説明

磁性粉末材、造粒粉、成形体、磁心用焼成体、電磁部品及び磁心用焼成体の製造方法

【課題】高密度で透磁率を向上できる磁心用焼成体を得るための磁性粉末材、造粒粉及び成形体を提供する。
【解決手段】粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末と、この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒の外周面に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを備える。粗粒のみに酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を備えることが好ましい。剛性に優れた酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を少なくとも粗粒に形成することで、鉄損に影響の大きい粗粒間の絶縁を確実に確保することができる。微粒と粗粒が組み合わされた軟磁性粉末を用いることで、粗粒間の隙間に微粒が入り込んだ成形体や焼成体を得ることができ、高密度で透磁率の高い焼成体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末材、その粉末材を用いた造粒粉、造粒粉を用いた成形体、成形体からできた磁心用焼成体、磁心用焼成体を用いた電磁部品、および磁心用焼成体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源やDC/DCコンバータなど、エネルギーを変換する回路で、チョークコイルなどを代表例とするインダクタが使用される。インダクタの構成例として、軟磁性粉末の圧粉成形体を焼成して得られた磁心と、磁心の外周に巻線を巻回して構成したコイルとを備えるものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、次のような磁心を製造する方法が開示されている。まず、粒径が5〜70μmの異形状の軟磁性粉末にシリコーン樹脂を混合し、その混合物を100℃〜130℃の範囲で加熱して、軟質磁性粉末に酸化シリコーンの絶縁被膜を形成する。そして、この酸化シリコーンの絶縁被膜の形成された軟磁性粉末を所定形状に加圧成形し、かつ500℃〜700℃で熱処理して磁心を製造する。
【0004】
このような方法により得られた磁心によれば、酸化シリコーンの絶縁被膜により軟磁性粉末同士の絶縁が確保され、大きな直流電流が重畳されてもインダクタンスが極端に低下しないとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-319652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インダクタの磁心には、透磁率を上げることや、渦電流の発生を抑えて鉄損を下げることが求められる。しかし、このような要求に対し、従来の磁心ではなお不十分であった。
【0007】
一般に、圧粉成形体は、その密度を上げることで透磁率を高めることができるが、特許文献1は、単に粒径が5〜70μmの軟磁性粉末を用いることしか開示していない。通常、このような粉末は、ある平均粒径を中心として一定の粒径分布を持つ。そのため、この分布内の微粒から粗粒の種々の粒子がランダムに混在された状態の圧粉成形体しか得られず、その成形体の密度を向上すること、つまり透磁率を向上させることが難しい。
【0008】
また、鉄損を低減するには、軟磁性粉末の粒子同士が確実に絶縁されていることが求められる。しかし、特許文献1の技術では、軟磁性粉末とシリコーン樹脂の混合物の熱処理温度が100℃〜130℃と低く、このような熱処理温度では、酸化ケイ素に変換されるシリコーン樹脂の割合が相当低い。その結果、軟磁性粉末の外周に形成される絶縁被膜は十分な硬度を得られず、成形体の加圧形成時の粉末同士の接触により絶縁被膜が破断し、軟磁性粉末同士を十分に絶縁することが難しい。特に、軟磁性粉末が成形時の圧力で実質的に変形しない程度の剛性を持つ場合、シリコーン樹脂の状態で残った硬度の低い絶縁被膜では破断が顕著に起こりやすい。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、高密度で透磁率を向上し、軟磁性粉末の絶縁処理により鉄損を低減できる磁心用焼成体を得るための磁性粉末材、造粒粉及び成形体を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、高密度で透磁率が高く、軟磁性粉末の絶縁処理により鉄損を低減できる磁心用焼成体とその製造方法並びに磁心用焼成体を用いた電磁部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔磁性粉末材〕
本発明の磁性粉末材は、粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末と、この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒の外周面に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、剛性に優れた酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を少なくとも粗粒に形成することで、鉄損に影響の大きい粗粒間の絶縁を確実に確保することができる。また、微粒と粗粒が組み合わされた軟磁性粉末を用いることで、粗粒間の隙間に微粒が入り込んだ成形体や焼成体を得ることができ、高密度で透磁率の高い焼成体を製造できる。
【0013】
本発明の磁性粉末材において、前記粗粒のみに酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を備えることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、粗粒にのみ酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を設けることで、高透磁率、低鉄損の焼成体を容易に得ることができる。
【0015】
本発明の磁性粉末材において、前記軟磁性粉末は、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si系合金、及びFe-Al系合金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
このような組成の軟磁性粉末は、磁性粉末材を成形する際の圧縮力で軟磁性粉末が実質的に変形しない。そのため、このような高剛性の軟磁性粉末であれば、高硬度の絶縁層を有していても、粉末の変形により絶縁層が損傷することを可及的に回避できる。
【0017】
本発明の磁性粉末材において、前記微粒の最大粒径は40μm未満であり、前記粗粒の最小粒径が40μm以上、最大粒径が150μm以下であることが好ましい。
【0018】
このように粉末の最大粒径を制限することによって、粒度の2乗に比例して発生する、粉末粒内の渦電流損失を低く抑えることができる。
【0019】
本発明の磁性粉末材において、前記軟磁性粉末の構成材料のビッカース硬さHV0.1が300以上であることが好ましい。なお、「HV0.1」は、試験時の圧子の荷重が0.1kgfであることを示す。
【0020】
この構成によれば、磁性粉末材を成形する際の圧縮力で軟磁性粉末が実質的に変形しない。そのため、このような高剛性の軟磁性粉末であれば、高硬度の絶縁層を有していても、粉末の変形により絶縁層が損傷することを可及的に回避できる。
【0021】
〔造粒粉〕
本発明の造粒粉は、加圧により成形体とされ、その成形体の焼成により磁心用焼成体とされる造粒粉であって、上記本発明の磁性粉末材と、前記焼成時に結合材となって焼成後に焼成体を保形する焼成用樹脂とを備える。そして、これら磁性粉末材、及び焼成用樹脂が粒状に一体化されてなることを特徴とする。
【0022】
この構成の造粒粉によれば、高密度で粗粒同士が酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層で絶縁された成形体を得ることができ、さらに成形体を焼成することで、高密度で低鉄損の磁心用焼成体とすることができる。
【0023】
本発明の造粒粉において、さらに、前記加圧後に成形体を保形すると共に、前記焼成時に実質的に消失する成形用樹脂を備え、これら磁性粉末材、成形用樹脂、及び焼成用樹脂が粒状に一体化されてなることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、磁性粉末材を成形体とした際に、確実に成形体を保形することができる。
【0025】
本発明の造粒粉において、前記成形用樹脂が熱可塑性樹脂であり、前記焼成用樹脂がシリコーン樹脂であることが挙げられる。
【0026】
この構成によれば、磁性粉末材を成形した際には成形用樹脂で成形体を保形し、焼成した際には焼成用樹脂から生成される結合材で焼成体を十分に保形することができる。
【0027】
〔成形体〕
本発明の成形体は、上記造粒粉を加圧成形したことを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、高密度で粗粒同士が酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層で絶縁された成形体を得ることができ、後に焼成することで、高密度で低鉄損の焼成体とすることができる。
【0029】
〔磁心用焼成体〕
本発明の磁心用焼成体は、磁性粉末材と、この磁性粉末材を一体化する結合材とを備える磁心用焼成体である。この磁性粉末材は、粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末と、この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒の外周面に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを有する。そして、前記結合材は、Si、C、及びOを含む非晶質体であることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、微粒と粗粒を用いることで、高密度の磁心用焼成体とすることができる。また、粗粒に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層により、粗粒同士又は粗粒と微粒の絶縁を確保して、低鉄損の磁性用焼成体とすることができる。さらに、Si、C、及びOを含む非晶質体の結合材により前記軟磁性粉末を確実に保形することができる。
【0031】
本発明の磁心用焼成体において、上記本発明の成形体を焼成してなることが挙げられる。
【0032】
この構成によれば、本発明の成形体を焼成することで、本発明の磁心用焼成体を容易に得ることができる。
【0033】
〔磁心用焼成体の製造方法〕
本発明の磁心用焼成体の製造方法は、軟磁性粉末を用いて成形体を形成し、その成形体を焼成して焼成体とする磁心用焼成体の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする。
粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末を準備する工程。
この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成する工程。
前記絶縁層を有する粗粒を含む軟磁性粉末と、前記成形体を保形するための成形用樹脂と、前記焼成後に焼成体を保形するための焼成用樹脂とを混合して造粒する工程。
この造粒粉を所定の形状に圧縮成形して成形体とする工程。
この成形体を焼成して焼成体とする工程。
【0034】
この方法によれば、本発明の磁心用焼成体を容易に得ることができる。
【0035】
〔電磁部品〕
本発明の電磁部品は、本発明の磁心用焼成体からなる磁心と、巻線を巻回して構成され、この磁心の外側に配されるコイルとを備えることを特徴とする。
【0036】
この構成によれば、低鉄損で比較的透磁率の高い磁心を持った電磁部品とすることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の磁性粉末材や造粒粉によれば、高密度で低鉄損の成形体や焼成体を得ることができる。
【0038】
本発明の成形体や焼成体によれば、高密度で低鉄損を実現できる。
【0039】
本発明の焼成体の製造方法によれば、高密度で低鉄損の焼成体を容易に製造できる。
【0040】
本発明の電磁部品によれば、高密度で低鉄損の磁心を有するインダクタを構成できる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の磁性粉末材、造粒粉、成形体、焼成体、電磁部品を順次より詳しく説明する。
【0042】
〔磁性粉末材〕
<構造>
本発明の磁性粉末材は、軟磁性粉末と、その外周面に形成される酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを備える。
【0043】
(軟磁性粉末)
軟磁性粉末は、後述する成形体を得る際の加圧圧力で実質的に変形しない程度の剛性を有するものが好ましい。例えば、ビッカース硬さHV0.1が300以上の軟磁性粉末が好適である。具体的には、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金などが挙げられる。Fe-Si-Al系合金では、Siが3〜15質量%、Alが1〜10質量%含有されたものが好適である。Fe-Si系合金では、Siが3〜15質量%含有されたものが好適である。Fe-Al系合金では、Alが1〜10質量%含有されたものが好適である。このような軟磁性粉末であれば、所定の電磁気特性を有する焼成体を得やすい。その他、Fe-Ni系合金、Fe-B系合金、Fe-C系合金、Fe-N系合金、Fe-P系合金、Fe-Co系合金、Fe-Ni-Co系合金などの利用も考えられる。ビッカース硬さHV0.1はJIS-Z2244に準拠して測定され、「HV0.1」は、試験時の圧子の荷重が0.1kgfであることを示す。各合金系におけるビッカース硬さの具体例は、Fe-9.5Si-5.5Alが約500、Fe-6.5Siが約400、Fe-Si系合金ではSiが4質量%以上において約300以上である。
【0044】
このような軟磁性粉末は、粗粒と微粒とが混在される。これらの混合粒の粒径分布には複数のピークが存在することが好ましい。特に、粗粒と微粒は、粒径の分布範囲が重ならない組み合わせ又は分布範囲が隣接する組み合わせとすることが好ましい。このような粗粒と微粒の組み合わせにより、粗粒間の隙間に微粒が充填された成形体を得やすい。例えば、粗粒の最小粒径は40μm、最大粒径は150μm程度が好ましい。このような粒径の粗粒を用いれば、1kHz以上の高周波域で磁心用焼成体を使用したときに渦電流損の増大抑制に効果的である。微粒の最大粒径は40μm程度が好ましい。但し、微粒の取り扱いの便宜上、微粒の最小粒径は1μm以上とすることが好適である。また、このような粗粒と微粒の粒径比は、微粒の平均粒径:粗粒の平均粒径=1:2〜1:10程度が好ましい。さらに、粗粒と微粒の質量配合比は、微粒:粗粒=1:1〜1:4程度が好ましい。このような粒径比や配合比とすることで、粗粒間の隙間に微粒が充填された高密度の成形体や焼成体を得やすい。
【0045】
その他、軟磁性粉末は、アトマイズ法にて得られるものが好ましいが、水アトマイズ法で製造されたものでもガスアトマイズ法で製造されたものでもいずれも利用できる。水アトマイズ法で製造された軟磁性粉末は、粒子表面に凹凸が多いため、その凹凸の噛合により高強度の焼成体を得やすい。一方、ガスアトマイズ法で製造された軟磁性粉末は、粒子形状がほぼ球形のため、絶縁層を突き破るような凹凸が少なくて好ましい。また、軟磁性粉末の表面には、自然酸化膜などの絶縁被膜が形成されていても良い。
【0046】
(酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層)
酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層は、軟磁性粉末の外周面を覆うことで、軟磁性粉末間の絶縁を確保する。即ち、この絶縁層は、後に磁性粉末材を用いた造粒粉を圧縮して成形体を形成する際に、その加圧力で破壊されることがなく、かつ成形体を焼成した際の熱にも分解されることがない。絶縁層における酸化ケイ素の含有量は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。酸化ケイ素は、代表的にはSiO2であるが、SiO、Si2O3の少なくとも一方が含まれていても良い。酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層としては、例えば、酸素を含む雰囲気中でシリコーン樹脂を熱処理することにより形成した被膜が挙げられる。
【0047】
酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層の形成対象は、少なくとも粗粒とする。本発明の磁性粉末材を用いて成形体を形成した場合、粗粒間に微粒が充填された状態が高頻度に実現される。そのような状態では、粗粒同士の接触を抑制することが鉄損の低減に効果的である。粗粒のみにしか絶縁層がなく、微粒同士が直接接触しても、等価的には若干大き目の微粒が存在する状態とみなすことができるため、鉄損の低減効果は十分奏することができる。このように、粗粒のみに酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成することで、高密度、低損失を容易に実現できる。一方、粗粒だけでなく、微粒にも酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成した場合は、一層確実に各軟磁性粉末同士の絶縁を確保できるため、鉄損低減効果を向上させることができる。
【0048】
酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層の厚さは、20nm以上、1μm以下が好ましい。下限値以上とすることで、軟磁性粉末間の絶縁を確保すると共に、造粒粉圧縮時の加圧力で破壊されない機械的強度を確保する。上限値以下とすることで、絶縁層の厚みを大きすぎないようにし、磁性粉末材を成形体や焼成体とした場合に所定の密度を確保すると共に、絶縁層の損傷を抑制する。
【0049】
<製造方法>
本発明の磁性粉末材は、分級、樹脂混合、及び熱処理を主たる工程とする製造方法により得られる。
【0050】
(分級)
軟磁性粉末を所定の粒径の粗粒と微粒に分級する。この分級は、代表的には、所定メッシュサイズのふるいを用いて行えばよい。例えば、粗粒は、粒径の上限と下限に対応したメッシュサイズのメッシュを用いればよい。また、微粒は、粒径の上限に対応したメッシュサイズのメッシュを用いればよい。分級前の軟磁性粉末は、粗粒用と微粒用の各々として平均粒径が異なる粉末を用意しておけば、効率的に分級が行える。
【0051】
(樹脂混合)
分級された粗粒と微粒の各々は、シリコーン樹脂と混合される。この混合は、ミキサーなどで行うことが好適である。シリコーン樹脂の配合量は、混合する軟磁性粉末の比表面積に応じて選択することが好ましい。軟磁性粉末の比表面積に応じてシリコーン樹脂の配合量を決定することで、所定の厚みのシリコーン樹脂被膜を軟磁性粉末の外周面に形成することができる。軟磁性粉末とシリコーン樹脂との配合量は、例えば両者の混合物に対してシリコーン樹脂が0.02〜1.8質量%程度となるようにすることが挙げられるが、より好ましくは0.05〜1.5質量%、さらに好ましくは0.1〜1.0質量%である。軟磁性粉末とシリコーン樹脂との混合は、粗粒と微粒の双方に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成する場合であっても、粗粒と微粒の各々を分けて行うことが好ましい。微粒と粗粒を一括してシリコーン樹脂と混合すると、相対的に微粒のシリコーン樹脂被膜が厚くなったり、微粒同士が凝集したりするが、粗粒と微粒を分けてシリコーン樹脂と混合することで、これらの不都合を抑制できる。また、シリコーン樹脂は、適宜な溶剤により適切な粘度のスラリーに調整して軟磁性粉末に混合しても良い。
【0052】
(硬化(乾燥))
軟磁性粉末の外周面に形成されたシリコーン樹脂の被膜は、加熱により硬化されることが好ましい。この樹脂の硬化は、軟磁性粉末とシリコーン樹脂とを加熱せずに混合した後、加熱することで行うことが好ましい。このシリコーン樹脂の硬化により、後述する熱処理の際に、シリコーン樹脂同士が接合されることを抑制できる。硬化条件は、例えば100℃〜200℃×30〜120分程度が好適である。
【0053】
(ほぐし)
通常、シリコーン樹脂硬化後の軟磁性粉末は、一部の軟磁性粉末同士がシリコーン樹脂を介して接合されているため、この接合を分離する「ほぐし」を行うことが好ましい。このほぐし作業は、シリコーン樹脂硬化後の軟磁性粉末を軽くふるいにかける程度で十分である。
【0054】
(熱処理)
この熱処理により、軟磁性粉末の表面に形成されたシリコーン樹脂の被膜を酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とする。シリコーン樹脂は300℃程度で分解するが、より高温とすることで、確実にシリコーン樹脂を酸化ケイ素に変換することができる。特に、高温とすることで、酸化ケイ素の結晶性を高めることができ、高硬度の絶縁層を形成することができる。好ましい熱処理温度は、400℃〜1000℃であり、さらに好ましい熱処理温度は、500℃〜800℃である。また、好ましい熱処理時間は30分〜2時間程度である。この熱処理によりシリコーン樹脂の被膜は、約半分程度の厚さの酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層となる。
【0055】
(解砕)
通常、酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層が形成された磁性粉末材は、粒子の絶縁層同士が結合した箇所が存在する。そのため、このように結合した磁性粉末材同士を適宜な手段にて解砕することが好ましい。
【0056】
〔造粒粉〕
<構造>
上記の磁性粉末材は、さらに成形用樹脂及び焼成用樹脂と混合されて造粒粉とされる。この造粒粉は、少なくとも焼成用樹脂と磁性粉末材が一体化されており、必要に応じて、さらに成形用樹脂も一体化されても良い。
【0057】
(成形用樹脂)
成形用樹脂は、磁性粉末材を圧縮して成形体とする場合、成形体を保形するための樹脂であり、熱可塑性樹脂であることが好ましい。造粒粉とした場合、次述する焼成用樹脂が磁性粉末材と一体化されているため、この焼成用樹脂で成形体の保形が可能であれば、成形用樹脂の添加を省略しても良い。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリビニルブチラールの他、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂等が利用できると考えられる。
【0058】
(焼成用樹脂)
焼成用樹脂は、磁性粉末材を圧縮した成形体を焼成することで焼成体とした場合、セラミックス系の化合物となって磁性粉末材を保持する結合材となる。代表的には、焼成用樹脂にはシリコーン樹脂が用いられる。そして、このシリコーン樹脂は、後述するように、焼成過程でSi、C、及びOを含む非晶質体の結合材になっていると推定される。その他、焼成用樹脂には、珪酸ソーダ系結着剤(水ガラス)などが利用できる。
【0059】
<製造方法>
造粒粉は、磁性粉末材および焼成用樹脂、必要に応じてさらに成形用樹脂をミキサーなどで混合することにより製造する。この混合により、通常、数個の磁性粉末材が焼成用樹脂(成形用樹脂)で一体化された造粒粉の単位粒子が構成される。成形用樹脂又は焼成用樹脂は、適宜な溶剤により適切な粘度のスラリーに調整して磁性粉末材と混合しても良い。
【0060】
磁性粉末材と焼成用樹脂の混合物(成形用樹脂も添加する場合は、磁性粉末材、焼成用樹脂及び成形体樹脂の合計混合物)は、添加する樹脂の合計量が混合物の5〜15体積%となるように混合することが好ましい。この下限以上の樹脂含有量とすることで、成形体又は焼成体を十分に保形することができ、逆に上限以下とすることで、混合物中の樹脂量が適量となり、成形体や焼成体を高密度化することができる。
【0061】
〔成形体〕
<構造>
本発明の成形体は、上記造粒粉を所定の形状に加圧成形したものである。つまり、この成形体は、磁性粉末材が、焼成用樹脂、必要に応じて成形用樹脂により一体化された状態となっている。ここで用いられている軟磁性粉末は、この成形時の圧力により実質的に変形しないため、軟磁性粉末の外周に形成された高硬度の絶縁層も損傷が抑制される。成形体の形状は、電磁部品の磁性コアの形状に応じて選択すれば良い。
【0062】
<製造方法>
このような成形体は、造粒粉を金型に供給する工程と、金型内の造粒粉を加圧して成形体とする工程とを含む方法により得られる。
【0063】
ここで、造粒粉を加圧する圧力は、500MPa〜1200MPa程度が好ましい。下限値以上とすることで、高密度の成形体を得ることができる。また、上限値以下とすることで、軟磁性粉末の変形に伴う絶縁層の損傷を抑制することができる。この加圧は、常温下でよいが、成形用樹脂として熱可塑性樹脂を使用した場合には樹脂のガラス転移温度以上で成形することが好ましい。これによって成形体の密度と強度の向上を図ることができる。
【0064】
〔焼成体〕
<構造>
本発明の磁心用焼成体は、上述した磁性粉末材と、この磁性粉末材を一体化する結合材とを備える。
【0065】
磁性粉末材は、上述したように、軟磁性粉末の外周面に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層が形成された粒状材である。この絶縁層は、焼成後もほぼそのまま残存して、確実に軟磁性粉末同士の絶縁を確保する。
【0066】
一方、結合材は、焼成用樹脂が焼成時の熱で変性したセラミックス系の材料である。この結合材は、焼成用樹脂として添加したシリコーン樹脂が焼成過程でSi、C、及びOを含む非晶質体になっていると推定される。つまり、結合材中に磁性粉末材が保持された状態の焼成体となっており、軟磁性粉末の外周近傍は、酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層で構成されているが、その絶縁層の外側は、絶縁層に比べてCの含有量が多い材料、つまりSi、C、及びOを含む非晶質体となっている。
【0067】
<製造方法>
このような焼成体は、上述した成形体に所定の熱処理を施すことで得られる。この熱処理の加熱温度は、600℃〜1000℃とすることが好ましい。また、加熱時間は、30分〜2時間程度が好適である。焼成前の成形体を構成する軟磁性粉末には多くの歪が導入されている。前記の条件で成形体を熱処理することにより、十分に歪を除去することができる。さらに、上記の条件で熱処理することで、成形用樹脂を消失させ、かつ焼成用樹脂をSi、C、及びOを含む非晶質体の結合材とする。その他、この熱処理の雰囲気は、窒素雰囲気などの不活性ガス雰囲気又減圧雰囲気とすることが好ましい。このような雰囲気下で熱処理することにより、焼成用樹脂の質量減少を防ぎ焼成体を確実に保持できる点で好ましい。
【0068】
〔電磁部品〕
本発明の電磁部品は、磁性コアとコイルとを備える。磁性コアは、上述した磁心用焼成体からなる。磁性コアの形状は、環状、棒状など、E型、I型コアなどが挙げられる。一方、コイルは、導線に絶縁被覆を設けた巻線を巻回して構成される。巻線の断面形状は、丸や矩形など種々の形状が利用できる。例えば、丸線をらせん状に巻回して円筒状のコイルとしたり、平角線をらせん状にエッジワイズ巻きして角筒状のコイルとしたりすることが挙げられる。
【0069】
この電磁部品は、磁性コアの外周に巻線を巻回して構成しても良いし、予めらせん状に形成した空芯コイルを磁性コアの外周にはめ込んで構成しても良い。
【0070】
この電磁部品の具体例としては、高周波チョークコイル、高周波同調用コイル、バーアンテナコイル、電源用チョークコイル、電源トランス、スイッチング電源用トランス、リアクトルなどが挙げられる。
【実施例1】
【0071】
以下の条件で磁性粉末材の作製、造粒粉の生成、成形体の成形、焼成体の焼成を行って磁心用焼成体の試験片を作製し、その試験片についていくつかの特性を評価した。
【0072】
<試料の作製>
まず、組成がFe-9.5質量%Si-5.5質量%Alで、ガスアトマイズ法により得られた軟磁性粉末であって、平均粒径が30μmと75μmの2種類の粉末を用意する。この組成の合金のビッカース硬さHV0.1は500である。各軟磁性粉末をふるいにかけて分級し、最大粒径が38μm以下の微粒と、最小粒径が45μm、最大粒径が106μmの粗粒との2種類にした。微粒の平均粒径は約25μm、粗粒の平均粒径は約75μmであり、これらの平均粒径の比率は1:3である。
【0073】
次に、粗粒をシリコーン樹脂とミキサーで混合して、粗粒表面にシリコーン樹脂被膜を形成する。軟磁性粉末とシリコーン樹脂との配合量は、両者の混合物に対してシリコーン樹脂が0.3質量%となるようにする。さらに、微粒も同様にシリコーン樹脂被膜を形成したものを用意する。用いたシリコーン樹脂は、反応性基としてアルコキシ基を40%含有するレジン系シリコーンオリゴマーである。その25℃での粘度は4.9mPa・s、比重は1.09である。シリコーン樹脂被膜の厚さは約250nmである。
【0074】
続いて、シリコーン樹脂被膜を形成した軟磁性粉末に大気雰囲気で180℃×1時間の熱処理を施して、樹脂を硬化させる。この時点では、シリコーン樹脂は酸化ケイ素へ変換されていない。その後、得られたシリコーン樹脂被膜付きの軟磁性粉末をふるいにかけて粒子同士の接合をほぐす。
【0075】
次に、得られたシリコーン樹脂被膜付きの軟磁性粉末に大気雰囲気で600℃×1時間の熱処理を施し、シリコーン樹脂被膜を酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とする。絶縁層の厚みは約120nmである。絶縁層付きの軟磁性粉末が得られたら、解砕を行って粒子同士の接合を分離する。
【0076】
以上の工程により、酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層のない粗粒、絶縁層のある粗粒、絶縁層のない微粒、及び絶縁層のある微粒の計4種類の磁性粉末材を作製した。
【0077】
得られた粗粒及び微粒を組み合わせ、成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、以下の試料No.1〜No.3の焼成体となる造粒粉を作製する。造粒粉中の粗粒と微粒の配合比は、質量比で7:3である。いずれも成形用樹脂と焼成用樹脂の合計添加量は造粒粉全原料の10体積%である。成形用樹脂にはポリビニルブチラール(電気化学工業社製デンカブチラール#3000-K)を、焼成用樹脂にはシリコーン樹脂を用いた。このシリコーン樹脂は絶縁被覆に使用したシリコーン樹脂とは別のものであり、ポリアルキルシロキサンを主成分とするシリコーンワニスであり、焼成後Si、C、及びOを含む非晶質体となっていると推定される。その25℃での粘度は100mPa・s、比重は1.02である。
(発明品)試料No.1: 粗粒:絶縁処理あり、微粒:絶縁処理なし
(発明品)試料No.2: 粗粒:絶縁処理あり、微粒:絶縁処理あり
(比較品)試料No.3: 粗粒:絶縁処理なし、微粒:絶縁処理なし
【0078】
次に、各試料の造粒粉を金型に供給し、圧縮することで成形体とする。この加圧成形時の面圧は980MPaである。この面圧であれば、成形時に軟磁性粉末は実質的に変形しない。
【0079】
そして、得られた成形体に、窒素雰囲気下で800℃×1時間の熱処理を施し、焼成体とする。得られた焼成体からなる試験片は、リング状で外径34mm、内径20mm、厚み5mmである。
【0080】
<評価>
上述のようにして作製した各試料について、以下に列挙する特性値を測定し、焼成体の評価を行った。評価結果は、後段の表1および表2にまとめて記載する。各表中の試料No.に下線のあるものは比較品であることを示す。
【0081】
≪磁気特性≫
リング状の試験片に巻線を施し、試験片の磁気特性を測定するための測定部材を作製した。この試験片について、岩通計測株式会社製B-H/μ アナライザ SY-8258を用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:100kHzにおける鉄損W1/100kおよび交流初透磁率μiacを測定した。また、鉄損の周波数曲線を下記の3つの式で最小二乗法によりフィッティングし、ヒステリシス損係数Kh(kWs/m3)および渦電流損係数Ke(kWs2/m3)を算出した。
(鉄損)=(ヒステリシス損)+(渦電流損)
(ヒステリシス損)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)
(渦電流損)=(渦電流損係数)×(周波数)
【0082】
≪密度≫
各試験片について外径、内径、厚み、重量を測定し、試験片の密度(g/cm3)を算出した。外径、内径、厚みの測定はマイクロメータを用いて行った。
【0083】
≪評価結果≫
表1および2の結果から、試料No.1、2は、酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層により軟磁性粉末同士の絶縁が確実に確保されているため、試料No.3に比べて渦電流損係数Keが小さく、鉄損も低く抑えられている。一方、粗粒にのみ絶縁層のある磁性粉末材を用いた試料No.1は、粗粒と微粒の双方に絶縁層のある試料No.2に比べて若干鉄損が大きいが、初透磁率が高いことがわかる。
【実施例2】
【0084】
実施例1と同様の組成、製法、粒径の軟磁性粉末に、実施例1と同様の方法で表面に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成した、微粒のみおよび粗粒のみの粉末を用意する。粗粒と微粒の各々ごとに成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、以下の試料No.4(微粒のみを使用)、No.5(粗粒のみを使用)の焼成体となる造粒粉を作製する。樹脂量および樹脂の種類は実施例1と同様である。
(比較品)試料No.4: 微粒(38μm以下)のみ使用、絶縁処理あり
(比較品)試料No.5: 粗粒(45〜106μm)のみ使用、絶縁処理あり
【0085】
続いて、造粒粉を実施例1と同様の方法で焼成体とし、評価を行った。評価結果は、後段の表1および表2にまとめて記載する。表1および2の結果から、微粒のみ、粗粒のみを用いた試料No.4、No.5では微粒と粗粒を組み合わせて使用した試料No.1〜No.3に比べて密度が低く、初透磁率も低い。
【実施例3】
【0086】
実施例1と同様の組成、製法の、平均粒径が30μmと75μmの2種類の粉末を用意する。各軟磁性粉末をふるいにかけて分級し、最大粒径が38μm以下の微粒と、最小粒径が45μm、最大粒径が180μmの粗粒との2種類にした。微粒の平均粒径は約25μm、粗粒の平均粒径は約90μmである。次に、実施例1と同様の方法で粗粒の表面に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成する。得られた粗粒と微粒とを組み合わせて成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、以下の試料No.6の焼成体となる造粒粉を作製する。造粒粉中の粗粒と微粒の配合比、樹脂量、樹脂の種類は実施例1と同様である。
(発明品)試料No.6: 粗粒:45〜180μm、絶縁処理あり
微粒:38μm以下、絶縁処理なし
【0087】
続いて、造粒粉を実施例1と同様の方法で焼成体とし、評価を行った。評価結果は、後段の表1および表2にまとめて記載する。表1および2の結果から、試料No.6では粒径の大きい粉末が存在し、発生する粒内渦損が大きいため、試料No.1に比べて渦電流損係数Keが大きく、鉄損も大きい。
【実施例4】
【0088】
実施例1と同様の組成、製法、粒径の軟磁性粉末を用意する。次に、粗粒をシリコーン樹脂とミキサーで混合して、粗粒表面にシリコーン樹脂被膜を形成する。軟磁性粉末とシリコーン樹脂との配合量は、両者の混合物に対してシリコーン樹脂が0.02〜1.8質量%となるようにする。シリコーン樹脂被膜を、実施例1と同様の方法で酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層に変換する。得られた粗粒と微粒とを組み合わせて成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、以下の試料No.7 〜No.10の焼成体となる造粒粉を作製する。造粒粉中の粗粒と微粒の配合比、樹脂量および樹脂の種類は実施例1と同様である。
(発明品)試料No.7: 粗粒:被覆量=0.02質量%、微粒:絶縁処理なし
(発明品)試料No.8: 粗粒:被覆量=0.1質量%、微粒:絶縁処理なし
(発明品)試料No.9: 粗粒:被覆量=1.0質量%、微粒:絶縁処理なし
(発明品)試料No.10: 粗粒:被覆量=1.8質量%、微粒:絶縁処理なし
【0089】
続いて、造粒粉を実施例1と同様の方法で焼成体とし、評価を行った。評価結果は、後段の表1および表2にまとめて記載する。表1および2の結果から、絶縁処理を行った試料No.7〜No.10は試料No.3に比べて渦電流損係数Keが小さく、鉄損が低く抑えられている。被覆量の少ない試料No.7では鉄損が若干大きく、被覆量の多い試料No.10では密度が低く、初透磁率が若干低い。
【実施例5】
【0090】
実施例1と同様の組成、製法、粒径の軟磁性粉末を用意し、粗粒の表面に実施例1と同様の方法でシリコーン樹脂被膜を形成する。次に、得られたシリコーン樹脂被膜付きの軟磁性粉末に200℃×1時間の熱処理を施す。得られた粗粒と微粒とを組み合わせて成形用樹脂と焼成用樹脂を混合して、以下の試料No.11の焼成体となる造粒粉を作製する。造粒粉中の粗粒と微粒の配合比、樹脂量および樹脂の種類は実施例1と同様である。
(比較品)試料No.11: 粗粒:熱処理温度=200℃、微粒:絶縁処理なし
【0091】
続いて、造粒粉を実施例1と同様の方法で焼成体とし、評価を行った。評価結果は、後段の表1および表2にまとめて記載する。表1および2の結果から、試料No.11は試料No.1と比較して、熱処理温度が低くシリコーン樹脂被膜の酸化ケイ素への変換が不完全で粉末間の絶縁確保が不十分であるため、渦電流損係数Keが大きく、鉄損も大きい。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
以上の試料No.1〜11の評価結果を総合的に比較すれば、発明品は、渦電流損係数(×10-8kWs2/m3):4.5以下、鉄損(kW/m3):650以下、密度(g/cm3):5.5以上、交流初透磁率μiac(H/m):70以上であり、高密度・高透磁率・低鉄損をバランスよく満たすことがわかる。特に、試料No.1,2,8,9は、渦電流損係数(×10-8kWs2/m3):3.5以下、鉄損(kW/m3):600以下、密度(g/cm3):5.7以上、交流初透磁率μiac(H/m):90以上を満たしている。
【0095】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の磁性粉末材、造粒粉、磁心用成形体、及び磁心用焼成体の製造方法は、各種インダクタに用いられる磁心用焼成体を得るのに好適である。また、本発明の磁心用焼成体及び電磁部品は、高周波チョークコイル、高周波同調用コイル、バーアンテナコイル、電源用チョークコイル、電源トランス、スイッチング電源用トランス、リアクトルなどに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末と、
この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒の外周面に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを備えることを特徴とする磁性粉末材。
【請求項2】
前記粗粒のみに酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁性粉末材。
【請求項3】
前記軟磁性粉末は、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si系合金、及びFe-Al系合金の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粉末材。
【請求項4】
前記微粒の最大粒径は40μm未満であり、
前記粗粒の最小粒径が40μm以上、最大粒径が150μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性粉末材。
【請求項5】
前記軟磁性粉末の構成材料のビッカース硬さHV0.1が300以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性粉末材。
【請求項6】
加圧により成形体とされ、その成形体の焼成により磁心用焼成体とされる造粒粉であって、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁性粉末材と、
前記焼成時に結合材となって焼成後に焼成体を保形する焼成用樹脂とを備え、
これら磁性粉末材及び焼成用樹脂が粒状に一体化されてなることを特徴とする造粒粉。
【請求項7】
さらに、前記加圧後に成形体を保形すると共に、前記焼成時に実質的に消失する成形用樹脂を備え、
磁性粉末材、成形用樹脂、及び焼成用樹脂が粒状に一体化されてなることを特徴とする請求項6に記載の造粒粉。
【請求項8】
前記成形用樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記焼成用樹脂がシリコーン樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の造粒粉。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の造粒粉を加圧成形したことを特徴とする成形体。
【請求項10】
磁性粉末材と、この磁性粉末材を一体化する結合材とを備える磁心用焼成体であって、
前記磁性粉末材は、
粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末と、
この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒の外周面に形成された酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層とを有し、
前記結合材は、Si、C、及びOを含む非晶質体であることを特徴とする磁心用焼成体。
【請求項11】
請求項9に記載の成形体を焼成してなることを特徴とする請求項10に記載の磁心用焼成体。
【請求項12】
軟磁性粉末を用いて成形体を形成し、その成形体を焼成して焼成体とする磁心用焼成体の製造方法であって、
粒径の異なる微粒と粗粒とを含む軟磁性粉末を準備する工程と、
この軟磁性粉末のうち、少なくとも粗粒に酸化ケイ素を主成分とする無機質からなる絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層を有する粗粒を含む軟磁性粉末と、前記成形体を保形するための成形用樹脂と、前記焼成後に焼成体を保形するための焼成用樹脂とを混合して造粒する工程と、
この造粒粉を所定の形状に圧縮成形して成形体とする工程と、
この成形体を焼成して焼成体とする工程とを含むことを特徴とする磁心用焼成体の製造方法。
【請求項13】
請求項10に記載の磁心用焼成体からなる磁心と、
巻線を巻回して構成され、この磁心の外側に配されるコイルとを備えることを特徴とする電磁部品。

【公開番号】特開2010−245216(P2010−245216A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90906(P2009−90906)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】