説明

磁気式トルク伝達装置

【課題】駆動軸の回転に被駆動軸の回転が追随できない際も、確実に駆動軸から被駆動軸への伝達トルクを小さくでき、被駆動軸が、自然に回転トルクを伝達する状態に復帰することを防止し、軸心方向に前進・後退し、大きな振動が発生することのない磁気式トルク伝達装置を提供すること。
【解決手段】被駆動軸に固着されたバックベース142に配置された2つのバックベース側スペーサ138を介して固定された少なくとも1枚の板バネ134と、板バネ134のバックペース142と反対側に2つの被駆動円盤側スペーサを介して固定された被駆動円盤130と、過負荷時に駆動円盤160の回転に被駆動円盤130が追随できなくなることで生じる磁気的反発力によって板バネ134の付勢に抗して後退した被駆動円盤130のヨーク132を保持するラッチ機構141が、バックベース上の板バネ134と干渉しない位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動軸と被駆動軸の間で磁力によりトルクを伝達する磁気式トルク伝達装置に関し、さらに詳しくは、過負荷になった際に、駆動軸と被駆動軸の磁気的結合を速やかに遮断する磁気式トルクリミッタを備えた磁気式トルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、モータで昇降装置、搬送用コンベヤ、シュレッダー等を駆動する場合、例えば、昇降装置や搬送コンベヤにおいては、積載した荷物が重すぎて過大な負荷がモータに掛かって、過大電流がモータに流れることによって、モータが焼損したり、あるいは、シュレッダーにおいては、細断する書類の中に混入しているステープラーの針などを噛み込んで、シュレッダーの刃が欠けたり、過大電流がモータに流れることによって、モータが焼損するというトラブルが懸念されている。
【0003】
このような問題を解決するものとして、図18に示したように、駆動軸1に固設された駆動円盤3と被駆動軸2に固設された被駆動円盤4を有し、両円盤3、4には、図19に示したように、異極、すなわちN極、S極の永久磁石5、6が、円周方向に交互に固定されている磁気式トルク伝達装置10が知られている。なお、図19は、図18で軸心X−Xに対して垂直な仮想面、すなわち、XIX−XIX線で切断したときに被駆動側から駆動側を見た時の駆動円盤3を示した図である。
【0004】
この磁気式トルク伝達装置10によれば、最大伝達トルクを越えて滑り状態となっても、駆動軸1と被駆動軸2が、磁力によって空隙を介して接合されており、機械的に接触していないので摩擦熱が生じない。したがって、大きな負荷が被駆動軸2側に生じた場合であってもモータに過大な負荷が掛からない(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−168222号公報(特に、第3頁第6段落〜同第7段落、第5頁第13段落、図1、図2を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、図18及び図19の記載から分かるように、特許文献1に開示された磁気式トルク伝達装置10では、駆動円盤3と被駆動円盤4の間で対向する永久磁石5のS極及び永久磁石6のN極による異極間の磁気的吸引力及び隣接する同極間の磁気的反発力により、駆動円盤3の回転に追従回転していた被駆動円盤4は、最大伝達トルクを越えると、駆動円盤3に追従できなくなり、いわゆる脱調状態となる。この脱調状態では、回転方向に周期的に磁気的吸引力と磁気的反発力が働くため、それに応じて被駆動軸2には、X−X線で示した軸心方向に前進・後退し、大きな振動が発生し、その結果、磨耗粉が発生するため、クリーン環境での使用に不向きであった。
【0006】
また、特許文献1に開示された磁気式トルク伝達装置10では、負荷が最大伝達トルクを越えた状態から、負荷が減少して上述した最大伝達トルク未満になると、駆動軸1側から被駆動軸2側に回転トルクを伝達する状態に復帰する場合がある。また、脱調状態では、被駆動軸2が駆動軸1の回転に追随できないので、周期的に被駆動軸2側に最大伝達トルクまでの正負のトルクが伝達され、不安定な動作が継続されることになる。また、装置の寸法精度やガタ等を原因として動力伝達時に駆動円盤3と被駆動円盤4とが磁気的吸引力によって直接接触してしまうことも懸念されていた。
【0007】
さらに、トルクを調整する際には、図19に記載した駆動円盤3に固設した永久磁石5のN極、S極の取付直径R及び図示はされていないが、被駆動円盤4に固設された永久磁石6のN極、S極の取付直径Rを小さくしたり大きくしたりする必要があり、それを実現するためには、非常に複雑な機構が必要になっていた。
【0008】
そこで、本発明の第1の目的は、駆動軸の回転に被駆動軸の回転が追随できない、いわゆる脱調状態になった場合に、確実に駆動軸から被駆動軸への伝達トルクを小さくすることができ、被駆動軸が、自然に回転トルクを伝達する状態に復帰することを防止し、軸心方向に前進・後退し、大きな振動が発生することがなく、磨耗粉の発生が抑制された磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、簡単な構成で最大伝達トルクを可変することができる磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
【0010】
さらに、本発明の第3の目的は、駆動円盤側の永久磁石と被駆動円盤側の永久磁石とが直接接触しない磁気式トルク伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、請求項1に係る磁気式トルク伝達装置は、駆動軸に螺設され、円周方向にN極、S極の磁極を所定のピッチで交互に配置した駆動円盤と、被駆動軸に軸承され、円周方向にN極、S極の磁極を前記所定のピッチで交互に配置した被駆動円盤を所定の空隙を介して前記磁極同士が対向するように配置し、対向する前記磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して前記駆動軸の回転トルクを前記被駆動軸に伝達する磁気式トルク伝達装置であって、前記被駆動軸に固着されたバックベースと、前記バックベースに配置された2つのバックベース側スペーサを介して固定された少なくとも1つの板バネと、前記板バネの前記バックベースと反対側に2つの被駆動円盤側スペーサを介して固定された前記被駆動円盤と、過負荷時に前記駆動円盤の回転に前記被駆動円盤が追随できなくなることで生じる磁気的反発力によって前記板バネの付勢に抗して後退した前記被駆動円盤のヨークを保持するラッチ機構が、前記バックベース上の前記板バネと干渉しない位置に配置されていることによって、上記の第1の目的を達成するものである。
【0012】
なお、駆動円盤の回転に被駆動円盤が追随できなくなることで生じる磁気的反発力とは、詳述すると次のように説明することができる。静止状態にある場合、駆動円盤側に配置されたN極、S極の磁極と、被駆動円盤側に配置されたS極、N極の磁極とが、ちょうど異極同士(N極とS極)が対向することによって、磁気的吸引力が最大になると共に、駆動軸側から被駆動軸側への回転トルクの伝達は、ゼロになっている。駆動軸が回転し出すと対向していたN極とS極にずれが生じるが、磁気的吸引力によりN極とS極のずれを戻す力が働き、また、N極とS極のずれと同様に、同極同士が近づくため、磁気的反発力によりずれを戻す力が働く。このときの力がトルクとなり、駆動軸から被駆動軸に回転トルクが伝達される。そして、駆動軸側のN極とS極のちょうど中心に被駆動軸側のN極(あるいはS極)がくると、磁気的吸引力と磁気的反発力が釣り合い状態になり、この時、最も大きいトルクが発生する。ところが、過負荷状態になると、対向していたN極とS極のずれがさらに大きくなり、同極同士(N極とN極、S極とS極)が対向することとなり、反発し、その次にN極とS極が対向することにより吸引し、さらに、その次にN極とN極が対向することにより反発するというように、磁気的反発力と磁気的吸引力とが繰り返し発生する、いわゆる脱調状態になる。
【0013】
本発明では、過負荷状態になって、直後に発生する磁気的反発力によって、被駆動円盤とバックベースの間にバックベース側スペーサ及び被駆動円盤側スペーサを介して設けられた板バネの撓みを利用して駆動円盤と被駆動円盤を引き離し、次に発生する磁気的吸引力によって再び結合しないようにラッチ用磁石と被駆動円盤のヨークとが吸着することによって、撓んだ板バネの戻りを阻止し、この脱調状態におけるトルクの伝達を小さくしている。
【0014】
また、請求項2に係る磁気式トルク伝達装置は、請求項1に係る磁気式トルク伝達装置が有する構成に加えて、前記駆動円盤が装着される側の前記駆動軸に雄ねじが螺刻されており、前記駆動円盤の中心に穿孔された軸孔内周面に、前記雄ねじと螺合する雌ねじが螺刻されており、さらに、この螺合された駆動円盤及び駆動軸と協働してダブルナット機構を構成するナットが、前記駆動軸に配備されていることによって、上記の第2の目的を解決するものである。
【0015】
なお、本発明において、「螺設」されるとは、回転する軸(本発明における駆動軸)に被回転板(本発明における駆動円盤)がねじ固定されていることを意味しており、回転方向にも軸方向にも被回転板が動かず、必ず、回転する軸と一緒に被回転板が回転することを意味している。本発明の場合、駆動円盤と協働してダブルナット機構を構成するナットを有することにより、駆動円盤と駆動軸との固定をより強固なものにしている。一方、「軸承」されるとは、回転する軸(本発明における被駆動軸)に被回転板(本発明における被駆動円盤)が回転方向には、固定されており、軸心方向には、前後に移動可能になっていることを意味している。また、「所定のピッチ」及び「所定の空隙」の記載における「所定」とは、特定の値に限定されるわけではなく、所定のピッチとは、例えば、一周に12個の磁石が並ぶ30°ピッチであり、所定の空隙とは、最も結合力を強くするための狭い間隔を意味しており、例えば、0.5〜1.5mm程度である。
【0016】
また、請求項3に係る磁気式トルク伝達装置は、請求項1又は請求項2に係る磁気式トルク伝達装置が有する構成に加えて、駆動軸の先端面及び被駆動軸の先端面にそれぞれの軸心方向に螺設されたストッパを有することによって、上記の第3の目的を解決するものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る磁気式トルク伝達装置によれば、駆動軸に螺設され、円周方向にN極、S極の磁極を所定のピッチで交互に配置した駆動円盤と、被駆動軸に軸承され、円周方向にN極、S極の磁極を前記所定のピッチで交互に配置した被駆動円盤を所定の空隙を介して磁極同士が対向するように配置し、対向する前記磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して前記駆動軸の回転トルクを前記被駆動軸に伝達する磁気式トルク伝達装置であって、前記被駆動軸に固着されたバックベースと、前記バックベースに配置された2つのバックベース側スペーサを介して固定された少なくとも1つの板バネと、前記板バネの前記バックベースと反対側に2つの被駆動円盤側スペーサを介して固定された前記被駆動円盤と、過負荷時に前記駆動円盤の回転に前記被駆動円盤が追随できなくなることで生じる磁気的反発力によって前記板バネの付勢に抗して後退した前記被駆動円盤のヨークを保持するラッチ機構が、前記バックベース上の前記板バネと干渉しない位置に配置されていることによって、駆動軸の回転に被駆動軸の回転が追随できない、いわゆる脱調状態に陥った場合であっても、本発明の技術的特徴事項の1つであるヨークと板バネとヨークを保持するラッチ機構によって、磁気的反発力で駆動円盤から離れた被駆動円盤が再び結合しないので、確実に伝達トルクを小さくでき、被駆動軸が、軸方向に前進・後退し、大きな振動が発生することが抑制される。また、被駆動軸に掛かった過負荷が駆動軸にそのまま伝動することがないので、モータが焼損するような事故を未然に防ぐことができる。
【0018】
なお、本発明におけるモータとは、必ずしも電動モータに限定されるものではなく、超音波モータ等の小型モータであっても、本発明のようなトルクリミタ機構を内装あるいは外付けすることにより、機器の破損防止が有効に行われる。
【0019】
また、自動車用昇降窓の駆動源として適用した場合には、誤って、人の指などが挟まれた場合に自動的に駆動源からの回転トルクの伝達が低減され、安全性が向上する。
【0020】
さらに、本発明は、磁気式トルク伝達装置としてモータに接続して単体で使用することを想定しているが、被駆動円盤が後退したことを、リミットスイッチ又は近接スイッチ等で検出し、モータ制御回路にフィードバックさせることによって、機器の安全性、信頼性を一層高めることが可能である。
【0021】
請求項2に係る磁気式トルク伝達装置によれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、前記駆動円盤が装着される側の前記駆動軸に雄ねじが螺刻されており、前記駆動円盤の中央に穿孔された軸孔内周面には、前記雄ねじと螺合する雌ねじが螺刻されており、さらに、前記駆動円盤と協働してダブルナット機構を構成するナットが前記駆動軸に配備されていることによって、前記駆動円盤と前記被駆動円盤との距離を本発明の技術的特徴事項の1つであるダブルナット機構を調整することで、前記駆動円盤側の磁極と前記被駆動円盤側の磁極との距離を簡単な操作で可変することができるため、最大伝達トルクを簡単に可変することができ、操作性が向上する。
【0022】
請求項3に係る磁気式トルク伝達装置によれば、請求項1又は請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、本発明の技術的特徴事項の1つである駆動軸の先端面及び被駆動軸の先端面にそれぞれの軸心方向に螺設されたストッパを有することによって、駆動円盤と被駆動円盤とが直接接触することが防止され、その結果、装置の耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態の一つを実施例1に基づき、図1乃至図10を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の磁気式トルク伝達装置の一例を示す斜視図であり、磁気式トルク伝達装置の内部の構造が分かるように、駆動軸及び被駆動軸の軸心を中心に、その4分の1を切断して示している。図2は、図1に示した磁気式トルク伝達装置の組立図であり、組み立てられたときの外観を合わせて記載している。図3は、本実施例1の磁気式トルク伝達装置100の被駆動軸110の側からみた正面図である。この図において140bの参照符号を付した部材がベース部材であり、141a〜141dが、板バネと干渉しないバックベース上の位置に配置されたヨークを保持するラッチ機構として機能するラッチ用磁石であり、134が四角形状の板バネである。
【0025】
図4は、図3のIV−IV線で切断した時の断面図を示している。この図は、駆動軸120と被駆動軸110とが、駆動軸120に螺刻された雄ねじに螺合している駆動側ナット164とその片側に固設された駆動板162に固設された永久磁石板166の磁極と、被駆動軸110に固着されたバックベース142にバックベース側スペーサ138を介して固定された板バネ134とこの板バネ134と図示はされていないが被駆動円盤側スペーサ137を介して固定されたヨーク132に固設された永久磁石板136の磁極とが磁気的吸引力によってわずかな空隙を介して吸着された状態を示している。そして、過負荷時に駆動円盤160の回転に被駆動円盤130が追随できなくなり、永久磁石板166及び永久磁石板136の同極同士が対峙することによって生じる磁気的反発力によって被駆動円盤130が後退し、駆動円盤160と被駆動円盤130との空隙が広がり、駆動円盤160から被駆動円盤130への回転トルクの伝達が抑制される。そして、被駆動円盤130が、磁気的吸引力で駆動円盤160と再び吸着されないように、被駆動円盤130が板バネ134の付勢に抗して後退したヨーク132が板バネ134と干渉しないバックベース上の4カ所に配置されたラッチ用磁石141に吸着される。
【0026】
一方、駆動側ナット164は、ナット168と協働してダブルナット機構を有しており、駆動板162に固設された永久磁石板166とヨーク132に固設された永久磁石板136との空隙(間隔)を所定の距離となるように調整している。ちなみに本実施例においては、装置の寸法精度を考慮して、1.0mmとしている。
【0027】
なお、本発明においては、駆動板162、駆動側ナット164及び永久磁石板166を合わせて駆動円盤160と称し、同様に、ヨーク132及び永久磁石板136を合わせて被駆動円盤130と称している。また、駆動板162と駆動側ナット164は、固設あるいは一体成形されており、その軸中心に軸孔167が穿孔されており、その軸孔167の内周面に雌ねじが螺刻されており、駆動軸120の外周面に螺刻された雄ねじと螺合している。
【0028】
また、駆動板162及びヨーク132に固設された永久磁石板166、136における永久磁石の取付パターンとしては、例えば、図16、図17のような配置が考えられる。上述した従来例(図19)と違って、駆動軸側から被駆動軸側に伝達されるトルクの調整は、駆動軸側に設けたダブルナット機構で2つの永久磁石板166、136の距離を可変することによって行うため、永久磁石の取付直径Rを小さくしたり大きくしたりする必要がなく、磁石部分の面積が大きい(駆動側)永久磁石板166を駆動板162に、(被駆動側)永久磁石板136をヨーク132に固設することができる。その結果、大きな磁気的吸引力及び磁気的反発力を得ることができる。
【0029】
駆動軸120及び被駆動軸110は、それぞれ、外側ベアリング172、182及び内側ベアリング174、184によりベース部材140a、140bに対して回転可能に枢設されている。そして、駆動軸120の軸方向の略中腹部には、凸部122が設けられており、この凸部122とUナット176とが協働して、駆動軸120が軸心方向前後に移動することなく、ベース140aに枢設されている。同様に、被駆動軸110の軸方向の略中腹部には、凸部112が設けられており、この凸部112とUナット186とが協働して、被駆動軸110が軸方向前後に移動することなく、ベース部材140bに枢設されている。
【0030】
また、駆動軸120の先端面には、駆動円盤160が駆動軸120から抜けることを防ぐため、駆動側ストッパ170が螺設されており、同様に、被駆動軸110の先端面には、被駆動円盤130が被駆動軸110から抜けることを防ぐため、被駆動側ストッパ180が螺設されている。したがって、駆動円盤160と被駆動円盤130との間には、必ず所定の空隙が形成され、双方が有する(駆動側)永久磁石板166と(被駆動側)永久磁石板136とが接触することを防止している。さらに、1対のベース部材140a、140bが、3本のスペーサ152、154、156により離間されており、6本の皿ねじ152a、154a、156a、152b、154b、156bにより固定されている。
【0031】
図5は、図3と同じ磁気式トルク伝達装置100の駆動軸120の側からみた正面図である。この図において140aを付した部材は、ベース部材である。図6は、図5のVI−VI線で切断した時の断面図を示している。この図では、磁気式トルク伝達装置100の被駆動円盤130が磁気的反発力で板バネ134の付勢力に抗して後退し、ヨーク132が板バネ134と干渉しないバックベース142上の4カ所に配置されたラッチ用磁石141a〜141dと吸着した図を示している。この時、磁気的反発力によってできた空隙が再び結合することが妨げられるため、駆動円盤160から被駆動円盤130への回転トルクの伝達が抑制される。なお、図6に示した図は、上記の点を除けば、図4に示したものと同じであるので、参照符号を一部省略している。
【0032】
また、図7は、上記の説明の理解を助けるために、図4の断面図に相当する側面図を図示している。さらに、図8は、図7に示した側面図の内、被駆動部だけを拡大して示しており、図9は、図8のIX−IX線で切断した断面図である。図9から明らかなように、ラッチ用磁石141a〜141dは、バックベース142上であって板バネ134と干渉しない位置に固着されている。
【0033】
図10は、本発明の板バネ134による被駆動円盤130の後退時におけるラッチ機構を模式的に表した側面図であり、参照符号については、上記と同じ符号を付している。図10(a)は、磁気的反発力を受けていない通常時を示している。この時、板バネ134を使用していることにより、回転方向の力は伝達されるが、軸方向は、板バネ134のストローク分、被駆動円盤130が後退できるようになっているとともに、駆動円盤160側の永久磁石板166(図4参照)と被駆動円盤130側の永久磁石板136が磁気的吸引力で接触しないようにストッパ180を設けている。
【0034】
一方、図10(b)は、磁気的反発力を受けて、被駆動円盤130が後退したときの状態を示している。被駆動円盤130とバックベース142との間に被駆動側スペーサ137とバックベース側スペーサ138に挟持された板バネ134は、磁気的反発力により被駆動円盤130が後退することによって、バックベース142側に撓む。そしてバックベース142上に板バネ134と干渉しない位置に固着されたラッチ用磁石141とヨーク132が吸着し、被駆動円盤130が再び前進することが阻止される。また、ヨーク132とラッチ用磁石141で被駆動円盤130の後退を保持する方式では、被駆動軸110と被駆動円盤130との間に、滑り部が存在するが、ここには力が加わらず、実質的に、機械的な摺動やガタが生じないため、長寿命であり、また、磨耗が発生しないため、塵埃などを嫌う食品関係や半導体関係等のクリーン環境での使用に適している。さらに、ラッチ用磁石141は、ヨーク132吸着時もヨーク132との間に若干の隙間があるように調整するか、ラッチ用磁石141表面にゴム等の弾性部材からなる衝撃吸収用部材を接着してヨーク132吸着時の衝撃による破損を防止することができる。
【0035】
なお、上述した実施例では、板バネは1枚であるが、図11に示すように複数の板バネを用いて、被駆動円盤230が後退するときのストロークを長くすることも可能である。図11は、永久磁石板236とヨーク232からなる被駆動円盤230と板バネ234に挟持される被駆動円盤側スペーサ237と、3枚の板バネ234の間に挟持される中間スペーサ239と、バックベース242と板バネ234の間に挟持されるバックベース側スペーサ238を示している。図12は、図11に示した複数の板バネ234を用いたときの被駆動側の主要部の斜視図を示している。なお、板バネ234を多段重ねにした場合には、ラッチ用磁石がヨーク232を吸着可能なように磁石強度、磁石の高さ等を設計する。
【0036】
本発明においては、四角形状の板バネを用いて、回転方向の力を駆動円盤側から被駆動円盤側に伝達すると共に、被駆動円盤の軸心方向への移動を可能にしているが、板バネに代えて皿バネを用いることも可能である。図13は、皿バネを用いたときの被駆動側の主要部の垂直断面図を示している。図13(a)が、通常時の状態を示している。この時、皿バネ334を使用していることにより、回転方向の力は伝達されるとともに、軸方向は、皿バネ334のストローク分移動できるようになっている。軸方向は、(図示はされていないが)駆動円盤160側の永久磁石板166(図4参照)と被駆動円盤330側の永久磁石板336が磁気的吸引力で接触しないようにストッパ380を設けている。
【0037】
一方、図13(b)は、磁気的反発力を受けて、被駆動円盤330が後退したときの状態を示している。被駆動円盤330とバックベース342との間に配置された皿バネ334は、磁気的反発力により被駆動円盤330が後退して撓むことによって拡径し、被駆動円盤330がバックベース342に接近する。そして、バックベース342上に固設したラッチ用磁石341が被駆動円盤330を構成するヨーク332と吸着し、被駆動円盤330が再び前進することが阻止される。
【0038】
本発明の別の実施の形態の一つを、実施例2に基づき、図14及び図15を参照して説明する。なお、駆動軸側については、実施例1と同じであるため、被駆動側についてのみ説明する。また、参照符号は、実施例1と対応する部材については、下二桁を同じにした400番台の符号を付すことによって、詳しい説明については、割愛している。
【実施例2】
【0039】
図14は、実施例2の被駆動側の側面図であり、図15は、図14のXV−XV線で切断した時の断面図を示している。実施例1では、板バネとして四角形状のものを使用し、ラッチ用磁石として、四角形状の板バネと干渉しないバックベース上の位置に固着した4つの磁石を使用していた。一方、この例においては、板バネ434として、中央に貫通孔434aを有するドーナツ形状のものを使用しており、ラッチ用磁石441として、板バネ434の貫通孔434aに収まる大きさであって、被駆動軸410が挿通する挿通孔441aを中央に有するドーナツ形状の永久磁石が、バックベース442に固着されている。
そして、磁気的反発力を受けて、被駆動円盤430が後退した時に、バックベース442に固着したラッチ用磁石441とヨーク432が吸着し、被駆動円盤430が駆動円盤側に再び吸引されないような構成になっている。
【0040】
なお、上述した実施例では、駆動軸側に駆動円盤と被駆動円盤との隙間を調整するダブルナット機構を設け、被駆動軸側に後退したヨークを保持するラッチ機構を有しているが、駆動軸側にラッチ機構を、被駆動軸側にダブルナット機構を設けても同様の効果が得られることは、言うまでもない。さらに、上述した実施例では、ヨークを保持するラッチ機構として、ラッチ用磁石を用いているが、後退したヨークを確実に保持できるものであれば、これに限られることなく、例えば、ラチェットやプランジャを用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、モータ等の駆動源の回転トルクを被駆動装置に伝達する磁気式トルク伝達装置において、過負荷が掛かった際に確実に駆動側から被駆動側への伝達トルクを小さくすることができ、また、簡単な構成で最大伝達トルクを可変することができ、さらに駆動円盤と被駆動円盤が直接接触することを防止することができるものであって、塵埃などの発生が少ないため、クリーンな環境で使用するのに適しており、産業上の利用可能性は、きわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1の磁気式トルク伝達装置の一部を切り欠いた状態を示す斜視図。
【図2】図1の磁気式トルク伝達装置の組み立て図。
【図3】結合状態にある本発明の磁気式トルク伝達装置の正面図。
【図4】図3のIV−IV線で切断したときの断面図。
【図5】遮断状態にある本発明の磁気式トルク伝達装置の正面図。
【図6】図5のVI−VI線で切断したときの断面図。
【図7】結合状態にある本発明の磁気式トルク伝動装置の側面図。
【図8】図7に示した磁気式トルク伝達装置の被駆動側の側面図。
【図9】図8のIX−IX線で切断したときの断面図。
【図10】被駆動円盤側の通常時(a)と被駆動円盤が後退した時(b)を示す概念図。
【図11】3枚の板バネを用いた磁気式トルク伝達装置の被駆動側の側面図。
【図12】図11に示した磁気式トルク伝達装置の被駆動側の斜視図。
【図13】皿バネを用いたときの被駆動円盤側の通常時(a)と被駆動円盤が後退したとき(b)を示す概念図。
【図14】実施例2の磁気式トルク伝達装置の被駆動側の側面図。
【図15】図14のXV−XV線で切断したときの断面図。
【図16】本発明の駆動円盤及び被駆動円盤に用いられる永久磁石のパターン図。
【図17】本発明の駆動円盤及び被駆動円盤に用いられる別の永久磁石のパターン図。
【図18】従来の磁気式トルク伝達装置の断面図。
【図19】図18のXIX−XIX線で切断したときの断面図。
【符号の説明】
【0043】
100 ・・・ 磁気式トルク伝達装置
110、310、410 ・・・ 被駆動軸
112、122 ・・・ 凸部
120 ・・・ 駆動軸
130、230、330、430 ・・・ 被駆動円盤
132、232、332、432 ・・・ (被駆動円盤の)ヨーク
134、234、434 ・・・ 板バネ
136、236、336、436 ・・・ (被駆動円盤の)永久磁石板
137、237、437 ・・・ 被駆動円盤側スペーサ
138、238、438 ・・・ バックベース側スペーサ
140a、140b、440b ・・・ ベース部材
141a〜141d、241a、241c、241d、341、441 ・・・ ラッチ用磁石
142、242、342、442 ・・・ バックベース
152、154、156 ・・・ スペーサ
152a、152b、154a、154b、156a、156b ・・・ 皿ねじ
160 ・・・ 駆動円盤
162 ・・・ (駆動円盤の)駆動板
164 ・・・ (駆動円盤の)駆動側ナット
166 ・・・ (駆動円盤の)永久磁石板
168 ・・・ ナット
170 ・・・ 駆動側ストッパ
172、182 ・・・ 外側ベアリング
174、184 ・・・ 内側ベアリング
176、186、486 ・・・ Uナット
180、380 ・・・ 被駆動側ストッパ
334 ・・・ 皿バネ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に螺設され、円周方向にN極、S極の磁極を所定のピッチで交互に配置した駆動円盤と、被駆動軸に軸承され、円周方向にN極、S極の磁極を前記所定のピッチで交互に配置した被駆動円盤を所定の空隙を介して前記磁極同士が対向するように配置し、対向する前記磁極間に作用する磁気的吸引力及び磁気的反発力を利用して前記駆動軸の回転トルクを前記被駆動軸に伝達する磁気式トルク伝達装置であって、
前記被駆動軸に固着されたバックベースと、
前記バックベースに配置された2つのバックベース側スペーサを介して固定された少なくとも1つの板バネと、前記板バネの前記バックベースと反対側に2つの被駆動円盤側スペーサを介して固定された前記被駆動円盤と、
過負荷時に前記駆動円盤の回転に前記被駆動円盤が追随できなくなることで生じる磁気的反発力によって前記板バネの付勢に抗して後退した前記被駆動円盤のヨークを保持するラッチ機構が、前記バックベース上の前記板バネと干渉しない位置に配置されていることを特徴とする磁気式トルク伝達装置。
【請求項2】
前記駆動円盤が装着される側の前記駆動軸に雄ねじが螺刻されており、前記駆動円盤の中央に穿孔された軸孔内周面に、前記雄ねじと螺合する雌ねじが螺刻されており、さらに、この螺合された駆動円盤及び駆動軸と協働してダブルナット機構を構成するナットが、前記駆動軸に配備されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気式トルク伝達装置。
【請求項3】
前記駆動軸の先端面及び前記被駆動軸の先端面にそれぞれの軸心方向に螺設されたストッパを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気式トルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−64205(P2008−64205A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242832(P2006−242832)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】