説明

睡眠薬の放出調整

この開示は、延長された放出特性を有する睡眠薬の放出調整に関するものである。医薬組成物および製造工程、そして、放出調整製剤の使用方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2005年7月20日に出願された米国特許出願第11/186,348号に対する米国法典第35編第119条に基づく優先権を主張するものであり、その開示は、本引用により、本明細書に包含される。
【0002】
この開示は、睡眠薬の放出調整に関するものである。医薬組成物と、延長された放出特性を有する睡眠薬の経口投与に関する使用方法が提供されている。この開示はさらに、製剤の調合方法と製造工程を提供する。
【背景技術】
【0003】
不眠症に対する様々な治療が開発されている。食品医薬品局(FDA)に認可された睡眠薬には、imidazopyridine骨格を有するAmbien(ゾルピデム(zolpidem))(特許文献1および特許文献2参照)、ピラゾロピリミジン化合物であるソナタ(Sonata)(ザレプロン(zaleplon))(特許文献3参照)、ゾピクロン(zopiclon)(特許文献4参照)などがある。
【0004】
多くの睡眠薬は即放性経口製剤として市販されている。状況によっては、睡眠薬の作用開始時間および持続時間は望ましくない。例えば、ゾルピデムは、血漿中濃度がある範囲にあるときに最も効力がある。この範囲を超えると、有害な副作用が顕著になる危険性があり、もし仮に危険性がない場合であっても、血漿中の過剰な薬物は単に無駄となってしまう。その結果、市販のゾルピデム錠の作用の持続時間は、ときに不十分に短いため、より長く連続した深い眠りをもたらすことができない。この欠点は、即放性経口製剤として用いられる他の多くの睡眠薬にも当てはまる。
【0005】
したがって、速い作用発現と持効性とを同時に示す経口投与用の医薬組成物を開発することが望ましい。
【特許文献1】米国特許第4382938号明細書
【特許文献2】米国特許第4460592号明細書
【特許文献3】米国特許第4626538号明細書
【特許文献4】米国特許第3862140号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示は、少なくとも一つの即放性成分と少なくとも一つの遅延放出性成分を含む放出調整製剤中に睡眠薬を含む医薬組成物に関する。睡眠薬は、ザレプロン、ゾピクロンおよびゾルピデム、あるいはそれらの塩類、溶媒化合物、水和物を含む。
【0007】
放出調整製剤は、例えばカプセル剤であってもよい。即放性成分は、pH<5の溶媒に溶解される熱溶解性の賦形剤を含む。熱溶解性の賦形剤は、ビタミンE−TPGS、ゲルシレ(Gelucire)、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG−1500、Weobeeとその誘導体、ウィテップゾール(Witepsol)とその誘導体、ツイーン(Tween)などから選択される。遅延放出性成分は、pH≧5の溶媒に溶解される熱溶解性の賦形剤とpH応答型物質の成分を含む。これらの成分は、アルギン酸ナトリウム、ユードラギット(Eudragit)、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG 1500、ゲルシレなどを含む。
【0008】
本発明の他の態様は、睡眠薬の放出調整製剤を用いた、患者における睡眠障害の治療方法に関する。
【0009】
本発明のさらに他の態様は、睡眠薬の放出調整製剤の調合方法に関する。この方法は、カプセルに少なくとも一つの即放性製剤成分と少なくとも一つの遅延放出性製剤成分を充填する工程を含む。製剤成分は、35℃よりも高い温度において液体である熱溶解性の賦形剤を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本開示は、ザレプロン(米国特許第4626538号)、ゾピクロン(米国特許第3862140号)およびゾルピデム(米国特許第4382938号、第4460592号)を含む睡眠薬の放出調整に関する。
【0011】
睡眠薬の放出調整製剤は、少なくとも一つの即放性製剤成分と少なくとも一つの遅延放出性製剤成分によって特徴付けられる。その製剤は、高温で溶解し、室温で保管される場合には固体となる、医薬として許容される賦形剤を有する睡眠薬を含む。これらの医薬として許容される賦形剤は、睡眠薬の担体であるだけでなく、睡眠薬の可溶化剤または吸収促進剤として機能するものであってもよい。賦形剤は、消化器官における睡眠薬の放出特性を改善させることができる。
【0012】
即放性製剤成分は、睡眠薬と、酸性の溶媒(pH<5)に溶解される熱溶解性の賦形剤とを含む。熱溶解性の賦形剤は、例えば、ビタミンE−TPGS、ゲルシレ、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG−1500、Weobeeとその誘導体、ウィテップゾールとその誘導体、ツイーンなどを含む。即放性製剤中の睡眠薬の割合は、1%から40%(w/w)まで変化させられる。例えば、ザレプロンの即放性製剤は、4%(w/w)の活性物質と96%(w/w)のビタミンE−TPGSを含んでいてもよい。
【0013】
遅延放出性製剤成分は、睡眠薬と、熱溶解性成分と、pH≧5で溶媒に溶解される賦形剤とを含む。そのような賦形剤は、例えば、アルギン酸ナトリウム、ユードラギット、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG 1500、ゲルシレなどを含む。遅延放出性製剤中の睡眠薬の割合は、1%から40%(w/w)まで変化させられる。例えば、ザレプロンの遅延放出性製剤は、6%(w/w)の活性物質と、84%(w/w)のPEG 1500と、10%(w/w)のユードラギットとを含んでいてもよい。
【0014】
睡眠薬の放出調整製剤は、熱溶解工程によって調合される。その工程は、睡眠薬と、医薬として許容され、高温で溶解して液体となる賦形剤とを混合する工程を含む。その製剤は、室温で保管されるときには固体となる。例えば、カプセルへの充填は2段階で行われる。即放性製剤成分および遅延放出性製剤成分は、別々に調合される。一方の製剤成分が、液体の状態で最初にカプセルの中に充填される。そして、その液体の製剤が、室温まで冷却されて固体になった後に、2番目の製剤が同じカプセル内に充填される。融点がより高い、あるいは、粘稠度がより高い製剤成分が最初に充填されることが好ましい。
【0015】
一般に、製剤は約35℃から約80℃の高温で溶解する成分を含む。そして、睡眠薬は、その溶融液の中に加えられ、調合中に十分に混合されて均質な混合物となる。賦形剤、温度、および睡眠薬の濃度に応じて、混合液は、溶液、乳状液または懸濁液となる。そして、この液体は高温でカプセルの中に充填される。
【0016】
このように製造された放出調整製剤の性能は、標準的な溶解方法によって評定される。製剤の溶解試験は、米国薬局方のXXIII、方法Iに基づいて、50rpmかつ温度37℃のバスケット容器(basket apparatus)中で行われる。その溶解試験は、模擬胃液としての900mLの0.1N HCl(pH1.0)の溶解溶媒中でまず2時間行われる。2時間後、溶解溶媒は、溶解容器から傾瀉されて、模擬腸液(pH7.2)としての900mLの溶解溶媒に置換されて、さらに6時間置かれる。試料中の睡眠薬の溶解量は高速液体クロマトグラフ(HPLC)法によって評価分析される。即放性製剤成分は、より酸性の環境で溶解され、睡眠薬は模擬胃液中において速やかに放出されるが、遅延放出性製剤成分はそのまま残っている。溶媒が模擬腸液に交換された後、遅延放出性製剤成分はそのより基本的な溶媒中で溶解され、睡眠薬を放出する。このようにして、放出調整製剤の延長された放出特性が評定される。
【0017】
放出調整製剤は、ザレプロン、ゾピクロンおよびゾルピデムなどの速効型の睡眠薬を含むが、これらに限定されるものではない。この開示に記述されているように、他の医薬的に有効な薬物もまた、所望の延長された放出特性を有する放出調整製剤へと配合されることができる。本出願の放出調整製剤は、睡眠障害の治療のために睡眠を導入および維持する方法において、特に有用である。その方法は、睡眠を導入する即放性製剤成分を用いること、および、睡眠を維持する遅延放出性製剤成分を用いることからなる。この開示に記述された放出調整製剤は、その改善された放出特性と薬物の延長された持続時間による利点を有する。
【0018】
この開示は、さらに以下の実施例によって説明される。
【実施例】
【0019】
[例1]
製剤1の組成および調合方法
製剤 1a(遅延放出性成分)

成分 重量%
ザレプロン 6
ゲルシレ 54
アルギン酸ナトリウム 40

計 100

製剤 1b(即放性成分)

成分 重量%
ザレプロン 4
ビタミンE TPGS 96

計 100

製剤1の製造工程
工程A(遅延放出性成分の調合)
1. 27グラムのゲルシレと20グラムのアルギン酸ナトリウムを適切な容器中で混合する。混合中は温度を70℃に保つ。
2. その2つの賦形剤が均質になるまで十分に混合する。
3. 3グラムのザレプロンを同じ容器の中に加え、均質になるまで混合する。
4. その均質な懸濁液を100mg分量り、ハードゼラチンカプセルに充填する。
5. その製剤を室温まで冷却させる。

工程B(即放性成分の調合)
6. 48グラムのビタミンE TPGSを適切な容器中に加え、温度を60℃に保つ。
7. 2グラムのザレプロンを同じ容器の中に加える。温度を60℃に保ち、それらの成分が均質になるまで混合する。
8. その均質な懸濁液を100mg分量り、同じハードゼラチンカプセルに充填する。
9. その製剤を室温まで冷却させる。
【0020】
[例2]
製剤2の組成および調合方法
製剤 2a(遅延放出性成分)

成分 重量%
ザレプロン 6
PEG 1500 84
ユードラギット 10

計 100

製剤 2b(即放性成分)

成分 重量%
ザレプロン 4
ビタミンE TPGS 96

計 100

製剤2の製造工程
工程A(遅延放出性成分の調合)
1. 42グラムのPEG 1500と5グラムのユードラギットを適切な容器中で混合する。混合中は温度を70℃に保つ。
2. その2つの賦形剤が均質になるまで十分に混合する。
3. 3グラムのザレプロンを同じ容器の中に加え、均質になるまで混合する。
4. その均質な液体を100mg分量り、ハードゼラチンカプセルに充填する。
5. その製剤を室温まで冷却させる。

工程B(即放性成分の調合)
6. 48グラムのビタミンE TPGSを適切な容器中に加え、温度を60℃に保つ。
7. 2グラムのザレプロンを同じ容器の中に加える。温度を60℃に保ち、それらの成分が均質になるまで混合する。
8. その均質な懸濁液を100mg分量り、同じハードゼラチンカプセルに充填する。
9. その製剤を室温まで冷却させる。
【0021】
[例3]
製剤3の組成および調合方法
製剤 3a(遅延放出性成分)

成分 重量%
ザレプロン 3.3
ゲルシレ 44.7
アルギン酸ナトリウム 40.7
PEG 1500 11.3

計 100

製剤 3b(即放性成分)

成分 重量%
ザレプロン 3.3
PEG 1500 96.7

計 100

製剤3の製造工程
工程A(遅延放出性成分の調合)
1. 44.7グラムのゲルシレと11.3グラムのPEG 1500を適切な容器中で混合する。混合中は温度を75℃に保つ。
2. 40.7グラムのアルギン酸ナトリウムを同じ容器の中に加え、全ての賦形剤が均質になるまで十分に混合する。
3. 3.3グラムのザレプロンを同じ容器の中に加え、均質になるまで他の賦形剤と混合する。
4. その均質な懸濁液を150mg分量り、ハードゼラチンカプセルに充填する。
5. その製剤を室温まで冷却させる。

工程B(即放性成分の調合)
6. 96.7グラムのPEG 1500を適切な容器中に加え、温度を45℃に保つ。
7. 3.3グラムのザレプロンを同じ容器の中に加える。温度を45℃に保ち、それらの成分が均質になるまで混合する。
8. その均質な懸濁液を150mg分量り、同じハードゼラチンカプセルに充填する。
9. その製剤を室温まで冷却させる。
【0022】
成分試験−製剤3の溶解特性
ザレプロンの製剤3の薬物放出特性は、50rpmのバスケット容器内の37℃に保たれた900mLの0.1N HClの液剤中で2時間、米国薬局方のXXIII、方法Iに基づいて評定された。2時間後、酸性の溶媒は傾瀉される。37℃に予備加熱された900mLの模擬腸液は、各容器に加えられ、さらに4時間溶解試験が続けられる。予め定められた時間ごとに試料が採集される。採集された試料中のザレプロン濃度は、UV検出器が備え付けられたHPLCによって評価分析される。
【0023】
図1に示されているように、まずザレプロンの即放性が製剤3について観察された。そして、溶解溶媒が改善された模擬腸液に交換された後に、遅延および延長された放出特性が観察された。
【0024】
[例4]
人における予備薬物動態試験
予備薬物動態試験は人間の志願者に対して行われた。それは、製剤3およびソナタの製剤を比較する交差試験であり、絶食状態にある3人の健康な志願者に対するものである。血液試料は、予め定められた時間スケジュールで採血された。血液中のザレプロン濃度は、液体クロマトグラフ-タンデム質量分析(LC/MS/MS)システムによって評価分析された。血漿中濃度対ザレプロンの時間特性は図2に示されている。
【0025】
経口生物学的利用能は、薬物濃度時間曲線下面積(AUC)またはピーク値(Cmax)を測定することによって評定され、両方のパラメータは公知である。AUCは、X軸の時間に対して、薬物の血清または血漿中濃度をY軸にプロットした曲線の下側の面積である。Cmaxは、試験対象の血清または血漿中で達成される最大薬物濃度の略語である。人間を対象にした試験の薬物動態パラメータは[表1]にまとめられている。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】製剤3のザレプロンの溶解特性
【図2】ソナタおよび製剤3のザレプロン血漿中濃度対時間特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの即放性成分と少なくとも一つの遅延放出性成分を含む放出調整製剤中に睡眠薬を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記睡眠薬が、ザレプロン(zaleplon)、ゾピクロン(zopiclon)およびゾルピデム(zolpidem)、あるいは、それらの塩類、溶媒化合物、水和物からなる群から選択される請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記放出調整製剤がカプセル剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記即放性成分が、pH<5の溶媒に溶解され、35℃よりも高い温度において液体である第一の熱溶解性の賦形剤を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記液体が、溶液、乳状液または懸濁液である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記第一の熱溶解性の賦形剤が、ビタミンE TPGS、ゲルシレ(Gelucire)、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG−1500、Weobeeとその誘導体、ウィテップゾール(Witepsol)とその誘導体、ツイーン(Tween)から選択される請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記遅延放出性成分が、pH≧5の溶媒に溶解され、35℃よりも高い温度において液体である第二の熱溶解性の賦形剤を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記液体が、溶液、乳状液または懸濁液である請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記第二の熱溶解性の賦形剤が、アルギン酸ナトリウム、ユードラギット(Eudragit)、ポリエチレングリコール(PEGs)、PEG−1500、ゲルシレ(Gelucire)から選択される請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
患者における睡眠障害の治療方法であって、請求項1に記載の医薬組成物の有効量を投与することを特徴とする治療方法。
【請求項11】
睡眠薬の放出調整カプセル製剤の調合方法であって、カプセルに少なくとも一つの即放性製剤成分と少なくとも一つの遅延放出性製剤成分を充填することを特徴とする調合方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−501796(P2009−501796A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522784(P2008−522784)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2006/021914
【国際公開番号】WO2007/018710
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508018901)オリエント ユーロファーマ シーオー.,エルティーディー. (1)
【Fターム(参考)】