説明

磁気ディスク用ガラス基板及びその製造方法、並びに、磁気ディスク及びその製造方法

【課題】 磁気ディスク用ガラス基板の端面部分の良好な研磨を低廉なコストにより実現し、耐衝撃牲に優れ、例えば、外径が30mm以下のような小型化が可能であり、また、「LUL方式」のハードディスクドライブに搭載され得る磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供する。
【解決手段】 円柱状のガラス母材3をこのガラス母材3の中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材3の側面の研磨、または、鏡面加工を行い、ガラス母材3の側面の化学強化処理を行ってから、切断処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの情報記録装置における記録媒体となる磁気ディスクに使用される磁気ディスク用ガラス基板及びその製造方法に関する。
【0002】
また、本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの情報記録装置における記録媒体となる磁気ディスク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、情報化社会の高度化に伴って種々の情報処理装置が提案されており、これら情報処理装置において使用される情報記録装置としてハードディスクドライブ(HDD)が提案されている。このハードディスクドライブにおいては、情報処理装置の小型化、高性能化のために、情報記録容量の大容量化、記録密度の高密度化が求められるとともに、製造コストの低廉化も求められている。
【0004】
ハードディスクドライブにおいて、情報記録密度を高密度化するためには、いわゆるスペーシングロスを低減させる必要がある。すなわち、記録媒体となる磁気ディスクに対する記録再生を行なう磁気ヘッドの浮上量(グライド・ハイト)を少なくする必要がある。一方で、記録再生時には、磁気ディスクが高速回転するため、磁気ヘッドの浮上量を少なくすると、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面に接触し、破壊(クラッシュ)されてしまう虞れが大きくなる。磁気ヘッドの浮上量を少なくしながら、このような磁気ヘッドの破壊を防止するためには、磁気ディスク表面を、極めて平滑な面として仕上げておく必要がある。
【0005】
このような磁気ディスク表面の平滑性を実現するため、磁気ディスク用基板としては、従来より広く用いられていたアルミニウム基板に代えて、「2.5インチディスク」に代表されるように、ガラス基板が用いられるようになっている。ガラス基板は、アルミニウム基板に比較して、表面の平坦性及び基板強度において優れているからである。このようなガラス基板としては、化学強化により強度を向上させたガラス基板や、結晶化によって基板強度を向上させた結晶化ガラス基板などが挙げられる。
【0006】
一般に磁気ディスク用ガラス基板は、ガラス原料を加熱融解させて溶融ガラスを準備する工程、この溶融ガラスを板状のガラスディスクに成形する工程、及び、板状に成形されたガラスディスクを加工し研磨してガラス基板を作製する工程が順次実行されることにより作製される。 溶融ガラスを板状のガラスディスクに成形するにあたっては、プレス法、フロー卜法、フュージョン法等の成形方法が採用されている。プレス法を用いる場合には、溶融ガラスから直接的に板状のガラスディスクを成形する。フロート法、フュージョン法を用いる場合には、溶融ガラスを矩形状の枚ガラスに成形し、この板ガラスからガラスディスクを切り出す。これらのうち、現在、最も普及している方法は、プレス法によりガラスディスクを作製する方法である。このようにして作製されたガラスディスクの端面及び主表面を研磨し、化学強化等の強化処理を行って、磁気ディスク用ガラス基板が製造される。
【0007】
ところで、化学強化工程においては、300°Cを越える高温下での処理となるため、ガラスディスクの主表面に対する異物の付着が問題となる。このような問題を解決するため、特許文献1には、化学強化工程の後に、ガラスディスクの主表面を研磨するようにした磁気ディスク用ガラス基板が提案されている。また、特許文献2には、ガラスディスクの端面のみに化学強化剤を選択的に塗布して、化学強化処理を行うようにした磁気ディスク用ガラス基板が提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−134823号公報
【特許文献2】特開平9−27150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述のような高い情報記録面密度が実現可能となったガラス基板を用いたハードディスクドライブは、小型の磁気ディスクを用いたものでも十分な情報量を格納できるようになってきた。したがって、このようなハードディスクドライブは、いわゆる据置型のコンピュータ装置などに搭載されるもののみならず、いわゆる「カーナビゲーションシステム(Car Navigation System)」や「PDA(Personal Digital Assistance)」、「携帯電話」などのように、車載用、あるいは、携帯用といった筐体スペースの小さなモバイル機器の情報ストレージ用として使用されるものにも用途が広がっている。
【0010】
このような小型のハードディスクドライブに搭載される小型磁気ディスクのサイズとしては、例えば、外径が30mm以下、内径が10mm以下、ディスク厚が0.5mm以下となされており、代表的には、外径27.4mm、内径7mm、ディスク厚0.381mmの「1インチ型ディスク」や、外径22mm、内径6mm、ディスク厚0.381mmの「0.85インチ型ディスク」等が挙げられる。
【0011】
このような「モバイル用途」の小型ハードディスクドライブは、常に、落下、振動、急激な移動加速などによる撃力に曝される虞れがあるので、このようなハードディスクドライブにおける磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクは、従来の「2.5インチ型ディスク」(外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mm)等の相対的に大きな磁気ディスクに比較して、より高い耐衝撃性が要求されるに至っている。
【0012】
一方、最近のハードディスクドライブでは、「LUL(ロードアンロード)方式」により起動停止動作を行うものが提案されている。「LUL方式」のハードディスクドライブに搭載される磁気ディスクにおいては、従来の磁気ディスクに比較して、その表面はより平滑、かつ、清浄であることが求められる。すなわち、「LUL方式」のハードディスクドライブにおける磁気ヘッドの浮上量は、10nm、あるいは、それ以下とされ、従来の「CSS(コンタクトスタートストップ)方式」のハードディスクドライブに比較してクラッシュ障害を生じやすい。したがって、「LUL方式」のハードディスクドライブに用いる磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクの表面は、従来に比較して十分に清浄でなければならないのである。
【0013】
さらに、最近のハードディスクドライブにおいては、磁気ヘッドとして、磁気抵抗効果型素子や大型磁気抵抗効果型素子が搭載されたものが使用されるようになっている。このことによっても、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクの表面は、従来に比較して、より平滑、かつ、清浄であることが求められる。すなわち、磁気抵抗効果型素子や大型磁気抵抗効果型素子を搭載した磁気ヘッドは、磁気ディスク表面の平滑性や清浄度が不十分であると、サーマルアスペリティ障害を発生させる場合があるからである。したがって、磁気抵抗効果型素子によって情報が再生される磁気ディスクにおいては、従来の薄膜型素子により情報が再生される磁気ディスクに比較して、表面が十分に平滑、かつ、清浄でなければならないのである。
【0014】
このように磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクに求められる主表面の平滑性及び清浄度の向上を阻害する因子の一つが、前述したように、化学強化工程におけるガラスディスクの主表面に対する異物の付着である。
【0015】
ところが、特許文献1に記載された磁気ディスク用ガラス基板においては、化学強化処理された主面部を研磨することは困難であり、表面の平坦度を悪化させることがないように、研磨取り代を精密に管理する必要があり、磁気ディスク用ガラス基板の製造を困難としている。
【0016】
また、特許文献2に記載された磁気ディスク用ガラス基板においては、化学強化液が塗布された箇所が化学強化処理されるため、化学強化がなされる箇所を正確に規定することが困難であり、安定した品質の磁気ディスク用ガラス基板の製造が困難となる。
【0017】
携帯電話機用などの小型化されたハードディスクドライブについては、コストダウン及び大量生産の要望が強く、磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に供給する必要がある。しかし、これら特許文献1及び特許文献2に記載された磁気ディスク用ガラス基板においては、いずれも製造の困難化が招来されるため、耐衝撃性及び主表面の平滑性、清浄度を満足させつつ大量の製品を供給することは困難であり、品質のばらつきのない大量の磁気ディスクを安定して製造することが困難となる。
【0018】
なお、従来、小型化された磁気ディスク用ガラス基板の端面部分を研磨するにあたっては、多数の磁気ディスク用ガラス基板を同軸状に積層させて保持して、これら磁気ディスク用ガラス基板の外周側の各端面部分及び内周側の各端面部分を同時に加工することが行われている。しかし、多数の小型化された磁気ディスク用ガラス基板を積層させて保持することが煩雑であるとともに、多数の磁気ディスク用ガラス基板を積層させて保持したときにこれら磁気ディスク用ガラス基板の主表面に損傷を与えてしまう虞れがあることから、作業性及び製品歩留まりの一層の向上が望まれるところである。
【0019】
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、本発明の第1の目的は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、製造の困難化やコスト上昇を招来することなく、化学強化工程における主表面に対する異物の付着を確実に防止し、廉価な磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを大量に提供することにある。
【0020】
また、本発明の第2の目的は、耐衝撃牲に優れた磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することにある。
【0021】
また、本発明の第3の目的は、例えば、外径が30mm以下のような小型の磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することにある。
【0022】
さらに、本発明の第4の目的は、「LUL方式」のハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前述の課題を解決し、上記目的を達成するため、本発明は、以下の構成のいずれか一を備えるものである。
【0024】
〔構成1〕
円柱状のガラス母材をその中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、円柱状のガラス母材の側面(周面)を化学強化した後に、切断処理を行うことを特徴とするものである。
【0025】
〔構成2〕
円柱状のガラス母材をその中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、円柱状のガラス母材の側面を研磨した後に化学強化処理を行い、その後に、切断処理を行うことを特徴とするものである。
【0026】
〔構成3〕
円柱状のガラス母材をその中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、円柱状のガラス母材の側面を鏡面加工した後に化学強化処理を行い、その後に、切断処理を行うことを特徴とするものである。
【0027】
〔構成4〕
構成1乃至構成3のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材は、中心軸に沿って円孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0028】
〔構成5〕
構成1乃至構成4のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材の側面には、ガラスディスクの面取面となされる円環状の溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0029】
〔構成6〕
構成1乃至構成5のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、外径が30mm以下の小型の磁気ディスク用ガラス基板を製造することを特徴とするものである。
【0030】
〔構成7〕
構成1乃至構成6のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板であって、化学強化処理により側面の表層部分に圧縮応力層が形成されており、側面近傍の縦断面をバビネ補償板法を用いて観察することによって測定される圧縮応力層の厚さが10μm以上で、かつ、圧縮応力の値が3.5kg/mm以上であることを特徴とするものである。
【0031】
〔構成8〕
磁気ディスクの製造方法であって、構成1乃至構成6のいずれか一を有する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とするものである。
【0032】
〔構成9〕
磁気ディスクであって、構成7を有する磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、少なくとも磁性層が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、円柱状のガラス母材をその中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、円柱状のガラス母材の側面(周面)を化学強化した後に、切断処理を行うので、化学強化工程におけるガラスディスクの主表面に対する異物の付着が確実に防止される。
【0034】
また、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、ガラス母材の側面を研磨し化学強化した後に、切断処理を行うので、ガラスディスクの端面部分を一枚一枚研磨する方法に比較して、研磨加工の対象物が大きく、平滑な面を容易に得ることができる。特に、磁気ディスク用ガラス基板の小型化を図った場合、ガラスディスク一枚一枚の端面部分を研磨することは長大な時間を要し、コストダウンが困難であるが、本発明においては、研磨加工が容易であり、低廉なコストにより、大量の磁気ディスク用ガラス基板を提供することができる。
【0035】
そして、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板においては、ガラス母材の側面を鏡面加工し化学強化した後に、切断処理を行うので、ガラスディスクの端面部分を一枚一枚鏡面加工する方法に比較して、鏡面加工の対象物が大きく、平滑な鏡面を容易に得ることができる。特に、磁気ディスク用ガラス基板の小型化を図った場合、ガラスディスク一枚一枚の端面部分を鏡面加工することは長大な時間を要し、コストダウンが困難であるが、本発明においては、鏡面加工が容易であり、低廉なコストにより、大量の磁気ディスク用ガラス基板を提供することができる。
【0036】
さらに、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材は中心軸に沿って円孔が形成されているようにすれば、特に研磨加工が困難であるガラスディスクの内周側の端面部分に対して、容易に研磨加工、または、鏡面加工を施すことができる。
【0037】
また、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材の側面にガラスディスクの面取面となされる円環状の溝が形成されているようにすれば、特に研磨加工が困難であるガラスディスクの内外周の面取面に対して、容易に研磨加工、または、鏡面加工を施すことができる。
【0038】
したがって、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、外径が30mm以下の小型の磁気ディスク用ガラス基板を安定した品質で製造することができる。
【0039】
そして、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板においては、化学強化処理により側面の表層部分に圧縮応力層が形成されており、側面近傍の縦断面をバビネ補償板法を用いて観察することによって測定される圧縮応力層の厚さが10μm以上で、かつ、圧縮応力の値が3.5kg/mm以上となっていることにより、高い耐衝撃性を実現することができる。
【0040】
また、本発明に係る磁気ディスク及びその製造方法においては、前述の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板の主表面部に対し、少なくとも磁性層を形成するので、「LUL方式」のハードディスクドライブに搭載されてもサーマルアスペリティ障害を生ずることのない磁気ディスクを廉価に大量に供給することができる。
【0041】
すなわち、本発明は、製造の困難化やコスト上昇を招来することなく、化学強化工程における主表面に対する異物の付着を確実に防止し、廉価な磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを大量に提供することができるものである。
【0042】
また、本発明は、耐衝撃牲に優れた磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することができるものである。
【0043】
また、本発明は、例えば、外径が30mm以下のような小型の磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することができるものである。
【0044】
さらに、本発明は、「LUL方式」のハードディスクドライブに搭載される磁気ディスク用ガラス基板及び磁気ディスクを廉価に大量に提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0046】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)等に搭載される磁気ディスクのガラス基板として使用される磁気ディスク用ガラス基板を製造するものである。この磁気ディスクは、例えば、垂直磁気記録方式によって高密度の情報信号記録及び再生を行うことができる記録媒体である。
【0047】
この磁気ディスク用ガラス基板は、外径15mm乃至30mm、内径5mm乃至12mm、板厚0.2mm乃至0.5mmであり、例えば、「0.8インチ(inch)型磁気ディスク」(内径6mm、外径21.6mm、板厚0.381mm)、「1.0インチ型磁気ディスク」(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)などの所定の直径を有する磁気ディスクとして作製される。また、「2.5インチ型磁気ディスク」、「3.5インチ型磁気ディスク」など磁気ディスクとして作製されるものとしてもよい。なお、ここで、「内径」とは、ガラス基板の中心部の円孔の内径である。
【0048】
図1は、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造される磁気ディスク用ガラス基板の構成を示す斜視図である。
【0049】
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法は、図1に示すように、中心部に円孔1を有する磁気ディスク用ガラス基板2を製造する磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。この磁気ディスク用ガラス基板は、ガラスからなることにより、鏡面研磨によって優れた平滑性を実現することができ、硬度が高く、また、剛性が高いので、耐衝撃性に優れている。特に、携帯(持運び)用、あるいは、車載用の情報器機に搭載されるハードディスクドライブに使用される磁気ディスクには、高い耐衝撃性が要求されるので、このような磁気ディスクにおいてガラス基板を用いることには有用性が高い。
【0050】
ガラスは脆性材料であるが、化学強化や風冷強化などの強化処理、あるいは、結晶化の手段により、破壊強度を向上させることができる。このようなガラス基板の材料として好ましいガラスとしては、アルミノシリケートガラスを挙げることができる。アルミノシリケートガラスは、優れた平滑鏡面を実現することができるとともに、例えば、化学強化を行なうことによって、破壊強度を高めることができるからである。
【0051】
アルミノシリケートガラスとしては、SiO:62乃至75重量%、Al:5乃至15重量%、LiO:4乃至10重量%、NaO:4乃至12重量%、ZrO:5.5乃至15重量%を主成分として含有するとともに、NaOとZrOとの重量比が0.5乃至2.0、AlとZrOとの重量比が0.4乃至2.5である化学強化用ガラスが好ましい。
【0052】
また、このようなガラス基板において、ZrOの未溶解物が原因で生じるガラス基板表面の突起をなくすためには、SiOを57乃至74mol%、ZrOを0乃至2.8mol%、Alを3乃至15mol%、LiOを7乃至16mol%、NaOを4乃至14mol%含有する化学強化用ガラスを使用することが好ましい。このような組成のアルミノシリケートガラスは、化学強化することによって、抗折強度が増加し、圧縮応力層の深さも深く、ヌープ硬度にも優れている。
【0053】
また、本発明において製造する磁気ディスク用ガラス基板をなす材料は、前述したものに限定されるわけではない。すなわち、ガラスディスクの材質としては、前述したアルミノシリケートガラスの他に、例えば、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、チェーンシリケートガラス、または、結晶化ガラス等のガラスセラミックなどを挙げることができる。
【0054】
図2は、前記磁気ディスク用ガラス基板2の円孔1の内周側端面の形状を示す断面図である。
【0055】
本発明により製造される磁気ディスク用ガラス基板は、端面部分の両側の稜部が面取りされたものであることが好ましい。すなわち、この磁気ディスク用ガラス基板2の外周側端面部分及び円孔1の内周側端面部分は、図2に示すように、この内周側端面部分から両側の主平面に向けて、面取り部(C面)1b,1bが形成された状態となっており、また、この磁気ディスク用ガラス基板2の外周側端面部分は、この外周側端面部分から両側の主平面に向けて、面取り部(C面)が形成された状態となっている。
【0056】
この磁気ディスク用ガラス基板2の内周側端面部分において、面取り部1b,1bの間の部分は、磁気ディスク用ガラス基板2の主平面に対して垂直面からなる円筒状の側面(T面)1aとなっている。前述の円孔1の内径とは、この側面1aの内径のことである。また、この磁気ディスク用ガラス基板2の外周側端面部分において、面取り部の間の部分は、磁気ディスク用ガラス基板2の主平面に対して垂直面からなる円筒状の側面(T面)となっている。前述の磁気ディスク用ガラス基板の直径とは、この側面の直径のことである。この磁気ディスク用ガラス基板は、端面部分の稜部が面取りされていることにより、破壊強度が高まる。なお、本発明についての説明においては、側面と面取り面とを合わせて、端面部分と言うこととする。
【0057】
図3は、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の各工程を示す工程図である。
【0058】
以下、本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について、工程順に説明する。
【0059】
(1)円柱状のガラス母材を得る工程
本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法においては、図3に示すように、まず、円柱状のガラス母材3を用意する。このガラス母材3は、前述したように、アルミノシリケートガラスからなることが好ましい。このガラス母材3は、製造する磁気ディスク用ガラス基板2の直径よりもやや大きな直径を有し、この磁気ディスク用ガラス基板2が多数枚積層された状態における厚さに相当する長さを有している。
【0060】
(2)ガラス母材に中心孔を形成する工程
次に、このガラス母材3の中心軸にそって、所定の大きさの中心孔3aを形成する。この中心孔3aは、磁気ディスク用ガラス基板2における中心孔1となるものであり、この中心孔1の内径よりもやや小径の内径の孔として形成する。
【0061】
(3)ガラス母材の内外周の側面を研磨(鏡面加工)する工程
次に、ガラス母材3の内外周の側面(周面)を研磨し、鏡面加工する。この工程における研磨は、研磨剤を用いて、ブラシ等により行う。なお、この研磨工程に先だって、図4に示すように、ガラス母材3の内外周の側面に、磁気ディスク用ガラス基板となったときに内外周の面取面となるV字状の溝4を周方向に沿って円環状に設けておいてもよい。
【0062】
この工程において使用する研磨剤に含まれる研磨砥粒としては、ガラス母材3に対して研磨能力を奏する研磨砥粒であれば、特に制限なく使用することができる。例えば、酸化セリウム(CeO)砥粒、コロイダルシリカ砥粒、アルミナ砥粒、ダイヤモンド砥粒などを挙げることができ、特に、酸化セリウム研磨砥粒が好ましい。研磨砥粒の粒径については、適宜選択することができるが、例えば、0.5μm乃至3μm程度とすることが好ましい。また、研磨剤は、研磨砥粒を含む研磨剤に、水(純水)などの液体を加え、この研磨剤をスラリーとして用いることが好ましい。
【0063】
この研磨加工により、ガラス母材3の内外周側面の表面粗さは、Raで0.1μm以下、Rmaxで1μm以下の鏡面とされる。
【0064】
(4)化学強化工程
次に、前述の研磨工程を終えたガラス母材の側面(周面)に化学強化を施す。化学強化は、例えば、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を380°C程度に加熱し、300°Cに予熱された洗浄済みのガラス母材を所定時間浸漬して行う。
【0065】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス母材側面の表層のリチウムイオン、ナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス母材が強化される。
【0066】
(5)第1洗浄工程
化学強化処理を終えたガラスディスクを、40°C程度に加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行い、さらに、硫酸洗浄を終えたガラスディスクを、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄する。なお、各洗浄槽には、超音波を印加することが好ましい。
【0067】
(6)第2洗浄工程
第1洗浄工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄する。なお、各洗浄槽には、超音波を印加することが好ましい。
【0068】
(7)ガラス母材を切断処理(スライス)する工程
次に、ガラス母材3を、中心軸に対して垂直に切断処理することにより、磁気ディスク用ガラス基板の厚さよりもやや厚い厚さのガラスディスクを得る。このとき、1本のガラス母材3から、多数のガラスディスクが得られる。
【0069】
この工程におけるガラス母材3の切断処理は、例えば、マルチワイヤソーを用いることによって行うことができる。マルチワイヤソーは、複数個の多溝ローラを所定間隔で配置しこれら多溝ローラの各溝に無端ワイヤを多数巻き付けて走行させ、この無端ワイヤをガラス母材の側面に押し当てることにより、このガラス母材3を切断する装置である。
【0070】
(8)形状加工工程、ラッピング工程
この工程では、ガラス母材3を切断処理することにより得られたガラスディスクの形状を整えるとともに、主表面をラッピング加工する。ラッピング加工では、両面ラッピング装置とアルミナ砥粒を用いて加工を行い、ガラスディスクの寸法精度と形状精度を所定のものとする。
【0071】
なお、ガラス母材3に中心孔3aを設けず、この工程において、ガラスディスクに中心孔1を形成してもよい。また、ガラス母材3の側面にV字状の溝を設けず、この工程において、ガラスディスクの外周側端面部分及ぴ内周側端面部分に面取り加工を施すようにしてもよい。
【0072】
(9)第1研磨工程
次に、主表面研磨工程として、第1研磨工程を施す。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程で主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする。この工程は、両面研磨装置と硬質樹脂ポリッシャとを用い、遊星歯車機構を用いて行うことができる。研磨剤としては酸化セリウム砥粒を用いることが好ましい。
【0073】
(10)第2研磨工程
次に、主表面の鏡面研磨工程として、第2研磨工程を施す。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。この工程は、両面研磨装置と軟質発泡樹脂ポリッシャを用い、遊星歯車機構を用いて行うことができる。研磨剤としては、第1研磨工程で用いる酸化セリウム砥粒に比ぺて微細な酸化セリウム砥粒を用いることが好ましい。
【0074】
(11)第3洗浄工程
第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄する。なお、各洗浄槽には、超音波を印加することが好ましい。
【0075】
(12)磁気ディスクの製造工程
このようにして作製された磁気ディスク用ガラス基板を用いて、この磁気ディスク用ガラス基板の主表面部上に少なくとも磁性層を形成することにより、ヘッドクラッシュやサーマルアスペリティー障害の防止が図られた磁気ディスクを構成することができる。
【0076】
磁性層としては、高い異方性磁場(Hk)を備えるCo−Pt系合金磁性層が好ましい。また、磁気ディスク用ガラス基板と磁性層との間には、磁性層の結晶配向性やグレインの均一化、微細化を図る観点から、適宜下地層を形成するようにしてもよい。これら下地層及び磁性層の成膜方法としては、例えば、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0077】
また、磁性層上には、磁性層を保護するための保護層を設けることが好ましい。保護層の材料としては、炭素系保護層を挙げることができる。炭素系保護層としては水素化炭素、窒素化炭素を用いることができる。この保護層の形成には、プラズマCVD法、または、DCマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0078】
さらに、保護層上には、磁気ヘッドからの衝撃を緩和するための潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル系潤滑層を挙げることができる。特に、保護層との親和性に優れる水酸基を具備するアルコール変性パーフルオロポリエーテル潤滑層が好ましい。この潤滑層は、ディップ法を用いて形成することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0080】
〔実施例1〕
この実施例1においては、以下の工程を経て磁気ディスク用ガラス基板を製造した。
【0081】
(1)円柱状のガラス母材を得る工程
この実施例においては、アルミノシリケートガラスからなるガラス母材を用意した。
【0082】
このガラス母材の大きさは、直径が28.6mmであった。
【0083】
(2)ガラス母材に中心孔を形成する工程
次に、ガラス母材の中心軸に沿って、中心孔を形成した。この中心孔の内径は、5.9mmであった。
【0084】
(3)ガラス母材の内外周の側面を研磨(鏡面加工)する工程
ガラス母材の外周側側面(周面)について、研磨ブラシ研磨方法により鏡面研磨を行った。このとき、研磨砥粒としては酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。
【0085】
次に内周側側面(中心孔内)について、研磨ブラシ研磨方法により鏡面研磨を行った。ガラス母材の内周側側面の研磨においては、中心孔内に、研磨ブラシを挿入するとともに、ポンプにより、研磨剤を所定の圧力で圧送した。そして、研磨ブラシを回転させるとともに、ガラス母材を回転させた。研磨加工の所定時間が満了したならば、研磨ブラシの回転、ガラス母材の回転を停止させ、また、研磨剤の圧送を停止させた後、研磨ブラシをガラス母材の中心孔内より引抜いた。
【0086】
この工程における研磨剤としては、酸化セリウム砥粒を含むスラリー(遊離砥粒)を用いた。(研磨剤の粒径としては、0.5μm乃至5μmが使用できる。鏡面性という点で、0.5μm乃至2μm程度のものを用いた。)
その後、ガラス母材の側面の寸法測定を行ったところ、直径(外径)が27.4mm、中心孔の内径は、7mmであった。また、側面が鏡面状態であることを確認した。側面の表面粗さは、Raで0.01μm乃至0.02μm、Rmaxで0.3μm乃至0.4μmであることが確認された。
【0087】
(4)化学強化工程
次に、前述の研磨工程を終えたガラス母材の側面(周面)に化学強化を施した。化学強化は、硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)を混合した化学強化溶液を用意し、この化学強化溶液を380°Cに加熱し、300°Cに予熱された洗浄済みのガラス母材を所定時間浸漬して行った。ここで、化学強化条件については、処理温度を380°Cの一定温度とし、後述する〔表1〕に示すように、処理時間を0分乃至360分まで変化させた複数種類のサンプルを作製した。
【0088】
このように、化学強化溶液に浸漬処理することによって、ガラス母材の側面の表層のリチウムイオン、ナトリウムイオンが、化学強化溶液中のナトリウムイオン、カリウムイオンにそれぞれ置換され、ガラス母材が強化される。ガラス母材の側面の表層に形成された圧縮応力層の厚さは、後述する〔表1〕に示すように、処理時間が長いほど厚くなる。
【0089】
化学強化を終えたガラス母材を、20°Cの水槽に浸漬して急冷し、約10分間維持した。
【0090】
(5)第1洗浄工程
急冷を終えたガラスディスクを、約40°Cに加熱した濃硫酸に浸漬して洗浄を行った。さらに、硫酸洗浄を終えたガラスディスクを、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0091】
(6)第2洗浄工程
第1洗浄工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0092】
(7)ガラス母材を切断処理(スライス)する工程
次に、ガラス母材を、中心軸に対して垂直に切断処理することにより、磁気ディスク用ガラス基板の厚さよりもやや厚い厚さ0.6mmのガラスディスクを得た。このとき、1本のガラス母材3から、多数のガラスディスクが得られた。
【0093】
この工程におけるガラス母材3の切断処理は、マルチワイヤソーを用いることによって行った。
【0094】
なお、この切断処理によって、ガラスディスクの主面部の表面粗さが十分に良好な面粗度とできる場合には、後述するラッピング工程を省略することができる。この場合には、切断処理により、磁気ディスク用ガラス基板の厚さに近い厚さ0.45mmのガラスディスクを得るようにする。
【0095】
(8)ラッピング工程
ここで、切断処理によって得られたガラスディスクの内径は7.mm、外径は27.4mm、板厚は0.6mmであり、主表面部のラッピング加工及び研磨加工後に、「1.0インチ型」磁気ディスク用ガラス基板の所定寸法となるガラスディスクとなっている。また、主表面の平坦度は10μm以下であることを確認した。さらに、面取面の幅が0.21mm、面取面の主表面部に対する角度が45°であることを確認した。
【0096】
そして、このガラスディスクの主表面をラッピング加工した。ラッピング加工では両面ラッピング装置とアルミナ砥粒を用いて加工を行い、ガラス基板の寸法精度と形状精度を所定とする。得られたガラスディスクの内径は7mm、外径は27.4mm、板厚は0.45mmであり、主表面部の研磨加工後に、「1.0インチ型」磁気ディスク用ガラス基板の所定寸法となるガラスディスクであることを確認した。
【0097】
ガラスディスクの表面の面形状を観察したところ、主表面の平坦度は3μm以下であることを確認した。主表面の表面粗さはRmaxで2μm、Raで0.3μm程度であった。
【0098】
(9)第1研磨工程
次に、主表面研磨工程として、第1研磨工程を施した。この第1研磨工程は、前述のラッピング工程で主表面に残留したキズや歪みの除去を主たる目的とする。両面研磨装置と硬質樹脂ポリッシャとを用い、遊星歯車機構を用いて主表面研磨を行った。研磨剤としては酸化セリウム砥粒を用いた。
【0099】
(10)第2研磨工程
次に、主表面の鏡面研磨工程として、第2研磨工程を施した。この第2研磨工程は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。両面研磨装置と軟質発泡樹脂ポリッシャを用い、遊星歯車機構を用いて主表面の鏡面研磨を行った。研磨剤としては、第1研磨工程で用いた酸化セリウム砥粒に比ぺて微細な酸化セリウム砥粒を用いた。
【0100】
得られたガラスディスクの板厚は0.381mmであった。
【0101】
(11)第3洗浄工程
第2研磨工程を終えたガラス基板を、中性洗剤、中性洗剤、純水、純水、IPA(イソプロピルアルコール)、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、洗浄した。なお、各洗浄槽には超音波を印加した。
【0102】
(12)最終検査工程
前述の工程を経て得られた磁気ディスク用ガラス基板の内周側端面部分の表面粗さは、面取面(C面)、円筒面(T面)ともに、Rmaxで0.4μm、Raで0.02μmであった。
【0103】
外周側端面部分の表面粗さも、面取面(C面)、円筒面(T面)ともに、Rmaxで0.4μm、Raで0.02μmであった。各端面部分は、鏡面状に仕上がっていた。
【0104】
表面粗さの測定は、原子間力顕微鏡によって行い、数値の算出は、日本工業規格(JIS)B0601に拠った。また、鏡面状態の確認は、電子顕微鏡による観察、光学顕微鏡による観察の双方で行った。
【0105】
ここで、化学強化処理の条件が異なる複数のサンプルとして作製された磁気ディスク用ガラス基板(内径7mm、外径27.4mm、板厚0.381mm)について、圧縮応力層の厚さ、圧縮応力値、抗折強度、主表面の平坦度を観察した。この結果を〔表1〕に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
この観察を行うには、〔表1〕に示す各化学強化条件により得られた磁気ディスク用ガラス基板を、まず、外周側端面部分の円筒面(T面)及び主面部に対して垂直な切断面(基板断面)が現れるように、幅3mm程度の短冊状に切断し、次に、この短冊の両側の切断面同士間の距離が0.5mm程度になるように、切断面を研磨剤及び研磨パッドを用いて研削加工及び研磨加工する。そして、このようにして現れた磁気ディスク用ガラス基板の切断面を、バビネ補償板法を用いて測定する。
【0108】
磁気ディスク用ガラス基板の切断面をバビネ補償板法を用いて測定すると、図5に示すように、磁気ディスク用ガラス基板の端面部の近傍における断面の応力層プロファイルが得られる。図5において、Dで示す部分が圧縮応力層の厚さ、Pcは、圧縮応力値である。
【0109】
なお、バビネ補償板(Babinet compensator)とは、等しい角度を持った二つの相対した水晶楔(クサビ)を含む器具であり、一方の楔はマイクロメーターのネジによってその長さの方向に移動されるようになっている。これら二つの楔は、光学軸方向が互いに垂直となされ、かつ、移動可能な一方の楔の光学軸方向は、移動可能方向に沿っている。この器具は、結晶の位相差の遅れ(リターデーション)や複屈折の度合い、あるいは、内部応力のあるガラスの検査などに広く使用されているものである。
【0110】
また、〔表1〕に示す各化学強化条件により得られた磁気ディスク用ガラス基板について、エアブラウン社製「AVEX-SM-110-MP」を用いた「Dana衝撃試験法」を行った。この衝撃試験は、磁気ディスク用ガラス基板を専用の衝撃試験用冶具に組み付け、正弦半波パルスの衝撃を、1000G乃至5000Gまで主表面に対する垂直方向に順次与え、この磁気ディスク用ガラス基板の破損状況を見ることによって行った。
【0111】
外径が50mm以下、あるいは、30mm以下、板厚が0.5mm未満、あるいは、0.4mm以下の基板を用いた磁気ディスクを搭載した小型のハードディスクドライブ(HDD)の製品仕様としては、ハードディスクドライブ(HDD)の落下テストを行った場合に、2000Gの衝撃に耐えられることが要求されている。しかしながら、単板の衝撃試験にて2000Gの衝撃に耐える条件にて基板を作製し、この基板を用いた磁気ディスクを装着したハードディスクドライブ(HDD)の落下テスト(2000G)を行ったところ、数%程度の磁気ディスクに割れが発生することが判明した。これに対して、3000Gの衝撃に耐える条件で作製した基板を用いた磁気ディスクを装着したハードディスクドライブ(HDD)の落下テスト(2000G)を行ったところ、磁気ディスクに全く割れが発生しないことが確認された。
【0112】
そのため、ハードディスクドライブ(HDD)の完成体で2000Gの衝撃に耐えられるためには、磁気ディスク用ガラス基板の単板で3000Gの衝撃に耐えられることを要することが判明した。また、磁気ディスク用ガラス基板の単板で3000Gの衝撃に耐えられるためには、この磁気ディスク用ガラス基板の抗折強度が2.0(kgf)以上であることを要することが、本件出願人等による実験によって判明している。
【0113】
これを〔表1〕に示す結果に照合すると、外径が50mm以下、あるいは、30mm以下、板厚が0.5mm未満、あるいは、0.4mm以下の基板を用いた磁気ディスクを搭載した小型のハードディスクドライブ(HDD)の製品仕様である2000Gの耐衝撃性能を満たすためには、磁気ディスク用ガラス基板の端面部近傍における圧縮応力層の厚さは、10μm以上であることが好ましい。また、圧縮応力値は、3.5kg/mm以上であることが好ましい。
【0114】
なお、圧縮応力層の厚さを過度に大きくすると、応力緩和によって、端面部近傍における圧縮応力が低下する作用が生ずる場合があるので、圧縮応力層の厚さは、本発明の作用を減じない範囲で設定することが実用上好ましい。板厚0.5mm未満の薄型の磁気ディスク用ガラス基板においては、圧縮応力層の厚さが150μm以下であれば、端面部近傍における圧縮応力を減じる作用を抑制できる。さらに、圧縮応力値が20kg/mm以上であると、ガラスの応力過剰となり破損する恐れがあるので、実用上の観点から好ましくない。
【0115】
さらに、〔表1〕に示す各化学強化条件により得られた得られた磁気ディスク用ガラス基板について、主表面の平坦度の測定を行った。ここで、平坦度は、フェイズシフトテクノロジー(PHASE SHIFT TECHNOLOGY)社製の「OPTIFLAT(商品名)」により、200nmから27.4mmの波長のウネリのうち、最大値を算出したものである。
【0116】
〔表1〕に示す結果から分かるように、磁気ディスク用ガラス基板の端面部近傍の化学強化により、平坦度について悪化は起こっておらず、実用上好ましい3μm以下になっていることが確認された。
【0117】
〔実施例2〕
この実施例2では、前述の実施例1において作製された磁気ディスク用ガラス基板を用いて、以下の工程により、磁気ディスクを製造した。
【0118】
前述の磁気ディスク用ガラス基板の両主表面に、静止対向型のDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、Ni−Ta合金第1下地層、Ru第2下地層、Co−Cr−Pt−B合金磁性層、水素化炭素保護層を順次成膜した。次に、アルコール変性パーフロロポリエーテル潤滑層をディップ法で成膜した。このようにして、垂直磁気記録方式用の磁気ディスクを得た。
【0119】
得られた磁気ディスクについて、異物により磁性層等の膜に欠陥が発生していないことを確認した。また、グライドテストを実施したところ、ヒット(ヘッドが磁気ディスク表面の突起にかすること)やクラッシュ(ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突すること)は認められなかった。さらに、磁気抵抗型ヘッドで再生試験を行ったところ、サーマルアスペリティ障害による再生の誤動作は認められなかった。
【0120】
なお、以上の試験は1平方インチ当たりの情報記録密度が40ギガビット相当の磁気ディスク用の試験方法として行った。具体的には磁気ヘッドの浮上量は10nmとし、記録再生試験では情報線記録密度を700fciとした。
【0121】
すなわち、本発明による磁気ディスクにおいては、ガラス基板表面の異物による問題が回避できており、磁気抵抗型ヘッドにとって良好な磁気ディスクとして作製されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法によって製造される磁気ディスク用ガラス基板の構成を示す斜視図である。
【図2】前記磁気ディスク用ガラス基板の円孔の内周側端面の形状を示す断面図である。
【図3】本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の各工程を示す工程図である。
【図4】本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法において、ガラス母材の側面に設けられた溝の形状を示す断面図である。
【図5】本発明に係る磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板側面の断面の応力層プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1 円孔
2 磁気ディスク用ガラス基板
3 ガラス母材
3a 中心孔
D 圧縮応力層の厚さ
Pc 圧縮応力値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のガラス母材を、その中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記円柱状のガラス母材の側面を化学強化した後に、前記切断処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
円柱状のガラス母材を、その中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記円柱状のガラス母材の側面を研磨した後に化学強化処理を行い、その後に、前記切断処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
円柱状のガラス母材を、その中心軸に対して垂直に切断処理してガラスディスクを作製する工程を含む磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
前記円柱状のガラス母材の側面を鏡面加工した後に化学強化処理を行い、その後に、前記切断処理を行うことを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス母材は、中心軸に沿って円孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス母材の側面には、ガラスディスクの面取面となされる円環状の溝が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
外径が30mm以下の小型の磁気ディスク用ガラス基板を製造することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板であって、
前記化学強化処理により、側面の表層部分に圧縮応力層が形成されており、
前記側面近傍の縦断面をバビネ補償板法を用いて観察することによって測定される前記圧縮応力層の厚さが10μm以上で、かつ、圧縮応力の値が3.5kg/mm以上であることを特徴とする磁気ディスク用ガラス基板。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一に記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法により製造された磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、少なくとも磁性層を形成することを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、少なくとも磁性層が形成されていることを特徴とする磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−277798(P2006−277798A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92192(P2005−92192)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】