説明

瞬時電圧降下対策装置

【課題】 電力系統とその負荷系統との間に設置される瞬時電圧降下対策装置を構成するリアクトルによる力率低下と負荷系統の電圧低下とを補整する。
【解決手段】 瞬時電圧降下対策装置20をスイッチ21,リアクトル22,整合変圧器23,直列インバータ24などから構成し、電力系統1が健全時には整合変圧器23と直列インバータ24とで、整合変圧器23の二次巻線の両端電圧(Vinv)としてリアクトル22の両端電圧(Vr)とは逆位相の交流電圧を発生させることにより、この両端電圧(Vr)を相殺することで、負荷機器2が純抵抗負荷のときには電力系統1から見た力率をほぼ1にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、商用電源などの電力系統とその負荷系統との間に設置される瞬時電圧降下対策装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワーエレクトロニクス機器,コンピュータ機器,電子機器など、その電源としての電力系統の電圧変動の影響を受け易い負荷機器が増大していることから、前記電力系統が特に高圧系統の場合、その負荷系統には自家発電設備などのバックアップ電源を設置し、さらに、前記電力系統と負荷系統との間に、この電力系統の停電や電圧低下時に該電力系統から負荷系統を切り離す瞬時電圧降下対策装置が設けられている。
【0003】
図5は、この種の瞬時電圧低下対策装置の従来例を示す回路構成図であり、下記非特許文献1に記載されている回路と同様構成のものである。
【0004】
すなわち図5において、1は商用電源などの電力系統、10は電力系統1と負荷機器2,自家発電設備3などからなる負荷系統との間に挿設された瞬時電圧降下対策装置であり、この瞬時電圧降下対策装置10には電力系統1側の遮断器11と、リアクトル12と、サイリスタスイッチ(以下、サイリスタSWとも称する)13と、前記負荷系統側の遮断器14と、補助変圧器15と、補助変圧器15で検知した電力系統1の電圧値に基づいてサイリスタSW13の動作を制御するサイリスタSW制御回路16とを備えている。
【特許文献1】特開2000−287458号公報(第5頁,図1など)。
【非特許文献1】菅原他,「サイリスタスイッチによる瞬時停電対策装置」,産業電力電気応用研究会資料,IEA−01−6,2001年3月16日,社団法人電気学会。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示した従来の瞬時電圧低下対策装置の動作とその問題点とを、図6に示したその動作波形図を参照しつつ、以下に説明する。
【0006】
先ず、図6に示す時刻t0 直前までは電力系統1の電圧Vsが健全なため、閉路している遮断器11,リアクトル12,サイリスタSW制御回路16からのオン指令信号により導通状態にあるサイリスタSW13,閉路している遮断器14それぞれを介して電力系統1から負荷機器2に電流Isが流れている。
【0007】
次に時刻t0 で、電力系統1が何らかの要因で停電状態に陥ると、この時から電力系統1の電圧Vsが零の状態となるが、リアクトル12に蓄えられているエネルギーによりリアクトル12の両端電圧Vrが時刻t0 より図示のように変化し、この電圧Vrにより数ミリ秒程度の期間は負荷機器2の両端電圧Vloadをほぼ正常な状態に維持するための電流Isが流れ続ける。
【0008】
また、上述の電圧Vsが零の状態は補助変圧器15を介したサイリスタSW制御回路16が検知し、サイリスタSW13へオフ指令信号を送出することにより、時刻t1 で電流Isが零となって、サイリスタSW13が遮断状態になり、この遮断状態になったサイリスタSW13により、以後は電力系統1が負荷機器2,自家発電設備3などからなる負荷系統から切り離され、自家発電設備3より負荷機器2に電力が供給される状態となる。
【0009】
この瞬時電圧低下対策装置10において、サイリスタSW13は電力系統1の電圧Vsの半サイクル以内の高速遮断が行えるので、遮断器11,遮断器14が閉路状態から、電力系統1の停電状態に陥った時点直後に発せられる遮断指令により開路状態に移行するのに時間が要しても、この時間が前記負荷系統に影響を与えることはない。
【0010】
図5に示した瞬時電圧降下対策装置10において、上述の動作を行うために、例えば、リアクトル12のパーセントインピーダンス(%Z)を30%に設定し、負荷機器2を純抵抗負荷とすると、図6に示すように、電力系統1の電圧Vsが定格電圧(100%),電流Isが定格電流(100%)のときにはリアクトル12の両端電圧Vsが30%となり、このときの電圧Vsと電流Isとの位相差が17°(電気角)となり、従って、電力系統1から見た力率は約0.96、負荷機器2の両端電圧Vloadは96%となり、その結果、電力系統1が健全時におけるリアクトル12に起因した電力系統1から見た力率低下と負荷機器2の両端電圧の低下とを招くという問題点があった。
【0011】
上記問題点を解消するために、例えば、上記特許文献1に開示されている回路例では、図5におけるリアクトル12の代わりに直列インバータを備え、この直列インバータにより電力系統1の電圧低下を補償するようにしているが、この直列インバータは負荷機器への有効電力の一部を分担することからをその出力容量が大きくなり、さらに、広い出力電圧範囲で高速応答が要求され、その結果、この瞬時電圧降下対策装置の大型化と価格上昇とを招くという新たな問題点があった。
【0012】
この発明の目的は上記問題点を解消した瞬時電圧降下対策装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この第1の発明の瞬時電圧降下対策装置にはスイッチとリアクトルと整合変圧器と直列インバータとを備え、商用電源などの電力系統とその負荷系統との間に、前記スイッチとリアクトルと整合変圧器の二次巻線とをそれぞれ直列接続してなる回路の両端を接続し、前記整合変圧器の一次巻線間に前記直列インバータの交流出力端を接続し、前記電力系統が健全時には、前記直列インバータから前記整合変圧器の二次巻線間に前記リアクトルの両端電圧とは逆位相の交流電圧を発生させることを特徴とする。
【0014】
また第2の発明は前記第1の発明の瞬時電圧降下対策装置において、前記直列インバータの直流電源側に並列インバータを付加し、前記並列インバータの交流出力側は、直接または昇圧変圧器を介して前記負荷系統側に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明の瞬時電圧降下対策装置によれば、前記直列インバータと整合変圧器とにより前記リアクトルに起因した電力系統から見た力率の低下と負荷系統への電圧低下が解消されるので、安定した好適な電力を負荷系統に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1はこの発明の第1の実施の形態を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図であり、この図において、図5に示した従来例回路構成と同一機能を有するものには同一符号を付している。
【0017】
すなわち図1に示した瞬時電圧降下対策装置20には、例えばサイリスタSWなど高速遮断機能を有するスイッチ21と、リアクトル12と同一仕様で製作されるリアクトル22と、整合変圧器23と、直列インバータ24と、蓄電池設備など直列インバータ24への直流電源25と、補助変圧器26,27とを備えている。
【0018】
この瞬時電圧降下対策装置20の動作を、図2に示すその動作波形図を参照しつつ、以下に説明する。
【0019】
先ず、図2に示す時刻t0 直前までは電力系統1の電圧Vsが健全なため、閉路しているスイッチ21,リアクトル22,整合変圧器23の二次巻線それぞれを介して電力系統1から負荷機器2に電流Isが流れている。
【0020】
このとき、リアクトル22の両端電圧Vrは補助変圧器26と補助変圧器27とを介して直列インバータ24が検知し、この電圧Vrと逆位相でその振幅がほぼ等しい電圧を直列インバータ24から整合変圧器23の二次巻線間にVinvとして発生させることにより、例えば負荷機器2が純抵抗負荷の場合に、電力系統1の電圧Vsと電流Isとの位相差をほぼ0°、すなわち、電力系統1から見た力率をほぼ1にすることができ、さらに、前記電圧Vsと負荷機器2の両端電圧Vloadとをほぼ等しくすることができる。
【0021】
次に時刻t0 で、電力系統1が何らかの要因で停電状態に陥ると、補助変圧器26を介して直列インバータ24がこの状態を検知して、直列インバータ24の変換動作を速やかに停止させてその出力電圧を零にし、また、この時から電力系統1の電圧Vsも零の状態となるが、リアクトル22に蓄えられているエネルギーによりリアクトル22の両端電圧Vrが時刻t0 より図示のように変化し、この電圧Vrにより数ミリ秒程度の期間は負荷機器2の両端電圧Vloadをほぼ正常な状態に維持するための電流Isが流れ続ける。
【0022】
上述の電圧Vsが零の状態は図示しないスイッチ21の操作回路もこれを検知し、スイッチ21へ釈放信号を送出することにより、時刻t2 で電流Isが零となって、スイッチ21が遮断状態になり、この遮断状態になったスイッチ21により、以後は電力系統1が負荷機器2,自家発電設備3などからなる負荷系統から切り離され、自家発電設備3より負荷機器2に電力が供給される状態となる。
【0023】
なお、図1に示した直列インバータ24は上述の動作に加えて、負荷機器2が無効電力成分を取る場合の該無効電力成分を相殺する成分を発生させる動作も可能である。
【0024】
図3はこの発明の第2の実施の形態を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図であり、この図において、図1に示した瞬時電圧降下対策装置20と同一機能を有するものには同一符号を付している。
【0025】
すなわち図3に示した瞬時電圧降下対策装置30には、図1に示した瞬時電圧降下対策装置20の構成要素それぞれの他に、並列インバータ31が付加されている。
【0026】
この並列インバータ31は直列インバータ24の変換動作の際の損失分の補給動作,直流電源25への充電動作の他に、前記負荷系統を電力系統1から切り離したときのバックアップ電源としても利用できることから、自家発電設備3を省略することも可能である。
【0027】
図4はこの発明の実施例として、図3に示した瞬時電圧降下対策装置30の詳細回路構成図である。なお、この図において、図3に示した補助変圧器26,27はその図示を省略している。
【0028】
この瞬時電圧降下対策装置30においては、直列インバータ24はIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)とダイオードの逆並列回路を三相ブリッジ接続してなるインバータ主回路24aとこの主回路の変換動作を制御する直列INV(インバータ)制御回路24bとから構成され、同様に、並列インバータ31はIGBTとダイオードの逆並列回路を三相ブリッジ接続してなるインバータ主回路31aとこの主回路の変換動作を制御する並列INV(インバータ)制御回路31bとから構成され、さらに、並列インバータ31が出力する交流電圧を昇圧して前記負荷系統側に接続するための昇圧変圧器32が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の第1の実施の形態を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図
【図2】図1の動作を説明する波形図
【図3】この発明の第2の実施の形態を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図
【図4】この発明の実施例を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図
【図5】従来例を示す瞬時電圧降下対策装置の回路構成図
【図6】図5の動作を説明する波形図
【符号の説明】
【0030】
1…電力系統、2…負荷機器、3…自家発電設備、10…瞬時電圧降下対策装置、11…遮断器、12…リアクトル、13…サイリスタスイッチ、14…遮断器、15…補助変圧器、16…サイリスタSW制御回路、20,30…瞬時電圧低下対策装置、21…スイッチ、22…リアクトル、23…整合変圧器、24…直列インバータ、25…直流電源、26,27…補助変圧器、31…並列インバータ、32…昇圧変圧器。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチとリアクトルと整合変圧器と直列インバータとを備え、
商用電源などの電力系統とその負荷系統との間に、前記スイッチとリアクトルと整合変圧器の二次巻線とをそれぞれ直列接続してなる回路の両端を接続し、
前記整合変圧器の一次巻線間に前記直列インバータの交流出力端を接続し、
前記電力系統が健全時には、前記直列インバータから前記整合変圧器の二次巻線間に前記リアクトルの両端電圧とは逆位相の交流電圧を発生させることを特徴とする瞬時電圧降下対策装置。
【請求項2】
請求項1に記載の瞬時電圧降下対策装置において、
前記直列インバータの直流電源側に並列インバータを付加し、
前記並列インバータの交流出力側は、直接または昇圧変圧器を介して前記負荷系統側に接続したことを特徴とする瞬時電圧降下対策装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136171(P2006−136171A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325031(P2004−325031)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】