説明

神経学的症状の治療用TWEAKのモジュレーターおよびインヒビターの使用

本発明は、神経学的および/または精神医学的な症状を治療および/または予防するための薬剤を製造するために、神経細胞におけるTWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質を使用することに関する。さらに、本発明は、同じ目的のために、TWEAKレセプターの発現または活性を調節または阻害するか、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節または阻害する物質を使用することに関する。また、本発明は、TWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質を同定する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、神経学的および/または精神医学的な症状を治療および/または予防するための薬剤を製造するために、神経細胞におけるTWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質を使用することである。
【0002】
さらに、本発明は、同じ目的のために、TWEAKレセプターの発現または活性を調節または阻害するか、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節または阻害する物質を使用することに関する。
【0003】
また、本発明は、TWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質を同定する方法を含む。
【背景技術】
【0004】
TNF様の弱いアポトーシス誘導因子(TWEAK)が、腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーの一員である。このファミリーの構成因子は、アポトーシス、増殖、遊走、および炎症に関与することが知られている。ほとんどの腫瘍壊死因子は、II型の膜貫通型タンパク質であるが、TNFの細胞外ドメインが特異的なメタロプロテアーゼによって切断されると可溶性サイトカインになる。そして、これらの可溶性サイトカインは、特異的なレセプターと相互作用することができる(Orlinick et al. (1998), Cell Signal. 10(8): 543−51)。
【0005】
ヒトのTWEAK遺伝子は、750塩基対によってコードされており、第17染色体上に位置している。翻訳されて250アミノ酸のタンパク質になり、30kDaという外見上の分子量をもつ。マウス、ラット、およびヒトの間における配列相同性は比較的高く(レセプター結合ドメインにおいて、マウスとヒトで93%、ラットとヒトで90%)、構造および機能が保存されていることを示唆している(Chicheportiche et al. (1997), J Biol Chem., 272(51): 32401−10)。
【0006】
未処理のTWEAKは、1つの膜貫通ドメインをもち、主に細胞外膜に局在する。処理されると、分泌性かつ可溶性型のタンパク質が約17kDaとなり、集合してTNFリガンドに典型的な3量体活性型となる。このTWEAK3量体は、発現クローニングによって線維芽細胞増殖因子誘導遺伝子(Fn14)と同定された特異的レセプターに結合する。研究によって、TWEAKはFn14(TWEAKレセプター)に結合して、NF−kB活性化を含む細胞内シグナル伝達カスケードの活性化をもたらし、それにより、炎症誘発作用および細胞死作用に介在する(Han S et al. (2003), Biochem Biophys Res Commun. 2003, 13; 305 (4): 789−96)ことが確認された。
【0007】
いくつかの研究によって、TWEAKが腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導すること、および、接着分子のアップレギュレーションおよびサイトカインの分泌によって炎症を誘発するように作用することが示された(Wiley et al. (2003), Cytokine Growth Factor Rev., 14 (3−4): 241−9、概説)。また、内皮細胞の増殖および血管形成を促進することも示された。特に、bFGFとの組み合わせで、血管新生を促進すると言われていた。
【0008】
TWEAKの転写産物は豊富で、多くの組織に存在する。白血球によって分泌されるTWEAKは、炎症を起こした脳に浸潤してアストロサイトに作用すると報告された。これらのアストロサイトはリガンドに結合するが、TWEAK介在型のアポトーシスに対しては抵抗性をもつ。これらの細胞が、大量のIL−8およびIL−6を分泌することが観察され、TWEAKが脳の炎症に関与することが示唆された(Saas P et al.
(2000), Glia. 32(1):102−7)。
【0009】
さまざまな神経学的疾病には、利用できる適切な治療法がない。脳梗塞は、西欧諸国において主な死因の第3位であり、また、身体障害の主要な原因となっており、大きな社会経済的な負担となっている。その病因は、虚血性(ほとんどの症例)または出血性のいずれかでありうる。虚血性脳梗塞の原因は、しばしば塞栓性、すなわち血栓性である。これまでのところ、脳梗塞患者の大多数を効果的に治療する方法はない。今までに臨床的に証明された薬剤は、プラスミノーゲン活性化因子(TPA)およびアスピリンだけである。グルコースと酸素が足りないために梗塞の中心周辺(immediate infarct core)で大量の細胞死が起きた後、グルタミン酸興奮毒性、アポトーシス機構、およびフリーラジカルの生成などの2次的作用機序により何日間も梗塞領域は拡張する。
【0010】
筋萎縮性側索硬化症(ALS;ルー・ゲーリック病;シャルコー病)は、年間発生率が、人口100,000人当り0.4から1.76人という神経変性障害であって(Adams et al., Principles of Neufrology, 6th
ed., New York, pp 1090−1095)、全身性の筋攣縮、進行性萎縮および骨格筋力の低下、痙縮および錐体路徴候、構音障害、嚥下障害ならびに呼吸困難という典型的な徴候を示す運動ニューロン疾患の最も一般的な型である。この病理は、主に脊髄前角および脳幹下部の運動核における神経細胞の消失からなるが、皮質における1次運動ニューロンを含むこともある。家族性症例におけるスーパオキシド・ジスムターゼ(SOD1)の変異体の役割は解明され、酸化的ストレス仮説が打ち出されているが、この破壊的な病気の発病機構はまだほとんど分かっていない。今までのところ、ALSをもたらしうるSOD1タンパク質の変異体が90以上記述されている(Cleveland and Rothstein (2001), Nat Rev Neurosci, 2, 806−19)。また、本病においてニューロフィラメントが果たす役割も明らかにされた。過剰なグルタミン酸刺激によって引き起こされる機序である興奮毒性も重要な要素であり、ヒト患者におけるリルゾール(Riluzole)の有益な役割によって裏付けられている。SOD1変異体の中で最も確信的に示されていることは、カスパーゼの活性化とアポトーシスが、ALSにおける共通した最終経路であるということである(Ishigaki, et al. (2002), J Neurochem, 82, 576−84., Li, et al. (2000), Science,
288, 335−9)。したがって、ALSも、例えば、グルタミン酸の関与、酸化的ストレス、およびプログラムされた細胞死など、他の神経変性疾患においても作用している同一の一般的な病理パターンに含まれると考えられる。
【0011】
パーキンソン病は、約100万人の患者が北アメリカにいる、最も頻度の高い運動性疾患で、65歳を超える人口の約1%が罹患している。この病気の中心的症状は硬直、震えおよび運動不能である(Adams et al.; Principles of Neurology, 6th ed., New York, pp 1090−1095)。パーキンソン病の病因は不明である。それにもかかわらず、ヒトの脳の解剖研究および動物モデルから得られた一連の有意義な生化学的データは、黒質における酸性的ストレスのプロセスが進行していることを示しており、ドーパミン作動性神経変性を開始させるのかもしれない。神経毒である6‐ヒドロキシドーパミンおよびMPTP(N‐メチル‐4‐フェニル‐1,2,3,6‐テトラヒドロピリジン)によって誘導された酸化的ストレスを動物モデルで用いて、神経変性の過程を詳しく調査した。対症療法(例えば、L
−DOPAにデカルボキシラーゼインヒビターを加えたもの;ドーパミンアゴニストとしてのブロモクリプチン、ペルゴリド;およびトリヘキシフェニジル(アルタン)などの抗コリン剤)は存在するが、病気の進行を実際に止める、例えば神経保護療法のような原因療法が明確に必要とされている。これらの動物モデルを用いて、ラジカル捕捉剤、鉄キレート剤、ドーパミンアゴニスト、一酸化窒素合成インヒビターおよび一定のカルシウムチャンネルアンタゴニストの効能試験が行われている。アポトーシス機構は、動物モデルにおいても、患者道用に明確に作用している(Mochizuki, et al. (2001), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 10918−23, Xu et al. (2002), Nat. Med., 8, 600−6, Viswanath, et al. (2001), J. Neurosci., 21, 9519−28, Hartmann, et al. (2002), Neurology, 58, 308−10)。酸化的ストレスおよびアポトーシスが関与する、このような病態生理学によっても、パーキンソン病は、他の神経変性障害や脳梗塞の中に加えられている。
【0012】
脳虚血は、脳血流(CBF)を弱めて酸素およびグルコースの欠乏をもたらすさまざまな原因から生じる可能性がある。他方、外傷性脳損傷(TBI)は、通常、頭蓋骨骨折を引き起こし、血管および脳組織の断裂によって脳実質を急激に破壊する1次的な機械的衝撃に伴って生じる。これは、次に、2次的損傷をもたらす分子および細胞の反応の活性化を特徴とする一連の事象を開始させる。このような2次的損傷の進展は、多くの生化学的経路が関与する活発なプロセスである(Leker and Shohami (2002), Brain Res. Rev., 39, 55−73)。半影の虚血境界領域における2次的細胞死をもたらす有害な経路と、2次的外傷後損傷に曝露された領域における2次的細胞死をもたらす有害な経路との間で多くの類似点が同定されている(例えば、グルタミン酸塩の過剰な放出による興奮毒性、一酸化窒素、活性酸素種、炎症、およびアポトーシス(Leker and Shohami (2002), Brain Res. Rev., 39, 55−73)。さらに、初期の虚血性発作が、外傷性脳損傷を受けた後に起こることが報告されており、1次的な機械的障害に虚血の構成要素が加わる。
【0013】
心臓疾患は、西欧工業諸国において主な死因となっている。アメリカ合衆国では、毎年約100万人が死亡しており、そのほぼ50%が突発性であり、病院外で発生している(Zheng, et al. (2001), Circulation, 104, 2158−63)。心肺蘇生法(CPR)が年間100,000人中40〜90人に試みられており、自発的循環回復(ROSC)が、これらの患者の25〜50%において達成されている。しかし、ROSCに成功した後の退院率は2〜10%にすぎない(Bottiger, et al. (1999), Heart, 82, 674−9)。したがって、合衆国における年間の心停止犠牲者の大多数の治療は成功していない。CPR成功後の生存率が低いこと、すなわち、心停止後の院内死亡率の主な理由は、持続性の脳損傷である。心循環停止の結果生じる脳損傷は、低酸素性ストレス対する耐性が短期であることと、特異的再潅流障害に関係がある(Safar (1986), Circulation, 74, IV 138−53, Hossmann (1993), Resuscitation, 26, 225−35)。まず、心循環停止後、多くの患者を血行力学的に安定させることができるにもかかわらず、その多くは中枢神経系損傷のために死亡する。心停止後の脳損傷によってもたらされる個人的、社会的、および経済的な結末は破滅的である。したがって、心臓の停止および蘇生(「全身性虚血および再潅流」)の研究におけるもっとも重大な課題の1つは、脳蘇生および心停止後の脳損傷である(Safar (1986), Circulation, 74, IV 138−53, Safar, et al. (2002), Crit Care Med, 30, p. 140−4)。現在、心停止後の何らかの治療的処置によって、心停止中
の低酸素状態によって生じる神経細胞への1次的損傷を減らすことは不可能である。主要な病態生理学上の課題には、低酸素症およびそれに続く壊死、フリーラジカル形成および細胞カルシウム流入による再潅流傷害、興奮性アミノ酸の放出、脳の微小循環障害、およびプログラムされた神経細胞の死すなわちアポトーシスなどがある(Safar (1986), Circulation, 74, IV138−53, Safar et
al. (2002), Crit Care Med, 30, 140−4)。
【0014】
心停止後の神経学的転帰を改善しようとする臨床試験が行われてきたが、いまだ成功例がない。バルビツール酸塩を(神経保護作用を促進するための)治療に使用すること、またはカルシウムチャンネル遮断薬を(虚血性再潅流損傷を軽減するために)使用することが試験された(Group (1986), Am. J. Emerg. Med.,
4, 72−86, Group (1986), N. Engl. J. Med., 314, 397−403, Group (1991), Control Clin. Trials, 12, 525−45, Group (1991), N. Engl. J. Med., 324, 1225−31)。今までのところ、臨床場面において、心循環停止の後の神経学的転帰を改善するために利用できる具体的な心停止後の治療選択肢はない(ただし、大規模無作為化比較臨床試験の結果が待ち望まれている軽度の低体温症および血栓溶解という例外があるかもしれない(Safar, et
al. (2002), Crit Care Med., 30, 140−4))。したがって、心停止後の神経学的転帰を改善するための革新的な治療法が非常に重要である。
【0015】
多発性硬化症は、中枢神経系の典型的な炎症性自己免疫障害であり、400人に1人の生涯リスクがあり、若年成人において、おそらく神経性廃疾のもっともありふれた原因であろう。世界中で、約200〜500万人の患者がこの疾患に苦しんでいる(Compston and Coles (2002), Lancet, 359, 1221−31.)。すべての複合的な形質同様、この障害も、未だ不明の環境因子と感受性遺伝子との相互作用の結果生じる。同時に、これらの因子が、免疫システムの関与、軸索および神経膠の急性炎症性傷害、機能回復および構造修復、炎症後の神経膠症、および神経変性などを含む一連のカスケードを誘発する。これらの過程が順次関与することが、回復を伴う症状、持続的な欠損を残す症状、および2次的進行を特徴とする臨床経過の根底にある。治療の目的は、再発の頻度を減らして、長く残る影響を抑制すること、症状を緩和すること、病気の進行に起因する身体障害を防ぐこと、および組織の修復を促進することである。
【0016】
統合失調症は、もっともありふれた精神疾患の1つである。100人に約1人(人口の1%)が統合失調症に冒される。この疾患は、世界中で、すべての人種および文化に見られる。統合失調症は、男女同数が罹患するが、ただし、平均すると男性の方が女性よりも早期に統合失調症を発症するようである。一般に、男性は20代の半ばに統合失調症の最初の徴候を示すが、女性は20代の後半に最初の徴候を示す。統合失調症は、米国においては毎年、推定325億ドルもの莫大な社会的コストをもたらしている。統合失調症は、以下の症状のいくつかを特徴とする:妄想、幻覚、まとまりのない思考および発言、陰性症状(引きこもり、感情および表情の欠如、活力、意欲および活動の減退)、緊張症など。統合失調症の主な治療法は、クロルプロマジン、ハロペリドール、オランザピン、クロザピン、チオリダジンなどの神経遮断薬に基づいている。しかし、神経遮断薬治療はしばしば、統合失調症のすべての症状を緩和するとは限らない。さらに、抗精神病薬による治療は、遅発性ジスキネジアなどの重篤な副作用をもたらす可能性がある。統合失調症の病因は、強い遺伝的影響があるようだが、明らかではない。最近、統合失調症には、神経変性疾患の側面が少なくともいくつかあることが明らかになってきた。特にMR研究によって、統合失調症患者では皮質の灰白質が急激に消失することが明らかになっている(Th
ompson, et al. (2001), Proc Natl Acd Sci
U S A, 98, 11650−5; Cannon, et al. (2002), Proc Natl Acad Sci U S A, 99, 3228−33)。したがって、TWEAK阻害などの神経保護薬処方による統合失調症患者の治療は正当なものとされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記を考慮すると、可塑性および機能の回復促進、または神経系における細胞死に関係する神経系疾患などの神経学的および/または精神医学的な症状を治療するための薬剤が必要とされている。特に、関係する神経細胞に神経保護作用を与えて、神経系疾患を治療することが必要とされている、
【課題を解決するための手段】
【0018】
これらの問題は、本発明によって、すなわち、神経学的および/または精神医学的な症状を治療および/または予防する薬剤を製造するために、神経細胞において、TWEAKおよび/またはTWEAKレセプターの発現もしくは活性を調節もしく阻害する物質を使用することによって解決される。すなわち、これによって、神経細胞において、TWEAKもしくはTWEAKレセプターの発現もしくは活性、またはTWEAKおよびTWEAKレセプターの発現もしくは活性を調節もしく阻害する物質、またはTWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節もしく阻害する物質を用いて、神経学的または精神医学的な症状を治療もしくは予防、または治療および予防する方法がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
「物質」という用語は広義に理解されるべきであり、一般的に、直接的または間接的に所望の効果をもたらすすべての物的手段を意味する。1例として、本発明に係る物質は、核酸またはタンパク質、TWEAKまたはTWEAKレセプターの天然または人工の結合パートナー、抗体、TWEAKレセプターのアンタゴニスト、TWEAKレセプターアンタゴニストのペプチド模倣体、アンチセンス核酸、アプタマー、天然または人工の転写因子、核酸構築物、ベクターまたは低分子量化合物であり得る。
【0020】
「調節する」または「調節」は、少なくとも1つの本質的な特性が増加または減少すること、またはTWEAKの発現が増加または減少することを意味する。「阻害する」または「阻害」は、さまざまな細胞生物学的機構に基づく発現または活性を部分的に、または本質的には完全に抑制または阻止することを含む。統計的確率を用いて、どちらの場合にも、未処理の細胞を比較して、有意な差異を観察することができる。
【0021】
「活性」という用語は、本発明によれば、TWEAKがレセプターに結合、および/またはレセプターを活性化できることを意味する。
【0022】
「治療」は、病気または症状の進行を遅らせ、妨害し、停止させ、または休止させることを意味するが、すべての病徴および徴候を完全に除去することを必ずしも必要とはしない。「予防」は、病気または症状の徴候または病状の開始時期または重篤度を任意の程度に阻害することであって、病気または症状を完全に防止することを含むが、これに限定されるものではないと理解されている。
【0023】
これらの効果を得るために、物質を治療上有効量にして投与する。本発明による治療上有効量は、治療を受ける患者に有益な効果をもたらす。このような量は、各患者について、年齢、人種、性別、およびその他の因子に基づいて決定することができる。因子を併用して投与するときは、投与前にそれらを混合し、同時に投与するか、または1つずつ順次
投与することができる。投与経路は、例えば、経口投与、皮下投与、経皮投与、直腸投与、静脈内投与、動脈内投与、脳への直接注射、(鼻内噴霧による)鼻腔内投与および非経口投与などの典型的経路を含むことができる。
【0024】
当業者は、所望の形でTWEAKに影響を及ぼすために多数の異なる方法が利用可能であることを認識しているはずである。この点について、下記に説明する方法は、例示であると理解されるべきである。
【0025】
好適な実施形態において、TWEAKもしくはそのレセプターの発現もしくは活性を調節もしくは阻害するか、または、このレセプターからの細胞内シグナル伝達に影響を与えることができる物質は抗体である。まず、このような抗体自体が化合物の成分となっており、TWEAK、TWEAKレセプター、またはTWEAKレセプターによって誘発されるシグナル伝達経路にあるタンパク質に対する特異的結合親和性を有し、および/または、これらのタンパク質の少なくとも1つの本質的な性質を調節することができる。「抗体」という用語は、本発明によれば、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体およびヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、合成抗体、またはこれらの抗体の断片を含む。本発明による断片はすべて、抗原に相補的な1つまたは2つの結合部位を有する、切断または修飾を受けた抗体断片である。好適なのは、Fv、FabおよびF(ab)のように切断を受けた2本鎖断片である。これらの断片は、例えば、パパインまたはペプシンなどの酵素を用いて抗体のFc部分を切断することによって酵素的に、または、化学酸化もしくは組換えによる抗体遺伝子の操作によって得ることができる。
【0026】
すべての抗体は、結合型または可溶型で用いることができ、標識化されていてもよい。標識化とは、検出可能な物質に直接または間接的に結合することを意味する。本発明による抗体は、融合タンパク質の一部でもよい。これらの融合タンパク質は、酵素による切断、タンパク質合成、または当業者に知られている組換え技術によって製造することができる。
【0027】
本発明による抗体は、IgM、IgG、IgD、IgEおよびIgAなど、すべての免疫グロブリンクラス、またはIgGのサブクラスであるIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3またはIgGMなど、それらのサブクラス、またはそれらの混合物を意味すると解される。特に好適なものは、IgGのサブタイプであるIgG17kまたはIgG2b/kである。
【0028】
モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ技術(Koehler and Milstein, Nature (1975), 256: 495−397; US 4 276 110)によるなど、当業者が精通している技術によって得ることができる。ポリクローナル抗体は、抗原を用いて免疫された動物の血清に由来する抗体分子の不均一な混合物である。本発明によれば、抗体は、抗体を精製することにより得られるポリクローナル単一特異性抗体でもある。
【0029】
これらの抗体または断片はすべて、単独または混合物で用いることができる。抗TWEAK抗体の例は、AB.G11抗体である(Jakubowski et al., J. Cell. Sci. 2002. Jan 15, 115 (Pt2): 267−74)。
【0030】
好適な実施形態において、TWEAKまたはそのレセプターの発現または活性を調節または阻害する能力のある物質は、アンチセンスヌクレオチド酸配列である。アンチセンスヌクレオチド酸配列はmRNAレベルで作用し、タンパク質に翻訳されるのを阻止する(Kurreck, Eur. J Biochem. (2003), 270 : 1
628−1644)。
【0031】
「アンチセンス」核酸配列とは、核酸配列のセンス鎖の一部に対し完全にまたは部分的に相補的な核酸配列を意味する。本発明に係るアンチセンスヌクレオチド酸配列はTWEAKの核酸配列のコード領域もしくはその断片、またはその機能的同等物もしく機能的に同等なその断片に対して相補的である。したがって、アンチセンスヌクレオチド配列は、TWEAKレセプター、または各伝達経路に由来するタンパク質、またはその断片と相補的であり得る。しかし、アンチセンス核酸配列は、非コード領域またはその一部に相補的であってよい。1つの好適な実施形態において、アンチセンス核酸は、長さが、例えば、15、20、25、30、35、40、45または50個のヌクレオチドであるオリゴヌクレオチド、好適には15、16、17、18、19または20個のヌクレオチドであるオリゴヌクレオチドである。
【0032】
アンチセンス核酸は、当業者が精通している方法を用いて、化学的および/または酵素的に調製することができる。これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドを、非天然塩基、修飾された糖または変性リン酸骨格をもつアナログで修飾することができる。修飾ヌクレオチドは、アンチセンス核酸の生物学的安定性、またはアンチセンス鎖核酸とセンス鎖核酸との間に形成される2重鎖の物理的安定性を高めることができる。ホスホロチオエート誘導体およびアクリジン置換ヌクレオチドが、例として言及されるかもしれない(Eckstein, Antisense Nucleic Acids Drug Dev.
(2000), 10:297−310)。あるいは、アンチセンス核酸は、対応する核酸が、適合するプロモーターの下流にアンチセンス方向に挿入されている発現ベクターを用いて、生物学的に作成することもできる。当業者は、あるいは、cDNAを適切なアンチセンス構築物の開始用鋳型として用いることができるという事実を知っている。
【0033】
「第2世代」アンチセンスヌクレオチドには、リボヌクレアーゼHによる標的RNAの切断を誘導することができないものがある。1つの好適な実施形態において、「ギャップマー(gapmer)技術」が、このようなタイプの修飾ヌクレオチドに使用される。ギャップマーは、リボヌクレアーゼHを活性化するのに十分なDNAまたはホスホロチオエートDNAモノマーの中心部配列と、両末端にある第2世代の修飾ヌクレオチドとから成る。これらには、ペプチド核酸、N3’−P5’ホスホロアミデート、2’−デオキシ−2’−フルオロ−β−D−アラビノ核酸、ロックされた核酸、モルホリノオリゴヌクレオチド、シクロヘキセン核酸、およびトリシクロDNAであろう(Kurreck, Eur. J Biochem. (2003), 270: 1628−1644)。
【0034】
高効率の細胞内への取り込みを仲介し、核酸分解からアンチセンスヌクレオチドを保護する送達システムは、当業者に知られており、本発明により使用することができる(Hughes et al., (2001) Drug Discovery Today, 6: 303−315; Liang et al., (2002) Eur. J. Biochem, 269: 5753−5758)。
【0035】
2本鎖RNAによる遺伝子干渉(RNAi)は、2本鎖RNA分子が存在することにより、共通配列を有する遺伝子の発現を低下または無にする遺伝子発現抑制機構である。好適な実施形態において、TWEAKまたはTWEAKレセプターの発現もしくは活性を調節もしく阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節もしく阻害する物質がsiRNAである。本明細書において用いられる場合、「siRNA」という用語は、RNA干渉を仲介する能力のある任意の核酸分子を意味する。
【0036】
好適には、本発明の標的mRNAに相補的なdsRNA分子は、長さが10から30塩基対であり、より好適には、長さが19から25塩基対の間である。siRNAは、当業
者に知られている任意の方法によって標的細胞に送達することができる。利用可能なものは、例えば、カチオン性リポソーム試薬を使用する送達法である。サイトカインmRNAに対するsiRNAは、それをコードするDNAを用いて得られると考えられる。この場合、所望のサイトカインのコード領域の19〜25ヌクレオチドの配列、およびヘアピン・ループを形成することができる適当なリンカーによってセンス鎖から隔離されているアンチセンス配列の両方を含むDNA構築物がベクターに挿入される。このような構築物の設計については、例えばBrummelkampら(Science 2002 Vol. 296, pages 550−553)にさらに記載されている。
【0037】
本発明の好適な実施形態において、アンチセンスヌクレオチドおよび/またはsiRNAは、ウイルスベクターまたはリポソームによって提供される。適当なベクターと発現対照配列の選択法、およびベクターの構築法は公知である。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルス(Acsadi et al., Hum. Gene Ther. 7(2): 129−140 (1996); Quantin et al., PNAS USA 89(7): 2581−2584 (1992); およびRagot
et al., Nature 361 (6413): 647−650 (1993))、アデノ関連ウイルスベクター(Rabinowitz et al., Curr. Opin. Biotechnol. 9(5): 470−475 (1998))、レトロウイルスベクター(Federico, Curr. Opin. Biotechnol. 10(5): 448−453 (1999))、単純ヘルペス性ウイルスベクター(Latchman, Gene 264(1): 1−9 (2001))、レンチウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、またはセムリキ森林熱ウイルスベクターなどがある。
【0038】
適当なベクターは、神経細胞に付着するタンパク質を含有するリポソームでもある。このような輸送系の一例がHVJリポソームである(Kaneda, et al. (2002), Mol Ther, 6, 219−26. Kaneda (1999), Mol Membr Biol, 16, 119−22)。好適には、タンパク質またはポリペプチドをコードして発現する単離および精製された核酸は、神経細胞においての発現に適したプロモーターに機能できるように結合している。これらまたは他の適当なベクターは、Kay et al., Nature Medicine 7: 33−40 (2001); Somia et al., Nature Reviews
1: 91−99 (2000); および van Deutekom et al., Neuromuscular Disorders 8: 135−148 (1998)において概説されている。
【0039】
単離および精製された核酸に機能できるように結合するための適当なプロモーターは、当技術分野において公知である。好適には、ポリペプチドをコードする、単離および精製された核酸が、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター(Jaynes et al., Mol. Cell Biol. 6: 2855−2864 (1986))、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、テトラサイクリン/ドキシサイクリンにより調節可能なプロモーター(Gossen et al., PNAS USA 89: 5547−5551 (1992))からなるグループより選択されたプロモーターに機能できるように結合する。
【0040】
通常、本発明のベクターの効率的な転移を確実にするために、所定の投与経路を考慮して、接触される細胞の概数に基づき、1細胞当たり約1〜約5,000コピーのベクターを用いるが、約3〜約300pfuが各細胞に入ることがさらに好適である。これらのウイルス量は、需要、およびインビトロ、またはインビボで用いるかによって変わりうる。実際の投与量および計画も、組成物が、例えば、医薬組成物など他の組成物と併用して投
与されるか否かによって、または、薬物動態学、薬物の性質、および代謝における個体差によっても変わりうる。同様に、量も、インビトロでの適用において、細胞の具体的なタイプ、またはベクターを転移させる手段によって変わりうる。
【0041】
本発明の好適な実施形態において、神経細胞において、TWEAKおよび/またはTWEAKレセプターの発現または活性を調節または阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節または阻害する物質はリボザイムである。本明細書で用いられる場合、「リボザイム」は、特異的認識のためのアンチセンス配列、およびRNA切断酵素活性を含むRNA分子を含むものとする。リボザイムは、相補的な塩基対のハイブリダイゼーションによって標的mRNAを標的とするように設計されている。標的に結合すると、リボザイムの酵素活性は標的mRNAを切断して、それがタンパク質に翻訳されないようにする。本発明においては、2つの型のリボザイム、すなわちハンマーヘッド型リボザイム(Rossi et al., (1991) Pharmac. Ther. 50: 245−254)およびヘアピン型リボザイム(Hampel et al. (1990), Nucl. Acid. Res. 18: 299−304)が特に有用である。
【0042】
特定のタンパク質を減少させるためのリボザイムの発現が当業者に知られている。適当な標的配列およびリボザイムを、リボザイムおよび標的RNAの2次構造計算によって、およびそれらの相互作用によっても決定することができる。
【0043】
本発明に係るリボザイムは、典型的にはRNAからなるが、このようなリボザイムは、キメラ核酸配列からなっていてもよい。さらに、リボザイムを化学的に修飾して、リボザイムをより安定させ、活性化することもできる。
【0044】
本発明の好適な実施形態において、神経細胞における、TWEAKおよび/またはTWEAKレセプターの発現または活性を調節または阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節または阻害する物質は、TWEAKレセプターのアンタゴニストである。本発明によれば、「アンタゴニスト」は、生理学的に活性な伝達物質またはそれらのアナログを置換することによってレセプターを阻止することができ、その結果、生理的反応および/またはシグナル伝達を誘導しない物質を意味する。
【0045】
本発明の好適な実施形態において、アンタゴニストは、分子量が2000g/mol未満、好適には1000g/mol未満、特に好適には750g/mol未満、そして、もっとも好適には500g/mol未満である。
【0046】
本発明の好適な実施形態において、神経細胞において、TWEAKおよび/またはTWEAKレセプターの発現または活性を調節または阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節または阻害する物質は、TWEAKレセプターの可溶性部分である。本発明に係るTWEAKレセプターの可溶性部分は、TWEAKに結合することができるためTWEAKを阻止することができるが、生理的活性および/またはシグナル伝達を誘導することができないTWEAKレセプターの一部、またはその機能的同等物であると理解されるべきである。好適には、これはTWEAKレセプターのN−末端部、またはその変異型である。TWEAKレセプターの可溶性部分は、タンパク質分解または遺伝子工学として当業者に知られている方法により製造することができる。
【0047】
本発明に従って治療することができる神経学的症状は、一般に、虚血または低酸素の機序(病態生理学的機構)をもつ疾患、神経変性疾患、および神経細胞死を伴う神経学的および精神医学的疾患という3つのクラスに分類することができる。
【0048】
虚血症および/または低酸素症を含む病態生理学的機序をもつ疾患は、脳梗塞(および出血性脳梗塞)、蘇生後の脳虚血、分娩時低酸素症、手術中の低酸素症および/または虚血、および眼球内の低酸素症および/または虚血にさらに下位分類することができる。
【0049】
神経変性疾患の例としては、脳梗塞、ALS、パーキンソン病、脳虚血、多発性硬化症、統合失調症、うつ病、ハンチントン病、トリヌクレオチドリピート病(trinucleotide repeat disorders)、末端神経障害、痴呆、および、CNS外傷などがある。
【0050】
神経細胞死に付随する神経系の疾患の例としては、脳梗塞、ALS、パーキンソン病、脳虚血、蘇生後の脳虚血、心疾患[循環器疾患]、多発性硬化症、統合失調症、intrapartal 低酸素症、intrapartal低酸素症、術中の低酸素症および/または虚血、および眼球内の虚血および/または低酸素症、うつ病、ハンチントン病、トリヌクレオチド反復障害、末端神経障害、認知症、およびCNS外傷などがある。
【0051】
また、血液脳関門を通過する能力を高めるか、または、その分配係数を脳組織にシフトさせる本発明に係る物質の修飾も好適である。このような修飾の一例が、タンパク質導入ドメイン(PTD)またはTAT配列の付加である(Cao G, et al (2002) J. Neurosci. 22: 5423−5431; Mi Z et al. (2000) Mol. Ther. 2: 339−347; Morris
et al (2001) Nat Biotechnol 19: 1173−1176; Park et al (2002) J Gen Virol 83: 1173−1181)。これらの配列は、変異型にして使用することができ、付加的アミノ酸とともにタンパク質のアミノ末端またはカルボキシル末端に付加することができる。
【0052】
本発明に係る上記物質は、当技術分野において標準的な方法によって、医療目的で処方することが可能であり、例えば、医薬的に許容される担体(または賦形剤)を添加することが可能である。担体または賦形剤は、活性成分の媒体または培地として利用できる固体、半固体または液体の物質であり得る。適当な投与形態および方式は、選択された製品の具体的な特徴、治療すべき病気または症状、病気または症状の段階、および他の関連する事情に応じて選択することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (1990))。医薬的に許容される担体または賦形剤の割合および種類は、選択された物質の可溶性および化学的特質、選択された投与経路、および標準的な薬務により決定される。医薬品は、経口、非経口または局所での使用に適合させることができ、錠剤、カプセル、坐薬、溶液、懸濁液などの形で患者に投与することが可能である。
【0053】
好適な実施形態において、薬剤はさらに、1つ以上の追加因子を含む。本発明による「追加因子」は、薬剤の有益な効果をさらに支援する任意の物質である。ブラジキニン、または類似物質を、任意の製剤を静脈に適用するときに追加すると、それが脳または脊髄へ送達されるのを支援するはずである(Emerich et al (2001) Clin Pharmacokinet 40:105−123; Siegal et al (2002) Clin Pharmacokinet 41:171−186)。抗アポトーシス剤、または血液脳障壁の通過を容易にする薬剤も使用することができる。当業者は、個々の病気を治療するのに有益な追加因子を熟知している。
【0054】
好適な実施形態において、本発明は、TWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質を同定する方法であって、脳梗塞を模倣した条件下で神経細胞培養物をインキュベートすること、物質を細胞と接触させること、および、これらの細胞のTWEAK遺伝子発現のレベルを、物質に接触していないが同一の条件下で培養された細胞のTWEAK遺
伝子発現のレベルと比較することを含む方法に関する。
【0055】
「脳梗塞を模倣した条件」は、例えば、アポトーシスを誘導する物質、ハンティンドンタンパク質の発現、または酸素グルコース欠乏によって作出することができる。遺伝子発現を測定する方法は、当業者によく知られている。これらの方法によって同定される物質は、神経学および/または精神医学的な症状を治療および/または予防する薬剤を製造するためにも使用することができる。
【実施例1】
【0056】
実施例
TWEAKは、MPSS技術を使用して、齧歯類において有効な脳梗塞モデルであるMCAOモデルにおいてアップレギュレーションされる配列として同定された。脳虚血中の遺伝子発現の変化は、虚血の病態生理学および脳梗塞の転帰にとって重要性をもつ。そのため、本発明者らは、TWEAKを、脳梗塞、および脳梗塞と同じ中枢機構をもつ、神経変性などの他の神経学的症状における重要な新規の薬理学的標的であると考えている。
【0057】
実施例に使用した方法
虚血モデル
脳梗塞の中大脳動脈閉塞モデル(MCAO)を使用した。マウスは70%NO、30%O、および1%のハロタンで麻酔した。外頸動脈をプレパラート処理して(preparated)、5−0のナイロンフィラメントを挿入した。動脈を180°回転させると、フィラメントは、内頸動脈の内部へ入り、中大脳動脈に到達した。5−0ナイロンフィラメントは、先端を丸めてあった。閉塞が成功したら、レーザードップラー血流計を用いてモニターした(Perimed, Sweden)。90分間閉塞した後、20時間潅流を行った。その後、動物に深い麻酔をかけて殺し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)によって経心灌流(transcardial perfusion)を行った。酸性フェノール抽出法を用いて、RNAを得るために(小脳、嗅球、および脳幹を除去した)大脳半球前脳をさらに処理した。
【0058】
MPSS発現プロファイリング
発現をプロファイルするために、6匹の動物の(同側および対側の)脳半球由来のRNAをプールして、遺伝子発現における個体間の変動の影響を減少させた。大規模並行シグネチュア配列決定法(MPSS)を、本質的には既述されたように(Brenner et al., (2000) Nat. Biotechnol., 18:630−634)通りであるが、いくらかの変更を加えて行った。簡単に言うと、この方法では、RNAをcDNAに変換して、3’側最末端のDpnII断片を回収した。インビトロでのクローニング後、cDNA鋳型を別の直径5μmのガラスビーズ上に固定する。ロードするマイクロビーズを、高密度の単層を形成しているフローセルの中に置いた。遊離した鋳型の末端から短い配列を、蛍光に基づくライゲーションによる配列決定法によって同時に得る。得られたシグネチュア(14塩基)は、大多数(95%を超える。Velculescu et al., (1995) Science 270,484−7と比較のこと)の個別のcDNAを同定するのに十分な長さである。1個よりも多い遺伝子と一致するシグネチュア(非ESTまたはEST EMBLデータベースエントリだけを考慮)は、配列決定エラーおよび配列多型性と予測されるものを除いた一致配列のすべてについてクラスタ形成して検出することができる。
【0059】
MPSS解析のためのcDNAライブラリーを調製するために、5μgの全RNAを、50 pmolのT7−タグ付き−BsmBI−オリゴ−dT18Vプライマー(GGC
CAG TGA ATT GTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG
CTG CAT TGA GAC GAT TCT TTT TTT TTT TTT
TTT TTV)とともに70℃で変性、氷上で冷却し、25μL中、10mMジチオスレイトール(試薬はすべてInvitrogen, Karlsruhe, Germany)および0.5mMの各dNTP(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)の中で1反応用バッファー中の200UのSuperscript IIによって42℃で1時間逆転写した。第2鎖cDNA合成は、1第2鎖用バッファー(Invitrogen)中40UのDNAポリメラーゼI、2 UのリボヌクレアーゼH、10Uの大腸菌(Escherichia coli)DNAリガーゼ、および0.5mMの各dNTPを最終容量100μLにして加え、16℃で2時間行った。100mMのNaOH存在下、65℃で20分間RNAを加水分解した。反応生成物は、精製された、およびPelletPaint(Calbiochem−Novabiochem, Bad Soden, Germany)存在下、酢酸アンモニウムによって沈殿されたフェノール:クロロフォルムであった。
【0060】
2本鎖のT7−タグ付きcDNAを12μLのHOに溶解し、6μLを、T7 RNAポリメラーゼMegascriptキット(Ambion, Huntingdon,
UK)によるインビトロ転写に製造業者の指示に従って使用した。
【0061】
RNeasyカラム(Qiagen, Hilden, Germany)を用いてaRNAを精製して定量した。各サンプルについて、8μgのaRNAを、最初の合成(上記参照)と同一の条件下、1μgのランダムな6量体プライマーの存在下で逆転写した。第2鎖合成は、5’−ビオチンタグ付きBsmBI−オリゴ−dT18プライマー(ビオチン−GACATGCTGCATTGAGACGATTCTTTTTTTTTTTTTTTTTT)およびAdvantageTaq 2(Clonetech GmbH; Heidelberg, Germany)を用いてリニアPCR(linear PCR)として、製造業者の指示に従って行った。
【0062】
2本鎖の増幅cDNAをDpnIIで分解し、3’DpnII断片を、ストレプトアビジンを結合した常磁性ビーズ(Dynal Biotech, Hamburg, Germany)によって単離し、BsmBIの制限酵素分解によってビーズから遊離させた。DpnII/BsmBIの2本鎖cDNA断片のタグ付けは、この断片を、BbsIおよびBamHIで制限酵素分解したTAG−ベクター(pLCV)の中にクローニングして行った。各サンプルについてDH10B大腸菌(Invitrogen)をエレクトロポレーションした後、10個の独立したクローンを回収して、タグ付きのcDNAを含むプラスミドDNAを抽出した。PCRを用いて、プラスミドDNAからタグ付きcDNAを増幅し、相補的アンチタグをもつマイクロビーズ(LYNX, Hayward, CA)と混合した。タグをアンチタグにハイブリダイズさせてマイクロビーズ上にタグ付きcDNAを負荷させた。ビーズに搭載されたDNAをフローセルにロードされ、既述されている(Brenner et al., (2000) Nat. Biotechnol., 18: 630−634)通りにMPSS機器上でさらに処理する。
【0063】
統計データ
観察されたシグネチュアの頻度分布の統計的有意性を、(Audic and Claverie (1997), Genome. Res., 7:986−995)の等式(2)を用いて計算した。P値が0.001よりも小さいとき有意性があると見なした。
【0064】
定量的PCR
標準的なプロトコル(Chomczynski and Sacchi (1987), Anal. Biochem., 162, 156−159)に従ってRNAを単離し、その後、Qiagen RNeasy(商標)ミニキットで精製した。マウスのM
CAO後20時間の病変部位に対して同側および対側から組織サンプルを採取した。10μgの全RNAから、標準的な条件を用い、オリゴdTプライマー、superscript II逆転写酵素(Gibco)を用いてcDNAを合成した。Lightcycler(登録商標)装置(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いて、DNA2本鎖のSYBR−グリーン染色により定量的PCRを行った。周期条件は以下の通りである。95℃で10分間、95℃で5秒、65℃で10秒間、72℃で30秒間、87℃で10秒間を50サイクル行う。融解曲線は以下のパラメーターで行った:95℃から50℃に冷却;0.2℃/秒で99℃まで上げる。以下のプライマーペアを用いた:「mmtweak−144s」AAC GCT GTC TGC CCA GGAGCCおよび「mmtweak−305as」GGC CGA GGA TGA ACC TCA TAA TGG。Lightcycler(登録商標)
PCRを、SYBRグリーンのマスター混合液を用い、製造業者(Roche Diagnostics)の推奨するところに従って、Lightcycler PCRを行った。融解温度解析およびアガロースゲル電気泳動によって、生成物の特異性を確認した。サンプルのcDNA含有量を、サイクロフィリンの発現レベル(プライマー:「cyc5」ACC CCA CCG TGT TCT TCG AC;「acyc300」 CATTTGCCATGGACAAGATG)に対して標準化した。サイクロフィリンに対して標準化し、疑似操作された動物と比較した後、相対的な制御レベルを得た。エラーバーは、標準偏差を示し、これらは、3倍連続希釈cDNAサンプルから計算されており、測定の信頼性を反映する。
【実施例2】
【0065】
実施例2:動物モデルにおけるTWEAKの有効性
ラットにおける中大脳動脈閉塞(MCAO)の動物モデルを使って、脳梗塞におけるTWEAKの関与度を評価できる。要するに、動物は、70%NO、30%O、および1%ハロタンによる吸入麻酔を受ける。平均動脈圧および血液ガスを連続モニターするために、PE−50ポリエチレンチューブを右大腿動脈に挿入する。治療輸液を行うために、右大腿動脈にPE−50チューブを挿管する。実験の間、直腸温をモニターして、サーモスタット制御の加温パッドにより37℃に保つ(Fohr Medical Intruments, Germany)。総頸動脈に導入され、内頸動脈内まで入り込んでいるシリコン被覆ナイロンフィラメントによりMCAOを誘導する。MCA閉塞の成功は、ブレグマの後方4mmおよび中線から4mm側方に置かれたプローブをもつレーザードップラー血流計(Perimed 4000, Sweden)によって制御される。90分間閉塞させた後、フィラメントを抜いて再潅流させる。TTC染色法、およびコンピューターを利用した面積測定(イメージJ)により、梗塞容量を計算することができる。t−検定によって統計的有意性を計算し、p < 0.05で結果を有意であると見なす。
【0066】
TWEAKは、静脈内注入、または頭蓋内への(例えば脳室内への)直接注入として投与することできる。これによって、インビボにおける梗塞の転帰への予測された悪影響を証明することができる。脳梗塞によって活性化したTWEAKの作用による治療的介入の実現可能性を実証するために、中和抗体を(例えば脳室内に)投与することができる。
【実施例3】
【0067】
実施例3:TWEAKのアップレギュレーションを妨害する新規の神経保護物質を発見するためのスクリーニングシステムの構築
上記の脳虚血によるTWEAK誘導を利用して、新たな神経保護薬をスクリーニングすることは魅力的である。そのためには、神経系の特徴をもつ細胞(例えば、初代神経細胞、PC12細胞、SHSY5細胞など)を用いて、細胞培養システムを構築することができる。このような培養物は、インビトロにおける脳虚血モデルである酸素グルコース欠乏(OGD)によって処理することができる。TWEAKの誘導は、上記にしたような定量
的PCR、またはTWEAKプロモーターを含有する、ルシフェラーゼによるレポーター構築物を用いてモニターすることができる。発現は、ELISAシステムを用いてモニターすることもできる。そして、さまざまな濃度の目的とする物質で細胞を処理し、TWEAK産生の低下をスクリーニングすることができる。同様に、TWEAKレセプターの発現もモニターして、スクリーニングすることができる。
【実施例4】
【0068】
実施例4:培養神経細胞におけるTWEAKの効果を測定すること
培養細胞におけるTWEAK活性化の効果をモニターするために、初代培養神経細胞(または別の神経細胞)について、TWEAKおよびTWEAKレセプターFn14の細胞死を促進する活性の測定を行った。初代培養神経細胞:10から12個の皮質または海馬をラット胚E18から切り出す。HBSS(BioWhitakker, Taufkirchen, Germany)中10mg/mlトリプシン、5mg/ml EDTA/DNase(Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を用いて組織をばらばらにする。この分解を、1X B−27補助剤(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)、0.5mMのL−グルタミン、および25μMのグルタミン酸を含む4部のneurobasal培地を用いて停止させる。遠心分離後、ペレットを5mlの培地に溶解させて、細胞を24ウェルプレートの各ウェル当り250,000個の細胞という密度になるように、ポリ−L−リジンでコートされたガラスカバー片上にプレートする。NO供与体NOR3(Sigma)で処理するために、培養21日後の神経細胞をNOR−3の濃度を増加させながら24時間処理する。そして、濃度を上げながらTWEAKを添加することができる。また、TWEAKまたはTWEAKレセプターのアンタゴニストを加えることもできる。神経細胞死を読み出すために、さまざまな方法を用いることができる。例えば、ウエスタンブロット法を用いてPARP切断をアッセイすることができる。PARP切断を調べるためのウエスタンブロット法:初代神経細胞をプレートから掻き出して、2.5mg/mlのペプスタチン(Sigma− Aldrich, Seelze, Germany)およびアプロチニン(1:1000, Sigma−Aldrich)を含む氷冷PBSで2回洗浄する。ペレットを1容量の2%SDS(40μl)に再懸濁して、5μlのベンゾナーゼ(benzonase)溶液(40μlの100 mM MgCl2および9μlのベンゾナーゼ、Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)を加える。可溶化した後、1容量のPBSを加えて、タンパク質濃度を測定する(BCA−試験、Pierce, Rockford, IL, USA)。95℃で5分間変性させた後、100μgを8%SDSポリアクリルアミドゲル上で泳動させる。セミドライ・ブロッティングチャンバー(Whatman Biometra, Gottingen, Germany)を用いてタンパク質をニトロセルロース膜(Protan BA79, Schleicher & Schuell, Dassel, Germany)に移動させる。PBS/0.02% Tween 20中5%のミルク粉末によってブロットをブロッキングし、PBS/0.02% Tween 2で3回洗浄し、1次抗体(抗−切断PARP−抗体、Cell Signalling、1: 1000)とともに室温で1時間インキュベートする。洗浄後、ブロットを2次抗体(抗−ウサギ−抗血清HRP−結合、または抗−マウス−抗血清HRP結合したもの、Dianova, Hamburg, Germany 1: 4000)とともに室温で1時間インキュベートする。スーパーシグナル化学発光装置(Pierce, Rockford, USA)を用いてシグナルを検出し、Hyperfilm−ECL(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ, USA)に露出させる。PARPの切断は、ウインドウズ・イメージJ v1.29(http://rsb.info. nih. gov/ij/index.html)を用いて、走査オートラジオグラフィー上で定量することができる。
【0069】
あるいは、細胞死ELISA(Roche diagnostics)、LDHアッセイ法、カスパーゼgloアッセイ法(Promega)、または、細胞死または細胞生存を測定するために使用される他のアッセイ法が当業者に知られており、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は左側半球(虚血;y軸)を右側半球(非虚血;x軸)と比較したMPSS実験の結果を示している。同定されたシグネチュア(signature)の発生頻度が示されている。TWEAKに対するシグネチュア(「GATCCCTGTGGATTTTG」)が、虚血半球において41という頻度、反対側の非虚血半球(矢印;p=1.12 10−12)において0という頻度で同定された。シーケンスされたシグネチュアの総数は、左側半球については174812、右側半球については161809であった。
【図2】図2は、定量的PCRによって検出したところ、局所性脳虚血後20時間の病変部位と同側でtweakの特異的アップレギュレーションが3倍以上になることを示す。エラーバーは、連続した希釈測定の標準偏差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経学的もしくは精神医学的な症状、または神経学的および精神医学的な症状を治療、もしくは予防、または治療および予防するための薬剤を製造するための、神経細胞において、TWEAKの発現もしくは活性、もしくはTWEAKレセプターの発現もしくは活性、またはTWEAKおよびTWEAKレセプターの発現もしくは活性を調節もしく阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節もしく阻害する物質の使用。
【請求項2】
物質が抗体である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
物質がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1記載の使用。
【請求項4】
物質がsiRNAである、請求項1記載の使用。
【請求項5】
物質が、ウイルスベクターまたはリポソームによって提供される、請求項3または4記載の使用。
【請求項6】
物質がTWEAK−分解リボザイムである、請求項1記載の使用。
【請求項7】
物質が、TWEAKレセプターのアンタゴニストである、請求項1記載の使用。
【請求項8】
アンタゴニストが、1000g/molよりも小さな分子量である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
物質が、TWEAKレセプターの可溶性部分である、請求項1記載の使用。
【請求項10】
神経学的症状が、虚血もしくは低酸素症または虚血および低酸素症を含む病態生理学的作用機序を有する神経学的疾患、神経変性疾患、および神経細胞死を伴う神経系の疾患よりなるグループから選択される少なくとも1つの症状である、請求項1記載の使用。
【請求項11】
神経学的疾患が、虚血、もしくは低酸素症、または虚血および低酸素症を含む病態生理学的作用機序を有し、脳梗塞、救急蘇生術後の脳虚血、分娩時低酸素症(intrapartal hypoxia)、手術中の低酸素症および虚血、ならびに眼球内の虚血もしくは低酸素症または眼球内虚血および低酸素症からなるグループから選択される少なくとも1つの疾患である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
神経変性疾患が、脳梗塞、ALS、パーキンソン病、脳虚血、多発性硬化症、統合失調症、うつ病、ハンチントン病、トリヌクレオチドリピート病、末梢神経障害、認知症、およびCNS外傷からなるグループから選択される少なくとも1つの疾患である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
神経細胞死を伴う神経系の疾患が、脳梗塞、ALS、パーキンソン病、脳虚血、心臓血管疾患救急蘇生術後の脳虚血、多発性硬化症、統合失調症、分娩時低酸素症、手術中の低酸素症もしくは虚血または手術中の低酸素症および虚血、眼球内の虚血もしくは低酸素症または眼球内虚血および低酸素症、うつ病、ハンチントン病、トリヌクレオチドリピート病、末梢神経障害、認知症、およびCNS外傷からなるグループから選択される少なくとも1つの疾患である、請求項10記載の使用。
【請求項14】
薬剤が1つ以上の付加的因子をさらに含む、請求項1記載の使用。
【請求項15】
TWEAKの発現または活性を調節または阻害する物質であって、
a)脳梗塞を模倣した条件下で神経細胞培養物をインキュベートすること、
b)該細胞を該物質と接触すること、
c)これらの細胞のTWEAKの発現レベルを、該物質に接触させてはいないが、同一の条件下でインキュベートした細胞のTWEAK発現と比較することを特徴とする物質を同定する方法。
【請求項16】
神経細胞において、TWEAKの発現もしくは活性、もしくはTWEAKレセプターの発現もしくは活性、またはTWEAKおよびTWEAKレセプターの発現もしくは活性を調節もしく阻害する物質、または、TWEAKレセプターの細胞内シグナル伝達を調節もしく阻害する物質を用いて、神経学的もしくは精神医学的な症状を治療、もしくは予防、または治療および予防する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−532482(P2007−532482A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553571(P2006−553571)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001921
【国際公開番号】WO2005/080972
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(503299929)アクサロン バイオサイエンス アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】