説明

磁気組成物及びインダクタ並びに電子回路用基板

【課題】 800℃から850℃程度の低温で焼結が行える磁気組成物を提供すること
【解決手段】 40〜50mol%のFe,15〜25mol%のNiO,5〜20mol%のCuO,15〜25mol%のZnOからなるフェライト材料に、下記組成のビスマス系ガラスを1〜10vol%を混合して形成される組成とし、当該ビスマス系ガラスの成分は、Biを40〜96wt%,ZnOを0〜30wt%,SiOを0wt%〜20wt%,Bを0wt%〜25wt%,BaOを0wt%〜8wt%,Alを0〜8wt%という関係を満たす組成配分とした。目的とする低温で焼結が行えるようになり、誘電率も50以上の値を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気組成物及びインダクタ並びに電子回路用基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、積層コンデンサ,積層インダクタ等のチップ部品は、フェライト等で形成される絶縁膜と、導電性ペーストを用いて所定パターンに形成される導体パターンとを適宜の順に積層することにより、内部に所望の導体パターンからなる内部導体を内蔵するチップ体を製造する。その後、そのチップ体を焼成してチップ部品が形成される。
【0003】
導電性ペーストをAgあるいはAg合金から形成した場合、Agの融点(961.93℃)以下で焼成する必要がある。そこで、特許文献1等に開示された発明のように、フェライト材料にガラス材料を添加することで、焼成温度を低温(特許文献1では、930℃)にすることができることか報告されている。
【特許文献1】特開2002−252109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に開示された発明では、焼成温度は930℃程度となり、確かにAgの融点よりは低温にすることができる。しかし、焼成温度をさらに低くしたいという要求があり、係る要求には十分に応えることができなかった。さらに、特許文献1に開示された発明では、透磁率も低い。
【0005】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、積層タイプのチップ部品の絶縁層等に使用することができ、透磁率が高いとともに、焼成温度を800〜850℃にして低温焼結を可能とする磁気組成物及びインダクタ並びに電子回路用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明に係る磁気組成物は、(1)40〜50mol%のFe,15〜25mol%のNiO,5〜20mol%のCuO,15〜25mol%のZnOからなるフェライト材料に、下記組成のビスマス系ガラスを1〜10vol%を混合して形成される組成とし、当該ビスマス系ガラスの成分は、Biを40〜96wt%,ZnOを0〜30wt%,SiOを0wt%〜20wt%,Bを0wt%〜25wt%,BaOを0wt%〜8wt%,Alを0〜8wt%という関係を満たす組成配分とした。各組成の範囲は、各上限値と下限値をいずれも含む。
【0007】
ビスマス系ガラスを添加することで焼結温度を低くすることができる。そして、焼結温度が850℃以下にするための効果が現れるのは、1vol%以上添加することである。つまり、フェライト材料に上記のビスマス系のガラスを添加して焼成すると、ガラスの軟化点付近で融解し、液相焼結化する。このとき、ガラスが1vol%以上になると、ガラスの表面張力により緻密化が促進されるので、上記の効果が発揮する。換言すると、1vol%未満では、本発明で言う低温焼結ができない。ただし、添加量が多くなると、ガラスがしみ出てしまい、焼結して得られた製品のエッジ(角部)に丸みを生じてしまう。従って、上限は、10vol%となる。さらに本発明では、低温焼結を可能にすることに伴い、透磁率μが高い(50以上)材料を提供することができる。
【0008】
そして、ガラス並びにフェライト材料の組成比を適宜変更して製造した磁気組成物を実際に焼成した結果、上記の範囲が有効であることが確認できた。さらに、各組成についての上下限値の臨界的な意味は、以下の通りと思われる。
【0009】
Biを添加することで、焼結温度を低くすることができる。ただし、添加量が多くなると、しみ出しによるエッジの丸まりの問題を生じる。そこで、上記の40〜96wt%の範囲内とした。
【0010】
は、Biと同様に焼結温度を低下させる機能を発揮し、添加量が多くなるほどその効果も高くなる。ただし、多くなるとガラス化が困難になるため、上限は25wt%とした。
【0011】
ZnOを添加すると、μが高くなる。ただし、混入量が多くなりすぎると、焼きにくくなる。従って、焼結容易性を考慮すると、上限は、30wt%となる。なお、このZnOは添加しなくても良い。
【0012】
SiO,BaO,Alを添加すると、いずれもフェライト材料とのぬれ性が良好になる。そして、その効果は添加量が多くなるほど高くなる。ただし、添加量が多くなると低温での焼結ができなくなる。そこで、低温焼結(850℃以下)が可能になる範囲として、それぞれ上記の範囲内とした。
【0013】
(2)本発明に係るインダクタ並びに電子回路用基板は、上記の(1)に記載の磁気組成物を用いて構成される。ここでインダクタは、積層インダクタ(積層チップインダクタ)であり、導体パターンからなるコイルを内蔵するチップ体に用いられる。このチップ体は、シート状の磁気組成物を積層して構成される。また、電子回路用基板は、たとえば、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)多機能性基板等として実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、焼成温度を850℃以下と低温にすることができ、透磁率も高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。本発明に係る磁気組成物は、所定のフェライト材料に、ビスマス系ガラスをガラスを1〜10vol%添加して形成される。フェライト材料は、40〜50mol%のFe,15〜25mol%のNiO,5〜20mol%のCuO,15〜25mol%のZnOの組成範囲内のものを用いる。また、ビスマス系ガラスは、Biを40〜96wt%,ZnOを0〜30wt%,SiOを0wt%〜20wt%,Bを0wt%〜25wt%,BaOを0wt%〜8wt%,Alを0〜8wt%という関係を満たす組成配分とする。
【0016】
この磁気組成物は、たとえば以下に示す工程により製造することができる。すなわち、上記のフェライト材料の各原料成分を所定量秤量し、公知のフェライト材料の製造工程に従い仮焼きする。この仮焼き後のフェライト材料(上記の組成範囲内となっている)と、上記の組成範囲で形成されたビスマス系ガラスをボールミルポットに混合する。このとき、ビスマス系ガラスが1〜10vol%となるように秤量する。
【0017】
次いで、エタノール等のアルコールを所定量秤量し、上記のフェライト材料とガラスを混合投入したボールミルポット内に投入する。そして、そのボールミルにて、20時間程度混合粉砕する。粉砕後の粉体の粒径(D50)は、0.8μm程度となる。この粉体を乳鉢等でさらに解砕する。この解砕した粉体と、エチルセルロース等のバインダを混ぜ、シート成形を行うことで、シート状の磁気組成物が製造される。
【0018】
本発明に係るインダクタ(積層インダクタ)の一実施形態としては、上記のようにして形成されたシート状の磁気組成物を用い、製造することができる。すなわち、上記のシート状の磁気組成物を所定枚数積層する。この積層工程の途中で、そのとき露出しているシート状の磁気組成物の表面に対してコイルを構成するための導体パターンを印刷する。これにより、内部に所定の巻数からなるコイルを有する積層体が形成される。
【0019】
この積層体を、所望温度(たとえば、50℃程度)の温度で加熱しながら、所望の圧力(たとえば、1t/cm)で加圧し、積層した磁気組成物からなるシートを圧着する。その後、所定の形状に切断することで、チップ体を製造する。このチップ体を所定温度で焼成し、得られた焼結体の表面をバレル研磨し、所定部位に外部の端子電極を付け、焼き付けを行うことで、積層インダクタが製造される。もちろん、他の製造方法によって製造することも可能である。また、チップ体を焼成する際の焼成温度であるが、800から850℃とすることができる。もちろん、それよりも高い温度(880℃等)で焼成することも問題ない。
【0020】
また、本発明による磁気組成物の用途としては、この積層インダクタに限ることはなく、チップコンデンサその他のものに適用することができるのはもちろんである。さらには、この磁気組成物は、焼成温度が低く、適度な誘電率を有することから、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic)多機能性基板の材料として使用することもできる。つまり、電子部品として、いわゆるインダクタやコンデンサ等の電子回路を構成するための素子のみならず、このような電子回路を構成するための基板等に適用できる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の効果を実証するため、組成を変更して複数の試料を製造し、それら各試料について透磁率μと、相対密度を求めた。各試料は、上述した磁気組成物の製造プロセスに従ってシート状に成形した後、そのシートを所定枚数積層して、積層体を形成する。この実験では、磁気組成物自体の評価を行うため、上述した電子部品(積層インダクタ)のように導体パターンの印刷は行わない。そして、この積層体を、所望温度(たとえば、50℃程度)の温度で加熱しながら、所望の圧力(たとえば、1t/cm)で加圧し、積層した磁気組成物からなるシートを圧着する。次いで、その圧着した積層体をリング状に切り出した後、所定温度で焼成した。この焼成温度は、800℃とした。リング状の磁気組成物の焼結体に対し、巻線を10ターン施し、μ等を測定した。
【0022】
試料は、表1に示すA〜Lの12種類のフェライト材料と、表2に示すA〜Mの13種類のガラスを適宜組み合わせて作成した。評価は、μが50以上でかつ相対密度が90%以上の試料を合格(判定結果が○)とした。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
(実施例1〜10)
本発明の組成範囲並びにガラス添加量に適合する試料として、表3に示すように、組成を適宜変更した20種類を用意した。この20種類の試料は、各原料の少なくとも1つが、本発明の組成比の範囲を規定する境界点(境界点付近)をとるとともに、添加量は境界点(1/10vol%)のものとしたが、いずれの場合も、相対密度は90%以上となった。もちろん、試料であるリング状の焼結体のエッジ(角部)にも丸みは生じていない。また、透磁率μは、いずれの試料も50以上の高い材料となった。
【0026】
【表3】

【0027】
(比較例1〜19)
一方、比較例として、各原料の少なくとも1つが、本発明の組成比の範囲を規定する境界点を外れた値(境界点付近)をとったり、添加量が規定の範囲外となるものを用意した。本発明の範囲を外れた試料(比較例)は、相対密度が90%未満となり、試料のエッジに丸みを生じてしまったり、μが50未満となってしまったりする。よって、積層インダクタやLTCC多機能性基板等の電子部品としての使用に適さないことが確認できた。
【0028】
また、表には記載していないが、さらに別の組み合わせからなる試料についても作成し、評価したところ、同様の傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜50mol%のFe,15〜25mol%のNiO,5〜20mol%のCuO,15〜25mol%のZnOからなるフェライト材料に、下記組成のビスマス系ガラスを1〜10vol%を混合して形成される組成とし、
当該ビスマス系ガラスの成分は、Biを40〜96wt%,ZnOを0〜30wt%,SiOを0wt%〜20wt%,Bを0wt%〜25wt%,BaOを0wt%〜8wt%,Alを0〜8wt%という関係を満たす組成配分であることを特徴とする磁気組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気組成物を用いて構成されるインダクタ。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気組成物を用いて構成される電子回路用基板。

【公開番号】特開2010−150104(P2010−150104A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332322(P2008−332322)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】