説明

磁気記録媒体及びその製造方法並びに微結晶金属薄膜の形成方法

【課題】 結晶粒の小さな微結晶金属薄膜を用いた磁気記録媒体及びその製造方法、並びに微結晶金属薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】ニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種の金属とIV族元素とを含み、軟磁性体である多結晶薄膜からなる微結晶金属薄膜102を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法並びに微結晶金属薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の微結晶金属膜を製造する方法は、結晶粒に相当する粉体状の材料に高い圧力等を掛けさらに高温度に晒すことで(焼結)、固体状にするか、又は、さらにその固体状の材料を原料ターゲットにしてスパッタリング法等で薄膜を形成するなどの方法が採用される。また、薄膜をパターンニングする場合は、フォトリソグラフィーとエッチング等により、材料毎に設定した手法、条件で加工することが行われている。
【0003】
また、このような微結晶金属膜を磁気記録媒体とする場合、微結晶の大きさが記録密度に大きく影響する。
【0004】
しかしながら、上述した従来の方法では、材料である粉体の製造方法、さらに焼結での高温処理、およびスパッタリングによるイオン衝撃のばらつき等の原因により、結晶粒の粒径の最小は数百nm程度と限界があり、かつ、原理上、粒径のばらつきが大きいという問題がある。
【0005】
一方、記録層の硬磁性ナノ粒子と同等の粒径、例えば、粒径1nm〜20nmの軟磁性ナノ粒子を用いた中間層を有する磁気記録媒体が開示されている(特許文献1参照)が、軟磁性ナノ粒子はカーボン相により隔離されて配列されたものである。また、かかる磁気記録媒体は、中間層の下地に、Fe、Co、Ni、Al、Si,Taなどの所定の元素を含む非晶質もしくは微結晶の合金からなる軟磁性裏打ち層を具備するものであるが、結晶粒径の記載はない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−362746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、結晶粒の小さな微結晶金属薄膜を用いた磁気記録媒体及びその製造方法、並びに微結晶金属薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、ニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種の金属とIV族元素とを含み、軟磁性体である多結晶薄膜からなる微結晶金属薄膜を含むことを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0009】
かかる第1の態様では、IV族元素を含有する多結晶薄膜は、実質的には金属薄膜として機能する軟磁性体である微結晶であり、磁性材料薄膜として使用される。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が前記金属を80質量%以上含有することを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0011】
かかる第2の態様では、微結晶金属薄膜は金属を80%以上含有する薄膜である。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が、磁気異方性を有さないことを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0013】
かかる第3の態様では、微結晶金属薄膜は磁気異方性がなく、磁気記録材料として好適なものである。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が、IV族元素からなるIV族薄膜に、前記金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させて形成されたものであることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0015】
かかる第4の態様では、IV族薄膜に、金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させて金属をIV族薄膜に置換拡散させることにより、微結晶金属薄膜が形成される。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様に記載の磁気記録媒体において、前記IV族元素が、シリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0017】
かかる第5の態様では、金属と共に、IV族元素としてシリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む微結晶金属薄膜となる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の磁気記録媒体において、前記金属がニッケルであり、前記IV族元素がシリコンであることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0019】
かかる第6の態様では、ニッケルと共に、IV族元素としてシリコンを含む磁気記録媒体となる。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の磁気記録媒体において、前記微結晶金属薄膜上に磁気記録膜を具備することを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0021】
かかる第7の態様では、微結晶金属薄膜が磁性材料として機能し、磁気記録膜に記録するために用いられる。
【0022】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録膜が、面内磁気記録方式又は垂直磁気記録方式により記録されるものであることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0023】
かかる第8の態様では、磁気記録膜は、面内磁気記録方式又は垂直磁気記録方式により記録される。
【0024】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に記載の磁気記録媒体において、磁気テープ、ハードディスク又は光ディスクであることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0025】
かかる第9の態様では、微結晶金属薄膜を磁性材料として用いた磁気テープ、ハードディスク又は光ディスクが実現される。
【0026】
本発明の第10の態様は、被処理体の表面に形成されたIV族元素からなるIV族薄膜に、ニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種である金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、前記IV族薄膜を多結晶薄膜からなる微結晶金属薄膜とすることを特徴とする微結晶金属薄膜の形成方法にある。
【0027】
かかる第10の態様では、実質的には金属薄膜として機能する結晶粒径が100nm以下の微結晶の多結晶薄膜を形成することができる。
【0028】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載の微結晶金属薄膜の形成方法おいて、前記IV族薄膜を所定形状にパターニングしてIV族薄膜パターンを形成した後、当該IV族薄膜パターンに前記前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることを特徴とする微結晶金属薄膜の形成方法にある。
【0029】
かかる第11の態様では、所定形状にパターニングされた微結晶金属薄膜が比較的容易に形成できる。
【0030】
本発明の第12の態様は、真空容器であるチャンバの内部にニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種である金属を含む材料で形成した被エッチング部材を配設すると共に当該被エッチング部材にハロゲンを含む作用ガスをプラズマ化して得られるハロゲンラジカルを作用させることにより金属とハロゲンとの化合物である前駆体を形成する一方、表面にIV族元素からなるIV族薄膜を有する被処理体を前記チャンバ内に収納した状態でその温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持して前記前駆体を前記IV族薄膜パターンの表面に吸着させると共に前記ハロゲンのラジカルを作用させることにより微結晶金属薄膜とする工程を具備することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法にある。
【0031】
かかる第12の態様では、IV族薄膜に金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、金属がIV族薄膜中に置換拡散し、微結晶金属薄膜が形成され、これを適用した磁気記録媒体とすることができる。
【0032】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記IV族元素が、シリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法にある。
【0033】
かかる第13の態様では、シリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素からなるIV族薄膜に金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、金属がIV族薄膜中に置換拡散し、微結晶金属薄膜が形成される。
【0034】
本発明の第14の態様は、第12又は13の態様に記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記IV族薄膜が、多結晶シリコン薄膜であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法にある。
【0035】
かかる第14の態様では、多結晶シリコン薄膜中に金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、金属がIV族薄膜中に置換拡散し、微結晶金属薄膜が形成される。
【0036】
本発明の第15の態様は、第12〜14の何れかの態様に記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記被処理体の温度を200℃〜300℃とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法にある。
【0037】
かかる第15の態様では、200℃〜300℃という低温でIV族薄膜に金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、多結晶薄膜の結晶粒径がさらに微細となる。
【0038】
本発明の第16の態様は、第12〜15の何れかの態様に記載の磁気記録媒体の製造方法において、前記微結晶金属薄膜が金属を80質量%以上含有するように形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法にある。
【0039】
かかる第16の態様では、微結晶金属薄膜が金属を80%以上含有し、軟磁性体として優れた特性を有する。
【発明の効果】
【0040】
かかる本発明によれば、軟磁性体として機能するIV族元素を含有する多結晶薄膜が比較的微結晶となり且つ金属薄膜として機能するので、高機能な磁気記録媒体が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、本発明者等によって開発された、金属をハロゲン化して再び還元し堆積させる技術(以下、MCR−CVD法(塩化還元気相成長法)という。)を応用したものである。よって、MCR−CVD法を最初に簡単に説明する。
【0042】
かかるMCR−CVD法では、まず、金属(M)製の被エッチング部材が備えられたチャンバ内にハロゲンを含む作用ガスを供給し、誘導プラズマを発生させてハロゲンガスプラズマを発生させ、ハロゲンラジカルを生成する。その後、ハロゲンラジカルで被エッチング部材をエッチングすることにより被エッチング部材に含まれる金属成分とハロゲンガス成分との前駆体を生成し、被エッチング部材よりも低い温度の基板上において、前駆体をハロゲンラジカルにより還元し、金属成分を基板表面に吸着させる方法である。
【0043】
かかる一連の反応はハロゲンを塩素とした場合、次式の様に表される。
(1)プラズマの解離反応;Cl2→2Cl*
(2)エッチング反応;M+Cl*→MCl(g)
(3)基板への吸着反応;MCl(g)→MCl(ad)
(4)成膜反応;MCl(ad)+Cl*→M+Cl2
式中のCl*は塩素ラジカル、(g)はガス状態、(ad)は吸着状態を示す。金属Mにはハロゲン化物を作る物質(銅など)が使用される。
【0044】
かかる、MCR−CVD法を応用した本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、本実施の形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。
【0045】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の一実施形態に係る多結晶ニッケル薄膜の製造方法を実現する装置(MCR−CVD装置)の概略を示す正面図である。本形態に係る方法の説明に先立ち、この装置について説明しておく。
【0046】
図1に示すように、例えば石英を材料として円筒状に形成されたチャンバ1の底部近傍には支持台2が設けられ、支持台2には石英で形成した被処理部材3が載置されている。この被処理部材3としては、図2(a)に示すように、シリコン基板31の表面に形成された酸化シリコン膜(二酸化シリコン膜)32上に形成した多結晶シリコン膜33を有するものを用いる。
【0047】
支持台2にはヒータ4及び冷媒流通手段5を備えた温度制御手段6が設けられている。ここで、支持台2は温度制御手段6により所定温度(例えば、被処理部材3が250℃乃至300℃に維持される温度)に制御される。
【0048】
チャンバ1の上面は開口部とされ、開口部は絶縁材料製の板状の天井板7によって塞がれている。天井板7の上方にはチャンバ1の内部をプラズマ化するためのプラズマアンテナ8が設けられ、プラズマアンテナ8は天井板7の面と平行な平面リング状に形成されている。プラズマアンテナ8には整合器9及び電源10が接続されて高周波電流が供給される。これら、プラズマアンテナ8、整合器9及び電源10により誘導プラズマを発生させるプラズマ発生手段が構成されている。
【0049】
チャンバ1にはニッケルを含む材料で形成した被エッチング部材11が保持され、この被エッチング部材11はプラズマアンテナ8の電気の流れに対して被処理部材3と天井板7との間に不連続状態で配置されている。例えば、被エッチング部材11は、棒状の突起部12とリング部13とからなり、突起部12がチャンバ1の中心側に延びるようにリング部13が設けられている。これにより、被エッチング部材11はプラズマアンテナ8の電気の流れ方向である周方向に対して構造的に不連続な状態とされている。
【0050】
なお、プラズマアンテナ8の電気の流れに対して不連続状態にする構成としては、被エッチング部材11を格子状に形成したり、網目状に形成したりする等の態様が考えられる。
【0051】
被エッチング部材11の上方におけるチャンバ1の筒部の周囲にはチャンバ1の内部にハロゲンである塩素を含有する作用ガス(Cl2ガス)21を供給するノズル14が周方向に等間隔で複数(例えば8箇所:図には2箇所を示してある)接続されている。ノズル14には流量及び圧力が制御される流量制御器15を介してCl2ガス21が送られる。流量制御器15によりチャンバ1内に供給されるCl2ガス21の量を制御することで、チャンバ1内のガスプラズマ密度を制御している。
【0052】
なお、反応に関与しないガス等は排気口18から排気され、天井板7によって塞がれたチャンバ1の内部は真空装置19によって真空引きすることにより所定の真空度に維持される。
【0053】
ここで、作用ガスに含有されるハロゲンとしては、フッ素、臭素及びヨウ素等を適用することが可能である。本形態ではハロゲンとして安価なCl2ガスを用いたことによりランニングコストの低減を図ることができる。
【0054】
かかる装置を使用して、被処理部材3を処理すると、酸化シリコン膜32上に形成されている多結晶シリコン膜33が、図2(b)に示すように、ニッケルを含有する微結晶ニッケル薄膜34となる。
【0055】
以下、このような微結晶ニッケル薄膜34の形成プロセスについて説明する。
【0056】
まず、ノズル14からCl2ガス21をチャンバ1内に供給するとともに、プラズマアンテナ8から高周波電磁波をチャンバ1内に入射することで、Cl2ガス21をイオン化してCl2ガスプラズマ23を発生させ、Clラジカルを生成する。
【0057】
ここで、ガスプラズマ23が被エッチング部材11に作用することにより、被エッチング部材11を加熱すると共に、被エッチング部材11にエッチング反応を生じさせる。このエッチング反応により被エッチング部材11の材料であるニッケルと塩素との化合物であるガス状の前駆体24(NimCln:m,nは1以上の整数)が形成される。そして、前駆体24は、前記被エッチング部材11よりも低温部となっている被処理部材3の表面に向かって輸送される。また、被処理部材3に対しては、前駆体24と共にClラジカルが輸送される。
【0058】
ここで、本実施形態では、シリコン基板31の表面(実際には酸化シリコン膜32の表面)上には多結晶シリコン膜33が予め形成されており、この上へ前駆体24とClラジカルとが輸送されることで、多結晶シリコン膜33に対してNi成分が置換拡散すると考えられる。具体的には、シリコン基板31の表面に対してClラジカルと前駆体24とが輸送されると、シリコン基板31の表面近傍において多結晶シリコン膜33のSi成分がNi成分に置換されながら、Ni成分が多結晶シリコン膜33内に置換拡散しつつ塩素成分が離脱する還元反応が生じていると考えられ、例えば、ニッケル濃度が80質量%以上となると、シリコン基板31上の多結晶シリコン膜33が、微結晶ニッケル薄膜34となる。なお、反応に関与しないガス及びエッチング生成物は排気口から排気される。
【0059】
かかる微結晶ニッケル薄膜34中には、シリコンがシリコン又はニッケルシリサイドの形態で含有される。この処理により、ニッケル成分の置換拡散は酸化シリコン膜32の位置で停止され、結果的に、酸化シリコン膜32上に所定のニッケル濃度の微結晶ニッケル薄膜34が形成される。また、このよう微結晶ニッケル薄膜34の形成は、200℃〜300℃という低温条件下で行われるので、微結晶ニッケル薄膜34の結晶粒子は非常に微細であり、粒径100nm以下、好ましくは数十nm以下という多結晶薄膜が容易に実現される。
【0060】
多結晶シリコン膜33の代わりに単結晶シリコン膜を用いることはできるが、多結晶シリコン膜の方がより望ましい。単結晶シリコンに較べ、粒界が多い分、塩素ラジカルが微結晶ニッケル薄膜34内に侵入し易く、シリサイド化が容易且つ良好に行なわれ、途中段階ではNi2Si、Ni3Si、Ni5Si2などが生成され、ニッケル薄膜シリサイド膜を比較的容易に形成することができるからである。また、多結晶シリコン膜は、フォトリソグラフィー及びエッチングなどの公知の手法により、金属膜のパターニングなどと比較して比較的容易にパターニングすることができ、また、このようにパターニングした膜を上述したように処理した場合、シリコンパターンのみに選択的にニッケルが置換拡散するという利点がある。
【0061】
IV族薄膜の一例である多結晶シリコン膜33(図2(a)参照)は、例えば、公知のCVD法などにより成膜できる。一般的には、IV族薄膜は、基板を500℃〜1200℃にした後、IV族元素を含有するIV族元素含有化合物ガス中に曝すことにより容易に形成できる。例えば、多結晶シリコン膜33は、シリコン基板31を約600℃に保持し、原料ガスとして、100mTorrの下、20%SiH4(N2希釈)などに晒すことにより、成膜できる。また、多結晶シリコン膜33は、例えば、フォトリソグラフィーと、例えば、CF4/O2ガスによるドライエッチングにより容易にパターニングして、シリコンパターンとすることができる。
【0062】
また、シリコンパターンは、成膜後パターニングにより形成するほか、所望パターン以外の領域をレジストなどの保護膜で保護した後、CVD法などでシリコンパターンを成膜してもよい。
【0063】
何れにしても、所望パターン形状のシリコンパターンを有する場合には、シリコンパターンの領域のみに空間選択的にニッケル成分が置換拡散し、微結晶ニッケル薄膜34が形成できる。
【0064】
ここで、空間選択的とは、シリコンパターンの領域のみにニッケル成分が選択的に導入されて、その周囲の領域にはニッケル成分が作用しない状態をいう。すなわち、微結晶ニッケル薄膜34は、セルフアライメントされた状態でシリコンパターンの領域に形成され、その周囲の領域には形成されない。なお、シリコンパターンの周囲は、シリコン以外であれば特に限定されないが、酸化膜であるのが好ましく、酸化シリコン膜であるのが好ましい。
【0065】
また、シリコンパターンの下地がシリコン基板の場合には、条件によってはニッケル成分がシリコン基板まで置換拡散するが、下地が酸化シリコン膜32であるので、置換拡散防止膜として作用し、ニッケル成分の導入は酸化シリコン膜32で停止される。よって、シリコンパターンを微結晶ニッケル薄膜34とする際には、下地として金属の置換拡散を規制する置換拡散防止膜を設けるのが好ましく、この場合には、酸化シリコン膜32が置換拡散防止膜として作用する。
【0066】
上述したMCR−CVD法では、基板表面に作用するハロゲンラジカルのフラックスと前駆体のフラックスとの和である総フラックスと、総フラックスに対するハロゲンラジカルのフラックスの比率とにより、処理条件が決定し、ハロゲンラジカルのフラックスの比率が相対的に低くなると、成膜モードとなり、ハロゲンラジカルのフラックスの比率が高くなるとエッチングモードとなる。
【0067】
本発明方法では、総フラックスを高くなるように制御することにより、微結晶ニッケル薄膜34中の平均ニッケル濃度を高くすることができ、逆に低くなるように制御することにより、平均ニッケル濃度を低くすることができる。例えば、被エッチング部材11を同一とし、ハロゲンガスである作用ガス21の導入量を一定とし、プラズマアンテナ8に印加するRFパワーを高くすると、総フラックスが高くなると共にニッケルを含む前駆体24のフラックスが高くなり、一方、RFパワーを低くすると、総フラックスが低くなると共にニッケルを含む前駆体24のフラックスが低下する。
【0068】
また、上記MCR−CVD法においては、基板の温度を被エッチング部材11の温度よりも低く設定しているが、例えば、基板の温度400℃以下(好ましくは300℃以下)に設定し、この設定条件下で、被エッチング部材11の温度を比較的高温(例えば、500℃以上)に設定することにより、総フラックス、特に前駆体のフラックスが増加し、その結果、微結晶ニッケル薄膜34中の平均ニッケル濃度を高くすることができる。
【実施例】
【0069】
基板上に厚さ約8nmの酸化シリコン膜を設け、さらに厚さ約150nmのPoly−Si薄膜を設けた後、図1に示す装置で処理した。処理条件として、基板温度を280℃、被エッチング部材の温度を約520℃、チャンバ内の圧力を30mTorr、RFパワーを1.4kW(周波数13.56MHz)に設定し、この条件で処理することにより、基板上に微結晶ニッケル薄膜を形成した。
【0070】
かかる微結晶ニッケル薄膜をXPS分析し、結果を図3に示す。図3のグラフに示すように、膜厚方向に亘ってニッケル濃度が一定で約80%であることが確認された。
【0071】
ここで、MCR−CVD法を実施する条件では、ハロゲンラジカルのフラックスが飽和状態となるので、この条件下ではRFパワーを変化させてもハロゲンラジカルのフラックスはほとんど変化せずに、RFパワーを低くすると、前駆体のフラックスが低くなり、RFパワーを高くすると、前駆体のフラックスが高くなるので、これにより平均ニッケル濃度を制御することができる。
【0072】
また、平均ニッケル濃度は、ハロゲンラジカルのフラックスと前駆体24のフラックスとの比や被処理部材3の温度、基板の温度などによっても変化し、これらによって変化する前駆体24の吸着量と、この前駆体24が吸着した表面へ作用するハロゲンラジカルの量によって、ニッケル含有量が規定されると推定される。
【0073】
したがって、本発明方法によると、主にRFパワーによって制御できる総フラックスを制御することにより、平均ニッケル濃度を増減できるが、被エッチング部材11の形状、温度、ハロゲンガスの導入量、被処理部材3の温度など諸条件によっても変化するものである。例えば、他の条件を同一にし、被処理部材3の温度を高くすると、平均ニッケル濃度は低くなる方向に制御でき、逆に被処理部材3の温度を低くすると、平均ニッケル濃度が高くなる方向に制御できる。
【0074】
なお、以上説明した実施形態では、IV族元素としてシリコンを例示したが、化学的にシリコンに近いゲルマニウム又は炭素をシリコンに置き換えても同様な金属含有薄膜が形成できる。
【0075】
また、上述した実施形態では、金属としてニッケルを例示したが、ニッケルに近い遷移金属、特に、鉄やコバルトをニッケルに置き換えても、同様に金属含有薄膜が形成できると容易に推測できる。
【0076】
さらに、上述した実施形態では、被エッチング部材を形成する材料としてニッケルを例示して説明したが、ニッケル以外に鉄やコバルト等を含有する合金材料からなる被エッチング部材を用いてもよい。これにより、例えば、被エッチング部材のニッケル、鉄、コバルト等の含有量を調整することによって、微結晶金属薄膜中の金属含有量を制御することが可能となる。
【0077】
以上説明したように形成した微結晶ニッケル薄膜は、結晶粒の粒径が100nm以下、好ましくは数十nm以下の多結晶薄膜であり、ニッケル薄膜として機能する。また、ニッケルを例として説明したが、ニッケルに類似する鉄、コバルトを含む遷移金属についても同様に微結晶金属薄膜が形成できる。
【0078】
また、IV族元素としてシリコンを例として説明したが、IV族元素としてシリコンの他、ゲルマニウム、炭素などを用い、これに金属を含む前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、同様に微結晶金属薄膜を形成することができる。
【0079】
<磁気記録媒体の実施形態>
ここで、本発明の微結晶金属薄膜は、磁性材料として使用することができ、磁気異方性がなく、軟磁性体としての特性を有するものである。
【0080】
上述した実施形態で作成した微結晶ニッケル薄膜について測定した磁化曲線を図4に示す。図4(a)は膜の面内方向と垂直方向での磁化曲線であり、図4(b)はバックグラウンドである。この結果より、面内方向と垂直方向とで磁化特性に差がなく、磁気異方性がないことが明らかとなった。
【0081】
よって、磁性材料として、磁気記録媒体に用いて好適である。
【0082】
磁気記録媒体として適用する場合の一例を図5に概念的に示す。図5に示すように、ガラスなどの基板101上に微結晶金属薄膜102が設けられ、その上に磁気記録膜103を設けたものである。かかる磁気記録媒体は、面内磁気記録方式にでも垂直磁気記録方式にでも適用でき、また、磁気テープ、ハードディスク、光ディスクなど種々の記録媒体として用いることができる。
【0083】
図6は、図5の磁気記録媒体を用いて垂直記録方式で磁気記録する様子を概念的に表したものである。
【0084】
磁気記録ヘッド110により記録すると、磁気ヘッドの一方の極110aから磁気記録膜103の領域103a、微結晶金属薄膜102の領域102a、102b、磁気記録膜103の領域103bを通って他方の極110bに戻るように磁界が形成され、磁気記録膜103の領域103a、103bが垂直方向に磁化される。
【0085】
このような磁気記録膜103の領域103a、103bの境界は、磁気記録膜103の結晶粒の大きさに依存するが、微結晶金属薄膜102の結晶粒の大きさにも依存する。なお、例えば、図7(a)に示すように、結晶粒が小さい場合には、領域102aと領域102bとの境界102cはほぼ垂直に形成される。なお、図7(b)のように、微結晶金属薄膜102の結晶粒が大きいと、領域102a、102bの境界102dが粒界にそって形成され、境界が直線状にならずに屈曲してしまうことになる。
【0086】
<他の実施形態>
上記実施形態に用いた図1に示す装置においては、チャンバ1内でハロゲンガスをプラズマ化することによりそのラジカルを形成したが、ラジカルの形成方法はこれに限る必要はない。例えば次のような方法によっても形成し得る。
1) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスに高周波の電界を作用させてこのハロゲンガスをプラズマ化する。
2) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスにマイクロ波を供給してこのハロゲンガスをプラズマ化する。
3) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスを加熱して熱的解離する。
4) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスに電磁波又は電子線を供給してこのハロゲンガスを解離させる。
5) チャンバ1内に連通する筒状の通路を流通するハロゲンガスを、触媒作用により解離させる触媒金属に接触させる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、磁気記録媒体の他、半導体装置の製造、他の電子デバイスの製造に関する産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体に適用する微結晶金属薄膜の形成方法に使用する装置の概略を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態における微結晶金属薄膜の形成方法の一例を説明する断面図である。
【図3】本発明の実施例に係る微結晶ニッケル薄膜のXPS分析の結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における微結晶金属薄膜の磁化曲線を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における微結晶金属薄膜を用いた磁気記録媒体の一例を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態における微結晶金属薄膜を用いた磁気記録媒体の記録の様子を説明する図である。
【図7】本発明の微結晶金属薄膜の効果を説明する図である。
【符号の説明】
【0089】
1 チャンバ
3 被処理部材
8 プラズマアンテナ
11 被エッチング部材
21 作用ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種の金属とIV族元素とを含み、軟磁性体である多結晶薄膜からなる微結晶金属薄膜を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が前記金属を80質量%以上含有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が、磁気異方性を有さないことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、前記多結晶薄膜が、IV族元素からなるIV族薄膜に、前記金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させて形成されたものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、前記IV族元素が、シリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、前記金属がニッケルであり、前記IV族元素がシリコンであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、前記微結晶金属薄膜上に磁気記録膜を具備することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気記録媒体において、前記磁気記録膜が、面内磁気記録方式又は垂直磁気記録方式により記録されるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の磁気記録媒体において、磁気テープ、ハードディスク又は光ディスクであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項10】
被処理体の表面に形成されたIV族元素からなるIV族薄膜に、ニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種である金属とハロゲンとの化合物である前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることにより、前記IV族薄膜を多結晶薄膜からなる微結晶金属薄膜とすることを特徴とする微結晶金属薄膜の形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の微結晶金属薄膜の形成方法おいて、前記IV族薄膜を所定形状にパターニングしてIV族薄膜パターンを形成した後、当該IV族薄膜パターンに前記前駆体及びハロゲンラジカルを作用させることを特徴とする微結晶金属薄膜の形成方法。
【請求項12】
真空容器であるチャンバの内部にニッケル、鉄、コバルトを含む遷移金属から選択される少なくとも1種である金属を含む材料で形成した被エッチング部材を配設すると共に当該被エッチング部材にハロゲンを含む作用ガスをプラズマ化して得られるハロゲンラジカルを作用させることにより金属とハロゲンとの化合物である前駆体を形成する一方、表面にIV族元素からなるIV族薄膜を有する被処理体を前記チャンバ内に収納した状態でその温度を前記被エッチング部材よりも低温に保持して前記前駆体を前記IV族薄膜パターンの表面に吸着させると共に前記ハロゲンのラジカルを作用させることにより微結晶金属薄膜とする工程を具備することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の磁気記録媒体の製造方法において、
前記IV族元素が、シリコン、ゲルマニウム及び炭素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の磁気記録媒体の製造方法において、
前記IV族薄膜が、多結晶シリコン薄膜であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項12〜14の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法において、
前記被処理体の温度を200℃〜300℃とすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
請求項12〜15の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法において、
前記微結晶金属薄膜が金属を80質量%以上含有するように形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−269665(P2008−269665A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106983(P2007−106983)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(506239658)株式会社フィズケミックス (37)
【Fターム(参考)】