説明

硬化性樹脂組成物及びその硬化物

【課題】高い解像性を有しつつ、クラックの発生が抑制された樹脂パターンを形成することのできる硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物を提供すること。
【解決手段】本発明は、(A)常温で固状の多官能エポキシ樹脂と、(B)カチオン重合開始剤と、(C)(メタ)アクリルモノマーとを含む硬化性樹脂組成物であり、前記(C)(メタ)アクリルモノマーが、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された2以上のエチレン性不飽和結合を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィ技術を用いた樹脂パターン形成により微小樹脂成型を可能とする硬化性樹脂組成物、及びそれを硬化してなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品分野におけるダウンサイジングや、インクジェットプリンタにおける印字ヘッドのノズルに代表されるような超微細加工への要求が高まることに伴って、フォトリソグラフィ技術によって数μmという解像性のある樹脂パターンを高いアスペクト比で形成することのできる硬化性樹脂組成物が要望されている。このような硬化性樹脂組成物を使用することにより、その硬化物によって、基板上に高精細な回路を形成することのできるエッチングマスクを形成したり、超微細構造を有する造形物を形成したりすることができる。
【0003】
しかし、ノボラック樹脂と光酸発生剤であるジアゾナフトキノンとを含む従来の硬化性樹脂組成物では、十分な厚さで高い解像性を有する樹脂パターン、すなわち高アスペクト比を有する樹脂パターンを形成させることは困難であった。これは、ジアゾナフトキノン型の光酸発生剤が、露光に用いられる近紫外領域に高い吸収をもち、膜の上部と底部とで光による露光強度が大きく異なり、得られる樹脂パターンの形状がテーパー状となったり、歪曲したりするためであった。
【0004】
これに対し、エポキシ樹脂と酸発生剤とを含む硬化性樹脂組成物の検討によって、高アスペクト比を有し、高い解像性を実現できる硬化性樹脂組成物が提案されている。
【0005】
このような硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ官能性ノボラック樹脂とトリアリールスルホニウム塩等のカチオン系光重合開始剤とエポキシ官能基と反応可能な希釈剤とからなり、完全に硬化して、剥離しにくい光硬化性組成物(特許文献1)や、多官能性ビスフェノールAホルムアルデヒド−ノボラック樹脂と酸発生剤であるトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートと溶剤のシクロペンタノンとからなり、厚膜形成可能な光硬化性組成物(特許文献2)が提案されている。
【0006】
さらに、多官能エポキシ樹脂と特定の酸発生剤とを組み合わせて感光性(硬化性)樹脂組成物を調製し、この硬化性樹脂組成物を使用して樹脂パターンを形成すれば、高感度で、加熱硬化時の体積収縮が小さく、アスペクト比が高い形状の樹脂パターンを形成できることが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−78628号公報
【特許文献2】米国特許第6391523号公報
【特許文献3】特開2005−55865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2のように、ノボラック樹脂等の多官能エポキシ樹脂を用いた従来の硬化性樹脂組成物では、含有するカチオン重合開始剤の感度が低いため、大量の開始剤を含有させることが必要であり、そのため、マスクパターンを樹脂パターンとして忠実に再現できないという問題点があった。
【0009】
この点、特許文献3に記載された硬化性樹脂組成物によれば、特定の酸発生剤をカチオン重合開始剤として採用することによる高感度化効果が得られ、それにより高い解像性を有する樹脂パターンを形成させることができる。しかし、この硬化性樹脂組成物は、多官能エポキシ樹脂を架橋して樹脂パターンを形成させるため、形成された樹脂パターンが高い内部応力を有する。このため、樹脂パターンにクラック(ひび割れ)を生じやすい傾向があり、改善の余地が有った。
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、高い解像性を有しつつ、クラックの発生が抑制された樹脂パターンを形成することのできる硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、常温で固状の多官能エポキシ樹脂と、カチオン重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物に対して、さらに特定構造の(メタ)アクリルモノマーを添加することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の第一の態様は、(A)常温で固状の多官能エポキシ樹脂と、(B)カチオン重合開始剤と、(C)(メタ)アクリルモノマーとを含む硬化性樹脂組成物であり、前記(C)(メタ)アクリルモノマーが、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された2以上のエチレン性不飽和結合を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の第二の態様は、上記本発明の第一の態様の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い解像性を有しつつ、クラックの発生が抑制された樹脂パターンを形成することのできる硬化性樹脂組成物、及びそのような硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<硬化性樹脂組成物>
まず、本発明の硬化性樹脂組成物について説明する。本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより架橋して硬化する性質を有し、ネガタイプのフォトレジスト、ネガタイプのドライフィルムレジスト、微細な構造を有する微小樹脂成形等に好ましく使用される。すなわち、本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線等の活性エネルギー線照射によって、樹脂パターンを形成させる用途に好ましく使用される。ここで、樹脂パターンとは、本発明の硬化性樹脂組成物をフォトリソグラフィ法によって所望の形状に硬化させた硬化物のことである。
【0016】
本発明の硬化性樹脂組成物をフォトレジストや、微小樹脂成形等の用途として使用する場合、まず、樹脂パターンを形成させる基材の表面に本発明の硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化性樹脂組成物に含まれる溶剤成分を揮発させて樹脂膜を作製する。次いで、その樹脂膜の表面に、形成させるパターンの形状となるフォトマスクを載置し、紫外線等の活性エネルギー線を照射する。その後、現像工程、及び必要ならばポストベーク工程を経ることにより、基材の表面に樹脂パターンが形成される。この樹脂パターンを、エッチングマスクや微小樹脂成形体として使用する。
【0017】
本発明の硬化性樹脂組成物をドライフィルムとして使用する場合、樹脂シート等の基材表面に、本発明の硬化性樹脂組成物を塗布し、次いで硬化性樹脂組成物に含まれる溶剤成分を揮発させてドライフィルムとなる樹脂膜を作製する。その後、作製されたドライフィルムを、樹脂パターンを形成させる基材の表面に接着させ、上記と同様に活性エネルギー線によりパターニングする。その後、現像工程、及び必要ならばポストベーク工程を経ることにより、基材の表面に樹脂パターンが形成される。
【0018】
本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)常温で固状の多官能エポキシ樹脂と、(B)カチオン重合開始剤と、(C)(メタ)アクリルモノマーと、を含む。次に、これらの成分について説明する。
【0019】
[(A)多官能エポキシ樹脂]
本発明で使用される多官能エポキシ樹脂は、一分子中に3個以上のエポキシ基を有する樹脂であり、硬化性樹脂組成物で形成された樹脂膜を硬化させるのに十分な数のエポキシ基を一分子中に含むエポキシ樹脂であれば、どのようなエポキシ樹脂でもよい。このような多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニル型ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0020】
多官能エポキシ樹脂の一分子中に含まれるエポキシ基の数である官能性は、3以上であることが好ましく、4〜12であることがより好ましい。多官能エポキシ樹脂の官能性が3以上であることにより、高いアスペクト比と解像性を有する樹脂パターンを形成することができるので好ましく、多官能エポキシ樹脂の官能性が12以下であることにより、樹脂合成の制御が容易となり、また樹脂パターンの内部応力が過剰に大きくなることを抑制できるので好ましい。
【0021】
多官能エポキシ樹脂の質量平均分子量は、700〜5000であることが好ましく、1000〜4000であることがより好ましい。多官能エポキシ樹脂の質量平均分子量が700以上であることにより、硬化性樹脂組成物が活性エネルギー線照射によって硬化する前に熱フローしてしまうことを抑制できる点で好ましく、多官能エポキシ樹脂の質量平均分子量が5000以下であることにより、パターニング現像時の適当な溶解速度を得ることができる点で好ましい。
【0022】
本発明で使用される多官能エポキシ樹脂は、常温で固状である。多官能エポキシ樹脂が常温で固状であることにより、スピンコートによる成膜性に優れ、露光・PEB・現像というパターニングの一連の流れにおけるハンドリング性に適する。PEB時には、硬化性樹脂組成物から形成された硬化前の樹脂膜が熱フローしてしまうことを防止することができ、樹脂パターンのアスペクト比や解像性を高くすることができる。この点で、本発明の硬化性樹脂組成物は、常温で液状の多官能エポキシ樹脂を使用することが一般的である、立体造形用の硬化性樹脂組成物と異なる。なお、ここでいう「立体造形」とは、硬化性樹脂組成物にレーザー光を照射して、数cm以上という比較的大きな立体物を形成させる技術を指し、本発明の硬化性樹脂組成物で作製されるような微細構造を有する立体物を形成させる技術とは異なる。
【0023】
このような多官能エポキシ樹脂としては、8官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製の「jER157S70」)や、平均6.4官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「エピクロンN−885」)、平均5.6官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「エピクロンN−865」)等が特に好ましい。
【0024】
上記多官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂は、例えば、下記一般式(4)で表される。
【0025】
【化1】

(上記一般式(4)中、R〜Rは、水素原子又はメチル基である。また、xは、0又は正の整数であり、好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜5の整数である。なお、上記式(4)中のエポキシ基は、他のビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂と反応し、結合していてもよい。)
【0026】
多官能エポキシ樹脂の軟化点は、上記のように、常温で固状であれば特に限定されない。特に、本発明の硬化性樹脂組成物でドライフィルムレジストを形成する場合には、常温(約40℃)程度で軟化すると好ましくなく、ラミネート時の加熱により軟化する必要がある。この点から、多官能エポキシ樹脂の軟化点は、50〜100℃程度であることが好ましく、60〜80℃程度であることがより好ましい。
【0027】
硬化性樹脂組成物における多官能エポキシ樹脂の含有量は、70〜95質量%が好ましく、75〜93質量%であることがより好ましい。硬化性樹脂組成物における多官能エポキシ樹脂の濃度が70質量%以上であれば、硬化によって得られた硬化物に十分な強度を付与することができるので好ましい。また、硬化性樹脂組成物における多官能エポキシ樹脂の濃度が95質量%以下であれば、硬化性樹脂組成物を光硬化させる際に十分な感度を得ることができるので好ましい。なお、上記含有量は、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含まないとした場合のものである。したがって、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含む場合には、溶剤成分の質量を除いた後における多官能エポキシ樹脂の含有量が上記含有量の範囲となるようにすればよい。
【0028】
[(B)カチオン重合開始剤]
次に、カチオン重合開始剤について説明する。本発明で使用されるカチオン重合開始剤は、紫外線、遠紫外線、KrF、ArF等のエキシマレーザー光、X線、電子線等といった活性エネルギー線の照射を受けてカチオンを発生し、そのカチオンが重合開始剤となり得る化合物である。
【0029】
このようなカチオン重合開始剤は、例えば、下記一般式(5)で表される。
【0030】
【化2】

(上記一般式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでもよい炭化水素基、又は置換基が結合してもよいアルコキシ基を表し、Rは、その水素原子の1つ又はそれ以上がハロゲン原子又はアルキル基により置換されてもよいp−フェニレン基を表し、R10は、水素原子、酸素原子又はハロゲン原子を含んでもよい炭化水素基、置換基を有してもよいベンゾイル基、置換基を有してもよいポリフェニル基を表し、Aは、オニウムイオンの対イオンを表す。)
【0031】
上記一般式(5)において、Aとして、具体的には、SbF、PF、AsF、BF、SbCl、ClO、CFSO、CHSO、FSO、FPO、p−トルエンスルホネート、ノナフロロブタンスルホネート、アダマンタンカルボキシレート、テトラアリールボレート、下記一般式(6)で表されるフッ素化アルキルフルオロリン酸アニオン等が例示される。
【化3】

(上記一般式(6)中、Rfは、水素原子の80%以上がフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。bは、その個数を表し、1〜5の整数である。b個のRfは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0032】
このようなカチオン開始剤としては、例えば、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(3−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−フルオロ4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,3,5,6−テトラメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,6−ジクロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,6−ジメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,3−ジメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(3−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−フルオロ4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−メチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,3,5,6−テトラメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,6−ジクロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,6−ジメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2,3−ジメチル−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−アセチルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メチルベンゾイル)フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−フルオロベンゾイル)フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メトキシベンゾイル)フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ドデカノイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−アセチルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メチルベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−フルオロベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メトキシベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ドデカノイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−アセチルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メチルベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−フルオロベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−(4−メトキシベンゾイル)フェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ドデカノイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムパークロレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムテトラフルオロボレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムパークロレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムp−トルエンスルホネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムカンファースルホネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムテトラフルオロボレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムパークロレート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−クロロフェニル)スルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート、ジフェニル[4−(p−ターフェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル[4−(p−ターフェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート等が挙げられる。これらの化合物のうち、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(株式会社ADEKA製、アデカオプトマーSP−172)、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート(サンアプロ株式会社製、CPI−210S)、ジフェニル[4−(p−ターフェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル[4−(p−ターフェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート(サンアプロ株式会社製、HS−1PG)が好ましい。
【0033】
硬化性樹脂組成物におけるカチオン重合開始剤の含有量は、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。硬化性樹脂組成物におけるカチオン重合開始剤の含有量が0.1質量%以上であれば、硬化性樹脂組成物の活性エネルギー線露光による硬化時間を適切なものとすることができるので好ましい。また、硬化性樹脂組成物におけるカチオン重合開始剤の含有量が10質量%以下であれば、活性エネルギー線による露光後の現像性を良好なものとできるので好ましい。なお、上記含有量は、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含まないとした場合のものである。したがって、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含む場合には、溶剤成分の質量を除いた後におけるカチオン重合開始剤の含有量が上記含有量の範囲となるようにすればよい。
【0034】
[(C)(メタ)アクリルモノマー]
次に、(メタ)アクリルモノマーについて説明する。本発明で使用される(メタ)アクリルモノマーは、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された2以上のエチレン性不飽和結合を有する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル及び/又はメタクリル」という意味で使用される。
【0035】
本発明の硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線照射を受けることにより上記カチオン重合開始剤から発生したカチオンが、上記多官能エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基を重合させて硬化物となる。ここで、(メタ)アクリルモノマーは、カチオン重合開始剤によっては殆ど重合反応を起こさないので、本発明で使用される(メタ)アクリルモノマーは、活性エネルギー線照射時において、このような重合反応に直接的には関与しない。そのため、(メタ)アクリルモノマーは、多官能エポキシ樹脂等のエポキシモノマーとカチオン重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物に対しては、通常、添加されない。しかしながら、本発明者らは、多官能エポキシ樹脂とカチオン重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物に対して(メタ)アクリルモノマーを添加したところ、意外にも、硬化後の組成物(硬化物)における内部応力が緩和され、それにより、硬化物にクラックが生じることを抑制できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0036】
このことをさらに詳しく説明する。これまで、多官能エポキシ樹脂とカチオン重合開始剤とを含む硬化性樹脂組成物を活性エネルギー線の照射によって硬化させると、その硬化物は、硬度の高い硬化物となり、高いアスペクト比を与える樹脂パターンとなることが知られていた。そのため、その硬化物は、高精細な電子回路を作製するためのエッチングマスクや、インクジェットプリンタ用の印字ヘッド等のように微細構造を有する微小樹脂形成等に好ましく使用されてきた。
【0037】
しかしながら、従来使用されてきた硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物は、高い硬度を有するのと同時に、硬化収縮に伴う高い内部応力を保有するので、クラックを生じる場合があった。例えば、インクジェットプリンタ用の印字ヘッドとして硬化物が使用される場合、クラックを生じた硬化物は、インクの吐出不良の原因となるおそれがあるので、製品として使用することができない。このため、クラックは、製品歩留まりを低下させる要因の一つとなっていた。
【0038】
この点、本発明の硬化性樹脂組成物では、上記のように、活性エネルギー線の照射時において、多官能エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基が光照射で生じたカチオンによって次々と重合する一方で、(メタ)アクリルモノマーは、活性エネルギー線の照射時には、殆ど重合反応に寄与せず、多くがモノマーのままで存在する。その結果、活性エネルギー線照射後の硬化物の内部では、多官能エポキシ樹脂の重合によって形成された網目構造が硬化物全体に亘って高密度に形成されることが抑制され、重合した分子は、硬化物の内部で比較的自由度を保有した状態で存在する。このように、モノマーとして存在する(メタ)アクリルモノマーが硬化物の内部において緩衝材のような役割を果たすので、活性エネルギー線照射後の硬化物は、内部応力が比較的小さいものとなる。
【0039】
その後、硬化物に含まれる(メタ)アクリルモノマーは、経時で、又は活性エネルギー線照射後の露光後加熱(PEB)若しくはポストベーク処理によって、重合反応を起こし硬化する。その結果、(メタ)アクリルモノマーが重合した後の硬化物の内部には、多官能エポキシ樹脂の重合で形成された網目構造の隙間に、(メタ)アクリルモノマーの重合体がフィラーのように存在した状態になっていると推察される。このように、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させた後の硬化物は、その内部に(メタ)アクリルモノマーが重合体として存在するので、強度が保持される一方で、多官能エポキシ樹脂の重合にともなって形成された網目構造が硬化物全体に亘って過剰に高密度に形成されることが抑制される。そのため、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物では、多官能エポキシ樹脂の硬化物の特徴である高アスペクト比を維持したまま内部応力が抑制されるので、高アスペクト比を有しながら、クラックの発生が抑制される。
【0040】
なお、上記のように、本発明の硬化性樹脂組成物では、(メタ)アクリルモノマーを硬化させるために、経時、又は活性エネルギー線の照射後におけるポストベークによる熱エネルギーを使用する。すなわち、(メタ)アクリルモノマーは、熱重合される。もちろん、硬化性樹脂組成物に、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生させるラジカル重合開始剤を添加すれば、活性エネルギー線の照射と同時に(メタ)アクリルモノマーを重合させることもできる。しかし、この場合、得られた硬化物の解像性が低下するので好ましくない。このように硬化物の解像性が低下する理由は、硬化性樹脂組成物からなる樹脂膜に活性エネルギー線を照射した際に、発生したラジカルが活性エネルギー線の照射範囲外まで移動して(メタ)アクリルモノマーを重合させてしまい、マスクパターンの再現性が悪くなるためと考えられる。
本発明の硬化性樹脂組成物中における重合開始剤成分としては、(B)カチオン重合開始剤に加えてラジカル重合開始剤を含んでもよいが、上述の特性を考慮すると、重合開始剤成分のうち、90質量%以上が(B)カチオン重合開始剤であることが好ましく、95質量%以上が(B)カチオン重合開始剤であることがより好ましく、100質量%が(B)カチオン重合開始剤であることが最も好ましい。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物で使用される(メタ)アクリルモノマーは、上記のように、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された2以上のエチレン性不飽和結合を有するものである。ここで、2以上のエチレン性不飽和結合が「酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された」とは、(メタ)アクリルモノマーに2以上の不飽和結合が含まれ、かつ、それら2以上の不飽和結合の間に環状構造が含まれないことを意味する。本発明の硬化性樹脂組成物がこのような(メタ)アクリルモノマーを採用する理由は、C6以上の芳香環又はC6以上の脂肪環といった環状構造を分子内に含んだ多官能の(メタ)アクリルモノマーを使用すると、クラック耐性が低下することを見出したためである。
【0042】
また、本発明の硬化性樹脂組成物で使用される(メタ)アクリルモノマーが「2以上のエチレン性不飽和結合」を有する理由は、(メタ)アクリルモノマーに含まれる不飽和結合が1つでは硬化物のアスペクト比が低下して、樹脂パターンの解像性が低下するためである。(メタ)アクリルモノマーに含まれる不飽和結合の数は、3以上であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。(メタ)アクリルモノマーに含まれる不飽和結合の数が3以上であることにより、十分な解像性を得ることができるので好ましい。また、(メタ)アクリルモノマーに含まれる不飽和結合の数が6以下であることにより、モノマーの経時重合を抑制できる点で好ましい。
【0043】
(メタ)アクリルモノマーのTgは、75℃以上であることが好ましい。(メタ)アクリルモノマーのTgが75℃以上であることにより、硬化物のアスペクト比を高くすることができ樹脂パターンの解像性を向上させることができる点で好ましい。ここで、(メタ)アクリルモノマーのTgとは、(メタ)アクリルモノマーを重合してホモポリマーを作製した場合において、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)を意味する。
【0044】
以上の(メタ)アクリルモノマーの中でも、本発明の硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリルモノマーとしては、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が好ましい。
【0045】
【化4】

(上記一般式(1)中、Lは、それぞれ独立に−CHCH又は−CHOHであり、Mは、それぞれ独立に−CHO(C=O)CH=CH又は−CHOC(=O)C(CH)=CHである。また、mは0から2の整数であり、nは1から3の整数であり、m+n=3である。)
【0046】
【化5】

(上記一般式(2)中、Xは、それぞれ独立に−CHCH又は−CHOHであり、
Yは、それぞれ独立に−CHO(C=O)CH=CH、−CHOC(=O)C(CH)=CH、−CHO(CO)C(=O)CH=CH又は−CHO(CO)(C=O)CH=CHである。また、pは0から2の整数であり、qは2から4の整数であり、p+q=4である。また、r及びsは、それぞれ1から15の整数である。)
【0047】
【化6】

(上記一般式(3)中、Zは、−C(=O)CH=CH、−C(=O)C(CH)=CHであり、Z’は、−OC(=O)CH=CH又は−O(C=O)C(CH)=CHであり、Rは、−(OC−、−(OC−、又は−(OC−(OC−である。また、t及びuは、それぞれ1から15の整数であり、v及びwは、それぞれ正の整数であり、v及びwの和が15以下である。)
【0048】
上記一般式(1)で示される(メタ)アクリルモノマーとしては、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が例示される。また、上記一般式(2)で示される(メタ)アクリルモノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が例示される。上記一般式(3)で示される(メタ)アクリルモノマーとしては、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレン−プロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、等が例示される。
【0049】
上記(メタ)アクリルモノマーの中でも、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートが好ましく使用される。
【0050】
硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリルモノマーの含有量は、3〜15質量%が好ましく、5〜12質量%であることがより好ましい。硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリルモノマーの含有量が3質量%以上であれば、硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物におけるクラックの発生が良好に抑制されて好ましい。硬化性樹脂組成物における(メタ)アクリルモノマーの含有量が15質量%以下であれば、硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物のアスペクト比が大きくなり、パターンの解像性を向上させることができる点で好ましい。なお、上記含有量は、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含まないとした場合のものである。したがって、硬化性樹脂組成物が後述する溶剤成分を含む場合には、溶剤成分の質量を除いた後における(メタ)アクリルモノマーの含有量が上記含有量の範囲となるようにすればよい。
【0051】
[その他の成分]
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要とされる特性に応じて、その他のモノマー、増感剤、溶剤等を添加することができる。以下、これらの成分について説明する。
【0052】
その他のモノマーとしては、成膜性改善のために添加される高分子直鎖2官能エポキシ樹脂が例示される。このような高分子直鎖2官能エポキシ樹脂は、下記一般式(6)で表される。
【0053】
【化7】

(上記一般式(7)中、R11〜R14は、水素原子又はメチル基であり、yは、正の整数である。)
【0054】
上記高分子直鎖2官能エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ又はビスフェノールF型エポキシが重合したものが例示される。また、上記高分子直鎖2官能エポキシ樹脂は、質量平均分子量1000〜7000が好ましく、質量平均分子量1000〜5000がより好ましい。高分子直鎖2官能エポキシ樹脂の質量平均分子量が1000以上であれば、成膜性が良好となるので好ましい。また、高分子直鎖2官能エポキシ樹脂の質量平均分子量が7000以下であれば、上記多官能エポキシとの良好な相溶性が得られるので好ましい。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社製の「エピコート1004」、質量平均分子量1650)や、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社製の「jER1007」、質量平均分子量2900)が特に好ましく使用される。
【0055】
増感剤としては、ナフトール型増感剤が例示される。硬化性樹脂組成物の感度が高い場合には、フォトマスクと硬化性樹脂組成物の膜との間に間隙が存在すると、露光の結果、得られる樹脂パターン(硬化物)の寸法がフォトマスクの寸法に比べて太くなる現象を生じる場合があるが、この太り現象を、ナフトール型増感剤を含有させることにより、感度を下げずに、抑制することができる。このように、ナフトール型増感剤を添加すると、フォトマスクの寸法に対する樹脂パターンの寸法の誤差を抑えることができるため、好ましい。
【0056】
このようなナフトール型増感剤としては、1−ナフトール、β−ナフトール、α−ナフトールメチルエーテル、α−ナフトールエチルエーテルが好ましく例示され、感度を下げずに樹脂パターンの太り現象を抑制するという効果の点を考慮すると、1−ナフトールがより好ましく例示される。
【0057】
溶剤は、硬化性樹脂組成物の感度を高め、また、硬化性樹脂組成物の粘度を、樹脂パターンを形成する基材の表面に硬化性樹脂組成物を塗布するのに適したものとするのに使用される。このような溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸ブチル、メチルアミルケトン(2−ヘプタノン)、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)等が例示される。硬化性樹脂組成物における溶剤の添加量は、硬化性樹脂組成物の塗布性を考慮して適宜決定すればよい。なお、本発明に係る硬化性樹脂組成物の場合、アスペクト比が1以上のパターン形成を行うという観点からは、一般的には該組成物の固形分濃度が50〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。
【0058】
なお、本明細書における各成分の含有量についての記載は、特に注記のない場合、溶剤成分を含まない場合における数値とした。
【0059】
本発明の硬化性樹脂組成物には、さらに所望により、硬化性樹脂組成物と混和性のある添加物、例えば、樹脂パターンの性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、安定剤、着色剤、界面活性剤等の慣用のものを適宜添加することができる。
【0060】
本発明の硬化性樹脂組成物の使用態様として、特に限定されない。一例として、硬化性樹脂組成物の溶液を、スピンコータ等を使用して基材の表面に塗布した後に、溶剤を蒸発除去して樹脂膜を形成させ、この樹脂膜にフォトマスクを通して活性エネルギー線を照射して硬化させる方法が挙げられる。また、樹脂フィルムにより両面を保護した状態で硬化性樹脂組成物をフィルム状に成形し、これを基材の表面に貼り付けてから、フォトマスクを通して活性エネルギー線を照射して硬化させる方法も挙げられる。
【0061】
フォトマスクのパターンに基づいて露光された硬化性樹脂組成物は、現像工程を経ることにより、活性エネルギー線の照射を受けなかった部分、すなわち未硬化部が除去される。これにより、樹脂パターンとしての硬化物が得られる。樹脂パターンは、必要に応じてポストベーク処理を施されてもよい。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物が硬化されて形成された硬化物は、既に述べたように、高いアスペクト比を有し、解像性が高いことに加えて、クラックの発生が抑制される。そのため、基材をエッチングする際のエッチングマスクとして優れるほか、例えば、インクジェットプリンタにおける印字ヘッド等といった電子デバイスの作製に必要な、優れた寸法安定性を有する微小樹脂成形体として使用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の硬化性樹脂組成物について、実施例を示してさらに具体的に説明するが、これらの実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではない。
【0064】
[感光性樹脂組成物(実施例1〜10及び比較例1〜7)]
表1に記載の処方(単位は質量部)に従って、多官能エポキシ樹脂、アクリルモノマー、カチオン重合開始剤及び溶剤を混合して、実施例1〜10の硬化性樹脂組成物を調製した。また、表2に記載の処方(単位は質量部)に従って、多官能エポキシ樹脂、アクリルモノマー、カチオン重合開始剤、ラジカル重合開始剤及び溶剤を混合して、比較例1〜7の硬化性樹脂組成物を調製した。なお、表1及び表2において、多官能エポキシ樹脂を「エポキシ樹脂」と記載した。
【0065】
表1及び表2において、エポキシ樹脂Aは、8官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製jER157S70)を、エポキシ樹脂Bは、平均5.6官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、エピクロンN−865)を、エポキシ樹脂Cは、平均2官能ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製jER1007)を、エポキシ樹脂Dは、平均2官能柔軟骨格型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、エピクロンEXA4850−150)をそれぞれ表す。
【0066】
また、表1及び表2において、アクリルモノマーAは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6官能(1分子中の不飽和結合の数を官能数として表す。以下同じ)、日本化薬株式会社製)を、アクリルモノマーBは、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(4官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−450)を、アクリルモノマーCは、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(4官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−408)を、アクリルモノマーDは、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−350)を、アクリルモノマーEは、トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−309)を、アクリルモノマーFは、ポリプロピレングリコールジアクリレート(2官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−270)を、アクリルモノマーGは、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート(3官能、東亞合成株式会社製、アロニックスM−203)を、アクリルモノマーHは、2,2−ビス[4−(メタクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(1分子中EO付加量4)(2官能、新中村化学株式会社製、BPE−200)を、アクリルモノマーIは、2,2−ビス[4−(メタクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(1分子中EO付加量30)(2官能、新中村化学株式会社製、BPE−1300N)をそれぞれ表す。これらのアクリルモノマーの中で、アクリルモノマーG、H及びIは、分子中に環状構造を有し、その他のアクリルモノマーは、分子中に環状構造を有さず、鎖状構造で構成されている。
【0067】
また、表1及び表2において、カチオン重合開始剤Aは、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート(株式会社ADEKA製、SP−172)を、カチオン重合開始剤Bは、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート(サンアプロ株式会社製、CPI−210S)を、カチオン重合開始剤Cは、ジフェニル[4−(p−ターフェニルチオ)フェニル]スルホニウムトリフルオロトリスペンタフルオロエチルホスファート(サンアプロ株式会社製、HS−1PG)をそれぞれ表す。
【0068】
また、表1及び表2において、溶剤Aは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を、溶剤Bは、γ−ブチロラクトンをそれぞれ表す。さらに、表2において、ラジカル重合開始剤Aは、チバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア907を、ラジカル重合開始剤Bは、チバスペシャリティケミカルズ社製のCGI−242をそれぞれ表す。
【0069】
[硬化試験]
実施例1〜10及び比較例1〜7の硬化性樹脂組成物のそれぞれについて、硬化性樹脂組成物をスピンコータでシリコン基板上に塗布し、さらに、塗布された硬化性樹脂組成物に含まれる溶剤を蒸発除去することにより、シリコン基板上に厚さ30μmの樹脂膜を作製した。プレベーク加工として、この硬化性樹脂組成物をシリコン基板ごと90℃で10分間加熱した後に、1辺の長さが20μmの正方形を遮光部分として複数個設けたフォトマスクをソフトコンタクトにて上記樹脂膜に被せ、紫外線を照射した。これにより、1辺の長さが20μmの正方形部分を残して、上記膜の他の部分は紫外線が照射されて硬化することになる。紫外線照射には、キヤノン株式会社製のPLA−501Fを使用し、300mJ/cmの紫外線(ghi線)を照射した。
【0070】
紫外線照射後、露光後加熱工程(PEB)として、上記樹脂膜をシリコン基板ごと90℃で5分間加熱し、その後、現像工程として、PGMEAに3分間浸漬した。以上の工程を経ることにより、シリコン基板上に正方形の穴部を複数個有する樹脂パターンが形成された。
【0071】
得られた樹脂パターンを顕微鏡で観察し、その解像性及びクラックの有無を調べた。その結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2のクラックの評価において、「○」とは、作製された樹脂パターン(硬化物)にクラックの発生が認められなかったことを意味し、「×」とは、作製された樹脂パターン(硬化物)にクラックの発生が認められたことを意味する。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1に示す通り、本発明の所定の条件を満たす実施例1〜10の硬化性樹脂組成物は、その硬化物である樹脂パターンにおいて、いずれも10μm未満の解像性を示し、かつクラックの発生も認められなかった。
その一方で、表2に示す通り、アクリルモノマーを含有しない比較例1及び2、カチオン重合開始剤を含有せず、代わりにラジカル重合開始剤を含有する比較例3及び4、並びに環状構造を有するアクリルモノマーを含有する比較例5〜7の硬化性樹脂組成物では、その硬化物である樹脂パターンにおいて、解像性又はクラック耐性において不良であることが理解される。
このことから、本発明の所定の条件を満たす硬化性樹脂組成物では、その硬化物において、良好な解像性とクラック耐性とを両立できることが理解される。
なお、環状構造を有するアクリルモノマーを含有する比較例5〜7の硬化性樹脂組成物において、比較例5及び6は、硬化物において、クラック耐性が不良である半面、解像性が良好であり、比較例7は、硬化物において、クラック耐性が良好である半面、解像性が不良だった。環状構造を有するアクリルモノマーを使用した硬化性樹脂組成物において、このように異なる傾向を示した理由は、次のように推察される。すなわち、比較例5及び6の硬化性樹脂組成物に使用されたアクリルモノマーがエチレンオキシド鎖を持たないか、短いエチレンオキシド鎖しか持たないのに対して、比較例7の硬化性樹脂組成物に使用されたアクリルモノマーは、長いエチレンオキシド鎖を持つ。このため、比較例7の硬化性樹脂組成物では、得られた硬化物がやや柔軟なものとなり、内部応力が小さくなったと考えられる。このことから、分子内に環状構造を有するアクリルモノマーを使用すると、基本的には、クラック耐性を低下させる傾向にあると理解される。
【0075】
また、実施例1〜10の硬化性樹脂組成物の中でも、官能基数(不飽和結合の数)が2個であるアクリルモノマーを使用した実施例6の硬化性樹脂組成物では、官能基数が3以上であるアクリルモノマーを使用した実施例1〜5及び7〜10の硬化性樹脂組成物に比べて、硬化物において、解像性がやや低下することが理解される。このことから、硬化性樹脂組成物に使用されるアクリルモノマーは、官能基数が3以上であればより好ましいと理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)常温で固状の多官能エポキシ樹脂と、(B)カチオン重合開始剤と、(C)(メタ)アクリルモノマーとを含む硬化性樹脂組成物であって、
前記(C)(メタ)アクリルモノマーが、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された2以上のエチレン性不飽和結合を有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)(メタ)アクリルモノマーが下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表される請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【化1】

(上記一般式(1)中、Lは、それぞれ独立に−CHCH又は−CHOHであり、Mは、それぞれ独立に−CHO(C=O)CH=CH又は−CHOC(=O)C(CH)=CHである。また、mは0から2の整数であり、nは1から3の整数であり、m+n=3である。)
【化2】

(上記一般式(2)中、Xは、それぞれ独立に−CHCH又は−CHOHであり、
Yは、それぞれ独立に−CHO(C=O)CH=CH、−CHOC(=O)C(CH)=CH、−CHO(CO)C(=O)CH=CH又は−CHO(CO)(C=O)CH=CHである。また、pは0から2の整数であり、qは2から4の整数であり、p+q=4である。また、r及びsは、それぞれ1から15の整数である。)
【化3】

(上記一般式(3)中、Zは、−C(=O)CH=CH、−C(=O)C(CH)=CHであり、Z’は、−OC(=O)CH=CH又は−O(C=O)C(CH)=CHであり、Rは、−(OC−、−(OC−、又は−(OC−(OC−である。また、t及びuは、それぞれ1から15の整数であり、v及びwは、それぞれ正の整数であり、v及びwの和が15以下である。)
【請求項3】
前記(C)(メタ)アクリルモノマーが、酸素原子を含んでもよい鎖状のアルキレン鎖で互いに連結された3以上のエチレン性不飽和基を有する請求項1又は2記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。

【公開番号】特開2011−111588(P2011−111588A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271578(P2009−271578)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】