説明

磁気記録装置の製造方法及び磁気記録装置

【課題】電気めっき法による磁性膜を製造する際に、磁性膜の成長が早く、かつ、異常析出の形成を防止する磁気記録装置の製造方法を提供する。
【解決手段】被めっき体1の基板11上に磁性膜13をめっき法で形成する磁気記録装置の製造方法において、前記磁気記録装置の製造方法は、磁性膜13を析出させる析出工程と、磁性膜13に発生する異常析出14を除去する溶解工程とを有する。生産性の高いDCめっき法を用いて磁性膜13を析出、成長させて、このときに、生ずることがある異常析出14を除去する。これによって、高生産性と磁性膜の安定した特性の両方を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録媒体における磁性膜、また、磁気記録媒体から情報を読取・書込ための薄膜磁気ヘッドにおける磁性膜を形成する磁気記録装置の製造方法及び磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録媒体の一つであるハードディスクドライブ(HDD)等を備える磁気記録装置は、記録密度が著しく向上しており、非常に広く用いられている。また、磁気記録装置では、磁気記録媒体の記録密度の向上に伴い、磁気記録装置に搭載される薄膜磁気ヘッドの性能向上が求められている。磁気記録媒体、磁気ヘッドはいずれも磁性膜によって形成されている。
この磁性膜は、従来、CVD法、スパッタリング法等の乾式法では製造されることが多い。乾式法では、減圧雰囲気で磁性膜を形成するために、製造装置が大型化し、更に、減圧する時間が必要となり生産性が低いという不具合がある。このために、最近では、磁気記録装置に用いられる磁性膜は、通常、湿式のめっき法により形成する開発が進められている。湿式のめっき法としは、通常は、スパッタ法などと比較して成膜速度が速く、生産性に優れている電気めっき(electroplated coatings)法が知られている。
【0003】
電気めっき法には、電流の形態によって、DCめっき法、パルスめっき法、PRめっき法などがある。パルスめっき法(pulse plating)は、パルス波形を有する電流を流してめっきする方法であり、PRめっき法(periodic reverse
electroplating)は、電流の極性を周期的に変えてめっきする方法であり、DCめっき法(direct current plating)は、一定の極性の直流電流を流しながらめっきする方法である。したがって、パルスめっき法は、パルス波形であるために析出させる電流値が小さくなり所定の膜厚を得るのに時間が必要である。PRめっき法は、析出させる電流とは逆の極性であり溶解させる電流も流すことでめっき膜を溶解させながらめっきをするため、同じ電流値でめっきする場合にはDCめっき法に比べてめっき時間が長くなる。
これらのために、通常は、電気めっき法で磁性膜等を製造する際には、DCめっき法が用いられる。しかし、DCめっき法では、生産性は高いが、異常析出が発生することがある。
例えば、図5は、磁性膜の析出工程で発生した異常析出を示す模式図である。
ウェーハなどの被めっき体10には、基板11上に形成されている導電性シード層12の上に、DCめっき法によって析出した磁性膜13が形成されている。その磁性膜の一部に、突起状に突出した異常析出14が形成されていることがわかる。特に、この異常析出は、成膜速度の速いDCめっき法で多く発生している。
【0004】
したがって、この異常析出を抑えるために、例えば、特許文献1では、半導体装置の外部リードに施す合金のめっき方法において、めっき電流を間欠的に停止する合金めっき法が開示されている。これによって、異常析出を抑制し、均一な合金めっきを行うことができるという効果を奏する。また、特許文献2では、電解めっき時の通電はパルス状に繰り返されるので、ステンレス鋼等の非磁性基材上に形成されるCo−Ni−P系合金磁性膜は、極めて薄いCo−Ni−P合金膜の積み重ねられた複数層から形成されることとなり、膜組成の調整が容易となる磁性薄膜が開示されている。しかし、いずれの開示技術も、磁性膜等のめっき層における異常析出の発生を抑えることができるが、いずれも生産性が低いという問題が残ったままである。
【0005】
【特許文献1】特許第2662904号
【特許文献2】特開2004−204308
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、電気めっき法による磁性膜を製造する際に、磁性膜の成長が早く、かつ、異常析出の形成を防止する磁気記録装置の製造方法を提供することである。
また、異常析出が析出しても、その場で、異常析出を除去することで、生産性の低下を抑えることができる磁気記録装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記課題を解決するために、被めっき体の基板上に磁性膜をめっき法で形成する磁気記録装置の製造方法であって、磁性膜を析出させる析出工程と、磁性膜に発生する異常析出を除去する溶解工程とを有する。電気めっき法は、被めっき体を陰極としてめっきしようとする金属イオンを含むめっき液中に配置し、対向して設けられる金属板を陽極として金属イオンを放電析出させて金属層を形成させる方法である。これによって、磁性膜を安定して、かつ、高い生産性で製造する。また、異常析出を除去する溶解工程を設けることで、めっき工程で異常析出が発生した場合に、磁性膜の製造を中断することなく、製造工程を進める方法を提供するものである。異常析出を除去する溶解工程では、電気めっき法のままで、その電流の形態を析出電流と溶解電流とを切り替えて流す。これによって、異常析出を除去することができる。
さらに、異常析出の発生しない条件を求めて、めっき条件・めっき液を再検討する必要がない。したがって、析出工程と溶解工程とでめっき液等を変えることなく、磁性膜を形成することができる。
さらに、異常析出を除去する溶解工程は、析出工程における電流条件のみの変更で行うことができる。とくに、この溶解工程では、通電量は0にして、この工程の中で、磁性膜の析出・成長を抑えるようにしている。これは、異常析出を除去することと、析出工程における電流条件が異なることで析出した磁性膜が異なる組成になることを防止することができる。
とくに、析出工程では、DCめっき法で高い成長速度で行うことで生産性を高め、異常析出が生じたときにのみ溶解工程を行う磁気記録装置の製造方法である。異常析出が生じたことは、例えば、めっき液中にファイバースコープを取り付けておくことで常時監視することができる。
【発明の効果】
【0008】
上記解決する手段によって、本発明では、磁性膜の特性を変えないまま異常析出を取り除くことが可能となり、製品の信頼性が向上する。また、製造工程の歩留り向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの特許請求の範囲を限定するものではない。
【0010】
本発明は、磁気記録装置が有する磁性膜を電気めっき法で製造する磁気記録装置の製造方法において、前記磁性膜を析出させる析出工程と、前記磁性膜に発生する異常析出を除去する溶解工程とを有する。
図1は、本発明の磁気記録装置の製造方法における具体的工程を示す概略図である。
磁気記録装置としては、磁気ディスクを内蔵するハードディスクドライブの磁気記録媒体の磁気記録層、また、磁気ヘッドの主磁極、補助磁極層等が電気めっき法で形成されている。電気めっき法は、めっきしようとする金属イオンを含むめっき液中に被めっき体を陰極として、対向して設けられる金属板を陽極として金属イオンを放電析出させて金属層を形成させる方法である。
この中で、本発明の磁気記録装置の製造方法では、図1(1)の析出工程ではDCめっき法を用い、図1(2)の溶解工程ではPRめっき法を用いる。
図1(1)に示すように、磁性膜13として金属をめっきするのに、DCめっき法が生産性が高く、本発明では析出工程にDCめっき法を用いる。このときに流れる電流は、析出側の一定の値の電流が流れている。形成される磁性膜13は、基板11上に形成されている導電性シード層12の上に析出して形成される。しかし、その磁性膜13の一部に、突起状に突出した異常析出14が形成されていることがある。
図1(2)に示すように、一定時間析出工程を行った後に、溶解工程を行う。または、析出工程で磁性膜13を成長させている間に異常析出14が生じた場合に、PRめっき法で異常析出14を除去する溶解工程を行ってもよい。溶解工程では、時間に対して、溶解工程で流れる電流は、析出側の極性の電流と溶解側の極性の電流とが、周期的に変えられる。析出側の極性の電流とは、めっき装置の陰極に被めっき体10を陰極に対向する電極を陽極側になる極性である。したがって、溶解側の極性とはその逆になる。異常析出14の溶解工程として析出と溶解を繰り返すが、異常析出14に電流が集中するため、異常析出14が優先的に溶解し、異常析出14が取り除かれる。その後、一定時間溶解工程を行った後に、再度、磁性膜13を形成する析出工程を行う。
この析出工程と溶解工程とを繰り返しながら、異常析出14のない正常な表面を有する磁性膜13を形成し、磁気記録媒体を製造する。
【0011】
DCめっき法で磁性膜13を形成する場合に発生する異常析出14に関して、その原因は、めっきの下地表面が汚れている場合やめっき液の劣化などさまざまである。いずれの場合においても、異常析出14は多層膜からなる磁性膜13の信頼性を低下させる懸念から、これに対応するために、めっき条件を再検討したり、めっき液を再建浴したり、あるいはめっき液の組成を変更したりする必要がある。しかしながら、DCめっき法で、所望の組成・磁気特性が得られている場合には、PRめっき法等に換えることは、磁性膜13の磁気特性が異なってくることがあり、たとえ異常析出14の問題を解決できたとしても、磁性膜13の製造方法としては使えない。したがって、DCめっき法とPRめっき法とを磁性膜13を析出させる析出工程で両方を用いること、又は、使い分けることは非効率的である。そこで、両者を組み合わせることで、異常析出14を抑え、かつ、高い生産性で安定して、磁性膜13を得ることができた。
【0012】
さらに、溶解工程で流す通電量(A×sec)は、トータルとして0にする。電気めっき法で流す電流は、金属イオンの溶解・析出は、主に、流れる電流に大きく影響されることから、通常、定電流電源を用いる。ここで、通電量が0とは、析出側の極性の電流の流した時間による積算した量と溶解側の極性の電流の流した時間による積算した量との差が、0であることを意味する。しかし、通電量の0の値は、厳密な意味ではなく、溶解工程で新たに析出する磁性膜13が観察されない程度の通電量を意味している。これによって、磁性膜13が析出して、成長しないことから、磁性膜13の磁気特性が変化しない。したがって、析出工程と同じ組成・特性の磁性膜13を得ることができる。異常析出14の発生初期であれば、異常析出14の大きさも非常に微小であり、さらに、異常析出14は磁性膜13に対して突出しており、電界が集中して電流がながれることから短時間で除去可能であり、さらに、析出を抑えることで他の部分の磁性膜13の組成の変動を抑えることができる。
図2は、溶解工程で流す電流の形態を示す概略図である。
図2に示すように、また、この電流の極性を変える周期時間は、5〜20secの範囲にあることが好ましい。異常析出14は、電界が集中することから短時間に溶解することから、1周期の時間は短めにして、形成された磁性膜13の溶解を抑えて、できるだけ異常析出14のみを除去するようにする。このために、1周期の切り替えを早くする。20secを越えると、形成された磁性膜13が溶解し、生産性が低下する。5sec未満では、切り替えが早すぎて異常析出14の溶解に時間がかかり、生産性が低下する。
また、溶解工程の電流極性のデューティ比(ここでは、析出側の印加時間L1と溶解側の印加時間L2との比と定義する。)は、デューティ比を時間によって変えることもできるが、ほぼ1.0にする。これによって、通電量を容易に0にすることができる。
【0013】
電気めっき法は、例えば、以下のようなめっき装置を用いる。
図3は、一例として示すめっき装置の構成を示す概略図である。
図3において、このめっき装置20は、めっき槽21と、めっき槽21内の上部に設けられた陽極24と、陽極24の下方に対向配置された陰極25とから主として構成されている。陽極24には、陽極24と陰極25との間に電流を流す電源22が接続されている。
陰極25には、被めっき体1を嵌合させる凹部が設けられており、被めっき体1としての基板表面をめっきする際は、先ず、被めっき体1の被めっき面を陽極24に対向するように陰極25上の凹部にセットし、めっき液が被めっき体1の裏面に入り込まないようにしておく。陰極25を通して又は外部から被めっき体1表面にアース23を接続する。
次いで、めっき槽21内にめっき液を充填し、その後、電源22を起動して被めっき体1表面をめっきする。めっき液は、めっき槽21の上部から流入し、矢印に従って、図示省略した下部流出口から流出する。
このめっき装置20において、陽極板として、被めっき体1表面をめっきする析出金属と同一の金属板を使用することが好ましい。これによって、めっき液中に絶えずめっき金属が供給されるので、良好なめっきを行うことができる。
さらに、このめっき装置20には、異常析出14を検知するためのグラスファイバー26を設けておく。また、電流を流す回路中に電圧計27を設けておく。これらによって、異常析出14が発生した場合にのみ溶解工程を行うようにすることができる。
【0014】
次に、本発明の磁気記録装置の製造方法における具体的な流れについて説明する。図4は、本発明の磁気記録装置の製造方法のフローチャートである。
本発明の磁気記録装置の製造方法では、たとえば、めっき装置の陰極部に磁性膜13を析出させる基板11を設置する(ステップS1)。
次に、析出工程におけるDCめっき法を120secを行う(ステップS2)。
次に、異常析出14の溶解工程を10sec行う(ステップS3)。これは、異常析出14の有無を検知又はモニターせずに、溶解工程を行う。DCめっき法における析出工程では、まず、DCめっき法を120sec行なうと、初期の微小な異常析出14が発生することが多く、異常析出14の有無を検知等よりも溶解工程を設けておく方が効率的であり、生産性を高めることができる。異常析出14の溶解工程は、析出側の極性の電流を10msec、溶解側の極性の電流10msecを流して、これを1周期として、10secの間に繰り返して行う。異常析出14の溶解工程として析出と溶解を繰り返すが、異常析出14に電流が集中するため、溶解時において異常析出14が優先的に溶解する。このときに、析出と溶解の電流量の和が0にする。したがって、磁性膜13自体は、溶解工程ではほとんど成長しないことから、先に行った析出工程で形成した磁性膜13がそのまま存在することから、溶解工程を経ても組成に変化がなく、磁気特性が従来と変わらない磁性膜13が残されている。
【0015】
さらに、磁気記録装置の製造方法におけるこのめっき工程を繰り返すか判断する(ステップS4)。磁性膜13は、目的によって必要な膜厚があり、析出工程と溶解工程とを繰り返す。したがって、繰り返しの中で、析出工程におけるDCめっき法を行なうと、磁性膜13が成長し初期の異常析出14が発生するが、次の異常析出14の溶解工程によって、この異常析出14は取り除かれる。これを繰り返すことで、形成される磁性膜13は従来と同じDCめっき法による磁性膜13でありながら、異常析出14のみが取り除かれた磁性膜13を形成することができる(ステップS6)。
なお、別の手段(めっき液・条件・方法)で異常析出14の発生を解決した場合には、磁性膜13自体が従来とは異なる特性を持っている懸念があり、これらの特性を再評価する必要がある。しかし、本発明によれば、めっき液・条件・方法を再検討する必要がないのみならず、磁性膜13自体が従来と同じものであるため、特性の再評価の必要もない。
本発明は、DCめっき法を例に説明したが、パルスめっき法等のDCめっき法以外の別の方法であったとしても、異常析出14の溶解工程を行なうことで、異常析出14が形成されることを防止することができる。
また、異常析出14の発生頻度や大きさによって、析出工程と異常析出14の溶解工程の時間比や電流値は、本発明の主旨に沿いその効果が得られる限り、前述例や後述する実施例と異なるものでもかまわないことはいうまでもない。
【0016】
さらに、析出工程にある際に、析出する基板11等の表面を観察して異常析出14を検知する(ステップS5)これは、例えば、めっき液中にウェハ表面のモニター(たとえばファイバースコープ)を取り付けた場合には、異常析出14が発生した場合のみ、溶解工程を適用することで、生産効率の低下を防ぐことができ、生産性を高めることができる。これによって、磁性膜13の組成や磁気特性はこれまで得られていたものと変わらず、特性を再評価する必要がない。
【0017】
また、本発明の磁気記録装置の製造方法により製造された磁性膜13は、形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、基材の全面に形成されたベタの膜形状、パターン状などが挙げられる。パターン状の磁性膜13としては、例えば、基板11の表面にレジストでパターンを形成してめっきを行い、パターン状の磁性膜13を形成する。または、全面に磁性膜13を形成後にレジストを塗布し所望のパターンを形成した後に、ウェット又はドライでエッチングして、パターン状の磁性膜13を形成することができる。
磁性膜13の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。また、磁性膜13の大きさに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、磁性膜13を用いる薄膜磁気ヘッド、磁気ディスクにおける記録層などに適用する場合には、既存の薄膜磁気ヘッド、記録層などの大きさに対応した大きさが好ましい。さらに、磁性膜13の厚みに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。とくに、本発明によって、長い時間かけて厚い磁性膜13を形成する場合でも、異常析出14を溶解しながら行うことで、厚さ方向の組成の変動が少ない磁性膜13を得ることができる。したがって、本発明で得られる磁性膜13は、磁気特性が全体に一様で変動が少ないことから、HDD(ハードディスクドライブ)等の記録媒体としての磁気ディスク、記録再生装置としての磁気ヘッドに好適に用いられる。
本発明の磁気記録装置は、上述した磁性膜13を備え、安定した高い記録密度を有する磁気記録媒体、磁気記録・再生能力が高く、高性能の磁気ヘッドを備える磁気記録装置にすることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を更に詳細に実施例で説明する。
(実施例1)
まず、5インチの導電性のアルチック基板の上にめっき用めっきシード層としてNi−Feを50nmの厚さに一様に形成した。そのうえに、レジスト層を形成してパターニングして、被めっき用の基板とした。
次に、硫酸コバルト七水和物、硫酸ニッケル六水和物、硫酸鉄七水和物、ほう酸、塩化アンモニウム、サッカリンを所望の磁性膜組成が得られるように調整してめっき液とした。
このめっき液を入れためっき装置に基板を設置して、pH2.3、温度25℃、電流付与の際の電流120mAで120secの析出工程と、電流120mAで10secの異常析出の溶解工程とを、繰り返してめっきを行った。溶解工程では、析出側の極性の電流が120mAで10msec、溶解側の極性の電流が120mAで10msecを10sec間に繰り返した。この溶解工程において流れた電流量のトータルとしては、ほぼ0(A×sec)となった。
電流付与の際の電流120mAで120secの析出工程の時間の合計が、ほぼ20minになったところで、めっきを終了した。その結果、磁性膜表面に異常析出の発生は見られなかった。また、形成された磁性層の組成は、Co/Fe/Ni=66.7/15.6/17.7wt%であった。形成された膜厚は、約1.7μmであったが、深さ方向への変動は小さかった。さらに、同じめっき条件で、電流を流す条件をDCめっき法単独でおこなって、異常析出が発生する前に得た約1.7μmの厚さの磁性膜と、略同じ組成であった。
なお。組成は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer)、「EMAX−5770W」;堀場製作所製)等を用いて測定した。
【0019】
(実施例2)
実施例1と同様に、めっき用の基板、所望の磁性膜組成が得られるように調整しためっき液を用意した。さらに、磁性膜を形成するめっきの工程を、pH2.3、温度25℃、電流付与の際の電流120mAで60secの析出工程と、電流120mAで10secの異常析出の溶解工程とを、繰り返してめっきを行った。
異常析出の溶解工程は実施例1と同様とした。その結果、アルチック基板の最外周部にわずかに異常析出の発生が見られたものの、ほぼ全面において異常析出の発生は見られなかった。形成された磁性層の組成は、Co/Fe/Ni=66.7/15.6/17.7wt%と、DCめっき法単独とほぼ同じ組成であった。
【0020】
(比較例1)
実施例1と同様に、めっき用の基板、所望の磁性膜組成が得られるように調整しためっき液を用意した。さらに、磁性膜を形成するめっきの工程をDCめっき法でおこなった。その条件は、pH2.3、温度25℃、電流付与の際の電流120mAである。
20min(1800sec)の時間めっきしたところで、めっきしている表面に異常析出が発生し、大きく成長した。このときの、磁性膜の表面の組成は、Co/Fe/Ni=66.7/15.6/17.7wt%であった。
【0021】
(比較例2)
実施例1と同様に、めっき用の基板、所望の磁性膜組成が得られるように調整しためっき液を用意した。さらに、磁性膜を形成するめっきの工程をPRめっき法でおこなった。その条件は、pH2.3、温度25℃で、電流付与の際の析出側の極性の電流密度が120mA/cm、流した時間が90msecで、溶解側の極性の電流120mAを流した時間が10msecである。
20min(1800sec)の時間めっきしても、磁性膜表面に異常析出の発生は見られなかった。
しかし、磁性膜の組成は、Co/Fe/Ni=68.3/17.2/14.5wt%であって、DCめっき法による組成と大きく異なっており、所望の磁性膜は形成できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の磁気記録装置の製造方法における具体的工程を示す概略図である。
【図2】溶解工程で流す電流の形態を示す概略図である。
【図3】一例として示すめっき装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明の磁気記録装置の製造方法のフローチャートである。
【図5】磁性膜の析出工程で発生した異常析出を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1 被めっき体
11 基板
12 導電性シード層
13 磁性膜
14 異常析出
20 めっき装置
21 めっき槽
22 電源
23 アース
24 陽極
25 陰極
26 ファイバースコープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録装置が有する磁性膜を電気めっき法で製造する磁気記録装置の製造方法において、
前記磁性膜を析出させる析出工程と、
前記磁性膜に発生する異常析出を除去する溶解工程とを有する
ことを特徴とする磁気記録装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録装置の製造方法において、
前記溶解工程は、析出電流と溶解電流とを繰り返す
ことを特徴とする磁気記録装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気記録装置の製造方法において、
前記溶解工程で流す通電量は、0である
ことを特徴とする磁気記録装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録装置の製造方法において、
前記析出工程で異常析出が発生した際に、前記溶解工程を行う
ことを特徴とする磁気記録装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気記録装置の製造方法で製造された磁性膜を用いた
ことを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−202139(P2008−202139A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43074(P2007−43074)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】