説明

磁界検出装置、及び環境磁界のキャンセル方法

【課題】環境磁界をキャンセルするための補償磁界を極めて小さなエネルギーで生成できる磁気検出装置を提供する。
【解決手段】磁界センサ2と、磁界センサ2が検出する環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成して磁界センサ2に印加する磁界補償手段10とを備える磁界検出装置1であって、磁界補償手段10が、磁界センサ2のx軸方向に補償磁界を印加するための永久磁石3a,3b、その再着磁用のコイル6a,6bおよび再着磁用の電流を供給する電源部11、y軸方向に補償磁界を印加するための永久磁石4a,4b、その再着磁用のコイル6a,6b、および再着磁用の電流を供給する電源部12、z軸方向に補償磁界を印加するための永久磁石5a,5b、その再着磁用のコイル7a,7b、および再着磁用の電流を供給する電源部13と、再着磁用の各電流を磁界センサ2の検出した環境磁界に基づき制御する制御部9とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界強度を検出する磁界センサと、環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成する磁界補償手段とを備える磁界検出装置、及び環境磁界のキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁界センサや非接触電流センサは、産業界等で使用される測定器・制御機械や、一般家庭等で使用される電化製品など多種多様な分野で利用されている。磁界あるいは電流の物理量を正確に測定することは、非常に重要で、例えば、磁界センサとしては磁気ビーズで標識された生体分子の検出のための高感度磁界センサや電子コンパス、電化製品としてはバッテリの充放電のモニタリングシステムなど、先進医療分野・情報化社会・省エネルギー社会を担う部品として必要不可欠である。
【0003】
しかしながら、地磁気を始め、様々な電子機器・装置から放出される高周波磁界などの外乱ノイズとなる環境磁界の影響により、測定対象とする磁界(電流)を精度よくセンシングするのは難しい。これを解決するために、地磁気などの環境磁界に対し、それをキャンセルする補償磁界を生成し、磁界をキャンセルする方法がある。例えば、特許文献1には、環境磁場検出コイルの出力にしたがって、補償コイルに環境磁界と逆相の補償磁界を生成する信号を出力し、補償コイルが生成する補償磁界を磁界センサに印加する磁気検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−184116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の磁気検出装置のように環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成するためには、測定中にはコイル(補償コイル)に電流を流し続ける必要がある。そのため、省エネルギーの観点から好ましくないという課題がある。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、環境磁界をキャンセルするための補償磁界を極めて小さなエネルギーで生成できる磁気検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された磁界検出装置は、磁界強度を検出する磁界センサと、環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成して該磁界センサに印加する磁界補償手段とを備える磁界検出装置であって、該磁界補償手段が、該磁界センサに該補償磁界を印加するための永久磁石と、該永久磁石を再着磁するためのコイルと、該コイルに再着磁用の電流を供給するための電源部と、該再着磁用の電流を該環境磁界に基づき制御する制御部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された磁界検出装置は、請求項1に記載されたものであって、該磁界補償手段が、対向して配置された少なくとも一対の前記永久磁石を備え、該一対の永久磁石の間に前記磁界センサが配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載された磁界検出装置は、請求項2に記載されたものであって、前記一対の永久磁石に対応させて一対のコイルが配置されており、該一対のコイルが、直列接続されて1つの前記電源部に接続されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載された磁界検出装置は、請求項1から3のいずれかに記載されたものであって、前記磁界センサが、2軸方向または3軸方向の磁界強度を検出する多軸磁界センサであり、該磁界補償手段が、この軸ごとにそれぞれ、前記永久磁石、前記コイル、および前記電源部を備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載された磁界検出装置は、請求項1から4のいずれかに記載されたものであって、前記環境磁界が、前記磁界センサ、または前記磁界センサとは別に配置された環境磁界検出用センサによって検出されることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載された磁界検出装置は、請求項1から5のいずれかに記載されたものであって、前記磁界センサの検出する磁界強度に基づいて、前記制御部によって測定対象磁界の強度が測定される磁界測定器、または前記制御部によって被測定導体に流れる電流が測定される電流測定器であることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載された環境磁界のキャンセル方法は、磁界強度を検出する磁界センサに、永久磁石及び該永久磁石を再着磁するためのコイルを配し、該コイルに再着磁用の電流を供給して該永久磁石が生成する磁界強度をゼロに再着磁して、測定対象磁界を印加しない状態で環境磁界を検出し、該環境磁界をキャンセルする補償磁界を該永久磁石が該磁界センサに印加するように該コイルに再着磁用の電流を供給して該永久磁石を再着磁することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁界検出装置によれば、環境磁界をキャンセルするための補償磁界を、永久磁石を再着磁して生成している。永久磁石の再着磁は極短時間だけコイルに電流を供給すればよいので、環境磁界をキャンセルするための補償磁界を極めて小さなエネルギーで生成することができる。
【0015】
一対の永久磁石の間に磁界センサが配置されている場合、磁界センサの片側だけに永久磁石が配置されている場合よりも、磁気センサに均一に補償磁界を印加することができるため、環境磁界を確実にキャンセルすることができ、測定対象磁界の磁界強度を正確に検出することができる。
【0016】
一対の永久磁石に一対のコイルを配置して、この一対のコイルが直列接続されて1つの電源部に接続されている場合、電源部から一対のコイルに共通の電流が供給されるので、電源部の数を少なくすることができ、簡便な構成の装置にすることができる。
【0017】
磁界センサが多軸磁界センサであり、この軸ごとにそれぞれ、永久磁石、コイル、および電源部を備えている場合、環境磁界を各軸ごとにキャンセルできるため、一層正確に測定対象磁界を測定することができる。
【0018】
環境磁界が、磁界センサによって検出される場合、環境磁界と測定対象磁界とが1つの磁界センサによって測定されるので、装置を簡便な構成とすることができると共に、測定対象磁界の測定ポイントにおける環境磁界が測定できるため、環境磁界を確実にキャンセルすることができる。また、環境磁界が、磁界センサとは別に配置された環境磁界検出用センサによって検出される場合、環境磁界の検出感度と測定対象磁界の検出感度とを異ならせることができる。例えば、環境磁界検出用センサに磁界センサよりも高感度なセンサを用いることで、環境磁界を精度よく測定でき、環境磁界を精度よくキャンセルすることができる。
【0019】
磁界検出装置を磁界測定器や電流測定器として使用する場合、環境磁界の影響を受けずに、正確な測定を行うことができる。
【0020】
また、本発明の環境磁界のキャンセル方法によれば、永久磁石が生成する磁界強度をゼロに再着磁してから、測定対象磁界を印加しない状態で環境磁界を検出し、永久磁石を再着磁して環境磁界をキャンセルすることにより、測定対象磁界の影響を受けることなく環境磁界を正確に測定できるため、環境磁界を確実にキャンセルすることができると共に、極めて省エネルギーで環境磁界をキャンセルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用する磁界検出装置の模式図である。
【図2】本発明を適用する磁界検出装置の磁界発生の原理を説明する磁化曲線である。
【図3】本発明を適用する環境磁界のキャンセル方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
図1に本発明を適用する磁界検出装置1を示す。この磁界検出装置1は、磁界強度を検出する磁界センサ2と、磁界センサ2によって検出された環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成して磁界センサ2に印加する磁界補償手段10とを備え、環境磁界の影響を受けずに測定対象磁界の強度を測定可能な磁界測定器になっている。磁界補償手段10は、一対の永久磁石3a,3b、一対の永久磁石4a,4b、一対の永久磁石5a,5b、一対のコイル6a,6b、一対のコイル7a,7b、一対のコイル8a,8b、電源部11,12,13、制御部9、操作部21、表示部22を備えている。
【0024】
磁界センサ2は、一例として、この磁界センサ2を中心として互いに直交するx軸、y軸、z軸の3軸方向の磁界強度を各々検出可能な3軸磁界センサである。磁界センサ2は、例えば、磁界検出用のコイル、ホール素子、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス素子、ファラデー素子、直交フラックスゲート磁界センサなどの公知の種々の方式により磁界を検出可能に構成されている。磁界センサ2は、その駆動回路やアナログ/デジタル変換器(共に図示せず)を介して、3軸方向の各々の磁界強度信号を制御部9に出力する。
【0025】
一対の永久磁石3a,3bは、Fe,Co,Ni,Gdのうちの少なくとも一種を含む硬磁性体であり、例えば一般的なフェライト磁石である。永久磁石3a,3bは、後述するように、必要な大きさの補償磁界を生成するように着磁量をコントロールされるため、製造当初は着磁されていないものであってもよい。永久磁石3a,3bは、磁界センサ2にx軸方向から磁界を印加するために、磁界センサ2がちょうど中間に位置するように、磁界センサ2を間に挟んでx軸上に配置されている。永久磁石3a,3bの磁界方向は、例えば永久磁石3aの磁界センサ2側がN極、永久磁石3bの磁界センサ2側がS極のように、同方向、つまり互いが引き付き合う方向になっている。永久磁石3a,3bは、磁界センサ2に密着して配置されていてもよいし、適宜間隔を開けて配置されていてもよい。永久磁石3a,3bは、磁界センサ2に均一な磁界を印加するために、磁界センサ2の対向する面の大きさが磁界センサ2よりも大きな形状であることが好ましい。永久磁石3a,3bは、同図に示すように、x軸を中心軸とする四角柱形状であってもよいし、円柱形状や多角柱形状であってもよい。また、永久磁石3a,3bを、例えばセラミック製などの基板上に膜状に形成してもよい。永久磁石3a,3bは、共に同様の材質で、同様の形状に形成されていることが好ましいが、磁界センサ2に磁界を印加可能であれば材質や形状等が異なっていてもよい。また、一対の永久磁石3a,3bを用いると、磁界センサ2にx軸方向の均一な磁界を印加できるので好ましいが、磁界センサ2に磁界を印加可能であれば、1つの永久磁石3a(または永久磁石3b)だけを用いてもよい。
【0026】
コイル6aは、永久磁石3aを再着磁するためのものであり、コイル6bは、永久磁石3bを再着磁するためのものである。一対のコイル6a,6bは、その両軸が磁界センサ2のx軸と同軸となるように、対応する永久磁石3a,3bに配置されている。具体的には、コイル6a,6bは、巻き数、線材の材質、線径、線長など、共に同様のコイルに形成されていて、同じ巻方向で、永久磁石3a,3bの側面に巻回されている。なお、永久磁石3a,3bを、基板上に膜状に形成した場合、コイル6a,6bを基板上の永久磁石3a,3bの周囲に導体パターンで形成してもよい。コイル6a,6bは、対応する永久磁石3a,3bに直接、または永久磁石3a,3bの近傍の位置に配置することが磁界を掛ける観点から好ましいが、永久磁石3a,3bに再着磁用の磁界を掛けることができる位置であれば、永久磁石3a,3bから離れた位置に配置してもよい。コイル6a,6bは、永久磁石3a,3bを着磁することができれば、形状および配置を問わない。
【0027】
コイル6a,6bは、電気的に直列接続されて電源部11に接続されていて、電源11から共通の電流が供給される。
【0028】
一対の永久磁石4a,4bは、磁界センサ2にy軸方向から磁界を印加するために、磁界センサ2がちょうど中間に位置するように、磁界センサ2を間に挟んでy軸上に配置されている。また、一対の永久磁石5a,5bは、磁界センサ2にz軸方向から磁界を印加するために、磁界センサ2がちょうど中間に位置するように、磁界センサ2を間に挟んでz軸上に配置されている。永久磁石4a,4bおよび永久磁石5a,5bは、永久磁石3a,3bと同様のものであることが、特性の共通化の観点や、製造上の観点から好ましいが、それぞれ形状や材質等を異ならせてもよい。
【0029】
一対のコイル7a,7bは、対応する永久磁石4a,4bを再着磁するためのものである。コイル7a,7bは、その両軸が磁界センサ2のy軸と同軸となるように、同じ巻き方向で、対応する永久磁石4a,4bに配置されている。コイル7a,7bは、電気的に直列接続されて電源12に接続されていて、電源12から共通の電流が供給される。また、一対のコイル8a,8bは、対応する永久磁石5a,5bを再着磁するためのものである。コイル8a,8bは、その両軸が磁界センサ2のz軸と同軸となるように、同じ巻き方向で、対応する永久磁石5a,5bに配置されている。コイル8a,8bは、電気的に直列接続されて電源13に接続されていて、電源13から共通の電流が供給される。コイル7a,7bおよびコイル8a,8bは、コイル6a,6bと同様のものであることが、特性の共通化の観点や、製造上の観点から好ましいが、それぞれ形状や材質等を異ならせてもよい。
【0030】
電源部11,12,13は、各々対応するコイル6a,6b、コイル7a,7b、コイル8a,8bに再着磁用の電流を供給するものである。電源部11,12,13は、各々任意の電流値の正、負のパルス電流を出力可能なものであり、出力するパルス電流の極性、パルス電流の大きさ、パルス幅を、制御部9に個別に制御される。電源11,12,13は、公知の電源や電流制御回路を用いてもよく、また、コンデンサに電流値に対応する電荷を充電させ、その電荷を瞬間的に放電させるようにしたコンデンサ式の放電回路を用いてもよい。
【0031】
制御部9は、再着磁用の電流を、磁界センサ2の検出した環境磁界に基づき制御するものである。制御部9は、一例として、CPU、フラッシュROM、RAM、A/D変換器、および入出力インタフェース回路(いずれも図示せず)などを備え、ROMなどのメモリに記憶されたプログラムにしたがって動作して、磁界検出装置1の動作を統括的に制御する。
【0032】
操作部21は、例えばタッチパネル、キーボードなどであり、制御部9に操作信号を出力する。表示部22は、例えば液晶パネルであり、制御部9に制御されて、測定値などを表示する。
【0033】
次に、磁界検出装置1の動作原理について説明する。
【0034】
図2に、永久磁石3aの磁化曲線(BHカーブ)を示す。他の永久磁石3b,4a,4b,5a,5bの磁化曲線も同様である。この磁化曲線は、一般的なものであり、例えば永久磁石3aに正方向の大きな磁場Hを掛けると、永久磁石3aが正方向に磁気飽和して、磁化曲線のa点になる。この状態から磁場Hを弱くして0にすると、磁化曲線はb点(正の残留磁束密度B)を通り、さらに負方向に磁場Hを強くしていくと磁化曲線はc点を通って、磁場Hrのときに負方向に磁気飽和してd点になる。この状態から、磁場Hを正方向に強くしていくと、磁化曲線はe点(負の残留磁束密度Br)→f点→a点となる。このように磁化曲線はヒステリシスカーブを描く。通常、永久磁石を製造するときには、残留磁束密度Bが0の磁化前の磁石母材に、磁界H以上の磁場を掛けて磁化させている。
【0035】
発明者は、永久磁石3aに、負方向に少なくとも磁場Hrを掛けて負方向に磁気飽和させ、続いて正の磁場Hを掛けてから磁場を0に戻すと、例えば同図に示すように磁化曲線はd点→e点→s点→s点になり、永久磁石3aが正の残留磁束密度Bに着磁することに気がついた。同様のことを磁場Hで行うと、磁化曲線はd点→e点→t点→t点になり、永久磁石3aが正の残留磁束密度Bに着磁する。
【0036】
また、永久磁石3aに、正方向に少なくとも磁場Hを掛けて磁気飽和させ、続いて負の磁場H3を掛けてから磁場を0に戻すと、同図に示すように磁化曲線はa点→b点→u点→u点になり、永久磁石3aが負の残留磁束密度Bに着磁する。
【0037】
つまり、正方向の所定強度で永久磁石3aを再着磁させたいときには、永久磁石3aを再着磁方向とは逆方向の負方向に磁気飽和させて一度リセットしてから、磁場0〜Hの範囲の所定の強度の正の磁場(H、H、H等)を掛けることで、永久磁石6を残留磁束密度0〜Bの範囲の所望の大きさの正の残留磁束密度B(B、B、B等)に自在に設定することが可能である。逆に、負方向の所定強度で永久磁石3aを再着磁させたいときには、永久磁石6を正方向に磁気飽和させて一度リセットしてから、磁場0〜Hrの範囲の所定の強度の負の磁場(H等)を掛けることで、永久磁石6を残留磁束密度0〜Brの範囲の所望の大きさの負の残留磁束密度B(B等)に自在に設定することが可能である。残留磁束密度は0に設定することもできる。
【0038】
永久磁石3aを再着磁するために必要な時間、つまりリセットするための磁場H、Hrや、残留磁束密度を規定するための磁場Hを掛ける時間は、各々例えば10〜1000μsecのように、非常に短い時間でよい。このようにパルス状の磁界を印加するだけで、永久磁石3aを再着磁することが可能である。
【0039】
この原理を利用することで、永久磁石3a等を、正負の極性及び任意の大きさの残留磁束密度Bに、短時間で変更設定することができる。
【0040】
永久磁石3a,3bは、コイル6a,6bに電源部11からパルス状のリセット電流と設定電流とを順番に電源部11から流すことで所望の残留磁束密度に再着磁して、所望の強度の磁界を生成する。磁界検出装置1を使用する前に、電源部11から出力させる正や負のリセット電流の値やそのパルス幅を制御部9に予め記憶させておく。また、磁界センサ2に印加する磁界強度を任意の値に設定できるように、設定電流の値及びパルス幅と、生成される磁界強度との関係を測定して、その参照テーブルまたは算定式を制御部9に予め記憶させておく。パルス幅は所定のパルス幅に固定して、リセット電流や設定電流の参照テーブル等を制御部9に記憶させてもよい。電源12,13についても同様に正や負のリセット電流、および設定電流と磁界強度との参照テーブル等を制御部9に記憶させておく。
【0041】
なお、永久磁石3a等の生成する磁界強度(残留磁束密度B)の大きさを設定するためには、磁場Hの大きさ、つまりコイル6a等に流す電流を制御する必要があるので、磁化曲線のf点からa点、及びc点からd点までの傾きがなだらか(傾きが小)であることが好ましい。これは磁化曲線の傾きが急(傾きが大)であると、僅かに磁場H(電流)を変化させただけで残留磁束密度Bが大きく変わってしまうので、磁場Hを精密に制御する必要があるためである。強力なネオジム永久磁石やサマリウムコバルト永久磁石は、磁化曲線の傾きが急であるので、磁場Hを精密に制御する必要がある。ストロンチウム−フェライト永久磁石やバリウム−フェライト永久磁石は、磁化曲線の傾きがなだらかであり、磁場Hの制御が容易であるので、好ましく用いることができる。また、環境磁界は、さほど大きくないことが多いため、比較的弱い磁石である、ストロンチウム−フェライト永久磁石やバリウム−フェライト永久磁石を好ましく用いることができる。
【0042】
次に、磁界検出装置1による環境磁界のキャンセル方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0043】
測定対象磁界の磁界強度の測定を開始する前に、磁界検出装置1は、予め環境磁界を測定し、測定された環境磁界をキャンセルする。具体的には、先ず、測定者は、測定対象磁界をセンサ2に印加しない状態にしておく。この状態で、測定者によって操作部21が操作されて、環境磁界のキャンセルモードが選択されると、制御部9は、電源部11〜13を制御して、正又は負のリセット電流を所定時間(例えば10μsec)のパルス幅で出力させ、続いて、永久磁石3a,3b、永久磁石4a,4b、永久磁石5a,5bの生成する磁界強度をゼロ(残留磁束密度をゼロ)にする設定電流を所定時間のパルス幅で出力させる(ステップS1)。これにより、永久磁石3a,3b等が磁界を生成しなくなり、磁界センサ2には、環境磁界のみが印加された状態になる。
【0044】
次に、制御部9は、磁界センサ2の検出する3軸の磁界強度を読み込む(ステップS2)。これにより、3軸方向の環境磁界の大きさが測定される。次に、制御部9は、読み込んだx軸方向の環境磁界と同じ大きさで逆極性の補償磁界を生成するように、電源部11を制御して、各々所定時間のパルス幅のリセット電流、設定電流をコイル6a,6bに順次流し、永久磁石3a、3bを再着磁する(ステップS3)。続いて、制御部9は、y軸方向の環境磁界と同じ大きさで逆極性の補償磁界を生成するように、電源12を制御して、各々所定時間のパルス幅のリセット電流、設定電流をコイル7a,7bに順次流し、永久磁石4a、4bを再着磁する(ステップS4)。続いて、制御部9は、z軸方向の環境磁界と同じ大きさで逆極性の補償磁界を生成するように、電源13を制御して、各々所定時間のパルス幅のリセット電流、設定電流をコイル8a,8bに流し、永久磁石5a、5bを再着磁する(ステップS5)。これにより、磁界センサ2に印加される3軸方向の環境磁界が、補償磁界でキャンセルされる。永久磁石3a、3b、永久磁石4a、4b、永久磁石5a、5bを再着磁する順番、つまりステップS3〜S5の順番は変えてもよい。また、ステップS3〜S5は、同時に行ってもよい。
【0045】
次に、制御部9は、磁界センサ2から3軸の磁界強度を読み込んで(ステップS6)、磁界センサ2の検出した磁界強度がゼロとみなせる許容範囲内に入っているか否かを確認する(ステップS7)。磁界強度がゼロとみなせるときには、環境磁界のキャンセルモードを終了する。磁界強度がゼロとみなせないときには、検出された磁界強度をゼロにするように、磁界強度がゼロでない軸の永久磁石を再着磁する(ステップS8)。例えば、制御部9は、磁界強度がゼロでない軸の永久磁石を再度リセットしてから、検出された磁界強度をゼロにするように、その軸のコイルに流す設定電流を、ステップS3〜S5で流した設定電流から増減させて再着磁する。続いて、制御部9は、ステップS7、S8で磁界センサ2から磁界強度を読み込んでゼロとみなせれば終了し、ゼロとみなせなければゼロとみなせるまで、ステップS6〜S8を繰り返す。なお、ステップS1〜S5で環境磁界が充分キャンセルできる場合には、ステップS6〜S8を実行しなくてもよい。
【0046】
以上で、環境磁界のキャンセル動作が終了する。これにより、磁界センサ2では、環境磁界の影響がキャンセルされた状態となり、この状態が保持される。環境磁界のキャンセルモードで、電源部11〜13からパルス電流を流す時間は極めて短時間であるので、保障磁界の生成に電力をほとんど消費しない。
【0047】
測定者は、引き続き、操作部21を操作して、測定モードに設定し、測定対象磁界を磁界センサ2に印加する。磁界センサ2は、環境磁界および補償磁界がキャンセルされているのでこれらを検出せず、測定対象磁界だけを検出する。制御部9は、測定モードでは、磁界センサ2の検出した3軸方向の磁界強度や、その3軸方向の磁界強度をベクトル合成した磁界強度を、例えば表示部22に表示して、測定対象磁界の測定を終了する。
【0048】
測定者は、磁界検出装置1の測定場所や傾き、測定時間帯などの測定環境が変わったときに、前述した環境磁界のキャンセルモード(方法)を予め実行してから測定対象磁界の測定を行う。
【0049】
なお、前述の例では、磁界検出装置1が、磁界センサ2の検出する磁界強度に基づいて制御部9が測定対象磁界の強度を測定して表示部22に表示させるような磁界測定器になっている例について説明したが、磁界検出装置1が、被測定導体に流れる電流によって生じる磁界を測定対象磁界として磁界センサ2で検出し、検出した測定対象磁界の磁界強度から制御部9が被測定導体に流れる電流を演算して表示部22に表示させるような電流測定器になっていてもよい。
【0050】
また、磁界検出装置1が3軸方向の磁界の強さを検出する例について説明したが、必要性に応じて、例えばx軸、y軸のように2軸方向の磁界の強さを検出する磁界検出装置1としてもよい。この場合、磁界センサ2は2軸方向の磁界強度を検出できるものであればよく、z軸方向の電源部13、永久磁石5a、5b及びコイル8a,8bは省略できる。また、必要性に応じ、磁界検出装置1がx軸、y軸、又はz軸のいずれか1軸方向の磁界の強さを検出するようにしてもよい。この場合、磁界センサ2は1軸方向の磁界強度を検出できるものであればよく、磁化強度を検出しない軸の電源部や永久磁石等は省略できる。
【0051】
また、例えば一対のコイル6a,6bが電気的に直列接続されて1つの電源部11から共通の電流が供給される例について説明したが、コイル6aに1つの電源部が接続され、コイル6bに他の電源部が接続されるように、コイル6a,6bの各々に別個の電源部から再着磁用のパルス電流を供給するようにしてもよい。コイル7a,7b,8a,8bについても同様である。
【0052】
また、磁界センサ2に環境磁界の検出、及び測定対象磁界の検出をさせる例について説明したが、磁界センサ2の他に環境磁界検出用センサを備えて、この環境磁界検出用センサに環境磁界の磁界強度を検出させ、磁界センサ2に測定対象磁界を検出させるようにしてもよい。環境磁界検出用センサとしては、磁界センサ2と同様の3軸磁界センサを用いることができるが、環境磁界をより精度良く測定するために磁界センサ2よりも高感度な3軸磁界センサを用いることが好ましい。環境磁界検出用センサのx軸、y軸、z軸は、磁界センサ2の対応するx軸、y軸、z軸と各々平行になるように、両センサの検出軸の方向を同方向に合わせて配置する。なお、環境磁界検出用センサとして、1軸方向の磁界強度を検出可能な磁界強度センサを3つ用いて、この3つの磁界センサを磁界センサ2のx軸、y軸、z軸の方向に合わせて配置してもよい。磁界センサ2に印加される環境磁界を正確に検出するために、環境磁界検出用センサを磁界センサ2の近傍に配置することが好ましいが、環境磁界は例えば地磁気のように比較的広い範囲で一定の値となることが多いので、磁気センサ2から多少離して配置してもよい。具体的には、例えば図1において、環境磁界検出用センサを、磁界センサ2に密着する位置に配置することが好ましいが、いずれかの磁石(例えば磁石5a)の磁界センサ2とは反対側の位置(例えば磁石5aよりも図の上側の位置)に配置してもよい。環境磁界検出用センサは制御部9に接続されていて、図3のフローチャートのステップS2で、制御部9が環境磁界検出用センサから環境磁界の磁界強度を読み込む。
【符号の説明】
【0053】
1は磁界検出装置、2は磁界センサ、3a・3b・4a・4b・5a,5bは永久磁石、6a・6b・7a・7b・8a・8bはコイル、9は制御部、10は磁界補償手段、11・12・13は電源部、21は操作部、22は表示部である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界強度を検出する磁界センサと、環境磁界をキャンセルする補償磁界を生成して該磁界センサに印加する磁界補償手段とを備える磁界検出装置であって、該磁界補償手段が、該磁界センサに該補償磁界を印加するための永久磁石と、該永久磁石を再着磁するためのコイルと、該コイルに再着磁用の電流を供給するための電源部と、該再着磁用の電流を該環境磁界に基づき制御する制御部とを備えていることを特徴とする磁界検出装置。
【請求項2】
該磁界補償手段が、対向して配置された少なくとも一対の前記永久磁石を備え、該一対の永久磁石の間に前記磁界センサが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の磁界検出装置。
【請求項3】
前記一対の永久磁石に対応させて一対のコイルが配置されており、該一対のコイルが、直列接続されて1つの前記電源部に接続されていることを特徴とする請求項2に記載の磁界検出装置。
【請求項4】
前記磁界センサが、2軸方向または3軸方向の磁界強度を検出する多軸磁界センサであり、該磁界補償手段が、この軸ごとにそれぞれ、前記永久磁石、前記コイル、および前記電源部を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁界検出装置。
【請求項5】
前記環境磁界が、前記磁界センサ、または前記磁界センサとは別に配置された環境磁界検出用センサによって検出されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の磁界検出装置。
【請求項6】
前記磁界センサの検出する磁界強度に基づいて、前記制御部によって測定対象磁界の強度が測定される磁界測定器、または前記制御部によって被測定導体に流れる電流が測定される電流測定器であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の磁界検出装置。
【請求項7】
磁界強度を検出する磁界センサに、永久磁石及び該永久磁石を再着磁するためのコイルを配し、該コイルに再着磁用の電流を供給して該永久磁石が生成する磁界強度をゼロに再着磁して、測定対象磁界を印加しない状態で環境磁界を検出し、該環境磁界をキャンセルする補償磁界を該永久磁石が該磁界センサに印加するように該コイルに再着磁用の電流を供給して該永久磁石を再着磁することを特徴とする環境磁界のキャンセル方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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