説明

研磨パッドの製造方法および研磨パッド

【課題】 工程数を増やすことなく厚みばらつきを低減することができる研磨パッドの製造方法、および厚みばらつきが低減され、研磨特性を向上した研磨パッドを提供する。
【解決手段】 スライス加工する前の状態である樹脂ブロック1を、高い剛性(曲げ強度)を持つベース2上に固定しておき、樹脂ブロック1の表層部分、すなわちこれからスライスしようとする部分を加熱手段3によって加熱する。このような状態で、スライス刃4と樹脂ブロックとを高さ方向に位置合わせし、スライス刃4と樹脂ブロック1とを相対移動させることでスライス加工を行う。これにより、厚みのばらつきが研磨パッド全体にわたって±15μmと小さく、微細孔が表面部分に一様に分布し、微細孔の最短径に対する最長径の比が1.0以上1.2以下の研磨パッドが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハの研磨処理に用いる研磨パッドの製造方法および研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造の分野では、半導体素子の微細化および多層化による高集積化に伴い、半導体層、金属層の平坦化技術が重要な要素技術となっている。ウエハに集積回路を形成する際、電極配線などによる凹凸を平坦化せずに層を重ねると、段差が大きくなり、平坦性が極端に悪くなる。また段差が大きくなった場合、フォトリソグラフィにおいて凹部と凸部の両方に焦点を合わせることが困難になり微細化を実現することができなくなる。したがって、積層中の然るべき段階でウエハ表面の凹凸を除去するための平坦化処理を行う必要がある。平坦化処理には、エッチングにより凹凸部を除去するエッチバック法、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)などにより平坦な膜を形成する成膜法、熱処理によって平坦化する流動化法、選択CVDなどにより凹部の埋め込みを行う選択成長法などがある。
【0003】
以上の方法は、絶縁膜、金属膜など膜の種類によって適否があること、また平坦化できる領域がきわめて狭いという問題がある。このような問題を克服することができる平坦化処理技術としてCMPによる平坦化がある。
【0004】
CMPによる平坦化処理では、微細なシリカ粒子(砥粒)を懸濁した研磨用組成物を研磨パッド表面に供給しながら、圧接した研磨パッドと、被研磨物であるシリコンウエハとを相対移動させて表面を研磨することにより、広範囲にわたるウエハ表面を高精度に平坦化することができる。
【0005】
CMP用研磨パッドとしては、ポリウレタン樹脂を研磨層として有する単層パッド、あるいはその下地層としてポリウレタン含浸不織布またはスポンジを張り合わせた二層パッドが一般的に用いられている。
【0006】
研磨パッドの製造工程を簡単に説明すると、まず金型で注型することでポリウレタンブロックを作成し、これを所定の厚みでスライス加工する。
【0007】
研磨パッドは被研磨物であるウエハ表面全体を均一に研磨達成することを目的としているため、研磨パッド自体の表面のうねりおよび厚みばらつきがないことが要求されている。しかし、上記のように、ポリウレタンのような粘弾性体を材質として用いているので、大口径のシート状に高精度厚みにてスライスすることは非常に困難であり、うねりおよび厚みばらつきを全く失くすことは不可能である。
【0008】
特許文献1には、厚みのばらつきが100μm以下である研磨パッドが開示されており、厚みばらつきを抑えるために、スライス加工した後、表面バフ装置にてバフがけを実施している。
【0009】
【特許文献1】特開2002−192455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体ウエハの平坦化工程はクリーンルーム内にて行われ、研磨パッドは、クリーンルーム内にて研磨装置への設置などハンドリングされるため、低発塵性であることが要求される。
【0011】
特許文献1記載の研磨パッドは、厚みばらつきに着目すると、優れた研磨パッドであるが、バフがけによって研磨パッド表面が毛羽立ち、研削屑付着による発塵性が問題となる。また、バフがけを行うことによって、研磨パッド製造工程の工程数を増やすことになる。
【0012】
通常の表面バフ装置においては、サンドペーパーベルトまたは砥石ロールなどのように砥粒を回転ベルトまたは回転体に固定したものを回転させながら被研削物に接触させる方法が用いられており、この際に砥粒が研磨パッド表面へ付着または研磨パッド内へ陥入して除去が困難となる。
【0013】
その他の砥粒を用いない方法として、たとえば回転刃物を使用した方法であっても同様に、回転刃の刃欠け、磨耗による異物が研磨パッド表面へ付着または研磨パッド内へ陥入して除去が困難となる。
【0014】
研磨パッド表面に付着または研磨パッド内に陥入した砥粒などの異物は、半導体ウエハへの異物付着およびスクラッチの発生原因となったり、研磨パッドを媒体としたウエハの金属イオン汚染原因となるなど、製品品質を損なうおそれがある。
【0015】
スライス加工する樹脂ブロックが独立気泡材料である場合、研磨パッド表面にはこの気泡に起因する微細孔が分布している。上記のようなバフがけや回転刃物を用いると、微細孔が変形してしまい、CMP処理時の研磨特性に影響を与える。
【0016】
本発明の目的は、工程数を増やすことなく厚みばらつきを低減することができる研磨パッドの製造方法、および厚みばらつきが低減され、研磨特性を向上した研磨パッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、樹脂ブロックを所定の厚みにスライス加工する研磨パッドの製造方法であって、
ベース上に前記樹脂ブロックを固定し、前記ベース上に固定した前記樹脂ブロックの、前記ベースと接している面とは反対側の面を含む表層部分を加熱手段で加熱することで前記表層部分と他の部分との間に温度差を発生させ、スライス刃と前記樹脂ブロックとを相対移動させて加熱された前記表層部分に対してスライス加工を行うことを特徴とする研磨パッドの製造方法である。
【0018】
また本発明は、前記加熱手段は、前記表層部分の温度が25℃以上200℃以下となるように加熱することを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記加熱手段は、赤外線または遠赤外線を用いた加熱装置を含んで構成されることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、気泡材料からなり、被研磨物と接触する表面部分に複数の微細孔を有する研磨パッドであって、
厚みのばらつきが±15μmであり、前記微細孔が表面部分に一様に分布し、前記微細孔の最短径に対する最長径の比が1.0以上1.2以下であることを特徴とする研磨パッドである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、樹脂ブロックを所定の厚みにスライス加工する研磨パッドの製造方法である。
【0022】
ベース上に、樹脂ブロックを固定し、前記ベース上に固定した前記樹脂ブロックの、前記ベースと接している面とは反対側の面を含む表層部分を加熱手段で加熱する。この加熱により前記表層部分と他の部分との間に温度差を発生させることで前記表層部分の樹脂硬度を低下させ、スライス時の抵抗を減少させる。スライス刃と樹脂ブロックとを相対移動させて加熱された前記表層部分に対してスライス加工を行う。
【0023】
これにより、スライス加工を行うだけで、厚みばらつきが小さい研磨パッドを形成することができ、バフがけなどの工程を増やすことなく、厚みばらつきを低減することができる。さらに、研磨パッド表面に付着または研磨パッド内に陥入する異物が無いので、半導体ウエハへの異物付着、スクラッチの発生およびウエハの金属イオン汚染を抑え、製品品質を向上させることができる。
【0024】
また本発明によれば、前記加熱手段は、前記表層部分の温度が25℃以上200℃以下となるように加熱する。これにより、表層部分の樹脂硬度を十分低下させ、スライス時の抵抗を減少させることができる。
【0025】
また本発明によれば、前記加熱手段は、赤外線または遠赤外線を用いた加熱装置を含んで構成される。これにより、表層部分のみを加熱することができ、エネルギー効率に優れる。
【0026】
また本発明によれば、独立気泡材料からなり、被研磨物と接触する表面部分に、前記独立気泡が切断されることで生じた複数の微細孔を有する研磨パッドである。
【0027】
厚みのばらつきが研磨パッド全体にわたって±15μmと小さく、微細孔が表面部分に一様に分布し、微細孔の最短径に対する最長径の比が1.0以上1.2以下である。
【0028】
これにより、微細孔の変形量が小さく、微細孔の形状と分布に異方性が見られないので、研磨特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は、本発明の実施の一形態である研磨パッドの製造方法を示す概略図である。
スライス加工する前の状態である樹脂ブロック1を、高い剛性(曲げ強度)を持つベース2上に固定しておき、樹脂ブロック1の表層部分、すなわちこれからスライスしようとする部分を加熱手段3によって加熱する。このような状態で、スライス刃4と樹脂ブロックとを高さ方向に位置合わせし、スライス刃4と樹脂ブロック1とを相対移動させることでスライス加工を行う。
【0030】
樹脂ブロック1は、特に限定されるものではなく、たとえば、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどが使用でき、たとえば気泡を含むポリウレタン樹脂(以下では、発泡ポリウレタン樹脂と呼ぶ。)が好ましい。発泡ポリウレタン樹脂は既存の方法で作製することができる。発泡方法としては、微小中空体を混合する方法、発泡剤を用いる発泡方法(水発泡など)、気泡導入による発泡方法(撹拌時の空気練り込み、ガスローディング法、エアミキシング法など)、溶解したガスの再析出による発泡方法(フロス法など)を使用することができ、これらの方法により、独立気泡や連続気泡を含む樹脂ブロックを得る。特に、独立気泡を含むポリウレタン樹脂が好ましく、たとえば、ポリイソシアネートとポリオールとの混合物であるウレタンプレポリマー、ジアミンなどの鎖延長剤および微小中空体とを混合し、金型を用いて注型することで得られる。
【0031】
ベース2は、樹脂ブロック1の剛性より高い剛性を有し、たとえば、ベース2の剛性と樹脂ブロック1の剛性との比が1.1以上であり、鉄、アルミニウム、ステンレスなどのような金属またはFRP(Fiber Reinforced Plastics)などの複合材料などを用いることができる。
【0032】
ベース2上に樹脂ブロック1を固定する方法としては、ベース2表面を金型の底面として利用し、直接ベース2上に注型することによってベース2と樹脂ブロック1とを密着させて固定する方法、樹脂ブロック1を注型した後、接着剤などを用いてベース2上に接着して固定する方法がある。特に樹脂ブロック1の底面全体がベース2に密着していることが好ましい。
【0033】
加熱手段3は、樹脂ブロック1の表層部分を加熱することによって、表層部分と他の部分との間に温度差を発生させ、表層部分の樹脂剛性を低下させる。剛性の低下により、スライス時の抵抗を減少させることができる。
【0034】
表層部分の温度としては、25℃以上200℃以下が好ましい。25℃未満では、樹脂ブロックの硬度が高過ぎるためにスライス刃が入りにくくなり、パッド表面の平坦性が悪化してしまい、200℃を超えると樹脂ブロックが劣化するため好ましくない。さらに、表層部分と他の部分との温度差を、表層部分と他の部分との貯蔵弾性率(E')の差が20000Pa以上(表層部分の貯蔵弾性率が他の部分より小さい)となるような温度差とすることが好ましい。貯蔵弾性率は、荷重サイクルを通じて蓄積される最大エネルギーに比例し、ポリウレタン樹脂のような粘弾性体の剛性を示す。表層部分と他の部分との剛性に差を発生させることで、より厚みばらつきが少ないスライス加工を行うことができる。樹脂ブロック1の剛性は、たとえば、貯蔵弾性率で20000Pa〜500000Paのものが使用される。
【0035】
図2は、ポリウレタン樹脂の温度と貯蔵弾性率との関係を示すグラフである。縦軸は貯蔵弾性率(Pa)を示し、横軸は温度(℃)を示す。後述の実施例で用いたポリウレタン樹脂と同様のものを、20×5.0×1.3(mm)の大きさに切り出して測定サンプルとした。測定装置は、SII製粘弾性スペクトロメータ DMS6100を使用し、周波数1Hz、引っ張り・正弦波制御モード、昇温速度5℃/minの条件で測定した。グラフからわかるように、温度が高くなるにつれて貯蔵弾性率が小さくなり剛性が低くなっている。貯蔵弾性率の差を20000Pa以上とするには、たとえば、ベースに近い他の部分の温度が30℃とすると、その部分の貯蔵弾性率は約180000Paであるので、表層部分の貯蔵弾性率が約160000Paとなる温度である35℃以上とすればよい。
【0036】
以上により、刃角の小さいスライス刃で厚みばらつきの少ない高精度なスライス加工が可能となる。
【0037】
表層部分のみを加熱させることによる効果は、スライス抵抗を減少させるだけでなく、樹脂ブロック1の下部の温度上昇を抑制することにより、樹脂ブロック1の下部の樹脂硬度を高く保ち、剛性を維持するという大きな効果がある。すなわち、樹脂ブロック全体の温度を上昇させた場合、樹脂ブロック1下部の剛性が低下することにより、スライス時に樹脂ブロック1下部が、樹脂またはスライス刃の移動方向に変形することとなるため、厚みばらつきが発生する。したがって、ベース2を所定の温度に冷却するなどして、積極的に樹脂ブロック1の下部の温度を下げて表層部分との温度勾配を大きく保つことでさらに厚みばらつきを小さくすることができる。
【0038】
加熱手段3としては、赤外線または遠赤外線を用いた加熱装置、たとえば赤外線ランプや遠赤外線ランプを用いて赤外線または遠赤外線を樹脂ブロック1の表層部分に照射する手段、温風または温水を樹脂ブロック1の表層部分に吹き付ける手段などが挙げられる。特に、赤外線または遠赤外線を用いた被加熱物表面発熱方式が、エネルギー効率、表面温度制御性、作業環境温度抑制の面で好ましい。
【0039】
スライス刃4は、高硬度の材質で構成されることが好ましく、たとえば超硬質合金であるタングステンカーバイトなどが好ましい。刃角は、5°以上35°以下が好ましい。刃角が5°未満では刃先の強度が不足するため好ましくなく、35°を越えるとスライス時のパッドの屈曲が大きくなりすぎてスライス刃の破損などの原因となる恐れがあるため好ましくない。また、逃げ角は2°以上10°以下が好ましい。2°未満ではスライス刃が上下に蛇行しやすくなり、10°を越えるとスライス時の抵抗が大きくなり好ましくない。またすくい角は、直角(90°)から前記刃角および逃げ角を引いた値であることはここで述べるまでもない。
【0040】
スライス刃4の刃先の高さまたは樹脂ブロック1の高さは可変であり、目的のスライス厚み、すなわち研磨パッドの厚みに合わせてスライス刃4と樹脂ブロックとを高さ方向に位置合わせする。位置合わせした状態でスライス刃4の刃先が樹脂ブロック1に接触するようにスライス刃4または樹脂ブロック1を移動させ、スライスを行う。
【0041】
以上のような製造方法により、バフがけなどの工程を増やすことなく、厚みばらつきを低減することができる。さらに、研磨パッド表面に付着または研磨パッド内に陥入する異物が無いので、半導体ウエハへの異物付着、スクラッチの発生およびウエハの金属イオン汚染を抑え、製品品質を向上させることができる。
【0042】
また、本発明の実施の一形態である研磨パッドは、たとえば発泡ポリウレタン樹脂などの独立気泡材料からなり、被研磨物と接触する表面部分に複数の微細孔を有している。この微細孔は、独立気泡が上記のスライス加工により切断されることで生じ、研磨時にはスラリーを保持する機能を有する。
【0043】
また、厚みのばらつきは±15μm、好ましくは±10μmであり、微細孔が研磨パッドの表面部分に一様に分布している。
【0044】
特に、微細孔の最短径に対する最長径の比は1.0以上1.2以下、好ましくは1.0以上1.1以下であり、微細孔の変形量が非常に小さい。
【0045】
このように、微細孔の変形量が小さく、微細孔の形状と分布に異方性が見られないので、研磨時において被研磨物である半導体ウエハとの接触状態が変化せず、研磨特性を向上させることができる。
このような研磨パッドは、上記のスライス加工により製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下では本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
アルミニウム製のベースを金属枠にて囲んだ金型を用い、前述の作製方法で独立発泡ポリウレタン樹脂の樹脂ブロック(直径約700mm、高さ約45mm)を作製した。
【0047】
ベース上の樹脂ブロック表面から30cm上方に、出力250Wの赤外線ランプを樹脂ブロック表面全体に均一に照射するように16個配置し、30秒間照射して樹脂ブロックの表面温度を70℃に上昇させた。このとき、ベースに近い他の部分の温度は50℃であり、他の部分の貯蔵弾性率115000Paと、表層部分の貯蔵弾性率88000Paとの差は27000Pa(≧20000Pa)であった。
【0048】
刃角30°のタングステンカーバイド製のスライス刃を、逃げ角が5°、すくい角が55°になるように設置し、樹脂ブロックをベースとともに送り速度150mm/sで平行移動させ、スライス加工を行った。研磨パッドの厚み設定は1.255mmとした。
【0049】
(実施例2)
アルミニウム製のベースを金属枠にて囲んだ金型を用い、前述の作製方法で独立発泡ポリウレタン樹脂の樹脂ブロック(直径約700mm、高さ約95mm)を作製した。
【0050】
ベースを冷却して19℃とし、ベース上の樹脂ブロック表面から30cm上方に、出力250Wの赤外線ランプを樹脂ブロック表面全体に均一に照射するように8個配置し、10秒間照射して樹脂ブロックの表面温度を25℃に上昇させた。このとき、ベースに近い他の部分の貯蔵弾性率220000Paと、表層部分の貯蔵弾性率195000Paとの差は25000Pa(≧20000Pa)であった。
【0051】
刃角35°のタングステンカーバイド製のスライス刃を、逃げ角が10°、すくい角が45°になるように設置し、樹脂ブロックをベースとともに送り速度200mm/sで平行移動させ、スライス加工を行った。研磨パッドの厚み設定は1.778mmとした。
【0052】
(実施例3)
アルミニウム製のベースを金属枠にて囲んだ金型を用い、前述の作製方法で独立発泡ポリウレタン樹脂の樹脂ブロック(直径約700mm、高さ約75mm)を作製した。
【0053】
ベース上の樹脂ブロック表面から30cm上方に、出力750Wの赤外線ランプを樹脂ブロック表面全体に均一に照射するように16個配置し、30秒間照射して樹脂ブロックの表面温度を130℃に上昇させた。このとき、ベースに近い他の部分の温度は90℃であり、ベースに近い他の部分の貯蔵弾性率61000Paと、表層部分の貯蔵弾性率39000Paとの差は22000Pa(≧20000Pa)であった。
【0054】
刃角15°のタングステンカーバイド製のスライス刃を、逃げ角が7°、すくい角が68°になるように設置し、樹脂ブロックをベースとともに送り速度130mm/sで平行移動させ、スライス加工を行った。研磨パッドの厚み設定は1.255mmとした。
【0055】
(比較例1)
離型剤を塗布したSUS板の上に金属枠を組んで注型しSUS板および金属枠を取り外したものを樹脂ブロックとし、ベースを使用せずにスライス加工した以外は、実施例1と同様の方法でスライス加工を行った。
【0056】
(比較例2)
赤外線ランプによる加熱を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でスライス加工を行った。このとき、表層部分の温度は20℃、ベースに近い他の部分の温度は20℃であり、他の部分の貯蔵弾性率218000Paと、表層部分の貯蔵弾性率218000Paであり、その差は0Paであった。
【0057】
(比較例3)
アルミニウム製のベースを金属枠にて囲んだ金型を用い、前述の作製方法で独立発泡ポリウレタン樹脂の樹脂ブロック(直径約700mm、高さ約95mm)を作製した。
【0058】
ベースおよび樹脂を加熱して70℃とし、ベース上の樹脂ブロック表面から30cm上方に、出力500Wの赤外線ランプを樹脂ブロック表面全体に均一に照射するように16個配置し、30秒間照射して樹脂ブロックの表面温度を75℃に上昇させた。このとき、ベースに近い他の部分の貯蔵弾性率88000Paと、表層部分の貯蔵弾性率80000Paとの差は8000Paであった。
【0059】
刃角30°のタングステンカーバイド製のスライス刃を、逃げ角が5°、すくい角が55°になるように設置し、樹脂ブロックをベースとともに送り速度150mm/sで平行移動させ、スライス加工を行った。研磨パッドの厚み設定は1.255mmとした。
【0060】
(比較例4)
比較例2で得た研磨パッドの表面に対して、厚みばらつきを小さくするためにバフがけを行った。
【0061】
(評価方法)
樹脂ブロック最下面から高さが15mmおよび30mmの面を含むようにスライスした2枚の研磨パッドに対して、厚み分布測定を行った。
【0062】
直径10mmの測定子を取り付けたリニアゲージ(ミツトヨ社製:デジマチックインジケーター ID-C125B)を用いて、測定対象となる研磨パッドの直径上で外周からそれぞれ10cmの部分をのぞく部分を16等分した位置を測定位置とし、測定圧力300g/cmにて測定した。
【0063】
図3は、研磨パッドの径方向の厚みばらつきを示す図である。横軸は測定位置を示し、縦軸は厚みばらつき(μm)を示す。厚みばらつきは、各実施例および比較例におけるスライス後のパッド平均厚みと、各測定位置での測定値との差である。
【0064】
折れ線10は、実施例1で得た研磨パッドのうち高さ15mm位置の研磨パッドの厚みばらつきであり、折れ線11は、実施例1で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚みばらつきであり、折れ線12は、実施例2で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚みばらつきであり、折れ線13は、実施例3で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚みばらつきである。
【0065】
折れ線(破線)14は、比較例1で得た研磨パッドのうち高さ15mm位置の研磨パッドの厚み分布であり、折れ線(破線)15は、比較例1で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚み分布であり、折れ線(破線)16は、比較例2で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚み分布であり、折れ線(破線)17は、比較例3で得た研磨パッドのうち高さ30mm位置の研磨パッドの厚み分布である。
【0066】
実施例1〜3で得られた研磨パッドについては、厚みばらつきがパッド平均厚みを中心に±10μmであった。比較例1〜3で得られた研磨パッドについては、±75μmであった。
【0067】
実施例1〜3では、バフがけなどスライス加工後の表面処理を行うことなく厚みばらつき±10μmを実現することができた。
【0068】
図4は、実施例1および比較例4による研磨パッドの表面部分を示すSEM(走査電子顕微鏡)写真である。図4(a)は、実施例1の研磨パッド表面を示し、図4(b)は、比較例4の研磨パッド表面を示す。
【0069】
この図からわかるように、実施例1においては微細孔が研磨パッドの表面部分に一様に分布しており、微細孔の最短径に対する最長径の比は、平均値で1.1であった。これに対し、比較例4においては研磨パッドの表面部分に一様に分布しているが、微細孔が研磨によって変形しており、微細孔の最短径に対する最長径の比は、平均値で1.8であった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の一形態である研磨パッドの製造方法を示す概略図である。
【図2】ポリウレタン樹脂の温度と貯蔵弾性率との関係を示すグラフである。
【図3】研磨パッドの径方向の厚みばらつきを示す図である。
【図4】実施例1による研磨パッドの表面部分を示すSEM(走査電子顕微鏡)写真である。
【符号の説明】
【0071】
1 樹脂ブロック
2 ベース
3 加熱手段
4 スライス刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ブロックを所定の厚みにスライス加工する研磨パッドの製造方法であって、
ベース上に前記樹脂ブロックを固定し、前記ベース上に固定した前記樹脂ブロックの、前記ベースと接している面とは反対側の面を含む表層部分を加熱手段で加熱することで前記表層部分と他の部分との間に温度差を発生させ、スライス刃と前記樹脂ブロックとを相対移動させて加熱された前記表層部分に対してスライス加工を行うことを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記表層部分の温度が25℃以上200℃以下となるように加熱することを特徴とする請求項1記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
前記加熱手段は、赤外線または遠赤外線を用いた加熱装置を含んで構成されることを特徴とする請求項1記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項4】
気泡材料からなり、被研磨物と接触する表面部分に複数の微細孔を有する研磨パッドであって、
厚みのばらつきが±15μmであり、前記微細孔が表面部分に一様に分布し、前記微細孔の最短径に対する最長径の比が1.0以上1.2以下であることを特徴とする研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−142474(P2006−142474A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305879(P2005−305879)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】