説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】ディスクリートトラック媒体の磁気記録層表面に形成された紫外線硬化性樹脂層と該樹脂層に凹凸パターンを転写するためのスタンパとの貼り合わせ及び剥離を容易とし、スタンパの寿命を向上する。
【解決手段】使用される紫外線硬化性樹脂材料が下記式(1)で表されるモノマーを含有し、スタンパとして樹脂スタンパ3を使用し、かつ磁気記録層7表面と樹脂スタンパ3の凹凸パターン面との貼り合わせを真空下で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録層表面にディスクリートトラックを有する磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体のさらなる高密度化に対応するために、隣接する記録トラックを溝または非磁性材料からなるガードバンドで分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラック媒体が注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。このようなディスクリートトラック媒体を製造する際には、スタンパを用いてインプリント法により磁性層のパターンを形成することができ、インプリント法によって記録トラックのパターンとともにサーボ領域の信号に相当する磁性層のパターンも形成すれば、サーボトラックライトの工程をなくせるので、コスト低減にもつながる。
【0003】
従来、ディスクリートトラック媒体は、Niスタンパーから高圧インプリント法または熱インプリント法によりレジストパターンを転写し製造されていたが、従来技術では、Niスタンパーの寿命が短く大量生産には適していない。また、高データ密度化されトラックが微細になった際にはレジストパターンの転写が上手くいかなかった。
【特許文献1】特開2004−110896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ディスクリート媒体の磁気記録層表面に形成された紫外線硬化性樹脂層と、紫外線硬化性樹脂層に凹凸パターンを転写するためのスタンパとの貼り合わせ及び剥離を容易とし、スタンパの寿命を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、真空下で、データ領域、サーボ領域を含む磁気記録媒体の磁気記録層表面と樹脂スタンパの凹凸パターン面とを下記式(1)で表されるモノマーを含有する未硬化の紫外線硬化性樹脂層を介して貼り合わせ、
該未硬化の紫外線硬化性樹脂層に紫外線を照射して、硬化せしめ、
該樹脂スタンパを剥離して、前記磁気記録媒体の片面上に凹凸パターンが転写された紫外線硬化性樹脂層を形成し、
紫外線硬化性樹脂層をマスクとしてドライエッチングを行い、磁気記録層表面に、凹凸パターンを形成することを特徴とする。
【化5】

【0006】
また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料は、上記式(1)で表されるモノマーを含有し、データ領域、サーボ領域を含む磁気記録媒体の磁気記録層表面上に、樹脂スタンパの凹凸パターンが転写される未硬化の紫外線硬化性樹脂層を形成するために使用される。
【発明の効果】
【0007】
本発明を用いると、紫外線硬化性樹脂層とのスタンパとの貼り合わせ及び剥離が容易となり、スタンパの寿命が向上し得、より微細なパターンに対応し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、まず、基板、及び基板の少なくとも一方の主面上に、データ領域、サーボ領域を含む磁気記録層と含む磁気記録媒体と、金属スタンパから射出成形により複製された凹凸パターンを有する樹脂スタンパとを用意する。
【0009】
次に、磁気記録層上に上記式(1)で表されるモノマーを主成分として含有する未硬化の紫外線硬化性樹脂層を形成する。
【0010】
続いて、真空下で磁気記録層表面とスタンパの凹凸パターン面とを未硬化の紫外線硬化性樹脂層を介して貼り合わせる。
【0011】
その後、未硬化の紫外線硬化性樹脂層に紫外線を照射して、硬化せしめ、樹脂スタンパを剥離して、磁気記録媒体の片面上に凹凸パターンが転写された紫外線硬化性樹脂層を形成する。
【0012】
さらに、紫外線硬化性樹脂層をマスクとしてドライエッチングを行い、磁気記録層表面に、凹凸パターンを形成する。
【0013】
本発明を用いると、貼り合わせ及び剥離が容易となり、スタンパー及び転写パターンが損傷し難くなるため、コストを上昇させずにスタンパー寿命を長くでき、パターン転写時間を短縮して、微細なパターンにも対応可能となる。これにより、ディスクリートトラックを持つ磁気記録媒体の製造コストの低減及びデータの高密度化が可能となる。
【0014】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、使用される紫外線硬化性樹脂材料が上記式(1)で表されるモノマーを含有し、スタンパとして樹脂スタンパを使用し、かつ磁気記録層表面と樹脂スタンパの凹凸パターン面との貼り合わせを真空下で行うこと特徴とする。
【0015】
本発明に使用し得る紫外線硬化性樹脂は、モノマーと、オリゴマーと、重合開始剤とを含有し得る。
【0016】
上記式(1)で表されるイソボルニルアクリレート(IBOA)モノマーは、主成分として含有し得、必要に応じて、他のモノマーを併用することが出来る。ここでは、主成分とは、物質を構成する成分の中で成分比が一番多い元素または元素群をいう。
【0017】
モノマー材料としては、下記のようなものが使われる。
【0018】
・アクリレート類
ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート(BPEDA)
ジペンタエリスリトールヘキサ(ペンタ)アクリレート(DPEHA)
ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート(DPEHPA)
ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)
エトキシレイテドトリメチロールプロパントリアクリレート(ETMPTA)
グリセリンプロポキシトリアクリレート(GPTA)
4−ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)
2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)
イソボルニルアクリレート(IBOA)
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEDA)
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)
テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)
トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)
トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)
・メタクリレート類
テトラエチレングリコールジメタクリルレート(4EDMA)
アルキルメタクリレート(AKMA)
アリルメタクリレート(AMA)
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート(BDMA)
n−ブチルメタクリレート(BMA)
ベンジルメタクリレート(BZMA)
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)
ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)
2−エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)
グリシジルメタクリレート(GMA)
1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)
イソボルニルメタクリレート(IBMA)
ラウリルメタクリレート(LMA)
フェノキシエチルメタクリレート(PEMA)
t−ブチルメタクリレート(TBMA)
テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)
トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPMA)
特に、イソボルニルアクリレート(IBOA)と同様に、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPDA)、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート(TITA)などが粘度10CP以下にすることができるため良好である。
【0019】
オリゴマー材料としては、例えばウレタンアクリレート系材料、ポリウレタンジアクリレート(PUDA)やポリウレタンヘキサアクリレート(PUHA)、及び下記式(2)で表されるウレタンアクリレートを使用することが出来る。
【0020】
本発明の一態様によれば、式(2)で表されるウレタンアクリレートを使用することができる。
【化6】

【0021】
式中、n=25
その他、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、フッ化ポリメチルメタクリレート(PMA−F)、ポリカーボネートジアクリエート、フッ化ポリカーボネートメチルメタクリレート(PMMA−PC−F)などが使われる。
【0022】
紫外線硬化性樹脂層は、80〜90重量%の上記式(1)で表されるイソボルニルアクリレートモノマーと、2500よりも大きい分子量をもつオリゴマーとを含有する紫外線硬化性樹脂材料を用いて形成することができる。
【0023】
イソボルニルアクリレートモノマーの量が80重量%より少ないと、磁気記録媒体表面層との密着が悪くなり樹脂スタンパ剥離後に樹脂スタンパへの付着が多くなる、薄膜化するためにスピン塗布時の回転時間が長くなり生産性が悪くなる、硬化させるための紫外線照射時間が長くなる、ドライエッチング耐性が悪くなりドライエッチング時に溝幅が広くなる傾向があり、90重量%より多いと、磁気記録媒体表面層との密着が悪くなり樹脂スタンパ剥離後に樹脂スタンパと接着しやすくなり樹脂スタンパ表面が破壊する、硬化後の硬さが柔らかくなり有機溶剤耐性、水耐性が悪くなる、酸素ガスによるドライエッチング加工時のエッチング残りが多くなってくる傾向がある。
【0024】
また、オリゴマーの分子量が2500以下であると、硬化後の紫外線硬化樹脂の柔軟性が悪くなる、樹脂スタンパーと接着しやすくなる、ドライエッチング耐性が悪くなりドライエッチング時に表面が荒れる傾向がある。
【0025】
また、紫外線硬化性樹脂の硬化前の粘度を25℃で10センチポアズ(CP)以下にすることができる。
【0026】
10センチポアズを超えると、薄膜化できなくなる、スピン塗布時に内周の膜厚と外周の膜厚の差が大きくなる、膜厚ばらつきが大きくなる、樹脂スタンパ剥離後に表面に模様が生じる、真空貼り合わせ時に樹脂スタンパが変形しやすくなる傾向がある。
【0027】
重合開始剤としては、チバガイギー社製 イルガキュア184及びチバガイギー社製 ダロキュア1173などが使われる。
【0028】
本発明に使用されるスタンパ用樹脂材料としては、環状オレフィンポリマー例えば日本ゼオン製 ZEONOR 1060R、ポリカーボネート例えば帝人化成製 AD5503等を使用することが出来る。これらの樹脂を用いると、紫外線透過性の良好な透明な樹脂スタンパが形成できる。
【0029】
また、本発明に用いられる樹脂スタンパは、例えば電子線記録装置により電子線レジストを有する第1の原盤に記録し、電鋳により第1の金属スタンパーを第1の原盤から複製し、電鋳により第2の金属スタンパーを第1の金属スタンパーから複製した後、第2の金属スタンパーまたは第2+N(Nは自然数)の金属スタンパーから射出成形により複製することができる。
【0030】
また、本発明では、真空下でスタンパを未硬化の紫外線硬化性樹脂層に貼り合わせてパターン転写を行う。
【0031】
以下、図面を参照し、本発明に用いられるパターン転写方法を図1(a)〜(d)を参照して概略的に説明する。
【0032】
これらの図は媒体基板の片面にパターンを転写する場合を示している。図1(a)に示すように、スピナー41に媒体基板51を設置する。図1(b)に示すように、スピナー41とともに媒体基板51をスピンさせながら、ディスペンサー42から紫外線硬化樹脂(2P樹脂)を滴下してスピン塗布する。図1(c)に示すように、真空チャンバー81内において、真空下で、磁気記録媒体51の片面と透明スタンパ71のパターン面とを2P樹脂層(図示せず)を介して貼り合わせる。図1(d)に示すように、大気圧下でUV光源43から透明スタンパ71を通してUVを照射して2P樹脂層を硬化させる。図1(d)の後に、透明スタンパ71を剥離する。
【0033】
本発明に使用可能な磁気ディスク基板としては、たとえばガラス基板、Al系合金基板、セラミック基板、カーボン基板、酸化表面を有するSi単結晶基板、およびこれらの基板の表面にNiP層を形成したものなどを用いることができる。ガラス基板には、アモルファスガラスまたは結晶化ガラスを用いることができる。アモルファスガラスとしては、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスなどがある。結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスなどがある。セラミック基板としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの焼結体を繊維強化したものなどを用いることができる。基板の表面にNiP層を形成するには、メッキやスパッタリングが用いられる。
【0034】
垂直磁気記録媒体を作製する場合には、基板上に軟磁性下地層(SUL)介して垂直磁気記録層を設けたいわゆる垂直二層媒体とすることができる。垂直二層媒体の軟磁性下地層は、記録磁極からの記録磁界を通過させ、記録磁極の近傍に配置されたリターンヨークへ記録磁界を還流させるために設けられている。すなわち、軟磁性下地層は記録ヘッドの機能の一部を担っており、記録層に急峻な垂直磁界を印加して、記録効率を向上させる役目を果たす。
【0035】
本発明に使用可能な軟磁性下地層としては、例えばFe、NiおよびCoのうち少なくとも1種を含む高透磁率材料が挙げられる。このような材料として、FeCo系合金たとえばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金たとえばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系およびFeSi系合金たとえばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金たとえばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金たとえばFeZrNなどが挙げられる。
【0036】
軟磁性下地層として、Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造、または微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることもできる。
【0037】
軟磁性下地層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、TiおよびYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることもできる。Coは、好ましくは80at%以上含まれる。このようなCo合金をスパッタリングにより成膜した場合にはアモルファス層が形成されやすい。アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示す。また、アモルファス軟磁性材料を用いることにより、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、たとえばCoZr、CoZrNb、及びCoZrTa系合金などを挙げることができる。
【0038】
軟磁性下地層の下に、軟磁性下地層の結晶性の向上あるいは基板との密着性の向上のためにさらに下地層を設けることができる。下地層材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、もしくはこれらを含む合金、またはこれらの酸化物、窒化物を用いることができる。
【0039】
軟磁性下地層と垂直磁気記録層との間に、非磁性体からなる中間層を設けることができる。中間層の役割は、軟磁性下地層と記録層との交換結合相互作用を遮断すること、および記録層の結晶性を制御することである。中間層材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、もしくはこれらを含む合金、またはこれらの酸化物、窒化物を用いることができる。
【0040】
スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け、厚さ0.5〜1.5nmのRuを挟んで反強磁性結合させることができる。また、軟磁性層と、CoCrPt、SmCo、FePtなどの面内異方性を持った硬磁性膜またはIrMn、PtMnなどの反強磁性体からなるピニング層とを交換結合させることができる。この場合、交換結合力を制御するために、Ru層の上下に、磁性層たとえばCo、または非磁性層たとえばPtを積層することができる。
【0041】
本発明に使用可能な垂直磁気記録層には、たとえば、Coを主成分とし、少なくともPtを含み、必要に応じてCrを含み、さらに酸化物(たとえば酸化シリコン、酸化チタン)を含む材料が用いることができる。垂直磁気記録層中では、磁性結晶粒子が柱状構造をなしていることが好ましい。このような構造を有する垂直磁気記録層では、磁性結晶粒子の配向性および結晶性が良好であり、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)を得ることができる。上記のような構造を得るためには、酸化物の量が重要になる。酸化物の含有量は、Co、Pt、Crの総量に対して、3mol%以上12mol%以下にすることができる、さらには、5mol%以上10mol%以下にすることができる。垂直磁気記録層中の酸化物の含有量が上記の範囲であれば、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子を孤立化および微細化させることができる。酸化物の含有量が上記範囲を超える場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されない傾向がある。一方、酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の孤立化および微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られない傾向がある。
【0042】
垂直磁気記録層のPtの含有量は、10at%以上25at%以下にすることができる。Pt含有量が上記範囲であると、垂直磁気記録層に必要な一軸磁気異方性定数Kuが得られ、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好になり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られる。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがある。一方、Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適したKuしたがって熱揺らぎ特性が得られない傾向がある。
【0043】
垂直磁気記録層のCrの含有量は、0at%以上16at%以下が好ましく、10at%以上14at%以下がより好ましい。Cr含有量が上記範囲であると、磁性粒子の一軸磁気異方性定数Kuを下げることなく高い磁化を維持でき、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られる。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、かつ磁性粒子の結晶性、配向性が悪化し、結果として記録再生特性が悪くなる傾向がある。
【0044】
垂直磁気記録層は、Co、Pt、Cr、酸化物に加えて、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の添加元素を含むことができる。これらの添加元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進するか、または結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。これらの添加元素の合計含有量は、8at%以下にすることができる。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られない傾向がある。
【0045】
垂直磁気記録層の他の材料としては、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSiが挙げられる。垂直磁気記録層に、Pt、Pd、RhおよびRuからなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする合金と、Coとの多層膜を用いることもできる。また、これらの多層膜の各層に、Cr、BまたはOを添加した、CoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどの多層膜を用いることもできる。
【0046】
垂直磁気記録層の厚さは、5〜60nmにすることができる、さらには10〜40nmにすることができる。この範囲の厚さを有する垂直磁気記録層は高記録密度に適している。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向がある。一方、垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上にすることができる。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上にすることができる。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
【0047】
垂直磁気記録層上には保護層を設けることが出来る。
【0048】
保護層は、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ作用を有する。保護層の材料としては、たとえばC、SiO、ZrOを含む材料が挙げられる。保護層の厚さは、1〜10nmとすることが好ましい。保護層の厚さを上記の範囲にすると、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録に好適である。
【0049】
垂直磁気記録媒体表面には、潤滑剤としては、たとえばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などを塗布することができる。
【0050】
図2に、磁気記録媒体を記録再生する磁気記録再生装置を表す図を示す。
【0051】
この磁気記録装置は、筐体61の内部に、磁気記録媒体62と、磁気記録媒体62を回転させるスピンドルモータ63と、記録再生ヘッドを含むヘッドスライダー64と、ヘッドスライダー64を支持するヘッドサスペンションアッセンブリ(サスペンション65とアクチュエータアーム66)と、ボイスコイルモータ67と、回路基板とを備える。
【0052】
磁気記録媒体62はスピンドルモータ63に取り付けられて回転され、垂直磁気記録方式により各種のデジタルデータが記録される。ヘッドスライダー64に組み込まれている磁気ヘッドはいわゆる複合型ヘッドであり、単磁極構造のライトヘッドと、GMR膜やTMR膜などを用いたリードヘッドとを含む。アクチュエータアーム66の一端にサスペンション65が保持され、サスペンション65によってヘッドスライダー64を磁気記録媒体62の記録面に対向するように支持する。アクチュエータアーム66はピボット68に取り付けられる。アクチュエータアーム64の他端にはアクチュエータとしてボイスコイルモータ67が設けられている。ボイスコイルモータ67によってヘッドサスペンションアッセンブリを駆動して、磁気ヘッドを磁気記録媒体61任意の半径位置に位置決めする。回路基板はヘッドICを備え、ボイスコイルモータの駆動信号、および磁気ヘッドによる読み書きを制御するための制御信号などを生成する。
【0053】
この磁気ディスク装置を用い、加工した磁気記録媒体からアドレス信号等を再生することが出来る。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
【0055】
図3は、本発明の方法を説明するための図を示す。
【0056】
図3に示す工程に従って、本実施例の磁気ディスクを作製した。
【0057】
この磁気ディスクは半径9mm〜22mmのデータゾーンにおいて、トラック密度が325kTPI(track per inch、78nmトラックピッチに相当)である。
【0058】
このようなサーボ領域を有する磁気ディスクを製造するには、磁気ディスク上の磁性層パターンと対応する凹凸パターンを有するスタンパを用いてインプリントを行う。なおインプリントおよびその後の加工によって形成された磁性層の凹凸パターンは非磁性材料によってその凹部が埋め込まれ、表面が平坦化されていても構わない。
【0059】
以下、本実施例の磁気ディスクの製造方法を説明する。
まず、スタンパを作製した。
スタンパの型となる原盤の基板として6インチ径のSiウエハーを用意した。一方、日本ゼオン社製のレジストZEP−520Aをアニソールで2倍に希釈し、0.05μmのフィルタでろ過した。Siウエハー上にレジスト溶液をスピンコートした後、200℃で3分間プリベークして、厚さ約50nmのレジスト層を形成した。
【0060】
ZrO/W熱電界放射型の電子銃エミッターを有する電子ビーム描画装置を用い、加速電圧50kVの条件で、Siウエハー上のレジストに所望のパターンを直接描画した。描画時にはサーボパターン、バーストパターン、アドレスパターン、トラックパターンを形成するための信号と、描画装置のステージ駆動系(少なくとも一方向の移動軸の移動機構と回転機構とを有する、いわゆるX−θステージ駆動系)へ送る信号と、電子ビームの偏向制御信号とを同期させて発生する信号源を用いた。描画中は線速度500mm/sのCLV(Constant Linear Velocity)でステージを回転させるとともに、半径方向にもステージを移動させた。また、1回転毎に電子ビームに偏向をかけて、同心円をなすトラック領域を描画した。なお、1回転あたり7.8nmずつ送り、10周で1トラック(1アドレスビット幅に相当)を形成した。
【0061】
SiウエハーをZED−N50(日本ゼオン社製)に90秒間浸漬してレジストを現像した後、ZMD−B(日本ゼオン社製)に90秒間浸漬してリンスを行い、エアーブローにより乾燥させ、図示しないレジスト原盤を作製した。
【0062】
レジスト原盤上にスパッタリングによってNiからなる導電膜を形成した。具体的には、ターゲットに純ニッケルを使用し、8×10−3Paまで真空引きした後、アルゴンガスを導入して圧力を1Paに調整したチャンバー内で400WのDCパワーを印加して40秒間スパッタリングを行い、厚さ約10nmの導電膜を成膜した。
【0063】
導電膜をつけたレジスト原盤をスルファミン酸ニッケルメッキ液(昭和化学(株)製、NS−160)に浸漬し、90分間Ni電鋳して、厚さ約300μmの電鋳膜を形成した。電鋳浴条件は次の通りである。
【0064】
電鋳浴条件
スルファミン酸ニッケル:600g/L
ホウ酸:40g/L
界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム):0.15g/L
液の温度:55℃
pH:4.0
電流密度:20A/dm
レジスト原盤から、電鋳膜および導電膜をレジスト残渣がついた状態で剥離した。酸素プラズマアッシングによりレジスト残渣を除去した。具体的には、酸素ガスを100ml/minで導入して圧力を4Paに調整したチャンバー内で100Wのパワーを印加して20分間プラズマアッシングを行った。図3(a)に示すように、こうした導電膜および電鋳膜を含むファザースタンパ1を得た。その後、さらに電鋳を行い、図3(b)に示すようなマザースタンパー2を複製し、マザースタンパ2の不要部を金属刃で打ち抜くことにより射出成形用スタンパを得た。
【0065】
このマザースタンパー2から図3(c)に示すように、東芝機械製射出成形装置により樹脂スタンパー3を複製した。成形材料としては、日本ゼオン社製 環状オレフィンポリマー ZEONOR 1060Rを用いた。
【0066】
次に、磁気ディスクを作製した。
図3(g)に示す1.8インチ径のドーナツ型ガラスからなるディスク基板4上に、図3(h)に示すように、スパッタリングにより、軟磁性下地層及び磁性層を含む磁気記録層5を形成した。
【0067】
磁気記録層5は、軟磁性下地層と磁性層を含む二層膜媒体用の磁気記録層である。ターゲットとしてCoZrNbを用いて軟磁性下地層を100nm形成した後、Ruターゲットを用いて下地層を20nm形成し、さらにターゲットとしてCoPtCrSiを使用し、Arガス雰囲気で、公知の手法によりスパッタリングを行うことにより、垂直磁気記録層を20nmの厚さに形成した。
【0068】
図3(i)に示すように、この磁気記録層5上に表面保護層6を形成した後、紫外線硬化樹脂材料からなるレジスト7を図3(j)に示すように、回転数10000rpmでスピンコートした。
【0069】
使用した紫外線硬化樹脂材料は、モノマー、オリゴマー、重合開始剤から構成され、溶媒は含まない。
【0070】
ここでは、モノマーをイソボルニルアクリレート(IBOA)とし、オリゴマーとして、各々、上記式(2),下記式(4),(5)で表されるウレタンアクリレート3種を選択し、重合開始剤として下記式(3)で表されるダロキュア1173を用いた。組成はIBOA 85%、オリゴマー10%、重合開始剤 5%である。
【化7】

【0071】
式中、R1,R3は以下の通りである。
【化8】

【0072】
式中、R2は以下の通りである。
【化9】

【0073】
【化10】

【0074】
式中、R4は以下の通りである
【化11】

【0075】
式中、R5は以下の通りである
【化12】

【0076】
式中、R6は以下の通りである
【化13】

【0077】
【化14】

【0078】
図3(c)に示すように、真空貼り合わせ法により樹脂スタンパ3をディスク基板表面の紫外線硬化樹脂レジスト7に貼り合わせ、紫外線照射し樹脂を硬化させた後、図3(d)に示すように、樹脂スタンパー3を剥離した。
【0079】
紫外線インプリントによる凹凸形成プロセスでは、パターン凹部の底にレジスト残渣が残る。
【0080】
次に、酸素ガスを用いたRIEにより、パターン凹部の底にあるレジスト残渣を除去した。レジスト7のパターンをマスクとして、Arイオンミリングにより、図3(e)に示すように、磁気記録層をエッチングした。続いて、図3(f)に示すように、酸素RIEによりレジストのパターンを剥離した。さらに全面に図示しないカーボン保護層を成膜した。その後、作製した磁気ディスクに潤滑剤を塗布する。
【0081】
ここで、上述した磁気ディスク媒体においては、磁気記録層をレジストのマスクがない部位において底までエッチングしているが、途中でArイオンミリングを止め、凹凸が出来る程度の媒体であっても構わない。また、初めに磁性層を設けずにスタンパを基板上のレジストにインプリントした後エッチングするなどして先に基板形状に凹凸を設け、その後磁性膜を製膜した媒体であっても構わない。さらに、上述したものを含めいずれの場合にも溝部が何らかの非磁性材料によって埋め込まれていても構わない。
【0082】
1つのNiスタンパを用いて上述した方法により樹脂スタンパーを複製し、紫外線硬化樹脂によるレジストマスク転写を行った。各紫外線硬化樹脂について100枚の磁気ディスクを複製した。
【0083】
まず、モノマーの構成割合と紫外線硬化樹脂の粘度との関係は60%にて粘度20CP、70%にて15CP、75%にて12CP、80%にて10CP、85%にて8CP、90%にて6CP、95%にて4CPとなった。
【0084】
オリゴマーとしては分子量2500(TS2P−01B)、10000(TS2P−01A)、10000(TS2P−01C)を試したが、TS2P−01Bでは樹脂スタンパーと磁気ディスク媒体からの剥離が上手くいかずに紫外線硬化樹脂レジスト層が100枚中55枚は破壊することがあった。
【0085】
モノマー割合60%の紫外線硬化樹脂の場合は100枚中73枚が樹脂スタンパーと接着してしまい剥離ができなかった。
【0086】
モノマー割合70%の紫外線硬化樹脂の場合は100枚中61枚が剥離後に樹脂スタンパーに紫外線硬化樹脂が付着した。
【0087】
モノマー割合75%の紫外線硬化樹脂の場合は100枚中5枚が剥離後に樹脂スタンパーに紫外線硬化樹脂が付着した。
【0088】
モノマー割合80%以上の紫外線硬化樹脂の場合は100枚とも問題なく剥離でき磁気ディスク媒体作製ができた。
【0089】
この紫外線硬化樹脂により、1000枚の磁気ディスクを製造した。適当なインプリント回数ごとに製造された磁気ディスクを用いて磁気記録装置を作製し、アドレス信号を検出した。その結果、1000枚目の磁気ディスクを含めていずれの磁気ディスクを用いた場合にも、内周位置から外周位置にかけて所定のアドレス信号が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明に用いられるパターン転写方法を説明するための図
【図2】磁気記録再生装置を表す図
【図3】磁気記録再生装置を表す図
【符号の説明】
【0091】
3,71…樹脂スタンパ,5…磁気記録層,7…紫外線硬化性樹脂層,51,62…磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空下で、データ領域、サーボ領域を含む磁気記録媒体の磁気記録層表面と、樹脂スタンパの凹凸パターン面とを、下記式(1)で表されるモノマーを含有する未硬化の紫外線硬化性樹脂層を介して貼り合わせ、
該未硬化の紫外線硬化性樹脂層に紫外線を照射して、硬化せしめ、
該樹脂スタンパを剥離して、前記磁気記録媒体の片面上に凹凸パターンが転写された紫外線硬化性樹脂層を形成し、
紫外線硬化性樹脂層をマスクとしてドライエッチングを行い、磁気記録層表面に、凹凸パターンを形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記未硬化の紫外線硬化性樹脂層は、80〜90重量%の前記モノマーと、2500よりも大きい分子量をもつオリゴマーとを含有する紫外線硬化性樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未硬化の紫外線硬化性樹脂層は、さらに下記式(2)で表されるオリゴマーとを含有する紫外線硬化性樹脂材料を用いて形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【化2】

式中、n=25
【請求項4】
前記紫外線硬化性樹脂の硬化前の粘度が25℃で10センチポアズ以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
下記式(1)で表されるモノマーを含有し、データ領域、サーボ領域を含む磁気記録媒体の磁気記録層表面上に、樹脂スタンパの凹凸パターンが転写される未硬化の紫外線硬化性樹脂層を形成するための紫外線硬化性樹脂材料。
【化3】

【請求項6】
前記未硬化の紫外線硬化性樹脂層は、80〜90重量%の前記モノマーと、2500よりも大きい分子量をもつオリゴマーとを含有する紫外線硬化性樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする請求項5に記載の紫外線硬化性樹脂材料。
【請求項7】
前記未硬化の紫外線硬化性樹脂層は、さらに下記式(2)で表されるオリゴマーとを含有する紫外線硬化性樹脂材料を用いて形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の紫外線硬化性樹脂材料。
【化4】

式中、n=25
【請求項8】
硬化前の粘度が25℃で10センチポアズ以下であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項に記載の紫外線硬化性樹脂材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146685(P2010−146685A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326225(P2008−326225)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】