説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】渦電流による磁場不均一を低減し高精度な磁気共鳴スペクトル画像を得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を実現する。
【解決手段】非水抑圧計測(リファレンス計測)を実行することにより非水抑圧時のスペクトル情報を取得する(ステップ601)。ステップ601で得られたk空間の磁気共鳴信号)の時間変化特性(渦電流に起因)から、静磁場不均一の時間変化を算出する(ステップ602)。ステップ602で算出した「磁場不均一の時間変化」を打ち消すために必要な磁場調整量を算出する(ステップ603)。ステップ603で算出した「磁場調整量」に基づいた磁場調整を行いながら、水抑圧時の磁気共鳴信号を計測する(ステップ604)。最後にステップ604で得られた水抑圧時の磁気共鳴信号にフーリエ変換を施し、磁気共鳴スペクトル画像を算出する(ステップ605)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝に関連する様々な物質を分離し、画像化する磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置を用いた撮影方法として、現在広く普及している磁気共鳴イメージング(MRI)の他に、水素原子核を含む様々な分子の化学結合の違いによる共鳴周波数の差異(ケミカルシフト)を手掛かりに、分子毎に磁気共鳴信号を分離し画像化する方法(磁気共鳴スペクトロスコピックイメージング(MRSI))がある。
【0003】
このMRSIを用いることによって、人体内部の代謝物質の分布を無侵襲で画像化することができるが、通常、被検体内に含まれる代謝物質の濃度は非常に低い。これに対し、人体内部に含まれる水の濃度は非常に大きいため、通常の励起と検出を行う直前に、水信号の発生を抑圧する処理を加えて、不要な水信号を抑え必要な代謝物質の信号を検出できるようにしている(水抑圧計測)。
【0004】
また、ケミカルシフトの大きさもppmオーダーと非常に小さいため、MRSIにおいては、磁気共鳴周波数に影響を与える磁場均一性の調整が非常に重要となる。一般に、被検体が磁場均一性に与える影響はかなり大きいため、被検体を静磁場中に置いた状態で静磁場均一性を向上させる必要がある。そこで、互いに異なる3方向の傾斜磁場の各オフセット値および各シムコイルに流す電流量を変化させ、各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルの発生する磁場を静磁場に重畳させることにより磁場均一度を調整する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
この方法では、被検体内の磁場分布が均一となるように、リファレンス画像から得られた各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルの電流-磁場分布特性の組み合わせ(各コイルに流す電流値)を算出する。ここで用いられるリファレンス画像およびターゲット画像としては、一般にMRIの位相分布画像が利用される。通常、この位相分布画像を測定する際には、「スピンエコータイムとグラジエントエコータイムをΔtだけずらした変形型スピンエコー法」が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、変形型スピンエコー法で信号計測を行う際の静磁場分布と、MRSI計測シーケンスで信号計測を行う際の静磁場分布とは、必ずしも一致しない。何故なら、傾斜磁場を印加した際には、磁石内のボア内面や被検体表面等に大きな渦電流が発生し、この渦電流が引き起こす磁場の大きさや時定数(磁場の大きさの経時変化)は、傾斜磁場の印加強度や印加時間および信号検出時刻に依存して変化するため、シーケンス形状が異なると渦電流が引き起こす磁場不均一の度合いが異なることとなるからである。
【0007】
特に、変形型スピンエコー法の信号検出時間は通常数ミリ秒〜十数ミリ秒程度と短く、他方、MRSI計測シーケンスの信号検出時間は数十ミリ秒〜1秒程度と長いため、時定数の長い渦電流を上記シミングで補正することは非常に困難となる。
【0008】
そこで、MRSI計測においては、測定精度向上のため、この渦電流によって引き起こされる計測信号の歪み補正をデータ後処理として行っている。なお、渦電流の影響を打ち消すために、傾斜磁場波形を整形する位相補償回路やアクティブシールド付きの傾斜磁場、および傾斜磁場軸間のクロストーク成分を打ち消す渦電流補正機能が用いられる。
【0009】
上記クロストーク成分を打ち消す渦電流補正機能の一例として、特許文献2に記載された技術がある。この公知技術では、スペクトル計測信号を用いて傾斜磁場の時間変化を測定しているが、特定のシーケンスを用いて測定した磁場変化特性は、軸間のクロストーク補償を行うための補正用テーブルとして保存され、他の通常シーケンスで各傾斜磁場を出力する際に、補正用テーブルが参照され補正された傾斜磁場波形が算出される。
【0010】
次に、データ後処理を用いた渦電流補正法についての説明を行う(例えば、非特許文献2参照等に記載されている)。この方法では、初めに、リファレンス画像の計測において、渦電流によって生じている磁場不均一を高精度に検出するため、水信号を抑圧しないで励起・検出を行った画像データを用いる(MRSIにおける非水抑圧計測)。
【0011】
次に、代謝物質のスペクトルを得るために水抑圧計測を行う。そして得られた非水抑圧計測データを対象に、各空間点のスペクトル毎に、渦電流が水信号ピークに与えている影響を最小とする補正関数を導出しておく。最後に、水抑圧計測データに対して、同一空間点毎に、前記導出した補正関数を適用することによって、各代謝物質の信号ピークに対して、渦電流の影響を低減することが可能となる。
【0012】
【特許文献1】特公平05−056140号公報
【特許文献2】特開平08−089494号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ マグネティック レゾナンス(Journal of Magnetic Resonance)第77巻、第40-52頁(1988年)
【非特許文献2】マグネティック レゾナンス イン メディスン(Magnetic Resonance in Medicine)第14巻、第26-30頁(1990年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術における根本的な問題として、渦電流によって生じる磁場不均一が残存する状況下で水抑圧計測を行った場合、水信号抑圧率の低下やSNRの低下を招くこととなるため、当然、計測後にデータ補正を行うよりも、計測前に計測シーケンスに伴って生じる渦電流の影響をより低減させておくことが望ましい。
【0014】
しかしながら、従来技術における渦電流補正機能では、磁石ボア内面の渦電流を完全に打ち消すことは困難である。また、被検体表面の渦電流には効果が無く、必要十分な低減効果が得られているとは言い難い。
【0015】
また、データ後処理を用いた渦電流補正法において、リファレンス画像を取得するために行う非水抑圧計測を、本計測である水抑圧計測と同一の計測条件で行った場合、リファレンス計測時間を含めた総計測時間が2倍となってしまい、臨床診断に適用するには長すぎる計測時間となる。
【0016】
このリファレンス計測に要する時間を短縮する方法としては、計測の繰り返し回数を減らす手法が最も有効な方法として提案されているが、計測回数の減少に伴って得られる情報も減少するため(微細な空間情報が失われる)、実際の渦電流補正効果も低下してしまう。
【0017】
本発明の目的は、渦電流による磁場不均一を低減し、高精度な磁気共鳴スペクトル画像を得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成される。
【0019】
磁気共鳴イメージング装置において、水からの核磁気共鳴信号を抑圧することなく計測された核磁気共鳴信号を用いて静磁場不均一の時間変化が算出され、算出された静磁場不均一の時間変化を打ち消すための静磁場調整量が算出され、算出された静磁場調整量を用いて静磁場調整手段が制御される。
【発明の効果】
【0020】
水からの核磁気共鳴信号を抑圧して計測する本計測では、静磁場不均一が低減された状態で行なわれるため、データ後処理を必要とする事無く、高精度な画像を取得することができる。
【0021】
つまり、渦電流による磁場不均一を低減し、高精度な磁気共鳴スペクトル画像を得ることが可能な磁気共鳴イメージング装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1の(a)〜(c)は、それぞれ、本発明が適用されるMRI装置の外観図である。図1の(a)はソレノイドコイルで静磁場を発生するトンネル型磁石を用いた水平磁場方式のMRSI装置であり、図1の(b)は開放感を高めるために磁石を上下に分離したハンバーガー型(オープン型)の垂直磁場方式のMRI装置である。
【0024】
また、図1の(c)は、図1の(a)に示した装置と同様に、トンネル型のMRI装置であるが、磁石の奥行を短くし且つ斜めに傾けることによって、開放感を高めてたMRI装置である。なお、本発明は、これらMRSI装置を含むその他の構造のMRI装置に適用することができる。
【0025】
図2は、本発明が適用されるMRI装置の概略構成ブロック図である。このMRI装置は、被検体1が置かれる空間に、静磁場を発生する静磁場コイル2と、互いに直交する3方向の傾斜磁場を与えるための傾斜磁場コイル3と、被検体1に対し高周波磁場を照射する送信用高周波コイル5と、被検体1から発生する磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル6とを備えている。なお、静磁場均一度を調整できるシムコイル4を備えている場合もある。
【0026】
静磁場コイル2は、図1に示した装置の構造に応じて、種々の形態のものが採用される。傾斜磁場コイル3及びシムコイル4は、それぞれ傾斜磁場用電源部12及びシム用電源部13により駆動される。送信コイル5が照射する高周波磁場は、送信機7により生成され、静磁場中に置かれた被検体1に印加される。
【0027】
図2に示した例では、送信コイル5と受信コイル6が別個に設けられた構成を示しているが、送信用と受信用を兼用する一つの高周波コイルのみを用いる構成もある。
【0028】
受信コイル6が検出した磁気共鳴信号は、受信機8を通して計算機9に送られる。計算機9は、予め登録されているプログラム、または、ユーザからの指示に従って、磁気共鳴信号に対して様々な演算処理を行ないスペクトル情報や画像情報を生成する。本発明の実施形態におけるMRI装置では、受信コイル6が検出した磁気共鳴信号の演算を計算機9が行う。計算機9には、ディスプレイ10、記憶装置11、シーケンス制御装置14、入力装置15などが接続されており、上述した生成したスペクトル情報や画像情報をディスプレイ10に表示したり記憶装置11に記録したりする。入力装置15は、測定条件や演算処理に必要な条件などを入力するためのもので、これら測定条件等も必要に応じて記憶装置11に記録される。
【0029】
シーケンス制御装置14は、予め登録されているプログラム、または、ユーザからの指示に従って、傾斜磁場発生コイル3の駆動用電源部12、シムコイル4の駆動用電源部13、送信機7及び受信機9を制御する。制御のタイムチャート(パルスシーケンス)は撮影方法によって予め設定されており、記憶装置11に格納されている。本発明の実施形態におけるMRI装置では、シーケンス制御装置14は、水からの核磁気共鳴信号を抑圧しないでMRI計測(非水抑圧計測)を行うパルスシーケンスと、水からの核磁気共鳴信号を抑圧してMRSI計測(水抑圧計測)を行うパルスシーケンスとを備え、これら2種のパルスシーケンスを組み合わせて実行する。これらパルスシーケンスとしては公知のパルスシーケンスを採用できる。その一例を図3および図4に示す。
【0030】
図3は、MRSIパルスシーケンスの一例を示す図である。本発明の一実施形態では、このパルスシーケンスは非水抑圧計測および水抑圧計測の両方で実行される。また、図4は、水抑圧計測の前に実行されるプリパルスシーケンスの一例を示す図である。
【0031】
図3に示したMRSIパルスシーケンスに従って、シーケンス制御装置14は、以下の制御を行う。まず初めに、第1スラブ(X軸に垂直な面状領域)選択用の第1の傾斜磁場(X軸方向の傾斜磁場)Gs1と90°パルスと呼ばれる第1の高周波磁場RF1を同時に印加し、第1スラブ内の核磁化を励起状態にする。ここで、TEをエコー時間、TRを繰返し時間とする。
【0032】
次に、高周波磁場RF1の照射からTE/4経過後に、第2スラブ(Y軸に垂直な面状領域)選択用の第2の傾斜磁場(Y軸方向の傾斜磁場)Gs2と180°パルスと呼ばれる第2の高周波磁場RF2を同時に印加し、RF1によって励起されていた第1スラブ内の核磁化のうち、第2スラブにも含まれる核磁化を180°反転する。
【0033】
さらに、RF2の照射からTE/2経過後に、第3スラブ(Z軸に垂直な面状領域)選択用の第3の傾斜磁場(Z軸方向の傾斜磁場)Gs3と180°パルスと呼ばれる第3の高周波磁場RF3を同時に印加し、RF2によって反転された第1スラブと第2スラブの交差領域内にある核磁化のうち、第3スラブにも含まれる核磁化を再度180°反転する。
【0034】
上記の3組の高周波磁場及び傾斜磁場の印加により、RF3の照射からTE/4経過後の時点をエコ−タイムとする磁気共鳴信号Sig1が発生する。発生した磁気共鳴信号Sig1は、所定のサンプリング間隔でj点分計測される。
【0035】
そして、3次元の空間情報を付与することのできる位相エンコード用の傾斜磁場Gp1、Gp2およびGp3の印加強度を段階的に変化させて、上記Sig1の計測を繰り返し行う。この時間軸方向の信号変化を有する磁気共鳴信号Sig1には、上述したケミカルシフトの情報が含まれているため、後述する通り、時間軸方向のフーリエ変換を施すことにより、磁気共鳴スペクトル信号を得ることができる。
【0036】
なお、傾斜磁場Gs1の印加の直後に印加されるGs1’は、Gs1に対するリフェイズ(位相戻し)用の傾斜磁場である。また、RF2の印加の前後で印加されるGd1とGd1’、Gd2とGd2’及びGd3とGd3’は、RF1の照射により励起された核磁化の位相は乱さず、RF2の照射により励起された核磁化をディフェイズ(位相乱し)するための傾斜磁場である。さらに、RF3の印加の前後で印加されるGd4とGd4’、Gd5とGd5’及びGd6とGd6’は、RF1の照射により励起された核磁化の位相は乱さず、RF3の照射によって励起された核磁化をディフェイズ(位相乱し)するための傾斜磁場である。
【0037】
上述した図3のパルスシーケンスを実行することにより、上記の3つのスラブが交差する領域(励起領域:R1)に含まれる核磁化のみを選択的に励起することが出来る。そして、上記位相エンコード用傾斜磁場Gp1、Gp2およびGp3の印加強度を、Gp1はa段階、Gp2はb段階およびGp3はc段階、それぞれ変化させて励起と計測を繰り返してa×b×c個の磁気共鳴信号を検出し、k空間(実空間とフーリエ変換を通じて関係付けられる空間)と呼ばれる計測空間(kx、ky、kz)を埋める一連のデータを計測する。
【0038】
なお、kxはk空間のx軸成分を意味し、aはkx軸方向の計測番号を表すA以下の整数を意味する。同様に、kyおよびkzはそれぞれk空間のy軸およびz軸成分を表し、bおよびcはそれぞれky軸およびkz方向の計測番号を表すBおよびC以下の整数を意味する。なお、2次元k空間の場合はA、B、Cのいずれか1つが1で他の2つは2以上の整数、3次元k空間の場合はA、B、Cのいずれもが2以上の整数となる。
【0039】
次に、得られたa×b×c個の磁気共鳴信号に対して、各k空間軸(kx、ky、kz)方向にk空間成分と実空間成分を変換する逆フーリエ空間を施し、更に、時間軸方向に時間成分と周波数成分を変換するフーリエ変換を施し、a×b×c個の各空間点から発生した磁気共鳴スペクトルを得ることが出来る。
【0040】
一方、水抑圧計測を行う場合、シーケンス制御装置14は、図3のMRSIシーケンスに従った励起・検出を行う直前に、図4に示す水信号を抑圧するためのプリパルスシーケンスに従った制御を行う。即ち、水抑圧計測では、図4に示すパルスシーケンスと図3に示すMRSIシーケンスとを一組とするパルスシーケンスが実行される。
【0041】
図4に示すプリパルスシーケンスでは、まず初めに、水分子にのみ含まれている核磁化を励起させるために、送信周波数Ftを水の共鳴周波数Fwに設定し、且つ励起周波数帯域ΔFtを水ピーク幅ΔFw程度に設定した高周波磁場(水励起用高周波磁場)RFw1の照射を行う(水核磁化の選択励起)。
【0042】
次に、励起状態にある水の核磁化の位相をバラバラにして、水の核磁化のベクトル和をゼロとするために、ディフェイズ用傾斜磁場Gdw1の印加を行う(水核磁化の疑似飽和)。更に、水信号の抑圧効果を増すために、水励起用高周波磁場RFw1及びディフェイズ用傾斜磁場Gdw1と同様の高周波磁場及びディフェイズ用傾斜磁場の印加を複数回繰り返して行う。なお、図4は、3回繰り返すシーケンスの一例を示すが、繰り返し回数はこれに限られない。また、特に区別する必要がない場合は、以下、高周波磁場をRFw、ディフェイズ用傾斜磁場をGdw1で代表する。
【0043】
高周波磁場RFwには、狭帯域の励起周波数特性を有するガウス波形が用いられる場合が多い。図4に示す例は、ディフェイズ用傾斜磁場としてGx、Gy、Gzのうちいずれか1軸の傾斜磁場を印加する例である。しかし、Gx、Gy、Gzの3軸全ての傾斜磁場を同時に印加しても良いし、いずれか2軸を同時に印加しても構わない。そして、この水磁化の疑似飽和状態が続いている間に、図3に示したMRSIシーケンスを行い、微弱な代謝物質の信号を測定する。通常、水励起用高周波磁場RFwのフリップ角は90°前後に設定する場合が多いが、ディフェイズ用傾斜磁場Gdwについては、印加軸数や印加強度として様々な組合せや数値を用いることができる。
【0044】
なお、図4に示すプリパルスシーケンスの全ての水励起用高周波磁場RFwのフリップ角を0°に設定して実行した後、続けて、図3のMRSIシーケンスを実行することにより、非水抑圧計測を行うこともできる。このようにした場合、非水抑圧計測時のディフェイズ用傾斜磁場Gdwにより引き起こされる渦電流の影響を水抑圧計測時と同様にすることができる。
【0045】
即ち、非水抑圧計測も水抑圧計測も共に図4に示すプリパルスシーケンスを図3のMRSIシーケンスの前に行うよう構成し、図4に示す全ての水励起用高周波磁場RFwのフリップ角を0°と90°との間で切り替えることによって、非水抑圧計測と水抑圧計測とを切り替えることができる。
【0046】
また、生体内から検出できる代謝物質の信号は、非常に微弱である場合が多いため、得られるスペクトルのSNRを向上させることを目的に、同一条件での計測(位相エンコード用傾斜磁場を変化させない計測)を複数回繰り返し行ない、得られた信号を足し合わせる処理を行う場合もある(積算処理)。
【0047】
次に、本発明の実施形態によるMRSIにおける渦電流補正法について説明する。なお、リファレンス計測とは、予め模擬試料を測定対象として、各傾斜磁場コイル及び各シムコイルの電流―磁場分布特性を示すリファレンス画像を計測することをいう。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態における計測手順の概要を示す図である。図5において、まず初めに、上述した非水抑圧計測(リファレンス計測)を実行することにより、2次元k空間もしくは3次元k空間(kx(a)、ky(b)、kz(c))の非水抑圧時のスペクトル情報を取得する(ステップ601)。なお、ここで、aはkx軸方向の計測番号を表すA以下の整数、bはky軸方向の計測番号を表すB以下の整数、cはkz軸方向の計測番号を表すC以下の整数、2次元の場合はA、B、Cのいずれか1つが1で他の2つは2以上の整数、3次元の場合はA、B、Cのいずれもが2以上の整数である。
【0049】
次に、ステップ601で得られたk空間の磁気共鳴信号Sw1(kx(a)、ky(b)、kz(c))(t(j))の時間変化特性から、静磁場不均一の時間変化を算出する(ステップ602)。なお、後述する通り、この静磁場不均一の時間変化は、渦電流に起因するものと推測される。ここで、jは時間軸(t軸)方向のデータ番号を表すJ以下の整数である。
【0050】
さらに、ステップ602で算出した「磁場不均一の時間変化」を打ち消すために必要な磁場調整量を算出する(ステップ603)。そして、ステップ603で算出した「磁場調整量」に基づいた磁場調整を行いながら、水抑圧時の磁気共鳴信号を計測する(ステップ604)。
【0051】
最後に、ステップ604で得られた水抑圧時の磁気共鳴信号にフーリエ変換を施し、磁気共鳴スペクトル画像を算出する(ステップ605)。
【0052】
次に、図5のステップ601の「非水抑圧計測」で得られるデータ例を用いて、具体的な処理内容の説明を行う。図6は、ステップ601の「非水抑圧計測」についての説明を分かりやすくするため、3次元実空間の計測例ではなく、2次元実空間での計測データ例を示している。なお、2次元実空間を計測する場合には、図3のMRSIシーケンスにおいて、位相エンコード用傾斜磁場Gp1の印加強度を、ゼロ固定(変化なし)とすれば良い。また、図6に示すリファレンス計測(非水抑圧計測)においては、水抑圧の有無を除く他の計測条件を、本計測(水抑圧計測)と同一としている。
【0053】
図6の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の各画像は、それぞれ異なる計測時刻における2次元k空間の絶対値データを表しており、縦軸がky軸、横軸がkx軸、各画素輝度の輝度が信号強度を表している。
【0054】
図6の(g)は全画素分の絶対値データを積分して得られる時系列データを表しており、縦軸が信号強度、横軸が時間経過を表している。図6の(g)に示される通り、計測される時系列信号の絶対値強度は時間の経過とともに減衰しており、その減衰速度は緩和定数で表される。図6の(a)は、静磁場不均一がキャンセルされるスピンエコー時刻における2次元k空間の絶対値データを示しており、ゼロ位相エンコード点(図3の位相エンコード用傾斜磁場Gp1およびGp2の印加強度をゼロとした場合)を意味する画像の中心に、最大信号を有する画素(星印)が位置している。
【0055】
図6の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の各画像を較べると、最大信号を有する画素(星印)が、時間の経過に伴って画像の上方に移動していく様子が確認できる(図6の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)では、移動の様子を確認しやすくするために、各画像内の同一位置に「8画素×8画素の大きさを有する四角形」を重畳させている)。
【0056】
これらの画像の経時変化は、時間の経過とともに静磁場不均一が蓄積している状態を表しており、静磁場不均一が理想的にゼロであった場合には、(緩和による信号強度変化を除き)、最大信号を有する画素は画像の中心位置から移動せず、図示したような経時変化は生じない。例えば、図6の(a)と(b)の最大信号を有する画素(星印)の位置を較べると、ky軸方向に約1画素分ずれていることが分かる。
【0057】
これは、図6の(a)の計測時刻Taから図6の(b)の計測時刻Tbまの時間間隔Tabに、「ky軸方向の位相エンコード磁場Gp3の1ステップ分に相当する磁場不均一成分」が生じていたことを意味しており、これらの画像の経時変化が静磁場不均一を反映していることを示している。
【0058】
更に、図6の(a)と(d)との最大信号を有する画素(星印)の位置を較べると、ky軸方向に約2画素分ずれていることから、図7の(b)の計測時刻Tbから図6の(d)の計測時刻Tdまでの時間間隔Tbdに、更に、「ky軸方向の位相エンコード磁場Gp3の1ステップ分に相当する磁場不均一成分」が生じていたことが分かる。
【0059】
一方、時間間隔Tbdは、時間間隔Tabの2倍相当の期間であることから、「ky軸方向の磁場不均一成分」が時間的に減衰したことが分かる。従って、これらの画像の経時変化が静磁場不均一の時間変化も反映していることとなり、このような静磁場不均一の時間変化は渦電流に起因するものと推測される。
【0060】
上述した通り、2次元k空間の絶対値データの時間変化を観測することによって、渦電流に起因する磁場不均一量を定量的に見積もることができるため、この渦電流に起因する磁場不均一を打ち消すために必要な磁場調整量を算出することが可能となる。
【0061】
以下に、上記の計測例における「Y軸方向の渦電流に起因する磁場不均一を打ち消すために必要な磁場調整量」の具体的な算出例を示す。
【0062】
まず、「ky軸方向の位相エンコード磁場Gp3の1ステップ分」の傾斜磁場印加量Gp3s(時間積分値)は、撮影条件から、次式(1)で定まる。
【0063】
Gp3s=2π/(γ・Fy) ―――(1)
ここで、γは水素原子核の磁気回転比、FyはY軸方向の視野を表している。上述の通り、Tabの時間間隔で、「ky軸方向の位相エンコード磁場1ステップ分に相当する磁場不均一成分」が生じていたことから、傾斜磁場強度(Gp3s/Tab)を有するY軸方向の傾斜磁場をTabの期間だけ印加することによって、磁場不均一を打ち消すことが可能となる。
【0064】
同様にして、上述の通り、時間間隔Tbdで、「ky軸方向の位相エンコード磁場Gp3の1ステップ分に相当する磁場不均一成分」が生じていたことから、傾斜磁場強度(Gp3s/Tbd)を有するY軸方向の傾斜磁場をTbdの期間だけ印加することによって、磁場不均一を打ち消すことが可能となる。ここで、Tbd=Tab×2であることから、時間間隔Tbdで印加するY軸方向の傾斜磁場強度は、時間間隔Tabで印加する傾斜磁場強度の半分の強度で良いことになる。
【0065】
なお、上記の算出例では、磁場不均一を算出する際の積分時間として、時間間隔Tabを基本単位とした場合の算出例について述べたが、この基本単位は、磁気共鳴信号のサンプリング間隔まで狭めることが可能であり、より詳細な磁場調整を行うことも可能である。
【0066】
磁場調整量を算出する際には、上述のように計測条件と信号変化量から見積もった磁場不均一量およびその時間変化と、設計時に設定している「各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルの電流変化量」対「発生磁場分布の経時変化」特性から、計算によって求めても構わないが、下記の手順に従って、実測データを参考に決定しても良い。
【0067】
図7は、実測データを参考にして磁場の補正手順(磁場調整量の設定)を示す。図7のステップ801に示すように、まず、リファレンス画像計測に先立って、「傾斜磁場コイルおよびシムコイルの電流変化量」対「発生磁場分布の経時変化」特性の計測を、各傾斜磁場コイル毎および各シムコイル毎に行っておく。空間分布や経時変化を計測する際の空間分解能や時間分解能は、リファレンス画像計測の計測条件と合致させておくことが望ましいが、後処理(データの内挿や外挿)によって調整することも可能である。なお、一般的に、高次シムコイルが発生する磁場分布の経時変化速度は、低次シムコイルもしくは傾斜磁場コイルが発生する磁場分布の経時変化速度に較べ遅い場合が多いため、経時変化の計測は低次シムコイルもしくは傾斜磁場コイルのみに限定しても構わない。
【0068】
次に、図7のステップ802に示すように、ステップ801で計測した「各斜磁場コイルおよび各シムコイルの電流変化量」対「発生磁場分布の経時変化」特性の計測結果を保存しておく。そして、上述したリファレンス画像計測を行った後、磁場不均一の時間変化を算出する(ステップ803)。さらに、図7のステップ804に示すように、磁場不均一の時間変化と、保存しておいた「各斜磁場コイルおよび各シムコイルの電流変化量」対「発生磁場分布の経時変化」特性の計測結果から、「各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルに流すべき電流変化量」を算出する。
【0069】
必要に応じて、算出した「各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルに流すべき電流変化量」を保存しておき(ステップ805)、水抑圧計測(本計測)を行う前および水抑圧計測(本計測)を行っている最中に、「各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルに流す電流変化量」の設定(制御)を行う(ステップ806)。
【0070】
なお、図7のステップ804において、「各傾斜磁場コイルおよび各シムコイルに流すべき電流変化量」を算出する際には、各時刻毎に、計測された磁場不均一の分布と、「各斜磁場コイルおよび各シムコイルが発生可能な(変化速度も考慮した)磁場」を合成した合成磁場分布の差分が最小となるように、各電流値を決定すれば良い。
【0071】
また、図5、図7に示した静磁場不均一の時間変化の算出、磁場調整量の算出等は、計算機9により行なわれる。
以上、本発明を適用したMRI装置の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず種々の変更や応用が可能である。例えば、上記例では、リファレンス画像として、2次元k空間の絶対値データを用いた場合の例について説明を行ったが、以下に説明するように、2次元実空間の位相値データをリファレンス画像として用いても良い。
【0072】
図8の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の各画像は、それぞれ異なる計測時刻における2次元実空間の位相値データを表しており、縦軸がY軸、横軸がX軸、各画素輝度の輝度が位相値を表している。
【0073】
また、図8の(g)は図6の(g)と同じく、全画素分の絶対値データを積分して得られる時系列データを表しており、縦軸が信号強度、横軸が時間経過を表している。
【0074】
図8の(a)は、スピンエコー時刻における2次元実空間の位相値データを示しており、ほぼ一様な位相分布を有している。図8の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)の各画像を較べると、時間の経過に伴って、右上部から左下部に向けた斜線状の縞模様の明暗間隔が狭まっていく様子が確認できる。なお、図8の(a)〜(f)では、位相分布変動の様子を確認しやすくするために、各画像内の同一位置に「9画素×9画素の大きさを有する四角形」を重畳させている。また、図8の(a)〜(f)における明暗の縞は、位相の不連続性に起因するエリアジングによって生じているものであるため、「背景技術」で述べたMRIの位相分布画像を用いたシミング方法等で一般に用いられているエリアジング除去技術を用いることによって、不連続性を解消することが出来る。
【0075】
図8の(a)〜(f)の画像の経時変化は、図6に示した2次元k空間の絶対値データの経時変化と同様に、時間の経過とともに静磁場不均一が蓄積している状態および静磁場不均一の時間変化を表しており、これらの画像を上記例で説明したリファレンス画像として用いることも出来る。
【0076】
また、上記例では、リファレンス画像として、2次元k空間の絶対値データおよび2次元実空間の位相値データを用いた場合の例について説明を行ったが、3次元k空間の絶対値データもしくは3次元実空間の位相値データを用いることにより、3次元空間における渦電流の影響を低減することが可能となる。
【0077】
また、上記例では、リファレンス計測(非水抑圧計測)の計測条件を、本計測(水抑圧計測)と同一(水抑圧の有無を除く)としている場合について述べたが、下記のように計測条件の一部を変更することにより、リファレンス計測に要する計測時間を短くすることが可能となる。
【0078】
例えば、図3に示したMRSIパルスシーケンスにおいて、位相エンコード用傾斜磁場Gp1、Gp2およびGp3の印加強度変化のステップ数をそれぞれ半分に減らした場合、計測時間を1/8(=1/2×1/2×1/2)に短縮できる。例えば、図6に示した例では、各画像内の同一位置に重畳させている「8画素×8画素の大きさを有する四角形」内のデータのみを計測することになる。
【0079】
また、上記図7に示した例では、印加強度変化のステップ数を減らした場合、実空間上の空間分解能が劣化することになるが、以下に説明するゼロフィリングと呼ばれる手法を用いて、見かけ上の空間分解能を向上させることが出来る。
【0080】
ゼロフィリングの具体的な処理手順について、図9を参照して簡単に説明する。例えば、本計測(水抑圧計測)時の位相エンコード数が16×16(2次元空間)であった場合、リファレンス計測(非水抑圧計測)において、位相エンコードステップを変えずに位相エンコード数を8×8(2次元空間)に減じることにより、リファレンス画像計測に要する時間を1/4(=1/2×1/2)に短縮することができる。しかしながら、再構成処理を経て得られる画像の画素サイズは4倍(=2×2)となってしまう。
【0081】
ここで、図9の(a)に示す、計測した8×8のデータ(8×8の時系列信号)を、図9の(b)に示す16×16のマトリクスの中央に配置し、周囲のデータ欠損部分にゼロデータを詰めた後、各位相エンコード軸方向に逆フーリエ変換を施すことにより、画素サイズを、位相エンコード数が16×16の場合と同一にすることが可能となる。これがゼロフィリング処理である。
【0082】
なお、このようなゼロフィリング処理を行った場合、再構成処理を経て得られる画像の見かけ上の画素サイズは小さくなるものの、本来、空間分解能を高めるために必要な高周波成分が欠損しているため、実際にフルサイズ(16×16)の計測を行った再構成画像に比べ、空間情報のぼやけた画像しか得られない。つまり、見かけ上の空間分解能が向上するだけで、実際の空間分解能が改善する訳ではない。
【0083】
なお、ゼロフィリング処理に関して、計測データを再構成マトリクスに配置する際に、計測データの真のゼロエンコード点(空間分布上で最大信号強度を有する点)を検出して中心を合わせる処理や、計測データに空間分布上のハミング関数等を乗算することにより計測中心のデータが最大信号強度を有するように補正を行う等の処理をしてもよい。
【0084】
また、リファレンス計測に要する時間を短縮する別の方法として、計測の繰り返し時間を短くする方法がある。例えば、リファレンス計測時の繰り返し時間を本計測時の半分に減じた場合、計測時間を1/2に短縮できる。しかし、単純に繰り返し時間を短くすると、縦緩和時間の影響で核磁化の初期状態に変化が生じ、正しい位相情報が得られなくなる場合がある。このような場合は、非水抑圧計測で用いる励起用高周波磁場のフリップ角を水抑圧計測のフリップ角より小さく設定する。こうすることによって、繰り返し時間を短くしても、縦緩和時間の影響を減じることができる。
【0085】
また、エコー時間(図3におけるTE)もしくは信号検出時間(図3における信号Sig1の計測時間)が長いため、繰り返し時間を単純に短くできない場合がある。このような場合には、非水抑圧計測で用いるエコー時間(TE)を水抑圧計測のエコー時間(TE)より短く設定する。すなわち、非水抑圧計測時の被検体から発生する磁気共鳴信号の検出開始時刻を水抑圧計測時より早める。こうして、繰り返し時間を短くすることが可能となる。
【0086】
また、非水抑圧計測で用いる信号検出時間を水抑圧計測の信号検出時間より短く設定し、繰り返し時間を短くすることもできる。
【0087】
また、上記例では、図3に示す領域選択スピンエコー型のパルスシーケンスを用いてMRSI計測を行う場合を例にあげて記述したが、パルスシーケンスはこれに限られない。MRSI計測が可能なパルスシーケンスならば、全て同様の効果を得ることができる。例えば、3D−CSIや4D−CSIと呼ばれる領域選択を行わない計測シーケンスや、EPSIと呼ばれる振動傾斜磁場を用いた高速MRSIシーケンス等を用いた場合においても、同等の効果が得られる。
【0088】
なお、本発明の実施形態の渦電流補正方法は、上記「従来技術」で述べた変形型スピンエコー法を用いた静磁場均一度補正を行った後に、続けて実施しても良いが、本発明による渦電流補正方法は、経時変化の無い静磁場均一度の補正効果も有するため、上記「従来技術」で述べた変形型スピンエコー法を用いた静磁場均一度補正を行わずに、本発明による渦電流補正方法のみを実施しても良い。
【0089】
以上のように、本発明によれば、非水抑圧計測において、渦電流による静磁場不均一の時間変化を算出し、算出した静磁場不均一の時間変化を打ち消すために必要な磁場調整量を算出する。そして、算出した磁場調整量に従って、磁場を調整しながら、本計測(水抑圧計測)を行なっている。
【0090】
従って、静磁場不均一が低減された状態で本計測が行なわれるため、静磁場不均一が十分低減されていない状態で本計測を行なう従来技術に比較して、高精度な画像を取得することができる。
【0091】
また、従来技術において、データ後処理により渦電流による静磁場不均一補正を行なう場合、十分な補正を行なうために、リファレンス計測を本計測と同一の計測条件で行なう必要があり総計測時間が長くなる。これに対して、本発明では、リファレンス計測が本計測より短時間であっても、データ後処理を行なう必要なく、高精度のデータの取得が可能であり、総計測時間を短縮することができる。
【0092】
次に、上述した本発明の、従来技術に比較した効果について説明する。なお、渦電流補正の結果を得るために、図1の(a)に示す型の静磁場強度1.5テスラの磁気共鳴撮影装置を用い、図6および図3に示したパルスシーケンスを実行し、MRSI計測を行った。このとき、対象核種はプロトン、測定対象物はN−アセチルアラニン(NAA)水溶液ファントムとした。
【0093】
まず、上記「背景技術」の欄で述べた変形型スピンエコー法を用いた静磁場均一度補正のみを行った場合(上述した渦電流補正を行わなかった場合)に計測したMRSIデータを図10に示す。ここで、図10は、選択励起ボクセル内の積分スペクトルを示しており、計測には8分32秒を要した(エンコード数=16×16、繰り返し時間=2秒)。
【0094】
次に、図10に示したデータに、「背景技術」の欄で述べた「データ後処理を用いた渦電流補正法」を施した補正結果を、図11に示す。図11のスペクトルのピーク幅(右から3番目のピークの半値幅=4.9Hz)と、図10のスペクトルのピーク幅(同8.8Hz)を較べると、「データ後処理を用いた渦電流補正法」の効果により、ピーク幅が狭くなっていることが分かる(歪が補正されている)。
【0095】
なお、補正用のリファレンスデータの計測に8分32秒を要しているため(エンコード数=16×16、繰り返し時間=2秒)、全計測時間は17分4秒となる。
【0096】
本発明の実施形態の渦電流補正を行った後に計測したMRSIデータについて図12に示す。図12に示したスペクトルのピーク幅(同3.9Hz)と、図10に示したスペクトルのピーク幅(同8.8Hz)を較べると、本発明の渦電流補正の効果により、ピーク幅が狭くなっていることが分かる。
【0097】
また、図12に示したスペクトルのピーク幅と、図11に示したスペクトルのピーク幅を較べた場合、ほぼ同等のピーク幅になっていることが分かる。つまり、本発明によれば、データ後処理を行なう事無く、データ後処理を行なったと同等の補正効果が得られる。
【0098】
ここで、図10に示した例においては、全計測時間が17分4秒であるが、本発明においては、補正用のリファレンスデータの計測は、2分8秒を要しているため(エンコード数=8×8、繰り返し時間=2秒)、全計測時間は10分40秒となっている。
【0099】
したがって、従来技術によるデータ後処理を行なう事無く、高精度の画像を短時間で取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明が適用される磁気共鳴イメージング装置の外観図である。
【図2】本発明の一実施形態である磁気共鳴撮影装置の概略構成ブロック図である。
【図3】MRSI計測シーケンスの一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における水信号抑圧用プリパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の計測手順の概要を示すフローチャートである。
【図6】非水抑圧計測で得られるデータ例(2次元k空間の絶対値データ)を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における実測データを参考にする場合の補正手順を示すフローチャートである。
【図8】非水抑圧計測で得られるデータ例(2次元実空間の位相値データ)を示す図である。
【図9】ゼロフィリング処理を説明するための図である。
【図10】渦電流補正を行わなかった場合に計測したMRSIデータ例を示す図である。
【図11】図10に示すデータに「データ後処理を用いた渦電流補正」を施した補正結果を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態による渦電流補正を行った後に計測したMRSIデータを示す図である。
【符号の説明】
【0101】
1・・・被検体、2・・・静磁場コイル、3・・・傾斜磁場コイル、4・・・シムコイル、5・・・送信用高周波コイル、6・・・受信用高周波コイル、7・・・送信機、8・・・受信機、9・・・計算機、10・・・ディスプレイ、11・・・記憶装置、12・・・傾斜磁場用電源部、13・・・シム用電源部、14・・・シーケンス制御装置、15・・・入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場発生手段と、傾斜磁場発生手段と、高周波磁場発生手段と、静磁場の空間均一度を調整する静磁場調整手段と、被検体から発生する磁気共鳴信号を検出する磁気共鳴信号検出手段と、傾斜磁場発生手段、高周波磁場発生手段、静磁場調整手段及び磁気共鳴信号検出手段を制御して水からの核磁気共鳴信号を抑圧して核磁気共鳴スペクトル画像を計測する制御手段とを有する磁気共鳴イメージング装置において、
上記制御手段は、水からの核磁気共鳴信号を抑圧することなく計測された核磁気共鳴信号を用いて静磁場不均一の時間変化を算出し、算出した静磁場不均一の時間変化を打ち消すための静磁場調整量を算出し、算出した静磁場調整量を用いて上記静磁場調整手段を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記制御手段は、上記非水抑圧磁気共鳴信号の絶対値データの分布の経時変化量を算出し、算出した上記経時変化量に従って渦電流によって生じている磁場不均一を低減させるための静磁場調整量を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記制御手段は、上記非水抑圧磁気共鳴信号の実空間における位相値データの分布の経時変化量を算出し、算出した上記経時変化量に従って渦電流によって生じている磁場不均一を低減させるための静磁場調整量を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、上記制御手段は、上記静磁場不均一の時間変化算出に先立って、上記傾斜磁場発生手段及び静磁場調整手段の電流変化量と発生磁場分布の経時変化特性を算出し、算出した上記電流変化量及び発生磁場分布の経時変化特性と、上記静磁場不均一の時間変化とに基づいて、静磁場不均一の時間変化を打ち消すための静磁場調整量を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、水からの核磁気共鳴信号を抑圧することなく実行する計測は、水からの核磁気共鳴信号を抑圧して実行する計測に対して、位相エンコード数を少なくして、ゼロデータを追加することにより、画素サイズを上記水からの核磁気共鳴信号を抑圧して実行する計測と同一の画素サイズとすることを磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−95491(P2009−95491A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270518(P2007−270518)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】