説明

神経の過度な興奮を緩和する薬剤

本発明は、興奮毒性関連障害を治療するための候補薬剤を識別する方法を提供する。本発明はさらに、興奮毒性関連障害を治療するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年4月5日出願の米国仮特許出願第60/922,082号の利益を主張し、この出願はその全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究に関する記述
アメリカ連邦政府は、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)によって与えられた助成金番号AG022074、AG11385、およびNS054811に従って本発明に一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0003】
神経の過度な興奮は、多岐にわたる神経系症状の根底にあると考えられる。発作は神経の過度な興奮のよくある発現であり、癲癇は最も広く認められている神経系症状の1つである。発作はまた、多くの他の神経系疾患の特徴として起こる。興奮毒性、すなわち細胞および/または神経回路網の機能不全もしくは死を引き起こす神経の過度な興奮によって特徴づけられる病態生理学的過程は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、卒中、および他の神経系症状において役割を果たすと考えられる。
【0004】
興奮毒性を低減させるのに用いられる現在の薬物はわずかに効果があるに過ぎない。さらにこのような薬物の使用は有害な副作用と関係する。例えば興奮毒性薬物は、正常な神経機能に悪影響を与える。
【0005】
タウは、微小管結合タンパク質である。タウは、アルツハイマー病では過リン酸化されるようになり、また他の翻訳後修飾を受けて、集まって神経原線維変化になる。タウは、選択的mRNAスプライシングによって単一遺伝子から誘導される6種類のタンパク質系統群である。ヒトの脳のタウアイソフォームは、アミノ酸352個から441個に及ぶ。これらタウアイソフォームは、C末端半分の中にそれぞれアミノ酸31個または32個の3個または4個のチューブリン結合ドメインを含有し、かつ分子のN末端部分の中にそれぞれアミノ酸29個の挿入フラグメントを2個、1個含有するか、または何も含有しない。6種類のアイソフォームのすべてが、アルツハイマー病などのタウオパチーと関連する対螺旋状線維中に過リン酸化状態で存在することが報告されている。
【0006】
先行技術文献
米国特許出願公開第2004/0241854号明細書
Rapoportら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:6364〜6469
Dickeyら(2006)Mol.Neurodegener.1:6
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、興奮毒性関連障害を治療するための候補薬剤を識別する方法を提供する。本発明はさらに、興奮毒性関連障害を治療するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A−E】hAPPマウスにおける水迷路学習機能障害に及ぼすタウの影響を示す図である。
【図2A−E】hAPPマウスにおける行動異常および早期死亡に及ぼすタウの影響を示す図である。
【図3A−D】Aβプラーク堆積、神経突起ジストロフィー、または異常新芽形成に及ぼすタウの影響を示す図である。
【図4A−D】興奮毒誘発性発作に及ぼすタウの影響を示す図である。
【図5】ヒトのタウアイソフォームの模式的描写を示す図である。
【図6A−H】様々なヒトのタウアイソフォームのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す図である。
【図7A−C】カルビンディンおよびNPYのhAPP/Aβ誘発性変化に及ぼすタウの影響を示す図である。
【図8】hAPPlow/FYNバイジェニックマウスにおいて神経機能に及ぼすタウ減少の影響を示す図である。
【図9】hAPPlow/FYNバイジェニックマウスにおいて死亡率に及ぼすタウ減少の影響を示す図である。
【図10A−C】hAPP/FYNバイジェニックマウスにおいて行動欠陥に及ぼすタウ減少の影響を示す図である。
【図11】TASDマウスにおいて死亡率に及ぼすタウ減少の影響を示す図である。
【図12A−C】様々な遺伝子型のマウス由来の海馬のホモジネート中のタウおよびhAPPのレベルを示す図である。
【図13A−C】タウ減少がAβレベルに影響を及ぼさないことを示す結果を描いた図である。
【図14A−H】タウ減少が若いマウス中のプラーク負荷に影響を及ぼさないことを示す結果を描いた図である。
【図15A−B】タウの減少がAβ56のレベルに影響を及ぼさないことを示す結果を描いた図である。
【図16A−B】hAPP/Tau+/+マウスにおけるタウのリン酸化を示す図である。
【図17A−B】タウタンパク質分解を示す図である。
【図18】タウ減少がhAPP−J9/FYNバイジェニックマウスにおいて抑制性のリモデリングを遮断することを示す結果を描いた図である。
【図19】タウ減少がhAPPマウスの異常興奮活動を遮断することを示す結果を描いた図である。
【図20】タウ減少が頭部損傷後の回復を増進させることを示す結果を描いた図である。
【図21】タウ減少が頭部損傷後の発作を改善することを示す結果を描いた図である。
【0009】
定義
本明細書中で用いられる用語「興奮毒性」は、細胞の機能不全および/または神経回路網の機能不全および/または細胞死を引き起こす神経の過度な興奮を特徴とする病態生理学的過程を指す。
【0010】
本明細書中で「核酸」とは、DNAまたはRNAを意味するか、あるいはデオキシヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの両方を含有する分子を意味する。これら核酸には、センスおよびアンチセンス核酸を含むゲノムDNA、cDNA、およびオリゴヌクレオチドが含まれる。siRNAなどのsiNAもまた含まれる。このような核酸はまた、生理的環境中でのこのような分子の安定性および半減期を増すためにリボースリン酸バックボーンの修飾を含有することもできる。
【0011】
核酸は、二本鎖、一本鎖であってもよく、または二本鎖および一本鎖配列の両方の一部を含有することもできる。当業者には分かるはずだが、一本鎖の描写(「ワトソン」)はまた、もう一方の鎖の配列(「クリック」)も定める。本明細書中で用語「組換え核酸」とは、元来はin vitroで、一般にはエンドヌクレアーゼによる核酸の操作によって形成され、普通は自然界に見出されない形態の核酸を意味する。したがって線形の単離された核酸、あるいは普通では接合されないDNA分子を結紮することによってin vitroで形成された発現ベクターは、両方とも本発明の目的の組み換え体であるとみなされる。いったん組換え核酸が作られ、再び宿主細胞または生物体中へ導入されると、それは組換えによらずに、すなわちin vitro操作においてではなく宿主細胞のin vivo細胞機構を用いて複製することになるが、このような核酸は、いったん組換えにより産生されると、その後は組換えによらずに複製されるけれども、まだ本発明の目的の組み換え体であるとみなされると理解される。
【0012】
核酸配列の同定(およびアミノ酸配列の同定)は、保存モチーフ、コード領域、フランキング領域などのより大きな配列のサブセットであることができる参照用配列に基づいて計算される。参照用配列は、少なくとも約18個の長さの残基、または少なくとも約30個の長さの残基であることができ、あるいは対照されるその完全配列まで延びていてもよい。Altschulら(1990),J.Mol.Biol.215:403〜10に記載されているBLAST(デフォルト設定値すなわちパラメーターw=4およびT=17)などの配列解析用アルゴリズムが当業界で知られている。
【0013】
或る核酸が前述の核酸配列とハイブリッドを形成すると言われる場合、ハイブリッド形成はストリンジェントな条件下にある。ストリンジェントなハイブリッド形成条件の例は、50℃以上および0.1×SSC(15mM塩化ナトリウム/1.5mMクエン酸ナトリウム)でのハイブリッド形成である。ストリンジェントなハイブリッド形成条件の別の例は、溶液、すなわち50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%デキストラン硫酸、および20μg/mLの変性し剪断したサケ精子DNAの中で、42℃で一晩のインキュベーション、続いて約65℃の0.1×SSC中でのその濾過物の洗浄である。ストリンジェントなハイブリッド形成条件は、上記の代表的な条件のような少なくともストリンジェントなハイブリッド形成条件であり、その場合これら条件はそれらが上記特定のストリンジェントな条件と少なくとも約80%同じであるか、または少なくとも約90%同じであるならば、少なくともストリンジェントであるとみなされる。他のストリンジェントなハイブリッド形成条件が当業界で知られており、それらもまた本発明のこの特定の実施形態の核酸を同定するために利用することができる。
【0014】
同様に、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本明細書中で区別なく使用され、ペプチドおよびオリゴペプチドを包含することができる。本明細書中で「ポリペプチド」が天然に産出するタンパク質分子のアミノ酸配列を指すために述べられる場合、「ポリペプチド」などの用語は、上述のタンパク質分子と関連した完全な天然のアミノ酸配列には必ずしも限定されず、本明細書中で提供されるアミノ酸配列と実質的な配列類似性または配列同一性を有するポリペプチドを含む生物学的に活性な変異型またはフラグメントを包含することができる。一般にフラグメントまたは変異型は、それらの配列が由来する親ポリペプチドの生物学的活性を保有する。
【0015】
本明細書中で用いられる「ポリペプチド」は、i)天然ポリペプチドの、ii)ポリペプチドの生物学的に活性なフラグメントの、またはiii)ポリペプチドの生物学的に活性な変異型のアミノ酸配列を有する組換えまたは非組換えポリペプチドを指す。本発明において有用なポリペプチドは、任意の種、例えば天然であろうと、合成であろうと、半合成であろうと、または組換えであろうと任意の供給源由来の哺乳動物または非哺乳動物(例えば爬虫類、両生類、鳥類(例えば鶏))、特にヒト、齧歯類(例えば、ネズミまたはラット)、ウシ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、非ヒト霊長類動物、またはウマを含めた哺乳動物から得ることができる。幾つかの実施形態ではヒトポリペプチドの配列を含むポリペプチドが、特に対象となる。
【0016】
ポリペプチドの「変異型」は、1つまたは複数のアミノ酸(例えば欠失、付加、挿入、および/または置換)によって変えられるアミノ酸配列として定義される。一般に「付加」は、その分子の末端に付加されるヌクレオチドまたはアミノ酸残基を指し、一方「挿入」は、天然に産出する分子の残基間のヌクレオチドまたはアミノ酸残基を指す。変異型は、置換されたアミノ酸が類似の構造的または化学的特性を有する「保存的」変化、例えばロイシンのイソロイシンによる置き換えを有することができる。幾つかの例では変異型は、「非保存的」変化、例えばグリシンのトリプトファンによる置き換えを有することができる。類似の重要度の低い変異にはまた、アミノ酸の欠失または挿入、あるいはその両方を挙げることができる。生物活性または免疫活性を完全に破壊することなく、どのアミノ酸残基を、またはいかに多くのアミノ酸残基を置換、付加、挿入、または欠失することができるかを決定する指針は、当業界でよく知られているコンピュータ・プログラム、例えばDNAStarソフトウェアを用いて見出すことができる。
【0017】
症状または疾患を「治療すること」またはその「治療」には、(1)それら症状の少なくとも1つの症候を予防すること、すなわちその疾患に曝されるかまたは罹りやすい状態にあるが、まだその疾患の症候を経験または示していない哺乳動物に臨床的症候を顕著には発現させないこと、(2)その疾患を抑制すること、例えば疾患またはその症候の進展を阻止または緩和すること、あるいは(3)その疾患を取り除くこと、すなわち疾患またはその臨床的症候の退縮を引き起こすことが含まれる。
【0018】
「治療に有効な量」または「効き目のある量」とは、疾患を治療するために哺乳動物または他の被検体に投与した場合、その疾患のためのそのような治療を実施するのに十分な化合物の量を意味する。「治療に有効な量」は、その化合物、疾患、およびその重症度、ならびに治療される被検体の年齢、体重などに応じて変わることになる。
【0019】
用語「被検体」、「宿主」、「個体」、および「患者」は、本明細書中で述べる医薬的方法、組成物、および治療の必要性を有する任意の哺乳動物または非哺乳動物の種の1つまたは複数のメンバーを指すために本明細書中では区別なく使用される。したがって被検体および患者には、これらに限定されないがヒト、非ヒト霊長類動物、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えばウマ、ウシ、イノシシ(例えばブタ))、鳥類、および他の哺乳動物の被検体が含まれる。ヒトが、特に対象となる。
【0020】
「哺乳動物」は、任意の哺乳動物の種の1つまたは複数のメンバーを指し、例としてイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、齧歯類等、および霊長類、特にヒトが挙げられる。非ヒト動物モデル、例えば哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、ネズミ(ラット、マウス)、ウサギ等を実験的調査用に使用することができる。
【0021】
本明細書中で用いられる用語「単位剤形」は、ヒトおよび動物の被検体用の単位投与量として適した物理的に分離した単位を指し、それぞれの単位が、薬学的に許容できる増量剤、担体、または賦形剤と共同して所望の効果を生むのに十分な量に計算された所定量の化合物を含有する。
【0022】
「薬学的に許容できる医薬剤添加剤」、「薬学的に許容できる増量剤」、「薬学的に許容できる担体」、および「薬学的に許容できる補助剤」は、一般には安全で非毒性の、かつ生物学的にも他の点でも望ましくないものでない医薬組成物を調製するのに有用な医薬剤添加剤、担体、および補助剤を意味し、これらにはヒトの医薬用途だけでなく獣医用途のためにも許容できる医薬剤添加剤、増量剤、担体、および補助剤が含まれる。本明細書および特許請求の範囲で使用される「薬学的に許容できる医薬剤添加剤、増量剤、担体、および補助剤」には、両方のそのような医薬剤添加剤、増量剤、担体、および補助剤の1種類および2種類以上が含まれる。
【0023】
本明細書中で用いられる「医薬組成物」は、哺乳動物、特にヒトなどの被検体に投与するのに適した組成物を包含することを意図する。一般に「医薬組成物」は無菌であり、またその被検体の体内で望ましくない反応を誘発する恐れのある汚染物質を含まない(例えば、その医薬組成物中の化合物が医薬用である)ことが好ましい。医薬組成物は、経口、口腔内、直腸、非経口、腹膜内、皮内、気管内などを含めた複数の様々な投与経路によりそれを必要とする被検体または患者に投与するように設計することができる。
【0024】
用語「生体試料」は、生物から得られる様々なサンプル型を包含する。この用語は、生物学的起源の血液および他の液体試料、生検標本などの固体組織試料、あるいはそれらから得られる組織培養物または細胞、およびその子孫を包含する。この用語は、試薬による処理、可溶化、または特定成分の富化などによりそれらを獲得した後に任意の方法で操作されている試料を包含する。この用語は、臨床試料を包含し、また細胞培養における細胞、細胞上清、細胞ライゼート、血清、血漿、生体液、および組織試料も含む。
【0025】
本発明についてさらに述べる前に、本発明は、記述する特定の実施形態には限定されず、したがって当然変わる可能性があることを理解されたい。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるので、本明細書中で用いられる用語法は、単に特定の実施形態を記述するためのものに過ぎず、限定することを意図するものでないこともまた理解されたい。
【0026】
数値の範囲が与えられる場合、文脈で明らかに別段の指示がない限り下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限および下限の値と、その表示された範囲中の任意の他の表示されたまたは間に挟まれた値との間にあるその間に挟まれた各値は、本発明の範囲内に包含されると了解される。その表示された範囲中の任意の具体的に除外される限界値の支配下で、これらの小さい方の範囲の上限値および下限値は独立にそれら小さい方の範囲に含めることができ、これらもまた本発明の範囲内に包含される。この表示された範囲が限界値の一方または両方を含む場合、これらの含まれた限界値のどちらかまたは両方を除外する範囲もまた本発明に含まれる。
【0027】
別に定義しない限り、本明細書中で用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する業界の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書中で述べるものと類似または同等の任意の方法および材料もまた本発明の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を次に述べる。本明細書中で述べるすべての刊行物は、それら刊行物が引用されているものと関連した方法および/または材料を開示しまた記述するために参照により本明細書中に援用される。
【0028】
本明細書中および添付の特許請求の範囲中で用いられる単数形「或る(a)」および「その(the)」は、文脈で明らかに別に指示されない限り複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば「或るタウ遺伝子産物」に関する言及は複数種類のそのような遺伝子産物を含み、また「そのsiRNA」に関する言及は1種類または複数種類のsiRNAおよび当業者に知られているその等価物に関する言及を含むなど。さらに特許請求の範囲は何らかの任意選択の要素を除外するように書くことができることに留意されたい。したがってこの記述は、請求要素の列挙に関連して「唯一」、「単に」等のような排除的な用語法を使用するための、または「否定的」限定を使用するための根拠として働くことを意図している。
【0029】
本明細書中で考察される刊行物は、本発明の出願日前のそれらの開示に対してのみ向けられる。本明細書においては、本発明が従来の発明によりそのような公開に先行する権利を与えられないことを認めるものと決して解釈されるべきではない。さらに、提供されるこれら公開日は実際の公開日とは異なる可能性もあり、それとは無関係に確認する必要がある場合もある。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、興奮毒性関連障害を治療するための候補薬剤を識別する方法を提供する。本発明はさらに、興奮毒性を減らす方法、および興奮毒性関連障害を治療する方法を提供する。
【0031】
スクリーニング法
本発明は、興奮毒性関連障害を治療するための候補薬剤を識別する方法を提供する。in vitro法およびin vivo法の両方が提供される。
【0032】
in vitro法:
in vitro法は、一般にタウ遺伝子産物を産生する細胞をin vitroで試験薬剤と接触させるステップ、およびもしあれば細胞中のタウ遺伝子産物のレベルに及ぼすその試験薬剤の効果を判定するステップを含む。細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤と考えられる。幾つかの実施形態では主題のスクリーニング法はin vitroで行われ、例えば細胞はin vitroで試験薬剤と接触し、また判定のステップはin vitroで行われる。
【0033】
例えば、その試験薬剤の不在下でのタウ遺伝子産物のレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤とみなされる。
【0034】
幾つかの実施形態ではその試験薬剤の不在下でのタウmRNAのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中(例えば神経細胞中)のタウmRNAのレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤とみなされる。
【0035】
幾つかの実施形態ではその試験薬剤の不在下での細胞中のタウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中(例えば神経細胞中)のタウポリペプチドのレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤とみなされる。
【0036】
幾つかの実施形態ではその試験薬剤の不在下での細胞中の非過リン酸化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中(例えば神経細胞中)の非過リン酸化タウポリペプチドのレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤とみなされる。
【0037】
幾つかの実施形態ではその試験薬剤の不在下での細胞中の非凝集性(例えば可溶性)タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中(例えば神経細胞中)の非凝集性(例えば可溶性)タウポリペプチドのレベルを低下させる試験薬剤は、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤とみなされる。
【0038】
これら遺伝子産物には、タウポリペプチドおよびタウ核酸(例えば、タウmRNA、タウmRNAのcDNAコピーなど)が挙げられる。幾つかの実施形態では主題の方法は、そのタウポリペプチドのリン酸化状態とは関係なく、またそのタウポリペプチドの凝集状態(「可溶性状態」)とは関係なくタウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤を識別する。例えばこの方法は、過リン酸化タウおよび過リン酸化されないタウの両方のレベルを低下させる薬剤を識別し、また凝集性タウおよび非凝集性(例えば可溶性)タウの両方のレベルを低下させる薬剤を識別する。他の実施形態では主題の方法は、非過リン酸化タウのレベルを低下させる薬剤、および非凝集性(例えば可溶性)タウのレベルを低下させる薬剤を特異的に識別する。例えば、幾つかの実施形態では主題の方法は、タウをリン酸化するキナーゼのレベルまたは活性を低下させる薬剤を識別しない。
【0039】
幾つかの実施形態ではタウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤はまた、1)タウの川下効果、2)タウ以外の分子(例えばfynキナーゼ)とタウの相互作用、3)タウの1つまたは複数の生理機能(ただしタウの生理機能には、a)微小管の安定化、b)細胞内の輸送および転送の調節(例えば軸索輸送の調節、樹状突起輸送、オルガネラの転送など)、およびc)神経突起伸長の促進が含まれる)のうちの1つまたは複数を変える(例えば増加または減少させる)。タウ遺伝子産物のレベルの低下は、Aβ誘発性欠陥から新生ニューロン(例えば歯状回(DG)ニューロン)を防護することができ、またDG神経回路網中へのこのような新生ニューロンの組込みを向上させることができる。したがって幾つかの実施形態ではタウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤はまた、歯状回(DG)回路への新生ニューロンの組込みを向上させ、かつ/またはAβ誘発性欠陥から新生DGニューロンを防護する。
【0040】
「タウポリペプチド」は、微小管と結合する、例えばβ−チューブリンと結合する、また本明細書中で詳細に考察される構造的な特徴および/またはアミノ酸配列の特徴を有するポリペプチドを指す。「タウポリペプチド」は、中枢神経系(CNS、例えばGoedertおよびJakes(1990)The EMBO J.9:4225〜4230参照)中に、または末梢神経系(PNS、例えばCouchieら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4378参照)中に見出される任意のタウアイソフォームを指す。ヒトのタウアイソフォームを図5に模式的に示す。タウポリペプチドは当業界で知られており、また様々なタウタンパク質のアミノ酸配列が知られている。例えば、GenBank Accession No.AAC04277,NP_058519、AAC04279,NP_005901、NP_058518、NP_058525、およびAAH98281を参照されたい。このようなタウタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、当業界で知られている。例えば、図6Aに示したアミノ酸配列(GenBank AAC04277、アイソフォーム1)をコードするGenBank Accession No.NM_016835(図6B、配列番号2)、図6Cに示したアミノ酸配列(GenBank NM_016835、アイソフォーム2)をコードするGenBank Accession No.NM_005910(図6D、配列番号4)、図6Eに示したアミノ酸配列(GenBank NP_058518、アイソフォーム3)をコードするGenBank Accession No.NM_016834(図6F、配列番号6)、図6Gに示したアミノ酸配列(GenBank AAH98281、アイソフォーム4)をコードするGenBank Accession No.BC098281(図6H、配列番号8)を参照されたい。
【0041】
用語「タウポリペプチド」は、任意の既知のタウアミノ酸配列、そのフラグメント(例えばその微小管結合フラグメント)、またはそのオルソログを含むポリペプチドを包含する。さらに用語「タウポリペプチド」は、任意の既知のタウポリペプチドと少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。例えば、幾つかの実施形態ではタウポリペプチドは、図6A(配列番号1)、図6C(配列番号3)、図6E(配列番号5)、および図6G(配列番号7)の1つまたは複数に示したアミノ酸配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有するアミノ酸配列を含む。
【0042】
タウポリペプチドには、配列番号1(また図6Aに示す)で示されるアミノ酸配列の長さ約50個から約758個のアミノ酸(例えば、長さ約50個から約100個、約100個から約200個、約200個から約300個、約300個から約400個、約400個から約500個、約500個から約600個、または約600個から約758個の連続するアミノ酸)の対応するフラグメントと少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有する、長さ約50個から約758個のアミノ酸(例えば、長さ約50個から約100個、約100個から約200個、約200個から約300個、約300個から約400個、約400個から約500個、約500個から約600個、または約600個から約758個のアミノ酸)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0043】
タウポリペプチドには、配列番号3で示される(また図6Cに示す)アミノ酸配列の50個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、約300個から約350個、約350個から約400個、または約400個から約440個の連続するアミノ酸の対応するフラグメントと少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有する、長さ約50個から約440個のアミノ酸(例えば、長さ約50個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、約300個から約350個、約350個から約400個、または約400個から約440個のアミノ酸)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0044】
タウポリペプチドには、配列番号5で示される(また図6Eに示す)アミノ酸配列の0個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、約300個から約350個、または約350個から約380個の連続するアミノ酸の対応するフラグメントと少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有する、長さ約50個から約380個のアミノ酸(例えば、長さ約50個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、約300個から約350個、または約350個から約380個のアミノ酸)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0045】
タウポリペプチドには、配列番号7で示される(また図6Gに示す)アミノ酸配列の長さ50個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、または約300個から約350個の連続するアミノ酸の対応するフラグメントと少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有する、長さ約50個から約350個のアミノ酸(例えば、長さ約50個から約100個、約100個から約150個、約150個から約200個、約200個から約250個、約250個から約300個、または約300個から約350個のアミノ酸)のアミノ酸配列を含むポリペプチドが含まれる。
【0046】
タウポリペプチドの活性フラグメント(例えば、微小管結合フラグメント)には、1)図6A(配列番号1)に示されるアミノ酸配列のアミノ酸第569番〜第693番、2)図6C(配列番号3)に示されるアミノ酸配列のアミノ酸第252番〜第376番、3)図6E(配列番号5)に示されるアミノ酸配列のアミノ酸第194番〜第318番、および4)図6G(配列番号7)に示されるアミノ酸配列のアミノ酸第194番〜第287番のうちの1つまたは複数で示されるアミノ酸配列と少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のアミノ酸配列アイデンティティを有するタウポリペプチドの少なくとも約30個、少なくとも約60個、少なくとも約90個、または少なくとも約120個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドが含まれる。
【0047】
幾つかの実施形態では「タウポリペプチド」は、過リン酸化タウポリペプチドと非過リン酸化タウポリペプチドの両方を含む。他の実施形態では過リン酸化タウポリペプチドが、特に除外される。タウポリペプチドが過リン酸化されているとみなされるか否かは、個々のタウポリペプチドのレベルで、またはタウポリペプチドの集団のレベルで決めることができる。「過リン酸化」タウとはまた、タウのリン酸化のレベルが、正常な対照よりも著しく高い、例えばタウのリン酸化のレベルが、正常な個体(例えば、アルツハイマー病またはいかなる他の興奮毒性関連障害もない個体)中のタウポリペプチドの集団中に存在するタウのリン酸化のレベルよりも少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%(すなわち2倍)、少なくとも2.5倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍、または100倍超であるタウポリペプチドの集団(例えば、細胞中または組織中のタウポリペプチド)も意味する。「非過リン酸化」タウは、リン酸化のレベルが対照のレベル、例えば正常な個体中のタウポリペプチドの集団中に存在するリン酸化のレベルよりも20%以下高いタウポリペプチドの集団を指す。生理的条件下でリン酸化され得るタウ中のアミノ酸残基には、Ser−46、Ser−195、Ser−198、Ser−199、Ser−202、Ser−214、Ser−235、Ser−262、Ser−293、Ser−324、Ser−356、Ser−396、Ser−404、Ser−409、Thr−50、Thr−69、Thr−111、Thr−153、Thr−175、Thr−181、Thr−205、Thr−212、Thr−217、およびThr−231が挙げられる。ただしこの付番はタウの441個のアミノ酸形態(例えば、図5に示した4個の反復および2個の挿入を含むタウアイソフォーム)に基づく。
【0048】
タウポリペプチドの集団のリン酸化状態は、リン酸化タウエピトープに対して特異的な1種類または複数種類の抗体を用いるイムノアッセイ(例えば、酵素免疫吸着測定、蛋白(または「ウェスタン」)ブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、免疫組織化学染色など)を使用して簡単に判定することができる。例えば、Alonsoら(2001)J.Biol.Chem.276:3797を参照されたい。例えば、下記の抗体およびそれらが特異的に認識するアミノ酸残基(抗体の後の括弧内に示す)、すなわち12E8(Ser−P262/356)、M4(Thr−P231およびSer−P235)、PHF−1(Ser−P396/404)、AF100(Thr−P212およびSer−P235)、AF120(Thr−P181)、およびR145(Ser−P422)が使用に適している。例えば、米国特許第6,121,003号明細書、同第7,176,290号明細書、および同第6,500,674号明細書に記載されている抗体もまた使用に適している。
【0049】
用語「タウポリペプチド」にはまた、タウ融合タンパク質、例えばタウおよび融合パートナーを含むタンパク質が含まれる。この場合、好適な融合パートナーには、これらに限定されないがエピトープタグ、金属イオン親和性ペプチド、蛍光タンパク質、検出可能な(例えば、色素産生、蛍光、化学発光など)産物を生む酵素が挙げられる。タウ融合タンパク質は、異種ポリペプチド(例えば、タウポリペプチド以外のポリペプチド)と融合したタウポリペプチドを含み、この場合、異種ポリペプチドもまた「融合パートナー」と呼ばれる。タウ融合タンパク質においてタウポリペプチドは、融合パートナーのN末端と、融合パートナーのC末端と、または内部で融合パートナーと融合することができる。融合パートナーが短い(例えば、アミノ酸50個未満の長さ)ポリペプチドの場合、融合パートナーはそのタウポリペプチドのN末端と、タウポリペプチドのC末端と、またはタウポリペプチド中の内部部位で融合することができる。
【0050】
エピトープタグには、そのペプチドと、例えばそのペプチドによって形成されるエピトープと特異的に結合する抗体(例えば、検出可能に標識された抗体)を用いて検出することができるペプチドが含まれる。好適なエピトープタグには、これらに限定されないがグルタチオン−S転移酵素(GST)タグ、インフルエンザ血球凝集素(HA)タグ(例えば、Fieldら、Mol.Cell.Biol.,8:2159〜2165(1988)参照)、c−mycタグ(例えば、Evanら、Molecular and Cellular Biol,5:3610〜3616(1985)参照)、単純へルペスウィルス糖タンパク質D(gD)タグ(例えば、Paborskyら、Protein Engineering,3(6):547〜553(1990)参照)、およびフラジェリン(FLAG)タンパク質タグ(例えば、アミノ酸配列Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lysを含むペプチド、配列番号9)が挙げられる。好適な金属イオン親和性ペプチドには、ポリヒスチジンペプチド(例えば(His)、ただしn=3〜6)などが挙げられる。
【0051】
好適な酵素融合パートナーには、基質に作用して検出可能なシグナル(例えば、有色産物、蛍光産物、化学発光産物など)を発生する産物を産生する酵素を含む酵素類が挙げられる。好適な酵素には、これらに限定されないがルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなどが挙げられる。
【0052】
好適な融合パートナーには、これらに限定されないが緑色蛍光タンパク質(GFP、Chalfieら、Science 263(5148):802〜805(Feb 11,1994)、およびEGFP(Clontech−GenBank Accession Number U55762))、青色蛍光タンパク質(BFP、1.Quantum Biotechnologies,Inc.(1801 de Maisonneuve Blvd. West,8th Floor,Montreal(Quebec)Canada H3H 1J9)、2.Stauber,R.H.、Biotechniques 24(3):462〜471(1998)、3.Heim,R.およびTsien,R.Y.、Curr.Biol.6:178〜182(1996))、増強黄色蛍光タンパク質(EYFP、1.Clontech Laboratories,Inc.(1020 East Meadow Circle,Palo Alto,CA 94303))、ルシフェラーゼ(Ichikiら、J.Immunol.150(12):5408〜5417(1993))、β−ガラクトシダーゼ(Nolanら、Proc Natl Acad Sci USA 85(8):2603〜2607(Apr 1988))、レニラ(Renilla)(国際公開第92/15673号パンフレット、国際公開第95/07463号パンフレット、国際公開第98/14605号パンフレット、国際公開第98/26277号パンフレット、国際公開第99/49019号パンフレット、米国特許第5,292,658号明細書、米国特許第5,418,155号明細書、米国特許第5,683,888号明細書、米国特許第5,741,668号明細書、米国特許第5,777,079号明細書、米国特許第5,804,387号明細書、米国特許第5,874,304号明細書、米国特許第5,876,995号明細書、および米国特許第5,925,558号明細書)、レニラ・レニホルミス(Renilla reniformis)、レニラ・ムレリ(Renilla mulleri)、またはプチロサルクス・ゲルニ(Ptilosarcus guernyi)などの種由来のGFP(例えば、国際公開第99/49019号パンフレットおよびPeelleら(2001)J.Protein Chem.20:507〜519に記載されている)、「ヒト化」組換えGFP(hrGFP)(Stratagene)、花虫綱(Anthozoan)の種由来の様々な蛍光および有色タンパク質のいずれか(例えば、Matzら(1999)Nature Biotechnol.17:969〜973、米国特許出願公開第2002/0197676号明細書、または米国特許出願公開第2005/0032085号明細書に記載されている)などが挙げられる。
【0053】
タウ遺伝子産物には、核酸遺伝子産物、例えばタウmRNAが挙げられる。タウmRNA(および対応するcDNA)は当業界で知られており、またタウmRNAおよびタウcDNAのヌクレオチド配列が知られている。例えば、GenBank Accession No.NM_016835、NM_005910、NM_016834、およびBC098281を参照されたい。用語「タウ核酸遺伝子産物」は、任意の既知のタウアミノ酸配列、そのフラグメント(例えばその活性フラグメント)、またはそのオルソログを含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を包含する。さらに用語「タウ核酸遺伝子産物」は、任意の既知のタウ核酸と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のヌクレオチド配列アイデンティティを有するヌクレオチド配列を含む核酸を包含する。例えば用語「タウ核酸遺伝子産物」は、図6A、6C、6E、および6Gのいずれか1つ(例えば、配列番号1、3、5、および7のいずれか1つ)で示されるヌクレオチド配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%のヌクレオチド配列アイデンティティを有するヌクレオチド配列を含む核酸を包含する。上記タウフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含む核酸もまた包含される。タウ融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸もまた包含される。
【0054】
タウ遺伝子産物を産生し、かつ主題のスクリーニング法に使用するのに適した細胞には、タウ遺伝子産物を普通に産生する哺乳動物細胞と、タウ遺伝子産物を産生するように遺伝的修飾を加えられた哺乳動物細胞(例えば、タウ遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む核酸で遺伝的修飾を加えられ、その核酸の発現が遺伝的修飾を加えられた細胞中でタウ遺伝子産物の産生を引き起こす細胞)とが含まれる。
【0055】
好適な哺乳動物細胞には、一次細胞および不死化細胞系統が挙げられる。好適な哺乳動物細胞系統には、ヒト細胞系統、非ヒト霊長類動物細胞系統、齧歯動物(例えばマウス、ラット)細胞系統などが挙げられる。好適な哺乳動物細胞系統には、これらに限定されないがHeLa細胞(例えば、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)No.CCL−2)、CHO細胞(例えば、ATCC No.CRL9618、CCL61、CRL9096)、293細胞(例えばATCC No.CRL−1573)、Vero細胞、NIH 3T3細胞(例えばATCC No.CRL−1658)、Huh−7細胞、BHK細胞(例えばATCC No.CCL10)、PC12細胞(ATCC No.CRL1721)、COS細胞、COS−7細胞(ATCC No.CRL1651)、RAT1細胞、マウスL細胞(ATCC No.CCLI.3)、ヒト胚性腎(HEK)細胞(ATCC No.CRL1573)、HLHepG2細胞などが挙げられる。
【0056】
幾つかの実施形態では細胞は、神経細胞または神経様細胞である。これら細胞は、ヒト、非ヒト霊長類動物、マウス、またはラット起源のものであるか、あるいはヒト、非ヒト霊長類動物、ラット、またはマウス以外の哺乳動物から得られるものであることができる。好適な細胞系統には、これらに限定されないがヒト神経膠腫細胞系統、例えばSVGp12(ATCC CRL−8621)、CCF−STTG1(ATCC CRL−1718)、SW 1088(ATCC HTB−12)、SW 1783(ATCC HTB−13)、LLN−18(ATCC CRL−2610)、LNZTA3WT4(ATCC CRL−11543)、LNZTA3WT11(ATCC CRL−11544)、U−138 MG(ATCC HTB−16)、U−87 MG(ATCC HTB−14)、H4(ATCC HTB−148)、およびLN−229(ATCC CRL−2611)と、ヒト髄芽細胞腫由来の細胞系統、例えばD342 Med(ATCC HTB−187)、Daoy(ATCC HTB−186)、D283 Med(ATCC HTB−185)と、ヒト腫瘍由来の神経様細胞、例えばPFSK−1(ATCC CRL−2060)、SK−N−DZ(ATCC CRL−2149)、SK−N−AS(ATCC CRL−2137)、SK−N−FI(ATCC CRL−2142)、IMR−32(ATCC CCL−127)などと、マウス神経細胞系統、例えばBC3H1(ATCC CRL−1443)、EOC1(ATCC CRL−2467)、C8−D30(ATCC CRL−2534)、C8−S(ATCC CRL−2535)、Neuro−2a(ATCC CCL−131)、NB41A3(ATCC CCL−147)、SW10(ATCC CRL−2766)、NG108−15(ATCC HB−12317)と、ラット神経細胞系統、例えばPC−12(ATCC CRL−1721)、CTX TNA2(ATCC CRL−2006)、C6(ATCC CCL−107)、F98(ATCC CRL−2397)、RG2(ATCC CRL−2433)、B35(ATCC CRL−2754)、R3(ATCC CRL−2764)、SCP(ATCC CRL−1700)、OA1(ATCC CRL−6538)が挙げられる。
【0057】
「試験薬剤」、「候補薬剤」、および本明細書中での文法的同義語は、本明細書中で区別なく使用され、神経細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる活性の有無を試験されることになる任意の分子(例えば、タンパク質(これには、本明細書中ではタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドが含まれる)、小型の(すなわちサイズが5〜1000Da、100〜750Da、200〜500Da、または500Da未満)あるいは有機または無機の分子、多糖、ポリヌクレオチドなど)を意味する。
【0058】
様々な異なる候補薬剤を、上記方法によってスクリーニングすることができる。候補薬剤は、非常に多くの化学的等級、例えば50ダルトンを超え(例えば、少なくとも約50Da、少なくとも約100Da、少なくとも約150Da、少なくとも約200Da、少なくとも約250Da、または少なくとも約500Da)、かつ約20,000ダルトン未満、約10,000ダルトン未満、約5,000ダルトン未満、または約2,500ダルトン未満の分子量を有する小型有機化合物を包含する。例えば、幾つかの実施形態では好適な候補薬剤は、約500Daから約20,000Da、例えば約500Daから約1000Da、約1000Daから約2000Da、約2000Daから約2500Da、約2500Daから約5000Da、約5000Daから約10,000Da、または約10,000Daから約20,000Daの範囲の分子量を有する有機化合物である。
【0059】
候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用、例えば水素結合にとって必要な官能基を含むことができ、少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、あるいは少なくとも2種類のこれら官能性化学基を含むことができる。候補薬剤は、1種類または複数種類の上記官能基で置換された環状炭素または複素環式構造および/もしくは芳香族または多環芳香族構造を含むことができる。候補薬剤はまた、ペプチド、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、これらの誘導体、構造的類似物、または組合せを含めた生体分子の中に見出される。
【0060】
候補薬剤は、合成または天然の化合物を含めた様々な供給源から得られる。例えば非常に多くの手段が、ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含めた様々な有機化合物および生体分子のランダムおよび指向合成に利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形態の天然の化合物のライブラリーが利用可能であるか、または容易に作り出される。さらに天然の、または合成的に作り出されるライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、および生化学的手段により容易に修飾され、また組合せライブラリーを作り出すために使用することができる。既知の薬理作用のある物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向またはランダム化学修飾にかけて構造的類似物を作り出すこともできる。さらにスクリーニングを、既知の薬理学的に活性な化合物およびその化学的類似物へ、または未知の特性を有する新規薬剤、例えば合理的薬物設計により創り出されるものへ向けることもできる。
【0061】
一実施形態では候補の修飾物質は合成化合物である。かなり多くの手法が、ランダム化オリゴヌクレオチドの発現を含めた様々な有機化合物および生体分子のランダムおよび指向合成に利用可能である。例えば、酵素的方法だけでなくランダム化学の方法を含めて新規化合物を生み出すための方法について考察している国際公開第94/24314号パンフレット(これにより明示的に参照により援用される)を参照されたい。国際公開第94/24314号パンフレットに記載されているように本発明の方法の利点の1つは、アッセイに先立って候補の修飾物質の特徴を明らかにする必要がなく、タウ遺伝子産物のレベルに影響を与える候補の修飾物質のみを識別する必要があることである。
【0062】
別の実施形態では候補薬剤は、利用可能なまたは容易に作り出される細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形態で天然の化合物のライブラリーとして提供される。さらに天然または合成的に作り出されるライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、および生化学的手段により容易に修飾される。既知の薬理作用のある物質を、酵素的修飾を含めた指向またはランダム化学修飾にかけて構造的類似物を作り出すこともできる。
【0063】
一実施形態では候補薬剤は、タンパク質(抗体、抗体フラグメント(すなわち、抗原結合領域を含有するフラグメント、例えばFAb)、一本鎖抗体などを含めた)、核酸、および化学部分を含む。一実施形態では候補薬剤は、天然に産出するタンパク質または天然に産出するタンパク質のフラグメントである。したがって、例えばタンパク質を含有する細胞抽出物、あるいはタンパク質性細胞抽出物のランダムまたは指向消化物を試験することができる。この方法で原核および真核タンパク質のライブラリーをスクリーニング用に作成することができる。他の実施形態には、細菌、真菌、ウィルス、および哺乳動物のタンパク質(例えばヒトのタンパク質)のライブラリーが含まれる。
【0064】
一実施形態では候補薬剤は有機部分である。この実施形態では国際公開第94/24314号パンフレット中に全般的に述べられているように候補薬剤は、化学的に修飾することができる一連の物質から合成される。本明細書中で「化学的に修飾される」には、酵素的反応だけでなく伝統的な化学反応が含まれる。これらの物質には、一般にアルキル基(アルカン、アルケン、アルキン、およびヘテロアルキルを含めた)、アリール基(アレーンおよびヘテロアリールを含めた)、アルコール、エーテル、アミン、アルデヒド、ケトン、酸、エステル、アミド、環式化合物、複素環式化合物(プリン、ピリミジン、ベンゾジアゼピン、β−ラクタム、テトラシクリン(tetracylines)、セファロスポリン、および炭水化物を含めた)、ステロイド(エストロゲン、アンドロゲン、コルチゾン、エクジソン(ecodysone)などを含めた)、アルカロイド(麦角、ビンカ、クラーレ、ピロリジジン(pyrollizdine)、およびマイトマイシンを含めた)、有機金属化合物、ヘテロ原子を有する化合物、アミノ酸、およびヌクレオシドが挙げられるが、これらには限定されない。化学反応(酵素的反応を含めた)をこれら部分の上で行って新規物質または候補薬剤を形成することができ、次いで本発明を用いて試験することができる。
【0065】
本明細書中で用いられる用語「判定する」は量的および質的判定の両方を指し、したがって用語「判定する」は、本明細書中では「アッセイする」、「測定する」などと区別せずに用いられる。
【0066】
アッセイは、1種類または複数種類の追加の試薬を含むことができる。これらには、最適な酵素活性を促進するためにかつ/もしくは非特異的またはバックグラウンド活性を低下させるために用いられる薬剤を含めた塩などの試薬、中性タンパク質、例えばアルブミン、界面活性剤などが挙げられる。プロテアーゼ阻害剤、殺菌剤などのアッセイの効率を向上させる試薬を使用することができる。アッセイ混合物の成分は、必要な活性を可能にする任意の順序で加えることができる。インキュベーションは、例えば4℃から40℃の間の任意の適切な温度で行われる。インキュベーション期間は、最適な活性を得るように選択されるが、また迅速な高処理量のスクリーニングを容易にするように最適化することもできる。一般には0.1時間から1時間の間で十分なはずである。
【0067】
本発明のアッセイは対照を含み、好適な対照には標本(例えば、試験薬剤の不在下でタウ遺伝子産物を産生する細胞を含む標本)が挙げられる。通常は複数のアッセイ混合物を、異なる薬剤濃度で並行に流して様々な濃度に対する応答差を得る。一般にこれら濃度の1つが負の対照として、すなわちゼロ濃度におけるまたは検出レベル未満の負の対照として役立つ。
【0068】
候補薬剤は、トリパンブルー色素排除、MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド)アッセイなどのよく知られているアッセイを用いて、それが生きている真核細胞に対して示す可能性のある任意の細胞傷害作用(抗増殖作用以外の)に関して評価される。細胞傷害作用を示さない薬剤は候補薬剤とみなされる。
【0069】
タウ核酸レベルの検出
幾つかの実施形態では主題のスクリーニング法は、タウ核酸を産生する細胞を試験薬剤と接触させ、もしあればタウ核酸レベルに及ぼすその試験薬剤の効果を判定することを含む。タウ核酸は、タウmRNA、タウmRNAのcDNAコピーなどを含む。細胞中のタウ核酸のレベルを検出するための好適な方法には、核酸ハイブリッド形成法および/または核酸増幅法が挙げられる。例えば核酸ハイブリッド形成法は、細胞中のタウmRNAか、またはタウmRNAのcDNAコピーを検出する核酸プローブを用いて行うことができる。核酸増幅法は、タウmRNA(またはタウmRNAのcDNAコピー)を特異的に増幅する核酸プライマーを用いて行うことができる。幾つかの実施形態ではタウ特異的プライマーを用いた核酸増幅の後に、タウ特異的プローブを用いた核酸ハイブリッド形成が続く。
【0070】
遺伝的修飾を加えた哺乳動物細胞
上記で言及したように幾つかの実施形態では主題のスクリーニング法は、試験薬剤を、タウ遺伝子産物を普通に産生する哺乳動物細胞と接触させるステップを含むことになる。他の実施形態では主題のスクリーニング法は、試験薬剤を、タウ遺伝子産物を産生するように遺伝的修飾を加えた哺乳動物細胞と接触させるステップを含むことになる。これらの実施形態では外来の核酸を親哺乳動物細胞中に導入する。この場合、外来の核酸(「タウ核酸」)は、タウ遺伝子産物を産生する遺伝的に修飾された哺乳動物細胞を生み出すタウ遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0071】
幾つかの実施形態ではタウをコードする核酸は、遺伝的修飾を加えた細胞中でのタウ遺伝子産物の産生を可能にする発現ベクター内に入れられる。発現ベクターは、誘導性または構成性であることができる転写および翻訳開始領域と、転写および翻訳終止領域とを与える。その場合、タウコード領域はこの転写開始領域と作用自在に連結し、かつこの転写開始領域の転写制御下にある。
【0072】
当業界で知られている任意の発現ベクターを用いてタウ核酸を発現させることができる。発現ベクターは、一般にはプロモーターおよび/または細胞中で活性な他の転写制御エレメントと、適切な終止およびポリアデニル化シグナルとを含むはずである。発現ベクターは、一般に異種遺伝子産物(例えばタウ遺伝子産物)をコードする核酸配列の挿入を可能にするようにプロモーター配列の近くに位置した好都合な制限部位を有する。発現宿主中で作用する選択マーカーが存在してもよい。
【0073】
好適な発現ベクターには、これらに限定されないがウィルスベクター(例えば、種痘ウィルス、ポリオウィルス、アデノウィルス(例えば、Liら、Invest Opthalmol Vis Sci 35:2543〜2549,1994、Borrasら、Gene Ther 6:515〜524,1999、LiおよびDavidson、PNAS 92:7700〜7704,1995、Sakamotoら、H Gene Ther 5:1088〜1097,1999、国際公開第94/12649号パンフレット、同第93/03769号パンフレット、同第93/19191号パンフレット、同第94/28938号パンフレット、同第95/11984号パンフレット、および同第95/00655号パンフレット参照)、アデノ随伴ウィルス(例えば、Aliら、Hum Gene Ther 9:81〜86,1998、Flanneryら、PNAS 94:6916〜6921,1997、Bennettら、Invest Opthalmol Vis Sci 38:2857〜2863,1997、Jomaryら、Gene Ther 4:683〜690,1997、Rollingら、Hum Gene Ther 10:641〜648,1999、Aliら、Hum Mol Genet 5:591〜594,1996、Srivastavaの国際公開第93/09239号パンフレット、Samulskiら、J.Vir.(1989)63:3822〜3828、Mendelsonら、Virol.(1988)166:154〜165、およびFlotteら、PNAS(1993)90:10613〜10617参照)、SV40、単純ヘルペスウィルス、ヒト免疫不全ウィルス(例えば、Miyoshiら、PNAS 94:10319〜23,1997、Takahashiら、J Virol 73:7812〜7816,1999参照)に基づくウィルスベクター)、およびレトロウィルスベクター(例えば、ネズミ白血病ウィルス、脾臓壊死ウィルス、ならびにラウス肉腫ウィルス、ハーベイ肉腫ウィルス、トリ白血病ウィルス、レンチウィルス、ヒト免疫不全ウィルス、骨髄増殖性肉腫ウィルス、および乳癌ウィルスなどのレトロウィルスから得られるベクター)などが挙げられる。
【0074】
非常に多くの好適な発現ベクターが当業者に知られており、多くが市販されている。例としては次のベクター、すなわちpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、pCMV、およびpSVLSV40(Pharmacia)が提供される。しかし任意の他のベクターもそれが宿主細胞と適合性がある限り使用することができる。
【0075】
利用される宿主/ベクター系によっては、構成性または誘導性プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含めた複数の適切な転写および翻訳調節エレメントのいずれかを発現ベクター中で使用することができる(例えば、Bitterらの著述(1987)Methods in Enzymology,153:516〜544参照)。
【0076】
好適な真核プロモーター(真核細胞中で機能しうるプロモーター)の非限定的な例には、前初期サイトメガロウィルス(CMV)、単純ヘルペスウィルス(HSV)チミジンキナーゼ、早期および後期SV40、レトロウィルス由来の長末端重複配列(LTR)、およびマウスメタロチオネイン−Iが挙げられる。適切なベクターおよびプロモーターの選択は、当業者のレベルの完全に範囲内にある。発現ベクターはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位および転写ターミネーターを含有することもできる。発現ベクターはまた、発現を増幅するための適切な配列を含むこともできる。
【0077】
幾つかの実施形態ではタウをコードしているヌクレオチド配列が、ニューロン特異的調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー)と作用自在に連結している。ニューロン特異的プロモーターおよび他の調節エレメント(例えばエンハンサー)が当業界で知られている。好適なニューロン特異的調節配列には、これらに限定されないがニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(例えば、EMBL HSENO2、X51956参照)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)プロモーター、ニューロフィラメントプロモーター(例えば、GenBank HUMNFL、L04147参照)、シナプシンプロモーター(例えば、GenBank HUMSYNIB、M55301参照)、thy−1プロモーター(例えば、Chenら(1987)Cell 51:7〜19参照)、セロトニン受容体プロモーター(例えば、GenBank S62283参照)、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(例えば、Nucl.Acids.Res.15:2363〜2384(1987)およびNeuron 6:583〜594(1991)参照)、GnRHプロモーター(例えば、Radovickら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3402〜3406(1991)参照)、L7プロモーター(例えば、Oberdickら、Science 248:223〜226(1990)参照)、DNMTプロモーター(例えば、Bartgeら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3648〜3652(1988)参照)、エンケファリンプロモーター(例えば、Combら、EMBO J.17:3793〜3805(1988)参照)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター、およびCMVエンハンサー/血小板由来増殖因子−βプロモーター(例えば、Liuら(2004)Gene Therapy 11:52〜60参照)が挙げられる。
【0078】
組換え発現ベクターは、幾つかの実施形態においては1種類または複数種類の選択マーカーを含むことになる。さらに発現ベクターは多くの実施形態において、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、あるいは真核細胞培養のためのネオマイシン耐性などの形質転換宿主細胞選択のための表現型形質を与えるために、1種類または複数種類の選択マーカー遺伝子を含有することになる。
【0079】
遺伝的修飾を加えた哺乳動物細胞を作り出すためのタウ核酸による親哺乳動物細胞の遺伝的修飾は、当業界で知られている方法(Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.(1982))参照)を用いて行われる。外来のDNAを、ウィルス媒介性感染(レトロウィルス、修飾ヘルペスウィルス、ヘルペスウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルスなど)によって、または直接DNAトランスフェクション(リポフェクション、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーションなど)によって親細胞中に導入することができる。
【0080】
核酸プローブ
好適な核酸プローブには、タウmRNA(またはcDNA)とハイブリッドを形成し、その検出を可能にする核酸プローブが挙げられる。好適な核酸プローブは、幾つかの実施形態においては、ヌクレオチドの長さが10から50個、12から45個、15から40個、20から35個、25から30個などのヌクレオチドの長さが10〜50個の範囲内にある。例えばプローブは、幾つかの実施形態においては、ヌクレオチドの長さが18から40個、19から35個、20から30個、21から29個、22から28個、23から27個、24から25個の間の範囲内にあり、また言及した範囲の間の任意の長さであることになる。長さが約20から22個のヌクレオチドのプローブが、幾つかの実施形態においては特に考察の対象である。
【0081】
好適なプローブは、検出用の標識と共役することができる。標識の付加を可能にする反応性官能基でオリゴヌクレオチドを誘導体化するための既知の幾つかの方法および組成物がある。例えば幾つかのアプローチが、プローブをビオチン化して、アビジンを介して放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識、または電子高密度標識を付着することを可能にするために利用できる。例えば、フェリチン−アビジン−ビオチン標識の使用について開示しているBrokenら、Nucl.Acids Res.(1978)5:363〜384、およびアミノアルキルホスホルアミドリンカーアームを介するオリゴヌクレオチドの5’末端のビオチン化について開示しているCholletら、Nucl.Acids Res.(1985)13:1529〜1541を参照されたい。幾つかの方法がまた、イソチオシアン酸エステル、N−ヒドロキシこはく酸イミドなどのアミノ反応性基により誘導体化された蛍光または他の型の化合物によって容易に標識されるアミノ誘導体化オリゴヌクレオチドを合成するために利用でき、例えばConnolly(1987)Nucl.Acids Res.15:3131〜3139、Gibsonら、(1987)Nucl.Acids Res.15:6455〜6467、およびMiyoshiらの米国特許第4,605,735号明細書を参照されたい。これらの方法はまた、チオール特異的標識と反応することができるスルフヒドリル誘導体化オリゴヌクレオチドを合成するために利用でき、例えばFungらの米国特許第4,757,141号明細書、Connollyら(1985)Nucl.Acids Res.13:4485〜4502、およびSpoatら(1987)Nucl.Acids Res.15:4837〜4848を参照されたい。DNAフラグメントを標識するための方法体系の包括的な概説は、Matthewsら、Anal.Biochem.(1988)169:1〜25中で得られる。
【0082】
例えばプローブは、蛍光分子をプローブの非結紮末端に連結することによって蛍光標識することができる。適切な蛍光標識を選択するための指針は、Smithら、Meth.Enzymol.(1987)155:260〜301、Kargerら、Nucl.Acids Res.(1991)19:4955〜4962、Haugland著(1989)Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(Molecular Probes,Inc.,Eugene,Oreg.)中に見出すことができる。蛍光標識の具体例には、米国特許第4,318,846号明細書およびLeeら、Cytometry(1989)10:151〜164中に開示されているようなフルオレセインおよびその誘導体、ならびに6−FAM、JOE、TAMRA、ROX、HEX−1、HEX−2、ZOE、TET−1、またはNAN−2などが挙げられる。
【0083】
さらにプローブは、アクリジニウムエステル(AE)で標識することができる。複数の具体的な技術が、AE標識をプローブ内の任意の場所に配置することを可能にする。例えば、Nelsonら(1955)「Detection of Acridinium Esters by Chemiluminescence」、Nonisotopic Probing,Blotting and Sequencing、Kricka L.J.編(Academic Press,San Diego,Calif.)と、Nelsonら(1994)「Application of the Hybridization Protection Assay(HPA)to PCR」、The polymerase Chain Reaction、Mullisら編(Mullisら編、Birkhauser,Boston,Mass.)と、Weeksら、Clin.Chem.(1983)29:1474〜1479と、Berryら、Clin.Chem.(1988)34:2087〜2090を参照されたい。AE分子は、プローブ内の任意の場所に標識を配置することを可能にする非ヌクレオチド系リンカーアームの化学を用いてプローブに直接に付着することができる。例えば、米国特許第5,585,481号明細書および同第5,185,439号明細書を参照されたい。
【0084】
固体支持体をアッセイにおいて使用する(例えば、プローブを用いて標的核酸の単位複製配列を捕捉するために)場合、オリゴヌクレオチドプローブは様々な方法でその固体支持体に付着させることができる。例えばプローブは、そのプローブの3’または5’末端ヌクレオチドを固体支持体に付着させることによって固体支持体に付着させることができる。幾つかの実施形態ではプローブは、プローブを固体支持体から離して遠くに置くように働くリンカーによって固体支持体に付着される。リンカーは、多くの実施形態においては少なくとも原子15〜30個の長さ、または少なくとも原子15〜50個の長さである。リンカーの必要な長さは、その使用される特定の固体支持体によって決まることになる。例えば、固体支持体として高架橋ポリスチレンを使用する場合、一般には原子6個のリンカーで十分である。
【0085】
オリゴヌクレオチドプローブを固体支持体に付着させるために使用することができる様々なリンカーが当業界で知られている。リンカーは、固体支持体に付着させたプローブと標的配列のハイブリッド形成を顕著には妨げない任意の化合物から作ることができる。リンカーは、自動合成によってリンカー上に容易に付加することができるホモポリマーオリゴヌクレオチドから作ることができる。あるいは、官能基付きポリエチレングリコールなどのポリマーをリンカーとして使用することもできる。幾つかの実施形態では官能基付きポリエチレングリコールなどのポリマーを、それらが標的配列とプローブのハイブリッド形成を顕著には妨げないので使用する。幾つかの実施形態ではリンカーはポリエチレングリコールである。
【0086】
固体支持体、リンカー、およびプローブの間の結合は、普通は高温の塩基性条件下での塩基保護基の除去の間に切断されない。好適な結合の例にはカルバミン酸エステルおよびアミド結合が挙げられる。
【0087】
オリゴヌクレオチドプローブの固定化用固体支持体の好適な種類の例には、制御細孔ガラス(controlled pore glass)、ガラスプレート、ポリスチレン、アビジン被覆ポリスチレンビーズ、セルロース、ナイロン、アクリルアミドゲル、および活性化デキストランが挙げられる。
【0088】
核酸プライマー
幾つかの実施形態では主題の方法は、タウ核酸(例えば、タウmRNA、タウmRNAのcDNAコピー)を増幅することを含む。核酸増幅法は、タウmRNA(例えば、タウmRNAのcDNAコピー)を特異的に増幅する核酸プライマーを用いて行うことができる。幾つかの実施形態ではタウ特異的プライマーを用いた核酸増幅の後に、タウ特異的プローブを用いた核酸ハイブリッド形成が続く。一般にプライマーは、タウ標的核酸増幅産物(また「単位複製配列」とも呼ばれる)を産生するためのタウ標的核酸の増幅を可能にする。プライマーは、幾つかの実施形態においては核酸プローブと共に使用されることになる。5’プライマーは、一般に標的核酸の増幅を可能にする領域と結合し、また多くの実施形態においては標的配列の5’部分と結合する。
【0089】
5’および3’プライマーがハイブリッドを形成する標的タウヌクレオチド配列は、約10個のヌクレオチドから約2277個のヌクレオチド、例えば約10個のヌクレオチドから約20個のヌクレオチド、約20個のヌクレオチドから約30個のヌクレオチド、約30個のヌクレオチドから約40個のヌクレオチド、約40個のヌクレオチドから約50個のヌクレオチド、約50個のヌクレオチドから約60個のヌクレオチド、約60個のヌクレオチドから約70個のヌクレオチド、約70個のヌクレオチドから約100個のヌクレオチド、約100個のヌクレオチドから約150個のヌクレオチド、約150個のヌクレオチドから約200個のヌクレオチド、約200個のヌクレオチドから約250個のヌクレオチド、約250個のヌクレオチドから約300個のヌクレオチド、約300個のヌクレオチドから約400個のヌクレオチド、約400個のヌクレオチドから約500個のヌクレオチド、約500個のヌクレオチドから約750個のヌクレオチド、約750個のヌクレオチドから約1000個のヌクレオチド、約1000個のヌクレオチドから約1500個のヌクレオチド、約1500個のヌクレオチドから約2000個のヌクレオチド、または約2000個のヌクレオチドから約2270個のヌクレオチドによって互いに分離することができる。
【0090】
生成する増幅産物は、ヌクレオチド約30個からヌクレオチド約2270個、例えばヌクレオチド約30個からヌクレオチド約50個、ヌクレオチド約50個からヌクレオチド約100個、ヌクレオチド約100個からヌクレオチド約150個、ヌクレオチド約150個からヌクレオチド約200個、ヌクレオチド約200個からヌクレオチド約250個、ヌクレオチド約250個からヌクレオチド約300個、ヌクレオチド約300個からヌクレオチド約400個、ヌクレオチド約400個からヌクレオチド約500個、ヌクレオチド約500個からヌクレオチド約750個、ヌクレオチド約750個からヌクレオチド約1000個、ヌクレオチド約1000個からヌクレオチド約1500個、ヌクレオチド約1500個からヌクレオチド約2000個、またはヌクレオチド約2000個からヌクレオチド約2270個の長さを有するはずである。
【0091】
幾つかの実施形態ではプライマー配列の長さは、例えばヌクレオチド10から70個、ヌクレオチド12から65個、ヌクレオチド15から60個、ヌクレオチド20から55個、ヌクレオチド25から50個、ヌクレオチド30から45個などのヌクレオチド10〜75個の間の範囲にある。幾つかの実施形態ではプライマーは、ヌクレオチド18から40個、19から35個、20から30個、21から29個、22から28個、23から27個、24から25個の範囲の長さ、および言及した範囲の間の任意の長さである。ヌクレオチド約20から22個のプライマーを用いることができる。
【0092】
幾つかの実施形態ではその第一および/または第二プライマーが、検出可能な標識を含む。好適な標識には、蛍光色素、例えばフルオレセインイソチオシアナート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、フィコエリトリン、アロフィコシアニン(allophycocyanin)、6−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)、2’,7’−ジメトキシ−4’,5’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE)、6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、6−カルボキシ−2’,4’,7’,4,7−ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、5−カルボキシフルオレセイン(5−FAM)、またはN,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA)と、放射性標識、例えば32P、35S、Hなどとが挙げられる。標識は、その増幅DNAが高親和性結合パートナー、例えばアビジン、特異的抗体などを有するビオチン、ハプテンなどと複合し、その結合パートナーが検出可能な標識と複合する二段階系であることができる。標識は、プライマーの一方または両方と複合することができる。あるいは、増幅に使用されるヌクレオチドのプールが、標識を増幅産物中に組み込むために標識される。
【0093】
幾つかの実施形態では内部対照(IC)または内標準が加えられて、任意の否定的結果がそのアッセイの失敗のせいではないことを示すための対照として働く。ICの使用は、分離過程、増幅過程、および検出系の制御を可能にし、かつ試料に対するアッセイ遂行の監視および定量化を可能にする。ICは、任意の適切な時点で、例えば溶解バッファー中に含めることができる。一実施形態ではICは、ファージ核酸を含む。アッセイにおいて固体支持体を使用する場合にはその固体支持体は内標準に対して特異的なプローブ(ICプローブ)をさらに含み、それによってICプローブを用いた場合の捕捉を容易にすることができる。任意選択でICプローブを、標的配列の検出可能な標識とは異なる検出可能な標識と共役させることができる。検出可能な標識が蛍光団である実施形態ではICを分光光度的に、また検出限界の検討によって定量することができる。
【0094】
別の実施形態では本明細書中で述べたICを、当業者に知られているまた本明細書中で述べた標準的な手法に従って試料から単離されたRNAと組み合わせる。次いで逆転写酵素を用いてRNAを逆転写してコピーDNAを得る。任意選択で、標識したプライマーを用いてこのcDNA配列を増幅(例えばPCRによって)することができる。この増幅産物を一般には電気泳動によって分離し、放射能の量(増幅された産物の量に比例する)が求められる。次いで、必要に応じて既知の標準が生成するシグナルと比較することによって試料中のmRNAの量を計算することができる。
【0095】
プライマーおよびプローブの合成
上記プライマーおよびプローブは、本明細書中で開示される配列に基づいて設計され、また標準的手法、例えば米国特許第4,458,066号明細書および同第4,415,732号明細書(参照により本明細書中に援用される)、Beaucageら(1992)Tetrahedron 48:2223〜2311、およびApplied Biosystems User Bulletin No.13(1 Apr.1987)中に開示されているようなホスホルアミダイト化学反応による固相合成によって容易に合成される。他の化学合成法には、例えばNarangら、Meth.Enzymol.(1979)68:90に記載のホスホトリエステル法およびBrownら、Meth.Enzymol.(1979)68:109に記載のホスホジエステル法が挙げられる。ポリ(A)またはポリ(C)、あるいは他の非相補的ヌクレオチド伸長部を、これらの同じ方法を用いてプローブ中に組み込むことができる。ヘキサエチレンオキシド伸長部を、当業界で知られている方法によってプローブと共役させることができる。Cloadら(1991)J.Am.Chem.Soc.113:6324〜6326、Levensonらの米国特許第4,914,210号明細書、Durandら(1990)Nucleic Acids Res.18:6353〜6359、およびHornら(1986)Tet.Lett.27:4705〜4708。
【0096】
タウポリペプチドレベルの検出
幾つかの実施形態では主題の方法は、細胞中のタウポリペプチドのレベルを検出することを含む。タウポリペプチドのレベルを検出するための好適な方法には、免疫学的測定法、例えば酵素免疫吸着測定法、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質(「ウェスタン」)ブロット、タウ融合タンパク質の融合パートナーを検出するアッセイなどが挙げられる。
【0097】
幾つかの実施形態では免疫学的測定法は、タウポリペプチドに対して特異的な抗体の使用を含む。その抗タウ抗体は、検出可能な標識を含むことができる。抗タウ抗体は、幾つかの実施形態においては、例えば放射性同位元素、検出可能な産物を生成する酵素、蛍光タンパク質、色素産生タンパク質などにより検出可能に標識されることになる。抗タウ抗体は、さらに特異的結合対のメンバー、例えばビオチン(ビオチン−アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分と複合させることができる。抗タウ抗体はまた、これらに限定されないがポリスチレンプレートまたはビーズ、磁性ビーズ、試験ストリップ、膜などを含めた固体支持体と結合させることができる。
【0098】
幾つかの実施形態では抗タウ抗体は、直接的または間接的に検出可能に標識される。直接標識には、放射性同位元素(例えば125I、35Sなど)と、その産物が検出可能な酵素(例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなど)と、蛍光標識(例えば、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、フィコエリトリンなど)と、蛍光発光金属、例えばEDTAなどの金属キレート基を通じて抗体に付着した152Euまたは他のランタン系列のものと、化学発光化合物、例えばルミノール、イソルミノール、アクリジニウム塩などと、生物発光化合物、例えばルシフェリンと、蛍光タンパク質などが挙げられる。間接標識には、タウ特異的抗体に対して特異的な第二抗体(この第二抗体が前述のように標識される)と、特異的結合対のメンバー、例えばビオチン−アビジンなどとが挙げられる。
【0099】
幾つかの実施形態では抗タウ抗体は、検出可能なシグナルを可能にするタンパク質を、その抗体と共有結合した状態で含む。好適なタンパク質には、これらに限定されないが蛍光タンパク質および酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼなど)が挙げられる。好適な蛍光タンパク質には、これらに限定されないが緑色蛍光タンパク質(GFP)と、黄色蛍光タンパク質と、青色蛍光タンパク質と、赤色タンパク質と、例えばMatzら(1999)Nature Biotechnol.17:969〜973、米国特許出願公開第2002/0197676号明細書、または米国特許出願公開第2005/0032085号明細書などに記載の花虫(Anthozoan)種由来の様々な蛍光および有色タンパク質のいずれかとが挙げられる。この緑色蛍光タンパク質には、これらに限定されないが発酵オワンクラゲ(Aequoria victoria)またはその誘導体由来のGFP(その幾つかは市販されている)と、例えば国際公開第99/49019号パンフレットおよびPeelleら(2001)J.Protein Chem.20:507〜519に記載されているレニラ・レニホルミス(Renilla reniformis)、レニラ・ムレリ(Renilla mulleni)、またはプチロサルクス・ゲルニ(Ptilosarcus guernyi)などの種由来のGFPとが含まれる。
【0100】
幾つかの実施形態では主題のスクリーニング法に使用される抗タウ抗体は、タウの特定のアイソフォームに対して特異的である。他の実施形態では主題のスクリーニング法に使用される抗タウ抗体は、2種類以上のタウアイソフォームと交差反応する。幾つかの実施形態では主題のスクリーニング法に使用される抗タウ抗体は、チューブリン結合反復のエピトープと特異的に結合する。例えばこの抗体は、図6A(配列番号1)に示すアミノ酸配列の第569〜第693番アミノ酸、図6C(配列番号3)に示すアミノ酸配列の第252〜376番アミノ酸、図6E(配列番号5)に示すアミノ酸配列の第194〜318番アミノ酸、または図6G(配列番号7)に示すアミノ酸配列の第194〜287番アミノ酸によって表わされるエピトープと結合する。
【0101】
ポリペプチドレベルはまた、タウ融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換え構築物を持つ遺伝的修飾を加えた哺乳動物細胞中で測定することもできる。その場合、その融合パートナーは検出可能なシグナルを可能にするか、または別の方法で検出することができる。例えば、融合パートナーが免疫学的に認識可能なエピトープ(「エピトープタグ」)を与える場合、その融合パートナーのエピトープに対して特異的な抗体を用いてタウのレベルを検出し定量することができる。幾つかの実施形態ではその融合パートナーが、検出可能なシグナルを可能にし、これらの実施形態ではその検出方法は、融合パートナーが発するシグナルの型に基づいて選択される。例えば、融合パートナーが蛍光タンパク質の場合には蛍光が測定される。好適な蛍光タンパク質には、前述のものが挙げられる。
【0102】
候補薬剤は、興奮毒性障害のin vivoの非ヒト動物モデルにおいてさらに分析することができる。例えば候補薬剤を興奮性毒で処理したタウ+/+マウスに投与することができ、また、もしあれば発作の回数および/または重症度および/または発症の時期に及ぼす候補薬剤の効果を測定することができる。使用に適した興奮性毒には、これらに限定されないがカイニン酸、ペンチレンテトラゾールなどが挙げられる。
【0103】
幾つかの実施形態では候補薬剤は、その候補薬剤で処理しなかった非ヒト動物における発作の回数および/または重症度および/または発症の時期と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、その非ヒト動物における発作の回数および/または重症度および/または発症の時期を低減させるものである。
【0104】
in vivo法:
幾つかの実施形態では主題の方法はin vivoで行われる。例えば、試験薬剤を興奮毒性障害の非ヒト動物モデルに投与し、もしあればタウ遺伝子産物のレベルに及ぼすその試験薬剤の効果を判定する。例えば、試験薬剤を興奮毒性関連障害の非ヒト動物モデルに投与し、もしあればタウ遺伝子産物のレベルに及ぼすその試験薬剤の効果を判定する。幾つかの実施形態ではこの方法は、その興奮毒性関連障害に対する読み出し情報を得るためのアッセイを行うステップをさらに含む。興奮毒性関連障害に対する読み出し情報には、これらに限定されないが、a)発作の回数および/または重症度および/または発症の時期、b)興奮毒性関連障害に付随する行動の欠陥、およびc)興奮毒性関連障害に付随するカルシウム応答遺伝子産物の異常レベルが含まれる。
【0105】
好適な非ヒト動物モデルには、タウ+/−またはタウ+/+遺伝子型を有する齧歯動物、例えばラットおよびマウスが挙げられる。幾つかの実施形態では非ヒト動物モデルは、野生型非ヒト動物であり、興奮性毒がこの動物に投与される。使用に適した興奮性毒には、これらに限定されないがカイニン酸、ペンチレンテトラゾールなどが挙げられる。他の実施形態では非ヒト動物モデルは、アルツハイマー病の非ヒト動物モデルである。アルツハイマー病の非ヒト動物モデルは当業界で知られており(例えば、米国特許第6,046,381号明細書、同第6,175,057号明細書、同第6,300,540号明細書、同第6,455,757号明細書、同第6,586,656号明細書、および同第7,081,561号明細書参照)、複数種類のこのような動物が市販(例えばJackson Laboratoriesから)されている。他の実施形態では非ヒト動物モデルは、パーキンソン病の非ヒト動物モデルである。パーキンソン病の非ヒト動物モデルには、6−OHDA(6−ヒドロキシドーパミン)モデル、米国特許出願公開第2003/0056231号明細書に記載されているモデルなどが挙げられる。他の実施形態では非ヒト動物モデルは、多発性硬化症の非ヒト動物モデルである。また好適な非ヒト動物モデルの例には実施例中で述べるもの、例えばJ20マウス、J9マウス、J9/FYNマウス(例えばhAPPlow/FYNマウス)、およびTASDマウスが挙げられる。幾つかの実施形態では非ヒト動物モデルは、頭部外傷の非ヒト動物モデルである。
【0106】
タウ遺伝子産物の試験薬剤レベルが減少するか否は、上記のように判定することができる。例えば、その動物由来の生体試料中のタウ遺伝子産物のレベルを上記のように判定することができる。
【0107】
上記で述べたように幾つかの実施形態では興奮毒性関連障害に対する読み出し情報が検定され、その読み出し情報には、例えばa)発作の回数および/または重症度および/または発症の時期、b)興奮毒性関連障害に付随する行動の欠陥、およびc)興奮毒性関連障害に付随するカルシウム応答性遺伝子産物の異常レベルが含まれる。行動の欠陥には、学習障害、記憶障害、恐怖反応などが含まれる。行動の欠陥は、様々なよく知られている方法のいずれか、例えば高架式十字迷路試験、モーリス水迷路試験、受動的回避試験などを用いて検定することができる。
【0108】
検出するのに適したカルシウム応答性遺伝子産物(また「カルシウム依存性遺伝子産物」とも呼ばれる)には、例えば興奮毒性関連神経性障害を有する個体中の(例えば個体の歯状回中の)より低いカルシウム依存性遺伝子産物(例えば、カルビンディン、p−ERK、α−アクチニンII、およびc−Fosを含めた)と、興奮毒性関連神経性障害を有する個体中の(例えば個体の歯状回中の)より高いカルシウム依存性遺伝子産物(例えば神経ペプチドY(NPY)を含めた)とが挙げられる。例えば、Palopら(2003)Proc.Natl.Adad.Sci.USA 100:9572を参照されたい。
【0109】
治療方法:
興奮毒性関連障害の治療方法を提供する。一般にこれら方法は、個体におけるニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる有効量の薬剤を、それが必要な個体に投与することを含む。
【0110】
好適な薬剤には、興奮毒性関連障害の少なくとも1つの徴候またはパラメーターの程度、頻度、または重症度を、その薬剤で処理していない個体におけるパラメーターの程度、頻度、または重症度と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%軽減する薬剤が挙げられる。
【0111】
例えば幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤で処理していない個体における発作の回数、または発作の重症度、または発作の発症の時期と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、その個体における発作の回数を減じ、かつ/または発作の重症度を下げ、かつ/または発作の発症を遅らせる薬剤である。
【0112】
例えば幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤で処理していない個体における行動と比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、その個体における行動パラメーター(例えば記憶、認知、学習)を改善する薬剤である。
【0113】
タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤:
タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤には、細胞中のタウmRNAおよび/またはタウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤が挙げられる。幾つかの実施形態では、細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤は、細胞と接触した場合、その薬剤が存在しない細胞中のタウ遺伝子産物のレベルと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、タウおよび/またはタウポリペプチドのレベルを低下させる薬剤である。例えば好適な薬剤には、その薬剤を投与しない場合のニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤が挙げられる。
【0114】
個体において細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる(例えば、個体においてニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる)好適な薬剤には、野生型タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤が挙げられる。幾つかの実施形態では好適な薬剤は、野生型タウ遺伝子産物のレベルを選択的に低下させるものである。
【0115】
幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤による処理なしの細胞中のタウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中の(例えば神経細胞中の)タウポリペプチドのレベルを低下させる。
【0116】
幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤による処理なしの細胞中の非過リン酸化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中の(例えば神経細胞中の)非過リン酸化タウポリペプチドのレベルを低下させる。
【0117】
幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤による処理なしの組織中の非過リン酸化タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、組織(例えば脳組織)中の非過リン酸化タウポリペプチドのレベルを低下させる。
【0118】
幾つかの実施形態では好適な薬剤は、その薬剤による処理なしの細胞中の非凝集性(例えば可溶性)タウポリペプチドのレベルと比較して、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはそれ以上、細胞中の(例えば神経細胞中の)非凝集性(例えば可溶性)タウポリペプチドのレベルを低下させる。
【0119】
幾つかの実施形態では、タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤はまた、1)タウの川下効果、2)タウ以外の分子(例えばfynキナーゼ)とタウの相互作用、3)タウの1つまたは複数の生理機能(ただしタウの生理機能には、a)微小管の安定化、b)細胞内の輸送および転送の調節(例えば軸索輸送の調節、樹枝状輸送の調節、オルガネラの転送など)、およびc)神経突起伸長の促進が含まれる)のうちの1つまたは複数を変える(例えば増加または減少させる)。タウ遺伝子産物のレベルの低下は、Aβ誘発性欠陥から新生ニューロン(例えば歯状回(DG)ニューロン)を防護することができ、またDG神経回路網中へのこのような新生ニューロンの取込みを向上させることができる。したがって幾つかの実施形態ではタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤はまた、歯状回(DG)回路への新生ニューロンの取込みを向上させ、かつ/またはAβ誘発性欠陥から新生DGニューロンを防護する。
【0120】
好適な薬剤は、タウ遺伝子産物、例えばタウmRNA、タウポリペプチド(例えば、非過リン酸化タウポリペプチド、非凝集性タウポリペプチド)のレベルを低下させる。タウをリン酸化するキナーゼのレベルまたは活性を低下させる薬剤は、幾つかの実施形態においては特に除外される。さらに、タウの凝集を低減する、または凝集したタウを標的にする薬剤は、幾つかの実施形態においては特に除外される。
【0121】
アンチセンス核酸
細胞中の、例えばニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤には、アンチセンス核酸が挙げられる。例えば、アンチセンス核酸を用いて細胞中の(例えばニューロン中の)タウ遺伝子の発現を下方制御することができる。そのアンチセンス試薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)、例えば天然の核酸からの複数の化学修飾を有する合成ODNか、またはこのようなアンチセンス分子をRNAとして発現させる核酸構築物であることができる。アンチセンス配列は、標的にされる遺伝子(例えばタウ)のmRNAに相補的であり、標的にされる遺伝子産物の発現を抑制する。アンチセンス分子は、様々な機構により、例えばRNアーゼHの活性化、または立体障害を通して翻訳に利用可能なmRNAの量を低下させることによって遺伝子発現を抑制する。アンチセンス核酸の1種類または組合せを投与することができ、その場合、組合せは多様な異なる配列を含むことができる。
【0122】
アンチセンス核酸は、転写開始をアンチセンス鎖がRNA分子として産生されるような方向に向ける適切なベクター中における標的遺伝子配列(例えばタウ)の全体または一部の発現によって産生することができる。あるいは、アンチセンス核酸は、合成オリゴヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、長さが少なくとも約7個、少なくとも約12個、または少なくとも約20個のヌクレオチドであり、かつ長さが約500個以下、約50個v、または約35個以下のヌクレオチドであることができる。その場合、長さは抑制の効率、交差反応性の不在を含めた特異性などによって左右される。長さが塩基7から8個の短いオリゴヌクレオチドは、遺伝子発現の強力かつ選択的阻害剤であることができることが分っている(Wagnerら(1996)Natur Biotechnol.14:840〜844参照)。
【0123】
内因性センス鎖mRNA配列の1つまたは複数の特異的領域は、アンチセンス配列によって補完されるように選択される。オリゴヌクレオチドの特異的配列の選択は、幾つかの候補配列をin vitroまたは動物モデルで標的遺伝子の発現の抑制について検定する経験的方法を用いることができる。配列の組合せもまた使用することができ、その場合、mRNA配列の幾つかの領域はアンチセンス相補性が得られるように選択される。
【0124】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業界で知られている方法によって化学的に合成することができる(Wagnerら(1993、上記)およびMilliganら(上記)参照)。好適なオリゴヌクレオチドは、それらの細胞内安定性および結合親和性を増すために天然のホスホジエステル構造から化学的に修飾することができる。複数のこのような修飾については文献に記載されており、これらの修飾はバックボーン、糖、または複素環塩基の化学的性質を変える。
【0125】
バックボーンの化学的性質の有用な変化には、ホスホロチオアート、両方の非架橋酸素がイオウで置換されているホスホロジチオアート、ホスホロアミダイト、アルキルホスホトリエステル、およびボラノホスファートがある。アキラルリン酸誘導体には、3’−O’−5’−S−ホスホロチオアート、3’−S−5’−O−ホスホロチオアート、3’−CH−5’−O−ホスホナート、および3’−NH−5’−O−ホスホロアミダートが挙げられる。ペプチド核酸は、リボースホスホジエステルバックボーン全体をペプチド結合と取り換える。糖修飾もまた、安定性および親和性を高めるために使用される。デオキシリボースのβ−アノマーを使用することができ、その場合、塩基が天然のα−アノマーに対して転化される。リボース糖の2’−OHを変えて2’−O−メチル糖または2’−O−アリル糖を形成することができ、これは親和性を含むことなしに分解に対する抵抗性を与える。複素環塩基の修飾は、適切な塩基の対合を維持しなければならない。幾つかの有用な置換には、デオキシチミジンからデオキシウリジンへの、デオキシシチジンから5−メチル−2’−デオキシシチジンおよび5−ブロモ−2’−デオキシシチジンへの置換が挙げられる。5−プロピニル−2’−デオキシウリジンおよび5−プロピニル−2’−デオキシシチジンが、それぞれデオキシチミジンおよびデオキシシチジンから置換される場合、親和性および生物活性を増すことが示されている。
【0126】
干渉核酸
細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる好適な薬剤には、干渉核酸、例えば干渉RNA分子が挙げられる。一実施形態ではタウ遺伝子産物レベルの低下は、細胞を、短鎖干渉核酸(siNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、または短鎖ヘアピンRNA(shRNA)分子などの小型核酸分子と接触させることによるRNA干渉(RNAi)により、あるいはタウ遺伝子産物のレベルの低下を可能にするように低分子干渉RNA(siRNA)の発現を調節することにより達成される。
【0127】
干渉核酸は、タウをコードするヌクレオチド配列のそのヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。例えば幾つかの実施形態では、配列番号2、4、6、および8の1つまたは複数に示されるタウをコードするヌクレオチド配列が、干渉核酸の設計に使用される。
【0128】
本明細書中で用いられる用語「短鎖干渉核酸」、「siNA」、「短鎖干渉RNA」、「siRNA」、「短鎖干渉核酸分子」、「短鎖干渉オリゴヌクレオチド分子」、または「化学的修飾を加えた短鎖干渉核酸分子」は、例えば配列特異的なやり方でRNA干渉(「RNAi」)または遺伝子抑制を仲介することによって遺伝子発現を抑制または下方制御することができる任意の核酸分子を指す。標的遺伝子を与えられた場合のRNAi分子の設計は、当業界ではごく普通である。米国特許出願公開第2005/0282188号明細書(参照により当明細書中に援用される)およびその中に引用されている参考文献もまた参照されたい。例えば、Pushparajら、Clin Exp Pharmacol Physiol.2006 May〜June;33(5〜6):504〜10、Lutzelbergerら、Handb Exp Pharamcol.2006;(173):243〜59、Aroninら、Gene Ther.2006 Mar;13(6):509〜16、Xieら、Drug Discov Today.2006 Jan;11(1〜2):67〜73、Grunwellerら、Curr Med Chem.2005;12(26):3143〜61、およびPekaraikら、Brain Res Bull.2005 Dec 15;68(1〜2):115〜20.Epub 2005 Sep 9を参照されたい。
【0129】
siRNAを所望の標的に向ける設計および産生の方法は当業界で知られており、また本明細書中で開示された目的のためのタウ遺伝子へのそれらの利用については当業者に容易に理解できるはずであり、例えば高度な安定性、バイオアベイラビリティー、および治療法としての利用を増すための他の特性を可能にする修飾(例えば化学修飾)を有するsiRNAの産生の方法も同様である。さらに被検体へのsiRNAの処方および送達の方法もまた当業界でよく知られている。例えば、米国特許出願公開第2005/0282188号明細書、米国特許出願公開第2005/0239731号明細書、米国特許出願公開第2005/0234232号明細書、米国特許出願公開第2005/0176018号明細書、米国特許出願公開第2005/0059817号明細書、米国特許出願公開第2005/0020525号明細書、米国特許出願公開第2004/0192626号明細書、米国特許出願公開第2003/0073640号明細書、米国特許出願公開第2002/0150936号明細書、米国特許出願公開第2002/0142980号明細書、および米国特許出願公開第2002/0120129号明細書明細書を参照されたい。これらはそれぞれ参照により本明細書中に援用される。
【0130】
siRNAの設計を容易にするための公的に利用可能なツールを当業界で利用できる。例えば、DEQORすなわちDesign and Quality Control of RNAi(インターネット上でcluster−1.mpi−cbg.de/Deqor/deqor.htmlで利用できる)を参照されたい。また、Henschelら、Nucleic Acids Res.2004 Jul 1;32(Web Server issue):W113−20も参照されたい。DEQORは、siRNA設計用の従来技術のパラメーターに基づく採点法を用いてsiRNAの抑制可能性を評価するウェブベースのプログラムである。したがってDEQORは、(i)その塩基対組成に基づく高いサイレンシング能力を示す遺伝子中の領域、および(ii)化学合成に対して高いサイレンシング可能性を有するsiRNAを予測するのに役立つことができる。さらに入力した質問から生ずる各siRNAは、選択された生物のトランスクリプトームまたはゲノムに対するBLAST検索を行うことによって、あり得るクロスサイレンシング(cross−silencing)活性について評価される。したがってDEQORは、mRNAフラグメントが細胞中で他の遺伝子と交差反応する可能性を予測することができ、また研究者がsiRNAの特異性または化学的に設計されたsiRNAを試験するための実験を設計するのに役立つ。
【0131】
タウのsiNA分子の設計のための標的部位の非限定的な例には下記が挙げられる。すなわち
標的領域1:
5’−AATCACACCCAACGTGCAGAA−3’(配列番号10、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第918番〜第938番に該当する)、
標的領域2:
5’−AACTGGCAGTTCTGGAGCAAA−3’(配列番号11、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1344番〜第1364番に該当する)、
標的領域3:
5’−gacctg aagaatgtca agtccaagat cggctccact gagaacctga agcaccagcc gggaggcggg aaggtgcaga taattaataa gaagctg−3’(配列番号12、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1705番〜第1797番に該当する)、
標的領域4:
5’−gat cttagcaacg tccagtccaa gtgtggctca aaggataata tcaaacacgt cccgggaggc ggcagtgtgc aaatagtcta caaaccagtt−3’(配列番号13、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1798番〜第1890番に該当する)、
標的領域5:
5’−gacctgagca aggtgacctc caagtgtggc tcattaggca acatccatca taaaccagga ggtggccagg tggaagtaaa atctgagaag ctt−3’(配列番号14、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1891番〜第1983番に該当する)、
標的領域6:
5’−gacttca aggacagagt ccagtcgaag attgggtccc tggacaatat cacccacgtc cctggcggag gaaataaaaa gattgaaacc cacaagctg−3’(配列番号15、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1984番〜第2079番に該当する)、
標的領域7:
5’−aagtcgccgt cttccgccaa gagccgcctg−3’(配列番号16、これは図6Bで表わされ、また配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第1651番〜第1680番に該当する)、
標的領域8:
5’−gccaagacag accacggggc ggagatcgtg−3’(配列番号17、これは図6Bで表わされ、配列番号2に示したヌクレオチド配列のヌクレオチド第2101番〜第2130番に該当する)。
【0132】
下記のヌクレオチド配列は特に除外される。すなわち、
1)5’−tcgaagtgatggaagatcacgc−3’(配列番号18)、
2)5’−cagccgggagtcgggaaggtgc−3’(配列番号19)、
3)5’−acgtcctcggcggcggcagtgtgc−3’(配列番号20)、
4)5’−acgtctccatggcatctcagc−3’(配列番号21)、
5)5’−gtggccagatggaagtaaaatc−3’(配列番号22)、
6)5’−gtggccacatggaagtaaaatc−3’(配列番号23)、および
7)5’−gtggccagatgcaagtaaaatc−3’(配列番号24)。
【0133】
上記で与えられる配列はその標的遺伝子をコードするmRNAの標的配列であり、かつ使用されるsiRNAオリゴヌクレオチドはその標的に相補的な配列を含むことになることを理解されたい。
【0134】
siNA分子は、様々な形態のいずれでもよい。例えばsiNAは、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子であることができ、このアンチセンス領域は標的核酸分子またはその部分中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、またこのセンス領域は標的核酸配列またはその部分に該当するヌクレオチド配列を有する。siNAはまた、2つの別個のオリゴヌクレオチドから構築することもでき、その場合、一方の鎖がセンス鎖、他方がアンチセンス鎖であり、それらアンチセンスおよびセンス鎖は自己相補的である。この実施形態では一般にそれぞれの鎖は、もう一方の鎖中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。例えば、そのアンチセンス鎖およびセンス鎖が、例えばその二本鎖領域が約15塩基対から約30塩基対、例えば約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30塩基対である二重鎖または二本鎖構造を形成する場合、そのアンチセンス鎖は、標的核酸分子またはその部分中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、またそのセンス鎖は、この標的核酸配列またはその部分に該当するヌクレオチド配列を含む(例えば、そのsiNA分子のヌクレオチド約15個からヌクレオチド約25個以上が、この標的核酸分子またはその部分に相補的である)。
【0135】
あるいは、siNAは、単一のオリゴヌクレオチドから構築することもでき、その場合、そのsiNAの自己相補的センスおよびアンチセンス領域は、核酸系または非核酸系リンカーによって結合される。そのsiNAは、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を有する二重、不斉二重、ヘアピン、または不斉ヘアピン二次構造のポリヌクレオチドであることができ、そのアンチセンス領域は別個の標的核酸分子またはその部分中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、またそのセンス領域はこの標的核酸配列またはその部分に該当するヌクレオチド配列を有する。
【0136】
siNAは、2個以上のループ構造と、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を含むステムとを有する環状一本鎖ポリヌクレオチドであることができる。このアンチセンス領域は、標的核酸分子またはその部分中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、このセンス領域はこの標的核酸配列またはその部分に該当するヌクレオチド配列を有する。また、この環状ポリヌクレオチドをin vivoまたはin vitroのいずれかで処理して、RNAiを仲介することができる活性なsiNA分子を生成させることができる。siNAはまた、標的核酸分子またはその部分中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドを含むことができ(例えば、このようなsiNA分子が、標的核酸配列またはその部分に該当するヌクレオチド配列のsiNA分子内に存在する必要がない場合)、その一本鎖ポリヌクレオチドは、5’−リン酸(例えば、Martinezら(2002)Cell.,110.563〜574、およびSchwarzら(2002)Molecular Cell,10,537〜568参照)または5’,3’−二リン酸などの末端リン酸基をさらに含むことができる。
【0137】
幾つかの実施形態ではsiNA分子は、離れたセンスおよびアンチセンス配列または領域を含有し、それらセンスおよびアンチセンス領域は当業界で知られているヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーによって共有結合するか、あるいはその代わりにイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水的相互作用、および/またはスタッキング相互作用によって非共有結合している。幾つかの実施形態ではsiNA分子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。別の実施形態ではsiNA分子は、標的遺伝子の発現の抑制を引き起こすように標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。
【0138】
本明細書中で用いられるsiNA分子は、RNAのみを含有するsiNA分子に限定される必要はなく、さらに化学修飾を加えたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。幾つかの実施形態では本発明の短鎖干渉核酸分子は、2’−ヒドロキシ(2’−OH)含有ヌクレオチドを欠いている。siNA分子は、RNAiを仲介するための2’−ヒドロキシ基を有するヌクレオチドの存在を必ずしも必要とせず、したがって本発明のsiNA分子は、場合によってはいかなるリボヌクレオチド(例えば2’−OHを有するヌクレオチド)も含まない。しかしながら、RNAiを支持するためにsiNA分子内にリボヌクレオチドの存在を必要としないこのようなsiNA分子は、1つまたは複数の付着リンカー、あるいは他の付着または結合した基、部分、もしくは2’−OH基を有する1つまたは複数のヌクレオチドを含有する鎖を有することができる。任意選択でsiNA分子は、ヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40、または50%にリボヌクレオチドを含むことができる。本発明の修飾短鎖干渉核酸分子はまた、短鎖干渉修飾オリゴヌクレオチド「siMON」と呼ぶこともできる。
【0139】
本明細書中で用いられる用語「siNA」は、配列特異的RNAi、例えば短鎖干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、マイクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉オリゴヌクレオチド、短鎖干渉核酸、短鎖干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学的修飾を加えたsiRNA、転写後遺伝子抑制RNA(ptgsRNA)などを仲介することができる核酸分子を記述するために使用される他の用語と同義であることを意味する。さらに本明細書中で用いられる用語siNAは、転写後遺伝子抑制、翻訳抑制、または後成などの配列特異的RNA干渉を記述するために使用される他の用語と同義であることを意味する。例えば本発明のsiNA分子は、転写後のレベルおよび転写前のレベルの両方で標的遺伝子を後成的に発現停止させるために使用することができる。非限定的な例では本発明のsiNA分子による遺伝子発現の後成的調節は、クロマチン構造またはメチル化パターンのsiNA仲介修飾の結果として生じて遺伝子発現を変える可能性がある(例えば、Verdelら(2004)Science,303,672〜676、Pal−Bhadraら(2004)Science,303,669〜672、Allshire(2002)Science,297,1818〜1819、Volpeら(2002)Science,297,1833〜1837、Jenuwein(2002)Science,297,2215〜2218、およびHallら(2002)Science,297,2232〜2237参照)。
【0140】
本明細書中で検討されるsiNA分子は、二重鎖形成オリゴヌクレオチド(DFO)を含むことができる(例えば、参照により本明細書中に援用されている国際公開第05/019453号パンフレットおよび米国特許出願公開第2005/0233329号明細書参照)。本明細書中で検討されるsiNA分子にはまた、多機能siNAが含まれる(例えば、国際公開第05/019453号パンフレットおよび米国特許出願公開第2004/0249178号明細書参照)。この多機能siNAは、例えばタウの2つの領域を標的にする配列を含むことができる。
【0141】
本明細書中で検討されるsiNA分子は、不斉ヘアピンまたは不斉二重鎖を含むことができる。本明細書中で用いられる「不斉ヘアピン」とは、アンチセンス領域と、ヌクレオチドまたは非ヌクレオチドを含むことができるループ部分と、センス領域がアンチセンス領域と塩基対をつくるのに、またループと二重鎖を形成するのに十分な相補的ヌクレオチドを有する程度にそのアンチセンス領域よりも少ないヌクレオチドを含むセンス領域とを含む直鎖siNA分子を意味する。例えば不斉ヘアピンsiNA分子は、細胞中またはin vitro系中でRNAiを仲介するのに十分な長さ(例えば、ヌクレオチド約15個から約30個、すなわち約15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、または30個)を有するアンチセンス領域と、ヌクレオチド約4個から約12個(例えば、約4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、または12個)を含むループ領域と、このアンチセンス領域に相補的なヌクレオチド約3個から約25個(例えば、約3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、または25個)を有するセンス領域とを含むことができる。この不斉ヘアピンsiNA分子はまた、化学的に修飾することができる5’−末端リン酸基を含むこともできる。不斉ヘアピンsiNA分子のループ部分は、ヌクレオチド、非ヌクレオチド、リンカー分子、または本明細書中で述べる共役分子を含むことができる。
【0142】
本明細書中で用いられる「不斉二重鎖」とは、センス領域およびアンチセンス領域を含む2本の別個の鎖を有するsiNA分子を意味し、そのセンス領域は、アンチセンス領域と塩基対をつくるのに、また二重鎖を形成するのに十分な相補的ヌクレオチドを有する程度にそのアンチセンス領域よりも少ないヌクレオチドを含む。例えば本発明の不斉二重鎖siNA分子は、細胞中またはin vitro系中でRNAiを仲介するのに十分な長さ(例えば、ヌクレオチド約15個から約30個、すなわち約15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、または30個)を有するアンチセンス領域と、このアンチセンス領域に相補的なヌクレオチド約3個から約25個(例えば、約3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、または25個)を有するセンス領域とを含むことができる。
【0143】
siNAの安定性および/または半減期は、血清リボヌクレオチドによるそれらの分解を防止することができ、またそれらの有効性を増すことができる修飾(塩基、糖、および/またはリン酸)を有する核酸分子を化学的に合成することにより改善することができる(例えば、本明細書中で述べた核酸分子の塩基、リン酸、および/または糖部分に対して行うことができる様々な化学修飾について記載されているEcksteinらの国際公開第92/07065号パンフレット、Perraultら(1990)Nature 344,565、Piekenら(1991)Science 253,314、UsmanおよびCedergren(1992)Trends in Biochem.Sci.17,334、Usmanらの国際公開第93/15187号パンフレット、Rossiらの国際公開第91/03162号パンフレット、Sproatの米国特許第5,334,711号明細書、Goldらの米国特許第6,300,074号明細書、およびBurginら(上記)を参照されたい。これらの全てが参照により本明細書中に援用される)。細胞中でのそれらの効力を高める修飾、およびオリゴヌクレオチド合成時間を短縮し化学的必要条件を減らすための核酸分子からの塩基の除去が望ましい。
【0144】
例えばオリゴヌクレオチドは、安定性を高めかつ/または生物活性を高めるようにヌクレアーゼ耐性基、例えば2’−アミノ、2’−C−アリル、2’−フルオロ、2’−O−メチル、2’−O−アリル、2’−Hによる修飾、すなわちヌクレオチド塩基修飾によって修飾される(概説については、UsmanおよびCedergren(1992)TIBS.17,34、Usmanら(1994)Nucleic Acids Symp.Ser.31.163、Burginら(1996)Biochemistry,35,14090参照)。核酸分子の糖修飾は、当業界で広範囲に述べられてきた(Ecksteinらの国際公開第92/07065号パンフレット、Parraultら、Nature,1990,344,565〜568、Piekenら、Science,1991,253,314〜317、UsmanおよびCedergren、Trends in Biochem.Sci.,1992,17,334〜339、Usmanらの国際公開第93/15187号パンフレット、Sproatの米国特許第5,334,711号明細書、Beigelmanら(1995)J.Biol.Chem.,270,25702、Beigelmanらの国際公開第97/26270号パンフレット、Beigelmanらの米国特許第5,716,824号明細書、Usmanらの米国特許第5,627,053号明細書、Woolfらの国際公開第98/13526号パンフレット、Thompsonらの米国仮特許出願第60/082,404号明細書(1998年4月20日出願)、Karpeiskyら(1998)Tetrahedron Lett.,39,1131、EamshawおよびGait(1998)Biopolymers(Nucleic Acid Sciences)48,39〜55、VermaおよびEckstein(1998)Annu.Rev.Biochem.,67,99〜134、およびBurlinaら(1997)Bioorg.Med.Chem.,5,1999〜2010参照。これらはそれぞれそれらの全体が本明細書中に参照により援用される)。このような教示を考慮して、細胞中のRNAiを促進させるsiNAの能力が顕著に阻害されない限り類似の修飾を本明細書中で述べるように使用して、本明細書中で開示されるsiNA核酸分子を修飾することができる。
【0145】
活性を維持または高める化学修飾を有する短鎖干渉核酸(siNA)分子を本明細書中で検討する。このような核酸はまた、修飾されていない核酸よりもヌクレアーゼに対して一般に抵抗性がある。したがってin vitroおよび/またはin vivo活性を顕著に低下させるべきでない。外因により送達される核酸分子は、標的遺伝子産物のレベルの低下を容易にするように、標的RNAの転写および/または翻訳が起こるのに、かつコードされたmRNAおよび/またはポリペプチドの産生の調節を可能にするのに少なくとも十分な期間のあいだ細胞内で安定であるように一般に選択される。
【0146】
RNAおよびDNA分子の産生は、合成的に達成することができ、また高度なヌクレアーゼ安定性を可能にするようにヌクレオチド修飾の導入を可能にすることができる(例えば、Wincottら(1995)Nucleic Acids Res.23,2677、およびCaruthersら(1992)Methods in Enzymology 211,3〜19参照(これらは参照により本明細書中に援用される))。一実施形態では本発明の核酸分子は、1個または複数個(例えば、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれ以上)のG−クランプヌクレオチドを含み、これらは二重鎖内の相補的グアニンのワトソン−クリック面およびフーグスティーン面の両方を水素結合させる能力を付与し、核酸標的に高度な親和性および特異性を与えることができる修飾シトシン類似体である(例えば、Linら(1998)J.Am.Chem.Soc.,120,8531〜8532参照)。別の例では核酸分子は、2’,4’−Cメチレンビシクロヌクレオチドなどの1個または複数個(例えば、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれ以上)のLNA「ロックされた核酸(locked nucleic acid)」ヌクレオチドを含むことができる(例えば、Wengelらの国際公開第00/66604号パンフレットおよび同第99/14226号パンフレット参照)。
【0147】
siNA分子は、例えば細胞中へのsiNA分子の送達を容易にするために抱合体および/または複合体として与えることができる。抱合体および/または複合体の実例には、siNAと、小分子、脂質、コレステロール、リン脂質、ヌクレオシド、抗体、毒素、負に帯電したポリマー(例えば、タンパク質、ペプチド、ホルモン、炭水化物、ポリエチレングリコール、またはポリアミン)とからなるものが挙げられる。一般に前述の輸送体は、分解性リンカーの有無に関係なく個別にまたは多成分系の一部として使用されるように設計される。これらの化合物は、血清の存在または不在下における核酸分子の細胞中への送達および/または局在化を改善することができる(例えば、米国特許5,854,038号明細書参照)。本明細書中で述べた分子の抱合体は、生分解性核酸リンカー分子などの生分解性のリンカーを介して生物学活性のある分子に付着させることができる。
【0148】
薬剤の投与および処方
被検体への送達のための当該薬剤の処方およびこれら薬剤(前述のsiNA分子、アンチセンス核酸などを含む)の送達方法は当業界において入手可能である。これらには薬剤の全身的送達を行うための処方および送達方法ならびに薬剤の局所的送達を行うための処方および送達方法(例えば、特定の器官または区画に対して行うための(例えば中枢神経系(CNS)に対して送達を行うための)など)が含まれる。これら薬剤は被検体に投与するための送達用賦形剤、担体、および増量剤と、それらの塩とを含むように処方することができ、かつ/または薬剤は薬学的に許容できる製剤中に存在することができる。
【0149】
適切な処方は、少なくとも部分的には使用法または侵入経路、例えば非経口、経口、または経皮的(transdermal)経路によって決まる。本明細書中で用いられる用語「非経口」には、経皮(percutaneous)、皮下、血管内(例えば静脈内)、筋内、または鞘内の注射、あるいは点滴技術などが含まれる。製剤は、当該薬剤の薬学的に許容できる塩、例えば酸付加塩を含む。
【0150】
一実施形態では化合物は、薬学的に許容できる組成物または製剤の状態で全身的投与によって被検体に投与される。「全身的投与」とは、体の至るところに分配することを容易にするための血流中の薬物のin vivoでの全身的吸収または蓄積を意味する。全身的投与経路には、例えば静脈内、皮下、門脈、腹膜内、吸入、経口、肺臓内、および筋内が挙げられる。
【0151】
薬剤の製剤はまた、薬学的に許容できる担体、補助剤、および/または賦形剤を含有する用量単位の製剤の状態で経口的に、局所的に、非経口的に、吸入または噴霧によって、あるいは直腸に投与することもできる。治療用途のための薬学的に許容できる担体または増量剤は医薬業界でよく知られており、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編、1985)中に記載されており、これにより本明細書中に参照により援用される。例えば保存剤、安定剤、染料、および着香料を与えることができる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。さらに酸化防止剤および懸濁化剤を用いることができる。
【0152】
薬学的に有効な用量は、発現を防止し抑制するために、または疾患の状態を治療する(症状を少なくともある程度和らげる)ために必要な用量である。薬学的に有効な用量は、疾患の種類、使用される組成、投与の経路、治療される被検体のタイプ、被検体によって異なる考慮中の特徴、併用薬物療法、および医薬業者が認識するはずの他の要因に左右される。一般には1日につき体重1kg当たり0.1mgから100mgの間の有効成分の量が投与される。
【0153】
生物学的区画を画定する組織(例えば、脳、心室、鞘内腔、脊髄、滑液腔など)中への局所注射もまた考察の対象である。
【0154】
薬剤は、肺への送達が望まれる場合、肺組織中への薬剤の取り込みを可能にする吸入装置(例えば、噴霧器、吸入器、定量吸入器など)で投与されるエアロゾルまたは噴霧乾燥製剤の、例えば吸入によって投与することができる。当該化合物(例えば核酸)を含有する微粉化組成物の吸入可能な固体乾燥粒子を、標準的な方法で調製することができる。固体粒子組成物は、エアロゾルの形成を容易にするのに役立つ分散剤を任意選択で含有することができる。好適な分散剤はラクトースであり、これは重量比1対1などの任意の適切な比で薬剤とブレンドすることができる。有効成分は、一般に製剤の約0.1から100w/wで存在する。薬剤は、懸濁または溶液製剤として送達することができ、また液化プロペラント、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、およびこれらの混合物などのクロロフルオロカーボン化合物の使用を伴うことができる。エアロゾル製剤は、1種類または複数種類の補助溶剤、例えばエタノールと、オレイン酸またはトリオレイン酸ソルビタンなどの乳化剤および他の製剤用界面活性剤と、酸化防止剤と、適切な着香料とをさらに含有することができる。肺への送達のための他の方法は、例えば、米国特許出願公開第2004/0037780号明細書、および米国特許第6,592,904号明細書、同第6,582,728号明細書、同第6,565,885号明細書に記載されており、これらのそれぞれが参照により本明細書中に援用される。
【0155】
単核白血球およびリンパ球を含めた造血細胞への薬剤の処方および送達方法は、当業界で知られており、例えばHartmannら(1988)J.Pharmacol.Exp.Ther.,285(2),920〜928、Kronenwettら(1998)Blood,91(3),852〜862、FilionおよびPhillips(1997)Biochim.Biophys.Acta.,1329(2),345〜356、MaおよびWei(1996)Leuk.Res.,20(11/12),925〜930、およびBongartzら(1994)Nucleic Acids Research,22(22),4681〜8を参照されたい。上記のような方法には、化合物を造血細胞中に送達するための、遊離化合物(例えばオリゴヌクレオチド)、カチオン脂質製剤、pHに敏感なリポソームおよびイムノリポソームを含めたリポソーム製剤、ならびに膜融合ペプチドと複合させたオリゴヌクレオチドを含めたバイオコンジュゲートの使用が挙げられる。
【0156】
皮膚または粘膜への薬剤の処方および送達方法は当業界で知られている。このような送達系には、例えば水性および非水性ゲル剤、クリーム、多層乳剤、マイクロエマルション、リポソーム、軟膏、水性および非水性液剤、ローション剤、パッチ貼付剤、坐剤、および錠剤が挙げられ、可溶化剤などの医薬剤添加剤、浸透増強剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、およびアミノ酸)、および親水性ポリマー(例えば、ポリカルボフィルおよびポリビニルピロリドン)を含有することができる。
【0157】
中枢神経系(CNS)および/または末梢神経系への送達は、例えば神経細胞への核酸の局所投与によって達成することができる。使用することができるCNS送達の従来の方法には、これらに限定されないが鞘内および脳室内投与、カテーテルおよびポンプの埋込み、創傷または病巣の部位における直接注射または灌流、脳動脈系中への注射、あるいは血液脳関門の化学的または浸透圧性解放によるものが挙げられる。他の方法には、様々な輸送および担体系の使用、例えば抱合体および生分解性ポリマーの使用による方法を挙げることができる。また、CNSへの核酸分子の送達について記載した米国特許第6,180,613号明細書、国際公開第04/013280号パンフレット(これらは参照により本明細書中に援用される)も参照されたい。
【0158】
経口投与は、錠剤、トローチ剤、水性または油性懸濁剤、飛散性散剤または顆粒剤、乳剤、硬または軟カプセル剤、あるいはシロップまたはエリキシル剤として製剤化された当該薬剤を含有する医薬組成物を用いて達成することができる。このような経口組成物は、薬学的に洗練され口に合う処方を実現するために1種または複数種のこのような甘味料、着香料、着色料、または保存剤を含有することができる。錠剤は、コーティングされてもコーティングされなくてもよく、非毒性の薬学的に許容できる医薬剤添加剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムなどの不活性増量剤と混ぜ合わせた、造粒および崩壊剤、例えばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸と混ぜ合わせた、結着剤、例えばデンプン、ゼラチン、またはアラビアゴムと混ぜ合わせた、また滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクと混ぜ合わせた有効成分を含有するように製剤化することができる。コーティング剤を使用する場合、そのコーティング剤は胃腸管中での崩壊および吸収を遅らせ、それによってより長時間にわたる持続作用を可能にする。
【0159】
製剤が水性懸濁剤である場合、そのような製剤は、この活性薬剤を適切な医薬剤添加剤との混合物の状態で含有することができる。このような医薬剤添加剤は、必要に応じて懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガントゴム、およびアラビアゴム)、分散または湿潤剤、保存剤、着色料、および/または着香料であることができる。
【0160】
例えば薬剤の直腸投与用の坐剤は、その薬剤を、通常の温度では固体だが直腸の温度では液体の適切な非刺激性の医薬剤添加剤と混合することによって調製することができ、したがって直腸内で溶解してその薬物を放出することになる。このような材料には、カカオバターおよびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0161】
用量レベルは、通常の臨床医が容易に決めることができ、また必要に応じて、例えば療法に対する被検体の応答を変更するために必要に応じて変更することができる。一般には用量レベルは、1日につき体重1kg当たり約0.1mgから約140mg台である。単一剤形を生成するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される宿主およびその特定の投与様式に応じて変わる。投与単位形態は、一般には有効成分を約1mgから約500mgの間で含有する。
【0162】
薬剤は、例えば総合的な治療効果を増すために他の治療用化合物と組み合わせて被検体に投与することができる。
【0163】
前述のsiNAは、特に重要である。核酸分子の送達のための具体的な処方および方法は、当業界で知られている。例えば核酸分子は、これらには限定されないがイオントフォレシスによる、あるいは生分解性ポリマー、ヒドロゲル、シクロデキストリン(例えば、Gonzalezら(1999)Bioconjugate Chem.,10,1068〜1074、Wangらの国際公開第03/47518号パンフレットおよび同第03/46185号パンフレット参照)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)およびPLCAミクロスフィア(例えば、米国特許第6,447,796号明細書および米国特許出願公開第2002130430号明細書参照)、生分解性ナノカプセル、および生体接着ミクロスフィアなどの他の賦形剤中に組み込むことによる、あるいはタンパク様のベクター(O’HareおよびNormandの国際公開第00/53722号パンフレット)によるリポソーム中への封入を含めた当業者に知られている様々な方法によって細胞へ投与することができる。別の実施形態では本発明の核酸分子はまた、ポリエチレンイミンおよびその誘導体、例えばポリエチレンイミン−ポリエチレングリコール−N−アセチルガラクトサミン(PEI−PEG−GAL)またはポリエチレンイミン−ポリエチレングリコール−トリ−N−アセチルガラクトサミン(PEI−PEG−triGAL)誘導体と共に処方するか、またはそれと複合体を形成させることもできる。一実施形態では本発明の核酸分子は、米国特許出願公開第20030077829号明細書(参照によりその全体が本明細書中に援用される)に記載のように処方することができる。
【0164】
一実施形態ではsiNA分子は、米国特許出願公開第2001/0007666号明細書(参照によりその全体が本明細書中に援用される)に記載のものなどの膜崩壊剤と複合体を形成する。別の実施形態では1種類または複数種類の膜崩壊剤およびsiNA分子はまた、米国特許第6,235,310号明細書(参照によりその全体が本明細書中に援用される)に記載の脂質などのカチオン脂質またはヘルパー脂質分子と複合体を形成させることもできる。一実施形態ではsiNA分子は、米国特許出願公開第2003/077829号明細書、国際公開第00/03683号パンフレット、および国際公開第02/087541号パンフレット(それぞれが参照により本明細書中に援用される)に記載の送達系と複合体を形成する。
【0165】
あるいは、本発明のある種のsiNA分子を、細胞内で真核プロモーター(例えば真核細胞中で機能しうるプロモーター)から発現させることができる(例えば、IzantおよびWeintraub(1985)Science,229,345、McGarryおよびLindquist(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83,399、Scanlonら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,10591〜5、Kashani−Sabetら(1992)Antisense Res.Dev.,2,3〜15、Dropulicら(1992)J.Virol.,66,1432〜41、Weerasingheら(1991)J.Virol.,65,5531〜4、Ojwangら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,10802〜6、Chenら(1992)Nucleic Acids Res.,20,4581〜9、Sarverら(1990)Science,247,1222〜1225、Thompsonら(1995)Nucleic Acids Res.,23,2259、Goodら(1997)Gene Therapy,4,45)。当業者は、任意の核酸を真核細胞中で適切なDNA/RNAベクターから発現させることができることを理解する。このような核酸の活性は、酵素の核酸による一次転写物からそれらを放出させることによって増すことができる(Draperらの国際公開第93/23569号パンフレットおよびSullivanらの国際公開第94/02595号パンフレット、Ohkawaら(1992)Nucleic Acids Symp.Ser.,27,15〜6、Tairaら(1991)Nucleic Acids Res.,19,5125〜30、Venturaら(1993)Nucleic Acids Res.,21,3249〜55,Chowriraら(1994)J.Biol.Chem.,269,25856)。
【0166】
siNAがRNA分子である場合、そのsiNAを、ベクターに挿入された転写単位から発現させることができる。その組換えベクターは、DNAプラスミド、非ウィルスベクター、またはウィルスベクターであることができる。siNA発現ウィルスベクターは、これらに限定されないが、アデノ随伴ウィルス、レトロウィルス、アデノウィルス、またはアルファウィルスに基づいて構築することができる。siNA分子を発現させることができる組換えベクターは上記のように送達することができ、一時的または安定な発現を可能にする。例えばこのようなベクターは、1)転写開始領域、2)任意選択で転写終結領域、および3)siNA分子の少なくとも一方の鎖をコードする核酸配列を含むことができ、その配列は、siNA分子の発現および/または送達を可能にするように開始領域および終結領域に作用自在に連結する。
【0167】
幾つかの実施形態では活性薬剤が血液脳関門を越えるように処方される。血液脳関門は、全身循環から脳および脊髄中への多くの治療薬の取込みを制限する。血液脳関門を越える分子は2つの主要な機構、すなわち自由拡散および促進輸送を使用する。血液脳関門が存在するために、CNS中での所与の治療薬の有益濃度を達成するには、薬物送達戦略の使用を必要とする場合がある。CNSへの治療薬の送達は、幾つかの方法によって達成することができる。
【0168】
1つの方法は神経外科的手法に頼る。様々な形態の痴呆に罹った患者などの重病患者の場合、外科的介入が、その付随するリスクにもかかわらず正当化される。例えば治療薬は、薬物の脳室内または鞘内注射などのCNS中への物理的な直接導入によって送達することができる。脳室内注射は、例えばオマヤ(Ommaya)レザバーなどのレザバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって容易にすることができる。導入の方法はまた、再充填可能なまたは生分解性の装置によって可能にすることができる。別のアプローチは、血液脳関門の透過性を増す物質による血液脳関門の破壊である。例には、マンニトールなどの拡散しにくい薬剤の、エトポシドなどの脳血管透過性を増す処方薬の、またはロイコトリエンなどの血管作用薬の動脈内点滴が挙げられる。NeuweltおよびRappoport(1984)Fed.Proc.43:214〜219、Babaら(1991)J.Cereb.Blood Flow Metab.11:638〜643、およびGennusoら(1993)Cancer Invest.11:638〜643。
【0169】
さらに、治療が必要な部位に医薬品を局所的に投与することが望ましい場合があり、これは、例えば外科治療の間の局所的点滴によって、注射によって、カテーテルによって、あるいはシラスティック(silastic)膜などの膜または繊維を含めた細孔、非細孔、またはゼラチン状材料の埋没物によって達成することができる。
【0170】
治療化合物はまた、化学的変性または血液脳関門を越える類似体の選別を含めた薬理学的方法を使用することによって送達することもできる。この化合物を変性して、血液脳関門を越えて普通に輸送される分子に似たように分子の疎水性を増し、分子の実効電荷または分子量を減じ、あるいは分子を変性することができる。Levin(1980)J.Med.Chem.23:682〜684、Pardrige(1991)Peptide Drug Delivery to the Brain中の、およびKostisら(1994)J.Clin.Pharmacol.34:989〜996。
【0171】
リポソームなどの疎水性環境中での薬物のカプセル化もまた、CNSへの薬物の送達に有効である。例えば、国際公開第91/04014号パンフレットは、薬物をリポソーム中にカプセル化するリポソーム送達システムについて記載している。この場合、このリポソームに血液脳関門を越えて普通に輸送される分子が添加されている。
【0172】
血液脳関門を通過するように薬物を処方する別の方法は、シクロデキストリン中に薬物をカプセル化することである。これらに限定されないがα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびそれらの誘導体を含めた血液脳関門を通過する任意の適切なシクロデキストリンを採用することができる。全般的には米国特許第5,017,566号明細書、同第5,002,935号明細書、および同第4,983,586号明細書を参照されたい。これらの組成物にはまた、米国特許第5,153,179号明細書によって記載されているグリセロール誘導体を挙げることができる。
【0173】
送達はまた、治療薬を輸送可能な薬剤と複合して新規な輸送可能なキメラ治療薬を作り出すことによって得ることもできる。例えば、血管に作用する腸ペプチド類似体(VIPa)は、特異的担体分子トランスフェリン受容体に対するモノクローナル抗体(Mab)と複合させた後にのみその血管作用効果を発揮し、このトランスフェリン受容体が、血液脳関門を通り抜けるVIPa−Mab複合体の取込みを容易にする。Pardrige(1991)、およびBickelら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2618〜2622。幾つかの他の特異的輸送系が確認されており、これらに限定されないがそれらにはインスリンを輸送するためのもの、またはインスリン様増殖因子IおよびIIが挙げられる。他の好適な非特異的担体には、これらに限定されないがピリジニウム、脂肪酸、イノシトール、コレステロール、およびグルコース誘導体が挙げられる。中枢神経系に入ると、薬物が担体から切断されて活性薬物を放出する幾つかのプロドラッグについて述べられてきた。米国特許第5,017,566号明細書。
【0174】
幾つかの実施形態では活性薬剤の複数回投与がなされる。活性薬剤の投与頻度は、様々な要因のいずれか、例えば症状の重さなどに応じて変えることができる。例えば幾つかの実施形態では活性薬剤は、1ヶ月につき1回、1ヶ月につき2回、1ヶ月につき3回、各週(qow)、1週間につき1回(qw)、1週間につき2回(biw)、1週間につき3回(tiw)、1週間につき4回、1週間につき5回、1週間につき6回、1日おき(qod)、毎日(qd)、1日2回(qid)、または1日3回(tid)投与される。
【0175】
活性薬剤の投与の継続期間r、例えば活性薬剤が投与される期間は、様々な要因のいずれか、例えば患者の反応などに応じて変えることができる。例えば活性薬剤は、約1日から約1週間、約2週間から約4週間、約1ヶ月から約2カ月、約2ヶ月から約4カ月、約4ヶ月から約6カ月、約6ヶ月から約8カ月、約8ヶ月から約1年、約1年から約2年、または約2年から約4年、またはそれ以上の範囲に及ぶ期間にわたって投与することができる。
【0176】
幾つかの実施形態では主題の方法は、2種類以上の異なる薬剤の投与を含む。例えば幾つかの実施形態では主題の方法は、個体におけるニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤、および少なくとも第二の薬剤の投与を含む。例えばアルツハイマー病の治療においては主題の方法は、ニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤と、Aricept(登録商標)(ドネペジルHCl)、Exiba(登録商標)(メマンチンHCl)、Exelon(商標)(リバスチグミン)、ガランタミン、およびReminyl(商標)(徐放性ガランタミン臭化水素酸塩)から選択される薬剤との併用有効量を投与することを含む。タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤は、第二の薬剤と同一の製剤として、または第二の薬剤とは別の製剤として投与することができる。タウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤は、第二の薬剤と同一または異なる投薬計画で投与することができる。
【0177】
それら方法は、これらに限定されないがアルツハイマー病、パーキンソン病、発作、多発性硬化症、癲癇、筋委縮性側索硬化症、およびハンチントン病を含めた様々な神経毒性関連障害の治療に役立つ。これら方法はまた、頭部外傷の治療にも役立つ。
【0178】
治療に適した被検体
主題の方法による治療に適した個体には、これらに限定されないが神経毒関連障害と診断された個体、神経毒関連障害について治療されたが治療の効果を現わさなかった個体、および神経毒関連障害について治療され再発した個体が含まれる。好適な被検体には、頭部損傷を受けた個体が含まれる。
【実施例】
【0179】
下記の実施例は、当業者に本発明をどのように実施し使用するかの完全な開示と説明を与えるために公表されるものであり、これらは本発明者らが自分の発明と考えているものの範囲を限定するものでも、また下記の実験が実施された全部またはこれら実験のみであることを意味するものでもない。使用される数値(例えば量、温度など)に関して精度を保証するための努力がなされたが、若干の実験誤差および偏差は考慮されるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、また圧力は大気圧または大気圧近傍である。標準的な略語、例えばbp(塩基対)、kb(キロ塩基)、pl(ピコリットル)、sまたはsec(秒)、min(分)、hまたはhr(時間)、aa(アミノ酸)、kb(キロ塩基)、bp(塩基対)、nt(ヌクレオチド)、i.m.(筋内(に))、i.p.(腹膜内(に))、s.c.(皮下(に))などを使用する場合がある。
【0180】
実施例1:興奮毒性発作に及ぼすタウ減少の影響
材料および方法
マウス:スウェーデン(K670M/N671L)およびインディアナ(V717F)家族性アルツハイマー病(AD)変異を有するhAPPミニジーンをPDGFプロモーターの制御下で発現するJ20系統(1)を、Tau−/−マウス(2)と交配させた。hAPP/Tau+/−×Tau+/−交配由来の同胞の子孫について検討を行った。雄のみを試験した水迷路試験を除いては雄および雌の両方が使用された。7つの別々のコホートにおいて解析される454匹(1遺伝子型につき66〜83匹)のマウス全体が、行動および/または神経病理学的実験において試験された。
【0181】
より低レベルのhAPP(hAPPlow、系統J9)を発現するマウスと、ネズミSrcファミリーチロシンキナーゼFYN(系統N8)の導入遺伝子を発現するマウスとを交配させてタウノックアウトマウスにした。hAPPlow/Tau−/−マウスとFYN/Tau−/−マウスを交配させて、タウ欠損のバックグラウンド上でバイジェニック(および非トランスジェニック対照)マウスを作製し、これらマウスを、通常のタウレベル(Tau+/+)を有するhAPPlowおよびFYNトランスジェニックマウスの交配から作製されたバイジェニック(および非トランスジェニック対照)マウスと比較した。
【0182】
全てのマウスは、近交系C57BL/6Jバックグラウンド上にある。マウスは、明12時間/暗12時間のサイクルに、また随意に食物および水が入手可能に保たれた。この研究は、Institutional Animal Care and Use Committee of the University of California(San Fransisco)により認可され、また合衆国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)の「実験動物の注意および使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)」に従って行われた。すべての実験は、マウスの遺伝子型または処理法に対して盲目にされた検査員によって行われた。
【0183】
水迷路試験:水没した14cm平方のプラットホームを表面より2cm下に備えた水迷路水槽(直径122cm)に不透明な水(18℃)を入れた。キュー訓練セッションの場合、白黒縞模様の柱がプラットホームより高く装着された。マウスは、それぞれ2回の試行(15分間隔てて)を含む6セッション(4時間隔てて1日につき2回)にわたってプラットホームを捜し出すように訓練された。プラットホームの位置は各セッションについて変更された。隠れたプラットホームの訓練が3日後に始まり、これにはそれぞれ3回の試行(15分間隔てて)を含む10セッション(4時間隔てて1日につき2回)が含まれる。プラットホームの位置は、隠れたプラットホームのセッションのあいだ一定のままであり、入口点はそれら試行のあいだ半無作為に変更された。隠れたプラットホームの訓練の第4日目を始める前に60秒のプローブ試行が行われ、その間にプラットホームが除去された。プローブ試行の入口点は標的四分円の反対側の四分円の中にある。追加のプローブ試行が、隠れたプラットホームの試行の第5日目の72時間後に行われた。行動は、EthoVisionビデオ追跡システム(Noldus Information Technology,Wageningen,The Netherlands)により監視された。
【0184】
Y迷路試験:Y迷路は、高さ10cmの黒色プラスチック壁で構築された。それは、4cm×5cmの通路で繋がった3つの区画(10cm×10cm)からなる。マウスを区画の1つに入れ、6分間自由に運動させた。アーム侵入は、4本の全ての足が区画に入った時に手動で記録された。各マウスの試験後、迷路を完全に浄化して匂いを標準化した。
【0185】
新しい檻の探検:マウスを通常のルーム・ランプ下で5分間清潔な空の檻の中に置いて探検させた。5秒ごとに検査員は、マウスが活動的(例えば、歩行、跳躍、または立ち上がり)であるか、またはほとんど活動しないか(例えば、匂いを嗅ぐかまたは動かない)を記録した。
【0186】
十字迷路試験:十字迷路試験は(3)に記載のように行った。簡潔に言えば試験室内でほのかな明かりに30分間慣らした後に、マウスを個々に装置(Hamilton−Kinder,Poway,CA)の中央に置き、10分間探検させた。アームのそれぞれの中で費やした時間および移動した距離を赤外線ビームの途切れによって求めた。各マウスの試験後、装置を完全に浄化して匂いを標準化した。
【0187】
イムノブロッティング:プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液中で海馬をホモジナイズし、短時間のあいだ音波処理し、15,000×gで10分間遠心した。タンパク質濃度を、Coomassie Plusシステム(Pierce)により求めた。(4)に記載のように、試料のローディングに先立って2%塩化ナトリウムおよび5%β−メルカプトエタノールを加え、試料を100℃で10分間加熱し、氷上で30分間インキュベートし、4℃において12,000×gで15分間遠心分離した。試料緩衝液をこの熱安定性上澄みに加え、Novexゲル(Invitrogen)上にローディングした。使用した抗体は、モノクローナル非ホスホ選択性抗タウクローン5E2(1:1000、Upstate Biotechnology)、モノクローナル抗hAPPクローン8E5(1:1000、Peter Seubert,Elan Pharmaceuticals)、モノクローナル抗リン酸化タウThr181クローンAT270(1:3000、Innogenetics,Gent,Belgium)、モノクローナル抗リン酸化タウSer202クローンCP13(1:40、Peter Davies,Albert Einstein College of Medicine)、モノクローナル抗リン酸化タウThr231クローンCP9(1:25、Peter Davies)、モノクローナル抗リン酸化タウSer262クローン12E8(1:4000、Peter Seubert)、モノクローナル抗リン酸化タウSer396/404クローンPHF1(1:100、Peter Davies)、またはモノクローナル抗チューブリンクローンB−5−1−2(Sigma,St.Louis,MO)である。ブロットは、ImageQuant5.2(Molecular Dynamics)により定量した。
【0188】
hAPPマウス中のタンパク質分画およびAβ56検出は、(5)に記載のように行われた。簡潔に言えばRIPA可溶性画分由来の全タンパク質(100μg)を10.5〜20%トリシンゲル上で分離し、ニトロセルロース膜(孔径0.2μm、Bio−Rad)に移した。ビオチン化6E10抗体(1:1000、Signet,Dedham,MA)およびExtrAvidin(1:5000、Sigma)をイムノブロッティング用に使用した。
【0189】
Aβ ELISA:グアニジン可溶化海馬ホモジネートを(6)に記載のようにアッセイした。Aβ1〜42ELISAは、抗体21F12および3D6を使用した。Aβ1〜xELISAは、抗体266および3D6を使用した。
【0190】
病理組織学:免疫組織化学法を、(7)に記載のようにフローティング30μm回転式ミクロトーム切片上で行った。Aβ沈着物を、ビオチン化モノクローナル抗体3D6(1:500、Elan Pharmaceuticals,South San Francisco,CA)で、アビジン−ビオチン/ペルオキシダーゼ法(Vector Laboratories,Burlingame,CA)を用いて染色した。他のアッセイは、モノクローナル抗GAP43クローンGAP−7B10(1:400、Sigma)、CP13、およびPHF1を含む非抱合一次抗体を、ビオチン化二次抗体と共に使用した。画像は、デジタル・マイクロスコープ(Axiocam,Carl Zeiss)で取得した。面積%およびデンシトメトリーによる定量は、Bioquantソフトウェア・パッケージ(BIOQUANT Image Analysis Corporation)を用いて行った。
【0191】
アミロイドプラークおよびジストロフィー性神経突起の二重標識の場合、フローティング切片をモノクローナル抗hAPP抗体8E5(1:1000、Peter Seubert,Elan Pharmaceuticals)で染色し、ガラススライド上に取り付け、0.015%チオフラビン−Sで染色した。画像を共焦点顕微鏡(Biorad)により収集した。
【0192】
カルビンディン免疫染色をウサギ抗カルビンディン(1:15,000、Swant,Bellinzona,Switzerland)で行い、NPYをウサギ抗神経ペプチドY(1:8,000、ImmunoStar,Hudson,WI)で染色した。
【0193】
一次ニューロン培養物のAβ処理:皮質をSprague−Dawley仔ラット(Charles River Laboratories,Wilmington,MA)から生後0〜1日に単離した。細胞を、ダルベッコ変性イーグル培地、10%ウシ胎児血清、0.5mM Glutamax、ペニシリン100単位/ml、およびストレプトマイシン100μg/mlを含有する平板培地中で1ml当たり細胞160,000個を塗布した。線維性Aβを、さきの記載(8)と同様に100μM Aβを10mM HCl中で37℃において24時間インキュベートすることによって調製した。細胞を、培養における5日後に20μM線維性Aβで処理し、48時間処理後に集めた。
【0194】
興奮毒性の評価:薬物をPBS中に溶解し、腹膜内注射により送達した。ペンチレンテトラゾール(PTZ、Sigma,St.Louis,MO)を濃度5mg/mlおよび用量40mg/kgで使用した。カイニン酸(Tocris,Ellisville,MO)を濃度2mg/mlおよび用量20〜40mg/kgの範囲で使用した。PTZを与えられたマウスの場合、各マウスを檻の中に入れ、ビデオ撮りにより投与後20分間観察した。遺伝子型に対して盲目にされた検査員がビデオテープを解析して、公表されている等級(9、10)に従って発作の経時変化および重症度を定量した。発作の重症度の評点は、0=普通の行動、1=動きなし、2=全身の痙攣、震え、または引き攣り、3=尾部伸展、4=前肢間代、5=全身の間代性行動、6=跳ね上がりまたは走行発作、7=完全な強直性伸展、8=死亡である。KAを与えられたマウスの場合、各マウスを檻の中に入れ、投与後3時間観察した。遺伝子型に対して盲目にされた検査員が公表されている尺度(11)に従って発作の経時変化および重症度を定量した。段階6(全身の間代性発作)に達したマウスの割合を提示する。
【0195】
CCIおよびワイヤぶら下がり試験(Wire Hang test):制御皮質衝撃(CCI)試験の場合、雄マウス、Tau+/+およびTau−/−(各遺伝子型についてn=22)を使用した。複数の群を確保するためにCCIの直前にワイヤぶら下がり試験に関して予備試験を受けたマウスは、基準動作のバランスが考慮された。各群について12匹のマウスがCCIを有し、10匹が偽の手術を受けた。マウスは、CCIの1、4、7、9、14、および29日後に再びワイヤぶら下がり試験で試験された。簡潔に言えばマウスは、木製ロッド間のベンチトップの約18インチ上方に掛けられたワイヤ上に置かれた。マウスをロッド上に置き、ビデオテープ録画した。遺伝子型および処理法に対して盲目にされた検査員が、1〜5の等級に基づいて行動に評点を付けた(Hallら(1988)J.Neurosurg.68:456〜461)。損傷の1ヶ月後、マウスは前述のように発作閾値に関して試験を受けた。
【0196】
統計分析:P<0.05の値を有意とみなした。エラー・バーは、平均値の標準誤差を表す。生存データ(図2E)は、カプラン・マイヤー法およびポストホックログランク(post−hoc log rank)検定により分析した。フィッシャーの正確確率検定を用いて、PTZ注射後の致命的状態の癲癇発作繰り返しによる意識障害の発現を分析した。ロジスティック回帰を用いて、KA投与後のマウスの発作の比率に関する用量−反応曲線を作成し比較した(図4D)。他の実験については遺伝子型の違いを、ポストホック比較に関するテュキー検定を用いてANOVA(指示された場合、反復測定)により分析した。
【0197】
結果
アミロイド−β−ペプチド(Aβ)およびタウの沈着は、アルツハイマー病(AD)の病理学的証明である。Aβの産生、クリアランス、および凝集に照準を定めた治療は、すべて臨床実験中である。しかしながら標的としてのタウへの関心は、部分的にはタウ病変がAβの川下で起こるように見える(1〜4)ために弱められてきた。また、ADにおいてタウは翻訳後に修飾され(5〜8)、どの修飾を標的にするべきかに関して論争が続いている。タウレベル全体を低下させることは代替のアプローチである(9)。若干高いタウ発現を後押しするタウハプロタイプはADのリスクを増す(10)。Aβ産生を増加させる家族性AD変異によりヒトアミロイド前駆体タンパク質(hAPP)を発現するトランスジェニックマウスにおける認知障害に及ぼす内因性タウ発現の低下の影響を測定した。
【0198】
hAPPマウス(11)をTau−/−マウス(12)と交配し、内因性タウ対立遺伝子を2種類有する(hAPP/Tau+/+)、1種類有する(hAPP/Tau+/−)、または何も有さない(hAPP/Tau−/−)マウスにおけるhAPP/Aβの影響を、hAPPのないTau+/+、Tau+/−、およびTau−/−マウスと比較して調べた。タウ減少は海馬のhAPP発現に影響を及ぼさない、また逆に言えばhAPPは海馬のタウレベルに影響を及ぼさなかった。これら6種類の遺伝子型は、体重、全般的健康、基本的反射能力、感覚反応、または全体の運動機能の違いを何も示さなかった。
【0199】
学習および記憶を試験するためにモーリス水迷路試験を用いた。このキューバージョンではマウスは、プラットホームの直上に置かれた、目立つマーカーを用いてその標的のプラットホームを見つけることを学習する。月齢4〜7ヶ月でTau+/+、Tau+/−、およびTau−/−マウスは迅速に学習したが、予想通り(13、14)、hAPP/Tau+/+マウスはこの課題をマスターするのにより長くかかった(図1A、P<0.001)。これとは対照的にhAPP/Tau+/−およびhAPP/Tau−/−マウスは、管理水準で行動した。
【0200】
水迷路試験の一層困難な隠れたプラットホームバージョンは、空間的な学習を要求する。hAPPのないマウスはタウ遺伝子型に関係なく訓練の3日間かけてこの課題を学習したが、hAPP/Tau+/+マウスは4〜5日間まで学習の形跡を示さなかった(P<0.001、図1B)。明らかにhAPP/Tau+/−マウスは、hAPP/Tau+/+マウスほどは損なわれておらず(P<0.02)、またhAPP/Tau−/−マウスは、hAPPのない対照と違わなかった(図1B)。プラットホームを除去し、マウスが水槽を探検するのに60秒間を与えたプローブ試行では、タウ減少の有益な効果が確認された(図1C〜E)。3日間の訓練の24時間後の最初のプローブ試行においてhAPP/Tau+/+マウスは、プラットホームの位置の明白な空間的記憶を有しておらず、標的プラットホームの位置を横断したが、マウスは標的でない四分円でも等価の面積を横断したに過ぎない(図1D)。しかしhAPP/Tau−/−マウスは、hAPPのないマウスと同様に、標的プラットホームの位置をより頻繁に横断した(P<0.01、図1D)。訓練を2日間追加した後、hAPP/Tau+/−マウスもまた非標的の横断よりも多回数の標的の横断を有し(P<0.01)、一方、hAPP/Tau+/+マウスは、まだ空間的学習および記憶を有していなかった(図1E)。したがってタウ低減遺伝子は、hAPP/Aβに誘発される水迷路学習および記憶機能障害を用量依存的に改善する。
【0201】
図1:タウ低減は、hAPPマウスにおける水迷路学習機能障害を防止した(n=遺伝子型1種類につきマウス7〜11匹、月齢4〜7ヶ月)。(A)キュープラットホーム学習曲線。「0」日は、第一試行での行動を示し、後続の点は毎日の全試行の平均を表す。行動は、遺伝子型によって異なった(RMANOVA:P<0.001、またhAPP×タウ交互作用P=0.058)。ポストホック比較においてはhAPP/Tau+/+のみが、hAPPのない群と異なった(P<0.001)。(B)遺伝子型によって異なる、隠れたプラットホームの学習曲線(RMANOVA:P<0.001、またhAPP×タウの交互作用P=0.02)。ポストホック比較において、hAPP/Tau+/+はhAPPのないすべての群と異なり(P<0.001)、またhAPP/Tau+/−はhAPP/Tau+/+(P<0.02)およびhAPPのない群(P<0.01)と異なり、またhAPP/Tau−/−はhAPP/Tau+/+と異なる(P<0.001)が、hAPPのないいずれの群とも異ならなかった。(C〜D)3日間の隠れたプラットホームの訓練の完了の24時間後のプローブ試行。(C)代表的な経路の痕跡。(D)遺伝子型によって異なるその他の3つの四分円中の等価の面積の横断に対する標的プラットホームの横断の回数(標的横断×遺伝子型の交互作用P<0.001)。ポストホック比較においてはhAPP/Tau+/+およびhAPP/Tau+/−を除くすべての遺伝子型が、その他の3つの四分円中の等価の面積よりも標的位置に対して選択傾向を示した(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。(E)5日間の隠れたプラットホームの訓練完了の72時間後のプローブ試行。標的プラットホームの選択傾向は、遺伝子型によって異なった(標的横断×遺伝子型の交互作用P<0.001、また標的横断×hAPP×タウの交互作用P<0.05)。ポストホック比較においてhAPP/Tau+/+を除くすべての遺伝子型が、標的位置の選択傾向を示した(**P<0.01、***P<0.001)。
【0202】
探検自発運動活性の増加は嗅内皮質の損傷後に見られ、空間情報処理の機能障害を反映している可能性があり(15)、hAPPマウスは類似の機能亢進状態を示す(14)。hAPP/Tau+/+マウスは、Y迷路試験において(P<0.001、図2A)、新しい檻において(P<0.05、図2B)、また高架式十字迷路試験において(P<0.001、図2C)活動過多であった。一方、これらの異常は、hAPP/Tau+/−およびhAPP/Tau−/−マウスにおいては見られなかった(図2A〜C)。タウ減少によって与えられる利益が持続するかどうかを判定するために、本発明者らは高齢のマウスを調査した。機能亢進は、hAPP/Tau+/+マウスでは持続し、hAPP/Tau−/−マウスでは12〜16か月ではないままであった(P<0.05、図2D)。
【0203】
病因の不明確な早期死亡にもまた、hAPPマウスにおいて観察された(P<0.005、図2E、参考文献16、17)。さらにhAPP/Tau−/−およびhAPP/Tau+/−マウスの両方ともこの早期死亡から防護された。したがってタウ減少は、hAPPマウスにおける主要なAβ依存性悪影響を防止した。タウ減少が保護効果を発揮する可能性のある幾つかの妥当と思われるメカニズムを検討し、タウの予期しない役割を発見した。
【0204】
図2:タウ減少は、hAPPマウスにおける行動障害および早期死亡を防止した。(A)Y迷路の6分間の探検の間の総アーム侵入回数(n=遺伝子型1種類につきマウス49〜58匹、月齢4〜7ヶ月、ANOVA:遺伝子型の影響P<0.0001、hAPP×タウの交互作用P<0.0001、hAPPのない群と対比して***P<0.001)。(B)新しい檻の5分間の探検の間に活発に過ごした時間のパーセント(n=遺伝子型1種類につきマウス7〜14匹、月齢4〜7ヶ月、ANOVA:遺伝子型の影響P<0.01、hAPP×タウの交互作用P<0.05、hAPPのない群と対比してP<0.05)。(C)高架式十字迷路の10分間の探検の間にオープンアームおよびクローズドアームの両方の中を移動した総距離(n=遺伝子型1種類につきマウス49〜59匹、月齢4〜7ヶ月、ANOVA:遺伝子型の影響P<0.0001、hAPP×タウの交互作用P<0.05、hAPPのない群と対比して***P<0.001)。(D)高架式十字迷路の探検の間に移動した総距離(n=遺伝子型1種類につきマウス6〜13匹、月齢12〜16ヶ月、ANOVA:hAPPの影響P<0.001、hAPP×タウの交互作用P<0.079、hAPPのない群と対比してP<0.05)。(E)hAPPマウスにおける早期死亡に及ぼすタウ減少の影響を示すカプラン・マイヤー生存曲線。コロニー中の全遺伝子型マウス(n=887)がこの分析に含まれた。ログランク比較によればhAPP/Tau+/+マウスのみが他のすべての群と異なった(P<0.005)。
【0205】
タウ減少が単にAβレベルまたは凝集を変えるのみである可能性は排除された。タウの減少は、hAPPの発現、可溶性Aβ1−xまたはAβ1−42レベル、あるいはAβ1−42/Aβ1−x比を変えなかった。さらにhAPP/Tau+/+、hAPP/Tau+/−、およびhAPP/Tau−/−マウスは、4〜7ヶ月および14〜18ヶ月において類似のプラーク負荷を示した(図3A〜B)。またAβ56のレベル、すなわち記憶機能障害につながる特異的Aβ集合体に及ぼすタウ減少の影響も見出されなかった(18)。したがってタウ減少の有利な効果はAβ負荷量の検出可能な変化を伴わずに観察され、これはタウ減少がAβを川下の発病機構から切り離すことを示唆している。
【0206】
次にhAPP/Tau+/+マウスにおいてAβの川下エフェクターとして働く可能性のあるタウの異常形態を捜した。ヒトのタウにおけるADに関係する主要なリン酸化部位は、GSK−3βおよびcdk5などのプロリン指向性キナーゼによって、または微小管親和性調節キナーゼ(MARK)によってリン酸化されるものを含めてネズミのタウ中に保存される。これらの部位におけるネズミのタウのリン酸化の変化は、例えば低体温症の直後に簡単に検出される(参考文献19)。しかし月齢4〜7ヶ月のhAPP/Tau+/+マウスの海馬のホモジネートにおいては、Thr181、Ser202、Thr231、およびSer396/404を含めたプロリン指向性キナーゼの部位での、またはMARKの主要部位Ser262でのタウのリン酸化には何も変化が見出されなかった。神経毒性タウフラグメントの世代もまた、Aβ毒性のメカニズムの原因だと指摘されてきた(20)。in vitroでのAβ毒性が17kDのタウフラグメントの産生を伴うことは明らかである(20)ので、タウを欠く初代ニューロンはAβに誘発される退化に抵抗を示す(3、21)。Aβで処理した初代ニューロンのライゼート中の17kDのタウフラグメントの存在は確認されているが、異常なタウタンパク質分解は、hAPPマウス由来の海馬のホモジネート中に何も見出されず、これはこれら2つの系におけるタウ減少の神経保護効果が機構的に異なることを示唆している。修飾されたタウの相対的欠乏はまた、ヒトにおいてADではなく前頭側頭性痴呆を引き起こす変異を有するタウを過剰発現するトランスジェニック系統(2、4、22)と本発明者らのモデルを区別する。この検討において内因性の野生型タウの減少はhAPPマウスをAβ依存性認知機能障害から防護し、これは典型的なAD随伴性修飾を有する大量のタウの除去を伴わなかった。これらの実験は、他の型のタウ修飾、あるいは限られた細胞内区画または細胞集団中の少量の修飾されたタウがAβの川下で役割を果たす可能性を否定しなかった。
【0207】
この可能性への取組みを始めるためにTau+/+およびhAPP/Tau+/+マウス由来の脳の切片をリン酸化タウ抗体で染色した。リン酸化タウ免疫活性においてTau+/+とhAPP/Tau+/+マウスの間に全体的にはほとんど差は見られなかったが、アミロイドプラークを取り巻くジストロフィー性神経突起中に散在しているリン酸化タウ陽性の点を観察した。hAPPマウスにおけるタウ減少の利点が、ADに関係のある認知機能低下の一因の可能性のある神経突起のジストロフィー防止に関係する可能性があるかどうか尋ねた(23)。それらの行動の違いにもかかわらず、hAPP/Tau+/+、hAPP/Tau+/−、およびhAPP/Tau−/−マウスには似た量の神経突起のジストロフィーがあった(図3C)。したがってタウは、プラーク随伴ジストロフィー性神経突起の形成にとっては必要でない。タウ減少が神経突起のジストロフィーではなく行動の欠陥を防止すると仮定すると、これらは原因となって連鎖する疾患の発現ではなく、同時進行の疾患の発現を意味するか、またはタウ減少は神経突起のジストロフィーの川下で作用する可能性がある。
【0208】
タウは、軸索の生長において十分に特徴が明らかにされている役割を有し(12)、したがってタウ減少がAD(24)およびhAPPマウス(17)において観察される海馬の軸索の異常新芽形成を防止するかどうかが試験された。タウ遺伝子型に関係なく、似た程度の新芽形成が観察された(図3D)。したがってタウ減少はAβ誘発性神経機能障害に関係する重要な測定指標に影響を及ぼしたが、Aβのすべての影響が遮断されたとは言えない。
【0209】
図3:タウ減少は、Aβプラークの沈着、神経突起のジストロフィー、または異常新芽形成を変えなかった。(A)hAPPマウスにおける海馬のアミロイドプラークのチオフラビン−S染色。プラークによって覆われた海馬面積のパーセントをhAPP/Tau+/+マウスにおける平均値に関して正規化した(n=遺伝子型1種類につきマウス6〜11匹、月齢14〜18ヶ月)。(B)hAPPマウスにおける海馬のAβ沈着の免疫染色。プラークによって覆われた海馬面積のパーセントをhAPP/Tau+/+マウスにおける平均値に関して正規化した(n=遺伝子型1種類につきマウス6〜11匹、月齢14〜18ヶ月)。(C)月齢14〜18ヶ月のhAPPマウスにおけるジストロフィー性神経突起(抗体8E5、赤色)およびアミロイドプラーク(チオフラビン−S、緑色)に対する海馬の二重染色。ただし、ジストロフィー性神経突起の定量化は、取り巻く神経突起のジストロフィーによるチオフラビン−S陽性プラークのパーセントとして表わされる(n=遺伝子型1種類につきマウス9〜11匹)。(D)歯状回の分子層中の異常な軸索新芽形成のGAP43免疫染色(omlは外側分子層、mmlは中間分子層、imlは内側分子層、dgcは歯状顆粒細胞)。ブラケットは、hAPPマウスの外側分子層中のGAP43陽性新芽形成を強調している。新芽形成は、デンシトメトリーにより定量し、正規化した(n=遺伝子型1種類につきマウス7〜14匹、月齢4〜7ヶ月、hAPPのない群と対比して***P<0.001)。
【0210】
興奮毒性はADの病因に関与している(25、26)。AD患者における発作の高い発病率と矛盾することなく(27)、TgCRND8 hAPPマウスは、GABA受容体アンタゴニストのペンチレンテトラゾール(PTZ)の影響をより受けやすい(28)。同様のパラダイムを用いて本発明者らは、hAPP/Tau+/+マウスはまたPTZに対しても異常に敏感であり、hAPPのないマウスに対する非致死用量において20%が致命的な癲癇持続状態に罹ることを見出した(P<0.05)。タウ減少はこの影響を防止した。したがってhAPP/Tau+/−またはhAPP/Tau−/−マウスは死亡しなかった。hAPP/Tau+/−またはhAPP/Tau−/−マウスにおける発作はそれほど重症ではなく、またhAPP/Tau+/+マウスの場合よりも長い潜伏期で起こった(P<0.01、図4A〜B)。
【0211】
タウ減少はまた、hAPP非トランスジェニックマウスにおけるPTZに対する耐性を増し、発作の重症度を下げかつ発作の発病を遅らせる(P<0.01、図4A、C)。タウ減少が神経の異常な過度の興奮を減らすことができることを確かめるために、マウスをグルタミン酸受容体アゴニストであるカイニン酸の興奮毒性用量で試した。予想されるようにカイニン酸の腹膜内注射は、Tau+/+マウスにおいて用量依存的に発作を誘発した(図4D)。一方、Tau+/−およびTau−/−マウスは、一定の範囲の用量にわたってカイニン酸に耐えた(P<0.05、図4D)。したがってタウは、興奮毒に対する感度を調節し、また神経活動の制御に関与している可能性がある。hAPPのないマウスにおけるタウ減少の抗興奮毒性作用は、タンパク質の病的形態の除去よりもタウの生理学的機能に関係している可能性が高い。タウの生理学的形態によるAβへのニューロンの感作は、それらの明らかなタウ修飾の欠乏にもかかわらずタウ減少がなぜhAPP/Tau+/+マウスに有効なのかを説明することができる。
【0212】
図4:タウ減少は興奮毒誘発性発作に対する抵抗性を増した。(A)タウ減少は、PTZの単回i.p.注射後の発作の重症度を低減させた(40mg/kg、n=遺伝子型1種類につきマウス10〜11匹、月齢4〜7ヶ月、ANOVA:タウの影響P<0.0001)。発作の重症度は、hAPP/Tau+/+マウスよりもhAPP/Tau+/−およびhAPP/Tau−/−マウスにおいてより軽かった(hAPP/Tau+/+と対比して**P<0.01)。発作の重症度はまた、Tau+/+マウスよりもTau−/−マウスにおいてより軽かった(Tau+/+と対比して##P<0.01)。(B〜C)PTZ投与後に発作の重症度の各ステージに到達する潜伏期。(B)PTZ誘発性発作は、hAPP/Tau+/−およびhAPP/Tau−/−マウスよりもhAPP/Tau+/+マウスにおいてより急速に起こった(RMANOVA:P<0.01)。(C)タウ減少はまた、hAPPのないマウスにおけるPTZ誘発性発作の発病を遅らせた(RMANOVA:P<0.001)。(D)表示した用量でのカイニン酸の単回i.p.注射後に全身の強直性〜間代性発作の発生に評点を付けた。タウ減少は、カイニン酸に対する感受性を低下させ、用量−反応曲線を右方にシフトさせた(n=遺伝子型1種類につきマウス19〜24匹、月齢2〜5ヶ月、ロジスティック回帰:P<0.05)。
【0213】
マウスの健康または認識力に及ぼすタウ減少の悪影響は見つからず、また部分的なタウ減少でさえAβおよび興奮毒性薬剤からマウスを確実に保護するという事実は、神経の過度な興奮の低減におけるその利点を目立たせる。
【0214】
回路網興奮性に及ぼすタウ減少の影響を調査した。興奮回路と抑制回路の間の平衡異常を有する神経回路網機能障害は、AD関連認識機能障害の一因となる可能性があり(Palopら、2006)、多数のADマウスモデルに見出される。このような回路網機能障害の1つの特徴は、歯状顆粒細胞中のカルビンディンの欠失、すなわちAD患者およびhAPPマウスの両方で起こる過度な興奮に対する神経保護反応(Naegerlら、2000)である(Palopら、2003)。タウ減少がJ20マウスにおける過度な興奮を遮断するならば、抑制回路の代償的なアップレギュレーションは不必要なはずであり、かつそれもまた遮断されるはずであると予想した。hAPP/Tau+/+マウス中では予想されるカルビンディンの欠失(P<0.001、図7A〜C)が観察されたが、hAPP/Tau+/−およびhAPP/Tau−/−マウス中のカルビンディンの変化はなく、これはタウ減少がAβ誘発性回路網機能障害を改善するという証拠を与える。多くの系統のhAPPマウスがまた、歯状回中の神経ペプチドY(NPY)の正常でない発現を起こす。カルビンディンの欠失と同様に異常なNPY発現は、神経の過度な興奮の補償と関連づけられる可塑性の形態である(Vezzaniら、1999)。hAPP/Tau+/+マウスの歯状回および苔状線維中の高レベルの正常でないNPYが観察されたが、hAPP/Tau+/−マウス中ではあまり観察されず、またhAPP/Tau−/−マウス中ではまったく観察されなかった(図7A〜C)。タウ減少によるカルビンディンおよびNPYの補償的変化が存在しないことは、タウ減少が神経回路網機能障害を防止するという仮説をさらに裏付ける。
【0215】
図7A〜C:タウ減少はカルビンディンおよびNPYのhAPP/Aβ誘発性変化を防止する。hAPPJ20マウスを2世代のあいだTau−/−マウスと交配させて、様々なレベルのタウ発現(縦列)およびhAPP(横列)を有する同胞の子孫を生み出した。月齢4〜7ヶ月のマウス由来の脳の切片をカルビンディンまたはNPYに免疫染色し、免疫活性をデンシトメトリーにより定量した。歯状回中のカルビンディン欠失は、hAPP/Tau+/+マウス中で観察されたが、hAPP/Tau+/−またはhAPP/Tau−/−マウス中では観察されなかった(歯状回の分子層中の定量、n=遺伝子型1種類につきマウス25〜40匹、hAPP×タウの交互作用P<0.0001、hAPPのない群と対比して***P<0.001)。高いNPY発現は、hAPPJ20/Tau+/+マウスにおいては顕著であり、hAPPJ20/Tau+/−マウスにおいてはかすかであり、またhAPPJ20/Tau−/−マウスにおいては存在しなかった(N=遺伝子型1種類につきマウス9〜13匹)。NPY免疫活性の類似のパターンは歯状回分子層中にも見られ(hAPP×タウの交互作用P<0.02、hAPPのない群と対比して***P<0.001、**P<0.01)、また苔状線維中にも見られた(hAPP×タウの交互作用P<0.02、hAPPのない群と対比して**P<0.01)。
【0216】
図8:タウ減少は、別個のADマウスモデル、すなわち低レベルのAβおよび高レベルのFYNチロシンキナーゼを発現するバイトランスジェニックマウスにおける興奮毒性を防止する。この実験に使用した低発現hAPPマウス(J9系統)は、きわめてかすかなAβ誘発性神経機能障害を有するに過ぎない。しかしFYNトランスジェニックマウスと交配してhAPPlow/FYNバイジェニックマウスにした場合、機能障害は重症であり、高発現hAPPマウスにおいて観察されたものと似ている(Chinら(2004)、Chinら(2005))。これらのバイジェニックマウスはまた、非トランスジェニックマウスに対する非致死用量においてPTZに対する高い感受性を有し、癲癇持続状態に関連した死亡を伴った(P<0.02)。これとは対照的にタウ減少の後、hAPPlowおよびバイジェニックマウスは両方ともPTZに耐性を示す。
【0217】
図9:タウ減少はhAPPlow/FYNバイジェニックマウスにおける早期死亡を阻止する。他のhAPP系統における場合と同様に、バイジェニックモデルは高レベルの早期死亡率を示す。これとは対照的にタウ減少の後、バイジェニックマウスは通常の生存率を示す。
【0218】
図10A〜C:タウ減少はhAPP/FYNバイジェニックマウスにおける行動機能障害を防止する。(A)正常なタウ発現を有するバイジェニックマウスは、高架式十字迷路試験においてオープンアーム中で異常なレベルの探検を示す。この異常はタウ減少によって遮断される。(B)正常なタウ発現を有するバイジェニックマウスは、オープンフィールド中で活動過多である。この異常はタウ減少によって遮断される。(C)正常なタウ発現を有するバイジェニックマウスは、モーリス水迷路試験において不十分な空間的学習および記憶を示し、標的プラットホームの場所を非トランスジェニック同腹子よりも少ない回数横断した。この異常はタウ減少によって遮断される。
【0219】
図11:タウ減少はTASDマウスにおける早期死亡を防止する。hAPPマウスの明瞭な系統(TASD系統)をタウノックアウトマウスと交配した。TASD系統は、別のプロモーター(J20およびJ9系統においてPDGFに対してThy1)から、また様々なFAD変異(J20およびJ9系統においてスウェーデンおよびインディアナに対してスウェーデンおよびロンドン)を有するhAPPを発現する。通常のタウレベルを有するTASDマウスは高い早期死亡を示す(P<0.02)が、この異常はタウ減少後には見られない。
【0220】
タウ減少がhAPPマウスにおける神経機能障害を防止するメカニズムを調べるために、タウ減少が単にAβレベルまたは凝集を変える可能性が否定された。タウ減少は、hAPP発現(図12A〜C)、可溶性Aβ1−xまたはAβ1−42のレベル、あるいはAβ1−42/Aβ1−x比(図13A〜C)を変えなかった。さらにhAPP/Tau+/+、hAPP/Tau+/−、およびhAPP/Tau−/−マウスは、4〜7ヶ月(図14A〜H)および14〜18ヶ月(図3A〜B)で似たプラーク負荷を示した。Aβ56、すなわち記憶機能障害に関連した特異的Aβ集合体(Lesneら(2006)Nature 440:352〜357)のレベルに及ぼすタウ減少の影響は見出されなかった(図15AおよびB)。したがってタウ減少の有利な効果は、Aβ負荷量の検出可能な変化を伴わずに観察され、これはタウ低減がAβを川下の発病機構から切り離すことを示唆している。
【0221】
図12A〜12C:タウおよびhAPPのレベル。(A)イムノブロットは、この検討における6種類の遺伝子型のそれぞれ由来の海馬ホモジネート中のタウおよびhAPPのレベルを示す。チューブリンは負荷対照として働いた。(B)イムノブロッティングによって求め、Tau+/+対照(n=遺伝子型1種類につき4匹)のパーセントとして表わしたタウレベルの定量化。(C)イムノブロッティングによって求め、hAPP/Tau+/+対照(n=遺伝子型1種類につき4〜8匹)のパーセントとして表わしたhAPPレベルの定量化。
【0222】
図13A〜C:タウ減少はAβレベルに影響を及ぼさない。月齢2〜3.5ヶ月のマウス(プラーク形成前)由来の海馬をグアニジン緩衝液中でホモジネートにし、AβをELISAにより測定した。タウ減少は、Aβ1−x(A)、Aβ1−42(B)、またはAβ1−42対Aβ1−xの比(C)に影響を及ぼさなかった。
【0223】
図14A〜H:タウ減少は若いマウスにおけるプラーク負荷に影響を及ぼさない。(A〜C)hAPPマウスにおける海馬のアミロイドプラークのチオフラビン−S染色。(D)プラークによって覆われた海馬面積のパーセントとして表わしたチオフラビン−S染色の定量化(n=遺伝子型1種類につきマウス9〜11匹、月齢4〜7ヶ月)。(E〜G)hAPPマウスにおける海馬のAβ沈着の3D6免疫染色。(H)プラークによって覆われた海馬面積のパーセントとして表わしたAβ沈着の定量化(n=遺伝子型1種類につきマウス11〜13匹、月齢4〜7ヶ月)。
【0224】
図15AおよびB:タウ減少はAβ56のレベルに影響を及ぼさない。Aβ56を月齢4〜7ヶ月のマウスの皮質から単離した。左(図15A)はタウ減少の影響がないことを示す代表的なイムノブロット。右(図15B)はn=遺伝子型1種類につきマウス6匹の定量化。
【0225】
hAPP/Tau+/+マウスにおいてAβの川下のエフェクターとして働く可能性のあるタウの異常形態を評価した。ヒトのタウにおける主要なAD関連リン酸化部位は、GSK−3βおよびcdk5などのプロリン指向性キナーゼによって、または微小管親和性調節キナーゼ(MARK)によってリン酸化されるものを含めてネズミのタウ中に保存される。これらの部位におけるネズミのタウのリン酸化の変化は、例えば低体温症の直後に簡単に検出される(Planelら(2004)J.Neurosci.24:2401〜2411、図16Aおよび16B)。しかし月齢4〜7ヶ月のhAPP/Tau+/+マウスの海馬のホモジネートにおいては、Thr181、Ser202、Thr231、およびSer396/404を含めたプロリン指向性キナーゼ部位での、またはMARKの主要部位Ser262でのタウのリン酸化には何も変化が見出されなかった(図16Aおよび16B)。神経毒性タウフラグメントの世代もまた、Aβ毒性のメカニズムの原因であると指摘されてきた(ParkおよびFerreira(2005)J.Neurosci.25:5365〜5375)。in vitroでのAβ毒性が17kDタウフラグメントの産生を伴うことは明らかである(ParkおよびFerreira(2005)、上記)ので、タウを欠く初代ニューロンはAβに誘発される退化に抵抗を示す(Rapoportら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:6364〜6369、Liuら(2004)J.Neurochem.88:554〜563)。Aβで処理した初代ニューロンのライゼート中の17kDタウフラグメントの存在は確認されたが、hAPPマウス由来の海馬のホモジネート中の異常なタウタンパク質分解は何も見出されず(図17Aおよび17B)、これはこれら2つの系におけるタウ減少の神経保護効果が機構的に異なることを示唆している。
【0226】
図16Aおよび16B:hAPP/Tau+/+マウスにおけるタウのリン酸化。月齢4〜6ヶ月のTau+/+、hAPP/Tau+/+、およびhTau−/−マウス由来の海馬のホモジネートを、表示したような様々なタウのリン酸化部位を認識する抗体を用いたイムノブロッティングによって分析した。下記はイムノブロットの定量化(n=未処理の非トランスジェニック対照(Ctrl)および低温症(Hypo)の非トランスジェニックマウスの群につきマウス4匹、またn=Tau+/+およびhAPP/Tau+/+の遺伝子型1種類につきマウス12匹)。
【0227】
図17Aおよび17B:タウタンパク質分解。(A)ラットの初代皮質ニューロンを20μM原線維Aβで48時間処理し、ライゼートを総タウ抗体(total tau antibody)5E2でイムノブロットすることによって分析した。Aβ処理に応じて生成した17kDタウフラグメントを矢印によって示す。(B)月齢4〜6ヶ月のTau−/−、Tau+/+、およびhAPP/Tau+/+マウス由来の海馬のホモジネートを、総タウ抗体5E2でイムノブロットすることによって分析した。同じブロットの過剰暴露を右側に描き、検出可能なタウフラグメントがないことを示す。
【0228】
修飾されたタウの相対的欠乏はまた、ヒトにおいてADではなく前頭側頭性痴呆を引き起こす変異を有するタウを過剰発現するトランスジェニック系統(Levisら(2001)Science 293:1487〜1491、Oddoら(2004)Neuron 43:321〜332、SantaCruzら(2005)Science 309:476〜481)と本発明者らのモデルを区別する。この検討において内因性の野生型タウの減少は、hAPPマウスをAβ依存性認知機能障害から防護し、これは典型的なAD随伴性修飾を有する大量のタウの除去を伴わなかった。これらの実験は、他の型のタウ修飾、あるいは限られた細胞内区画または細胞集団中の少量の修飾されたタウがAβの川下で役割を果たす可能性を否定しない。
【0229】
その代わりにこれらのデータは、タウ減少が癲癇様活動の防止によってhAPPマウスを保護するという考え方を裏付ける。hAPPマウスは、癲癇様棘波性および非痙攣性発作を特徴とする異常脳波(EEG)を有する(Palopら(2007)Neuron 55:697〜711)。さらにこの異常活性は、二次的な抑制性のリモデリングを引き起こす。それは過活性を抑えようするが、海馬機能の点からおそらく適応しない。この抑制性の変化には、歯状顆粒細胞中のカルビンディン欠失および苔状線維中の神経ペプチドY(NPY)の異常発現が含まれる(Palopら(2007)上記)。これらの変化の重大度は、hAPPマウスにおける行動機能障害の度合と密接に関係している(Palopら(2007)上記)。
【0230】
重大なことに、かつ薬理学的に誘発される発作からのタウ減少の保護効果(図4)と矛盾なく、タウ減少はhAPPマウスにおける癲癇様異常もまた防止することが分かった(図19)。hAPP/Tau+/+マウスはきわめて高いカウントの時間当たり癲癇様棘波を示したが、hAPP/Tau+/−マウスではそれが劇的に減少し、またhAPP/Tau−/−マウスでは正常であった(図19)。さらにカルビンディン欠失および異常NPY発現を含めてhAPP/Tau+/+マウスにおいて観察される代償的な抑制性の変化が、hAPP/Tau+/−マウスでは非常に減少し、またhAPP/Tau−/−マウスでは存在しなかった(図7)。
【0231】
図19:タウ減少は、hAPPマウスにおける異常興奮活性を遮断する。正常なタウレベルを有するhAPPマウス由来のEEGの記録(左上、Tau+/+)は、頻繁に起こる癲癇様棘波を示している。これらの異常は、タウのないhAPPマウスでは見られなかった(右上、Tau−/−)。癲癇様棘波頻度の定量化(下部)は、hAPP/Tau+/+マウスで見られた癲癇様異常がhAPP/Tau+/−マウスにもhAPP/Tau−/−マウスにも見られなかったことを実証している。
【0232】
タウ減少の保護効果が別のADマウスモデルにおいて見られるかどうかを評価した。低レベルのhAPP導入遺伝子、したがって低レベルのAβを発現するマウスは、重度のAD様行動機能障害を有しない。しかしこれらのマウスを、FYNチロシンキナーゼの導入遺伝子を発現するマウスと交配した場合、得られるバイジェニックhAPPlow/FYNマウスは強い機能障害がない。バイジェニック(hAPPlow/FYN)マウスを通常のタウレベル(Tau+/+)およびタウを欠いたバイジェニックマウス(Tau−/−)と比較することができるように、hAPPlowマウスおよびFYNマウスをタウノックアウトバックグラウンド上へ交配し、交配を繰り返した。タウ減少が、水迷路学習および記憶機能障害および異常探検行動(図8)ならびに早期死亡(図9)を含めたこれらマウスにおける行動異常を遮断することを見出した。hAPPlow/FYNバイジェニックマウスは、より高発現性hAPPマウスにおいて見られる(Palopら(2007)上記)ものと同じ型の癲癇様異常および代償的な抑制性のリモデリング(カルビンディン欠失および異常NPY発現)を表す。正常なタウレベルを有するバイジェニックマウスにおいて見られる抑制性の変化がタウ減少によって遮断されることもまた分かり(図18)、これはタウ減少がその他のhAPPマウスにおいて見られるものと似たメカニズムによってこの系統を保護するという更なる証拠を与える。
【0233】
図18:タウ減少はhAPP−J9/FYNバイジェニックマウスにおける抑制性のリモデリングを遮断する。カルビンディンおよびNPYを、正常なタウレベル(+/+)またはタウ欠乏バックグラウンド(−/−)のいずれかを発現する非トランスジェニックおよびバイジェニックマウス由来の切片において免疫組織化学的に染色した。正常なタウレベルを有するバイジェニックマウスにおいて見られる抑制性の変化(カルビンディン欠失およびNPY陽性新芽形成の異常増加)が、タウのないバイジェニックマウスには存在しなかった。
【0234】
タウ減少の保護効果の検討を、外傷性脳損傷のモデルまで拡げた。頭部損傷にはまた、癲癇様活動および認知機能障害の両方を含めることができる。Tau−/−マウスがTau+/+マウスよりも保護されるかどうかを試験した。各遺伝子型の雄のマウス(n=12)を、外傷性脳損傷の制御下皮質衝撃(CCI)モデルにかけた。ただし両遺伝子型由来の対照群は偽手術を受けた。CCIは、運動機能のワイヤぶら下がり試験に関してTau+/+およびTau−/−マウスに同等の初期機能障害を生じさせた(図20)。しかし時間の経過とともにTau−/−マウスでは回復が進み、損傷後1ヶ月で正常な行動に戻ったが、Tau+/+マウスは残留機能障害を示した(P<0.005)。CCIはPTZによって誘発される発作の起こし易さを高める(図21)ので、癲癇様活動はこのモデルにおける病態生理の一因となる可能性がある。さらに、タウ減少の保護効果、すなわちCCIを経験するTau−/−マウスの発作の重症度は、偽手術を受けたTau+/+マウスとそれほど違わないことが分かった(図21)。
【0235】
図20:タウ減少は頭部損傷後の回復を増進させる。Tau+/+マウスおよびTau−/−マウスの両方は、制御下皮質衝撃(CCI)による頭部損傷か、または頭部損傷のない偽手術のどちらかを受けた。生じた機能障害の経時変化をワイヤぶら下がり試験によって評価した。この場合「5」は正常な動作であり、「0」は重度の機能障害である。CCIは、タウ遺伝子型に関係なく同じ初期機能障害を生じた。しかしTau−/−マウスはより良く回復し、CCIの1ヶ月後までにTau−/−マウスは正常に戻ったが、Tau+/+マウスでは機能障害が残った。データは、因子として年齢、タウ遺伝子型、および処理を用いた反復測定一般線形モデルによって分析した。タウ×処理の交互作用P<0.001。
【0236】
図21:タウ減少は頭部損傷後の発作を改善する。Tau+/+マウスおよびTau−/−マウスの両方は、制御下皮質衝撃(CCI)による頭部損傷か、または頭部損傷のない偽手術のどちらかを受けた。損傷の1ヶ月後、発作の起こし易さをペンチレンテトラゾール(PTZ)40mg/kgの注射によって評価した。生ずる発作の重度を、ビデオ分析によって評点を付けた。タウ減少は、偽およびCCIの両方の群で発作の重度を低減させ(P<0.02)、CCIを受けたTau−/−マウスの発作は偽処理群における発作に比べて有意には悪くないようなものであった。
【0237】
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【0238】
本発明をその特定の実施形態に関して述べてきたが、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができ、また等価物を代わりに用いることができることを当業者は理解するはずである。さらに特定の状況、材料、組成物、工程、1つまたは複数の工程段階を本発明の目的、趣旨、および範囲に適合させるために多くの修正を行うことができる。このような全ての修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることを意図している。
【図1A】

【図1B】

【図1D】

【図1E】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図6E】

【図6F】

【図6G】

【図6H】

【図7A】

【図7B】

【図7C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤を識別するin vitro法であって、
a)タウ遺伝子産物を産生する細胞を、試験薬剤とin vitroで接触させるステップ、および
b)前記細胞中の前記タウ遺伝子産物のレベルに及ぼす前記試験薬剤の効果を、もしあれば測定するステップ
を含み、前記細胞中の前記タウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤が、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤である、方法。
【請求項2】
前記細胞が神経細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タウ遺伝子産物がタウポリペプチドであり、かつ前記タウポリペプチドのレベルが免疫アッセイを用いて検出される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タウポリペプチドのレベルに及ぼす前記試験薬剤の効果が、前記タウポリペプチドのリン酸化状態に無関係であり、かつ前記タウポリペプチドの溶解性状態に無関係である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タウポリペプチドが、非過リン酸化タウポリペプチドである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記タウポリペプチドが、可溶性タウポリペプチドである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記タウ遺伝子産物が、タウと、検出可能なシグナルを与えるポリペプチドとを含む融合タンパク質であり、かつタウのレベルが前記シグナルのレベルを検出することによって検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
検出可能なシグナルを与える前記ポリペプチドが、蛍光タンパク質であるか、化学発光タンパク質であるか、または検出可能な産物を産生する酵素である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記タウ遺伝子産物がタウ核酸であり、かつ前記タウ核酸のレベルが核酸増幅によるアッセイを用いて検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タウ遺伝子産物がタウ核酸であり、かつ前記タウ核酸のレベルが核酸ハイブリダイゼーションアッセイを用いて検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記タウ遺伝子産物が、野生型タウ対立遺伝子によってコードされる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤を識別するin vivo法であって、
a)興奮毒性関連障害の非ヒト動物モデルに試験薬剤を投与するステップ、および
b)前記動物の細胞または組織中の前記タウ遺伝子産物のレベルに及ぼす前記試験薬剤の効果を、もしあれば測定するステップ
を含み、前記細胞または組織中の前記タウ遺伝子産物のレベルを低下させる試験薬剤が、興奮毒性関連障害の治療用候補薬剤である、方法。
【請求項13】
カルシウム依存性遺伝子産物のレベルと、発作の回数および/または重症度および/または頻度と、興奮毒性関連障害に伴う行動機能障害との1つまたは複数に及ぼす前記試験薬剤の効果を、もしあれば測定するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
個体のニューロン中の神経細胞の過剰刺激に応じて興奮毒性を低下させる方法であって、前記個体に前記ニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤を投与することを含み、前記薬剤が前記ニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを選択的に低下させる核酸を含む、方法。
【請求項15】
前記タウ遺伝子産物が、野生型タウ対立遺伝子によってコードされる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タウ遺伝子産物がタウmRNAである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記タウ遺伝子産物がタウポリペプチドである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記タウポリペプチドが、非過リン酸化可溶性タウポリペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
個体における興奮毒性関連障害の治療方法であって、前記個体中のニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを低下させる薬剤を前記個体に投与することを含み、前記薬剤が前記ニューロン中のタウ遺伝子産物のレベルを選択的に低下させる核酸を含む、方法。
【請求項20】
前記興奮毒性関連障害が、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、卒中、パーキンソン病、および発作から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記タウ遺伝子産物が、野生型タウ対立遺伝子によってコードされる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記タウ遺伝子産物がタウmRNAである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記タウ遺伝子産物がタウポリペプチドである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記タウポリペプチドが、非過リン酸化可溶性タウポリペプチドである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1種類の追加の治療薬の有効量を投与することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
a)細胞中のタウ遺伝子産物のレベルを特異的に低下させる核酸薬剤、および
b)薬学的に許容できる医薬品添加剤
を含む医薬組成物。
【請求項27】
前記薬学的に許容できる医薬品添加剤が、血液脳関門を越えることを可能にする薬剤を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記タウ遺伝子産物が、野生型タウ対立遺伝子によってコードされる、請求項26に記載の組成物。

【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14D】
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【図14H】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図1C】
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【図5】
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【図14A−C】
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【図14E−G】
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【図15A】
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【図17B】
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【公表番号】特表2010−525303(P2010−525303A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502140(P2010−502140)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/004408
【国際公開番号】WO2008/124066
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(505458304)
【Fターム(参考)】