説明

硬化性樹脂組成物

【課題】
比較的低温での加熱により急速に硬化して高接着力を示す硬化性組成物であり、被着体を被着状態にして光照射をすることにより、被着体の仮固定をすることができ、ついで加熱することにより被着体を硬化することができるもの。
【解決手段】
(1)(A)分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物、(B)分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を含む化合物、(C)分子内に1つ以上のオキシラン環を有しチイラン環を含まない化合物、の上記(A)〜(C)で示される1つ以上の化合物を含み、オキシラン環/チイラン環の含有数の割合が40/60〜10/90である前記化合物もしくは前記化合物の混合物、(2)分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物
(3)熱潜在性硬化促進剤、(4)(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(5)酸性化合物および/またはホウ酸エステル類、(6)光開始剤を必須成分とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性と比較的低温での加熱による速硬化性に優れ、高接着力を有し、加熱硬化時に分離未硬化を起こさない、貯蔵安定性(保存安定性)が良好である一液性の硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の持つオキシラン環の酸素原子のすべてまたは一部を硫黄原子に置き換えたチイラン環を有する化合物はエピスルフィド樹脂として知られている。エピスルフィド樹脂はエポキシ樹脂に比べ、アミン化合物との低温硬化性に優れる、耐水性がよい、屈折率が高い、難燃性を有する等の特徴があることが知られている。しかしながら従来のエピスルフィド系組成物の大部分は二液型であり、実際の使用直前に樹脂成分と硬化剤部分を計量、混合、脱泡するなどの煩雑な工程が必要であり、また混合後の使用可能期間が限られており、混合ミスなどの可能性もあるため、作業性、信頼性に劣るという欠点があった。例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3には、エポキシ樹脂系組成物より低温速硬化であるエピスルフィド樹脂系組成物が示されているが、これらの組成は二液性であり前述のような作業性・信頼性上の問題を抱えている
【0003】
この問題を解決する手法として、常温ではエピスルフィド樹脂と反応せず、加熱などの刺激によって反応性を示す、いわゆる潜在性硬化剤を用いることによって前述のような二液型組成物の問題を解決した一液型組成物を得ることができることが知られている。例えば特許文献4にはエピスルフィド樹脂を含む樹脂に硬化剤としてカルボン酸含有化合物と熱潜在性触媒を用いて一液化した具体例が記載されている。しかしながらこの組成物は硬化時間(焼付時間)に140℃で30分を要するため、より低温・短時間の加熱条件で硬化可能なエピスルフィド系加熱硬化型一液性組成物が望まれている。特許文献5にはエピスルフィド樹脂を含む樹脂に硬化剤としてフェノールやジシアンジアミドを添加した具体例が記載されているが、貯蔵安定性については記載がなく、また硬化温度も170℃を要し低温速硬化性を示すものではない。特許文献6、特許文献7、特許文献8には潜在性硬化剤を用いることでエピスルフィド樹脂を用いた加熱硬化型一液性樹脂組成物が可能であるとされているが、具体的にどの硬化剤をどの程度用いれば良好な低温速硬化性と貯蔵安定性が得られるか具体的事例が記載されていない。
【特許文献1】特開昭50−124952号公報
【特許文献2】特開平11−140161号公報
【特許文献3】特開2002−173533号公報
【特許文献4】特開平4−202523公報
【特許文献5】特開2004−142133公報
【特許文献6】特許3253919号公報
【特許文献7】特許3540926号公報
【特許文献8】特開2001−342253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、前述の課題を解決するため特願2005−039929号において、
(1)(A)分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物、(B)分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を1つ以上含む化合物、(C)分子内に1つ以上のオキシラン環を有し、チイラン環を含まない化合物、の上記(A)〜(C)で示される1つ以上の化合物を含み、オキシラン環/チイラン環の含有数の割合が80/20〜0/100である前記化合物もしくは前記化合物の混合物、
(2)分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物と、
(3)熱潜在性硬化促進剤
前記(1)〜(3)を必須成分とする加熱硬化型一液性樹脂組成物が、従来のエピスルフィド系組成物より低温速硬化性に優れ、かつ良好な貯蔵安定性を有することを確認した。
【0005】
上記技術は低温硬化性に優れ、かつ速硬化であるため従来の加熱硬化性樹脂に比べ、加熱硬化工程が簡便になったものの、加熱硬化樹脂は加熱時に粘度が低下し、被着体を固定する保持力が低下するため、位置ズレや被着体の落下が生じる。そのため、加熱工程中、被着体を保持・固定する治具や装置が必要であり、この治具ごと加熱炉などに入れて加熱する必要があるため、治具の熱損失によるエネルギーの損失や時間のロス、治具の劣化、などの問題があった。
【0006】
そこで、本発明では上述した加熱硬化型一液性樹脂組成物をさらに改良すること、すなわち、加熱硬化性に加えてさらに光硬化性を付与することにより、加熱時に被着体を保持し続ける必要のない硬化性組成物を達成することができた。すなわち、被着体を被着状態にし、光照射して硬化性組成物を仮硬化させることにより、治具を取り外しても被着体は保持され、その状態で加熱することにより硬化性組成物が完全硬化して、強い接着力で被着体を接着することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するため鋭意検討した結果、本願発明者は、
(1)(A)分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物、(B)分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を含む化合物、(C)分子内に1つ以上のオキシラン環を有しチイラン環を含まない化合物、の上記(A)〜(C)で示される1つ以上の化合物を含み、オキシラン環/チイラン環の含有数の割合が40/60〜10/90である前記化合物もしくは前記化合物の混合物
(2)分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物
(3)熱潜在性硬化促進剤
(4)(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(5)酸性化合物および/またはホウ酸エステル類
(6)光開始剤
前記(1)〜(6)を必須成分とする組成物が、光硬化性を有し低温速硬化性に優れ、高接着力を有し、加熱硬化時に分離未硬化を起こさず、かつ貯蔵安定性(保存安定性)が良好である硬化性樹脂組成物であることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、一液性で貯蔵安定性(保存安定性)が良好であり、比較的低温での加熱により急速に硬化するとともに、高接着力を有し、分離未硬化を起こすことなく強靭で優れた物性を示す硬化物を形成する。また、光硬化性を有するため、被着体を被着状態にして光照射をすることにより、被着体の仮固定をすることができ被着状態を保持する治具により保持し続ける必要がなく、加熱時には治具による保持なく加熱することができる。よって、治具による熱損失がないため、エネルギーの損失や治具の温度変化を待つ時間を削減することができ、被着体を位置ズレなく接着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)チイラン環を含む樹脂成分について
本発明で使用される化合物(A)は、分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物であれば良い。また、化合物(B)は、分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を1つ以上含む化合物であれば良い。なお、化合物(A)、(B)は、オキシラン環とチイラン環以外の官能基を有していても良い。その具体例としては例えばヒドロキシル基、ビニル基、アセタール基、エステル基、カルボニル基、アミド基、アルコキシシリル基等である。さらに、前記化合物(A)または(B)は、それぞれ単独、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0010】
本発明の化合物(A),(B)のチイラン環含有化合物は各種方法で製造される。例えばヒドロキシメルカプタンの熱加水分解、1,2−クロロチオールの弱アルカリ溶液での処理、エチレン性不飽和エーテルの硫黄またはポリサルフィドジアルキルのような化合物との処理が挙げられる。
【0011】
また、エポキシ化合物を原料としてオキシラン環の酸素原子の一部あるいは全部を硫黄原子に置換してチイラン環含有化合物を得る方法でも良く、本方法は既に知られている。このような化合物はエピスルフィド、またはエピスルフィド樹脂とも呼ばれる。例示すると、J.Polym.Sci.Polym.Phys.,17,329(1979)に記載のエポキシ化合物とチオシアン酸塩を用いる方法や、J.Org.Chem.,26,3467(1961)に記載のエポキシ化合物とチオ尿素を用いる方法、特開2000−351829号公報、特開2001−342253号公報に示される方法等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0012】
本発明の化合物(A)の具体例としては、例えば、2,2−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)フェニル)プロパン、ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)フェニル)メタン、1,6−ジ(2,3−エピチオプロポキシ)ナフタレン、1,1,1−トリス−(4−(2,3−エピチオプロポキシ)フェニル)エタン、2,2−ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)プロパン、ビス(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)メタン、1,1,1−トリス−(4−(2,3−エピチオプロポキシ)シクロヘキシル)エタン、1,5−ペンタンジオールの2,3−エピチオシクロヘキシル)エーテル、1,6−ヘキサンジオールのジ(3,4−エピチオオクチル)エーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の1分子中にチイラン環とオキシラン環の両方を持つ化合物(B)は、エポキシ化合物を原料としてエポキシ環中の酸素原子を硫黄原子に交換してエピスルフィド樹脂を合成するときに、エピスルフィド化試薬の使用量或いは反応条件を調整することによって得ることができる。また、各種精製方法で分離して得た部分エピスルフィド化物を全エピスルフィド化物と混合しても得ることができる。
【0014】
本発明においてより好ましいチイラン環含有化合物は、特開2000−351829号公報に示されるような、ビスフェノール骨格を有するエポキシ化合物の芳香環の炭素−炭素不飽和結合を水素化(水添)した、水素化ビスフェノールエポキシ樹脂が有するオキシラン環の酸素原子の全てまたは一部を硫黄原子に置換したチイラン環を含む化合物、特に水素化ビスフェノールA骨格を含むチイラン環含有化合物であり、この化合物を用いた組成物は特に硬化性、作業性と貯蔵安定性に優れる。
【0015】
本発明に使用される分子内に1つ以上のオキシラン環を有し、チイラン環を含まない化合物(C)は、一般的にエポキシ化合物と呼ばれるものである。このエポキシ化合物はその分子内に1つ以上のエポキシ基を有していればよい。このエポキシ化合物の市販製品としては、例えば単官能エポキシ化合物として、ジャパンエポキシレジン株式会社製のカージュラE10P、ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX111、EX121、EX141、EX145、EX146、信越化学工業株式会社製KBM403等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物として、例えばジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート828、1001、801、806、807、152、604、630、871、YX8000、YX8034、YX4000、大日本インキ工業株式会社製のエピクロン830、835LV、HP4032D、703、720、726、HP820、旭電化工業株式会社製のEP4100、EP4000、EP4080、EP4085、EP4088、EPU6、EPR4023、EPR1309、EP49−20等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。上述したこれらのエポキシ化合物は、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。単官能エポキシ化合物は組成物の性状(例えば粘度)を調整したり、硬化物の架橋密度を調整するために好ましく用いられる。また、2つ又はそれ以上の官能基を有するエポキシ化合物は、耐熱性・接着性を向上するために好ましく添加される。特にビスフェノール型エポキシ樹脂を含む場合は、より強靱かつ硬化性と保存安定性のバランスに優れるため好ましい。なお、上記した(A)〜(C)の各成分は、オキシラン環とチイラン環以外の官能基を有していても良い。例えばヒドロキシル基、ビニル基、アセタール基、エステル基、カルボニル基、アミド基、アルコキシシリル基等である。
【0016】
本発明の組成物における(A)〜(C)で示される化合物は、分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物(A)、または分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を共に1つ以上含む化合物(B)、または分子内に1つ以上のオキシラン環を有し、チイラン環を含まない化合物(C)のうち1種以上を含み、オキシラン環/チイラン環の含有数の割合が40/60〜10/90である前記化合物もしくは前記化合物の混合物である。チイラン環の含有数の割合がこの範囲より小さくなると、充分な速硬化性を発現することができない。オキシラン環を含む化合物が存在すると潜在性硬化剤の溶解性が向上し結果的に硬化速度がより向上する。
【0017】
(2)分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物について
本発明に使用されるチオール化合物は、分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物であれば良い。具体的に例示すると、3−メトキシブチル3−メルカプトプロピオネート、2−エチルヘキシル3−メルカプトプロピオネート、トリデシル3−メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリストールテトラキスチオプロピオネート、メチルチオグリコレート、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、1,4−ブタンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリストールテトラキスチオグリコレート、ジ(2−メルカプトエチル)エーテル、1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、3−メルカプト2−ブタノール、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ベンゼンチオール、ベンジルメルカプタン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチル−2,4,6−トリメチルベンゼン、末端チオール基含有ポリエーテル、末端チオール基含有ポリチオエーテル、エポキシ化合物と硫化水素との反応によって得られるチオール化合物、ポリチオール化合物とエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
市販されているチオール化合物の製品としては、例えばジャパンエポキシレジン株式会社製のエポメートQX11、QX12、エピキュアQX30、QX40、QX60、QX900、カプキュアCP3−800、淀化学株式会社製のOTG、EGTG、TMTG、PETG、3−MPA、TMTP、PETP、東レファインケミカル株式会社製チオコールLP−2、LP−3、ポリチオールQE−340M、信越化学工業株式会社製KBM803等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。
より好ましいチオール化合物は、貯蔵安定性の面からは塩基性不純物の極力少ないものである。また硬化物の耐熱性の面からは官能基数が2以上のチオール化合物および分子内に芳香環を含むチオール化合物がより好ましい。
【0019】
本発明の組成物における成分(2)の配合量については特に制限はないが、好ましくは前記成分(1)100重量部に対して5〜30重量部である。この範囲であれば特に硬化速度、貯蔵安定性が向上でき、また、硬化物の強度や耐熱性のバランスに優れた組成物を得ることができる。5重量部未満であれば硬化速度を向上させる能力が低くなり、30重量部を超えて添加していくと貯蔵安定性が低くなりつつある。
【0020】
(3)熱潜在性硬化促進剤
本発明に使用される熱潜在性硬化促進剤とは、室温ではエポキシ樹脂に対し活性を持たず、加熱することにより溶解、分解、転移反応などにより活性化し促進剤として機能する化合物である。例えば常温で固体のイミダゾール化合物およびその誘導体、各種アミンと酸との塩、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。さらに、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤の例としては、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン−エポキシアダクト系)やアミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)、等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの熱潜在性硬化促進剤のうち好ましくは固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、より好ましくは尿素型アダクト系の熱潜在性硬化促進剤が、本発明の組成物の低い硬化温度と貯蔵安定性に優れた効果を発揮する。これら熱潜在性硬化促進剤の配合量については特に範囲を限定するものではないが、好ましくは前記(1)の合計の樹脂成分100重量部に対し0.1〜30重量部の範囲で添加される。硬化促進剤が少ないと硬化が遅く、多すぎると貯蔵安定性が悪くなる。
【0021】
前記熱潜在性硬化促進剤で市販されている製品としては、例えば四国化成工業株式会社製のイミダゾール化合物2PZ、2PHZ、2P4MHZ、C17Z、2MZ−A、2E4MZ−CNS、2MA−OK、味の素ファインテクノ株式会社製アミキュアPN23、PN31、PN40J、PN−H、MY24、MY−H、旭電化株式会社製EH−3293S、EH−3366S、EH−3615S、EH−4070S、EH−4342S、EH−3731S、旭化成ケミカルズ株式会社製ノバキュアHX−3742、HX−3721、富士化成工業株式会社製FXE−1000、FXR−1030、FXR−1080、FXR−1110などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
(4)(メタ)アクリロイル基を有する化合物
本発明で使用される成分(4)は(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、分子内に(メタ)アクリロイル基を1つまたは2つ以上有するモノマーまたはオリゴマーである。ここで、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基とメタクリロイル基の総称である。本発明の成分(4)の例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの単官能モノマー、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンの6モルプロピレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートなどの多官能モノマーが挙げられる。また、代表的なオリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル基含有のアクリル重合性オリゴマー等が挙げられる。
【0023】
本発明の成分(4)の配合量は特に限定されないが、成分(1)100重量部に対し5〜15重量部が好ましい。5重量部より少ないと光硬化能力が低くなり、15重量部より多いと本組成物中にしめる成分(1)の存在比が少なくなり、接着強度が低下する。
【0024】
(5)酸性化合物および/またはホウ酸エステル類
本発明で使用される酸性化合物および/またはホウ酸エステル類とは、硬化促進剤表面と反応し硬化促進剤表面の塩基性をブロックする役割を果たし、組成物の保存状態での貯蔵安定性をさらに向上させる効果がある。
【0025】
酸性化合物は、室温で液状または固体の有機酸、または無機酸である。例えば硫酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、フマル酸、バルビツール酸、ホウ酸、ピロガロール、フェノール樹脂、カルボン酸無水物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0026】
ホウ酸エステル類は、室温で液状または固体のホウ酸エステルである。例えばトリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ−n−プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ−n−ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ−o−トリルボレート、トリ−m−トリルボレート、トリエタノールアミンボレート、、トリス(2−エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10−テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13−ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7−トリオキサウンデシル)ボラン、2−(β−ジメチルアミノイソプロポキシ)−4,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサボロラン、2−(β−ジエチルアミノエトキシ)−4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナン、2−(β−ジメチルアミノエトキシ)−4,4,6−トリメチル−1,3,2−ジオキサボリナン、2−(β−ジイソプロピルアミノエトキシ)−1,3,2−ジオキサボリナン、2−(β−ジイソプロピルアミノエトキシ)−4−メチル−1,3,2−ジオキサボリナン、2−(γ−ジメチルアミノプロポキシ)−1,3,6,9−テトラプキサ−2−ボラシクロウンデカン、および2−(β−ジメチルアミノエトキシ)−4,4−(4−ヒドロキシブチル)−1,3,2−ジオキサボリナン、2,2−オキシビス(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサボナリン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0027】
これら(5)酸性化合物および/またはホウ酸エステル類は、それぞれ単独でも、2種以上を混合して使用しても良い。またこれら酸性物質とエポキシ樹脂等を混合しマスターバッチ化したものを保存安定性向上剤として添加しても良い。このような保存安定性向上剤としては市販されている製品としては例えば四国化成工業製キュアダクトL−07N等が挙げられるがこれに限定されるものではない。これら酸性物質およびホウ酸エステルの配合量については特に範囲を限定するものではないが、好ましくは(1)の樹脂成分100重量部に対し0.01〜10重量部の範囲で添加される。添加により貯蔵安定性がさらに向上するが、添加量が10重量部を超えると硬化性が低下し、0.01重量部未満であると効果が認められない。
【0028】
(6)光開始剤
本発明の成分(6)は光開始剤であり、光照射により成分(4)を重合させるものである。光開始剤としては、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサンソン、2−クロルチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフインオキサイド、メチルフェニルグリオキシレート、ベンジル、カンファーキノンなどが挙げられる。この光開始剤の配合量は、成分(4)の配合量によるが、(1)成分100重量部に対して0.01〜0.5重量部である。0.01重量部未満では硬化速度が遅く、逆に0.5重量部を超える量を使用しても硬化速度の向上はみられず、保存安定性を損なうため好ましくない。
【0029】
紫外線照射を行う時の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライド灯などが用いられる。照射時間は、光源の種類、光源と塗布面との距離、その他の条件により異なるが、長くとも数十秒であり、通常は数秒である。紫外線照射後は、60℃〜100℃程度の比較的低温での加熱を行って硬化の完全を図る。電子線照射の場合は、50〜1,000KeVの範囲のエネルギーを持つ電子線を用い、2〜5Mradの照射量とすることが好ましい。通常、ランプ出力80〜300W/cm程度の照射源が用いられる。被覆材の厚さは通常、20〜200μm程度である。
【0030】
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・難燃性・熱伝導性、作業性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【0031】
本発明の硬化性樹脂組成物は、一液性であり、貯蔵安定性が良好で、低い加熱温度により急速に硬化し強靭で優れた物性を示す硬化物を形成、高接着力を有し、かつ分離未硬化を起こさないため、作業性と信頼性に優れた接着剤等として有用である。本発明の硬化性樹脂組成物は被着体に塗布し、光照射をすることにより、被着体からはみ出した少量の樹脂組成物が硬化し、仮固定には十分な接着性を発現する。この状態で加熱炉などに投入し加熱することにより、被着体を固定する治具などがなくとも被着体を被着状態に維持することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。また、下記の表中の配合割合は特に断りのない限り重量基準である。
【0033】
実施例に使用した化合物は下記の通りである。
・化合物A:ジャパンエポキシレジン株式会社製 水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の100%エピスルフィド化品(成分(A))
・化合物B:ジャパンエポキシレジン株式会社製 水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の80%エピスルフィド化品(成分(B))
・デナコールEX146:ナガセケムテックス株式会社製 p−ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル(成分(C))
・エピコート807:ジャパンエポキシレジン株式会社製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂(成分(C))
・エピキュアQX30:ジャパンエポキシレジン株式会社製 3官能脂肪族ポリチオール(成分(2))
・FXR1080:富士化成工業株式会社製 アミンアダクト系潜在性硬化剤(成分(3))
・IBXA:大阪有機化学工業社製 イソボルニルメタクリレート (成分(4))
・L−07N:四国化成工業株式会社製キュアダクト 2,2−オキシビス(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサボナリン(成分(5))
・イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(成分(6))
【0034】
(実施例1〜8および比較例1〜8)
下記表1に示す通りの重量比で材料を混合攪拌し、実施例1〜8および比較例1〜6の各試料(組成物)を得た。得られた各試料を下記項目について評価検討を行った。その結果を表1に合わせて示す。
【0035】
各項目の測定方法を以下に記載する。
[チイラン環含有率]
各種試料の成分(1)のチイラン環含有率を次式の計算により求めた。
チイラン環含有率(%)=成分(1)のオキシラン当量/(成分(1)のチイラン当量+成分(1)のオキシラン当量)×100
言い換えると、チイラン環含有率(%)=成分(1)中のチイラン環存在数/(成分(1)中のチイラン環存在数+成分(1)中のオキシラン環存在数)である。なお、成分(1)中のオキシラン当量、チイラン当量の測定は過塩素酸滴定などの公知の方法で測定することができる。
【0036】
[光硬化性の評価]
PETフィルムに各種試料を塗布した後、セラミックチップ(Φ2mm,H1mm)を設置し、UVランプ(高圧水銀ランプ)を用いて700mJ/cmにて光照射して硬化させ、試験片を作成した。仮硬化の評価は、上記試験片を垂直に立て振動を加え、位置ズレが起きなかったものを○、位置ズレが起きたものを×とした。
【0037】
[80℃での接着強度]
光硬化性の評価で用いた試験片を、次の硬化条件で硬化させることにより試験片を作成した。硬化条件は、80℃に設定したホットプレート上に20分間試験片をのせ、樹脂を硬化させた。これをプッシュプルゲージを用いて25℃にてせん断の接着強度を測定した。接着強度が10MPa以上のものを○とし、5〜10MPaのものを△、それ以下のものを×とした。
【0038】
[保存性試験]
各組成物を50mlガラス瓶に約30ml入れ密栓し、−20℃に設定した保冷庫にて貯蔵し、粘度が初期の2倍未満であった各種組成物を○とし、それ以外のものを×とした。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は作業性と信頼性に優れ、輸送機器、電機機器、電子機器産業等の接着、封止、剤等としての使用が可能であり、特に低い加熱温度での速硬化性が要求される電子部品の実装・組立用の接着剤・封止剤として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(A)分子内に2つ以上のチイラン環を含む化合物、(B)分子内にチイラン環とオキシラン環の両方を含む化合物、(C)分子内に1つ以上のオキシラン環を有しチイラン環を含まない化合物、の上記(A)〜(C)で示される1つ以上の化合物を含み、オキシラン環/チイラン環の含有数の割合が40/60〜10/90である前記化合物もしくは前記化合物の混合物
(2)分子内にチオール基を1つ以上有するチオール化合物
(3)熱潜在性硬化促進剤
(4)(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(5)酸性化合物および/またはホウ酸エステル類
(6)光開始剤
前記(1)〜(6)を必須成分とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化性樹脂組成物の配合割合が、成分(1)100重量部に対して、成分(2)の添加量が5〜30重量部、成分(3)が0.1〜30重量部、成分(4)が5〜15重量部、成分(5)が0.01〜10重量部であり、成分(6)は0.01〜0.5である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。


【公開番号】特開2008−1867(P2008−1867A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175698(P2006−175698)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】