説明

眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法

【課題】モールド組立ての柔軟性を確保し、偏光フィルムの成形精度に依存しない高品質な眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法は、第1のレンズ用モールド16の内面の周縁部と偏光フィルム14の周縁部との少なくともどちらか一方に可塑性のある部材20を盛り上げるように設ける工程と、部材20を第1のレンズ用モールド16の内面と偏光フィルム14とに当接させて第1のレンズ用モールド16の内面と偏光フィルム14との間を一所定の間隔を空けた状態で部材20を固化させて、偏光フィルム14を第1のレンズ用モールド16の内面に固定する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、キャスト法でプラスチックレンズを製造する際には、モールド枠の役目をするリング状のガスケット(治具本体)と、当該ガスケットの両端開口部に嵌合される一対のモールド部材とが用いられる。前記ガスケットの側壁部にはモノマー注入口が貫通形成されており、当該注入口を介して前記両モールド部材が嵌合されたガスケット内にはレンズ材料とされるモノマーが充填注入される。そして、当該モノマーがガスケット内で固化すると、前記両モールド部材の嵌合状態が解除され、ガスケット内から所定の厚さに成形されたプラスチックレンズが取り出されるようになっている。
【0003】
このように、従来からプラスチックレンズを製造する際には、モノマー注入口が形成されたガスケットがレンズ製造用治具として用いられているが、実用上は製造されるプラスチックレンズの種類に応じて多種多様なガスケットが使い分けされている。例えば、近時においては、偏光フィルム等の機能性フィルムがレンズ厚肉内に埋設されたプラスチックレンズ(以下、「機能性レンズ」という。)の製品需要が増えているが、かかる機能性レンズを製造する際には、特許文献1に記載されているようなガスケットが使用される。
【0004】
即ち、この特許文献1に記載されたガスケットは、その側壁部内面に機能性フィルムをセット支持するための支持凸部が全周に亘って形成されており、その支持凸部の頂面には前記機能性フィルムの周縁部が差し込み支持される挿入溝が同じく全周に亘って形成されている。したがって、このガスケットを用いて前記機能性レンズを製造する際には、まず前記支持凸部の挿入溝内に機能性フィルムの周縁部を差し込み支持して当該機能性フィルムをガスケット内にセットする。そして前後一対のモールド部材をガスケットの両端開口部に各々嵌合した後、モノマー注入口からモノマーをガスケット内に注入する。すると、前記機能性フィルムによって前後2つに区画されたガスケット内の各空隙にモノマーが充填され、各空隙内のモノマーが前記機能性フィルムをサンドイッチする状態で固化する。その結果、レンズ厚肉内に機能性フィルムが埋設された機能性レンズが成形される。
【0005】
また、偏光プラスチックレンズの製造方法の一例として例えば特許文献2を挙げる。特許文献2は眼鏡用偏光プラスチックレンズに関する技術であって、偏光フィルムをモールドに保持させた状態でモールド内のキャビティーに調合されたモノマー(重合原料)を充填し、加熱硬化させた後に離型させるように製造するのが一般的である。このような製造方法によって特許文献2のような偏光フィルムがレンズによって表裏からサンドイッチ状に挟まれた偏光プラスチックレンズが得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−311804号公報
【特許文献2】特開2005−99687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、ガスケットを用いて機能性フィルムを保持する場合、機能性フィルム毎の形状差に関係なく、ガスケットの設計・製造精度で保持位置が決ってしまうため、成形後の機能性フィルム位置(中心部)がばらついてしまい機能性レンズの薄型化に限界があるという問題があった。
【0008】
また、屈折率やベースカーブ毎にガスケットを保有する必要があり、設計変更や新素材への適応に柔軟性がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]一軸延伸した偏光フィルムをプラスチック内部に保持させた眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法であって、前記眼鏡用偏光プラスチックレンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドの内面の周縁部と前記偏光フィルムの周縁部との少なくともどちらか一方に可塑性のある部材を盛り上げるように設ける工程と、前記部材を前記第1のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとに当接させて前記第1のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとの間を所定の間隔を空けた状態で前記部材を固化させて、前記偏光フィルムを前記第1のレンズ用モールドに固定する工程と、前記眼鏡用偏光プラスチックレンズの表裏いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとの間を所定の間隔を空けた状態で配置し、前記第1及び第2のレンズ用モールド及び該第1及び第2のレンズ用モールドの周囲を包囲して該第1及び第2のレンズ用モールドを保持する間隔保持用部材によって前記偏光フィルムの両側に外界と区画されるキャビティーを形成する工程と、前記キャビティー内にプラスチックレンズ用のモノマーを充填する工程と、及び、前記モノマーを硬化させた後に前記第1及び第2のレンズ用モールドを離型する工程と、を含むことを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【0011】
これによれば、第1のレンズ用モールドの内面と偏光フィルムとを部材に当接させて第1のレンズ用モールドの内面と偏光フィルムとの間を所定の間隔を空けた状態で部材を固化させて、偏光フィルムを第1のレンズ用モールドの内面に固定することで、ガスケットを使用することなく偏光フィルムをモールド内に保持する事が可能となり、モールドの設計変更、眼鏡用偏光プラスチックレンズの厚さ変更、偏光フィルムの形状変更への対応など、ガスケット重合では容易に切り替えることができないこれらの要求に対して柔軟性を確保できる。
【0012】
[適用例2]上記眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法であって、前記所定の間隔は、前記偏光フィルムと前記第1及び第2のレンズ用モールドとの中心基点での距離であることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【0013】
これによれば、組立ての都度偏光フィルムと第1及び第2のレンズ用モールドとの中心基点で組み立てることにより、モールド中心に対する偏光フィルム中心の位置を常に一定にすることが可能となる。すなわち、偏光フィルムの成形精度を加味して必要以上に中心部に余裕を持たせる必要がなくなるため、眼鏡用偏光プラスチックレンズの薄型化につながり、偏光フィルムの成形精度に依存しない高品質な眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法を提供できる。
【0014】
[適用例3]上記眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法であって、前記間隔保持用部材は、粘着テープであることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【0015】
これによれば、重合硬化の際にキャビティー内に注入されたモノマーの収縮が生ずるが、粘着テープがモノマーの収縮に追従して収縮し、キャビティー内の空隙の発生を防止し、レンズカケ(欠け)を皆無にすることができる。すなわち、レンズカケにより廃棄するレンズが皆無となる。これにより、製造歩留りが向上するとともに、モノマーの使用量の削減、燃焼処理などによる廃棄の際に生じる排気ガスの削減などの効果が得られ、環境負荷を大幅に低減することができる。
【0016】
[適用例4]上記眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法であって、前記部材は、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【0017】
これによれば、紫外線による硬化は数秒〜数十秒であるため、製造サイクルへの影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係るプラスチックレンズの製造工程を示す図。
【図2】本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を示す図。
【図3】本実施形態に係る第1のモールド上の接着剤を示す図。
【図4】本実施形態に係る第1のモールドに接着剤を形成する方法を示す図。
【図5】本実施形態に係る接着剤を塗布するための吐出装置を示す図。
【図6】本実施形態に係るプラスチックレンズの製造方法を示す図。
【図7】本実施形態に係るプラスチックレンズの製造方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態に係る眼鏡用偏光プラスチックレンズ(以降、プラスチックレンズという)の製造方法を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るプラスチックレンズの製造工程を示す図である。本実施形態の製造方法は、図1に示すように大きく分けて5つの工程によって実行される。以下、この工程を順に説明する。
【0021】
(偏光フィルムの調整)
この工程は本実施形態の方法に使用される偏光フィルムの製造工程となる。
図2は、本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法を示す図である。図2(A)に示すように、一軸延伸したPVA(ポリビニルアルコール)製フィルムを長方形形状にカットした平板状のシート体10を周知のプレス手段によってプレスすることで同形状の2つの球面形状の湾曲面12が形成される。この湾曲面12のカーブは製造される予定のプラスチックレンズ2(図7(B)参照)のベースカーブと略同じカーブに設定されている。偏光フィルム14は、プラスチックレンズ2のベースカーブと同じ曲率に形成されていてもよい。本実施形態では各々の湾曲面12の周囲のシート体10部分を残しながら図上破線Kに沿ってカットして偏光フィルム14を得る。
【0022】
偏光フィルム14の外径は、図2(B)に示すように、第1のモールド(第1のレンズ用モールド)16及び第2のモールド(第2のレンズ用モールド)18の外径より小さい。例えば、偏光フィルム14の径は、第1のモールド16の径より2mm程度小さい。これにより、プラスチック原料組成物(モノマー)の注入時、偏光フィルム14の両側に原料が回り込むようになり、キャビティー内へのモノマーの注入をスムーズに行うことができる。
【0023】
図3は、本実施形態に係る第1のモールド16上の接着剤を示す図である。
次に、第1のモールド16の裏面16aに接着剤(部材)20を塗布する。接着剤20は、第1のモールド16の裏面16aの縁取りに複数個所塗布される。例えば3、4箇所に塗布される。本実施形態では直交する4方向の縁取り上に4箇所塗布されている。例えば、偏光フィルム14の外周部に紫外線硬化タイプの接着剤20をディスペンサーで塗布する。
【0024】
第1のモールド16は、プラスチックレンズ2の表裏いずれか一方の面を形成するためのモールドである。本実施形態では、第1のモールド16は、プラスチックレンズ2の表面を形成するためのモールドである。第1のモールド16は、ガラス製の円形板状体とされている。第1のモールド16の裏面16aは成形されるプラスチックレンズの表面(物体側)を成形するための曲面とされている。第1のモールド16は、紫外線が透過する特性を有する材料であれば、特に種類(無機物、有機物)は問わない。本実施形態では、第1のモールド16にクラウンガラスを用いる。なお、光透過性の有機物(例えば樹脂)は、紫外線の照射により劣化するため、プラスチックレンズを大量に成形するモールドには適さない。しかし、コスト安の利点を利用して、例えば少量のサンプル製品等を成型するモールドに用いてもよい。
【0025】
本実施形態で用いる接着剤20は、紫外線硬化樹脂材である。紫外線硬化樹脂材は、周知のように紫外線の光エネルギーに反応して液体から固体に科学的に変化する特性を有する。この紫外線硬化樹脂材は、プレポリマー、モノマー、光重合開始及び添加剤を含む合成樹脂からなる。なお、本実施形態に用いる紫外線硬化樹脂材としては、特に種類は限定しないが、モノマーの仕様に応じて適切なものを選択する。
【0026】
図4は、本実施形態に係る第1のモールド16に接着剤20を形成する方法を示す図であり、図5は、本実施形態に係る接着剤20を塗布するための吐出装置を示す図である。図4及び図5に基づいて接着剤20を形成するための吐出装置22の概略を説明する。吐出装置22は図示しないモーター装置が内蔵された本体24と本体24から上方に突出する回転軸26と回転軸26の上端に配設されたターンテーブル28とを備えている。ターンテーブル28上面には第1のモールド16の表面16b周縁近傍に当接する可撓性のあるリング状の固定パッド30がセットされている。このようにリング状の固定パッド30を使用するのはこのような第1のモールド16の固定手段を表面16bの光透過面になるべく接触させないためである。本体24から上方に延出されるロッド32にはスライダー34を介してシリンジ36が装着されている。シリンジ36は図示しない本体24内のディスペンサー装置による空圧制御によって先端のニードル38から粘性のある紫外線硬化性エポキシ樹脂Pを一定の吐出量で吐出させる。
【0027】
なお、実際には吐出装置22におけるターンテーブル28やシリンジ36は複数用意され同時に多くの処理が可能となっているものである。
【0028】
次にこのような吐出装置22を使用した接着剤20の塗布方法について簡単に説明する。第1のモールド16の外周部に紫外線硬化タイプの接着剤20をディスペンサーで塗布する。第1のモールド16をセンタリングした後、縁取りに接着剤塗布する。図4及び図5に示すように、ターンテーブル28の固定パッド30上に第1のモールド16を載置し、シリンジ36を適宜位置調整をしてニードル38を第1のモールド16の裏面16a上であって裏面16aの周縁に近接した位置の上方に配置する。そして、吐出装置22を駆動させる。つまりターンテーブル28を回転させて第1のモールド16を周方向に回転させるとともに、ディスペンサー装置を駆動させてニードル38先端から裏面16aの周縁寄りに紫外線硬化性エポキシ樹脂Pを吐出させて周方向に沿って接着剤20を塗布していく。接着剤20の高さは全周に渡って同じ高さに形成される。
その後、塗布した接着剤20に紫外線照を射装して、接着剤20を固定する。
【0029】
(モールドの組立)
図6及び図7は、本実施形態に係るプラスチックレンズ2の製造方法を示す図である。
まず、組み立てる第1のモールド16の中心高さ、保持された偏光フィルム14の中心の高さを計測する。偏光フィルム14の高さ測定では、偏光フィルム14は軟質であるため、非接触タイプのセンサー(例えば、キーエンスCCD透過型デジタルレーザーセンサー IGシリーズ)を用いて偏光フィルム14の頂点高さを測定する。
第1のモールド16の高さ測定では、第1のモールド16は硬質なので、接触式の測定プローブを有する装置(例えば、NikonデジマイクロMFシリーズあるいはミツトヨデジマチックインジケーター543シリーズ)で型の頂点高さを測定する。
次に、図6(A)に示すように、偏光フィルム14の表方向から第1のモールド16を偏光フィルム14上に載せる。あるいは、固定台51に保持された偏光フィルム14を、固定パッド52に保持された第1のモールド16に接近させる。
【0030】
次に、第1のモールド16と偏光フィルム14との中心高さを元に、第1のモールド16と偏光フィルム14とを任意の間隔まで近づけて偏光フィルム14に接着剤20を接触させる。その後、第1のモールド16と偏光フィルム14とを所定間隔で保持し、その後、接着剤20に紫外線照を射装して、第1のモールド16と偏光フィルム14との間隔を維持したまま接着剤20を固化させる。紫外線を照射する時間は、選択した接着剤20の種類にもよるが短時間(数秒〜数十秒)で済むため、製造サイクルへの影響を抑えることができる。例えば、500mWで15秒間紫外線を照射する。なお、紫外線照射量が不足すると判断される場合には、適宜紫外線の照射を、形成させた接着剤20に継続して行うことも可能である。
【0031】
次に、設定された中心厚となるように第2のモールド18と対向配置させる。第2のモールド18はガラス製の円形板状体とされている。第2のモールド18の表面18aは成形されるプラスチックレンズ2の裏面(眼球側)を成形するための曲面とされている。偏光フィルム14の表裏方向から第1及び第2のモールド16,18を偏光フィルム14を間に挟むようにする。
【0032】
次に、図6(B)に示すように、一対の第1及び第2のモールド16,18を、必要な間隔をとって保持し、この2枚の第1及び第2のモールド16,18の側面に、片面に接着剤層を有する粘着テープ(間隔保持用部材)46を1周より少し多く巻き付ける。この際、第1及び第2のモールド16,18は、固定パッド52にセットされている。固定パッド52は、図示しないモーター装置から突出する回転軸54により回転駆動される。
【0033】
粘着テープ46の材質は特に限定されない。なお、使いやすさや経済性等の観点から、プラスチックの粘着テープを使用することが好ましい。例えば、基材がポリプロピレン製のものとポリエチレンテレフタレート製のものを、粘着剤には、アクリル系、天然ゴム系、シリコン系のものを各々組み合わせて用意する。なお、粘着テープ46には、モノマーを注入するための注入孔(図示せず)を設けてもよい。
【0034】
このように偏光フィルム14を介在させて組み立てられた第1及び第2のモールド16,18と粘着テープ46との状態を母型48とする。
【0035】
(モノマーの注入)
次に、図7(A)に示すように、このように組み立てられた母型48に対して調合されたモノマーを減圧下で脱気処理した後、注入孔より注入器を用いて、この一対の第1及び第2のモールド16,18と粘着テープ46とで形成されたキャビティー50内に、キャビティー50内に気泡が残らないようにモノマーを充填する。
【0036】
(加熱・硬化)
その後、プラスチック原料組成物を充填した母型48を加熱炉に入れて加熱する。ここで、加熱温度は、好ましくは0〜150℃、より好ましくは10〜130℃であり、加熱は、好ましくは5〜50時間、より好ましくは10〜25時間かけて昇温し、重合を行う。例えば、30℃で7時間保持し、その後30〜120℃まで10時間かけて昇温した。
【0037】
(脱型)
加熱処理が終了すると、モノマーが固化して母型48内に偏光フィルム14が内蔵されたプラスチック原料組成物硬化品が成形される。この母型48を加熱炉より取り出し、粘着テープ46を剥離し、第1及び第2のモールド16,18とプラスチック原料組成物硬化品とを分離させ、図7(B)に示すように、周囲をカットして完成品としてプラスチックレンズ2を得る。
【0038】
本実施形態によれば、第1のモールド16の裏面16aと偏光フィルム14とを接着剤20に当接させて第1のモールド16の裏面16aと偏光フィルム14との間を所定の間隔を空けた状態で接着剤20を固化させて、偏光フィルム14を第1のモールド16の裏面16aに固定することで、第1及び第2のモールド16,18の設計変更、プラスチックレンズ2の厚さ変更、偏光フィルム14の形状変更への対応など、ガスケット重合では容易に切り替えることができないこれらの要求に対して柔軟性を確保できる。
【0039】
また、組立ての都度偏光フィルム14と第1及び第2のモールド16,18とを所定の間隔で組み立てることにより、第1及び第2のモールド16,18の中心に対する偏光フィルム14の中心の位置を常に一定にすることが可能となる。すなわち、偏光フィルムの成形精度を加味して必要以上に中心部に余裕を持たせる必要がなくなるため、プラスチックレンズ2の薄型化につながり、偏光フィルム14の成形精度に依存しない高品質なプラスチックレンズ2の製造方法を提供できる。
【0040】
更に、第1のモールド16、偏光フィルム14、及び第2のモールド18をこの順で並べて粘着テープ46でテーピングするだけで偏光フィルム14を内部に配置したモノマーが充填(封入)されたキャビティー50が形成されることとなり、プラスチックレンズ2を製造するためのキャビティー構築が従来に比べて格段に速く簡単にできることとなってトータルとしてコストダウンに貢献する。
【0041】
なお、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。上記実施形態では接着剤20を光硬化樹脂を使用して紫外線を照射することで固化させていたが、熱可塑性樹脂を使用して加熱によって固化させるようにしてもよい。
【0042】
上記実施形態では偏光フィルム14側を回転させて接着剤20を形成するようにしていたが、シリンジ36側が移動して接着剤20を形成するような構成であっても構わない。
【0043】
上記実施形態で接着剤20を塗布する対象は、第1のモールド16に限らず、偏光フィルム14に塗布してもよい。また、第1のモールド16と偏光フィルム14とを近接させる場合、偏光フィルム14のみを移動させるだけでなく、第1のモールド16を移動させる方法や第1のモールド16と偏光フィルム14との両方を移動させて近接させてもよい。
【0044】
上記実施形態では球面形状に湾曲した偏光フィルム14を例として挙げたが、平板な偏光フィルム14に応用するようにしてもよい。また、偏光フィルム14は必ずしも周囲円形形状に構成されていなくともよい。
【0045】
上記実施形態の偏光フィルム14の材質は上記に限定されるものではない。上記実施形態ではPVAであったがその他ポリエチレンテレフタレート等の他のプラスチックを使用することも可能である。また、PVA等の偏光フィルムの両面をトリアセチルセルロースやポリカーボネートで挟んだフィルムや、PVA等の偏光フィルムの片面にトリアセチルセルロースやポリカーボネートを貼り付けたフィルムを使用することも可能である。
【0046】
上記実施形態の吐出装置22の構成は一例であって他の構成で実現したその他の接着剤20を塗布させる手段に適宜変更することは自由である。
【0047】
上記実施形態の第1及び第2のモールド16,18の保持方法は、粘着テープ46を例示しているが、応用としてガスケットを使用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
2…プラスチックレンズ(眼鏡用偏光プラスチックレンズ) 10…シート体 12…湾曲面 14…偏光フィルム 16…第1のモールド(第1のレンズ用モールド) 16a…裏面 16b…表面 18…第2のモールド(第2のレンズ用モールド) 18a…表面 20…接着剤(部材) 22…吐出装置 24…本体 26…回転軸 28…ターンテーブル 30…固定パッド 32…ロッド 34…スライダー 36…シリンジ 38…ニードル 46…粘着テープ(間隔保持用部材) 48…母型 50…キャビティー 51…固定台 52…固定パッド 54…回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸延伸した偏光フィルムをプラスチック内部に保持させた眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法であって、
前記眼鏡用偏光プラスチックレンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドの内面の周縁部と前記偏光フィルムの周縁部との少なくともどちらか一方に可塑性のある部材を盛り上げるように設ける工程と、
前記部材を前記第1のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとに当接させて前記第1のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとの間を所定の間隔を空けた状態で前記部材を固化させて、前記偏光フィルムを前記第1のレンズ用モールドに固定する工程と、
前記眼鏡用偏光プラスチックレンズの表裏いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドの内面と前記偏光フィルムとの間を所定の間隔を空けた状態で配置し、前記第1及び第2のレンズ用モールド及び該第1及び第2のレンズ用モールドの周囲を包囲して該第1及び第2のレンズ用モールドを保持する間隔保持用部材によって前記偏光フィルムの両側に外界と区画されるキャビティーを形成する工程と、
前記キャビティー内にプラスチックレンズ用のモノマーを充填する工程と、及び、
前記モノマーを硬化させた後に前記第1及び第2のレンズ用モールドを離型する工程と、
を含むことを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法において、
前記所定の間隔は、前記偏光フィルムと前記第1及び第2のレンズ用モールドとの中心基点での距離であることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法において、
前記間隔保持用部材は、粘着テープであることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法において、
前記部材は、紫外線硬化樹脂であることを特徴とする眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−198389(P2012−198389A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62538(P2011−62538)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】