説明

磁気センサのための補正方法及び磁気センサの評価方法

【課題】 磁気センサの出力を簡単に温度補正できるようにする。
【解決手段】 外部磁界が2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態での磁気センサ10の出力電圧Voutを取得するとともに、出力電圧Voutのオフセット電圧Os1を取得する。オフセット電圧Os1の場合と同一温度Trtにおいて、外部磁界を2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して出力振幅中心値として取得する。出力振幅中心値のオフセット電圧Os2とオフセット電圧Os1との差Os2−Os1を取得して、予め用意された比例定数Aを用いて、磁気センサの温度がTである条件下で、外部磁界の印加によって前記磁気センサから出力される出力電圧を、式Oa(T)=A・(Os2−Os1)・(T−Trt)+Os1によって規定される補正値Oa(T)で補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を有し、バイアス磁界を印加した磁気センサの温度特性を補正する磁気センサのための補正方法、及び選別のために磁気センサを評価する磁気センサの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転検出装置、位置検出装置などの検出装置において、検出対象物である磁性体又は磁石の回転移動、直線移動などを検出するために磁気センサを用いることはよく知られている。そして、このような磁気センサに、磁気抵抗効果素子を用いることもよく知られている。磁気抵抗効果素子は外部磁界の変化により、抵抗値が変化する特性を備えており、複数個の磁気抵抗効果素子でブリッジ回路を構成することにより抵抗値の変化を電圧変化として出力する。また、この種の磁気センサには、磁気センサの特性の向上を図るために、バイアス磁界を印加することも知られている。この種の磁気センサとしては、例えば、下記特許文献1〜5に示されたものがある。特に、下記特許文献1,2には、検出対象物である磁石のNS極の判別を可能にし、磁界周期と同じ出力周期を得る磁気センサが示されている。下記特許文献3には、検出対象物として磁界を発生しない磁性体であっても、印加したバイアス磁界によって磁界変化を起して出力を得る磁気センサが示されている。下記特許文献4,5には、出力電圧の精度を向上させた磁気センサが示されている。
【0003】
しかしながら、この種の磁気センサにおいては、検出対象物がない状態でのブリッジ回路からの出力電圧は、理想的にはハーフブリッジ回路では印加電圧の1/2、フルブリッジ回路では零であるが、実際には等価回路を組む複数の磁気抵抗効果素子の抵抗値の違いによって理想値からのずれ(以下、このずれを静オフセット電圧Osという)が生じる。また、この静オフセット電圧Osは、ハーフブリッジ回路及びフルブリッジ回路とも、温度によって方向と量に規則性がないオフセット電圧の変化(以下、この変化をオフセット温度ドリフトOdという)が生じる。すなわち、これらの静オフセット電圧Os及びオフセット温度ドリフトOdの変化方向と変化量は、たとえ製造工程が同じであっても、磁気センサごとに異なる。
【0004】
静オフセット電圧Osは、室温(例えば、25℃)状態において補正可能であるが、精度低下を招くオフセット温度ドリフトOdは、磁気センサごとにランダムに発生するために、室温状態での補正は不可能である。現在のところ、オフセット温度ドリフトOdの挙動原理は解明されていない。そこで、室温と加温した2つの環境からオフセット温度ドリフト係数(温度に対するオフセット温度ドリフトOdの変化率)を算出し、この係数を基に磁気センサを個別に補正する方法が、下記特許文献6には示されている。また、下記特許文献7には、定期的に出力振幅の最大値及び最小値の中心値を算出して補正する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−211409号公報
【特許文献2】特開2006−208025号公報
【特許文献3】特開平7−294540号公報
【特許文献4】特開平7−38173号公報
【特許文献5】特開2007−64695号公報
【特許文献6】特開2002−195822号公報
【特許文献7】特開2000−131013号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、前記特許文献6の従来技術にあっては、個々の磁気センサ及び磁気センサを使用したアプリーションごとに加温する環境を必要とするので、磁気センサの出力電圧の補正又は磁気センサの選別のための評価のために、コストアップを招くという問題がある。また、前記特許文献7の従来技術にあっては、磁性体又は磁石が停止している状態及び駆動初期の状態で、温度変化に対する出力中心値を得ることができないために、前記状態では検出精度の向上を期待できないという問題がある。
【0007】
本発明は、バイアス磁界を印加した磁気センサは、同一温度における2条件での磁気センサの出力値の静オフセット電圧と、オフセット温度ドリフトとの間に相関があることの発見に基づくものである。前記2条件のオフセット電圧とは、外部磁界が1対の磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態において測定した磁気センサの出力電圧のオフセット電圧(このオフセット電圧を第1条件のオフセット電圧Os1とする)と、外部磁界を1対の磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値(出力振幅中心値)のオフセット電圧(このオフセット電圧を第2条件のオフセット電圧Os2とする)とのことである。一方、温度に対する第1条件のオフセット電圧Os1の変化率(オフセット温度ドリフト係数)と、温度に対する第2条件のオフセット電圧Os2の変化率(オフセット温度ドリフト係数)は互いに等しく、このオフセット温度ドリフト係数をKtとする。また、同一の温度における第1条件のオフセット電圧Os1と第2条件のオフセット電圧Os2との差電圧をOs2−Os1とする。この場合、磁気センサごとに、オフセット温度ドリフト係数Ktも、差電圧Os2−Os1もそれぞれ異なるが、同一種類(同一仕様)の磁気センサにおいては、下記数1が成立することを発見した。なお、この比例定数Aは、同一種類(同一仕様)の磁気センサにおいて規定される共通の定数である。また、所定温度をTrtとして、所定温度Trtにおける第1条件のオフセット電圧Os1と第2条件のオフセット電圧Os2を測定すれば、温度Tにおける磁気センサの出力電圧の補正値Oa(T)は下記数2で示されることも発見した。
【0008】
【数1】

【0009】
【数2】

【0010】
本発明は、この発見に基づくもので、その目的は、磁気センサによってランダムに発生するオフセット温度ドリフトを所定温度(例えば、室温)で予測可能として、手間及びコストをかけずに簡単に、温度によって変化する磁気センサの出力電圧を補正したり、選別のために磁気センサを評価したりできるようにすることにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の構成上の特徴は、90度異なる方向に延設して直列に接続した少なくとも2つの磁気抵抗効果素子(15,16,32〜35)と、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両延設方向に挟まれた中央方向にバイアス磁界を印加するバイアス手段(13)とを備え、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両端に直流電圧を印加した状態で、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の接続点から、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転する外部磁界に対して基準電圧を中心に正弦波状に変化する電圧を出力する磁気センサ(10,30)に適用され、前記磁気センサからの出力電圧を補正する磁気センサのための補正方法において、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサの出力電圧を取得する第1出力電圧取得手順(S21)と、前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧を取得するオフセット電圧取得手順(S22)と、前記第1出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第1出力振幅中心値取得手順(S23)と、前記計算した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧と前記第1オフセット電圧との差を表すオフセット電圧差を、前記第1出力振幅中心値取得手順によって取得した出力振幅中心値から前記第1出力電圧取得手順によって取得した出力電圧を減算することにより、又は前記第1出力振幅中心値取得手順によって取得した出力振幅中心値から前記基準電圧及び前記第1オフセット電圧を減算することにより取得し、予め用意された比例定数をAとし、前記取得した第1オフセット電圧をOs1とし、前記オフセット電圧差を(Os2−Os1)とし、前記第1出力電圧取得手順及び前記第1出力振幅中心値取得手順で前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの前記磁気センサの温度をTrtとし、かつ前記磁気センサの温度がTである条件下で、外部磁界の印加によって前記磁気センサから出力される出力電圧を、式Oa(T)=A・(Os2−Os1)・(T−Trt)+Os1によって規定される補正値Oa(T)で補正する補正手順(S31〜S34)とを設けたことにある。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記第1出力電圧取得手順、前記オフセット電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順及び前記補正手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、異なる2つの温度条件下で、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサからの出力電圧をそれぞれ入力して、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記入力した出力電圧をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順(S11,S12)と、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順(S13)と、前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順(S15)と、前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順(S17)とを設けたことにもある。この場合、磁気センサとしては、代表的な少数個についてのみ、前記手順を実行するとよい。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記第1出力電圧取得手順、前記オフセット電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順及び前記補正手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、異なる2つの温度条件下で、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対してそれぞれ回転させて前記磁気センサから出力電圧をそれぞれ入力し、前記異なる2つの温度条件下でそれぞれ入力した出力電圧の最大値と最小値との各中央値をそれぞれ出力振幅中心値として取得し、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記取得した出力振幅中心値をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順(S11,S12)と、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順(S13)と、前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順(S15)と、前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順(S17)とを設けたことにもある。この場合も、磁気センサとしては、代表的な少数個についてのみ、前記手順を実行するとよい。
【0014】
前記第1出力電圧取得手順は、例えば、外部磁界を前記磁気センサに印加しない状態で前記磁気センサから出力電圧を入力するとよい。また、前記第1出力電圧取得手順は、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の延設方向に挟まれた中央方向又はその反対方向に印加した状態で前記磁気センサから出力電圧を入力してもよい。さらに、前記第1出力電圧取得手順は、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子のいずれか一方の延設方向及びその反対方向に印加した状態で前記磁気センサから出力電圧をそれぞれ入力して、前記入力した出力電圧の中央値を、前記外部磁界が少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサの出力電圧として取得してもよい。
【0015】
このように構成した本発明によれば、同種の全ての磁気センサについて共通な比例定数Aを代表的な磁気センサの測定により用意しておけば、各磁気センサにおいては、所定温度(例えば、室温)での静オフセット電圧Os1,Os2さえ測定すれば、磁気センサからの出力電圧を得るごとに、そのときの温度を用いて磁気センサの出力電圧を補正することができる。その結果、磁気センサの使用に当たって、各磁気センサごとのオフセット温度ドリフト係数を測定することなく、出力電圧の補正が可能になるので、手間及びコストをかけずに簡単に、温度によって変化する磁気センサの出力電圧を補正することができるようになる。
【0016】
また、本発明の他の特徴は、前記のように構成した磁気センサの評価方法において、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサの出力電圧を取得する第1出力電圧取得手順(S41)と、前記第1出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第1出力振幅中心値取得手順(S43)と、前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧と、前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧との電圧差を、少なくとも前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧と前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値とを用いた計算によってオフセット電圧差として取得するオフ電圧差取得手順(S45)と、前記取得したオフセット電圧差を用いて前記磁気センサを評価する評価手順(S46,S47)とを設けたことにある。
【0017】
前記構成の本発明の他の特徴によれば、オフセット温度ドリフト係数は、前記数1のように、電圧差Os2−Os1に比例するので、電圧差Os2−Os1の絶対値|Os2−Os1|が大きくなればなるほど、磁気センサの温度の変化に対する出力電圧のドリフト量(補正量)が大きくなる傾向にある。このことは、磁気センサに対する出力電圧の精度の悪化、出力電圧の補正の限界などをもたらすので、前記電圧差Os2−Os1を評価することにより磁気センサを評価することができることになる。したがって、所定温度(例えば、室温)における第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2を測定するだけで磁気センサの評価ができ、磁気センサ10の選定が簡単になる。また、前記電圧差Os2−Os1に比例定数Aを乗算した値A・(Os2−Os1)は、上記数1からも理解できる通り、オフセット温度ドリフト係数Ktに等しいので、この比例定数Aを考慮すれば、各磁気センサの出力電圧の温度による変化分を正確に評価できる。また、磁気センサの選定においては、用途等により、電圧差Os2−Os1が正であるか負であるか、すなわち磁気センサの温度ドリフトの方向に応じて磁気センサを評価及び選定することもできる。
【0018】
また、本発明の他の特徴は、前記のように構成した磁気センサの評価方法において、前記第1出力電圧取得手順及び前記第1出力振幅中心値取得手順と同様な第1出力電圧取得手順(S51)及び第1出力振幅中心値取得手順(S53)に加え、前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧と、前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧との電圧差を、少なくとも前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧と前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値とを用いた計算によってオフセット電圧差として取得し、予め用意されて同一種類の磁気センサに共通な比例定数をAとし、かつ前記取得したオフセット電圧差をOs2−Os1として、磁気センサの温度ドリフト係数Ktを、式Kt=A・(Os2−Os1)の演算により取得する温度ドリフト係数取得手順(S55,S56)と、前記取得した温度ドリフト係数Ktを用いて前記磁気センサを評価する評価手順(S57,S58)とを設けたことにある。なお、この場合、上述した場合と同様にして、比例定数Aを別途用意するとよい。
【0019】
前記構成の本発明の他の特徴によれば、温度ドリフト係数Ktは、その絶対値|Kt|が大きくなればなるほど、磁気センサ10の温度の変化に対する出力電圧のドリフト量(補正量)が大きくなる。このことは、磁気センサに対する出力電圧の精度の悪化、出力電圧の補正の限界などをもたらすので、前記温度ドリフト係数Ktを評価することにより磁気センサを評価することができる。したがって、所定温度(例えば、室温)における第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定するだけで磁気センサの評価ができ、磁気センサの選定が簡単になる。また、この場合も、磁気センサの選定においては、用途等により、温度ドリフト係数Ktが正であるか負であるか、すなわち磁気センサの温度ドリフトの方向に応じて磁気センサを評価及び選定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るハーフブリッジ構成の磁気センサの断面図である。
【図2】図1の磁気センサにおいて、磁気抵抗効果素子を配置したシリコン基板とバイアス磁石との関係を説明するための説明図である。
【図3】前記シリコン基板上の磁気抵抗効果素子の配置方向を説明するための説明図である。
【図4】図1の磁気センサを用いて回転軸の回転を検出するための検出装置の概略図である。
【図5】図4の磁気抵抗効果素子に対するバイアス磁界及び検出磁界の向きを説明するための説明図である。
【図6】磁気センサにおける外部磁界の強さに対する抵抗率の変化特性、及び磁気抵抗効果素子に対する磁界の強さと抵抗の変化状態を示すグラフである。
【図7】磁気センサの出力電圧の波形図である。
【図8】種々の強さの外部磁界を1回転させた状態における磁気センサの出力電圧の波形図である。
【図9】磁気センサのオフセット温度ドリフト及び静オフセット電圧の関係を説明するための説明図である。
【図10】複数の磁気センサにおけるオフセット温度ドリフトと静オフセット電圧の関係を示すグラフである。
【図11】磁気センサにおける外部磁界とオフセット温度ドリフトの関係を示すグラフである。
【図12】フルブリッジ構成の他の磁気センサの構成例を示す概略図である。
【図13】複数の他の磁気センサに関するオフセット温度ドリフトとオフセット電圧の関係を示すグラフである。
【図14】オフセット温度ドリフトとオフセット電圧の他の関係を示すグラフである。
【図15】オフセット温度ドリフトの補正装置の概略図である。
【図16】図15のコンピュータ装置にて実行される比例定数検出プログラムを示すフローチャートである。
【図17】前記コンピュータ装置にて実行される静オフセット電圧取得プログラムを示すフローチャートである。
【図18】前記コンピュータ装置にて実行される出力電圧補正プログラムを示すフローチャートである。
【図19】前記コンピュータ装置にて実行されるセンサ選定プログラムを示すフローチャートである。
【図20】前記コンピュータ装置にて実行される他のセンサ選定プログラムを示すフローチャートである。
【図21】変形例に係る2軸へルムホルツコイルを用いた検出装置の概略図である。
【図22】図21の検出装置による測定結果を示す出力電圧波形、基準正弦波波形、及び出力電圧と基準正弦波波形との差電圧波形を示す図である。
【図23】図22の差電圧波形の拡大図である。
【図24】正弦波波形とその2倍の周波数を有する余弦波波形を示す図である。
【図25】変形例に係る磁気センサと永久磁石との配置を示す図である。
【図26】図25の永久磁石による磁界の方向の変化を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
a.磁気センサの温度ドリフト
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、バイアス磁界を印加した磁気センサにおいては、室温(例えば、25℃)の2条件での測定値がオフセット温度ドリフトと相関があることの発見に基づくものであり、まず、磁気センサ及びこの相関関係について説明しておく。
【0022】
a1.磁気センサ
磁気センサ10は、図1に示すように、モールドパッケージ11内にてリードフレーム12の下面及び上面にバイアス磁石13及びシリコン基板14をそれぞれ接着させている。モールドパッケージ11はエポキシ樹脂からなり、リードフレーム12は導電体(例えば、銅)からなる。シリコン基板14上には、図2及び図3に示すように、互いに延設方向を90度異ならせたミアンダライン状の磁気抵抗効果素子15,16が設けられている。この磁気抵抗効果素子15,16は、鉄FeとニッケルNiからなる合金とする異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)で構成されている。これらの磁気抵抗効果素子15,16は、直列に接続されており、その両端は接地用端子17a及び電源用端子17bにそれぞれ接続されている。磁気抵抗効果素子15,16の中間接続点は出力用端子17cに接続されている。接地用端子17a、電源用端子17b及び出力用端子17cは、複数のリード線18を介して複数の外部接続端子19にそれぞれ接続されている。
【0023】
このように構成した磁気センサ10の使用に当たっては、外部接続端子19からリード線18を介して、電源用端子17bと接地用端子17aとの間に電源電圧(例えば、5V)を印加して、出力用端子17cにおける電圧をリード線18及び外部接続端子19を介し外部に出力電圧として取出すようになっている。したがって、この磁気センサ10は、ハーフブリッジとして機能する。また、バイアス磁石13は、図2及び図3に示すように、磁気抵抗効果素子15,16に対して、それらの延設方向により挟まれた角度を2分する方向すなわち前記両延設方向に挟まれた中央方向のバイアス磁界を磁気抵抗効果素子15,16に印加する。
【0024】
次に、前述した磁気センサ10を用いて検出対象物の回転軸21の回転を検出する場合について説明する。この場合、図4に示すように、回転軸21の先端に、回転軸21と中心軸を一致させた円盤状の永久磁石22が固定されている。この永久磁石22は、磁気センサ10によって検出される磁界を発生するための磁石であり、周方向に2極に分極すなわち一方の半円部分をN極に帯磁させるとともに、他法の半円部分をS極に帯磁させている。そして、永久磁石22の盤面を磁気センサ10のシリコン基板14、すなわち磁気抵抗効果素子15,16の延設方向を含む面に対向させている。これにより、回転軸21を回転させると、永久磁石22による外部磁界は、磁気抵抗効果素子15,16が属するシリコン基板14に平行な平面内を回転する。
【0025】
この点について、図5を用いて説明する。磁気抵抗効果素子15,16の延設方向は、図5に示すように、X軸及びY軸に対してそれぞれ45度ずれ、かつ互い90度ずれているものとする。すると、磁気センサ10のバイアス磁石13によるバイアス磁界Hbの方向を、X軸方向として表すことができる。このとき、永久磁石22による外部磁界Hrの方向がバイアス磁界Hbの方向と同じであるときの外部磁界Hrの回転角θを「0」とする。そして、外部磁界Hrは、図示矢印で示す反時計方向に回転するものとする。このとき、磁気抵抗効果素子(R1,R2)15,16に対しては、外部磁界Hrとバイアス磁界Hbの合成ベクトルで表される磁界がそれぞれ付与される。図6は、磁界の強さに対する磁気抵抗効果素子(R1,R2)15,16の抵抗変化率をグラフ化したものである。ここで、外部磁界Hrを0度から360度まで回転させると、磁気抵抗効果素子(R1)15にはグラフ下部の実線で示す磁界が付与され、磁気抵抗効果素子(R2)16にはグラフ下部の破線で示す磁界が付与される。そして、磁気抵抗効果素子(R1)15の抵抗変化率はグラフ右部の実線で示すように変化し、磁気抵抗効果素子(R2)16の抵抗変化率はグラフ右部の破線で示すように変化する。したがって、出力電圧Voutは、図7に示すように、電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を中心に正弦波状に変化すること、すなわちα・sinθ+(Vcc/2)のように変化することが推測される。なお、値αは振幅を示し、θは外部磁界Hrの回転角である。
【0026】
このような推測のもとに、前述した図4に示す装置において、電源電圧Vccとして5V(ボルト)を採用するとともに、バイアス磁界Hbの強さとして25mT(ミリテスラ)を採用して、外部磁界Hrすなわち永久磁石22の磁界の強さを種々に異ならせて、外部磁界Hb(永久磁石22)を0度から360度まで回転させながら出力電圧Voutを測定した。測定結果は、図8に示す通りであり、外部磁界Hrの強さがバイアス磁界Hbの強さより小さい状態では、電源電圧Vccのほぼ半分の電圧Vcc/2を中心に、外部磁界Hrを生成する永久磁石22の極を判別できる近似的に1周期の正弦波状の信号となる。しかし、外部磁界Hrがバイアス磁界Hbよりも強くなる25mT以上になると、近似的な正弦波波形に波形割れが生じる。これは、図6の特性図からも分かるように、外部磁界Hrとバイアス磁界Hbの合成磁界の強さが、磁界の強さにおける負の領域にも入り、磁気抵抗効果素子(R1,R2)15,16の抵抗変化率が合成磁界の異なる値に対して同一の値を取るためと考えられる。
【0027】
上記説明のような磁気センサにおいては、オフセット温度ドリフトが生じるものであり、本発明は、このような磁気センサ10のオフセット温度ドリフトを簡単に補正できる方法及び装置を提供しようとするものである。結論的には、本発明は、バイアス磁界を印加した磁気センサにおいては、所定の温度(例えば、室温)の2条件での2つの静オフセット電圧がオフセット温度ドリフトと相関があることを利用するものである。そして、本発明者は、次のようにして前記相関を発見した。以下、前記2条件及び相関について詳しく説明する。
【0028】
a2.相関関係の発見について
この磁気センサ10において、外部磁界Hrが「0」すなわち外部磁界Hrを印加してない状態での静オフセット電圧を第1のオフセット電圧Os1(出力電圧Voutから電圧Vcc/2を減算した電圧)として測定した。電源電圧Vccは5Vであるので、出力電圧Voutは、理想的にはVcc/2すなわち2500mVであるが、室温(25℃)という温度条件下で磁気抵抗効果素子(R1,R2)15,16の抵抗値の違いにより前記電圧Vcc/2(2500mV)からずれ、5.1mVである第1の静オフセット電圧Os1が観測された。
【0029】
一方、このようなバイアス磁界を印加した磁気センサ10は、バイアス磁界Hbよりも外部磁界Hrを弱く設定した状態で、波形が1周期になる状態で使用される。そこで、室温(25℃)において、外部磁界Hrの強さを20mTに設定して、外部磁界Hrを1回転させて、出力電圧Voutの最大値Vmaxと最小値Vminの中央値(Vmax+Vmin)/2(以下、出力振幅中心値という)の電圧Vcc/2からのずれを第2の静オフセット電圧Os2として求めた。さらに、磁気センサ10を加温して、異なる温度における第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定するとともに、各温度の第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2と室温(25℃)における第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の差であるオフセット温度ドリフトOd1,Od2をそれぞれ計算した。そして、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2、並びに第1及び第2のオフセット温度ドリフトOd1,Od2を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この表1から、外部磁界Hrが印加されていない状態でのオフセット温度ドリフトOd1と、外部磁界Hrが印加された状態でのオフセット温度ドリフトOd2とは一致していることも理解できる。そして、それらのオフセット温度ドリフト係数(単位温度当たりのオフセット温度ドリフトOd1,Od2の変化量)は、+20μV/℃であることも分かった。
【0032】
次に、所定の温度(例えば、室温:25℃)での2つの静オフセット電圧Os1,Os2とオフセット温度ドリフトOdとの相関について説明する。発明者は、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2と、温度Tにおける第1の静オフセット電圧Os1に対するオフセット温度ドリフトOd(T)との間には、図9に示すような相関があると仮定した。この関係を表すと下記数3のようになる。なお、下記数3においては、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定した際の所定温度(室温:25℃)をTrtで表している。
【0033】
【数3】

【0034】
ここで、前記表1の値を数3に当てはめると、前記表1のオフセット温度ドリフト係数は、+20μV/℃であるので、20μV/℃=1.2mV/(85℃−25℃)が成立し、数3中の温度Tkは85℃ということになる。なお、Aは比例定数1/(Tk−Trt)を表し、この場合、A=1/60である。しかし、同一の仕様に従って製造した個々の磁気センサすなわち同一種類の磁気センサ(一般的には、同一の磁気センサとして利用される個々の磁気センサ)においては、温度によるオフセット電圧の変化量と変化方向がランダムに発生することは従来から分かっている。ここで、前記数3の関係が成立するかどうかを調べるために、同一の仕様に従って製造した他の40個の磁気センサについて、所定温度(室温:25℃)において外部磁界Hrが印加されていない状態での静オフセット電圧Os1(25)と、所定温度(室温:25℃)において20mTの外部磁界Hrが印加された状態での静オフセット電圧Os2(25)(出力振幅中心値Os2(25))と、125℃において外部磁界Hrが印加されない状態のオフセット電圧Os1(125)を測定した。その測定結果を、下記表2に示す。また、下記表2においては、25℃に対する125℃の第1の静オフセット電圧Os1の温度ドリフトOd1(125)=Os1(125)−Os1(25)と、第1及び第2の静オフセット電圧Os1(25),Os2(25)の電圧差Os2(25)−Os1(25)も示している。なお、前述のように、第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2の温度ドリフトOd1,Od2は等しく、25℃に対する125℃の第2のオフセット電圧Os2の温度ドリフトOd2(125)=Os2(125)−Os2(25)も前記温度ドリフトOd1(125)=Os1(125)−Os1(25)に等しい。
【0035】
【表2】

【0036】
この表2にから、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の温度ドリフトOd1,Od2(25℃から125℃への温度上昇によるオフセット電圧Os1,Os2の変化)の変化量及び変化方向は、磁気センサごとにランダムに変化している。しかし、オフセット電圧Os1,Os2の変化方向が、温度ドリフトOd1,Od2の変化の方向と全て一致していることが分かる。つぎに、本発明者は、前記数3が成立するかどうかを調べるために、図10に示すように、各磁気センサごとに、所定温度(室温:25℃)でオフセット電圧を「0」とする点と、25℃に対する125℃の第1のオフセット電圧Os1の温度ドリフトOd1(125)=Os1(125)−Os1(25)(第2のオフセット電圧Os2の温度ドリフトOd2(125)=Os2(125)−Os2(25)に等しい)とを直線で結んだ。
【0037】
そして、各磁気センサごとに、第1及び第2のオフセット電圧Os1(25),Os2(25)の差電圧Os2(25)−Os1(25)を85℃の位置にプロットした。図10からも分かるように、85℃における差電圧Os2(25)−Os1(25)のプロット位置は各直線上に位置した。このことは、同一の仕様で製造した各磁気センサは、前記数3の関係を満たしていることを証明している。言い換えれば、前記数3に基づいて下記数4中の方程式をたて、表2中の40個の磁気センサ10に関するオフセット電圧Os1(25),Os2(25),Os1(125)を下記数4に代入すると、温度Tkは全て85℃となった。
【0038】
【数4】

【0039】
a3.外部磁界と温度ドリフトの関係
次に、外部磁界の強さと温度ドリフトとの関係について説明する。上記説明では、温度が25℃、50℃、75℃、100℃及び125℃の環境下で、外部磁界を印加しない状態での静オフセット電圧Os1と、20mTの外部磁界を1回転させたときの静オフセット電圧Os2を測定した。ここでは、前記温度の環境化で上記と同じ磁気センサ10について、外部磁界をさらに10mT、15mT、25mT、30mT及び35mTに変化させて、静オフセット電圧Os2を測定した。測定結果を、上記外部磁界を印加しない場合及び上記外部磁界が20mTの場合を加えて、下記表3に示す。前記いずれの場合も、オフセット温度ドリフト係数は、上記外部磁界を印加しない場合及び上記外部磁界が20mTの場合と同様に、20μV/℃であった。そして、温度Tに対するオフセット電圧Os1,Os2の関係を、外部磁界が0mT(外部磁界を印加しない状態)〜35mTにわたって5mTごとに図11に示している。
【0040】
【表3】

【0041】
このように、外部磁界の強さを変化させても、オフセット温度ドリフト係数は常に一定であり、上述した数3は外部磁界を変化させても成立する。したがって、外部磁界を異ならせても、上記数3に基づく後述する出力電圧Voutの補正は可能である。また、オフセット温度ドリフト係数は常に一定であるので、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定した所定温度Trt(室温)は、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定した温度が同じであれば、変更してもよい。そして、この所定温度Trtの変更によって、上記数3中の温度Tkも変化する。ただし、この事実はあくまでも同一の磁気センサに対するものであり、たとえ同一仕様の磁気センサであっても、前記オフセット温度ドリフト係数は磁気センサごとに異なる。
【0042】
b.他の磁気センサの温度ドリフト
次に、他の磁気センサによる温度ドリフトに関して、上述した相関関係(数3の関係)が成立するかを調べた結果を示す。他の磁気センサは、図12に示すように、フルブリッジ構成の磁気センサ30である。この磁気センサ30は、シリコン基板31上に、ミアンダライン状の磁気抵抗効果素子32,33,34,35を備えている。これらの磁気抵抗効果素子32,33,34,35は、鉄FeとニッケルNiとコバルトCoからなる合金とする異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)で構成されている。磁気抵抗効果素子32,33は延設方向を互いに90度異ならせているとともに、磁気抵抗効果素子34,35も延設方向を互いに90度異ならせている。磁気抵抗効果素子32,35の延設方向は同じであり、磁気抵抗効果素子33,34の延設方向も同じである。この磁気センサ30も上記磁気センサ10と同様な図示しないバイアス磁石を備えており、磁気抵抗効果素子32,33,34,35の各延設方向に対して45度の方向から上記磁気センサ10と同様な25mTのバイアス磁界が付与されている(図示矢印参照)。
【0043】
磁気抵抗効果素子32,33は、直列に接続されており、その両端は接地用端子36a及び電源用端子36bにそれぞれ接続されている。磁気抵抗効果素子32,33の中間接続点は出力用端子36cに接続され、出力用端子36cからは第1の出力電圧Vout1が出力されるようになっている。磁気抵抗効果素子34,35も、直列に接続されており、その両端は接地用端子36a及び電源用端子36bにそれぞれ接続されている。磁気抵抗効果素子34,35の中間接続点は出力用端子36dに接続され、出力用端子36dからは第2の出力電圧Vout2が出力されるようになっている。出力用端子36cは差動増幅器37の正側入力に接続され、出力用端子36dは差動増幅器37の負側入力に接続されている。差動増幅器37は、第1及び第2の出力電圧Vout1,Vout2の差電圧Vout1−Vout2を磁気センサ30の出力電圧Voutとして出力する。他の構成は、上記磁気センサ10と同じである。そして、この場合も、上記図4に示すように回転軸21に固定した永久磁石22を磁気センサ30のシリコン基板31に対向させて回転させるように構成する。
【0044】
そして、この場合、前記構成の25個の磁気センサ30に対して、上記磁気センサ10の場合と同様に、25℃(室温)において外部磁界Hrが「0」すなわち外部磁界Hrを印加してない状態での静オフセット電圧を第1のオフセット電圧Os1(25)として測定した。また、25℃(室温)において外部磁界Hrを10mT,15mT,35mTとした状態での静オフセット電圧(出力振幅中心値)を第2のオフセット電圧Os2(25)としてそれぞれ測定した。さらに、125℃において外部磁界Hrが「0」すなわち外部磁界Hrを印加してない状態での静オフセット電圧をオフセット電圧Os1(125)として測定した。そして、これらのオフセット電圧を下記表4に示す。また、下記表4においては、25℃に対する125℃の第1のオフセット電圧Os1の温度ドリフトOd1(125)=Os1(125)−Os1(25)と、外部磁界10mT,15mT,35mTごとの第1及び第2の静オフセット電圧Os1(25),Os2(25)の電圧差Os2(25)−Os1(25)も示している。なお、このフルブリッジ構成の磁気センサ30の出力電圧(差動増幅器37の出力電圧)は、本来的には、基準電圧とする0Vを中心に正弦波状に変化するものであるので、オフセット電圧は、上記ハーフブリッジ構成の磁気センサ10の場合の基準電圧Vcc/2とは異なり、基準電圧0Vからのずれを表している。
【0045】
【表4】

【0046】
この表4からも、第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2の温度ドリフトOd1,Od2(25℃から125℃への温度上昇による第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2の変化)の変化量及び変化方向は、磁気センサごとにランダムに変化している。しかし、第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2の変化方向が、温度ドリフトOd1,Od2の変化の方向と全て一致していることが分かる。そして、この場合も、図13に示すように、各磁気センサごとに、所定温度(室温:25℃)でオフセット電圧を「0」とする点と、25℃に対する125℃の第1のオフセット電圧Os1の温度ドリフトOd1(125)=Os1(125)−Os1(25)とを直線で結んだ。
【0047】
そして、外部磁界10mT,15mT,35mTのそれぞれに対して各磁気センサごとに、第1及び第2のオフセット電圧Os1(25),Os2(25)の電圧差Os2(25)−Os1(25)を65℃、78℃、300℃の位置にプロットした。図13からも分かるように、前記65℃、78℃、300℃における電圧差Os2(25)−Os1(25)のプロット位置は各直線上に位置した。このことは、同一の仕様で製造した各磁気センサは、上記数3の関係を満たしていることを証明している。また、言い換えれば、25個の磁気センサ10に関する外部磁界10mT,15mT,35mTのそれぞれに対してオフセット電圧Os1(25),Os2(25),Os1(25)を上記数4に代入すると、温度Tkは外部磁界10mT,15mT,35mTに対して、それぞれ65℃、78℃、300℃となった。これらの外部磁界10mT,15mT,35mTの場合には、上記数3中の比例定数Aは、それぞれ1/40,1/53,1/275となる。
【0048】
c.温度ドリフトの範囲
上記ハーフブリッジ構成の磁気センサ10に対しても、フルブリッジ構成の磁気センサ30に対しても、25℃(室温)から125℃の範囲についての測定結果について説明した。しかし、従来から知られているように、オフセット温度ドリフトは温度の広い範囲において、直線的に変化することが分かっているが、念のために、広い温度範囲における特性について測定した。上記フルブリッジの磁気センサ30と同一仕様の異なる40個の磁気センサにおいて、外部磁界Hrが「0」すなわち外部磁界Hrを印加してない状態での25℃、−30℃、110℃における静オフセット電圧Os1(25),Os1(−30),Os1(110)を測定して、温度ドリフトOd1(−30)=Os1(−30)−Os1(25),Od1(110)=Os1(110)−Os1(25)を計算した。そして、25℃を基準として温度ドリフトOd1,Od2を40個の磁気センサごとにプロットして、磁気センサごとに3点を結ぶと、図14に示すように、前記3点は直線で結ばれた。これにより、上記特性例の説明とも合わせると、上記数3の関係は広い温度範囲で適用されることも分かる。
【0049】
d.温度ドリフトの補正
次に、本発明の実施形態に係る温度ドリフトの補正方法及び補正装置について説明する。この温度ドリフトの補正においては、上述した同一製造工程で製造した磁気センサすなわち同一仕様(同一種類)の磁気センサに関する共通の比例定数Aの検出、磁気センサごとの第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の取得、及び磁気センサごとの出力電圧Voutの補正が行われる。
【0050】
d1.比例定数検出
まず、比例定数Aの検出に関して説明すると、作業者が、電圧計及び温度計などの測定器を用いて電圧及び温度を測定して、測定結果をコンピュータ装置などに入力するようにしてもよいが、コンピュータ装置によるプログラム処理を併用するようにした方が効率的であるので、コンピュータ装置を用いた方法について説明する。
【0051】
上記図4を用いて説明した回転軸21に固定された永久磁石22に対向したハーフブリッジの磁気センサ10に適用した場合について説明すると、コンピュータ装置40は、図15に示すように、磁気センサ10の出力電圧VoutをA/D変換器41を介して入力する。A/D変換器41はアナログ信号の出力電圧Voutをディジタル値に変換して出力する。コンピュータ装置40は、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、表示器、入力装置などを備え、比例定数Aを検出するための比例定数検出プログラムを記憶している。また、磁気センサ10には、温度センサ42が組み付けられている。温度センサ42は、磁気センサ10内の磁気抵抗効果素子15,16の温度Tを検出するもので、検出温度を表すアナログ信号を発生する。このアナログ信号によって表された温度Tも、A/D変換器43によりディジタル値に変換されてコンピュータ装置40に入力される。なお、磁気センサ10内に温度センサが組み込まれていれば、前記組み込まれた温度センサが利用される。また、磁気抵抗効果素子15,16の温度を検出できれば、磁気センサ10の置かれた環境温度を測定する温度測定装置などの種々の温度測定装置を利用できる。さらに、磁気センサ10を加熱及び冷却するための冷却装置44も設けられている。
【0052】
コンピュータ装置40は、作業者による比例定数検出プログラムの開始の指示により、図16のステップS10にて比例定数検出プログラムの実行を開始する。このプログラムの実行開始後、コンピュータ装置40は、ステップS11にて、異なる2種以上の温度T1,T2におけるオフセット電圧V1,V2を、前記温度T1,T2と共にそれぞれ入力する。作業者が、過熱及び冷却装置44を作動させることにより、磁気センサ10(磁気抵抗効果素子15,16)の温度を上昇又は下降させる。この場合、入力されるオフセット電圧V1,V2としては、永久磁石22による外部磁界が印加されていない状態のオフセット電圧(上記第1のオフセット電圧Os1に相当)でも、永久磁石22による外部磁界が印加されている状態のオフセット電圧(出力振幅中心値)(上記第2のオフセット電圧Os2に相当)のどちらのオフセット電圧でもよい。
【0053】
前者の場合には、磁気センサ10の温度がT1,T2における出力電圧Voutのディジタル値をそれぞれ入力し、前記入力した出力電圧Voutから電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2をそれぞれ減算してオフセット電圧V1,V2として設定する。一方、後者の場合には、磁気センサ10の温度がT1,T2である状態で、永久磁石22を1回転させて得られる出力電圧Vccのディジタル値を所定のサンプリング周期でそれぞれ取込み、最大値と最小値との中央値をそれぞれ計算し、前記計算した中央値から電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2をそれぞれ減算してオフセット電圧(出力振幅中心値)V1,V2として設定する。なお、後述するように、オフセット電圧V1,V2は、下記数5の演算による減算値V2−V1が利用されるので、前記電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2の減算処理を行わなくても、前記入力した出力電圧Vout及び中央値をそのまま残しておいてもよい。
【0054】
この場合の温度T1,T2に関しては、予め定めておき又は作業者が指定して、温度センサ42によって検出された温度Tが前記予め定められた又は作業者によって指定された温度T1,T2に達したことをコンピュータ装置40が検出したときに、コンピュータ装置40が出力電圧Voutを入力するとよい。しかしながら、コンピュータ装置40の表示装置に温度センサ42によって検出された温度Tを表示するようにして、作業者がこの表示温度を見ながら入力装置を用いて出力電圧Voutの入力を指示するようにしてもよい。また、異なる温度及びオフセット電圧の数に関しては、最低限2つは必要であるが、後述するオフセット温度ドリフト係数Ktの精度向上のためには、3つ以上の温度及びオフセット電圧を入力するとよい。ただし、多数の温度及びオフセット電圧を入力する必要はない。
【0055】
次に、コンピュータ装置40は、ステップS12にて、前記設定したオフセット電圧V1,V2及び温度T1,T2を用いて、単位温度当たりのオフセット電圧の変化分(温度に対するオフセット電圧の傾き)であるオフセット温度ドリフト係数Ktを下記数5に従って計算する。なお、3つ以上のオフセット電圧及び温度を測定した場合には、2組ずつのオフセット電圧及び温度に基づいて計算したオフセット温度ドリフト係数を平均化して最終的なオフセット温度ドリフト係数Ktとするとよい。
【0056】
【数5】

【0057】
次に、コンピュータ装置40は、ステップS13にて、予め定めておき又は作業者によって指定された所定温度(例えば、25℃の室温)Trtにおいて、外部磁界を印加してない状態の出力電圧Voutを磁気センサ10から入力する。この場合も、作業者が、過熱及び冷却装置44を作動させることにより、磁気センサ10(磁気抵抗効果素子15,16)の温度を上昇又は下降させる。そして、温度センサ42によって検出された温度Tが前記所定温度Trtに達したことをコンピュータ装置40が検出したときに、コンピュータ装置40が磁気センサ10から出力電圧Voutを入力する。また、この場合も、コンピュータ装置40の表示装置に温度センサ42によって検出された温度Tを表示するようにして、作業者がこの表示温度を見ながら入力装置を用いて出力電圧Voutの入力を指示するようにしてもよい。次に、コンピュータ装置40は、ステップS14にて、前記入力したVoutから電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算することにより第1の静オフセット電圧Os1を取得する。
【0058】
次に、コンピュータ装置40は、ステップS15にて、前記ステップS13の場合と同じ所定温度(例えば、25℃の室温)Trtにおいて、外部磁界が印加されている状態の出力振幅中心値を取得する。この場合も、作業者が、過熱及び冷却装置44を作動させることにより、磁気センサ10(磁気抵抗効果素子15,16)の温度を上昇又は下降させる。そして、温度センサ42によって検出された温度Tが前記所定温度Trtに達したことをコンピュータ装置40が検出したときに、永久磁石22を1回転させて得られる磁気センサ10からの出力電圧Voutを所定のサンプリング周期でそれぞれ取込み、最大値と最小値との中央値を計算し、前記計算した中央値を出力振幅中心値とする。また、この場合も、コンピュータ装置40の表示装置に温度センサ42によって検出された温度Tを表示するようにして、作業者がこの表示温度を見ながら入力装置を用いて出力電圧Voutの入力を指示するようにしてもよい。なお、前記所定温度Trtは、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の取得時の温度が同一であれば、常に同一の温度でなくてもよい。次に、コンピュータ装置40は、ステップS16にて、前記計算した出力振幅中心値から電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算することにより第2の静オフセット電圧Os2を取得する。
【0059】
次に、コンピュータ装置40は、ステップS17にて、前記計算したオフセット温度ドリフト係数Kt及び前記入力した第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を用いて、上記数3の比例定数Aを下記数6に従って計算する。そして、コンピュータ装置40は、ステップS18にて、比例定数検出プログラムの実行を終了する。
【0060】
【数6】

【0061】
このような比例定数検出プログラムの実行により、比例定数Aが検出されるが、この比例定数Aは、同一仕様の磁気センサ10の全てに対して共通である。したがって、この比例定数の検出については、磁気センサ10の使用者が行ってもよいが、磁気センサ10の製造者が行って使用者に対して比例定数Aを提供するようにするとよい。なお、上記実施形態では1つの磁気センサ10のみの測定によって比例定数Aを決定するようにしたが、精度向上のためには、代表する複数の磁気センサ10について比例定数Aをそれぞれ取得して、それらの平均値を採用するようにしてもよい。ただし、多数の磁気センサ10について比例定数Aの測定を行う必要はない。
【0062】
なお、上記比例定数検出プログラムでは、ステップS14,S16にて第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を取得して、上記数6の演算に利用するようにした。しかし、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の電圧差Os2−Os1は、上記ステップS13で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutと上記ステップS15で計算した振幅中心値との電圧差に等しい。したがって、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2が必要でない場合には、上記ステップS14,S16の処理を省略して、ステップS14で計算した振幅中心値からステップS13では磁気センサ10から入力した出力電圧Voutを減算して差電圧Os2−Os1を計算するようにしてもよい。
【0063】
d2.静オフセット電圧取得
次に、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の取得について説明すると、この場合も、電圧計及び温度計などの測定器を用いて電圧及び温度を測定して、測定結果をコンピュータ装置などに入力するようにしてもよいが、前述した図15に示すようなコンピュータ装置40を含む装置を用いるとよい。この場合、コンピュータ装置40は、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を取得するための静オフセット電圧取得プログラムを記憶している。コンピュータ装置40は、作業者による静オフセット電圧取得プログラムの開始の指示により、図17のステップS20にて静オフセット電圧取得プログラムの実行を開始する。ただし、この場合の第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2の取得は、個々の磁気センサ10に対するものである。
【0064】
このプログラムの実行開始後、コンピュータ装置40は、上記図16のステップS13,S14の処理とそれぞれ同様なステップS21,S22の処理により、外部磁界を印加してない状態の第1の静オフセット電圧Os1を取得する。次に、コンピュータ装置40は、前記ステップS21の場合と同じ所定温度(例えば、25℃の室温)Trtにおいて、上記図16のステップS15,S16の処理とそれぞれ同様なステップS23,S24の処理により、外部磁界が印加されている状態の第2の静オフセット電圧(出力振幅中心値のオフセット電圧)Os2を取得する。
【0065】
そして、コンピュータ装置40は、ステップS26にてこの静オフセット電圧取得プログラムの実行を終了する。この場合、取得した第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2は、各磁気センサ10を特定する識別番号に対応させて記憶しておくようにする。このような特定の磁気センサ10の第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の取得後、他の磁気センサ10の温度補正が必要な場合には、他の磁気センサ10に対して前述の処理を実行する。そして、このような処理の繰り返しにより、複数の磁気センサ10に対して、磁気センサ10ごとの第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を取得する。
【0066】
なお、前記静オフセット電圧取得プログラムにおいては、所定温度Trtを一定の温度としたが、この所定温度Trtは必ずしも一定でなくてよく、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の取得時の温度Tが同一であればよい。したがって、この場合には、図17の静オフセット電圧取得プログラムにおいて、破線で示すステップS25のように、温度センサ42によって検出されるとともに、A/D変換器43によってディジタル値に変換された温度Tを入力して、所定温度Trtとして登録しておく。
【0067】
このような静オフセット電圧取得プログラムの実行により、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2が検出されるが、これらの第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2は、磁気センサ10ごとに異なる。したがって、これらの第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の検出については、磁気センサ10の使用者が行うとよい。磁気センサ10の製造者が行うことも考えられるが、この場合には磁気センサ10ごとの第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を使用者に提供する必要がある。また、前述のように、場合によっては、所定温度Trtとして一定でない温度が登録されていることもあり、この場合には、登録された所定温度Trtが次の出力電圧補正処理に利用される。
【0068】
d3.出力電圧補正
次に、出力電圧Voutの補正について説明する。この場合には、磁気センサ10を使用する検出装置内に、図15に示すようなコンピュータ装置40が組み込まれる。コンピュータ装置40は、出力電圧Voutを補正するための出力電圧補正プログラムを記憶している。この場合、コンピュータ装置40は、前記検出装置に検出対象物理量を検出するためのコンピュータ装置と一体化されており、磁気センサ10を用いた検出装置の作動に連動して、出力電圧補正プログラムを実行する。なお、この場合、図15の加熱及び冷却装置44は不要である。
【0069】
この出力電圧補正プログラムは図18のステップS30に開始され、実行開始後、コンピュータ装置40は、ステップS31にて、温度センサ42によって検出されるとともに、A/D変換器43によってディジタル値に変換された温度Tを入力する。次に、コンピュータ装置40は、ステップS32にて下記数7の演算により、電圧の補正値Oa(T)を計算する。この場合、比例定数Aは、前記比例定数検出プログラムの実行により検出された同一仕様の磁気センサ10に共通の定数である。第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2は、前記静オフセット電圧取得プログラムの実行により検出された磁気センサ10ごとの検出値である。また、所定温度Trtは予め定められた温度であるか、前記静オフセット電圧取得プログラムのステップS25にて登録された温度である。この数7の演算の実行により、上記磁気センサの特性例で説明した温度ドリフトを加味した磁気センサ10ごとの電圧の補正値Oa(T)が計算される。
【0070】
【数7】

【0071】
前記ステップS32の処理後、コンピュータ装置40は、ステップS33にて磁気センサ10から出力されてA/D変換器43によってディジタル値に変換された出力電圧Voutを入力する。次に、コンピュータ装置40は、ステップS34にて、前記入力した出力電圧Voutから前記計算した電圧の補正値Oa(T)を減算して出力電圧Voutを補正する。そして、コンピュータ装置40は、ステップS35にて出力電圧補正プログラムの実行を終了する。これにより、磁気センサ10ごとに温度ドリフトの影響を受けない出力電圧Voutを得ることができる。そして、この補正された出力電圧Voutが磁気センサ10が組み込まれた検出装置の検出物理量の測定に利用されるので、磁気センサ10による温度ドリフトの影響を受けない正確な物理量が検出されるようになる。そして、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2は所定温度(例えば、室温)で測定した値であり、比例定数Aは磁気センサに対して共通に与えられるものであるので、前記出力電圧Voutの補正が簡単に行われる。
【0072】
なお、上記出力電圧補正プログラムのステップS32においては、上記静オフセット電圧取得プログラムのステップS21〜S24の処理によって取得した第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を用いて、上記数7の演算を実行して電圧の補正値Oa(T)を計算するようにした。しかし、上記数7中の静オフセット電圧Os1,Os2の差電圧Os2−Os1は、上記ステップS21で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutと上記ステップS23で計算した出力振幅中心値との差電圧に等しい。したがって、オフセット電圧Os2が必要でない場合には、上記ステップS24の静オフセット電圧Os2の計算処理を行うことなく、ステップS23で計算した出力振幅中心値からステップS21で入力した出力電圧Voutを減算して、差電圧Os2−Os1を取得するようにしてもよい。なお、静オフセット電圧Os1は上記数7の演算に必要であるので、上記ステップS22で計算される。
【0073】
e.磁気センサの選定
次に、磁気センサ10の選定について説明すると、この場合も、電圧計及び温度計などの測定器を用いて電圧及び温度を測定して、測定結果をコンピュータ装置などに入力するようにしてもよいが、前述した図15に示すようなコンピュータ装置40を含む装置を用いるとよい。この場合、コンピュータ装置40は、磁気センサ10を選定(選別)するためのセンサ選定プログラムを記憶している。コンピュータ装置40は、作業者によるセンサ選定プログラムの開始の指示により、図19のステップS40にてセンサ選定プログラムの実行を開始する。ただし、この場合の磁気センサ10も、個々の磁気センサ10である。
【0074】
このプログラムの実行開始後、コンピュータ装置40は、上記図16のステップS13,S14の処理とそれぞれ同様なステップS41,S42の処理により、外部磁界を印加してない状態の第1の静オフセット電圧Os1を取得する。次に、コンピュータ装置40は、前記ステップS41の場合と同じ所定温度(例えば、25℃の室温)Trtにおいて、上記図16のステップS15,S16の処理とそれぞれ同様なステップS43,S44の処理により、外部磁界を印加している状態の第2の静オフセット電圧(出力振幅中心値のオフセット電圧)Os2を取得する。なお、この場合も、前記所定温度Trtは、第1及び第2の静オフセットOs1,Os2の取得時の温度が同一であれば、常に同一の温度でなくてもよい。
【0075】
前記ステップS41〜S44の処理後、コンピュータ装置40は、ステップS45にて、第2の静オフセット電圧Os2から第1の静オフセット電圧Os1を減算して、減算結果(差電圧)Os2−Os1を表示器に表示する。次に、コンピュータ装置40は、ステップS46にて、前記減算結果の絶対値|Os2−Os1|が所定の選定値Osoよりも大きいかを判定する。この選定値Osoは、プログラム中に予め記憶された定数でもよいし、作業者がコンピュータ装置40に入力するようにしてもよい。そして、前記絶対値|Os2−Os1|が所定の選定値Osoよりも大きければ、コンピュータ装置40は、ステップS46にて「Yes」と判定して、ステップS47にてこの磁気センサのオフセット温度が大きいことを表示したり、この磁気センサを不採用することを表示したりして、ステップS48にてこのセンサ選定プログラムの実行を終了する。また、前記絶対値|Os2−Os1|が所定の選定値Oso以下であれば、コンピュータ装置40は、ステップS46にて「No」と判定して、ステップS48にてこのセンサ選定プログラムの実行を終了する。
【0076】
このようなセンサ選定プログラムによれば、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の差電圧Os2−Os1によって磁気センサ10が選定(選別)されることになる。これは、差電圧Os2−Os1の絶対値|Os2−Os1|が大きくなればなるほど、磁気センサ10の温度の変化に対する出力電圧のドリフト量(補正量)が大きくなる傾向にある。このことは、出力電圧の精度の悪化、出力電圧の補正の限界などをもたらす。したがって、前述のように、所定温度(例えば、室温)における第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定するだけで磁気センサ10の選定ができ、磁気センサ10の選定が簡単になる。なお、前記差電圧Os2−Os1に上記比例定数Aを乗算した値A・(Os2−Os1)は、上記数6からも理解できる通り、オフセット温度ドリフト係数Ktに等しいので、前記所定の選定値Osoをこの比例定数Aに反比例するように決定すれば、各磁気センサ10の出力電圧の温度による変化分を評価できる。また、磁気センサ10の選定においては、用途等により、差電圧Os2−Os1が正であるか負であるか、すなわち磁気センサ10の温度ドリフトの方向に応じて磁気センサ10を評価及び選定するようにしてもよい。
【0077】
なお、このような磁気センサの選定に関しては、磁気センサごとに実施する必要があり、例えば製造者が磁気センサを使用者に納品する前に行ったり、使用者がこの磁気センサの使用前に行ったりするとよい。また、上記実施形態において、ステップS46,S47の処理を省略して、表示器によるオフセット差電圧Os2−Os1の表示により、製造者又は使用者が磁気センサの選定(選別)を行ってもよい。また、逆にステップS45の処理を省略して、オフセット温度ドリフトが大きいこと(不採用)の表示器への表示のみにより、磁気センサの選定(選別)を行ってもよい。
【0078】
また、上記センサ選定プログラムでは、ステップS41〜S44の処理によって第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を取得して、ステップS45にて第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の差電圧Os2−Os1を計算するようにした。しかし、この場合も、前記差電圧Os2−Os1は、上記ステップS43で計算した出力振幅中心値と上記ステップS41で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutとの電圧差に等しい。したがって、第1及び第2のオフセット電圧Os1,Os2が必要でない場合には、上記ステップS42,S44の処理を省略して、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を計算することなく、上記ステップS43で計算した出力振幅中心値から上記ステップS41で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutを減算して差電圧Os2−Os1を取得してもよい。
【0079】
f.磁気センサの選定の変形例
次に、上記図19のセンサ選定プログラムに従った磁気センサの選定の変形例ついて説明する。この場合、コンピュータ装置40は、図20のセンサ選定プログラムを実行する。このセンサ選定プログラムのステップS51〜S55の処理は、上記図19のセンサ選定プログラムのステップS41〜S45の処理と同じである。ステップS51〜S55の処理後、コンピュータ装置40は、ステップS56にて、下記数8の演算の実行によってオフセット温度ドリフト係数Ktを計算する。なお、下記数8中の差電圧(Os2−Os1)はステップS55の演算結果であり、比例定数Aは、同一仕様の磁気センサに共通の値であって、上記図16の比例定数検出プログラムの処理によって得られるものである。
【0080】
【数8】

【0081】
次に、コンピュータ装置40は、ステップS57にて、前記計算したオフセット温度ドリフト係数Ktの絶対値|Kt|が所定の選定値Ktoよりも大きいかを判定する。この選定値Ktoも、プログラム中に予め記憶された定数でもよいし、作業者がコンピュータ装置40に入力するようにしてもよい。そして、前記絶対値|Kt|が所定の選定値Ktoよりも大きければ、コンピュータ装置40は、ステップS57にて「Yes」と判定して、ステップS55にてオフセット温度ドリフト係数Ktが大きいことを表示したり、この磁気センサを不採用することを表示したりして、ステップS59にてこのセンサ選定プログラムの実行を終了する。また、前記絶対値|Kt|が所定の選定値Kto以下であれば、コンピュータ装置40は、ステップS57にて「No」と判定して、ステップS59にてこのセンサ選定プログラムの実行を終了する。
【0082】
このようなセンサ選定プログラムによれば、オフセット温度ドリフト係数Ktによって磁気センサ10が選定(選別)されることになる。これは、オフセット温度ドリフト係数Ktの絶対値|Kt|が大きくなればなるほど、磁気センサ10の温度の変化に対する出力電圧のドリフト量(補正量)が大きくなる。このことは、出力電圧の精度の悪化、出力電圧の補正の限界などをもたらす。したがって、前述のように、所定温度(例えば、室温)における第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を測定するだけで磁気センサ10の選定ができ、磁気センサ10選定が簡単になる。
【0083】
なお、この場合も、ステップS56の処理によって計算したオフセット温度ドリフト係数Ktを表示器に表示して、作業者に磁気センサ10の選定を委ねるようにしてもよい。また、この場合も、磁気センサ10の選定においては、用途等により、オフセット温度ドリフト係数Ktが正であるか負であるか、すなわち磁気センサ10の温度ドリフトの方向に応じて磁気センサ10を評価するようにしてもよい。
【0084】
さらに、前記ステップS56で計算したオフセット温度ドリフト係数Ktに適当な温度(50度、100度など)を乗算して、温度変化による具体的なオフセット温度ドリフトの電圧値を表示したり、前記具体的な電圧値の大きさに応じて磁気センサを評価したりするようにしてもよい。
【0085】
また、上記図20のセンサ選定プログラムにおいても、ステップS51〜S54の処理によって第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を取得して、ステップS55にて第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2の差電圧Os2−Os1を計算するようにした。しかし、この場合も、差電圧Os2−Os1は、上記ステップS53で計算した出力振幅中心値と上記ステップS51で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutとの電圧差に等しい。したがって、オフセット電圧Os1,Os2が必要でない場合には、上記ステップS52,S54の処理を省略して、第1及び第2の静オフセット電圧Os1,Os2を計算することなく、上記ステップS53で計算した出力振幅中心値から上記ステップS51で磁気センサ10から入力した出力電圧Voutを減算して差電圧Os2−Os1を取得してもよい。
【0086】
g.フルブリッジ構成の磁気センサへの適用
上記d,eでは、ハーフブリッジ構成の磁気センサ10のオフセット温度ドリフトの補正及び磁気センサ10の選定について説明した。しかし、上述のように、フルブリッジ構成の磁気センサ30に関しても、磁気センサ10と同様な特性を有するとともに、上記数3が成立する。したがって、フルブリッジ構成の磁気センサ30に関しても、その出力電圧の補正及びその選定は上記「d.温度ドリフトの補正」及び「e.磁気センサの選定」と同様な装置及び方法により実行される。ただし、フルブリッジ構成の磁気センサ30は、上述のように、本来的には基準電圧0Vを中心に正弦波状に変化する電圧を出力するものであるので、オフセット電圧の計算においては、出力電圧Voutすなわち差動増幅器37の出力電圧をそのまま用いる。
【0087】
h.オフセット電圧取得の第1変形例
上記実施形態及び変形例においては、外部磁界が印加されていない状態で第1の静オフセット電圧Os1を取得するようにしたが、次のようの方法も採用できる。上記図5に示すように、外部磁界Hrと、磁気センサ10の磁気抵抗効果素子15(R1)と磁気抵抗効果素子16(R2)との機械的位置関係が明確になっている状態であれば、図7及び図8の波形図からも分かるように、外部磁界Hrの回転角が0度及び180度(π)であるとき、外部磁界Hrが印加されていない状態の静オフセット電圧Os1と一致する。すなわち、外部磁界Hrの回転角が0度及び180度(π)である状態は、ブリッジを構成する磁気抵抗効果素子15,16(磁気抵抗効果素子32,33と34,35)の抵抗値に影響を与える磁界の強さ、すなわち磁気抵抗効果素子15,16(磁気抵抗効果素子32,33と34,35)の延設方向に直角な方向の磁界の強さに差がない状態である。これにより、第1のオフセット電圧Os1を、外部磁界Hbの回転方向が0度及び180度(π)であるとき、すなわち外部磁界Hbの回転方向がバイアス磁界Hbと同一又は反対方向であるとき、磁気センサ10,30の出力電圧Voutを取得して、出力電圧Voutから電源電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算して第1の静オフセット電圧Os1を取得するようにしてもよい。
【0088】
i.オフセット電圧取得の第2変形例
前記「g.オフセット電圧取得の第1変形例」では、ブリッジを構成する磁気抵抗効果素子15,16(磁気抵抗効果素子32,33と34,35)の抵抗値に影響を与える磁界の強さに差がない状態である、すなわち外部磁界Hrの回転角が0度及び180度における出力電圧Voutからのオフセット電圧Os1を取得するようにした。しかし、これとは逆に、一方の磁気抵抗効果素子16(磁気抵抗効果素子33,35)の抵抗値をそれぞれ最大及び最小にする両角度45,225度における出力電圧Vout1,Vout2の中央値すなわち平均値(Vout1+Vout2)/2から印加電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算することにより、第1のオフセット電圧Os1を取得することも考えられる。また、同様に、他方の磁気抵抗効果素子15(磁気抵抗効果素子32,34)の抵抗値をそれぞれ最大及び最小にする両角度135,315度における出力電圧Vout1,Vout2の平均値(Vout1+Vout2)/2から印加電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算することにより、第1のオフセット電圧Os1を取得することも考えられる。これによれば、外部磁界Hrがブリッジを構成する磁気抵抗効果素子15,16(磁気抵抗効果素子32,33と34,35)のうちの一方の磁気抵抗効果素子にのみ関与して、同関与した磁気抵抗効果素子の抵抗値に与える影響が打ち消されることになる。したがって、前述のようにして、第1の静オフセット電圧Vs1を取得するようにしてもよい。
【0089】
この点に関しては、次の説明からも理解される。この場合、精度向上のために、2軸へルムホルツコイル50を用いた。2軸へルムホルツコイルは、図21に示すように、X軸方向の磁界を生成する一対のX軸コイル51,52と、Y軸方向の磁界を生成する一対のY軸コイル53,54とを備えている。そして、X軸コイル51,52に正弦波電流を流すとともに、Y軸コイル53,54に余弦波電流を流して、X軸方向とY軸方向にそれぞれ正弦波状及び余弦波状の平衡磁界を発生させる。これにより、X軸コイル51,52及びY軸コイル53,54で囲まれた空間内に図示矢印方向の回転磁界が生成され、この回転磁界内に図1〜3に示す磁気センサ10を配置した。
【0090】
この場合、回転磁界の強さを10mTとし、回転磁界の角度を磁気センサ10によるバイアス磁界Hbと同じ方向となるときを0度とした。磁気センサ10の出力電圧Voutをバッファアンプを介して出力させて、360度を2000個に分割した角度ごとに測定結果を得た。下記表5に、測定結果を抜粋して示している。また、この表5においては、前記出力電圧Voutと同一振幅の正弦波を基準正弦波として想定し、その瞬時を前記抜粋した角度ごとに示すとともに、出力電圧Voutから基準正弦波の瞬時値を減算した値も前記抜粋した角度ごとに示す。図22は前記出力電圧Vout、基準正弦波及び減算値の0度から360度にわたる変化を示し、図23は前記減算値の0度から360度にわたる変化を拡大して示している。
【0091】
【表5】

【0092】
図23から上述した第2の静オフセット電圧Os2と第1の静オフセット電圧Os1との差は、−αcos2θであることが確認できる。この場合、差Os2−Os1の正負の関係とαcos2θの正負の関係は逆になる。sinθとcos2θの関係を表した図24から理解できるように、外部磁界を印加してない状態の第1の静オフセット電圧Os1は、cos2θが「0」である45度と225度の瞬時値の平均値及びcos2θが「0」である135度と315度の瞬時値の平均値からそれぞれ求められる。したがって、これを第1の静オフセット電圧Os1として採用してもよい。
【0093】
なお、この第1の静オフセット電圧Os1に関しては、フルブリッジ構成の磁気センサ30にも適用される。すなわち、ハーフブリッジ構成の磁気センサ10も、フルブリッジ構成の磁気センサ30も、磁気抵抗効果素子の数こそ異なるが、磁気抵抗効果素子の延設方向に関しては同じであるので、フルブリッジ構成の磁気センサ30でも同様である。
【0094】
また、前記2軸へルムホルツコイル50を用いて、「g.オフセット電圧取得の第1変形例」の方法によって第1オフセット電圧Os1を取得するようにしてもよい。すなわち、2軸へルムホルツコイル50による外部磁界の回転角が0度又は180度である状態で、磁気センサ10,30の出力電圧Voutから印加電圧Vccの半分の電圧Vcc/2を減算することにより、第1の静オフセット電圧Os1を取得してもよい。また、この方法をフルブリッジ構成の磁気センサ30に適用する場合には、前記電圧Vcc/2の減算は上述のように不必要である。
【0095】
j.その他の変形例
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0096】
上記実施形態及び変形例では、永久磁石22を磁気センサ10,30に対して回転させるようにしたが、永久磁石を磁気センサ10,30に対して直線移動させるようにしてもよい。この場合、図25に示すように、磁気センサ10,30の側方にN極及びS極からな永久磁石61を位置させて、磁気センサ10,30の磁気抵抗効果素子15,16,32〜35が属する平面において、バイアス磁界の方向とは直角方向に永久磁石61を移動させるようにする。この永久磁石61の移動により、磁気センサ10,30の磁気抵抗効果素子15,16,32〜35が属する平面内にて、図26に矢印で示すような永久磁石61による回転磁界が発生することになる。したがって、この永久磁石10,30を直線移動させるような検出装置に適用される磁気センサにおいても、上記実施形態及び変形例に記載の内容は全て適用される。この場合、図25及び図26において、永久磁石61をバイアス磁界の方向と直角方向に移動させるようにしたが、このような永久磁石61を直線移動させる場合には、永久磁石61の移動方向とバイアス磁界の方向とを平行にしてもよい。
【0097】
また、上記実施形態及び変形例では、バイアス磁界Hbを印加する手段として永久磁石からなるバイアス磁石13を用いるようにした。しかし、これに代えて、磁性薄膜、薄膜コイルなどを用いてバイアス磁界Hbを発生させるようにしてもよい。
【0098】
さらに、上記実施形態及び変形例では、磁気抵抗効果素子15,16,32〜35として異方性磁気抵抗効果素子(AMR素子)を採用したが、これらの磁気抵抗効果素子15,16,32〜35として巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)を採用してもよい。
【符号の説明】
【0099】
15,16,32〜35…磁気抵抗効果素子、10,30…磁気センサ、13…バイアス磁石、14,31…シリコン基板、22,61…永久磁石、37…差動増幅器、40…コンピュータ装置、42…温度センサ、44…加熱及び冷却装置、50…ヘルムホルツコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
90度異なる方向に延設して直列に接続した少なくとも2つの磁気抵抗効果素子と、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両延設方向に挟まれた中央方向にバイアス磁界を印加するバイアス手段とを備え、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両端に直流電圧を印加した状態で、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の接続点から、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転する外部磁界に対して基準電圧を中心に正弦波状に変化する電圧を出力する磁気センサに適用され、前記磁気センサからの出力電圧を補正する磁気センサのための補正方法において、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサの出力電圧を取得する第1出力電圧取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧を取得するオフセット電圧取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第1出力振幅中心値取得手順と、
前記計算した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧と前記第1オフセット電圧との差を表すオフセット電圧差を、前記第1出力振幅中心値取得手順によって取得した出力振幅中心値から前記第1出力電圧取得手順によって取得した出力電圧を減算することにより、又は前記第1出力振幅中心値取得手順によって取得した出力振幅中心値から前記基準電圧及び前記第1オフセット電圧を減算することにより取得し、予め用意された比例定数をAとし、前記第1オフセット電圧をOs1とし、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)とし、前記第1出力電圧取得手順及び前記第1出力振幅中心値取得手順で前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの前記磁気センサの温度をTrtとし、かつ前記磁気センサの温度がTである条件下で、外部磁界の印加によって前記磁気センサから出力される出力電圧を、式Oa(T)=A・(Os2−Os1)・(T−Trt)+Os1によって規定される補正値Oa(T)で補正する補正手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサのための補正方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載した磁気センサのための補正方法において、前記第1出力電圧取得手順、前記オフセット電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順及び前記補正手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、
異なる2つの温度条件下で、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサからの出力電圧をそれぞれ入力して、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記入力した出力電圧をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順と、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順と、
前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順と、
前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサのための補正方法。
【請求項3】
前記請求項1に記載した磁気センサのための補正方法において、前記第1出力電圧取得手順、前記オフセット電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順及び前記補正手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、
異なる2つの温度条件下で、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対してそれぞれ回転させて前記磁気センサから出力電圧をそれぞれ入力し、前記異なる2つの温度条件下でそれぞれ入力した出力電圧の最大値と最小値との各中央値をそれぞれ出力振幅中心値として取得し、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記取得した出力振幅中心値をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順と、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順と、
前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順と、
前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサのための補正方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載した磁気センサのための補正方法において、
前記第1出力電圧取得手順は、外部磁界を前記磁気センサに印加しない状態で前記磁気センサから出力電圧を入力するようにした磁気センサのための補正方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載した磁気センサのための補正方法において、
前記第1出力電圧取得手順は、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の延設方向に挟まれた中央方向又はその反対方向に印加した状態で前記磁気センサから出力電圧を入力するようにした磁気センサのための補正方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載した磁気センサのための補正方法において、
前記第1出力電圧取得手順は、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子のいずれか一方の延設方向及びその反対方向に印加した状態で前記磁気センサから出力電圧をそれぞれ入力して、前記入力した出力電圧の中央値を、前記外部磁界が少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサの出力電圧として取得するようにした磁気センサのための補正方法。
【請求項7】
90度異なる方向に延設して直列に接続した少なくとも2つの磁気抵抗効果素子と、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両延設方向に挟まれた中央方向にバイアス磁界を印加するバイアス手段とを備え、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両端に直流電圧を印加した状態で、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の接続点から、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転する外部磁界に対して基準電圧を中心に正弦波状に変化する電圧を出力する磁気センサに適用され、選別のために前記磁気センサを評価する磁気センサの評価方法において、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサの出力電圧を取得する第1出力電圧取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第1出力振幅中心値取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧と、前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧との電圧差を、少なくとも前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧と前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値とを用いた計算によってオフセット電圧差として取得するオフセット電圧差取得手順と、
前記取得したオフセット電圧差を用いて前記磁気センサを評価する評価手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサの評価方法。
【請求項8】
90度異なる方向に延設して直列に接続した少なくとも2つの磁気抵抗効果素子と、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両延設方向に挟まれた中央方向にバイアス磁界を印加するバイアス手段とを備え、
前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の両端に直流電圧を印加した状態で、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の接続点から、前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転する外部磁界に対して基準電圧を中心に正弦波状に変化する電圧を出力する磁気センサに適用され、選別のために前記磁気センサを評価する磁気センサの評価方法において、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサの出力電圧を取得する第1出力電圧取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第1出力振幅中心値取得手順と、
前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧の前記基準電圧からのずれ量を表す第1オフセット電圧と、前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値の前記基準電圧からのずれ量を表す第2オフセット電圧との電圧差を、少なくとも前記第1出力電圧取得手順で取得した出力電圧と前記第1出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値とを用いた計算によってオフセット電圧差として取得し、予め用意されて同一種類の磁気センサに共通な比例定数をAとし、かつ前記取得したオフセット電圧差をOs2−Os1として、磁気センサの温度ドリフト係数Ktを、式Kt=A・(Os2−Os1)の演算により取得する温度ドリフト係数取得手順と、
前記取得した温度ドリフト係数Ktを用いて前記磁気センサを評価する評価手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサの評価方法。
【請求項9】
前記請求項8に記載した磁気センサの評価方法において、前記第1出力電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順、前記温度ドリフト係数計算手順及び前記評価手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、
異なる2つの温度条件下で、外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における前記磁気センサからの出力電圧をそれぞれ入力して、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記入力した出力電圧をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順と、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順と、
前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順と、
前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサの評価方法。
【請求項10】
前記請求項8に記載した磁気センサの評価方法において、前記第1出力電圧取得手順、前記第1出力振幅中心値取得手順、前記温度ドリフト係数計算手順及び前記評価手順とは独立していて、前記比例定数Aを用意するために、さらに、
異なる2つの温度条件下で、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対してそれぞれ回転させて前記磁気センサから出力電圧をそれぞれ入力し、前記異なる2つの温度条件下でそれぞれ入力した出力電圧の最大値と最小値との各中央値をそれぞれ出力振幅中心値として取得し、前記磁気センサからの出力電圧を入力したときの温度をそれぞれT1,T2とし、前記取得した出力振幅中心値をそれぞれV1,V2とし、かつ温度ドリフト係数をKtとしたとき、式Kt=(V2−V1)/(T2−T1)の演算の実行により、温度ドリフト係数Ktを計算する温度ドリフト係数計算手順と、
外部磁界が前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子の抵抗値変化に差を生じさせない状態における磁気センサからの出力電圧をそれぞれ取得する第2出力電圧取得手順と、
前記第2出力電圧取得手順で前記磁気センサから出力電圧を入力したときと同一温度において、外部磁界を前記少なくとも2つの磁気抵抗効果素子に対して回転させたときの前記磁気センサの出力電圧の最大値と最小値の中央値を計算して、前記計算した中央値を出力振幅中心値として取得する第2出力振幅中心値取得手順と、
前記第2出力振幅中心値取得手順で取得した出力振幅中心値と前記第2出力電圧取得手順で取得した出力電圧とを用いて、前記出力振幅中心値と前記出力電圧との電圧差をオフセット電圧差として取得し、前記取得したオフセット電圧差を(Os2−Os1)として、前記比例定数Aを、式A=Kt/(Os2−Os1)の演算の実行により計算する比例定数計算手順と
を設けたことを特徴とする磁気センサのための補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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