説明

磁気研磨装置、磁気研磨方法及びそれらに使用される加工工具

【課題】磁性体より成る管等の内壁を磁気砥粒により効率よく研磨することができると共に、あまり強い圧力を掛けずに研磨が可能な磁気研磨装置、磁気研磨方法及びそれらに使用される加工工具を提供する。
【解決手段】磁性体からなる被研磨物を、永久磁石を有する加工工具の表面に磁性砥粒を付着させて研磨する磁気加工装置であって、少なくとも前記被研磨物を保持するワーク保持手段と、前記加工工具を取り付けて、当該加工工具に回転運動及び/又は軸方向振動運動を伝えるスピンドルと、前記スピンドルに回転運動及び/又は軸方向振動運動を付与するスピンドル回転振動駆動手段と、を有する磁気加工装置により、上記課題を解決する。加工工具としては、棒状の永久磁石が表面から露出又は突出するように埋め込まれているものを用いることができ、例えば加工工具の断面が円形であり、永久磁石が加工工具の円周表面から突出又は露出している形態のものを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気研磨装置、磁気研磨方法及びそれらで使用される加工工具に関し、さらに詳しくは、磁性体よりなる被研磨物の空洞内面又は物体外面等を磁性砥粒により研磨することを可能にした磁気研磨装置、磁気研磨方法及びそれらで使用される加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非磁性体の管を磁気研磨する方法として、管の外部に磁極を配し、管内に磁性砥粒を配して、当該磁極と管とを相対運動させることにより、外部磁極に吸引された内部の磁性砥粒に管壁に対する相対運動を生起せしめて研磨を行う磁気研磨方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、磁性体の管を研磨する方法として、磁性体が磁気的に過飽和するまで磁化した上で、外部から磁場を加えて内部の磁性砥粒を駆動して研磨を行う磁気研磨方法が提案されている。また、磁性体外面を研磨する方法としては、強い圧力を掛けた状態の下での研磨砥粒による摩擦を利用した研磨が一般的である。
【特許文献1】特開2002−192453
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来方法は、管が磁性体より構成されている場合には、外部磁極の力が当該磁性体で遮蔽され、内部に配置された磁性砥粒に吸引力が届かない。そのため、磁性砥粒に対して管壁を研磨する力を付与することができないという問題があった。
【0005】
また、磁性体を過飽和するまで磁化する方法も、磁化のためのエネルギーを必要とし、また磁性砥粒を駆動するためには外部から印加する磁気をかなり大きくする必要もあり、手間がかかると共にエネルギー消費が大きいという問題があった。また、磁性体外面を強い圧力を掛けた状態で摩擦して研磨する方法は、研磨素材の表面近傍の望ましくない変質や破壊を伴う場合がある。
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題が生じない新しい磁気研磨装置等を提案するものであって、その目的は、磁性体より成る管等の内壁を磁気砥粒により効率よく研磨することができると共に、あまり強い圧力を掛けずに研磨が可能な磁気研磨装置、磁気研磨方法及びそれらに使用される加工工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の磁気研磨装置は、磁性体からなる被研磨物を、永久磁石を有する加工工具の表面に磁性砥粒を付着させて研磨する磁気加工装置であって、少なくとも前記被研磨物を保持するワーク保持手段と、前記加工工具を取り付けて、当該加工工具に回転運動及び/又は軸方向振動運動を伝えるスピンドルと、前記スピンドルに回転運動及び/又は軸方向振動運動を付与するスピンドル回転振動駆動手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の磁気研磨装置においては、(A)前記ワーク保持手段が、回転及び/又は軸方向振動を付与するワーク回転振動駆動手段を有するように構成してもよいし、(B)前記ワーク保持手段が、X、Y、Z方向の位置調整及び/又は前記スピンドルに対向する角度調整を行うワーク移動角度調整駆動手段と、前記スピンドル保持手段が、X、Y、Z方向の位置調整及び/又は前記ワーク保持手段に保持される被加工物に対向する角度調整を行うスピンドル移動角度調整駆動手段と、を有するように構成してもよい。
【0009】
また、本発明の磁気研磨装置に用いられる磁性工具に関して、(1)前記加工工具は、棒状の永久磁石が表面から露出又は突出するように埋め込まれていることが好ましく、(2)前記加工工具は、U字形又はV字形を含む屈曲した形状からなる永久磁石の両端が表面から露出又は突出するように埋め込まれ、当該永久磁石の両端に前記磁性砥粒が付着して磁気回路を形成するようにしたことが好ましく、(3)前記加工工具は断面が円形であり、前記永久磁石が当該加工工具の円周表面から突出又は露出していることが好ましく、(4)前記加工工具は、一つ又は複数の穴を有し、前記永久磁石が前記穴に交換可能に挿入されていることが好ましく、(5)前記加工工具は、前記穴の底部にスプリングを有し、前記永久磁石の先端が当該バネ部材が最も伸びた状態で当該加工工具の表面から突出するように設けられていると共に、当該永久磁石が前記バネ部材の付勢方向に自在に動くように設けられていることが好ましく、(6)前記加工工具は、前記穴の底部に当該穴の深さより短い第1の永久磁石が挿入され、且つ当該第1の永久磁石上に同じ磁極が向き合うように第2の永久磁石を重ねて挿されて、当該第2の永久磁石が同じ磁極同士の反発力で外向きに突出する力を常時保持し、前記第2の永久磁石は、前記反発力によってその先端が前記加工工具の表面から突出する長さを有し、当該第2の永久磁石が当該穴の側面に沿って自由に動くように設けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の磁気研磨装置に用いられる被研磨物に関して、(イ)前記被研磨物が内壁を有する管等であって、前記加工工具が前記内壁を研磨できるように、当該加工工具の最大断面が前記内壁の開口部及び前記被研磨物の内部空間の最小断面より小さいことが好ましく、(ロ)前記被研磨物が、円柱状、円盤状、円錐状、角柱状物体、その他平面状又は曲面状表面有するものであり、前記加工工具が一つ又は複数のスピンドルに付設され前記加工工具が備える永久磁石の露出面又は突出面と、前記被研磨物の研磨対象表面とを対向するように配置し、
前記加工工具と前記被研磨物とに、自転、公転、周回運動、振動又はその組合せ運動を含む相対運動を付与できる駆動手段を有することが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の磁気研磨方法は、上記本発明に係る磁気研磨装置を用いた磁気研磨方法であって、加工工具に磁性砥粒を適量付着させ、被研磨物をワーク保持手段で保持し、前記加工工具が前記被研磨物の所定の研磨位置にくるように位置調節を行い、スピンドルの駆動手段及び/又はワーク保持手段の駆動手段により、前記加工工具に付着した磁性砥粒と前記被研磨物の研磨面との相対運動を行わせて、当該磁性砥粒により当該研磨面を研磨することを特徴とする。
【0012】
本発明の磁気研磨方法においては、前記加工工具に磁性砥粒を適量付着させる代わりにバフを貼付し、当該バフと前記被研磨物の被研磨面との相対運動により研磨することが好ましい。
【0013】
また、本発明の磁気研磨方法においては、前記加工工具にバフを貼付し、当該バフ上に磁性砥粒を磁気吸引力により適量付着させ、前記磁性砥粒及びバフと被研磨物の研磨面との相対運動により研磨することが好ましい。
【0014】
また、本発明の磁気研磨方法においては、前記加工工具が備える永久磁石の表面に、磁性体からなる保護材が設けられていることが好ましい。このとき、前記保護材が、磁性又は非磁性の砥粒を含有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る工具は、上記本発明に係る磁気研磨装置及び上記本発明に係る磁気研磨方法で用いられる加工工具である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、磁気が透過しない磁性素材でできた管等の内壁の研磨に対して磁気研磨法を適用できるようにした点に特徴があり、その結果、滑らかな配管内壁を必要とする精密装置の配管材等の加工に有効である。また、磁性体外面を強い圧力を掛けずに研磨することができ、より精密で微細な表面研磨が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明で用いた加工工具の断面形態と管内面の形態の説明図であり、図2は、本発明の磁気研磨方法での磁気吸引力を利用した加工形態の模式図を示す。また、図3〜図7は加工工具の他の例を示すものであり、図3は、磁気吸引力とスプリングを利用した加工工具の形態を示す模式断面図であり、図4は、図3に示す形態の加工工具の実際の分解写真である。また、図5は、磁気反発力を利用した加工工具の形態を示す模式断面図であり、図6は、図5に示す形態の加工工具の実際の分解写真である。また、図7は、本発明の磁気研磨方法での磁気吸引力を利用した他の加工形態の模式図を示す。
【0019】
本発明の磁気研磨装置は、磁性体からなる被研磨物を、永久磁石を有する加工工具の表面に磁性砥粒を付着させて研磨する磁気加工装置であって、少なくとも前記被研磨物を保持するワーク保持手段と、前記加工工具を取り付けて、当該加工工具に回転運動及び/又は軸方向振動運動を伝えるスピンドルと、前記スピンドルに回転運動及び/又は軸方向振動運動を付与するスピンドル回転振動駆動手段と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の磁気研磨方法は、上記磁気研磨装置やその他の装置を用いて好ましく行うことができ、加工工具に磁性砥粒を磁気吸引力により適量付着させ、被研磨物の位置や角度を動かす駆動手段及び/又はスピンドルの位置や角度を動かす駆動手段によって、加工工具の磁極面の位置を被研磨物の研磨部分に合わせる。その後、スピンドルの回転や振動の駆動手段により、スピンドルを回転及び/又は振動させ、加工工具に付着した磁性砥粒と被研磨物の研磨面とを相対運動させることにより、加工工具に付着した磁性砥粒により管壁を研磨する。
【0021】
被研磨物を保持するワーク保持手段には、回転又は振動を含むがそれに限らない研磨運動を付与する駆動手段を付設することができる。こうした駆動手段を付設することにより、スピンドルによる研磨運動と組み合わせて研磨効率を向上させることができると共に、被研磨物の複雑な形状に研磨運動を対応させることができる。
【0022】
例えば、管状の被研磨物の内面を研磨する場合には、管内に挿入したスピンドル及びそれに付設した加工工具を回転させると共に、管自体も回転させることが好ましい。こうすることで、研磨面と磁極との相対速度が単独の回転に比べて大きくすることができ、研磨効率が向上する。
【0023】
また、円筒状の被研磨物の外面を研磨する場合には、加工工具を静止させて加工工具に吸引された磁気砥粒やバフの飛散や離脱を防ぎながら被研磨物を回転させることにより、研磨面と磁極の相対運動を確保することができる。或いは、この場合において、加工工具における磁極の吸引力が十分に強い場合には、加工工具にも回転を与えて、被研磨物の回転と周速が逆方向に向かう加工工具側での相対速度を大きくするような研磨方法も可能である。
【0024】
また、本発明の磁気研磨装置において、磁性砥粒の保持性を向上するために、図1及び図2並びに図7に示す磁性砥粒が付着する面には、バフを貼付することも可能である。
【0025】
加工工具として、図1及び図2に示すように、スピンドルの先端を含むがそれに限らない一部分に棒状の永久磁石をスライダーを介してスライド可能に埋め込んでスピンドルと加工工具とを一体化したものでもよい。又は、スピンドルの先端を含むがそれに限らない一部分に交換可能なように脱着できる固定手段を介して付設してもよい。
【0026】
また、永久磁石を適切な形状(例えばU字形又はV字形を含む屈曲した形状)に折り曲げてN極とS極の位置をスピンドル外径に沿って近づけるようにしてもよい。こうすることにより、永久磁石のN極とS極及び両極に挟まれる被研磨物の磁性体管壁とで形成される磁気回路を短くして磁極付近の磁界を強くすることができる。このようなN極とS極の組は、スピンドル断面の円周上に複数組設けることもできる。この構造では、磁極と研磨面との間隔は、スピンドルや加工工具が回転中に研磨面と衝突してどちらかに破損を生じないよう、しかし磁極に磁力で付着している磁性砥粒の集団の先端が研磨面に届くよう、加工工具の外径形状や磁極面と研磨面との間隔等を適切に選択する必要がある。
【0027】
また、加工工具は、図1に示すように、スピンドル部材自身に穴を開け、その穴に磁極となる永久磁石をスライダーに固定した状態で挿入し、挿入方向に摺動可能な構造にしてもよい。又は、スピンドルに固定手段により固定した加工工具用部材の一部分に穴を開け、その穴に磁極となる永久磁石をスライダーに固定した状態で挿入し、挿入方向に摺動可能な構造にしてもよい。
【0028】
また、図3及び図4に示すように、スピンドル部材に形成した穴の底部にスプリングを入れ、その上に永久磁石の先端が加工工具表面から適当な長さ突出する状態で挿入する構造にしてもよい。この構造では、加工工具を管内等の空洞内に挿入する際には、永久磁石の手前の部分を押さえてスプリングを縮めて永久磁石全体を穴に引っ込めておいてから加工工具を空洞内に挿入し、当該永久磁石の先端部分が管内に挿入されて管壁で押さえられる状態になったら手前部分の押さえを取り除いて全体を管内に挿入する。このようにすれば、磁極は研磨を行っている間に常時スプリングの力で空洞壁に押しつけられているので、スピンドル本体や加工工具の基体部分であるアタッチメントと空洞壁とが衝突しないように十分な間隔を保つように離しておいても、磁極は付着した磁性砥粒と共に管壁に常時密着して研磨することができる。
【0029】
更に、上記のようなスプリング構造にすることで、磁極が空洞壁の表面に習って摺動するので、空洞の断面内壁が真円形から多少逸脱していても支障なく全周を均一に研磨することが可能となる。また、スプリングの強度を適切に選択交換することで、磁性砥粒が研磨面を摩擦する圧力を任意に設定でき、被研磨物の脆弱性に応じた研磨が可能となる。
【0030】
或いは、スプリングを入れる代わりに、図5及び図6に示すように、加工工具に開けた穴の底部に第1の永久磁石を埋め込み、その上に同じ極性の磁極が向き合うように第2の永久磁石を挿入した構造にしてもよい。この構造では、同種の磁極相互の反発力で、挿入した第2の永久磁石が飛び出す方向に力が常時掛かるため、上記のスプリングを入れた場合と同様の効果を得ることができる。
【0031】
被研磨物は、内面研磨に関しては、必ずしも管形状に限定せず、内壁の研磨が求められる凹所を有する物体であれば対象とする。また、その凹所の形状も、貫通孔、底付きの非貫通穴、開口部が非円形の凹所でも適用可能である。更に、研磨する内壁も、必ずしも回転軸に平行する側壁面に限定せず、回転軸の正面に対向する凹所の底面又は底曲面も加工工具の形状を工夫することで研磨が可能である。すなわち、本発明は、磁気研磨法の適用範囲を画期的に拡大するものである。
【0032】
被研磨物は、外面研磨に関しては、必ずしも被研磨物の回転による研磨に都合の良い回転対称形状の円筒状物体に限定せず、被研磨物又は加工工具の位置調整手段を利用したり、被研磨物と加工工具の位置関係を適切に選ぶことにより、円盤状、円錐状又は角柱状物体を含むがそれに限らない物体の平面状又は曲面状表面を研磨することができる。
【0033】
上記スピンドルは、必ずしも直線軸を有する円筒形状の剛体に限定せず、内視鏡の導管や歯医者の研磨装置のように、回転力をスピンドルに付設した加工工具に伝達できるフレキシブルな回転ケーブルのようなもの、又はフレキシブルで回転しない保護チューブに回転芯線を通してあるようなものであってもよい。
【0034】
スピンドルに対する上記加工工具の取付位置は、必ずしもスピンドルの最先端に限定せず、スピンドル先端を余すことも可能である。また、その取付個所は、1個所に限定せず、同時に複数個所を研磨することが求められる場合や被研磨物形状等によって研磨負荷を複数個所に掛けた方が回転運動が安定するような場合には、複数個所に取り付けることも可能である。更に、被研磨物の研磨面が貫通孔内面である場合には、スピンドルの先端を被研磨物の反対側に出るまで挿入して、その出てきたスピンドル先端を軸受け等で固定してから研磨を開始することで、高速回転の安定性を確保することも可能である。
【0035】
また、上記加工工具にバフを取り付けることも可能である。この場合、バフを接着剤で貼付して固定する方法、又は、バフを露出又は突出した磁極と磁性砥粒との間に挟んで磁性砥粒が磁極に吸引される力によって固定する方法、バフの素材に磁性体を被覆することにより磁極とバフ自身の間の磁気吸引力により固定する方法、のいずれかを好ましく挙げることができる。更に、バフに砥粒を含むようにして、バフのみで研磨を行うようにしてもよいし、別途付着させた磁性砥粒とバフに含まれる砥粒の両者で研磨を行うようにしてもよい。
【0036】
なお、上記の本発明に関する磁気研磨装置においては、被研磨物保持手段にも回転を付与する第2の回転付与手段を設けることができる。こうした第2の回転付与手段を設けることで、被研磨物の形状等に応じてスピンドルの回転を止めて被研磨物側を回転させることが可能であり、また、両者共に回転させることが可能である。両者の回転制御を行う場合には、研磨に必要な磁極と壁面との相対運動を一方の回転運動にのみ依存しなくてよくなり、従って、各回転体の高速回転に伴う軸ぶれや、望ましくない振動等の弊害を軽減できるという利点がある。
【0037】
加工工具は、永久磁石を含むものであり、通常、永久磁石と、その永久磁石を装着するアタッチメント(保持治具、保治具とも言う)とで構成される。アタッチメントは、永久磁石を、その磁極が表面に露出又は突出するようにスライド可能に装着する。
【0038】
具体的には、図1に示すように、棒状の永久磁石の磁極部分(N極、S極)が加工工具本体の表面から露出又は突出するように、アタッチメントの穴又は溝に埋め込まれていることが好ましい。棒状の永久磁石を穴又は溝の中でスライドできる構造にすれば、より好ましい。そうした構造としては、図1〜図6に示すように、永久磁石をスライダーに固定したものをアタッチメントの溝又は穴に装着したり、スプリングでアタッチメントの溝又は穴の中に固定したりする方法等をとることができる。
【0039】
永久磁石を装着するアタッチメントとしては、非磁性材料からなるものが用いられ、例えばアルミニウム、真鍮、黄銅、非磁性ステンレス鋼等の金属材料、若しくは強度のあるエンジニアリングプラスチック等が好ましく用いられる。
【0040】
永久磁石としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェライト磁石、アルニコ系合金磁石、希土類磁石等の各種のものを用いることが可能である。希土類磁石としては、例えば、Nd−Fe−B系のようなネオジウム系磁石、サマリウム−コバルト系磁石などのいずれも用いることが可能である。また、被研磨物の材質等によっては、軟質なゴム磁石を用いることも可能である。
【0041】
磁性砥粒としては、磁性砥粒として用いられ得るものを利用でき、例えば、電解鉄のような鉄材、ニッケルないしNi−P合金やNi−B合金等のニッケル合金材からなる磁性粒子の他、磁性粒子と砥粒、例えば、JIS表示でA、WA、GC、SA、MA、C、MD、CBNといったものを含む、Al、SiC、ZrO、BC及びダイアモンド、立方晶窒化ホウ素、MgO、CeO又はヒュームドシリカなどの砥粒を結合させたもの、砥粒表面に磁性金属皮膜、例えば、ニッケル又はニッケル合金めっき皮膜を形成してなる複合磁性砥粒、高温高圧で不活性ガス中で鉄と焼結させた酸化アルミニウム、不活性ガス雰囲気中でのアルミニウムと酸化鉄とのテルミット反応の生成物などを用いることができる。これらの磁性砥粒は、単独で用いてもよいし複数組み合わせて用いてもよい。また、磁性砥粒の形状や寸法についても特に限定されるものではなく、加工用途等に応じて任意のものとすることができ、例えば、不定形粉体、ボール状、ピン状のものとすることができる。もちろん、これらの混合体等その他の形態を用いることも可能である。さらに、加工工具が位置する研磨部位に、各種研磨剤を、粉状、液状、スラリー状、ペースト状等の適当な形態のものとして配置し、これらの研磨剤を併用して研磨処理を行うことも適宜可能である。
【0042】
本発明の磁気研磨装置は、被研磨物を保持するワーク保持手段と、加工工具を付設して加工工具に研磨運動を伝達するスピンドルと、当該スピンドルに回転又は振動を含むがそれに限らない研磨運動を付与する駆動手段と、当該スピンドル先端を含むがそれに限らないスピンドルの一部分に付設してスピンドルによって研磨運動が付与される加工工具と、スピンドル及びスピンドルの駆動手段を保持するスピンドル保持手段と、ワーク保持手段に付設して保持した被研磨物のX、Y、Z方向の位置調整及びスピンドルに対向する角度調整を行う駆動手段と、スピンドル保持手段に付設して保持したスピンドルのX、Y、Z方向の位置調整及び被研磨物に対する角度調整を行う駆動手段と、これらの手段を搭載する基盤ステージとにより構成される装置を好ましく提案できる。
【0043】
図8に示す装置を構成し、表1に示す条件で研磨加工を行った。実証試験は、図3及び図4に示す加工工具、及び、図5及び図6に示す加工工具の両方でそれぞれ研磨を行った。その結果を図9に示す。図9の観察結果からもわかるように、磁性体内面の加工が進行したことがはっきりと分かり、効果を実証できた。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明で用いた加工工具の断面形態と管内面の形態の説明図である。
【図2】本発明の磁気研磨方法での磁気吸引力を利用した加工形態の模式図を示す。
【図3】磁気吸引力とスプリングを利用した加工工具の形態を示す模式断面図である。
【図4】図3に示す形態の加工工具の実際の写真であり、分解した形態を示す図面代用写真である。
【図5】磁気反発力を利用した加工工具の形態を示す模式断面図である。
【図6】図5に示す形態の加工工具の実際の写真であり、分解した形態を示す図面代用写真である。
【図7】本発明の磁気研磨方法での磁気吸引力を利用した他の加工形態の模式図を示す。
【図8】磁性体からなる管内面を研磨する磁気研磨装置の構成例である。
【図9】本発明に得られた磁気研磨効果の実証例を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる被研磨物を、永久磁石を有する加工工具の表面に磁性砥粒を付着させて研磨する磁気加工装置であって、
少なくとも前記被研磨物を保持するワーク保持手段と、
前記加工工具を取り付けて、当該加工工具に回転運動及び/又は軸方向振動運動を伝えるスピンドルと、
前記スピンドルに回転運動及び/又は軸方向振動運動を付与するスピンドル回転振動駆動手段と、を有することを特徴とする磁気研磨装置
【請求項2】
前記ワーク保持手段が、回転及び/又は軸方向振動を付与するワーク回転振動駆動手段を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気研磨装置。
【請求項3】
前記ワーク保持手段が、X、Y、Z方向の位置調整及び/又は前記スピンドルに対向する角度調整を行うワーク移動角度調整駆動手段と、
前記スピンドル保持手段が、X、Y、Z方向の位置調整及び/又は前記ワーク保持手段に保持される被加工物に対向する角度調整を行うスピンドル移動角度調整駆動手段と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気研磨装置。
【請求項4】
前記加工工具は、棒状の永久磁石が表面から露出又は突出するように埋め込まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項5】
前記加工工具は、U字形又はV字形を含む屈曲した形状からなる永久磁石の両端が表面から露出又は突出するように埋め込まれ、当該永久磁石の両端に前記磁性砥粒が付着して磁気回路を形成するようにしたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項6】
前記加工工具は断面が円形であり、前記永久磁石が当該加工工具の円周表面から突出又は露出していることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項7】
前記加工工具は、一つ又は複数の穴を有し、前記永久磁石が前記穴に交換可能に挿入されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項8】
前記加工工具は、前記穴の底部にスプリングを有し、前記永久磁石の先端が当該バネ部材が最も伸びた状態で当該加工工具の表面から突出するように設けられていると共に、当該永久磁石が前記バネ部材の付勢方向に自在に動くように設けられていることを特徴とする請求項7に記載の磁気研磨装置。
【請求項9】
前記加工工具は、前記穴の底部に当該穴の深さより短い第1の永久磁石が挿入され、且つ当該第1の永久磁石上に同じ磁極が向き合うように第2の永久磁石を重ねて挿されて、当該第2の永久磁石が同じ磁極同士の反発力で外向きに突出する力を常時保持し、
前記第2の永久磁石は、前記反発力によってその先端が前記加工工具の表面から突出する長さを有し、当該第2の永久磁石が当該穴の側面に沿って自由に動くように設けられていることを特徴とする請求項7に記載の磁気研磨装置。
【請求項10】
前記被研磨物が内壁を有する管等であって、前記加工工具が前記内壁を研磨できるように、当該加工工具の最大断面が前記内壁の開口部及び前記被研磨物の内部空間の最小断面より小さいことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項11】
前記被研磨物が、円柱状、円盤状、円錐状、角柱状物体、その他平面状又は曲面状表面有するものであり、前記加工工具が一つ又は複数のスピンドルに付設され、
前記加工工具が備える永久磁石の露出面又は突出面と、前記被研磨物の研磨対象表面とを対向するように配置し、
前記加工工具と前記被研磨物とに、自転、公転、周回運動、振動又はその組合せ運動を含む相対運動を付与できる駆動手段を有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の磁気研磨装置。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載の磁気研磨装置を用いた磁気研磨方法であって、
加工工具に磁性砥粒を適量付着させ、被研磨物をワーク保持手段で保持し、前記加工工具が前記被研磨物の所定の研磨位置にくるように位置調節を行い、
スピンドルの駆動手段及び/又はワーク保持手段の駆動手段とにより、前記加工工具に付着した磁性砥粒と前記被研磨物の研磨面との相対運動を行わせて、当該磁性砥粒により当該研磨面を研磨することを特徴とする磁気研磨方法。
【請求項13】
前記加工工具に磁性砥粒を適量付着させる代わりにバフを貼付し、当該バフと前記被研磨物の被研磨面との相対運動により研磨することを特徴とする請求項12に記載の磁気研磨方法。
【請求項14】
前記加工工具にバフを貼付し、当該バフ上に磁性砥粒を磁気吸引力により適量付着させ、前記磁性砥粒及びバフと被研磨物の研磨面との相対運動により研磨することを特徴とする請求項12又は13に記載の磁気研磨方法。
【請求項15】
前記加工工具が備える永久磁石の表面に、磁性体からなる保護材が設けられていることを特徴とする請求項12〜14の何れかに記載の磁気研磨方法。
【請求項16】
前記保護材が、磁性又は非磁性の砥粒を含有することを特徴とする請求項15に記載の磁気研磨方法。
【請求項17】
請求項1〜11の何れかに記載の磁気研磨装置及び請求項12〜16の何れかに記載の磁気研磨方法で用いられる加工工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−268689(P2007−268689A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100559(P2006−100559)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(591041945)出雲産業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】