説明

硬質表面用洗浄剤組成物

【課題】除菌性能と硬質表面に対する優れた洗浄力を有し、更に、使用時に即座に微生物の存在を判断できる硬質表面用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)過酸化水素、(b)リン酸、ホスホン酸類及び分子中にカルボキシル基を2〜5個有する有機カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸剤、(c)アミンオキシド及び非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤を、それぞれ特定範囲の比率で含有し、25℃におけるpHが2〜5である硬質表面用洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ、浴室、シンク(台所シンク等)等の硬質表面の洗浄剤組成物及びこれを用いた硬質表面の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室やトイレ、台所と言った水周りの環境においては細菌による汚染、増殖が起こりやすい。近年、人々の水周りに対する除菌、抗菌意識が高まっている。そのため、住居用洗剤の多くが除菌性能を訴求しているのみならず、便器やタイル、衣類などでも抗菌訴求をしている製品が非常に多い。浴室やトイレ、台所の様な環境における除菌を訴求した技術が知られており、特許文献1を参考にすることができる。また、2剤を組み合わせることで発泡し、その物理的作用を用いて洗浄する技術として、特許文献2を参考にすることができる。また、過酸化水素を大量に利用した洗浄剤に関する技術などは特許文献3を参考にすることができる。また、繊維製品に適用される組成物として、特許文献4には、過酸化水素と、所定量の酸性物質とを含有するpH6.0以下の液体漂白剤組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2006−321989号
【特許文献2】特開昭59−24798号
【特許文献3】特開平1−240600号
【特許文献4】特開平9−87676号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1は、苛性アルカリ、次亜塩素酸塩を用いた液体殺菌洗浄剤であり、次亜塩素酸は、他の酸性のクリーナーと混合されると有毒な塩素ガスが発生するため、使用に注意を要する。また、特許文献2の2剤型の発泡洗浄剤は保管時に2剤が混ざり合わないようにしなければならないため煩雑な容器を用いなくてはならない。また、特許文献3では過酸化水素を多量に含んでおり、使用者にとって安全なものとは言えない。
【0004】
上記の通り、近年、人々の衛生意識は高まっており、除菌・抗菌を訴求した製品を多く目にする。しかしながら、一般家庭に存在する細菌の存在を確認することは容易ではなく、たとえ除菌を訴求している製品を使用したとしても、実際に除菌ができているかどうかを確認する事は非常に困難であった。例えば、スタンプ試験などで菌の所在を確認する方法を用いた場合も、煩雑な培養作業が必要であるばかりでなく、確認するまでには多大な時間がかかり一般家庭で容易にできる作業ではない。
【0005】
また、特許文献4をはじめとする漂白剤組成物には過酸化水素が配合されているが、これらは通常、アルカリ性の洗濯洗剤と共に用いられる事により、漂白性能を発揮するように設計されており、単独で使用されることは想定されていない。例えば、漂白剤組成物の特許文献4には酸性物質として1000mlの漂白剤組成物をpH6.0にするのに必要な1/10N−NaOH水溶液の量は100〜1000ml必要であることが開示されているが、これは保存安定性を満足させることを目的としており、それ自体の洗浄性能については言及されていない。
【0006】
過酸化水素の別の働きとしては細菌の細胞内にある酵素のカタラーゼの触媒作用を受け、分解し酸素を発生することが知られているが、pHが低すぎる場合には発泡は起こりにくく、pHが高すぎると過酸化水素の安定性が損なわれる。
【0007】
本発明の課題は、それ自体が除菌性能を有し、硬質表面に対する優れた洗浄力を有する洗浄剤組成物を提供することであり、更に、使用時に即座に微生物の存在を判断できる硬質表面用洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)過酸化水素〔以下、(a)成分という〕0.5〜10重量%、(b)リン酸、ホスホン酸類及び分子中にカルボキシル基を2〜5個有する有機カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸剤〔以下、(b)成分という〕1.5〜20重量%、(c)アミンオキシド及び非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤〔以下、(c)成分という〕0.5〜8重量%を含有し、25℃におけるpHが2〜5である硬質表面用洗浄剤組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、上記本発明の硬質表面用洗浄剤組成物を硬質表面に接触させて洗浄する、硬質表面の洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、それ自体が除菌性能を有し、硬質表面に対する優れた洗浄力を有する洗浄剤組成物が提供される。本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、硬質表面に適用した際の発泡により即座に菌の存在を判断できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の(a)成分は過酸化水素であり、発泡性の点から、組成物中の含有量は、0.5〜10重量%、好ましくは1〜8重量%、特に好ましくは2〜5重量%である。
【0012】
本発明の(b)成分は、リン酸、ホスホン酸類及び分子中にカルボキシル基を2〜5個有する有機カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸剤である。具体的にはリン酸、ホスホン酸類としてはエチドロン酸などを挙げる事ができる。カルボキシル基を2〜5個有する有機カルボン酸類としてはクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、コハク酸、りんご酸などを上げる事ができ、過酸化水素の安定性の観点からリン酸、エチドロン酸が特に好ましい。洗浄性能の点から、(b)成分の組成物中の含有量は、1.5〜20重量%、好ましくは3〜10重量%、より好ましくは4〜8重量%である。また、上記要件を満たせば、酸性物質は単一である必要はなく、2種又はそれ以上の組み合わせでも構わない。すなわち、十分な洗浄性能を得るためには、初期pHを2〜5とし、かつ該組成物100mlを25℃のpHを6にするために必要な1N−NaOH水溶液が12ml以上となる量の酸性物質を用いることが好ましい。すなわち、本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、当該組成物100mlを25℃のpHを6にするために必要な1N−NaOH水溶液が12ml以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の(c)成分は、アミンオキシド及び非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤である。具体的なアミンオキシドとしては、N−ラウリル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ミリスチル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−パルミチル−N,N−ジメチルアミンオキシド、ラウロイルアミノプロピルジメチルアミンオキシドなどから選ばれるアミンオキシドが好ましい。この中でも特に洗浄性能、除菌性能、発泡性能の点から、N−ラウリル−N,N−ジメチルアミンオキシド、N−ミリスチル−N,N−ジメチルアミンオキシドが好ましい。また、非イオン界面活性剤としては、R1−O−(R2O)n−H(R1は炭素数10〜18の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基、R2は炭素数1〜3の炭化水素基、好ましくはアルキレン基、nは平均付加モル数であり1〜20、好ましくは5〜15の数である。)で表される非イオン界面活性剤、アルキルグリコシド、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン(炭素数2〜3)アルキル(炭素数10〜18)エーテル(アルキレンオキシド平均付加モル数5〜15)が好ましい。(c)成分の組成物中の含有量は、洗浄性能の点から、0.5〜8重量%、好ましくは1〜6重量%、より好ましくは2〜5重量%である。また、(c)成分はアミンオキシドを含むことが好ましく、(c)成分中のアミンオキシドの割合は50〜100重量%、更に75〜100重量%であることが好ましい。
【0014】
本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、上記(a)〜(c)成分と水を含有する液体組成物、好ましくは水溶液の形態であり、5℃におけるpHは2〜5である。このようなpH範囲で優れた発泡性能、除菌性能、洗浄性能を得ることができる。このようなpHに調整するには、(b)、(c)成分の含有量を調整することで達成できるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いて目的のpHに微調整することも可能である。
【0015】
本発明の硬質表面用洗浄剤組成物には、上記の成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で通常の硬質表面用の洗浄剤に配合されている添加剤、例えば、香料、抗菌剤、顔料、染料などを添加することができる。
【0016】
本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は硬質表面の洗浄に用いられる。さらに本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、硬質表面に適用、好ましくは硬質表面に泡を立てないように適用することで、カタラーゼを産生する微生物が硬質表面に存在した場合には、その微生物の存在を発泡という形で視覚的に容易に知らしめる事ができる。すなわち、本発明の硬質表面用洗浄剤組成物を用いた硬質表面の洗浄方法では、硬質表面に接触した前記組成物が発泡した場合には、当該硬質表面にカタラーゼを産生する微生物(細菌等)が存在すると判断することができる。このためには、本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、実質的に泡を立てないように(すなわち、実質的に該組成物を泡立たせずに)硬質表面に接触させることが好ましい。
【0017】
本発明の硬質表面用洗浄剤組成物の使用方法は特に限定されるものではないが、泡を立てないように用いる具体的な方法としては、容器に取り付けた細長いノズルの先から、あるいは複数の穴から吐出させるスクイズタイプや、噴霧粒径を細かくしたミストタイプのスプレーなどの方法を挙げる事ができる。
【0018】
本発明の対象となる具体的な硬質表面としては、特に限定されるものではないが、微生物が繁殖しやすい水周り、特にトイレ、浴室、シンクなどが好ましく、より好ましくはトイレ、浴室で使用されることが望ましい。
【0019】
本発明の硬質表面用洗浄剤組成物は、酸性洗浄剤をベースにして、硬質表面用途において、過酸化水素、特定の酸剤、特定の界面活性剤を、それぞれ特定量配合し、且つ特定のpH範囲とすることによって、従来にない、除菌性能及び洗浄力と菌の存在を判断できるという効果を奏することができる。
【実施例】
【0020】
表1〜2に示す成分を用いて硬質表面用洗浄剤組成物を調製し、下記に示す試験を行った。結果を表1に示す。
【0021】
〔1〕発泡性評価
直径1cm、長さ8cmの丸底試験管にウシ肝臓カタラーゼ(CALBIOCHEM社製)2mgを量り取る。これに容量固定式のマイクロピペット(ピペットマン)を用いて各試験液1mlを添加する。発泡の様子を観察し、直後の発泡のしやすさ、2分後の泡の持続性を以下の基準で測定した。直ちに(通常5〜20秒以内)発泡が始まるので、そのときの様子を観察し、2分後に改めて泡の状態を確認する。なお、この結果は、硬質表面用洗浄剤組成物を硬質表面に適用した際に、カタラーゼを産生する微生物が存在する場合の発泡の程度を間接的に記述するものである。
<発泡性評価基準(直後)>
◎:すぐに勢い良く泡立つ
○:勢い良く泡立つ
△:じわじわと泡立つ
×:ほとんど泡立たない
<発泡性評価基準(2分後)>
◎:十分な泡量が維持されている。
○:泡量がかなり維持されている。
△:泡はある程度残っている。
×:ほとんど残っていない。
【0022】
〔2〕除菌試験
公正取引委員会は、洗剤・石けん公正取引協議会から申請されていた台所用洗剤と住宅用洗剤の除菌表示に関する公正競争規約の追加・改定案を、平成18年9月1日付で認定している(参考HP;{ HYPERLINK "http://jsda.org/w/01_katud/a_sekken27.html#anchor02" ,http://jsda.org/w/01_katud/a_sekken27.html#anchor02})。本試験も、ここで示される住宅用合成洗剤及び石けんの除菌活性試験方法(平成19年(2007年)7月31日改訂版)に基づいて行った。
<除菌試験評価基準>
○;E. coliS. aureus両菌種において評価基準を満たす。
△;E. coliS. aureusいずれか一方の菌種において試験基準を満たす。
×;E. coliS. aureus両菌種において試験基準を満たさない。
【0023】
〔3〕無機汚れ洗浄力試験
無機汚れのモデルとしてリン酸二水素カルシウム水溶液(濃度2%)1gを10cm角の黒色陶器タイルに均一に塗布し、乾燥させモデル汚染板を作製し、これを用いて洗浄力試験を行った。洗浄力試験は組成物を水平に固定した上記モデル汚染板上に試験液0.1gを染み込ませた5mm角の脱脂綿を静置し、1分後、イオン交換水を用いて、脱脂綿ごと十分にすすぐ。すすいだ後、乾いた布で静置した場所の水分を静かに取り除く。そのとき、脱脂綿を静置した場所の状態を肉眼で測定することにより、以下の評価基準で洗浄力を評価した。
<洗浄力評価基準>
○:組成物を付着させた部分の90%以上で汚れが除去される(陶器タイル地の黒色が確認できる)。
△:組成物を付着させた部分の50%以上90%未満で汚れが除去される(陶器タイル地の黒色が確認できる)。
×:組成物を付着させた部分の50%未満で汚れが除去される(陶器タイル地の黒色が確認できる)。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表中、%は重量%である。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテルは、花王株式会社製、エマルゲン108(HLB12.1)である。また、「1N−NaOH必要量」とは、組成物100mlを25℃のpHを6にするために必要な1N−NaOH水溶液の量である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)過酸化水素0.5〜10重量%、(b)リン酸、ホスホン酸類及び分子中にカルボキシル基を2〜5個有する有機カルボン酸から選ばれる少なくとも1種の酸剤1.5〜20重量%、(c)アミンオキシド及び非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤0.5〜8重量%を含有し、25℃におけるpHが2〜5である硬質表面用洗浄剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬質表面用洗浄剤組成物を硬質表面に接触させて洗浄する、硬質表面の洗浄方法。
【請求項3】
前記硬質表面用洗浄剤組成物を実質的に泡を立てないように硬質表面に接触させる、請求項2記載の硬質表面の洗浄方法。
【請求項4】
硬質表面が、トイレ、浴室、又はシンクの硬質表面である、請求項2又は3記載の硬質表面の洗浄方法。
【請求項5】
硬質表面に接触した前記組成物の発泡により当該硬質表面にカタラーゼを産生する微生物が存在することを確認しつつ、硬質表面の洗浄を行う、請求項2〜4の何れか1項記載の硬質表面の洗浄方法。

【公開番号】特開2010−59296(P2010−59296A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225482(P2008−225482)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】