説明

磁場発生装置ならびにそれを用いる水処理システムおよび水処理方法

【課題】配管内の水を超電導磁石で磁化する磁場発生装置において効率良く磁化を行う。
【解決手段】配管3によって形成される閉ループ内を流れる水8を超電導磁石によって磁化する磁場発生装置1において、超電導磁石には、一対のコイル11,12が、その軸Z方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石を用い、そのスプリット型の超電導磁石による一対のコイル11,12の離間した空間内に配管13を配置して磁化を行う。したがって、磁力線は管軸Y方向とは垂直なZ方向から加わることになり、配管3内の水8を超電導磁石によって効率良く磁化することができる。また、既設の配管13の周囲にスプリット型の超電導磁石の一対のコイル11,12を設置する空間があれば、既設の配管13はそのままで、一対のコイル11,12間に配管13が位置するようにコイル11,12を設置するだけで設置を行うことができ、構造を簡略化することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水などの管体を流れる流体を処理するための磁場を発生する装置ならびにそれを用いる水処理システムおよび水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、給水管や給湯管、或いは冷却水管や空調用配管等では、内部を循環する水に、鉄管に生成した錆が剥がれて浮遊し、水と共に配管内を流れることがよくある。水と共に流れるこの浮遊錆は、配管の内壁に付着し、配管閉塞の原因となり、問題である。
【0003】
そのような配管の内部腐食を防止する方法の内、化学薬品を使わず、環境面で優れている方法として、磁場を用いた処理方法が知られている。それによれば、流水に磁束を印加すると、水物性や水中の溶存酸素濃度が変化し、結果、鉄錆(Fe(マグネタイト))の核生成・成長に影響を与えるものと考えられる。詳しくは、Feの核生成密度が向上するとともに、その錆粒子の成長が抑制されるために、Feの微細な結晶から成る皮膜が鉄管の内面に生成して、酸素の拡散を抑制する効果が得られ、それ以上の鉄錆の生成を抑制しようとする働きによるものと思われる。
【0004】
そこで、たとえば、特許文献1では、図11で示すように、水が流れる配管101の外周面に、複数の棒状の永久磁石102を、その分極方向が管軸方向と平行に配置することで、磁束を印加している。こうして磁束を印加された水は、磁気水または磁化水と呼ばれ、上記のように、防錆や配管内のスケール(scale:水の中に溶けているカルシウムなどが管内壁に固着したもの。罐石(かんせき)。湯垢(ゆあか)。)の付着防止に効果を発揮する。
【0005】
前記の効果は、水に印加する磁束が強い方が高く、また磁束線の方向に対して水が垂直に流れる方が高くなるという考えから、特許文献2では、図12のように、磁性を有する金属製の板材111と、この板材111を同一の極を向き合わせて挟む磁石112とを積層して成る積層体113を、複数隣り合わせに組み合わせると共に、異なる積層体に属する板材同士を積層方向において対向させることで、できるだけ多くの回数、水が磁束線を直角に横切るように構成されている。しかしながら、この装置は構造が複雑であり、同一の極を向き合わせて異なる永久磁石を組合わせるには、大きな抗力に打ち勝つ力で組立てなければならず、組立てが困難である。より基本的な課題としては、永久磁石を用いているために、高い磁束密度を得ることが困難であった。
【0006】
そこで、超電導磁石を用いて、前記磁束密度を高められる磁場発生装置が、本件出願人による特許文献3などで提案されている。その従来技術は、超電導の漏れ磁束の影響を低減するアクティブシールドに関するものであるが、概略構成は、図13で示す通りである。すなわち、前記超電導のメインコイル121の外周に、逆方向の磁束を発生するシールドコイル122を設け、前記メインコイル121の内周に中央パイプ123を設け、メインコイル121とシールドコイル122との間に複数の周辺パイプ124を設けるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−3394号公報
【特許文献2】特開2002−126752号公報
【特許文献3】特開2010−232432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術では、超電導磁石を用いているので、発生する磁束は永久磁石に比べて非常に強いものの、その磁束線は、図14で示すように管軸方向、すなわち水の流れる方向と平行に発生し、特許文献2の第0003段落にも示されているように、効率良く磁化を行えないという問題がある。また、管体113が鉄管などの磁性体から成る場合、コイル131で発生した磁束線132の多くは、透磁率の高い管体113中に吸い込まれて該管体113を通して磁路を形成してしまい、透磁率が低い管体113内の水には磁束が効果的に印加されず、これによっても管体113内の水を効率的に磁化できないという問題がある。さらにまた、図13において、パイプ123,124は、一旦流路から取外して、コイル121,122のボア内を通さなければならず、構造が複雑になるという問題もある。
【0009】
本発明の目的は、管体内の流体を超電導磁石によって効率的に磁化することができるとともに、構造の簡単な磁場発生装置ならびにそれを用いる水処理システムおよび水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁場発生装置は、内部を流体が流れる管体と、前記管体内を流れる流体を磁化するための磁束を形成する超電導磁石とを備え、前記超電導磁石は、一対の超電導コイルを備え、それらの超電導コイルが、その軸方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石から成り、前記一対の超電導コイルの軸方向と前記管体の長手方向とが直交する姿勢で、当該管体を挟んで、その両側に前記一対の超電導コイルが配置されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、管体に水などの流体を流し、その流体を超電導磁石によって磁化するようにした磁場発生装置において、前記超電導磁石には、一対の超電導コイルが、その軸方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石を用い、そのスプリット型の超電導磁石による一対の超電導コイルの離間した空間内に前記管体を配置して磁化を行う。
【0012】
したがって、磁束線は管軸方向とは垂直な方向から加わることになり、管体内の流体を、超電導磁石によって効率良く磁化することができる。また、管体の材質は、磁性、非磁性を問わないが、管体が鉄管などの磁性体から成る場合、一方のコイルで発生した磁束線の一部が管体内を通して他方のコイルへ磁路を形成するものの、多くの磁束線は、筒状の管体の薄い一方の壁をほぼ垂直に通り抜けて内部の流体を通過し、他方の壁から他方のコイルへ抜けてゆくので、これによっても管体内の流体を効率的に磁化することができる。さらにまた、既設の管体の周囲に、スプリット型の超電導磁石の一対のコイルを設置する空間があれば、既設の管体をそのままの状態にして、前記一対のコイルの離間した空間内に管体が位置するようにコイルを設置するだけで該磁場発生装置の設置を行うことができ、構造を簡略化することもできる。
【0013】
また、本発明の磁場発生装置では、前記管体は磁性配管であることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、上述のように磁性配管であっても、コイルで発生した磁束の多くを、該磁性配管内の流体に印加することができる。
【0015】
したがって、既設の水道管などの管体をそのまま利用することができる。
【0016】
さらにまた、本発明の磁場発生装置では、前記管体は鉄管または鉄基合金管であり、前記流体は水であり、前記一対のコイル間で発生される最大磁束密度は、1.6T以上、18T以下であることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、水を磁気処理する場合に、超電導磁石の発生する最大磁束密度としては、1.6T以上ないと磁気処理した効果が乏しく、また18T以下でないと、超電導磁石のボア内の微小な磁場勾配による磁気力を受けて、配管が動いたり変形したりする。
【0018】
したがって、超電導磁石の発生する最大磁束密度は、1.6T以上、18T以下が望ましい。
【0019】
また、本発明の水処理システムでは、前記管体は閉ループを構成するように接続されて、前記流体は閉ループ内で循環され、前記の磁場発生装置の上流側に、鉄錆沈殿用の貯水槽を備えることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、上述の磁場発生装置で磁気処理した水を鉄管による閉ループを循環させる場合、貯水槽のように流れが小さい場所では、浮遊する鉄錆粒子がお互いに凝集する性質を利用して、該貯水槽の底に沈殿させる。
【0021】
したがって、配管内を流れる鉄錆の量を低減することができる。また、鉄錆を沈殿させるにあたって、磁気処理した水の場合は凝集する働きがより強くなり、処理していない水に比べて、配管内を流れる鉄錆の量の低減効果を高くすることができる。
【0022】
さらにまた、本発明の水処理方法では、前記流体は閉ループ内で循環され、前記の磁場発生装置で発生する最大磁束密度をB[T]とするとき、該磁場発生装置において磁気処理された水が再び該磁場発生装置で処理されるまでの時間τ[min]を、τ≦40√Bとすることが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、上述の磁場発生装置で磁気処理した水を閉ループを循環させる場合、上式を満足する時間以内であれば、磁気処理水の効果をほぼ維持させることができる。たとえば、磁場発生装置で発生する最大磁束密度を9[T]とするとき、120[min]以内である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の磁場発生装置ならびにそれを用いる水処理システムおよび方法は、以上のように、管体に水などの流体を流し、その流体を超電導磁石によって磁化するようにした磁場発生装置において、前記超電導磁石には、一対の超電導コイルが、その軸方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石を用い、そのスプリット型の超電導磁石による一対の超電導コイルの離間した空間内に前記管体を配置して磁化を行う。
【0025】
それゆえ、磁束線は管軸方向とは垂直な方向から加わることになり、管体内の流体を、超電導磁石によって効率良く磁化することができる。また、管体の材質は、磁性、非磁性を問わないが、管体が鉄管などの磁性体から成る場合、一方のコイルで発生した磁束の一部が管体内を通して他方のコイルへ磁路を形成するものの、多くの磁束線は、筒状の管体の薄い一方の壁をほぼ垂直に通り抜けて内部の流体を通過し、他方の壁から他方のコイルへ抜けてゆくので、これによっても管体内の流体を効率的に磁化することができる。さらにまた、既設の管体の周囲に、スプリット型の超電導磁石の一対のコイルを設置する空間があれば、既設の管体をそのままの状態にして、前記一対のコイルの離間した空間内に該管体が位置するようにコイルを設置するだけで該磁場発生装置の設置を行うことができ、構造を簡略化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の一形態に係る磁場発生装置を用いる水処理システムのブロック図である。
【図2】比較用の磁場発生装置を用いる水処理システムのブロック図である。
【図3】配管に鉄管を用いた場合における前記磁場発生装置の発生磁束線の伝搬経路図である。
【図4】本件発明者による第1の実験結果を示すグラフであり、時間経過に対する錆の発生量を示すグラフである。
【図5】本発明の第2の実験の方法を説明するためのブロック図である。
【図6】本件発明者の第2の実験結果を示すグラフであり、時間経過に対する配管への錆やスケール等の付着量を示すグラフである。
【図7】本発明の第3の実験の方法を説明するためのブロック図である。
【図8】本件発明者の第3の実験結果を示すグラフであり、時間経過に伴う流路途中でのサンプル板への錆の付着量変化を示すグラフである。
【図9】本件発明者の第4の実験結果を示すグラフであり、時間経過に伴う貯水タンクの底でのサンプル板への錆の付着量変化を示すグラフである。
【図10】本件発明者の第5の実験結果を示すグラフであり、循環時間の変化に対する磁化の効果の変化を示すグラフである。
【図11】典型的な従来技術の水を磁化する装置の側面図である。
【図12】他の従来技術の水を磁化する装置の斜視図である。
【図13】さらに他の従来技術の水を磁化する装置の断面図である。
【図14】図13の装置における磁束線の伝搬経路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は本発明の実施の一形態に係る磁場発生装置1を用いる水処理システム2のブロック図であり、図2は比較用の磁場発生装置1’を用いる水処理システム2’のブロック図である。これらの水処理システム2,2’は、管体としての冷却水管や空調用配管等の配管3内を、流体としての水が、閉ループで循環されるシステムを模したもので、所定長の前記閉ループ状の配管3内に、循環用のポンプ4およびそのポンプ4の上流側には、錆沈殿用の貯水タンク5を備えて構成される。また、これらの水処理システム2,2’は、磁場発生装置1,1’の効果を検証するためのものであり、前記磁場発生装置1,1’が貯水タンク5の上流側に設けられるとともに、水の温度変化を生じさせるチラー6がその磁場発生装置1,1’の上流側に設けられ、また錆の発生源7がポンプ4の下流に設けられている。矢印は循環水の流れる方向を示す。
【0028】
注目すべきは、本発明では、前記磁場発生装置1は、配管13と、超電導磁石とを備えて構成され、前記超電導磁石には、一対のソレノイド巻きの超電導コイル11,12が、その軸(鉛直)Z方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石が用いられることである。そして、その一対のコイル11,12の軸Z方向と、前記配管13の長手方向(管軸方向Y)とが直交する姿勢で、当該配管13を挟んで、その両側に前記一対の超電導コイル11,12が配置される。すなわち、一対のコイル11,12の離間した空間内に、前記配管13が配置される。各コイル11,12のボアWの直径は60mm、上下のコイル11,12間の距離Lは80mm、最大磁場は13Tである。コイル11,12の素線には、上述の磁場を発生できれば、円柱状の線材、角柱状の線材、或いは帯状の線材の何れが使用されてもよいが、単位体積当りの電流密度や放熱性、さらには比較的平行な磁場を形成できる点で、帯状線材が好ましい。
【0029】
一方、比較用の磁場発生装置1’の超電導磁石には、ソレノイド巻きのコイルを内包する超電導磁石が単体で用いられる。同様に、ボアWの直径は60mm、最大磁場は13Tである。
【0030】
なお、上述の説明および特許請求の範囲においても、超電導コイル11,12の軸(鉛直)Z方向と、配管13の長手方向(管軸方向Y)とが直交すると説明しているが、厳密に直交である必要はなく、多少の較差を有していてもよい。具体的には、管軸Yを含む鉛直平面上での振れ(ピッチ)および水平面上でのコイル軸線Zを中心とした回転(ヨー)で、共に、最大で±10°程度である。すなわち、ボア内の配管13に対して、後述の最大磁束密度を印加できる傾きであれば、許容することができる。
【0031】
前記配管13を含む配管3は、錆の発生しない塩化ビニール管から成り、内径は20mm、外径は24mm、配管3部分の長さは、合計で20mである。ここで、比較例の磁場発生装置1’では、配管13の軸Y方向とほぼ平行に磁場が印加される。したがって、配管3,13が磁性配管であり、このように超電導ボア内に高い透磁率を有する磁性配管材料が存在すると、この配管材料の飽和磁束密度までは、前述の図14で示すように、コイル131で発生した磁束線132は透磁率の高い管体113中に吸い込まれて該管体113を通して磁路を形成してしまい、透磁率が低い管体113内の水には僅かの磁束しか通らないことになる。配管13が前記塩化ビニール管のように非磁性の管である場合は、水内を通過する磁束も増加するが、大半の磁束は管壁近くを通過し、管中央部の磁束は少ない。
【0032】
これに対して、本発明の磁場発生装置1でも、磁性配管の場合、図3(a)で示すように、一方のコイル、たとえば11で発生した磁束線の一部が、参照符号M1で示すように配管13の内部13aを通して他方のコイル12へ磁路を形成するものの、多くの磁束線は、参照符号M2および図3(b)で示すように、筒状の配管13の薄い一方の壁13bをほぼ垂直に通り抜けて内部の水8を通過し、他方の壁13cから他方のコイル12へ抜けてゆく。勿論、配管13が非磁性の管である場合は、参照符号M1で示す配管13の内部13aを通る磁束が減少し、ボア(内径)W内の磁束をより有効に使用することができる。図3(b)は図14と同様に超電導磁石付近の管軸Y方向の断面図であり、図3(a)は管軸とは直交方向の断面図である。
【0033】
一方、錆の発生しない配管3に対して、錆を加速的に発生させ、かつその発生した錆の量を正確に測定できるように、前記発生源7を設置している。前記発生源7は、SPCC板(普通鋼板)を収容するボックスから成り、前記配管3に直列、すなわち該水処理システム2内を循環する総ての水が、この発生源7内を通過するように配置されている。前記SPCC板は、長さ10mm×幅20mm×厚さ2mmの大きさで、2枚が前記ボックスに設置され、ボックスは錆を発生しないように、ステンレス鋼製である。
【0034】
また、循環水としては、錆の生成速度を高めるために、通常の水道水にNaClを加えて、NaCl濃度を100ppmとしている。そして、ポンプ4は、貯水タンク5内の水を汲み上げて、経路内を20L/minの速度で循環させる。この時、貯水タンク5内で沈殿せず、浮遊している比較的小さい錆粒子は、フィルタ除去などを行わず、循環水の中に浮遊したまま、配管3内を流れた。
【0035】
(実験1)
第1の実験の方法としては、ポンプ4を稼動させて水8を循環させ、所定の時間が経過した後にSPCC板を取り出し、SPCC板の腐食による重量減少量を測定した後、SPCC板を戻して処理を継続し、再度所定の時間が経過した後に重量減少量を測定するということを所定日数繰返すというものである。SPCC板の重量減少量の測定については、予め処理前のSPCC板の重量を測定しておき、前記所定の時間処理したSPCC板を鉄連法により洗浄して鉄錆等を除去し、その洗浄後の重量を処理前の重量から差し引くことによって前記重量減少量とした。そして、もう1例の比較用として、図1および図2の水処理システム2,2’から、磁場発生装置1,1’だけを設けていない図示しない構成を用いて、同様の実験を行った。
【0036】
図4は、本件発明者による第1の実験結果を示すグラフであり、横軸は累積の処理日数であり、縦軸はSPCC板の重量減少量、すなわち錆の発生量である。実験は、先ずチラー6を用いて水温を14℃に保持して、145日に亘って行った後、水8およびSPCCサンプルを入れ替え、水温を27℃に上げて、同様にして145日に亘って行った。図4では、丸印が磁場発生装置1を用いる本願発明の測定結果を表し、三角印が磁場発生装置1’を用いる比較例1の測定結果を表し、四角印が磁場無しの比較例2の測定結果である。図4の結果から、温度が高い方が、重量減少量が大きく、すなわち錆易くなるものの、同一の処理時間で比較すると、必ず磁場有りの方が、磁場無しよりも、重量減少量、すなわち錆が少ないことが理解される。しかしながら、同じ磁場有りでも、前述のように水8中に殆ど磁束が通らない磁場発生装置1’を用いる比較例1は、磁場無しの比較例2に近い測定結果となっていることも理解される。
【0037】
また、水温14℃で58日の間処理を行ったSPCC板から錆を取り出し、Cuターゲットに加速電圧45kVの電子線を照射し、そこから発生する特性X線のKα線を用いた単色のX線回折(θ−2θ法)を行った。このθ−2θ法では、回折ピークの出現する2θの値は、格子面間隔を表し、ピーク値の半分の高さの位置での幅(一般に半価幅)は、結晶サイズに依存する量として知られている。その解析の結果は、Fe(220)面からの回折ピーク(2θ=13.1deg)の半価幅は、本願発明の磁場発生装置1を用いた場合は、0.126degであり、0.120degよりも大きく、X線回折に寄与する回折面に平行な方向の格子面の数(結晶厚さに関係)が比較的少なく(結晶厚さが薄い)、これに対して磁場発生装置1’を用いる比較例1では、前記半価幅は、0.118degであり、0.120degよりも小さい値であった。このように本願発明の方が、比較例1に比べて、細かく緻密なFe結晶が生じていることが判明した。
【0038】
前記θ−2θ法によるFe(220)面からの回折ピーク(場合によってはγ−Fe00H(011)面からの回折ピークも含む)の半価幅は、メンテナンスの指標として用いることができる。具体的には、上述のような磁化処理によっても、前記Fe(220)面からの回折ピークの半価幅が前記0.120degよりも小さくなると、錆の粒子が大きくなったと判定し、水を交換する等である。
【0039】
一方、貯水タンク5内(内部の流量は1L/min程度以下)の底部に沈殿している鉄錆を採取し、それを乾燥したものを電子顕微鏡で観察したところ、本願発明の磁場発生装置1を用いた場合は、直径0.1μm程度以下の一次粒子が凝集して、直径2.5〜3.2mmのサイズになっていた。これに対して、磁場発生装置1’を用いた比較例1でも、一次粒子の直径は0.1μm程度以下でほぼ等しいけれども、最終の粒子の直径は、1.2〜2.0mm程度であった。これにより、比較例1に比べて、本願発明では、貯水タンク5内で一次粒子の凝集が進み、タンク5内に沈降し易いことが判明した。
【0040】
また、貯水タンク5内の上部の水を採取し、鉄総量をJIS K0102 57.1に準拠して測定したところ、磁気水では2.7mg/Lであり、比較例1,2の3.7〜3.8mg/Lに比べて約27%少なくなっていることが判明した。
【0041】
(実験2)
図5は、第2の実験の方法を説明するためのブロック図である。この実験では、図1の構成において、ポンプ4と錆の発生源7との間に、一対のバルブ91,92を設けて、それらのバルブ91,92間の配管3を分断できるようにしておき、配管内監視装置20を介在することである。前記配管内監視装置20は、同種の3本の配管21〜23と、照明光源25と、カメラ26と、図示しないパーソナルコンピュータとを備えて構成される。
【0042】
配管21〜23は、外径32mm×内径26mm×長さ300mmの透明な塩化ビニールパイプから成り、水平に3本配置される。その内の1本の配管21が前記バルブ91,92間に介在されて、閉ループ内の水が通過する。したがって、残余の配管3との径の関係で、配管21,22内の流速は若干低下する。これに対して、もう1本の配管22は、磁場発生装置1を設けていない同様の閉ループにおけるバルブ91,92間に接続され、残りの1本の配管23は、その両端が栓231,232で閉塞され、参照用のために循環水は流さないようにした。
【0043】
前記照明光源25は、3本の配管21〜23を均等に照射できるように、下方に配置された、たとえば縦250mm×横180mmの発光部を有する蛍光灯光源から成る。この照明光源25から光を照射して、ポンプ4の稼動後、所定の時間が経過する毎に、上方から、すなわち配管21〜23を透過する光を、カメラ26で撮像して、デジタル化したデータを、解析用の図示しないパソコンに取り込んだ。
【0044】
図6は、本件発明者の第2の実験結果を示すグラフであり、横軸はポンプ4の稼動時間であり、縦軸は前記カメラ26で撮影した画像から、3本の配管21〜23における20mm×20mmの領域の透過光の積分強度を求め、規格化したものである。四角印が配管21による磁場有りの磁気水、菱形印が配管22による磁場無しの通常水、三角印は配管23による参照用の空気通過を示している。この図5から明らかなように、配管21,22の内壁への錆の付着および循環水の濁りのために、共に透過光の強度は時間経過と共に低下するが、同一時間で比較すると、磁気水の方が透過光強度が高くなっている。これは、磁気水の方が通常水に比べて配管21の内壁への錆の付着および循環水の濁りが少ないことを意味している。
【0045】
(実験3)
図7は、第3の実験の方法を説明するためのブロック図である。この実験では、図1の構成において、錆の発生源7とチラー6との間に、錆の吸着手段31を設けて、循環水中に浮遊する錆を吸着できるようにしたものである。具体的には、前記吸着手段31は、前記SPCC板と同様の、長さ10mm×幅20mm×厚さ2mmの大きさであるが、錆びないステンレス鋼製のサンプル板を前記ステンレス鋼製のボックス内に設置したものから成る。
【0046】
図8は、本件発明者の第3の実験結果を示すグラフであり、横軸はポンプ4の稼動時間であり、縦軸は錆の付着による前記サンプル板の重量増加を示すものである。四角印が磁場発生装置1有りの磁気水、菱形印が磁場発生装置1無しの磁場無しの通常水を示している。図7の結果から、磁場有りの磁気水を用いた場合に、磁場無しの通常水を用いる場合に比べて、サンプル板への錆の付着量を低減できていることが理解される。これは、磁気水を用いた場合、水8中に溶出している錆の量が元々少ないためと思われる。
【0047】
(実験4)
図9は、本件発明者の第4の実験結果を示すグラフである。この実験は、前記吸着手段21におけるサンプル板と同様の、長さ10mm×幅20mm×厚さ2mmのステンレス鋼製のサンプル板を貯水タンク5の底部に設置し、所定の時間ポンプを稼動して該サンプル板の重量を測定し、付着する錆の重量変化を調べたものである。横軸はポンプ4の稼動時間であり、縦軸は錆の付着による前記サンプル板の重量増加を示すものである。四角印が磁場発生装置1有りの磁気水、菱形印が磁場発生装置1無しの磁場無しの通常水を示している。
【0048】
図8の結果とは逆に、貯水タンク5のような流れの緩い箇所では、磁場有りの磁気水を用いた場合は、磁場無しの通常水を用いる場合に比べて、サンプル板への錆の付着量が増大することが理解される。これは、磁気水の方が、元々の錆の量が少なくても、貯水タンク5内の錆粒子の沈殿が、通常水よりも促進されるためと思われる。
【0049】
(実験5)
図10は、本件発明者の第5の実験結果を示すグラフである。この実験は、配管3の全長を100mとし、水量と最大磁束密度との組合わせを変えて、水温14℃で58日の処理を行う間に、適宜SPCC板を取り出し、X線回折を行ったものである。最大磁束密度は、前記磁場発生装置1を大型のものに取替えて、2Tと、10Tと、18Tとで行った。横軸は水量変化、すなわち延長された配管3の閉ループを水が循環する時間τであり、縦軸は前記X線回折θ−2θ法によるFeの(220)面からの回折ピークの半価幅を示すものである。三角印が2T、四角印が10T、菱形印が18Tの結果を示している。
【0050】
図10の結果、最大磁束密度Bが2Tの場合、循環時間τが56min(40√B=56.57)以下の場合に、Feの(220)面からの回折ピークの半価幅が前記0.120deg以上となった。また、最大磁束密度が10Tの場合、循環時間τが125min(40√B=126.49)以下の場合に、Feの(220)面からの回折ピークの半価幅が前記0.120deg以上となった。さらにまた、最大磁束密度が18Tの場合、循環時間τが168min(40√B=169.71)以下の場合に、Feの(220)面からの回折ピークの半価幅が前記0.120deg以上となった。
【0051】
これらのことから、τ≦40√Bの条件を満足する場合に、Feの(220)面からの回折ピークの半価幅が0.120deg以上となることが判明した。したがって、上述の磁場発生装置1で磁気処理した水を閉ループに循環させる場合、上式を満足する時間以内であれば、磁気処理水の効果をほぼ維持させることができ、好適である。たとえば、磁場発生装置1で発生する最大磁束密度を9[T]とするとき、120[min]以内である。
【0052】
以上のように、本発明の磁場発生装置1は、管体としての配管13内に、流体としての水8を流し、その水8を超電導磁石によって磁化するようにした磁場発生装置において、前記超電導磁石には、一対のコイル11,12が、その軸Z方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石を用い、そのスプリット型の超電導磁石による一対のコイル11,12の離間した空間内に前記配管13を配置して磁化を行う。
【0053】
したがって、磁力線は管軸Y方向とは垂直なZ方向から加わることになり、配管13内の水8を、超電導磁石によって効率良く磁化することができる。これによって、図4で示すように、錆の発生を抑えることができる、すなわち鉄系材料に防錆効果が生じ、配管3内の水8と共に流れる鉄総量(鉄系材料から腐食溶出して生じた鉄イオンと鉄の腐食生成物との総和)を低下することができるとともに、図6で示すように、配管3の内壁へのスケール付着防止効果を得ることもできる。
【0054】
また、配管13の材質は、磁性、非磁性を問わないが、スプリット型の超電導磁石を用いることで、前述の図3(a)で説明したように、磁性の管であっても、該配管13内の水8を効率的に磁化することができ、既設の水道管などの配管をそのまま利用することができる(配管13の外側から設置することが可能である。)。さらにまた、既設の配管13の周囲に、スプリット型の超電導磁石の一対のコイル11,12を設置する空間があれば、既設の配管をそのままの状態にして、前記一対のコイル11,12の離間した空間内に該配管13が位置するようにコイル11,12を設置するだけで該磁場発生装置1の設置を行うことができ、構造を簡略化することもできる。
【0055】
また、配管13が鉄管または鉄基合金管であり、前記流体が水8である場合には、前記一対のコイル11,12間で発生される最大磁束密度を、1.6T以上、18T以下とする。これは、水を磁気処理する場合に、超電導磁石の発生する最大磁束密度としては、図10における2Tのデータから、循環時間τを短くしても、X線回折θ−2θ法によるFeの(220)面からの回折ピークの半価幅が0.120degを得られる、すなわち磁気処理した効果が得られるのは1.6T程度と想定されるためで、また前記半価幅が0.120degを得られる循環時間τとして、18Tのデータでは、実用上充分と思われる150分以上得られるためで、逆にこれ以上の磁束では、超電導磁石のボア内の微小な磁場勾配による磁気力を受けて、配管3が動いたり変形したりするためである。したがって、コイル11,12の発生する最大磁束密度は、1.6T以上、18T以下が望ましい。
【0056】
その中でも、さらに好ましいのは、5.0T以上、12T以下である。これは、磁束密度が高い方が防錆効果は増加するけれど、磁束密度を高くするためにマグネットサイズも増大し、コストもアップするためで、防錆効果とコストパフォーマンスとの双方を考慮した結果である。
【0057】
さらにまた、このように水8を鉄管による閉ループを循環させる場合に、ポンプ4の上流側に貯水タンク5を設けることで、該貯水タンク5のように流れが小さい場所では、浮遊する鉄錆粒子がお互いに凝集する性質を利用して、該貯水タンク5の底に効率良く沈殿させる、すなわち配管3内を流れる鉄錆の量を低減することができる。その場合に、磁場発生装置1で水8を磁気処理することで、図9で示すように、処理していない水に比べて、配管3内を流れる鉄錆の量の低減効果を高くすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 磁場発生装置
11,12 超電導コイル
13 配管
2 水処理システム
3 配管
3a 内部
3b,3c 壁
4 ポンプ
5 貯水タンク
6 チラー
7 錆の発生源
8 水
20 配管内監視装置
21〜23 配管
25 照明光源
26 カメラ
31 錆の吸着手段
91,92 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を流体が流れる管体と、前記管体内を流れる流体を磁化するための磁束を形成する超電導磁石とを備え、
前記超電導磁石は、一対の超電導コイルを備え、それらの超電導コイルが、その軸方向に離間して配置されるスプリット型の超電導磁石から成り、
前記一対の超電導コイルの軸方向と前記管体の長手方向とが直交する姿勢で、当該管体を挟んで、その両側に前記一対の超電導コイルが配置されることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
前記管体は、磁性配管であることを特徴とする請求項1記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記管体は、鉄管または鉄基合金管であり、前記流体は水であり、前記一対のコイル間で発生される最大磁束密度は、1.6T以上、18T以下であることを特徴とする請求項2記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記管体は閉ループを構成するように接続されて、前記流体は前記閉ループ内で循環され、前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁場発生装置の上流側に、鉄錆沈殿用の貯水槽を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項5】
前記流体は閉ループ内で循環され、前記請求項4記載の磁場発生装置で発生する最大磁束密度をB[T]とするとき、該磁場発生装置において磁気処理された水が再び該磁場発生装置で処理されるまでの時間τ[min]を、
τ≦40√B
とすることを特徴とする水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−115752(P2012−115752A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266861(P2010−266861)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】