説明

神経変性状態の治療

【課題】神経変性疾患の治療を必要とする患者を治療する方法の提供。
【解決手段】トリグリセリドエステルとしてγ−リノレン酸残基およびリノレン酸残基の両方を含有するトリグリセリドオイルの治療上有効な用量を投与することを含んでなり、トリグリセリドのsn−2位でのγ−リノレン酸残基のリノレン酸残基に対する比率が少なくとも0.8であり;sn−2位でのγ−リノレン酸残基の量が少なくとも18%であり、該オイルが治療レベルで患者においてTGF−β1レベルを維持するかまたは上昇させるのに十分な用量で投与される、前記方法。好ましいオイルは、少なくとも35%のsn−2位脂肪酸残基をγ−リノレン酸として有するルリジサオイルまたは真菌オイルである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、神経変性状態を治療するための方法、特にトランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、特にTGF−β1、の増加が有益なものに関する。さらに特に、本発明は頭部外傷、脳梗塞および頭蓋内出血に関連する多発性硬化症および変性続発症のような状態の治療を提供し、それによりニューロンの機能は機能が損なわれた状態から改善しまたは回復する。さらに提供されるのは、そのような状態を有効に治療することができる、さらに特に神経学的機能の回復に関して、以前に達成されていないレベルの成功を達成することができる、医薬の製造のための不飽和脂肪酸部分を含んでなる公知のおよび新規の化合物の新規の使用である。
【0002】
n−3およびn−6の不飽和パターンの必須脂肪酸(EFA)が、ヒトの多種多様な生理学的障害において有益な効果を有していることは、文献においてよく報告される。WO02/02105(Laxdale Limited)は、非常に広い範囲の疾患に対するそれらの有益な使用、および一般的栄養補給剤としての使用を記載する。Harbige(1998) Proc.Nut. Soc. 57, 555−562は、自己免疫疾患状態におけるn−3およびn−6酸での食物の補給を概説し、そして特に臨床上重要なサインおよび関節リウマチの症状を減じる、ルリジサオイル(borage oil)のようなγ−リノレン酸(GLA)および/またはリノレン酸(LA)に富んだオイルの利点の証拠に言及した。
【0003】
多発性硬化症(MS)患者に対する2つの研究が留意され、それは疾患の再発および重症度が、n−6酸部分を含有するオイルでの治療により減じることが可能であるが(Millerら(1973)、およびBatesら(1978))、さらなる研究がこの効果を確認できなかったこと(Patyら(1978))を示す。これらの論文は、およそ20g/日のリノレン酸(18:2n−6)でのヒト患者の補給が、対照と比べて再発がより低い頻度で、より低い重症度でそしてより短い期間であるような、多発性硬化症の再発の期間および重症度に影響したことを報告する。Bateは、リノレン酸およびγ−リノレン酸の混合物は、炎症および自己免疫疾患を治療することにおいてより有効である可能性が、1957年にさかのぼって示唆されたことに留意し、試験においてこのことを調査しようとした。しかしながら、この組み合わせを試験すると、3g/日のオイル(Naudicelle Evening Primrose oil)で、再発を有する患者が、対照よりも試験オイルでより悪くなったことがわかった。
【0004】
他の人達(Dworkinら(1984))によるこれらのリノレン酸研究のメタ解析は、軽い多発性硬化症を有する患者において、疾患の長期間の進行の度合いの減少を有する、減じた再発率および重症度を実証した。後の多発性硬化症を有する患者の公開試験は、少ない脂肪の食物および/または食物のn−3およびn−6脂肪酸の操作が、有益であり得ることを示唆した(Swank & Grimsgaard(1988);Harbigeら(1990))。
【0005】
MSの原因論は未だに不明であるが、強力な証拠が該疾患の病因における自己免疫機構の存在を示唆する(Martino & Hartung 1999)。MS患者が、例えばミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のような非常に多くの神経抗原、並びに健康な対照と比較して増加した活性化状態である自己反応性T細胞を有することが、研究で示されている(Fredriksonら 1994、 Kerlero de Rosboら 1993、 1997、
Chouら 1992、 Otaら 1990、 Burnsら 1999、 Zha
ngら 1994、 Tejada−Simonら 2001)。MSにおける、例えば慢性炎症、脱髄およびアストログリオーシス(astrogliosis)のような軸索損傷の実際の過程は複雑であるが、白質炎症および脱髄が疾患の重症度を決定すると考えられ、一方、最近の研究が、MSにおける軸索損傷が疾患の初期段階において始まり、そして能力障害に寄与することを示唆した(De Stefanoら、2001)。
【0006】
実験自己免疫脳脊髄炎(EAE)は、MSの免疫仲介効果の最も頻繁に使用される動物モデルである。モルモットにおける研究は、リノレン酸がEAEの発生率および重症度を部分的に抑制することを示した(Meadeら(1978))。真菌源または植物源からのγ−リノレン酸に富んだオイルを使用して、完全な防御がラットおよびマウスの両方で立証された(Harbigeら(1995)、1997b)。これらの調査は、EAEの臨床的のおよび組織病理学的徴候に対する、リノレン酸およびγ−リノレン酸の疾患を緩和する効果を立証した。用量に依存して、γ−リノレン酸は急性なラットのEAEにおいて十分に防御的であり、一方、リノレン酸は臨床的重症度に用量依存的作用を有したが、根絶はしなかった。
【0007】
これらの実験的発見にもかかわらず、ヒトの疾患である多発性硬化症は非常に複雑であり、そしてT細胞および他の免疫反応因子の活性により逆に悪化しうるし改善しうることが認められる。n−6脂肪酸は、リノレン酸のみで得られた結果に基づいて、自己免疫疾患および炎症性疾患を促進すると考えられる。TGF−βおよびPGE産生は、ex vivoでγ−リノレン酸を与えられたマウスにおいて非特異的に増加したことが示されたが;TGF−βは急性なそして再発するEAEにおいて防御することが報告され((Rackeら(1993);Santambrogio(1993))、そしてしたがって、インドメタシン増強剤のようなPG阻害剤は疾患を悪化する(Ovadia & Paterson(1982))。
【0008】
疾患の再発期と一致するミエリン毒性(myelinotoxic)炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−1βおよびIFN−γ)の増加を示す多くの研究とともに、サイトカインは、MSの病因に関与する。反対に、抗炎症性および免疫抑制性サイトカイントランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF−β1)のレベルは、再発期の間は減じられ、患者が鎮静に入るにつれて増加するようである。したがって、生物学的に活性なTGF−β1と炎症性のTNF−α、IL−1βおよびIFN−γの間のバランスが、MSの再発−鎮静の間は調節異常となっているようである。
【0009】
EAEからの自然の回復期の間、TGF−β分泌T細胞はEAEエフェクター細胞を阻害し、TGF−βはCNSおいて発現し、そしてEAEにおける経口寛容誘導防御においては、TGF−βおよびPGEは脳において発現する(Karpus & Swanborg(1991);Khouryら(1992))。Harbige(1998)は、EAEに対する食物のγ−リノレン酸の効果が、TGF−βが関与するTh−様の機構を通じて、そしてスーパーオキシドジスムターゼ抗酸化活性をおそらく通じて仲介されると結論付けた。
【0010】
とりわけ、多発性硬化症における免疫抑制を提供する手段として、γ−リノレン酸およびリノレン酸に富んだルリジサオイルの使用が示唆されている(US 4,058,594)。示唆された用量は、2.4グラム/日のオイルであり、そして現実の有効性の証拠は提供されていない。
【0011】
ルリジサオイル(典型的には、100%脂肪酸含量当たり、23%のγ−リノレン酸および37%のリノレン酸)が、活性化関節リウマチに関連した臨床上重要なサインおよび自己免疫疾患の症状を有意に減ずることが示された(Leventhalら(1993)
)。ルリジサオイルおよび真菌オイル(図1を参照)は、MS候補を同定するためのEAE動物モデルの使用において有効であることが示されたが、ヒト疾患において有意に有効であることは示されていない。低レベルのγ−リノレン酸を含有する高レベルのリノレン酸に富んだオイル(EPO: リノレン酸:γ−リノレン酸 7:1)は、ラットにおけるEAEの発生率および重症度を部分的に抑制し(Mertin & Stackpoole,1978)、一方、以上で言及したノーデセル(Naudicelle)の研究は、患者の悪化をもたらした。過去約30年にわたる多発性硬化症患者による、ルリジサオイル並びに月見草オイル(Evening Primrose oil)のような他のGLA/LA含有オイルの使用にもかかわらず、大多数の患者が疾患から回復することができず、有意な改善を示すことなく、進行し続け死に至る根底にある疾患を有した。
【0012】
シクロホスファミドのようなT細胞消耗剤および変調剤を含む、他のより劇的な免疫抑制剤治療も、EAEモデルにおいて有効であることが示されたが、これらが採用された場合、ヒト多発性硬化症疾患症状は改善するが、根底にある疾患は進行し続ける。T細胞は、確かにヒトにおいてTGF−β1のような有益なサイトカイン、並びに有害なものを産生する。英国のInstitute of NeurologyのDavid Bakerは、2004年5月10日の英国MS学会の第10回英国フロンティアミーティングで「Everything stops EAE, nothing stops MS」と標題を付けた論文で、EAEにおいて有効なものとMSにおいて有効なものの間の格差を総括した。
【0013】
免疫抑制単独では、MSを治療できないことは明らかである。これはほぼ確実に、膜異常、サイトカイン異常調節、並びに続く免疫攻撃および損傷に至る、MS患者における基礎に横たわる代謝障害のためである。患者が再発−鎮静疾患における鎮静に入っても、根底にある脱髄は進行する。
【0014】
MSに対する「ゴールドスタンダード(gold standard)」治療は、β−Avonex(登録商標)、Rebif(登録商標)およびインターフェロン調製物でのような、インターフェロンが残る。このゴールドスタンダード治療は、患者のうちいくらか、例えば30%の必要性を対処するのみであり、そしてこれらの症状の改善においてでさえも、再発の重症度を減ずることに限定される。患者のある割合において症状は軽減されうるが、根底にある退化のために、疾患はさらなる能力障害および死に進行しようとする。
【0015】
本発明者らは今や驚くべきことに、適した付随の脂肪酸含量を伴うγ−リノレン酸を含有するトリグリセリドオイルでの「高用量」治療にしたがって、現在のゴールドスタンダード治療により提供されるものを上回る方法で、MSのほとんど全ての症状の驚くべきレベルの改善が達成可能であることを確定した。そのような成功は、そのような有意な成功がない調製物を含有する他のγ−リノレン酸の従前の使用に照らして、特に驚くべきことである。
【0016】
18月の期間にわたり、高用量の選択されたルリジサオイルを摂取した患者は、EDSSスコアの有意な(p<0.001)および著しい改善、減じた再発率、筋痙直および有痛感覚症状の症状緩和、並びに認知機能の改善された客観的計測を示した。低用量ルリジサオイルは効果がなかった。
【0017】
高用量ルリジサオイルを摂取した患者は、試験期間の間、TGF−β1の末梢血単核細胞産生(PBMC)のレベルを維持し、炎症性サイトカインTNF−αおよびIL−1βは有意にそして著しく(<70%)減じられ、そしてそれらはPBMC膜長鎖オメガ−6脂肪酸ジホモ−γ−リノレン酸(DHLA)およびアラキドン酸(AA)を、試験期間の
経過にわたってこれらの脂肪酸の欠失が実証された偽薬を摂取した患者と異なって、維持したかまたは増加した。
【0018】
この免疫抑制が、活性的な損傷および神経変性を減ずることが予測されたが、本治療は外見上、そうしなければMSにおいて特異的に欠失する、重要な膜脂質成分の維持を標的とし、そうしなければ現在の治療によっては有効に治療されない代謝欠陥の修正を示唆する。低用量(5グラム/日)は、これに効果を有さなかった事実が、そのような決定を支持する。
【0019】
特に、発明者らは、トリグリセリド分子内で特異的な位置的配置を有するγ−リノレン酸およびリノレン酸の両方のトリグリセリドを含んでなり、好ましくはオレイン酸と共の、トリグリセリドオイルが、何ヶ月および何年にもわたり多発性硬化症患者において有意に減少するEDSSスコアを提供することが可能であり、結果は、現在までに投与された治療のいずれでも達成されなかったものであったことを決定した。
【0020】
γ−リノレン酸(18:3n−6、GLA)は、インビボで急速に、より長い鎖のオメガ−6ポリ不飽和脂肪酸ジホモ−γ−リノレン酸およびアラキドン酸に変換されることが公知である(Phylactosら 1994、Harbigeら 1995、2000)。したがって、MSにおいて膜長鎖オメガ−6脂肪酸のレベルを増加させるために、発明者らは以下のいくつかのGLA含有オイルで得られた結果を、慢性再発性実験自己免疫脳脊髄炎(CREAE)として知られるMSのインビボ実験動物モデルにおけるGLA運搬システムとして、再調査した:真菌(Mucor javanicusより)および植物(Borago officianalis)の両方、月見草(Oneothera属の種、またはクロフサスグリ(Blackcurrant)Ribes属の種)並びに合成トリ−GLAオイル。
【0021】
実験自己免疫脳脊髄炎(EAE)は、脱髄を有するか有さず、げっ歯類および他の哺乳動物種で誘導できる、CNSの自己免疫炎症性疾患である。しかしながら、ラットにおけるEAEの誘導(モルモット塩基性タンパク質を使用する)は、脱髄の組織学的特徴を生産しないが(Brosnanら 1988)、CNS脱髄により特徴付けられそして臨床的に再発−鎮静であるMSとは異なる、急性で単相の疾患パターンを誘導した。したがって、脱髄および再発期により特徴付けられる慢性再発性および脱髄性EAEモデル(CREAE)は、現在のところMS研究に最適の動物モデルである(Fazakerley 1997)。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)がMSにおける重要な神経抗原標的であることの実証(Genainら 1999)、およびMSにおけるMBPに比べて、この神経抗原に対する末梢血自己反応性リンパ球のさらに大きい反応の実証(Kerlero de Rosboら 1993,1997)と共に、MOG誘導CREAEは、MSにおいて観察されたものに近い類似の特徴を有する最適の動物モデルとなった(Fazakerelyら 1997、Genainら 1999、Amorら 1994)。
【0022】
これらの実験結果に基づいて、2つの重要な選択基準が、現在の目的を達成するための改善された脂質化合物の選択のために採用された。CREAEおよびラットEAE摂食研究からの証拠は、富化されたクロフサスグリ種子オイル(72% w/w 18:3n−6、GLA)が、EAEに対して防御しなかったことを示唆する(表3参照)。重要なことに、クロフサスグリ種子オイルは、sn−1およびsn−3位においてGLAのほとんどを持ち、低いsn−2 GLAを有する(LawsonとHughes 1988)。さらに、3つのGLAを含有する構造化されたトリアシルグリセロール(TG−GLA)が、CREAEにおいて使用されたルリジサオイルのそれに類似する防御効果を提供した(表2)。これは、sn−2 GLAが重要であることとも一致するであろう、すなわち
、外側のペアのsn−1およびsn−3GLAは、sn−2GLAのみを残して、インビボで酵素的に除去され、そしておそらく酸化をうける。この選択的加水分解は、インビボのsn−2位の明白な防御を除いて、トリアシルグリセロール分子からsn−1およびsn−3脂肪酸を除去する特異的リパーゼの公知の能力より生じる(LawsonとHughes 1998、Kyle 1990)。
【0023】
このデータの本研究者らの再考はまた、リノレン酸(LA)残基のγ−リノレン酸(GLA)残基に対する比率が、MSのCREAEモデルにおける、LAおよびGLA含有オイルの重要な有効性の特徴であり得ることも示唆する(表1)。表1は、真菌オイル、ルリジサオイル、月見草オイルおよび紅花オイルのCREAEにおける、組成分析および有効性を示す。CREAEの発生率を減じる点の最も有効な治療は、0.85のLA:GLA比率の真菌オイルであった。ルリジサオイルもまた、1.5のLA:GLA比率でとても有効であった。さらに、sn−1、sn−2およびsn−3でGLAを含有する構造化されたトリグリセリド(TG−GLA)の実験は、GLAが活性な組成物になることを実証した。さらに、TG−GLAもまた、ルリジサオイルよりも低い用量レベルで有効であった(表2参照)。
【0024】
抗酸化組成物のような他の因子もまた重要であり得る(未発表)が、例えば、sn−2
GLA(38−46%の範囲)の我々の未発表の観察、並びにおそらくいくつかのルリジサオイルはCREAEにおける十分な防御効果を生産することができないことと一致して、10% sn−2 GLA(Liuら 2000)および40% sn−2(LawsonとHughes 1988)のように、異なったルリジサ種子オイルのものもまた、sn−2 GLAのレベルが多様であるようである。60%程度のsn−2 GLAを有するルリジサオイルが報告され(HuangとMills(1996)γ−リノレン酸:metabolism and Its Roles in Nutrition and Mediceine:第6章)、そしてGLAがリンパ液に入り込むのに効果的であることに留意された。
【0025】
EP0520624(Efamol Holdings)の表3は、月見草オイルおよびルリジサオイルのトリグリセリド含量を比較し、種々のGLAに反応する障害に対して、後者よりも前者が、より治療的に有効であることが教示された。この文献は、ルリジサオイルは27の異なったトリグリセリド成分を有し、そのうちの20%のみがsn−2 GLAを有することを示唆する。3ページ、40−42行目は、生物学試験が、異なったオイル源としてGLAが供給されたときに、等量のGLAが確かにとても異なった効果を有しうることを示したことに言及する。重大なことに、次いでそれは、月見草オイル(EPO)に存在し、ルリジサオイルには存在しない、1つの特定の画分に読者の興味を向けさせ、それは前者のPGE1を上昇させる優れた効果、そしてしたがって抗炎症性効果の原因である(EP 0520624 図表 ページ4および表2参照):その画分は、EPOにおける全トリグリセリドの18から19%であると言われる、ジ−リノエオイル(linoeoyl)−モノ−ガンマ−リノレニル(linolenyl)−グリセロール(DLMG)である。6ページは、sn−1,2または3におけるGLAの位置が、この効果に重要でないことを明確に教示する。
【0026】
Dinesら(1994)、(Proceedings of the Physiological Society,アバディーンミーティング(1994年9月14−16日))は、EP0520624により主張された種類のγ−リノレン酸含有オイルを用いた糖尿病性神経障害神経損傷の治療研究を報告し、そして再び、ルリジサオイルが、この神経変性を治療する点で全く有効ではないが、月見草オイルは有効であったことに言及する。この論文は、ルリジサオイルがGLA活性を干渉する他の構成要素を含有すると結論付けている。
【0027】
この先行技術に反して、本発明者らは、そのときに利用できた他の試料中のより少ない量と比較して、試験目的のために最も高いsn−2 GLAで選択したルリジサオイル(>40%)を使用した。そのときに比較的大量に利用できたクロフサスグリ種子オイルは、その低いsn−2 GLA含量のため、最適とは考えられなかった。
【0028】
さらなる選択基準は、全長鎖単一不飽和(monoenoic)脂肪酸のレベルが5%より下に保たれることであった。異なった供給源からの異なったルリジサ(Borago
officinalis)種子オイル試料において、有意なレベルのエルカ酸(22:1n−9)、即ち全脂肪酸の1.4−2.38%があり、そして有意なレベルの他の長鎖単一不飽和脂肪酸、即ち24:1n−9(ネルボン酸)および20:1n−9(ガドレイン酸)があった(表4)。
【0029】
さらに、ビタミンEの吸収、代謝および免疫機能に対する潜在的な影響のため(Harbige 1996、2003)、試験オイルは、商業的ルリジサ種子オイルが日常的にそうであるように、さらなる追加のビタミンEを有さず(例えば、1mg/g)、天然レベルのビタミンE(0.05mg/g)のみを含有した。
【0030】
そのような選択されたオイルは免疫抑制効果を有するが、その修復に必要な状態が作られている間、損傷への免疫攻撃を減じる点で利益を有する代謝補足効果もまた有意に有すると信じられている。これは、MSのために以前に提供されたいずれの薬物で達成されなかったことである。
【0031】
本発明の第一の側面において、神経変性疾患の治療を必要とする患者を治療する方法であって、その患者にトリグリセリドエステルとしてγ−リノレン酸残基およびリノレン酸残基の両方を含有するオイルの治療上有効な用量を投与することを含んでなり、トリグリセリドのsn−2位でのγ−リノレン酸残基のリノレン酸残基に対する比率が少なくとも0.8であり;sn−2位でのγ−リノレン酸残基の量が少なくとも18%であり、ここで該オイルが治療レベルで患者においてTGF−βレベルを維持するかまたは上昇させるのに十分な用量で投与される、前記方法が提供される。
【0032】
治療レベルにより、健康な対象と少なくとも一致するレベルを意味する。好ましくは、用量は、18か月の毎日の投与の後に患者の血液中において、0.4から3.0の、少なくとも0.5の、より好ましくは少なくとも0.75の、そして最も好ましくは少なくとも1の、TGF−β1/TNF−α比率を産生するようなものである。好ましくは、用量は、18か月の毎日の投与の後に患者の血液中において、少なくとも0.5の、より好ましくは少なくとも0.75の、そして最も好ましくは少なくとも1の、TGF−β1/IL−1β比率を産生するようなものである。好ましくは、前記レベルは、12か月後に、そしてより好ましくは6か月後に産生される。
【0033】
典型的には、毎日投与されるオイルの量は、3から30グラムの間の経口投薬であり、さらにより好ましくは5から20グラムの間であり、そして最も好ましくは7から18グラムの間であり、典型的には15グラムであろう。
【0034】
最も好ましくは、γ−リノレン酸残基およびリノレン酸脂肪酸残基に加えて、オイルは非構造的であるエステル化脂肪酸を含み、即ち、それはオレイン酸残基のように代謝されてエネルギーを生産する。残基により、脂肪酸カルボキシル基がグリセロール分子のヒドロキシ基の1つとエステル化した後に、残る部分を意味する。
【0035】
最も好ましくは、投与されたオイルは、ルリジサオイルまたは例えばムコール ジャバ
ニカス(Mucor javanicus)からのような真菌オイルからのオイル源である。
【0036】
典型的なルリジサオイルおよび真菌オイル組成物は、表1において説明され、ここで18:2n−6および18:3n−6は、それぞれパーセントによりリノレン酸残基およびγ−リノレン酸残基を表わす。
【0037】
典型的には、ルリジサオイルは、オイル中の脂肪酸残基のパーセンテージとして、20から25%のγ−リノレン酸残基、および35から40%のリノレン酸残基を含有する。好ましいルリジサオイルは、sn−2位でのエステル化γ−リノレン酸の量がその位での脂肪酸残基の少なくとも35%であり、より好ましくは39%以上であり、そしてさらにより好ましくは40%以上であるものである。最も好ましいオイルは、42から44%のsn−2 GLAのように41%を越え、一方、理想的には、それは45%を越えるであろう。Huangらにより以上で述べられたように、60%のsn−2 GLAルリジサオイルが生産されており、そして選択のために使用できるはずである。sn−1およびsn−3位残基は、好ましくはリノレン酸残基、オレイン酸残基およびγ−リノレン酸残基である。好ましいオイルは、sn−1およびsn−3位のうち、両方ではないにしろ、少なくとも1つにおいて比較的高いオレイン酸含量(例えば、12%を越え、より好ましくは14%を越える)を有する。
【0038】
本発明の使用における、使用に適した典型的なルリジサオイルは、以下のような脂肪酸配置を有する、
Sn−1:14% 18:1(オレイン酸)、54% 18:2n−6(リノレン酸)および4% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
Sn−2:14% 18:1(オレイン酸)、42% 18:2n−6(リノレン酸)および40% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
Sn−3:19% 18:1(オレイン酸)、18% 18:2n−6(リノレン酸)および30% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
ムコール属(Mucor)の種からのような真菌オイルが使用される場合、sn−2のγ−リノレン酸:リノレン酸の比率が少なくとも0.8、より好ましくは1以上である限りは、γ−リノレン酸残基の総量は、ルリジサオイルについてよりも低くともよい。これは、真菌オイルがリノレン酸残基よりも「代謝に」向いたオレイン酸残基を多く有する傾向があるからである。したがって、好ましい真菌オイルは、sn−2位でのエステル化γ−リノレン酸の量が、その位の脂肪酸残基の少なくとも18%であり、より好ましくは少なくとも20%であり、そして最も好ましくは少なくとも22%であるものである。好ましい真菌オイルはsn−2脂肪酸残基を、45%を越え、より好ましくは50%を越えて、オレイン酸残基として有する。
【0039】
Sn−1:25% 18:1(オレイン酸)、5% 18:2n−6(リノレン酸)および13% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
Sn−2:54% 18:1(オレイン酸)、19% 18:2n−6(リノレン酸)および20% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
Sn−3:40% 18:1(オレイン酸)、3% 18:2n−6(リノレン酸)および20% 18:3n−6(γ−リノレン酸)
所与のオイルミックスにおいて、多くのトリグリセリドへの平均として、各位での前記脂肪酸のパーセンテージを試験することにより、そのようなオイルが出所を明らかにされる(sourced)必要があるであろうことは、当業者により理解されるであろう。そのようなものは、例えば、Mylnefiled Research Services
Ltd,Lipid Analysis Unit,Mylnefiled,Inverghowrie,Dundee DD2,5DA,英国スコットランドのように、当業
者の全くの範囲内である。本出願人は、以上に述べられた基準に適合する多くのそのようなオイルの出所をなんとか明らかにし、およそ46%という最も高いsn−2の値が、例えば2003年のニュージーランドを出所とするオイルにおいて発見された:これはもちろん年々変化しうる。しかしながら、低用量(5g/日)のルリジサオイルでの反応の欠如を考慮して、回復への患者の努力は、毎日の必要な用量よりも少ないsn−2%GLAルリジサオイルの提供による過少量との同等物により害されないことは重要である。
【0040】
選択過程におけるそのようなオイルの解析のためのさらなるNMR法は、以下の方法の節において提供される。しかしながら、所与のティエム(tiem)で利用できる全てのオイルは、35%のsn−2 GLA値よりも下であるべきであり、そして好ましくは、もしそれが40または45%よりも下であるならば、合成トリグリセリドまたはトリグリセリドミックスでの補足が可能であろうことが理解されるであろう。多くの適した脂質が、当該技術分野で知られており、そして例えば、LGL、OGO、OGL、LGO若しくはルリジサオイルに存在することが知られている他の成分の混合物を単離するか、または組み合わせてもよい(EP0520624の表3参照)。合成GLAプールに、そしてしたがってDHGLAプールに、そして次いでアラキドン酸プールにあふれ出すために過度の炎症性効果のリスクがあるので、本目的のためにsn−1およびsn−2位GLAレベルが高くなりすぎないようにするのが好ましいが、トリGLAでさえも添加されうる(FR 2,617,161(1988))。例えば、OGOの合成は、以下の文献に教示される:Y.−S.Huang,X.Lin,P.R.ReddenおよびD.F.Horrobin, J. Am. Oil Chem. Soc., 72, 625−631(1995) In vitro Hydrosis of Natural and
Synthetic γ−Linolenic Acid−Containing Triacylglycerols by Pancreatic Lipase、およびK.Osada,K.Takahashi,M.Hatano およびM.Hosokawa, Nippon Suisan Gakkaishi., 57, 119−125(1991),Chem.Abs. 115:278299 Molecular Species of Enzymically−synthesized Polyunsaturated Fatty acid−rich Triglyserides。
【0041】
大量のこれらの高いSn−2 GLAオイルのいずれかが投与される治療形態のために、エルカ酸(22:1n−9)および他の長鎖単一不飽和脂肪酸、即ち24:1n−9(ネルボン酸)および20:1n−9(ガドレイン酸)のような、潜在的に毒性の長鎖単一不飽和脂肪酸の量は、できるだけ低く、好ましくは脂肪酸残基の5%より低く、より好ましくは3%より低く、そしてより好ましくは2%より低いことが推奨される。
【0042】
好ましいオイルのもう1つの特徴は、天然レベルのビタミンE(0.05mg/g)のみで提供されるような、低い添加またはゼロ添加のビタミンEである。
本発明のさらなる側面は、神経変性疾患の治療のための医薬の製造のための、より具体的には根底にある神経変性の制止および神経機能の回復のための、以上に記載のようなトリグリセリドオイルの使用を提供する。特に、そのような医薬は、ニューロンの膜組成の正常化、健康なTGF−β1/TNFα比率および他のサイトカインとのTGF−β1比率の回復、多発性硬化症における神経変性の制止、並びに、例えば、MRI若しくはCATスキャンにより、またはEDSSスコアにより測定されるような神経機能のうちの一部または完全な回復のためである。そのような使用は脳梗塞、頭部外傷および頭蓋内出血の後の、脳の機能的障害の治療を含むであろう。
【0043】
また提供されるのは、多発性硬化症を治療することおよびインビボでのサイトカインの比率を有益な変化をもたらすことに、特に有効性を有する選択されたトリグリセリドオイルであり、これらのオイルは、以上に記載された方法に好ましいようなものである。
【0044】
本発明の使用のためのオイルは、薬学で知られる慣用のビヒクルのいずれかにより投与され得る。最も慣用的には、そのようなオイルを含有するカプセルの形態、または経腸的なコートをされた形態で、そのままのオイルまたは食材との混合剤として投与されうる。他の形態は、配送技術が進歩するにつれて、当業者に思い浮かぶであろう。
【0045】
他の有益な薬剤が、本発明における使用のために該オイルと組み合わされうることは、当業者に理解されるであろう。これらは、例えば、ナトリウムチャネルブロッカー、インターフェロン、T細胞消耗剤、ステロイドまたは他の緩和剤のような、イオンチャネルブロッカーであってよい。免疫および炎症性の反応が変調されている場合には、これらのシステムの複雑な性質を考慮して、そのような組み合わせは注意深く成される必要があるであろうことが、さらに理解されるであろう。しかしながら、本オイルに対する遅発性の反応を考慮すると、TGF−β1レベルが正常化される前の治療の初期において、追加の治療がこの正常化過程を妨げない限りは、短期作用剤が有益であり得る。
【0046】
本発明はこれから、以下の非限定的な表、実施例および図への言及のみによって、実施例を通じて記載されるであろう。本発明の範囲に含まれるさらなる態様は、これらに照らして当業者に思い浮かぶであろう。
【0047】

表1:種々のトリグリセリドオイルの組成的%全脂肪酸含量、およびEAEにおける防御的効果を示す。
表2:高いsn−2 GLAルリジサオイル試験における、3つの治療群の変数を示す。
表3:EAE発生率に対する多様な形態のGALの効果、およびSJLマウスにおける臨床スコアを示す。
表4:高いGLAであるが、低いsn−2 GLAの植物オイルである富化されたクロフサスグリオイルは、EAEにおける真菌オイルおよびルリジサオイルへ匹敵できないことを示す。
表5:特にモノエンに関する試験ルリジサオイルの、4群の解析結果を示す。
表6:特にモノエンに関する非試験オイルの解析を示す。
【0048】
方法
定量的−13C−NMRによる、ルリジサオイル試料におけるガンマ−リノレン酸(GLA)の位置解析
トリグリセロールにおける脂肪酸組成および位置配置の決定のための分析的方法論は、酵素または化学的過程によるトリアシルグリセロールの加水分解、およびそれに続くクロマトグラフィー技術によるモノ−およびジアシルグリセロールの解析を必要とする。これらの方法は破壊的であり、そして元の試料の回復はできない。加水分解手順は、通常いくつかのアシル移動を生じ、実質的に位置配置の誤りに帰着する。
【0049】
13C核磁気共鳴(NMR)のいくつかの特性があり、それの適用は位置解析に有用である。第一に、化学シフトは分子構造に感度がよく、それによりそれぞれの核が特定の頻度でのピークにより同定されるスペクトルを生じる。それぞれの環境において、核の分析能は、線幅および近接ピーク間の化学シフト差異により決定される。第二に、全ての13Cは、同じ吸収を示すので、各核から生じるピーク下の面積は、その環境における核の数に比例する。したがって、各ピークの化学シフトおよび積分面積は、各核の定性的および定量的測定の両方に使用可能である。第三に、本適用のための試料の調製は単純である。最後に、NMRは他の目的のために試料を回収することができる、非破壊的技術である。13CNMR法は、普通はカルボニル炭素のシグナルの集団を解析することに基づく。s
n1,3−位および2−位における酸に対応して、2つの集団のシグナルが普通は観察される。2つの環境がおよそ0.4ppmの分離を生じるので、それらは通常、容易に区別される。これら2つの集団のシグナル内で、各酸または酸のグループの分離シグナルがなければならない。酸がカルボキシル基に近い、例えばn=4,5または6の、炭素−炭素2重結合(すなわち、不飽和である)を有するとき、この基準は最も容易に満たされる。同じ2重結合グループ(例えば、EPAおよびAA)の酸からのカルボニル炭素シグナルは、普通は区別しないであろう。そのような方法は、GLA含有トリアシルグリセロールの解析に有用であるようであり、これがその事例であることが判明した。
【0050】
参考文献:
【0051】
【化1】

【0052】
実験
材料/試料−調製
モノ酸トリアシルグリセロールをSIgma ChemicalsおよびNu−Chek−Prep Incから購入した:
トリパルミチン (トリ−16:0)
トリステアリン (トリ−18:0)
トリオレイン (トリ−18:1n−9)
トリリノレイン (トリ−18:2n−6)
トリガンマリノレイン (トリ−18:3n−6)
トリエイコセノイン (トリ−20:1n−9)
トリエルシン (トリ−22:1n−9)
トリネルボニン (トリ−24:1n−9)
700μlのジューテリオクロロホルム中のおよそ180mgの脂質が、本研究にわたって使用された。
【0053】
13C−NMR−データ
NOEを抑圧したプロトンデカップル13CNMRデータを、21℃で、5mmブロードバンドプローブにおいて、125.728MHzで動作するJeol 500MHzスペクトロメーターで収集した。Waltzデカップリングはデカップリングの選択モードであり、そして14.89秒の獲得時間の間のみ開閉した。緩和猶予を30秒にセットし、そしてパルス角は90°であった。使用されたスペクトルウインドウは、170ppmオフセットで、およそ35ppmであった(173.5から172.6ppm)。スペクトルは、はじめ77.0ppmでCDClを参照した。典型的には、スキャンのおよその数を、混合物の複雑さに依存して、300から1200スキャンの幅で、適切なシグナルとノイズを収集した。実験の全獲得時間は、1−4時間の間の範囲であった(ルリジサオイル1272スキャン/4時間)。データ点65,536。
【0054】
計算
2−位および1,3−位でのGLAカルボニルシグナルを、トリアシルグリセロールのスペクトルにおける全てに渡るカルボニルピークからよく分離した。これは、2−GLA/1,3−GLAの比率を、全ての事例において信頼性および正確性をもって、決定することを可能にした。ルリジサオイルにおけるものと類似の比率であることが知られる、トリガンマリノレニンを含む8つのトリアシルグリセロールを含有する試験混合物を解析することにより、本方法の有効性が確認された。全組成は以前、GLCにより決定されてい
た。2つの計算方法を採用した。第一は、以下の2−GLAパーセンテージを計算する、内蔵(self−contained)NMR法であった。
【0055】
GLAx3x100のsn−2ピークの積分
sn−1,2および3全ての全積分
第二は、NMRおよび以下のようなGLCにより決定された全GLA組成から、2−GLA/1,3GLA積分を使用した。
【0056】
GLAxGC解析x3からの%GLAのsn−2ピークの積分
sn−1,2および3でのGLAの全積分
両演算からの結果は一致した。最も高い正確さで測定されうるそれぞれの方法からの変数を使用するので、本発明者らは、合成NMR−GLC法をより正確であるとみなす。GLAは、ルリジサオイルの主要成分であり、そしてしたがって結果に示すように、2−/1,3−GLA比率は、正確にNMRにより決定されうる。GLCは一般的に、少数の脂肪酸の組成を決定する点で、NMRよりも優れているが、位置情報は与えない。
【0057】
要約
実験データの詳細は、表およびスペクトルに示される。以下に要約される。カプセルDおよびBは、以下で報告される臨床試験において提供される試料カプセルである。
【0058】
【化2】

【0059】
これらのルリジサオイル試料において、sn−2位におけるGLA含量は、41−42%であり、すなわち全組成のおよそ2倍(1.95x)である。文献において報告された有望な典型的な試料は、全体で1.8倍の富化を示した。
【0060】
NMR法を使用して、sn−2位でのGLAの信頼できる解析データを与えることが可能である。確かに、他の脂肪酸の存在の非干渉のため、ルリジサオイルは特に適している。興味深いことに、NMR法からの結果が報告され、古い誘導−クロマトグラフィー法からのものと一致する。これら古い方法に由来する本発明者らの以前の試算(40%)もまた、NMRの結果と一致する。
【0061】
治療例
28人の活動的な再発−鎮静(先行する18月において2回の再発)の多発性硬化症患者(18から65歳の範囲の年齢)に、二重盲検偽薬対照試験を始め、18か月に渡るカプセル化ルリジサオイルの臨床活性および研究室変数に対する効果を調査した。このオイルは、低いモノエン(monene)(例えば、エルカ酸(erusic acid)含量を有する、高いSn−2 γリノレン酸(GLA)含量(>40% Sn−2でのGLA)であり、公知の免疫変調剤であるビタミンEが添加されていない。
【0062】
患者を、市内の病院で神経外来から募集した;病院のインフォームドコンセントを、最初の来院時に得た。除外基準は、ステロイドまたは免疫抑制剤のいずれかの形態、妊娠、高脂血症、アスピリンまたは関連薬剤の常用、および前3か月以内のビタミンまたは脂肪酸補給を含む。
【0063】
以下の基準の全てを満たした患者のみを試験において含んだ:(a)偏見なしにいつでもコンセントを撤回できるという完全な理解の下、治療の前にインフォームドコンセントを提供でき;(b)男性または女性の18歳から60歳の年齢(18歳および60歳を含む)の外来患者で;(c)臨床上明確な再発性MSの診断が確認され;(d)過去2年間において、少なくとも3回の記録された臨床的再発を有し;(e)よく記録された再燃を有するという条件で、0.0−0.5(0.0および0.5を含む)の基準拡大能力障害スコアスケール(baseline Expanded Disability Scoring Scale)(EDSS)を有し;そして、(f)病歴、身体検査、並びに尿および血液学試験である臨床化学により確認された、MS関連症状以外は健康であること。
【0064】
患者を、それぞれが12人の患者を含有する3つのグループの1つに、院内薬局によりランダムに割り当てた。
・偽薬(5gのポリエチレングリコール400)を受ける第一グループ(n=12)
・低用量(5g)の純化ルリジサ(Borago officinalis)を受ける第二グループ(n=12)
・高用量(15g)の純化ルリジサを受ける第三グループ(n=12)
【0065】
補給は、18か月の期間、毎日1グラムのオイルカプセル(低用量は5/日、高用量は15/日)の形態であった。ルリジサ(Borago officinalis)オイルおよびオメガ−6ポリ不飽和脂肪酸は、一般にヒトに安全と認められる(GRAS)食品添加物である。EC規則下での分類または標識要件はない。臨床評価は、以下を含む:拡大能力障害スコアスケール(EDSS)および臨床再発記録。静脈血(50ml)を、補給の1か月、3か月、6か月、12か月、15か月、18か月で実験室の研究のために得た。
【0066】
以下の生化学的および免疫学的変数を、治療前データとグループ間データを比較するために各患者で調査した。
・刺激および非刺激エクソビボ(ex vivo)末梢血単核細胞サイトカイン産生:TGF−β1、IFN−γ、TNF−α、IL−1β、IL−6およびIFN−β、これら
は、MSの病因に関わることが示唆されている。サイトカインおよび関連遺伝子発現。
・血清における可溶性接着分子、特にICAM−1およびVCAM−1。
・末梢血単核細胞膜脂肪酸組成および血漿リン脂質脂肪酸組成。
【0067】
結果を、表1および2、並びに図1から5に示めす。
第一の結果の変数は、基準(0か月)と治療の終了(18か月)の間の臨床再発の数であった。第二の結果の変数は以下を含んだ:はじめの臨床上の再発までの時間;EDSSスコアおよびステロイド治療の使用により評価されるような再発の重症度;並びに、3ヶ月間持続するEDSSの少なくとも1.0ポイントの増加、または3ヶ月間持続する基準EDSSからのEDSSの少なくとも1.5ポイントの増加として定義される、3,6,9,12および18か月での、基準と比較したEDSSの変化。この試験は外部資金を受けなかったので、磁気共鳴イメージングでMS疾患活性を評価することは、財政上の理由からできなかった。1of3。
【0068】
11人の患者が偽薬グループであり、7人の患者が低用量ルリジサオイルを摂取し、そして10人の患者が高用量ルリジサオイルを摂取した。試験薬剤はよく許容され、そして18か月の試験の間に深刻な不都合な出来事はなかった。
【0069】
結果
2人の患者は下痢を進展させ、その両名とも後に高用量のルリジサオイルを摂取していたことが確認された。下痢は1人の患者においては緩やかであったが、第二の患者においては中程度に深刻であり、後に試験薬剤を継続できなかった。コードは壊されず、そして薬剤の継続をやめた後に下痢は止まったが、再チャレンジ時に再び現れた。したがって、この患者を、試験から離脱した。高用量のルリジサオイルで治療された残りの患者は、第一のおよび第二の結果基準で、すばらしい臨床上の改善を示した。例えば、治療の6か月後の、彼らの平均EDSSスコアは、基準EDSSから改善した(図1)。より重要なことに、偽薬グループにおける再発の数と比較したとき、治療の6か月後の臨床上の再発の平均数が有意に減じた(図2)。反対に、低用量ルリジサオイルを受けた患者は、偽薬グループと比較したとき、いずれの臨床上の改善も示さなかった。MS疾患活性に対する有益な効果に加えて、高用量のルリジサオイルは、筋痙直(凝り)および有痛感覚性症状の症状緩和を提供し、そして認知機能もまた改善する。
【0070】
以下の図で見られるように、9,12および18か月後の再発率は、高用量グループで0まで下がった。15か月で見られる増加は、このグループから抜け出した患者のためであった。
【0071】
以下は、高用量高sn−2 GLAルリジサオイルの治療上の利点を説明するための、3つの短い事例歴である。はじめの2人は本試験からであり、一方3人目はMRI研究が得られた過去の試験患者である。
【0072】
患者1(治療):
第一の患者は48歳の女性であり、臨床的に活性な再発鎮静MSを9年間有した。彼女は、元々は地方の保健機関のフルタイムの行政官として勤務していたが、深刻なMSのために職務を遂行することができなかった。したがって、彼女は後にパートタイムの秘書として勤務したが、筋肉の凝りおよび感覚の混乱のため、それでも授動において困難を有した。彼女は、平均して9か月ごとに1回、深刻な臨床上の再発もまた経験していた。これらの再発の多くは、ステロイド療法のための入院という結果となった。彼女の活性MSを考慮して、彼女をルリジサオイル試験に入れた。本研究に関する不利な出来事がなく、そして4か月の医薬品摂取の後で、彼女は歩行および感覚性症状において良い改善を経験した。
【0073】
治療後およそ9か月で、彼女はフルタイム雇用を始めるに足りるほどであった。加えて、彼女は、臨床試験の18か月の間、再発しないままであった。試験の終結の後、彼女は高用量のルリジサオイルを摂取したという試験コードが明らかとなった。
【0074】
患者2(対照):
第二の事例は46歳の女性であり、臨床上活性な再発鎮静MSを8年間もまた有した。彼女は、元々は店のアシスタントとして働いていたが、MSと診断された後、失業した。
【0075】
彼女の症状は、両足において授動の困難性および有痛感覚性症状を含んだ。彼女は、臨床試験に先行する2年間において、3度の臨床上の再発を経験し、そしてステロイド療法のために2回入院した。したがって、彼女はルリジサオイル試験に入れられたが、彼女の歩行は悪化し続けた。試験に入って6か月で、彼女は杖の使用を必要とし、そして低い四肢の痙直を減ずるために、Balclofenでの治療もまた受けた。ルリジサオイル試験の開始後およそ10月で、彼女は深刻な臨床上の再発のために入院し、ステロイドで治療された。彼女は、後に膀胱障害を進展し、そして長い道のりで車いすを使用し始めた。治療コードは18か月の試験の終結の後に壊され、そして彼女は偽薬を摂取していたことがわかった。それ以来、彼女は50ヤードを越える道のりに歩行器を使用し始めた。
【0076】
患者3:治療(試験の追加)
第三の事例は26歳の男性であり、2001年4月に明確なMSと診断された。彼の症状は1999年に始まり、そのときに彼は、体の種々の部分、特に胸部および腹部の左側に影響する広汎で処置しにくい疼痛を訴えた。これは、変動する脱力に関連した手および足の断続的しびれに続いた。また、頻尿および尿意切迫の形態で苦痛な膀胱の症状もあった。2001年のMSの診断は再発鎮静症状に基づき、そしてポジティブ脳脊髄液解析および脳の磁気共鳴イメージング(MRI)により確認され、それは両大脳半球における複数の白質異常を示した。症状は種々の医薬的療法に応答しなかった。
【0077】
2003年4月に、本高用量のルリジサオイルの経口補給を開始した。この経口補給の開始の3か月以内に、該患者は症状の劇的な改善を報告した。彼の有痛感覚性症状は完全に消失した。2003年5月以来、彼はしびれまたは脱力を報告せず、そして膀胱の制御における有意な改善に気づいた。経口補給は不都合な出来事を引き起こさなかった。繰り返しの脳のMRIが、N氏症状(Mr N‘s symptom)において報告された改善を実証することを保証した。繰り返しのMRIは、白質異常のサイズおよび配置が減じたことを示した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】18か月での、偽薬および試験オイルで処理されたヒトMS患者における、末梢血単核細胞サイトカイン産生を示す。
【図2】棒グラフとして表わされた高用量(15g/日)と比較した、ヒトMS患者のEDSSスコアに対する偽薬および低用量(5g/日)高sn−2 GLAルリジサオイルの影響を示す。
【図3】グラフとして表わされた、ヒトMS患者のEDSSに対する偽薬、低用量、および高用量の高sn−2 GLAルリジサオイルの影響を示す。
【図4】棒グラフとして、ヒトMS患者の平均再発率(%)に対する偽薬、低用量、および高用量の高sn−2 GLAルリジサオイルの影響を示す。
【図5】グラフとして、ヒトMS患者の平均再発率(%)に対する偽薬、低用量、および高用量の高sn−2 GLAルリジサオイルの影響を示す。
【図6】マウスCREAEに対する防御的効果と比較した、オイルのリノレン酸:γ−リノレン酸比率の効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患の治療を必要とする患者を治療する方法であって、トリグリセリドエステルとしてγ−リノレン酸残基およびリノレン酸残基の両方を含有するトリグリセリドオイルの治療上有効な用量をその患者に投与することを含んでなり、トリグリセリドのsn−2位でのγ−リノレン酸残基のリノレン酸残基に対する比率が少なくとも0.8であり;sn−2位でのγ−リノレン酸残基の量が少なくとも18%であり、ここで該オイルが治療レベルで患者においてTGF−β1レベルを維持するかまたは上昇するのに十分な用量で投与される、前記方法。
【請求項2】
18か月の毎日の服用の後に、治療レベルが患者の血液中において少なくとも0.5のTGF−β1/TNF−α比率を産生するような、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
比率が少なくとも0.75である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
比率が少なくとも1である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
投与されるオイルの量が、1日当たり3から30グラムの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
オイルが経口で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
用量が、オイルの他のγ−リノレン酸含量を除き、sn−2位における残基として、少なくとも1グラムのγ−リノレン酸残基を投与するために十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
オイルの用量においてsn−2位でのγ−リノレン酸の量が、少なくとも2グラムの前記sn−2 γ−リノレン酸を投与するために十分である、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
用量が8から20グラムの間である、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
γ−リノレン酸脂肪酸残基およびリノレン酸脂肪酸残基に加えて、トリグリセリドが、非構造的であるエステル化脂肪酸を含む、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
トリグリセリドが、オレイン酸残基を含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
オイルが、ケカビ属(Mucor)およびボラゴ(Borago)属の種からなる群より選択される真菌または植物から得られるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
真菌または植物が、ムコール ジャバニカス(Mucor javanicus)およびルリジサ(Borago officianalis)から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
オイルが、sn−2位でのエステル化γ−リノレン酸のパーセンテージが、その位での脂肪酸残基の少なくとも35%である、ボラゴ属のオイルである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
sn−2位でのエステル化γ−リノレン酸のパーセンテージが、その位での脂肪酸残基の少なくとも39%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
sn−2位でのエステル化γ−リノレン酸のパーセンテージが、その位での脂肪酸残基の少なくとも45%である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
sn−1位およびsn−3位における脂肪酸残基が、リノレン酸残基、オレイン酸残基およびγ−リノレン酸残基を含む、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
トリグリセリドオイルが、sn−1位およびsn−3位の一方または両方において12%を越えるオレイン酸含量を有する、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
オイルが、ケカビ属のオイルであり、そしてsn−2位でのエステル化γ−リノレン酸残基の全パーセンテージが、その位での脂肪酸残基の少なくとも20%である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
トリグリセリドオイルが、45%を越えるsn−2脂肪酸残基をオレイン酸残基として有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
トリグリセリドオイルが、50%を越えるsn−2脂肪酸をオレイン酸残基として有する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
トリグリセリドオイルが、5%未満の単一不飽和(monoenoic)脂肪酸残基を全脂肪酸残基%として含有する、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
トリグリセリドオイルが、全脂肪酸残基のパーセンテージとして、全体で5%未満のエルカ酸(22:1n−9)、24:1n−9(ネルボン酸)および20:1n−9(ガドレイン酸)を含有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記酸の量が、オイルにおける脂肪酸残基の1%から5%の間である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
オイルが追加のビタミンEを有さない、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
ビタミンEの量が0から0.1mg/gの間である、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
神経変性疾患を抑止し、または神経機能が回復する、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
治療が頭部外傷、脳梗塞および頭蓋内出血に関連する多発性硬化症または変性続発症のためである、前述の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項29】
治療が損傷を修復する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
治療が筋痙直および/または筋疼痛を緩和するために十分な用量を使用する、請求項1または28に記載の方法。
【請求項31】
用量が認知機能を改善するために十分である、請求項1または28に記載の方法。
【請求項32】
用量が再発を排除するために十分である、請求項1または28に記載の方法。
【請求項33】
用量が1年の治療期間に渡る、少なくとも1ユニットによって、患者のEDSSスコアを改善するために十分である、請求項1または28に記載の方法。
【請求項34】
用量が1年の治療期間に渡って、2.5より上のEDSSを有する患者のEDSSを、2よりも下に回復するために十分である、請求項1または28に記載の方法。
【請求項35】
神経変性疾患の治療のための医薬の製造のための、請求項1ないし34のいずれか1つに記載のオイルの使用。
【請求項36】
神経変性疾患の治療のための医薬組成物であって、請求項14ないし26のいずれか1つに記載のボラゴ属またはケカビ属の種のトリグリセリドオイルを含んでなる、前記医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−144195(P2011−144195A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53394(P2011−53394)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【分割の表示】特願2006−530503(P2006−530503)の分割
【原出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【出願人】(500431508)ビーティージー・インターナショナル・リミテッド (41)
【Fターム(参考)】