説明

磁気駆動装置及び光量調節装置及び光学機器

【課題】構成部品全体としての形状を単純化しつつ、ヨークのローターマグネットに対する位置決めを強固に行えるようにする。
【解決手段】ローターマグネット1と、コイルが巻き回されるコイルボビン4であって、中央部に貫通穴を有するコイルボビンと、貫通穴に挿入された棒状の一体物からなるヨークと、ヨークの両端部にそれぞれ固着された円弧形状の一対の磁極部材3と、ローターマグネットの一端をスラスト方向に規制する規制部材6と、コイルボビンとヨークと規制部材とを固定する上地板7と、上地板と結合され、ローターマグネットの他端を回転可能に支持する下地板2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ、銀塩フィルム用スチルカメラ、デジタルスチルカメラ等の撮影装置に搭載されるシャッター装置に特に好適な磁気駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、着磁されたローターマグネットの回転軸方向にコイルを搭載した円筒型回動アクチュエータとしては、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1では、ローターを回動可能に支持して収容する本体ケースと、ローターの軸線方向に配置されコイルが巻回されたボビンとを有する構成において、ヨークを断面略コの字形状に形成している。ヨークのコの字中央部分をコイルの内部に挿通するとともに、断面略コの字両脚部分が本体ケースの外側面に配置されている。
【0004】
また、特許文献2では、まずヨークを、コイルボビンの貫通穴に挿通されるストレート部分と、このストレート部分の先端に接続される円弧形状部分とにより形成し、コイルボビンの貫通穴にヨークのストレート部分を挿入する構成としている。また、上地板は、コイルボビンを載置するとともに、上地板の下面が円弧形状部分の上面と接触する構成としている。またこの上地板は、ローターマグネットの軸受ともなっている。すなわち、この上地板は、下地板から突出した係止部により下地板に対して固定されることによって、ロータの軸受となるとともに、ストレート部分が挿通されてコイルボビンと一体的に嵌合しているヨークを、上地板と下地板との間に挟み込み固定する構成となっている。
【特許文献1】特開平10−248231号公報
【特許文献2】特開2008−187832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記の特許文献1においては、駆動精度に重要な影響を与えるヨークの円弧形状部分(上記、断面略コの字両脚部分)についてのローターマグネットに対する位置決めは、ローターマグネットに対向する一面(上記コの字中央部分)によってしかなされていない。
【0006】
また、特許文献2においては、近年の小型化の要求により、上地板は、コイルボビンと一体的に嵌合しているヨークを固定する役割と同時に、ローターの軸受となる役割も果たしている。このような構成によると、これら一連の構成部品の固定のための部品が複雑化せざるを得なくなり、加工が複雑化してしまう。
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成部品全体としての形状を単純化しつつ、ヨークのローターマグネットに対する位置決めを強固に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、ローターマグネットと、コイルが巻き回されるコイルボビンであって、中央部に貫通穴を有するコイルボビンと、前記貫通穴に挿入された棒状の一体物からなるヨークと、前記ヨークの両端部にそれぞれ固着された円弧形状の一対の磁極部材と、前記ローターマグネットの一端をスラスト方向に規制する規制部材と、前記コイルボビンと前記ヨークと前記規制部材とを固定する上地板と、前記上地板と結合され、前記ローターマグネットの他端を回転可能に支持する下地板と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、構成部品全体としての形状を単純化しつつ、ヨークのローターマグネットに対する位置決めを強固に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の磁気駆動装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における磁気駆動装置の基本的構成について図1から図3を用いて説明する。図1は本実施形態における円筒型の磁気駆動装置の構成部品の分解斜視図である。図2は図1に示す構成部品の組立後の斜視図である。図3は図1に示す構成部品の組立後の斜視図で、裏面側を示す。
【0012】
図1において、ローターマグネット1は、2極に着磁されたマグネット1aと、アーム部1bとが固着されて一体化されている。ローターマグネット1の中心にはこれの回転中心となる軸穴1cが形成されている。下地板2は円筒型の磁気駆動装置のベースとなり非磁性材料から形成されている。下地板2にはローターマグネット1を回転可能に軸支する回転軸2aが突出して一体的に形成されており、回転軸2aがローターマグネット1の軸穴1cに挿入され、ローターマグネット1を下側(他端)から回転可能に支持している。
【0013】
ローターマグネット1のアーム部1bは、図3に示すように、下地板2の穴部2bから下地板2の裏面側へ延出しており、アーム部1bと係合するシャッタ羽根を駆動する構成となっている。
【0014】
コイルが巻回されたコイルボビン4には、中央部に貫通した挿通穴(貫通穴)4aが形成されている。また本実施形態においては、ヨークを、コイルボビン4の挿通穴4aに挿通されるストレート部材である直方体ヨーク(棒状のヨーク)5と、この直方体ヨーク5の両端にそれぞれ溶接等により固着される一対の円弧形状に形成された磁極部材3とから構成している。直方体ヨーク5は、複数の部分には分割されておらず、1個の一体物として形成されている。このように構成することによって、ヨーク部分の加工を簡略化することができる。
【0015】
コイルボビン4の挿通穴4aに直方体ヨーク5が挿通され、図1中において磁極部3の中心軸の上方に配置される。直方体ヨーク5の両端は後述の磁極部3の凸部3a、3bに一致した位置に置かれる。
【0016】
このとき磁極部3とコイルボビン4の間にスラスト押さえ6(ローターマグネット1の一端をスラスト方向に規制する規制部材)を配置させる。スラスト押さえ6は、ローターマグネット1の一端とコイルボビン4が擦れることを防止する目的で配置される。そのため摺動抵抗の低い部材が適しており、たとえばPOM、液晶ポリマー、PETなどの樹脂材料のシート材か、あるいは金属または金属の表面に防錆処理を施した部材が適している。金属の表面に摺動抵抗を下げる処理を行えばなお効果的である。また、スラスト押さえ6に摺接するローターマグネット1の端面1dは、スラスト押さえ6との当接面積が狭いほうが摺動摩擦は小さくなるため、端面1dはできる限り小さくすることが望ましい。
【0017】
磁極部3の凸部(凸形状部)3a,3bの上に設置された直方体ヨーク5は、例えばレーザー溶接等により凸部3a,3bに固着される。
【0018】
図4はレーザー溶接された状態を示した図である。
【0019】
レーザー溶接跡9は直方体ヨーク5の片側に2個形成され、不図示であるが反対側も同様にレーザー溶接を行っている。レーザー溶接を行う個所数は必要とされる強度を得るための数とする。このとき磁極部3の凸部3a、3bと直方体ヨーク5は隙間無く固着して磁気抵抗を低減することが望ましく、抵抗溶接あるいはスポット溶接と呼ばれる手法で固着しても良い。
【0020】
カバー7(上地板)は、コイルボビン4に挿通された直方体ヨーク5の両端部を下地板2の方向へ押しつけ取り付ける役割を有しており、本実施形態では、ビス8により下地板2と結合される。
【0021】
図7は一連の部材の組立完成状態での駆動装置の断面を示す図である。上述したようにカバー7は直方体ヨーク5の両端を上から押さえる構造となっている。
【0022】
また、コイルボビン4には、巻き回されたコイル線の両端と接続されたピンが固定されており、カバー7にはピン4bを逃げる溝部7aが形成されている。
【0023】
また、下地板2にはさらに、一対の磁極部3が対向する間隔に対応して嵌合する、凸状の嵌合部2cが形成されており、一対の磁極部3a,3bはそれぞれ嵌合部2cにより位置決めされて下地板2に組み込まれる。
【0024】
すなわち本実施形態においては、コイルボビン4と、これに挿通される直方体ヨーク5と、直方体ヨーク5に固着された磁極部3とは下地板2に対して位置決めされる。また、下地板2には、ローターマグネット1の回転中心となる回転軸2aが形成されているため、ローターマグネット1と磁極部3は精度よく位置決めされる。
【0025】
このような構成でカバー7と下地板2とを結合すると、これら上下の地板は、コイルボビン4およびヨーク(直方体ヨーク5および磁極部3)ならびにローターマグネット1を取り囲み、また、軸方向および径方向にこれらを位置決め固定する構成となる。
【0026】
次に本実施形態におけるコイルボビン4および一対の磁極部3の構成についてさらに説明する。
【0027】
図5は磁極部3とコイルボビン4、直方体ヨーク5の組込みを示した図であり、本構成の特徴をわかりやすく示すためにそれ以外の部品やレーザー溶接跡は省略してある。
【0028】
図5(a)において、一対の磁極部3は、それぞれの中央に凸部3a,3bが形成されており、凸部3a,3bの両脇に形成された脚受け部3cにコイルボビン4が載置される。結果として、コイルボビン4には図5(b)に示すように、コイル巻き線幅L1が確保される。
【0029】
図6は磁極部に凸部3a,3bを設けない例を示した図である。凸部3a,3bを設けない場合、一対の磁極部3の対向間隔を変えずにコイルボビン4を設置しようとすると、コイル巻き線は磁極部3の内側に配置する必要があるため、図6(a)に示すようになる。結果として、図6(b)に示すように、コイル巻き線幅はL2となり狭くなってしまう。巻き線幅が広くコイルの巻回数が大きい方が磁気駆動装置としてより高トルク、高効率となる。図5のように、磁極部3に凸部3a,3bを形成し、凸部両脇の脚受け部3cにコイルボビン4の両脚を置くように構成したことにより、コイルボビン4のコイルの巻きスペースを大きく確保することができる。
【0030】
このように構成することによって、コイルの磁力を弱めることなく、ヨークの径方向の大きさを抑えることができるため、カバー7により直方体ヨーク5を抑える構成によっても、駆動装置としての径を小型化することができる。
【0031】
上述のスラスト押さえ6は、板状の部材を、凸部3a,3bに嵌合するように当接する部分を切り欠いた形状に形成することで、脚受け部3c上に載置されて、コイルボビン4と脚受け部3cとの間に挟みこまれることによって保持される。このように構成することによって、スラスト押さえ6を組み込んでも軸方向の厚みを広げず、また、スラスト押さえ6を固定するのにコイルボビン4とヨークの組み込みを利用できる。
【0032】
次にこのように構成された円筒型磁気駆動装置の動作について説明する。
【0033】
コイルに正通電が行われると、直方体ヨーク5がコイル内側にあるため、ヨークは電磁石となり一対の磁極部3は磁極となる。円弧形状部分の極により、ローターマグネット1は吸引と反発を起こし磁気的に安定な方向に回転し、アーム部1bが回動する。さらにコイルに逆通電が印加されるとヨークの極は反転し、吸引と反発力が逆転し、アーム部1bは逆に回動する。このようにコイルに通電する電流の印加方向でローターマグネット1の回転方向が変化し、結果としてアーム部1bの回動方向が変わり、シャッタ羽根の駆動方向が変わるため、シャッタ羽根は開閉の動作を行う。アーム部1bの駆動範囲は下地板2の穴部2bで規制されるか、あるいはシャッタ羽根により規制される。
【0034】
また正逆通電の時、通電を止めてもディテントトルクによって姿勢は保たれる。これは上記のような動作を行うためにマグネット1aの磁極位置(位相角)を決めているからであり、ヨーク(磁極部3)の形状によって位相角は変化する。本実施形態では、アーム部1b等の駆動部は上記のように2箇所で停止するようにしている。
【0035】
図8は本実施形態の磁気駆動装置を利用したシャッター装置の例を示す図である。
【0036】
図8(a)において、本実施形態におけるシャッター装置では下地板2を図のようにシャッターのフレームと一体的に形成する。下地板2の穴部2bから下地板2の裏面側へ延在したアーム部1bにシャッタ羽根10を係合させ、カバー板11でシャッタ羽根10をカバーする。組立後のシャッタ装置110を図8(b)に示す。
【0037】
図9は図8のシャッター装置を含んだ光学機器の例を示しており、本実施形態では、デジタルスチルカメラを示す。上述の磁気駆動装置あるいは図8に示したようなシャッター装置110を搭載した光学機器としては、他にもビデオカメラ、銀塩フィルム用スチルカメラなどが考えられる。
【0038】
以上のような構成によって、本実施形態の磁気駆動装置は、ヨークの形状およびこれのローターマグネットに対する位置決め構造を簡単な構造にすることができる。また、このような構成においても、コイルの巻回数が小さくなってしまうなど駆動精度を落すことなく、ローターマグネットの同心円上の外形を小型化することができ、すなわち磁気駆動装置としての外形を小型化することができる。さらに、このような磁気駆動装置を光量調節装置及び、電子カメラ等の光学機器に用いた場合、高精度で小型な装置を提供することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、直方体ヨーク5と磁極部3との固着方法について別の構成例を第2の実施形態として図10に示す。
【0040】
図10において、磁極部3の凸部3a,3bの一部にそれぞれ凹部3d(嵌合部)を形成し、直方体ヨーク5にもこの凹部3dに対応した端部5aを形成する。これらを嵌合させることによって直方体ヨーク5と磁極部3とを固着する。これによって位置精度を向上でき、さらには組立も簡略化できる。
【0041】
以上説明したように、上記のような構成とすることにより、ヨークのローターマグネットに対する位置決めを強固に行うとともに、構成部品全体としての部品形状を簡略化できる。
【0042】
また、ローターマグネットの同心円上の外形が大型化するのを回避しつつ磁極部を励磁するコイルの巻き線スペースを大きく確保できるため、効率の良い磁気駆動装置を提供することができる。
【0043】
結果としてこの磁気駆動装置を使用した光量絞り装置および、このような光量絞り装置を使用したビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の光学機器の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる駆動装置を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示した駆動装置の完成品の斜視図である。
【図3】図1に示した駆動装置の完成品の裏面側の斜視図である。
【図4】円弧形状の磁極部と直方体ヨークの固着部を示す部分図である。
【図5】コイルボビンのスペースを説明するための斜視図および平面図である。
【図6】第1の実施形態の構成を使用しない場合のコイルボビンのスペースを説明するための斜視図および平面図である。
【図7】図1に示した駆動装置の完成品の断面図である。
【図8】第1の実施形態の駆動装置を搭載したシャッター装置を示す図である。
【図9】図9に示したシャッター装置を搭載した光学機器を示す図である。
【図10】第2の実施形態の駆動装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ローターマグネット
2 下地板
3 磁極部
4 コイルボビン
5 直方体ヨーク
6 スラスト押さえ
7 カバー
8 ビス
9 レーザー溶接跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターマグネットと、
コイルが巻き回されるコイルボビンであって、中央部に貫通穴を有するコイルボビンと、
前記貫通穴に挿入された棒状の一体物からなるヨークと、
前記ヨークの両端部にそれぞれ固着された円弧形状の一対の磁極部材と、
前記ローターマグネットの一端をスラスト方向に規制する規制部材と、
前記コイルボビンと前記ヨークと前記規制部材とを固定する上地板と、
前記上地板と結合され、前記ローターマグネットの他端を回転可能に支持する下地板と、
を備えることを特徴とする磁気駆動装置。
【請求項2】
前記一対の磁極部材と前記ヨークとが溶接により固着されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気駆動装置。
【請求項3】
前記一対の磁極部材のそれぞれには、上に凸の形状をした凸形状部が形成されており、前記ヨークの端部は前記凸形状部の上に固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気駆動装置。
【請求項4】
前記一対の磁極部材のそれぞれは、前記ローターマグネットに対向するとともに、前記コイルボビンの一部を受け入れるために前記凸形状部の両脇に形成された凹部を有することを特徴とする請求項3に記載の磁気駆動装置。
【請求項5】
前記規制部材は、前記コイルボビンと前記一対の磁極部材の前記凹部との間に挟まれて保持されることを特徴とする請求項4に記載の磁気駆動装置。
【請求項6】
前記一対の磁極部材の前記凸形状部の一部には嵌合部が形成されており、前記ヨークの一部が、前記一対の磁極部材の前記嵌合部に嵌合することによって、前記一対の磁極部材と前記ヨークとが位置決めされることを特徴とする請求項3に記載の磁気駆動装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気駆動装置を備えることを特徴とする光量調節装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光量調節装置を備えることを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−97141(P2010−97141A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270242(P2008−270242)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】