説明

神経学的疾患の治療、及び/又は予防のためのSDF−1の使用

本発明は、神経学的疾患の治療、及び/又は予防のためのSDF-1、又はSDF-1活性の作動物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、概して、神経炎症に関連する神経学的疾患の分野にある。より詳しく述べると、本発明は、神経学的疾患の治療、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのSDF-1の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
神経炎症に関連している神経学的疾患
神経炎症は、ほとんどの神経学的疾患に対する共通点である。多くの刺激が、ニューロン若しくは乏突起膠細胞の被害によって誘発され得るか、あるいは外傷、中枢若しくは末梢神経損傷の、又はウイルス若しくは細菌感染の影響であり得るかのいずれかである神経炎症を引き起こす。神経炎症の主な影響は、(i)星状細胞、小膠細胞による様々な炎症性ケモカインの分泌;及び(ii)星状細胞若しくは小膠細胞をさらに刺激する追加的な白血球の動員である。多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの慢性神経変性疾患では、継続的な神経炎症の存在が、それらの疾患の悪化にかかわると考えられている。神経炎症に関連している神経学的疾患は、また、神経学的炎症性疾患とも呼ばれる。
【0003】
慢性神経変性疾患
慢性神経変性疾患において、病態は炎症反応に関連する。最近の証拠は、全身性炎症が、順々に挙動に影響を及ぼすかもしれない脳内の炎症性サイトカイン及び他の伝達物質の過度の合成につながる病的な脳における局所炎症に対して影響を与えるかもしれないことを示している(Perry, 2004)。慢性神経変性疾患には、とりわけ、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)、プリオン病、及びダウン症が含まれる。
【0004】
アルツハイマー病(AD)は、脳組織における変化から生じる精神機能の低下を伴う障害である。これには、血管の障害によって引き起こされたものではない脳組織の縮小、一次性変性認知症、及びびまん性脳萎縮が含まれる。アルツハイマー病は、また、老年性認知症/アルツハイマー型(SDAT)と呼ばれる。過去10年にわたって得られた多大な証拠が、神経炎症がアルツハイマー病(AD)の病態に関連するという結論を支持した(Tuppo and Arias, 2005)。
【0005】
パーキンソン病(PD)は、体のゆれ、並びに歩行、運動、及び協調運動の困難を特徴とする脳疾患である。前記疾患は、筋運動を制御する脳の部分への損傷に関連する。それは、また、振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも呼ばれる。ヒト及び動物研究からの次第に増える証拠は、神経炎症がPDにおけるニューロンの欠損に対する重要な寄与因子であるとを示唆した(Gao et al., 2003)。
【0006】
ハンチントン病(HD)は、遺伝性の、常染色体優性の神経性炎症性疾患である。前記疾患は、通常、50歳までに臨床的に明らかになることはなく、且つ、一般的に発症の17年後の死に向かった進行に付随する精神障害、不随意運動障害、及び認識衰退を招く。
【0007】
筋萎縮側索硬化(ALS)は、脳及び脊髄の神経細胞の破壊のため随意筋の神経制御の進行性消失を引き起こす障害である。ルー・ゲーリック病とも呼ばれる筋萎縮性側索硬化症は、筋の使用及び制御の損失を伴う障害である。これらの筋を制御する神経は、縮小し、そして、消滅し、それが神経刺激の不足のため筋肉組織の損失をもたらす。ALSの根本原因は、未知のままであるが、ALSにおいて、神経炎症が重要な役割を果たすかもしれない(Consilvio et al., 2004)。
【0008】
多系統萎縮症(MSA)は、原因不明の散発性、成人発症神経変性疾病である。状態は、発病過程における希突起神経膠細胞によって果たされる、主要でないにしても、目立った役割が慢性神経変性疾患の中で独特であるかもしれない。データは、MSAの危険性における炎症関連遺伝子の役割を裏付けている(Infante et al., 2005)。パーキンソン病との主な相違点は、MSA患者がL-ドーパ治療に応答しない点である。
【0009】
多発性硬化症(MS)は、再発寛解、又は進行性の経過をたどる中枢神経系(CNS)の炎症性の脱髄性疾患である。MSは、単なる脱髄性疾患ではない。末梢神経系(PNS)における対応物は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)である。加えて、PNSにおいてギラン・バレー症候群(GBS)、及びCNSにおいて急性播種性脳脊髄炎(ADEM)と呼ばれる、炎症性脱髄性多発性神経障害などの急性の単相性障害が存在する。MSとGBSの両者は、異種の症候群である。MSでは、遺伝因子と一緒に異なった外因の攻撃が、診断基準を最終的に満たす疾患経過をもたらし得る。両方の疾患において、軸索損傷が、本来の脱髄性病変が加えられ、そして、永久的な神経学的欠損を引き起こす可能性がある。MSは、免疫系の白血球が中枢神経系(CNS)の白質に対して攻撃を開始する自己免疫異常である。灰白質もまた、伴うかもしれない。MSの正確な病因は知られていないが、寄与因子には、遺伝子、細菌及びウイルスの感染が含まれるかもしれない。古典的な兆候(全症例の85%)では、それは、数週間続く神経機能障害の症状出現と、それに続く実質的な若しくは完全な回復に対応する交代性再発/寛解相を特徴とする(Noseworthy, 1999)。寛解期間は、時間が経つにつれて、より短くなる。多くの患者は、その後、部分的な回復を伴うか、又は全く回復を伴わない神経機能のゆるやかな損失を特徴とする最終的な疾患相に入る。これは、二次進行型MSと呼ばれている。わずかな割合(全MS患者の〜15%)が、その疾患の発現に続く神経機能のゆるやかでとぎれない衰弱を経験する(一次進行型MS)。
【0010】
プリオン病及びダウン症もまた、神経炎症を伴うことがわかった(Eikelenboom et al., 2002; Hunter et al., 2004)。
【0011】
感染に続いて起こる神経学的な炎症性疾患
例えば、急性播種性脳脊髄炎などのいくつかの神経障害は、通常、その疾患の免疫性原因を示すウイルス感染又はウイルス予防接種(又は、極稀に細菌予防接種)に続いて起こる。ウイルス予防接種又はギラン・バレー症候群に続いて起こる急性炎症性末梢神経障害は、同じ推定上の免疫病因を有する同様の脱髄性障害であるが、それらは末梢構造物だけに影響を及ぼす。
【0012】
ヒトT細胞性リンパ増殖性ウイルスによる感染に関連している緩徐進行性脊髄疾患であるHTLV関連ミエロパシーは、両脚の痙性衰弱を特徴とする。
【0013】
中枢神経系感染は非常に重大な感染であり;髄膜炎は脳と脊髄を囲む膜に影響を及ぼし;脳炎は脳自体に影響を及ぼす。中枢神経系(脳と脊髄)に感染するウイルスには、ヘルペスウイルス、アルボウイルス、コクスサッキーウイルス、エコーウイルス、及びエンテロウイルスが含まれる。これらの感染のいくつかは、主として髄膜(脳を覆う組織)に影響を及ぼし、そして、髄膜炎を引き起こし;他のものは、主として脳に影響を及ぼし、そして、脳炎を引き起こし;多くのものが、髄膜と脳の両方に影響を及ぼし、そして、髄膜脳炎を引き起こす。髄膜炎は、脳炎に比べて小児においてはるかに一般的である。ウイルスは、2つの方法で中枢神経系に影響を及ぼす。それらは、直接的に感染し、そして急性疾患の間に細胞を破壊する。感染からの回復の後に、感染に対する体の免疫応答は、時々、神経周辺の細胞に対して二次的な損傷を引き起こす。この二次的な損傷(後感染性脳脊髄炎)は、急性疾患からの回復の数週間後に症状を患った小児を作り出す。
【0014】
傷害に続く神経学的疾患
外傷、低酸素症、及び虚血を含めた急性傷害によって引き起こされたCNSに対する傷害は、灰白質と白質の両方に影響を及ぼす。CNSへの傷害は、神経炎症を伴う。例えば、外傷又は炎症の後のCNSへの白血球浸潤は、星状細胞におけるMCP-1ケモカインの上方制御によって部分的に誘発される(Panenka et al., 2001)。
【0015】
外傷は、神経の傷害又は損傷である。それは、筋肉制御及び感覚を含めた傷害のレベル、及びそれ以下で制御されるすべての神経機能に影響を及ぼす脊髄に対する損傷である脊髄外傷、又は閉鎖性頭部損傷によって引き起こされた外傷などの脳外傷であるかもしれない。
【0016】
脳低酸素は、特に大脳半球への酸素の欠乏であり、そして、より典型的には、その用語は、脳全体への酸素の欠乏を指すのに使用される。低酸素症の重症度によって、症状は、精神錯乱から不可逆的な脳損傷、昏睡、及び死亡にまで及ぶかもしれない。
【0017】
脳卒中は、通常、減少した脳の血流(虚血)によって引き起こされる。それは、また、脳血管障害又は偶発症候とも呼ばれる。それは、脳のいずれかの部分への血液供給が中断されたときに発生する脳機能の損失を伴う脳障害群である。脳は、体内の血液循環の約20%を必要とする。脳への主な血液供給は、2本の頚部動脈(頚動脈)をとおり、頚部動脈は、その後、それぞれが脳内の特定の領域に供給をおこなう複数の動脈に脳内で分岐する。血流量の短時間の中断であっても脳機能の低下(神経学的欠損)を引き起こす可能性がある。症状は、影響を受けた脳の領域により異なり、そして、視覚の変化、発話変化、身体の一部の運動若しくは感覚の低下、又は意識レベルの変化などの問題を一般的に含んでいる。血流量が数秒より長い間減少した場合には、その領域の脳細胞は、破壊されて、脳のその領域への永久的な損傷(梗塞)、又は死亡すらも引き起こす。
【0018】
外傷性神経損傷は、CNS又はPNSの両方に関係があるかもしれない。単に頭部損傷又は閉鎖性頭部損傷とも呼ばれる外傷性脳傷害は、頭部への外部の殴打により脳に損傷があるところの傷害を指す。それは、大部分が、車又は自転車事故の中で起こるが、溺水、心臓発作、脳卒中、及び感染の結果としても起こるかもしれない。このタイプの外傷性脳傷害は、通常、脳への酸素又は血液供給の不足による結果であり、それ故に「無酸素性傷害」と呼ばれ得る。脳損傷又は閉鎖性頭部損傷は、自動車事故又は転落のように頭部への打撃があったときに発生する。外傷のすぐ後に意識消失期間が存在し、それが、数分、数週、又は数ヶ月続くかもしれない。一次脳損傷は、傷害時点で主に衝撃を受けた部位にて、特に、頭蓋骨の破片が存在したときに起こる。大きな打撲傷は、脳内出血に関連するか、又は皮質の裂創を伴うかもしれない。びまん性軸索損傷は、頭蓋骨内での脳の回転運動によって生じた神経突起の剪断と引張歪の結果として起こる。光学顕微鏡的にしか検出することができない小さい出血性病巣又は軸索へのびまん性損傷が存在するかもしれない。二次脳損傷は、傷害の瞬間の後に発現する合併症の結果として起こる。それらには、脳内出血、脳外にある動脈の外傷性損傷、頭蓋内ヘルニア、低酸素性脳損傷、又は髄膜炎が含まれる。
【0019】
脊髄傷害は、両下肢麻痺と四肢麻痺の入院の大部分を占める。80%を越えるものが、交通事故の結果として起こる。傷害の2つの主要な群は、以下のとおり:開放性傷害と閉鎖性傷害、と臨床的に認識されている。開放性傷害は、脊髄と神経根の直接的な外傷を引き起こす。貫通傷は、大規模な破壊と出血を引き起こす。閉鎖性傷害は、脊髄障害の大部分を占め、そして、通常、脊椎骨の骨折/脱臼に関連し、それは、通常、放射線学的に明らかになる。脊髄への損傷は、骨の傷害の程度に依存し、そして、以下の2つの主なステージ:打撲傷、神経線維離断、及び出血性壊死である一次損傷と、硬膜外血腫、梗塞、感染、及び水腫である二次損傷、に分けて検討されてもよい。
【0020】
外傷は、単独の神経に対する限局性傷害の最も一般的な原因である。乱暴な筋活動、又は関節の力ずくの過伸展は、小さい外傷(例えば、小さな道具を強く握り締めること、エアー・ハンマーからの過度の振動)が繰り返されるかもしれないので、焦点的な神経障害を生じるかもしれない。通常、圧迫性又は絞扼性麻痺は、(例えば、熟睡中に、又はやせた人若しくは悪液質の人、及び多くの場合、アルコール症の人の感覚喪失中に)骨ばっている隆起にて、又は(例えば、手根管圧迫症候群において)細い管にて表在神経(尺骨神経、橈骨神経、及び腓骨神経)に影響を及ぼす。圧迫性麻痺はまた、腫瘍、骨肥厚、ギプス包帯、松葉杖、又は(例えば、園芸における)長期間の窮屈な姿勢からも生じるかもしれない。外傷は、また、外科的処置中にも起こり得る。
【0021】
末梢神経障害
末梢神経障害は、感覚喪失、筋脱力及び萎縮、減少した深部腱反射、及び血管運動症状の単独又はいずれかの組み合わせによる症候群である。末梢神経障害は、ウォーラー変性とも呼ばれる過程である軸索変性を伴う。神経炎症は、ウォーラーの変性の一因となっている(Stoll et al., 2002)。
【0022】
疾患は、1つの神経を冒す(単発神経障害)、離れた領域の2つ以上の神経を冒す(多発性単神経障害)、又は、同時に多数の神経を冒す(多発神経障害)かもしれない。(例えば、糖尿病、ライム病、尿毒症において、又は毒剤で)軸索が主に冒されるかもしれず、あるいは、(例えば、急性若しくは慢性の炎症性多発神経障害、大脳白質萎縮症、又はギラン-バレー症候群において)髄鞘又はシュワン細胞であるかもしれない。無髄及び有髄の細経線維への損傷は、主として温度感覚及び痛覚の喪失をもたらし;有鞘の大径線維への損傷は、運動又は固有受容感覚の欠陥をもたらす。一部の(例えば、鉛毒性、ダプソンの使用、(ダニ咬傷によって引き起こされた)ライム病、ポルフィリア、若しくはギラン-バレー症候群による)神経障害は、主として運動性繊維を冒し;(例えば、癌、ハンセン病、AIDS、糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒の後根神経節炎による)その他のものは、主として後根神経節又は知覚線維を冒し、感覚症状を生じる。時折、(例えば、ギラン-バレー症候群、ライム病、糖尿病、及びジフテリアにおいて)脳神経もまた関与する。関与するモダリティーを同定することは、原因の特定に役立つ。
【0023】
多発性単神経障害は、通常、膠原血管病(例えば、多発動脈炎、SLE、シェーグレン症候群、RA)、サルコイドーシス、代謝病(例えば、糖尿病、アミロイドーシス)、又は感染症(例えば、ライム病、HIV感染)に続発する。微生物は、(例えば、ハンセン病において)神経の直接浸潤によって多発性単神経障害を引き起こすかもしれない。
【0024】
急性熱性疾患による多発神経障害は、(例えば、ジフテリアにおける)毒素、又は(例えば、ギラン-バレー症候群における)自己免疫反応から生じるかもしれず;免疫化に続いて起こることもある多発神経障害もまた、おそらく自己免疫であろう。
【0025】
毒剤は、通常、多発神経障害を引き起こすが、単発神経障害を引き起こすこともある。それらには、エメチン、ヘキソバルビタール、バルビタール、クロロブタノール、スルホンアミド、フェニトイン、ニトロフラントイン、ビンカ・アルカロイド、重金属、一酸化炭素、リン酸トリオルトクレシル、オルトジニトロフェノール、多くの溶剤、他の工業性毒物、及び特定のAIDS薬(例えば、ザルシタビン、ジダノシン)が含まれる。
【0026】
化学療法によって誘発された神経障害は、ビンカ・アルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビンデシン)、プラチナ含有薬物(シスプラチン)、及びタキサン(パクリタキセル)を含めた、いくつかの一般的に使用される化学治療法薬剤の顕著な、そして、重大な副作用である。末梢神経障害の誘発は、化学療法薬を用いた治療を制限する際の共通要因である。
【0027】
栄養欠乏症及び代謝障害は、多発神経障害をもたらすかもしれない。多くの場合、(例えば、習慣性飲酒、脚気、悪性貧血、イソナイアジッドで誘発されたピリドキシン欠乏、吸収不良症候群、及び妊娠悪阻における)ビタミンB欠乏が原因となる。多発神経障害はまた、甲状腺機能不全症、ポルフィリア、サルコイドーシス、アミロイドーシス、及び尿毒症においても起こる。糖尿病は、知覚運動性遠位多発神経障害(最も一般的)、多発性単発神経障害、及び(例えば、眼球運動又は外転脳神経の)局所性単発神経障害を引き起こす可能性がある。
【0028】
代謝障害(例えば、糖尿病)又は腎不全による多発神経障害は、多くの場合、数ヶ月又は数年にわたり、ゆっくり発現する。それは、多くの場合、近位に比べて遠位でより重度である下肢の感覚異常で始まることが多い。末梢の刺痛、麻痺、激しい疼痛、又は関節の固有受容感覚と振動感覚の不全が、多くの場合、顕著である。疼痛は、多くの場合、夜にひどくなり、そして、患部に触れることによって、又は温度変化によって一層悪化するかもしれない。重い場合には、感覚喪失と、通常、靴下及び手袋型分布を伴う他覚的徴候がある。アキレス腱及びその他の深部腱反射は、減少するか、又は消失する。指の無痛性潰瘍又はシャルコー関節は、感覚喪失が深刻であるときに、発現するかもしれない。知覚性又は固有受容性欠乏は、歩行異常に通じるかもしれない。運動障害は、遠位筋の衰弱と萎縮をもたらす。不随意神経系が、追加的に又は選択的に関与し、夜間下痢、尿及び糞便の失禁、性交不能症、又は起立性低血圧につながるかもしれない。血管運動症状は異なる。皮膚は、標準に比べて血色が悪く、そして、乾燥しており、うす暗い染みを伴うこともあるかもしれず;発汗が、過剰であるかもしれない。栄養変化(滑らかでつややかな皮膚、へこんだ若しくは隆起した爪、骨粗鬆症)は、重度の、長期間の症例において一般的である。
【0029】
栄養性多発神経障害は、アルコール症及び栄養不良によく見られる。一次軸索障害は、最も長く、且つ、最も大きい神経における二次的な脱髄及び軸索破壊につながるかもしれない。原因がチアミン又は他のビタミン(例えば、ピリドキシン、パントテン酸、葉酸)の欠乏であるかどうかは不明である。ピリドキシン欠乏による神経障害は、通常、結核のためにイソナイアジッドを飲んでいる人のみに起こり;ピリドキシンが不足しているか、又は依存している幼児は痙攣を起こすかもしれない。肢遠位部の消耗、及び左右対称の衰弱は、通常、進行が緩徐であるが、急速に進行する可能性があり、感覚喪失、知覚異常、及び疼痛を伴うこともある。ふくらはぎ及び足のうずき、筋痙攣、冷感、ヒリヒリする痛み、及びしびれ感は、接触によって悪化するかもしれない。病因がはっきりしないときには、総合ビタミンが与えられるかもしれないが、それらは、立証された効果を持っていない。
【0030】
遺伝性神経障害は、感覚運動神経障害又は知覚神経障害として分類される。シャルコー-マリー-ツース病は、最も一般的な遺伝性感覚運動神経障害である。稀に見られる感覚運動神経障害は、生まれたときに始まり、そして、重度の障害をもたらす。知覚神経障害において、知覚神経障害は稀であって、遠位の疼痛と温度感覚の喪失が、振動感覚と位置感覚の喪失に比べて顕著である。主たる問題は、頻繁な感染と骨髄炎による無痛症に起因するペダル・ミューティレーション(pedal mutilation)である。遺伝性神経障害にはまた、肥厚性間質性神経障害とデジェリン-ソッタス病も含まれる。
【0031】
悪性腫瘍はまた、モノクローナル免疫グロブリン異常症(多発性骨髄腫、リンパ腫)、アミロイド侵襲、又は栄養欠乏症によって、あるいは、傍腫瘍性症候群として多発神経障害も引き起こすかもしれない。
【0032】
例えば、感染性病原菌又は自己免疫発作などの様々な病因によるとはいえ、神経性炎症性疾患はすべて、神経機能の喪失を引き起こし、且つ、麻痺症、そして、死亡につながるかもしれない。一部の神経性炎症性疾患において炎症性発作を軽減させるいくつかの治療薬が利用可能であるが、神経機能の回復につながり得る新規治療法を開発する必要性がある。
【0033】
SDF-1
ケモカイン(走化性サイトカイン)は、主として白血球化学遊走物質と活性化因子として基礎輸送と炎症反応作用の両方にかかわる7回膜貫通型のGタンパク質結合受容体を活性化する小さな(8〜10kDa)サイトカインのスーパーファミリーを構成する。
【0034】
ストロマ細胞由来因子-1α、SDF-1α、及びその2つのアイソフォーム(β、γ)は、インタークリン・ファミリーに属する小さな走化性サイトカインであり、そのメンバーが白血球を活性化し、そして、多くの場合、リポポリサッカライド、TNF、又はIL-1などの炎症誘発性刺激によって誘発される。インタークリンは、2つのジスルフィド結合を形成する4つの保存システインの存在を特徴とする。それらは2つのサブファミリーに分類される。ベータ・ケモカインを含めたCCサブファミリーでは、システイン残基が互いに隣接している。アルファ・ケモカインを含めたCXCサブファミリーでは、それらは間のアミノ酸によって分離されている。SDF-1タンパク質は後者に属する。SDF-1は、CXCR4(LESTR/fusin)ケモカイン受容体の天然のリガンドである。アルファ、ベータ、及びガンマ・アイソマーが、単一遺伝子の選択的スプライシングの結果である。アルファ型がエクソン1〜3に由来する一方、ベータ型はエクソン4からの付加配列を含む。SDF-1γの最初の3つのエクソンは、SDF-1αとSDF-1βのものと同一である。SDF-1γの4番目のエクソンは、SDF-1遺伝子座上の3番目のエクソンから3200bp下流に位置し、SDF-1βの3番目のエクソンと4番目のエクソンの間にある。
【0035】
3つの新しいSDF-1アイソフォームであるSDF-1デルタ、SDF-1イプシロン、及びSDF-1ファイが最近、説明された(Yu et al., 2006)。SDF-1δアイソフォームは、SDF-1αのオープン・リーディング・フレームの最後のコドンにおいて選択的にスプライシングを受け、2つに分割されたSDF-1の端末のエクソンを持つ731塩基対のイントロンをもたらす。SDF-1εとSDF-1φの3つのエクソンは、SDF-1βとSDF-1γアイソフォームのものと100%同一である。
【0036】
SDF-1遺伝子は、血球細胞以外で遍在的に発現され、それは、試験管内においてリンパ球と単球に作用するが好中球には作用せず、且つ、生体内において単核細胞に対して非常に強力な化学遊走物質である。試験管内及び生体内において、SDFは、また、CD34を発現するヒト造血前駆細胞に対して化学遊走物質としても機能する。
【0037】
リガンド又は受容体のいずれかの欠損が異常なCNS発達に起因する胚致死となるので、SDF-1とその受容体であるCXCR4は、造血系と神経系において不可欠な機能を発揮する(Ma et al., 1998; Zou et al., 1998)。
【0038】
SDF-1αは、その受容体であるCXCR4との相互作用を通じて、未熟な有糸分裂後コリン作動性ニューロンに類似し、且つ、多数のニューロンの特徴を有すヒトhNTニューロン細胞株におけるアポートシスによる細胞死を直接的に誘発することができる(Hesselgesser et al., 1998)。
【0039】
発生及び成熟中枢神経系におけるSDF-1の役割は、Lazariniら(Lazarini et al., 2003)によって概説された。
【0040】
ケモカインは、確かに、CNSにおける神経炎症にかかわるが、それらの活性は、(ニューロン、星状細胞、及び希突起膠細胞を含めた)神経上皮細胞に対する直接的な生物学的に重要なペプチドとしてのそれらの役割にまで及ぶ。特に、ケモカインは、ほんの数例を挙げれば、GRO-α/CXCL1(Robinson et al., 1998)、SDF-1αの場合には、小脳顆粒細胞の組織化(Zhu et al., 2002)、及びフラクタルキン/CX3CL1によって例示される小膠細胞の活性化状態(Zujovic et al., 2000)によって例証されるように、希突起膠細胞前駆細胞(OLPs)の増殖に影響を及ぼす。これにより、免疫系と神経系パラダイムの両方において、ケモカインは、増殖、遊走、活性化、及び分化の調節を含めた幅広い類似活性を披露する。
【0041】
多くのケモカイン、及びケモカイン受容体が、CNSにおいて構成的に又は炎症性メディエーターによって誘発されて発現されている。それらは、多発性硬化症(MS)を含めた多くの神経病態過程に関与している(Bajetto et al., 2001; Sorensen et al., 2002)。
【0042】
脳の内皮細胞におけるSDF-1の発現は、虚血性CNSへの免疫細胞の動員を助けることが示されており(Stumm et al., 2002)、神経炎症におけるSDF-1の不利益な役割を示唆した。エイズ痴呆との関連において、SDF-1が、試験管内の神経炎症モデルにおいて誘発されたgp120の活性化小膠細胞によるTNFα産生、及び星状細胞によるグルタミン酸遊離を刺激することによって神経毒性作用を引き起こすことが説明された(Bezzi et al., 2001; Sorensen et al., 2002)。最近の刊行物には、MS病巣の星状細胞におけるSDF-1α発現が記載されていた(Ambrosini et al., 2005)。
【0043】
ラットにおける実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の誘発は、増強されたレベルの、CXCR4を含めた様々なケモカイン受容体を伴った(Jiang et al., 1998)。
【0044】
WO 00/09152において、CXCR4拮抗薬が、自己免疫疾患の治療、多発性硬化症の治療、癌の治療、及び血管新生の阻害に有用であると言われている。
【0045】
WO 99/50461は、CXCR4活性を促進するか、又は抑制する化合物を投与することによって異常な細胞増殖、又は不十分な細胞増殖を伴って起こる障害の治療方法を開示している。CXCR4機能の阻害剤は、癌の治療に関して主張され、そして、受容体作動物質の使用は、細胞増殖が不十分であるか、又は細胞増殖が所望される障害の治療に関して主張された。細胞増殖が不十分である障害には、神経系の一部が、例えば、多発性硬化症を含めた脱髄性疾患によって破壊されるか、又は傷つけられた神経系の脱髄性病巣、並びに末梢神経系の病巣が含まれる。
【0046】
神経学的疾患におけるCXCR4/SDF-1拮抗薬の治療用途もまた、示された。EP 657468B1では、SDF-1の使用が、造血細胞の発育不全若しくは異常な増殖、ニューロンの亢進若しくは低下に関連する疾患の治療、ニューロン傷害の予防又は治療について示唆されている。
【0047】
WO 03/062273では、SDF-1シグナル伝達経路の阻害剤が、炎症の治療に関して記載されていた。開示されている治療用途には、CNS若しくはその他の臓器のいずれかの自己免疫疾患、状態、又は障害に関連している炎症、免疫、及び/又は炎症抑制が有益であるだろう、慢性の神経障害、あるいは、ギラン・バレー症候群が含まれる。
【0048】
Gleichmannらは、末梢神経病変後のSDF-1-ベータmRNA発現におけるわずかな一過性の上昇を報告した。彼らは、それらの知見が、神経系の発達や傷害などの異なった生理的条件におけるSDF-1アイソフォームの示差的発現パターンを初めて実証すると結論づけた(Gleichmann et al., 2000)。
【0049】
SDF-1は、一般的にプロテオグリカン(PGs)と呼ばれる、様々なタンパク質に翻訳後に付加される非常に変化に富む分岐糖基であるグリコサミノグリカン(GAG)と相互作用し得る。そのようなタンパク質は、単離されたGAGも存在し得るところの細胞膜上、細胞外マトリックス中、及び血流中に存在している。PGs、又は単離されたGAGは、可溶性分子と複合体を形成することができ、細胞外環境におけるタンパク質分解からこの分子を保護すると思われる。また、GAGが細胞シグナル伝達分子のそれらの特異的受容体への正確な提示、そして、最終的には、標的細胞活性化の調節も助けるかもしれないとも言われた。
【0050】
ケモカインの場合には、炎症部位における固定されたグラジエントへの濃縮、そして、その結果として、細胞受容体とそれらの活性化状態との相互作用は、異なった形態のGAGによって調節されるように思える(Hoogewerf et al., 1997)。それ故に、そのような相互作用の調節が、炎症性疾患における治療的アプローチを示すかもしれないと示唆された(Schwarz and Wells, 1999)。
【0051】
修飾SDF-1αであるSDF-1 3/6は、基礎クラスタの残基Lys24、His25、及びLys27のSerによる混合置換によって生み出された(Amara et al., 1999)。この突然変異体は、ヘパラン硫酸を結合することができなかったが、CXCR4に結合して、活性化する能力を持ち続けた。別の研究は、同じドメインにおける単一突然変異の影響を調査して、SDF-1αヘパリン複合体を特徴付けした(Sadir et al., 2001)。Sadirらは、また、グリコサミノグリカン結合における残基Arg41とLys43の関与を示唆した。
【発明の開示】
【0052】
本発明の概要
本発明の目的は、神経学的疾患の治療、及び/又は予防の新規な手段を提供することである。
【0053】
本発明の枠組みの中で、SDF-1α、Met-SDF-1α、又はSDF-1変異体の投与が末梢神経学的疾患の生体内動物モデルにおいて有益な効果を持つことが見出された。SDF-1α、及びその変異体もまた、炎症モデルであるLPS誘発TNF-α放出動物モデルにおいてTNF-α及びIL-6を抑制することが示された。
【0054】
そのため、本明細書中に提示される実験的証拠は、神経学的疾患、特に、ニューロン及び膠細胞の機能、並びに神経炎症と関連したものの治療の新たな可能性を提供する。
【0055】
そのため、本発明は、神経学的疾患の治療、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのSDF-1又はSDF-1活性の作動物質の使用に関する。
【0056】
本発明によると、SDF-1は、また、神経学的疾患の治療、及び/又は予防のためにインターフェロン、オステオポンチン、又はクラステリンと組み合わせて使用されるかもしれない。神経学的疾患の治療、及び/又は予防のためのSDF-1を含む核酸分子、発現ベクター、及びSDF-1を発現する細胞の使用もまた、本発明の範囲内にある。
【0057】
本発明は、必要に応じて1種類以上の医薬として許容される賦形剤と一緒に、SDF-1、及びインターフェロン、オステオポンチン、又はクラステリンを含む医薬組成物をさらに提供する。
【0058】
本発明の詳細な説明
本発明の枠組みの中で、SDF-1の投与が、末梢神経学的疾患の生体内動物モデルにおいて有益な効果があることがわかった。坐骨神経挫滅で誘発した神経障害のマウス・モデルにおいて、神経の再生、完全性、及び活力に関連するすべての生理的パラメーターが、SDF-1α、Met-SDF-1α、又はSDF-1α変異体の投与によってプラスに影響を受けた。
【0059】
SDF-1α及びSDF-1α変異体は、神経炎症の一般的なモデルであるLPS誘発TNF-α放出動物モデルにおいてTNF-α及びIL-6を抑制することが示された。
【0060】
糖尿病性神経障害及び神経障害性疼痛におけるSDF-1αの保護効果が、本発明に示されている。
【0061】
さらに、SDF-1遺伝子と一次進行型MSの間の遺伝的関連が、見出された。
【0062】
そのため、本明細書中に提示される実験的証拠は、神経学的疾患、特に、ニューロン及び膠細胞の機能、並びに神経炎症と関連したものの治療の新たな可能性を提供する。
【0063】
そのため、本発明は、神経学的疾患の治療、及び/又は予防用の医薬品の製造のためのSDF-1又はSDF-1活性の作動物質の使用に関する。
【0064】
用語「SDF-1」は、本明細書中に使用される場合、完全長の成熟ヒトSDF-1α、又は、例えば、CXCR4受容体への結合などのSDF-1活性を有するその断片に関する。ヒトSDF-1αのアミノ酸配列は、添付の配列表の配列番号1として本明細書中に公表されている。用語「SDF-1」は、本明細書中に使用される場合、さらに、SDF-1活性を維持するために十分な同一性がある限り、マウス、ウシ、若しくはラットSDF-1などのあらゆる動物由来のSDF-1に関する。
【0065】
用語「SDF-1」は、本明細書中に使用される場合、さらに、天然に存在するSDF-1アイソフォームなどの生物学的に活性な突然変異タンパク質及び断片に関する。SDF-1の異なるアイソフォームをコードする遺伝子の6種類の選択的にスプライシングされた転写産物変異体が報告された(SDF-1アイソフォームであるα、β、γ、δ、ε、及びφ)。ヒトSDF-1α、SDF-1β、SDF-1γ、SDF-1δ、SDF-1ε、及びSDF-1φの配列は、添付の配列表のそれぞれ、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号14、配列番号15、及び配列番号16として本明細書中に公表されている。
【0066】
用語「SDF-1」は、本明細書中に使用される場合、さらに、そのアイソフォーム、突然変異タンパク質、融合タンパク質、機能性誘導体、活性画分、断片、又はその塩を網羅する。これらのアイソフォーム、突然変異タンパク質、融合タンパク質若しくは機能性誘導体、活性画分、又は断片は、SDF-1の生物活性を保有する。好ましくは、それらは、野性型SDF-1と比べた場合に、改善された生物活性を有する。
【0067】
用語「SDF-1」には、特に、配列番号1によって特定されるヒト成熟アイソフォームSDF-1α、配列番号2によって特定されるヒト成熟SDF-1β、配列番号3によって特定されるヒト成熟SDF-1γ、配列番号14によって特定されるヒト成熟SDF-1δ、配列番号15によって特定されるヒト成熟SDF-1ε、及び配列番号16によって特定されるヒト成熟SDF-1φ;追加のN末端メチオニンを持ち、且つ、配列番号7によって特定されるヒト成熟アイソフォームSDF-1α;成熟ヒトSDF-1αの第4〜68アミノ酸残基に相当し、且つ、配列番号8によって特定されるもの、成熟ヒトSDF-1αの第3〜68アミノ酸残基に相当し、且つ、配列番号9によって特定されるもの、及び追加のN末端メチオニンを持つ成熟ヒトSDF-1αの第3〜68アミノ酸残基に相当し、且つ、配列番号10によって特定されるものなどのSDF-1αの切断型が含まれる。また、用語SDF-1によって網羅されるのは、異種ドメイン、例えば、以下の:膜結合タンパク質の細胞外ドメイン、免疫グロブリン定常領域(Fc領域)、多量体化ドメイン、搬出シグナル、及びタグ配列(親和性による精製を助けるもの:HAタグ、ヒスチジン・タグ、GST、FLAAGペプチド、又はMBPなど)の中から選ばれるかもしれない1種類以上のアミノ酸配列、に作動できるように連結された先に規定されるようなSDF-1ポリペプチドを含む融合タンパク質である。好まれるものは、配列番号13によって規定されるSDF-1αのFc融合タンパク質である。
【0068】
用語「SDF-1α変異体」は、本明細書中に使用される場合、低減されたGAG結合活性を有するSDF-1の突然変異体に関する。表現「低減されたGAG結合活性」又は「GAG結合不良」は、そのCCケモカイン突然変異体がGAGに結合するのに低い能力、すなわち、そのような突然変異体を開示する以下に引用された従来技術によるアッセイにより計測されるように、対応する野生型分子に関して(ヘパリン硫酸のような)GAGに結合するこれらの突然変異体のそれぞれの低いパーセンテージ、しか持たないことを意味する。特に、そのような突然変異体は、Lys24、His25、及びLys27のSerによる置換(Amara et al., J. Biol. Chem. 1999 Aug 20; 274(34): 23916-25)、又はAlaによる置換(配列番号4)を有する従来技術で既に開示されたものである。他のGAG結合不良変異体は、残基Lys24、His25、及びLys27の基礎クラスタ、並びにグリコサミノグリカン結合に関与するその他の残基、例えば、Arg41とLys43の、Ser、及び/又はAlaでの混合性置換によって作り出される。可能な組み合わせは、例えば、Lys24 Lys27、Lys24 His25、His25 Lys27、Lys24 Arg41、His25 Arg41、Lys27 Arg41、Lys24 Lys43、His25 Lys43、Lys27 Lys43、及びArg41 Lys43であり得る。
【0069】
用語「SDF-1α変異体」は、特に、低減されたGAG結合活性を有し、且つ、配列番号4によって特定されるSDF-1の突然変異体(Lys24Ala、His25Ala、Lys27Alaを持つSDF-1の3重突然変異体);追加の先頭のメチオニン残基を持ち、且つ、配列番号11によって特定される3重突然変異Lys25Ala、His26Ala、Lys28Alaを持つSDF-1α突然変異体;及び単一突然変異Lys27Cysを持ち、且つ、配列番号12によって特定される低減されたGAG結合活性のSDF-1α突然変異体を網羅する。本明細書中に規定されるSDF-1α変異体、特に、配列番号12によって特定されるSDF-1α変異体は、「PEG化」として知られている過程によりPEG(ポリエチレングリコール)で修飾されてもよい。PEG化は、当該技術分野で知られているPEG化反応のいずれかによって行われ得る(例えば、EP 0 154 316を参照のこと)。
【0070】
本明細書中に規定され、且つ、C末端アミノ酸の欠失を持つSDF-1及びSDF-1α変異体もまた、本発明に含まれる。
【0071】
C末端アミノ酸の欠失を持つSDF-1の特に好まれる形態は、成熟ヒトSDF-1αの第3〜67アミノ酸残基に相当し、且つ、配列番号17によって特定されるもの、及び追加のN末端メチオニンを持つ成熟ヒトSDF-1αの第3〜67アミノ酸残基に相当し、且つ、配列番号18によって特定されるものなどのSDF-1αの切断型である。
【0072】
用語「SDF-1活性の作動物質」は、本明細書中に使用される場合、SDF-1受容体の作動性抗体、又はSDF-1受容体(例えば、CXCR4受容体)を通じたシグナル伝達を活性化する小分子量作動物質などのSDF-1活性を刺激、又は模倣する分子に関する。
【0073】
用語「SDF-1活性の作動物質」は、また、本明細書中に使用される場合、細胞外マトリックス成分への細胞接着の促進、乏突起膠細胞系統の細胞のミエリン産生細胞への形態形成、(祖先又は前駆細胞などの)乏突起膠細胞系統の細胞の動員、増殖、分化、若しくは成熟化の促進、又はアポトーシスや細胞傷害からの乏突起膠細胞系統の細胞の保護の促進などのSDF-1介在活性を強化する作用物質を指す。SDF-1の類似した活性は、また、Schwann細胞にも当てはまる。
【0074】
本発明の好ましい態様において、SDF-1はSDF-1αである。
【0075】
本発明のさらに好ましい態様において、SDF-1はSDF-1α変異体である。
【0076】
用語「治療」及び「予防」は、本明細書中に使用される場合、神経学的疾患、並びに神経学的疾患に伴う症状、疾患、又は合併症の症状、あるいは原因の1つ以上を予防すること、抑制すること、軽減すること、改善すること、又は回復させることとして理解されるべきである。神経学的疾患を「治療」するとき、本発明による物質が疾患の発症後に与えられ、「予防」は、疾患の兆候に患者が気付く前のその物質の投与に対応する。
【0077】
用語「神経学的疾患」は、本明細書中では、「本発明の背景」において詳細に説明したものを含めた、既知の神経学的疾患又は障害、あるいは、CNS又はPNSの損傷のすべてを網羅する。
【0078】
神経学的疾患には、例えば、神経伝達に関連する疾患、頭痛、頭部外傷、CNS感染症、神経-眼科及び脳神経障害、脳葉の機能及び機能不全、運動障害、知覚麻痺及び昏睡、脱髄性疾患、精神錯乱と認知症、頭頚接合部の異常、発作性障害、脊髄障害、睡眠障害、末梢神経系の障害、脳血管障害、又は筋疾患などのCNS又はPNSの機能不全に関連した障害が含まれる。これらの障害の定義に関して、例えば、The Merck Manual for Diagnosis and Therapy、第17版、Merck Research Laboratories発行、1999年を参照のこと。
【0079】
神経炎症は、個別の神経学的疾患で起こる。多くの刺激が、ニューロン若しくは乏突起膠細胞の被害によって誘発され得るか、あるいは外傷、中枢若しくは末梢神経損傷の、又はウイルス若しくは細菌感染の影響であり得るかのいずれかである神経炎症を引き起こす。神経炎症の主な影響は、(i)星状細胞、小膠細胞による様々な炎症性ケモカインの分泌;及び(ii)星状細胞若しくは小膠細胞をさらに刺激する追加的な白血球の動員である。多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの慢性神経変性疾患では、継続的な神経炎症の存在が、それらの疾患の悪化にかかわると考えられている。神経炎症に関連している神経学的疾患は、また、神経学的炎症性疾患とも呼ばれる。
【0080】
本発明の好ましい態様において、神経学的疾患は、炎症、特に、神経炎症に関連する。
【0081】
好ましくは、本発明の神経学的疾患は、外傷性の神経傷害、脳卒中、CNS若しくはPNSの脱髄性疾患、神経障害、及び神経変性疾患から成る群から選択される。
【0082】
外傷性神経傷害は、PNS又はCNSにかかわるかもしれず、それは、先の「本発明の背景」で記載されているように、両下肢麻痺を含めた脳又は脊髄の外傷であるかもしれない。
【0083】
本発明の好ましい態様において、外傷性神経傷害には、末梢神経の外傷、又は脊髄の外傷が含まれる。
【0084】
脳卒中は、脳の低酸素血症又は虚血によって引き起こされるかもしれない。それはまた、脳血管障害又は偶発症候とも呼ばれる。脳卒中は、脳の領域への血液循環の欠如によって引き起こされる脳機能の喪失(神経欠損)を伴うかもしれない。血液循環の欠如は、脳内で形成される凝血塊(血栓)、あるいは、他の場所から脳に移動する動脈硬化プラーク又は他の物質の破片(塞栓)に起因するかもしれない。脳内での流血(出血)が、脳卒中によく似た症状を引き起こすかもしれない。脳卒中の最も一般的な原因は、アテローム性動脈硬化(脳血栓症)に続発する脳卒中であり、それ故に、本発明はまた、アテローム性動脈硬化の治療にも関する。
【0085】
末梢神経障害は、感覚喪失、筋脱力及び萎縮、減少した深部腱反射、及び血管運動症状の単独又はいずれかの組み合わせの症候群に関連するかもしれない。神経障害は、1つの神経を冒す(単発神経障害)か、離れた領域の2つ以上の神経を冒す(多発性単神経障害)か、又は同時に多くの神経を冒す(多発神経障害)かもしれない。軸索が、(例えば、糖尿病、ライム病、若しくは尿毒症において、又は毒剤により)主に冒されるか、それとも、(例えば、急性若しくは慢性の炎症性多発神経障害、白色変性症、又はギラン-バレー症候群において)髄鞘又はシュワン細胞であるかもしれない。本発明により治療されるさらなる神経障害は、例えば、銅の毒性、ダプソンの使用、ダニ咬傷、ポルフィリア、又はギラン-バレー症候群に起因するかもしれず、それらは主として運動性繊維を冒すかもしれない。その他のもの、例えば、癌の後根神経節腫、ハンセン病、AIDS、糖尿病、又は慢性ピリドキシン中毒などに起因するものは、主として背根神経節を、又は知覚線維を冒し、感覚症状を生じるかもしれない。脳神経は、また、例えば、ギラン-バレー症候群、ライム病、糖尿病、及びジフテリアなどにもかかわるかもしれない。
【0086】
アルツハイマー病は、脳組織の変化から生じる精神機能の低下にかかわる障害である。これは、脳組織の収縮、一次性変性認知症、及びびまん性脳萎縮を含むかもしれない。アルツハイマー病はまた、老人性認知症/アルツハイマー型(SDAT)とも呼ばれる。
【0087】
パーキンソン病は、震え、及び歩行、運動、及び協調の困難を含めた脳の障害である。その疾患は、筋肉の動きを制御する脳の一部への損傷に関連し、それはまた、振戦麻痺(paralysis agitans又はshaking palsy)とも呼ばれる。
【0088】
ハンチントン病は、遺伝性の、常染色体優性の神経性炎症性疾患である。遺伝的異常は、過剰な数の縦列反復CAGヌクレオチド配列から成る。CAG反復を有する他の疾患には、例えば、ケネディー病などの脊髄性筋萎縮症(SMA)、及び遺伝的命名法により脊髄小脳失調(SCAs)として知られている常染色体優性脊髄小脳失調(ADCAs)の大部分が含まれる。
【0089】
筋萎縮性側索硬化症、ALSは、脳及び脊髄における神経細胞の破壊を含めた随意筋の神経制御の進行性喪失を引き起こす障害である。筋萎縮性側索硬化症はまた、ルー・ゲーリック病とも呼ばれ、筋肉の使用及び制御の喪失にかかわる障害である。
【0090】
多発性硬化症(MS)は、再発-寛解、又は進行性の経過をとる中枢神経系(CNS)の炎症性疾患である。MSは脱髄性疾患だけではない。末梢神経系(PNS)におけるその対応物は、慢性炎症性脱髄性多発神経根障害(CIDP)である。加えて、例えば、PNSにおいてギラン-バレー症候群(GBS)、そして、CNSにおいて急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と呼ばれる炎症性脱髄性多発神経根障害などの急性の、単相性障害が存在する。さらに、神経障害には、先の「本発明の背景」で列挙されているもの、並びに手根管圧迫症候群などの異常な髄鞘形成を伴う神経障害が含まれる。外傷性の神経傷害は、脊椎骨整形合併症を伴うかもしれず、そして、それらも本発明による疾患の範囲内にある。
【0091】
それほどよく知られない神経性炎症性疾患、例えば、神経線維腫症、又は多系統萎縮症(MSA)などもまた、本発明の範囲内にある。本発明により治療されるかもしれないさらなる障害は、先の「本発明の背景」で詳細に記載されている。
【0092】
さらに好ましい態様において、神経学的疾患は、末梢神経障害であり、最も好ましくは、糖尿病性神経障害である。化学療法に関連する/誘発された神経障害もまた、本発明により好まれる。
【0093】
用語「糖尿病性神経障害」は、先の「本発明の背景」で詳細に記載されている、糖尿病性神経障害のいずれかの形態、糖尿病性神経障害に付随するか若しくはそれにより引き起こされる1つ以上の症状又は障害、あるいは、神経を冒す糖尿病の合併症に関する。糖尿病性神経障害は多発神経障害であるかもしれない。糖尿病性多発神経障害において、多くの神経が同時に冒される。糖尿病性神経障害はまた、単発神経障害であるかもしれない。例えば、局所的単発神経障害において、疾患は、例えば、眼球運動又は外転脳神経などの単独の神経を冒す。それはまた、2つ以上の神経が、離れた領域で冒されるとき、多発性単神経障害であるかもしれない。
【0094】
さらに好ましい態様において、神経学的疾患は、脱髄性疾患である。脱髄性疾患には、好ましくは、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)及び多発性硬化症(MS)のようなCNSの脱髄性症状、並びに末梢神経系(PNS)の脱髄性疾患が含まれる。後者には、慢性炎症性脱髄性多発神経根障害(CIDP)、及びギラン-バレー症候群(GBS)と呼ばれる炎症性脱髄性多発神経根障害などの急性の単相性障害などの疾患が含まれる。
【0095】
さらに好ましい態様において、脱髄性疾患は多発性硬化症である。
【0096】
本発明の特に好ましい態様において、脱髄性疾患は、一次進行型多発性硬化症である。
【0097】
本発明の他の特に好ましい態様において、脱髄性疾患は、二次進行性多発性硬化症である。より一層さらに好ましい態様において、脱髄性疾患は、慢性炎症性多発性硬化症、脱髄性多発神経症(ClDP)、及びギラン・バレー症候群(GBS)から選択される。
【0098】
本発明のさらに好ましい態様は、神経変性疾病の治療、及び/又は予防に関する。前記神経変性疾病は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及びALSから成る群から選択される。
【0099】
好ましくは、SDF-1は、以下の:
(a)配列番号1のアミノ酸を含むポリペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸を含むポリペプチド;
(c)配列番号7のアミノ酸を含むポリペプチド;
(d)シグナル配列、好ましくは、配列番号5のアミノ酸をさらに含む(a)〜(c)のポリペプチド;
(e)アミノ酸配列が、(a)〜(d)の配列の少なくとも1つに対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%の同一性を有する、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(f)高ストリンジェント条件下、(a)〜(d)のいずれかをコードする天然のDNA配列の相補鎖にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(g)アミノ酸配列のあらゆる変化が(a)〜(d)のアミノ酸配列に対して保存的なアミノ酸置換である、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(h)(a)〜(d)のいずれかの塩、あるいは、アイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、又は活性画分、
から成る群から選択されるペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質から選択される。
【0100】
活性画分又は断片は、いずれかのSDF-1アイソフォームのN末端部分若しくはC末端部分などの、いずれかのSDF-1アイソフォームのどこかの部分又はドメインを含むかもしれない。
【0101】
当業者は、例えば、CXCR4受容体への結合などのSDF-1機能に必要とされる不可欠なアミノ酸残基を含む活性ペプチドのようにSDF-1のさらに小さな部分であってもその機能を発揮するのに十分であるかもしれないことを理解する。例えば、受容体結合性は、標識したそのリガンドと標識していない試験タンパク質に、固定化した受容体を晒すことによって計測され、対照と比較した標識リガンド結合の減少がその試験タンパク質の受容体結合活性の指標となる。別のアッセイである表面プラズモン共鳴分光法では、分析すべき受容体又はタンパク質が、フロー・チャンバー内の平坦なセンサー・チップ上に固定され、予想される相互作用パートナーを含む溶液を連続流により最初のタンパク質上を通過させた後に、規定した角度にてチップと交わるように光線が向けられ、そして、反射光の共鳴角度が計測される;タンパク質-タンパク質相互作用の確立は角度の変化を引き起こす(例えば、BIACore(登録商標)、Biacore International AB)。タンパク質-タンパク質相互作用(例えば、アフィニティー・クロマトグラフィー、親和性ブロッティング、及び免疫共沈降)を分析するための、又は結合親和力(例えば、タンパク質アフィニティー・クロマトグラフィー、沈降、ゲル濾過、蛍光法、平衡溶液の固相サンプリング、及び表面プラズモン共鳴)を評価するための好適な他の技術は、Phizicky EM及びField Sによって概説された(Phizicky and Fields, 1995; Sadir et al., 2001)。
【0102】
当業者は、さらに、SDF-1の突然変異タンパク質、塩、アイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、又は活性画分が、類似した、又はさらに良好なSDF-1の生物活性を保有することが分かる。SDF-1、及びその突然変異タンパク質、アイソフォーム、融合タンパク質若しくは機能性誘導体、活性画分若しくは断片、又は塩の生物活性は、細胞系を使用したバイオアッセイにより計測されるかもしれない。
【0103】
好ましい活性画分は、完全長SDF-1の活性と等しい活性若しくはそれに比べて良好な活性を持つか、又は、例えば、より良好な安定性、低い毒性若しくは免疫原性などのさらなる利点を有するか、あるいは、それらは、量産するのがより簡単であるか、若しくは精製するのがより簡単である。当業者は、突然変異タンパク質、活性断片、及び機能性誘導体が、先に触れたように、適切なプラスミド内に対応するcDNAをクローンニングし、そして、細胞アッセイによりそれらを試験することによって作り出され得ることを理解する。
【0104】
本発明によるタンパク質は、グリコシル化されるか、若しくは非グリコシル化されるかもしれず、それらは、例えば、体液などの天然起源に由来するか、又はそれらは、好ましくは、組み換えによって作り出されるかもしれない。組み換え発現は、例えば、E.コリ(E. coli)などの原核生物発現系において、又は例えば、昆虫細胞などの真核生物、そして、好ましくは、例えば、CHO細胞若しくはHEK細胞などの哺乳動物発現系において実施されるかもしれない。さらに、本発明のタンパク質は、神経保護効果が保存される限り、メチオニン(Met)又はアミノオキシペンタン(AOP)をN末端から取り除くか、若しくは加えることによって、修飾されても、伸長されても、又は短縮されてもよい。
【0105】
本明細書中では、用語「突然変異タンパク質」は、野生型SDF-1と比べて得られた生成物の活性を著しく変えることなく、天然のSDF-1のアミノ酸残基の1つ以上が、異なったアミノ酸残基に置き換えられているか、若しくは削除されているか、又は1つ以上のアミノ酸残基がSDF-1の天然の配列に加えられている、SDF-1の類似体を指す。これらの突然変異タンパク質は、既知の合成法によって、及び/又は部位特異的突然変異誘発技術によって、あるいは、そのために好適なその他の既知の技術によって調製される。
【0106】
本発明により使用され得る、SDF-1の突然変異タンパク質、又はそれをコードする核酸には、本明細書中に提示された教示と手引きに基づいて、必要以上の実験なしに、当業者が日常的に入手し得る置換ペプチド又はポリヌクレオチドとして実質的に対応する配列の有限集合が含まれる。
【0107】
本発明による突然変異タンパク質には、中程度の若しくは高いストリンジェント条件下、SDF-1をコードするDNA又はRNAにハイブリダイズするDNA又はRNAなどの核酸によってコードされるタンパク質が含まれる。SDF-1αをコードするcDNAは、配列番号6として開示される。用語「ストリンジェント条件」は、当業者が「ストリンジェント」と通常呼ぶ、ハイブリダイゼーションとその後の洗浄条件を指す。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、前掲、Interscience、N.Y.、§§ 6.3及び6.4(1987年、1992年)、及びSambrookら(Sambrook, J. C.、Frrtsch, E. F.、及びManiatis, T.(1989年)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)を参照のこと。
【0108】
これだけに制限されることなく、ストリンジェント条件の例には、調査中のハイブリダイゼーションの算出されたTmを12〜20℃下回り、例えば、2×SSCと0.5%のSDS中で5分、2×SSCと0.1%のSDS中で15分間;0.1×SSCと0.5%のSDS中で37℃にて30〜60分間、その後、0.1×SSCと0.5%のSDS中で68℃にて30〜60分間の洗浄条件が含まれる。当業者は、ストリンジェント条件が、また、DNA配列、(10〜40塩基などの)オリゴヌクレオチド・プローブ、又は混成オリゴヌクレオチド・プローブの長さにも依存することを理解している。混成プローブが使用される場合、SSCの代わりに塩化テトラメチル・アンモニウム(TMAC)が使用されることが望ましい。Ausubel、前掲を参照のこと。
【0109】
好ましい態様において、そのような突然変異タンパク質のいずれもが、添付の配列表の配列番号1〜4の配列と少なくとも40%の同一性を有する。より好ましくは、それは、それらに対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、あるいは、最も好ましくは、少なくとも90%の同一性を有する。
【0110】
同一性は、配列を比較することによって測定される2つ以上のポリペプチド配列、又は2つ以上のポリヌクレオチド配列の間の相関を反映する。一般に、同一性は、比較される配列の全長にわたる、2つのポリヌクレオチド、又は2つのポリペプチド配列のそれぞれの厳密なヌクレオチド対ヌクレオチド、又はアミノ酸対アミノ酸の一致を表す。
【0111】
厳密な一致が存在しない配列に関して、「%同一性」が測定されるかもしれない。一般に、比較されるべき2つの配列を、配列間の最大の相関関係を生じさせるように整列させる。これは、整列の度合いを高めるためにいずれか又は両方の配列に「ギャップ」を挿入することを含むかもしれない。%同一性は、比較されるそれぞれの配列の全長にわたって測定され(いわゆる「広範囲の整列」)、それは、特に同じで若しくは非常に似通った長さの配列に好適である、あるいは、より短い、規定された長さにわたり測定されるかもしれず(いわゆる「局所的な整列」)、それは、不揃いな長さの配列に関してより好適である。
【0112】
2つ以上配列の同一性と相同性を比較するための方法は、当該技術分野で周知である。これにより、例えば、ウィスコンシン配列解析パッケージ、バージョン9.1(Devereux et al., 1984)により入手可能なプログラム、例えば、プログラムBESTFIT及びGAPが、2つのポリヌクレオチドの間の%同一性、及び2つのポリペプチド配列の間の%同一性と%相同性を測定するのに使用されるかもしれない。BESTFITは、SmithとWaterman(Smith and Waterman, 1981)の「局所的な相同性」アルゴリズムを使用し、2つの配列の間の類似性の最も高い単一領域を見つけ出す。配列間の同一性、及び/又は類似性を測定するための他のプログラム、例えば、NCBIのホームページ(www.ncbi.nlm.nih.gov)を通じてアクセス可能なBLASTファミリーのプログラム(Altschul et al., 1990; Altschul et al., 1997)、及びFASTA(Pearson, 1990; Pearson and Lipman, 1988)もまた、当該技術分野で知られている。
【0113】
本発明による突然変異タンパク質の好ましい変更は、「保存的な」置換として知られているものである。SDF-1ポリペプチドの保存的なアミノ酸置換には、その群のメンバーの間の置換がその分子の生物学的機能を維持する十分に類似した生理化学的性質を有する群の中に同義アミノ酸が含まれるかもしれない(Grantham, 1974)。特に、その挿入又は欠失がわずかな、例えば30個未満、好ましくは10個未満のアミノ酸にのみ関与し、そして、機能的な立体構造に重要なアミノ酸、例えば、システイン残基、を取り外し又は置き換えしない場合には、アミノ酸の挿入及び欠失もまた、それらの機能を変更することなく先に規定された配列においても行われるかもしれないことが明らかである。そのような欠失、及び/又は挿入によって作り出されたタンパク質及び突然変異タンパク質は、本発明の範囲内に含まれる。
【0114】
好ましくは、同義アミノ酸群は、表Iで規定されるものである。より好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIで規定されるものであり;そして、最も好ましくは、同義アミノ酸群は、表IIIで規定されるものである。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
本発明における使用のための、SDF-1の突然変異タンパク質、ポリペプチド、又はタンパク質を得るために使用され得るタンパク質のアミノ酸置換の製造に関する例には、例えば、Markらに対する米国特許番号第4,959,314号、同第4,588,585号、及び同第4,737,462号;Kothsらに対する米国特許番号第5,116,943号;Namenらに対する米国特許番号第4,965,195号;Chongらに対する米国特許番号第4,879,111号;並びにLeeらに対する米国特許番号第5,017,691号などに提示されるあらゆる既知の方法ステップ;そして、米国特許番号第4,904,584号(Shawら)に提示されているリジン置換タンパク質などが含まれる。
【0119】
用語「融合タンパク質」は、例えば、体液中で長い滞留時間を有する別のタンパク質と融合させたSDF-1、又はその突然変異タンパク質、若しくはその断片を含むポリペプチドを指す。それ故に、SDF-1は、別のタンパク質、ポリペプチド、又は同様のもの、例えば、免疫グロブリン若しくはその断片に融合されるかもしれない。
【0120】
本明細書中に使用される「機能性誘導体」は、当該技術分野で知られている手段によって、残基又はN若しくはC末端基上の側鎖として生じる官能基から調製されるかもしれないSDF-1の誘導体、並びにそれらの突然変異タンパク質及び融合タンパク質に及び、そして、それらが依然として医薬として許容される、すなわち、それらがSDF-1の活性と実質的に類似するタンパク質の活性を破壊することなく、また、それを含む組成物に毒性特性を与えない限り本発明に含まれる。
【0121】
これらの誘導体には、例えば、抗原部位をマスクし、体液中でSDF-1の滞留を延長するかもしれないポリエチレングリコール側鎖が含まれる。他の誘導体には、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニア又は1級若しくは2級アミンとの反応によるカルボキシル基のアミド、アシル部分と形成されるアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体(例えば、アルカノイル又はカルボシクリル・アロイル基)、あるいは、アシル部分と形成される遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル又はトレオニル残基のもの)のO-アシル誘導体が含まれる。
【0122】
SDF-1の「活性画分」、突然変異タンパク質、及び融合タンパク質として、本発明は、単独の、又はそれに連結している関連分子若しくは残基、例えば、糖若しくはリン酸残基、と一緒にタンパク質分子のポリペプチド鎖のあらゆる断片、又は前駆体、あるいは、それら自体によるタンパク質分子若しくは糖残基の集合体に及ぶが、上述の断片がSDF-1に実質的に類似した活性を有することを条件とする。
【0123】
用語「塩」は、本明細書中、SDF-1又はその類似体のカルボキシル基の塩、及びアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、当該技術分野で知られている手段によって形成され、そして、無機塩、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、第二鉄塩、亜鉛塩など、及び、例えば、アミンを用いて形成されたもののような有機塩基、例えば、トリエタノールアミン、アルギニン若しくはリジン、ピペリジン、プロカインなどを用いた塩が含まれるかもしれない。酸付加塩には、例えば、鉱酸、例えば、塩酸若しくは硫酸などを用いた塩、及び、有機酸、例えば、酢酸又はシュウ酸などを用いた塩が含まれる。もちろん、そのような塩のいずれもが、本発明に関連するSDF-1の生物活性、すなわち、神経学的疾患における神経保護効果を維持していなければならない。
【0124】
本発明の好ましい態様において、SDF-1は、血液脳関門(「BBB」)の通過を促進する担体分子、ペプチド、又はタンパク質に融合される。これは、CNSが疾患に関与しているそのような場合には作用部位への分子の適切なターゲッティングに役立つ。BBBを通した薬物送達のためのモダリティーは、浸透圧による手段、又は生化学的にブラジキニンなどの血管作用薬の使用のいずれかによってBBBの混乱を引き起こす。BBBをとおり抜けるための他のストラテジーは、グルコースやアミノ酸担体などの担体介在トランスポーター;インスリン又はトランスフェリンのための受容体介在トランスサイトーシス;p-糖タンパク質などの能動拡散トランスポーター;及びアンテナペディア・ホメオタンパク質の第3ヘリックス領域から得られる16merのペプチド(pAntp)であるペネトラチン及びその誘導体を含めた内在性輸送系の使用を伴うかもしれない。BBBの奥への薬物送達のためのストラテジーには、脳内インプラントがさらに含まれる。
【0125】
SDF-1の機能性誘導体は、例えば、安定性、半減期、生物学的利用能、人体による許容度、又は免疫原性などのタンパク質の性質を改良するために重合体に結合されるかもしれない。この目標を達成するために、SDF-1は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)に連結されるかもしれない。PEG化は、WO 92/13095に記載されている既知の方法によって実施されるかもしれない。例えば、SDF-1αは、グリコサミノグリカン結合に関与する残基、例えば、Lys24、His25、Lys27、Arg41、又はLys43にてPEG化されうるかもしれない。
【0126】
それ故に、本発明の好ましい態様において、SDF-1はPEG化される。
【0127】
本発明のさらに好ましい態様において、融合タンパク質には免疫グロブリン(Ig)融合が含まれる。融合は、直接的なものであるか、あるいは、長さが1〜3個のアミノ酸残基くらい短いものであり得るショート・リンカー・ペプチド、又は例えば、長さが13個のアミノ酸残基のより長いものを介したものであるかもしれない。前述のリンカーは、例えば、SDF-1配列と免疫グロブリン配列の間に導入される、例えば、配列E-F-M(Glu-Phe-Met)によって表されるトリペプチドであるか、又は、例えば、Glu-Phe-Gly-Ala-Gly-Leu-Val-Leu-Gly-Gly-Gln-Phe-Metを含む13個のアミノ酸のリンカー配列であるかもしれない。得られた融合タンパク質には、例えば、体液中の長い滞留時間(半減期)、又は増強された比活性、増強された発現レベルなどの改良された特性がある。Ig融合はまた、融合タンパク質の精製を容易にするかもしれない。
【0128】
さらに他の好ましい態様において、SDF-1は、Ig分子の定常領域に融合される。好ましくは、それは、例えば、ヒトIgG1のCH2及びCH3ドメインのような重鎖領域に融合される。Ig分子の他のアイソフォーム、例えば、アイソフォームIgG2若しくはIgG4、又は、例えば、IgMのような他のIgクラスなどもまた、本発明による融合タンパク質の製造に好適である。融合タンパク質は、単量体、又はヘテロ若しくはホモ多量体である多量体であるかもしれない。融合タンパク質の免疫グロブリン部分は、補体結合若しくは補体カスケードを活性化しないか、又はFc受容体に結合しないようにさらに修飾されるかもしれない。
【0129】
さらなるSDF-1の融合タンパク質は、二量体、三量体などの形成を許容する他のタンパク質から単離されたドメインを融合することによって調製されるかもしれない。本発明のポリペプチドの多量体化を許容するタンパク質配列の例は、hCG(WO 97/30161)、X型コラーゲン(WO 04/33486)、C4BP(WO 04/20639)、Erbタンパク質(WO 98/02540)、又はコイルドコイル・ペプチド(WO 01/00814)などのタンパク質から単離されたドメインである。
【0130】
本発明は、さらに、同時の、連続した、又は別々の使用に適した神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのSDF-1と免疫抑制剤の組み合わせ物の使用に関する。免疫抑制剤は、ステロイド、メトトレキサート、シクロホスファミド、(CAMPATH-1などの)抗白血球抗体などであるかもしれない。
【0131】
本発明は、さらに、同時の、連続した、又は別々の使用に適した神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のSDF-1と、インターフェロン、及び/又はオステオポンチン、及び/又はクラステリンの組み合わせ物の使用に関する。
【0132】
用語「インターフェロン」は、当該特許出願において使用される場合には、例えば、先の「本発明の背景」の項で触れたあらゆる種類のIFNsを含め、文献中でそういうものとして規定されているあらゆる分子を含むものとする。インターフェロンは、好ましくは、ヒトのものであるかもしれないが、生物活性がヒト・インターフェロンと類似しており、且つ、分子がヒトにおいて免疫原性でない限り、他の種に由来するかもしれない。
【0133】
具体的には、あらゆる種類のIFN-α、IFN-β、及びIFN-γが前記の規定に含まれる。IFN-βが、本発明による好ましいIFNである。
【0134】
用語「インターフェロンβ(IFN-β)」には、本発明に使用される場合、生体液からの分離によって得られるか、又は原核生物若しくは真核生物の宿主細胞からDNA組み換え技術によって得られる、ヒト線維芽細胞インターフェロン、並びにその塩、機能性誘導体、変異体、類似体、及び断片が含まれるものとする。
【0135】
特に、持続的であるように誘導体化されるか、又は組み合わせられたタンパク質が重要である。例えば、体内で持続的な活性を示すように先に触れたようなPEG化バージョン、又は遺伝子を組み換えたタンパク質が、本発明により使用され得る。
【0136】
用語「誘導体」には、あるアミノ酸を、20種類の通常存在する天然アミノ酸から成る他のものに変更しない誘導体だけが含まれるものとする。
【0137】
インターフェロンもまた、タンパク質の安定性を改良するために重合体に結合されるかもしれない。インターフェロンβとポリオール・ポリエチレングリコール(PEG)の間の複合体は、例えば、WO 99/55377に記載されている。
【0138】
本発明の他の好ましい態様において、インターフェロンは、インターフェロンβ(IFN-β)であり、そして、より好ましくは、IFN-β1αである。
【0139】
SDF-1は、好ましくは、インターフェロンと共に、同時に、連続して、又は別々に使用される。
【0140】
本発明の好ましい態様において、SDF-1は、約0.001〜1mg/kg体重、又は約0.01〜10mg/kg体重、又は9、8、7、6、5、4、3、約2、若しくは1mg/kg体重、又は約0.1〜1mg/kg体重の量で使用される。
【0141】
本発明は、さらに、神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための核酸分子の使用であって、上記核酸分子が、配列番号6の核酸配列、又は以下の:
(a)配列番号1のアミノ酸を含むポリペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸を含むポリペプチド;
(c)配列番号7のアミノ酸を含むポリペプチド;
(d)シグナル配列、好ましくは、配列番号5のアミノ酸をさらに含む(a)〜(c)のポリペプチド;
(e)アミノ酸配列が、(a)〜(d)の配列の少なくとも1つに対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%の同一性を有する、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(f)高ストリンジェント条件下、(a)〜(d)のいずれかをコードする天然のDNA配列の相補鎖にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(g)アミノ酸配列のあらゆる変化が(a)〜(d)のアミノ酸配列に対して保存的なアミノ酸置換である、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(h)(a)〜(d)のいずれかの塩、あるいは、アイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、又は活性画分、
から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸配列を含む前記使用に関する。
【0142】
核酸は、例えば、筋肉内注射によって、例えば、裸の核酸分子として投与されるかもしれない。
【0143】
それは、さらに、ヒトの体内において、好ましくは、適切な細胞又は組織内において、核酸分子によってコードされた遺伝子の発現に有用である、ウイルス配列などのベクター配列を含むかもしれない。
【0144】
それ故に、好ましい態様において、核酸分子は、さらに、発現ベクター配列を含む。発現ベクター配列は、当該技術分野で周知であり、それらには、着目の遺伝子の発現に役立つさらなる要素が含まれる。それらには、プロモーターやエンハンサ配列などの調節配列、選択マーカー配列、複製開始点などが含まれるかもしれない。これにより、遺伝子治療アプローチが、疾患を治療又は予防するために使用される。有利なことには、SDF-1の発現は、その後、その場で行われる。
【0145】
本発明の好ましい態様において、発現ベクターは、レンチウイルス由来のベクターである。レンチウイルス・ベクターは、特に、CNS内の遺伝子輸送において非常に効果的であることが示されている。アデノウイルス由来のベクターなどの他の十分に確立されたウイルス・ベクターもまた、本発明により使用されるかもしれない。
【0146】
標的ベクターが、脳血液関門を越えるSDF-1の通過を促すのに使用されるかもしれない。そのようなベクターは、例えば、トランスフェリン受容器又は他の内皮輸送機構を標的とするかもしれない。
本発明の好ましい態様において、発現ベクターは、筋肉内注射によって投与されるかもしれない。
【0147】
SDF-1の発現を通常停止しているか、又は十分でない量のSDF-1しか発現していない細胞における、SDF-1の内因性産生を誘発、及び/又は促進するためのベクターの使用もまた、本発明により想定される。前記ベクターは、SDF-1を発現することを所望される細胞において機能的な調節配列を含むかもしれない。そのような調節配列は、例えば、プロモーター又はエンハンサであるかもしれない。そして、前記調節配列は、相同組み換えによってゲノムの適切な遺伝子座内に導入され、これにより、その発現が誘発又は促進されることが求められる遺伝子と調節配列を作動できるように連結するかもしれない。その技術は、通常、「内因性遺伝子活性化」(EGA)と呼ばれ、そして、それは、例えば、WO 91/09955に記載されている。
【0148】
本発明は、さらに、神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、SDF-1を産生するように遺伝子を組み換えた細胞の使用に関する。
【0149】
本発明は、さらに、神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための、SDF-1を産生するように遺伝子を組み換えた細胞に関する。これにより、細胞療法アプローチが、人体の適切な部分に薬物をデリバリーするために使用されるかもしれない。
【0150】
本発明は、さらに、治療的有効量のSDF-1と、治療的有効量のインターフェロン、及び/又はオステオポンチン、及び/又はクラスタリン、必要に応じて、さらに、治療的有効量の免疫抑制剤を含む、特に神経学的疾患の予防、及び/又は治療に有用である医薬組成物に関する。
【0151】
「医薬として許容される担体」の定義は、有効成分の生物活性の有効性を妨げず、且つ、それが投与される宿主にとって毒性でないあらゆる担体を網羅することを意味する。例えば、非経口投与のために、活性タンパク質は、生理的食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンゲル液などの溶媒中、注射用の単位投与形態で処方されるかもしれない。
【0152】
本発明による医薬組成物の有効成分は、様々な方法で個体に投与され得る。投与経路には、皮内、(例えば、持続放出製剤による)経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、経口、硬膜外、局所、くも膜下腔内、直腸、又は鼻腔内経路が含まれる。その他の治療として有効な投与経路、例えば、上皮若しくは内皮組織を通じた吸収、又は生体内で発現され、そして分泌されるべき活性物質をもたらす、活性物質をコードするDNA分子が(例えば、ベクターを介して)患者に投与される遺伝子治療、が使用されてもよい。
【0153】
加えて、本発明によるタンパク質は、例えば、医薬として許容される界面活性剤、賦形剤、担体、希釈剤、及び溶媒などの生理学的な活性物質の他の成分と一緒に投与されてもよい。
【0154】
非経口(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)投与のために、活性タンパク質は、溶液、懸濁液、乳濁液、又は医薬として許容される非経口的溶媒(例えば、水、生理的食塩水、デキストロース溶液)、及び等張性(例えば、マンニトール)若しくは化学的安定性(例えば、保存料と緩衝剤)を維持する添加物を伴った凍結乾燥粉末として処方されてもよい。製剤は、一般的に使用される技術によって滅菌される。
【0155】
本発明による活性タンパク質の生物学的利用能は、また、例えば、PCT特許出願WO 92/13095に記載されているように、ポリエチレングリコールに分子を連結して、人体内でのその分子の半減期を延ばす結合手順を使用することによって改善されてもよい。
【0156】
治療的有効量の活性タンパク質は、タンパク質型、タンパク質の親和性、拮抗薬によって示されるいずれかの残留細胞毒性活性、投与経路、(無毒レベルの内因性SDF-1活性を維持することの望ましさを含めた)患者の臨床症状を含めた多変数関数になる。
【0157】
「治療的有効量」は、投与したときに、SDF-1が神経学的疾患に対して有益な効果を発揮するような量である。個人に、単回若しくは複数回投与として、投与される投薬量は、SDF-1の薬物動力学特性、投与経路、患者の状態及び特徴(性別、年齢、体重、健康状態、体格)、症状の程度、併用治療、治療の頻度、並びに所望される効果を含めた様々な要因によって変化する。
【0158】
前述のように、SDF-1は、好ましくは、約0.001〜1mg/kg体重、又は約0.01〜10mg/kg体重、又は約9、8、7、6、5、4、3、2、又は1mg/kg体重、又は約0.1〜1mg/kg体重の量で使用され得る。
【0159】
本発明により好まれる投与経路は、皮下経路による投与である。筋肉内投与が、本発明によりさらに好まれる。
【0160】
さらに好ましい態様において、SDF-1は、毎日又は一日おきに投与される。
【0161】
日用量は、分割された投与量で、又は所望の成果を得るために有効な徐放形態で通常与えられる。2回目又は次の投与は、最初の又は先に個体に投与された用量と比べて同じであるか、より少ないか、又はより多い投薬量で実施されてもよい。
【0162】
本発明によると、SDF-1は、治療的有効量で、他の治療薬より前に、同時に、又は連続して(例えば、多剤レジメン)、具体的にはインターフェロンと共に、個体に予防的、又は治療的に投与されることができる。他の治療薬と同時に投与される活性物質は、同じ又は別個の組成物で投与されてもよい。
【0163】
本発明は、さらに、必要に応じて医薬として許容される担体と一緒に、有効量のSDF-1、又は有効量のSDF-1活性の作動物質を、それを必要とする患者に投与することを含む、神経学的疾患の治療方法に関する。
【0164】
必要に応じて医薬として許容される担体と一緒に、有効量のSDF-1、又は有効量のSDF-1活性の作動物質、及びインターフェロンを、それを必要とする患者に投与することを含む神経学的疾患の治療方法もまた、本発明の範囲内にある。
【0165】
必要に応じて医薬として許容される担体と一緒に、有効量のSDF-1、又は有効量のSDF-1活性の作動物質、及びオステオポンチンを、それを必要とする患者に投与することを含む神経学的疾患の治療方法もまた、本発明の範囲内にある。
【0166】
必要に応じて医薬として許容される担体と一緒に、有効量のSDF-1、又は有効量のSDF-1活性の作動物質、及びクラステリンを、それを必要とする患者に投与することを含む神経学的疾患の治療方法もまた、本発明の範囲内にある。
【0167】
学術雑誌の記事若しくは抄録、公開若しくは未公開の米国若しくは外国特許出願、交付された米国若しくは外国特許、又はその他の参考文献を含めた本明細書中に引用されたすべての参考文献は、引用された参考文献中に提示されたすべてのデータ、表、図面、及び文章を含め、完全に本明細書中に援用される。加えて、本明細書中に引用された参考文献の中に引用された参考文献の全内容もまた、完全に援用される。
【0168】
既知の方法ステップ、従来の方法ステップ、既知の方法、又は従来法を参照することは、本発明のいずれかの側面、説明、又は態様が、関連技術により開示、教示、又は示唆されると認めるものでは決してない。
【0169】
先の具体的な態様の説明は、他の者が(本明細書中に引用された参考文献の内容を含めた)当該技術分野の技能の範囲内の知識を応用することによって、必要以上の実験なしに、本発明の全般的な概念から逸脱することなく、そのような具体的な態様を容易に修飾する、及び/又は様々な適用に適合させることができるほどに、本発明の全般的な本質を十分に明らかにしている。それ故に、そのような適応及び修飾は、本明細書中に提示された教示及び手引きに基づく、開示された態様の同等物の趣旨の範囲内にあるものとする。本明細書中の言い回し又は専門用語は、説明のためのものであって、制限するためのものではないことが理解されるべきであり、本明細書中の専門用語又は言い回しは、当業者の知識と組み合わせて、本明細書中に提示された教示及び手引きを踏まえて当業者によって解釈されるべきである。
【0170】
これまで本発明について説明してきたので、実例として提供され、しかも、本発明を制限しない以下の実施例を参照することによって、より容易に本発明が理解されるだろう。
【実施例】
【0171】
ヒト組み換え型ケモカインであるSDF-1αとSDF-1α変異体を、インハウス(in house)で製造した。コード配列(SDF-1αについては配列番号1及びSDF-1α変異体については配列番号4)を、pET20b+ベクターのNde1/BamHIサイト内にクローンニングし、そして、E.コリ(E. coli)細胞により発現させた。
【0172】
実施例1:LPS処理した混合皮質培養におけるSDF-1とSDF-1変異体の活性
序論
免疫学的に特権を有する部位であると見られているが、CNSは、多くの神経学的疾患に影響を与えるかもしれない顕著な炎症反応を示す可能性がある。小膠細胞は、CNS炎症の開始及び持続に特に重要であるようである。これらの細胞は、正常なCNSにおいて休止形態で存在しているが、感染又はT細胞による刺激後に(活性な食作用、抗原提示と炎症性サイトカインの産生に必要なタンパク質の上方制御を含めた)マクロファージのような特性を獲得する。
【0173】
試験管内及び生体内におけるこの炎症環境を、グラム陰性菌の外膜の成分であるリポポリサッカライド(LPS)によって模倣することができる。LPSは、Toll受容体4を介した食細胞による健常者の炎症反応につながる先天性認識の最もよく特徴付けられた例である。LPSは、純粋培養、共培養、又は混合培養において小膠細胞を活性化するために当該技術分野において広く使用された。低レベルのLPSは、細胞死を誘発することなくサイトカイン放出を誘発し、より高い用量では、試験管内において(Lehnardt et al., 2002; Sadir et al., 2001)、及び生体内において(Lehnardt et al., 2003; Sadir et al., 2001)、希突起膠細胞又はニューロン変性を誘発する。
【0174】
材料と方法
初代混合皮質培養の調製
初代細胞の培養を、性交後16日目にNMRIマウスから単離した胎児からの脳組織を使用して記載されたとおり(Lubetzki et al., 1993)実施した。大脳半球を胎児脳から解剖し、トリプシン消化により分離し、そして、単細胞浮遊液をBioCoat(登録商標)ポリ-L-リジン・コート96ウェル・プレート(356516、Becton Dickinson)上に1ウェルあたり50μlの髄鞘形成培地中、5×104細胞にて播種した。前記髄鞘形成培地は、1%のFCS、1%のペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Seromed)、及び10ng/mlの組み換え血小板由来成長因子AA(PDGH-AA、R&D Systems)を補ったBottenstein-Sato培地(Bottenstein and Sato, 1979; Sadir et al., 2001)から成る。
【0175】
LPSでの初代混合皮質培養の処理:アッセイの準備
LPSで刺激された初代混合皮質培養からのサイトカイン放出の準備のために、培養物を、37℃、10%のCO2にて14日間培養し、その後、逓増的な濃度のLPS(0、0.5、1、2.5、5ng/ml)にて48時間刺激した。
【0176】
48時間のLPS刺激の後に、80μlの上清を回収し、そして、以下の:
− CBAマウス炎症キット(BD Biosciences 552364)SDF-1により分析されるサイトカイン放出(TNF-αとIL-6)、
− インハウスで準備し、そして、本明細書中で以下に記載したサンドイッチELISA法を使用したSDF-1α、
− MTSアッセイ(Promega G5421;細胞密度と相関があることが示された不溶性ホルマザン塩の形成を通じてミトコンドリア活性を計測する非放射性細胞増殖アッセイ)を使用して評価される細胞生存率、
の内容分析の前に−80℃にて冷凍した。
【0177】
SDF-1αのELISA
混合皮質培養におけるSDF-1αレベルの定量のためのサンドイッチELISAを、インハウスで準備した。コーティングのために、100μl/ウェルのモノクローナル抗マウスSDF-1(1:500 R&D Systems Inc、Minneapolis, USA)を使用し、100μl/ウェルのビオチン化ポリクローナル抗マウスIgG(1:400 R&D Systems Inc、Minneapolis, USA)を二次抗体として使用し、そして、100μl/ウェルのエクストラビジン(extravidin)結合西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(1:5000 Sigma、St. Louis, MO, USA)を使用した。組み換えマウスSDF-1(2000〜10ng/ml R&D Systems Inc.、Minneapolis, USA)を、検量線を得るために使用した。視覚化のために、100μl/ウェルの基質試薬パックである安定化過酸化水素とテトラメチルベンジジン(R&D Systems Inc.、Minneapolis, USA)混合物を使用した。吸光度を、450nmにてフルオロプレート・リーダー(Labsystems Multiskan EX)を使用して計測した。
【0178】
LPS刺激した培養物におけるサイトカイン発現に対するSDF-1α及びSDF-1α変異体の効果
LPS刺激した培養物に対する(配列番号4で規定される)SDF-1α及びSDF-1α変異体の効果を試験するために、細胞を2週間増殖させた。14日目に、細胞を、25μlの培地中、逓増的な濃度(0.001、0.1、及び10ng/ml)の対応するタンパク質と共に37℃、10%のCO2にて3時間プレインキューベートした。次に、LPSを、25μlの培地中に5ng/mlの濃度にて細胞に補って、100μlの終量を得、そして、48時間インキューベートする。上清を、16日目に回収し、そして、TNF-αとIL-6(活性化された小膠細胞によって放出される主要なサイトカイン)のレベルをR&D systemsから購入した特異的ELISA(DuoSetマウスTNF-α ELISA DY410、マウスIL-6 ELISA DY406)により計測した。
【0179】
活性化した小膠細胞からサイトカイン放出を抑制することが示された2種類の対照分子であるデキサメサゾンとマウスIL-10を使用した。
【0180】
データ分析
データの網羅的解析は、一元配置ANOVAを使用して実施した。ダネット検定をさらに使用し、そして、データを「無処理の細胞」と比較した。有意水準を、a:p<0.001;b又は**:p<0.01;c又は*:p<0.05;d:p<0.1に設定した。結果を、平均値±平均値の標準誤差(s.e.m.)と表した。
【0181】
結果
アッセイの準備
TNF-α、IL-6分泌は、2.5及び5ng/mlにてLPSによって誘発され、そして、両用量は、複合培養物において毒性でない。加えて、様々な濃度のLPS(0、0.5、1、2.5、5ng/ml)が、内因性のSDF-1αレベルに影響を及ぼさなかった(結果未掲載)。
【0182】
SDF-1αとSDF-1α変異体
結果は、無処理の細胞と比べて、10ng/mlのIL-10とデキサメサゾン(25pM)がTNF-αとIL-6を下方調節することを示した。SDF-1αとSDF-1α変異体は共に、無処理の細胞と比べて、そして、10ng/mlの最良の濃度と比べて、LPSでの刺激後の混合皮質培養におけるTNF-αとIL-6分泌のレベルを有意に減少させた(図1A及び1B)。
【0183】
結論
混合皮質培養は、星状細胞、小膠細胞、ニューロン、及び希突起膠細胞を含めたいくつかの神経上皮細胞型を含む複合系を構成する。SDF-1αの非GAG結合突然変異体であるSDF-1-α変異体は、GAG突然変異体がその受容体であるCXCR4へのSDF-1α結合に影響しないことを示すSDF-1αと同じような様式でTNF-αとIL-6を減少させた。
【0184】
LPS処理した混合皮質培養においてSDF-1αとSDF-1α変異体で見られるサイトカインの阻害は、小膠細胞に対するSDF-1の直接的な作用によるものであるか、CXCR4受容体を発現する星状細胞又はニューロンに対する間接的な効果によるものであるかもしれない。
【0185】
臨床的経過によると、MSは、異なるパターンの疾患活動性によりMS患者を階層化するいくつかのカテゴリに分類され得る。稀な再発のみがあり、それに続いて、それらの疾患の完全な回復がある患者は、良性MSに罹った考えられる。MSの最も一般的な形態である寛解-再発MS(RRMS)は、MS患者の85〜90%に見られ、そして、反復性の再発とそれに続く後遺欠陥を伴う回復相を特徴とする。発作は、急性炎症を引き起こすCNS内へのミエリン-応答性T細胞の通行によって引き起こされそうである。時間が経つにつれて、再発からの回復の程度は低下し、そして、ベースライン神経性廃疾は高まる。結局、約40%のRRMS患者には、発作はすでにないが、二次進行型MS(SPMS)として知られている慢性CNS炎症に関連する進行型神経変性の二次障害が発現する(Confavreux et al., 2000)。前記疾患のこの二次進行型への発展は、顕著に少ない活性な病巣と、脳実質の容量の減少に関連する。早期RRMSが免疫抑制に感受性である一方で、免疫療法に対する応答性は、SPMSにおいて低下し、そして、遅発型においては消失しさえするかもしれない。そのため、RRMSとSPMSが、急性炎症性事象が神経変性過程の二次誘発を早い段階でもたらす、2つの疾患に比べて連続的なもの(continuum)であることが仮定できた。
【0186】
MSの一次進行型(PPMS)は、発症からの急性発作の不存在を特徴とし、代わりに、ゆるやかな臨床的な衰弱を伴う。臨床的に、前記疾患のこの型は、あらゆる形態の免疫療法に対する反応の欠如に関連する。しかしながら、一次進行型多発性硬化症の病理生物学に関して少ししか知られておらず、死後研究は、神経変性がこれらの患者における炎症の全面にわたって支配的であることを示唆している。興味深いことに、灰白質損傷は、障害のその後の悪化の最も強い擬似臨床的(paraclinical)予測因子であることによって、一次進行型MSの発展を予測する(Rovaris 2006)。灰白質内の小膠細胞活性化は、促進されたニューロンの損失と大脳萎縮の振興の原因となるかもしれない。そのため、SDF-1αとSDF-1変異体は、小膠細胞の活性化とニューロン生存を調節するそれらの可能性のため、一次進行型MSの治療における可能性を持っているかもしれない。ニューロンの欠損に通じる病態生理学的作用機序のいくつかが、一次、及び二次MS形態において重複しているかもしれない。
【0187】
実施例2:腹膜細胞動員の生体内モデルにおける白血球動員に対するSDF-1変異体の効果
ケモカインの主要な役割は、炎症反応及び免疫学的監視中の特定の白血球集団の遊走を制御することである。ケモカインは、7回膜貫通Gタンパク質結合受容体に結合することによってそれらの生物学的効果を発揮する。それらは、また、ケモカインの局所濃度を高め、それらのオリゴマー化を促進し、そして、受容体へのそれらの提示を容易にする可溶性グリコサミノグリカン(GAG)、並びに細胞表面上のGAGの両方にも結合する。最近、GAGとのケモカイン相互作用が生体内におけるそれらの走化性機能に必要であることが実証された。
【0188】
材料と方法
8〜12週齢の、雌Balb/Cマウス(Janvier, France)に、200μlのNaCl(0.9%、LPS不含)、又はケモカイン4μg(200μlのNaCl(0.9%、LPS不含)中に希釈したWT SDF-1α、若しくは配列番号4によるSDF-1α変異体)を腹腔内(i.p.)に注射した。wt又は突然変異体SDF-1αの注射後4に、マウスをCO2窒息によって屠殺し、腹腔を3×5mlの氷冷PBSで洗浄し、そして、全洗浄液を個々のマウスについてプールした。回収された全細胞を、血球計算器(Neubauer, Germany)によってカウントした。
【0189】
結果
腹腔内にSDF-1αを注射したものは白血球を動員する。SDF-1α変異体は白血球を動員せず、生体内のGAG結合活性がSDF-1α変異体における突然変異によって失われていることを示した(図2を参照のこと)。
【0190】
結論
SDF-1α変異体(SDF-1のGAG結合不全変異体)は、生体内における白血球動員活性を示さない。
【0191】
実施例3:EAE脊髄(慢性)におけるSDF-1αの定量
序論
SDF-1α発現を、慢性相にてMOGペプチドによって誘発したEAEに冒されたマウスから解剖した脊髄において定量した。実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルは、マウス慢性の脱髄性モデルであり、そして、多発性硬化症(MS)の確立された動物モデルである。マウスにおけるEAEの誘発のために使用した方法は、Sahrbacherら(Sahrbacher et al., 1998)によって刊行されたプロトコールから適合させた。
【0192】
材料と方法
脊髄のサンプリング
発病、すなわち、臨床的兆候としての尾部麻痺症の存在から4週間後にEAEに冒されたマウスから脊髄を解剖した。マウスに冷PBSを潅流し、そして、脊髄をプロテアーゼ・インヒビター・カクテル(Roche Molecular Biochemicals、1836170、10mlのバッファーあたり1錠)を含む三重界面活性剤バッファー(50mMのTris、pH8.0、150mMのNaCl、0.02%のNaN3、0.1%のSDS、1%のNonidet P-40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム)中に切り出した。100μlのバッファーを、得られた組織1mgあたりに使用した。組織サンプルを、均質化処理による調製とそれに続く分析の前まで−20℃にてプラスチック製のエッペンドルフ・チューブ内に保存した。
【0193】
脊髄のSDF-1α含量の分析
脊髄を、解剖し、そして、ポリトロン(polytron)を使用して三重界面活性剤バッファー中で均質化した。サンプル中のタンパク質レベルをBCA Protein Content Assay(Pierce Biotechnology, Rockford IL61105, USA)により定量し、その後、先の実施例1の材料と方法の項に記載のELISAを使用したSDF-1含量分析により定量した。
【0194】
結果
図3は、EAEの慢性相におけるEAE動物の脊髄組織においてSDF-1αの上方制御を示している。
【0195】
結論
慢性のMOG EAE相から抽出したEAE脊髄におけるSDF-1αタンパク質の上方制御は、炎症性細胞動員以外の神経炎症におけるSDF-1αの役割を示唆している。
【0196】
実施例4:坐骨神経挫滅によって引き起こした神経障害に対するSDF-1αの保護効果
序論
当該研究を、異なる用量のSDF-1αで処理したマウスにおける神経再生と再ミエリン化を評価するために実施した。ニューロンと軸索(知覚ニューロンと運動ニューロン)の生存と再生、又は髄鞘形成若しくはマクロファージ炎症に対するSDF-1αの正の効果は、運動機能の回復につながるかもしれない。再生は、電気生理学的記録によって評価され得る感覚運動機能の回復により計測される。
【0197】
材料と方法
動物
38週齢の雌C57bl/6 RJマウス(Elevage Janvier、Le Genest-St-Isle, France)を使用した。それらを、以下の6群(n=6):
(a)神経挫滅/ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA);
(b)神経挫滅/SDF-1α(3μg/kg);
(c)神経挫滅/SDF-1α(10μg/kg);
(d)神経挫滅/SDF-1α(30μg/kg);
(e)神経挫滅/SDF-1α(100μg/kg);
(f)神経挫滅/IL-6(30μg/kg)、
に分けた。
【0198】
前記動物を、群ごとに飼育し(1ケージあたり6匹)、そして、好きなときに食物と水が得られる状態で、制御された温度(21〜22℃)と逆さまの明暗サイクル(12h/12h)を有する部屋で維持した。すべての実験を、施設ガイドラインに従って実施した。
【0199】
坐骨神経の病巣
動物を、3%のIsofluran(登録商標)(Baxter)の吸入によって麻酔した。右坐骨神経を、大腿中央部くらいの所で外科的に晒し、そして、坐骨神経の3分岐の近位5mmにて挫滅した。神経を、各挫滅の間に90度回転する止血用鉗子(1.5mm幅;Koenig;Strasbourg;France)を用いて30秒間で2回、挫滅した。
【0200】
実験と薬理学的処理の計画
筋電図(EMG)試験を、外科手術日の前に1回、そして、手術後3週間に毎週実施した。
【0201】
神経挫滅手術の日を、dpl0(dpl=傷害後の日数)とみなした。挫滅後4日間は試験を実施しなかった。
【0202】
神経傷害の日から研究終了まで、SDF-1α、IL-6、又はビヒクルを、1週間あたり5日間、皮下注射(s.c.)経路によって毎日投与した。
【0203】
電気生理学的記録
電気生理学的記録を、Neuromatic 2000M筋電計(EMG)(Dantec、Les Ulis, France)を使用して実施した。マウスを、3%のIsofluran(登録商標)(Baxter)の吸入によって麻酔した。加温した手術台(Minerve、Esternay, France)を使用して、標準体温を維持した。
【0204】
複合筋活動電位(CMAP)を、過最大強度(12.8mA)による坐骨神経の単回0.2ms刺激後に腓腹筋において計測した。作動電位の振幅(mv)と潜時(ms)を、手術した脚で計測した。計測値を、ビヒクル処理動物(ベースライン)の反対側の(挫滅されていない)脚に対しても出した。振幅は、活性な運動単位の数を示す一方で、遠位潜時は、ある程度髄鞘形成に依存した、運動神経伝導と神経筋伝達速度を間接的に反映する。
【0205】
データ分析
データの網羅的解析を、一元配置ANOVAを使用して実施した。ダネット検定を、さらに使用し、そして、データを「ビヒクル」対照に比較した。有意水準を、a:p<0.001;b又は**:p<0.01;c又は*:p<0.05;d:p<0.1に設定した。結果を、平均値±平均値の標準誤差(s.e.m.)として表した。
【0206】
電気生理学的測定
複合筋活動電位の振幅(図4.A):
研究を通じてCMAP振幅の著しい変化は、ビヒクル処理動物(ベースライン)の反対側の(挫滅されていない)脚について観察されなかった。対照的に、坐骨神経の挫滅は、それぞれのベースライン濃度と比べたときに、dpl7とdpl15にて約80%のビヒクル投与群における減少を有するCMAP振幅の劇的な減少を引き起こした。マウスを30μg/kg若しくはμ/kgにてSDF-1αで、又は30μ/kgにてIL-6で処理したとき、無処理マウスのレベルと比較して、それらはCMAP振幅の増大(約1.5倍)を実証し、そして、この効果は15dplと22dplにて有意であった。
【0207】
複合筋活動電位の潜時(図4.B):
研究を通して、ビヒクル処理動物の反対側の(挫滅されていない)脚のCMAP潜時の悪化は全くなかった。対照的に、挫滅側の筋肉はベースラインに比べてより長いCMAP潜時を示した。SDF-1αで処理したマウスでは、CMAP潜時値は、ビヒクル処理マウスのものと比較した場合に有意に短縮された。7日目において、この効果は、30μg/kg及び100μg/kgのSDF-1αでの処理後には観察できたが、30μg/kgのIL-6では観察できなかった。dpl15及び22において、有意な効果は、(3又は10μg/kgでは得られなかったが)30μg/kg及び100μg/kgのSDF-1αではまだ得られた。SDF-1α(30μg/kg)は、IL-6(30μg/kg)に比べてより強力である。
【0208】
結論
神経挫滅モデルは、外傷性神経傷害、及び末梢神経障害の非常に目覚しいモデルである。神経挫滅直後、大きい直径を持った繊維の大部分は、機械的傷害のため失われ、CMAP振幅の激しい減少を招いている。CMAP潜時は、すぐには影響を受けなかったが、二次的な免疫媒介性変性(マクロファージ、顆粒球)による細径繊維の追加的な変性に15日間に増大を示している。CMAP持続時間は、dpl7に高まり、そして、dpl15にピークとなった。
【0209】
SDF-1αは、末梢神経挫滅後に機能(CMAP潜時)を回復させる。それは、また、計測したすべてのパラメーターにおいてもマウスの神経挫滅モデルにおける保護効果を示した。要約すれば、SDF-1αは、この研究で使用される参照分子であるIL-6と同じくらい有効であった。
【0210】
実施例5:坐骨神経挫滅によって誘発した神経障害に対するSDF-1α変異体の保護効果
配列番号4で規定されるSDF-1α変異体を試験するために、先の実施例4に記載の坐骨神経挫滅モデルを実施し、そして、そのマウスを、以下の2群(n=6):
(a)神経挫滅手術/ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA);
(b)神経挫滅/30μg/kgのSDF-1α変異体のs.c、
に分けた。
【0211】
ビヒクル処理動物の反対側の脚において出された測定値を、ベースライン値とみなした。
【0212】
この実施例で使用したSDF-1変異体、及び配列番号4によってコードされるものは、追加N末端メチオニンを伴って発現された。CMAP持続時間(復極と再分極セッションに必要とされる時間)もまた、記録した。
【0213】
結果
電気生理学的測定
複合筋活動電位の振幅(図5.A):
マウスをSDF-1α変異体で処理したとき、CMAP振幅の有意な増大は、22dplにて実証された。
【0214】
複合筋活動電位の潜時(図5.B):
SDF-1α変異体で処理したマウスでは、CMAP潜時値は、特に7dplにおいて、ビヒクル処理マウスの値に比べて、有意に減少していた。正の効果は、22dplでもまだ得られた。
【0215】
複合筋活動電位の持続時間(図5.C):
SDF-1α変異体で処理したマウスでは、7dplと22dplにおいて、CMAP持続時間の値がビヒクル処理マウスと比較して減少した。
【0216】
結論
SDF-1α変異体が、末梢神経挫滅後に機能(CMAP潜時)を回復させることが示された。それは、また、計測したすべてのパラメーターにおいてもマウスの神経挫滅モデルにおける保護効果を示した。
【0217】
実施例6:坐骨神経挫滅によって誘発した神経障害に対するMet-SDF-1αの保護効果
先の実施例4に記載の坐骨神経挫滅モデルを、(配列番号7で規定される)Met-SDF-1αを試験するために実施し、そして、そのマウスを、以下の2つの群(n=6):
(a)神経挫滅手術/ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA);
(b)神経挫滅/100、30、及び10μg/kgのMet-SDF-1α変異体のs.c、
に分けた。
【0218】
ビヒクル処理動物の反対側の脚の示した測定値を、ベースライン値とみなした。
【0219】
CMAP持続時間(復極と再分極セッションに必要な時間)もまた記録した。
【0220】
結果
電気生理学的測定
複合筋活動電位の潜時(図6):
Met-SDF-1αで処理したマウスでは、CMAP潜時値は、ビヒクル処理マウスの値と比較した場合に、挫滅後7日目と14日目に有意に減少した。
【0221】
結論
Met-SDF-1αは、SDF-1αと同様に、末梢神経挫滅後に機能(CMAP潜時)を回復させることが示された。
【0222】
実施例7:糖尿病性神経障害におけるSDF-1αの保護効果
序論
糖尿病性神経障害は、糖尿病の最も一般的な慢性合併症である。基礎をなす機構は、複合的であり、且つ、高血糖、及びインスリンとC-ペプチド欠乏の結果として生じるいくつかの相関的な代謝異常にかかわるように見える。糖尿病性神経障害の指標となる最も一般的な初期異常は、低下した神経伝導速度によって反映される無症候性神経機能不全である(Dyck and Dyck, 1999)。通常、これらの変化の後に、足の振動感覚の喪失、及び足首反射の喪失が続く。電気生理学的測定は、多くの場合、基礎をなす病態、及び神経線維の髄鞘形成に相関する神経伝導速度の変化を極めて正確に反映する(総説のために、Sima, 1994を参照のこと)。
【0223】
ストレプトゾトシン(STZ)糖尿病ラットは、最も広範囲に研究されている糖尿病性神経障害の動物モデルである。それは、神経血流量の急激な減少(40%)と神経伝導速度の減速(20%)を発症し(Cameron et at., 1991)、それに続いて、神経線維の軸索萎縮を発症する(Jakobsen, 1976)。有鞘線維の脱髄及び変性、並びに軸索-膠細胞の解離が、長期的な糖尿病で見られる(Sima et al., 1988)。
【0224】
当該調査の主な目標は、STZ-ラットにおける糖尿病性神経障害の進行に対するSDF-1αの潜在的な神経及び膠細胞保護効果について調査することであった。
【0225】
材料と方法
動物
8週齢の雄スプラーグ-ドーリー・ラット(Janvier、Le Genest Saint Isle, France)を、以下に示す6つの実験群(n=10)に無作為に割り付けた。
【0226】
【表4】

【0227】
それらを、群ごとに飼育し(1ケージあたり3匹)、そして、好きなときに食物と水が得られる状態で、制御された温度(21〜22℃)と逆さまの明暗サイクル(12h/12h)を有する部屋で維持した。すべての実験を、施設ガイドラインに従って実施した。
【0228】
糖尿病の誘発と薬理学的処理
糖尿病を、55mg/kgの用量でのストレプトゾトシン(Sigmar、L’Isle d’Abeau Chesnes, France)の緩衝化溶液の静脈内注射によって誘発した。STZを、0.1mol/lのクエン酸バッファー pH4.5中に調製した。対照群には、等量のクエン酸バッファーを与えた。STZ注射の日を、D0とみなした。
【0229】
STZ後のD10にて、それぞれの個々の動物について血糖を観察した。260mg/dl未満の値を示す動物を、研究から除外した。
【0230】
SDF-1α、IL-6、又はそれらの適合ビヒクルでの処理を、D11からD40まで日常的に実施した。
【0231】
SDF-1αとIL-6を、0.02%のBSAを含む生理的食塩溶液(0.9%のNaCl)中に調製した。
【0232】
実験の計画
− −7日目:ベースライン(EMG)
− 0日目:ストレプトゾトシンによる誘発
− 7日目:血糖の観察
− 11日目:処理開始
− 20日目:フォン・フライ試験
− 25日目:EMGの観察
− 40日目:EMGの観察とHP52℃の試験
− 41日目:坐骨神経と皮質生検サンプルを組織形態計測的分析のために取り出す。
【0233】
筋電図
電気生理学的記録を、筋電計(Keypoint、Medtronic、Boulogne-Billancourt, France)を使用して実施した。ラットを、60mg/kgのケタミン・クロルハイドレート(ketamine chlorhydrate)(Imalgene 500(登録商標)、 Rhone Merieux、Lyon. France)及び4mg/kgのキシラジン(xylazin)(Rompum 2%、Bayer Pharma、Kiel, Germany)の腹腔内注射(IP)によって麻酔した。標準体温を、加熱灯で30℃に維持し、そして、尾部表面に設置した接点温度計(Quick、Bioblock Scientific、Illkirch, France)によって制御した。
【0234】
複合筋活動電位(CMAP)を、坐骨神経の刺激後に腓腹筋において記録した。基準電極と活動針(active needle)を、後肢に配置した。接地針を、ラットの腰背部に挿入した。坐骨神経を、過最大強度にて0.2msの単回パルスを用いて刺激した。運動波(motor wave)の速度を記録した。
【0235】
感受性神経伝導速度(SNCV)もまた記録した。尾皮膚電極を、以下のとおり配置した:基準針を尾の付け根に挿入し、そして、陽極針を尾の先端に向かって基準針から30mm離して配置した。接地針電極を、陽極針と基準針の間に挿入した。尾側の神経を、12.8mAの強度にて(0.2ms間の)連続した20パルスで刺激した。速度を、m/s単位で表した。
【0236】
形態計測的分析
形態計測的分析を、研究の終了時に実施した。動物を、60mg/kgのImalgene 500(登録商標)のIP注射によって麻酔した。坐骨神経の5mm片を、組織学的検査のために摘出した。その組織を、リン酸緩衝溶液(pH7.4)中、4%のグルタルアルデヒド(Sigma、L’Isle d’Abeau-Chesnes, France)溶液で一晩固定し、そして、使用するまで30%のショ糖中、+4℃にて維持した。神経サンプルを、リン酸緩衝溶液中、2%の四酸化オスミウム(Sigma)溶液の中で2時間、固定し、そして、一連のアルコール水溶液中で脱水し、そして、Epon内に包埋した。次に、包埋した組織を3日間の重合の間、+70℃にさらした。1.5μmの厚さの横断切片をミクロトームを使用して得た。それらを、1%のトルイジンブルー溶液(Sigma)で2分間染色し、脱水し、そして、Eukitt中に封入した。
【0237】
分析を、神経切断の全表面で半自動化デジタル画像分析ソフトウェア(Biocom、France)を使用して実施した。無関係な対象を排除した時点で、ソフトウェアは有鞘線維の総数を記録した。次に、変性線維の数を、オペレーターによって手作業でカウントした。軸索のない有鞘線維、余分なミエリン、及びそれらの軸索直径に関して厚すぎる鞘を示す繊維を、変性過程を経た繊維であるとみなした。非変性線維の数を、変性線維の数の引き算によって得た。
【0238】
形態学的解析を、非変性繊維とみなされた線維に対してのみ実施した。各繊維について、軸索とミエリンのサイズを、表面積(μm2)で記録した。これらの2つのパラメーターを、相対的な髄鞘の厚さを示すそれぞれの繊維のg比(軸索直径/繊維直径)の相当面績を計算するのに使用した(すなわち[A/(A+M)]0.5、A=軸索面積、m=ミエリン面積)。
【0239】
加えて、皮膚の5〜10mm直径領域を、後肢からパンチ生検を行った。皮膚サンプルを、すぐに、パラホルム中、4℃にて一晩固定し、凍結保護のために0.1MのPBS中、30%のショ糖の中で(一晩)インキューベートし、OCT内に包埋し、そして、凍結切片作製まで−80℃で冷凍した。
【0240】
次に、50μmの厚さの凍結切片を、クライオスタットを用いて皮膚表面に垂直に切断した。浮遊切開を、ウサギ抗タンパク質遺伝子産物9.5(1:10000;Ultraclone、Isle of Man, UK)液中、4℃にて7日間インキューベートした。そして、切片を、ABCペルオキシダーゼ法により免疫反応性を明らかにするために処理した。簡単に言えば、それらを、ビオチン化した抗ヤギ抗体(1:200)と共に1時間インキューベートし、そして、アビジン・ビオチン化複合体中で室温にて30分間インキューベートした。ペルオキシダーゼ活性を、DABシステムを使用して視覚化した。次に、切片を、エオシン又はヘマトキシリンによって対比染色した。切片を、脱水し、bioclearで透明にし、そして、eikitt中に封入した。顕微鏡の視野の写真を、12.9mmの焦点距離でNikonデジタルカメラを使用して20倍の倍率像で撮影した。それぞれ0.22μm2(544×408μm)の3つの顕微鏡の視野の表皮内神経の数を、コンピュータ画面上で実験者によってカウントした。
【0241】
データ分析
データの網羅的解析を、一因子又は頻回測定分散分析(ANOVA)及び一元配置ANOVAを使用して実施した。ANOVAが有意差を示したとき、フィッシャーの保護最小有意差法を、ビヒクルで処理した糖尿病ラット群と、実験群を比べるために事後検定として使用した。有意水準を、p≦0.05に設定した。結果を、平均値±平均値の標準誤差(s.e.m.)として表した。
【0242】
結果
体重
累進的な成長を示す非糖尿病ラットとは対照的に、糖尿病ラットは、有意な成長停止を明らかにした(図7A)。
【0243】
SDF-1α又はIL-6での処理は、わずかではあったが、しかし、ビヒクルで処理した糖尿病ラットの体重の有意な増大に関連した。
【0244】
血糖
STZ後7日目に、STZを受けたすべてのラットが、対照ラットのものより5倍高い血糖を示した(図7B)。
【0245】
電気生理学的測定
1.複合筋活動電位の潜時
CMAP潜時は、非糖尿病ラットのものと比較して、糖尿病ラットにおいてD25で有意に延長された(図7C)。SDF-1α又はIL-6での処理は、ビヒクルで処理した糖尿病ラットのものと比較して、糖尿病ラットのCMAP潜時における有意な短縮を引き起こした。
【0246】
結果の同様の特徴は、STZ後D40において観察された。
【0247】
2.感覚神経伝導速度
D25において、ビヒクルで処理した糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比較して、有意に低下したSNCVを明らかにした(図7D)。SDF-1α又はIL-6での処理は、糖尿病ラットのSNCV能力の有意に改善した。最良の効果は、10及び30μg/kgの処理用量で観察され、そして、それはIL-6処理を伴ったものに匹敵した。
【0248】
結果の同様の特徴は、STZ後のD40において観察された。
【0249】
形態計測的分析
1.g比(相対的ミエリン厚)
ビヒクルを与えた糖尿病ラットのg比は、非糖尿病ラットのものと比較して、有意に高まっており(図7E)、糖尿病ラットにおける髄鞘の肉薄化を示唆した。SDF-1αでの糖尿病ラットの処理は、特に10又は30μg/kgの用量について、STZ/ビヒクル群と比較して、g比を有意に低下させた。100μg/kgの用量において、g比の値の低下は、有意水準に達しなかった。
【0250】
IL-6処理もまた、g比の値の有意な低下を引き起こした。
【0251】
2.変性線維の数
ビヒクルを与えた糖尿病ラットは、非糖尿病ラットに比べて、有意に高い変性線維の割合を示した(図7F)。逆に、糖尿病ラットにおける非変性線維の割合は、非糖尿病ラットのものと比較して、有意に低下した(図7F)。SDF-1αでの糖尿病ラットの処理は、変性線維集団の低減を示した。最良の効果は、実施した最も低い用量(10μg/kg)に関連し、有意水準に達した。
【0252】
有意に減少した変性線維集団はまた、IL-6で処理した糖尿病ラットでも観察された。
図7Gに示されているように、ビヒクルを与えた糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比較して、有意に低下した表皮内の神経線維の密度を示した。SDF-1αでの糖尿病ラットの処理は、ビヒクルでの処理に比べて、皮膚の神経線維の有意に高い密度に関連していた。観察された効果は、IL-6処理によって引き起こされたものに匹敵していた。
【0253】
結論
当該研究において、我々は糖尿病関連の神経障害の進行に対するSDF-1αの神経及び神経膠の保護効果を評価したかった。調査を、ラットにおけるSTZ誘発糖尿病に関連する神経障害で行った。糖尿病性神経障害の臨床条件と同様に、早ければSTZ後7日目に検出される欠陥のある感覚神経伝導が、後の時点で観察される髄鞘脱落、及び/又は軸索変性の証拠に一致するこのモデルの進行中の神経障害を示す最初の兆候である(Andriambeloson et al., 2006)。先の研究は、低用量のIL-6でのSTZラットの処理が、血糖症の進行を妨げずに、このモデルにおける神経障害の進行を阻止することを実証した(Andriambeloson et al., 2006)。
【0254】
当該研究において、我々は、SDF-1α(10、30、及び100μg/kg)の慢性的な投与が、処理の約2週間以内に糖尿病ラットの知覚運動能力(SNCV及びCMAP潜時スコア)を改善することを見つけた。10μg/kgのIL-6と匹敵する効率を示す、10又は30μg/kgの処理用量で最良の効果を得た。加えて、これらの用量におけるSDF-1α処理は、このモデルに関連するミエリンの損失を顕著に妨げることが分かった。髄鞘の質が最適な神経伝導のための重要な要素であるので、事実上は、髄鞘のサイズの保存が、SDF-1α処理を与えた糖尿病ラットの神経機能の改善をある程度、説明するかもしれない。さらに、SDF-1αが坐骨神経の軸索変性を受けた繊維集団を減少させることもまた、観察された。
【0255】
神経障害の存在及び重症度と、皮膚生検から表皮内の神経線維の変性との間で相関関係を示す糖尿病性神経障害の臨床条件と同様に(Herrmann et al., 1999; Smith et al., 2001)、ラットのSTZ誘発糖尿病性神経障害は、また、この動物モデルの神経障害の臨床徴候が表皮内の神経線維の密度の低下と強い相関関係があったことも実証している。前記の知見に沿って、当該研究は、ビヒクルで処理した糖尿病ラットが表皮内の神経線維密度の有意な低下を実証することを示した。この現象は、SDF-1α又はIL-6での処理によって顕著に予防され、これにより、糖尿病で誘発した神経傷害に関するSDF-1αによる神経保護効果をさらに支持した。
【0256】
要するに、先の知見は、糖尿病性神経障害のラットモデルにおける、SDF-1α処理の神経保護効果を示している。SDF-1αは、臨床的糖尿病性神経障害の治療法の開発において興味深い候補である。
【0257】
実施例8:神経障害性疼痛におけるSDF-1αの保護効果
序論
神経障害性疼痛の最も一般的な増悪原因は、糖尿病、特に血糖制御が乏しい糖尿病である。糖尿病患者の約2〜24%が、神経障害性疼痛を経験する。糖尿病の神経障害性疼痛は、通常は軽い痛みを伴う刺激への暴露(すなわち、痛覚過敏)、又は通常は痛みがあると知覚されない刺激への暴露(すなわち、異痛)のいずれかの結果として自然に発生する。疼痛知覚の多くの例外が、糖尿病の初期段階にてストレプトゾトシン・モデル(Hounsom and Tomlinson, 1997)において明らかにされた。例えば、ホルマリンで誘発されたフリンチングは、対照動物と比較して、STZ-ラットにおいて拡大される。加えて、接触性アロディニアの進行が、糖尿病のこの動物モデルにおいて報告された(Calcutt et al., 1995, 1996)。高血糖が持続する後期において(Bianchi et al., 2004)、ホットプレート閾値の拡張が、糖尿病ラットの行動異常として報告された。
【0258】
材料と方法
動物
8週齢の雄スプラーグ・ドーリー・ラット(Janvier、Le Genest Saint Isle, France)を、以下に示す6つの実験群(n=10)に無作為に割り付けた。
【0259】
【表5】

【0260】
それらを、群ごとに飼育し(1ケージあたり3匹)、そして、好きなときに食物と水が得られる状態で、制御された温度(21〜22℃)と逆さまの明暗サイクル(12h/12h)を有する部屋で維持した。すべての実験を、施設ガイドラインに従って実施した。
【0261】
糖尿病の誘発と薬理学的処理
糖尿病を、55mg/kgの用量におけるストレプトゾトシン(Sigma、L’Isle d’Abeau Chesnes, France)の緩衝化溶液の静脈内注射によって誘発した。STZを、0.1mol/lのクエン酸バッファー pH4.5中に調製した。対照群には、等量のクエン酸バッファーを与えた。STZ注射の日を、D0とみなした。
【0262】
STZ後のD10において、それぞれの個々の動物について血糖を観察した。260mg/dl未満の値を示す動物を、研究から除外した。
【0263】
SDF-1α、IL-6、又はそれらの対応のビヒクルでの処理を、D11〜D40の毎日、実施した。
【0264】
SDF-1α及びIL-6を、0.02%のBSAを含む生理的食塩溶液(0.9%のNaCl)中に調製した。
【0265】
実験企画
− 0日目:ストレプトゾトシンによる誘発
− 7日目:血糖の観察
− 11日目:処理開始
− 20日目:フォン・フライ試験
− 40日目:EMGモニタリングとHP 52℃試験
【0266】
フォン・フライ式フィラメント試験
ラットを、金属グリッド床の上に乗せた。侵害試験を、グリッド床を貫いてフォン・フライ式フィラメント(Bioseb、France)を挿入し、そして、それを後肢の足底面に当てることによっておこなった。試験は、異なるフォン・フライ式フィラメントの(1〜1.5sの振動数の)数回の適用から成った。フォン・フライ式フィラメントは、10g〜180gのフィラメントを適用した。後肢の勢いの良い引っ込めを生じる圧力を、閾値とみなした。カットオフ値を180gに設定した。
【0267】
ホットプレート52℃試験
動物を、52℃に調整したホットプレート上のガラス製円柱内に入れた。最初の反応の潜時を、30sのカットオフ時間で記録した(熱から逃れるための舐め、肢の勢いの良い運動、小さい飛躍、又はジャンプ)。
【0268】
結果
フォン・フライ式フィラメント
STZ後20日目において、ビヒクルで処理した糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比べて、フォン・フライ試験において有意に低い閾値を示した(図8A)。
【0269】
SDF-1α又はIL-6での処理は、ビヒクルで処理した糖尿病ラットのスコアと比べて、糖尿病ラットの閾値の有意な増大を引き起こした。SDF-1α又はIL-6処理ラットの閾値は、非糖尿病ラットのものと統計的に異なっていなかった。
【0270】
ホットプレート52℃試験
STZ後D40において、ビヒクル処理を受けた糖尿病ラットは、非糖尿病ラットと比較して、ホットプレート試験において有意に大きい潜時の閾値が明らかになった(図8B)。
【0271】
SDF-1α又はIL-6での糖尿病ラットの処理が、糖尿病ラットの潜時の閾値を非糖尿病ラットのものと統計的に匹敵するレベルまで有意に下げた。
【0272】
結論
フォン・フライ式フィラメント(機械刺激)及び熱(52℃)に対応したラットの挙動を、それぞれ、D20とD40にて評価した。これらの2つの試験において、SDF-1αで処理した糖尿病ラットは、ビヒクルで処理したものと比較して、挙動の違いを明らかに示し、そして、それらのスコアは非糖尿病ラットのそれに匹敵するようになった。
【0273】
これらの結果は、電気生理学的及び組織学的所見に沿っており、また、SDF-1αが神経障害性疼痛においても保護的であることを示唆するように思える。
【0274】
実施例9:SDF-1の遺伝子と一次進行型MSとの遺伝的関連
材料と方法
患者及び対照のサンプリング
研究には、一次進行型MS(MSPP)と関係のない患者の一群を含んだ。研究におけるすべての対象がイタリア出身の白人であった。サルジニア出身の患者と対照を除外した。
【0275】
我々は、進行型の経過を有する197人の患者を組み入れた。141人には、再発なしに疾患の始まりからの神経症状の進行あり(一次進行型);39人には、多重再発を伴う進行型の経過を有し(進行型再発);17人には、独立した発作の何年も後に始まる進行型の経過を有する(単独発作進行型)。対照集団には、症例集団と同じ民族的背景の出身の234人の関連のない健康対照が含まれた。
【0276】
症例群は、1.05の性別比(101人の女性と96人の男性)、及び39.2[19〜65]歳の平均発症年齢を有する。対照群には、1.03(119人の女性と115人の男性)の性別比、及び40.4[19〜70]歳の平均年齢を有する234人の個人が含まれた。
【0277】
遺伝子型決定
全ゲノム分析の方法:アフィメトリックス法
各サンプルからの250ng(5μl)のDNAを、10単位のNsp I及びSty I制限酵素(New England Biolabs、Beverly, MA)で平行して37℃にて2時間、消化した。次に、酵素特異的アダプター・オリゴヌクレオチドを、T4 DNAリガーゼで16℃にて3時間、消化された末端に連結した。水での希釈後に、5μlの希釈した連結反応物を、PCRにかけた。PCRを、25μMのPCRプライマー002(Affymetrix)、350μMの各dNTP、1Mのベタイン(USB、Cleveland, OH)、及び1×チタニウムTaq PCRバッファー(BD Biosciences)の存在下、25μMのチタニウムTaq DNAポリメラーゼ(BD Biosciences、San Jose, CA)を用いて実施した。サイクル・パラメーターは、以下の:94℃にて3分間の最初の変性、合計30回繰り返される94℃にて30秒間の増幅、60℃にて30秒間、及び68℃にて15秒間の伸長、68℃にて7分間の最後の伸長、であった。3つの反応からのPCR産物を、合わせ、そして、製造業者の指示に従ってMinElute 96ウェルUF PCR精製プレート(Qiagen、Valencia, CA)を用いて精製した。サンプルを、マイクロチューブ内に回収し、そして、16,000×gにて10分間、遠心分離機にかけた。
【0278】
精製した産物を、リン酸マグネシウムの白くゲル状のペレットを乱さないように特に注意してチューブから回収した。次に、PCR産物を、2%のTAEゲル電気泳動を使用して200〜800bpsの間の平均サイズに移動することを検証した。次に、60マイクログラムの精製したPCR産物を、0.25単位のDNAseを使用して、37℃にて35分間、断片化した。180bps未満の平均サイズへの前記産物の完全な断片化を、2%のTAEゲル電気泳動を使用して検証した。断片化に続いて、そのDNAを、105単位の端末デオキシヌクレオチジル転移酵素を用いて37℃にて2時間、末端標識した。次に、標識DNAを、それぞれのメンデル・アレイに49℃、60rpmにて18時間、ハイブリダイズした。製造業者(Affymetrix)の指示に従って、ハイブリダイズしたアレイを、洗浄し、染色し、そして、スキャンした。
【0279】
p値0.33にてDMアルゴリズムを使用して遺伝子型コールを得、それに続いて、Affymetrix仕様書に従ってBRLMMアルゴリズムを使用してバッチ分析をおこなった。
【0280】
SNPフィルタリング
SNPを、以下の評価基準:
− 欠損遺伝子型率が、<5%でなければならない、
− 最小対立遺伝子頻度(MAF)が、対照において>1%でなければならない、
− ハーディー-ヴァインベルク平衡にはない確率が、対照において<2%でなければならない、
− SNPが、症例において多形性でなければならない、
を用いて選別した。
【0281】
常染色体からのSNPのみを分析のために保存した。
【0282】
統計的分析
方法:
FDR(誤発見率(false discovery rate))を、各集団について以下の(ピアソンの統計値を用いた正確検定を使用した)一変量試験:
− 対立遺伝子の試験、
− 遺伝子型の試験、
− 対立遺伝子と遺伝子型の試験の最小(「min」と短縮した)、
− 対立遺伝子と遺伝子型の試験の最大(「max」と短縮した)、
で10,000個の順列を用いて推定した。
【0283】
結果
SNPフィルタリングとゲノム・カバー率
先に規定したフィルターを適用することで、表VIに示されているように残存SNPの数を減少させた:
【0284】
【表6】

【0285】
FDR
FDRの結果を、図9に示している。
10%のFDR閾値にて、表VIIに示されているように、SNPと遺伝子を選択した。
【0286】
【表7】

【0287】
1つのSNP(SNP_A-2185631)を、SDF-1(CXCL2)遺伝子の中で選択した(図10を参照のこと)。
【0288】
分割表において調査することによって、我々は、関連性が症例集団と対照集団における対立遺伝子Cの差異的分布に由来することが分かった。
【0289】
【表8】

【0290】
このSNPの周りの領域の詳細な生物分析では、以下に記載のとおり、それが最近発見されたSDF-1の新規アイソフォームのイントロン中に位置していることが示されている:
【0291】
2種類のアイソフォームSDF-1αとSDF-1βを同定するだけであるEnsemblによると、SNP_A-2185631は、(CXCL12としても知られている)SDF-1遺伝子の25kb下流に位置している。SNP_A-2185631の近くに位置している遺伝子はない。
【0292】
SDF-1は、第10染色体(44,192,517〜44,200,551、NCBIビルド35)上に位置し、そして、8kbに広がっている。
【0293】
SNP_A-2185631がSDF-1の遺伝子又は別の隣接している遺伝子とかかわりを持ち得るかどうかを知るために、ゲノム配列のアノテーションを実施した。
【0294】
配列データベースにおいて、Ensemblに記載されていないスプライス変異体:SDF-1ガンマ、SDF-1デルタ、SDF-1イプシロン、及びSDF-1ファイを発見した。すべてのスプライス変異体が、同じ最初の3つのエクソンを持っている。SDF-1イプシロンとSDF-1ファイの最後のエクソンは、72kb下流に位置している(図11を参照のこと)。これらの新しい配列は、「Lilly Research Laboratories, Cardiovascular Division, Cancer Division and Integrative Biology, Eli Lilly and Company, Indianapolis, IN 46285, USA」によって2006年6月にNCBIに提出された。これらの2つのアイソフォームをコードするcDNA(DQ345520及びDQ345519)は、標準的なスプライシング部位、ポリアデニル化シグナル、及びポリAテール(ゲノム配列では見つかっていない)を含む。
【0295】
すべてのスプライス変異体が同じ最初の3つのエクソンを持っているので、6種類のアイソフォームが、同じN-ter部分(88個のアミノ酸)を持つ。
【0296】
これにより、SNP_A-2185631の周辺領域の詳細なバイオアッセイは、以下の:
− SDF-1遺伝子は期待されたものより長い:8kbではなく87kb、
− 着目のSNP(SNP_A-2185631)は、SDF-1遺伝子の中にあり、SDF-1イプシロン及びSDF-1ファイの最後のイントロンの中に位置している(図12を参照のこと)、
を示した。
【0297】
これにより、SDF-1遺伝子が一次進行型MSに関連すると結論づけられる。
【0298】
【化1】

【0299】
【化2】

【0300】
【化3】

【0301】
【化4】

【図面の簡単な説明】
【0302】
【図1.A】細胞培養の14日目に0.001、0.1、及び10ng/mlのSDF-1αと共に37℃にて3時間、その後5ng/mlのLPSを補って48時間プレインキュベートした混合皮質培養の中のTNF-αとIL-6の含有量をpg/ml単位で示す。上清は、16日目に回収され、そして、TNF-αとIL-6のレベルが特異的ELISAにより計測された。陽性対照として、培養物は、25pMのデキサメサゾン(Dexa)、10ng/mlのIL-10で処理されたか、又は無処理であった。陰性対照として、培養物は、LPSのみで処理された。
【図1.B】細胞培養の14日目に0.001、0.1、及び10ng/mlのSDF-1α変異体と共に37℃にて3時間、その後5ng/mlのLPSを補って48時間プレインキュベートした混合皮質培養の中のTNF-αとIL-6の含有量をpg/ml単位で示す。上清は、16日目に回収され、そして、TNF-αとIL-6のレベルが特異的ELISAにより計測された。陽性対照として、培養物は、25pMのデキサメサゾン(Dexa)、10ng/mlのIL-10で処理されたか、又は無処理であった。陰性対照として、培養物は、LPSのみで処理された。
【図2】200μlのNaCl(0.9%、LPS不含、ベースライン)、又は200μlのNaCl(0.9%、LPS不含)中に希釈した4μgのSDF-1α若しくはSDF-1α変異体の腹腔内注射の4時間後における腹腔に動員された平均の総細胞数×106±s.e.を示す。
【図3】無処理マウス(対照)と比べた、慢性相におけるEAEに冒されたマウスから解剖した脊髄抽出物の中の総タンパク質量の1マイクログラムあたりのSDF-1含有量をピコグラム単位(pg/mg)で示す。
【図4】ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA)、3、10、30、又は100μg/kgのSDF-1αのs.c.、並びに30μg/kgの基準(陽性)対照化合物(IL-6)で処理された、坐骨神経挫滅後のマウスの電気生理学的記録を示す。ベースライン:ビヒクル処理動物の対側部位に表れる値。記録は、破壊後7、15、及び22日目(dpl)に実施された。 4.Aは、複合筋活動電位の振幅をミリボルト(mv)単位で表す。 4.Bは、複合筋活動電位の潜時をミリ秒(ms)単位で示す。
【図5】ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA)又は皮下の30μg/kgのSDF-1変異体で処理された、坐骨神経挫滅後のマウスの電気生理学的記録を示す。ベースライン:ビヒクル処理動物の対側部位に表れる値。記録は、破壊後7及び22日目(dpl)に実施された。 5.Aは、複合筋活動電位の振幅をミリボルト(mv)単位で表す。 5.Bは、複合筋活動電位の潜時をミリ秒(ms)単位で示す。 5.Cは、複合筋活動電位の持続時間をミリ秒(ms)単位で示す。
【図6】ビヒクル(生理的食塩水/0.02%のBSA)又は100、30、10μg/kgの皮下Met-SDF-1αで処理された、坐骨神経挫滅後のマウスの電気生理学的記録を示す。ベースライン:ビヒクル処理動物の対側部位に表れる値。記録は、破壊後7及び14日目(dpl)に実施された。 6.Aは、複合筋活動電位の潜時をミリ秒(ms)単位で示す。
【図7−1】糖尿病性神経障害のストレプトゾトシン・モデル(STZ)における100、30、10μg/kgの皮下SDF-1α処理の結果を示す。陽性対照分子は、10μg/kgの皮下IL-6である。 7.Aは、11日目から始めて40日目までの体重の測定値を表す。 7.Bは、STZ後7日目の血糖レベルを表す。
【図7−2】糖尿病性神経障害のストレプトゾトシン・モデル(STZ)における100、30、10μg/kgの皮下SDF-1α処理の結果を示す。陽性対照分子は、10μg/kgの皮下IL-6である。 7.Cは、STZ後24及び40日目に計測した複合筋活動電位の潜時を示す。 7.Dは、感覚神経伝導速度に対するSDF-1αの効果を示す。
【図7−3】糖尿病性神経障害のストレプトゾトシン・モデル(STZ)における100、30、10μg/kgの皮下SDF-1α処理の結果を示す。陽性対照分子は、10μg/kgの皮下IL-6である。 7.Eは、g比として表現される、SDF-1α処理のあり、又はなしでのSTZ後40日目の相対ミエリン厚を表す。 7.Fは、STZ後40日目の坐骨神経の変性繊維の数を示す。 7.Gは、STZ後40日目の表皮内神経線維の密度を表す。
【図8】糖尿病性神経障害のストレプトゾトシン・モデル(STZ)における機械的及び温感異痛の読み出し値に対する100、30、10μg/kgの皮下SDF-1α処理の結果を示す。 8.Aは、STZ後20日目のフォン・フライ式フィラメント試験により計測された閾値圧力を表す。 8.Bは、STZ後40日目の52℃のホットプレート・アッセイによる潜時測定値を表す。
【図9】R<100について陽性マーカーであるRの数についてプロットされたイタリア人の一次進行型MSコレクションにおける推定される誤発見率を示す。
【図10】SDF-1遺伝子の中のSNP_A-2185631を示す。
【図11】ヒトSDF-1スプライス変異体の予測されるアミノ酸配列を示す。
【図12】SNP-A-2185631が、SDF-1遺伝子の中に存在し、SDF-1εとSDF-1φの最後のイントロンの中に位置したことを示す。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用医薬品の製造のためのSDF-1又はSDF-1活性の作動物質の使用。
【請求項2】
前記SDF-1が、SDF-1αである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記SDF-1が、SDF-1α変異体である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記神経学的疾患が、炎症と関連する、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記炎症が、神経炎症である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記神経学的疾患が、外傷性神経傷害、脳卒中、CNS又はPNSの脱髄性疾患、神経障害から成る群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記神経学的疾患が、末梢神経障害である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記末梢神経障害が、糖尿病性神経障害又は神経障害性疼痛である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記外傷性神経傷害が、末梢神経の外傷を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
前記外傷性神経傷害が、脊髄の外傷を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項11】
前記脱髄性疾患が、多発性硬化症(MS)である、請求項6に記載の使用。
【請求項12】
前記脱髄性疾患が、一次進行型多発性硬化症(MS)又は二次進行型多発性硬化症(MS)である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記脱髄性疾患が、慢性炎症性多発性硬化症、脱髄性多発神経症(CIDP)、及びギラン・バレー症候群(GBS)から選択される、請求項6に記載の使用。
【請求項14】
前記SDF-1が、以下の:
(a)配列番号1のアミノ酸を含むポリペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸を含むポリペプチド;
(c)配列番号7のアミノ酸を含むポリペプチド;
(d)シグナル配列、好ましくは、配列番号5のアミノ酸をさらに含む(a)〜(c)のポリペプチド;
(e)アミノ酸配列が、(a)〜(c)の配列の少なくとも1つに対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%の同一性を有する、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(f)高ストリンジェント条件下、(a)〜(c)のいずれかをコードする天然のDNA配列の相補鎖にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(g)アミノ酸配列のあらゆる変化が(a)〜(c)のアミノ酸配列に対して保存的なアミノ酸置換である、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(h)(a)〜(d)のいずれかの塩、又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、若しくは活性画分、
から成る群から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記SDF-1に、血液脳関門の通過を促進する担体分子、ペプチド、又はタンパク質を融合させる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記SDF-1をPEG化する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記融合タンパク質に、免疫グロブリン(Ig)融合が含まれる、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記医薬品に、同時の、連続した、又は別々の使用のためにインターフェロン、及び/又はオステオポンチン、及び/又はクラステリンがさらに含まれる、請求項1〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記インターフェロンがインターフェロンβである、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記SDF-1が、約0.001〜1mg/kg体重、約0.01〜10mg/kg体重、約9、8、7、6、5、4、3、2、若しくは1mg/kg体重、又は約0.1〜1mg/kg体重の量で使用される、請求項1〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造のための核酸分子の使用であって、上記核酸分子に、配列番号6の核酸配列、又は以下の:
(a)配列番号1のアミノ酸を含むポリペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸を含むポリペプチド;
(c)配列番号7のアミノ酸を含むポリペプチド;
(d)シグナル配列、好ましくは、配列番号5のアミノ酸をさらに含む(a)〜(c)のポリペプチド;
(e)アミノ酸配列が、(a)〜(c)の配列の少なくとも1つに対して少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%の同一性を有する、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(f)高ストリンジェント条件下、(a)〜(c)のいずれかをコードする天然のDNA配列の相補鎖にハイブリダイズするDNA配列によってコードされる、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(g)アミノ酸配列のあらゆる変化が(a)〜(c)のアミノ酸配列に対して保存的なアミノ酸置換である、(a)〜(d)のいずれかの突然変異タンパク質;
(h)(a)〜(d)のいずれかの塩、又はアイソフォーム、融合タンパク質、機能性誘導体、若しくは活性画分、
から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸配列が含まれる前記方法。
【請求項22】
前記核酸分子に、発現ベクター配列がさらに含まれる、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造における、細胞内のSDF-1、又はSDF-1活性の作動物質の内因性産生を誘発する、及び/又は高めるためのベクターの使用。
【請求項24】
遺伝子治療のための請求項21〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬品の製造におけるSDF-1、又はSDF-1活性の作動物質を産生するように遺伝子操作をした細胞の使用。
【請求項26】
必要に応じて、1種類以上の医薬として許容される賦形剤と一緒に、SDF-1、又はSDF-1活性の作動物質、及びインターフェロンを含む、神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬組成物。
【請求項27】
必要に応じて、1種類以上の医薬として許容される賦形剤と一緒に、SDF-1、又はSDF-1活性の作動物質、及びオステオポンチンを含む、末梢神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬組成物。
【請求項28】
必要に応じて、1種類以上の医薬として許容される賦形剤と一緒に、SDF-1、又はSDF-1活性の作動物質、及びクラステリンを含む、末梢神経学的疾患の治療用、及び/又は予防用の医薬組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−513689(P2009−513689A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538353(P2008−538353)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067949
【国際公開番号】WO2007/051785
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(507348713)ラボラトワール セローノ ソシエテ アノニム (29)
【Fターム(参考)】