7103−1977に規定されているプラスチック黄色度および黄変度試験方法に準じて測定した。
測定結果を図17に示す。
なお、図17中、後述する比較例1のYI値が、実際に室温で1年間保管したときのYI値と一致する経過時間を、相当年1年とした。なお、YI0の値は、1.1、測定に使用した装置は日立分光光度計U−4100である。また、各測定時のレンズの視感透過率は87.4〜88.1%の範囲内であり、YI値の変化に対して大きな変化は見られなかった。また、各測定時のレンズ包装袋内の酸素濃度は約3%であった(測定装置:飯島電子工業株式会社製食品用微量酸素分析計RO−102)。
【0111】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で製造したレンズを、実施例1と同じ和紙からなるレンズ保護シートで包み、紙製の包装袋(密封されていない)に入れ、実施例1と同様に黄変度を測定した。その結果を図17に示す。
【0112】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で製造したレンズを、実施例1と同じ和紙からなるレンズ保護シートで包み、大気中で開口部をシールし、実施例1と同様に黄変度を測定した。その結果を図17に示す。
【0113】
(黄変度の経時変化測定結果)
図17に示すように、相当年3年の状態を比較すると、実施例1(窒素ガス充填、ガスバリア包装)はYI値変化量が約0.3であったのに対し、比較例1(非密封包装)は約4.1、比較例2(空気充填、ガスバリア包装)は約3.2であった。また、実施例1は5年相当の保管でもYI値変化量が約0.7であった。
以上の結果からわかるように、ガスバリア性フィルムからなる包装袋に窒素ガスを充填した状態でレンズを密封したものは、黄変が非常に少ないことがわかる。また、比較例2の大気中でガスバリア性の包装袋に入れて密封したものは、比較例1の従来の包装より黄変は少ないが、実施例1より、黄変がかなり大きいことわかる。これはレンズ包装時に同封された空気中の酸素が黄変に影響しているためであると考えられる。
【0114】
(実施例2)
(2−a)プラスチックレンズの製造
実施例1(1−a)と同様の方法によりプラスチックレンズを製造した。
【0115】
(2−b)包装方法
上記(2−a)で製造したレンズを、実施例1(1−b)と同様の方法により包装した。ただし、脱気と窒素ガス置換の回数、吸引力などを変化させ、異なる酸素濃度(3〜10%)の包装体を作成した。
【0116】
(2−c)黄変度の測定
前記方法で包装したレンズを実施例1と同様に65℃の雰囲気中で相当年5年間保管した後、前記(1−c)と同様の方法で黄変度を測定した。なお、YI0の値は、1.1、測定に使用した装置は日立分光光度計U−4100である。また、各測定時のレンズの視感透過率は87.0〜87.8%の範囲内であり、YI値の変化に対して大きな変化は見られなかった。また、各測定時のレンズ包装袋内の酸素濃度は飯島電子工業株式会社製食品用微量酸素分析計RO−102を用いて測定した。
【0117】
(酸素濃度に対する黄変度の測定結果)
上記黄変度の測定により、酸素濃度が3.5体積%以下のものは5年相当の保管でもΔYI値は1以下になり、ペアリング上支障がないレベルに黄変を抑えることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法は、前述のイソシアネート末端プレポリマー成分(A)と芳香族ジアミン成分(B)を含む成分を重合することにより得られる重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズの保存方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】眼鏡用プラスチックレンズを包装袋に収納する直前の状態を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示す包装袋にレンズを収納した状態を示す外観斜視図である。
【図3】図2のI−I線断面図である。
【図4】ノズル式真空・ガス置換包装機の概略図であり、(a)は断面図、(b)は正面図である。
【図5】ノズル式真空・ガス置換包装機を用いて包装する場合の包装工程図である。
【図6】チャンバー式真空・ガス置換包装機の概略断面図である。
【図7】チャンバー式真空・ガス置換包装機を用いて包装する場合の包装工程図である。
【図8】レンズ保持部材の正面図である。
【図9】レンズ保持部材によって保持された眼鏡用プラスチックレンズをレンズ包装袋に収納する直前の状態を示す外観斜視図である。
【図10】図9に示す包装袋にレンズを収納した状態を示す外観斜視図である。
【図11】図10のII−II線断面図である。
【図12】レンズ保持部材の他の例の正面図である。
【図13】カップ状レンズ保持部材を用いてレンズを包装袋に収納する直前の状態を示す外観斜視図である。
【図14】レンズ保持部材によって保持された眼鏡用プラスチックレンズを、レンズ包装容器に収納する直前の状態を示す外観斜視図である。
【図15】図14に示す包装容器にレンズを収納した状態を示す外観斜視図である。
【図16】図15のIII−III線断面図である。
【図17】黄変度の測定結果を示す。
【図18】図1に示すレンズ包装袋1に用いられているガスバリア性フィルム30の一部断面図である。
【図19】図9に示すレンズ包装袋201に用いられているガスバリア性フィルム230の一部断面図である。
【図20】レンズ包装箱の収納に用いられる収納ケースの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)と下記成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有する眼鏡用プラスチックレンズを、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉保存することを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化1】

【請求項2】
前記不活性ガスは窒素ガスである請求項1に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項3】
前記包装材は、酸素透過度が0.5ml/m2・atm・24h以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項4】
前記包装材は水蒸気の透過を抑制する材質からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項5】
前記包装材中に乾燥剤を配置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項6】
前記眼鏡用プラスチックレンズを、該レンズの光学面が包装材内面と接触しないように保持するレンズ保持部材によって保持した状態で、前記包装材中に配置した後、前記不活性ガスの充填を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項7】
前記レンズ保持部材は通気孔を有することを特徴とする請求項6に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項8】
前記包装材中への不活性ガスの充填は、前記包装材の開口部へ少なくとも1本のノズルを挿入し、該ノズルにより脱気とその後の不活性ガス注入を複数回繰り返した後、前記包装材の開口部を密閉することにより行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項9】
前記包装材中への不活性ガスの充填は、前記包装材の開口部へ、レンズの中心部を挟んで所定の間隔をおいて挿入された2本のノズルによって行われることを特徴とする請求項8に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項10】
前記包装材中への不活性ガスの充填は、
前記密閉前の包装材をチャンバー内に設置し、
前記チャンバー内を脱気し、
前記チャンバー内に不活性ガスを充填し、次いで
前記包装材の開口部を密閉することにより行われることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項11】
前記不活性ガス充填後のチャンバー内の圧力が、大気圧より小さくなるように該チャンバー内の圧力を調整することを特徴とする請求項10に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項12】
前記眼鏡用プラスチックレンズは、前記基材上にハードコート膜、反射防止膜、および撥水膜からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの保存方法。
【請求項13】
下記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有している眼鏡用プラスチックレンズであって、少なくとも酸素の透過を抑制する材質からなり、不活性ガスが充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする包装された眼鏡用プラスチックレンズ。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化2】

【請求項14】
下記成分(A)と成分(B)を含む成分を重合することによって得られた重合体を基材として有している眼鏡用プラスチックレンズが、少なくとも酸素の透過を抑制し、不活性ガスが充填された包装材中に密閉封入されていることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ包装体。
成分(A):分子中に環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートと300〜2500の平均分子量を有するジオールとの反応生成物であるイソシアネート末端プレポリマー
成分(B):一般式(I)で表される1種または2種以上の芳香族ジアミン(一般式(I)中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、チオメチル基の何れかである)
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−99313(P2007−99313A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288802(P2005−288802)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】