説明

研磨用パッド及び被研磨物の研磨方法

【課題】ウエハ上の凹凸パターンを平坦化しつつ、ウエハ面内の膜厚分布も均一化し、さらに微細な研磨傷の発生を抑制可能な単層の研磨用パッドを提供する。
【解決手段】研磨用パッドを、実質的に発泡を有しない熱可塑性ポリウレタン樹脂で構成し、さらにアラミド繊維を含有する構成とする。アラミド繊維が短繊維の状態で樹脂中に分散している場合は、その含有量は樹脂100質量部に対して1〜20質量部が好ましい。アラミド繊維が当該繊維により構成された不織布の形態で樹脂中に存在している場合は、その含有量は樹脂100質量部に対して20〜30質量部が好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂のショアD硬度は60以上が好ましい。また、アラミド繊維は、パッド平面方向に配向した状態であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研磨物の表面研磨に適用する研磨用パッドに関する。さらに、本発明は、この研磨用パッドを使用して研磨をする被研磨物の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、被研磨物の表面研磨に適用する研磨用パッドに関する。特に、半導体装置等の製造において、CMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨剤と共に用いられるパッドであり、層間絶縁膜やBPSG膜(ボロン、リンをドープした二酸化珪素膜)の平坦化工程、シャロー・トレンチ分離の形成工程等に使用するのに適した研磨用パッドに関する。また、本発明は、シリコンウエハ、ハードディスク等を被研磨物とし、その表面を研磨するのにも適した研磨用パッドに関する。さらに、本発明は、この研磨用パッドを使用して研磨をする被研磨物の研磨方法に関する。
超々大規模集積回路の実装密度を高めるために、種々の微細加工技術が研究、開発されている。既に、デザインルールは、サブハーフミクロンのオーダーになっている。このような厳しい微細化の要求を満足するために開発されている技術の一つにCMP技術がある。この技術は、半導体装置の製造工程において、露光を施す層を完全に平坦化し、露光技術の負担を軽減し、製造歩留まりを高いレベルで安定させることに寄与する。半導体装置製造工程におけるCMP技術には、素子分離形成、メモリのキャパシタ形成、プラグ及び埋め込み金属配線形成等において溝に埋め込んだ成膜層の余分な成膜部分を除去するためのリセスCMP技術、及び層間絶縁膜成膜後の平坦化CMP技術がある。
集積回路内の素子分離形成には、LOCOS(シリコン局所酸化)技術が用いられてきたが、加工寸法のさらなる微細化に伴い、素子分離幅のより小さいシャロー・トレンチ分離技術が採用されつつある。シャロー・トレンチ分離では、基板上に埋め込んだ余分な酸化珪素膜を除くためにCMP技術が必須となる。
【0003】
従来、半導体装置の製造工程においては、プラズマ−CVD(Chemical Vapor Deposition、化学的蒸着法)や低圧−CVD、スパッタ、電解メッキ等の手段により酸化珪素等絶縁膜、キャパシタ強誘電体膜、配線用金属膜を基板上に形成しこれら(被研磨物)を平坦化するために、また、埋め込み層を形成するために、次のような研磨を実施している。
被研磨物を研磨用パッドに押し当て、CMP研磨剤スラリを被研磨物と研磨用パッドの間に供給しながら、研磨用パッドを被研磨物との間で相対的に摺動させる技術である。
【0004】
CMP研磨剤としてはフュームドシリカ系が、研磨用パッドとしては発泡ウレタン樹脂系が一般的に用いられている(例えば、特許文献1の段落番号(0018)、(0027)、(0028)の記載を参照。)。発泡ウレタン樹脂系パッドによる研磨は、比較的弾性率が高いため単層のみではあまり用いられず、低弾性率のアンダーパッドと組み合せて2層の状態で用いられることが多い。このように上層に高弾性率層を配置し、下層に低弾性率層を配置した構成とすることによって、発泡ウレタン樹脂パッドは、ウエハ上の凹凸パターンを平坦化しながら、ウエハ面内の膜厚分布も均一にしている。パッドを単層のみで構成した場合には、ウエハ面内の膜厚分布を均一化することは困難となっている。また、低弾性の熱可塑性発泡ポリウレタンだけで構成した研磨用パッドを用いて研磨を行なうと、ウエハの凸部と凹部を同時に研磨してしまい、ウエハ上の凹凸パターンを平坦化することができない。
また繊維と樹脂から構成される研磨用パッド(例えば、特許文献2を参照。)も報告されているが、繊維はメッシュ形状となっており、樹脂の重量が繊維の重量よりも少ないことから、メッシュの細孔が空隙のまま残っており、脆性構造の研磨用パッドとなっている。背面から圧力をかけつつ、この研磨用パッドに被研磨物を接触させて研磨を行なうと、脆性構造であるために研磨用パッドから樹脂のかけらが剥離して異物となり、この異物が、被研磨物表面と接触して微細な研磨傷を発生させるおそれがある。
【特許文献1】特許第2740143号公報
【特許文献2】特開2002−1651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、層間絶縁膜、BPSG膜、シャロー・トレンチ分離用絶縁膜、キャパシタ強誘電体膜、配線用金属膜、その他の被研磨物表面を研磨し平坦化するに当たり、あるいは埋め込み層を形成するに当たり、ウエハ上の凹凸パターンを平坦化しつつ、ウエハ面内の膜厚分布も均一化し、さらに微細な研磨傷の発生を抑制することが可能な単層の研磨用パッドを提供することである。また、前記研磨用パッドを用いて、被研磨物を研磨することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る研磨用パッドは、実質的に発泡を有しない熱可塑性ポリウレタン樹脂で構成され、アラミド繊維を含有することを特徴とする。
アラミド繊維が短繊維の状態で樹脂中に分散している場合は、その含有量は、好ましくは樹脂100質量部に対して1〜20質量部である。さらに好ましくは、5〜10質量部である。
【0007】
アラミド繊維が、当該繊維により構成された不織布の形態で樹脂中に存在している場合は、その含有量は、好ましくは樹脂100質量部に対して20〜30質量部である。さらに好ましくは、25〜28質量部である。
熱可塑ポリウレタン樹脂の硬度は、このましくはショアD硬度60以上である。また、樹脂中のアラミド繊維は、研磨用パッドの平面方向に配向していることが望ましい。
【0008】
本発明に係る被研磨物の研磨方法は、上記本発明の研磨用パッドの表面をアラミド繊維が露出した状態となし、所定の被研磨物の研磨すべき表面を前記のアラミド繊維が露出した研磨用パッド表面に押し当て、スラリ状研磨剤を被研磨物とパッドとの間に供給しながら、被研磨物とパッドを相対的に摺動させて被研磨物の研磨すべき表面を研磨するものである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、本発明に係る研磨用パッドは、比較的弾性率の低い熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて研磨用パッドを構成しているため、アンダーパッドを用いて2層構造にする必要がなく、単層構成で用いても、ウエハ面内の膜厚分布を均一にする研磨を行なうことができる。また、アラミド繊維を含有しているので、研磨用パッド表面の硬度を適度に調整して、ウエハ上の凹凸パターンを平坦化することが可能となる。
研磨用パッドを構成する熱可塑ポリウレタン樹脂のショアD硬度を60以上にすると、上記効果を維持しながら、研磨速度を速くすることができる。
さらに、アラミド繊維を研磨用パッドの平面方向に配向させることによって、研磨用パッドの弾性率(引張り弾性率)が上昇し、それに伴いパッド表面の硬度も上昇する。一方、研磨用パッドの厚さ方向に配向したアラミド繊維は少なくなるので、研磨用パッドの圧縮弾性率はあまり上昇せず、熱可塑性ポリウレタン樹脂自体の低い圧縮弾性率がそのまま維持されることにもなる。このことは、アンダーパッドを配置せずに研磨を実施しても、ウエハ上の凹凸パターンを平坦化し、且つ、面内均一性を確保する上で有利に働く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、実質的に発泡を有しない熱可塑性ポリウレタン樹脂を用い、樹脂中に高強度繊維であるアラミド繊維を含有させることにより、全体的には柔らかい材料でありながら、表面が比較的硬い研磨用パッドとすることができ、アンダーパッドを使用せずに単層で使用しても、面内膜厚が均一で平坦性も高い研磨を実施できることを見出し、なしたものである。
アラミド繊維を樹脂中に含有させる手段は、
(1)短繊維の状態で樹脂中に分散させる。
(2)アラミド繊維で構成された不織布の形態で樹脂中に存在させる。
等が挙げられる。アラミド繊維の繊維径には特に制限はないが、好ましくは1μm〜1mm、より好ましくは10〜50μmである。
上記(1)の場合は、アラミド繊維の繊維長は、好ましくは0.1〜10mmであり、より好ましくは1〜3mmである。また、アラミド繊維の含有量は、樹脂100質量部に対して1〜20質量部が好ましく、より好ましくは5〜10質量部である。また、繊維を所定長に切断したチョップ状の繊維を使用する場合、樹脂との親和性を向上するため、予め繊維表面を機械的あるいは化学的に粗したり、カップリング材等による改質を行っても良い。
上記(2)の場合は、アラミド繊維の繊維長は、好ましくは3〜50mmであり、より好ましくは5〜10mmである。また、アラミド繊維の含有量は、樹脂100質量部に対して20〜30質量部が好ましく、より好ましくは25〜28質量部である。
【0011】
アラミド繊維を選択した理由は、アラミド繊維が一般的な有機繊維に比べて引張り強度が高く、研磨用パッドの繊維方向強度を大きくでき、さらに研磨用パッドの耐久性を上げ使用寿命を延ばせるからである。アラミド繊維にはパラ系とメタ系があり、パラ系アラミド繊維は、メタ系アラミド繊維より繊維自体の力学的物性値(引張り強度など)が高いので、パラ系アラミド繊維の選択は研磨用パッドの摩耗消耗を抑制して寿命を延ばす上で好適である。また、パラ系アラミド繊維は、メタ系アラミド繊維より吸湿性も小さいので、水分のある研磨環境に好適である。パラ系アラミド繊維としては、ポリp−フェニレンテレフタラミド繊維とポリp−フェニレンジフェニルエーテルテレフタラミド繊維が市販されており、これらが一般的である。
【0012】
熱可塑性ポリウレタン樹脂は、汎用の熱可塑性樹脂に比べ弾性率が低いため、荷重変形を起こし易く、クッション材の役割を果たして研磨時の圧力分布を均一化する。また、研磨やドレッシングによる摩擦抵抗が小さいため、パッドの摩耗も少なく耐久性に優れる。熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ショアD硬度が60以上であると、研磨中のパッド表面にスラリが供給された状態のとき、樹脂表面が研磨剤粒子をしっかりと支持しバックアップするので、研磨速度を非常に速くすることが可能になる。
【0013】
本発明に係る研磨用パッドを製造するには、主として次の製造方法がある。
まず、第一の方法は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を加熱により溶融し、これにアラミド繊維の短繊維を混入し、練り上げ方式により樹脂中に分散させ、その後、これを押出成形してシートにする方法である。このような押出成形によって、樹脂は実質的に非発泡となる。アラミド繊維の長さ方向は、主として樹脂の押出方向、すなわちシートの平面方向に揃えることができ、シートの厚み方向への配向は少ない。
第二の方法は、アラミド繊維不織布と熱可塑性ポリウレタンシートを重ね、これらを型にはめて加熱加圧成形によって一体化する方法である。加熱加圧成形の温度は、通常170〜200℃であり、より好ましくは180〜190℃である。加熱加圧成形の圧力は、通常50〜300kPaであり、より好ましくは100〜200kPaである。このような加熱加圧成形によって、樹脂は実質的に非発泡となる。アラミド繊維の長さ方向は、主として不織布の平面方向に配向し、厚さ方向には殆ど配向していない。
樹脂中のアラミド繊維の配向を研磨用パッドの平面方向とすると、研磨用パッドの面方向と厚さ方向で弾性率に差をつけることができる。アラミド繊維を研磨用パッドの平面方向に配向させることによって、研磨用パッドの弾性率(引張り弾性率)が上昇し、それに伴いパッド表面の硬度も上昇する。一方、研磨用パッドの厚さ方向に配向したアラミド繊維は少なくなるので、研磨用パッドの圧縮弾性率はあまり上昇せず、熱可塑性ポリウレタン自体の低い圧縮弾性率がそのまま維持されることにもなる。
【0014】
上記において、アラミド繊維の不織布形態は、繊維自身の熱融着力によって繊維同士を結着して維持したものでもよく、樹脂バインダを用いて繊維同士を結着し維持したものでもよい。樹脂バインダとしては特に制限はなく、例えば、水溶性エポキシ樹脂等のエポキシ系バインダを使用することができる。樹脂バインダを用いる場合、その量に制限はないが、アラミド繊維100質量部に対して2〜20質量部とすることが好ましく、より好ましくは5〜15質量部とする。
研磨用パッドの全体の厚みは0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。これを必要であれば所定の研磨装置の定盤形状にあわせ加工することで、最終製品とする。また、上記研磨用パッドに溝を付ける方法として、あらかじめシート状の型に研磨用パッドの溝となる凸部を設けて成形品に溝形状を付けることもできる。
上記のように構成した研磨用パッドを被研磨物の研磨すべき表面に当接する面には、必要に応じてドレッシング処理と溝加工を施す。ドレッシング処理を行なう場合、ドレス番手#100〜#400が好ましい。溝加工を施す場合、溝形状は格子状、同心円状が好ましく、溝深さは0.1〜0.8mmが好ましく、溝幅は0.5〜2mmが好ましく、溝ピッチは1〜20mmが好ましい。
【0015】
本発明の研磨用パッドは、シリコンウエハやハードディスクなどの製造工程において、その表面を研磨するために用いても、研磨傷の発生を抑制しながら、高速に研磨を実施し、長期に亘る使用に際しパッドが消耗しても研磨特性を安定して研磨することができる。
【0016】
以下、本発明の研磨用パッドを用いた被研磨物の研磨方法について説明する。
本発明の被研磨物の研磨方法は、上記本発明の研磨用パッドの表面をアラミド繊維が露出した状態となし、前記アラミド繊維が露出した研磨用パッド表面を被研磨物の研磨すべき表面に押し当て、スラリ状研磨剤を供給しながら被研磨物と研磨用パッドとを相対的に摺動させて前記研磨すべき表面を研磨することを特徴とする。
上記本発明の研磨用パッドの表面をアラミド繊維が露出した状態とするには、前記ドレッシング処理が好ましい。研磨用パッドと被研磨物とを相対的に摺動するには、少なくともいずれかを回転させる方法が挙げられる。また、研磨用パッドは、被研磨物の回転中心から偏倚して回転してもよい。
本発明に係る被研磨物の研磨方法において、対象となる被研磨物は、例えば、半導体基板、すなわち回路素子と配線パターンが形成された段階の半導体基板、回路素子が形成された基板等である。このような半導体基板上に形成された絶縁膜である酸化珪素膜層又は窒化珪素膜層を、上記研磨用パッドを用いてスラリ状研磨剤を被研磨物とパッドとの間に供給しながら研磨することによって、酸化珪素膜層又は窒化珪素膜層の表面凹凸を解消し、半導体基板全面に亘って平滑な面とすることができる。また、このような半導体基板に形成された膜に限らず、所定の配線を有する配線板に形成された酸化珪素膜、ガラス、窒化珪素等の無機絶縁膜、ポリシリコン、Al、Cu、Ti、TiN、W、Ta、TaN等を主として含有する膜も研磨の対象である。
【0017】
研磨工程で供給するスラリ状研磨剤には特に制限はなく、例えば、半導体基板の絶縁膜を研磨する場合には、酸化セリウム粒子を0.5〜2質量%の濃度で水に分散させた研磨剤が好適である。必要に応じ、平坦化剤(例えば、日立化成工業株式会社製水溶性ポリマ「HS−8102GP」)等の添加剤を添加してもよい。添加剤は、あらかじめ研磨剤中に添加しておいてもよいし、添加剤を2〜7質量%含有する水溶液等として、スラリ状研磨剤と同時に滴下して添加してもよい。
【0018】
使用する研磨装置の種類には特に制限はなく、円盤型研磨装置、リニア型研磨装置のいずれも使用可能である。例えば、回転数が変更可能なモータ等と接続し、研磨用パッドを貼り付けられる定盤と、半導体基板等の被研磨物を保持するヘッドとを備えた構成が一般的である。
研磨条件に制限はないが、半導体基板を研磨する場合、定盤の回転速度は、半導体基板が飛び出さないように200rpm以下の回転数が好ましく、研磨用パッドを半導体基板に押し当てる圧力(研磨荷重)は研磨時に傷が発生しないように50kPa以下が好ましい。これら研磨条件は、被研磨物の材質や状態に応じて最適化を図ることが望ましい。研磨している間、研磨用パッドと被研磨物との間へは、スラリ状研磨剤をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨用パッドの表面が常にスラリ状研磨剤で覆われている状態にすることが好ましい。
研磨終了後の被研磨物は、流水中で十分に洗浄後、スピンドライヤ等を用いて表面に付着している水滴を払い落とすなどをして乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
アラミド繊維として、以下のものを準備した。
[アラミド繊維短繊維]
パラ系アラミド繊維(繊維径:12.5μm、デュポン社製商品名「ケブラー」)を溶融したナイロン66樹脂にディッピングし乾燥後、長さ3mmに切断した。パラ系アラミド繊維短繊維/ナイロン66樹脂の配合質量比は97.3/2.7である。
[アラミド繊維不織布]
パラ系アラミド繊維短繊維(繊維径:12.5μm、繊維長:5mm、デュポン社製商品名「ケブラー」)とパラ系アラミド繊維パルプ(繊維径:1μm、繊維長:1mm、デュポン社製商品名「ケブラー」)とメタ系アラミド繊維短繊維(繊維径:25μm、繊維長:6mm、軟化温度280℃、帝人株式会社製商品名「コーネックス」)を混抄し、水溶性エポキシ樹脂バインダ(ガラス転移温度110℃)の20質量%水溶液をスプレーして、加熱乾燥(150℃、3分間)し、さらに、一対の熱ロール間(温度300℃、線圧力196kN/m)に通すことにより加熱圧縮し、メタ系アラミド繊維短繊維をパラ系アラミド繊維短繊維に熱融着した不織布。このアラミド繊維不織布は、単位質量70g/m2、パラ系アラミド繊維短繊維/パラ系アラミド繊維パルプ/メタ系アラミド繊維短繊維/エポキシ樹脂バインダの配合質量比58/17/8/17である。
【0020】
熱可塑性樹脂として、以下のものを準備した。
[熱可塑性ポリウレタン(1)]
カプロラクタン系熱可塑ポリウレタン樹脂(ショアD硬度55、引張り強さ44MPa、大日精化工業株式会社製商品名「レザミンP−4130」)
[熱可塑性ポリウレタン(2)]
カプロラクタン系熱可塑ポリウレタン樹脂(ショアD硬度70、引張り強さ54MPa、大日精化工業株式会社製商品名「レザミンP−4250」)
[ABS樹脂]
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ショアD硬度80、引張り強さ1700MPa、宇部サイコン株式会社製商品名「サイコラックEX215」)
【0021】
実施例1
アラミド繊維短繊維と熱可塑性ポリウレタン(1)ペレットを、アラミド繊維短繊維の含有量が熱可塑性ポリウレタン(1)100質量部に対して1質量部の割合で、加熱練り上げ式混練機(温度210℃)に入れて混練し、冷却後再度ペレット化し、このペレットを押出成形機に投入し(温度210℃)、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有熱可塑性ポリウレタンシートを押出成形した。このシートは実質的に非発泡である。
【0022】
実施例2
アラミド繊維短繊維と熱可塑性ポリウレタン(1)ペレットを、アラミド繊維短繊維の含有量が熱可塑性ポリウレタン(1)100質量部に対して15質量部の割合で、実施例1と同様にペレット化及び押出成形し、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有熱可塑性ポリウレタンシートを成形した。このシートは実質的に非発泡である。
【0023】
実施例3
アラミド繊維短繊維と熱可塑性ポリウレタン(2)ペレットを、アラミド繊維短繊維の含有量が熱可塑性ポリウレタン(2)100質量部に対して15質量部の割合で、実施例1と同様にペレット化及び押出成形し、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有熱可塑性ポリウレタンシートを成形した。このシートは実質的に非発泡である。
【0024】
実施例4
アラミド繊維不織布5枚と熱可塑性ポリウレタン(2)単独の樹脂シート(厚さ0.38mm)を2枚使用し、厚さ方向構成が対称になるように組合せて加熱加圧成形(温度200℃、圧力0.2MPa)により一体化し、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有熱可塑性ポリウレタンシートを得た。熱可塑性ポリウレタン(2)100質量部に対するアラミド繊維含有量は30質量部である。このシートは実質的に非発泡である。
【0025】
実施例5
アラミド繊維不織布7枚と熱可塑性ポリウレタン(2)単独の樹脂シート(厚さ0.26mm)を2枚使用し、厚さ方向構成が対称になるように組合せて加熱加圧成形(温度200℃、圧力0.2MPa)により一体化し、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有熱可塑性ポリウレタンシートを得た。熱可塑性ポリウレタン(2)100質量部に対するアラミド繊維含有量は40質量部である。このシートは実質的に非発泡である。
【0026】
比較例1
熱可塑性ポリウレタン(1)ぺレットを押出成形機に投入し(温度200℃)、厚さ1.0mmのポリウレタンシートを成形した。このシートは実質的に非発泡である。
比較例2
アラミド繊維短繊維とABS樹脂ペレットを、アラミド繊維の含有量がABS樹脂100質量部に対して15質量部の割合で、実施例1と同様にペレット化及び押出成形し、厚さ1.0mmのアラミド繊維含有ポリウレタンシートを成形した。
比較例3
アラミド繊維からなるメッシュ基材(アラミド繊維径:12.5μm、密度0.2g/cm、厚さ1.0mm)にレゾール型フェノール樹脂ワニスを含浸し乾燥し、メッシュの空隙に細孔を残しながらアラミド繊維をフェノール樹脂にて合着した。フェノール樹脂の付着量はアラミド繊維100質量部に対し30質量部であり、細孔の体積は全体積の40%である。
比較例4
発泡ポリウレタン樹脂からなる市販研磨用パッド(厚み1.2mm、ロデール社製型番「IC−1000」)を用意した。
【0027】
上記各実施例及び比較例における研磨用パッド材に、表面粗さを調整するためのドレス処理(#100、26.5N、15分間)と、研磨作業においてスラリ状研磨剤の供給を均一にするための溝加工(格子状、溝幅2mm、溝ピッチ15mm、溝深さ0.6mm)を行ない、研磨用パッドとした。これら研磨用パッドとCMP研磨剤により、シリコンウエハA(200mmシリコンウエハ上にTEOS−プラズマCVD法で1μm厚の酸化珪素膜を形成したブランケットウエハ)及びシリコンウエハB(φ200mmシリコンウエハ上に幅100μm、間隔100μmのラインパターンを厚み100nmの窒化珪素膜で作製した後、Si露出部を深さ350nmエッチングし、このウエハ上にTEOS−プラズマCVD法で酸化珪素膜を600nm形成した450nmの凹凸を持ったTEGウエハ)の研磨を次のように実施した。
研磨装置は株式会社荏原製作所製型番「EPO−111」を使用し、研磨用パッドφ600mmを定盤上に貼付けて固定した。上記シリコンウエハを研磨装置にセットし、ヘッド部に保持した。前記各シリコンウエハをヘッドに保持したまま、その酸化珪素膜面を研磨用パッドに当接して、研磨荷重を30kPaに設定した。酸化セリウム系研磨剤(日立化成工業株式会社製「HS−8005」)と添加剤(日立化成工業株式会社製「HS−8102GP」)をそれぞれ40ml/minと160ml/minの量で混合して定盤上に滴下しながら、定盤及びウエハを両者同一方向に75rpmで1分間回転させて、酸化珪素膜を研磨した。そして、研磨後のシリコンウエハを純水で十分に洗浄後、乾燥した。
【0028】
上記の研磨を次の観点から評価した。その結果を研磨用パッドの仕様と共に表1に纏めて示す。
平均研磨速度(nm/min):シリコンウエハA研磨前後の酸化珪素膜厚差を光干渉式膜厚測定装置により測定し、酸化珪素膜が1分間当たりに減じられる厚さの平均を求めた。
研磨傷数(個/ウエハ):シリコンウエハAを1分間研磨した後、ウエハの表面全体を光学的スキャンし、検出部を顕微鏡観察し研磨傷をカウントした。
平坦性:シリコンウエハBを窒化珪素膜が露出するまで研磨した後、窒化珪素膜のライン(幅100μm)とその隣り合った酸化珪素膜のライン(幅100μm)との表面の段差を触針式段差計(SLOAN社製「Dektak3030」)を用いて測定した。
面内均一性:シリコンウエハA面内各箇所の酸化珪素膜の研磨速度を測定し、標準偏差(1δ)から研磨速度のばらつき(1δ/平均研磨速度×100)を求めた。
【0029】
【表1】

表1に示した実施例と比較例4及び比較例2との対照から、本発明に係る研磨用パッドを用いることにより、平坦性を維持したまま、面内均一性を向上させた研磨を実施することができる。さらに、研磨速度の向上を図れ、研磨傷の発生も抑制できることが判る。実施例1〜5と比較例1の対照から、アラミド繊維を含有することによって平坦性が向上し、さらに研磨速度も上げられることが判る。実施例4と比較例3との対照から、研磨傷発生の抑制及び研磨速度向上の点で発泡体より非発泡体が優れることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物表面を研磨するためのパッドであり、
当該パッドは、アラミド繊維を含有する、実質的に発泡を有しない熱可塑性ポリウレタン樹脂で構成されていることを特徴とする研磨用パッド。
【請求項2】
アラミド繊維が短繊維の状態で前記樹脂中に分散しており、その含有量が樹脂100質量部に対して1〜20質量部である請求項1記載の研磨用パッド。
【請求項3】
アラミド繊維が、当該繊維により構成された不織布の状態で前記樹脂中に存在しており、その含有量が樹脂100質量部に対して20〜30質量部である請求項1記載の研磨用パッド。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタン樹脂の硬度がショアD硬度60以上である請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用パッド。
【請求項5】
アラミド繊維がパッドの平面方向に配向している請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用パッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の研磨用パッドの表面をアラミド繊維が露出した状態となし、前記アラミド繊維が露出した研磨用パッド表面を被研磨物の研磨すべき表面に押し当て、スラリ状研磨剤を供給しながら被研磨物と研磨用パッドとを相対的に摺動させて前記研磨すべき表面を研磨することを特徴とする被研磨物の研磨方法。

【公開番号】特開2006−43803(P2006−43803A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−226659(P2004−226659)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】