説明

硬化性シリコーンゴム組成物及び半導体装置

【課題】 PPA等の熱可塑性プラスチック及び金属電極に対して十分な接着強度を与え、かつ透明性を有する硬化物を与える硬化性シリコーンゴム組成物、及びこの組成物の硬化物により封止された半導体装置を提供する。
【解決手段】 (A)一分子中に2個以上のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン、(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)金属系縮合反応触媒、(D)白金族金属系付加反応触媒、及び(E)接着付与成分を含み、(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.03以下であることを特徴とする硬化性シリコーンゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型のシリコーンゴム組成物に関するものであり、特にPPA(ポリフタル酸アミド樹脂)、液晶ポリマー(LCP)等の熱可塑性プラスチック、及び銀、金等の電極貴金属等に接着が良好な硬化性シリコーンゴム組成物、及びその硬化物で封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム組成物は、耐候性、耐熱性等の特性や、硬度、伸び等のゴム的性質に優れた硬化物を形成することから、種々の用途に使用されている。
【0003】
近年、耐熱性に優れた熱可塑性プラスチックとして、PPA(ポリフタル酸アミド樹脂)、LCP(液晶ポリマー)等が各種パッケージの材料として検討されており、またフレーム及び電極としてAg、Au、Ni、Pd等の金属が使われている。しかし、シリコーンゴムをこれらに強固に接着するのは困難である。また、これらの材料を用いて形成した装置における半田条件は、鉛を含まない高温半田に変更されている。そのため、高温ストレスや温度サイクル、さらに高温高湿での保存により、パッケージと、シリコーン樹脂との界面で容易に剥離が発生するといった不具合が生じている。またLED(発光ダイオード)の発熱でシリコーン樹脂が劣化し硬くなりクラックが発生する問題が生じている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一般に、付加硬化型のシリコーンゴム組成物においては、各種シランカップリング剤の添加により接着の向上を図っているが、エポキシ基を多く含むカップリング剤は屈折率が高く、組成物の透明性を損なう。また、激しい反応を起こすと変色したり、濁ったりして、光用途等には不適である。特許文献2に記載の付加硬化型シリコーンゴム組成物は、Ag、Au、Ni、Pd等の金属との接着性は優れているが、耐変色性や耐光性の点で、光用途としての使用は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−174059号公報
【特許文献2】特開2007−002234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、接着が困難であるPPA(ポリフタル酸アミド樹脂)、LCP(液晶ポリマー)等の熱可塑性プラスチックからなる各種パッケージの材料や、Ag、Au、Ni、Pd等の金属からなる電極に対しても十分な接着強度を与え、かつ良好な透明性を有する硬化物を与える硬化性シリコーンゴム組成物、及びこの組成物の硬化物により封止された半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定のオルガノシロキサン成分間の屈折率の差が所定の値以下である硬化性シリコーンゴム組成物が、PPA、LCP等の熱可塑性プラスチックからなる各種パッケージの材料や、Ag、Au、Ni、Pd等の金属からなる電極等の、接着が困難である基材に対しても十分な接着強度を有し、透明性に優れた硬化物を形成し、該硬化物により封止された半導体装置は、信頼性に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、(A)下記一般式(1)で表され、25℃において10〜1,000,000mPa・sの粘度を有する直鎖状オルガノポリシロキサン(A−1)
【0009】
【化1】


(式中、R1は、互いに独立に、非置換もしくは置換一価炭化水素基、R2は、互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない非置換もしくは置換一価炭化水素基、x及びyはそれぞれ0又は正の整数であり、x+yはこのオルガノポリシロキサンの25℃の粘度を10〜1,000,000mPa・sとする数であり、pは1〜3の整数である。)、
または、
前記オルガノポリシロキサン(A−1)と、レジン構造のオルガノポリシロキサン(A−2)であって、SiO2単位、R3k4pSiO0.5単位及びR3q4rSiO0.5単位からなる(但し、上記式において、R3はビニル基又はアリル基、R4は脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基、kは2又は3、pは0又は1で、k+p=3、qは0又は1、rは2又は3で、q+r=3である。)オルガノポリシロキサンとの組み合わせ、
(B)一分子中にSiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)金属系縮合反応触媒、
(D)白金族金属系付加反応触媒、及び
(E)アルケニル基、アルコキシ基、及びエポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種含有するオルガノポリシロキサン接着付与成分を含有して成り、
(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.03以下であることを特徴とする硬化性シリコーンゴム組成物である。また、本発明は半導体チップをこの組成物の硬化物で封止した半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性シリコーンゴム組成物は、今まで非常に接着困難であったAg、PPA等の基板に対して有効な接着性を付与し、この組成物の硬化物により封止された半導体装置は、厳しい信頼性試験に耐え得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例における剪断接着力の測定方法を説明する概略斜視図である。
【図2】本発明の実施例における加湿リフロー試験に用いたパッケージ形状を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[(A−1)直鎖状オルガノポリシロキサン]
(A−1)成分は、25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・s、特に100〜100,000mPa・sが好ましい。該粘度は回転粘度計により測定することができる。この直鎖状オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表され、分子鎖両末端のケイ素原子上にビニル基を有する。なお、本発明の目的を阻害しない量の、分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有してもよい。
【0013】
【化2】


(式中、R1は、互いに独立に、非置換もしくは置換一価炭化水素基であり、R2は、互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない非置換もしくは置換一価炭化水素基であり、x及びyはそれぞれ0又は正の整数であり、x+yはこのオルガノポリシロキサンの25℃の粘度を10〜1,000,000mPa・sとする数であり、pは1〜3の整数である。)
【0014】
一般式(1)で、R1としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6の一価炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、及びシアノエチル基等が挙げられる。好ましくは、R1は、メチル基、フェニル基、またはビニル基である。
また、R2としても、炭素原子数1〜10、特に1〜6の一価炭化水素基が好ましく、上記R1の具体例と同様のもの、但しアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を除く、を例示することができる。R2としては、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0015】
(A−1)成分として、下記のものが例示される。
【0016】
【化3】

ここで、pは1または2、qは0〜3の整数であり、x及びyはそれぞれ、0<x+y≦2,000を満足する0以上の整数であり、好ましくは5≦x+y≦1,500、さらに好ましくは10≦x+y≦1,000であり、0≦y/(x+y)≦0.5、好ましくは0≦y/(x+y)≦0.35を満足する整数である。かかる(A−1)としては下記のものが例示される。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

x、yは上記したとおりである。
【0019】
[(A−2)レジン構造のオルガノポリシロキサン]
また、本発明においては、レジン構造のオルガノポリシロキサンを上記のオルガノポリシロキサンと併用して使用することができる。このレジン構造(即ち、三次元網状構造)のオルガノポリシロキサンは、SiO2単位、R3k4pSiO0.5単位及びR3q4rSiO0.5単位からなるレジン構造のオルガノポリシロキサン(但し、上記式において、R3はビニル基又はアリル基、R4は脂肪族不飽和結合を含まない非置換若しくは置換一価炭化水素基であり、kは2又は3、pは0又は1で、k+p=3、qは0又は1、rは2又は3で、q+r=3である。)である。なお、一価炭化水素基R4としては、上記R2と同様の炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが挙げられる。
【0020】
ここで、レジン構造のオルガノポリシロキサンは、SiO2単位をa単位、R3k4pSiO0.5単位をb単位、R3q4rSiO0.5単位をc単位とした場合、これら単位割合は、モル比として、
(b+c)/a=0.3〜2、特に0.7〜1.5
c/a=0.1〜2、特に0.2〜1.5
であることが好ましく、またこのオルガノポリシロキサンは、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量が500〜10,000の範囲であるものが好適である。
【0021】
なお、このレジン構造のオルガノポリシロキサンは、上記a単位、b単位、c単位に加えて、更に、二官能性シロキサン単位や三官能性シロキサン単位(即ち、オルガノシルセスキオキサン単位)を本発明の目的を損なわない範囲で少量含んでもよい。
【0022】
このようなレジン構造のオルガノポリシロキサンは、各単位源となる化合物を、上記モル割合となるように組み合わせ、例えば酸の存在下で共加水分解を行うことによって容易に合成することができる。
【0023】
ここで、前記a単位源としては、ケイ酸ソーダ、アルキルシリケート、ポリアルキルシリケート、四塩化ケイ素等を例示することができる。
【0024】
また、b単位源としては、下記の化合物を例示することができる。
【0025】
【化6】

【0026】
更に、c単位源としては、下記の化合物を例示することができる。
【0027】
【化7】

【0028】
上記レジン構造のオルガノポリシロキサン(A−2)は、硬化物の物理的強度及び表面のタック性を改善する効果を奏する。好ましくは(A)成分中(A−2)成分が、20〜70質量%の量で配合され、より好ましくは30〜60質量%の量で配合される。レジン構造のオルガノポリシロキサンの配合量が多すぎると組成物の粘度が著しく高くなったり、硬化物にクラックが発生し易くなる場合がある。
【0029】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、架橋剤として作用するものであり、該成分中のSiH基と(A)成分中のアルケニル基とが付加反応することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にSiH基を2個以上、好ましくは3個以上有する。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、特に下記平均組成式(2):
a(R5bSiO(4-a-b)/2 (2)
(式中、R5は脂肪族不飽和結合を含有しない同一もしくは異種の、非置換もしくは置換一価炭化水素基であり、aは、0.001≦a<2、bは0.7≦b≦2、かつ0.8≦a+b≦3を満たす数である。)
で表され、一分子中にSiH基を2個以上、好ましくは3個以上有するものが好適に用いられる。
【0030】
ここで、上記式(2)中のR5は、炭素原子数1〜10、特に炭素原子数1〜7の一価炭化水素基であることが好ましく、例えば、メチル基等の低級アルキル基、フェニル基等のアリール基等、前述の一般式(1)の置換基R2で例示したものが挙げられる。また、a及びbは、好ましくは0.05≦a≦1、0.8≦b≦2、かつ1≦a+b≦2.7となる数である。ケイ素原子に結合した水素原子の位置は特に制約はなく、分子の末端でも非末端でもよい。
【0031】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とから成る共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とから成る共重合体等が挙げられる。
【0032】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の例として、下記の直鎖状のものが挙げられる。
【0033】
【化8】

ここで、R5は上記のとおりであり、rは0又は1である。c及びdはそれぞれ、0≦c≦500、好ましくは0≦c≦200の整数、0≦d≦500、好ましくは0≦d≦200の整数であり、但しrが0の場合はdは2以上の整数である。(c+d)は1≦c+d≦1000、好ましくは1≦c+d≦300を満足する整数である。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の例として、下記のものが挙げられる。
【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

(c1+c2=c)
【0036】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の例として、下記式で示されるような分岐状化合物も挙げることができる。
【0037】
【化11】

【0038】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は3〜1,000、特に3〜300程度のものが使用される。
【0039】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、通常、R5SiHCl2、(R53SiCl、(R52SiCl2、(R52SiHCl(R5は、前記の通りである)のようなクロロシランを加水分解するか、加水分解して得られたシロキサンを平衡化することにより得ることができる。
【0040】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、上記(A)成分を硬化するのに有効な量であり、そのSiH基が(A)成分中のアルケニル基(例えばビニル基)の合計量1モル当たり0.7〜4.0モル、好ましくは1.0〜3.0モル、より好ましくは1.2〜2.0モルのモル比となる量で使用される。該モル比が前記下限値未満では硬化物を得ることが困難となる場合があり、前記上限値を超えると、未反応のSiH基が硬化物中に多量に残存して、ゴム物性が経時的に変化する原因となる場合がある。
【0041】
[(C)金属系縮合反応触媒]
(C)金属系縮合反応触媒は、後述する(E)接着付与成分中のエポキシ基、アルコキシ基等の官能性基を反応させるものである。該金属として、アルミニウムとジルコニウムが好ましい。該縮合触媒は、熱等によりシリコーンを開重合させる可能性があるので、組成物の保管、使用状況によっては、ジルコニア系触媒がより好ましい。アルミニウム系触媒としては、三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、及びアルミニウム金属キレート化合物が例示されるが、これらのうちアルミニウムキレート化合物が好ましい。このようなアルミニウムキレート化合物からなる触媒としては、例えば、ACS、ケロープEB−2(いずれも商品名、ホープ製薬(株)製)等が挙げられる。
【0042】
ジルコニウム触媒としては、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド等のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムトリブトキシモノアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムキレート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート ジルコニウムアセテート等のジルコニウムアシレートなどが例示される。
【0043】
金属系縮合反応触媒の配合量は、(A)成分と(E)成分との合計質量に対して好ましくは0.005〜10質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。前記下限値未満では十分な効果が得られない場合があり、前記上限値を超えると、樹脂の硬化特性(硬度、外観等)に影響を及ぼす場合がある。
【0044】
[(D)白金族金属系付加反応触媒]
(D)白金族金属系触媒は、本発明組成物の付加硬化反応を生じさせるために配合されるものである。この触媒としては、白金系、パラジウム系、ロジウム系等のものがあるが、コスト等の見地から白金、白金黒、塩化白金酸などの白金系のもの、例えば、H2PtCl6・mH2O,K2PtCl6,KHPtCl6・mH2O,K2PtCl4,K2PtCl4・mH2O,PtO2・mH2O(mは正の整数)等、及びこれらと、オレフィン等の炭化水素、アルコール、又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を例示することができる。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0045】
これらの触媒成分の配合量は、所謂触媒有効量でよく、通常、前記(A)の質量に対して白金族金属換算(質量)で0.1〜1,000ppm、好ましくは0.5〜200ppmの範囲で使用される。
【0046】
[(E)接着付与成分]
(E)接着付与成分は、アルケニル基、アルコキシ基、及びエポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種含有するオルガノポリシロキサンである。アルケニル基の例としては、ケイ素原子に結合されたビニル基、アリル基が挙げられる。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、及び、シルエチレン基を介してケイ素原子に結合されたトリメトキシシリル基が挙げられる。エポキシ基の例としては、グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基が挙げられる。該オルガノポリシロキサンはケイ素原子数4〜100個、好ましくは4〜50個、より好ましくは4〜20個程度を含有し、ポリスチレン換算重量平均分子量が150〜4000である、直鎖状若しくは環状のオルガノシロキサンである。
【0047】
(E)接着付与成分の例としては、下記式に示されるものが挙げられる。
【0048】
【化12】

【0049】
【化13】

【0050】
【化14】

【0051】
(式中、g、h及びiはそれぞれg+h+iが1〜50、好ましくは4〜20を満足する正の整数である。)
【0052】
【化15】

【0053】
(式中、L、M及びNはそれぞれL+M+Nが3〜8、好ましくは4〜6を満足する正の整数である。)
【0054】
(E)接着付与成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部、最も好ましくは0.1〜3質量部である。(E)成分の配合量が前記加減値未満では基材に対する接着性が不足し、多すぎると硬化物の硬度や表面タック性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0055】
本発明の組成物は、(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.03以下、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.015以下であることを特徴とする。ここで、「屈折率」は、25℃におけるナトリウムD線に対する屈折率nを意味し、アッベ屈折率計を用いて測定することができる。屈折率の差が前記値以下であることによってこれらの成分の相溶性が高まると共に硬化物の透明度が高く、発光素子の封止に好適である。
【0056】
上記屈折率の要件を満たす(A)成分、(B)成分及び(E)成分の好ましい組み合わせとしては、(A)成分、(E)成分の双方が芳香族基を含有しない組み合わせ、及び、(A)成分、(B)成分、(E)成分のうちの少なくとも一つが芳香族基を含有し、各成分における芳香族基のモル%のうちの最大値と最小値が下記式、
[(最大値−最小値)/最大値)]≦0.3
を満たす組み合わせ、が挙げられる。後者において、芳香族基としてはフェニル基が好ましく、そのモル%は、ケイ素原子に結合された置換基の総モル量に対する芳香族基のモル量のパーセンテージである。
【0057】
[その他の添加剤]
本発明の組成物には、上述した(A)〜(E)成分以外にも、必要に応じて、それ自体公知の各種の添加剤を配合することができる。例えば、ヒュームドシリカ、ヒュームド二酸化チタン等の補強性無機充填剤;及び炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化第二鉄、カーボンブラック、酸化亜鉛等の非補強性無機充填剤を、本発明の目的を損なわない範囲、好ましくは本願組成物全体の1〜50質量%、で適宜配合することができる。
【0058】
本発明のシリコーンゴム組成物は、上述した各成分を均一に混合することによって調製されるが、通常は、硬化が進行しないように2液に分けて保存され、使用時に2液を混合して硬化を行う。勿論、アセチレンアルコール等の硬化抑制剤を少量添加して1液として用いることもできる。また、2液混合タイプでは(B)成分と(C)成分の同液配合は脱水素反応の危険性から避ける必要がある。
【0059】
なお、得られたシリコーンゴム組成物の回転粘度計により測定した25℃における粘度は、100〜10,000,000mPa・s、特には300〜500,000mPa・s程度が好ましい。
【0060】
本発明のシリコーンゴム組成物は、必要に応じて加熱することにより直ちに硬化して、高い透明性をもち且つLCP等のパッケージ材料や金属基板に非常によく接着するため、LED、フォットダイオード、CCD、CMOS等の半導体チップを被覆又は封止する材料として広く使用することができる。
【0061】
なお、本発明組成物の硬化条件は特に制限されるものではないが、通常、40〜250℃、好ましくは60〜200℃で5分〜10時間、好ましくは30分〜6時間程度で硬化することができる。
【0062】
支持体上にマウントされた半導体チップを被覆又は封止するには、該半導体チップ上に本発明の組成物を適用し、所要の形状に成形後に加熱硬化させればよい。
【0063】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部は質量部を示し、Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示し、Viはビニル基を示す。また、屈折率はアッベ屈折率計を用いて25℃において測定したナトリウムD線に対する屈折率nを示す。
【0064】
[実施例1]
下記式(i):
【0065】
【化16】


で示されるポリシロキサン(VF)50部と、SiO2単位50モル%、(CH33SiO0.5単位42.5モル%及びVi3SiO0.5単位7.5モル%からなるレジン構造のビニルメチルシロキサン(VMQ)50部を混合した。該混合物の屈折率は1.41であった。該混合物にSiH基量が前記VF及びVMQ成分中のビニル基の合計量当り1.5倍モルとなる量の下記式(ii):
【0066】
【化17】


で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを加えて混合した。得られた混合物(屈折率1.41)に、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金濃度2質量%)0.05部、アルミニウムキレート触媒(ACS(商品名)、ホープ製薬製)0.1部、及び下記式
【0067】
【化18】

で示される接着付与成分(屈折率1.42)1部を混合し、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0068】
[実施例2]
実施例1で用いた接着付与成分を下記式:
【0069】
【化19】


で表される屈折率1.43のものに変えた以外、実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。
【0070】
[実施例3]
下記式で示すビニルシロキサン100部(屈折率1.51)と下記式で示すハイドロジェンシロキサン8部の混合物(屈折率1.51)を調製した。
【0071】
【化20】


その混合物100部に、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金濃度2質量%)0.05部、アルミニウムキレート触媒(ACS(商品名)、ホープ製薬製)0.1部、及び接着付与成分として下記式:
【0072】
【化21】


で表される屈折率1.50の接着付与成分1部を用いて、実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。
【0073】
[実施例4]
下記式(i):
【0074】
【化22】


で示されるポリシロキサン(VF)50部と、SiO2単位50モル%、(CH33SiO0.5単位42.5モル%及びVi3SiO0.5単位7.5モル%からなるレジン構造のビニルメチルシロキサン(VMQ)50部を混合した。該混合物の屈折率は1.41であった。該混合物にSiH基量が前記VF及びVMQ成分中のビニル基の合計量当り1.5倍モルとなる量の下記式(ii)
【0075】
【化23】


で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを加えて混合した。得られた混合物(屈折率1.41)に、塩化白金酸のオクチルアルコール変性溶液(白金濃度2質量%)0.05部、ジルコニウムアルコキシド(オルガチックスZA60(商品名)、マツモト交商製)0.1部、及び下記式:
【0076】
【化24】

で示される接着付与成分(屈折率1.42)1部を混合し、シリコーンゴム組成物を調製した。
【0077】
[比較例1]
アルミニウム金属キレート触媒ACSを添加しない以外は実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。
【0078】
[比較例2]
アルミニウム金属キレート触媒ACSを添加しない以外は実施例3と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。
[比較例3]
実施例1で用いた接着付与成分を、実施例3で用いた接着付与成分に代えたことを除き、実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を調製した。
【0079】
[評価方法]
各組成物を以下の方法で評価した。結果を表1〜3に示す。
<外観、光透過率、引張強度、硬度、伸び率>
組成物を、150℃/4時間にて加熱成型して1mm厚の硬化物を形成して、外観を目視にて観察した。また、吸光光度計で光透過率(450nm)を測定した。また、JIS K 6301に準拠して、引張強度、硬度(A型スプリング試験機を用いて測定)及び伸び率を測定した。
【0080】
<PPA剪断接着力>
図1に示すように、幅25mmのPPA(ポリフタル酸アミド樹脂)製の基材片1及び2のそれぞれの一方の端部を、厚さ1mmに施与された組成物層3を間に挟んで長さ10mmに亘って重ね、150℃で4時間加熱して組成物層3を硬化させた。このようにして作製した試験体を室温にて12時間以上放置した後、この試験体の両端4と5を矢印の方向に引っ張り試験機で引っ張ることにより、引っ張り剪断接着力を測定した。
【0081】
<凝集破壊率>
上記剪断接着力を測定した際の試験体の破断面について、破断面全体の面積に対して凝集破壊(即ち、PPAとシリコーンゴム(組成物層3の硬化物)が界面剥離せずにシリコーンゴム自体が破断)した部分の面積の比率(百分率)を凝集破壊率として評価した。
【0082】
<耐リフロー性>
図2で示される、ダミーパッケージ(商標名:アモデル、ソルベイ製)にシリコーンゴム組成物を封入し、150℃/4時間の条件で硬化し、MSLレベル2に準じて加湿リフロー試験を実施した。図2において、PPA(ポリフタル酸アミド樹脂)からなるパッケージ6の凹部には、リードフレーム8の銀メッキされたパッド上に半導体チップ9が載置されており、ワイヤー10によって電極に接続されている。該凹部にシリコーンゴム組成物7を注入して、硬化させて半導体チップ9及びワイヤー10を封止した。得られた装置を85℃/85%の恒温槽内に置き、チップ9に所定時間20mAを通電し、組成物7の剥離の有無を観察した。また加湿リフロー試験は、MSL試験法に準じて60℃/90%RHの雰囲気下に16時間放置して十分に吸湿させた後、最高温度260℃のIRリフロー炉を通して、85℃/85%RHで1000時間までの剥離、クラックの発生を目視にて観察した。これらの結果を表3に示す。なお、表3中、数値はサンプル数n=20における不良発生が認められた装置の割合(%)を示す。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】


n=20(サンプル数)
【0086】
比較例3は、本発明の屈折率の要件を欠く組成物である。該組成物を用いた装置は、耐熱衝撃性は良いものの、透明性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の組成物は、半導体、特に光半導体、の封止に好適である。
【符号の説明】
【0088】
1,2 基材片
3 組成物(硬化物)層
6 パッケージ
7 封止材料(シリコーンゴム組成物)
8 リードフレーム(銀メッキ)
9 チップ
10 ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表され、25℃において10〜1,000,000mPa・sの粘度を有する直鎖状オルガノポリシロキサン(A−1)
【化1】


(式中、R1は、互いに独立に、非置換もしくは置換一価炭化水素基、R2は、互いに独立に、脂肪族不飽和結合を有さない非置換もしくは置換一価炭化水素基、x及びyはそれぞれ0又は正の整数であり、x+yはこのオルガノポリシロキサンの25℃の粘度を10〜1,000,000mPa・sとする数であり、pは1〜3の整数である。)、
または、
前記オルガノポリシロキサン(A−1)と、レジン構造のオルガノポリシロキサン(A−2)であって、SiO2単位、R3k4pSiO0.5単位及びR3q4rSiO0.5単位からなる(但し、上記式において、R3はビニル基又はアリル基、R4は脂肪族不飽和結合を含まない一価炭化水素基、kは2又は3、pは0又は1で、k+p=3、qは0又は1、rは2又は3で、q+r=3である。)オルガノポリシロキサンとの組み合わせ、
(B)一分子中にSiH基を2個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)金属系縮合反応触媒、
(D)白金族金属系付加反応触媒、及び
(E)アルケニル基、アルコキシ基、及びエポキシ基から選ばれる官能性基を少なくとも2種含有するオルガノポリシロキサン接着付与成分を含有して成り、
(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.03以下であることを特徴とする硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(A)成分、(A)成分と(B)成分の混合物、及び(E)成分各々の屈折率のうちの最大値と最小値の差が0.02以下である、請求項1記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(A−2)成分が、(A)成分中20〜70質量%で含有される、請求項1又は2記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(A)成分、(E)成分のいずれもが芳香族基を含有しない、請求項1〜3のいずれか1項記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
(A)成分、(B)成分、(E)成分のうちの少なくとも一つが芳香族基を含有し、各成分における芳香族基のモル%のうちの最大値と最小値が下記式、
[(最大値−最小値)/最大値)]≦0.3
を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
(B)成分を、(B)成分中のSiH基が(A)成分中のアルケニル基1モル当たり0.7〜4.0モルとなる量で、
(E)成分を、(A)成分100質量部に対して、0.01〜10質量部で、
(C)成分を、(A)成分と(E)成分の合計100質量部に対して、0.005〜10質量%で、及び、
(D)成分を、(A)成分の質量に対して、白金族金属換算で0.1〜1,000ppm、
含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
(C)成分が、アルミニウム系触媒またはジルコニウム系触媒である請求項1〜6のいずれか1項記載の硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
半導体チップと、該チップを被覆又は封止する請求項1〜7のいずれか1項記載の硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物とを有する半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−256603(P2009−256603A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33069(P2009−33069)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】