説明

硬貨分類装置および硬貨分類方法

【課題】貨幣の画像照合精度を高めるとともに、貨幣の微細な特徴を効率的に照合することを課題とする。
【解決手段】金種識別処理部が硬貨の金種を取得し、取得した金種を受け取った第1の真偽識別処理部が硬貨の真偽識別処理をおこなうよう構成する。そして、年代識別処理部が硬貨の発行年を識別し、第2の真偽識別処理部が、先に識別された金種および発行年を用いて特徴テーブルを検索して特徴部テンプレート画像と特徴範囲とを取得し、特徴部テンプレート画像と入力画像の対応部分とを照合するよう構成する。さらに、真偽判定部が、第1の真偽識別処理、年代識別処理および第2の真偽識別処理の処理結果に基づいて、硬貨の真偽を判定するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬貨が発行された年代を考慮しつつ効率良く硬貨を分類する硬貨分類装置および硬貨分類方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入金された貨幣をCCD(Charge Coupled Device)カメラやイメージセンサ等で撮影した入力画像と、あらかじめ登録されているテンプレート画像とを照合し、かかる貨幣の真偽を判定する貨幣識別装置が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、硬貨の入力画像と硬貨のテンプレート画像とを対比して相関値を算出し、対比対象となる全体画像のうち所定面積以上の部分において、かかる相関値が閾値を超えている場合には、入力画像に係る硬貨を真正硬貨(以下、「真貨」と言う)と判定する貨幣識別技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−187289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この従来技術を用いた場合、硬貨の発行年部分は硬貨の鋳造年ごとに異なるので、発行年部分の相関値は低くなり、結果的に発行年部分は照合対象から除かれることが通常である。このため、真貨のデザインを模倣しつつも発行年が刻まれていない偽造硬貨(以下、「偽貨」と言う)や、特定の発行年が刻まれた偽貨を精度よく識別することができないという問題があった。
【0006】
また、近年では偽貨対策として真貨にさまざまな特徴部分をもたせることが多い。たとえば、硬貨のデザインに微細点や微細線などの詳細・微細なセキュリティ特徴をもたせるとともに、かかるセキュリティ特徴を数年おきに変更するなどの試みがなされている。そして、将来的には、真貨を巧妙に模倣した偽貨に対処するために、セキュリティ特徴の変更頻度が高められていくことが予想される。しかし、このような詳細・微細なセキュリティ特徴をすべて照合対象とすると照合処理に負荷がかかり効率的な照合をおこなうことが困難となってしまう。
【0007】
なお、かかる問題点は、硬貨の識別処理においてのみ発生する問題ではなく、紙幣の識別処理、および市場に流通する商品に付されたセキュリティ標識の識別処理においても同様に発生する問題である。
【0008】
この発明は、上記課題(問題点)に鑑みてなされたものであり、硬貨の画像照合精度を高めるとともに、硬貨の微細な特徴を効率的に照合することによって、高精度な硬貨の分類を行うことができる硬貨分類装置および硬貨分類方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、硬貨の入力画像と予め登録された文字テンプレート画像とを照合することによって前記硬貨の分類処理を行う硬貨分類装置であって、前記入力画像を極座標変換する極座標変換画像取得手段と、予め登録されている基準画像との照合により回転角を取得する回転角取得手段と、前記取得された回転角を基に前記硬貨の入力画像と前記文字テンプレートの回転角を一致させる画像回転手段と、前記硬貨の入力画像の一部をなす発行年を示す文字部分を含む部分画像と前記文字テンプレート画像とを、両画像の回転角が揃った状態で照合を行い、その照合値に基づいて、前記硬貨の発行年を識別する発行年識別手段と、前記発行年識別手段の識別結果に基づいて前記硬貨を分類処理する分類処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記分類処理手段は、前記発行年識別手段により識別された所定の発行年の硬貨を他の発行年の硬貨と分類処理することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記分類処理手段は、前記発行年識別手段により硬貨の発行年が識別されない場合には、該硬貨をリジェクト対象として分類処理することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記分類処理手段は、複数の発行年の硬貨の特徴部分をそれぞれ示す複数の特徴部テンプレートを記憶する特徴部テンプレート記憶手段と、前記発行年識別手段により硬貨の発行年が識別された場合に、該発行年に対応する硬貨の特徴部テンプレートを前記特徴部テンプレート記憶手段から検索する検索手段と、前記硬貨の入力画像の一部をなす該硬貨の特徴部分を示す部分画像と前記検索手段により検索された特徴部テンプレートとの照合値に基づいて、前記硬貨が真貨であるか偽貨であるかを識別処理する真偽識別処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記分類処理手段は、所定の発行年以降とそれまでの旧い年の発行硬貨とを分類することを特徴とする。
また、本発明は、硬貨の入力画像と予め登録された文字テンプレート画像とを照合することによって前記硬貨の分類処理を行う硬貨分類装置の硬貨分類方法であって、前記入力画像を極座標変換する工程と、予め登録されている基準画像との照合により回転角を取得する回転角取得工程と、前記取得された回転角を基に前記硬貨の入力画像と前記文字テンプレートとの回転角を一致させる画像回転工程と、前記硬貨の入力画像の一部をなす発行年を示す文字部分を含む部分画像と前記文字テンプレート画像とを回転角が一致した状態で照合を行い、その照合値に基づいて、前記硬貨の発行年を識別する発行年識別工程と、前記発行年識別工程の識別結果に基づいて前記硬貨を分類処理する分類処理工程とを含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、入力画像を極座標変換し、予め登録されている基準画像との照合により回転角を取得し、取得された回転角を基に硬貨の入力画像と文字テンプレート回転角を一致させ、硬貨の入力画像の一部をなす発行年を示す文字部分を含む部分画像と文字テンプレート画像とを、両画像の回転角が揃った状態で照合を行い、その照合値に基づいて、硬貨の発行年を識別し、この識別結果に基づいて硬貨を分類処理するよう構成したので、硬貨が発行された発行年を考慮しつつ効率良く硬貨を分類することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係る貨幣識別装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係る貨幣識別装置の処理手順の概要を示すフローチャートである。
【図3】図2に示した第1の真偽識別処理の概要を説明するための説明図である。
【図4】図2に示した年代識別処理の概要を説明するための説明図である。
【図5】図2に示した第2の真偽識別処理の概要を説明するための説明図である。
【図6】図2に示した第1の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した画像切出し処理の処理概要を説明するための説明図である。
【図8】図6に示したエッジ抽出処理において用いられるSobelオペレータを説明するための説明図である。
【図9】図6に示したエッジ抽出処理の処理概要を説明するための説明図である。
【図10】実施例1に係る極座標変換処理の処理概要を説明するための説明図である。
【図11】図6に示した回転角検出処理の処理概要を説明するための説明図である。
【図12】図6に示した正負分離相関による照合処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図13】実施例1に係る各領域画像を説明するための説明図である。
【図14】図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれる正規化相関値画像正負分離処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれるテンプレート画像正負分離処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図16】図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれる領域画像生成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図17】図13に示した各領域に対応する画像生成手順を説明するための説明図である。
【図18】図12に示した膨張処理において用いられる画像マスクを説明するための説明図である。
【図19】図12に示した膨張処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図20】図12に示した膨張処理により生成される画像を説明するための説明図である。
【図21】図12に示した照合値算出処理において用いられる画像のブロック分割について説明するための説明図である。
【図22】図2に示した年代識別処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図23】図22に示した年代識別処理において用いられる文字照合テーブルを説明するための説明図である。
【図24】図2に示した第2の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図25】図24に示した第2の真偽識別処理において用いられる特徴テーブルを説明するための説明図である。
【図26】実施例2に係る貨幣識別装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図27】実施例2に係る貨幣識別装置の構成の変形例を示す機能ブロック図である。
【図28】図27に示した変形例に係る第1の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る貨幣識別装置、貨幣識別方法および貨幣識別プログラムの好適な実施例を説明する。なお、以下では、識別対象となる貨幣が硬貨である場合について説明することとする。また、以下の実施例においては識別対象を硬貨としているため極座標変換処理を含むこととしているが、識別対象を紙幣などの非円形の物体とする場合には、かかる極座標変換処理を含まない構成とすることもできる。
【0017】
なお、以下の説明において、実施例1では硬貨の金種識別処理を光センサや磁気センサといったセンサを用いておこなう場合について、実施例2ではかかる金種識別処理をCCDカメラ等で撮像した画像を用いておこなう場合について、それぞれ説明することとする。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1に係る貨幣識別装置1の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、この貨幣識別装置1は、光センサ2、磁気センサ3、CCDカメラ4、制御部10および記憶部20を備えている。そして、制御部10は、金種識別処理部11、第1の真偽識別処理部12、年代識別処理部13、第2の真偽識別処理部14および真偽判定部15をさらに備え、記憶部20は、登録画像21、回転済入力画像22、文字照合テーブル23および特徴テーブル24をさらに備えている。
【0019】
光センサ2は、硬貨の穴の有無を検出するためのセンサであり、磁気センサ3は、硬貨の材質および径を判定するためのセンサである。これらのセンサ(光センサ2および磁気センサ3)は、検知した情報を制御部10の金種識別処理部11に出力する処理をおこなう。そして、金種識別処理部11は、かかるセンサ出力に基づいて硬貨の金種を識別することになる。なお、硬貨の径については光センサ2によって検出することとしてもよい。
【0020】
CCDカメラ4は、照合対象となる硬貨の画像を撮像するためのカメラであり、倍速VGA(Video Graphics Array)カメラなどの硬貨の微細な特徴を撮像するカメラが用いられる。このCCDカメラ4により撮像された硬貨の画像は、第1の真偽識別処理部12に渡される。なお、このCCDカメラ4は、入力画像を所定数の画素の集合体として取り扱う。たとえば、入力画像を256階調の濃度値をもつグレースケール画像として認識し、所定の大きさの矩形画像として第1の真偽識別処理部12に出力する。また、本実施例1においては硬貨の画像を撮像するためにCCDカメラ4を用いることとしたが、これに限らず、高解像度のイメージセンサ等を用いて硬貨の画像を撮像することとしてもよい。
【0021】
金種識別処理部11は、光センサ2および磁気センサ4から出力された情報に基づいて硬貨の金種を識別する処理部である。具体的には、この金種識別処理部11は、磁気センサ3が検出した材質および径と、光センサ2が検出した硬貨の穴の有無とから、硬貨の金種を識別する。なお、上記したように硬貨の径については光センサ2によって検出することとしてもよい。ただし、この場合は、上記の穴の有無を検出する光センサとは異なる方式、たとえば、硬貨の径よりも広いエリアの検出が可能な光センサを用いたり、複数個の光センサを用いたりする方式、によって硬貨の径を検出することになる。
【0022】
第1の真偽識別処理部12は、金種識別処理部11から受け取った金種に基づき、あらかじめ記憶部20に記憶された登録画像21を選択し、選択した登録画像21とCCDカメラ4から取得した入力画像とを照合することにより、硬貨の真偽を識別する処理部である。また、第1の真偽識別処理には、後述する正負分離相関による画像照合処理を用いるので、信頼性の高い識別処理をおこなうことができる。なお、実施例1においては、この第1の真偽識別処理に、後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。
【0023】
この第1の真偽識別処理部12は、硬貨の発行年などの各個体に固有の部分を除いた硬貨の模様に基づいて硬貨の真偽識別処理をおこなう。具体的には、登録画像21として用いるテンプレート画像を、発行年が異なる同種硬貨の平均画像とすることにより、各個体に固有の部分の影響を排除して硬貨の真偽を識別する。かかる真偽識別処理により、100円硬貨や500円硬貨といった金種の真貨や、重量や金属の組成が類似する外貨を変造した偽貨などを識別することができる。
【0024】
また、この第1の真偽識別処理部12では、入力画像から硬貨部分の画像を切出し、エッジ抽出処理によりエッジ部分を強調し、個体ごとの差異を吸収するために正規化したうえで、極座標変換をおこなう。そして、この極座標変換済の入力画像と、同様な処理を経て登録された登録画像21とを平行移動させながら照合することにより回転角を算出する。したがって、識別結果が真貨である場合には、登録画像21と同一の回転角を有する回転済入力画像22が生成されることになる。この回転済入力画像22は、後述する年代識別処理部13および第2の真偽識別処理部14において用いられることになる。
【0025】
年代識別処理部13は、記憶部20の回転済入力画像22および文字照合テーブル23を用いて照合対象となる硬貨の発行年(年代)を識別する処理部である。具体的には、この年代識別処理部13は、第1の真偽識別処理部22において真偽識別された金種を受け取り、受け取った金種に対応する文字テンプレート画像を文字照合テーブル23から取得する。そして、回転済入力画像22から年代をあらわす文字部分を切出し、切り出した各文字と、金種に対応した文字テンプレート画像とを照合することにより、照合対象となる硬貨の年代を識別する。そして、識別された年代は、第2の真偽識別処理部14に渡される。
【0026】
また、かかる年代識別処理部13では、年代を構成する文字の認識に失敗した場合や、文字の認識には成功したものの不当な年代である場合(たとえば、硬貨が発行されていない年代である場合)のように、年代の識別に失敗した場合には、照合対象となる硬貨を「リジェクト対象」と判定する。このように、年代識別に失敗した場合に、ただちに偽貨と判定するのではなく、「リジェクト対象」と判定するのは以下の理由による。
【0027】
すなわち、年代の識別に失敗した硬貨の中には、汚れなどで一部の文字が認識できない真貨(汚損貨)、年代自体が刻印されていない真貨、磨耗によって文字のフォント形状が変化した真貨、などが含まれるのでただちに偽貨とすることは不適切であるためである。なお、「リジェクト対象」のなかでも偽貨である可能性が高い場合、たとえば、年代自体が刻印されていない場合には偽貨として取り扱うこととしてもよい。また、実施例1においては、この年代識別処理に、後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。
【0028】
第2の真偽識別処理部14は、年代識別処理部13から渡された年代を用いて特徴テーブル24を検索することにより、かかる年代の硬貨に特有の特徴部分をあらわす特徴部テンプレート画像を取得する。そして、この特徴部テンプレート画像と、記憶部20の回転済入力画像22の対応する部分とを照合する。なお、実施例1においては、この第2の真偽識別処理に、後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。
【0029】
真偽判定部15は、第1の真偽識別処理部12、年代識別処理部13および第2の真偽識別処理部14の処理結果を受け取り照合対象となる硬貨の真偽について最終的な判定をおこなう処理部である。たとえば、第1の真偽識別処理部12の識別結果が「偽貨」である場合には、年代識別処理や第2の真偽識別処理をおこなうことなく判定結果を出力する。また、第1の真偽識別処理部12、年代識別処理部13および第2の真偽識別処理部14のすべてにおいて「真貨」である旨の結果がでた場合には、かかる結果を出力することになる。
【0030】
このように、実施例1に係る貨幣識別装置1では、従来、照合処理から除外されることが多かった年代部分を文字認識し、さらに、硬貨の年代に特有の特徴部分を管理する特徴テーブルを用いることにより、認識した年代の特徴部テンプレート画像と入力画像の対応する部分とを照合することとしている。したがって、硬貨の微細な特徴を効率よく照合することにより照合率を向上させることができるとともに、偽貨の傾向に合わせて特徴テーブルを保守することにより、効率的に偽貨を検出することができる。
【0031】
次に、実施例1に係る貨幣識別装置1の処理手順の概要について図2〜図5を用いて説明する。図2は、実施例1に係る貨幣識別装置1の処理手順の概要を示すフローチャートである。なお、同図の第1の真偽識別処理(ステップS102)、年代識別処理(ステップS104)および第2の真偽識別処理(ステップS106)の処理手順の詳細については後述する。
【0032】
まず、光センサ2および磁気センサ3が検出した情報に基づいて金種識別処理部10が硬貨の金種を識別すると(ステップS101)、識別された金種を受け取った第1の真偽識別処理部12は、CCDカメラ4により撮像された硬貨の画像(入力画像)と、記憶部20の登録画像21とを照合することにより、金種識別処理部10がおこなった金種識別の真偽識別処理をおこなう(ステップS102)。そして、かかる真偽識別の結果が「真」でない場合には(ステップS103否定)、真偽判定部15は「偽貨」と判定して(ステップS110)判定結果を出力する。
【0033】
ここで、この第1の真偽識別処理(ステップS102)の概要について図3を用いて説明しておく。図3は、図2に示した第1の真偽識別処理の概要を説明するための説明図である。図3に示すように、第1の真偽識別処理部12は、CCDカメラ4から受け取った入力画像をエッジ強調などの前処理をおこなったうえで極座標変換する。そして、この極座標変換済の入力画像と、同様な前処理および極座標変換を経たうえで登録された登録画像21(図3のテンプレート画像)とを照合する。実施例1においては、この第1の真偽識別処理に、後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。
【0034】
図2の説明に戻り、ステップS103以降の処理手順について説明する。第1の真偽識別処理部12の識別結果が「真」である場合には(ステップS103肯定)、第1の真偽識別処理部12により記憶部20に記憶された回転済入力画像22と文字照合テーブルとを用い、年代識別処理部13が硬貨の年代部分の文字認識をおこなうことにより年代識別処理をおこなう(ステップS104)。そして、かかる年代識別処理に失敗した場合には(ステップS105否定)、真偽判定部15は「リジェクト対象」と判定して(ステップS109)判定結果を出力する。一方、年代識別処理に成功した場合には(ステップS105肯定)、正常に識別された年代が第2の真偽識別処理部14に渡される。
【0035】
ここで、この年代識別処理(ステップS104)の概要について図4を用いて説明しておく。図4は、図2に示した年代識別処理の概要を説明するための説明図である。第1の真偽識別処理部12によって金種の真偽が識別されると、図4に示すように、年代識別処理部13は、記憶部20の文字照合テーブル23を検索して該当する金種の文字テンプレート画像を取得する。そして、回転済入力画像22から切り出され位置補正された年代部分の各文字を、取得した文字テンプレート画像と順次照合することにより年代を識別する。このようにして正常に識別された年代は、第2の真偽識別処理部14に渡される(ステップS105肯定)。一方、回転済入力画像22に係る年代部分の文字のいずれかが、文字テンプレート画像のいずれとも一致しない場合には、「リジェクト対象」である旨が真偽判定部15に渡されることになる(ステップS105否定)。
【0036】
実施例1においては、この年代識別処理部13の文字識別処理には、後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。また、一般的な正規化相関法では照合ミスを起こす可能性のある「三」と「五」などの照合処理に正負分離相関による照合方法を用い、他の文字の照合処理には一般的な正規化相関法を用いることとしてもよい。また、文字照合テーブル23は、必ずしも金種ごとにまとめる必要はなく、認識される可能性のある文字を少なくとも含むこととすれば足りる。
【0037】
図2の説明に戻り、第2の真偽識別処理について説明する。年代識別処理において年代識別に成功した場合には(ステップS105肯定)、正常に識別された年代が第2の真偽識別処理部14に渡される。そして、かかる年代を受け付けた第2の真偽識別処理部14は、記憶部20の特徴テーブル24を検索し、該当する年代の特徴部テンプレート画像を取得して回転済入力画像22の対応する部分との照合をおこなう(ステップS106)。
【0038】
ここで、この第2の真偽識別処理(ステップS106)の概要について図5を用いて説明しておく。図5は、図2に示した第2の真偽識別処理の概要を説明するための説明図である。図5に示すように、特徴テーブル24の各レコードは、金種、発行年、特徴部分のX座標およびY座標、特徴部分の幅および高さ、および特徴部テンプレート画像を有する。なお、図5に示したテーブルは、特徴テーブルの一例を示すものであり、上述した情報以外にフォント情報などの情報を含むこととしてもよい。
【0039】
第2の真偽識別処理部14は、第1の真偽識別処理部12により真偽識別された金種および年代識別処理部13により識別された年代を用いて特徴テーブル24を検索する。たとえば、同図においては、金種が「500円」であり、識別された年代が「昭和58年」であるので、特徴テーブル24の金種が「500円」であり、発行年が「昭和58年」であるレコードが抽出される。そして、特徴テーブル24から特徴部分の位置情報(X座標、Y座標、幅および高さ)を取得して、回転済入力画像22の該当する部分を切り出し、切り出した部分と、特徴テーブル24から取得した特徴部テンプレート画像とを照合する。
【0040】
なお、実施例1においては、この第2の真偽識別処理部14の照合処理には後述する正負分離相関による照合方法を用いるが、他の照合方法(たとえば、一般的な正規化相関法)を用いることとしてもよい。
【0041】
図2の説明に戻って、ステップS107以降の処理手順について説明する。第2の真偽識別処理の結果が「真」でない場合には(ステップS107否定)、真偽判定部15は「偽貨」と判定して(ステップS110)判定結果を出力する。一方、第2の真偽識別処理の結果が「真」である場合には(ステップS107肯定)、真偽判定部15は「真貨」と判定して(ステップS108)判定結果を出力し、処理を終了する。
【0042】
次に、図2に示した第1の真偽識別処理について図6〜図21を用いてさらに詳細に説明する。図6は、図2に示した第1の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートである。図6に示したように、第1の真偽識別処理部12は、受け取った入力画像から硬貨部分を切り出す画像切出し処理をおこなう(ステップS201)。具体的には、硬貨を含む入力画像に外接する正方形の領域内の画像のみを切り出す処理をおこなう。
【0043】
図7は、この画像切出し処理の処理概要を説明するための説明図である。同図に示すように、画像切出し処理では、CCDカメラ4から取得した入力画像30を水平方向に走査して全画素の濃度値を累積し、水平方向射影30aを生成する。また、入力画像30を垂直方向に走査して、同様の手順で垂直方向射影30bを生成する。そして、水平方向射影30aおよび垂直方向射影30bを走査し、累積した濃度値の立上り座標と立下り座標を算出する。つづいて、同図の4本の破線で示したように、算出された各座標に囲まれた領域を切出画像31として切り出し、この切出画像31をエッジ抽出処理(ステップS202)に出力する。
【0044】
図6の説明に戻り、エッジ抽出処理(ステップS202)について説明する。エッジ抽出処理(ステップS202)は、画像切出し処理(ステップS201)から切出画像31を取得し、切出画像31の明るさや色合いなどの個体差に基づく影響を避けるために、切出画像31の濃度変化(エッジ強度)を算出する。また、算出したエッジ強度のばらつきを抑えるために、エッジ強度の正規化をおこなう。具体的には、切出画像31に対してSobelオペレータを用いたエッジ抽出処理をおこなうことによりエッジ強度を算出し、算出結果を正規化する。なお、実施例1においては、Sobelオペレータを用いることとしたが、Robertsオペレータなどを用いてエッジ抽出をおこなうこともできる。
【0045】
図8は、Sobelオペレータを説明するための説明図である。同図に示すように、エッジ抽出処理(ステップS202)は、水平方向エッジ算出用31aおよび垂直方向エッジ算出用31bの二つのSobelオペレータを用いてエッジ強度の算出をおこなう。具体的には、切出画像31の全画素について、各Sobelオペレータ(31aおよび31b)を走査し、水平方向エッジ算出結果Gxおよび垂直方向エッジ算出結果Gyを取得する。そして、各画素におけるエッジ強度(G)を算出したうえで、かかるエッジ強度を正規化(E)する。
【数1】

【0046】
式(1)に示すように、各画素におけるエッジ強度(G)は、水平方向エッジ算出結果Gxの絶対値と垂直方向エッジ算出結果Gyの絶対値との和としてあらわされる。また、式(2)に示すように、各画素における正規化エッジ強度(E)は、硬貨の種別毎に所定の値が設定される定数cとエッジ強度(G)との積を、全画素にわたるエッジ強度(G)の総和で除したものとなる。
【0047】
このように、エッジ強度の正規化をおこなうことで、エッジが出やすい新貨と、エッジが出にくい流通貨との間で、エッジ強度のばらつきが発生することを抑えることができるので、硬貨の新旧にかかわらず、種々の硬貨の照合を精度良くおこなうことができる。
【0048】
図9は、エッジ抽出処理(ステップS202)によりおこなわれる処理(画像変換処理)の概要を説明するための説明図である。同図に示すように、切出画像31は、Sobelオペレータを用いたエッジ強度算出処理により、エッジ抽出画像32に画像変換される。そして、エッジ抽出画像32は、式(1)および式(2)を用いたエッジ強度正規化処理により、エッジ正規化画像33に画像変換される。エッジ抽出処理(ステップS202)は、このエッジ正規化画像33をマッチング処理(ステップS203〜ステップS205)の極座標変換処理(ステップS203)に出力する。
【0049】
同図に示したエッジ抽出画像32の各画素値は、たとえば、0〜255の値をとり、0が黒に対応し、255が白に対応したグレースケール値をとる。同図のエッジ抽出画像32において、白い部分が抽出されたエッジ部分であり、黒い部分が背景部分である。また、エッジ正規化画像33の各画素値は、たとえば、0〜255の値をとり、0が黒に対応し、255が白に対応したグレースケール値をとる。なお、同図のエッジ正規化画像33において、白い部分がエッジ部分に相当し、黒い部分が背景に相当する点はエッジ抽出画像32と同様である。
【0050】
図6の説明に戻って、マッチング処理(ステップS203〜ステップS205)について説明する。このマッチング処理では、エッジ抽出処理(ステップS202)からエッジ正規化画像33を取得し、記憶部20の登録画像21からエッジ正規化および極座標変換済のテンプレート画像を取得する。そして、かかるエッジ正規化画像33を極座標変換し、この極座標変換済の画像と、テンプレート画像とのずれ角をテンプレート画像の平行移動により検出するとともに、表裏の判定をおこなって、エッジ正規化画像33およびずれ角補正済テンプレート画像を正負分離相関による照合処理(ステップS206)に出力する。なお、実施例1においては、テンプレート画像を平行移動させることによりずれ角を検出する場合について説明するが、エッジ正規化画像33を極座標変換した画像を平行移動させることによりずれ角を検出することとしてもよい。
【0051】
極座標変換処理(ステップS203)では、エッジ正規化画像33を極座標変換する。具体的には、エッジ正規化画像33の中心点を算出して、かかる中心点を極座標の原点とする。そして、回転角θおよび中心点からの距離ρにより各画素を特定し、各画素をρ−θ空間に移動させることにより、極座標変換をおこなう。かかる変換には、
【数2】


を用いる。
【0052】
図10は、かかる極座標変換の処理概要を説明するための説明図である。x−y空間(エッジ正規化画像33)の中心点を原点とし、各画素の座標を(x,y)であらわすと、かかるxおよびyと、上述したρおよびθとは、式(3)および式(4)に示した関係を有する。したがって、エッジ正規化画像33内の各画素(x,y)を、式(3)および(4)の関係を満たす(ρ,θ)に変換することにより、極座標変換処理(ステップS203)では、極座標変換済エッジ正規化画像34を生成する。
【0053】
なお、同図においては、中心点からの距離ρは、10〜100の値をとり、回転角θは、0〜255の値をとる場合について示しているが、これらの値の範囲は任意に設定することができる。
【0054】
図6の説明に戻り、回転角検出処理(ステップS204)について説明する。回転角検出処理(ステップS204)では、極座標変換済エッジ正規化画像34と、同様の極座標変換処理によりあらかじめ極座標変換されたテンプレート画像40とのずれ角を検出して、両画像のずれ角を補正する処理をおこなう。図11は、回転角検出処理(ステップS204)の処理概要を説明するための説明図である。
【0055】
同図に示すように、ρ−θ空間において、極座標変換済エッジ正規化画像34をθ座標軸と平行に移動させる。そして、θ座標方向のずらし角(φ)と、各ずらし角(φ)におけるテンプレート画像40とエッジ正規化画像33との一致度M(φ)を算出し、この一致度M(φ)が最大となる回転角φmaxを取得する。なお、かかる一致度M(φ)は、
【数3】


により算出する。
【0056】
式(5)に示すように、各ずらし角(φ)における一致度M(φ)は、極座標変換済エッジ正規化画像34をφだけずらした場合において、テンプレート画像40の各画素の濃度値t(k,θ)と、エッジ正規化画像33の各画素の濃度値s(k,θ−φ)との積を各画素にわたり総和したしたものとなる。ここで、kは、エッジ正規化画像33における中心点からの距離ρのうち、特徴の出やすい距離を選択した選択値である。たとえば、図10に示した極座標変換済エッジ正規化画像34のρ(0〜100)のうち、特徴の出やすいρの値を16個抽出することにより、かかるkを選択しておく。
【0057】
かかるM(φ)の値は、図11に示したように、ある回転角において最大値をもつ山型のグラフとなる。回転角検出処理(ステップS204)では、かかるM(φ)が最大(山型の頂点部分)となるφmaxの値を取得する。このように、回転角検出処理(ステップS204)は、極座標変換を施したρ−θ画像の平行移動によりずれ角を補正するので、x−y画像の回転によりずれ角を補正する方法に比べ計算量を削減することができる。
【0058】
図6の説明に戻って、表裏判定処理(ステップS205)について説明する。まず、表裏判定処理(ステップS205)では、極座標変換済の表用テンプレート画像および裏用テンプレート画像と、極座標変換済エッジ正規化画像34との間で、上述した一致度M(φ)の最大値M(φmax)を算出し、このM(φmax)から正規化相関係数Rを求める。具体的には、この正規化相関係数Rは、
【数4】


により求められる。なお、式(6)中のNは、判定対象となる画素数を示す。
【0059】
そして、表裏判定処理(ステップS205)では、正規化相関係数Rが大きいほうのテンプレート画像を選択し、極座標変換済エッジ正規化画像34とともに正負分離相関による判定処理(ステップS206)に出力する。たとえば、裏用テンプレート画像と極座標変換済エッジ正規化画像34との正規化相関係数Rのほうが、表用テンプレート画像と極座標変換済エッジ正規化画像34との正規化相関係数Rよりも大きい場合には、裏用テンプレート画像と極座標変換済エッジ正規化画像34とを正負分離相関による照合処理(ステップS206)に出力する。ここで、この正負分離相関による照合処理(ステップS206)に出力される極座標変換済エッジ正規化画像34は、角度φmaxだけ平行移動してテンプレート画像とのずれ角を補正した極座標変換済エッジ正規化画像34である。
【0060】
図6の説明に戻り、マッチング処理(ステップS203〜ステップS205)において用いられる登録画像21について説明する。登録画像21は、あらかじめ登録された各種硬貨に対応した複数のテンプレート画像を記憶し、マッチング処理(ステップS203〜ステップS205)に、これらのテンプレート画像を提供する。かかるテンプレート画像には、硬貨の個体差によるばらつきを抑えるため、同一種類の硬貨の画像を複数合成した平均画像を用いる。かかる平均画像を用いることにより、発行年などの各硬貨に固有の凹凸パターン部分と、テンプレート画像の対応部分との相関値は、平均画像(平均値)についての相関値となるため照合時の影響が出にくくなる。すなわち、真貨であるにもかかわらず、発行年部分の影響により偽貨と判定してしまうことを防止することができる。
【0061】
かかるテンプレート画像は、極座標変換処理およびエッジ正規化処理が施された入力画像と照合させるため、入力画像と同様に極座標変換処理およびエッジ正規化処理が施された後に、記憶部20に登録画像21として登録される。また、登録画像21には、各金種の表面および裏面のテンプレート画像が含まれる。
【0062】
図6の説明に戻って、正負分離相関による照合処理(ステップS206)について説明する。正負分離相関による照合処理(ステップS206)は、マッチング処理から、図11に示した極座標変換済エッジ正規化画像34(以下、「入力画像34」と言う)およびテンプレート画像40を取得し、これらの画像を照合することにより照合対象の硬貨が真貨であるか否かを照合判定し、かかる判定結果を出力する。
【0063】
ここで、正負分離相関による照合処理(ステップS206)の処理手順について図12を用いて説明しておく。図12は、図6に示した正負分離相関による照合処理の処理手順を示すフローチャートである。図12に示すように、正負分離相関による照合処理では、マッチング処理から出力された入力画像34およびテンプレート画像40を受け取り、これらの画像(34および40)の正規化相関値算出処理(ステップS301)をおこなう。
【0064】
具体的には、この正規化相関値算出処理(ステップS301)では、入力画像34およびテンプレート画像40の対応する画素毎の相関値を算出し、かかる相関値を正規化して正規化相関値画像を生成する。具体的には、座標値が(k,θ)の各画素について、入力画像34の濃度値s(k,θ)およびテンプレート画像40の濃度値t(k,θ−φmax)を用いて、
【数5】


により各画素の正規化相関値r(k,θ)を算出する。なお、式(7)に示す各画素における正規化相関値r(k,θ)は、たとえば、−1.0〜+1.0の値をとる。また、式(7)中のnは、画素数を示す。
【0065】
そして、正規化相関値算出処理(ステップS301)は、かかる正規化相関値画像の画素値が0以上か否かにより、正の正規化相関値画像(r+画像)と負の正規化相関値画像(r−画像)とに分離する。また、テンプレート画像40については、各画素値が所定の閾値(Tt)以上か否かにより、正のテンプレート画像(t+画像)と負のテンプレート画像(t−画像)とに分離する。
【0066】
なお、r+画像の画素値は、たとえば、0.0〜1.0の値をとり、r−画像の画素値は、各画素値の絶対値をとることにより、たとえば、0.0〜1.0の値をとる。また、t+画像およびt−画像の画素値は、たとえば、0か1の二値をとる。すなわち、t+画像およびt−画像は、各正規化相関値画像の画像変換に用いられる画像マスクとしての役割を有する。
【0067】
ここで、それぞれの画像の意味を説明すると、r+画像は照合対象となる画像間に相関がある(似ている)画素を示し、強い相関があれば、かかる画素は大きい値をとる。また、r−画像は照合対象となる画像間に相関がない(似ていない)ことを示し、強い負の相関があれば、かかる画素は大きい値をとる。そして、t+画像はテンプレート画像のエッジ部分を示し、エッジ部分が1、背景部分が0の値をとる。また、t−画像はテンプレート画像の背景部分(エッジでない部分)を示し、背景部分が1、エッジ部分が0の値をとる。
【0068】
図12の説明に戻り、正負分離相関画像生成処理(ステップS302)について説明する。この正負分離相関画像生成処理(ステップS302)は、正規化相関値算出処理(ステップS301)が生成した、r+画像、r−画像、t+画像およびt−画像の組み合わせにより正負分離相関画像を生成する。具体的には、r+画像とt+画像とからA+領域画像を、r−画像とt+画像とからA−領域画像を、r+画像とt−画像とからB+領域画像を、r−画像とt−画像とからB−領域画像をそれぞれ生成する。
【0069】
ここで、各領域画像の意味を説明する。図13は、かかる4つの領域を説明するための説明図である。同図に示すように、A+領域画像は、r+画像とt+画像とを重ね合わせた領域画像であり、エッジ部分と相関があること、すなわち、エッジが出るべきところにエッジが出ていることを示す。A−領域画像は、r−画像とt+画像とを重ね合わせ領域画像であり、エッジ部分と相関がないこと、すなわち、エッジが出るべきところにエッジが出ていないことを示す。B+領域画像は、r+画像とt−画像とを重ね合わせた領域画像であり、背景部分と相関があること、すなわち、エッジが出るべきでないところにエッジが出ていないことを示す。B−領域画像は、r−画像とt−画像とを重ね合わせ領域画像であり、背景部分と相関がないこと、すなわち、エッジが出るべきでないところにエッジが出ていないことを示す。
【0070】
図12の説明に戻って、膨張処理(ステップS303)について説明する。膨張処理(ステップS303)は、所定の画像マスクを用いて、A−領域画像の画素をA+領域画像に移動させるとともに、B−領域画像の画素をB+領域画像に移動させる。かかる膨張処理をおこなうのは、正規化相関値にはノイズ状に負の相関値をもつ孤立点があらわるためである。すなわち、かかる膨張処理をおこなうことにより、かかる孤立点の影響が照合値の判定結果におよぶことを抑えることができる。
【0071】
照合値算出処理(ステップS304)は、A+領域画像、A−領域画像、B+領域画像およびB−領域画像のそれぞれを、たとえば、水平方向に16、垂直方向に4の計64ブロックに分割し、
【数6】


式(8)により、照合値(Z)を求める。ここで、係数aij、bij、cijおよびdijは学習サンプルを用いて線形判別分析により最適解を求める。なお、各領域画像のブロック値であるA+ij、A-ij、B+ijおよびB-ijは、各ブロック内の画素値の総和を示す。
【0072】
つづいて、照合値算出処理(ステップS304)が算出した照合値(Z)が閾値以上であれば(ステップS305肯定)、戻り値に「一致」をセットして(ステップS306)リターンする。一方、照合値(Z)が閾値より小さければ、戻り値に「不一致」をセットして(ステップS307)リターンする。
【0073】
図6の説明に戻り、ステップS207以降の処理について説明する。正負分離相関による照合処理(ステップS206)が照合結果を出力すると、かかる照合結果が「一致」であるか否かを判定する(ステップS207)。そして、照合結果が「一致」である場合には(ステップS207肯定)、マッチング処理においてテンプレート画像40と合致するように平行移動した入力画像34を回転済入力画像22として記憶部20に記憶し(ステップS208)、戻り値に「真」をセットして(ステップS209)リターンする。一方、照合結果が「一致」でない場合には(ステップS207否定)、戻り値に「偽」をセットして(ステップS210)リターンする。
【0074】
このように、第1の真偽識別処理では、CCDカメラ4から受け取った入力画像から硬貨部分を切り出してエッジ抽出をおこない、マッチング処理をおこなったうえで正負分離相関による照合処理をおこなうことによって、金種識別処理部11でいったん識別された金種の真偽を識別する。これにより、100円硬貨や500円硬貨といった金種の真貨や、重量や金属の組成が類似した外貨を変造した偽貨などの識別精度を向上させることができる。
【0075】
以降では、図12に示した正負分離相関による照合処理をさらに具体的に説明する。まず、正負分離相関画像生成処理(ステップS302)がおこなう正規化相関値画像正負分離処理を、図14および図17を用いて説明する。図14は、図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれる正規化相関値画像正負分離処理の処理手順を示すフローチャートであり、図17は、図13に示した各領域に対応する画像生成手順を説明するための説明図である。
【0076】
図17に示すように、正規化相関値算出処理(ステップS301)が入力画像33とテンプレート画像40から正規化相関値画像111を生成すると、正規化相関値画像正負分離処理(ステップS302)では、生成された正規化相関値画像111を入力として正規化相関値正負分離処理をおこなう。具体的には、かかる正規化相関値画像111を、正の相関値画像であるr+画像111aと、負の相関値画像であるr−画像111bとに分離する。
【0077】
図14に示すように、正規化相関値正負分離処理(ステップS302)においては、まず、正規化相関値画像111の始点画素に移動する(ステップS501)。かかる始点画素は、たとえば、k=0、θ=0の画素である。そして、かかる画素の正規化相関値r(k,θ)を式(4)を用いて算出し(ステップS502)、算出したr(k,θ)が0以上であれば(ステップS503肯定)、かかる画素値をr+画像111aの同一座標の画素値とする(ステップS504)。一方、算出したr(k,θ)が0より小さければ(ステップS503否定)、かかる画素の画素値の絶対値を、r−画像111bの同一座標の画素値とする(ステップS505)。
【0078】
そして、正規化相関値画像111の全ての画素について未だ正負分離処理が完了していない場合には(ステップS506否定)、次の注目画素に移動して(ステップS507)、ステップS502以下の処理を繰り返す。一方、全ての画素について正負分離処理が終了した場合には(ステップS506肯定)、処理を終了する。かかる正規化相関値正負分離処理により、r+画像111aおよびr−画像111bは、0.0〜1.0の画素値をとる画素を有する画像として生成される。なお、実施例1においては、r−画像111bの画素の画素値は、0.0〜1.0の画素値をとるものとして説明するが、かかる画素値は、−1.0〜0.0の値をとることとしてもよい。
【0079】
次に、図12に示した正負分離相関画像生成処理(ステップS302)がおこなうテンプレート画像正負分離処理を、図15および図17を用いて説明する。図15は、図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれるテンプレート画像正負分離処理の処理手順を示すフローチャートである。図17に示したように、テンプレート画像正負分離処理では、テンプレート画像40を、正のテンプレート画像であるt+画像40aと、負のテンプレート画像であるt−画像40bとに分離する処理をおこなう。
【0080】
図15に示すように、テンプレート画像正負分離処理においては、まず、テンプレート画像40の始点画素に移動する(ステップS601)。かかる始点画素は、たとえば、k=0、θ=0の画素である。そして、かかる画素の濃度値が所定の閾値(Tt)以上であれば(ステップS602肯定)、t+画像40aの同一座標の画素値を1とする(ステップS603)。一方、かかる濃度値が所定の閾値(Tt)より小さければ(ステップS602否定)、t−画像40bの同一座標の画素値を1とする(ステップS604)。
【0081】
そして、テンプレート画像40の全ての画素について未だ正負分離処理が完了していない場合には(ステップS605否定)、次の注目画素に移動して(ステップS606)、ステップS602以下の処理を繰り返す。一方、全ての画素について正負分離処理が終了した場合には(ステップS605肯定)、処理を終了する。かかるテンプレート画像正負分離処理により、t+画像40aは、エッジ部分が1、背景部分が0の二値画像として生成され、t−画像40bは、エッジ部分が0、背景部分が1の二値画像として生成される。
【0082】
次に、図12に示した正負分離相関画像生成処理(ステップS302)がおこなう正負分離相関画像生成処理を、図16および図17を用いて説明する。図16は、図12に示した正負分離相関画像生成処理に含まれる領域画像生成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0083】
図17に示したように、正負分離相関画像生成処理においては、上述した正規化相関値画像正負分離処理およびテンプレート画像正負分離処理において生成した、r+画像111a、r−画像111b、t+画像40aおよびt−画像40bを入力画像として用いて、A+領域画像121、A−領域画像122、B+領域画像123およびB−領域画像124を生成する。
【0084】
たとえば、r+画像111aおよびt+画像40aを入力画像として用いた場合、図16に示すように、まず、それぞれの画像の始点画素に移動する(ステップS701)。そして、かかる画素におけるt+画像40aの画素値が1である場合には(ステップS702肯定)、A+領域画像121の画素値をr+画像111aの画素値とする(ステップS703)。一方、かかる画素におけるt+画像40aの画素値が1でない場合(すなわち、0である場合)には(ステップS702否定)、A+領域画像121の画素値を0とする(ステップS704)。
【0085】
そして、全ての画素について領域画像生成処理が完了していない場合には(ステップS705否定)、次の注目画素に移動して(ステップS706)、ステップS702以下の処理を繰り返す。一方、全ての画素について領域画像生成処理が終了した場合には(ステップS705肯定)、A+領域画像121が生成されるので、処理を終了する。
【0086】
同様に、r−画像111bおよびt+画像40aからA−領域画像122を、r+画像111aおよびt−画像40bからB+領域画像123を、r−画像111bおよびt−画像40bからB−領域画像124を、それぞれ生成する。
【0087】
次に、図12に示した膨張処理(ステップS303)を、図18〜図20を用いて説明する。図18は、図12に示した膨張処理において用いられる画像マスクを説明するための説明図であり、図19は、図12に示した膨張処理の処理手順を示すフローチャートであり、図20は、図12に示した膨張処理により生成される画像を説明するための説明図である。
【0088】
かかる膨張処理においては、負の領域画像(A−領域画像122およびB−領域画像124)に含まれるノイズ状の孤立点(画素)を、正の領域画像(A+領域画像121およびB+領域画像123)に移動する処理をおこなう。かかる処理をおこなうことで、照合値の精度を高めることができる。
【0089】
図18に示すように、かかる膨張処理においては、正領域画像マスク130aおよび負領域画像マスク130b2枚の画像マスクを用いる。各画像マスクは、P5およびM5と、これらの領域を取り囲む8つの領域を有する。たとえば、A−領域画像122からA+領域画像121への膨張処理をおこなう場合には、負領域画像マスク130bのM5をA−領域画像122の注目画素に合わせ、正領域画像マスク130aのP5を注目画素に対応する画素にあわせる。そして、M5の画素値と、P1〜P9の画素値とを順次比較して膨張処理をおこなう。
【0090】
次に、A−領域画像122からA+領域画像121への膨張処理をおこなう場合を例ににして、かかる膨張処理の処理手順を、図19を用いて説明する。まず、それぞれの画像(121および122)の始点画素に移動する(ステップS801)。かかる始点画素は、たとえば、k=0、θ=0の画素である。そして、正領域マスク130aの9つの領域(P1〜P9)を順次切替えるために、nに1を設定する(ステップS802)。すなわち、ステップS802が完了した時点においては、対象となる正領域画像マスク130aの領域はP1となる。
【0091】
そして、Pnの値とM5の値を比較して、P1の値がM5の値よりも大きい場合には(ステップS803肯定)、P5の値をM5で置き換えM5の値を0に設定する(ステップS805)。すなわち、M5の画素をP5の画素に移動する。一方、Pnの値がM5の値以下である場合には(ステップS803否定)、nの値に1を加算して(ステップS804)、nの値が9以下の場合には(ステップS806否定)、再度ステップS803をおこなう。
【0092】
このように、P1〜P9の値のうち一つでもM5の値より大きいものがあれば、M5の画素をP5に移動する。一方、P1〜P9の値のいずれもがM5の値以下である場合には(ステップS806肯定)、画素の移動をおこなわない。
【0093】
そして、A−領域画像122のすべての画素について処理が終了していない場合には(ステップS807否定)、次の注目画素に移動して(ステップS808)、ステップS802以降の処理をおこなう。一方、A−領域画像122のすべての画素について処理が終了した場合には(ステップS807肯定)、かかる膨張処理を終了する。
【0094】
図20に示したように、かかる膨張処理により、A+領域画像121、A−領域画像122、B+領域画像123およびB−領域画像124は、それぞれ、膨張済A+領域画像131、膨張済A−領域画像132、膨張済B+領域画像133および膨張済B−領域画像134に画像変換される。なお、A−領域画像122上の孤立点は、A+領域画像121に移動するので、膨張済A+領域画像131のエッジ部分は、A+領域画像121と比較して面積が増加している。一方、膨張済A−領域画像132のエッジ部分は、A−領域画像122と比較して面積が減少している。
【0095】
次に、図12に示した照合値算出処理(ステップS304)を、図21を用いて説明する。図21は、膨張済領域画像(131〜134)のブロック分割について、膨張済A+領域画像131をブロック分割する場合の例を説明するための説明図である。照合値算出処理(ステップS304)では、まず、同図に示すように、膨張済A+領域画像131を、水平方向に16、垂直方向に4の計64ブロックに分割する。同様に、膨張済A−領域画像132、膨張済B+領域画像133および膨張済B−領域画像134についてもブロック分割をおこなう。
【0096】
そして、照合値算出処理(ステップS304)では、式(8)を用いて、照合値(Z)の算出をおこなう。ここで、式(8)の各係数aij、bij、cijおよびdijは、学習サンプルを用いて線形判別分析などにより最適解を求めておくものとする。具体的には、硬貨の凹凸パターンのデザインの相違により、エッジが出やすい硬貨や出にくい硬貨が存在するので、これらの係数は、硬貨の種別ごとに異なる値をとることになる。これらの係数を学習サンプルにより最適化することで、精度の良い画像照合をおこなうことができる。
【0097】
そして、照合値算出処理(ステップS304)では、最適値が設定された、係数aij、bij、cijおよびdijと、各画像ブロックとを用いて照合値(Z)を算出する。そして、図12に示したように、かかる照合値が閾値以上である場合には(ステップS305肯定)、戻り値に「一致」をセットし(ステップS306)、閾値より小さい場合には(ステップS305否定)、戻り値に「不一致」をセットすることになる(ステップS307)。なお、実施例1においては、各画像を64のブロックに分割する場合について説明したが、ブロック数は、任意の数とすることができる。
【0098】
なお、式(8)において、係数cijおよびdijを0に設定すれば、A+領域画像ブロックおよびA−領域画像ブロックのみから照合値(Z)を算出することができる。また、係数aijおよびbijを0に設定すれば、B+領域画像ブロックおよびB−領域画像ブロックのみから照合値(Z)を算出することができる。
【0099】
このように、照合値算出処理(ステップS304)では、硬貨の種別やハードウェアの能力に応じて、画像ブロック数や式(8)の各係数の値を調整することにより、効率良く画像照合をおこなうことができる。
【0100】
なお、実施例1に係る照合値算出処理(ステップS304)では、各領域画像をブロック分割したうえで、式(8)により照合値(Z)を算出するよう構成したが、これに限らず、たとえば、多層ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシン、二次識別関数等の他の方法を用いることとしてもよい。
【0101】
次に、図2に示した年代識別処理(ステップS104)について図22および図23を用いて説明する。図22は、図2に示した年代識別処理の処理手順を示すフローチャートであり、図23は、図22に示した年代識別処理において用いられる文字照合テーブル23を説明するための説明図である。
【0102】
図22に示すように、年代識別処理部13は、まず、記憶部20から回転済入力画像22を読み出して該当する金種に応じた年代部を切り出す処理をおこなう(ステップS1001)。そして、切り出した年代部の位置補正をおこなったうえで(ステップS1002)、切り出した年代部に含まれる文字を一つ切り出す(ステップS1003)。
【0103】
つづいて、記憶部20の文字照合テーブル23を検索して該当する金種に応じた文字テンプレート画像を取得し(ステップS1004)、切り出した文字画像とこの文字テンプレート画像とを正負分離相関による照合処理により照合する(ステップS206)。
【0104】
ここで、かかる文字照合テーブル23について説明しておく。図23に示すように、文字照合テーブル23は、金種および文字テンプレート画像を含むレコードを有する。たとえば、500円硬貨に関する各レコードは、「昭」、「和」、「平」、「成」、「一」、「二」といった500円硬貨に刻まれる文字の文字テンプレート画像を含んでいる。
【0105】
なお、図23に示した文字照合テーブル23は、文字照合テーブルの一例を示すものであり、金種および文字テンプレート画像の他に、入力画像34に含まれる各文字の位置を示す情報を含むこととし、かかる情報を用いて入力画像34から年代をあらわす各文字を切り出すこととしてもよい。また、文字照合テーブル23は、必ずしも金種ごとにまとめる必要はなく、認識される可能性のある文字を少なくとも含むこととすれば足りる。
【0106】
図22に戻って、ステップS1005以降の処理について説明する。正負分離相関による照合処理の照合結果を受け取ると照合結果が「一致」であるか否かを判定する(ステップS1005)。そして、照合結果が「一致」である場合には(ステップS1005肯定)、一致した文字を一時的に記憶し(ステップS1006)、照合対象の文字が最後の文字であるか否かを判定する(ステップS1007)。
【0107】
かかる照合対象の文字が最後の文字である場合には(ステップS1007肯定)、認識した文字からなる年代が正当であるか否かを判定し(ステップS1009)、正当である場合には(ステップS1009肯定)、戻り値に認識した「年代」をセットして(ステップS1010)リターンする。一方、照合対象の文字が最後の文字でない場合には(ステップS1007否定)、切り出した年代部に含まれる次の文字を照合するために、ステップS1003以降の処理を繰り返す。
【0108】
また、正負分離相関による照合処理の照合結果が「一致」でない場合には(ステップS1005否定)、照合対象の金種についての最後の文字テンプレート画像であるか否かを判定し(ステップS1008)、最後の文字テンプレート画像である場合は(ステップS1008肯定)、該当する文字テンプレート画像が存在せず文字認識できない場合、すなわち、入力画像34の該当する文字が不正である場合であるので、戻り値に「リジェクト対象」をセットして(ステップS1011)リターンする。一方、照合対象の金種について他の文字テンプレート画像が存在する場合には(ステップS1008否定)、現在の文字テンプレート画像を他の文字テンプレート画像に変更したうえで、ステップS206以降の処理を繰り返す。
【0109】
このようにして、年代識別処理部13は、入力画像34に含まれる年代を識別して識別した年代を第2の真偽識別処理部14に渡す。なお、実施例1においては、硬貨に刻まれた年代を構成する各文字を、文字照合テーブル23を用いて照合する場合について説明したが、たとえば、紙幣の記番号および記番号と発行年との関係をあらわす情報を、かかる文字照合テーブル23に登録し、紙幣の入力画像に含まれる記番号に基づいて発行年を識別することとしてもよい。
【0110】
次に、図2に示した第2の真偽識別処理(ステップS106)について図24および図25を用いて説明する。図24は、図2に示した第2の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートであり、図25は、図24に示した第2の真偽識別処理において用いられる特徴テーブルを説明するための説明図である。
【0111】
図24に示すように、第2の真偽識別処理部14は、まず、年代識別処理部13から渡された年代をセットして(ステップS1101)、記憶部20の特徴テーブル24を検索する(ステップS1102)。そして、かかる特徴テーブル24の該当するレコードから特徴部分の画像領域の位置および範囲をあらわす特徴範囲と特徴部テンプレート画像とを取得する(ステップS1103)。
【0112】
ここで、かかる特徴テーブル24について説明しておく。図25に示すように、特徴テーブル24の各レコードは、金種、発行年、特徴部分のX座標およびY座標、特徴部分の幅および高さ、および特徴部テンプレート画像を有する。たとえば、500円硬貨の場合には、硬貨の裏側の金額をあらわす「500」の「0」部分が、発行年が平成11年以前のものと、平成12年以降のものでデザインが異なるので、この「0」部分を特徴部テンプレート画像として登録しておく。また、この「0」部分の位置をあらわすX座標、Y座標、幅および高さもあわせて登録しておく。
【0113】
なお、図25は、特徴テーブル24の一例を示すものであり、現在発行されている500円硬貨の場合について説明した。しかしながら、偽造貨幣に対応するために微細なセキュリティ特徴をもたせることは、日本の貨幣のみならず外貨においてもおこなわれており、将来的には発行年ごとに異なるセキュリティ特徴をもたせる可能性もある。したがって、実施例1に示したように、発行年に対応する特徴部分をテーブル管理して、発行年を識別して発行年に対応する特徴部分を用いて詳細な照合処理をおこなうこととすれば真貨であるか否かの判定を高い精度でおこなうことができる。
【0114】
また、図25では、各発行年につき1ヶ所の特徴部分を特徴テーブル24に登録する場合について説明したが、各発行年につき複数の特徴部分を登録することとしてもよい。さらに、特徴テーブル24に登録する特徴部テンプレート画像は、肉眼で認識できる特徴部である必要はなく、高精度のカメラにより認識できる微細特徴を含むこととしてもよい。
【0115】
図24に戻り、ステップS1104以降の処理手順について説明する。特徴テーブル24の該当するレコードから特徴部分の画像領域をあらわす特徴範囲と特徴部テンプレート画像とを取得したならば(ステップS1103)、取得した特徴範囲(X座標、Y座標、幅および高さ)を用いて入力画像34から照合対象となる特徴部を切り出す(ステップS1104)。つづいて、上述した正負分離相関による照合処理により、入力画像から切り出した特徴部と、特徴テーブル24から取得した特徴部テンプレート画像とを照合する(ステップS206)。
【0116】
正負分離相関による照合処理の照合結果を受け取ると照合結果が「一致」であるか否かを判定する(ステップS1105)。そして、照合結果が「一致」である場合には(ステップS1105肯定)、戻り値に「真」をセットして(ステップS1106)リターンする。一方、照合結果が「一致」ではない場合には(ステップS1105否定)、戻り値に「偽」をセットして(ステップS1107)リターンする。
【0117】
このようにして、第2の真偽識別処理部14は、年代識別処理部13が認識した年代に基づいて、発行年と関連した特徴部の照合をおこなう。そして、第2の真偽識別処理部14の照合結果を受け取った真偽判定部15は、判定結果を出力することになる。
【0118】
上述してきたように、実施例1にかかる貨幣識別装置、貨幣識別方法および貨幣識別プログラムでは、金種識別処理部が硬貨の金種を取得し、取得した金種を受け取った第1の真偽識別処理部が硬貨の真偽識別処理をおこなうよう構成した。そして、年代識別処理部が硬貨の発行年を識別し、第2の真偽識別処理部が、先に識別された金種および発行年を用いて特徴テーブルを検索して特徴部テンプレート画像と特徴範囲とを取得し、特徴部テンプレート画像と入力画像の対応部分とを照合するよう構成した。さらに、真偽判定部が、第1の真偽識別処理、年代識別処理および第2の真偽識別処理の処理結果に基づいて、硬貨の真偽を判定するよう構成した。したがって、高精度の貨幣識別をおこなうことができる。また、入力画像に含まれる文字を認識してこの文字と関連する特徴部分を詳細に照合することにより画像照合精度を高めることができるとともに、入力画像の特徴部分のみを詳細な照合処理の対象とすることにより微細な特徴を効率的に照合することができる。また、偽貨の傾向に合わせて特徴テーブルを保守することにより、効率的に偽貨を識別することができる。
【0119】
上述した実施例1では、硬貨の金種識別処理を光センサや磁気センサといったセンサを用いておこなう場合について説明した。以下に示す実施例2では、かかる金種識別処理をCCDカメラ等で撮像した画像を用いておこなう場合について説明する。
【実施例2】
【0120】
図26は、実施例2に係る貨幣識別装置の構成を示す機能ブロック図である。なお、以下では、実施例1に係る貨幣識別装置との差異点についてのみ説明し、共通点についての説明は省略することとする。
【0121】
図26に示すように、実施例2に係る貨幣識別装置1の金種識別処理部11は、CCDカメラ4から硬貨の撮像画像(入力画像)を取得し、この入力画像に基づいて金種の識別をおこなう。そして、この金種識別処理部11は、識別した金種と、CCDカメラから取得した入力画像とを、第1の真偽識別処理部12に出力する。
【0122】
かかる金種識別処理部11は、入力画像から金種の識別をおこなう際に、一般的な正規化相関法を用いる。そして、第1の真偽識別処理部12では、上記した正負分離相関による照合処理をおこなうことによって金種識別処理部11が識別した金種の真偽識別をおこなう。このようにすることで、光センサ(図1の2参照)や磁気センサ(図1の3参照)を用いることなく硬貨の金種および真偽判定をおこなうことが可能となる。なお、金種識別処理部11が正負分離相関による照合処理によって金種を識別することとしてもよい。
【0123】
また、図26では、金種識別処理部11がCCDカメラ4から硬貨を撮像した画像(入力画像)を取得し、金種識別の結果および入力画像を第1の真偽識別処理部12に出力する場合について説明したが、金種識別処理部11自体を省略し、第1の真偽識別処理部12において金種識別および第1の真偽識別をおこなうこととしてもよい。以下では、金種識別処理部11を省略した構成について説明することとする。
【0124】
図27は、実施例2に係る貨幣識別装置の構成の変形例を示す機能ブロック図である。同図に示すように、第1の真偽識別処理部12は、CCDカメラ4から受け取った入力画像と、記憶部20にあらかじめ記憶された登録画像21とを用い、正負分離相関による照合処理によって金種識別および第1の真偽識別をおこなう。上述したように、正負分離相関による照合処理は照合精度が高いため、金種識別の精度が十分に高い。したがって、正負分離相関による金種識別をおこなうこととすれば、この金種識別で第1の真偽識別を兼ねることができる。
【0125】
次に、図27に示した第1の真偽識別処理の処理手順について図28を用いて説明する。図28は、図27に示した変形例に係る第1の真偽識別処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、図28に示した処理手順は、図6に示した処理手順に金種識別をおこなうための処理を付加したものであるので、図6との相違点についてのみ説明し、共通点についての説明は省略することとする。
【0126】
まず、回転角検出処理(ステップS204)以降の処理では、複数のテンプレート画像40の中から所定の貨幣に対応するテンプレート画像40を選択して回転角の検出処理をおこなう。たとえば、1円硬貨、5円硬貨、10円硬貨といった硬貨のテンプレート画像40の中から、1円硬貨に対応するテンプレート画像40を選択する。そして、以降の処理において、かかるテンプレート画像40を用いた画像照合に失敗した場合には、5円硬貨に対応するテンプレート画像40、10円硬貨に対応するテンプレート画像40、のようにテンプレート画像40を変更していくことで、照合対象の硬貨に一致するテンプレート画像40を見つける。このようにして、図28に示した第1の真偽識別処理では、金種の識別をおこなうことになる。
【0127】
正負分離相関による照合処理(ステップS206)が照合結果を出力すると、かかる照合結果が「一致」であるか否かを判定する(ステップS207)。そして、照合結果が「一致」である場合には(ステップS207肯定)、マッチング処理においてテンプレート画像40と合致するように平行移動した入力画像34を回転済入力画像22として記憶部20に記憶し(ステップS208)、戻り値に「真」をセットして(ステップS209)リターンする。
【0128】
一方、照合結果が「一致」でない場合には(ステップS207否定)、他の貨幣候補があるか否かを判定する(ステップS211)。具体的には、未だ画像照合処理に用いていないテンプレート画像40があるか否かを判定する。そして、すべての金種について照合処理をおこなった場合には(ステップS211否定)、戻り値に「偽」をセットして(ステップS210)リターンする。また、未だ画像照合処理に用いていないテンプレート画像40がある場合には(ステップS211肯定)、テンプレート画像40を他の貨幣のものに変更してステップS204以降の処理を繰り返すことによって、金種識別をおこなうことになる。
【0129】
上述したように、実施例2では、金種識別処理部がCCDカメラ等で撮像した画像を用いて金種識別をおこなうこととし、さらに、金種識別処理部自体を省略し、第1の真偽識別処理部において金種識別および第1の真偽識別をおこなうよう構成したので、光センサや磁気センサといった各種センサを用いることなく効率的に画像照合処理をおこなうことができる。
【0130】
なお、上述した各実施例においては、硬貨の入力画像について画像照合をおこなうことによって貨幣識別をおこなう場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば、紙幣の識別や、市場に流通する商品に付されたセキュリティ標識の識別にも適用することができる。また、硬貨選別機や両替機に本発明を適用することにより、真貨を選別したうえで金種および発行年ごとにラップしたり、古い硬貨や偽貨を回収したりすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明にかかる硬貨分類装置および硬貨分類方法は、硬貨が発行された年代を考慮しつつ効率良く硬貨を分類する場合に適している。
【符号の説明】
【0132】
1 貨幣識別装置
2 光センサ
3 磁気センサ
4 CCDカメラ
10 制御部
11 金種識別処理部
12 第1の真偽識別処理部
13 年代識別処理部
14 第2の真偽識別処理部
15 真偽判定部
20 記憶部
21 登録画像
22 回転済入力画像
23 文字照合テーブル
24 特徴テーブル
30 入力画像
30a 水平方向射影
30b 垂直方向射影
31 切出画像
31a Sobelオペレータ(水平方向エッジ算出用)
31b Sobelオペレータ(垂直方向エッジ算出用)
32 エッジ抽出画像
33 エッジ正規化画像
34 極座標変換済エッジ正規化画像(入力画像)
40 テンプレート画像
40a t+画像
40b t−画像
111 正規化相関値画像
111a r+画像
111b r−画像
121 A+領域画像
122 A−領域画像
123 B+領域画像
124 B−領域画像
130a 正領域画像マスク
130b 負領域画像マスク
131 膨張済A+領域画像
132 膨張済A−領域画像
133 膨張済B+領域画像
134 膨張済B−領域画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬貨の入力画像と予め登録された文字テンプレート画像とを照合することによって前記硬貨の分類処理を行う硬貨分類装置であって、
前記入力画像を極座標変換する極座標変換画像取得手段と、
予め登録されている基準画像との照合により回転角を取得する回転角取得手段と、
前記取得された回転角を基に前記硬貨の入力画像と前記文字テンプレートの回転角を一致させる画像回転手段と、
前記硬貨の入力画像の一部をなす発行年を示す文字部分を含む部分画像と前記文字テンプレート画像とを、両画像の回転角が揃った状態で照合を行い、その照合値に基づいて、前記硬貨の発行年を識別する発行年識別手段と、
前記発行年識別手段の識別結果に基づいて前記硬貨を分類処理する分類処理手段と
を備えたことを特徴とする硬貨分類装置。
【請求項2】
前記分類処理手段は、前記発行年識別手段により識別された所定の発行年の硬貨を他の発行年の硬貨と分類処理することを特徴とする請求項1に記載の硬貨分類装置。
【請求項3】
前記分類処理手段は、前記発行年識別手段により硬貨の発行年が識別されない場合には、該硬貨をリジェクト対象として分類処理することを特徴とする請求項1または2に記載の硬貨分類装置。
【請求項4】
前記分類処理手段は、
複数の発行年の硬貨の特徴部分をそれぞれ示す複数の特徴部テンプレートを記憶する特徴部テンプレート記憶手段と、前記発行年識別手段により硬貨の発行年が識別された場合に、該発行年に対応する硬貨の特徴部テンプレートを前記特徴部テンプレート記憶手段から検索する検索手段と、
前記硬貨の入力画像の一部をなす該硬貨の特徴部分を示す部分画像と前記検索手段により検索された特徴部テンプレートとの照合値に基づいて、前記硬貨が真貨であるか偽貨であるかを識別処理する真偽識別処理手段と
を備えたことを特徴とする請求項1、2または3に記載の硬貨分類装置。
【請求項5】
前記分類処理手段は、所定の発行年以降とそれまでの旧い年の発行硬貨とを分類することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の硬貨分類装置。
【請求項6】
硬貨の入力画像と予め登録された文字テンプレート画像とを照合することによって前記硬貨の分類処理を行う硬貨分類装置の硬貨分類方法であって、
前記入力画像を極座標変換する工程と、
予め登録されている基準画像との照合により回転角を取得する回転角取得工程と、
前記取得された回転角を基に前記硬貨の入力画像と前記文字テンプレートとの回転角を一致させる画像回転工程と、
前記硬貨の入力画像の一部をなす発行年を示す文字部分を含む部分画像と前記文字テンプレート画像とを回転角が一致した状態で照合を行い、その照合値に基づいて、前記硬貨の発行年を識別する発行年識別工程と、
前記発行年識別工程の識別結果に基づいて前記硬貨を分類処理する分類処理工程と
を含んだことを特徴とする硬貨分類方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−84175(P2012−84175A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−7653(P2012−7653)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【分割の表示】特願2005−121568(P2005−121568)の分割
【原出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】