説明

硫酸化グルクロノフカン

【課題】硫酸化グルクロノフカンを分解する3種類の酵素、該酵素の製造方法、該酵素の活性化因子、硫酸化グルクロノフカン及びその分解物、新規微生物の提供。
【解決手段】フコフィラスフコイダノリィティカス(Fucophilus fucoidanolyticus)SI−1234株が生産する3種類の硫酸化グルクロノフカン分解酵素、すなわち、フコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼ。また、それらの酵素の製造方法。さらに、酵素的に製造した脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン、構造の均一な硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖及びそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は褐藻類に含まれる多種類の硫酸化多糖を分解する酵素を生産するのに有用な新規な細菌、糖鎖工学分野において有用な硫酸化グルクロノフカンを分解する酵素、該酵素の製造方法、該酵素を活性化させる様々な因子、並びに糖鎖工学用試薬として有用な脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
褐藻類には何種類もの硫酸化多糖が含まれている。例えば、(1)フコースと硫酸基のみからなる硫酸化フカン、(2)グルクロン酸、マンノース、フコース及び硫酸基を含有する硫酸化フコグルクロノマンナン、例えばWO97/26896公報に記載のフコース硫酸含有多糖−U(構成糖及びそのモル比がフコース:マンノース:ガラクトース:ウロン酸:硫酸基=約10:7:4:5:20、以下、U−フコイダンと称す)、(3)フコース、ガラクトースよりなる硫酸化フコガラクタン、例えば、PCT/JP00/00965号明細書に記載の硫酸化フコガラクタン(構成糖及びそのモル比がフコース:ガラクトース=1:1〜6、以下、G−フコイダンと称す)等の硫酸化フコース含有多糖が知られている。
これらの多糖はフコイダンあるいはフコイジンと総称され、その構造は由来となる海藻により異なることが多い。例えば、ヒバマタ、マコンブ、オキナワモズク、モズクあるいはワカメメカブのそれぞれから抽出される硫酸化多糖は、異なる構造を持つことが知られていた。さらに、これらの硫酸化フコース含有多糖は、おおよそ総て高分子の陰イオンであるため、様々な精製工程において理化学的に同じ挙動を取り、分離が困難であった。そのため褐藻類の硫酸化フコース含有多糖はそれぞれ分離されることなく、そのまま生物活性が調べられることが多い。例えば、硫酸化フカン画分には強い抗凝血活性、硫酸化フコグルクロノマンナン画分には癌細胞に対するアポトーシス誘導活性が報告されている。しかしながら、見出された生物活性を担うのがどの硫酸化フコース含有多糖であるのかを決定することは困難であった。
【0003】
このような生理活性を有する硫酸化多糖を医薬品として開発する場合、その化学構造を決定する必要がある。そのためには、生理活性を有する硫酸化多糖を分解する酵素が必要になってくる。また、上記硫酸化多糖からオリゴ糖を得る場合でも、上記硫酸化多糖のそれぞれを分解する酵素を採取する必要がある。
しかしながら、褐藻類の硫酸化多糖を分解する酵素は市販されておらず、しかも褐藻類の硫酸化多糖は海藻の種によって異なることが多いため、1種類の硫酸化多糖の構造を決めるにはその硫酸化多糖を特異的に分解する分解酵素が必要となる。例えば、特定の硫酸化多糖を分解する酵素を得るために、その硫酸化多糖を資化する微生物のスクリーニングを行うことが多い。この場合、特定の硫酸化多糖を資化する微生物を単離し、同定し、培養条件を検討して硫酸化多糖分解酵素を効率良く生産することができるが、単離、同定に長時間を要する。また、1種の微生物が1種以上の硫酸化多糖を資化する例は少なく、まして、いくつもの目や科に渡る褐藻類の硫酸化多糖を資化する微生物はほとんど知られていない。
【0004】
従って、既同定の単離菌を使用して硫酸化多糖分解酵素を生産すること、あるいは一種類の菌株により何種類もの硫酸化多糖分解酵素を生産することが望まれていた。
また、最近オキナワモズクの硫酸化多糖に関する研究において、該多糖が胃潰瘍原因微生物のヘリコバクター ピロリの胃粘膜への定着を阻害すること、該多糖と繊維芽細胞増殖因子の複合体を繊維芽細胞増殖促進剤として使用できること、該多糖を経口で与えることにより細菌及びウイルス等による感染症を防げること等が報告されている。そのためオキナワモズクに関する生理活性とオキナワモズク由来の硫酸化多糖の化学構造の関係について研究されている。例えば、該多糖について2つの報告があり、一つはグライココンジュゲート ジャーナル(Glycoconjugate Journal)、第16巻,19−26頁(1999)に記載のフコース:グルクロン酸:硫酸基:アセチル基のモル比が6.1:1.0:2.9:1で分子量は約56,000である硫酸化グルクロノフカンであり、もう一つは、応用糖質科学、第43巻、143−148頁(1996)に記載のフコース:グルクロン酸:キシロース:硫酸基:アセチル基のモル比が3〜4:0.8−1.2:0.1〜0.3:0.8〜1.2:0.5〜1で分子量は約50万〜60万である硫酸化グルクロノフカンである。しかしながら、現在のところ物理化学的な分析によりその平均的な構造が判明しているに過ぎない。
また、医薬品等の開発のために構造が均一に保持されたオリゴ糖を得る必要があるが、例えば、オキナワモズク由来の硫酸化多糖から構造が均一に保持されたオリゴ糖を得ることは困難であった。
以上のことから、多種類の褐藻類由来の硫酸化多糖を分解する微生物、オキナワモズク由来の硫酸化多糖、すなわち硫酸化グルクロノフカンを特異的に分解する酵素、及び酵素的に製造した構造が均一な硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、多種類の褐藻類由来の硫酸化多糖を分解する新規な微生物、糖鎖工学的に有用な硫酸化グルクロノフカンを分解する3種類の酵素、該酵素の製造方法、及び硫酸化グルクロノフカンに該酵素を作用させて得られる低分子化物及びその製造方法、さらに硫酸化グルクロノフカン分解酵素の活性化因子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究の結果、多種類の褐藻類由来の複数の硫酸化多糖を資化する能力を持つ細菌を単離することに成功し、フコフィラス(Fucophilus)属と命名した。また、フコフィラス属に属する細菌の1菌株、フコフィラス フコイダノリィティカス(Fucophilus fucoidanolyticus)SI−1234株が、3種類の硫酸化グルクロノフカン分解酵素、すなわち、フコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを生産することも見出した。また、それらの酵素の製造方法についても見出した。さらに、それらの酵素の効率的利用には、塩化ナトリウム、カルシウム塩、及び蛋白質が有用なことについても見出した。また、糖鎖工学用試薬として利用できる、酵素的に製造した脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン、構造の均一な硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖及びそれらの製造方法を見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の第1の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とするフコイダンデアセチラーゼに関する。該酵素は、硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用して、アセチル基を加水分解し、酢酸を遊離させることができ、至適pHは約6〜9.1の範囲であり、至適温度は約23〜45℃の範囲である。
本発明の第2の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とするα−D−グルクロニダーゼに関する。該酵素は、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用して、α−D−グルクロニル結合を加水分解し、D−グルクロン酸を遊離させることができ、至適pHは約5.8〜7.8の範囲、至適温度は約14〜29℃の範囲である。
【0007】
本発明の第3の発明は、下記の理化学的性質を有することを特徴とするエンド−α−L−フコシダーゼに関する。該酵素は、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用してα−L−フコシル結合をエンド的に加水分解し、還元性末端にL−フコースを持つオリゴ糖を生成させることができ、至適pHは約4.5〜7.5の範囲、至適温度は約23〜42℃の範囲である。
本発明の第1〜第3の発明において、フコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼあるいはエンド−α−L−フコシダーゼは、該酵素の生産能を有する微生物を培養し、その培養物から該酵素を採取することによって製造することができる。
本発明の第4の発明は、硫酸化グルクロノフカンに本発明の第1の発明のフコイダンデアセチラーゼを作用させて少なくとも1分子以上のアセチル基を除去した脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンを採取することを特徴とする脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの製造方法に関する。
本発明の第5の発明は、本発明の第4の発明の方法により得られる脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン又はその塩に関する。
本発明の第6の発明は、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンに本発明の第2の発明のα−D−グルクロニダーゼを作用させて少なくとも1分子以上のグルクロン酸残基を除去した脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを採取することを特徴とする脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンの製造方法に関する。
本発明の第6の発明において、脱グルクロン酸化は、塩化ナトリウム、カルシウム塩及び/又は蛋白質の共存下で行うことができる。
【0008】
本発明の第7の発明は、本発明の第6の発明の方法により得られる脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン又はその塩に関する。
本発明の第8の発明は、硫酸化グルクロノフカンにフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを作用させて採取することを特徴とする硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の製造方法に関する。この場合、フコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを同時に作用させてもよいし、フコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ、エンド−α−L−フコシダーゼの順に作用させてもよい。
本発明の第9の発明は、アルカリ処理により脱アセチル化した硫酸化グルクロノフカンにα−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを作用させて採取することを特徴とする硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の製造方法に関する。この場合、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを同時に作用させてもよいし、まずα−D−グルクロニダーゼを作用させた後にエンド−α−L−フコシダーゼを作用させてもよい。
本発明の第8及び第9の発明においては、塩化ナトリウム、カルシウム塩及び/又は蛋白質の共存下で行うことができる。
本発明の第10の発明は、本発明の第8〜第9の発明の方法により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖又はその塩に関する。
本発明の第11の発明は、下記一般式(I)〜(III)から選択される化学構造を有する糖化合物又はその塩に関する。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、RはH又はSO3HまたはCHCOである。また、nは0又は1以上の整数である)。
【0009】
本発明の第12の発明は、下記理化学的性質を有することを特徴とする硫酸化グルクロノフカン又はその塩に関する。該硫酸化多糖は、構成糖としてフコースとグルクロン酸を含有し、そのモル比が35〜44:10であり、下記一般式(VIII)で表される硫酸化糖を構成糖の必須成分とするものが例示される。
【化4】

(式中、RはH又はSO3HまたはCHCOである)。
本発明の第12の発明において、上記一般式(VIII)中のnは1〜5000の範囲であることが好ましい。
本発明の第13の発明は、褐藻類由来の複数の硫酸化多糖を資化する能力を持つフコフィラス属細菌に関する。
本発明の第13の発明において、当該フコフィラス属細菌には電子伝達鎖にメナキノンを有し、GC含量が約50%である細菌が含まれる。また、配列表の配列番号3記載の16S リボソーマルDNAの塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有する16S リボソーマルDNAを持つ細菌が含まれる。特に限定はされないが、例えば、フコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234株(FERM P−17517)が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明に関して具体的に説明する。
本明細書においてフコフィラス属に属する細菌とは、褐藻類由来の複数の硫酸化多糖を資化することができる細菌であればよく、例えば、ガゴメコンブ、マコンブ、ワカメ、モズク、オキナワモズク、レッソニア ニグレッセンス(Lessonia nigrescens)、フカス ベシクロサス(Fucus vesiculosus)、アスコフィラム ノドスム(Ascophyllum nodosum)等の褐藻類由来の硫酸化多糖をそれぞれ1種類以上ずつ資化できる細菌が好適に使用できる。本発明において資化とは、生物が培地に添加された物質をそのままあるいは低分子化して生体内に取り入れること、あるいは代謝的に別物質に変換することをいう。本明細書において上記褐藻類由来の硫酸化多糖を低分子化する酵素を生産することができる微生物は、褐藻類由来の硫酸化多糖を資化することができる微生物に含まれる。本発明のフコフィラス属細菌は、従来の菌学的分類法のみによって同定することが不可能な細菌であり、分子遺伝子学的に分類する方法、例えば、16S リボソーマルDNA(rDNA;リボソーマルRNAをコードするDNA)の塩基配列の相同性に基づく分類法を、従来の方法と組み合わせて使用する必要がある。即ち、本発明のフコフィラス属細菌には、菌学的にフコフィラス属に分類される細菌、及びその16S rDNA塩基配列が本明細書に開示するフコフィラス属細菌の16S rDNA塩基配列と約90%以上の相同性を有する細菌が含まれる。16S rDNAの塩基配列の相同性解析は、例えば、インターネットのNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のホームページで利用可能なAdvanced BLAST searchを利用することができる。
【0011】
上記フコフィラス属細菌としては、特に限定はないが例えば、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカス(Fucophilus fucoidanolyticus)SI−1234株が好適に使用できる。該フコフィラス フコイダノリティカスSI−1234株は、ナマコの消化管内容物より本発明者らが新たに検索して得た細菌で、その菌学的性質は次のとおりである。
a. 形態的性質
本菌は直径1.2〜1.6μmの球菌である。
胞子の有無 なし
グラム染色性 陰性
b. 生理的性質
(1)生育温度 25℃で生育する。
(2)酸素に対する態度 好気性
(3)カタラーゼ 陽性
(4)オキシダーゼ 陰性
(5)塩類要求性:
0%食塩培地での生育 陰性
1%食塩培地での生育 陰性
海水培地での生育 陽性
(6)キノン系 メナキノン7
(7)菌体内DNAのGC含量 52%
(8)OF−テスト 酸を生成しない
(9)集落の色調 特徴的な集落色素を生成せず
(10)運動性 陰性
(11)滑走性 陰性
(12)鞭毛 なし
本菌株は、バージーズ マニュアル オブ ディターミネィティブ バクテリオロジー(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)、第9巻(1994)に記載の基本分類によればグループ4(グラム陰性好気性かん菌及び球菌)に分類される。しかしながら本菌株は、電子伝達鎖にメナキノン7を有し、GC含量が52%という点でグループ4に属する菌と異なる。そこで、本菌株の16S rDNAの塩基配列を決定するために、配列表の配列番号1及び2記載の塩基配列を有するプライマー及びタカラPCR Amplification Kitを用いて16S rDNA領域を増幅し、該増幅断片の塩基配列を常法にて解析した。該16S rDNAの塩基配列を配列表の配列番号3に示す。配列表の配列番号3の塩基配列について既知の細菌との相同性を比較したところ16S rDNAの全域(約1500塩基)にわたって約90%以上の相同性を示す既知菌株は存在しなかった。従って、本発明者らは、本菌株は、既知の属に属さない新属の細菌であると断定し、本菌株をフコフィラス フコイダノリィティカス(Fucophilus fucoidanolyticus)SI−1234株と命名した。なお、上記フコフィラス フコイダノリティカス(Fucophilus fucoidanolyticus)SI−1234株は、ブダペスト条約のもと、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所[日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−8566)]に平成11年8月18日(原寄託日)より受託番号FERM BP−7495のもとに寄託されている。
【0012】
実際に、特に限定はされないが、例えば、ガゴメコンブ、マコンブ、ワカメ、レッソニア ニグレッセンス、エクロニア、マキシマ等のコンブ目に属する褐藻類やモズク、オキナワモズク等のナガマツモ目に属する褐藻類やフカス、ベシクロサス、アスコフィラム ノドスム等のヒバマタ目に属する褐藻類由来のそれぞれの硫酸化多糖を基質に上記フコフィラス フコイダノリティカスSI−1234株を培養すると培地中の各硫酸化多糖は資化され、さらに該菌体抽出液をそれぞれの硫酸化多糖と混合すると、明らかに硫酸化多糖の低分子化が見られる。
本発明のフコフィラス フコイダノリティカス1234株は、上記褐藻類由来の複数の硫酸化多糖を資化する能力、硫酸化グルクロノフカンを分解する能力及び本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを生産する能力を有する微生物である。
本明細書において硫酸化グルクロノフカンは、構成糖として主にフコースとグルクロン酸を35〜44:10のモル比で含有する硫酸化多糖であり、アセチル基を持つことが知られている。硫酸化グルクロノフカンとしては、例えば、フコースとグルクロン酸とアセチル基のモル比が4:1:0.5の硫酸化グルクロノフカンが例示される。また、平均分子量は、例えば、HPLCゲルろ過法で約100万(分子量分布は、約10万〜200万)である。
【0013】
本明細書において硫酸化グルクロノフカンの構造は、下記一般式(VIII)に表わされる。下記一般式においてnは、1以上の整数であり、例えば1〜5000の範囲、さらに好ましくは1〜1000の範囲のものが上記硫酸化グルクロノフカンに含まれる。また、上記硫酸化グルクロノフカンには、上記範囲であれば、下記一般式(VIII)が連続的に繰り返した構造をもつもの及び他の構造が介在して非連続的に下記一般式(VIII)が含有される構造をもつもののいずれもが含まれる。
【化5】

(式中RはH又はSO3H又はCHCOである。)
なお、上記硫酸化グルクロノフカンの分子量、糖組成、及び硫酸基含量は、該硫酸化グルクロノフカンの原料の収穫期、該原料の乾燥方法、該原料の保存方法、硫酸化グルクロノフカンの抽出時の加熱条件、あるいはpH条件等により異なる。例えば、酸により該硫酸化グルクロノフカンは加水分解される場合がある。従って、本明細書に記載した硫酸化グルクロノフカンの分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量はその1例にすぎず、該硫酸化グルクロノフカンの抽出処理条件により、その分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量は容易に変化させ得る。例えば、オキナワモズクからpH6.0、95℃、2時間の抽出方法で抽出すると、上記の糖組成と分子量を示す硫酸化グルクロノフカンが得られる。すなわち、調製方法の条件によって任意の分子量、分子量分布、糖組成、あるいは硫酸基含量の硫酸化グルクロノフカンを調製することができる。例えば、上記硫酸化グルクロノフカンの主要な構成糖は、フコース4糖あたりおよそ2残基の硫酸基を含んでいるが、一般的に糖にエステル結合している硫酸基は、化学的に不安定であり、酸やアルカリあるいは熱により容易に切断される。例えば、酸性やアルカリ性条件下で加熱処理を行えばその硫酸含量あるいはアセチル基含量は減少するものである。すなわち、硫酸化グルクロノフカンから意図的に脱硫酸や脱アセチル化を行うことが可能である。また、脱硫酸や脱アセチル化の際、酸やアルカリの種類や濃度、加熱処理時の温度や時間を調整すれば、切断する硫酸基やアセチル基の量も調整することができる。特に限定はされないが、例えば約0.5〜1N水酸化ナトリウム溶液で25℃ 24時間処理によって得られる脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンは、本発明のα―D―グルクロニダーゼやエンド−α―L−フコシダーゼの基質として好適に使用できる。
【0014】
従って、本明細書の硫酸化グルクロノフカンは、前述の特徴を備えた硫酸化グルクロノフカンもしくは、本発明の硫酸化グルクロノフカン分解酵素で低分子化される硫酸化グルクロノフカンであればすべての褐藻類由来のものを包含する。その由来は特に限定されるものではないが、例えば、オキナワモズク、イシモズク、ニセフトモズク、フトモズク等ナガマツモ科の褐藻類は硫酸化グルクロノフカンの含有量が多く原料として好適である。
例えば、オキナワモズク由来の硫酸化多糖の主鎖は一般の糖よりも酸に対して弱いL−フコースからなるため、pH3.0や0.2N塩酸による抽出では、硫酸化多糖の低分子化が起こると考えられる。すなわち、オキナワモズク由来の硫酸化多糖も他の硫酸化L−フコースを主要構成糖とする多糖と同様に加熱や酸処理により容易に低分子化される。
本発明の硫酸化グルクロノフカンは、硫酸基及び/又はカルボキシル基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。本発明の硫酸化グルクロノフカンは、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩はダウエックス50W等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の本発明の硫酸化グルクロノフカンに導くことが可能である。また、これらは、必要に応じ公知慣用の塩交換を行い所望の種々の塩に交換することができる。
本発明の硫酸化グルクロノフカンの塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウムマグネシウム、亜鉛等のアルカリ土類金属、アンモニウム等の塩が挙げられる。
本発明で使用する硫酸化グルクロノフカンを製造する際にはまず、褐藻類の水溶性画分抽出液を得る。その際、硫酸化グルクロノフカンの低分子化を防ぐためには、pH4〜9、温度100℃以下で水溶性画分抽出液を得ることが好ましい。また、上記抽出液中のアミノ酸や低分子性の色素等は、限外ろ過により効率良く除去することができる。さらに、疎水性物質の除去には活性炭処理等も有効である。このようにして褐藻類由来の硫酸化多糖画分を得ることができる。また、該画分を陰イオン交換カラムにより分離すればより純度の高い硫酸化グルクロノフカンを得ることができる。
【0015】
上記方法で得られた硫酸化グルクロノフカンは、育毛効果を示す。従って、例えば、育毛剤の構成成分として有用である。
さらに上記の方法で得られた硫酸化多糖画分あるいは陰イオン交換カラムで精製した硫酸化グルクロノフカンのいずれもが本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの基質として使用できる。また、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを精製する際の活性測定用の基質として、あるいは本発明の脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を製造する際の原料としても使用することができる。
本明細書において硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖とは、硫酸化グルクロノフカンから生成したオリゴ糖を言う。基本的には硫酸基、グルクロニル基、フコシル基、アセチル基を含むが、例えば硫酸基とフコシル基のみからなる場合も、由来が硫酸化グルクロノフカンの場合は硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖と言う。
本明細書においてフコイダンデアセチラーゼとは、硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用してアセチル基を加水分解し、酢酸を遊離させる酵素のことをいう。本発明のフコイダンデアセチラーゼの理化学的性質は以下の通りである。
(I)作用:硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用して、アセチル基を加水分解し、酢酸を遊離させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約6〜9.1の範囲である(図1)。
すなわち図1は本酵素の反応時のpHと相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸はpHを示す。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約23〜45℃の範囲である(図2)。
すなわち、図2は本酵素の反応時の温度と相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸は温度(℃)を示す。
(IV)分子量:ゲルろ過法にて測定した場合、約3万〜5万である。
本発明のフコイダンデアセチラーゼの確認は、アセチル基を持つ硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖及びその還元性末端を蛍光標識した化合物の分解活性を測定することによって行うことができる。これらの蛍光標識オリゴ糖を用いることにより微量、高感度の活性測定系を構築することができる。また、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖にフコイダンデアセチラーゼを作用させた後、反応生成物に含まれる酢酸と脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を分離し、それぞれの酢酸量及びアセチル基の量を測定することによって、また反応生成物の質量分析を行うことによって、フコイダンデアセチラーゼ活性を確認することもできる。本発明のフコイダンデアセチラーゼの活性は、生産菌の無細胞抽出液でも、各種カラムクロマトによる精製後の酵素液でも測定可能である。
【0016】
1つの実施態様において、本発明のデアセチラーゼは、塩化ナトリウム及び/又は蛋白質の存在下で活性化される。これらの因子は単独であるいは両方の組み合わせによっても効果がある。まず、塩化ナトリウムに関して述べると、試薬の塩化ナトリウム、食塩、海水、人工海水等、塩化ナトリウムを含むものならばいかなる物質でも使用できる。本発明のデアセチラーゼの反応液に添加する塩化ナトリウム濃度は、好ましくは、0.1mM〜1Mの範囲、さらに好ましくは1mM〜600mMの範囲である。
次に、蛋白質について述べると、本発明のフコイダンデアセチラーゼを活性化させる目的で反応液中に添加する蛋白質は本発明のフコイダンデアセチラーゼを分解したり、その反応を阻害しない限りいかなる蛋白質でもよい。好適には牛血清アルブミン等を使用できる。また、例えば、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株の菌体から抽出された蛋白質等も使用することができる。本発明のフコイダンデアセチラーゼの反応液に加える蛋白質の濃度は、好ましくは、0.001〜10mg/mlの範囲、さらに好ましくは、0.01〜1mg/mlの範囲である。
本明細書においてα−D−グルクロニダーゼとは、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用してグルクロン酸とフコースの間のα−D−グルクロニル結合を加水分解し、D−グルクロン酸を遊離させる酵素のことをいう。本発明のα−D−グルクロニダーゼの理化学的性質は以下の通りである。
(I)作用:脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用して、α−D−グルクロニル結合を加水分解し、D−グルクロン酸を遊離させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約5.8〜7.8の範囲である(図3)。
【0017】
すなわち図3は本酵素の反応時のpHと相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸はpHを示す。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約14〜29℃の範囲である(図4)。
すなわち、図4は本酵素の反応時の温度と相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸は温度(℃)を示す。
(IV)分子量:ゲルろ過法にて測定した場合、約12〜18万である。
本発明のα−D−グルクロニダーゼの確認は、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの分解活性を測定することによって行うことができる。また、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖及びそれらの還元末端を2−アミノピリジンで蛍光標識した化合物も本酵素の基質となり、これらの蛍光標識オリゴ糖を用いることにより微量、高感度の活性測定系を構築することができる。硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖にα―D―グルクロニダーゼを作用させた後、反応生成物に含まれるグルクロン酸と硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を分離し、それぞれの総糖量および総ウロン酸量を測定することによって、また反応生成物の質量分析を行うことによって、α−D−グルクロニダーゼ活性を確認することもできる。本発明のα−D−グルクロニダーゼの活性は、生産菌の無細胞抽出液でも、各種カラムクロマトによる精製後の酵素液でも測定可能である。
1つの実施態様において、本発明のα−D−グルクロニダーゼは、塩化ナトリウム、カルシウムイオン、及び/又は蛋白質の存在下で活性化される。これらの因子は単独であるいは2種類あるいは3種類の組み合わせによっても効果がある。まず、塩化ナトリウムに関して述べると、試薬の塩化ナトリウム、食塩、海水、人工海水等、塩化ナトリウムを含むものならばいかなる物質でも使用できる。本発明の、α−D−グルクロニダーゼの反応液に添加する塩化ナトリウム濃度は、好ましくは、0.1mM〜1Mの範囲、さらに好ましくは1mM〜600mMの範囲である。
次に、カルシウムイオンに関して述べると、カルシウムイオンを発生させるものならいかなる物質でもよい。好適には可溶性のカルシウム塩、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等を使用できる。また、難溶性のカルシウム塩、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム等でも硫酸化グルクロノフカン等の硫酸化多糖が溶存している状態では徐々にカルシウムイオンを発生させるので本発明のα−D−グルクロニダーゼの活性化に使用することができる。また、硫酸化グルクロノフカンの硫酸基やカルボキシル基のカウンターイオンにカルシウム塩を含む場合は基質そのものがカルシウムイオンの発生源となるため、活性化のために加えるカルシウムイオン源はその分減らすことができる。場合によってはカルシウム塩を添加しなくても本酵素が作用する。本発明のα−D−グルクロニダーゼの反応液に加えるカルシウムイオンの濃度は、好ましくは0.1〜200mMの範囲、さらに好ましくは、1〜100mMの範囲である。
【0018】
次に、蛋白質について述べると、本発明のα−D−グルクロニダーゼを活性化させる目的で反応液中に添加する蛋白質は本発明のα−D−グルクロニダーゼを分解したり、その反応を阻害しない限りいかなる蛋白質でもよい。好適には牛血清アルブミン等を使用できる。また、例えば、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234の菌体から抽出された蛋白質等も使用することができる。本発明のα−D−グルクロニダーゼの反応液に加える蛋白質の濃度は、好ましくは、0.001〜10mg/mlの範囲、さらに好ましくは、0.01〜1mg/mlの範囲である。
本明細書においてエンド−α−L−フコシダーゼとは、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用してα−L−フコシル結合をエンド的に加水分解し、還元性末端にL−フコースを持つオリゴ糖を生成させる酵素のことをいう。本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは、天然の硫酸化グルクロノフカンに対してはあまり作用しないが、あらかじめフコイダンデアセチラーゼ及びα−D−グルクロニダーゼで処理した硫酸化グルクロノフカンに対して、あるいはフコイダンデアセチラーゼ及びα−D−グルクロニダーゼ共存下での硫酸化グルクロノフカンに対しては、よく作用する。しかしながら天然の硫酸化グルクロノフカンの場合であっても、例えば他の海洋細菌由来の酵素あるいは物理・化学的な要因等の何らかの理由でアセチル基及びグルクロン酸が除去されていれば、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの基質として好適に使用できる。
本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの理化学的性質は以下の通りである。
(I)作用:脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用して、α−L−フコシル結合をエンド的に加水分解し、還元性末端にL−フコースを持つオリゴ糖を生成させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約4.5〜7.4の範囲である(図5)。
【0019】
すなわち図5は本酵素の反応時のpHと相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸はpHを示す。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約23〜42℃の範囲である(図6)。
すなわち、図6は本酵素の反応時の温度と相対活性の関係を表すグラフであり、縦軸は相対活性(%)、横軸は温度(℃)を示す。
(IV)分子量:ゲルろ過法にて測定した場合、約15万〜20万である。
本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの確認は、脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンの分解活性を測定することによって行うことができる。また、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を本発明のα−D−グルクロニダーゼで処理して得られるオリゴ糖及びそれらの還元末端を2−アミノピリジンで蛍光標識した化合物も本酵素の基質となり、本蛍光標識オリゴ糖を用いることにより微量、高感度の活性測定系を構築することができる。例えば、8Fuc−4S−PA(下記)を基質に用いて反応させ、反応生成物をHPLCで分析すれば、エンド−α−L−フコシダーゼの活性を測定できる。本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの活性は、生産菌の無細胞抽出液でも、各種カラムクロマトによる精製後の酵素液でも測定可能である。
1つの実施態様において、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは、塩化ナトリウム、カルシウムイオン、及び/又は蛋白質の存在下で活性化される。これらの因子は単独であるいは2種類あるいは3種類の組み合わせによっても活性化の作用がある。まず、塩化ナトリウムに関して述べると、試薬の塩化ナトリウム、食塩、海水、人工海水等、塩化ナトリウムを含むものならばいかなる物質でも使用できる。本発明の、エンド−α−L−フコシダーゼの反応液に添加する塩化ナトリウム濃度は、好ましくは、0.1mM〜1Mの範囲、さらに好ましくは1mM〜600mMの範囲である。
【0020】
次に、カルシウムイオンに関して述べると、カルシウムイオンを発生させるものならいかなる物質でもよい。好適には可溶性のカルシウム塩、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等を使用できる。また、難溶性のカルシウム塩、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、硫酸カルシウム等でも硫酸化グルクロノフカン等の硫酸化多糖が溶存している状態では徐々にカルシウムイオンを発生させるので本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの活性化に使用することができる。また、硫酸化グルクロノフカンの硫酸基やカルボキシル基のカウンターイオンにカルシウム塩を含む場合は基質そのものがカルシウムイオンの発生源となるため、活性化のために加えるカルシウムイオン源はその分減らすことができる。場合によってはカルシウム塩を添加しなくても本酵素が作用する。本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの反応液に加えるカルシウムイオンの濃度は、好ましくは、0.1〜200mMの範囲、さらに好ましくは、1〜100mMの範囲である。
次に、蛋白質について述べると、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを活性化させる目的で反応液中に添加する蛋白質は本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを分解したり、その反応を阻害しない限りいかなる蛋白質でもよい。好適には牛血清アルブミン等を使用できる。また、例えば、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株の菌体から抽出された蛋白質等も使用することができる。本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの反応液に加える蛋白質の濃度は、好ましくは、0.001〜10mg/mlの範囲、さらに好ましくは0.01〜1mg/mlの範囲である。
【0021】
本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの製造に使用される微生物としては、上記硫酸化多糖画分あるいは硫酸化グルクロノフカンを低分子化する酵素を生産する微生物であれば特に限定はないが、例えば、フコフィラス属細菌が好適に使用できる。上記フコフィラス属細菌は、菌学的性質から同属と分類されたもの、あるいは16S rDNAの塩基配列の相同性に基づいて同属と分類されたものの全てが含まれるが、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼあるいはエンド−α−L−フコシダーゼと同様に硫酸化グルクロノフカンを分解する酵素を生産する微生物であれば、すべての微生物が含まれる。
本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを生産する微生物を培養するにあたり、培地に加える栄養源は使用する微生物が利用し、その存在下で該酵素を生産するものであればよく、炭素源としては、例えば、硫酸化グルクロノフカン、オキナワモズク等の海藻、アルギン酸、ラミナラン、フコース、グルコース、マンニトール、グリセロール、サッカロース、マルトース、デンプン等が利用でき、窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、肉エキス、脱脂大豆、硫安、塩化アンモニウム、尿素、尿酸等が適当である。その他にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の塩化物、リン酸塩、硫酸塩等を加えてもよい。なお、該微生物の培地は、海水あるいは市販の人工海水の培地であってもよい。
また、培養条件及び培地組成等は使用する微生物に応じ、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの生産量が最大になるように設定するのは当然のことである。例えば、培養温度は15〜30℃、培地のpHは5〜9、5〜72時間の通気攪拌培養が好ましく、前述の条件で本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの生産量は、最大に達し得る。培養終了後、遠心分離により菌体と培養上清に分画し、それぞれから本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを得ることができる。
【0022】
特に限定はされないが、例えば、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234株を適当な培地で培養し、その菌体を集め、通常用いられる細胞破砕手段、例えば超音波処理で菌体を破砕すると無細胞抽出液が得られる。次に、この抽出液から通常用いられる精製手段により精製酵素標品を得ることができる。例えば、塩析、イオン交換カラムクロマト、疎水カラムクロマト、ゲルろ過等により精製を行い、実質的に他の硫酸化フコース含有多糖分解酵素を含まない純化された本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを得ることができる。また、硫酸化グルクロノフカンを固定化した樹脂を用いれば本発明のα−D−グルクロニダーゼと本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを容易に分離することもできる。
さらに、上述の培養上清中にも本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼが大量に存在するので、菌体内酵素と同様の精製手段により精製することができる。
上記のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株は、硫酸化グルクロノフカンを資化する微生物であり、硫酸化グルクロノフカンを分解するために菌体内及び菌体外に本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを生産する。これらの3種類の酵素は、カラム精製操作により分離することができる。
本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは、本発明のフコイダンデアセチラーゼ及びα−D−グルクロニダーゼと共存すると、硫酸化グルクロノフカンを硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に分解するが、単独ではほとんど分解することができない。また、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは、本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを、単独で分解することができる。従って、硫酸化グルクロノフカンの硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖への分解のためには、本発明のフコイダンデアセチラーゼ及びα−D−グルクロニダーゼとの共存は必ずしも必要ではなく、硫酸化グルクロノフカンの脱アセチル化及び脱グルクロン酸が必要であることが分かる。
【0023】
本明細書において脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンとは、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンに本発明のα−D−グルクロニダーゼを作用させて、少なくとも1分子以上のα−D−グルクロニル結合を加水分解したものである。該脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンからD−グルクロン酸を除去すると最終的にグルクロン酸含量がゼロになる(すなわち、脱アセチル化された硫酸化フカンである)が、酵素反応の条件を調整することにより、フコースとグルクロン酸のモル比が4:1から4:0までの様々なグルクロン酸含量の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを製造することができる。
本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを得るには、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンにα−D−グルクロニダーゼを作用させて、遊離したD−グルクロン酸を例えば限外ろ過、ゲルろ過、陰イオン交換カラム処理などにより除去すればよい。必要に応じて脱塩、凍結乾燥などの処理を行ってもよい。脱グルクロン酸化処理を行う際に、あらかじめ硫酸化グルクロノフカンをフコイダンデアセチラーゼ処理やアルカリ処理などにより脱アセチル化しておけば脱グルクロン酸化を効率よく行うことができる。
例えば、オキナワモズク由来の硫酸化グルクロノフカンを脱アセチル化して得た脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンにはフコース4分子あたり1分子程度のD−グルクロン酸が含まれているが、α−D−グルクロニダーゼによりD−グルクロン酸を除去し、様々なグルクロン酸含量の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを調製することができる。脱グルクロン酸反応に用いる酵素量や基質量、反応時間、反応温度、pH等の条件を調整することにより、特に限定はされないが、例えば、1gの脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンに適量の塩化ナトリウム、牛血清アルブミン及び500mUの本発明のα−D−グルクロニダーゼを混合し、20℃、pH7付近で様々な時間反応させることによりフコースとグルクロン酸のモル比が4:1から4:0までの様々なグルクロン酸含量の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを製造することができる。
【0024】
脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンはそのまま、糖鎖工学用試薬として使用することも可能であるが、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの基質として活性測定に使用できる他、その反応生成物は本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖として、糖鎖工学用試薬として有用である。
本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを調製するにあたり、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、若しくは脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、若しくは該脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン含有物の濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、酵素力価を考慮して選定すればよい。脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの溶解液としては、水、緩衝液等より目的に応じて選択すればよい。溶解液のpHは通常中性付近で、酵素反応は通常20℃付近で行う。酵素量、反応液の組成、反応時間等を調整することによって、脱グルクロン酸の程度を調整することもできる。脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンは、必要に応じて更にイオン交換樹脂処理、限外ろ過等の精製操作を行ってもよく、必要に応じて脱塩処理、無菌処理、凍結乾燥処理をすることもできる。
本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンは、硫酸基及び/又はカルボキシル基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンは、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩はダウエックス50W等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンに導くことが可能である。また、これらは、必要に応じ公知慣用の塩交換を行い所望の種々の塩に交換することができる。
【0025】
本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンの塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウムマグネシウム、亜鉛等のアルカリ土類金属、アンモニウム等の塩が挙げられる。
本明細書において硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖とは、上記の硫酸化グルクロノフカンに本発明のフコイダンデアセチラーゼを作用させるかあるいはアルカリ処理等により脱アセチル化した後、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを作用させて得られるオリゴ糖であり、還元性末端糖がL−フコースであるものをいう。特に限定はされないが、例えば下記一般式(I)〜(III)から選択される化学構造を有する糖化合物が挙げられる。
【化6】

(式中、RはH又はSO3H又はCHCOである。)
【化7】

(式中、RはH又はSO3H又はCHCOである。)
【化8】

(式中、RはH又はSO3H又はCHCOである。またnは0又は1以上の整数である。)
【0026】
本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖は、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを硫酸化グルクロノフカン、若しくは硫酸化グルクロノフカン含有物に作用させることによって効率よく調製することができ、あらかじめアルカリ処理等の化学的処理により脱アセチル化した硫酸化グルクロノフカンに本発明のα−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを作用させることによっても調製することができる。硫酸化グルクロノフカン含有物としては、例えば硫酸化グルクロノフカンの部分精製品、褐藻類由来の硫酸化フコース含有多糖画分、褐藻類の水性溶媒抽出物、若しくは褐藻類藻体が好適に使用できる。また、当然のことであるが、本発明の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンに本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを作用させても本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を得ることができる。特に限定はされないが例えば、オキナワモズク由来の硫酸化グルクロノフカンを脱アセチル化し、本発明のα−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼを作用させることにより、上記一般式(I)〜(III)から選択される化学構造を有する糖化合物あるいはその塩を得ることができる。
本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を調製するにあたり、硫酸化グルクロノフカン、若しくは硫酸化グルクロノフカン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の本発明の硫酸化グルクロノフカン、若しくは該硫酸化グルクロノフカン含有物の濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、反応に使用する本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの量を考慮して選定すればよい。硫酸化グルクロノフカンの溶解液としては、水、緩衝液等より目的に応じて選択することができる。溶解液のpHは通常中性付近で、酵素反応は通常25℃付近で行う。反応に使用する本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの配合比率や使用量、反応液の組成、反応時間等を調整することによって、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の分子量やグルクロン酸及びアセチル基の含量を調整することもできる。硫酸化グルクロノフカンは3種類の酵素、すなわち本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼにより分解されるのであるが、これら3種類の酵素反応は同時に行っても良く、別々に行うこともできる。すなわち、あらかじめ硫酸化グルクロノフカンを本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼにより脱アセチル化及び脱グルクロン酸化し、その後本発明のフコイダンデアセチラーゼ及びα−D−グルクロニダーゼを熱処理や酸、アルカリ処理などにより失活させた後、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを作用させれば、生成する本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の分子量分布やグルクロン酸及びアセチル基含量の調整が容易である。
【0027】
上記の様にして得られた本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を分子量分画あるいは陰イオン交換カラムにより分画することによって、更に均一な分子量あるいは均一な荷電密度分布の本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を調製することができる。分子量分画は通常よく使用されている方法を適用することができ、例えばゲルろ過法や分子量分画膜を使用すればよい。低分子化物は、必要に応じて更にイオン交換樹脂処理、活性炭処理等の精製操作を行ってもよく、必要に応じて脱塩処理、無菌処理、凍結乾燥処理をすることもできる。この方法により、NMR分析により構造決定可能な均一な構造の本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を得ることができる。
本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖は、硫酸基及びカルボキシル基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖は、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩は、ダウエックス50W等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に導くことが可能である。また、これらは、必要に応じ既知の塩交換方法を行いて、所望の種々の塩に交換することができる。
本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウムマグネシウム、亜鉛等のアルカリ土類金属、アンモニウム等の塩が挙げられる。
また、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖は、糖鎖工学用試薬として使用することができる。例えば、特公平5−65108号公報記載の方法により2−アミノピリジル化(PA化)を行い、該オリゴ糖のPA−化物を調製すれば、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの活性測定用基質として使用できる。このように本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖は、糖鎖工学用試薬として極めて有用な物質である。
【0028】
本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼは、硫酸化グルクロノフカンを低分子化するため硫酸化グルクロノフカンの構造解析に使用することができる。さらに、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼは、反応液中に塩化ナトリウム、蛋白質及び/又はカルシウムイオンを共存させることにより安定性及び反応速度が高まるため、これらの硫酸化グルクロノフカン分解酵素活性化因子を共存させることにより上記低分子化を効率よく行うことができる。また、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン及び脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンは、糖鎖工学用試薬として使用することができ、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α―D―グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの活性測定用の基質としても使用できる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例をもって具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
参考例1
(1)粗硫酸化グルクロノフカン画分の調製
市販の塩蔵オキナワモズク625gを4375mlの30mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に懸濁し、ホモジナイザーにより8000回転/分、5分間処理後、95℃、1時間処理し、遠心分離により上清を得た。得られた上清に10gの活性炭を添加後30分間攪拌し、遠心分離により上清を得た。得られた上清を排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により2リットルに濃縮後、20mMの塩化ナトリウムで溶媒置換し、凍結乾燥して10.9gの粗硫酸化グルクロノフカン画分の乾燥物を得た。
(2)硫酸化グルクロノフカン分解活性測定方法
本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼは単独では硫酸化グルクロノフカンに作用してオリゴ糖を効率良く生成することができないが、組み合わせることにより硫酸化グルクロノフカンを分解し、効率よく低分子化させることができる。前記3種の酵素が共存した状態での硫酸化グルクロノフカンを分解する活性を、「硫酸化グルクロノフカン分解活性」と称し、下記の活性測定方法により数値化した。
すなわち、10μlの1%の粗硫酸化グルクロノフカン画分溶液と、52.5μlの50mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)と、5.5μlの4Mの塩化ナトリウムと、2μlの1Mの塩化カルシウムと、10μlの5mg/mlの牛血清アルブミンと、20μlの本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼが共存する酵素液とを混合し、30℃で3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後90μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼが共存する酵素液の代わりに、その酵素液を溶解している緩衝液を用いて反応させたもの及び粗硫酸化グルクロノフカン画分の代わりに水を用いて反応させたものを同様にHPLCで分析した。1単位の硫酸化グルクロノフカン分解活性は上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化グルクロノフカンのフコシル結合を切断する酵素量とした。切断されたフコシル結合の量は下記式により求めた。
数式1
{(10×1000×1/100)/MG}×{(MG/M)−1}×{1/(180×0.02)} = U/ml
10×1000×1/100:反応系中に添加した粗硫酸化グルクロノフカン画分(μg)
MG:基質硫酸化グルクロノフカンの平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)−1:1分子の硫酸化グルクロノフカンが酵素により切断された部位の数
180:反応時間(分)
0.02:酵素液量(ml)
なお、HPLC条件は下記によった。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−806HQ(8×300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出:視差屈折率検出器(Shodex RI−71、昭和電工社製)
流速:1ml/分
カラム温度:25℃
反応生成物の平均分子量の測定のために、市販の分子量既知のプルラン(STANDARD P−82、昭和電工社製)を上記のHPLC分析と同条件で分析し、プルランの分子量と保持時間との関係を曲線に表し、上記反応生成物の分子量測定のための標準曲線とした。また、蛋白質の定量は、酵素液の280nmの吸光度を測定することにより行った。その際1mg/mlの蛋白質溶液の吸光度を1.0として計算した。
【0030】
実施例1
フコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234株を参考例1(1)の方法で調製したオキナワモズク由来粗硫酸化グルクロノフカン画分0.2%とペプトン1%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー社製)pH8.0からなる培地50mlを120℃、20分間オートクレーブ処理した培地に接種し、24℃で72時間培養して種培養液とした。参考例1(1)の方法で調製したオキナワモズク由来の粗硫酸化グルクロノフカン画分0.2%、ペプトン1%、及び消泡剤(KM70、信越化学工業製)を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー製)pH8.0からなる培地600mlを2リットルの三角フラスコに入れ、115℃、10分間オートクレーブ処理した培地を7本用意し、上記の種培養液を各三角フラスコに5mlずつ接種し、毎分90回転の回転速度で、24℃で72時間培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体及び培養上清を得た。
得られた菌体は、250mlの100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離して上清を得た。得られた上清を同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離して上清を粗酵素液とした。
得られた粗酵素液は、同じ緩衝液で平衡化した300mlのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMから400mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。この様にして部分精製酵素液を得た。なお、上記の培養上清と粗酵素液に含まれる、「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を測定した結果、いずれにおいても活性が確認され、菌体抽出液中には培地1mlあたり0.4mUの活性が検出された。
【0031】
実施例2
(1)参考例1(1)記載の粗硫酸化グルクロノフカン画分に実施例1記載の粗酵素液を作用させ本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を調製した。すなわち、5gの粗硫酸化グルクロノフカン画分を1リットルの250mMの塩化ナトリウム及び20mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)に溶解後、35mUの実施例1記載の粗酵素液を加え、30℃で6日間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清を排除分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過装置を用いて、分子量1万以下のオリゴ糖画分を回収し、硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分1とした。
(2)実施例2(1)で得られた硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分1を脱塩装置(マイクロアシライザーG3、旭化成工業製)により脱塩した。脱塩した硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分1に5mMとなるようにイミダゾールを、20mMとなるように塩化ナトリウムを添加し、あらかじめ20mMの塩化ナトリウムを含む5mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した1リットルのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で充分洗浄後、20mMから600mMの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。溶出させたフラクションは総て、総糖量をフェノール−硫酸法で、総ウロン酸量をカルバゾール−硫酸法で測定した。その結果、溶出フラクションの中には少なくとも8個の明瞭なピークが存在していたのでそれぞれのピーク部分を集めオリゴ糖1−(1)〜(8)とし、それぞれをエバポレーターにより40mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化させたセルロファインGCL−25のカラムにかけ、10%のエタノールで溶出して脱塩した。こうして本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)〜(8)、すなわち、オリゴ糖1−(1)〜(8)を得た。
(3)実施例2(2)で得られたオリゴ糖1−(1)〜(8)について、2−アミノピリジンを用いた蛍光標識法による還元末端糖及び糖組成の分析、さらにUFC測定試薬Takara(宝酒造)を用いてフコースの絶対配置の決定を行ったところ、オリゴ糖1−(1)〜(8)の還元性末端糖は総てL−フコースであった。また、糖組成は、オリゴ糖1−(1)はフコースのみでオリゴ糖1−(2)〜(8)はフコースとグルクロン酸からなるものであった。次に、硫酸含量(塩化バリウムを用いた比濁法による)、ウロン酸含量(カルバゾール−硫酸法による)を測定し、質量分析装置(API−III、パーキンエルマー・サイエクス社製)により質量を分析した。また、JNM−α500型核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用いてNMR分析を行った。分析試料は定法により重水で置換後、構造解析を行った。構成糖の結合様式は、1H−検出異種核検出法であるHMBC法を用いて行った。1H−NMRの帰属にはDQF−COSY法及びHOHAHA法を13C−NMRの帰属にはHSQC法を用いた。以下にオリゴ糖1−(1)〜(8)の物性を示す。
(a)オリゴ糖1−(1)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)の1H−NMRスペクトルを図7に、13C−NMRスペクトルを図8に、マススペクトルを図9にそれぞれ示した。図7、図8において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図9において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;762
MS m/z 380.2[M−2H+2-
1H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

糖組成 L−フコースのみ(4分子)
硫酸基 2分子
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(IV)の通りである。
【化9】

(b)オリゴ糖1−(2)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(2)のマススペクトルを図10に示した。図10において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;1456
MS m/z 484.6[M−3H+3-
糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸 =7:1
硫酸基 3分子
(c)オリゴ糖1−(3)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)の1H−NMRスペクトルを図11に、13C−NMRスペクトルを図12に、マススペクトルを図13にそれぞれ示した。図11、図12において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図13において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;1682
MS m/z 873.4[M+3Na+−5H+2-、862.4[M+2Na+−4H+2-、574.4[M+2Na+−5H+3-、567.2[M+Na+−4H+3-、425.2[M+Na+−5H+4-、419.8[M−4H+4-
1H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】


糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=8:1
硫酸基 4分子
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(V)の通りである。
【化10】

(d)オリゴ糖1−(4)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(4)のマススペクトルを図14に示した。図14において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;2376
MS m/z 598.8[M+Na+−5H+4-、474.6[M−5H+5-
糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸 =11:2
硫酸基 5分子
(e)オリゴ糖1−(5)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(5)のの1H−NMRスペクトルを図15に、13C−NMRスペクトルを図16に、マススペクトルを図17にそれぞれ示した。図15、図16において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図17において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;2602
MS m/z 666.4[M+3Na+−7H+4-、661.0[M+2Na+−6H+4-、524.0[M+Na+−6H+5-、433.0[M−6H+6-
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表3に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【表6】

糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=12:2
硫酸基 6分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(XI)の通りである。
【化11】

【化12】

なお、以下、本物質を12Fuc−6S−2GlcUAと称す。
(f)オリゴ糖1−(6)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(6)のマススペクトルを図18にそれぞれ示した。図18において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;3296
MS m/z 840.0[M+3Na+−7H+4-、672.0[M+3Na+−8H+5-、556.0[M+2Na+−8H+6-、473.2[M+Na+−8H+7-
糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=15:3
硫酸基 7分子
(g)オリゴ糖1−(7)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(7)のの1H−NMRスペクトルを図19に、13C−NMRスペクトルを図20に、マススペクトルを図21にそれぞれ示した。図19、図20において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図21において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;3522
MS m/z 896.6[M+3Na+−7H+4-、712.6[M+2Na+−7H+5-、597.2[M+3Na+−9H+6-、505.4[M+Na+−8H+7-、439.6[M−8H+8-
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表4に示す。
【0037】
【表7】

【0038】
【表8】

【0039】
【表9】

【0040】
【表10】


糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸 =16:3
硫酸基 8分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(XII)の通りである。
【化13】

【化14】

なお、以下、16Fuc−8S−3GlcUAと称す。
(h)オリゴ糖1−(8)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(8)のマススペクトルを図22にそれぞれ示した。図22において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;4216
MS m/z 1092.0[M+7Na+−11H+4-、869.0[M+6Na+−11H+5-、713.0[M+3Na+−9H+6-、611.0[M+3Na+−10H+7-、529.2[M+Na+−9H+8-、470.2[M+Na+−10H+9-
糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=19:4
硫酸基 9分子
【0041】
実施例3
(1)参考例1(1)記載の粗硫酸化グルクロノフカン画分に実施例1記載の部分精製酵素液を作用させ本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を調製した。すなわち、3gの粗硫酸化グルクロノフカン画分を1リットルの250mMの塩化ナトリウム、20mMの塩化カルシウム、及び1gの牛血清アルブミンを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)に溶解後、29mUの実施例1記載の部分精製酵素を加え、30℃で3日間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清を排除分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過装置を用いて、分子量1万以下のオリゴ糖画分を回収し、硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分2とした。
(2)実施例3(1)で得られた硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分2を脱塩装置(マイクロアシライザーG3、旭化成工業製)により脱塩した。脱塩した硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分2に5mMとなるようにイミダゾールを、10mMとなるように塩化ナトリウムを添加し、あらかじめ10mMの塩化ナトリウムを含む5mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した1リットルのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で充分洗浄後、10mMから600mMの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。溶出させたフラクションは総て、総糖量をフェノール−硫酸法で、総ウロン酸量をカルバゾール−硫酸法で測定した。その結果、溶出フラクションの中には少なくとも5個の明瞭なピークが存在していたのでそれぞれのピーク部分を集め、オリゴ糖2−(1)〜(5)とし、それぞれをエバポレーターにより40mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化させたセルロファインGCL−25のカラムにかけ、10%のエタノールで溶出して脱塩した。こうしてオリゴ糖2−(1)〜(5)を得た。
(3)オリゴ糖の構造解析
実施例3(2)で得られたオリゴ糖2−(1)〜(5)の脱塩物について、2−アミノピリジンを用いた蛍光標識法により還元末端糖及び糖組成の分析を行ったところ、総てのオリゴ糖の還元性末端糖はL−フコースであった。また、糖組成は、オリゴ糖2−(1)はフコースのみでオリゴ糖2−(2)〜(5)はフコースとグルクロン酸からなるものであった。次に、硫酸含量(塩化バリウムを用いた比濁法による)、ウロン酸含量(カルバゾール−硫酸法による)を測定し、質量分析装置(API−III、パーキンエルマー・サイエクス社製)により質量を分析した。また、JNM−α500型核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用いてNMR分析を行った。分析試料は定法により重水で置換後、構造解析を行った。構成糖の結合様式は、1H−検出異種核検出法であるHMBC法を用いて行った。1H−NMRの帰属にはDQF−COSY法及びHOHAHA法を13C−NMRの帰属にはHSQC法を用いた。
以下にオリゴ糖2−(1)〜(5)の物性を示す。
(a)オリゴ糖2−(1)の物性
上記分析の結果、本物質はオリゴ糖1−(1)と同じ物質であることが判明した。
(b)オリゴ糖2−(2)の物性
上記分析の結果本物質はオリゴ糖1−(3)と同じ物質であることが判明した。
(c)オリゴ糖2−(3)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(3)の1H−NMRスペクトルを図23に、13C−NMRスペクトルを図24に、マススペクトルを図25にそれぞれ示した。図23、図24において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図25において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;1536
MS m/z 800.2[M+3Na+−5H+2-、789.2[M+2Na+−4H+2-、526.0[M+2Na+−5H+3-、518.6[M+Na+−4H+3-、388.8[M+Na+−5H+4-、383.2[M−4H+4-
1H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表5に示す。
【0042】
【表11】

【0043】
【表11】


糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=7:1
硫酸基 4分子
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(VI)の通りである。
【化15】

(d)オリゴ糖2−(4)の物性
上記分析の結果本物質はオリゴ糖1−(5)と同じ物質であることが判明した。
(e)オリゴ糖2−(5)の物性
質量分析の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(5)の1H−NMRスペクトルを図26に、13C−NMRスペクトルを図27に、マススペクトルを図28にそれぞれ示した。図26、図27において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図28において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;2456
MS m/z 854.8[M+5Na+−8H+3-、847.2[M+4Na+−7H+3-、840.4[M+3Na+−6H+3-、635.4[M+4Na+−8H+4-、630.0[M+3Na+−7H+4-、624.4[M+2Na+−6H+4-、503.6[M+3Na+−8H+5-、499.4[M+2Na+−7H+5-、495.0[M+Na+−6H+5-、416.0[M+2Na+−8H+6-、412.4[M+Na+−7H+6-、408.8[M−6H+6-
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表6に示す。
【0044】
【表12】

【0045】
【表13】

【0046】
【表14】

糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=11:2
硫酸基 6分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(XIII)の通りである。
【化16】

【化17】

なお、以下、本物質を11Fuc−6S−2GlcUAと称す。
上記実施例2及び実施例3で得られた酵素反応生成物をみると、例えば、オリゴ糖1−(1)、1−(3)、1−(5)、1−(7)の間の質量の差は、フコース4分子と硫酸基2分子とグルクロン酸1分子の質量に相当する。オリゴ糖1−(2)、1−(4)、1−(6)、1−(8)の間の質量の差、オリゴ糖2−(1)、2−(2)、2−(4)の間の質量の差、オリゴ糖2−(3)と2−(5)の間の質量の差も同様である。このことから、実施例1で得られた粗酵素液及び部分精製酵素液には硫酸化グルクロノフカンの繰り返し単位、すなわち、フコース4分子と硫酸基2分子とグルクロン酸1分子単位((−3F−3(4S)F1−3(4S)F1−3(GU1−2)F1−)、但しα―L−フコースをF、硫酸基をS、α―D−グルクロン酸をGUと略する。)で切断する酵素が含まれていると考えられる。しかしながら、反応生成物の中にはフコース4分子と硫酸基2分子とグルクロン酸1分子からなるオリゴ糖はなく、その構造に近いものとして、フコース4分子と硫酸基2分子からなるオリゴ糖が生成している。すなわち、実施例1(1)で得られた粗酵素液及び部分精製酵素液は、少なくともグルクロニダーゼとフコシダーゼの混合物であることが示唆された。
【0047】
実施例4
(1)硫酸化グルクロノフカン セルロファインの調製
実施例1(1)で得られた部分精製酵素液中に含まれる酵素を分離するアフィニティー樹脂を調製するために、参考例1(1)に記載の粗硫酸化グルクロノフカン画分をアミノセルロファイン(生化学工業製)に固定化した。固定化の方法は、生化学工業の指示書に準じた。すなわち、1.5gの粗硫酸化グルクロノフカン画分を80mlの水に溶解後、塩酸でpHを4.5とし、50mlのアミノセルロファインと3gの1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩を加え、4℃で20時間攪拌し、ろ過後、水で充分洗浄して、硫酸化グルクロノフカン セルロファインを得た。
(2)硫酸化グルクロノフカン セルロファインによるα−Dグルクロニダーゼとエンド−α−L−フコシダーゼの分離
実施例1(1)で得られた部分精製酵素液を50mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で充分透析後、同じ緩衝液で平衡化した50mlの硫酸化グルクロノフカン セルロファインにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから1Mの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。溶出したフラクションの「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を測定したところ活性の回収率は約2%であったが、「硫酸化グルクロノフカン分解活性」が僅かに残った溶出画分と、硫酸化グルクロノフカン セルロファイン非吸着画分を混合すると「硫酸化グルクロノフカン分解活性」はほぼカラムにかけた活性と等しくなった。
上記非吸着画分は、単独では硫酸化グルクロノフカンを全く低分子化できないこと、及び僅かに「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を持つ溶出画分も単独では硫酸化グルクロノフカンを完全に低分子化できないことから非吸着画分と溶出画分はそれぞれ異なる作用により硫酸化グルクロノフカンを分解していること、そして、非吸着画分は、溶出画分があらかじめ硫酸化グルクロノフカンに作用してからでないと作用できないことも判明した。このことから、溶出画分は硫酸化グルクロノフカンの側鎖、すなわち、α−Dグルクロニル結合あるいは硫酸エステル結合などの硫酸化グルクロノフカンの分子量をあまり大きく変化させない部分を切断すること、非吸着画分は主鎖、すなわちα−L−フコシル結合を切断することが示唆された。
【0048】
実施例5
(1)2−アミノピリジンによる蛍光標識(PA化)法によるオリゴ糖の標識
実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分の作用機作を確認するために以下の実験を行った。
硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)〜(8)及び2−(3)及び2−(5)の乾燥物を各50nmoleとり、グライコタッグ及びグライコタッグ リージェント キット(共に宝酒造社製)を用いて還元性末端を2−アミノピリジンで蛍光標識(PA化)し、該オリゴ糖のPA化物を調製した。
(2)実施例5(1)記載の10種のオリゴ糖のPA化物に対する実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分の作用を下記の反応系により調べた。
反応系
50μl 50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)
23μl 水
5μl 4M 塩化ナトリウム
2μl 1M 塩化カルシウム
5μl 5mg/ml 牛血清アルブミン
10μl 2pmole/μl オリゴ糖のPA化物
5μl 水あるいは実施例4(2)記載の非吸着画分あるいは
実施例4(2)記載の溶出画分
上記全成分を混合後30℃で3時間反応させ、100℃で10分処理後遠心分離し、上清を下記の条件でHPLCにより分析し、各オリゴ糖のPA化物に対する作用を確認した。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−803(8×300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウム及び10%のジメチルスルホキシドを含む0.2Mの塩化ナトリウム
検出:蛍光検出器F−1150(日立製作所製)励起波長320nm、蛍光波長400nm
流速:1ml/分
カラム温度:50℃
上記分析の結果から判明した、各種硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖のPA化物に対する実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分の作用の有無及び作用前後のSB803カラムにおける保持時間を表7に示す。
【0049】
【表15】

表7に示したように実施例4(2)の非吸着画分は、上記総てのオリゴ糖のPA化物に対して作用できなかった。一方、実施例4(2)の溶出画分は硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)には作用できなかったが、その他の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用した。この結果より実施例4(2)の溶出画分は硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖のグルクロン酸を切断する酵素であることが強く示唆された。例えば、オリゴ糖1−(3)からフコースが1分子切断されるとオリゴ糖2−(3)が生成される。その際の保持時間の変化は8.94分から8.92分になると考えられる。オリゴ糖1−(3)に対する実施例4(2)の溶出画分の反応において、保持時間は8.94分から9.06分に変化した。従って、この反応はフコースを切断する反応ではないと考えられる。同様にオリゴ糖2−(5)と1−(4)及び2−(3)と1−(2)を比較することにより実施例4(2)の溶出画分の反応は硫酸エステルを切断する反応ではないことが考えられる。さらに、オリゴ糖1−(5)と1−(4)、1−(7)と1−(6)、及び1−(3)と1−(2)を比較することにより実施例4(2)の溶出画分の反応は、硫酸化フコースを切断する反応ではないことが示唆された。
(3)実施例4(2)記載の溶出画分がα−D−グルクロニダーゼ活性を持つことを確認するため、実施例2記載の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)に実施例4(2)記載の溶出画分を作用させ、その質量変化を分析した。まず、下記の反応系を構築した。
反応系
32.1ml 50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)
2.0ml 4M 塩化ナトリウム
0.8ml 1M 塩化カルシウム
4.0ml 5mg/ml 牛血清アルブミン
10mg 実施例2記載の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)
l.0ml 実施例4(2)記載の溶出画分
上記全成分を混合後30℃で5日間反応させ、脱塩のために、10%のエタノールで平衡化したセルロファインGCL−25のカラム(4×90cm)にかけ、1フラクションあたり9.1mlで分取し、分取したフラクションに対して総糖量(フェノール−硫酸法)及び総ウロン酸量(カルバゾール−硫酸法)を測定した。この結果フェノール−硫酸法による発色が強い陽性の画分はカルバゾール−硫酸法による発色が陰性であった。すなわち、グルクロン酸を含む硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)からグルクロン酸が切断されたことが強く示唆された。さらに、グルクロン酸が切断されたことを確認するため、フェノール−硫酸法による発色が強い陽性の画分の質量分析を行った。その結果、これらのフラクションには質量1506、すなわち硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)からグルクロン酸が切断された質量(1506)に一致する物質が存在した。なお、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)と一致する質量(1682)の物質は検出できなかったことより、脱グルクロン酸化反応は完全に進んだことが分かった。
以上の結果より、実施例4(2)記載の溶出画分にはα−D−グルクロニダーゼが存在することが判明した。硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)からグルクロン酸が切断された質量(1506)に一致する物質は、下記式(VII)の構造を持つと考えられた。
【化18】

なお、以下、本物質を8Fuc−4Sと称する。
そこで、実施例5(1)で得られた、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)のPA化物に対する本発明のα−D−グルクロニダーゼの至適反応条件を検討した。また、本発明のα−D−グルクロニダーゼの活性を求めるときは下記の反応系により活性を測定した。
反応系
50μl 100mMの塩化ナトリウムを含む50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)
21μl 水
4μl 1M 塩化カルシウム
10μl 3mg/ml 牛血清アルブミン
10μl 4pmole/μl 実施例5(1)で得られた、硫酸化グルクロノ
フカンオリゴ糖1−(3)のPA化物
5μl α−D−グルクロニダーゼ溶液
上記全成分を混合後22℃で3時間反応させ、100℃で10分間処理後遠心分離し、上清を下記の条件でHPLCにより分析した。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:L−カラム(4.6×250mm、(財)化学品検査協会製)
溶離液:0.3%のブタノールを含む50mM酢酸−トリエチルアミン緩衝液(pH5.0)
検出:蛍光検出器F−1150(日立製作所製)励起波長320nm、蛍光波長400nm
流速:1ml/分
カラム温度:40℃
1単位の本発明のα−D−グルクロニダーゼは上記反応系において1分間に1μmoleの実施例5(1)で得られた、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)のPA化物のグルクロニル結合を切断する酵素量とした。切断されたグルクロニル結合の量は下記式により求めた。
数式2
DGA/180×0.005=U/ml
DGA:切断された実施例5(1)で得られた、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)のPA化物の量(μmole)
180:反応時間(分)
0.005:酵素液量(ml)
(4)実施例5(3)記載の8Fuc−4Sの2−アミノピリジンによる蛍光標識(PA化)
実施例5(3)記載の8Fuc−4Sを50nmoleとり、グライコタッグ及びグライコタッグ リージェント キット(共に宝酒造社製)を用いて還元性末端を2−アミノピリジンで蛍光標識(PA化)し、該オリゴ糖のPA化物を調製した。以下本物質を8Fuc−4S−PAと称する。
(5)8Fuc−4S−PAを用いた実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分の作用検討
実施例5(4)記載の8Fuc−4S−PAに対する実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分の作用を下記の反応系により調べた。
反応系
50μl 50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)
23μl 水
5μl 4M 塩化ナトリウム
2μl 1M 塩化カルシウム
5μl 5mg/ml 牛血清アルブミン
10μl 2pmole/μl 8Fuc−4S−PA
5μl 水あるいは実施例4(2)記載の非吸着画分 あるいは
実施例4(2)記載の溶出画分
上記全成分を混合後30℃で3時間反応させ、100℃で10分間処理後遠心分離し、上清を実施例5(3)記載の条件でHPLCにより分析した。
上記分析の結果、実施例4(2)記載の非吸着画分は8Fuc−4S−PAを分解したが、実施例4(2)記載の溶出画分は8Fuc−4S−PAを分解しなかった。また、実施例4(2)記載の非吸着画分により、8Fuc−4S−PAを分解して得られた分解物は実施例5(1)で得られた、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)のPA化物と同じ溶出位置に溶出してきた。このことは、実施例2及び実施例3で硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)と同じ物質が大量に得られたことと矛盾しないものである。すなわち、実施例4(2)記載の非吸着画分は脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンや硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖などに作用するエンド−α−L−フコシダーゼであることが判明した。
この結果より、実施例4で調製した硫酸化グルクロノフカン セルロファインは本発明のα−D−グルクロニダーゼと本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを分離するのに有用な樹脂であることが判明した。
【0050】
(6)なお、8Fuc−4S−PAに対する本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの至適反応条件を検討した。また、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの活性を求めるときは下記の反応系により活性を測定した。
反応系
50μl 40mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.5)
23μl 水
2μl 1M 塩化カルシウム
10μl 3mg/ml 牛血清アルブミン
10μl 4pmole/μl 8Fuc−4S−PA
5μl エンド−α−L−フコシダーゼ溶液
反応は30℃で3時間行い、反応液の分析は上記と同様に行った。
1単位の本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは上記反応系において1分間に1μmolの8Fuc−4S−PAのフコシル結合をエンド的に切断する酵素量とした。切断されたフコシル結合の量は下記式により求めた。
数式3
DPA/180×0.005=U/ml
DPA:切断された8Fuc−4S−PAの量(μmole)
180:反応時間(分)
0.005:酵素液量(ml)
【0051】
実施例6
実施例4(2)記載の非吸着画分及び溶出画分をそれぞれ、あらかじめ100mMの塩化ナトリウム、10mMの塩化カルシウム、及び5mMのアジ化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したセファクリルS−200のカラム(4.4×100cm)でゲルろ過し、溶出液を13.5mlずつ分取した。溶出フラクションに対して、実施例4(2)記載の非吸着画分は実施例5(2)記載の方法で、基質には硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)のPA化物を用いて、実施例4(2)記載の溶出画分は実施例5(5)記載の方法でそれぞれ、本発明のα−D−グルクロニダーゼ及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの活性を測定した。上記ゲルろ過法にて測定した本発明のα−D−グルクロニダーゼの分子量は約12万〜18万、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの分子量は約15万〜20万であった。
【0052】
実施例7
参考例1(1)記載の粗硫酸化グルクロノフカン画分をDEAE−セルロファインA−800により精製した。すなわち、あらかじめ、50mMの塩化ナトリウムと10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した5リットルのDEAE−セルロファインA−800のカラムに同じ緩衝液に溶解させた5gの参考例1(1)記載の粗硫酸化グルクロノフカン画分をかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMの塩化ナトリウムと10%のエタノールを含む20mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄し、100mMから2Mまでの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。溶出画分は500mlずつ分画し、総糖量をフェノール−硫酸法により測定した。溶出塩濃度500mM付近に溶出してくる硫酸化グルクロノフカンの主成分と考えられる画分を集め、排除分子量10万のホロファイバーを装着させた限外ろ過装置により脱塩し、凍結乾燥させて、精製硫酸化グルクロノフカン画分0.9gを得た。上記の精製硫酸化グルクロノフカン画分のグルクロン酸含量の調整を検討した。まず、下記の反応系を構築した。
反応系
5ml 50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)
0.5ml 4M 塩化ナトリウム
0.5ml 1M 塩化カルシウム
0.25ml 5mg/ml 牛血清アルブミン
3.35ml 実施例4(2)記載の溶出画分
2.4ml 1.25%の精製硫酸化グルクロノフカン画分水溶液
上記全成分を混合後25℃で反応させ、経時的にサンプリングし、そのサンプルを充分透析して切断されたグルクロン酸を除去した。表8に透析後の各サンプル中に含まれるフコース量、グルクロン酸量、及びそれらの比率を記す。
【0053】
【表16】

上記結果より、実施例4(2)記載の溶出画分を用いれば硫酸化グルクロノフカンのグルクロン酸を切断除去することによりフコースとグルクロン酸の比率を調整できることが判明した。
【0054】
実施例8
(1)酵素反応におけるカルシウム塩濃度の影響
本発明の「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を測定する際に、反応系に含まれる塩化カルシウムの濃度を低下させると、活性の低下が認められた。そこで、本発明のα−D−グルクロニダーゼ及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼについても反応系に含まれる塩化カルシウムの濃度と相対活性の関係を調べた。その結果、両酵素とも塩化カルシウムにより活性化されることが判明した。なお、酢酸カルシウムによっても同様の活性化がみられた。
(2)酵素反応におけるたん白質の影響
本発明の「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を測定する際に、反応系から牛血清アルブミンを除去すると、活性の低下が認められた。そこで、本発明のα−D−グルクロニダーゼ及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼについても反応系に含まれる牛血清アルブミンの濃度と相対活性の関係を調べた。その結果、両酵素とも牛血清アルブミンにより活性化されることが判明した。なお、本発明のフコフィラス フコイダノリティカスSI−1234が生産する蛋白質によっても同様の活性化がみられた。
(3)酵素反応における塩化ナトリウムの影響
本発明の「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を測定する際に、反応系から塩化ナトリウムを除去すると活性の低下が認められた。そこで本発明のα−D−グルクロニダーゼ及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼについても反応系に含まれる塩化ナトリウムの濃度と相対活性の関係を調べた。その結果、両酵素とも低分子のオリゴ糖を基質にした時は、塩化ナトリウムにより活性化されないことが判明した。このことから、塩化ナトリウムは、酵素の基質が高分子の硫酸化グルクロノフカンの時に両酵素を活性化することが確認できた。
【0055】
実施例9
フコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234を参考例1(1)の方法で調製したオキナワモズク由来の粗硫酸化グルクロノフカン画分0.2%とペプトン1%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー社製)pH8.0からなる培地600mlを120℃、20分間オートクレーブ処理した培地に接種し、24℃で72時間培養して種培養液とした。ペプトン200g、及び消泡剤(KM70、信越化学工業製)を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー社製)pH8.0からなる培地18リットルを30リットル容のジャーファーメンターで、120℃、20分間オートクレーブ処理した培地に、参考例1(1)の方法で調製したオキナワモズク由来の粗硫酸化グルクロノフカン画分40gを2リットルの人工海水に溶解し、95℃、1時間処理したものを混合し、上記の種培養液を接種し、毎分125回転の回転速度で、24℃で72時間培養した。なお、培養中は培地のpHが7以上になるように自動制御した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体及び培養上清を得た。
上記方法のように、本培養の培地に添加する硫酸化グルクロノフカンに対する加熱温度が95℃程度である場合、120℃付近で加熱殺菌した場合と比べて、フコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234株による硫酸化グルクロノフカンの資化率が高く、単位培地量あたりの本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼとエンド−α−L−フコシダーゼの生産量が多いことが確認できた。
上記の培養で得られた菌体を1リットルの100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離し、得られた抽出液を同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離して本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼとエンド−α−L−フコシダーゼが共存する上清を得た。
得られた上清に含まれる、「硫酸化グルクロノフカン分解活性」を参考例1(2)記載の方法で、本発明のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの活性をそれぞれ実施例14、実施例5(3)及び実施例5(6)に記載の方法でそれぞれ測定した。その結果、「硫酸化グルクロノフカン分解活性」は培養液1mlあたり6mU、本発明のフコイダンデアセチラーゼは培養液1mlあたり1mU、本発明のα−D−グルクロニダーゼは培養液1mlあたり130μU、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼは培養液1mlあたり6μU生産されていることが確認できた。
【0056】
実施例10
(1)硫酸化グルクロノフカン画分について育毛効果を検討した。
生後2日齢の雄性C3H/Heマウスを母獣と一緒に日本SLC社から購入し、5日齢で実験に用いた。マウスを脱血致死させ、ハサミとピンセットを用いてヒゲを、皮下組織ごと採取した。さらに、Ogawaらの方法(J. Invest. Dermatol., 103: 306-309, 1994)に従い、顕微鏡下、シャーレの中でヒゲを毛包ごと分離した。一匹の左右より14〜16本のヒゲを採取した。次に、参考例1(1)記載のオキナワモズク由来の粗硫酸化グルクロノフカン画分をRPMI−1640培地に溶解し、所定濃度の20倍濃度液を調製し、培養系には20分の1量を加えた。対照群には同量の培地を加えた。ヒゲの培養は、組織培養用ディッシュ Falcon 3037(Becton Dickinson Labware社製)を用い、中央のウエルに0.7mlの20%FCS添加RPMI−1640培地を入れ、その上に滅菌したステンレスメッシュ(池田理化株式会社製)とレンズペーパー(ティーシーケース株式会社製)を敷いた。ヒゲはその上に載せて培養した。オキナワモズク由来の粗硫酸化グルクロノフカン画分は、予め培地の中に添加した。培養は35℃、5%CO2存在下で6日間行った。ヒゲの長さは、培養開始前と終了後に、顕微鏡下でカリパーを用いて0.1mmの位まで測定した。各サンプル濃度の一群について3〜5本のヒゲを用いて測定し、伸長した長さを平均±標準誤差で表示した。また、有意差検定はステューデントのt検定を行い、対照群に対してP値を求めた。その結果を表9に示す。
【0057】
【表17】

表9に示したように、オキナワモズク由来の硫酸化グルクロノフカン画分は、対照に比べて、マウスのヒゲを伸長させる効果があることを確認した。
【0058】
実施例11
(1)酵素の調製
実施例9の方法により調製したフコフィラス フコイダノリティカス SI−1234株の菌体抽出液を100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で充分透析し、遠心分離して上清、すなわち、本発明のα−D−グルクロニダーゼとエンド−α−L−フコシダーゼが共存する粗酵素液を得た。得られた粗酵素液を同じ緩衝液で平衡化した500mlのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMから400mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、一本あたり67mlで分取し、硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を集めた。得られた硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を分画分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により濃縮し、50mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で緩衝液を置換した。得られた酵素液を同じ緩衝液で平衡化した実施例4(1)に記載の50mlの硫酸化グルクロノフカン セルロファインのカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから600mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。分取は1本あたり10mlで行い、各画分の硫酸化グルクロノフカン分解活性を測定した。その結果、溶出画分には僅かに活性が検出されたが、非吸着画分には活性が見出されなかった。しかし、非吸着画分と溶出画分を混合すると硫酸化グルクロノフカン分解活性は、カラムにかけた活性とほぼ等しくなった。
非吸着画分を集め、限外ろ過機により100mlに濃縮し、非吸着画分濃縮液を得た。一方、溶出画分は、濃縮した非吸着画分を用いて硫酸化グルクロノフカン分解活性を測定し、その活性画分を限外ろ過機により200mlに濃縮して、溶出画分濃縮液を得た。これらの酵素を更に精製して硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の調製を試みた。まず、それぞれの画分の活性を測定するための反応系を構築した。
上記の非吸着画分及び溶出画分は単独では硫酸化グルクロノフカンに作用してオリゴ糖を効率良く生成することができないが、共存すると硫酸化グルクロノフカンを分解し、効率良く低分子化させることができる。両酵素が共存した状態での硫酸化グルクロノフカンを分解する活性を、下記の活性測定方法により数値化した。
非吸着画分の活性測定方法は、以下のようにして行った。すなわち、10μlの1%の粗硫酸化グルクロノフカン画分溶液と、53μlの50mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)と、5μlの4Mの塩化ナトリウムと、2μlの1Mの塩化カルシウムと、10μlの5mg/mlの牛血清アルブミンと、1μlの溶出画分濃縮液及び19μlの活性を測定する非吸着分由来酵素液とを混合し、30℃で3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後90μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、非吸着画分由来酵素液の代わりに、その酵素液を溶解している緩衝液を用いて反応させたもの及び粗硫酸化グルクロノフカン画分の代わりに水を用いて反応させたものを同様にHPLCで分析した。
【0059】
1単位の硫酸化グルクロノフカン分解活性は上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化グルクロノフカンのフコシル結合を切断する酵素量とした。切断されたフコシル結合の量は下記式により求めた。
数式4
{(10×1000×1/100)/MG}×{(MG/M)-1}×{1/(180×0.019)}=U/ml
10×1000×1/100:反応系中に添加した粗硫酸化グルクロノフカン画分(μg)
MG:対照反応液の硫酸化グルクロノフカンの平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)-1:1分子の硫酸化グルクロノフカンが酵素により切断された部位の数
180:反応時間(分)
0.019:酵素液量(ml)
なお、HPLC条件は下記によった。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−806HQ(8x300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出:視差屈折率検出器(Shodex RI−71、昭和電工社製)
流速:1ml/分
カラム温度:25℃
反応生成物の平均分子量の測定のために、市販の分子量既知のプルラン(STANDARD P−82、昭和電工社製)を上記のHPLC分析と同条件で分析し、プルランの分子量と保持時間との関係を曲線に表し、上記反応生成物の分子量測定のための標準曲線とした。
他方、溶出画分の活性測定は下記の様に行った。すなわち、10μlの1%の粗硫酸化グルクロノフカン画分溶液と、53μlの50mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)と、5μlの4Mの塩化ナトリウムと、2μlの1Mの塩化カルシウムと、10μlの5mg/mlの牛血清アルブミンと、19μlの非吸着画分濃縮液及び1μlの活性を測定する溶出画分由来酵素液とを混合し、30℃で3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後90μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、溶出画分由来酵素液の代わりに、その酵素液を溶解している緩衝液を用いて反応させたもの及び粗硫酸化グルクロノフカン画分の代わりに水を用いて反応させたものを同様にHPLCで分析した。
【0060】
1単位の硫酸化グルクロノフカン分解活性は上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化グルクロノフカンのフコシル結合を切断する酵素量とした。切断されたフコシル結合の量は下記式により求めた。
数式5
{(10×1000×1/100)/MG}×{(MG/M)-1}×{1/(180×0.001)}=U/ml
10×1000×1/100:反応系中に添加した粗硫酸化グルクロノフカン画分(μg)
MG:対照反応液の硫酸化グルクロノフカンの平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)-1:1分子の硫酸化グルクロノフカンが酵素により切断された部位の数
180:反応時間(分)
0.001:酵素液量(ml)
非吸着画分濃縮液の精製は、以下のようにして行った。すなわち、上記の非吸着画分濃縮液に4Mの塩化ナトリウムを加えて、250mMとし、同じ緩衝液で平衡化した30mlのフェニル−セルロファインのカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、250mMから0mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、その後、10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で、次に、10%のエタノールと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で溶出させ、一本あたり10mlで分取し、上記の方法により測定した硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を集めた。
得られた硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウム及び5mMのアジ化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)を溶離液とした、セファクリルS−200のカラム(4.4×100 cm)で分画した。1本あたり、13.5mlで分取し、上記の方法により測定した硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を、精製非吸着画分とした。
さらに、溶出画分濃縮液の精製は、以下のようにして行った。すなわち、上記の溶出画分濃縮液を分画分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過装置により、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で置換し、同じ緩衝液で平衡化した45mlのDEAE−セルロファインのカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMから400mMの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、一本あたり10mlで分取し、上記の方法により測定した硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を集めた。
得られた硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウム及び5mMのアジ化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)を溶離液とした、セファクリルS−200のカラム(4.4×100 cm)で分画した。1本あたり、13.5mlで分取し、上記の方法により測定した硫酸化グルクロノフカン分解活性画分を、精製溶出画分とした。
(2)硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の調製
上記の精製非吸着画分と精製溶出画分を用いて硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の調製を行った。
すなわち、10gの粗硫酸化グルクロノフカン画分を1リットルの250mMの塩化ナトリウム、20mMの塩化カルシウム、5mMのアジ化ナトリウム及び1gの牛血清アルブミンを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.6)に溶解後、100mUの精製溶出画分及び600mUの精製非吸着画分を加え、30℃で10日間反応させた。反応液を遠心分離し、得られた上清を排除分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過装置を用いて、分子量1万以下のオリゴ糖画分を回収し、硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分3とした。
(3)硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の精製
上記の硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分3を脱塩装置(マイクロアシライザー G3、旭化成工業製)により脱塩した。脱塩した硫酸化グルクロノフカン酵素消化物画分3に5mMとなるようにイミダゾールを、10mMとなるように塩化ナトリウムを添加し、あらかじめ10mMの塩化ナトリウムを含む5mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した1リットルのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で充分洗浄後、10mMから400mMの塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。溶出させたフラクションは総て、総糖量をフェノール−硫酸法で、総ウロン酸量をカルバゾール−硫酸法で測定した。その結果、溶出フラクションの中には少なくとも5個の明瞭なピークが存在していたのでそれぞれのピーク部分を集め、オリゴ糖3−(1)〜(5)とし、それぞれをエバポレーターにより40mlに濃縮後、あらかじめ10%のエタノールで平衡化させたセルロファインGCL−25のカラムにかけ、10%のエタノールで溶出して脱塩した。こうして本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(1)〜(5)、すなわち、オリゴ糖3−(1)〜(5)を得た。
(4)オリゴ糖の構造解析
得られた上記オリゴ糖3−(1)〜(5)の脱塩物について、2―アミノピリジンを用いた蛍光標識法により還元末端糖及び糖組成の分析を行ったところ、総てのオリゴ糖の還元性末端糖はフコースであった。また、糖組成は、オリゴ糖3―(2)はフコースのみでオリゴ糖3−(1)及び3−(3)〜(5)はフコースとグルクロン酸からなるものであった。次に、硫酸含量(塩化バリウムを用いた比濁法による)、ウロン酸含量(カルバゾール−硫酸法による)を測定し、質量分析装置(API−III、パーキンエルマー・サイエクス社製)により質量を分析した。また、JNM−α500型核磁気共鳴装置(日本電子社製)を用いてNMR分析を行った。分析試料は定法により重水で置換後、構造解析を行った。構成糖の結合様式は、H−検出異種核検出法であるHMBC法を用いて行った。H−NMRの帰属にはDQF−COSY法及びHOHAHA法を13C−NMRの帰属にはHSQC法を用いた。以下にオリゴ糖3−(2)〜(5)の物性を示す。
(a)オリゴ糖3−(2)の物性
上記分析の結果、本物質は前記オリゴ糖1−(1)と同じ物質であることが判明した。
(b)オリゴ糖3−(3)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(3)のH−NMRスペクトルを図29に、13C−NMRスペクトルを図30に、マススペクトルを図31にそれぞれ示した。図29、図30において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図31において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;1230
MS m/z 1273.4[M+2Na−3H、625.2[M+Na−3H2−、409.2[M−3H3−
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表10に示す。
【0061】
【表18】

【0062】
【表19】

糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=6:1
硫酸基 2分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(XIV)の通りである。
【化19】

なお、以下、本物質を6Fuc−2S−1GlcUAと称す。
(c)オリゴ糖3−(4)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(4)のH−NMRスペクトルを図32に、13C−NMRスペクトルを図33に、マススペクトルを図34にそれぞれ示す。図32及び図33において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図34において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;1724
MS m/z 894.1[M+3Na−5H2−、588.7[M+2Na−5H3−、435.6[M+Na−5H4−
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表11に示す。
【0063】
【表20】

【0064】
【表21】

糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=8:1
硫酸基 4分子
アセチル基 1分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(IX)の通りである。
【化20】

なお、以下、本物質を8Fuc−4S−1GlcUA―1アセチルと称す。
(d)オリゴ糖3−(5)の物性
質量分析及びNMR分析の帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(5)のH−NMRスペクトルを図35に、13C−NMRスペクトルを図36に、マススペクトルを図37にそれぞれ示した。図35及び図36において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。また、図37において、縦軸は相対強度(%)を、横軸は、m/z値を示す。
分子量;2689
MS m/z 924.0[M+4Na−7H3−、687.3[M+3Na−7H4−、545.3[M+2Na−7H5−、450.5[M+Na−7H6−
H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表12に示す。
【0065】
【表22】

【0066】
【表23】

【0067】
【表24】

糖組成 L−フコース:D−グルクロン酸=12:2
硫酸基 6分子
アセチル基 2分子
なお、H−NMR及び13C−NMRにおけるピークの帰属の番号は下記式(X)の通りである。
【化21】

【化22】

なお、以下、本物質を12Fuc−6S−2GlcUA−2アセチルと称す。
【0068】
実施例12
(1)α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼの精製
実施例9の方法によりフコフィラス フコイダノリティカス SI−1234株を3回培養し、それぞれの培養で得られた菌体から、実施例9の方法により菌体抽出液を調製し100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で充分透析し、遠心分離して上清、すなわち、本発明のα−D−グルクロニダーゼとエンド−α−L−フコシダーゼが共存する粗酵素液を得た。以下、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性を実施例5(3)記載の方法により、本発明のエンド−α−L−フコシダーゼ活性を実施例5(6)記載の方法により測定することによりそれぞれの酵素を精製した。
得られた粗酵素液を同じ緩衝液で平衡化した3LのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMから400mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、一本あたり200mlで分取し、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を集めた。この時点では本発明の両酵素はほとんど同じ挙動を示し分離されなかった。
上記の両酵素活性画分を分画分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により濃縮し、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で緩衝液を置換した。
得られた酵素液を同じ緩衝液で平衡化した240mlのDEAE−セルロファインA−800のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、100mMから300mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。分取は1本あたり25mlで行い、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を集めた。この時点では本発明の両酵素はほとんど同じ挙動を示し分離されなかった。
上記の両酵素活性画分を分画分子量1万のホロファイバーを装着させた限外ろ過機により濃縮し、50mMの塩化ナトリウムと5mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で緩衝液を置換した。
得られた酵素液を同じ緩衝液で平衡化した50mlの硫酸化−セルロファイン(生化学工業製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから1M塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。分取は1本あたり50mlで行い、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分及び本発明のエンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を集めた。ここで、両酵素が完全に分離したので、以下それぞれの酵素を別々に精製した。
(2)エンド−α−L−フコシダーゼの精製
上記(1)で得られたエンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を分画分子量1万の限外ろ過膜を用いて濃縮し、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムと5mMのアジ化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したセファクリルS−200のカラム(4.4×100cm)にかけ、同じ緩衝液で溶出させた。分取は1本あたり13.3mlで行い、エンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を集めた。
得られたエンド−α−L−フコシダーゼ活性画分を、10mMの塩化ナトリウムと5mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)とエタノールの混合比が85:15の緩衝液で平衡化したフェニル−セルロファインのカラム(2.4×44cm)にかけ、同じ緩衝液で溶出させた。分取は1本あたり30mlで行った。得られた活性画分はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動的に均一であった。このようにして本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの精製物を得た。
(3)α−D−グルクロニダーゼの精製
上記(1)で得られた本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分を分画分子量1万の限外ろ過膜を用いて濃縮し、100mMの塩化ナトリウムと10mMの塩化カルシウムと5mMのアジ化ナトリウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化したセファクリルS−200のカラム(4.4×100cm)にかけ、同じ緩衝液で溶出させた。分取は1本あたり13.3mlで行い、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分を集めた。
得られた本発明のα−D−グルクロニダーゼ画分を300mMの塩化ナトリウムと5mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液で充分透析し、同じ緩衝液で平衡化した20mlの硫酸化−セルロファインのカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、300mMから900mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。分取は1本あたり10mlで行い、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分を集めた。
得られた本発明のα−D−グルクロニダーゼ画分を200mMの塩化ナトリウムと5mMの塩化カルシウムを含む10mMのイミダゾール−塩酸緩衝液で充分透析し、同じ緩衝液で平衡化した20mlの硫酸化−セルロファインのカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、200mMから800mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させた。分取は1本あたり7mlで行い、本発明のα−D−グルクロニダーゼ活性画分を集めた。得られた活性画分はSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動的に均一であった。このようにして本発明のα−D−グルクロニダーゼの精製物を得た。
【0069】
実施例13
実施例12(2)で得られた本発明のエンド−α−L−フコシダーゼの精製物及び実施例12(3)で得られた本発明のα−D−グルクロニダーゼの精製物を用いて硫酸化グルクロノフカンの低分子化を試みた。まず、硫酸化グルクロノフカンの分解に及ぼすアセチル基の影響を調べるために脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの調製を行った。
(1)脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの調製
参考例1(1)の方法により調製した硫酸化グルクロノフカン200mgを20mlの1N水酸化ナトリウムに溶解し25℃で20時間処理し、次に200mMの塩化ナトリウムと50mMの塩化カルシウムを含む20mMのイミダゾール塩酸緩衝液(pH6.6)で充分透析し脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンを得た。
(2)各基質の分解
参考例1(1)の方法により調製した硫酸化グルクロノフカン及び上記(1)の方法により調製した脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンに対し、200mgあたり本発明のα−D−グルクロニダーゼを150μUと本発明のエンド−α−L−フコシダーゼを1mU添加し25℃で分解反応を行った。なお、これらの反応液の各成分の最終濃度は、硫酸化グルクロノフカン6.7mg/ml、牛血清アルブミン0.1mg/ml、塩化ナトリウム200mM、塩化カルシウム50mM、イミダゾール20mMで、pHは6.6に調整した。この結果、反応開始時は硫酸化グルクロノフカンと脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの分子量はほぼ同じであったが、2日反応後の平均分子量は硫酸化グルクロノフカンでは、約195万、脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンでは、約27,000であった。
すなわち、本発明のα−D−グルクロニダーゼと本発明のエンド−α−L−フコシダーゼにより、硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を効率良く得るには、脱アセチル化が必要であることが確認できた。また、実施例1に記載の粗酵素及び部分精製酵素を硫酸化グルクロノフカンに作用させると、得られたオリゴ糖にはほとんどアセチル基がついていないこと、実施例11(1)記載の精製非吸着画分と精製溶出画分を硫酸化グルクロノフカンに作用させると、アセチル基がついたオリゴ糖が生成することから、本発明のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株は硫酸化グルクロノフカンのアセチル基を遊離させるフコイダンデアセチラーゼを生産することが推定された。
【0070】
実施例14
フコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株が生産する硫酸化グルクロノフカンのアセチル基を遊離させるフコイダンデアセチラーゼについて検討した。
(1)フコイダンデアセチラーゼの精製
まず、実施例11(1)の方法により調製した本発明のフコフィラス フコイダノリィティカスSI−1234株の粗酵素溶液に存在するフコイダンデアセチラーゼの活性を測定する反応系を確立した。
すなわち、100μlの50mMイミダゾール塩酸緩衝液(pH7.5)と10μlの4M塩化ナトリウムと1μlの1M塩化カルシウムと40μlの1%硫酸化グルクロノフカンと29μlの水に、20μlのフコイダンデアセチラーゼ溶液を加え、30℃で3時間反応させ、遊離してくるアセチル基の量を市販の酢酸定量用キット(F−キット酢酸、ロシュ・ダイアグノスティックス製)により測定した。その結果、培養液1mlあたりの本発明のフコイダンデアセチラーゼの活性は約2mUであった。
また別法として、オリゴ糖3−(4)の還元性末端を2−アミノピリジンで蛍光標識したものを基質に用いて以下の反応系でフコイダンデアセチラーゼの活性を測定した。
反応系
75μl 50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)
28.5μl 水
9μl 4M 塩化ナトリウム
15μl 3mg/ml 牛血清アルブミン
15μl 4pmole/μl オリゴ糖3−(4)の蛍光標識物
7.5μl フコイダンデアセチラーゼ溶液
上記全成分を混合後30℃で1時間反応させ、100℃で10分処理後遠心分離し、上清を下記の条件でHPLCにより分析し脱アセチル化量を測定した。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:L−カラム(4.6x250mm、(財)化学品検査協会製)
溶離液:0.5%のブタノールを含む50mM酢酸−トリエチルアミン緩衝液(pH5.0)
検出:蛍光検出器F−1150(日立製作所製)励起波長320nm、蛍光波長400nm
流速:1ml/分
カラム温度:40℃
【0071】
1単位の本発明のフコイダンデアセチラーゼは上記反応系において1分間に1μmoleのアセチル基を切断する酵素量とした。なお、上記の反応系において基質のアセチル基が切断されると実施例5(1)で得られた硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)のPA化物と同じ構造になるので、アセチル基が切断された基質のカラム保持時間を確認するために該PA化物を使用した。切断されたアセチル基の量は下記式により求めた。
数式6
DA/60×0.015 = U/ml
DA:切断されたアセチル基の量(μmole)
60:反応時間(分)
0.015:酵素液量(ml)
上記の方法により測定した場合、培養液1mlあたりの本発明のフコイダンデアセチラーゼの活性は0.8mU/mlであった。
上記の粗酵素溶液50mlを、100mM塩化ナトリウム、10mM塩化カルシウム、及び5mMアジ化ナトリウムを含む10mMイミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)で平衡化させたセファクリルS−200のカラム(4.4×100cm)にかけ、同じ緩衝液で溶出させた。一本あたり13mlで分取し、各フラクションに含まれる本発明のフコイダンデアセチラーゼの活性を上記の方法により測定した。溶出液量から算出した本発明のフコイダンデアセチラーゼの分子量は約3万〜5万であった。
上記の活性画分を集め、本発明のフコイダンデアセチラーゼの性質を調べた。その結果を図1〜図2に示す。即ち、図1は至適pH、図2は至適温度を示す。
図1に示したように、本発明のフコイダンデアセチラーゼの至適pHは、約6〜9.1の範囲、至適温度は23〜45℃の範囲であった。
(2)フコイダンデアセチラーゼを用いた各種フコイダンからの脱アセチル反応
下記の反応系を構築し、種々のフコイダンに含まれるアセチル基の量を測定した。
反応には下記表13に示す海藻由来のフコイダンを用いた。
反応系
60μl 1%フコイダン
50μl 100mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.5
10μl 4M塩化ナトリウム
20μl 3mg/ml 牛血清アルブミン
30μl 水
30μl フコイダンデアセチラーゼ
上記全成分を混合後30℃で21時間反応させ、生成した酢酸の量を上記の酢酸定量キットにより測定した。また、各フコイダンを1Nの水酸化ナトリウム中で25℃、18時間処理して、生成した酢酸の量を上記の酢酸定量キットにより測定した。その結果を表13に示す。
【0072】
【表25】

mg・アセチル基/g・フコイダン
n.d.; not detected
表13に示したように、本発明のフコイダンデアセチラーゼは種々の海藻由来のフコイダンに作用してアセチル基を加水分解する酵素であることが確認できた。また、水酸化ナトリウムを用いて非特異的に脱アセチル化した場合と比較することにより本発明のフコイダンデアセチラーゼが、オキナワモズク由来のフコイダンすなわち硫酸化グルクロノフカンのアセチル基に対する特異性が高いことが確認できた。
【0073】
実施例15
(1)本発明の硫酸化グルクロノフカンの主要構造の解析
実施例7で調製した精製硫酸化グルクロノフカン画分の全構造及び硫酸化グルクロノフカン分解酵素の切断部位を決定するために、NMR分析を行なった。NMRの帰属の結果を以下に示し、本発明の硫酸化グルクロノフカンのH−NMRスペクトルを図38に、13C−NMRスペクトルを図39にそれぞれ示す。図38及び図39において縦軸はシグナルの強度を、横軸は化学シフト値(ppm)を示す。さらに、赤外吸収スペクトルを図40に示す。図40において、縦軸は透過率(%)を、横軸は波数(cm―1)を示す。H−NMR及び13C−NMRによる分析結果を表14に示す。
【0074】
【表26】

表14に示した帰属より、本発明の硫酸化グルクロノフカンは、下記式(仮XV)に示すようにF1のフコースがα結合で別の繰り返し5糖のF4のフコースの3位に結合したものであった。また、アセチル基は、繰り返し5糖あたり1残基が主にF1のフコースの4位に結合していることが確認できた。すなわち硫酸化グルクロノフカンは、下記に示す主骨格の繰り返し構造を有することが判明した。
【化23】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により硫酸化グルクロノフカンの構造解析や硫酸化グルクロノフカンの低分子化物の再現性よい製造に用いることができる新規のフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及びエンド−α−L−フコシダーゼが提供される。また、該酵素の製造方法も提供される。また、該酵素を使用することにより糖鎖工学用試薬として有用な様々な割合で脱アセチル化された脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン、様々な割合で脱グルクロン酸化された脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖が提供される。また、該酵素を効率良く使用するための添加物が提供される。また、様々な褐藻類由来の硫酸化多糖分解酵素を生産する微生物も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明により得られるフコイダンデアセチラーゼのpHと相対活性
【図2】本発明により得られるフコイダンデアセチラーゼの温度(℃)と相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図3】本発明により得られるα−D−グルクロニダーゼのpHと相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図4】本発明により得られるα−D−グルクロニダーゼの温度(℃)と相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図5】本発明により得られるエンド−α−L−フコシダーゼのpHと相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図6】本発明により得られるエンド−α−L−フコシダーゼの温度(℃)と相対活性(%)の関係を表すグラフである。
【図7】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(1)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図10】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(2)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図11】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図12】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図13】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(3)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図14】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンフカンオリゴ糖1−(4)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図15】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(5)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図16】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(5)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図17】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンフカンオリゴ糖1−(5)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図18】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(6)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図19】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(7)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図20】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(7)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図21】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(7)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図22】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖1−(8)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図23】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(3)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図24】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(3)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図25】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(3)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図26】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(5)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図27】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖2−(5)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図28】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカン低分子化物であるオリゴ糖2−(5)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図29】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(3)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図30】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(3)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図31】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカン低分子化物であるオリゴ糖3−(3)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図32】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(4)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図33】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(4)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図34】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカン低分子化物であるオリゴ糖3−(4)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【図35】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(5)の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図36】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖3−(5)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図37】本発明により得られる硫酸化グルクロノフカン低分子化物であるオリゴ糖3−(5)の質量分析(マス)スペクトルを示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0077】
SEQ ID NO:1: Designed oligonucleotide primer to amplify 16S rDNA region.
SEQ ID NO:2: Designed oligonucleotide primer to amplify 16S rDNA region.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の理化学的性質を有することを特徴とするエンド−α−L−フコシダーゼ:
(I)脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用してα−L−フコシル結合をエンド的に加水分解し、還元性末端にL−フコースを持つオリゴ糖を生成させる;
(II)4.5〜7.5の範囲に至適pHを有する;
(III)23〜42℃の範囲に至適温度を有する。
【請求項2】
エンド−α−L−フコシダーゼ生産能を有する微生物を培養し、その培養物から該酵素を採取することを特徴とする請求項1記載のエンド−α−L−フコシダーゼの製造方法。
【請求項3】
硫酸化グルクロノフカンにフコイダンデアセチラーゼ、α−D−グルクロニダーゼ及び請求項1のエンド−α−L−フコシダーゼを作用させて硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を採取することを特徴とする硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
アルカリ処理により脱アセチル化した硫酸化グルクロノフカンにα−D−グルクロニダーゼ及び請求項1記載のエンド−α−L−フコシダーゼを作用させて硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖を採取することを特徴とする硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
塩化ナトリウム、カルシウム塩及び/又は蛋白質の共存下で行うことを特徴とする請求項3又は4記載の硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
下記の理化学的性質を有することを特徴とするフコイダンデアセチラーゼ:
(I)硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用して、アセチル基を加水分解し、酢酸を遊離させる;
(II)6〜9.1の範囲に至適pHを有する;
(III)23〜45℃の範囲に至適温度を有する。
【請求項7】
フコイダンデアセチラーゼ生産能を有する微生物を培養し、その培養物から該酵素を採取することを特徴とする請求項6記載のフコイダンデアセチラーゼの製造方法。
【請求項8】
硫酸化グルクロノフカンに請求項6記載のフコイダンデアセチラーゼを作用させて少なくとも1分子以上のアセチル基を除去した脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンを採取することを特徴とする脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法により得られる脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン又はその塩。
【請求項10】
下記の理化学的性質を有することを特徴とするα−D−グルクロニダーゼ:
(I)脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン及び硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖に作用して、α−D−グルクロニル結合を加水分解し、D−グルクロン酸を遊離させる;
(II)5.8〜7.8の範囲に至適pHを有する;
(III)14〜29℃の範囲に至適温度を有する。
【請求項11】
α−D−グルクロニダーゼ生産能を有する微生物を培養し、その培養物から該酵素を採取することを特徴とする請求項10記載のα−D−グルクロニダーゼの製造方法。
【請求項12】
脱アセチル化硫酸化グルクロノフカンに請求項10記載のα−D−グルクロニダーゼを作用させて少なくとも1分子以上のグルクロン酸残基を除去した脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンを採取することを特徴とする脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンの製造方法。
【請求項13】
塩化ナトリウム、カルシウム塩及び/又は蛋白質の共存下で脱グルクロン酸化を行うことを特徴とする請求項12記載の脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカンの製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13記載の方法により得られる脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン又はその塩。
【請求項15】
褐藻類由来の複数の硫酸化多糖を資化する能力を持つフコフィラス属細菌。
【請求項16】
電子伝達鎖にメナキノンを有し、GC含有量が50%である請求項15記載のフコフィラス属細菌。
【請求項17】
配列表の配列番号3記載の16S リボソーマルDNAの塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列を有する16S リボソーマルDNAを含む請求項15記載のフコフィラス属細菌。
【請求項18】
細菌がフコフィラス フコイダノリィティカス SI−1234株(FERM P−17517)である請求項15記載のフコフィラス属細菌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2009−50271(P2009−50271A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262483(P2008−262483)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【分割の表示】特願2001−578631(P2001−578631)の分割
【原出願日】平成13年4月19日(2001.4.19)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】