説明

磁場発生装置及びスパッタリング装置

【課題】基板に投入する磁界の方向を基板面内で±1°以内に揃えることができ、且つコイル群毎に印加する電力を制御することで回転磁場を発生可能であるとともに、基板マグネットのサイズを低コストで変更することができる磁場発生装置を提供する。
【解決手段】磁場発生装置は、磁性材料からなる略棒状のコアエレメント21に導線23が巻回された有芯コイルエレメント20を、磁性材料からなる接続部品31を介して多角形状に連結して構成されており、基板保持台に載置された基板表面に平行な磁界を発生することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場発生装置及びスパッタリング装置に関し、特に容易に基板の成膜面での磁界の大きさや向きを変えることができる磁場発生装置及びこのような磁場発生装置を備えたスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置においては、益々の記録密度向上が要求されており、記録媒体に記録された磁気信号を電気信号に変換する磁気記録再生ヘッドにおいても高性能化が要求されている。磁気再生ヘッドに関する技術課題を克服するために様々な研究が進められてきている。その中でも、反強磁性層の上に軟磁性膜(ピン層)を形成し、さらに非常に薄い非磁性膜を間にはさんで別の軟磁性膜(フリー層)によって構成されるスピンバルブ方式が好んで使用されている。これらの薄膜は、スパッタ法を利用して積層状態に成膜される(特許文献1参照)。
【0003】
スピンバルブ構造をもつヘッドでは、記録媒体からの磁場によりフリー層の磁化方向が変化し、これによる電気抵抗の変化で記録信号を検出している。普通の軟磁性膜は、多くの磁区から構成されているが、このような膜をフリー層として使用すると、フリー層の磁化方向が変化する際に、磁区の不連続的な移動に伴うノイズ(バルクハウゼンノイズ)が発生する。従って、スピンバルブ構造のヘッドに使用する軟磁性膜は、できるだけ磁区の移動が少なく、バルクハウゼンノイズの少ない膜が望まれる。
【0004】
このような、制御された磁化容易軸を持つ軟磁成膜は、スパッタ成膜中に均一で方向性の揃った磁界内に配置された基板上に成膜することで得ることができる。そして、バルクハウゼンノイズを十分なレベルまで低減させるためには、基板に投入する磁界の方向を基板面内で±1°以内に揃える必要がある。また、このときの磁界強度として80ガウス程度が必要とされている。
【0005】
基板に対して均一な方向に磁場を投入する技術は従来から知られており、基板外周部もしくは基板下部に磁石や電磁石(以下、基板マグネットとする)を配置するなど基本構造は同じである。特許文献2に記載された技術によれば、リング状に固定された永久磁石を使用して、基板に対して均一な方向に磁場を投入する方法が提案されている。
【0006】
しかし、必要なときにのみ磁場を投入したい場合には永久磁石では都合が悪い。例えば、1つの真空容器(真空モジュールとする)にスパッタカソードが複数個設置されていて、非磁性膜と磁性膜を交互に成膜するような場合、非磁性膜の成膜中にも基板マグネットからの磁場の影響を受けてしまうことで膜厚分布は悪化するという問題がある。
【0007】
この対策としては、非磁性成膜専用真空モジュール、磁性成膜専用真空モジュールといったように成膜種別に分けることが考えられる。しかしこの場合、同一の真空モジュール内に格納できるターゲットの組み合わせが限定されることになる。永久磁石リングを基板から遠ざけることで磁場の影響を減らすことは可能であるが、基板上の磁場を完全に取り去ることは困難であり、非磁性膜の膜厚分布に影響を与えてしまうおそれがあった。
【0008】
更に、基板マグネットを搭載している真空モジュールの隣に基板エッチング、基板クリーニングなどの真空モジュールがある場合、基板マグネットのわずかな漏洩磁場により隣の真空モジュール内のプラズマが影響を受けてエッチング分布に影響を与えてしまう問題も知られている。すなわち、真空モジュールの配置についても制限されることになる。このような問題に鑑みて、基板マグネットとして電磁石を使用することも提案されている。電磁石を用いることにより、必要なときにだけ基板に磁場を投入することができる。
【0009】
基板マグネットとしての電磁石に関しても様々な技術が既に提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。これら二つの特許文献に記載された技術は、リング状の強磁性体(コア)に均等配置に複数のコイルを巻きつけ、これらのコイルに電流を流すことでコアから磁場を発生させる方式を採用している点で共通している。これらの特許文献ではコイルの個数を10個〜30個とした例が記載されており、これらのコイルを複数のコイル群としてグループ化するとともに、コイル群毎に印加する電流を制御することで回転磁場を発生可能に構成されている。
【0010】
特許文献4では、基板位置決め板(ステージ)下部に電磁石を配置する方法が取られている。この方法の利点は基板直下から磁場を投入することができるため、電磁石の寸法を比較的小さくできることと、コイルに流す電流を少なくすることができる点にある。しかし近年、基板を極低温まで冷却しながらの成膜や、500℃、800℃まで加熱するようなアプリケーションが見られ、これらの目的に対応したステージを設計するにあたり、ステージ直下に電磁石を入れることは、電磁石の温度管理やステージ部材との干渉の面から困難である。一方、特許文献3では、基板よりも外側に電磁石を配置する方法を採用しておりこの場合、ステージの機構に関わらず電磁石を配置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−158975号
【特許文献2】US6743340
【特許文献3】特許公報第4170439号
【特許文献4】特表2004−502314号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3、4のいずれにおいても、磁場の方向が均一である領域は基板マグネットの中心付近に限られている。たとえ直径150mm基板面内でスキュー分散角が小さくても直径200mm基板では特に基板外周領域にてスキュー分散角が悪化する場合が多い。具体的には、特許文献4の図8のように直径150mm以内では±1°以内のスキュー分散角が得られたとしても、直径200mmでは±3°以上のスキュー分散角となってしまうことが示されている。
【0013】
そのため、基板サイズを変更した場合には電磁石のサイズも変更しなければならないにもかかわらず、リング状のコアは寸法が決まってしまっていることからコアやコイルの再利用は困難であった。
【0014】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、基板に投入する磁界の方向を基板面内で±1°以内に揃えることができ、且つコイル群毎に印加する電流を制御することで回転磁場を発生可能であるとともに、基板マグネットのサイズを低コストで変更することができる磁場発生装置及びスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る磁場発生装置は、前記基板表面近傍に当該表面に平行な方向の磁界を生成するスパッタリング装置の磁界発生装置において、磁性材料からなる略棒状のコアエレメントに導線が巻回されてなる複数の有芯コイルエレメントと、
前記有芯コイルエレメントと同数の磁性材料からなる接続部品とを有して構成され、有芯コイルエレメントは、接続部品を介して多角形状に連結されていることを特徴とする。また、本発明に係るスパッタリング装置は、上述の磁場発生装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る磁界発生装置及びスパッタリング装置を用いることで、基板に投入する磁界の方向を基板面内で±1°以内に揃えることができ、且つコイル群毎に印加する電流を制御することで回転磁場を発生可能であるとともに、基板サイズが変わった場合でも、共通の部材を用いて容易に基板マグネットのサイズを変更させることが可能になるため、装置の変更に伴うコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る有芯コイルエレメントの正面図と断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る磁場発生ユニットと接続部品の概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構の真空容器への構成例である。
【図5】本発明の一実施形態に係る磁場発生ユニットの概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る磁場発生ユニットの概略図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構の模式図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構の制御回路の模式図である。
【図9】本発明の一実施形態(実施例1)に係る磁場発生ユニットの概略図である。
【図10】本発明の一実施形態(実施例1)に係る磁場発生ユニットの概略図と磁場強度とスキュー分散角の分布図である。
【図11】本発明の一実施形態(実施例2)に係る磁場発生ユニットの概略図と磁場強度とスキュー分散角の分布図である。
【図12】本発明の一実施形態(実施例3)に係る磁場発生ユニットの概略図と磁場強度とスキュー分散角の分布図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構から磁場を発生させるタイミングを示す説明図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構から磁場を発生させる方法の説明図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る磁場発生機構からの磁場方向を基板の方向・速度に合せて回転させるために行う電源の電流制御方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。また、各図面は煩雑化を防ぐため一部を除いて省略している。
【0019】
図1に示すスパッタリング装置100は、真空容器101内にスパッタリングカソード102、スパッタリングターゲット103そして基板保持台112を備えている。真空容器101は、プロセスガス110を導入するための流量制御器(マスフローコントローラー:MFC)110−1、及び、プロセスガス110や不純物ガスを排気するための排気機構104を備えている。
【0020】
スパッタリングカソード102は整合器108を介して高周波電源106ならびに直流電源107に接続されている。これにより、スパッタリングカソードには高周波のみの電力供給、高周波+直流重畳による電力供給、そして直流電力のみの電力供給のいずれかが可能になっている。
【0021】
基板保持台112には基板保持リング111が設けられ、基板Wを押し付け固定することが可能になっている。基板保持台112の周りには台座114に固定された磁場発生機構113(ここでは、磁場発生ユニット30)が配置されている。磁場発生機構113は、複数の有芯コイルエレメント20を、接続部材31を介してリング状(多角形状)に連結して構成されている。
【0022】
磁場発生機構113は、磁場発生ユニット30、50,60などを示し、本実施形態においては磁場発生ユニット30である。なお、磁場発生機構113から、真空容器101の間は不図示の導入配管が設置されており、内部を大気に保つように構成されている。
【0023】
次に、図2を用いて本発明を適用できる基板発生機構113の有芯コイルエレメント20について説明する。有芯コイルエレメント20は、強磁性体(SS400やSUY等)からなる断面略直方体状のコアエレメント21にコイル22を形成して構成されており、コイル22は導線23をコアエレメント21に幾重にも巻くことで構成されている。本実施形態においては、導線23として直径1.5mmポリエステルエナメルワイヤー(φ1.5PEW)が用いられている。
【0024】
更に図3(a)、(b)を用いて本発明を適用できる磁場発生ユニットを説明する。ここでは正六角形状の磁場発生ユニット30を例にとる。磁場発生ユニット30は、6つの有芯コイルエレメント(20)を正六角形の辺上に配置し各端部を強磁性体からなる接続部品31によって機械的・磁気的に接続されている。接続部品31の材料は強磁性体であればよいが、コアエレメント21と同一の材質が好適である。本実施形態においては、ネジ32によって接続部品31と有芯コイルエレメント20とを接続している。ネジ32の材質に関しては特に限定するものではないが、強磁性体から構成されることが望ましい。
【0025】
図4は本発明を適用できる磁場発生機構を真空容器に設置する場合の構成例である。接続部品31によって接続された有芯コイルエレメント20からなる磁場発生機構はケース42内部に収められる。ケース42には外部より電流を供給するための導線、並びに有芯コイルエレメントを冷却するための冷却媒体を導入するために、ポート44が設けられている。ケース42上には蓋45が溶接固定される。
【0026】
ポート44には不図示の配管が真空容器外まで接続されており、ケース42と蓋45によって密封されたケース内から冷却媒体などがリークすることはない。符号40はケースが多角形状に、符号41はケースが円形状構造になっており適宜選択すればよい。また仕切り46、47は冷却媒体がケース内全体に行き渡るようにポート44,44の間に設置すればよい。冷却媒体としては、窒素、ドライエアー、水などを使用することができる。
【0027】
図5には有芯コアエレメント20が接続部品51によって正八角形に接続された磁場発生ユニット50、図6では有芯コアエレメント20が接続部品61によって正十角形に接続された磁場発生ユニット60を示している。これらの磁場発生ユニット50,60は、本発明の適用可能例を表しており、例えば、磁場発生ユニット50(60)を構成していた有芯コアエレメント20を流用して、異なる形状の磁場発生ユニット60(50)を構成することができる。その際、接続部品51(61)は、磁場発生ユニット50(60)の形状に合った部品に変更する必要がある。
【0028】
図7は本発明を適用できる磁場発生機構の模式図、図8は磁場発生機構の制御系の模式図であり、接続図90は磁場発生機構への電流供給回路を示している。この適用例では、8つの有芯コイルエレメントが正八角形に配置された磁場発生機構91としている。8つの有芯コイルエレメント(C11〜C42)に電流源(P1〜P4)が導線92によって接続されている。
【0029】
電流源(P1〜P4)は信号線93によりCPU(中央演算処理装置)94に接続されている。CPU94は電流源P1〜P4に対して、電流の大きさ、電流投入時間、電流の方向を任意に命令することが可能であり、かつ不図示の記憶装置に制御内容を記憶、記憶装置からの制御内容の読みだしも可能となっている。また、基板Wを保持する回転可能なステージ(例えば基板保持台112)に搭載されたモーターエンコーダー(不図示)の情報がCPU94によって読み出される。
【0030】
有芯コイルエレメント(C11〜C42)の関係を図7に基づいて説明する。磁場発生機構91において正八角形の中心、言い換えれば、磁場発生機構91に内接もしくは外接する円の中心Oを対称点として、互いに平行である有芯コイルエレメントの組み合わせを定義する。すなわち[C11とC12]、[C21とC22]、[C31とC32]、[C41とC42]の4つの組み合わせを定義する。これは、下記に示す磁場95を少ない電源で賄い、磁場95の方向を一方向にそろえるために必要なものである。
【0031】
次に、各有芯コイルエレメント20と各電流源の接続について、図7に基づいて説明する。図7(a)のとおり有芯コイルエレメント20のコイル22は巻き線方向を持っている。すなわち、電流の向きが同じでも巻き線方向が変わると、有芯コイルエレメント20に発生する磁場の方向も変わる。本例では、図7(a)に示すような巻き線方向をもつコイル22の端子98を接続端子98m、接続端子98kと呼ぶ。図7(a)の場合、接続端子98mから接続端子98kに電流を流すと矢印方向に磁力線96が発生する。
【0032】
一方、有芯コイルエレメント20を例えば八角形沿って組み立てる場合を図7(b)を用いて説明する。このとき有芯コイルエレメント20は八角形に沿って全て同一方向に接続端子98が並ぶように接続される。すなわち接続端子98は八角形に沿って、m,k,m,k・・・・m,k,m,kの順番で並んでいる。そして、基板Wに一軸一様な磁場95を投入させるために、図7(b)のような磁力線96が得られるように各有芯コイルエレメント20に流す電流と接続端子98の接続方法を決めればよい。
【0033】
磁場95を発生させる方法を図7、図8と図14に基づいて説明する。磁場95を発生させるにはコイルに電流を流してコアエレメント内に磁力線96を発生させることが必要である。このとき、各コイルに流す電流の方向は下記の方法に従う。コイルは、図8のとおりC11とC12、C21とC22、C31とC32、C41とC42の対で組み合わせられていて、それぞれの対において流れる電流は互いに逆向きになっている。
【0034】
このようなことから、図7(b)に示される磁場発生機構91のX軸正側の領域では反時計回りに磁力線96が形成され、X軸負側の領域では時計回りに磁力線96が形成されている。また、磁場発生機構91の上下領域で磁力線96同士がぶつかり、コアエレメントより外部に漏れ出し、磁場発生機構91の上から下方向に向く磁場95を形成させる。なお、コイルに流す電流値を図14のように調整することで、磁場95の強度と方向を最適化することができる。
【0035】
これらの実施形態は、磁場発生機構が正六角形状、若しくは正十角形状の磁場発生ユニット30,60であっても、正八角形状磁場発生ユニット50(91)と同様に適用することができる。すなわち磁場発生機構が正n角形(n=6,8,10)の場合、有芯コイルエレメントはn/2個の組み合わせとし、電流源はn/2個だけ必要になる。
【0036】
次に、図15に基づいて、磁場発生機構からの磁場方向を基板の方向・速度に合せて回転させるために行う電源P1〜P4の電流制御方法を説明する。図15には、有芯コイルエレメントに流れる電流の時間変化が示されている。横軸は制御時間、縦軸は電流値を表しておりゼロを中心に上側が+、下側が−を表している。電源性能を考慮すると電流の立ち上がり時間は数10msecかかるので厳密には電流波形は台形となる。
【0037】
各電源の電流投入は、基板回転と同期させることが望ましい。例えば、図5のような正八角形の磁場発生機構の場合、図15に示すとおりの電源制御により45°おきに磁場方向を変えることが可能である。このような制御にすることで、磁界が45°おきに回転し、磁界の回転各速度と基板の各速度をそろえれば、基板には45°おきに、基板から見て常に同一方向に磁場を投入することが可能になる。図15は回転している基板において、基板ノッチと基板中心を結んだ仮想線に対して並行な磁場を投入していることを表している。
なお、基板ノッチとは、基板の向き等を判別するために、基板端部に形成された切り欠きのことをいう。
【0038】
有芯コイルエレメントに電流を投入する時間は基板の回転速度に依存する。電流投入時間が短ければ短いほど基板に対する磁界の方向は厳密に決定付けられるが、電流投入時間が長くなるとその間に基板が回転するため基板に対する磁界の方向はぶれてしまう。このようなことを踏まえ、電流を投入することが可能な最大時間t[sec]は、狙いの磁場方向に対して基板が±5°以内にあるとき(図13)が好適で、基板の回転数R[rpm]を用いて一般化すれば、式2のようになる。

t=10/(6×R)[sec] (式1)

例えば、10rpmで回転するならば所定の電流電源を0.167sec以下の時間投入すればよい。ここで、図15で電流を投入しない期間があるが、これは0[A]を0.167sec以下の期間投入すると解釈すればよい。
【0039】
有芯コイルエレメントに電流を投入するタイミングは、基板を回転させるためのモーターにエンコーダーを持たせれば常に位置情報を得ることが可能になるので。狙いの磁場方向に対して±5°以内で図15のような電流値を(式1)の時間だけ投入すればよい。一方、ステージの回転信号が一回転につき一度しか出力されないような場合、ステージの位置情報が常に把握できるわけではなくなるので、下記に示すような周期で電流電源を投入する。
【0040】
ノッチと基板中心を結んだ仮想線を狙いの磁場方向(図13)とすると、D°おきに磁場方向を変える場合の電流電源を投入する周期dt[sec]は、基板の回転数R[rpm]を用いて一般化すれば、式2のようになる。

dt=D/(6×R)[sec] (式2)

ただし、電流を投入するタイミングが仮想線では、狙いの方向からずれてしまうので、(式1)で示されるtを用いればD°ごとに−t/2だけシフトさせる必要がある。例えば、10rpmで回転する基板に対して45°おきに磁場を投入する場合ならば、所定の電流電源を0.75secごとに投入すればよい。ここで、図15では電流を投入しない期間があるが、これは0[A]を投入すると解釈すればよい。なお、接続部品を用いず、一体に成形された多角形コアを用いた場合でも上記と同様の効果を得ることができることはもちろんである。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
本発明を適用できる図9に示されるような構成にて磁場発生確認を行った。有芯コイルエレメント20のうち、コアエレメント21は直方体で長手方向の長さが140mm、断面は16mm×45mmとした。コアエレメント21には導線23として直径1.5mmのポリエステルエナメルワイヤー(φ1.5PEW)を540回、均一にかつ密に巻いた。有芯コイルエレメント20同士の接続と電源接続を考え、有芯コイルエレメント20からは接続用端子が伸びている。この有芯コイルエレメント20を正八角形に配置し、各コアエレメントは接続部品51を用いて磁気的に機械的・磁気的に接続されている。このとき、磁場発生機構の中心Oからコアエレメント中心軸までの距離は190mmである。
【0042】
次に、有芯コイルエレメント20のうち、コイル22に流す電流について図14を使用して説明する。コイル22に流す電流は、基板Wへの磁性膜成膜中に必要な磁場強度と、抑えなければいけないスキュー分散角(狙いの磁場方向からのズレ角度)の大きさで決めればよい。なお、磁場強度とスキュー分散角に対する、電流の大きさ等に明確な規則性は無く、実測を繰り返して最適化をするのが一般的である。また、コイルの組み合わせC11とC12、C21とC22、C31とC32、C41とC42は、図7の模式図90のように互いに逆方向に結線されて、向かい合うコイル22に流れる電流の正負が異なっている(図14参照)。
【0043】
図14のように電流値を定めたところ、図10のような結果が得られた。図10の結果は基板上磁場のうち1/4領域についてのものである。基板面は磁場発生機構中心面から高さ方向に40mmの位置である。ホール素子タイプの磁場測定器により基板領域の磁場を確認したところ、基板上での磁場は80G〜110Gとなり、狙いの磁力線96からのズレ角すなわちスキュー分散角は±1度以内になった。このとき、電磁石には22.5℃の空気を強制的に流し込む空冷を行った。コイルに取り付けた熱電対(Kタイプ)の30分後の表示は45.3℃であり、空冷の効果も得られている。
【0044】
(実施例2)
次に、本発明を適用できる図11に示されるような構成にて磁場発生確認を行った。有芯コイルエレメント20のうち、コアエレメント21は直方体で長手方向の長さが140mm、断面は16mm×45mmとした。コアエレメント21には直径1.5mmのポリエステルエナメルワイヤー(φ1.5PEW)を540回、均一にかつ密に巻いた。有芯コイルエレメント組み合わせと電源接続を考え、有芯コイルエレメント20からは接続用端子が伸びている。このような有芯コイルエレメント20を正八角形に配置し、各コアエレメントは接続部品51を用いて磁気的に機械的に接続されている。このとき、磁場発生機構の中心からコアエレメント中心軸までの距離は190mmである。
【0045】
実施例1と異なるのは磁場発生機構中心からの中心線が有芯コアエレメント202の中心を通過するか、接続部品を通過する方向に設置するかの違いである。すなわち実施例1の配置から22.5度時計回りに回した配置となっている。
【0046】
次に、有芯コイルエレメント20のうち、コイル22に流す電流について説明する。コイル22に流す電流は、基板Wへの磁性膜成膜中に必要な磁場強度と、抑えなければいけないスキュー分散角(狙いの磁場方向からのズレ角度)の大きさで決めればよい。なお、磁場強度とスキュー角に対する、電流の大きさ等に明確な規則性は無く、実測を繰り返して最適化をするのが一般的である。また、コイルの組み合わせC11とC12、C21とC22、C31とC32、C41とC42は、図7の模式図90のとおり、互いに逆方向に結線されているので、図14のようにコイル22に流れる電流が正負で異なる。
【0047】
実施例2では|C11|=|C12|=4.0A、|C21|=|C22|=2.4A、|C31|=|C32|=2.4A、|C41|=|C42|=4.0Aとした。ここで||は絶対値を示す。このように電流値を定めたところ、図11(a)、(b)のような結果が得られた。図11の結果は基板上磁場のうち1/4領域についてのものである。基板上の磁場は80G〜110Gとなり、狙いの磁力線96からのズレ角すなわちスキュー分散角は±1度以内になった。
【0048】
(実施例3)
次に、本発明を適用できる図12に示されるような構成にて磁場発生確認を行った。有芯コイルエレメント20のうち、コアエレメント21は直方体で長手方向の長さが140mm、断面は16mm×45mmとした。コアエレメント21には直径1.5mmのポリエステルエナメルワイヤー(φ1.5PEW)を540回、均一にかつ密に巻いた。有芯コイルエレメント20組み合わせと電源接続を考え、有芯コイルエレメント20からは接続用端子が伸びている。
【0049】
つまりコアエレメント21は、実施例1、および実施例2で使用した形状と同じである。このような有芯コイルエレメント20を正六角形に配置しなおし、各コアエレメント21は接続部品31を用いて磁気的に機械的に接続されている。このとき、磁場発生機構の中心からコアエレメント中心軸までの距離は140mmまで縮まった。すなわち、接続部品51を接続部品31に変え、有芯コアエレメントを2つ減らすだけで正八角形の実施例2から正六角形の磁場発生機構に変更することができる。
【0050】
次に、有芯コイルエレメント20のうち、コイル22に流す電流について説明する。コイル22に流す電流は、基板Wへの磁性膜成膜中に必要な磁場強度と、抑えなければいけないスキュー角(狙いの磁場方向からのズレ角度)の大きさで決めればよい。なお、磁場強度とスキュー角に対する、電流の大きさ等に明確な規則性は無く、実測を繰り返して最適化をするのが一般的である。また、コイル22の組み合わせは、C11とC12、C21とC22、C31とC32で互いに逆方向に結線されているので、コイル22に流れる電流が正負で異なる。
【0051】
本実施例2では|C11|=|C12|=4.0A、|C21|=|C22|=2.9A、|C31|=|C32|=2.9Aとした。ここで||は絶対値を示す。このように電流値を定めたところ、図12(a)、(b)のような結果が得られた。図12の結果は基板上磁場のうち1/4領域についてのものである。基板上の磁場は130G〜165Gとなり、狙いの磁力線からのズレ角すなわちスキュー分散角は±1度以内になった。
【0052】
すなわち、共通の有芯コイルエレメント20を用いて接続部品のみを変更することで、簡単に磁場発生機構のサイズを変えられる。かつ、各サイズの磁場発生機構において磁場強度、スキュー分散角、磁場回転制御につても従来以上の結果を得ることができ、本発明の効果を確認することができた。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。
【0054】
本発明に係る磁界発生装置を用いることで基板サイズが変わった場合でも、共通の部材を用いて容易に基板マグネットのサイズを変更させることが可能になるため、装置の変更に伴うコストを低減することができる。もちろん、基板マグネットのサイズを変更しても、基板に投入する磁界の方向を基板面内で±1°以内に揃えることができ、且つコイル群毎に印加する電流を制御することで回転磁場を発生可能である。
【符号の説明】
【0055】
20 有芯コイルエレメント
21 コアエレメント
22 コイル
23,92 導線
30,40,41,50,60,91 磁場発生ユニット
31,51,61 接続部品
32 ネジ
42,43 ケース
44 ポート
45 蓋
46,47 仕切り
93 制御信号線
94 CPU
95 磁場
96 磁力線
100 スパッタリング装置
101 真空容器
102 スパッタリングカソード
103 スパッタリングターゲット
104 排気機構
106 高周波電源
107 直流電源
108 整合器
110 プロセスガス
110−1 流量制御器
111 基板保持リング
112 基板保持台
113 磁場発生機構
114 台座


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を載置可能な基板保持台を有するスパッタリング装置に備えられ、前記基板保持台に載置された状態の前記基板の表面近傍に平行な磁界を発生する磁場発生装置であって、
磁性材料からなる略棒状のコアエレメントに導線が巻回されてなる複数の有芯コイルエレメントと、
前記有芯コイルエレメントと同数の磁性材料からなる接続部品とを有して構成され、
前記有芯コイルエレメントは、前記接続部品を介して多角形状に連結されていることを特徴とする磁場発生装置。
【請求項2】
前記多角形状は、正六角形または正八角形または正十角形のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の磁場発生装置。
【請求項3】
前記磁場発生装置の中心を挟んで、平行に対向する一対の前記有芯コイルエレメントには共通の電源が接続され、
前記電源は外部からの信号により電流の大きさ及び方向を任意に制御可能に構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁場発生装置。
【請求項4】
前記多角形状の内接円の直径は、前記基板の直径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁場発生装置。
【請求項5】
前記有芯コイルエレメントは密閉された非磁性ケースに収納され、
前記非磁性ケースは、前記有芯コイルエレメントを冷却する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁場発生装置。
【請求項6】
前記多角形状は正n角形であり、
前記基板保持台に載置された前記基板の所定位置を基準とした回転角度が、360/n °毎の±5°の範囲で磁場を発生させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁場発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁場発生装置を備えていることを特徴とするスパッタリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−102427(P2011−102427A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258643(P2009−258643)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】