神経変性疾患のための診断および治療の標的ADARB2タンパク質
本発明は、アルツハイマー病患者におけるADARB2遺伝子、及びそのタンパク質産物の調節不全を開示する。この知見に基づいて、本発明は、対象におけるアルツハイマー病を診断及び予知する方法、及び対象がアルツハイマー病を発症するリスクが高いかどうかを判定する方法を提供する。また、本発明は、ADARB2遺伝子及びその対応する遺伝子産物を用いて、アルツハイマー病及び関連神経変性疾患を治療及び予防する治療及び予防方法を提供する。神経変性疾患の調節薬剤をスクリーニングする方法も開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における神経変性疾患の進行を診断、予知及び監視する方法に関する。また、神経変性疾患の薬剤を調節するための治療管理(therapy control)及びスクリーニングの方法も提供する。本発明は、薬剤組成物、キット及び組み換え動物モデルも開示する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生活を大きく衰弱させる影響がある。また、神経変性疾患は、健康上、社会的及び経済的に非常に大きな負担になる。ADは、最も一般的な神経変性疾患であり、全認知症例の約70%を占める。ADは、恐らく最も破壊的な加齢神経変性症状であり、65歳を超える人口の約10%、85歳を超える人口の最高45%で発症する(Vickers et al., Progress in Neurobiology 2000, 60: 139−165; Walsh and Selkoe, Neuron 2004, 44: 181−193)。現在、ADは、米国、欧州及び日本において推定12百万例に上る。この状況は、先進国においては老人の数が人口統計上増加しており、必然的に悪化している。AD患者の脳に生じる神経病理学的特徴は、アミロイド−βタンパク質で構成される老人斑、並びに異常な繊維状構造の出現及び神経原線維変化の形成と同時に発生する重大な細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイドβタンパク質は、異なる種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂によって生成する(Selkoe and Kopan, Annu Rev Neurosci 2003, 26:565−597; Ling et al., Int J Biochem Cell Biol 2003, 35:1505−1535)。2つのタイプの斑、すなわち、びまん性老人斑と神経突起斑を、AD患者の脳中で検出することができる。これらの斑は、主に大脳皮質及び海馬に見られる。脳中の有毒なAβの沈着は、ADの極めて初期に始まり、AD病状をもたらす後続の破壊的過程に重要な役割を果たすと考えられている。ADの他の病理学的特徴は、神経原線維変化(NFT)、及び神経じゅう毛糸として記述される異常な神経突起である(Braak and Braak, J Neural Transm 1998, 53: 127−140)。NFTは、ニューロン中に出現し、化学変化したタウからなり、互いに巻きついた二重らせん状細線維(PHF)を形成する。NFTの形成に並行して、ニューロンの減少を認めることができる(Johnson and Jenkins, J Alzheimers Dis 1996, 1: 38−58; Johnson and Hartigan, J Alzheimers Dis 1999, 1: 329−351)。神経原線維変化の出現、及びその数の増加は、ADの臨床的重症度と良く相関する(Schmitt et al., Neurology 2000, 55: 370−376)。ADは、初期に起こる記憶形成の欠陥、及び最終的なより高度の認知機能の完全な低下に関連した進行性疾患である。認知障害としては、とりわけ、記憶障害、失語症、失認、遂行機能の喪失などが挙げられる。ADの原因の特徴は、神経細胞の特定の脳領域及び亜集団が変性過程に対して選択的に脆弱であることである。具体的には、下側頭葉領域及び海馬が、初期に影響を受け、疾患の進行中により重度に影響を受ける。一方、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは、ほとんど無傷であり、神経変性から保護される(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10: 184−92)。
【0004】
現在、ADは不治の病であり、ADの進行を抑える有効な治療もなく、さらには存命中に高い確率でADを診断する有効な処置すらない。個体にADを発症させる幾つかのリスク因子が確認された。とりわけ、アポリポタンパク質E遺伝子(ApoE)の3種類の異なる既存の対立遺伝子(イプシロン2、3及び4)のうちイプシロン4対立遺伝子が最も顕著である(Strittmatter et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 1977−81; Roses, Ann NY Acad Sci 1998, 855: 738−43)。染色体21上のアミロイド前駆体タンパク質(APP)、染色体14上のプレセニリン−1、及び染色体1上のプレセニリン−2の遺伝子欠陥に起因する早発性ADの例はまれであるが、主要な形態である遅発性散発性ADは、まだ病因が不明である。神経変性疾患の晩期発症及び複雑な原因は、治療薬及び診断薬の開発にとって大変な難題である。薬物標的候補及び診断マーカー候補のプールを拡大することが極めて重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の一目的は、神経疾患の原因を洞察し、神経疾患のとりわけ診断及び治療開発に適した方法、材料、薬剤、組成物及び動物モデルを提供することである。この目的は、独立請求項の特徴によって解決された。下位クレームは、本発明の好ましい実施形態を規定するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒトのアルツハイマー病脳試料における、アデノシンデアミナーゼ、ADAR3又はRED2とも称される、RNA特異的アデノシンデアミナーゼADARB2をコードする、ADAR遺伝子ファミリーの遺伝子、及びADARB2のタンパク質産物の調節不全の差次的発現の検出に基づく。ADARB2は、以前はADARBとして知られていた。以前に使用されたかかる遺伝子記号ADARBは、HUGO(Human Genome Organisation)遺伝子命名法(http://www.gene.ucl.ac.uk/nomenclature/)に従ってADARB2に改名された。選択的アデノシン脱アミノによる核pre−mRNAの編集はすべての生物体において起こる。この転写後の機序によって、コドンが変化し、したがってタンパク質の構造及び機能が変化し得る。ほ乳動物二本鎖(ds)RNA特異的アデノシンデアミナーゼの2種類、ADAR1及びADAR2は、dsRNAにおいてアデノシン残基をイノシンに変換し、グルタミン酸受容体サブユニット(GluR2)及びセロトニン受容体サブタイプ2C(5HT2c)の各転写物のAからIへの編集に関与することが見出された(Seeburg, Neuron 2002, 35:17−20; Maas et al., J. Biol. Chem. 2003, 278:1391−1394)。これらのRNA編集は、これらの膜貫通タンパク質の成熟、細胞内輸送、及び他のサブユニットとの集合を制御することによって、GluR2及び5HT2cの機能を調節する。例えば、GluR2の未編集体は、高いCa2+透過性を有し、恐らくはニューロン死をもたらす(Reenan, Trends in Genetics 2001, 17:53−56)。ADAR1又はADAR2によるAからIへのRNA編集の不足は、てんかん、ALS、うつ病などの疾患と関係する。これは、GluR2、5HT2c及びKv2−カリウムチャネルの編集異常のためである(Kwak et al., J. Mol. Med. 2005, 83:110−120; Maas et al., J. Biol. Chem. 2003, 278:1391−1394)。ADAR2ノックアウトマウスは、てんかん発作の発症を繰り返した後、早死にした(Higuchi et al., Nature 2000, 406:78−81)。異常赤血球産生症の欠陥を含む致死的表現型は、ADAR1+/−胚性幹細胞に由来するキメラマウス胎仔において観察されたことも報告された(Wang et al., Science 2000, 290:1765−1768)。ADARB2(別名ADAR3)は、ADAR遺伝子ファミリーの第3のメンバーであり、C末端デアミナーゼドメイン、内部二本鎖RNA結合ドメインなどの共通の構造的特徴を有する。また、ADARB2は、アルギニン及びリジンの豊富な一本鎖(ss)RNA結合ドメインをN末端に含む。したがって、ADARB2は、dsRNAだけでなく、ssRNAにも結合することができる。ADAR1及びADAR2の発現が広範に分布するのに対して、ADARB2の発現は、脳に限定され、脳中で発現は広範に分布し、嗅球及び視床において最高レベルに達する。さらに、ADARB2は、GluR2及び5HT2c mRNAの編集に対して酵素活性を示さないことが、インビトロ及びインビボでのアッセイによって証明された。注目すべきことには、ADARB2は、他のADARメンバーのRNA編集活性に対して、少なくともインビトロで、強力な競合阻害効果を示す。これは、ADARB2が、ほ乳動物の脳において基質特異的RNA編集の調節にある役割を果たす可能性を示唆している(Melcher et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:31795−31798; Chen et al., RNA 2000, 6:755−767)。
【0007】
図1は、GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示すグラフである。このグラフは、それぞれのmRNA種のレベルがADの進行と定量的に相関し、したがってBraak and Braak(ブラーク病期分類)に従った脳組織試料の神経病理学的病期分類によって測定されたADを表すことを示している。
図2は、定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータを示す。
図3は、定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果を示すグラフである。
図4Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す図である。
図4Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す図である。
図4Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す図である。
図4Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す図である。
図5Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
図5Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す図である。
図5Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す図である。
図5Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す図である。
図6Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1のコード配列(cds)である配列番号9を示す図である。
図6Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2のコード配列(cds)である配列番号10を示す図である。
図6Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3のコード配列(cds)である配列番号11を示す図である。
図6Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4のコード配列(cds)である配列番号12を示す図である。
図7は、定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマーと、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントを示す図である。
図8は、ADARB2転写レベルプロファイリングに使用した、ADARB2 cDNA配列、コード配列、及び両方のプライマー配列のアラインメントを示す略図である。
図9は、親和性精製されたポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果を示す図である。
図10Aは、ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0−2)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4−6)から得た大脳皮質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
図10Bは、ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0及び1)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4及び6)から得た大脳白質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
図11は、ウエスタンブロット分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
図12は、免疫蛍光分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、特に記載しない限り、複数形を含む。例えば、「細胞」は複数の細胞も意味する。以下同様である。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する「及び/又は」という用語は、この用語の前後の句を代替物又は組合せとみなすべきであることを意味する。例えば、「レベル及び/又は活性の測定」という表現は、レベルのみ、活性のみ、又はレベルと活性の両方を測定することを意味する。
【0010】
本明細書では「レベル」という用語は、転写産物、例えばmRNA、翻訳産物、例えばタンパク質、ポリペプチドなどの物質の量又は濃度の尺度又は基準を含むものとする。
【0011】
本明細書では「活性」という用語は、転写産物、翻訳産物などの物質の生物学的効果をもたらす能力の基準、又は生物活性分子のレベルの基準と理解されるものとする。「活性」という用語は、生物活性及び/又は薬理活性とも称し、デアミナーゼ又はデアミナーゼサブユニットの結合、拮抗、抑圧、遮断、中和又は隔離、並びにデアミナーゼ又はデアミナーゼサブユニットの活性化、アゴナイゼーション(agonization)及び上方制御を指す。
【0012】
本明細書では「レベル」及び/又は「活性」という用語は、遺伝子発現レベル又は遺伝子活性も指す。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生をもたらす転写及び翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用として定義し得る。
【0013】
「調節不全」とは、遺伝子発現の増加又は減少、及び/又は遺伝子産物の安定性の向上又は低下を意味するものとする。遺伝子産物は、RNA又はタンパク質を含み、遺伝子発現の結果である。遺伝子産物の量によって、遺伝子の活性、及びその遺伝子産物の安定性を測定することができる。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する「遺伝子」という用語は、コード領域(エキソン)と非コード領域(例えば、プロモーター又はエンハンサー、イントロン、リーダー、トレーラー配列などの非コード調節要素)の両方を含む。
【0015】
「ORF」という用語は、「オープンリーディングフレーム」の頭字語であり、少なくとも1個の読み枠中に終止コドンを含まない核酸配列を指し、したがって一連のアミノ酸に潜在的に翻訳することができる。
【0016】
「調節要素」は、誘導及び非誘導プロモーター、エンハンサー、オペレーター並びに遺伝子発現を駆動し、調節する他の要素を含むものとする。
【0017】
本明細書では「断片」という用語は、例えば、選択的にスプライスされた、短縮された、又は分割された、転写産物又は翻訳産物を含むものとする。例えば、配列番号1、2、3及び4のタンパク質は、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物であり、スプライスバリアントを構成する。
【0018】
本明細書では「誘導体」という用語は、変異した、RNA編集された、化学修飾された、若しくは改変された転写産物を指し、又は変異した、化学修飾された、若しくは改変された翻訳産物を指す。明確にするために、例えば、誘導転写物は、核酸配列中に単一又は複数のヌクレオチド欠失、挿入、交換などの改変を有する転写物を指す。例えば、誘導翻訳産物は、改変されたリン酸化、グリコシル化、アセチル化、脂質化などのプロセスによって、又は改変されたシグナルペプチド切断若しくは他のタイプの成熟切断(maturation cleavage)によって、生成し得る。これらのプロセスは、翻訳後に起こり得る。
【0019】
本発明及び特許請求の範囲において使用する「調節物質」という用語は、遺伝子のレベル及び/又は活性、遺伝子の転写産物、又は遺伝子の翻訳産物を変化又は改変し得る分子を指す。「調節物質」とは、タンパク質の機能特性を促進又は阻害する、したがって「調節する」、結合、拮抗、抑圧、遮断、中和又は隔離、活性化、アゴナイゼーション及び上方制御を「調節する」、能力を有する分子を指す。「調節」は、細胞の生物活性に影響を及ぼす能力を指すのにも使用する。「調節物質」は、遺伝子の転写産物又は翻訳産物の生物活性を変化又は改変し得ることが好ましい。例えば、前記調節は、生物活性及び/又は薬理活性の増加若しくは減少、結合特性の変化、又は遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的若しくは免疫学的諸性質の任意の他の変化若しくは改変であり得る。
【0020】
「薬剤」、「試薬」又は「化合物」という用語は、細胞、組織、体液に対して、又は試験する任意の生物系若しくは任意のアッセイ系に関連して、正又は負の生物学的効果を有する、任意の物質、化学物質、組成物又は抽出物を指す。これらは、標的の作動物質、拮抗物質、部分作動物質又は逆作動物質であり得る。かかる薬剤、試薬又は化合物は、核酸、天然若しくは合成のペプチド若しくはタンパク質複合体、又は融合タンパク質であり得る。これらは、抗体、有機又は無機の分子又は組成物、小分子、薬物、及び前記薬剤のいずれかの任意の組合せでもあり得る。これらは、試験、診断又は治療目的で使用することができる。
【0021】
「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「プライマー」という用語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって所与の標的ポリヌクレオチドにアニールすることができ、ポリメラーゼによって伸長させることができる短い核酸配列を指す。これらは、特定の配列に特異的であるように選択することができ、又は無作為に選択することができ、例えば、混合して、すべての可能な配列を与える(prime)。本明細書において使用するプライマーの長さは、10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動し得る。「プローブ」は、本明細書に記載及び開示する核酸配列の短い核酸配列、又はその相補配列である。「プローブ」は、完全長配列、又は所与の配列の断片、誘導体、アイソフォーム若しくは変異体を含み得る。「プローブ」と評価試料のハイブリダイゼーション複合体を同定することによって、試料中の他の類似の配列の存在を検出することができる。
【0022】
本明細書では「相同体又は相同性」は、あるヌクレオチド又はペプチド配列と別のヌクレオチド又はペプチド配列との同一性及び/又は類似性の程度によって決定される、前記比較配列間の関連性を記述するのに当分野で使用される用語である。
【0023】
当分野では、「同一性」及び「類似性」という用語は、問い合わせ配列と、好ましくは同じタイプの他の配列(核酸又はタンパク質配列)とを照合することによって求められる、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の関連性の程度を意味する。「同一性」及び「類似性」を計算し、決定する、好ましいコンピュータプログラム方法としては、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 1990, 215: 403−410; Altschul et al., Nucleic Acids Res. 1997, 25: 3389−3402; Devereux et al., Nucleic Acids Res. 1984, 12: 387)、BLASTN 2.0(Gish W., http://blast.wustl.edu, 1996−2002)、FASTA(Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988, 85: 2444−2448)、重複が最大になる1対のコンティグを求め、整列させるGCG GelMerge(Wilbur and Lipman, SIAM J. Appl. Math. 1984, 44: 557−567; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 1970, 48: 443−453)などが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0024】
本明細書では「変異体」という用語は、本発明で開示するポリペプチド及びタンパク質に関連して、本発明の天然ポリペプチド又はタンパク質のN末端及び/又はC末端及び/又は天然アミノ酸配列内に、1個以上のアミノ酸が付加及び/又は置換及び/又は欠失及び/又は挿入されているが、その本質的な諸性質を保持している、任意のポリペプチド又はタンパク質を指す。また、本明細書では「変異体」という用語は、本発明で開示する遺伝子転写物に関連して、1個以上のヌクレオチドが付加及び/又は置換及び/又は欠失された、任意のmRNAを指す。
【0025】
また、「変異体」という用語は、ポリペプチド又はタンパク質の任意のより短い、又はより長い、ポリペプチド又はタンパク質を含むものとする。「変異体」は、配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質の少なくとも200アミノ酸長にわたって、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列も含むものとする。「変異体」は、例えば、極めて保存的な領域における保存的アミノ酸置換を有するタンパク質も含む。
【0026】
また、「変異体」という用語は、遺伝子転写物の任意のより短い、又はより長い、遺伝子転写物を含むものとする。「変異体」は、配列番号5、6、7又は8のADARB2遺伝子転写物の少なくとも600ヌクレオチド長にわたって、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列も含むものとする。代替塩基配列のためにコドンが別のコドンで置換されているが、DNA配列によって翻訳されたアミノ酸配列は不変である配列変化を含むものとする。当分野で公知のこの現象は、特定のアミノ酸を翻訳するコドンセットの冗長性と呼ばれる。
【0027】
本発明の「タンパク質及びポリペプチド」は、配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質の変異体、断片及び化学誘導体を含む。アルギニンとリジン、バリンとロイシン、アスパラギンとグルタミンなど、機能性に影響を及ぼさないアミノ酸交換を含むものとする。天然から単離することができる、又は組み換え及び/又は合成手段によって製造することができる、タンパク質及びポリペプチドが含まれ得る。未変性タンパク質又はポリペプチドとは、天然の切断型又は分泌型、天然の変異型(例えば、スプライスバリアント)、及び天然の対立遺伝子変異体を指す。
【0028】
本明細書では「単離された」という用語は、分子又は物質がその自然環境から変更され、及び/又は取り出され、すなわち分子又は物質が通常存在する、細胞又は生きている生物体から単離され、かつ自然界において付随することが判明している共存成分から分離され、又は本質的に精製された、分子又は物質を指すとみなされる。この概念は、さらに、かかる分子をコードする配列が、その自然状態では連結されていないポリヌクレオチドに人工的に連結され得ることを意味し、かかる分子が、組み換え及び/又は合成手段によって製造され得ることを意味する。かかる分子は「非天然」であるとも言える。前記目的のためであっても、これらの配列を、生きている、又は死んでいる生物体に当業者に公知の方法によって導入することができ、これらの配列が依然として前記生物体中に存在する場合でも、これらの配列はやはり単離されているとみなされる。本発明において、「リスク」、「感受性」及び「素因」という用語は、等価であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する可能性に関して使用される。
【0029】
「AD」という用語は、アルツハイマー病を意味するものとする。本明細書では「AD型神経病理」、「AD病理」は、本発明に記載の、また、最新技術の文献から一般に公知の、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的及び臨床的な特徴、徴候及び症候を指す(Iqbal, Swaab, Winblad and Wisniewski, Alzheimer’s Disease and Related Disorders (Etiology, Pathogenesis and Therapeutics), Wiley & Sons, New York, Weinheim, Toronto, 1999; Scinto and Daffner, Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease, Humana Press, Totowa, New Jersey, 2000; Mayeux and Christen, Epidemiology of Alzheimer’s Disease: From Gene to Prevention, Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1999; Younkin, Tanzi and Christen, Presenilins and Alzheimer’s Disease, Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1998参照)。
【0030】
「ブラーク病期」又は「ブラーク病期分類」という用語は、Braak and Braak(Braak and Braak, Acta Neuropathology 1991, 82: 239−259)によって提案された判定基準に従った脳の分類を指す。ADのブラーク病期分類は、前脳の限定された領域における神経原線維の病理の程度及び分布を評価し、ADの神経病理的進行を6段階に分類する(病期0から6)。ブラーク病期分類は、死後のADの神経病理学的病期分類において、確立され、広く容認されている手順である。精神状態及び認知機能/障害に関するAD患者の臨床症状と、剖検後に得られた対応するブラーク病期との間に有意な相関のあることが確認された(Bancher et al., Neuroscience Letters 1993, 162: 179−182; Gold et al., Acta Neuropathol 2000, 99: 579−582)。同様に、神経原線維の変化と神経細胞病理との相関が見出され(Rossler et al., Acta Neuropathol 2002, 103:363−369)、どちらも認知機能を予測すると報告された(Giannakopoulos et al., Neurology 2003, 60: 1495−1500; Bennett et al., Arch Neurol 2004, 61:378−384)。さらに、ベータ−アミロイドペプチドの沈着を含み、最後に神経原線維変化が形成される発症カスケードが提案された。したがって、神経原線維変化の形成は、分子/細胞レベルにおける初期のAD特異的現象が先行することの証拠になる(Metsaars et al., Neurobiol Aging 2003, 24:563−572)。
【0031】
したがって、本発明においては、ブラーク病期は、個々のドナーの臨床症状/状態とは無関係に、すなわち報告される精神病、認知障害、他の神経精神医学的パラメータの低下、又はADの明白な臨床診断の有無とは無関係に、疾患進行の代用マーカーとして使用される。すなわち、ブラーク病期分類が、分子及び細胞的な根本的発症機序全般を反映し、したがって脳の(病前の)病的状態を規定する、神経原線維の変化と推定される。これは、例えば、ブラーク1の病期にあるドナーが、定義上、病期2(又はそれ以上)のドナーよりも分子/細胞的原因のより初期の段階にあり、したがって、ブラーク病期1のドナーは、例えば、それよりも高いブラーク病期のドナーと比較して、対照個体とみなし得ることを意味する。この点で、対照個体と罹患個体の区別は、健康な対照ドナーとAD患者の臨床診断に基づく区別と必ずしも同じではなく、代用マーカーであるブラーク病期から推定され、また、ブラーク病期によって反映される(病前の)病的状態の推定された差を表す。
【0032】
本発明においては、ブラーク病期0は、アルツハイマー病の徴候及び症候を示していないと考えられる人を表し得るものであり、ブラーク病期1から4は、前記個体がADの臨床徴候及び症候を既に示しているかどうかによって健康な対照個体又はAD患者を表し得る。ブラーク病期が高いほど、ADの徴候及び症候を示す可能性が高く、又はADの徴候及び症候を生じるリスクが高い。神経病理学的評価、すなわち、ADの病変が認知症の根本的原因である確率を推定する場合には、推奨がBraak H.(www.alzforum.org)によって与えられる。
【0033】
対照から得られる値は、既知の健康状態を表す基準値であり、患者から得られる値は、既知の疾患状態を表す基準値である。
【0034】
本発明による神経変性疾患又は障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭型認知症、進行性核性麻ひ、大脳皮質基底核変性症、脳血管性認知症、多系統萎縮症、し銀性顆粒認知症及び他のタウオパチー並びに軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含む更なる症状は、例えば、虚血性脳卒中、加齢黄斑変性症、ナルコレプシー、運動ニューロン疾患、プリオン病、外傷性神経損傷及び修復並びに多発性硬化症である。
【0035】
本発明は、ADAR3、RED2又は単にADARBとも称されるRNA特異的アデノシンデアミナーゼADARB2をコードするADAR遺伝子ファミリーの遺伝子の、また、特定の試料、AD患者の特定の脳領域、相互比較及び/又は同齢対照個体との比較において異なるブラーク病期にグループ分けされた各個体の特定の脳領域における、前記遺伝子ADARB2(ADARB)のタンパク質産物の、同定、差次的発現、差次的調節、調節不全を開示する。本発明は、AD患者の下側頭葉皮質及び前頭皮質においてADARB2 mRNAレベルが増加し、上方制御される点で、対照個体のそれぞれの脳領域と比較して、AD患者の脳において、ADARB2(ADARB)の遺伝子発現が変化し、調節不全であることを開示する。また、本発明は、ADARB2発現が、異なるブラーク病期にグループ分けされた各個体の特定の脳領域において異なり、主に下側頭葉皮質において、発現レベルの増加が初期のブラーク病期(ブラーク1−3)において既に始まり、晩期のブラーク病期(ブラーク4−6)に向かって次第に増加することを開示する。
【0036】
AD患者と対照個体を比較すると、また、異なるブラーク病期を比較すると、ADARB2遺伝子転写レベルにおいて観察される差は、ADARB2タンパク質レベルにおいて見出すことができる実質的な差によってさらに裏付けられる。対照個体と比較して、AD患者の脳試料では、ADARB2タンパク質レベルが実質的に増加している。AD型病理の発症と並行した、ADARB2遺伝子発現のこの調節不全、並びに対応する遺伝子産物のレベルの変化は、ADARB2とADの関連性を明らかに反映しており、疾患の過程における進行性の病理学的現象を示している。現在まで、ADARB2遺伝子発現の調節不全と神経変性疾患、特にADの病理との関係を実証した実験は記述されていない。同様に、ADARB2遺伝子の変異が、前記疾患と関連があることも記述されていない。ADARB2遺伝子とかかる疾患を関連付けることによって、とりわけ前記疾患の診断及び治療のための、新しい方法がもたらされる。さらに、ADARB2と、ADの発症過程の初期に既に発生している病理学的現象とを関連付けることによって、AD病理の開始を阻止する治療の可能性がもたらされる。治療は、修復不能な脳の損傷が起こる前に施される。その結果、本発明は、診断評価、治療を受けている人の診断監視、予後、及び神経変性疾患、特にADの素因の特定に有用である。
【0037】
本発明は、ADARB2をコードする遺伝子、及びAD患者の特定の脳領域におけるその遺伝子産物の調節不全を開示する。下側頭葉、嗅内皮質、海馬及びへん桃体内のニューロンは、ADにおける変性過程を受けやすい(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10:184−192)。これらの脳領域は、学習及び記憶機能の処理に主に関与し、ADにおけるニューロンの減少及び変性に対して選択的な脆弱性を示す。これに対し、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは、ほとんど無傷のままであり、神経変性プロセスから保護されている。AD患者及び同齢対照の前頭皮質(F)及び下側頭葉皮質(T)から得られた脳組織を本明細書で開示する実施例に使用した。その結果、ADARB2遺伝子並びにその対応する転写及び/又は翻訳産物は、原因となる役割を果たし、及び/又は選択的ニューロン変性及び/又は神経保護に対して影響を及ぼす。
【0038】
一態様においては、本発明は、対象における神経変性疾患を診断若しくは予知する方法、対象が前記疾患を発症する素因を有するどうか、前記疾患を発症するリスクが大きいかどうかを判定する方法、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視する方法を特徴とする。本方法は、前記対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定すること、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその前記断片、誘導体又は変異体の前記レベル、発現及び/又は前記活性を、既知の疾患状態(患者)を表す基準値、及び/又は既知の健康状態(対照)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較すること、前記レベル及び/又は前記活性が、既知の健康状態を表す基準値と比較して変動するかどうか、変化するかどうか、及び/又は既知の疾患状態を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうか、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較して類似しているかどうか(これらは、前記対象が神経変性疾患を有することの指標、前記対象が前記疾患の徴候及び症候を生じるリスクが大きいことの指標である。)を解析し、それによって前記対象における前記神経変性疾患を診断若しくは予後判定すること、又は前記対象が前記神経変性疾患を発症するリスクが大きいかどうかを判定することを含む。「対象における」という表現は、対象が罹患した疾患に関係する限り、すなわち、前記疾患が対象「中」に存在する限り、開示した方法の結果を指す。
【0039】
更に別の態様においては、本発明は、対象における神経変性疾患の進行を監視する方法を特徴とする。前記対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定する。前記レベル、発現及び/又は前記活性を、既知の疾患若しくは健康状態又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較する。それによって、前記対象における前記神経変性疾患の進行を監視する。
【0040】
更に別の態様においては、本発明は、前記疾患の治療を受ける対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定することを含む、神経変性疾患に対する治療を評価する方法、又は治療の効果を監視する方法を特徴とする。前記レベル、発現若しくは前記活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を、既知の疾患若しくは健康状態又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較し、それによって前記神経変性疾患に対する治療を評価する。
【0041】
好ましい実施形態においては、前記疾患の進行を監視するために、ある期間にわたって前記対象から採取した一連の試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方を比較する。更に好ましい実施形態においては、前記対象は、前記試料採集の1回以上の前に治療を受ける。更に別の好ましい実施形態においては、前記レベル及び/又は活性を、前記対象の前記治療の前後に測定する。
【0042】
ADARB2の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の前記レベル、発現及び/又は前記活性は、AD患者から得られた試料において、ADに罹患していない対照の人から得られた試料と比較して、増加し、上方制御されていることが好ましい。例えば、ADARB2の転写産物及び/又は翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の発現及び/又は活性を患者の試料から測定し、健康な対照対象の試料(基準試料)中のADARB2の転写産物及び/又は翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の発現及び/又は活性と比較する。
【0043】
本明細書で特許請求する本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、アッセイ及び使用の好ましい実施形態においては、前記ADARB2遺伝子は、配列番号1(スプライスバリアント1(sv1)、UniProtプライマリアクセッション番号Q9NS39)、配列番号2(スプライスバリアント2(sv2)、UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW42)、配列番号3(スプライスバリアント3(sv3)、UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW43)又は配列番号4(スプライスバリアント4(sv4)、UniProtプライマリアクセッション番号Q86X17)のタンパク質をコードする。前記スプライスバリアントのアミノ酸配列は、それぞれ、Ensembl ID ENST00000381312のcDNA配列に対応する配列番号5、Ensembl ID ENST00000381310のcDNA配列に対応する配列番号6、Ensembl ID ENST00000381305のcDNA配列に対応する配列番号7、及びEnsembl ID ENST00000337857のcDNA配列に対応する配列番号8の各mRNA配列から推定された。本発明においては、ADARB2は、ヒトADARB2スプライスバリアントのコード配列(cds)を表す配列番号9、10、11及び12の核酸配列も指す。本発明においては、前記配列は、本明細書で使用する用語に従って「単離されて」いる。また、本発明においては、前記ADARB2タンパク質(スプライスバリアントsv1、sv2、sv3及びsv4)をコードする遺伝子を、ADARB2遺伝子、又は単にADARBとも総称する。ADARB2のタンパク質(特に、スプライスバリアントsv1、sv2、sv3及びsv4)を、ADARB2タンパク質、ADARB2スプライスバリアント、又は単にADARB2とも総称する。
【0044】
本明細書で特許請求する本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、アッセイ及び使用の更に好ましい実施形態においては、前記神経変性疾患又は障害はアルツハイマー病であり、前記対象はアルツハイマー病の徴候及び症候を示す。
【0045】
分析され、判定される試料は、脳組織若しくは他の組織又は体細胞を含む群から選択されることが好ましい。試料は、脳脊髄液、又は唾液、尿、便、血液、血清 血しょう若しくは粘液を含めた他の体液も含み得る。好ましくは、神経変性疾患に対する、本発明による診断、予後、進行監視又は治療評価の各方法は、体外で実施することができ、かかる方法は、対象、患者又は対照の人から取り出し、収集し、又は単離した試料、例えば、体液又は細胞に好ましくは関係する。
【0046】
更に好ましい実施形態においては、前記基準値は、前記神経変性疾患に罹患していない対象から得られた試料(対照試料、対照、健康な対照の人)、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に罹患した対象から得られた試料(患者試料、患者、AD試料)、又はADの徴候及び症候を示し得る、若しくは示さなくてもよい、特定のブラーク病期の人から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方の基準値である。
【0047】
好ましい実施形態においては、既知の健康状態(対照試料)を表す基準値に対する、前記対象から採取された試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現の変化によって、神経変性疾患、特にADに罹患することの診断、予後、又はリスクの増加が示される。
【0048】
更に好ましい実施形態においては、神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD患者試料)の既知の疾患状態を表す基準値に対して、対象から得られた試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現が同じである、又は類似していることは、前記神経変性疾患に罹患することの診断、予後、又はリスクの増加を示す。
【0049】
別の更に好ましい実施形態においては、ADの徴候及び症候を生じるリスクが高いことを示す既知のブラーク病期を表す基準値に対して、対象から得られた試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル、発現及び/又は活性が同じである、又は類似していることは、ADに罹患することの診断、予後、又はリスクの増加を示す。
【0050】
しかし、ADARB2の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及びその断片、誘導体若しくは変異体の前記変動した、変化したレベル、変化した発現、及び/又は前記変化した活性は、増加、上方制御であることが好ましい。
【0051】
好ましい実施形態においては、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物及び/又は発現のレベルは、対象から得られた試料において、対象の試料から抽出したRNAを逆転写して得られるcDNAから前記遺伝子特異的配列を増幅するプライマーの組合せを有する定量的PCR分析によって測定される。プライマーの組合せ(配列番号13、配列番号14)を本発明の実施例(vi)に示すが、本発明で開示する配列から作製される他のプライマーも使用することができる。前記遺伝子に特異的であるプローブを用いたノーザンブロット又はリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)を適用することもできる。マイクロチップを用いたマイクロアレイ技術によって、転写産物を測定することが更に好ましい場合もある。これらの技術は、当業者に公知である(Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001; Schena M., Microarray Biochip Technology, Eaton Publishing, Natick, MA, 2000参照)。免疫測定法の例は、国際公開第02/14543号に開示及び記載されている酵素活性の検出及び測定法である。
【0052】
本発明は、本発明で開示するその核酸配列、断片又は変異体に独特なプライマー及びプローブの構築及び使用にも関する。オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブは、蛍光性、生物発光性、磁性又は放射性物質で特異的に標識することができる。本発明は、さらに、適切な組合せの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、その前記核酸配列又は断片及び変異体の検出及び生成に関係する。当業者に周知の方法であるPCR分析を、前記プライマーの組合せを用いて実施して、核酸を含む試料から、前記遺伝子特異的核酸配列を増幅することができる。かかる試料は、健康な対象、罹患した対象、又は特定のブラーク病期にある対象から得ることができる。増幅によって特定の核酸産物が生成するかどうか、また、長さの異なる断片が得られるかどうかによって、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に罹患しているかどうかを示すことができる。したがって、本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関連し得る、試験核酸配列を含む所与の試料中の遺伝子変異及び一塩基多形を検出するのに有用である、少なくとも10塩基長の核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブからコード配列全体及び遺伝子配列全体までを提供する。この特徴は、DNAを用いた迅速な診断テストを、好ましくはキットの形式でも、開発するのに有用である。ADARB2用プライマーを実施例(vi)に例示する。
【0053】
また、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は前記翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現、及び/又は前記翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル又は活性は、免疫測定法、活性アッセイ、例えば、細胞のデアミナーゼアッセイ、GluR2及び5HT2c活性を測定する細胞アッセイ、RNA相互作用を測定するアッセイ、及び/又は結合アッセイを用いて検出することができる。これらのアッセイは、抗プロテイン抗体又は抗プロテイン抗体に結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素標識、クロモ力学標識、放射性標識、磁性標識又は発光標識を使用することによって、前記タンパク質分子と抗プロテイン抗体との結合量を測定することができる。また、他の高親和性リガンドを使用することもできる。使用することができる免疫測定法としては、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、及び当業者に公知の他の技術が挙げられる(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999及びEdwards R, Immunodiagnostics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford; England, 1999参照)。これらの全検出技術は、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ又はタンパク質チップを用いた技術の形式で使用することもできる(Schena M., Microarray Biochip Technology, Eaton Publishing, Natick, MA, 2000参照)。
【0054】
別の態様においては、本発明は、対象における、神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知するキット、又は神経変性疾患、特にADを発症する対象の傾向若しくは素因を求めるキット、又は神経変性疾患、特にADを有する対象に施した治療の効果を監視するキットを特徴とする。前記キットは、
(a)(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬、(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体を検出する試薬からなる群から選択される少なくとも1種類の試薬、
(b)
− 前記対象から得られた試料において、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又は上記の断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方、及び/又は発現を測定すること、
− 前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体の前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現を、既知の疾患状態(患者)を表す基準値、及び/又は既知の健康状態(対照)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較すること、
− 前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現が、既知の健康状態を表す基準値に対して変動しているかどうか、及び/又は既知の疾患状態を表す基準値、若しくは既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうかを解析すること、並びに
− 神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知すること、又はかかる疾患を発症する前記対象の傾向若しくは素因を求めること(ここで、既知の健康状態(対照)を表す基準値と比較して、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方の変動若しくは変化、及び/又は前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方が、既知の疾患状態(患者試料)、好ましくはADの疾患状態(AD患者)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであることは、神経変性疾患、特にADの診断若しくは予後、又はかかる疾患を発症する傾向若しくは素因の増加、ADの徴候及び症候を生じるリスクが高いことを示す。)
によって、神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知するための説明書、かかる疾患を発症する対象の傾向若しくは素因を求めるための説明書、又は治療の効果を監視する説明書を含む。本発明によるキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある個体を特定するのに特に有用であり得る。
【0055】
ADARB2タンパク質をコードする、好ましくは配列番号1、2、3又は4のスプライスバリアントをコードする、遺伝子の転写産物及び/又は翻訳産物を選択的に検出する試薬は、種々の長さの配列、配列断片、抗体、アプタマー、siRNA、ミクロRNA、リボザイムであり得る。かかる試薬は、その断片、誘導体又は変異体の検出にも使用することができる。
【0056】
更に別の態様においては、本発明は、対象における、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断又は予知する方法、かかる疾患を発症する対象の傾向又は素因を求める方法、及び神経変性疾患、特にADを有する対象に施した治療の効果を監視する方法におけるキットの使用を特徴とする。
【0057】
その結果、本発明によるキットは、疾患発症前の、疾患過程において不可逆的損傷が生じる前の、初期の予防措置又は治療的介入のために、特定の個体を標的にする手段として役立ち得る。また、好ましい実施形態においては、本発明によるキットは、対象における、神経変性疾患、特にADの進行の監視、及び前記対象のかかる疾患に対する治療処置の成功又は失敗の監視に有用である。
【0058】
別の態様においては、本発明は、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方に直接的又は間接的に影響を及ぼす、薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質又は抗体を治療又は予防に有効な量及び処方で、神経変性疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、対象における、神経変性疾患、特にADを治療又は予防する方法を特徴とする。前記薬剤は、小分子を含んでいてもよく、又はペプチド、オリゴペプチド若しくはポリペプチドを含んでいてもよい。前記ペプチド、オリゴペプチド又はポリペプチドは、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体のアミノ酸配列を含み得る。本発明による、神経変性疾患、特にADを治療又は予防する薬剤は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドからもなり得る。前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、センス方向又はアンチセンス方向の、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み得る。
【0059】
好ましい実施形態においては、本方法は、前記薬剤を投与するために、遺伝子療法及び/又はアンチセンス核酸技術のそれ自体公知の方法の適用を含む。一般に、遺伝子療法としては、幾つかの手法、すなわち、変異遺伝子の分子置換、治療タンパク質の合成をもたらす新しい遺伝子の添加、組み換え発現方法又は薬物による、内因性細胞の遺伝子発現の調節などが挙げられる。遺伝子移入技術は、詳述されており(例えば、Behr, Acc Chem Res 1993, 26: 274−278及びMulligan, Science 1993, 260: 926−931参照)、細胞へのDNAの機械的微量注入などの直接遺伝子移入技術、(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)生物学的ベクター又はモデルリポソームを用いた間接的技術、ポリカチオンとのDNA共沈による形質移入に基づく技術、化学的手段(溶媒、洗浄剤、ポリマー、酵素)又は物理的手段(機械衝撃、浸透圧衝撃、熱衝撃、電気衝撃)による細胞膜撹乱(perturbation)などが挙げられる。出生後の中枢神経系への遺伝子移入が詳述されている(例えば、Wolff, Curr Opin Neurobiol 1993, 3: 743−748参照)。
【0060】
特に、本発明は、アンチセンス核酸療法の手段、すなわち、アンチセンス核酸又はその誘導体をある重要な細胞に導入することによって、不適当に発現された遺伝子、又は不完全な遺伝子を下方制御する手段によって、神経変性疾患を治療又は予防する方法を特徴とする(例えば、Gillespie, DN&P 1992, 5: 389−395; Agrawal and Akhtar, Trends Biotechnol 1995, 13: 197−199; Crooke, Biotechnology 1992, 10: 882−6参照)。ハイブリダイゼーション戦略とは別に、疾患のメッセージを輸送するRNAを破壊するリボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の適用も記述されている(例えば、Barinaga, Science 1993, 262: 1512−1514参照)。好ましい実施形態においては、治療対象はヒトであり、治療用アンチセンス核酸又はその誘導体は、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を対象にする。対象の中枢神経系、好ましくは脳の細胞をかかる方法で治療することが好ましい。細胞への貫入は、アンチセンス核酸及びその誘導体とキャリア粒子とのカップリングなどの公知の戦略、又は上記技術によって実施することができる。標的の治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与する戦略は、当業者に公知である(例えば、Wickstrom, Trends Biotechnol 1992, 10: 281−287参照)。送達を単なる局所適用によって実施することができる場合もある。更なる手法は、アンチセンスRNAの細胞内発現を対象とする。この戦略においては、標的核酸の領域に相補的であるRNAの合成を誘導する組み換え遺伝子で細胞を生体外で形質転換する。細胞内で発現されるアンチセンスRNAを治療に使用することは、遺伝子療法に手順が類似している。RNA干渉(RNAi)として種々知られる、二本鎖RNAの使用によって遺伝子の細胞内発現を制御する最近開発された方法は、核酸療法のための別の有効な手法となり得る(Hannon, Nature 2002, 418: 244−251)。
【0061】
更に好ましい実施形態においては、本方法は、前記対象の中枢神経系、好ましくは脳中にドナー細胞を移植することを含み、又は移植片拒絶を最小限に抑える若しくは減少させるように好ましくは処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は、前記薬剤をコードする少なくとも1種類の導入遺伝子の挿入によって遺伝子改変されている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって輸送し得る。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAを非ウイルス性の物理的形質移入によって、特に微量注入によって、ドナー細胞に挿入することができる。導入遺伝子は、電気穿孔法、化学的形質移入、特にリン酸カルシウム形質移入、又はリポソームによる形質移入によって、挿入することもできる(Mc Celland and Pardee, Expression Genetics: Accelerated and High−Throughput Methods, Eaton Publishing, Natick, MA, 1999参照)。
【0062】
好ましい実施形態においては、神経変性疾患、特にADを治療及び予防するための前記薬剤は、対象細胞を前記対象に導入することを含む方法によって、前記対象、好ましくはヒトに投与することができる治療タンパク質である。前記対象細胞は、前記治療タンパク質をコードするDNAセグメントが挿入されるようにインビトロで処理されている。前記対象細胞は、前記対象において前記治療タンパク質の治療有効量をインビボで発現する。前記DNAセグメントは、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって前記細胞にインビトロで挿入することができる。
【0063】
本発明による治療又は予防方法は、上記細胞療法及び遺伝子療法のいずれかと組み合わせた、治療クローニング、移植、並びに胚性幹細胞又は胚性胚細胞及びニューロン成体幹細胞を用いた幹細胞療法の適用を含む。幹細胞は、全能性又は多能性であり得る。幹細胞は、器官特異的でもあり得る。
【0064】
罹患した、及び/又は損傷を受けた、脳細胞又は組織を修復する戦略は以下を含む。(i)ドナー細胞を成体組織から採取すること。ドナー細胞の核を、遺伝物質が除去された未受精卵細胞に移植する。胚性幹細胞を、体細胞核移植した細胞の胚盤胞段階から単離する。次いで、分化因子を使用して、幹細胞から特殊な細胞タイプ、好ましくは神経細胞への定方向の発達がもたらされる(Lanza et al., Nature Medicine 1999, 9: 975−977)。又は(ii)インビトロでの増殖と、それに続く移植(grafting)及び移植(transplantation)のために、中枢神経系又は骨髄(間葉幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製すること。又は(iii)内因性神経幹細胞を直接誘導して、機能的ニューロンに増殖、移動及び分化させること(Peterson DA, Curr. Opin. Pharmacol. 2002, 2: 34−42)。成体脳の胚中心は、ニューロン損傷又は機能不全がないので、成体神経幹細胞は、損傷を受けた脳組織、又は罹患した脳組織の修復に大きな可能性を有する(Colman A, Drug Discovery World 2001, 7: 66−71)。
【0065】
好ましい実施形態においては、本発明による治療又は予防の対象は、ヒト、非ヒト実験動物、例えばマウス若しくはラット、家畜又は非ヒト霊長類とすることができる。実験動物は、神経変性疾患用動物モデル、例えば、AD型神経病理を有するトランスジェニックマウス及び/又はノックアウトマウスとすることができる。
【0066】
更に別の態様においては、本発明は、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される少なくとも1種類の物質の活性若しくはレベル、又は前記活性と前記レベルの両方、及び/又は発現の薬剤、拮抗物質、作動物質又は調節物質を特徴とする。前記薬剤、拮抗物質若しくは作動物質又は前記調節物質は、神経変性疾患、特にADの治療において、潜在的活性を有する。
【0067】
別の態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にADの治療又は予防用医薬品の製造における、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される少なくとも1種類の物質の活性若しくはレベル、又は前記活性と前記レベルの両方、及び/又は発現の薬剤、抗体、拮抗物質若しくは作動物質又は調節物質の使用を規定する。前記抗体は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物、又はかかる翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体である、免疫原と特異的に免疫反応し得る。
【0068】
更に別の態様においては、本発明は、前記薬剤、抗体、拮抗物質若しくは作動物質又は調節物質と、好ましくは薬剤担体とを含む、薬剤組成物を特徴とする。前記担体とは、調節物質が一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。
【0069】
一態様においては、本発明は、前記薬剤組成物の治療有効量又は予防有効量を充填した1個以上の容器を含むキットも提供する。
【0070】
更に別の態様においては、本発明は、天然ADARB2遺伝子転写制御要素ではない転写要素の制御下にある、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする非天然ADARB2遺伝子配列、又はその断片、誘導体若しくは変異体を含む、組み換え、遺伝子改変非ヒト動物を特徴とする。前記組み換え、非ヒト動物の作製は、(i)前記遺伝子配列及び選択マーカー配列を含む、遺伝子ターゲティング構築体を用意すること、(ii)前記ターゲティング構築体を非ヒト動物の幹細胞に導入すること、(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚に導入すること、(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物に移植すること、(v)前記胚を満期(term)まで発達させること、(vi)そのゲノムが、両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の改変を含む、遺伝子改変非ヒト動物を特定すること、及び(vii)段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を飼育して、そのゲノムが前記遺伝子配列の改変を含む遺伝子改変非ヒト動物を得ることを含み、前記遺伝子の発現、異所性発現、低発現、非発現又は過剰発現、前記遺伝子配列の破壊又は変更によって、神経変性疾患、特にADの徴候及び症候を生じる素因のある前記非ヒト動物が作製される。かかる動物を作製及び構築する戦略及び技術は、当業者に公知である(例えば、Capecchi, Science 1989, 244: 1288−1292、Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1994、及びJackson and Abbott, Mouse Genetics and Transgenics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford, England, 1999)。
【0071】
かかる遺伝子改変組み換え非ヒト動物を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検討するための動物モデル、試験動物又は対照動物として使用することが好ましい。かかる動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療する診断薬及び治療薬の開発において、化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び検証に有用であり得る。スクリーニング方法におけるかかる遺伝子改変動物の使用を本発明で開示する。
【0072】
更に別の態様においては、本発明は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子配列が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療する診断薬及び治療薬の開発において、化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び検証のために、異所性発現、低発現、非発現若しくは過剰発現され、又は破壊され、若しくは別の様式で変更された、細胞を使用する。スクリーニング方法におけるかかる細胞の使用を本発明で開示する。
【0073】
別の態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質若しくは作動物質をスクリーニングする方法を特徴とする。この薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質は、(i)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)(好ましくは配列番号1、2又は3を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される1種類以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させる能力を有する。このスクリーニング方法は、(a)細胞を試験化合物と接触させること、(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において、前記物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、並びに(d)段階(b)と(c)の各細胞中の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較することを含み、接触させた細胞における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される。前記細胞は、本発明で開示する細胞であり得る。
【0074】
別の一態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質をスクリーニングする方法を特徴とする。この薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質は、(i)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される1種類以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させる能力を有する。この方法は、(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた、非ヒト試験動物に試験化合物を投与すること(前記動物は、本発明で開示する動物モデルであり得る。)、(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の前記徴候及び症候を同じく生じやすい、又は既に生じた、かかる試験化合物が投与されていない、非ヒト対照動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、並びに(d)段階(b)と(c)の各動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較することを含み、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が、神経変性疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される。
【0075】
別の実施形態においては、本発明は、(i)上記スクリーニングアッセイ方法によって、神経変性疾患の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定する段階と、(ii)前記薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を薬剤担体と混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を、別のタイプのスクリーニング方法及びアッセイによって特定することもできる。
【0076】
別の態様においては、本発明は、リガンドと(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度又は促進度を求めるために、及び/又は前記化合物と(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めるために、化合物を試験するアッセイ、好ましくは複数の化合物をハイスループット形式でスクリーニングするアッセイを規定する。リガンドと、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害を明らかにするために、前記スクリーニングアッセイは、(i)前記ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体の懸濁液を複数の容器に添加する段階、(ii)前記阻害についてスクリーニングされる化合物又は複数の化合物を前記複数の容器に添加する段階、(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドを前記容器に添加する段階、(iv)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と、前記化合物又は複数の化合物と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドとをインキュベートする段階、(v)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と結合したリガンドの量、好ましくはその蛍光を測定する段階、並びに(vi)前記化合物の1種類以上による、前記リガンドと前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度を求める段階を含む。前記ADARB2翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体を人工リポソーム中に再構成して、対応するタンパク質リポソームを作製し、リガンドと前記ADARB2翻訳産物との結合の阻害を求めることが好ましい場合もある。ADARB2翻訳産物を洗浄剤からリポソーム中に再構成する方法は、詳述されている(Schwarz et al., Biochemistry 1999, 38: 9456−9464; Krivosheev and Usanov, Biochemistry−Moscow 1997, 62: 1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、当業者に公知の任意の他の検出可能な標識、例えば放射能標識を使用し、それに応じてその標識を検出することが好ましい態様もあり得る。前記方法は、新規化合物の特定に、並びにリガンドとADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合を阻害する能力が改善又は最適化された化合物の評価に、有用であり得る。担体粒子の使用に基づく蛍光結合アッセイの一例は、国際公開第00/52451号に開示及び記載されている。更なる例は、国際公開第02/01226号に記載の競合アッセイ法である。本発明のスクリーニングアッセイのための好ましい信号検出方法は、以下の特許出願、すなわち、国際公開第96/13744号、同98/16814号、同98/23942号、同99/17086号、同99/34195号、同00/66985号、同01/59436号及び同01/59416号に記載されている。
【0077】
更なる一実施形態においては、本発明は、(i)上記阻害結合アッセイによって、リガンドとADARB2タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合の阻害剤として化合物を特定する段階と、(ii)化合物と薬剤担体を混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物を他のタイプのスクリーニングアッセイによって特定することもできる。
【0078】
また、本発明は、化合物を試験して、好ましくは複数の化合物をハイスループット形式でスクリーニングして、前記化合物と(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めるアッセイを提供する。前記スクリーニングアッセイは、(i)前記ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体の懸濁液を複数の容器に添加すること、(ii)前記結合についてスクリーニングされる、検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、又は検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に添加すること、(iii)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、又は検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物とをインキュベートすること、(iv)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と結合した化合物の量、好ましくはその蛍光を測定すること、並びに(v)前記化合物の1種類以上による、前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めることを含む。このタイプのアッセイにおいては、蛍光標識を使用することが好ましい場合がある。しかし、任意の他のタイプの検出可能な標識を使用することもできる。このタイプのアッセイにおいても、ADARB2翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体を、本発明に記載の人工リポソーム中に再構成することが好ましい場合もある。前記アッセイ方法は、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合能力が改善又は最適化された、新規化合物の特定、及び化合物の評価に有用であり得る。
【0079】
更なる一実施形態においては、本発明は、(i)上記結合アッセイによって、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合剤として化合物を特定する段階と、(ii)化合物と薬剤担体を混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物を他のタイプのスクリーニングアッセイによって特定することもできる。
【0080】
別の実施形態においては、本発明は、本明細書で特許請求するスクリーニングアッセイによる方法のいずれかによって得ることができる医薬品を規定する。更なる一実施形態においては、本発明は、本明細書で特許請求するスクリーニングアッセイによる方法のいずれかによって得られる医薬品を規定する。
【0081】
一般に、上記アッセイ及びスクリーニング方法、並びにそれから特定された可能性ある薬物分子(例えば、薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質)は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防に対して適用可能である。
【0082】
本発明の別の態様は、ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、及び(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)前記タンパク質分子又はその断片、誘導体若しくは変異体を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検出するための診断上の標的として使用することを特徴とする。
【0083】
本発明は、さらに、ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、及び(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)前記タンパク質分子又はその断片、誘導体若しくは変異体を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を予防、治療又は改善する薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質、試薬又は化合物のスクリーニング標的として使用することを特徴とする。
【0084】
本発明は、免疫原と特異的に免疫反応する抗体を特徴とする。前記免疫原は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードするADARB2遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体である。この免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原エピトープ、抗原エピトープ又は一部を含み得る。翻訳産物の前記免疫原性又は抗原性部分はポリペプチドであり、前記ポリペプチドは動物において抗体応答を誘発し、前記抗体と免疫特異的に結合する。抗体を作製する方法は、当分野で周知である(Harlow et al., Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1988参照)。本発明では「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、組み換え(recombinatorial)抗体、抗イディオタイプ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、これらの断片など、当分野で公知である抗体の全形態を包含する(Dubel and Breitling, Recombinant Antibodies, Wiley−Liss, New York, NY, 1999)。本発明の抗体は、例えば、酵素免疫測定法(例えば、酵素結合免疫吸着検定法、ELISA)、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、ウエスタンブロット、免疫沈降、抗体マイクロアレイなどの最新技術に基づく種々の診断及び治療方法に有用である(Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999及びEdwards R., Immunodiagnostics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford, England, 1999参照)。これらの方法は、ADARB2遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体の検出を含む。
【0085】
本発明の好ましい実施形態においては、前記抗体は、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学的染色を含む、対象から得られた試料中の細胞の病理学的状態の検出に使用することができる。ここで、既知の健康状態を示す細胞と比較した、前記細胞における染色度又は染色パターンの変化によって、前記細胞の病理学的状態が示される。好ましくは、病理学的状態は、神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学的染色は、当分野で周知である幾つかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合を検出する自動化された方法を適用することが好ましい場合もある。ここで、細胞の染色度の測定、又は細胞若しくは細胞下の染色パターン、細胞表面上、若しくは細胞小器官間及び他の細胞内構造間の抗原の形態上の分布の測定は、米国特許第6150173号に記載の方法によって実施される。
【0086】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の図の説明及び実施例から明らかになるはずである。以下の図の説明及び実施例は、単なる説明のためのものであって、開示の残りの部分を決して限定するものではない。
【0087】
図:
図1に、GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示す。このグラフは、それぞれのmRNA種のレベルがADの進行と定量的に相関し、したがってBraak and Braak(ブラーク病期分類)に従った脳組織試料の神経病理学的病期分類によって測定されたADを表すことを示している。ブラーク病期0の5名の異なるドナー(C011、C012、C026、C027及びC032)、ブラーク病期1の7名の異なるドナー(C014、C028、C029、C030、C036、C038及びC039)、ブラーク病期2の5名の異なるドナー(C008、C031、C033、C034及びDE03)、ブラーク病期3の4名の異なるドナー(C025、DE07、DE11及びC057)、及びブラーク病期4の4名の異なるドナー(P012、P046、P047及びP068)の各々の前頭皮質及び下側頭葉皮質のcRNAプローブを、それぞれAffymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayの分析にかけた。主に下側頭組織において、ブラーク病期に合わせたADARB2遺伝子の連続的な発現増加を反映した差が見られる。
【0088】
図2は、定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータである。Roche Lightcycler急速サーマルサイクリング技術を用いた定量RT−PCRを実施し、同じドナーの前頭皮質(Frontal)及び下側頭葉皮質(Temporal)のcDNAをGeneChip解析に使用したのと同様に適用した。データを、その遺伝子発現レベルに有意差を示さない標準遺伝子であるサイクロフィリンBの値に正規化した。最低のブラーク病期0の試料を高いブラーク病期4を示す試料と比較すると、ADARB2の遺伝子発現レベルにおける実質的な差が明らかである。
【0089】
図3は、定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果である(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。ブラーク病期0から1の対象を含む対照群を規定することによってデータを計算した。このデータを、ブラーク病期2から4を含む進行したAD病理を有する規定の群に対して計算したデータと比較する。ADARB2の上方制御を反映する実質的な差が、前頭及び下側頭葉皮質において見られ、GeneChip解析から得られた結果を裏付けている。ブラーク病期0−1の下側頭葉皮質(T)をブラーク病期2−4と比較すると、ADARB2の上方制御を反映した有意差がある。
【0090】
図4Aに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す(スプライスバリアント1、sv1)(UniProtプライマリアクセッション番号Q9NS39)。このADARB2タンパク質は、739個のアミノ酸で構成される。
【0091】
図4Bに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す(スプライスバリアント2、sv2)(UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW42)。このADARB2タンパク質は、248個のアミノ酸で構成される。
【0092】
図4Cに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す(スプライスバリアント3、sv3)(UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW43)。このADARB2タンパク質は、141個のアミノ酸で構成される。
【0093】
図4Dに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す(スプライスバリアント4、sv4)(UniProtプライマリアクセッション番号Q86X17)。このADARB2タンパク質は、134個のアミノ酸で構成される。
【0094】
図5Aに、3606個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv1タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す(スプライスバリアント1、sv1)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381312)。
【0095】
図5Bに、1810個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv2タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す(スプライスバリアント2、sv2)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381310)。
【0096】
図5Cに、703個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv3タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す(スプライスバリアント3、sv3)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381305)。
【0097】
図5Dに、555個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv4タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す(スプライスバリアント4、sv4)(Ensembl転写物ID番号ENST00000337857)。
【0098】
図6Aに、配列番号5のヌクレオチド327から2546を含む2220個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv1のコード配列(cds)である配列番号9を示す。
【0099】
図6Bに、配列番号6のヌクレオチド5から751を含む747個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv2のコード配列(cds)である配列番号10を示す。
【0100】
図6Cに、配列番号7のヌクレオチド236から661を含む426個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv3のコード配列(cds)である配列番号11を示す。
【0101】
図6Dに、配列番号8のヌクレオチド1から405を含む405個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv4のコード配列(cds)である配列番号12を示す。
【0102】
図7は、定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマー(プライマーA、配列番号13及びプライマーB、配列番号14)と、配列番号5、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントである。
【0103】
図8は、ADARB2 cDNA配列 配列番号5、ADARB2コード配列 配列番号9、及びADARB2転写レベルプロファイリングに使用した両方のプライマー配列(配列番号13、配列番号14)のアラインメントを示す略図である。配列位置を右側に示す。
【0104】
図9は、親和性精製されたポリクローナルヤギ抗ADARB2抗血清sc−10014(Santa Cruz)の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果である。ヒト脳組織ホモジネートから得られたタンパク質抽出物、及びC末端がmyc標識されたヒトADARB2タンパク質を過剰発現する、安定に形質移入されたCHO細胞の溶解物から、又は未処理CHO細胞(負の対照)の溶解物から得られたタンパク質抽出物を、SDS−PAGEに供し、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)膜にブロットし、sc−10014又は抗myc抗体、続いて適切な西洋わさびペルオキシダーゼ複合二次抗血清でプローブした。ブロットを高感度化学発光基質に浸漬し、発光をX線フィルムで検出した。レーン1はヒト脳新皮質タンパク質抽出物を含み、レーン2及び5は、形質移入CHO細胞を過剰発現するmyc標識ヒトADARB2から得られたタンパク質抽出物を含み、レーン3及び4は、未処理CHO細胞から得られたタンパク質抽出物を含む。レーン1から3はsc−10014(1:200)でプローブしたものであり、レーン4及び5は抗myc抗体(1:3000)でプローブしたものである。「M」の印を付けたレーンは分子量マーカーを含む。
【0105】
図10A及び10Bは、同齢の非AD対照個体から得られた脳試料と比較して、AD患者から得られたヒト脳試料において観察される、大脳皮質及び大脳白質におけるADARB2タンパク質発現の増加を例示している。示したのは、括弧内に示したブラーク病期のAD患者及び同齢の非AD対照ドナーから得られた、死後の新鮮凍結ヒト前脳試料のアセトン固定クリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真である。特異的ADARB2免疫反応性は、親和性精製ポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014、続いてAlexaFluor−488複合ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)によって明らかになり、緑色信号として可視化された。ニューロン特異的マーカータンパク質NeuNを、マウスモノクローナル抗NeuN抗体(Chemicon)、続いてCy3複合ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)によって検出し、赤色で可視化した。核をDAPI(Sigma)によって青色に染色した。スケールバーは長さ100μmである。略語は、F 前頭、IT 下側頭、ex 終脳新皮質、wm 終脳白質である。本明細書に記載する知見は代表的なものであり、タンパク質レベルでのADARB2発現に関して対照とAD試料の実質的な差を示している。対照では、ADARB2免疫反応性レベルの増加が低度から中度である、存在するとしてもほんの極少数の星状細胞(細胞体及びプロセス)を、皮質神経網(図10A)又は白質(図10B)から識別することができる。対照とは異なり、AD患者の試料は、多数の明確なADARB2免疫陽性、恐らくは反応性の星状細胞(細胞体及びプロセス)が、皮質(図10A)と白質(図10B)の両方で一貫して見られる。この知見は、qPCRプロファイリングデータと一致している。
【0106】
図11は、Swedish Mutant APPを安定に同時発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2タンパク質発現のウエスタンブロット分析結果である。ADARB2をC末端においてmyc標識し、組織培養細胞に導入した。ADARB2の発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下にある。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、ADARB2の発現が始まる。細胞を収集し、溶解し、mycエピトープに対する抗体を用いたウエスタンブロット分析に1:3000希釈にて供した。矢印は、約85kDaの強いバンドを示す。テトラサイクリンの非存在下では、同じ分子量の対応するバンドは見られない。
【0107】
図12は、Swedish Mutant APPとtet−リプレッサーを安定に同時発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2タンパク質発現の免疫蛍光分析結果である。ADARB2をC末端においてmyc標識し、組織培養細胞に導入した。ADARB2の発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下にある。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、カバーガラス上に蒔いた細胞中でADARB2の発現が始まる。24時間インキュベートした後、免疫蛍光分析用に細胞をメタノールで固定した。ADARB2の発現をmycエピトープに対する抗体を用いて1:3000希釈で検出し、続いて抗myc抗体に対する蛍光標識抗体と一緒にインキュベートした(1:1000)。次いで、細胞を顕微鏡スライドに載せ、蛍光顕微鏡を用いて分析した。ADARB2は、上段左及び中間の写真において、強力な緑色蛍光によって可視化された細胞核中で発現される。発現が比較的低い細胞においては、細胞核中の緑色斑点が可視化され、RNAプロセシング及びリボソーム生合成が起こると報告されている核小体である確率が最も高い(例えば、上段パネルの最も右側の2個の細胞)。上下段の左右の写真の青色は、細胞核を示し、DAPI(1:1000)によって可視化された。青色と緑色蛍光が明確に重なることは、細胞核中でADARB2が発現していることを明示している。下段パネルにおいては、対照細胞を並行して分析したが、緑色蛍光を検出することはできない。
【実施例】
【0108】
実施例:ヒト脳組織試料において、アルツハイマー病に関係して差次的に発現される遺伝子の特定及び検証。
【0109】
AD関連遺伝子の発現における特異的差を確認するために、臨床的及び神経病理学的に特徴が十分明らかである個体から得たヒト脳組織標本由来の多様なcRNAプローブを用いて、GeneChipマイクロアレイ(Affymetrix)分析を実施した。この技術は、同義遺伝子の発現プロファイルを作製し、異なる組織試料中に存在するmRNA集団を比較するために、広く用いられている。本発明においては、選択した死後の脳組織標本(前頭及び下側頭葉皮質)中に存在するmRNA集団を分析した。健康な対照個体(ブラーク0)からADの徴候及び症候を示す個体(ブラーク4)までの全範囲を反映した異なるブラーク病期にグループ分けすることができる個体から組織試料を得た。個々の遺伝子の差次的発現を、遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを用いた実時間定量PCRを適用して検証した。また、健康な段階と疾患段階の特異的差を、免疫組織化学分析用の遺伝子産物特異的抗体を用いてタンパク質レベルで解析した。これらの方法を、疾患の初期に発生する病理学的現象を示す、初期のブラーク病期における発現レベルの差を特異的に検出するように設計した。したがって、差次的であることが確認された前記遺伝子は、ADの原因に有効に関係付けられる。
【0110】
(i)AD患者からの脳組織解剖体:
AD患者及び同齢対照対象から脳組織を収集した。死後6時間以内に、試料をドライアイスで即座に凍結した。各組織から得た試料切片をパラホルムアルデヒドで固定し、神経原線維の病理の種々の段階において、Braak and Braakに従ってブラーク病期(0−6)に神経病理学的に分類した。差次的発現分析のための脳領域を特定し、RNAの抽出を実施するまで−80℃で保存した。
【0111】
(ii)全mRNAの単離:
RNeasyキット(Qiagen)を用いて製造者の手順に従って全RNAを死後の凍結脳組織から抽出した。2100 Bioanalyzerを用いた真核生物全RNA Nano LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、正確なRNA濃度及びRNA品質を求めた。調製したRNAの更なる品質試験のために、すなわち部分的分解を排除し、DNA混入を検査するために、基準対照として特別に設計されたイントロンGAPDHオリゴヌクレオチド及びゲノムDNAを利用して、LightCycler技術(Roche)を用いて、製造者によって提供された手順書に記載のように融解曲線を作製した。
【0112】
(iii)プローブ合成:
ここでは、(ii)に記載したように抽出した全RNAを出発材料として用いた。cDNAを作製するために、cDNA Synthesis Systemを製造者(Roche)の手順に従って実施した。インビトロ転写T7−Megascript−Kit(Ambion)を製造者の手順に従って適用して、cDNA試料をcRNAに転写し、ビオチンで標識した。2100 Bioanalyzerを用いたmRNA Smear Nano LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、cRNAの品質を確認した。正確なcRNA濃度を光分析(OD260/280nm)によって測定した。
【0113】
(iv)GeneChipハイブリダイゼーション:
精製、断片化されたビオチン標識cRNAプローブを、市販スパイクコントロール(spike control)(Affymetrix)bioB(1.5pM)、bioC(5pM)、bioD(25pM)及びere(100pM)と一緒に、各々60ng/μlの濃度でハイブリダイゼーション緩衝剤(0.1mg/mlニシン精子DNA、0.5mg/mlアセチル化BSA、1×MES)に再懸濁させ、続いて99℃で5分間変性した。続いて、プローブを1つのプレハイブリダイズ(1×MES)されたHuman Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)に各々適用した。アレイハイブリダイゼーションを45℃及び60rpmで終夜実施した。GeneChip Operating System(GCOS)1.2(Affymetrix)によって制御された指示EukGe_WS2v4(Affymetrix)に従ってマイクロアレイを洗浄し、染色した。
【0114】
(v)GeneChipデータ解析:
GCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)によって制御されたGeneScanner 3000(Affymetrix)を用いて蛍光生データを収集した。DecisionSite 8.0 for Functional Genomics(Spotfire)を用いてデータ解析を実施した。生データを、GCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)によって「present」と印を付けられた生データに限定した。生データをパーセンタイル値によって正規化した。Spotfireソフトウェアのプロファイル検索ツールを用いて、差次的mRNA発現プロファイルを検出した。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対するかかるGeneChipデータ解析の結果を図1に示す。
【0115】
(vi)定量RT−PCR:
差次的ADARB2遺伝子発現の積極的確証(positive corroboration)をLightCycler技術(Roche)を用いて実施した。この技術は、ポリメラーゼ連鎖反応のための急速サーマルサイクリング、及び増幅中の蛍光信号の実時間測定を特徴とし、したがって、終点の読み取りではなく、動力学的読み取りによって、RT−PCR産物を極めて正確に定量することができる。AD患者及び同齢対照個体それぞれの前頭及び側頭皮質から得られたADARB2 cDNAの相対量を、ブラーク病期1つにつき4から9個の組織において測定した。
【0116】
まず、検量線を作成して、ADARB2をコードする遺伝子に特異的な以下のプライマーを用いたPCRの効率を求めた。
【0117】
プライマーA、配列番号13、5’−GAGTGTGCAATGTTTGGACGA−3’(配列番号5のヌクレオチド2671−2691)及びプライマーB、配列番号14、3’−GCACACGCACCGTTGAGTT−5’(配列番号5のヌクレオチド2764−2782)。
【0118】
PCR増幅(95℃1秒、56℃5秒及び72℃5秒)を、(FastStart Taq DNAポリメラーゼ、反応緩衝剤、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBR Green I色素及び1mM MgCl2を含む)LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I混合物(Roche)、0.5μMプライマー、cDNA希釈シリーズ(ヒト全脳cDNA 40、20、10、5、1及び0.5ngの最終濃度;Clontech)2μl及び追加の3mM MgCl2を含む20μlの体積で実施した。融解曲線分析によれば、約87.5℃に単一ピークが出現し、プライマーの2量体は見られなかった。2100 Bioanalyzerを用いたDNA 500 LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、qPCR産物の品質及びサイズを求めた。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対する112bpの予想サイズにおける単一ピークが、試料の電気泳動図において認められた。
【0119】
MgCl2(3mMの代わりに追加の1mMを添加した。)以外は同様にして、特異的プライマー配列番号15、5’−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3’及び配列番号16、5’−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3’を用い、qPCRプロトコルを適用して、サイクロフィリンBのPCR効率を求めた。融解曲線分析によれば、約87℃に単一ピークが出現し、プライマーの2量体は見られなかった。PCR産物のBioanalyzer分析では、予想サイズ(62bp)の単一ピークが出現した。
【0120】
基準値を計算するために、まず、使用cDNA濃度の対数をADARB2及びサイクロフィリンBそれぞれのしきいサイクル値Ctに対してプロットした。検量線の傾き及び切片(すなわち線形回帰)を計算した。第2の段階において、対照及びAD患者の前頭及び下側頭葉皮質のmRNA発現を並行して分析した。Ct値を測定し、対応する検量線を用いてng全脳cDNAに換算した:
10^(Ct値−切片)/傾き [ng全脳cDNA]
計算したcDNA濃度値を、各試験組織プローブに対して並行分析したサイクロフィリンBに対して正規化した。したがって、得られた値は、任意の相対発現レベルとして定義される。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対するかかる定量RT−PCR分析の結果を図2に示す。
【0121】
(vii)異なるブラーク病期のドナー群と比較したmRNA発現の統計解析。
この分析のために、異なる実験間の異なる時点における実時間定量PCR(LightCycler法)の絶対値は、標準物質を使用せずに定量的比較に使用するのに十分一貫していることが証明された。100を超える組織に対するqPCR実験のいずれにおいても正規化のための標準としてサイクロフィリンを使用した。とりわけ、サイクロフィリンは、正規化実験において最も一貫して発現されるハウスキーピング遺伝子であることが判明した。したがって、概念の証明を、サイクロフィリンについて作成された値を用いて行った。
【0122】
第1の分析には、3名の異なるドナー由来の前頭皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験から得られたサイクロフィリン値を用いた。各組織から同じcDNA調製物を全部の分析実験に使用した。この分析内では、データ数が少ないので、値の正規分布は得られなかった。したがって、中央値の方法及びその98%信頼水準を適用した(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。この分析によれば、中央の偏差(middle deviation)は、絶対値の比較では中央値から8.7%であり、相対比較では中央値から6.6%であった。
【0123】
第2の分析では、各々2名の異なるドナー由来の前頭皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験から得られたサイクロフィリン値を用いたが、異なる時点からの異なるcDNA調製物を使用した。この分析によれば、中央の偏差(middle deviation)は、絶対値の比較では中央値から29.2%であり、相対比較では中央値から17.6%であった。この分析から、qPCR実験から得られた絶対値は使用することができるが、中央値からの中央の偏差は更に考慮すべきと結論された。
【0124】
ADARB2に対する絶対値の詳細な分析を、中央値の方法及びその98%信頼水準を用いて実施した。平均とは対照的に、中央値の計算は、単一のデータ異常値に影響されないので、非正規及び/又は非対称(assymetric)分布の少数データに最適な方法である(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。したがって、ADARB2の絶対レベルを、サイクロフィリンを用いた相対正規化後に使用した。中央値及び98%信頼水準を、低レベルブラーク病期(ブラーク0−ブラーク1)からなる群及び高レベルブラーク病期(ブラーク2−ブラーク4)からなる群に対して計算した。分析は、AD病理の過程におけるmRNA発現差の初期の発生を確認することを目的にした。前記分析結果を図3に示す。
【0125】
(viii)免疫組織化学分析を適用した、ADARB2遺伝子の差次的発現、及びタンパク質レベルにおけるADとの関連性の検証:
ヒト脳におけるADARB2の免疫蛍光染色のために、また、AD患部組織を対照組織と比較するために、(上文及び下文で単に「ブラーク病期」と称する)Braak and Braakによる神経原線維病理の種々の病期にある、臨床的に診断され、神経病理学的に確認されたAD患者を含むドナーから得られた死後の新鮮凍結前頭及び側頭前脳試料、並びにADの臨床学的徴候も神経病理学的徴候もない同齢の非AD対照個体から得られた死後の新鮮凍結前頭及び側頭前脳試料を、クリオスタット(Leica CM3050S)によって厚さ14μmに切断した。組織切片を室温で風乾し、アセトンで10分間固定し、再度風乾した。PBSで洗浄後、切片を10%正常ロバ血清のリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液と一緒に30分間プレインキュベートし、次いでブロッキング緩衝剤(1%ウシ血清アルブミンのPBS溶液)で1:15希釈した、親和性精製抗ADARB2ヤギポリクローナル抗血清sc−10014(Santa Cruz)と一緒に4℃で終夜インキュベートした。PBSで3回リンス後、切片を、ブロッキング緩衝剤で1:1500希釈したAlexaFluor−488複合ロバ抗ヤギIgG抗血清(Jackson/Dianova、Hamburg、Germany)と一緒に室温で2時間インキュベートし、次いでPBSで再度洗浄した。(核を含む)ニューロン細胞体の同時染色を、ニューロン特異的マーカータンパク質NeuNに対するマウスモノクローナル抗体(Chemicon、Hampshire、UK;1:350希釈)、続いて二次Cy3複合ロバ抗マウス抗体(Jackson/Dianova;1:1000希釈)を用いて、上述したように実施した。切片を0.5μM DAPIのPBS溶液と一緒に3分間インキュベートすることによって核を染色した。リポフスチンの自己蛍光を遮断するために、切片を親油性黒色色素スダンブラックB(1%w/v)の70%エタノール溶液で室温で5分間処理し、次いで70%エタノール、蒸留水及びPBSに順次浸漬した。切片をProLong−Gold抗退色(antifade)封入剤(Invitrogen/Molecular Probes、Karlsruhe、Germany)で覆った(coverslipped)。水銀灯を備えた正立顕微鏡(BX51、Olympus、Hamburg、Germany)を用いて、顕微鏡落射蛍光画像を得た。適切な二色フィルターと鏡の組合せ(以下、「チャネル」と呼ぶ。)を、蛍光色素(AlexaFluor−488、Cy3、DAPI)の特異的励起に、また、前記抗体による特異的標識に起因する放射蛍光、又は核DAPI染色の読み取りに、使用した。顕微鏡画像を、電荷結合ディスプレイカメラ及び適切な画像収集・処理ソフトウェア(ColorView−II and AnalySIS、Olympus Soft Imaging Solutions GmbH、Munster、Germany)を用いてデジタル方式で取り込んだ。例えば3つの異なるチャネルからの信号が共存する可能性を解析するために、上で指定した免疫標識及び核(DAPI)をRGBモードで同時表示させるために、異なるチャネルから得られた蛍光顕微鏡写真を重ね合わせた。
【0126】
(ix)ADARB2を誘導発現する細胞系の作製:
pcDNA6/TR−ベクター(Invitrogenから購入した。#K1020−01)上にコードされたtet−リプレッサーを、Swedish変異アミロイド前駆体タンパク質(APP)を発現するH4神経こう腫細胞系に形質移入した。抗生物質ブラスチシジンを添加後、クローン細胞系を単離した。次いで、生成した細胞系を使用して、tet−オペレーター配列の制御下にあるADARB2を細胞に導入した。製造者(Invitrogen #K1020−01)の指示に従って1μg/mlテトラサイクリンを添加して、ADARB2の発現を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示すグラフである。
【図2】定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータである。
【図3】定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果を示すグラフである。
【図4A】ヒトADARB2スプライスバリアント1タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す図である。
【図4B】ヒトADARB2スプライスバリアント2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す図である。
【図4C】ヒトADARB2スプライスバリアント3タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す図である。
【図4D】ヒトADARB2スプライスバリアント4タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す図である。
【図5A−1】ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
【図5A−2】ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
【図5B】ヒトADARB2スプライスバリアント2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す図である。
【図5C】ヒトADARB2スプライスバリアント3 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す図である。
【図5D】ヒトADARB2スプライスバリアント4 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す図である。
【図6A】ヒトADARB2スプライスバリアント1のコード配列(cds)である配列番号9を示す図である。
【図6B】ヒトADARB2スプライスバリアント2のコード配列(cds)である配列番号10を示す図である。
【図6C】ヒトADARB2スプライスバリアント3のコード配列(cds)である配列番号11を示す図である。
【図6D】ヒトADARB2スプライスバリアント4のコード配列(cds)である配列番号12を示す図である。
【図7】定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマーと、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントを示す図である。
【図8】ADARB2転写レベルプロファイリングに使用した、ADARB2 cDNA配列、コード配列、及び両方のプライマー配列のアラインメントを示す略図である。
【図9】親和性精製されたポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果を示す図である。
【図10A】ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0−2)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4−6)から得た大脳皮質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
【図10B】ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0及び1)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4及び6)から得た大脳白質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
【図11】ウエスタンブロット分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【図12】免疫蛍光分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における神経変性疾患の進行を診断、予知及び監視する方法に関する。また、神経変性疾患の薬剤を調節するための治療管理(therapy control)及びスクリーニングの方法も提供する。本発明は、薬剤組成物、キット及び組み換え動物モデルも開示する。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)は、患者の生活を大きく衰弱させる影響がある。また、神経変性疾患は、健康上、社会的及び経済的に非常に大きな負担になる。ADは、最も一般的な神経変性疾患であり、全認知症例の約70%を占める。ADは、恐らく最も破壊的な加齢神経変性症状であり、65歳を超える人口の約10%、85歳を超える人口の最高45%で発症する(Vickers et al., Progress in Neurobiology 2000, 60: 139−165; Walsh and Selkoe, Neuron 2004, 44: 181−193)。現在、ADは、米国、欧州及び日本において推定12百万例に上る。この状況は、先進国においては老人の数が人口統計上増加しており、必然的に悪化している。AD患者の脳に生じる神経病理学的特徴は、アミロイド−βタンパク質で構成される老人斑、並びに異常な繊維状構造の出現及び神経原線維変化の形成と同時に発生する重大な細胞骨格変化である。
【0003】
アミロイドβタンパク質は、異なる種類のプロテアーゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の開裂によって生成する(Selkoe and Kopan, Annu Rev Neurosci 2003, 26:565−597; Ling et al., Int J Biochem Cell Biol 2003, 35:1505−1535)。2つのタイプの斑、すなわち、びまん性老人斑と神経突起斑を、AD患者の脳中で検出することができる。これらの斑は、主に大脳皮質及び海馬に見られる。脳中の有毒なAβの沈着は、ADの極めて初期に始まり、AD病状をもたらす後続の破壊的過程に重要な役割を果たすと考えられている。ADの他の病理学的特徴は、神経原線維変化(NFT)、及び神経じゅう毛糸として記述される異常な神経突起である(Braak and Braak, J Neural Transm 1998, 53: 127−140)。NFTは、ニューロン中に出現し、化学変化したタウからなり、互いに巻きついた二重らせん状細線維(PHF)を形成する。NFTの形成に並行して、ニューロンの減少を認めることができる(Johnson and Jenkins, J Alzheimers Dis 1996, 1: 38−58; Johnson and Hartigan, J Alzheimers Dis 1999, 1: 329−351)。神経原線維変化の出現、及びその数の増加は、ADの臨床的重症度と良く相関する(Schmitt et al., Neurology 2000, 55: 370−376)。ADは、初期に起こる記憶形成の欠陥、及び最終的なより高度の認知機能の完全な低下に関連した進行性疾患である。認知障害としては、とりわけ、記憶障害、失語症、失認、遂行機能の喪失などが挙げられる。ADの原因の特徴は、神経細胞の特定の脳領域及び亜集団が変性過程に対して選択的に脆弱であることである。具体的には、下側頭葉領域及び海馬が、初期に影響を受け、疾患の進行中により重度に影響を受ける。一方、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは、ほとんど無傷であり、神経変性から保護される(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10: 184−92)。
【0004】
現在、ADは不治の病であり、ADの進行を抑える有効な治療もなく、さらには存命中に高い確率でADを診断する有効な処置すらない。個体にADを発症させる幾つかのリスク因子が確認された。とりわけ、アポリポタンパク質E遺伝子(ApoE)の3種類の異なる既存の対立遺伝子(イプシロン2、3及び4)のうちイプシロン4対立遺伝子が最も顕著である(Strittmatter et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 1977−81; Roses, Ann NY Acad Sci 1998, 855: 738−43)。染色体21上のアミロイド前駆体タンパク質(APP)、染色体14上のプレセニリン−1、及び染色体1上のプレセニリン−2の遺伝子欠陥に起因する早発性ADの例はまれであるが、主要な形態である遅発性散発性ADは、まだ病因が不明である。神経変性疾患の晩期発症及び複雑な原因は、治療薬及び診断薬の開発にとって大変な難題である。薬物標的候補及び診断マーカー候補のプールを拡大することが極めて重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の一目的は、神経疾患の原因を洞察し、神経疾患のとりわけ診断及び治療開発に適した方法、材料、薬剤、組成物及び動物モデルを提供することである。この目的は、独立請求項の特徴によって解決された。下位クレームは、本発明の好ましい実施形態を規定するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒトのアルツハイマー病脳試料における、アデノシンデアミナーゼ、ADAR3又はRED2とも称される、RNA特異的アデノシンデアミナーゼADARB2をコードする、ADAR遺伝子ファミリーの遺伝子、及びADARB2のタンパク質産物の調節不全の差次的発現の検出に基づく。ADARB2は、以前はADARBとして知られていた。以前に使用されたかかる遺伝子記号ADARBは、HUGO(Human Genome Organisation)遺伝子命名法(http://www.gene.ucl.ac.uk/nomenclature/)に従ってADARB2に改名された。選択的アデノシン脱アミノによる核pre−mRNAの編集はすべての生物体において起こる。この転写後の機序によって、コドンが変化し、したがってタンパク質の構造及び機能が変化し得る。ほ乳動物二本鎖(ds)RNA特異的アデノシンデアミナーゼの2種類、ADAR1及びADAR2は、dsRNAにおいてアデノシン残基をイノシンに変換し、グルタミン酸受容体サブユニット(GluR2)及びセロトニン受容体サブタイプ2C(5HT2c)の各転写物のAからIへの編集に関与することが見出された(Seeburg, Neuron 2002, 35:17−20; Maas et al., J. Biol. Chem. 2003, 278:1391−1394)。これらのRNA編集は、これらの膜貫通タンパク質の成熟、細胞内輸送、及び他のサブユニットとの集合を制御することによって、GluR2及び5HT2cの機能を調節する。例えば、GluR2の未編集体は、高いCa2+透過性を有し、恐らくはニューロン死をもたらす(Reenan, Trends in Genetics 2001, 17:53−56)。ADAR1又はADAR2によるAからIへのRNA編集の不足は、てんかん、ALS、うつ病などの疾患と関係する。これは、GluR2、5HT2c及びKv2−カリウムチャネルの編集異常のためである(Kwak et al., J. Mol. Med. 2005, 83:110−120; Maas et al., J. Biol. Chem. 2003, 278:1391−1394)。ADAR2ノックアウトマウスは、てんかん発作の発症を繰り返した後、早死にした(Higuchi et al., Nature 2000, 406:78−81)。異常赤血球産生症の欠陥を含む致死的表現型は、ADAR1+/−胚性幹細胞に由来するキメラマウス胎仔において観察されたことも報告された(Wang et al., Science 2000, 290:1765−1768)。ADARB2(別名ADAR3)は、ADAR遺伝子ファミリーの第3のメンバーであり、C末端デアミナーゼドメイン、内部二本鎖RNA結合ドメインなどの共通の構造的特徴を有する。また、ADARB2は、アルギニン及びリジンの豊富な一本鎖(ss)RNA結合ドメインをN末端に含む。したがって、ADARB2は、dsRNAだけでなく、ssRNAにも結合することができる。ADAR1及びADAR2の発現が広範に分布するのに対して、ADARB2の発現は、脳に限定され、脳中で発現は広範に分布し、嗅球及び視床において最高レベルに達する。さらに、ADARB2は、GluR2及び5HT2c mRNAの編集に対して酵素活性を示さないことが、インビトロ及びインビボでのアッセイによって証明された。注目すべきことには、ADARB2は、他のADARメンバーのRNA編集活性に対して、少なくともインビトロで、強力な競合阻害効果を示す。これは、ADARB2が、ほ乳動物の脳において基質特異的RNA編集の調節にある役割を果たす可能性を示唆している(Melcher et al., J. Biol. Chem. 1996, 271:31795−31798; Chen et al., RNA 2000, 6:755−767)。
【0007】
図1は、GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示すグラフである。このグラフは、それぞれのmRNA種のレベルがADの進行と定量的に相関し、したがってBraak and Braak(ブラーク病期分類)に従った脳組織試料の神経病理学的病期分類によって測定されたADを表すことを示している。
図2は、定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータを示す。
図3は、定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果を示すグラフである。
図4Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す図である。
図4Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す図である。
図4Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す図である。
図4Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す図である。
図5Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
図5Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す図である。
図5Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す図である。
図5Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す図である。
図6Aは、ヒトADARB2スプライスバリアント1のコード配列(cds)である配列番号9を示す図である。
図6Bは、ヒトADARB2スプライスバリアント2のコード配列(cds)である配列番号10を示す図である。
図6Cは、ヒトADARB2スプライスバリアント3のコード配列(cds)である配列番号11を示す図である。
図6Dは、ヒトADARB2スプライスバリアント4のコード配列(cds)である配列番号12を示す図である。
図7は、定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマーと、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントを示す図である。
図8は、ADARB2転写レベルプロファイリングに使用した、ADARB2 cDNA配列、コード配列、及び両方のプライマー配列のアラインメントを示す略図である。
図9は、親和性精製されたポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果を示す図である。
図10Aは、ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0−2)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4−6)から得た大脳皮質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
図10Bは、ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0及び1)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4及び6)から得た大脳白質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
図11は、ウエスタンブロット分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
図12は、免疫蛍光分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する単数形「a」、「an」及び「the」は、特に記載しない限り、複数形を含む。例えば、「細胞」は複数の細胞も意味する。以下同様である。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する「及び/又は」という用語は、この用語の前後の句を代替物又は組合せとみなすべきであることを意味する。例えば、「レベル及び/又は活性の測定」という表現は、レベルのみ、活性のみ、又はレベルと活性の両方を測定することを意味する。
【0010】
本明細書では「レベル」という用語は、転写産物、例えばmRNA、翻訳産物、例えばタンパク質、ポリペプチドなどの物質の量又は濃度の尺度又は基準を含むものとする。
【0011】
本明細書では「活性」という用語は、転写産物、翻訳産物などの物質の生物学的効果をもたらす能力の基準、又は生物活性分子のレベルの基準と理解されるものとする。「活性」という用語は、生物活性及び/又は薬理活性とも称し、デアミナーゼ又はデアミナーゼサブユニットの結合、拮抗、抑圧、遮断、中和又は隔離、並びにデアミナーゼ又はデアミナーゼサブユニットの活性化、アゴナイゼーション(agonization)及び上方制御を指す。
【0012】
本明細書では「レベル」及び/又は「活性」という用語は、遺伝子発現レベル又は遺伝子活性も指す。遺伝子発現は、遺伝子産物の産生をもたらす転写及び翻訳による、遺伝子に含まれる情報の利用として定義し得る。
【0013】
「調節不全」とは、遺伝子発現の増加又は減少、及び/又は遺伝子産物の安定性の向上又は低下を意味するものとする。遺伝子産物は、RNA又はタンパク質を含み、遺伝子発現の結果である。遺伝子産物の量によって、遺伝子の活性、及びその遺伝子産物の安定性を測定することができる。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において使用する「遺伝子」という用語は、コード領域(エキソン)と非コード領域(例えば、プロモーター又はエンハンサー、イントロン、リーダー、トレーラー配列などの非コード調節要素)の両方を含む。
【0015】
「ORF」という用語は、「オープンリーディングフレーム」の頭字語であり、少なくとも1個の読み枠中に終止コドンを含まない核酸配列を指し、したがって一連のアミノ酸に潜在的に翻訳することができる。
【0016】
「調節要素」は、誘導及び非誘導プロモーター、エンハンサー、オペレーター並びに遺伝子発現を駆動し、調節する他の要素を含むものとする。
【0017】
本明細書では「断片」という用語は、例えば、選択的にスプライスされた、短縮された、又は分割された、転写産物又は翻訳産物を含むものとする。例えば、配列番号1、2、3及び4のタンパク質は、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物であり、スプライスバリアントを構成する。
【0018】
本明細書では「誘導体」という用語は、変異した、RNA編集された、化学修飾された、若しくは改変された転写産物を指し、又は変異した、化学修飾された、若しくは改変された翻訳産物を指す。明確にするために、例えば、誘導転写物は、核酸配列中に単一又は複数のヌクレオチド欠失、挿入、交換などの改変を有する転写物を指す。例えば、誘導翻訳産物は、改変されたリン酸化、グリコシル化、アセチル化、脂質化などのプロセスによって、又は改変されたシグナルペプチド切断若しくは他のタイプの成熟切断(maturation cleavage)によって、生成し得る。これらのプロセスは、翻訳後に起こり得る。
【0019】
本発明及び特許請求の範囲において使用する「調節物質」という用語は、遺伝子のレベル及び/又は活性、遺伝子の転写産物、又は遺伝子の翻訳産物を変化又は改変し得る分子を指す。「調節物質」とは、タンパク質の機能特性を促進又は阻害する、したがって「調節する」、結合、拮抗、抑圧、遮断、中和又は隔離、活性化、アゴナイゼーション及び上方制御を「調節する」、能力を有する分子を指す。「調節」は、細胞の生物活性に影響を及ぼす能力を指すのにも使用する。「調節物質」は、遺伝子の転写産物又は翻訳産物の生物活性を変化又は改変し得ることが好ましい。例えば、前記調節は、生物活性及び/又は薬理活性の増加若しくは減少、結合特性の変化、又は遺伝子の前記翻訳産物の生物学的、機能的若しくは免疫学的諸性質の任意の他の変化若しくは改変であり得る。
【0020】
「薬剤」、「試薬」又は「化合物」という用語は、細胞、組織、体液に対して、又は試験する任意の生物系若しくは任意のアッセイ系に関連して、正又は負の生物学的効果を有する、任意の物質、化学物質、組成物又は抽出物を指す。これらは、標的の作動物質、拮抗物質、部分作動物質又は逆作動物質であり得る。かかる薬剤、試薬又は化合物は、核酸、天然若しくは合成のペプチド若しくはタンパク質複合体、又は融合タンパク質であり得る。これらは、抗体、有機又は無機の分子又は組成物、小分子、薬物、及び前記薬剤のいずれかの任意の組合せでもあり得る。これらは、試験、診断又は治療目的で使用することができる。
【0021】
「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「プライマー」という用語は、相補的塩基対のハイブリダイゼーションによって所与の標的ポリヌクレオチドにアニールすることができ、ポリメラーゼによって伸長させることができる短い核酸配列を指す。これらは、特定の配列に特異的であるように選択することができ、又は無作為に選択することができ、例えば、混合して、すべての可能な配列を与える(prime)。本明細書において使用するプライマーの長さは、10ヌクレオチドから80ヌクレオチドまで変動し得る。「プローブ」は、本明細書に記載及び開示する核酸配列の短い核酸配列、又はその相補配列である。「プローブ」は、完全長配列、又は所与の配列の断片、誘導体、アイソフォーム若しくは変異体を含み得る。「プローブ」と評価試料のハイブリダイゼーション複合体を同定することによって、試料中の他の類似の配列の存在を検出することができる。
【0022】
本明細書では「相同体又は相同性」は、あるヌクレオチド又はペプチド配列と別のヌクレオチド又はペプチド配列との同一性及び/又は類似性の程度によって決定される、前記比較配列間の関連性を記述するのに当分野で使用される用語である。
【0023】
当分野では、「同一性」及び「類似性」という用語は、問い合わせ配列と、好ましくは同じタイプの他の配列(核酸又はタンパク質配列)とを照合することによって求められる、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列の関連性の程度を意味する。「同一性」及び「類似性」を計算し、決定する、好ましいコンピュータプログラム方法としては、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 1990, 215: 403−410; Altschul et al., Nucleic Acids Res. 1997, 25: 3389−3402; Devereux et al., Nucleic Acids Res. 1984, 12: 387)、BLASTN 2.0(Gish W., http://blast.wustl.edu, 1996−2002)、FASTA(Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988, 85: 2444−2448)、重複が最大になる1対のコンティグを求め、整列させるGCG GelMerge(Wilbur and Lipman, SIAM J. Appl. Math. 1984, 44: 557−567; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 1970, 48: 443−453)などが挙げられるが、これらだけに限定されない。
【0024】
本明細書では「変異体」という用語は、本発明で開示するポリペプチド及びタンパク質に関連して、本発明の天然ポリペプチド又はタンパク質のN末端及び/又はC末端及び/又は天然アミノ酸配列内に、1個以上のアミノ酸が付加及び/又は置換及び/又は欠失及び/又は挿入されているが、その本質的な諸性質を保持している、任意のポリペプチド又はタンパク質を指す。また、本明細書では「変異体」という用語は、本発明で開示する遺伝子転写物に関連して、1個以上のヌクレオチドが付加及び/又は置換及び/又は欠失された、任意のmRNAを指す。
【0025】
また、「変異体」という用語は、ポリペプチド又はタンパク質の任意のより短い、又はより長い、ポリペプチド又はタンパク質を含むものとする。「変異体」は、配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質の少なくとも200アミノ酸長にわたって、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列も含むものとする。「変異体」は、例えば、極めて保存的な領域における保存的アミノ酸置換を有するタンパク質も含む。
【0026】
また、「変異体」という用語は、遺伝子転写物の任意のより短い、又はより長い、遺伝子転写物を含むものとする。「変異体」は、配列番号5、6、7又は8のADARB2遺伝子転写物の少なくとも600ヌクレオチド長にわたって、少なくとも約80%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有する配列も含むものとする。代替塩基配列のためにコドンが別のコドンで置換されているが、DNA配列によって翻訳されたアミノ酸配列は不変である配列変化を含むものとする。当分野で公知のこの現象は、特定のアミノ酸を翻訳するコドンセットの冗長性と呼ばれる。
【0027】
本発明の「タンパク質及びポリペプチド」は、配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質のアミノ酸配列を含むタンパク質の変異体、断片及び化学誘導体を含む。アルギニンとリジン、バリンとロイシン、アスパラギンとグルタミンなど、機能性に影響を及ぼさないアミノ酸交換を含むものとする。天然から単離することができる、又は組み換え及び/又は合成手段によって製造することができる、タンパク質及びポリペプチドが含まれ得る。未変性タンパク質又はポリペプチドとは、天然の切断型又は分泌型、天然の変異型(例えば、スプライスバリアント)、及び天然の対立遺伝子変異体を指す。
【0028】
本明細書では「単離された」という用語は、分子又は物質がその自然環境から変更され、及び/又は取り出され、すなわち分子又は物質が通常存在する、細胞又は生きている生物体から単離され、かつ自然界において付随することが判明している共存成分から分離され、又は本質的に精製された、分子又は物質を指すとみなされる。この概念は、さらに、かかる分子をコードする配列が、その自然状態では連結されていないポリヌクレオチドに人工的に連結され得ることを意味し、かかる分子が、組み換え及び/又は合成手段によって製造され得ることを意味する。かかる分子は「非天然」であるとも言える。前記目的のためであっても、これらの配列を、生きている、又は死んでいる生物体に当業者に公知の方法によって導入することができ、これらの配列が依然として前記生物体中に存在する場合でも、これらの配列はやはり単離されているとみなされる。本発明において、「リスク」、「感受性」及び「素因」という用語は、等価であり、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を発症する可能性に関して使用される。
【0029】
「AD」という用語は、アルツハイマー病を意味するものとする。本明細書では「AD型神経病理」、「AD病理」は、本発明に記載の、また、最新技術の文献から一般に公知の、神経病理学的、神経生理学的、組織病理学的及び臨床的な特徴、徴候及び症候を指す(Iqbal, Swaab, Winblad and Wisniewski, Alzheimer’s Disease and Related Disorders (Etiology, Pathogenesis and Therapeutics), Wiley & Sons, New York, Weinheim, Toronto, 1999; Scinto and Daffner, Early Diagnosis of Alzheimer’s Disease, Humana Press, Totowa, New Jersey, 2000; Mayeux and Christen, Epidemiology of Alzheimer’s Disease: From Gene to Prevention, Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1999; Younkin, Tanzi and Christen, Presenilins and Alzheimer’s Disease, Springer Press, Berlin, Heidelberg, New York, 1998参照)。
【0030】
「ブラーク病期」又は「ブラーク病期分類」という用語は、Braak and Braak(Braak and Braak, Acta Neuropathology 1991, 82: 239−259)によって提案された判定基準に従った脳の分類を指す。ADのブラーク病期分類は、前脳の限定された領域における神経原線維の病理の程度及び分布を評価し、ADの神経病理的進行を6段階に分類する(病期0から6)。ブラーク病期分類は、死後のADの神経病理学的病期分類において、確立され、広く容認されている手順である。精神状態及び認知機能/障害に関するAD患者の臨床症状と、剖検後に得られた対応するブラーク病期との間に有意な相関のあることが確認された(Bancher et al., Neuroscience Letters 1993, 162: 179−182; Gold et al., Acta Neuropathol 2000, 99: 579−582)。同様に、神経原線維の変化と神経細胞病理との相関が見出され(Rossler et al., Acta Neuropathol 2002, 103:363−369)、どちらも認知機能を予測すると報告された(Giannakopoulos et al., Neurology 2003, 60: 1495−1500; Bennett et al., Arch Neurol 2004, 61:378−384)。さらに、ベータ−アミロイドペプチドの沈着を含み、最後に神経原線維変化が形成される発症カスケードが提案された。したがって、神経原線維変化の形成は、分子/細胞レベルにおける初期のAD特異的現象が先行することの証拠になる(Metsaars et al., Neurobiol Aging 2003, 24:563−572)。
【0031】
したがって、本発明においては、ブラーク病期は、個々のドナーの臨床症状/状態とは無関係に、すなわち報告される精神病、認知障害、他の神経精神医学的パラメータの低下、又はADの明白な臨床診断の有無とは無関係に、疾患進行の代用マーカーとして使用される。すなわち、ブラーク病期分類が、分子及び細胞的な根本的発症機序全般を反映し、したがって脳の(病前の)病的状態を規定する、神経原線維の変化と推定される。これは、例えば、ブラーク1の病期にあるドナーが、定義上、病期2(又はそれ以上)のドナーよりも分子/細胞的原因のより初期の段階にあり、したがって、ブラーク病期1のドナーは、例えば、それよりも高いブラーク病期のドナーと比較して、対照個体とみなし得ることを意味する。この点で、対照個体と罹患個体の区別は、健康な対照ドナーとAD患者の臨床診断に基づく区別と必ずしも同じではなく、代用マーカーであるブラーク病期から推定され、また、ブラーク病期によって反映される(病前の)病的状態の推定された差を表す。
【0032】
本発明においては、ブラーク病期0は、アルツハイマー病の徴候及び症候を示していないと考えられる人を表し得るものであり、ブラーク病期1から4は、前記個体がADの臨床徴候及び症候を既に示しているかどうかによって健康な対照個体又はAD患者を表し得る。ブラーク病期が高いほど、ADの徴候及び症候を示す可能性が高く、又はADの徴候及び症候を生じるリスクが高い。神経病理学的評価、すなわち、ADの病変が認知症の根本的原因である確率を推定する場合には、推奨がBraak H.(www.alzforum.org)によって与えられる。
【0033】
対照から得られる値は、既知の健康状態を表す基準値であり、患者から得られる値は、既知の疾患状態を表す基準値である。
【0034】
本発明による神経変性疾患又は障害は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、ピック病、前頭側頭型認知症、進行性核性麻ひ、大脳皮質基底核変性症、脳血管性認知症、多系統萎縮症、し銀性顆粒認知症及び他のタウオパチー並びに軽度の認知障害を含む。神経変性過程を含む更なる症状は、例えば、虚血性脳卒中、加齢黄斑変性症、ナルコレプシー、運動ニューロン疾患、プリオン病、外傷性神経損傷及び修復並びに多発性硬化症である。
【0035】
本発明は、ADAR3、RED2又は単にADARBとも称されるRNA特異的アデノシンデアミナーゼADARB2をコードするADAR遺伝子ファミリーの遺伝子の、また、特定の試料、AD患者の特定の脳領域、相互比較及び/又は同齢対照個体との比較において異なるブラーク病期にグループ分けされた各個体の特定の脳領域における、前記遺伝子ADARB2(ADARB)のタンパク質産物の、同定、差次的発現、差次的調節、調節不全を開示する。本発明は、AD患者の下側頭葉皮質及び前頭皮質においてADARB2 mRNAレベルが増加し、上方制御される点で、対照個体のそれぞれの脳領域と比較して、AD患者の脳において、ADARB2(ADARB)の遺伝子発現が変化し、調節不全であることを開示する。また、本発明は、ADARB2発現が、異なるブラーク病期にグループ分けされた各個体の特定の脳領域において異なり、主に下側頭葉皮質において、発現レベルの増加が初期のブラーク病期(ブラーク1−3)において既に始まり、晩期のブラーク病期(ブラーク4−6)に向かって次第に増加することを開示する。
【0036】
AD患者と対照個体を比較すると、また、異なるブラーク病期を比較すると、ADARB2遺伝子転写レベルにおいて観察される差は、ADARB2タンパク質レベルにおいて見出すことができる実質的な差によってさらに裏付けられる。対照個体と比較して、AD患者の脳試料では、ADARB2タンパク質レベルが実質的に増加している。AD型病理の発症と並行した、ADARB2遺伝子発現のこの調節不全、並びに対応する遺伝子産物のレベルの変化は、ADARB2とADの関連性を明らかに反映しており、疾患の過程における進行性の病理学的現象を示している。現在まで、ADARB2遺伝子発現の調節不全と神経変性疾患、特にADの病理との関係を実証した実験は記述されていない。同様に、ADARB2遺伝子の変異が、前記疾患と関連があることも記述されていない。ADARB2遺伝子とかかる疾患を関連付けることによって、とりわけ前記疾患の診断及び治療のための、新しい方法がもたらされる。さらに、ADARB2と、ADの発症過程の初期に既に発生している病理学的現象とを関連付けることによって、AD病理の開始を阻止する治療の可能性がもたらされる。治療は、修復不能な脳の損傷が起こる前に施される。その結果、本発明は、診断評価、治療を受けている人の診断監視、予後、及び神経変性疾患、特にADの素因の特定に有用である。
【0037】
本発明は、ADARB2をコードする遺伝子、及びAD患者の特定の脳領域におけるその遺伝子産物の調節不全を開示する。下側頭葉、嗅内皮質、海馬及びへん桃体内のニューロンは、ADにおける変性過程を受けやすい(Terry et al., Annals of Neurology 1981, 10:184−192)。これらの脳領域は、学習及び記憶機能の処理に主に関与し、ADにおけるニューロンの減少及び変性に対して選択的な脆弱性を示す。これに対し、前頭皮質、後頭皮質及び小脳内のニューロンは、ほとんど無傷のままであり、神経変性プロセスから保護されている。AD患者及び同齢対照の前頭皮質(F)及び下側頭葉皮質(T)から得られた脳組織を本明細書で開示する実施例に使用した。その結果、ADARB2遺伝子並びにその対応する転写及び/又は翻訳産物は、原因となる役割を果たし、及び/又は選択的ニューロン変性及び/又は神経保護に対して影響を及ぼす。
【0038】
一態様においては、本発明は、対象における神経変性疾患を診断若しくは予知する方法、対象が前記疾患を発症する素因を有するどうか、前記疾患を発症するリスクが大きいかどうかを判定する方法、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視する方法を特徴とする。本方法は、前記対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定すること、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその前記断片、誘導体又は変異体の前記レベル、発現及び/又は前記活性を、既知の疾患状態(患者)を表す基準値、及び/又は既知の健康状態(対照)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較すること、前記レベル及び/又は前記活性が、既知の健康状態を表す基準値と比較して変動するかどうか、変化するかどうか、及び/又は既知の疾患状態を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうか、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較して類似しているかどうか(これらは、前記対象が神経変性疾患を有することの指標、前記対象が前記疾患の徴候及び症候を生じるリスクが大きいことの指標である。)を解析し、それによって前記対象における前記神経変性疾患を診断若しくは予後判定すること、又は前記対象が前記神経変性疾患を発症するリスクが大きいかどうかを判定することを含む。「対象における」という表現は、対象が罹患した疾患に関係する限り、すなわち、前記疾患が対象「中」に存在する限り、開示した方法の結果を指す。
【0039】
更に別の態様においては、本発明は、対象における神経変性疾患の進行を監視する方法を特徴とする。前記対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定する。前記レベル、発現及び/又は前記活性を、既知の疾患若しくは健康状態又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較する。それによって、前記対象における前記神経変性疾患の進行を監視する。
【0040】
更に別の態様においては、本発明は、前記疾患の治療を受ける対象から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を測定することを含む、神経変性疾患に対する治療を評価する方法、又は治療の効果を監視する方法を特徴とする。前記レベル、発現若しくは前記活性、又は前記レベル、発現及び前記活性を、既知の疾患若しくは健康状態又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較し、それによって前記神経変性疾患に対する治療を評価する。
【0041】
好ましい実施形態においては、前記疾患の進行を監視するために、ある期間にわたって前記対象から採取した一連の試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方を比較する。更に好ましい実施形態においては、前記対象は、前記試料採集の1回以上の前に治療を受ける。更に別の好ましい実施形態においては、前記レベル及び/又は活性を、前記対象の前記治療の前後に測定する。
【0042】
ADARB2の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の前記レベル、発現及び/又は前記活性は、AD患者から得られた試料において、ADに罹患していない対照の人から得られた試料と比較して、増加し、上方制御されていることが好ましい。例えば、ADARB2の転写産物及び/又は翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の発現及び/又は活性を患者の試料から測定し、健康な対照対象の試料(基準試料)中のADARB2の転写産物及び/又は翻訳産物及びその断片、誘導体又は変異体の発現及び/又は活性と比較する。
【0043】
本明細書で特許請求する本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、アッセイ及び使用の好ましい実施形態においては、前記ADARB2遺伝子は、配列番号1(スプライスバリアント1(sv1)、UniProtプライマリアクセッション番号Q9NS39)、配列番号2(スプライスバリアント2(sv2)、UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW42)、配列番号3(スプライスバリアント3(sv3)、UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW43)又は配列番号4(スプライスバリアント4(sv4)、UniProtプライマリアクセッション番号Q86X17)のタンパク質をコードする。前記スプライスバリアントのアミノ酸配列は、それぞれ、Ensembl ID ENST00000381312のcDNA配列に対応する配列番号5、Ensembl ID ENST00000381310のcDNA配列に対応する配列番号6、Ensembl ID ENST00000381305のcDNA配列に対応する配列番号7、及びEnsembl ID ENST00000337857のcDNA配列に対応する配列番号8の各mRNA配列から推定された。本発明においては、ADARB2は、ヒトADARB2スプライスバリアントのコード配列(cds)を表す配列番号9、10、11及び12の核酸配列も指す。本発明においては、前記配列は、本明細書で使用する用語に従って「単離されて」いる。また、本発明においては、前記ADARB2タンパク質(スプライスバリアントsv1、sv2、sv3及びsv4)をコードする遺伝子を、ADARB2遺伝子、又は単にADARBとも総称する。ADARB2のタンパク質(特に、スプライスバリアントsv1、sv2、sv3及びsv4)を、ADARB2タンパク質、ADARB2スプライスバリアント、又は単にADARB2とも総称する。
【0044】
本明細書で特許請求する本発明の方法、キット、組み換え動物、分子、アッセイ及び使用の更に好ましい実施形態においては、前記神経変性疾患又は障害はアルツハイマー病であり、前記対象はアルツハイマー病の徴候及び症候を示す。
【0045】
分析され、判定される試料は、脳組織若しくは他の組織又は体細胞を含む群から選択されることが好ましい。試料は、脳脊髄液、又は唾液、尿、便、血液、血清 血しょう若しくは粘液を含めた他の体液も含み得る。好ましくは、神経変性疾患に対する、本発明による診断、予後、進行監視又は治療評価の各方法は、体外で実施することができ、かかる方法は、対象、患者又は対照の人から取り出し、収集し、又は単離した試料、例えば、体液又は細胞に好ましくは関係する。
【0046】
更に好ましい実施形態においては、前記基準値は、前記神経変性疾患に罹患していない対象から得られた試料(対照試料、対照、健康な対照の人)、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に罹患した対象から得られた試料(患者試料、患者、AD試料)、又はADの徴候及び症候を示し得る、若しくは示さなくてもよい、特定のブラーク病期の人から得られた試料中の(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方の基準値である。
【0047】
好ましい実施形態においては、既知の健康状態(対照試料)を表す基準値に対する、前記対象から採取された試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現の変化によって、神経変性疾患、特にADに罹患することの診断、予後、又はリスクの増加が示される。
【0048】
更に好ましい実施形態においては、神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD患者試料)の既知の疾患状態を表す基準値に対して、対象から得られた試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現が同じである、又は類似していることは、前記神経変性疾患に罹患することの診断、予後、又はリスクの増加を示す。
【0049】
別の更に好ましい実施形態においては、ADの徴候及び症候を生じるリスクが高いことを示す既知のブラーク病期を表す基準値に対して、対象から得られた試料細胞、組織又は体液中のADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又はADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル、発現及び/又は活性が同じである、又は類似していることは、ADに罹患することの診断、予後、又はリスクの増加を示す。
【0050】
しかし、ADARB2の前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及びその断片、誘導体若しくは変異体の前記変動した、変化したレベル、変化した発現、及び/又は前記変化した活性は、増加、上方制御であることが好ましい。
【0051】
好ましい実施形態においては、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物及び/又は発現のレベルは、対象から得られた試料において、対象の試料から抽出したRNAを逆転写して得られるcDNAから前記遺伝子特異的配列を増幅するプライマーの組合せを有する定量的PCR分析によって測定される。プライマーの組合せ(配列番号13、配列番号14)を本発明の実施例(vi)に示すが、本発明で開示する配列から作製される他のプライマーも使用することができる。前記遺伝子に特異的であるプローブを用いたノーザンブロット又はリボヌクレアーゼ保護アッセイ(RPA)を適用することもできる。マイクロチップを用いたマイクロアレイ技術によって、転写産物を測定することが更に好ましい場合もある。これらの技術は、当業者に公知である(Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001; Schena M., Microarray Biochip Technology, Eaton Publishing, Natick, MA, 2000参照)。免疫測定法の例は、国際公開第02/14543号に開示及び記載されている酵素活性の検出及び測定法である。
【0052】
本発明は、本発明で開示するその核酸配列、断片又は変異体に独特なプライマー及びプローブの構築及び使用にも関する。オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はプローブは、蛍光性、生物発光性、磁性又は放射性物質で特異的に標識することができる。本発明は、さらに、適切な組合せの前記特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた、その前記核酸配列又は断片及び変異体の検出及び生成に関係する。当業者に周知の方法であるPCR分析を、前記プライマーの組合せを用いて実施して、核酸を含む試料から、前記遺伝子特異的核酸配列を増幅することができる。かかる試料は、健康な対象、罹患した対象、又は特定のブラーク病期にある対象から得ることができる。増幅によって特定の核酸産物が生成するかどうか、また、長さの異なる断片が得られるかどうかによって、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に罹患しているかどうかを示すことができる。したがって、本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関連し得る、試験核酸配列を含む所与の試料中の遺伝子変異及び一塩基多形を検出するのに有用である、少なくとも10塩基長の核酸配列、オリゴヌクレオチドプライマー及びプローブからコード配列全体及び遺伝子配列全体までを提供する。この特徴は、DNAを用いた迅速な診断テストを、好ましくはキットの形式でも、開発するのに有用である。ADARB2用プライマーを実施例(vi)に例示する。
【0053】
また、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は前記翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性及び/又は発現、及び/又は前記翻訳産物、及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル又は活性は、免疫測定法、活性アッセイ、例えば、細胞のデアミナーゼアッセイ、GluR2及び5HT2c活性を測定する細胞アッセイ、RNA相互作用を測定するアッセイ、及び/又は結合アッセイを用いて検出することができる。これらのアッセイは、抗プロテイン抗体又は抗プロテイン抗体に結合する二次抗体のどちらかに結合した、酵素標識、クロモ力学標識、放射性標識、磁性標識又は発光標識を使用することによって、前記タンパク質分子と抗プロテイン抗体との結合量を測定することができる。また、他の高親和性リガンドを使用することもできる。使用することができる免疫測定法としては、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、及び当業者に公知の他の技術が挙げられる(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999及びEdwards R, Immunodiagnostics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford; England, 1999参照)。これらの全検出技術は、マイクロアレイ、タンパク質アレイ、抗体マイクロアレイ、組織マイクロアレイ、電子バイオチップ又はタンパク質チップを用いた技術の形式で使用することもできる(Schena M., Microarray Biochip Technology, Eaton Publishing, Natick, MA, 2000参照)。
【0054】
別の態様においては、本発明は、対象における、神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知するキット、又は神経変性疾患、特にADを発症する対象の傾向若しくは素因を求めるキット、又は神経変性疾患、特にADを有する対象に施した治療の効果を監視するキットを特徴とする。前記キットは、
(a)(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を選択的に検出する試薬、(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物を選択的に検出する試薬、及び/又は(iii)前記転写又は翻訳産物の断片、誘導体又は変異体を検出する試薬からなる群から選択される少なくとも1種類の試薬、
(b)
− 前記対象から得られた試料において、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又は上記の断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方、及び/又は発現を測定すること、
− 前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体の前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現を、既知の疾患状態(患者)を表す基準値、及び/又は既知の健康状態(対照)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較すること、
− 前記レベル及び/又は前記活性及び/又は発現が、既知の健康状態を表す基準値に対して変動しているかどうか、及び/又は既知の疾患状態を表す基準値、若しくは既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうかを解析すること、並びに
− 神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知すること、又はかかる疾患を発症する前記対象の傾向若しくは素因を求めること(ここで、既知の健康状態(対照)を表す基準値と比較して、前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル、発現若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方の変動若しくは変化、及び/又は前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方が、既知の疾患状態(患者試料)、好ましくはADの疾患状態(AD患者)を表す基準値、及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであることは、神経変性疾患、特にADの診断若しくは予後、又はかかる疾患を発症する傾向若しくは素因の増加、ADの徴候及び症候を生じるリスクが高いことを示す。)
によって、神経変性疾患、特にADを診断若しくは予知するための説明書、かかる疾患を発症する対象の傾向若しくは素因を求めるための説明書、又は治療の効果を監視する説明書を含む。本発明によるキットは、神経変性疾患、特にADを発症するリスクがある個体を特定するのに特に有用であり得る。
【0055】
ADARB2タンパク質をコードする、好ましくは配列番号1、2、3又は4のスプライスバリアントをコードする、遺伝子の転写産物及び/又は翻訳産物を選択的に検出する試薬は、種々の長さの配列、配列断片、抗体、アプタマー、siRNA、ミクロRNA、リボザイムであり得る。かかる試薬は、その断片、誘導体又は変異体の検出にも使用することができる。
【0056】
更に別の態様においては、本発明は、対象における、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を診断又は予知する方法、かかる疾患を発症する対象の傾向又は素因を求める方法、及び神経変性疾患、特にADを有する対象に施した治療の効果を監視する方法におけるキットの使用を特徴とする。
【0057】
その結果、本発明によるキットは、疾患発症前の、疾患過程において不可逆的損傷が生じる前の、初期の予防措置又は治療的介入のために、特定の個体を標的にする手段として役立ち得る。また、好ましい実施形態においては、本発明によるキットは、対象における、神経変性疾患、特にADの進行の監視、及び前記対象のかかる疾患に対する治療処置の成功又は失敗の監視に有用である。
【0058】
別の態様においては、本発明は、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体のレベル若しくは活性、又は前記レベルと前記活性の両方に直接的又は間接的に影響を及ぼす、薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質又は抗体を治療又は予防に有効な量及び処方で、神経変性疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、対象における、神経変性疾患、特にADを治療又は予防する方法を特徴とする。前記薬剤は、小分子を含んでいてもよく、又はペプチド、オリゴペプチド若しくはポリペプチドを含んでいてもよい。前記ペプチド、オリゴペプチド又はポリペプチドは、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体のアミノ酸配列を含み得る。本発明による、神経変性疾患、特にADを治療又は予防する薬剤は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドからもなり得る。前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドは、センス方向又はアンチセンス方向の、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子のヌクレオチド配列を含み得る。
【0059】
好ましい実施形態においては、本方法は、前記薬剤を投与するために、遺伝子療法及び/又はアンチセンス核酸技術のそれ自体公知の方法の適用を含む。一般に、遺伝子療法としては、幾つかの手法、すなわち、変異遺伝子の分子置換、治療タンパク質の合成をもたらす新しい遺伝子の添加、組み換え発現方法又は薬物による、内因性細胞の遺伝子発現の調節などが挙げられる。遺伝子移入技術は、詳述されており(例えば、Behr, Acc Chem Res 1993, 26: 274−278及びMulligan, Science 1993, 260: 926−931参照)、細胞へのDNAの機械的微量注入などの直接遺伝子移入技術、(組み換えウイルス、特にレトロウイルスのような)生物学的ベクター又はモデルリポソームを用いた間接的技術、ポリカチオンとのDNA共沈による形質移入に基づく技術、化学的手段(溶媒、洗浄剤、ポリマー、酵素)又は物理的手段(機械衝撃、浸透圧衝撃、熱衝撃、電気衝撃)による細胞膜撹乱(perturbation)などが挙げられる。出生後の中枢神経系への遺伝子移入が詳述されている(例えば、Wolff, Curr Opin Neurobiol 1993, 3: 743−748参照)。
【0060】
特に、本発明は、アンチセンス核酸療法の手段、すなわち、アンチセンス核酸又はその誘導体をある重要な細胞に導入することによって、不適当に発現された遺伝子、又は不完全な遺伝子を下方制御する手段によって、神経変性疾患を治療又は予防する方法を特徴とする(例えば、Gillespie, DN&P 1992, 5: 389−395; Agrawal and Akhtar, Trends Biotechnol 1995, 13: 197−199; Crooke, Biotechnology 1992, 10: 882−6参照)。ハイブリダイゼーション戦略とは別に、疾患のメッセージを輸送するRNAを破壊するリボザイム、すなわち酵素として作用するRNA分子の適用も記述されている(例えば、Barinaga, Science 1993, 262: 1512−1514参照)。好ましい実施形態においては、治療対象はヒトであり、治療用アンチセンス核酸又はその誘導体は、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を対象にする。対象の中枢神経系、好ましくは脳の細胞をかかる方法で治療することが好ましい。細胞への貫入は、アンチセンス核酸及びその誘導体とキャリア粒子とのカップリングなどの公知の戦略、又は上記技術によって実施することができる。標的の治療用オリゴデオキシヌクレオチドを投与する戦略は、当業者に公知である(例えば、Wickstrom, Trends Biotechnol 1992, 10: 281−287参照)。送達を単なる局所適用によって実施することができる場合もある。更なる手法は、アンチセンスRNAの細胞内発現を対象とする。この戦略においては、標的核酸の領域に相補的であるRNAの合成を誘導する組み換え遺伝子で細胞を生体外で形質転換する。細胞内で発現されるアンチセンスRNAを治療に使用することは、遺伝子療法に手順が類似している。RNA干渉(RNAi)として種々知られる、二本鎖RNAの使用によって遺伝子の細胞内発現を制御する最近開発された方法は、核酸療法のための別の有効な手法となり得る(Hannon, Nature 2002, 418: 244−251)。
【0061】
更に好ましい実施形態においては、本方法は、前記対象の中枢神経系、好ましくは脳中にドナー細胞を移植することを含み、又は移植片拒絶を最小限に抑える若しくは減少させるように好ましくは処理されたドナー細胞を移植することを含み、前記ドナー細胞は、前記薬剤をコードする少なくとも1種類の導入遺伝子の挿入によって遺伝子改変されている。前記導入遺伝子は、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって輸送し得る。導入遺伝子は、導入遺伝子をコードするDNAを非ウイルス性の物理的形質移入によって、特に微量注入によって、ドナー細胞に挿入することができる。導入遺伝子は、電気穿孔法、化学的形質移入、特にリン酸カルシウム形質移入、又はリポソームによる形質移入によって、挿入することもできる(Mc Celland and Pardee, Expression Genetics: Accelerated and High−Throughput Methods, Eaton Publishing, Natick, MA, 1999参照)。
【0062】
好ましい実施形態においては、神経変性疾患、特にADを治療及び予防するための前記薬剤は、対象細胞を前記対象に導入することを含む方法によって、前記対象、好ましくはヒトに投与することができる治療タンパク質である。前記対象細胞は、前記治療タンパク質をコードするDNAセグメントが挿入されるようにインビトロで処理されている。前記対象細胞は、前記対象において前記治療タンパク質の治療有効量をインビボで発現する。前記DNAセグメントは、ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターによって前記細胞にインビトロで挿入することができる。
【0063】
本発明による治療又は予防方法は、上記細胞療法及び遺伝子療法のいずれかと組み合わせた、治療クローニング、移植、並びに胚性幹細胞又は胚性胚細胞及びニューロン成体幹細胞を用いた幹細胞療法の適用を含む。幹細胞は、全能性又は多能性であり得る。幹細胞は、器官特異的でもあり得る。
【0064】
罹患した、及び/又は損傷を受けた、脳細胞又は組織を修復する戦略は以下を含む。(i)ドナー細胞を成体組織から採取すること。ドナー細胞の核を、遺伝物質が除去された未受精卵細胞に移植する。胚性幹細胞を、体細胞核移植した細胞の胚盤胞段階から単離する。次いで、分化因子を使用して、幹細胞から特殊な細胞タイプ、好ましくは神経細胞への定方向の発達がもたらされる(Lanza et al., Nature Medicine 1999, 9: 975−977)。又は(ii)インビトロでの増殖と、それに続く移植(grafting)及び移植(transplantation)のために、中枢神経系又は骨髄(間葉幹細胞)から単離された成体幹細胞を精製すること。又は(iii)内因性神経幹細胞を直接誘導して、機能的ニューロンに増殖、移動及び分化させること(Peterson DA, Curr. Opin. Pharmacol. 2002, 2: 34−42)。成体脳の胚中心は、ニューロン損傷又は機能不全がないので、成体神経幹細胞は、損傷を受けた脳組織、又は罹患した脳組織の修復に大きな可能性を有する(Colman A, Drug Discovery World 2001, 7: 66−71)。
【0065】
好ましい実施形態においては、本発明による治療又は予防の対象は、ヒト、非ヒト実験動物、例えばマウス若しくはラット、家畜又は非ヒト霊長類とすることができる。実験動物は、神経変性疾患用動物モデル、例えば、AD型神経病理を有するトランスジェニックマウス及び/又はノックアウトマウスとすることができる。
【0066】
更に別の態様においては、本発明は、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される少なくとも1種類の物質の活性若しくはレベル、又は前記活性と前記レベルの両方、及び/又は発現の薬剤、拮抗物質、作動物質又は調節物質を特徴とする。前記薬剤、拮抗物質若しくは作動物質又は前記調節物質は、神経変性疾患、特にADの治療において、潜在的活性を有する。
【0067】
別の態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にADの治療又は予防用医薬品の製造における、(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される少なくとも1種類の物質の活性若しくはレベル、又は前記活性と前記レベルの両方、及び/又は発現の薬剤、抗体、拮抗物質若しくは作動物質又は調節物質の使用を規定する。前記抗体は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物、又はかかる翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体である、免疫原と特異的に免疫反応し得る。
【0068】
更に別の態様においては、本発明は、前記薬剤、抗体、拮抗物質若しくは作動物質又は調節物質と、好ましくは薬剤担体とを含む、薬剤組成物を特徴とする。前記担体とは、調節物質が一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルを指す。
【0069】
一態様においては、本発明は、前記薬剤組成物の治療有効量又は予防有効量を充填した1個以上の容器を含むキットも提供する。
【0070】
更に別の態様においては、本発明は、天然ADARB2遺伝子転写制御要素ではない転写要素の制御下にある、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする非天然ADARB2遺伝子配列、又はその断片、誘導体若しくは変異体を含む、組み換え、遺伝子改変非ヒト動物を特徴とする。前記組み換え、非ヒト動物の作製は、(i)前記遺伝子配列及び選択マーカー配列を含む、遺伝子ターゲティング構築体を用意すること、(ii)前記ターゲティング構築体を非ヒト動物の幹細胞に導入すること、(iii)前記非ヒト動物幹細胞を非ヒト胚に導入すること、(iv)前記胚を偽妊娠非ヒト動物に移植すること、(v)前記胚を満期(term)まで発達させること、(vi)そのゲノムが、両方の対立遺伝子に前記遺伝子配列の改変を含む、遺伝子改変非ヒト動物を特定すること、及び(vii)段階(vi)の遺伝子改変非ヒト動物を飼育して、そのゲノムが前記遺伝子配列の改変を含む遺伝子改変非ヒト動物を得ることを含み、前記遺伝子の発現、異所性発現、低発現、非発現又は過剰発現、前記遺伝子配列の破壊又は変更によって、神経変性疾患、特にADの徴候及び症候を生じる素因のある前記非ヒト動物が作製される。かかる動物を作製及び構築する戦略及び技術は、当業者に公知である(例えば、Capecchi, Science 1989, 244: 1288−1292、Hogan et al., Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1994、及びJackson and Abbott, Mouse Genetics and Transgenics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford, England, 1999)。
【0071】
かかる遺伝子改変組み換え非ヒト動物を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検討するための動物モデル、試験動物又は対照動物として使用することが好ましい。かかる動物は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療する診断薬及び治療薬の開発において、化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び検証に有用であり得る。スクリーニング方法におけるかかる遺伝子改変動物の使用を本発明で開示する。
【0072】
更に別の態様においては、本発明は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子配列が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療する診断薬及び治療薬の開発において、化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び検証のために、異所性発現、低発現、非発現若しくは過剰発現され、又は破壊され、若しくは別の様式で変更された、細胞を使用する。スクリーニング方法におけるかかる細胞の使用を本発明で開示する。
【0073】
別の態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質若しくは作動物質をスクリーニングする方法を特徴とする。この薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質は、(i)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)(好ましくは配列番号1、2又は3を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される1種類以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させる能力を有する。このスクリーニング方法は、(a)細胞を試験化合物と接触させること、(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において、前記物質の活性及び/又はレベル、又は活性とレベルの両方、及び/又は発現を測定すること、並びに(d)段階(b)と(c)の各細胞中の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較することを含み、接触させた細胞における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される。前記細胞は、本発明で開示する細胞であり得る。
【0074】
別の一態様においては、本発明は、神経変性疾患、特にAD、又は関連疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質をスクリーニングする方法を特徴とする。この薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質は、(i)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は(ii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は(iii)(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体からなる群から選択される1種類以上の物質の発現及び/又はレベル及び/又は活性を変化させる能力を有する。この方法は、(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた、非ヒト試験動物に試験化合物を投与すること(前記動物は、本発明で開示する動物モデルであり得る。)、(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の前記徴候及び症候を同じく生じやすい、又は既に生じた、かかる試験化合物が投与されていない、非ヒト対照動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、並びに(d)段階(b)と(c)の各動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較することを含み、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が、神経変性疾患及び障害の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される。
【0075】
別の実施形態においては、本発明は、(i)上記スクリーニングアッセイ方法によって、神経変性疾患の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定する段階と、(ii)前記薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を薬剤担体と混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を、別のタイプのスクリーニング方法及びアッセイによって特定することもできる。
【0076】
別の態様においては、本発明は、リガンドと(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度又は促進度を求めるために、及び/又は前記化合物と(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質、又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めるために、化合物を試験するアッセイ、好ましくは複数の化合物をハイスループット形式でスクリーニングするアッセイを規定する。リガンドと、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害を明らかにするために、前記スクリーニングアッセイは、(i)前記ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体の懸濁液を複数の容器に添加する段階、(ii)前記阻害についてスクリーニングされる化合物又は複数の化合物を前記複数の容器に添加する段階、(iii)検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドを前記容器に添加する段階、(iv)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と、前記化合物又は複数の化合物と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識されたリガンドとをインキュベートする段階、(v)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と結合したリガンドの量、好ましくはその蛍光を測定する段階、並びに(vi)前記化合物の1種類以上による、前記リガンドと前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度を求める段階を含む。前記ADARB2翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体を人工リポソーム中に再構成して、対応するタンパク質リポソームを作製し、リガンドと前記ADARB2翻訳産物との結合の阻害を求めることが好ましい場合もある。ADARB2翻訳産物を洗浄剤からリポソーム中に再構成する方法は、詳述されている(Schwarz et al., Biochemistry 1999, 38: 9456−9464; Krivosheev and Usanov, Biochemistry−Moscow 1997, 62: 1064−1073)。蛍光標識リガンドを利用する代わりに、当業者に公知の任意の他の検出可能な標識、例えば放射能標識を使用し、それに応じてその標識を検出することが好ましい態様もあり得る。前記方法は、新規化合物の特定に、並びにリガンドとADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合を阻害する能力が改善又は最適化された化合物の評価に、有用であり得る。担体粒子の使用に基づく蛍光結合アッセイの一例は、国際公開第00/52451号に開示及び記載されている。更なる例は、国際公開第02/01226号に記載の競合アッセイ法である。本発明のスクリーニングアッセイのための好ましい信号検出方法は、以下の特許出願、すなわち、国際公開第96/13744号、同98/16814号、同98/23942号、同99/17086号、同99/34195号、同00/66985号、同01/59436号及び同01/59416号に記載されている。
【0077】
更なる一実施形態においては、本発明は、(i)上記阻害結合アッセイによって、リガンドとADARB2タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合の阻害剤として化合物を特定する段階と、(ii)化合物と薬剤担体を混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物を他のタイプのスクリーニングアッセイによって特定することもできる。
【0078】
また、本発明は、化合物を試験して、好ましくは複数の化合物をハイスループット形式でスクリーニングして、前記化合物と(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めるアッセイを提供する。前記スクリーニングアッセイは、(i)前記ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体の懸濁液を複数の容器に添加すること、(ii)前記結合についてスクリーニングされる、検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、又は検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物を前記複数の容器に添加すること、(iii)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と、前記検出可能な、好ましくは蛍光標識された化合物、又は検出可能な、好ましくは蛍光標識された複数の化合物とをインキュベートすること、(iv)前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体と結合した化合物の量、好ましくはその蛍光を測定すること、並びに(v)前記化合物の1種類以上による、前記ADARB2タンパク質又はその前記断片、誘導体若しくは変異体との結合度を求めることを含む。このタイプのアッセイにおいては、蛍光標識を使用することが好ましい場合がある。しかし、任意の他のタイプの検出可能な標識を使用することもできる。このタイプのアッセイにおいても、ADARB2翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体を、本発明に記載の人工リポソーム中に再構成することが好ましい場合もある。前記アッセイ方法は、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合能力が改善又は最適化された、新規化合物の特定、及び化合物の評価に有用であり得る。
【0079】
更なる一実施形態においては、本発明は、(i)上記結合アッセイによって、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子産物との結合剤として化合物を特定する段階と、(ii)化合物と薬剤担体を混合する段階とを含む、医薬品を製造する方法を提供する。しかし、前記化合物を他のタイプのスクリーニングアッセイによって特定することもできる。
【0080】
別の実施形態においては、本発明は、本明細書で特許請求するスクリーニングアッセイによる方法のいずれかによって得ることができる医薬品を規定する。更なる一実施形態においては、本発明は、本明細書で特許請求するスクリーニングアッセイによる方法のいずれかによって得られる医薬品を規定する。
【0081】
一般に、上記アッセイ及びスクリーニング方法、並びにそれから特定された可能性ある薬物分子(例えば、薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質)は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防に対して適用可能である。
【0082】
本発明の別の態様は、ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、及び(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)前記タンパク質分子又はその断片、誘導体若しくは変異体を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を検出するための診断上の標的として使用することを特徴とする。
【0083】
本発明は、さらに、ADARB2をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子、及び(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)前記タンパク質分子又はその断片、誘導体若しくは変異体を、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を予防、治療又は改善する薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質、試薬又は化合物のスクリーニング標的として使用することを特徴とする。
【0084】
本発明は、免疫原と特異的に免疫反応する抗体を特徴とする。前記免疫原は、(好ましくは配列番号1、2、3又は4を有する)ADARB2タンパク質をコードするADARB2遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体である。この免疫原は、前記遺伝子の翻訳産物の免疫原エピトープ、抗原エピトープ又は一部を含み得る。翻訳産物の前記免疫原性又は抗原性部分はポリペプチドであり、前記ポリペプチドは動物において抗体応答を誘発し、前記抗体と免疫特異的に結合する。抗体を作製する方法は、当分野で周知である(Harlow et al., Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1988参照)。本発明では「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、組み換え(recombinatorial)抗体、抗イディオタイプ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、これらの断片など、当分野で公知である抗体の全形態を包含する(Dubel and Breitling, Recombinant Antibodies, Wiley−Liss, New York, NY, 1999)。本発明の抗体は、例えば、酵素免疫測定法(例えば、酵素結合免疫吸着検定法、ELISA)、放射性免疫測定法、化学発光免疫測定法、ウエスタンブロット、免疫沈降、抗体マイクロアレイなどの最新技術に基づく種々の診断及び治療方法に有用である(Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1999及びEdwards R., Immunodiagnostics: A Practical Approach, Oxford University Press, Oxford, England, 1999参照)。これらの方法は、ADARB2遺伝子の翻訳産物又はその断片、誘導体若しくは変異体の検出を含む。
【0085】
本発明の好ましい実施形態においては、前記抗体は、前記抗体を用いた前記細胞の免疫細胞化学的染色を含む、対象から得られた試料中の細胞の病理学的状態の検出に使用することができる。ここで、既知の健康状態を示す細胞と比較した、前記細胞における染色度又は染色パターンの変化によって、前記細胞の病理学的状態が示される。好ましくは、病理学的状態は、神経変性疾患、特にADに関係する。細胞の免疫細胞化学的染色は、当分野で周知である幾つかの異なる実験法によって実施することができる。しかし、抗体結合を検出する自動化された方法を適用することが好ましい場合もある。ここで、細胞の染色度の測定、又は細胞若しくは細胞下の染色パターン、細胞表面上、若しくは細胞小器官間及び他の細胞内構造間の抗原の形態上の分布の測定は、米国特許第6150173号に記載の方法によって実施される。
【0086】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の図の説明及び実施例から明らかになるはずである。以下の図の説明及び実施例は、単なる説明のためのものであって、開示の残りの部分を決して限定するものではない。
【0087】
図:
図1に、GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示す。このグラフは、それぞれのmRNA種のレベルがADの進行と定量的に相関し、したがってBraak and Braak(ブラーク病期分類)に従った脳組織試料の神経病理学的病期分類によって測定されたADを表すことを示している。ブラーク病期0の5名の異なるドナー(C011、C012、C026、C027及びC032)、ブラーク病期1の7名の異なるドナー(C014、C028、C029、C030、C036、C038及びC039)、ブラーク病期2の5名の異なるドナー(C008、C031、C033、C034及びDE03)、ブラーク病期3の4名の異なるドナー(C025、DE07、DE11及びC057)、及びブラーク病期4の4名の異なるドナー(P012、P046、P047及びP068)の各々の前頭皮質及び下側頭葉皮質のcRNAプローブを、それぞれAffymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayの分析にかけた。主に下側頭組織において、ブラーク病期に合わせたADARB2遺伝子の連続的な発現増加を反映した差が見られる。
【0088】
図2は、定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータである。Roche Lightcycler急速サーマルサイクリング技術を用いた定量RT−PCRを実施し、同じドナーの前頭皮質(Frontal)及び下側頭葉皮質(Temporal)のcDNAをGeneChip解析に使用したのと同様に適用した。データを、その遺伝子発現レベルに有意差を示さない標準遺伝子であるサイクロフィリンBの値に正規化した。最低のブラーク病期0の試料を高いブラーク病期4を示す試料と比較すると、ADARB2の遺伝子発現レベルにおける実質的な差が明らかである。
【0089】
図3は、定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果である(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。ブラーク病期0から1の対象を含む対照群を規定することによってデータを計算した。このデータを、ブラーク病期2から4を含む進行したAD病理を有する規定の群に対して計算したデータと比較する。ADARB2の上方制御を反映する実質的な差が、前頭及び下側頭葉皮質において見られ、GeneChip解析から得られた結果を裏付けている。ブラーク病期0−1の下側頭葉皮質(T)をブラーク病期2−4と比較すると、ADARB2の上方制御を反映した有意差がある。
【0090】
図4Aに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す(スプライスバリアント1、sv1)(UniProtプライマリアクセッション番号Q9NS39)。このADARB2タンパク質は、739個のアミノ酸で構成される。
【0091】
図4Bに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す(スプライスバリアント2、sv2)(UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW42)。このADARB2タンパク質は、248個のアミノ酸で構成される。
【0092】
図4Cに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す(スプライスバリアント3、sv3)(UniProtプライマリアクセッション番号Q5VW43)。このADARB2タンパク質は、141個のアミノ酸で構成される。
【0093】
図4Dに、ヒトADARB2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す(スプライスバリアント4、sv4)(UniProtプライマリアクセッション番号Q86X17)。このADARB2タンパク質は、134個のアミノ酸で構成される。
【0094】
図5Aに、3606個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv1タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す(スプライスバリアント1、sv1)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381312)。
【0095】
図5Bに、1810個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv2タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す(スプライスバリアント2、sv2)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381310)。
【0096】
図5Cに、703個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv3タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す(スプライスバリアント3、sv3)(Ensembl転写物ID番号ENST00000381305)。
【0097】
図5Dに、555個のヌクレオチドで構成される、ADARB2 sv4タンパク質をコードするヒトADARB2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す(スプライスバリアント4、sv4)(Ensembl転写物ID番号ENST00000337857)。
【0098】
図6Aに、配列番号5のヌクレオチド327から2546を含む2220個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv1のコード配列(cds)である配列番号9を示す。
【0099】
図6Bに、配列番号6のヌクレオチド5から751を含む747個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv2のコード配列(cds)である配列番号10を示す。
【0100】
図6Cに、配列番号7のヌクレオチド236から661を含む426個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv3のコード配列(cds)である配列番号11を示す。
【0101】
図6Dに、配列番号8のヌクレオチド1から405を含む405個のヌクレオチドで構成される、ヒトADARB2 sv4のコード配列(cds)である配列番号12を示す。
【0102】
図7は、定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマー(プライマーA、配列番号13及びプライマーB、配列番号14)と、配列番号5、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントである。
【0103】
図8は、ADARB2 cDNA配列 配列番号5、ADARB2コード配列 配列番号9、及びADARB2転写レベルプロファイリングに使用した両方のプライマー配列(配列番号13、配列番号14)のアラインメントを示す略図である。配列位置を右側に示す。
【0104】
図9は、親和性精製されたポリクローナルヤギ抗ADARB2抗血清sc−10014(Santa Cruz)の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果である。ヒト脳組織ホモジネートから得られたタンパク質抽出物、及びC末端がmyc標識されたヒトADARB2タンパク質を過剰発現する、安定に形質移入されたCHO細胞の溶解物から、又は未処理CHO細胞(負の対照)の溶解物から得られたタンパク質抽出物を、SDS−PAGEに供し、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)膜にブロットし、sc−10014又は抗myc抗体、続いて適切な西洋わさびペルオキシダーゼ複合二次抗血清でプローブした。ブロットを高感度化学発光基質に浸漬し、発光をX線フィルムで検出した。レーン1はヒト脳新皮質タンパク質抽出物を含み、レーン2及び5は、形質移入CHO細胞を過剰発現するmyc標識ヒトADARB2から得られたタンパク質抽出物を含み、レーン3及び4は、未処理CHO細胞から得られたタンパク質抽出物を含む。レーン1から3はsc−10014(1:200)でプローブしたものであり、レーン4及び5は抗myc抗体(1:3000)でプローブしたものである。「M」の印を付けたレーンは分子量マーカーを含む。
【0105】
図10A及び10Bは、同齢の非AD対照個体から得られた脳試料と比較して、AD患者から得られたヒト脳試料において観察される、大脳皮質及び大脳白質におけるADARB2タンパク質発現の増加を例示している。示したのは、括弧内に示したブラーク病期のAD患者及び同齢の非AD対照ドナーから得られた、死後の新鮮凍結ヒト前脳試料のアセトン固定クリオスタット切片の二重免疫蛍光顕微鏡写真である。特異的ADARB2免疫反応性は、親和性精製ポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014、続いてAlexaFluor−488複合ヤギ抗ウサギIgG二次抗血清(Molecular Probes/Invitrogen)によって明らかになり、緑色信号として可視化された。ニューロン特異的マーカータンパク質NeuNを、マウスモノクローナル抗NeuN抗体(Chemicon)、続いてCy3複合ヤギ抗マウスIgG二次抗血清(Jackson/Dianova)によって検出し、赤色で可視化した。核をDAPI(Sigma)によって青色に染色した。スケールバーは長さ100μmである。略語は、F 前頭、IT 下側頭、ex 終脳新皮質、wm 終脳白質である。本明細書に記載する知見は代表的なものであり、タンパク質レベルでのADARB2発現に関して対照とAD試料の実質的な差を示している。対照では、ADARB2免疫反応性レベルの増加が低度から中度である、存在するとしてもほんの極少数の星状細胞(細胞体及びプロセス)を、皮質神経網(図10A)又は白質(図10B)から識別することができる。対照とは異なり、AD患者の試料は、多数の明確なADARB2免疫陽性、恐らくは反応性の星状細胞(細胞体及びプロセス)が、皮質(図10A)と白質(図10B)の両方で一貫して見られる。この知見は、qPCRプロファイリングデータと一致している。
【0106】
図11は、Swedish Mutant APPを安定に同時発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2タンパク質発現のウエスタンブロット分析結果である。ADARB2をC末端においてmyc標識し、組織培養細胞に導入した。ADARB2の発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下にある。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、ADARB2の発現が始まる。細胞を収集し、溶解し、mycエピトープに対する抗体を用いたウエスタンブロット分析に1:3000希釈にて供した。矢印は、約85kDaの強いバンドを示す。テトラサイクリンの非存在下では、同じ分子量の対応するバンドは見られない。
【0107】
図12は、Swedish Mutant APPとtet−リプレッサーを安定に同時発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2タンパク質発現の免疫蛍光分析結果である。ADARB2をC末端においてmyc標識し、組織培養細胞に導入した。ADARB2の発現は、CMVプロモーターと融合したtet−オペレーター配列の制御下にある。1μg/mlテトラサイクリンを培地に添加すると、カバーガラス上に蒔いた細胞中でADARB2の発現が始まる。24時間インキュベートした後、免疫蛍光分析用に細胞をメタノールで固定した。ADARB2の発現をmycエピトープに対する抗体を用いて1:3000希釈で検出し、続いて抗myc抗体に対する蛍光標識抗体と一緒にインキュベートした(1:1000)。次いで、細胞を顕微鏡スライドに載せ、蛍光顕微鏡を用いて分析した。ADARB2は、上段左及び中間の写真において、強力な緑色蛍光によって可視化された細胞核中で発現される。発現が比較的低い細胞においては、細胞核中の緑色斑点が可視化され、RNAプロセシング及びリボソーム生合成が起こると報告されている核小体である確率が最も高い(例えば、上段パネルの最も右側の2個の細胞)。上下段の左右の写真の青色は、細胞核を示し、DAPI(1:1000)によって可視化された。青色と緑色蛍光が明確に重なることは、細胞核中でADARB2が発現していることを明示している。下段パネルにおいては、対照細胞を並行して分析したが、緑色蛍光を検出することはできない。
【実施例】
【0108】
実施例:ヒト脳組織試料において、アルツハイマー病に関係して差次的に発現される遺伝子の特定及び検証。
【0109】
AD関連遺伝子の発現における特異的差を確認するために、臨床的及び神経病理学的に特徴が十分明らかである個体から得たヒト脳組織標本由来の多様なcRNAプローブを用いて、GeneChipマイクロアレイ(Affymetrix)分析を実施した。この技術は、同義遺伝子の発現プロファイルを作製し、異なる組織試料中に存在するmRNA集団を比較するために、広く用いられている。本発明においては、選択した死後の脳組織標本(前頭及び下側頭葉皮質)中に存在するmRNA集団を分析した。健康な対照個体(ブラーク0)からADの徴候及び症候を示す個体(ブラーク4)までの全範囲を反映した異なるブラーク病期にグループ分けすることができる個体から組織試料を得た。個々の遺伝子の差次的発現を、遺伝子特異的オリゴヌクレオチドを用いた実時間定量PCRを適用して検証した。また、健康な段階と疾患段階の特異的差を、免疫組織化学分析用の遺伝子産物特異的抗体を用いてタンパク質レベルで解析した。これらの方法を、疾患の初期に発生する病理学的現象を示す、初期のブラーク病期における発現レベルの差を特異的に検出するように設計した。したがって、差次的であることが確認された前記遺伝子は、ADの原因に有効に関係付けられる。
【0110】
(i)AD患者からの脳組織解剖体:
AD患者及び同齢対照対象から脳組織を収集した。死後6時間以内に、試料をドライアイスで即座に凍結した。各組織から得た試料切片をパラホルムアルデヒドで固定し、神経原線維の病理の種々の段階において、Braak and Braakに従ってブラーク病期(0−6)に神経病理学的に分類した。差次的発現分析のための脳領域を特定し、RNAの抽出を実施するまで−80℃で保存した。
【0111】
(ii)全mRNAの単離:
RNeasyキット(Qiagen)を用いて製造者の手順に従って全RNAを死後の凍結脳組織から抽出した。2100 Bioanalyzerを用いた真核生物全RNA Nano LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、正確なRNA濃度及びRNA品質を求めた。調製したRNAの更なる品質試験のために、すなわち部分的分解を排除し、DNA混入を検査するために、基準対照として特別に設計されたイントロンGAPDHオリゴヌクレオチド及びゲノムDNAを利用して、LightCycler技術(Roche)を用いて、製造者によって提供された手順書に記載のように融解曲線を作製した。
【0112】
(iii)プローブ合成:
ここでは、(ii)に記載したように抽出した全RNAを出発材料として用いた。cDNAを作製するために、cDNA Synthesis Systemを製造者(Roche)の手順に従って実施した。インビトロ転写T7−Megascript−Kit(Ambion)を製造者の手順に従って適用して、cDNA試料をcRNAに転写し、ビオチンで標識した。2100 Bioanalyzerを用いたmRNA Smear Nano LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、cRNAの品質を確認した。正確なcRNA濃度を光分析(OD260/280nm)によって測定した。
【0113】
(iv)GeneChipハイブリダイゼーション:
精製、断片化されたビオチン標識cRNAプローブを、市販スパイクコントロール(spike control)(Affymetrix)bioB(1.5pM)、bioC(5pM)、bioD(25pM)及びere(100pM)と一緒に、各々60ng/μlの濃度でハイブリダイゼーション緩衝剤(0.1mg/mlニシン精子DNA、0.5mg/mlアセチル化BSA、1×MES)に再懸濁させ、続いて99℃で5分間変性した。続いて、プローブを1つのプレハイブリダイズ(1×MES)されたHuman Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix)に各々適用した。アレイハイブリダイゼーションを45℃及び60rpmで終夜実施した。GeneChip Operating System(GCOS)1.2(Affymetrix)によって制御された指示EukGe_WS2v4(Affymetrix)に従ってマイクロアレイを洗浄し、染色した。
【0114】
(v)GeneChipデータ解析:
GCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)によって制御されたGeneScanner 3000(Affymetrix)を用いて蛍光生データを収集した。DecisionSite 8.0 for Functional Genomics(Spotfire)を用いてデータ解析を実施した。生データを、GCOS 1.2ソフトウェア(Affymetrix)によって「present」と印を付けられた生データに限定した。生データをパーセンタイル値によって正規化した。Spotfireソフトウェアのプロファイル検索ツールを用いて、差次的mRNA発現プロファイルを検出した。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対するかかるGeneChipデータ解析の結果を図1に示す。
【0115】
(vi)定量RT−PCR:
差次的ADARB2遺伝子発現の積極的確証(positive corroboration)をLightCycler技術(Roche)を用いて実施した。この技術は、ポリメラーゼ連鎖反応のための急速サーマルサイクリング、及び増幅中の蛍光信号の実時間測定を特徴とし、したがって、終点の読み取りではなく、動力学的読み取りによって、RT−PCR産物を極めて正確に定量することができる。AD患者及び同齢対照個体それぞれの前頭及び側頭皮質から得られたADARB2 cDNAの相対量を、ブラーク病期1つにつき4から9個の組織において測定した。
【0116】
まず、検量線を作成して、ADARB2をコードする遺伝子に特異的な以下のプライマーを用いたPCRの効率を求めた。
【0117】
プライマーA、配列番号13、5’−GAGTGTGCAATGTTTGGACGA−3’(配列番号5のヌクレオチド2671−2691)及びプライマーB、配列番号14、3’−GCACACGCACCGTTGAGTT−5’(配列番号5のヌクレオチド2764−2782)。
【0118】
PCR増幅(95℃1秒、56℃5秒及び72℃5秒)を、(FastStart Taq DNAポリメラーゼ、反応緩衝剤、dTTPの代わりにdUTPを含むdNTP混合物、SYBR Green I色素及び1mM MgCl2を含む)LightCycler−FastStart DNA Master SYBR Green I混合物(Roche)、0.5μMプライマー、cDNA希釈シリーズ(ヒト全脳cDNA 40、20、10、5、1及び0.5ngの最終濃度;Clontech)2μl及び追加の3mM MgCl2を含む20μlの体積で実施した。融解曲線分析によれば、約87.5℃に単一ピークが出現し、プライマーの2量体は見られなかった。2100 Bioanalyzerを用いたDNA 500 LabChipシステム(Agilent Technologies)を適用して、qPCR産物の品質及びサイズを求めた。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対する112bpの予想サイズにおける単一ピークが、試料の電気泳動図において認められた。
【0119】
MgCl2(3mMの代わりに追加の1mMを添加した。)以外は同様にして、特異的プライマー配列番号15、5’−ACTGAAGCACTACGGGCCTG−3’及び配列番号16、5’−AGCCGTTGGTGTCTTTGCC−3’を用い、qPCRプロトコルを適用して、サイクロフィリンBのPCR効率を求めた。融解曲線分析によれば、約87℃に単一ピークが出現し、プライマーの2量体は見られなかった。PCR産物のBioanalyzer分析では、予想サイズ(62bp)の単一ピークが出現した。
【0120】
基準値を計算するために、まず、使用cDNA濃度の対数をADARB2及びサイクロフィリンBそれぞれのしきいサイクル値Ctに対してプロットした。検量線の傾き及び切片(すなわち線形回帰)を計算した。第2の段階において、対照及びAD患者の前頭及び下側頭葉皮質のmRNA発現を並行して分析した。Ct値を測定し、対応する検量線を用いてng全脳cDNAに換算した:
10^(Ct値−切片)/傾き [ng全脳cDNA]
計算したcDNA濃度値を、各試験組織プローブに対して並行分析したサイクロフィリンBに対して正規化した。したがって、得られた値は、任意の相対発現レベルとして定義される。ADARB2タンパク質をコードする遺伝子に対するかかる定量RT−PCR分析の結果を図2に示す。
【0121】
(vii)異なるブラーク病期のドナー群と比較したmRNA発現の統計解析。
この分析のために、異なる実験間の異なる時点における実時間定量PCR(LightCycler法)の絶対値は、標準物質を使用せずに定量的比較に使用するのに十分一貫していることが証明された。100を超える組織に対するqPCR実験のいずれにおいても正規化のための標準としてサイクロフィリンを使用した。とりわけ、サイクロフィリンは、正規化実験において最も一貫して発現されるハウスキーピング遺伝子であることが判明した。したがって、概念の証明を、サイクロフィリンについて作成された値を用いて行った。
【0122】
第1の分析には、3名の異なるドナー由来の前頭皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験から得られたサイクロフィリン値を用いた。各組織から同じcDNA調製物を全部の分析実験に使用した。この分析内では、データ数が少ないので、値の正規分布は得られなかった。したがって、中央値の方法及びその98%信頼水準を適用した(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。この分析によれば、中央の偏差(middle deviation)は、絶対値の比較では中央値から8.7%であり、相対比較では中央値から6.6%であった。
【0123】
第2の分析では、各々2名の異なるドナー由来の前頭皮質及び下側頭葉皮質組織のqPCR実験から得られたサイクロフィリン値を用いたが、異なる時点からの異なるcDNA調製物を使用した。この分析によれば、中央の偏差(middle deviation)は、絶対値の比較では中央値から29.2%であり、相対比較では中央値から17.6%であった。この分析から、qPCR実験から得られた絶対値は使用することができるが、中央値からの中央の偏差は更に考慮すべきと結論された。
【0124】
ADARB2に対する絶対値の詳細な分析を、中央値の方法及びその98%信頼水準を用いて実施した。平均とは対照的に、中央値の計算は、単一のデータ異常値に影響されないので、非正規及び/又は非対称(assymetric)分布の少数データに最適な方法である(Sachs L (1988) Statistische Methoden: Planung und Auswertung. Heidelberg New York, p.60)。したがって、ADARB2の絶対レベルを、サイクロフィリンを用いた相対正規化後に使用した。中央値及び98%信頼水準を、低レベルブラーク病期(ブラーク0−ブラーク1)からなる群及び高レベルブラーク病期(ブラーク2−ブラーク4)からなる群に対して計算した。分析は、AD病理の過程におけるmRNA発現差の初期の発生を確認することを目的にした。前記分析結果を図3に示す。
【0125】
(viii)免疫組織化学分析を適用した、ADARB2遺伝子の差次的発現、及びタンパク質レベルにおけるADとの関連性の検証:
ヒト脳におけるADARB2の免疫蛍光染色のために、また、AD患部組織を対照組織と比較するために、(上文及び下文で単に「ブラーク病期」と称する)Braak and Braakによる神経原線維病理の種々の病期にある、臨床的に診断され、神経病理学的に確認されたAD患者を含むドナーから得られた死後の新鮮凍結前頭及び側頭前脳試料、並びにADの臨床学的徴候も神経病理学的徴候もない同齢の非AD対照個体から得られた死後の新鮮凍結前頭及び側頭前脳試料を、クリオスタット(Leica CM3050S)によって厚さ14μmに切断した。組織切片を室温で風乾し、アセトンで10分間固定し、再度風乾した。PBSで洗浄後、切片を10%正常ロバ血清のリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液と一緒に30分間プレインキュベートし、次いでブロッキング緩衝剤(1%ウシ血清アルブミンのPBS溶液)で1:15希釈した、親和性精製抗ADARB2ヤギポリクローナル抗血清sc−10014(Santa Cruz)と一緒に4℃で終夜インキュベートした。PBSで3回リンス後、切片を、ブロッキング緩衝剤で1:1500希釈したAlexaFluor−488複合ロバ抗ヤギIgG抗血清(Jackson/Dianova、Hamburg、Germany)と一緒に室温で2時間インキュベートし、次いでPBSで再度洗浄した。(核を含む)ニューロン細胞体の同時染色を、ニューロン特異的マーカータンパク質NeuNに対するマウスモノクローナル抗体(Chemicon、Hampshire、UK;1:350希釈)、続いて二次Cy3複合ロバ抗マウス抗体(Jackson/Dianova;1:1000希釈)を用いて、上述したように実施した。切片を0.5μM DAPIのPBS溶液と一緒に3分間インキュベートすることによって核を染色した。リポフスチンの自己蛍光を遮断するために、切片を親油性黒色色素スダンブラックB(1%w/v)の70%エタノール溶液で室温で5分間処理し、次いで70%エタノール、蒸留水及びPBSに順次浸漬した。切片をProLong−Gold抗退色(antifade)封入剤(Invitrogen/Molecular Probes、Karlsruhe、Germany)で覆った(coverslipped)。水銀灯を備えた正立顕微鏡(BX51、Olympus、Hamburg、Germany)を用いて、顕微鏡落射蛍光画像を得た。適切な二色フィルターと鏡の組合せ(以下、「チャネル」と呼ぶ。)を、蛍光色素(AlexaFluor−488、Cy3、DAPI)の特異的励起に、また、前記抗体による特異的標識に起因する放射蛍光、又は核DAPI染色の読み取りに、使用した。顕微鏡画像を、電荷結合ディスプレイカメラ及び適切な画像収集・処理ソフトウェア(ColorView−II and AnalySIS、Olympus Soft Imaging Solutions GmbH、Munster、Germany)を用いてデジタル方式で取り込んだ。例えば3つの異なるチャネルからの信号が共存する可能性を解析するために、上で指定した免疫標識及び核(DAPI)をRGBモードで同時表示させるために、異なるチャネルから得られた蛍光顕微鏡写真を重ね合わせた。
【0126】
(ix)ADARB2を誘導発現する細胞系の作製:
pcDNA6/TR−ベクター(Invitrogenから購入した。#K1020−01)上にコードされたtet−リプレッサーを、Swedish変異アミロイド前駆体タンパク質(APP)を発現するH4神経こう腫細胞系に形質移入した。抗生物質ブラスチシジンを添加後、クローン細胞系を単離した。次いで、生成した細胞系を使用して、tet−オペレーター配列の制御下にあるADARB2を細胞に導入した。製造者(Invitrogen #K1020−01)の指示に従って1μg/mlテトラサイクリンを添加して、ADARB2の発現を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】GeneChip解析によって測定し、比較した、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いの識別を示すグラフである。
【図2】定量RT−PCR分析によって測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAのレベルの違いを検証するためのデータである。
【図3】定量RT−PCRによって、また、98%信頼水準における中央値の統計学的方法を用いて、測定したADを表す、異なるブラーク病期に対応する個体から得たヒト脳組織試料におけるADARB2遺伝子由来のmRNAの絶対レベルの分析結果を示すグラフである。
【図4A】ヒトADARB2スプライスバリアント1タンパク質のアミノ酸配列である配列番号1を示す図である。
【図4B】ヒトADARB2スプライスバリアント2タンパク質のアミノ酸配列である配列番号2を示す図である。
【図4C】ヒトADARB2スプライスバリアント3タンパク質のアミノ酸配列である配列番号3を示す図である。
【図4D】ヒトADARB2スプライスバリアント4タンパク質のアミノ酸配列である配列番号4を示す図である。
【図5A−1】ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
【図5A−2】ヒトADARB2スプライスバリアント1 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号5を示す図である。
【図5B】ヒトADARB2スプライスバリアント2 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号6を示す図である。
【図5C】ヒトADARB2スプライスバリアント3 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号7を示す図である。
【図5D】ヒトADARB2スプライスバリアント4 cDNAのヌクレオチド配列である配列番号8を示す図である。
【図6A】ヒトADARB2スプライスバリアント1のコード配列(cds)である配列番号9を示す図である。
【図6B】ヒトADARB2スプライスバリアント2のコード配列(cds)である配列番号10を示す図である。
【図6C】ヒトADARB2スプライスバリアント3のコード配列(cds)である配列番号11を示す図である。
【図6D】ヒトADARB2スプライスバリアント4のコード配列(cds)である配列番号12を示す図である。
【図7】定量RT−PCRによるADARB2転写レベルプロファイリングに使用したプライマーと、ADARB2 cDNAの対応する切取り配列(clipping)との配列アラインメントを示す図である。
【図8】ADARB2転写レベルプロファイリングに使用した、ADARB2 cDNA配列、コード配列、及び両方のプライマー配列のアラインメントを示す略図である。
【図9】親和性精製されたポリクローナルウサギ抗ADARB2抗血清sc−10014の免疫ブロット(ウエスタンブロット)分析結果を示す図である。
【図10A】ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0−2)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4−6)から得た大脳皮質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
【図10B】ADの徴候及び症候がないと診断された同齢対照(ブラーク0及び1)から得たそれぞれの試料において観測したレベルと比較して、AD患者(ブラーク4及び6)から得た大脳白質組織試料中のADARB2タンパク質レベルが増加したことを示すグラフである。
【図11】ウエスタンブロット分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【図12】免疫蛍光分析によって、Swedish Mutant APPを安定に発現するH4神経こう腫細胞における誘導性ADARB2発現を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)前記対象から得られた試料中の(i)(以前はADARBと記述された)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物の、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物の、及び/又は(iii)前記転写若しくは翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性を測定する段階、
(b)前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその前記断片、誘導体若しくは変異体の前記レベル及び/又は前記活性を、既知の疾患状態及び/又は既知の健康状態及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較する段階、
(c)前記レベル及び/又は前記活性が、既知の健康状態を表す基準値に対して変動するかどうか、及び/又は既知の疾患状態若しくは既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうか(これらは、前記対象が神経変性疾患を有することの指標、又は前記対象が前記疾患を発症するリスクが大きいことの指標、又は前記治療が前記対象において効果を有することの指標である。)を解析する段階
を含む、対象における神経変性疾患を診断若しくは予知する方法、又は対象が前記疾患を発症する素因を有するどうかを判定する方法、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視する方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ADARB2タンパク質をコードする前記遺伝子が配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質をコードする遺伝子であり、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の前記翻訳産物が配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を検出する試薬、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物を検出する試薬、及び/又は(iii)前記転写若しくは翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体を検出する試薬からなる群から選択される少なくとも1種類の試薬を含む、請求項1に記載の方法によって、対象における神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を診断若しくは予知するための、又はかかる疾患を発症する対象の素因を明らかにするための、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視するための、キットの使用。
【請求項5】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
天然のADARB2遺伝子転写制御要素ではない転写要素の制御下にある、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする非天然遺伝子配列を含み、前記遺伝子配列の発現、破壊又は変更によって、神経変性疾患の徴候、特にアルツハイマー病に関係する徴候を生じる素因がある非ヒト動物がもたらされる、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項7】
前記徴候が神経原線維変化の形成を含む、及び/又は前記動物が昆虫若しくはげっ歯類である、請求項6に記載の動物。
【請求項8】
ADARB2タンパク質をコードする非天然遺伝子配列を含み、ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項6又は7に記載の動物。
【請求項9】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療に有用である診断薬及び治療薬の開発における化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び/又は検証のための非ヒト試験動物及び/又は対照動物としての、請求項6から8の一項に記載の遺伝子改変非ヒト動物の使用。
【請求項10】
ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子配列が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療に有用である診断薬及び治療薬の開発における化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び/又は検証のために発現され、破壊され又は変更されている、細胞の使用。
【請求項11】
前記遺伝子配列の発現、破壊又は変更によって、神経変性疾患の徴候、特にアルツハイマー病に関係する徴候を生じる素因がある細胞が生成する、請求項10に記載の細胞の使用。
【請求項12】
ADARB2タンパク質が、配列番号1、2、3又は4を有する、請求項10又は11に記載の細胞の使用。
【請求項13】
(a)細胞を試験化合物と接触させること、
(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において、(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、並びに
段階(b)と(c)の各細胞における前記物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較すること、を含み、接触させた細胞における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される1種類以上の物質の発現、レベル又は活性を変化させる能力を有する、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するためのスクリーニング方法。
【請求項14】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた非ヒト試験動物に試験化合物を投与すること、
(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた、かかる試験化合物が投与されていない非ヒト対照動物において、(i)又は(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(d)段階(b)と(c)の各動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較すること、を含み、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される1種類以上の物質の発現、レベル又は活性を変化させる能力を有する、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するためのスクリーニング方法。
【請求項16】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
リガンドとADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度又は増強度が決定される、及び/又は化合物とADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度が決定される、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するために、化合物を試験する、又は複数の化合物を、好ましくはハイスループット形式で、スクリーニングする、アッセイ。
【請求項18】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項19】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療において潜在的活性を有する、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体又は変異体
からなる群から選択される少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項20】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項19に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項21】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防用の医薬品の製造における、請求項19又は20に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質の使用、及び/又はADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物である免疫原と特異的に免疫反応する抗体の使用。
【請求項22】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
請求項13から18のいずれか一項に記載のアッセイによって得ることができる、請求項19から22のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項24】
請求項19、20又は23のいずれか一項に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質又は抗体を治療又は予防に有効な量及び処方にて、神経変性疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療又は予防する方法。
【請求項25】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断上の標的としての、ADARB2又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子の使用。
【請求項26】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、治療又は改善する調節物質、薬剤又は化合物のスクリーニング標的としての、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子の使用。
【請求項28】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物である免疫原と特異的に免疫反応する抗体を用いた、対象から得られた試料中の細胞の免疫細胞化学的染色を含み、既知の健康状態を示す細胞と比較して、対象から得られた試料中の前記細胞における染色度又は染色パターンの変化によって、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関係する前記細胞の病理学的状態が示される、対象から得られた試料中の細胞の病理学的状態を検出するための抗体の使用。
【請求項30】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iv)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(v)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の拮抗物質を含み、
上記拮抗物質が、アンチセンス核酸、抗体又は抗体断片、siRNA、リボザイム、アプタマー及びこれらの組合せからなる群から選択される、医薬品。
【請求項32】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項31に記載の医薬品。
【請求項1】
(a)前記対象から得られた試料中の(i)(以前はADARBと記述された)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物の、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物の、及び/又は(iii)前記転写若しくは翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体のレベル及び/又は活性を測定する段階、
(b)前記転写産物及び/又は前記翻訳産物及び/又はその前記断片、誘導体若しくは変異体の前記レベル及び/又は前記活性を、既知の疾患状態及び/又は既知の健康状態及び/又は既知のブラーク病期を表す基準値と比較する段階、
(c)前記レベル及び/又は前記活性が、既知の健康状態を表す基準値に対して変動するかどうか、及び/又は既知の疾患状態若しくは既知のブラーク病期を表す基準値と類似若しくは同じであるかどうか(これらは、前記対象が神経変性疾患を有することの指標、又は前記対象が前記疾患を発症するリスクが大きいことの指標、又は前記治療が前記対象において効果を有することの指標である。)を解析する段階
を含む、対象における神経変性疾患を診断若しくは予知する方法、又は対象が前記疾患を発症する素因を有するどうかを判定する方法、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視する方法。
【請求項2】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ADARB2タンパク質をコードする前記遺伝子が配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質をコードする遺伝子であり、ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の前記翻訳産物が配列番号1、2、3又は4のADARB2タンパク質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物を検出する試薬、及び/又は(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物を検出する試薬、及び/又は(iii)前記転写若しくは翻訳産物の断片、誘導体若しくは変異体を検出する試薬からなる群から選択される少なくとも1種類の試薬を含む、請求項1に記載の方法によって、対象における神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を診断若しくは予知するための、又はかかる疾患を発症する対象の素因を明らかにするための、又は神経変性疾患を有する対象に施した治療の効果を監視するための、キットの使用。
【請求項5】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
天然のADARB2遺伝子転写制御要素ではない転写要素の制御下にある、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする非天然遺伝子配列を含み、前記遺伝子配列の発現、破壊又は変更によって、神経変性疾患の徴候、特にアルツハイマー病に関係する徴候を生じる素因がある非ヒト動物がもたらされる、遺伝子改変非ヒト動物。
【請求項7】
前記徴候が神経原線維変化の形成を含む、及び/又は前記動物が昆虫若しくはげっ歯類である、請求項6に記載の動物。
【請求項8】
ADARB2タンパク質をコードする非天然遺伝子配列を含み、ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項6又は7に記載の動物。
【請求項9】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療に有用である診断薬及び治療薬の開発における化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び/又は検証のための非ヒト試験動物及び/又は対照動物としての、請求項6から8の一項に記載の遺伝子改変非ヒト動物の使用。
【請求項10】
ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子配列が、神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療に有用である診断薬及び治療薬の開発における化合物、薬剤及び調節物質のスクリーニング、試験及び/又は検証のために発現され、破壊され又は変更されている、細胞の使用。
【請求項11】
前記遺伝子配列の発現、破壊又は変更によって、神経変性疾患の徴候、特にアルツハイマー病に関係する徴候を生じる素因がある細胞が生成する、請求項10に記載の細胞の使用。
【請求項12】
ADARB2タンパク質が、配列番号1、2、3又は4を有する、請求項10又は11に記載の細胞の使用。
【請求項13】
(a)細胞を試験化合物と接触させること、
(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(c)前記試験化合物と接触していない対照細胞において、(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、並びに
段階(b)と(c)の各細胞における前記物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現を比較すること、を含み、接触させた細胞における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される1種類以上の物質の発現、レベル又は活性を変化させる能力を有する、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するためのスクリーニング方法。
【請求項14】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(a)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた非ヒト試験動物に試験化合物を投与すること、
(b)(i)から(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(c)神経変性疾患又は関連疾患若しくは障害の徴候及び症候を生じやすい、又は既に生じた、かかる試験化合物が投与されていない非ヒト対照動物において、(i)又は(iv)に列挙する1種類以上の物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を測定すること、
(d)段階(b)と(c)の各動物における前記物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現を比較すること、を含み、非ヒト試験動物における物質の活性及び/又はレベル及び/又は発現の変化によって、試験化合物が神経変性疾患治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質であることが示される、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される1種類以上の物質の発現、レベル又は活性を変化させる能力を有する、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するためのスクリーニング方法。
【請求項16】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
リガンドとADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合の阻害度又は増強度が決定される、及び/又は化合物とADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体との結合度が決定される、神経変性疾患、特にアルツハイマー病又は関連疾患の治療又は予防用の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質を特定するために、化合物を試験する、又は複数の化合物を、好ましくはハイスループット形式で、スクリーニングする、アッセイ。
【請求項18】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項19】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療において潜在的活性を有する、
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(iv)(i)から(iii)の断片、誘導体又は変異体
からなる群から選択される少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項20】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項19に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項21】
神経変性疾患、特にアルツハイマー病の治療又は予防用の医薬品の製造における、請求項19又は20に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質の使用、及び/又はADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物である免疫原と特異的に免疫反応する抗体の使用。
【請求項22】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
請求項13から18のいずれか一項に記載のアッセイによって得ることができる、請求項19から22のいずれか一項に記載の少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の薬剤、調節物質、拮抗物質又は作動物質。
【請求項24】
請求項19、20又は23のいずれか一項に記載の薬剤、調節物質、拮抗物質、作動物質又は抗体を治療又は予防に有効な量及び処方にて、神経変性疾患の治療を必要とする対象に投与することを含む、神経変性疾患、特にアルツハイマー病を治療又は予防する方法。
【請求項25】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を検出するための診断上の標的としての、ADARB2又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子の使用。
【請求項26】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病を予防、治療又は改善する調節物質、薬剤又は化合物のスクリーニング標的としての、ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物であるタンパク質分子の使用。
【請求項28】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
ADARB2タンパク質又はその断片、誘導体若しくは変異体をコードする遺伝子の翻訳産物である免疫原と特異的に免疫反応する抗体を用いた、対象から得られた試料中の細胞の免疫細胞化学的染色を含み、既知の健康状態を示す細胞と比較して、対象から得られた試料中の前記細胞における染色度又は染色パターンの変化によって、神経変性疾患、特にアルツハイマー病に関係する前記細胞の病理学的状態が示される、対象から得られた試料中の細胞の病理学的状態を検出するための抗体の使用。
【請求項30】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
(i)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子、及び/又は
(ii)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の転写産物、及び/又は
(iv)ADARB2タンパク質をコードする遺伝子の翻訳産物、及び/又は
(v)(i)から(iii)の断片、誘導体若しくは変異体
からなる群から選択される少なくとも1種類の物質のレベル及び/又は活性及び/又は発現の拮抗物質を含み、
上記拮抗物質が、アンチセンス核酸、抗体又は抗体断片、siRNA、リボザイム、アプタマー及びこれらの組合せからなる群から選択される、医薬品。
【請求項32】
ADARB2タンパク質が配列番号1、2、3又は4を有する、請求項31に記載の医薬品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A−1】
【図5A−2】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A−1】
【図5A−2】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2008−546379(P2008−546379A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516310(P2008−516310)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063215
【国際公開番号】WO2006/134128
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506375738)エボテツク・ニユーロサイエンシーズ・ゲー・エム・ベー・ハー (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063215
【国際公開番号】WO2006/134128
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506375738)エボテツク・ニユーロサイエンシーズ・ゲー・エム・ベー・ハー (5)
【Fターム(参考)】
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