説明

神経変性疾患を予防および治療するための方法

本発明は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を用いる、アルツハイマー病、ハンチントン病、およびパーキンソン病などの神経変性疾患の予防および治療のための方法を提供する。特に、本発明は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を含む医薬組成物を、アミロイドβもしくはそのオリゴマーの蓄積、凝集もしくは沈着を減少させ、ならびに/またはタウタンパク質もしくは他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積および/もしくは凝集を減少させるための治療量で、神経変性疾患と診断されたか、もしくはそれを発症する危険性のある患者に投与することにより、該患者を治療するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は35 U.S.C.§119の下で、2008年5月9日に出願された米国特許出願第61/051,866号に対する優先権を主張するものであり、その開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
認可情報
本発明は、National Institute of Healthにより与えられた認可番号NIH 1 PO1 AT004511-02の下で米国政府の支援と共に為されたものである。米国政府は本発明において特定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患の予防および治療のためのブドウ種子抽出物の使用に関する。特に、本発明は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を含む医薬組成物を、アミロイドβもしくはそのオリゴマーの蓄積、凝集および/もしくは沈着を減少させ、ならびに/またはタウタンパク質もしくは他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積および/もしくは凝集を減少させるのに十分な量で、神経変性疾患と診断されたか、またはそれを生じる危険性のある患者に投与することにより、該患者を治療する方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
神経変性疾患は、神経細胞が退化し、機能を喪失し、しばしば死滅する症状に関連する。それらは一般的には進行性であるため、神経変性疾患の結果はしばしば破壊的である。神経変性疾患を有する患者は、認知技能または運動技能の重篤な悪化に苦しむことがある。結果として、彼らの生活の質および平均余命はかなり減少することがある。ヒトにおいては、これらの疾患として、限定されるものではないが、特に、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、前頭側頭認知症、および大脳皮質基底核変性症が挙げられる。
【0005】
パーキンソン病は、筋肉の運動を制御する脳の神経細胞に作用する進行性の障害である。これらの神経細胞は、身体の運動を容易にするための細胞間のシグナルを伝達するための重要な化合物であるドーパミンを作る。従って、これらのニューロンの喪失は、パーキンソン病患者によって典型的に示される、震えおよび発語障害などの運動障害をもたらす。米国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke)によれば、少なくとも100万人がパーキンソン病に罹患し、約50,000件の新しい事例が米国において毎年報告されている。
【0006】
高度に保存されたシナプス前タンパク質であるα-シヌクレインは、パーキンソン病の病理に関与してきた。α-シヌクレインのコンフォメーションの変化が、この疾患に特徴的なタンパク質蓄積および線維形成をもたらすと考えられる。米国特許第7,045,290号(Lindquistら)を参照されたい。現在の治療選択肢としては、レボドパおよびドーパミンアゴニストが挙げられる。しかしながら、これらの薬剤は、症状に対して一時的な軽減を与えるに過ぎず、大量に使用した場合には重篤な副作用をもたらす。デプレニル(モノアミンオキシダーゼB阻害剤)は、症状を緩和し、疾患の進行を弱めることによりパーキンソン病の原因治療を提供すると示唆された初めての薬剤であったが、デプレニルの治療効力には議論の余地がある。米国特許第6,417,177号(Nelson)を参照されたい。
【0007】
ハンチントン病(HD)は、異常な身体運動および知能の低下の症状を伴う遺伝的神経障害である。ハンチントン病は、ハンチントン遺伝子(htt)中のトリヌクレオチド反復伸長により引き起こされ、次いで、ポリグルタミン(PolyQ)鎖の病理学的伸長を有する突然変異形態のhttタンパク質を産生する。httタンパク質突然変異体は、誤って折畳まれ、脳および他の罹患した組織に凝集体を形成し、神経細胞死をもたらす(Wolfgangら、Proc Nat Acad Sci 2005; 102: 11563-11568)。ハンチントン病の症状を治療するのに用いられる薬剤の多くは、疲労、不穏、または異常興奮性などの副作用を有する。
【0008】
アルツハイマー病(AD)は、老年性認知症として一般的に知られる進行性の脳疾患である。450万人を超える米国人がADと診断されており、この数は次の40〜50年に3倍になると予想されている(Lyketsosら、Am J Geriatr Psychiatry 2006; 14(7): 561-72)。
【0009】
ADの病理学的本質は、部分的には、アミロイド前駆体タンパク質の誤プロセッシングまたは突然変異にあると考えられる。誤プロセッシングされたタンパク質は、大量のアミロイドβペプチド(Aβ)またはその変異型をもたらし得る。Aβの蓄積は、不溶性Aβプラークの沈着を誘導し、最終的にはシナプス不全、神経損傷、過リン酸化タウタンパク質のもつれの形成、およびアポトーシス的神経細胞死を誘導する。ニューロンの損傷または死は、複数の神経伝達因子の喪失を誘導し、次いで、この疾患の認知症状および機能的症状の出現を誘導する。
【0010】
現在利用可能な薬剤は、いくらかの患者にとっては比較的小さい病状面での利益を提供し、疾患の進行を遅延させない。従って、ADを治療または予防するための様々な病状面での戦略が進行中である。例えば、ADは脳の炎症と関連することが判明しており、かくして、ADを発症する危険性を低下させるためにイブプロフェンおよびインドメタシンなどの非ステロイド性抗炎症剤が用いられてきた。しかしながら、これらの薬剤は、消化管出血および腎臓病の長期危険性を有し、稀な心血管毒性と関連する。酸素フリーラジカルとADとの関連も抗酸化療法の可能性を上昇させてきた。アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)と米国神経学会のADに関する治療指針(American Academy of Neurology Treatment Guidelines for AD)は共に、治療選択肢として高用量のビタミンEを推奨した。しかしながら、この推奨は、ビタミンE療法がADと関連する軽度の認知機能障害の進行を遅延させなかったこと、非常に高用量のビタミンEが老人において死亡率を増加させるという最近の知見により和らげられている。Lyketsosら、2006、上掲を参照されたい。
【0011】
ADのための別の治療選択肢は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)として知られる酵素によるアセチルコリンの自然分解を減少させることである。AChEの阻害は、アセチルコリンレベルの上昇をもたらす。米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration)は、ADの治療のために4種のコリンエステラーゼ阻害剤:タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、およびガランタミンを認可している。コリンエステラーゼ阻害剤の短期(最大6ヶ月)臨床試験により、これらの薬剤がADと関連する認知機能喪失を改善するか、または遅延させることが示されたが、それらの長期的利益に関する臨床試験結果は最終的なものではない。非常に軽度であるか、またはより重篤なADにおいては、コリンエステラーゼ阻害剤の利益はまだ実証されていない。Lyketsosら、2006、上掲を参照されたい。
【0012】
脳からAβを除去することを目標とするADの治療が開発中である。例えば、米国特許第7,262,223号(Kongら)は、アミロイド関連疾患の治療におけるアミジン化合物の使用を記載している;米国特許第7,279,501号(Kim)は、Aβにより誘導される疾患の治療のための植物(例えば、ウコン、イチョウ、およびショウガ)から単離された天然化合物ならびにその合成化学的類似体の使用を記載している。最近の証拠は、赤ワインの適度な消費がADの発生率を低下させ、AD型認知力低下およびアミロイド神経病理を弱めることができることを示唆している(Dartiguesら、Therapie 1993; 48: 185-187; Dorozynski, BMJ 1997; 314: 997; Luchsingerら、J Am Geriatr Soc 2004; 52: 540-546)。脳における可溶性細胞外高分子量(HMW)オリゴマーAβ種の蓄積は、認知力低下の開始および進行にとって主要な危険因子であると考えられる(Klyubinら、Nat Med 2005; 11: 556-561; Selkoe, J Alzheimer’s Dis 2001; 3: 75-80)。また、ブドウ由来ポリフェノール化合物がin vitroでAβの重合を阻害し得ることも示唆されている(Poratら、Chem Biol Drug Des 2006; 67: 27-37)。しかしながら、現在までの研究は、in vitroでの試験に限られていた。
【0013】
多くの型の神経変性疾患が、タンパク質の異常タンパク質折畳み、蓄積、凝集、および/または沈着と関連する。例えば、アルツハイマー病患者の脳には2つの型の異常タンパク質沈着が存在する。脳実質中および大脳血管壁周辺の細胞外に沈着したアミロイドβペプチドから構成されるアミロイドプラークが存在し、変性しているニューロンの細胞質中に位置する高リン酸化タウタンパク質の凝集体から構成される神経原線維変化が存在する。パーキンソン病の患者においては、レヴィー小体が、黒質のニューロンの細胞質中に観察される。レヴィー小体の主要な構成要素は、α-シヌクレインと呼ばれるタンパク質の断片である。ハンチントン病を有する患者においては、ポリグルタミンに富む型のハンチントンタンパク質突然変異体の核内沈着が脳の典型的な特徴である。遺伝性筋萎縮性側索硬化症を有する患者は、細胞体および運動ニューロンの軸索中に主にスーパーオキシドジスムターゼから構成される凝集体を有する。さらに、多様な形態の感染性海綿状脳症が、プリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性凝集体の蓄積を特徴とする。
【0014】
生化学的、遺伝学的、および神経病理学的研究から得られた証拠は、神経変性疾患の病理におけるタンパク質の誤った折畳みおよび/または凝集の積極的な関与を示唆している。例えば、異常な凝集体の存在は通常、疾患によりほとんど損傷された脳領域中に生じる。誤って折畳まれたタンパク質をコードする遺伝子の突然変異は、通常は散発型よりも早期の開始およびより重篤な表現型を有する、遺伝型の疾患をもたらす。誤って折畳まれたタンパク質に関するヒト突然変異遺伝子を発現するトランスジェニック動物は、ヒト疾患の典型的な神経病理学的特徴および臨床的特徴のいくつかを生じる。また、in vitroで産生された誤って折畳まれたタンパク質の凝集体は神経毒性的であり、細胞死を誘導する。
【0015】
タウオパシーは、タウタンパク質(密接に関連する細胞内微小管結合タンパク質のファミリー)の機能不全に関与する神経変性疾患のファミリーである。これらの神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病などが挙げられる。タウオパシーの共通の特徴は、タウの異常な高リン酸化および脳中のニューロンまたはグリア細胞間での神経原線維変化(NFT)として知られる洗剤耐性細胞内封入体へのタウの蓄積である。異常に高リン酸化されたタウタンパク質は、微小管から容易に解離し、オリゴマータウ対らせんフィラメントに凝集し、最終的には細胞内NFTとして沈着する(Mi, K.ら、Curr Alzheimer Res 2006; 3: 449-463)。オリゴマーの形成は、さらに高リン酸化されたタウならびに正常な非リン酸化タウを線維性凝集体中に隔離する核生成部位として働く(Sorrentinoら、Neurol Sci 2007; 28: 63-71)。かくして、タウを介する神経変性の理論は、異常にリン酸化されたタウタンパク質が、高リン酸化されたタウタンパク質と正常なタウタンパク質の両方の微小管からの除去を促進する、「機能の毒性的獲得」モデルに基づく。これは、微小管の不安定化および軸索輸送などの微小管を介するプロセスの変化をもたらし、次いで、脳中のニューロンおよびグリア細胞の機能の悪化および生存能力の低下をもたらす(Sorrentinoら、2007、上掲)。
【0016】
米国特許出願公開第2007/0122504号(Moonら)は、ブドウ種子抽出物を製造するプロセスおよびADなどの神経変性疾患を治療するためのそのようなブドウ種子抽出物の使用方法を開示している。この抽出物を、(1)8〜11のpHを有するアルカリ溶液中、好ましくは20〜25℃でブドウ種子を抽出して、アルカリ溶解性物質を得ること;(2)酸性溶液で中和して、2〜4の範囲にpHを調整し、得られた溶液を遠心分離し、沈降した層を得ること;(3)低級アルコールを添加し、上清層を得た後、上清層を濃縮すること;ならびに(4)非極性溶媒を添加し、非極性溶媒に溶解する層を除去して、精製画分を得て、精製および凍結乾燥を繰り返して、乾燥したブドウ種子抽出物を得ることにより調製する(Moon、パラグラフ[0030]〜[0035]を参照)。
【0017】
神経変性疾患の有病率および神経変性疾患に関連する症状を治療するための有効であると証明された医薬組成物または方法の欠如に起因して、その治療および予防のための改良された医薬組成物および方法が依然として必要である。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することにより、該被験者の神経変性疾患を治療する方法に関する。特定の実施形態においては、前記医薬組成物はまた、抗酸化剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、およびその組合せからなる群より選択される活性成分を含んでもよい。特定の実施形態においては、ブドウ種子抽出物は、抽出物中のプロアントシアニジンの総重量に基づいて、約12重量%未満のガロイル化されたプロアントシアニジンを含む。
【0019】
本発明の方法を用いて、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、および/またはタウオパシーなどの神経変性疾患を治療し、改善し、その危険性を低下させるか、または予防する。本発明により意図される様々なタウオパシーとしては、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病、および家族性前頭側頭認知症が挙げられる。
【0020】
一実施形態においては、前記医薬組成物を経口投与する。経口投与剤形としては、粉末剤、錠剤、カプセル剤、口腔内崩壊錠、ソフトカプセル剤、水性薬剤、シロップ剤、エリキシル剤、またはサチェット剤が挙げられる。別の実施形態においては、前記医薬組成物を経皮投与する。異なる実施形態においては、医薬組成物を経鼻投与する。
【0021】
特定の実施形態においては、前記被験者はヒト被験者である。投与頻度は毎月、2週間毎、毎週、または毎日であり、単回用量または分割用量で投与してもよい。ブドウ種子抽出物の化合物の有効量は、約100〜約1000 mg/日、好ましくは約200〜約600 mg/日の用量である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A−B】図1は、ブドウ種子抽出物(GSE)産物、MegaNatural(登録商標)-AZ(またはMNG-AZ)の成分分析の結果を示す。図1Aは、典型的なヘテロポリマー型プロアントシアニジンの分子構造を示す。図1Bは、MNG-AZの順相HPLC分析を表す。
【図1C】図1は、ブドウ種子抽出物(GSE)産物、MegaNatural(登録商標)-AZ(またはMNG-AZ)の成分分析の結果を示す。図1Cは、エピカテキンガレートから構成されるホモテトラマー型プロアントシアニジン(左側のパネル)と、得られたデガロイル化(脱ガロイル化)プロアントシアニジンおよび単離された没食子酸構造(右側のパネル)を図示する。
【図1D−F】図1は、ブドウ種子抽出物(GSE)産物、MegaNatural(登録商標)-AZ(またはMNG-AZ)の成分分析の結果を示す。図1Dは、4種の他の市販のGSE調製物:MegaNatural(登録商標)-Gold、GSE Brand A、GSE Brand BおよびGSE Brand Cと比較した、MNG-AZ中のガロイル化プロアントシアニジンの割合(総プロアントシアニジンのうち)を示す(図1D)(Brand Aは「アクチビン」、San Joaquin Valley Concentratesから入手したGSEであり;Brand Bは「Masquelier(登録商標)OPC」、Franceから入手したGSEであり;およびBrand CはIndena S.p.A., Italyに由来するGSEである)。図1Eおよび1Fは、MNG-AZおよびいくつかの他の市販のGSE中のガロイル化プロアントシアニジンのレベルを示す。
【図2】図2は、in vitroでのAβペプチドのその可溶性オリゴマー形態への変換に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図2Aおよび2Bは、Aβ1-42(2A)およびAβ1-40(2B)と、様々な量のMNG-AZ GSEとのインキュベーション産物のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を示す。図2Cおよび2Dは、非修飾タンパク質化合物の光誘導性架橋(PICUP)後のMNG-AZ GSEの存在下または非存在下でのAβ1-42(2C)およびAβ1-40(2D)のSDS-PAGEの結果を示す。
【図3】図3は、円偏光二色性分光法(CD)により調査されたMNG-AZのAβ阻害効果を示す。図3Aおよび3Cは、それぞれ、未治療のAβ1-40およびAβ1-42のCDスペクトルを示す。図3Bおよび3Dは、それぞれ、MNG-AZで処理されたAβ1-40およびAβ1-42のCDスペクトルを示す。スペクトルを、インキュベーション期間の開始時すぐに(- - - -)、2日後(− - - −)、3日後(− - −)、6日後(− −)、および7日後(―)に獲得した。それぞれの時点で提示されたスペクトルは、3回の独立した実験のそれぞれの間に得られたものの代表である。
【図4】図4は、ThT結合アッセイにより調査されたMNG-AZのAβ阻害効果を示す。図4Aおよび4Cは、それぞれ、様々な濃度の対照化合物Med1での未処理のAβ1-40およびAβ1-42の蛍光スペクトルを示す。図4Bおよび4Dは、それぞれ、MNG-AZで処理されたAβ1-40およびAβ1-42の蛍光スペクトルを示す。Med1(またはMNG-AZ)の濃度は、それぞれの図4A〜4Dにおいて0(◆)、5(■)、または25(▲)μMである。
【図5】図5は、電子顕微鏡により調査されたMNG-AZのAβ阻害効果を示す。図5Aおよび5Bは、それぞれ、未処理のAβ1-40およびAβ1-42の形態の例を示す。図5Cおよび5Eは、それぞれ、低い(5μM)および高い(25μM)MNG-AZ濃度の存在下での、Aβ1-40の形態を示す。図5Dおよび5Fは、それぞれ、低い(5μM)および高い(25μM)MNG-AZ濃度の存在下での、Aβ1-42の形態を示す。
【図6A−B】図6は、MTT代謝により調査されたMNG-AZのAβ阻害効果を示す。図6A(および6C)は、低分子量のAβ1-40(およびAβ1-42)の毒性ならびに毒性を低下させる際のMNG-AZの効果を示す。図6B(および6D)は、Aβ1-40凝集(およびAβ1-42凝集)の毒性ならびに毒性を低下させる際のMNG-AZの効果を示す。
【図6C−D】図6A−Bの続きである。
【図7A−F】図7は、Tg2576マウスの神経病理に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図7A-7Bは、体重(7A)または液体消費(7B)に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図7C-7Dは、Tg2576マウスの脳における可溶性の細胞外HMW-Aβペプチド内容物の評価を提示する。図7Eは、MNG-AZ GSEで処理されたマウスと対照マウスの脳におけるAβ1-42およびAβ1-40ペプチド濃度の評価を示す。図7Fは、MNG-AZ GSEで処理されたマウスと対照マウスにおける大脳皮質および海馬形成Aβ-アミロイドプラーク塊の立体的評価を示す。
【図7G】図7は、Tg2576マウスの神経病理に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図7Gは、MegaNatural(登録商標)-Goldで処理されたマウスと対照マウスの脳におけるAβ1-42およびAβ1-40ペプチド濃度の評価を示す。
【図8】図8は、MNG-AZ GSEの有益な効果に関する潜在的な機構を解明するための様々な実験の結果を示す。図8Aは、MNG-AZで約5ヶ月間処理されたTg2576マウスにおける総APP発現のウェスタン分析を示す。図8Bは、α-、β-、およびγ-セクレターゼ活性の評価を示す。図8Cは、MNG-AZ GSEで処理されたTg2576マウス対対照群における可溶性APPαおよびAPPβ発現のウェスタン分析を示す。図8Dおよび8Eは、MNG-AZ GSEで処理されたTg2576マウス対対照マウスの脳におけるAβ分解酵素ネプリリシンおよびインスリン分解酵素の発現を示す。図8Fは、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による血清Aβ1-40(左側のパネル)およびAβ1-42(右側のパネル)含量の評価を示す。
【図9】図9は、MNG-AZ GSEで処理されたTg2576マウスにおける認知力低下の減衰を示す。図9Aおよび9Bは、モリス水迷路試験により決定されたTg2576マウスにおけるAβ関連空間記憶に対するMNG-AZ GSEの影響を示す。図9Cは、Tg2576マウスの脳における可溶性の細胞外高分子量Aβペプチド含量の評価を提示する。
【図10】図10Aおよび10Bは、モリス水迷路試験により測定された血統、年齢および性別を一致させた野生型動物における認知機能に対するMNG-AZ GSE処理の効果を示す。
【図11】図11は、MNG-AZ GSEの非存在下または存在下でのタウペプチドの凝集の動力学を示す。図11Aは、MNG-AZの様々な濃度での凝集したタウの時間依存的ThS-蛍光スペクトルを示す。図11Bは、MNG-AZの様々な濃度でのタウ凝集体の蓄積最大値を示す。
【図12】図12は、タウペプチドの予め形成された凝集体を解離させる際のMNG-AZ GSEの効果を示す。図12Aは、MNG-AZの様々な濃度での凝集したタウの時間依存的ThS-蛍光スペクトルを示す。図12Bは、MNG-AZの濃度の関数としてのタウ凝集体の解離速度を示す。
【図13】図13は、ショウジョウバエモデルに関するMNG-AZ GSEの利益を示す。図13Aは、GSEの非存在下でのショウジョウバエの眼の発生の結果を示す。図13Bは、GSEの存在下でのショウジョウバエの眼の発生の結果を示す。図13Cは代表的な実験における(GSEの存在下および非存在下での)オスのショウジョウバエの眼の視覚的スコアリングを提示する。図13Dは、図13Cと同じ試験における、眼が存在しないものの数を示す。
【図14】図14は、ハンチントン病のショウジョウバエモデルにおける日数に対する生存の割合を示す。白丸はブドウ種子抽出物で処理された群に由来する結果を示し、黒丸は対照群に由来する結果を示す。
【図15】図15は、Aβオリゴマー化に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図15Aは、Aβ1-40に関する結果を提示する。図15BはAβ1-42に関する結果を提示する。図15CはグルタチオンS-トランスフェラーゼに関する結果を提示する。レーン1:分子量マーカー;レーン2:架橋していないタンパク質のみ;レーン3:タンパク質のみ;レーン4:タンパク質およびMed1(25μM);レーン5:タンパク質およびMed1(250μM);レーン6:タンパク質およびMNG-AZ(25μM);レーン7:タンパク質およびMNG-AZ(250μM)。ゲルは3回の独立した実験の各々の代表である。
【図16】図16は、PICUPアッセイを用いるタウペプチド凝集に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。ゲルは、等モル濃度(25μM)のGSEの存在下(レーン2、4、6、8)または非存在下(レーン1、3、5、7)で架橋された25μMタウペプチドの代表的な分析を示す。小ペプチドの染色が無効であると予想されるため、モノマータウペプチドはこの実験では検出可能ではない。約2.1および約3.5 kDaのバンドは、それぞれ、トリマーおよびペンタマータウペプチド凝集体に対応する。CTR:非架橋タウペプチド;レーン1〜8:過硫酸アンモニウム(APS)ならびに1x(レーン1、2)、2x(レーン3、4)、3x(レーン5、6)および4x(レーン7、8)のRu(Bpy)を有するタウペプチド。
【図17】図17は、円偏光二色性分光法を用いるタウペプチド凝集に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。MNG-AZの非存在下でのタウペプチド凝集を図17Aに示すが、1:1モル比のMNG-AZ:タウペプチドの存在下でのタウペプチド凝集を図17Bに示す。図17Aおよび17B中で凡例d0、d1、d2、およびd3と表示された曲線は、それぞれ、合成タウペプチドのインキュベーション(37℃)の過程で0、1、2、3日目に得られたスペクトルを表す。矢印は順序付けられたコンフォーマーに特徴的なスペクトルを示す。
【図18】図18は、電子顕微鏡を用いるタウ原線維形態に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。MNG-AZの非存在下でのタウ原線維形態を図18Aに示す。MNG-AZの存在下でのタウ原線維形態を図18Bに示す。スケールバーは100 nmを示す。
【図19】図19は、AD脳標本から単離された天然二重らせん原線維(PHF)の超微形態特性に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図19Aは、MBG-AZ GSEの非存在下での精製されたPHFの電子顕微鏡写真を示す。図19Bおよび19Cは、5秒間(図19B)または1時間(図19C)の100μM MNG-AZ GSEの存在下での精製されたPHFの電子顕微鏡写真を示す。図19Aおよび19Cにおいては、電子密度粒子はpSer214tau標識を表す(C中の矢印)。図19Dは、処理時間(5〜60分)の関数としてのPHFに対するGSE処理の定量分析を示し、棒グラフは標準偏差を含む最大平均幅である;測定されたPHFの数を括弧中に提示する。処理されていないPHF(0時間)と比較した一元ANOVA (P<0.0001)、次いで、ボンフェローニの多重比較検定、**p<0.001による統計分析である。
【図20】図20は、PHFのトリプシン消化に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図20Aは、トリプシンと共にインキュベートされなかったAD脳から単離された天然PHFの電子顕微鏡写真を示す。図20Bは、トリプシンと共にインキュベートされなかったMNG-AZ(100μM、1時間)で予備処理されたPHFの電子顕微鏡写真を示す。図20Cは、トリプシン(1μg/ml、10分間)と共にインキュベートされた天然PHFの電子顕微鏡写真を示す。図20Dは、MNG-AZ(100μM、1時間)で予備処理され、トリプシン(1μg/ml、10分間)と共にインキュベートされたPHFの電子顕微鏡写真を示す。
【図21】図21は、突然変異体タウショウジョウバエモデルの異常な眼の表現型に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図21Aおよび21Dは、野生型のハエにおける代表的な眼の表現型を示す。図21Bおよび21Eは、GSE処理の非存在下でのR406W突然変異体タウハエの眼を示す。図21Cおよび21Fは、MNG-AZで処理されたR406W突然変異体タウハエの眼を示す。図21Gは、3回の独立した試験にわたるオスおよびメスのハエにおける4点スコアリング系(0=眼がない、および4=正常な眼である)を用いる、成体の眼の形態の定量分析を示す。試験あたりのスコアリングされたハエの数を示す。棒グラフは平均+SEMを表す。
【図22】図22は、タウオパシーのトランスジェニックJNPL3マウスモデルに関する後肢伸長アッセイを用いる評価スキームを示す。動物をその尾を上にして吊り下げた時に後肢を横にして伸ばす動物の自然の性質を、4点評価系:4=正常な機能(図22A)、3=軽度の障害(図22B)、2=中程度の障害(図22C)、および1=重篤な障害(図22D)に従って評価する。
【図23】図23は、タウオパシーのトランスジェニックJNPL3マウスモデルに対するGSE処理の効果を示す。図23Aは、GSEで処理されていないものと比較した、GSEで処理した場合の、それぞれ5ヶ月齢および13ヶ月齢のJNPL3マウスの運動障害を示す。図23Bは、GSEで処理したJNPL3マウスとGSEで処理されていないJNPL3マウスとの死亡率の比較を示し、線グラフは時間に対する生存率(%)を表す。
【図24】図24は、蛍光顕微鏡を用いるhttタンパク質の凝集体を減少させるMNG-AZ GSEの効果を示す。図24Aは、ビヒクルで処理された対照(Ctrl)細胞と、ムリステロンA誘導後に12.5μMおよび25μMのGSEで処理された細胞の画像を示す。図24Bは、12.5μMおよび25μMのGSE処理の非存在下(Ctrl)または存在下での高分子量凝集体へのGFP-Htt融合タンパク質凝集体の凝集のウェスタンブロット分析を示す(左側パネル:GFP-Htt融合タンパク質のより高分子種への凝集を同定するために抗GFP抗体でプロービングされたウェスタンブロット;右側パネル:GFP-Httタンパク質および高分子量htt凝集体の分布を示すウェスタンブロットの密度測定分析)。
【図25】図25は、クライミングアッセイにより評価されたショウジョウバエHDモデルにおける運動障害に対するGSE処理の効果を示す。図25Aおよび25Bは、それぞれ、9日目および16日目でのクライミングアッセイの結果を示す。3回の独立したクライミング試験をそれぞれの試験日に行った。棒グラフは、クライミング課題を上手く達成するハエの割合(%)の平均+SEMを表す。GSEで処理された群と処理されていない群を比較するスチューデントのt検定、**p<0.001による統計分析である。
【図26】図26は、HDのショウジョウバエモデルにおける日数に対する生存の割合を示す。影付きの逆三角形は、MNG-AZ GSEで処理された群に由来する結果を表し、影付きの菱形は対照群に由来する結果を表す。データは4回の独立した試験に由来する結果を表す。
【図27】図27は、様々な週齢でロータロッドアッセイを用いて評価された、HDマウスモデルにおける運動障害に対するGSE処理の効果を示す。データは、3回の独立した試験から得られた結果を表す。
【図28】図28は、HDマウスモデルの死亡率に対するGSE処理の効果を示す。線グラフは、時間に対する生存率(%)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、Aβ、オリゴマーAβ、タウタンパク質または神経変性疾患と関連する他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集または沈着を減少させる方法を有利に提供する。この方法は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を含む有効量の医薬組成物を投与することを含む。本発明のこれらの態様および他の態様を、以下に提供される説明および実施例において詳細に考察する。
【0024】
本発明は、ブドウ種子抽出物に由来する化合物が、Aβ、タウタンパク質、および様々な神経変性疾患と関連する他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集および/または沈着に対する有効な阻害剤として機能するという知見に基づくものである。具体的には、本発明は、部分的には、特定の型のブドウ種子抽出物が、(1)in vitroでの合成Aβ1-40(Aβ40)およびAβ1-42(Aβ42)のオリゴマーの形成;(2)Tg2576マウス(アミロイド前駆体突然変異体を発現し、AD型認知力低下を示すトランスジェニックマウス)の脳におけるオリゴマーAβの量、およびTg2576マウスの認知機能の喪失のかなりの改善または遅延(未処理のマウスと比較);(3) in vitroでの、様々なタウオパシーにおいて認められる二重らせん線維を特徴とする構造物にタウ凝集体を誘導する核生成の開始、ならびにタウ凝集体の安定性;(4)in vivoでの、トランスジェニックR406Wショウジョウバエ表現型におけるタウタンパク質の有害な効果、ならびにトランスジェニックJNPL3マウスモデルにおけるタウタンパク質の有害な効果;(5)in vitroでのポリグルタミンを含有するhttタンパク質種の凝集;(6)in vivoでの、トランスジェニックelav>Q93httexonlショウジョウバエ表現型におけるhttタンパク質突然変異体の有害な効果、ならびにトランスジェニックR6/2マウスモデルにおけるhttタンパク質突然変異体の有害な効果を減少させたか、または阻害したという知見に基づく。驚くべきことに、これらの観察は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された化合物を用いて、アミロイド、htt、およびタウ関連神経病理の発生を減少させることができる。
【0025】
従って、本発明は、ブドウ種子抽出物またはそれから誘導された1種以上の化合物を含む医薬組成物、および神経変性、細胞毒性、認知障害または認知力低下、および運動機能低下などの神経変性疾患の神経病理学的特徴を治療または予防するためのそのような医薬組成物を用いる方法を提供する。好ましくは、ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンの全量に基づいて、約12重量%未満のガロイル化プロアントシアニジンを有することを特徴とする。
【0026】
本明細書で用いられる用語は、一般的には、それぞれの用語を用いる本発明の文脈内および特定の文脈において、当業界におけるその通常の意味を有する。特定の用語を以下に定義して、本発明の組成物および方法を説明する際のさらなる指針を提供する。
【0027】
定義
用語「認知症」とは、記憶および認知の他の領域の全体的な認知低下と関連する臨床症候群を指す。
【0028】
用語「変性疾患」とは、罹患した組織または器官の機能または構造が、感染症とは対照的に、時間と共に進行的に悪化する疾患を指す。
【0029】
用語「神経変性疾患」とは、神経細胞が細胞死に起因して失われる症状または障害を指す。
【0030】
用語「アルツハイマー病」(または「老年性認知症」)とは、老人斑、神経原線維変化、および進行性のニューロン喪失を特徴とする特定の変性脳疾患に関連する知能低下を指す。
【0031】
用語「パーキンソン病」は、運動技能および発語を損傷することが多い中枢神経系の慢性および進行性の変性障害である。パーキンソン病は、運動障害と呼ばれる症状群に属し、筋肉の硬直、震え、身体運動の遅延および極端な事例においては、身体運動の喪失を特徴とする。
【0032】
用語「ハンチントン病」とは、ハンチントンタンパク質をコードする遺伝子中のトリヌクレオチド反復伸長により引き起こされる遺伝性神経障害を指す。ハンチントン病の症状としては、異常な身体の動きおよび協調の欠如が挙げられる。
【0033】
用語「タウオパシー」とは、タウタンパク質(密接に関連する細胞内微小管関連タンパク質のファミリー)の不能不全に関与する神経変性疾患のファミリーを指す。これらの神経変性疾患(タウオパシー)としては、例えば、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病、および家族性前頭側頭認知症が挙げられる。
【0034】
用語「アミロイドβ」(Aβ)とは、アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)の切断により産生されるペプチドを指し、その蓄積および沈着は被験者の脳中にプラークを形成する。Aβの最も一般的なアイソフォームは、Aβ1-40(Aβ40)およびAβ1-42(Aβ42)である。語句「Aβのオリゴマー」とは、化学的結合により連結された2個以上のAβ単位を有するペプチド、または化学的結合により連結された、および/もしくは物理的な力により結合した複数のAβペプチドを指す。用語「オリゴマー化」とは、化学的連結および/または物理的結合を介する、Aβなどの、複数のより小さい化学的分子もしくは生物学的分子の、より大きい集合体への結合または集合を指す。
【0035】
用語「低下」とは、化学物質もしくは生物学的物質の量もしくは濃度の減少もしくは低下、または進行中の化学的もしくは物理的プロセスの遅延もしくは逆転を指す。
【0036】
用語「蓄積」とは、特定の領域もしくは空間中での、ペプチドなどの化学的もしくは生物学的物質の濃度もしくは量の増加を指す。
【0037】
用語「凝集」とは、化学的連結および/または物理的結合を介する、複数のより小さい化学的もしくは生物学的分子、またはその集合体の、より大きい集合体への結合または集合を指す。
【0038】
用語「沈着」とは、細胞膜もしくは血管壁などの生物学的表面への化学的もしくは生物学的物質の結合を指す。
【0039】
用語「ポリフェノール」または「ポリフェノール化合物」とは、1分子あたり2個以上のフェノール基の存在を特徴とする化合物を指す。
【0040】
用語「治療上有効用量」または「治療上有効量」または「有効量」とは、治療応答をもたらすのに十分なものであるブドウ種子抽出物またはそこに含まれる化合物の量を指す。治療応答とは、使用者(例えば、医師)が、症状および代理臨床マーカーを評価することなどにより、治療に対する有効な応答と認識するであろう任意の応答であってよい。かくして、治療応答は、一般的には、疾患または障害の1種以上の症状の改善であろう。
【0041】
語句「製薬上許容し得る」とは、ヒトに対して投与した場合に、生理学的に寛容性であり、典型的には、有害な反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。好ましくは、本明細書で用いられる用語「製薬上許容し得る」は、動物、およびより具体的にはヒトにおける使用のために、連邦政府もしくは州政府の規制当局により認可されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識された薬局方に記載されていることを意味する。
【0042】
語句「製薬上許容し得る塩」とは、その酸塩または塩基塩を作ることにより改変された化合物の誘導体を指す。製薬上許容し得る塩の例としては、アミンなどの塩基性残基の鉱物酸塩もしくは有機酸塩;およびカルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩もしくは有機塩が挙げられる。製薬上許容し得る塩としては、例えば、非毒性の無機酸もしくは有機酸から形成された親化合物の従来の非毒性塩または四級アンモニウム塩が挙げられる。そのような従来の非毒性塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、および硝酸などの無機酸から誘導されたもの;ならびに酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、およびイセチオン酸などの有機酸から調製された塩が挙げられる。製薬上許容し得る塩を、従来の化学的方法により塩基性または酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般的には、そのような塩を、遊離酸または塩基形態のこれらの化合物と、化学量論量の好適な塩基または酸とを、水中もしくは有機溶媒中、またはこれらの2つの混合物中で反応させることにより調製することができる。
【0043】
用語「担体」または「医薬担体」とは、化合物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、水および油などの滅菌液体であってよい。水または水溶液、塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、好ましく用いられる担体である。好適な医薬担体は、E.W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第18版、または他の版に記載されている。
【0044】
用語「抗酸化剤」とは、被験者の体内の有害なフリーラジカルを阻害または中和することができる一連の化学物質を指す。
【0045】
用語「被験者」は、アミロイドβ、アミロイドβのオリゴマー、タウタンパク質、または他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集または沈着が起こり得る生きている生物を含む。用語「哺乳動物」とは、乳腺により分泌される母乳でその子供を育てる高等脊椎動物の哺乳網の任意の生物を指し、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、および特に、ヒトが挙げられる。用語「ヒト」とは、ホモ・サピエンス種のメンバーを指す。用語「患者」とは、本発明に従う組成物を用いる治療を提供するヒト被験者を指す。
【0046】
用語「治療する」とは、神経変性疾患と関連する状態および/もしくは1種以上の症状ならびに/または限定されるものではないが、アミロイドβ、アミロイドβのオリゴマー、タウタンパク質、α-シヌクレインなどのタンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集もしくは沈着を弱める、進行を遅らせる、遅延もしくは逆転させるための、被験者への本発明の組成物の投与を指す。
【0047】
用語「予防する」とは、アミロイドβ、アミロイドβのオリゴマー、タウタンパク質もしくは他のタンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集もしくは蓄積と関連する状態もしくは症状が発生しないように、その状態もしくは症状の開始前の被験者への本発明の組成物の投与を指す。
【0048】
被験者において生じる状態もしくは症状の「危険性を低下させる」という用語は、被験者がその状態もしくは症状を生じる可能性が、例えば、被験者に本発明の医薬組成物を投与し、対照が治療されないか、または偽薬を受ける場合、比較可能な対照個体のものよりも低いことを意味する。
【0049】
用語「約」または「およそ」は、値を測定もしくは決定する方法に部分的に依存するであろう、当業者によって決定される特定の値に関する許容し得る誤差の範囲内、すなわち、測定系の限界を意味する。例えば、「約」は、当業界での実務あたり、3以上の標準偏差内を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、およびより好ましくはさらに最大1%の範囲を意味する。あるいは、特に生物学的系またはプロセスに関して、この用語は、値の一桁分以内、好ましくは、5倍、より好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0050】
医薬組成物
ブドウ種子抽出物
本発明の一態様は、タンパク質の誤った折畳み、蓄積、凝集、および/または沈着に関連する神経変性疾患を治療または予防するためのブドウ種子抽出物から誘導された医薬組成物の使用に関する。本明細書で用いられる用語「ブドウ種子抽出物(GSE)」とは、ブドウの種子、皮または絞りかすから抽出された材料または1種以上の化合物を指す。
【0051】
ブドウ種子抽出物を、様々な起源から取得することができる。例えば、Plyphenolics(Constellation Wines U.S., Inc.の一部門)は、商標名MegaNatural(登録商標)の下で一連のブドウ種子抽出産物を市販している。市販のMegaNatural(登録商標)産物の例としては、MegaNatural(登録商標)GSKE Grape Pomace Extract、MegaNatural(登録商標)-BP、およびMegaNatural(登録商標)-Goldが挙げられる。また、ブドウ種子抽出物を、いくつかの特定の抽出手順および/または精製手順に従って調製することもできる。例えば、ブドウ種子抽出物を、米国特許第6,544,581号(Shrikhandeら、581号特許)、または米国特許出願公開第2007/0071871号(Shrikhandeら)(その開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載のプロセスを用いることにより取得することができる。
【0052】
実験的なものであり、市販されていないMegaNatural(登録商標)-AZ(またはMNG-AZ)は、ポリフェノール構成要素からのガレート部分の除去に起因して腸粘膜を通して容易に吸収されるユニークな特徴を有する。MNG-AZの製造プロセスにおいては、未精製のポリフェノール抽出物を、一定期間、混合培養酵母発酵にかけて、ガレート化モノマーおよびプロアントシアニジンオリゴマーから没食子酸を加水分解する。この抽出物を、90重量%を超えるポリフェノールおよび3重量%を超える没食子酸を含む粉末形態にさらに加工する(581号特許を参照)。酵母培養物を、ブドウ種子モノマーおよびポリマーから没食子酸を遊離するタンナーゼ活性のために選択する。あるいは、未精製のタンナーゼ酵素を、酵母およびカビを用いる発酵プロセスにより調製し、未精製のブドウ種子抽出物に添加して、没食子酸を遊離させることができる。得られたMNG-AZは、プロアントシアニジンの全量に基づいて、約12重量%未満のガロイル化プロアントシアニジンを有することを特徴とする。いかなる特定の理論にとっても束縛されるものではないが、没食子酸側鎖基の除去はMNG-AZの生体利用能を増加させると考えられる。
【0053】
ブドウ種子抽出物中の化合物の重要なファミリーであるポリフェノールは、有効な抗酸化剤であると認識されている。ポリフェノールのサブクラスであるプロアントシアニジンは、カテキンおよびエピカテキンの基本単位およびそのそれぞれの誘導体(例えば、エピカテキンが没食子酸を添加して改変されたエピカテキンガレート)から誘導されたポリマー化合物である。ブドウ種子抽出物MNG-AZの成分分析結果を図1に示す。典型的なヘテロポリマー性プロアントシアニジンの分子構造は、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキンおよびその誘導体(エピガロカテキンおよびエピカテキンガレート)(図1A)を含む。MNG-AZの順相HPLC分析はまた、プロアントシアニジンのモノマーおよびポリマー単位の存在を示す(図1B)。
【0054】
エピカテキンガレートを含むプロアントシアニジンを、微生物学的または酵素的変換により脱ガロイル化することができる(図1C)。没食子酸側鎖のこの除去は、MNG-AZと他の市販のブドウ種子抽出物の間の主な差異に寄与する。MNG-AZは、4種の他の市販のGSE調製物と比較した、MNG-AZ中のガロイル化プロアントシアニジン(総プロアントシアニジンのうち)の割合により示されるように、没食子酸側鎖をほとんど含まないか、全く含まない(図1Eおよび1F)。本発明においては、MNG-AZは、動物疾患モデルにおけるAβおよびタウ関連神経変性疾患に関して、in vivoで驚くべき生物活性を有することが示されている。
【0055】
本発明の特定の実施形態においては、前記医薬組成物は、MegaNatural(登録商標)-AZと命名された特定のブドウ種子抽出物を含む。本発明の医薬組成物はまた、ブドウ種子抽出物から誘導された1種以上の化合物を含んでもよい。1種以上の化合物は、限定されるものではないが、1種以上のポリフェノール、1種以上のプロアントシアニジン、またはその混合物を含んでもよい。ポリフェノールの例としては、限定されるものではないが、モノマーカテキンおよびエピカテキン基本単位が挙げられる。
【0056】
他の実施形態においては、本発明の組成物はさらに、担体を含む。前記担体を使用方法および適用方法に従って好適な物質として用いることが好ましい。例えば、経口投与については、本発明の好適な医薬担体としては、限定されるものではないが、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、キシリトール、エリスリトール、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシ安息香酸、プロピルヒドロキシ安息香酸、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油が挙げられる。前記組成物はさらに、充填剤、抗凝集化剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、保存剤などを含んでもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物を、限定されるものではないが、粉末剤、錠剤、カプセル剤、口腔内崩壊錠、ソフトカプセル剤、水性薬剤、シロップ剤、エリキシル剤、およびサチェット剤などの経口形態として調製することができる。
【0058】
あるいは、前記医薬組成物を経皮投与してもよい。本発明の組成物を、皮膚に直接的に、または経皮デバイスを介して間接的に適用することができる。本発明の組成物を、ゲル、クリーム、ローション、乳液、油、軟膏、懸濁液、エアロゾル、スプレーなどの直接経皮剤形として調製することができる。本発明の組成物を、パッチ、包帯、テープ、または他の閉鎖包帯などの経皮デバイスの成分として、間接的経皮剤形として調製することができる。さらに、医薬組成物を、例えば、経鼻スプレーとして、経鼻投与してもよい。皮膚または粘膜表面を介する吸収のための他の受動的または能動的経皮デバイスも意図される。
【0059】
本発明の組成物の経皮投与のための好適な医薬担体は、経皮薬剤投与にとって好適な任意の製薬上許容し得る担体材料であってよい。そのような担体としては、液体、ゲル溶媒、液体希釈剤、可溶化剤などの当業界で公知の材料が挙げられる。好適な担体は、非毒性的であり、有害な様式で組成物の他の成分と相互作用しない。本明細書での使用のための好適な担体の例としては、水、シリコン、液体糖類、ワックス、ワセリンが挙げられる。また、前記担体は、安定化剤、アジュバント、浸透増強剤、または経皮薬剤送達を容易にするのに有用な他の型の添加物を含んでもよい。
【0060】
特定の実施形態においては、好適な場合、本発明の化合物を、その製薬上許容し得る塩の形態で使用し、また単独で、もしくは好適な関連で、ならびに他の医薬活性化合物と組合わせて使用することもできる。特定の実施形態においては、本発明の組成物はさらに、抗酸化剤および/またはコリンエステラーゼ阻害剤を含んでもよい。
【0061】
治療方法
本発明の医薬組成物を、神経変性疾患に関連する危険因子または症状を有する被験者に投与することができる。被験者は、ヒト、または限定されるものではないが、ネコ、イヌ、ラット、マウス、ヒツジ、ヤギ、ウシ、サル、チンパンジー、およびそのトランスジェニック種などのヒトより下等な動物であってよい。前記医薬組成物を、治療上有効量で、所望の結果を達成するのに必要な量で、およびそのような時間、前記被験者に投与する。本明細書で意図される神経変性疾患は、一般的には、その誤った折畳み、蓄積、凝集、および/または沈着などの、被験者の脳における1種以上のタンパク質またはペプチドのレベルの増加を特徴とする。これらの疾患としては、限定されるものではないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、前頭側頭認知症、および大脳皮質基底核変性症、ならびに/またはタウオパシーが挙げられる。タウオパシーは、特に、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病、および家族性前頭側頭認知症であってよい。
【0062】
本明細書で用いられる場合、本発明の治療方法において標的化される1種以上のタンパク質(または、「ペプチド」と互換的に用いられる)とは、ペプチド結合により接続された複数のアミノ酸単位からなる分子を指し、この分子は記載された1種以上の神経変性疾患と関連する。前記タンパク質は、野生型、突然変異体、トランスジェニック、および合成タンパク質の両方を含む。例えば、それらのものとしては、限定されるものではないが、特定の神経変性疾患と関連する特定のタンパク質が挙げられる。例えば、アミロイドβタンパク質(例えば、Aβ1-40、Aβ1-42)および/または神経原線維変化は、アルツハイマー病を有する患者における標的タンパク質である。また、httタンパク質突然変異体は、ハンチントン病を有する患者における標的タンパク質である。α-シヌクレインタンパク質は、パーキンソン病を有する患者における標的タンパク質であり、タウタンパク質はタウオパシーを有する患者における標的である。
【0063】
さらに、本発明に従う治療方法は、タンパク質レベルの増加または誤った折畳みと関連する疾患が進行中であるが、被験者が明らかな外見上の症状を示さない該被験者の治療を包含すると意図される。さらに、本発明の治療方法は、被験者が外見上の症状を示す、存在する疾患の症状を治療することを包含する。
【0064】
本発明の組成物の用量は、被験者の体重および状態、組成物の形態、投与の様式および期間に応じて変化するであろうし、当業者によって決定することができる。前記化合物の最適な用量を、脳の特定の領域における望ましくないか、または誤って折畳まれたタンパク質の濃度を低下させる効果を最大化するのに必要な量に従って決定することができる。例えば、用量範囲は、1日あたり約100〜約1000 mgであってよい。好ましくは、用量範囲は、1日あたり約200〜約600 mgである。前記組成物を毎月、二週間毎、毎週、毎日、または1日数回、単回用量もしくは分割用量で投与することができる。
【0065】
(実施例)
以下の実施例は単に本発明を例示するものであり、それらはいかなる意味でも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0066】
合成Aβのオリゴマーの形成に対するブドウ種子抽出物の効果に関するin vitroでの証拠
本実施例は、Aβのオリゴマー化を低下させるための、本発明の一実施形態に従う組成物の効果のin vitroでの証拠を提供する。
【0067】
材料および方法
in vitroでのAβ1-40およびAβ1-42凝集アッセイ
ブドウ種子抽出産物、MegaNatural(登録商標)-AZを、Phenolics (Madera, CA)から取得した。in vitroでのAβ1-40およびAβ1-42凝集アッセイのためのAβ1-40およびAβ1-42ペプチドを、American Peptide (Sunnyvale, CA)から購入した。ペプチドをHFIP (Sigma)中に溶解し、室温で一晩乾燥し、10分間急速減圧乾燥した。ペプチドをdH2O中に1 mg/mlで溶解し、MNG-AZ GSE保存液を400μMでH2O中に溶解した。Aβ1-40およびAβ1-42(100μg/ml)を、1:1容量で様々な濃度のMNG-AZ GSEと混合し、37℃で3日間インキュベートした。Aβ凝集に対するMNG-AZの効果を、6E10抗体を用いるウェスタンブロット分析により分析した。
【0068】
非修飾タンパク質の光誘導架橋(PICUP)アッセイ
新鮮に単離された低分子量(LMW)のAβ1-40およびAβ1-42ペプチドを、10 mMリン酸中の50μM MNG-AZ GSE、pH7.4の存在下または非存在下で、1μlの1(x1)、2(x2)、5(x5)または10(x10) mMのトリス(2,2'-ビピリジル)ジクロロルテニウム(II)(Ru(bpy))および1μlの20(x1)、40(x2)、100(x5)または200(x10) mMの過硫酸アンモニウム(APS)と混合した。混合物を1秒間照射し、5%β-メルカプトエタノールを含む10μlのトリシンサンプルバッファー(Invitrogen, CA)を用いてすぐにクエンチした。反応物をSDS-PAGEにかけ、銀染色(SilverXpress、Invitrogen, CA)に可視化した。グルタチオンS-トランスフェラーゼを、同様の条件下で架橋し、対照ペプチドとして用いた。
【0069】
結果および考察
Aβのオリゴマー化の阻害に対するMNG-AZの効果を、図2に示す。合成Aβ1-42(2A)およびAβ1-40(2B)のオリゴマー化は、SDS-PAGE(図2Aおよび2B中のレーン1〜6:0、0.2、1、5、25および100μMのAβ;CTRはインキュベーションしないサンプルである)により示されるように、濃度依存的な様式でMNG-AZにより阻害された。PICUP化学(図2Cおよび2D中のレーン1および2:1x Ru(Bpy)ならびにそれぞれ、MNG-AZの存在下および非存在下でのAPSを含むAβペプチド;レーン3および4:2x Ru(Bpy)およびそれぞれ、MNG-AZの存在下または非存在下でのAPSを含むAβ;CTR:モノマー対照として用いた非架橋Aβ1-42(2C)またはAβ1-40(2D))後のAβ1-42(図2C)およびAβ1-40(図2D)のSDS-PAGEにおいても同様の結果が観察された。
【0070】
上記の結果は、MNG-AZがin vitroでAβのオリゴマー化を効率的に阻害することを一貫して示している。さらに、MNG-AZの阻害効果は、濃度または用量依存的であるようである。これらの結果は、MNG-AZ GSEが、Aβの蓄積、凝集または沈着に関連する疾患を予防または治療することができることを示している。
【実施例2】
【0071】
TG2576マウスのAD型神経病理の評価
本実施例は、本発明の一実施形態に従う組成物を投与するトランスジェニックマウスモデルのAβ神経病理に対するin vivoでの効果を示す。
【0072】
材料および方法
Tg2576マウスおよびMNG-AZ GSE処理
成体でメスのTg2576マウス(Taconic, Germantown, Inc.)を、2つの異なる群:MNG-AZ GSE処理群および水対照群に割り当てた。MNG-AZ GSEを、1.2 g/Lの濃度でその飲料水に送達したところ、200 mg/kg/日の最終的な摂取が得られた。これは、体表面積に基づいて、種間で薬剤の等価な用量を変換するためのFDA基準を用いると1 gm/日のヒト用量と同等であった(mg/kgでのヒト等価用量=mg/kgでの動物用量 x (動物の体重kg/ヒトの体重kg)0.33)(http://www.fda.gov/cber/gdlns/dose.htm)。動物は前記液体および標準的な食餌に自由に接近できた。飲料溶液を3日毎に交換した。液体消費および動物の体重を、研究を通して毎週モニターした。処理の5ヶ月後、マウスを全身麻酔剤塩酸ケタミンおよびキシラジン(Fort Dodge Animal Health, Fort Dodge, Iowa)を用いて麻酔し、断頭術により犠牲にした。脳を収穫し、半分に切断した。一方の半球を、形態学的研究のために4%パラホルムアルデヒド中で24時間固定した。海馬および新皮質を反対の半球から切除し、急速冷凍し、液体窒素中で粉砕し、生化学的研究のために-80℃で保存した。
【0073】
AD型アミロイド神経病理の評価
脳のAβペプチドの定量的評価のために、凍結粉砕された組織を5モル/Lのグアニジンバッファー中で均質化し、0.05%(vol/vol)のTween(登録商標)-20および1 mmol/LのPefablocプロテアーゼ阻害剤(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)を含有するリン酸緩衝生理食塩水中に1:10に希釈し、4℃で20分間遠心分離した。総Aβ1-40またはAβ1-42を、サンドイッチELISA(BioSource, Camarillo, CA)により定量した。Tg2576マウス中のAD型アミロイド量の立体的評価のために、新鮮に収穫された脳半球を、4%パラホルムアルデヒド中で一晩液浸固定し、50μmの名目上の厚さでビブラトーム上の前頭面中で切片化した。15回目毎に、切片を無作為の開始位置から選択し、チオフラビン-S染色のために加工した。全ての立体分析を、Zeissモーター駆動ステージおよびMSP65ステージ制御装置を装備したZeiss Axiophot光学顕微鏡、高解像度Zeiss ZVS-47Eデジタルカメラならびに特注設計されたソフトウェアNeuroZoomを実行するMacintosh G3コンピューターを用いて実施した。アミロイド量を、点計数のために小さいサイズのグリッド(50 X 50μm)を用いて、Cavalieri原理を使用して見積もった;この手順は、アミロイドプラークにより占有される画分体積の不偏推定値(新皮質または海馬体積の割合として表される)を提供した。プラーク体積の見積もり値を、X40倍率で体系的無作為サンプリング手順を用いて取得した。
【0074】
脳可溶性Aβオリゴマー分析
可溶性Aβオリゴマーのレベルを、ドットブロットアッセイおよびウェスタンブロット分析の両方により測定した。具体的には、可溶性アミロイドペプチドを、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Applied Science, Indianapolis, IN)を補給したPBS中に粉砕された皮質組織を溶解することにより抽出した。78,500 gで1時間、4℃で遠心分離した後、上清を分析した。5μgの総タンパク質をニトロセルロース膜上にスポットし、10%無脂肪乳を用いてブロックし、オリゴマー形態のAβを特異的に認識する抗体A11(Invitrogen, CA)と共にインキュベートした。室温で2時間インキュベートした後、ブロットをHRP結合ヤギ抗ウサギ抗体と共にインキュベートし、免疫反応性シグナルを、増強化学発光検出(SuperSignal Chemiluminescent Detection Kit, Pierce, Rockford, IL)を用いて可視化し、密度測定的に定量した(Quantity One, Bio-Rad)。また、同じサンプルをウェスタン分析にも用いた。75μgの総タンパク質を、10〜20%のトリス-トリシンゲルにより分離し、ニトロセルロース膜に移し、10%無脂肪乳を用いて1時間ブロックした。膜を6E10(Sigma)、またはA11と共にインキュベートした。免疫反応性シグナルを、増強化学発光検出を用いることにより可視化し、密度測定的に定量した。
【0075】
APPプロセッシングおよびα-、β-、γ-セクレターゼ活性
ホロ-APPの発現を、C8抗体(ヒトAPP細胞質ドメインのAA676-695に対して生じた)を用いるウェスタンブロット分析により試験した。免疫沈降を、以前に記載のように(Wangら、FASEB J 2005; 19: 659-661)、sAPP-α、sAPP-βの検出のために実施した。α-、β-およびγ-セクレターゼ活性を、市販のキット(R & D Systems)を用いて評価した。ネプリリシンおよびインスリン分解酵素の発現を、市販の抗体を用いるウェスタンブロットにより分析した。
【0076】
統計学的分析
これらの実験における全てのデータおよび値は、平均および平均の標準誤差(SEM)として表されたものである。平均間の差異を、2元反復測定ANOVAまたは両側スチューデントt検定を用いて分析した。全ての分析において、無帰仮説は0.05レベルで拒絶された。全ての統計学的分析を、Prism Statプログラム(GraphPad Software, Inc., San Diego CA)を用いて実施した。
【0077】
結果および考察
Tg2576マウスの神経病理に対するMNG-AZ GSEの効果を、図7に例示する。図7Aおよび7Bは、5ヶ月の処理後のTg2576マウスにおける体重(7A)または液体消費(7B)に対するMNG-AZ GSEの効果を示す。図7Cは、ドットブロット分析におけるHMWオリゴマーAβペプチドに特異的な抗体を用いる脳中の可溶性の細胞外HMW-Aβペプチド含量の評価を提示する。図7Dは、Tg2576マウスの脳における可溶性細胞外HMWオリゴマーAβペプチド(抗体A11)およびモノマーAβペプチド(抗体6E10)のウェスタンブロット分析を示す。図7Eは、MNG-AZ GSEで処理されたマウスおよび対照マウスの脳中のAβ1-42およびAβ1-40ペプチド濃度の評価を示す。図7Fは、領域体積の割合としてのチオフラビン-S陽性体積として表されるMNG-AZ GSEで処理されたマウスおよび対照マウスにおける大脳皮質および海馬形成Aβアミロイドプラーク量の立体的評価を示す。図7F差し込み図は、未処理の対照(上側パネル)およびMNG-AZで処理されたTg2576マウス(下側パネル)における新皮質(CTX)および海馬形成(Hippo)におけるチオフラビン-S陽性Aβアミロイドプラーク神経病理の代表的な写真を示す。値は、平均±SEM、n=5〜6匹のマウス/群である。両側スチューデントt検定分析によれば、*p<0.05、**p<0.01である。図7Gは、MegaNatural(登録商標)-Goldのin vivoでの効力に関する平行試験の脳におけるAβ1-42およびAβ1-40ペプチド濃度の評価を示す。
【0078】
これらの結果は、MNG-AZ GSEが、体重の変化(図7A)または水の消費(図7B)などの検出可能な副作用をもたらさないことを示していた。処理の5ヶ月後のTg2576マウスの神経病理は、Aβオリゴマーに特異的な抗体を用いるイムノドットブロットアッセイ(p<0.05、図7C)およびA11抗体を用いるウェスタンブロット(p<0.01、図7D)により評価されるように、HMW Aβ種への内因性Aβペプチドのオリゴマー化の約2〜3倍の減少を示した。Tg2576マウスの脳におけるHMW A11免疫反応性オリゴマーAβ種の減少は、モノマーAβペプチド(p<0.05、図7D)の比例した上昇と一致することが判明したが、これはMNG-AZ GSEが、Aβオリゴマー化の防止を介してADに有益に影響することを示している。
【0079】
図7Gは、平行試験における、MegaNarural(登録商標)-Goldと命名された別の市販のGSE調製物を用いるTg2576マウスの処理が、対照Tg2576マウスと比較して、Tg2576マウスの海馬形成におけるAβ1-42およびAβ1-40ペプチドの蓄積を調節しなかったことを示している。図7Gの結果は、MNG-AZが、その実質的により低いガロイル化プロアントシアニジン含量に起因して、脳中でのアミロイド型神経変性を調節するその効力において、現在市販されているGSE調製物のうちで独特のものであることを示唆している。
【0080】
最近の観察は、脳中でのHMW種へのAβオリゴマー化の防止が、おそらく、オリゴマーAβ種と比較して、脳からモノマーAβペプチドが優先的に消失する結果として、脳中での総Aβペプチドおよび最終的にはアミロイド老人斑含量の代償的低下をもたらし得ることを示唆している(Morelliら、Biochem 2005: 38: 129-145)。この仮説と一致して、本実施例の結果は、HMWオリゴマーAβ種のレベルの低下(図7C、7D)に加えて、長期間のMNG-AZ GSE処理も、年齢および性別を一致させた水で処理された対照マウスと比較して、Aβ1-42(図7E、左側パネル)およびAβ1-40ペプチド(図7E、右側パネル)の量ならびにアミロイド老人斑量(図7F)を有意に減少させることを示していた。
【0081】
さらに、アミロイド神経病理に対するMNG-AZ GSEの有益な効果に寄与し得る代替的な潜在的機構を評価した。ホロ-APP(図8A)の含量における検出可能な変化は認められず、α-、β-、およびγ-セクレターゼの酵素活性、または可溶性APPαおよび可溶性APPβ(図8B、8C)の含量における変化も認められなかった。さらに、Aβ分解を担う主なタンパク質溶解酵素であるネプリリシン(図8D)またはインスリン分解酵素(図8E)の含量に検出可能な変化は観察されなかった。最後に、末梢血清中のAβ1-42およびAβ1-40ペプチドのレベルにおける検出可能な変化は認められなかった(図8F)。
【0082】
これらの観察は、MNG-AZ GSEは、in vitroで認められたように、主にin vivoで可溶性HMW種中でのAβオリゴマー化の防止を介してその有益な効果を発揮し得ることを示唆している。
【実施例3】
【0083】
Tg2576マウスのAD型認知機能評価
本実施例は、Tg2576トランスジェニックマウスの認知機能に対する本発明のいくつかの実施形態に従う組成物を投与する効果を証明する。
【0084】
材料および方法
Tg2576マウスを、5ヶ月間、MNG-AZ GSEで処理し、認知機能を11ヶ月齢時に評価した。空間学習記憶を、以前に記載のように(Morris, J Neurosci Methods 1984; 11: 47-60)、モリス水迷路行動試験により評価した。空間記憶を、学習期の間の学習試験の関数として、浸水した脱出プラットフォーム上に水から脱出する動物の待ち時間を記録することにより評価する。学習期の24時間後、視覚的刺激を変化させることなく脱出プラットフォームを除去することにより、マウスを探査試験において試験した。行動分析を、最少の刺激(例えば、騒音、運動、または光もしくは温度の変化)を有する環境において光周期の昼間部分の最後の4時間に一貫して行った。
【0085】
結果および考察
図9は、細胞外HMWオリゴマーAβの減少と同時に起こるMNG-AZ GSEで処理したTg2576マウスにおける認知力低下の減衰を示す。図9Aおよび9Bは、モリス水迷路試験により決定されたTg2576マウスにおけるAβ関連空間記憶に対するMNG-AZ GSEの影響を示す。図9Aは、処理時間の関数としての待ち時間スコア(水からプラットフォームに脱出するのにかかる代表的な時間)を示す。図9Bは、標的四分円上でTg2576マウスが費やした時間の探査試験割合(%)を示す(残りのプール中で費やされた時間に対する、標的四分円領域中で費やされた時間の比率として計算する)。図9Cは、ドットブロット分析においてHMWオリゴマーAβペプチドに特異的な抗体を用いるTg2576マウスの脳中での可溶性細胞外HMW-Aβペプチド含量の評価を提示する。図9Cの差し込み図は、HMW-可溶性Aβ含量の代表的なドットブロット分析を示す。値は、群平均±SEM、n=7-9匹のマウス/群であり、両側スチューデントt検定分析によれば、図9Bにおいては、***p<0.0001、図9Cにおいては、*p<0.01である。
【0086】
11ヶ月齢のTg2576マウスは、モリス水迷路試験における学習試験の間に隠された脱出プラットフォームを見つけ出すために空間参照指示を使えるようになる能力がないことにより反映されるように、有意な空間参照記憶機能障害を示した(図9A)。対照的に、MNG-AZで処理されたTg2576マウスは、空間記憶行動機能試験において有意により良好に行動し、進行的学習試験に関する脱出待ち時間の有意な減少により反映されるように、脱出プラットフォームを見つけ出すために空間参照指示を使えるようになった(両側反復測定ANOVA;GSPE対対照群:GSPE処理についてはF1,11=4.90;p=0.049、時間についてはF7.77=4.25;p=0.0005および相互作用についてはF7.77=1.63;p=0.140)(図9A)。Tg2576マウスにおける認知機能障害のMNG-AZにより誘導される減衰を、MNG-AZで処理されたマウスが、水で処理された対照マウスと比較した標的四分円領域中で有意により多くの時間を費やすことを示す探査試験における空間記憶保持の分析により確認した(図9B)。この認知機能障害は、対照マウスと比較したMNG-AZで処理されたTg2576マウスの脳中でのHMWオリゴマーAβ種の有意な減少と一致していた(図5C)。
【0087】
対照試験において、MNG-AZ GSE処理は、血統、年齢および性別を一致させた野生型動物において認知機能に影響しないことがわかった(図10Aおよび10B)。上記の結果は、MNG-AZ GSEが、脳中でのAD型Aβ媒介性応答の減衰を介して、Tg2576マウスにおける空間記憶参照欠損から選択的に利益を得ることを示唆している。
【実施例4】
【0088】
タウタンパク質の凝集に対するMNG-AZのin vitroでの効果
本実施例は、タウペプチドの凝集、予め形成されたタウ凝集体の解離、およびAD脳標本から得られた天然タウ原線維の安定性に対する、本発明の実施形態に従う組成物のin vitroでの効果を示す。
【0089】
材料および方法
in vitroでのMNG-AZ抗タウ凝集体の生物活性の評価
タウの残基306〜311に対応する、6アミノ酸N-アセチル化ペプチド(Ac-306VQIVYK311)タウペプチドを商業的に入手する。この合成タウペプチドは、タウタンパク質の微小管結合領域中に認められる短いペプチド断片である。証拠は、この短いペプチド断片がタウの重合にとって必須であることを示唆している(Gouxら、J. Biol. Chem. 2004; 279: 26868-26875)。これは、短いAc-306VQIVYK311ペプチドが塩の存在下でフィラメント構造に自発的に凝集するというin vitroでの生物物理学的観察により支持される(Gouxら、2004、上掲)。Ac-306VQIVYK311ペプチドのオリゴマー化は、Gouxら、2004、上掲により記載されたように必須であった。簡単に述べると、合成タウペプチドを、20 mM MOPS, pH 7.2に溶解した。タウペプチドの重合を、2.2μMのペプチドおよび10μMのチオフラビン-S(ThS)を含む最終的な75μlの20 mM MOPS (pH 7.2)溶液中で行った。0.15 Mの最終濃度まで塩を添加することにより反応を開始させた。様々な濃度のMNG-AZの非存在下または存在下でのタウペプチド凝集の動力学を、凝集したペプチド種へのThSの結合の際のThS蛍光の増加を行うことにより1時間にわたって評価した;蛍光励起を436 nmで誘導し、蛍光放射を470 nmで検出した。
【0090】
さらにまた、PICUP、円偏光二色性(CD)分光法、および電子顕微鏡方法を用いて、タウペプチド凝集体の形成にとって必要な最初のタンパク質間相互作用に対するMNG-AZの影響を調査した。
【0091】
PICUPアッセイについては、25μMのタウペプチドを、等モル濃度(25μM)のMNG-AZの存在下または非存在下で架橋させ、マルチマータウペプチドをSDS-PAGEにより分解し、銀染色により可視化した。
【0092】
CD分光法については、タウペプチドを、10 mMリン酸、pH 7.4の存在下、37℃で1〜3日間インキュベートし、CDスペクトルをインキュベーションの開始時(0日目)、およびその後の3日のそれぞれに取得した。
【0093】
電子顕微鏡については、タウペプチドを、1:1モル比のGSE:タウペプチドの存在下または非存在下で10 mMリン酸ナトリウム、pH 7.4中、37℃で3日間インキュベートした。インキュベーション後、溶液を16,000 X gで5分間遠心分離した後、200μlの上清をサイズ排除カラムにより分画した。タウ原線維を検出し、254 nmのUV吸収により約12分の溶出時間で回収した。
【0094】
in vitroで予め形成されたタウ凝集体を解離するMNG-AZの能力の評価
合成Ac-306VQIVYK311タウペプチドは、MNG-AZ GSEの非存在下で凝集した。タウ凝集体の形成後、様々な濃度のMNG-AZを反応物に添加し、GSEの添加に応答するタウ凝集体の含量の変化を、ThS蛍光を行うことによりモニターした。
【0095】
AD脳標本から得られた天然タウ原線維の脱安定化におけるMNG-AZ GSEの能力の評価
PHFを、AD事例に由来する死後の脳標本から単離および精製し、いくつかのPHFサンプルを5秒間または1時間、MNG-AZ(100μM)で処理した。結果を電子顕微鏡(Hitachi H700)により観察した。
【0096】
タウフィラメントのトリプシン消化に対するMNG-AZ GSEの効果の評価
PHFをAD脳標本から単離した。PHFのいくつかのサンプルを、100μMのMNG-AZで10分間処理した。いくつかのサンプルのPHF(MNG-AZで予備処理)を、1μgのトリプシンと共に10分間さらにインキュベートした。結果を電子顕微鏡(Hitachi H700)により観察した。
【0097】
結果および考察
MNG-AZはタウ凝集を阻害する
MNG-AZ GSEによるタウ凝集阻害の結果を図11に示す(MNG-AZは図11中ではMegNと表示されていることに注意)。合成Ac-306VQIVYK311タウペプチドは、反応時間の関数としてThS蛍光を増加させることにより反映されるように、塩の存在下で時間と共に凝集体を容易に形成する(図11A、時間の関数としての凝集したタウの蓄積を、ThS蛍光により評価した;0.22μM、2.2μMおよび22μMのGSEの濃度は、それぞれ、1:10、1:1、および10:1モル比のGSE:タウペプチドに対応する)。
【0098】
0.22〜22μMのMegaNatural(登録商標)-AZ GSEの添加は、用量依存的様式でタウペプチドの凝集を有意に阻害した(一元ANOVA、p<0.0001);GSEの非存在下での計算された平均最大蛍光放出は、0.22、2.2および22μMのMegaNatural(登録商標)-AZ GSEの存在下で、それぞれ、114.2±1.1、109.6±0.6および100.6±0.3単位の計算された平均蛍光放出と比較して、122.9±1.3単位である(タウ凝集体の最大蓄積を6〜10分間の平均蛍光単位として計算した図11Bに示される)。さらに、MNG-AZ GSEの含量のそれぞれの段階的な増加は、ThS蛍光の有意な漸進的減少をもたらした(Tukey post-hoc対分析、MNG-AZなし対0.22μM MNG-AZ、0.22対2.2μM MNG-AZ、および2.2対22μM MNG-AZについてはp<0.001)。興味深いことに、タウペプチド凝集体の検出可能な蓄積の減少が、低含量の0.22μM MNG-AZ GSEで観察されたが、これは1:10モル比のタウペプチドに対するGSEに対応する。タウペプチド凝集は、GSEがタウペプチドに対して10:1過剰モル比で存在する場合、22μM GSEで完全に阻害された(図11Aおよび11B)。
【0099】
タウ凝集体は、PICUPアッセイ結果に示されるように、MNG-AZの存在下で有意に減少した(図16、試薬の濃度は以下の通りである。対照:Ru(Bpy)なしおよびAPSなし;レーン1、2:1μlの1 mM Ru(Bpy)および1μlの20 mM APS;レーン3、4:2μlの1 mM Ru(Bpy)および2μlの20 mM APS;レーン5、6:3μlの1 mM Ru(Bpy)および3μlの20 mM APS;レーン7、8:4μlの1 mM Ru(Bpy)および4μlの20 mM APS)。これは、MNG-AZが部分的には、タウペプチドの自己解離の初期段階を阻害することにより、タウペプチド凝集を阻害し得ることを示している。
【0100】
また、円偏光二色性分光法の結果に示されるように(図17Aおよび図17B)、タウペプチドのインキュベーション過程の間(1〜3日)のタウペプチドのコンフォメーションは、MNG-AZがタウペプチドの集合に影響したことを示している。GSEの非存在下では、タウペプチドの無作為な結合は、約198 nmが中心のスペクトル部分の規模の成長により示されるように、インキュベーションの2〜3日後に規則正しいβ-シートコンフォーマーに徐々に変換された(図17A)。対照的に、1:1モル比のGSE:タウペプチドの存在下では、タウペプチドとGSEの同時インキュベーションは、タウペプチドの規則正しい二次構造への変換を防止した(図17B)。
【0101】
電子顕微鏡により研究されたように、MNG-AZの非存在下および存在下でのタウペプチドコンフォーマーの形態により、タウペプチドはらせん型プロトフィブリルに自発的に凝集することが示された(図18A)。対照的に、GSEの存在は、タウペプチドプロトフィブリル形成を完全に阻害した(図18B)。
【0102】
総合的に、上記の観察は、MNG-AZはタウタンパク質のオリゴマーPHFへの凝集を阻害することを示唆している。
【0103】
MNG-AZは予め形成されたタウ凝集体の解離を容易にする
MNG-AZは、予め形成されたAc-306VQIVYK311タウペプチド凝集体を解離することが示された。特に、1:1のモル比のMNG-AZ:タウペプチドに対応する、1.1μMのMNG-AZの添加は、時間の関数としてThS-陽性タウ凝集体の量を次第に低下させることにより反映されるように、予め形成されたタウペプチド凝集体の含量を減少させることができた(図12Aは、様々なMNG-AZ濃度(0.55〜4.4μM)でタウ凝集体含量のThS蛍光をプロットするものである)。予想されたように、より高い濃度のMNG-AZ(2.2μMおよび4.4μM MNG-AZ)を用いる平行試験も、予め形成されたタウペプチド凝集体の解離を促進した。MNG-AZは以下の図12Aおよび図12BにおいてはMegNと表示されていることに留意されたい。予め形成されたタウ凝集体を解離させるためのMNG-AZの用量依存的効果を、ThS蛍光放出の線形回帰分析により様々な濃度のMNG-AZ GSEの存在下でタウ凝集体の解離速度を算出することにより調査した(図12B)。1.1〜4.4μMの増加する濃度のMNG-AZ GSEの添加は、用量依存的様式で予め形成されたタウペプチド凝集体の解離を促進するようであった。換言すれば、凝集したタウペプチドの解離速度は、MNG-AZ GSEの濃度と直接相関していた(Pearson R=0.96654、p<0.05)。
【0104】
MNG-AZはタウ原線維の安定性を阻害する
電子顕微鏡により調査したタウ原線維の安定性に対するMNG-AZの効果を、図19に示す。図19Aは、ADに由来するPHFを示し、18.9 + 3.4 nmの平均幅と81.3 + 10.8 nmの平均らせんねじれ幅を有する典型的な系統的な原線維構造を示す、ならびにPHF1抗体を用いる免疫金標識が、PHFタイトコアに近いホスホセリン396/404エピトープを局在化させる。興味深いことに、単離されたPHFとGSEとのインキュベーションは、GSE曝露時間の増加と共に段階的なPHF展開を誘導した(図19B〜19D);GSEとの1時間のインキュベーションは、平均らせんねじれ(GSEで処理されたPHFの平均幅およびらせんねじれは、それぞれ、31.6 + 3.8および77.4 + 10.8 nmであった)に影響することなく、原線維の幅の67%の増加(31.6 + 3.8 nmに)を誘導した(図19C、19D)。さらに、GSE処理は、PHF1抗体に対する単離されたタウ原線維の免疫反応性を隠すことが判明した(図19Bおよび19C、図19Aと比較)。
【0105】
GSEを用いる単離されたタウフィラメントの処理も、タウフィラメントのトリプシン消化を促進することがわかった(図20)。AD脳から単離されたPHFを、1μg/mlのトリプシンと共に(図20Cおよび20D)またはそれを用いずに(図20A、20B)、10分間インキュベートした。図20Bおよび20D中のサンプルも、GSEで予備処理した(100μM GSE、1時間)。PHFは、トリプシン処理後にもその線維としての外見を保持していた(図20C中の差し込み図を参照)。トリプシン消化前のGSEを用いる予備処理は、AH-1抗タウ抗体と免疫反応する不定形のタウフィラメントへのPHFの分解を引き起こした(図20D中の矢印および差し込み図を参照)。これらの結果は、タウフィラメントのコンフォメーションに対するGSEを介する調節は、細胞プロテアーゼによるタウ分解を促進し得ることを示唆している。
【0106】
まとめると、MNG-AZ GSEは、合成タウペプチドのフィラメントへの凝集を阻害し、予め形成されたタウ凝集体を解離させることがわかった。これは、MNG-AZとタウとの相互作用は、複数のタウ関連神経変性障害の重要な神経病理学的特徴であるタウ凝集体沈着物の蓄積を減衰させることができることを示唆している。さらに、MNG-AZ GSEはまた、神経毒性的タウプロトフィブリルの生成および/または安定性を阻害することにより、タウに媒介される表現型を軽減することもわかった。従って、上記の観察は、MNG-AZまたはその構成要素化合物を、タウオパシーの開始を減衰させるための予防的尺度として、またはタウ関連神経変性疾患の治療のための治療剤として用いることができるという強い証拠を提供する。
【実施例5】
【0107】
タウおよびポリグルタミン伸長型のhttペプチドに対するブドウ種子抽出物のin vivoでの効果
疾患関連凝集性タンパク質のトランスジェニック過剰発現の誘導性Gal4/UAS系(Brandら、Development, 1993; 118: 401-415)を用いるショウジョウバエモデルは、R406W突然変異体タウを過剰発現させることによるタウオパシー、およびQ93httexonlを過剰発現させることによるハンチントン病の態様を上手くモデル化した(例えば、Sangら、NeuroRx. 2005; 2: 438-446.; Bergerら、Hum Mol Genet 2006; 15: 433-442を参照されたい)。特に、眼を形成する細胞中でのR406Wの過剰発現(ey>R406W)は、眼の劇的な減少または眼の完全な欠如を誘導する;形成する眼は異常な形態を示す。さらに、UAS-Q93httexonlを含むトランスジェニック系におけるパン神経(pan-neural)パターンでのGal4の発現(elav-Gal4)は、神経変性の成体開始および寿命の減少をもたらす。
【0108】
本実施例は、それぞれ、特定の型のタウオパシーおよびハンチントン病をモデル化する、タウ突然変異体(R406W)またはポリグルタミン伸長型のhtt(Q93httexonl)を担持するショウジョウバエ表現型に対するブドウ種子抽出物のin vivoでの利益を示す。
【0109】
材料および方法
ey>R406Wハエの眼の表現型の試験
ey>R406W卵を仕入れ、対照食餌(即席ハエ培地処方4-24ブルー)または2.8μg/mlのMNG-AZ GSE(またはGSPE、図13および14中)を補給した食餌で飼育した。ショウジョウバエの眼を顕微鏡下で観察した。
【0110】
elav>httQ3ハエの寿命モニタリング
elav-Gal4を用いるパン神経パターンでQ93httexonlを過剰発現するオスのハエ(elav> Q93httexonl)を、羽化の1日以内に回収し、対照食餌または2.8μg/mlのMNG-AZ GSEを補給した食餌と共にバイアルあたり10匹を入れた。生存するハエを毎日計数し、2〜3日毎に新鮮なバイアルに移した。
【0111】
結果および考察
GSEはショウジョウバエの眼におけるR406Wタウ過剰発現を抑制する
眼の発生初期でのR406Wの過剰発現は、小さい眼をもたらすか、または眼をなくす(図13A)が、GSE処理は眼の大きさの低下を抑制した(図13B)(オスの眼を示す)。ey>R406W表現型の範囲は試験によって変化したので、試験を個別に行った。代表的な実験に由来するオスの眼の視覚的スコアリングを羽化の3日以内に収集した(0=眼なし、4=ほぼ正常な眼)(図13C)。存在しない眼の数は、同じ試験においてGSE処理(右側)の際に減少した(図13D)。
【0112】
GSE処理はelav>httQ3ショウジョウバエの寿命を延長させる
GSEで処理したelav>Q93httexonlハエは、未処理の対照と比較して全体の寿命の有意な増加を特徴とすることがわかった(図14)。平均で、対照食餌上の50%のelav>Q93httexonlオスが、GSE上でのものが20%しか死ななかったのと比較して、20日目までに死んだ。
【0113】
上記の結果は、GSE処理が、in vivoでのタンパク質凝集を含む神経変性の2つの異なるショウジョウバエモデルを抑制することを示している。この知見は、GSEがタンパク質凝集性神経変性障害の予防および/または治療のための治療値を有し得ることを示唆している。
【実施例6】
【0114】
Aβの自己集合および細胞毒性に対するブドウ種子抽出物の効果
本実施例は、Aβの自己集合および細胞毒性を減少させるための、本発明の一実施形態に従う組成物の効果に関する証拠を提供する。
【0115】
材料および方法
化合物および試薬
化合物を、Sigma-Aldrich Co. (St. Louis, MO)から取得し、それらは入手可能な最高純度のものであった。Medysin #1(「Med1」)を、Aurora Fine Chemicals Ltd., Graz, Austriaから取得した。MegaNatural-AZ(MNG-AZ)を、Polyphenolics(Madera, CA)から取得した(MNG-AZおよびMed1は共に、Aβとの混合物中で言及される場合、「化合物」と呼ばれることもある)。水を二重蒸留し、Milli-Q系(Millipore Corp., Bedford, MA)を用いて脱イオン化した。
【0116】
ペプチドおよびタンパク質
Aβペプチドを以前に記載のように合成、精製し、特性評価した(Walshら、J Biol Chem 1997; 272: 22364-22372)。簡単に述べると、合成を、予め充填されたWang樹脂上での9-フルオレニルメトキシカルボニルに基づく方法を用いる自動化ペプチド合成装置(モデル433A、Applied Biosystems, Foster City, CA)上で実施した。ペプチドを、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて精製した。定量的アミノ酸分析および質量分析により、それぞれのペプチドについて、それぞれ予想された組成物および分子量が得られた。精製されたペプチドを、-20℃で凍結乾燥物として保存した。グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)の保存溶液を、60 mM NaOH中に250μMの濃度で凍結乾燥物を溶解することにより調製した。使用前に、アリコートを10 mMリン酸ナトリウム、pH 7.4中に10倍に希釈した。
【0117】
Aβの保存溶液の調製
Aβの凝集体を含まない保存溶液を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて調製した。実験ペプチド濃度で、名目上のモノマー画分は急速平衡においてモノマーと低分子オリゴマーの混合物を含むため、この画分を低分子量(LMW)Aβと呼んだ。Aβを調製するために、ジメチルスルホキシド中の200μlの2 mg/ml(名目濃度)ペプチド溶液を、超音波洗浄器(Branson Ultrasonics, Danbury, CT)を用いて1分間超音波処理した後、16,000 x gで10分間遠心分離した。得られた上清を、0.5 ml/分の流速で10 mMリン酸バッファー、pH 7.4を用いるSuperdex 75 HRカラム上で分画した。Aβピークの中央を50秒の間に収集し、全ての実験のためにすぐに用いた。10μlのアリコートをアミノ酸分析のために取得して、それぞれの調製物中のペプチド濃度を定量的に決定した。典型的には、Aβ1-40およびAβ1-42の濃度は、それぞれ、30〜40μMおよび10〜20μMであった。
【0118】
Aβのインキュベーション
Aβサンプルを上記で特定されたように調製した後、0.5 mlのアリコートを1 mlの微小遠心チューブ中に入れた。試験化合物をエタノール中に2.5 mMの最終濃度となるように溶解した後、10 mMリン酸、pH 7.4で希釈して、10および50μMの濃度を作製した。次いで、それぞれの化合物の0.5 mlを、Aβの個別のチューブに添加し、約20μM(Aβ1-40)および約10μM(Aβ1-42)の最終ペプチド濃度ならびに5および25μMの最終阻害剤濃度を得た。かくして、化合物:ペプチド比は、低い方の化合物濃度では約1:4(Aβ1-40)および約1:2(Aβ1-42)であり、高い方の化合物濃度では5:4(Aβ1-40)および5:2(Aβ1-42)であった。ペプチドのみを含む対照チューブには、0.5 mlのバッファーを入れた。これらのチューブを、攪拌せずに0〜7日間、37℃でインキュベートした。
【0119】
化学的架橋およびオリゴマーの頻度分布
それらの調製の直後に、PICUP技術を用いてサンプルを架橋した。簡単に述べると、18μlのタンパク質溶液に、1μlの1 mM Ru(bpy)および1μlの20 mM過硫酸アンモニウム(APS)を添加した。Aβ1-40およびAβ1-42の最終タンパク質:Ru(bpy):APSモル比は、それぞれ、0.29:1:20および0.16:1:20であった。この混合物に可視光線を1秒間照射した後、5%β-メルカプトエタノールを含有する10μlのトリシンサンプルバッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて反応をクエンチした。モノマーおよびオリゴマーの頻度分布の決定をSDS-PAGEおよび銀染色を用いて達成した。簡単に述べると、20μlのそれぞれ架橋されたサンプルを10〜20%勾配のトリシンゲル上で電気泳動し、銀染色(SilverXpress, Invitrogen)により可視化した。架橋していないサンプルをそれぞれの実験における対照として用いた。強度プロファイルを作製し、それぞれのオリゴマー型の相対量を算出するために、密度測定を実施し、One-Dscanソフトウェア(v.2.2.2; BD Biosciences Bioimaging, Rockville, MD)を用いて基線補正データのピーク領域を決定した。いくつかの実験においては、Ru(bpy)およびAPSのモル量を、2、5、10および20の因子により、ペプチドと比較して増加させた。
【0120】
CD分光法
Aβ溶液のCDスペクトルを、サンプル調製の直後またはインキュベーションの2、3、6もしくは7日後に獲得した。CD測定を、反応混合物から200μLアリコートを取り出し、このアリコートを1 mm経路長のCDキュベット(Hellma, Forest Hills, NY)に添加し、J-810分光偏光計(JASCO, Tokyo, Japan)中でスペクトルを獲得することにより行った。CDキュベットを、分光計への導入前に氷上で維持した。温度平衡後、CDスペクトルを、100 nm/分の走査速度、0.2 nm解像度、約190〜260 nm、22℃で記録した。10回の走査を獲得し、データをそれぞれのサンプルについて平均した。生データを、製造業者の説明書に従ってバッファースペクトルの平滑化および減算により加工した。
【0121】
チオフラビンT(ThT)結合アッセイ
10μLのサンプルを、10 mMリン酸バッファー(pH 7.4)に溶解した190μLのThTに添加し、混合物を手短にボルテックスした。Hitachi F-4500蛍光計を用いて、10秒間隔で3回、蛍光を決定した。励起波長および放出波長は、それぞれ450および482 nmであった。サンプルの蛍光を、3回の読み取り値を平均し、ThTブランクの蛍光を減算することにより決定した。
【0122】
電子顕微鏡(EM)
各サンプルの10μlアリコートを、グロー放電した、炭素コーティングされたFormvarグリッド(Electron Microscopy Sciences, Hatfield, PA)上にスポットし、20分間インキュベートした。次いで、液滴を等量の水中の2.5%(v/v)グルタルアルデヒドと置換し、さらに5分間インキュベートした。最後に、ペプチドを8μlの水中の1%(v/v)濾過(0.2μm)酢酸ウラニル(Electron Microscopy Sciences, Hatfield, PA)で染色した。この溶液を逃し、グリッドを空気乾燥させた。サンプルをJEOL CX100透過型電子顕微鏡を用いて試験した。
【0123】
3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)代謝
ラット褐色細胞腫PC12細胞を、15%(v/v)ウマ血清、2.5%(v/v)ウシ胎仔血清、100単位/mlペニシリン、0.1 mg/mlのストレプトマイシン、および25μg/mlアンホテリシンBを含有するF-12K培地(ATCC, Manassas, VA)中、75 cm2フラスコ(#430641, Corning Inc., Corning, NY)中、空気中の5%(v/v)CO2を用いて37℃で培養した。アッセイのための細胞を調製するために、培地を除去し、細胞を、0.5%(v/v)ウシ胎仔血清、100単位/mlペニシリン、0.1 mg/mlのストレプトマイシン、および25μg/mlアンホテリシンBを含有するF-12K培地で1回穏やかに洗浄した。次いで、この後者の培地であるが、100μg/mlの神経成長因子(Invitrogen, CA)を含む培地を添加した後、フラスコを攪拌することにより、細胞懸濁液を調製した。トリパンブルーを用いる細胞計数後、細胞を96穴アッセイプレート(Costar #3610, Corning Inc., Corning, NY)中、30,000細胞/ウェル(90μl総量/ウェル)の密度で塗布した。細胞の神経成長因子により誘導される分化を48時間進行させ、この時点で毒性アッセイを行った。
【0124】
Aβ毒性を2つの方法で評価した。ペプチドを、10 mMリン酸ナトリウム、pH 7.4中の0または25μMのMNG-AZと共に、37℃で0、2、3、または7日間予備インキュベートし、この時点で、10μlのペプチド溶液をウェルに添加した。あるいは、Aβを上記のようにであるが、MNG-AZの非存在下でインキュベートした。この場合、ペプチド溶液を、細胞への添加の直前に0または25μMのMNG-AZと混合した。細胞を、0もしくは約2μMの最終濃度のAβのみ、または2.5μMのMNG-AZを含有するMNG-AZで処理されたAβで24時間処理した。Aβ1-40およびAβ1-42ペプチドに関するペプチド/化合物比は、それぞれ、0.72および0.39であった。実際には、全ての成分を同じ時点で細胞と混合したため、それぞれの代替実験手順について、「0時間」サンプルは同等であった。
【0125】
毒性を決定するために、15μlのMTT溶液(Promega, Madison, WI)を各ウェルに添加し、プレートをCO2インキュベーター中でさらに3.5時間保持した。次いで、細胞を100μlの可溶化溶液(Promega, Madison, WI)の添加、次いで、一晩のインキュベーションにより溶解した。MTTの減少を、BioTek Synergy HTマイクロプレートリーダー(Bio-Tek Instruments, Winooski, Vermont)を用いて570 nmでの吸収(630 nmでバックグラウンド吸収について補正)を測定することにより評価した。対照は、リン酸ナトリウム(「陰性」)、原線維(「陽性」)、および1μMのスタウロスポリン(「最大陽性」)を含む培地を含んでいた。線維性Aβ1-40およびAβ1-42を、それぞれ、10μMおよび5μMの最終濃度で細胞に添加した。同じ原線維調製物を、全ての実験に使用し、アッセイ間の変動性を制御するのに役立てた。アッセイ間比較を可能にするために、それぞれの実験内の毒性を最初に決定した。6個の複製を各処理群について行い、3回の独立した実験に由来するデータを組合せ、平均±S.Eとして報告した。毒性T(%)=((A-A培地)/(Aスタウロスポリン-A培地))x100(式中、A、A培地、Aスタウロスポリンは、それぞれ、Aβ含有サンプル、培地のみ、またはスタウロスポリンのみに由来する吸収値である)である。
【0126】
統計学的分析
一元分画ANOVAおよび複数比較試験を統計学的分析のために使用し、GraphPad Prism(バージョン4.0a、GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)の統計手順を用いて行った。0.05未満のp値を有意であると考えた。
【0127】
結果および考察
Aβオリゴマー化
PICUP架橋の非存在下では、Aβ1-40モノマー(図15A、レーン2)のみならびにAβ1-42モノマーおよびトリマー(図15B、レーン2)が観察された。Aβ1-42トリマーバンドはSDSにより誘導される人工物であることが示された。架橋後、Aβ1-40はオーダー2-4のモノマーとオリゴマーの混合物として存在したが(図15A、レーン3)、Aβ1-42はオーダー2-6のモノマーとオリゴマーを含んでいた(図15B、レーン3)。
【0128】
MNG-AZを約5:4の化合物:ペプチド比でAβ1-40と混合した場合、オリゴマー化はほぼ完全に遮断された(図15A、レーン6)。トリマーバンドは丁度可視的であり、ダイマー強度も最小であった。化合物:ペプチド比を10倍に増加させたところ、同様のレベルの阻害が得られた(図15A、レーン7)。Aβ1-42オリゴマー化に対するMNG-AZの効果は同等に有意であった(図15B)。約5:2の化合物:ペプチド比で、MNG-AZは未処理のAβ1-42のものとほぼ同一のオリゴマー分布をもたらしたが、これはオリゴマー化の本質的に完全な阻害と一致していた(図15Bのレーン6(処理)および2(未処理))。化合物:ペプチド比を10倍に増加させたところ、同様のレベルの阻害が得られた(図15B、レーン7)。これらのデータは、Aβオリゴマー化の本質的に完全な阻害を、約5:2以下の化合物:ペプチド比で達成することができることを示唆している。
【0129】
化合物対照として、MNG-AZのものと異なる構造を有する不活性な多環分子であるMed1を用いた。図15Aおよび15B、レーン4に示されるように、Med1の存在下でのAβ1-40およびAβ1-42のオリゴマー化は、それぞれのペプチドのみのものと区別できないオリゴマー分布をもたらした。化合物:ペプチド比を10倍に増加させたところ、同様のオリゴマー分布を示した(図15Aおよび15B、レーン5)。
【0130】
Aβオリゴマー化の強力な阻害はPICUP化学自体に対する阻害剤の効果の結果生じることが可能であると以前は考えられていた。この可能性を評価するために、架橋反応を、架橋化学の陽性対照であるグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST;約26 kDa)上でも実施した。架橋していないGSTは、強いモノマーバンドおよび比較的かすかなダイマーバンドを示した(図15C、レーン2)。GSTは通常はホモダイマーならびにより高次の架橋種として存在するため、架橋は強いダイマーバンドを生成すると予想された。試験した2つの化合物:タンパク質比、1:1(図15C、レーン4)または10:1(図15C、レーン5)のMed1の存在下では、GST架橋の変化は観察されなかった。1:1比のMNG-MZについては、量的に類似する分布も観察された(図15C、レーン6)。GSTオリゴマー化に対する有意なMNG-AZ効果は10:1の比でのみ観察され、これはAβを用いる実験において用いられた最も高い濃度比よりも4〜8倍高かった。この効果は、直接的な化合物:GST効果または前記化合物に対する効果に起因していた。しかしながら、化合物効果は、図15のレーン6に認められる、Aβ1-40およびAβ1-42オリゴマー化の強力な阻害、ならびにGSTオリゴマー化の強力な阻害の欠如を説明することができない(他のアッセイにおける阻害活性も)。これは、MNG-AZがAβ1-40およびAβ1-42オリゴマー化の両方を強力に阻害するという強い証拠を提供している。
【0131】
円偏光二色性スペクトル
Aβおよびそのオリゴマーの二次構造に対するMNG-AZの効果を、CD分光法により調査した(図3)。単独でインキュベートした場合、Aβ1-40およびAβ1-42は、大きく障害されたコンフォーマーの初期スペクトル特性をもたらした(図3Aおよび3C)。これらのスペクトルの主な特徴は、約198 nmを中心とする大規模の最小値であった。その後3日間のインキュベーションの間に、大きいコンフォメーションの遷移が起こり、最終的にはα-へリックスとβ-シート特性の混合物の集団が得られた(約195、約210、および約220 nmでの屈折率を参照)。対照的に、MNG-AZの存在下では遷移は観察されなかった(図3Bおよび3D)。MNG-AZで処理されたAβ1-40およびAβ1-42の全てのスペクトルは、大きく障害されたコンフォーマーの集団を示したが、これはMNG-AZが、Aβの異常な凝集に関与するAβの二次構造、特にβ-シートの形成を上手く妨げることを示している。
【0132】
ThT結合
ThT結合を用いて、Aβ1-40およびAβ1-42の調製物中のβ-シート構造のレベルを決定した。化合物の非存在下では、Aβ1-40は、約2日の遅延期間、および約3日のThT結合を上手く増加させる期間(原線維形成と相関)と共に、約5日後の結合プラトーを特徴とする疑似S字型結合曲線を示した(図4)。Aβ1-40を、1:4または5:4の化合物:ペプチド比でMed1と共にインキュベートした場合、結合曲線は、実験誤差の範囲内で、未処理のペプチドのものと同一であった(図4A)。対照的に、MNG-AZによって有意な効果がもたらされた(図4B)。これらは、遅延時間のMNG-MZ濃度依存的増加、β-シート増殖率の低下、および最終的なβ-シートレベルの低下を含んでいた(表1)。Aβ1-40集合のほぼ完全な阻害が、より高い(25μM)のMNG-MZ濃度を用いて観察された。
【表1】

【0133】
未処理のAβ1-42およびMed1で処理されたサンプルは、Aβ1-40のものと同様に集合した(図4C)。アッセイの時間分解内では、蛍光の発生において遅延時間はほとんどないか、または全く観察されず、4日間は疑似直線的様式で増加し、その後は一定のままであった。Aβ1-42集合に対するMNG-AZの効果は、Aβ1-40集合に対する効果よりもさらに高かった。Aβ1-42を1:2の化合物:ペプチド比でMNG-AZと共にインキュベートした場合、1日の遅延が観察され、わずか1日後に生じた、最大のThT結合は、未処理のペプチドのものよりも6倍低かった(図4D;表1)。しかしながら、5:2の化合物:ペプチド比では、β-シート形成は観察されなかった。従って、MNG-AZは、濃度依存的様式でAβ1-40およびAβ1-42の両方によるβ-シート形成を阻害し、その阻害はAβ1-42について有意により有効であった。
【0134】
EMの結果
二次構造パラメーターはAβ集合状態と相関していたが、それらは、それ自体が集合体の四次構造を確立せず、これは電子顕微鏡によってより良好に観察された(図5)。未処理のAβ1-40およびAβ1-42のサンプル中では、古典的なアミロイド原線維が観察された(それぞれ、図5Aおよび5B)。Aβ1-40原線維は、約220 nmのらせん周期性を示す、約7 nmの直径を有する、分枝していないらせんフィラメントであった。Aβ1-42は、幅約8 nmの分枝していないフィラメントを形成し、らせん構造の程度は変化していた。さらに、Aβ1-42集合体については、幅約12 nmのより厚い、直鎖状の分枝していないフィラメントが観察された。より低い(5μM)のMNG-AZ濃度では、原線維は未処理のAβにより形成されたものよりも薄かった(4対8 nm)(図5C)。さらに、多くの小さく比較的不定形の凝集体が観察された。25μMのMNG-MZを用いるAβ1-40の処理は、原線維数を顕著に減少させ、短い原線維および不定形の凝集体の相対数を増加させた(図5E)。Aβ1-42集合体に対するMNG-AZの効果は、原線維数および長さが減少し、不定形凝集体の頻度が増加する点で類似していた(図5Dおよび5F)。
【0135】
MTT代謝(毒性アッセイ)
Aβの毒性アッセイの結果を図6に示す。図6A-6Dにおいては、左側の群は0日のインキュベーション後の毒性結果(ペプチドAβ1-40およびAβ1-42の両方について)であり、中央の群はAβ1-40についての3日のインキュベーション後の毒性結果(図6Aおよび6B)またはAβ1-42についての2日のインキュベーション後の毒性結果(図6Cおよび6D)であり、右側の群は7日のインキュベーション後の毒性結果(両ペプチドについて)である。1セットの実験において(図6Aおよび6C)、ペプチドをMed1またはMNG-AZと同時インキュベートした。2回目のセットの実験においては(図6Bおよび6D)、Med1およびMNG-AZを、インキュベーション後に、および分化したPC12細胞に混合物を添加する直前に添加した。
【0136】
1-40は、細胞に対して毒性的であり、その毒性は原線維の約20%であることが示された(図6A)。Aβ1-40とMed1の混合物も約20%の毒性であった。対照的に、MNG-AZはAβ1-40を非毒性的にした。3日間のAβ1-40のインキュベーションは、その間にオリゴマー、プロトフィブリルおよび原線維が形成し、有意により毒性が高い(約60%、図6Aの中央の群)組成物をもたらした。Aβ1-40のMNG-AZを用いる処理は、この毒性を10%未満に低下させた(p<0.005)。3つの実験群間で同じ質的関係が7日間のインキュベーション後に観察された(図6Aの右側の群):未処理およびMed1で処理されたAβ1-40は両方とも約35〜40%の毒性であったが、MNG-AZで処理したAβ1-40は10%未満の毒性であった。Aβ1-42を用いる実験においても同様の観察が為された(図6C)。Aβ1-42は、全ての時点でAβ1-40よりも毒性が高かった。
【0137】
ペプチド集合進行後にAβ1-40により誘導される毒性に対するMNG-AZの効果を図6Bに示す。3つ全部のインキュベーション時間で、未処理およびMed1で処理されたペプチドは同様の毒性レベルをもたらした。対照的に、MNG-AZで処理されたペプチドは非毒性的(0日)であるか、または有意に毒性が低かった(3もしくは7日)。質的に類似する結果がAβ1-42の試験において得られた(図6D)。Aβ1-42に対するMNG-AZの効果はAβ1-40の場合よりも明確であった。
【0138】
上記の結果は、MNG-AZが脳中でのAβのオリゴマー化およびその毒性を効率的に阻害することを一貫して示していた。これらの知見は、MNG-AZはAβの誤った折畳み、蓄積、凝集、または沈着に関する疾患を予防または治療することができるという証拠である。
【実施例7】
【0139】
タウオパシーのトランスジェニックショウジョウバエおよびマウスモデルに対するブドウ種子抽出物のin vivoでの効果
本実施例は、特定の型のタウオパシーをモデル化するタウ突然変異体(R406W)を担持するショウジョウバエ表現型、およびタウオパシーのトランスジェニックJNPL3マウスモデルに対する、本発明の実施形態に従う組成物のin vivoでの利益を示す。
【0140】
材料および方法
ey>R406Wハエの眼の表現型の試験
この試験は、実施例5に提供された試験の続きであった。簡単に述べると、ey>R406Wを仕入れ、2.8μg/mlのMNG-AZ GSE(またはGSPE、図21中)を補給した4-24即席ハエ培地または等量の水を補給した対照食餌(GSE溶媒、ビヒクル対照)で飼育した。ハエを成体になるまで継続的にGSE(またはビヒクル)で処理した。ショウジョウバエの眼を顕微鏡下で観察した。
【0141】
JNPL3マウスの運動機能障害および死亡率の評価
JNPL3マウスモデルを、運動機能不全により反映される、年齢関連神経変性をもたらすヒト家族性P301L突然変異タウを発現するように遺伝子操作する。JNPL3マウスを、典型的には、約12ヶ月齢までに発生し始める突然変異タウを介する運動障害の開始の前である、約7ヶ月齢で開始して、150 mg/kg BW/日のMNG-AZ GSEで処理した。後肢伸長試験(図22に示される)を用いて、4点評価系に基づいて運動機能障害を評価した。
【0142】
結果および考察
GSE処理はR406W突然変異タウを有するハエにおける異常な眼の表現型を抑制した
成体のR406W突然変異タウを有するハエに由来する眼は、野生型の成体ハエ(図21Aおよび21D)と比較して、大きさの低下および異常な形態(図21Bおよび21E)を特徴とする。対照的に、GSEで処理した突然変異タウを有するハエは、眼の大きさの非常に減少した異常性を示した(図21Cおよび21F)。
【0143】
眼の形態における眼の変化に関する4点スコアリング系を用いる成体の眼の形態の定量分析において、0は眼がないことを示し、4は正常な眼を示すが、GSE処理が、3つの独立した試験にわたって成体のオスおよびメスのR406W突然変異タウを有するハエにおける眼の表現型を有意に改善することが示された(図21G)(ANOVA: P<0.0005、F=57.29;DF=1,531;*P<0.05、個々の試験においてGSEで処理されたハエと処理されていないハエを比較する)。
【0144】
GSE処理はJNPL3マウスにおけるタウオパシー前臨床表現型を減衰させた
継続的なGSE処理は、体重または水分消費の変化(示していない)などのJNPL3マウスに対する検出可能な有害な効果をもたらさなかった。JNPL3マウスのGSE処理は、このマウスモデルにおいて加齢と共に通常生じる運動障害の重篤度を低下させた(図23A)。運動障害の減衰と同時に、GSE処理はまた、未処理のJNPL3対照群と比較して、JNPL3マウスの死亡率も有意に低下させた(図23BはJNPL3マウスの死亡率が13ヶ月で約30%低下したことを示す)(Logrank統計、p=0.05;死亡率:未処理マウス=27%、GSEで処理されたマウス=0%)。
【0145】
総合すれば、実施例4、5および7に提供されたin vitroおよびin vivoでの証拠は、MNG-AZ GSEが、タウのタウ凝集体への誤った折畳みを阻害することにより、タウを介する神経病理学的表現型を有益に調節することができることを示唆しており、AD、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病、FTDP-17などのタウに関連する神経変性障害を予防および/または治療するためのGSEの適用可能性を支持する。さらに、GSEがAβを介する(実施例1〜3および6に示された)およびタウを介する神経病理学的機構の両方を阻害するという証拠は、ADの予防および/または治療におけるMNG-AZの適用可能性を強く支持する。
【実施例8】
【0146】
ポリグルタミンhttを介するHD神経病理学的表現型に対するブドウ種子抽出物のin vitroでの効果
本実施例は、ポリグルタミンを含有するhttタンパク質種の凝集に対する、本発明の実施形態に従う組成物のin vitroでの効果を示す。
【0147】
材料および方法
httタンパク質種を、エクジソン類似体、ムリステロンAを用いる誘導の際にhtt融合タンパク質を発現し、蛍光htt凝集体を形成する、増強GFPに融合されたhttタンパク質の最初の17アミノ酸と103個のグルタミンを含むエクジソン誘導性ポリグルタミン含有Htt融合タンパク質(Htt103Q-EGFP)を含有するPC-12細胞系を用いて取得した(Apostolら、Proc Nat Acad Sci 2003; 100:5950-5955)。GFP-Htt融合タンパク質を、0.2μMのムリステロンAにより誘導し、MNG-AZ GSE(12.5μMおよび25μM)処理の非存在下および存在下でのGFP-Htt融合タンパク質の凝集を蛍光顕微鏡およびウェスタンブロット分析により評価した。GSEの非存在下および存在下でのhtt凝集体の蓄積を、凝集体へのGFP-Htt融合タンパク質の動員後の蛍光放出により反映させた。
【0148】
結果および考察
GSE処理は、用量依存的様式で蛍光htt凝集体の蓄積を有意に低下させた:より高い用量のGSE処理は、高分子量のHtt凝集体のより顕著な低下をもたらした(図24A)。この結果はまた、独立したウェスタンブロット分析によっても裏付けられた(図24B)。
【0149】
上記の結果は、MNG-AZがポリグルタミンhttを介するHD神経病理学的表現型を阻害し得るというin vitroでの証拠を提供する。
【実施例9】
【0150】
ハンチントン病のトランスジェニックショウジョウバエおよびマウスモデルに対するブドウ種子抽出物のin vivoでの効果
本実施例は、elav>Q93httexonlショウジョウバエHDモデル、およびHDのR6/2トランスジェニックJNPL3マウスモデルに対する、本発明の実施形態に従う組成物のin vivoでの利益を示す。
【0151】
材料および方法
HDハエの運動機能および死亡率の評価
elav>Q93httexonlショウジョウバエHDモデルを、これらの試験において用いた。このHDモデルは、93個のポリグルタミル残基を担持する、ヒトhtt遺伝子のエクソン1によりコードされるトランケートされたヒト突然変異httタンパク質の選択的、パン神経過剰発現を達成するelav-Gal4/UAS調節系を含む(Sangら、NeuroRx, 2005; 2: 438-446)。これは、眼の光受容体細胞の破壊、クライミング能力の障害、および寿命の減少などの成体開始神経変性を誘導する(Sangら、2005、上掲)。
【0152】
運動機能障害を評価する際に、成体のelav>Q93httexonlハエを、羽化(その蛹の殻からの成体ハエの出現)の1日以内に収集し、対照食餌またはMNG-AZ GSEを注入した食餌(n=30/群)上にバイアルあたり10匹を入れた。それぞれ9および16日目に、運動活性を、チューブの底部に穏やかにハエを叩きつけることにより評価し、チューブを上手く登り、8秒以内に所定の高さ(例えば、0日目に7 cmの印まで、または16日目に2 cmの印まで)を超えるハエの割合をモニターした。死亡率を評価する際に、オスのelav>Q93httexonlハエを、羽化の1日以内に収集し、標準的な(対照)食餌またはGSEを注入した食餌上にバイアルあたり10匹を入れた。生きているハエを毎日計数した。
【0153】
HDマウスの運動機能および死亡率の評価
これらの試験を、最も一般的に用いられるトランスジェニックマウスHDモデルである、Bates博士とその同僚により元々作成されたR6/2マウスHDモデル(Mangiariniら、Cell, 1996; 87:493-506)を用いて行った。R6/2マウスは、148〜153個のポリグルタミン反復を担持するhttエクソン1断片を発現する。突然変異httの調節は、ヒトhttプロモーターにより駆動される。R6/2マウスは、非常に活動的な神経学的表現型を示し、前臨床実現可能性試験にとって理想的である明確な実験評価項目を提供する(Ramaswamyら、ILAR J, 2007; 48: 356-73)。
【0154】
Jackson's Laboratoriesから得られた卵巣移植されたメスのマウスを、2つの群(100 mg/kg/日のMNG-AZ GSEで処理された群およびH2Oで処理された対照群)に無作為に分割し、野生型のオスのマウスとつがいにした。離乳する子に、同じGSEまたは対照処理計画上で継続的に食餌を与えた。
【0155】
ロータロッド試験を用いて、HD表現型の年齢に関連する発生および進行の間のR6/2マウスにおける運動協調の変化に対するGSE処理の影響を評価した。HDトランスジェニックマウスを、6週齢で加速するロータロッド装置(10分で4 rpm〜40 rpm)中の狭いロッド上に留まるように訓練し、ロータロッド能力を、8週齢で開始して週に1回モニターした。3回の試験を、与えられた各試験上で行い、3回の試験の平均を記録した。運動機能の喪失を、動物が装置から落下する前の待ち時間の減少により反映させる。R6/2マウスの死亡率を評価する際に、マウスを100 mg/kg/日のMNG-AZ GSE、またはH2O(対照群)で処理し、生存率を毎日記録した。
【0156】
結果および考察
ショウジョウバエHDモデルにおける運動機能および死亡率
elav>Q93httexonlハエの運動能力を、ハエが軽度のHD表現型を示した9日目に評価した場合、GSE処理は9日目にクライミングアッセイにおける運動性能を改善することがわかった(約40%の対照、処理されていないハエおよび約50%のGSE処理されたハエが、クライミング課題を上手く達成した)(図25A)。しかしながら、この観察は、統計学的有意性に到達しなかった。elav>Q93httexonlハエがより重篤な運動機能障害を生じた16日目に評価した場合、有意により大きい割合のGSE処理されたハエは、対照のハエと比較してクライミング課題を上手く達成した(約15%の処理されていないハエおよび約47%のGSEで処理されたハエが、クライミング課題を上手く達成した)(図25B)。これらの結果は、GSEはin vivoで生物活性を示し、このショウジョウバエHDモデルにおける運動機能障害を軽減させることを示唆している。
【0157】
運動機能障害とは別に、このショウジョウバエHDモデル中での突然変異httタンパク質の発現は、寿命の減少をもたらした。GSE処理を継続して(実施例5で考察されたものから)、このショウジョウバエモデルにおける寿命を改善する際のその影響を評価した。GSE処理が突然変異Httを介する運動機能障害を有意に減少させるという以前の観察と一致して(図25)、GSE処理はまた、elav>Q93httexonlハエの寿命を有意に促進した(4種全部の試験からのハエの生存のKaplan-Maier分析は、GSE処理がelav>Q93httexonlハエにおける寿命を有意に促進することを示している:χ2=21.73、df=1、p=0.0001)(図26)。
【0158】
HDマウスにおける運動機能および死亡率
R6/2マウスの運動機能の試験においては、動物がほとんど発症前である6週齢で、対照群とGSE処理群との間に行動の差異は認められなかった。マウスの運動機能を、運動機能障害の開始の間に9週齢で、およびHD表現型が中程度の運動機能障害に進行した11週齢で、試験し続けた。GSE処理は、図27に示されるように、両方の臨床疾患開始(9週齢)および進行(11週齢)で、R6/2 HDマウスにおける運動機能を有意に改善した(棒グラフは、ロータロッド上に留まることができた動物の時間(秒)の平均 + SEMを表す。スチューデントのt検定による統計学的分析、*p<0.05はGSE処理群と対照非処理群とを比較するものである)。
【0159】
R6/2マウスの死亡率の試験においては、GSE処理はR6/2 HDマウスの生存を有意に延長させることがわかった。非処理R6/2マウスの中央寿命は90日であったが、GSE処理はHDマウスの中央寿命を100日に有意に増加させた(Kaplan-Maier分析は、GSE処理がHDマウスの寿命を有意に促進することを証明した:X2=4.018、df=1、p=0.045)(図28)。
【0160】
かくして、独立した、系統発生学的に遠いショウジョウバエとマウス種から作成された実験的HDモデルを用いる上記のin vivoでの試験は、突然変異Httを介する病理学的表現型を減衰させるMNG-AZ GSEの効力を証明した。in vitroでの試験から得た結果を組合わせると(実施例5および8で考察されている)、これらの知見は、HDの予防および/または治療におけるGSEを用いる潜在的な価値を支持している。
【0161】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、刊行物、製品説明およびプロトコルは、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。用語の不一致の場合には、本開示が制御する。
【0162】
本明細書に記載された本発明は、上記の利益および利点を達成するためによく計算されていることが明らかであろうが、本発明は本明細書に記載の特定の実施形態によってその範囲が制限されるものではない。本発明はその精神から逸脱することなく、改変、変動および変化を許容することが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の神経変性疾患を治療する方法であって、ブドウ種子抽出物中のプロアントシアニジンの総重量に基づいて、約12重量%未満のガロイル化プロアントシアニジンを有するブドウ種子抽出物を含む有効量の医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
神経変性疾患がハンチントン病である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
神経変性疾患がタウオパシーである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
タウオパシーが、アルツハイマー病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、嗜銀顆粒性疾患、ピック病、および家族性前頭側頭認知症からなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
医薬組成物を経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
経口剤形が、粉末剤、錠剤、カプセル剤、口腔内崩壊錠、ソフトカプセル剤、水性薬剤、シロップ剤、エリキシル剤、およびサチェット剤からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
医薬組成物を経皮投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
医薬組成物を経鼻投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
被験者がヒト被験者である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
医薬組成物が、抗酸化剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、およびその組合せからなる群より選択される活性成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
有効量が約100〜約1000 mg/日の用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
用量が約200〜約600 mg/日である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
投与の頻度が、毎月、二週間毎、毎週、または毎日である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
投与の頻度が毎日である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
投与が単回用量である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
投与が分割用量である、請求項16に記載の方法。

【図1A−B】
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【図1C】
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【図1D−F】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A−B】
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【図6C−D】
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【図7A−F】
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【図7G】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公表番号】特表2011−520814(P2011−520814A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508718(P2011−508718)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/043392
【国際公開番号】WO2009/137818
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(596097464)マウント シナイ スクール オブ メディシン (4)
【Fターム(参考)】