移動体の受止装置
【課題】移動体の受止保持部が広い面積としていても、一つの駆動機構により、安定して、受止保持部を支持して移動させることができ、また、安定して、移動体の運動エネルギーを吸収できる移動体の受止装置の提供。
【解決手段】受止装置Sの駆動機構は、待機位置WPから移動体の受止位置SPまで受止保持部16を移動可能に、平行リンク機構22とモータ47とを備える。平行リンク機構は、受止保持部側の可動リンク片29と待機位置側の固定リンク片23との両縁に、リンクの一端側を可動軸支部42として他端側を固定軸支部41としたクロスリンクを備える。モータは、固定リンク片側の可動軸支部42Sを往復移動させる。所定の軸支部の周囲には、移動体受止時に受止保持部を待機位置側へ移動可能に、軸支部を引き込む引込用凹部55,56と、軸支部を移動させるガイド凹溝61と、軸支部に抵抗を与えるエネルギー吸収材63と、が配設される。
【解決手段】受止装置Sの駆動機構は、待機位置WPから移動体の受止位置SPまで受止保持部16を移動可能に、平行リンク機構22とモータ47とを備える。平行リンク機構は、受止保持部側の可動リンク片29と待機位置側の固定リンク片23との両縁に、リンクの一端側を可動軸支部42として他端側を固定軸支部41としたクロスリンクを備える。モータは、固定リンク片側の可動軸支部42Sを往復移動させる。所定の軸支部の周囲には、移動体受止時に受止保持部を待機位置側へ移動可能に、軸支部を引き込む引込用凹部55,56と、軸支部を移動させるガイド凹溝61と、軸支部に抵抗を与えるエネルギー吸収材63と、が配設される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、移動体を受け止めた受止保持部の待機位置側方向への移動時に、移動体の運動エネルギーを吸収可能な移動体の受止装置に関し、具体的には、車両と衝突する歩行者自体、車両の衝突時の運転者や助手席の搭乗者等の乗員の膝や上半身、あるいは、車両と衝突した歩行者を上面側に載せたフードパネル等、の移動体を、運動エネルギーを低減させて、安全に停止させるように受け止めることができる移動体の受止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の移動体の受止装置では、移動体としての歩行者を受け止めるフードパネルを持ち上げる受止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この受止装置では、歩行者の接近に対応させて、モータを駆動源としたねじ機構により、フードパネルを持ち上げるねじ棒を待機位置から上昇させて、フードパネルによって歩行者を受け止め可能とし、そして、歩行者のフードパネルによる受け止めを回避した際には、モータを逆転させて、フードパネルとともに、ねじ棒を待機位置に復帰させていた。そして、フードパネルによって歩行者を受け止める際には、フードパネルの塑性変形と、ねじ棒の逆転しつつ下降する摩擦力等により、歩行者の運動エネルギーを吸収していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−30644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の受止装置では、駆動機構が、ねじ棒を上下動させるものであって、移動体を受け止める受止保持部の受止面が面状に広ければ、一本のねじ棒では、安定して支持できず、広い受止保持部を複数のねじ棒で支持することとなり、それらのねじ棒を同時に昇降させる機構が、複雑となり、また、各ねじ棒のエネルギー吸収もバラつき易く、安定して移動体の運動エネルギーを吸収する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、移動体を受け止める受止保持部が受止面を広い面積としていても、一つの駆動機構により、安定して、受止保持部を支持して移動させることができ、また、安定して、移動体の運動エネルギーを吸収できる移動体の受止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動体の受止装置は、車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、移動体を受け止めた受止保持部の待機位置側方向への移動時に、移動体の運動エネルギーを吸収可能とし、かつ、受止保持部の受止位置への繰出後に移動体の受け止めを回避した際、受止保持部を待機位置に復帰させる移動体の受止装置であって、
受止保持部を移動させる駆動機構が、平行リンク機構と駆動源とを備えて構成され、
平行リンク機構が、
受止保持部の待機位置側の保持ベースと受止保持部とに配設されて、受止保持部の移動方向に沿って、相互に対向するように配置される保持ベース側の固定リンク片、及び、受止保持部側の可動リンク片、を備えて、
固定リンク片と可動リンク片との両縁側に、それぞれ、リンクを相互に交差させるとともに交差部位で相互に軸支させるクロスリンク、を配設させるとともに、リンクの一方の端部側を、固定リンク片若しくは可動リンク片に回動自在に軸支させる固定軸支部とし、リンクの他方の端部を、可動リンク片若しくは固定リンク片に設けた摺動溝に摺動可能に軸支させた可動軸支部として、
構成され、
駆動源が、
固定リンク片側の可動軸支部と一体的に連結される連結部と、
連結部を摺動溝に沿って往復移動可能に保持して保持ベース側に配置される可逆式のアクチュエータと、
を備えて構成され、
固定軸支部と可動軸支部との周囲における固定リンク片側若しくは可動リンク片側に、受止位置に配置された受止保持部における移動体の受止時、受止保持部を待機位置側へ移動可能に、固定軸支部と可動軸支部とを引き込み可能な引込用凹溝が、配設されるとともに、
引込用凹溝の周囲に、移動体の受止回避時における受止保持部の待機位置側への復帰を可能に、固定軸支部と可動軸支部との引込用凹溝内への引き込みを規制し、かつ、移動体の受止時における固定軸支部と可動軸支部との引込用凹溝内への引き込みを、変形して、可能にする規制部が、配設され、
固定軸支部側若しくは可動軸支部側の少なくとも一方の引込用凹溝に、受止保持部を待機位置側へ移動可能とするように、引込用凹溝内に引き込まれた固定軸支部若しくは可動軸支部を、固定リンク片に沿って移動可能なガイド凹溝が、連通されるとともに、
ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部の周囲に、移動する固定軸支部若しくは可動軸支部に抵抗しつつ、移動体の運動エネルギーを吸収可能なエネルギー吸収材が、配設されて構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る移動体の受止装置では、作動時、アクチュエータが作動されれば、連結部を移動させて、連結部に連結された可動軸支部が、摺動溝を摺動し、クロスリンクの各リンクを立ち上がらせて、可動リンク片を固定リンク片から離すように平行移動させることから、可動リンク片を設けた受止保持部が、待機位置から受止位置まで繰り出される。そして、受止保持部が、受止面によって移動体を受け止めれば、規制部を変形させて、所定の固定軸支部若しくは可動軸支部が、引込用凹溝に引き込まれ、さらに、固定リンク片に沿ってガイド凹溝内を移動し、ガイド凹溝内の移動距離分に対応して、受止保持部が、待機位置側に平行移動する。と同時に、ガイド凹溝内を移動する所定の固定軸支部若しくは可動軸支部は、エネルギー吸収材の抵抗を受けつつ移動することから、エネルギー吸収材が、移動体の運動エネルギーを吸収して、移動体の受止保持部との衝撃を緩和できることとなる。
【0008】
一方、受止保持部が移動体の受止を回避した際には、アクチュエータが、連結部を逆方向に移動させて、クロスリンクの各リンクを、固定リンク片や可動リンク片と略平行となるように、倒すように移動させることから、受止保持部が、平行移動しつつ、待機位置に復帰されることとなる。この時、規制部が、変形せずに、所定の固定軸支部若しくは可動軸支部の引込用凹溝内への引き込みを防止するため、クロスリンクが、円滑に復帰する方向へ移動できて、受止保持部を待機位置に平行移動させる。
【0009】
そして、本発明に係る受止装置では、平行リンク機構の一対のクロスリンクを両縁部の相互に配置させた可動リンク片が、固定リンク片と対応させて、受止本体部の裏面側において、一対のクロスリンクの計四本のリンクの先端部側で四点支持されつつ、二つのクロスリンク間の広い幅寸法を確保し、かつ、各クロスリンクの二つのリンクの軸支部位間の長い長さ寸法を確保して、広い面状に配置させることができる。そのため、受止保持部の受止面が広い面積としていても、可動リンク片が、受止保持部の裏面側で広い面積を確保して、配置させることができるとともに、一対のクロスリンクや保持ベース側の固定リンク片と協働して、受止保持部を、安定して、支持し、かつ、平行移動させることができる。
【0010】
また、移動体の運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材は、ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部に抵抗を与えるように、それらの固定軸支部や可動軸支部の周囲に設けても、平行リンク機構が、安定して受止保持部を待機位置側へ平行移動させつつ、それらの固定軸支部や可動軸支部を移動させることができることから、ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部の移動ストロークに対応させて、安定した運動エネルギーの吸収特性を、確保することができる。
【0011】
したがって、本発明に係る移動体の受止装置では、移動体を受け止める受止保持部が受止面を広い面積としていても、一つの駆動機構により、安定して受止保持部を支持して平行移動させることができ、また、安定して、受止保持部を平行移動させつつ、移動体の運動エネルギーを吸収することができる。
【0012】
そして、本発明に係る移動体の受止装置では、ガイド凹溝が、引き込まれた固定軸支部側の引込用凹溝に、連通するように配設することが望ましい。このような構成では、ガイド凹溝を、摺動溝を設けた可動軸支部側でなく、摺動溝の無い分、配置スペースに余裕が生ずる固定軸支部側に、設けることができて、強度を確保して容易に摺動溝やガイド溝を配設することができる。
【0013】
また、本発明に係る移動体の受止装置では、アクチュエータを、可逆回転可能とした出力軸にピニオンを設けたモータから構成し、連結部を、ピニオンに噛合するラックを設けて、ピニオンの回動により、往復移動可能に構成すれば、モータの正転と逆転とにより、簡便に、受止保持部を往復移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る一実施形態の受止装置を配置させた車両の斜視図である。
【図2】実施形態の受止装置を配置させた車両の概略部分縦断面図である。
【図3】実施形態の受止装置の作動時の概略横断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】実施形態の受止装置の概略斜視図であり、受止保持部を受止位置に配置させた状態を示す。
【図5】実施形態の受止装置の概略斜視図であり、受止保持部を待機位置に配置させた状態を示す。
【図6】実施形態の受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図7】実施形態の受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【図8】実施形態の変形例における受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図9】図8に示す受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【図10】実施形態の他の変形例における受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図11】図10に示す受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の受止装置Sを図面に基づいて説明すると、実施形態の受止装置Sは、図1〜3に示すように、車両Vに衝突する際の歩行者Mを、受け止める移動体、とするもので、フロントバンパ5とその上方のフードパネル6との間で、ラジエータ8の前方に配置されるフロントグリル17を保持して、構成されている。
【0016】
なお、本明細書での上下・前後・左右の方向は、受止装置Sが車両Vに搭載された状態を基準とするもので、車両Vの上下・前後・左右の方向と一致するものである。
【0017】
受止装置Sは、制御装置11により作動を制御されるものであり、制御装置11は、車両Vの歩行者Mとの衝突前に、ミリ波レーダ等からなる衝突予測センサ12からの信号に基づき、車両Vの歩行者Mとの衝突を予測した際、受止装置Sの駆動機構21を作動させて、図3,6に示すように、待機位置WPから受止位置SPまで、歩行者Mを受け止めるための受止保持部16を繰り出すように構成されている。さらに、制御装置11は、歩行者Mとの実際の衝突を検知する圧力センサ等からなる衝突検知センサ13からの信号を入力するように構成されており、受止装置Sを作動後、一定時間経過しても、衝突検知センサ13からの信号に基づいて歩行者Mとの衝突を検知しなければ、歩行者Mの受止を回避できたと判断し、受止保持部16を受止位置SPから待機位置WPに復帰させるように、受止装置Sを作動させる。
【0018】
そして、受止装置Sは、図2〜5に示すように、バンパリインフォースメント2から延びるブラケット3に連結された保持ベース20と、フロントグリル17を有した受止保持部16と、受止保持部16を移動させる駆動機構21と、エネルギー吸収材63と、を備えて構成されている。なお、バンパリインフォースメント2は、車両Vのボディ側部材1であり、安定して保持できれば、保持ベース20のボディ側部材1側への連結部位は、バンパリインフォースメント2に限定されるものではない。
【0019】
受止保持部16は、前面側のフロントグリル17と、フロントグリル17をその後面側で保持する保持板18と、を備えて構成されている。この受止保持部16では、歩行者Mを受け止める受止面16aが、フロントグリル17の前面側の上下左右に広い面積として、設定されている。また、保持板18は、実施形態の場合、駆動機構21の後述する可動リンク片29の基板部30と兼用としている。また、受止保持部16の待機位置WP側に配置される保持ベース20も、駆動機構21の後述する固定リンク片23の基板部24と兼用としている。
【0020】
駆動機構21は、平行リンク機構22と、平行リンク機構22を移動させる駆動源45と、を備えて構成されている。駆動源45は、制御装置11に作動を制御されるアクチュエータ46と、平行リンク機構22の後述する可動軸支部42Sの支持軸43を連結させた連結部51と、を備えて構成されている。アクチュエータ46は、実施形態の場合、出力軸(回転駆動軸)48を正転と逆転とに回転可能なモータ(実施形態の場合、DCモータ)47から構成され、このモータ47の出力軸48には、先端にピニオン49が組み付けられている。
【0021】
連結部51は、内周面にピニオン49に噛合するラック53を設けた挿入孔52を備えた長方形板状としている。連結部51は、後面51a側を後述する規制部59に支持されている。
【0022】
なお、モータ47は、出力軸48に駆動力を伝達するまでに、モータ本体に対して、歯車を利用した減速機構を連結させて構成してもよい。
【0023】
平行リンク機構22は、保持ベース20側の固定リンク片23と、受止保持部16の保持板18側の可動リンク片29と、一対のクロスリンク35と、を備えて構成されている。
【0024】
固定リンク片23と可動リンク片29とは、受止保持部16の移動方向(実施形態の場合、前後方向)に沿って、相互に対向するように配置されている。そして、これらの固定リンク片23と可動リンク片29とは、前後で対向し、相互に平行として、受止保持部16の移動方向(実施形態の場合、前後方向)と直交方向の上下方向と左右方向とに広く延びる略長方形の基板部24,30と、基板部24,30の両縁から、実施形態の場合、上下の縁から、相互に接近するように伸びる支持壁25,26,31,32と、を備えて構成されている。これらの支持壁25,26,31,32は、クロスリンク35の各リンク36,37の元部36a,37aや先端部36b,37bを軸支する部位となる。
【0025】
一対のクロスリンク35は、それぞれ、同長の二つのリンク36,37を相互に交差させるとともに交差部位35aで相互にピン38によって軸支させて構成され、固定リンク片23と可動リンク片29との両縁側相互、実施形態の場合、上縁側の支持壁25,31相互と、下縁側の支持壁26,32相互と、に各リンク36,37の元部36a,37aや先端部36b,37bを軸支させている。
【0026】
そして、固定リンク片23側の支持壁25,26に軸支されるリンク37,37の元部37a側が、可動軸支部42(42S)とし、左右方向に沿って延びるように支持壁25,26に設けられた摺動溝27に摺動可能として、支持壁25,26に軸支されている。実施形態の場合、リンク37,37の元部37a相互が、一本の支持軸43によって連結されて、可動軸支部42(42S)を構成し、その支持軸43が、左右方向に沿って、摺動溝27内を摺動可能として、支持壁25,26に支持されている。
【0027】
また、可動リンク片29側の支持壁31,32に軸支されるリンク36,36の先端部36b側が、可動軸支部42(42M)とし、左右方向に沿って延びるように支持壁31,32に設けられた摺動溝33に摺動可能として、支持壁31,32に軸支されている。実施形態の場合、リンク36,36の先端部36b相互が、一本の支持軸43によって連結されて、可動軸支部42(42M)を構成し、その支持軸43が、左右方向に沿って、摺動溝33内を摺動可能として、支持壁31,32に支持されている。
【0028】
なお、リンク37,37の先端部37bは、相互に一本の支持軸41によって連結される固定軸支部40(40S)として、その支持軸41を可動リンク片29の支持壁31,32に設けた軸支孔34に回動可能に支持させている。また、リンク36,36の元部36aも、相互に一本の支持軸41によって連結される固定軸支部40(40M)として、その支持軸41を固定リンク片23の支持壁25,26に設けた軸支孔28に回動可能に支持させている。
【0029】
そして、実施形態の場合、リンク37,37の元部37a相互を連結する可動軸支部42Sの支持軸43が、連結部51を貫通しつつ連結部51と連結されている。そのため、図3のA,Bに示すように、モータ47の出力軸48が時計回り方向に回転すれば、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、右方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の左端27a側から右端27b側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の左端33a側から右端33b側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、固定リンク片23や可動リンク片29と略平行な状態から、前後方向に沿う方向に立ち上がるように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23から離れる前方側へ、平行移動させることとなる。そして、受止保持部16が、待機位置WPから歩行者Mを受け止める受止位置SPまで、平行移動する。
【0030】
逆に、図3のB,Aに示すように、モータ47の出力軸48が反時計回り方向に回転すれば、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、左方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の右端27b側から左端27a側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の右端33b側から左端33a側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、倒れるように回転し、すなわち、固定リンク片23や可動リンク片29に沿うように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23に接近させる後方側へ、平行移動させることとなる。そして、受止保持部16が、受止位置SPから待機位置WPに復帰することとなる。
【0031】
さらに、実施形態の場合、固定リンク片23側の支持壁25,26には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの周囲に、受止位置SPに配置された受止保持部16における歩行者Mの受止時、受止保持部16を待機位置WP側の後方側へ平行移動可能に、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sの支持軸41,43を引き込み可能な引込用凹溝55,56が、配設されている。引込用凹溝55は、摺動溝27から連なって後方側に延びるように配設されている。引込用凹溝56は、軸支孔28から連なって後方側に延びるように配設されている。これらの引込用凹部55,56は、左右方向の開口幅寸法を支持軸41,43の外径寸法と略等しく設定されており、支持軸41,43を左右にずらすことなく後方移動させることとなる。
【0032】
各引込用凹溝55,56の周囲には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを制限する規制部58,59が、配設されている。これらの規制部58,59は、歩行者Mの受止回避時には、受止保持部16の待機位置WP側への復帰を可能とするように、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを規制し、そして、歩行者Mの受止時には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを、変形して可能にするものである。
【0033】
規制部58は、軸支孔28付近の固定リンク片23の基板部24から切り起した板金製として、固定軸支部40Sの支持軸41の後方移動を規制するように、支持軸41の後面41a側を支持している。そして、この規制部58は、受止保持部16の歩行者Mの受止時における可動リンク片29の後方押圧時、リンク36,36を経て、支持軸41が後方に押圧されることから、その際、後方移動するように、塑性変形する。なお、実施形態の場合、この規制部58は、エネルギー吸収材63と一体的に形成されている。
【0034】
規制部59は、摺動溝27付近の固定リンク片23の基板部24から切り起こして形成した板金製として、可動軸支部42Sを連結させた連結部51の後方移動を規制するように、連結部51の後面51a側を支持している。この規制部59も、受止保持部16の歩行者Mの受止時における可動リンク片29の後方押圧時、リンク37,37と支持軸43とを経て、連結部51が後方に押圧されることから、その際、後方移動するように、塑性変形する。
【0035】
固定軸支部40Sを引き込む引込用凹溝56には、引込用凹溝56内に引き込まれた固定軸支部40Sの支持軸41を、固定リンク片23の基板部24に沿って移動可能なガイド凹溝61が連通されている。このガイド凹溝61は、受止保持部16を待機位置WP側の後方側へ平行移動可能に、引込用凹溝56に引き込んだ支持軸41を移動させるものであり、引込用凹溝56側の元部61aから先端部61bを右方側に向けて、形成されている。
【0036】
さらに、ガイド凹溝61の周囲には、歩行者Mの運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材63が、配設されている。このエネルギー吸収材63は、ガイド凹溝61を元部61a側から先端部61b側に移動する固定軸支部40Sの支持軸41に抵抗を与えつつ塑性変形して、その抵抗時の塑性変形により、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することとなる。実施形態の場合、エネルギー吸収材63は、既述したように、基板部24から切り起して形成されて、支持軸41のガイド凹溝61を移動する側の右方側を囲んで、支持軸41を係止するように、元部63aから延びる先端部63b側を屈曲させている。すなわち、先端部63bが、支持軸41の後面41aから右面41bを経て前面41c側に至るように、屈曲されている(図3参照)。
【0037】
そして、この実施形態の受止装置Sでは、制御装置11が衝突予測センサ12からの信号により歩行者Mの車両Vとの衝突を予測したならば、制御装置11がモータ47に作動信号を出力する。すると、図3や図6のA,Bに示すように、モータ47の出力軸48が時計回り方向に回転し、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、右方へ移動する。そのため、可動軸支部42Sが摺動溝27の左端27a側から右端27b側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の左端33a側から右端33b側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、固定リンク片23や可動リンク片29と略平行な状態から前後方向に沿う方向に、立ち上がるように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23から離れる前方側へ、平行移動させることとなる。その結果、フロントグリル17と一体的な受止保持部16が、図1の二点鎖線や図6のBに示すように、待機位置WPから歩行者Mを受け止める受止位置SPまで、平行移動する。
【0038】
なお、実施形態の場合、受止保持部16の繰出時における受止位置SPでの位置規制は、摺動溝27の右端27b側の支持軸43の位置規制により、行っている。
【0039】
そして、受止保持部16が、受止面16aによって歩行者Mを受け止めれば、図7のAに示すように、可動リンク片29が後方へ押圧されて、リンク36,37を経て、支持軸41,43が後方に押圧されることから、規制部58,59が、後方移動するように、塑性変形して、固定リンク片23側の固定軸支部40Sや可動軸支部42Sの支持軸41,43が、引込用凹溝55,56に引き込まれて、受止保持部16が、若干(寸法D1分)後方へ移動する。そしてさらに、歩行者Mを受け止めている受止保持部16が待機位置WP側の後方へ移動して、可動リンク片29が後方へ押圧されれば、図7のBに示すように、引込用凹溝56に引き込んだ支持軸41が、エネルギー吸収材63の抵抗を受けつつ、ガイド凹溝61の元部61a側から先端部61bに移動し、その際、エネルギー吸収材63が、塑性変形しつつ、歩行者Mの運動エネルギーを吸収して、歩行者Mの車両V(受止保持部16)との衝撃を緩和できることとなる。
【0040】
一方、受止保持部16の繰出後、制御装置11が、所定時間経過しても、衝突検知センサ13からの信号を入力せずに、歩行者Mの衝突(受止)を回避した際には、図3や図6のB,Aの順に示すように、出力軸48を反時計回り方向に回転させるように、モータ47を作動させる。すると、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、左方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の右端27b側から左端27a側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の右端33b側から左端33a側へ摺動する。そのため、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、倒れるように回転し、すなわち、固定リンク片23や可動リンク片29に沿うように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23に接近させる後方側へ、平行移動させることとなり、そして、受止保持部16は、受止位置SPから待機位置WPに復帰され、次の歩行者Mとの衝突に備えることができる。この時、規制部58,59は、変形せずに、固定軸支部40Sや可動軸支部42Sの支持軸41,43の引込用凹溝55,56内への引き込みを防止するため、クロスリンク35が、円滑に復帰する方向へ移動できて、受止保持部16を待機位置WPに平行移動させる。
【0041】
そして、実施形態に係る受止装置Sでは、平行リンク機構22の一対のクロスリンク35を上下両縁の相互に配置させた可動リンク片29が、固定リンク片23と対応させて、受止保持部16の裏面側(後面側)において、一対のクロスリンク35の計四本のリンク36,37の先端部36b,37b側で四点支持されつつ、二つのクロスリンク35,35間の広い幅寸法BL(図4参照)を確保し、かつ、各クロスリンク35,35の二つのリンク36,37の軸支部位間(固定軸支部40と可動軸支部42との間の距離)の長い長さ寸法LL(図4参照)を確保して、広い面状に配置させることができる。そのため、受止保持部16の受止面16aが広い面積としていても、可動リンク片29が、受止保持部16の裏面側で上下左右に広い面積を確保して、配置させることができるとともに、一対のクロスリンク35や保持ベース20側の固定リンク片23と協働して、受止保持部16を、安定して、支持し、かつ、平行移動させることができる。
【0042】
また、移動体としての歩行者Mの運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材63は、ガイド凹溝61を移動する固定軸支部40Sの支持軸41に抵抗を与えるように、その支持軸41の周囲に設けても、平行リンク機構22が、安定して受止保持部16を待機位置WP側へ移動させつつ、固定軸支部40Sを移動させることができることから、ガイド凹溝61を移動する固定軸支部40Sの支持軸41の移動ストロークに対応させて、安定した運動エネルギーの吸収特性を、確保することができる。
【0043】
したがって、実施形態の受止装置Sでは、移動体としての歩行者Mを受け止める受止保持部16が受止面16aを上下左右に広い面積としていても、一つの駆動機構21により、安定して、受止保持部16を支持して平行移動させることができ、また、安定して、受止保持部16を平行移動させつつ、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することができる。
【0044】
また、実施形態の受止装置Sでは、駆動機構21が平行リンク機構22から構成されており、受止保持部16が待機位置WPに配置されている際の固定リンク片23から可動リンク片29までの厚さ分の容積で、駆動機構21を収納できて、可動リンク片29(基板部30)の面積が広くとも、コンパクトに収納できる。
【0045】
なお、実施形態の場合、図7のA,Bに示すように、エネルギー吸収時の支持軸41の移動ストロークは、ガイド凹溝61の元部61aから先端部61bまでの支持軸41が移動できる長さ寸法L2によって、規定されており、その長さ寸法L2は、実施形態の場合、受止保持部16の受止面16aが、受止位置SPから、寸法D1(引込用凹溝55,56の長さ寸法L1に対応する)分、後方移動した後において、寸法D2分、後方移動して、受止面16aがフロントバンパ5の前面5aと略面一となる位置に配置された際(図2参照)、支持軸41の移動を停止させて、フロントグリル17のそれ以上の後方移動を停止させるように、設定されている。換言すれば、受止位置SPから歩行者Mを受け止めて後方移動する移動距離D0(図2参照)は、寸法D1+寸法D2、であり、寸法D2分の移動距離を、ガイド凹溝61の長さ寸法L2が規定している。
【0046】
そして、実施形態の場合、歩行者Mの受止時の受止保持部16の待機位置WP側への移動距離D0の増減は、引込用凹溝55,56の長さ寸法L1やガイド凹溝61の長さ寸法L2の増減によって、正比例させるように、調整でき、さらに、歩行者Mの運動エネルギーの吸収量は、塑性変形するエネルギー吸収材63の曲げ剛性や、エネルギー吸収材63を塑性変形させつつ支持軸41を移動させるガイド凹溝61の長さ寸法L2の増減によって、正比例させるように、調整することができる。
【0047】
また、実施形態の受止装置Sでは、ガイド凹溝61が、引き込まれた固定軸支部40Sの支持軸41側の引込用凹溝56に、連通するように配設されている。そのため、ガイド凹溝61が、摺動溝27を設けた可動軸支部42Sの支持軸43側でなく、摺動溝27の無い分、配置スペースに余裕が生ずる固定軸支部40S側に、設けられていることから、強度を確保して容易に摺動溝27やガイド凹溝61を配設することができる。
【0048】
この点を考慮しなければ、図8,9に示すように、ガイド凹溝61Aを、摺動溝27側の引込用凹溝55から連なるように、設けたり、あるいは、図10,11に示すように、ガイド凹溝61,61Bを、軸支孔28側の引込用凹溝56と摺動溝27側の引込用凹溝55との両方に設けて、それらの周囲に、支持軸41,43のガイド凹溝61A,61B内の移動時、支持軸41,42に抵抗を与えるエネルギー吸収材63A,63,63Bを配設させてもよい。
【0049】
なお、図8,9に示すエネルギー吸収材63Aは、塑性変形して、歩行者Mの運動エネルギーを吸収するものであり、摺動溝27とガイド凹溝61Aとの間の、板金製の支持壁25,26の一部から構成され、支持軸41のガイド凹溝61A内での移動時、支持軸41に抵抗を与えつつ、摺動溝27側に曲げ塑性変形されるように構成されている。
【0050】
また、図10,11に示すエネルギー吸収材63Bは、支持軸41に強い摩擦抵抗を与えるように、ガイド凹溝61Bの内周面に凹凸を設けて構成されており、支持軸41のガイド凹溝61B内での移動時、支持軸41に対し、エネルギー吸収材63Bの凸部の塑性変形や弾性変形を伴う摺動抵抗を与えて、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することとなる。
【0051】
そして、上記のように、エネルギー吸収材としては、ガイド凹溝内を移動する支持軸に抵抗を与えて、移動体の運動エネルギーを吸収できれば、塑性変形してエネルギー吸収する他、摩擦(摺動)抵抗によるもの、あるいは、塑性変形と摩擦抵抗とを複合させてエネルギー吸収するもの、あるいは、弾性変形してエネルギー吸収できるもの等から、構成してもよい。
【0052】
さらに、実施形態では、ガイド凹溝61やエネルギー吸収材63は、エネルギー吸収時、可動リンク片29が平行移動できれば、固定リンク片23側だけでなく、可動リンク片29側、あるいは、固定リンク片23と可動リンク片29との両方に、配設していもよい。
【0053】
また、実施形態の受止装置Sでは、アクチュエータ46が、可逆回転可能とした出力軸48にピニオン49を設けたモータ47から構成され、連結部51が、ピニオン49に噛合するラック53を設けて、ピニオン49の回動により、往復移動可能に構成されており、モータ47の正転と逆転とにより、簡便に、受止保持部16を往復移動させることができる。
【0054】
なお、受止保持部16を往復移動できれば、アクチュエータ46としては、実施形態のような電動の他、油圧、空気圧等を利用したモータ、あるいは、油圧や空気圧を利用したシリンダタイプのアクチュエータを利用してもよい。
【0055】
また、実施形態では、移動体としての歩行者を受け止める受止装置Sについて説明したが、助手席の乗員の膝、運転者を含めた乗員の上半身、あるいは、車両と衝突した歩行者を上面側に載せたフードパネル等を、移動体として、それらの移動体を、運動エネルギーを低減させて受け止める受止装置に、本発明を実施してもよい。
【符号の説明】
【0056】
16…受止保持部、
20…保持ベース、
21…駆動機構、
22…平行リンク機構、
23…固定リンク片、
27,33…摺動溝、
29…可動リンク片、
35…クロスリンク、
36,37…リンク、
40(40S,40M)…固定軸支部、
41,43…支持軸、
42…可動軸支部、
45…駆動源、
46…アクチュエータ、
47…モータ、
48…出力軸、
49…ピニオン、
51…連結部、
53…ラック、
55,56…引込用凹溝、
58,59…規制部、
61,61A,61B…ガイド凹溝、
63,63A,63B…エネルギー吸収材、
WP…待機位置、
SP…受止位置、
M…(移動体)歩行者、
S…受止装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、移動体を受け止めた受止保持部の待機位置側方向への移動時に、移動体の運動エネルギーを吸収可能な移動体の受止装置に関し、具体的には、車両と衝突する歩行者自体、車両の衝突時の運転者や助手席の搭乗者等の乗員の膝や上半身、あるいは、車両と衝突した歩行者を上面側に載せたフードパネル等、の移動体を、運動エネルギーを低減させて、安全に停止させるように受け止めることができる移動体の受止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の移動体の受止装置では、移動体としての歩行者を受け止めるフードパネルを持ち上げる受止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この受止装置では、歩行者の接近に対応させて、モータを駆動源としたねじ機構により、フードパネルを持ち上げるねじ棒を待機位置から上昇させて、フードパネルによって歩行者を受け止め可能とし、そして、歩行者のフードパネルによる受け止めを回避した際には、モータを逆転させて、フードパネルとともに、ねじ棒を待機位置に復帰させていた。そして、フードパネルによって歩行者を受け止める際には、フードパネルの塑性変形と、ねじ棒の逆転しつつ下降する摩擦力等により、歩行者の運動エネルギーを吸収していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−30644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の受止装置では、駆動機構が、ねじ棒を上下動させるものであって、移動体を受け止める受止保持部の受止面が面状に広ければ、一本のねじ棒では、安定して支持できず、広い受止保持部を複数のねじ棒で支持することとなり、それらのねじ棒を同時に昇降させる機構が、複雑となり、また、各ねじ棒のエネルギー吸収もバラつき易く、安定して移動体の運動エネルギーを吸収する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、移動体を受け止める受止保持部が受止面を広い面積としていても、一つの駆動機構により、安定して、受止保持部を支持して移動させることができ、また、安定して、移動体の運動エネルギーを吸収できる移動体の受止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動体の受止装置は、車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、移動体を受け止めた受止保持部の待機位置側方向への移動時に、移動体の運動エネルギーを吸収可能とし、かつ、受止保持部の受止位置への繰出後に移動体の受け止めを回避した際、受止保持部を待機位置に復帰させる移動体の受止装置であって、
受止保持部を移動させる駆動機構が、平行リンク機構と駆動源とを備えて構成され、
平行リンク機構が、
受止保持部の待機位置側の保持ベースと受止保持部とに配設されて、受止保持部の移動方向に沿って、相互に対向するように配置される保持ベース側の固定リンク片、及び、受止保持部側の可動リンク片、を備えて、
固定リンク片と可動リンク片との両縁側に、それぞれ、リンクを相互に交差させるとともに交差部位で相互に軸支させるクロスリンク、を配設させるとともに、リンクの一方の端部側を、固定リンク片若しくは可動リンク片に回動自在に軸支させる固定軸支部とし、リンクの他方の端部を、可動リンク片若しくは固定リンク片に設けた摺動溝に摺動可能に軸支させた可動軸支部として、
構成され、
駆動源が、
固定リンク片側の可動軸支部と一体的に連結される連結部と、
連結部を摺動溝に沿って往復移動可能に保持して保持ベース側に配置される可逆式のアクチュエータと、
を備えて構成され、
固定軸支部と可動軸支部との周囲における固定リンク片側若しくは可動リンク片側に、受止位置に配置された受止保持部における移動体の受止時、受止保持部を待機位置側へ移動可能に、固定軸支部と可動軸支部とを引き込み可能な引込用凹溝が、配設されるとともに、
引込用凹溝の周囲に、移動体の受止回避時における受止保持部の待機位置側への復帰を可能に、固定軸支部と可動軸支部との引込用凹溝内への引き込みを規制し、かつ、移動体の受止時における固定軸支部と可動軸支部との引込用凹溝内への引き込みを、変形して、可能にする規制部が、配設され、
固定軸支部側若しくは可動軸支部側の少なくとも一方の引込用凹溝に、受止保持部を待機位置側へ移動可能とするように、引込用凹溝内に引き込まれた固定軸支部若しくは可動軸支部を、固定リンク片に沿って移動可能なガイド凹溝が、連通されるとともに、
ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部の周囲に、移動する固定軸支部若しくは可動軸支部に抵抗しつつ、移動体の運動エネルギーを吸収可能なエネルギー吸収材が、配設されて構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る移動体の受止装置では、作動時、アクチュエータが作動されれば、連結部を移動させて、連結部に連結された可動軸支部が、摺動溝を摺動し、クロスリンクの各リンクを立ち上がらせて、可動リンク片を固定リンク片から離すように平行移動させることから、可動リンク片を設けた受止保持部が、待機位置から受止位置まで繰り出される。そして、受止保持部が、受止面によって移動体を受け止めれば、規制部を変形させて、所定の固定軸支部若しくは可動軸支部が、引込用凹溝に引き込まれ、さらに、固定リンク片に沿ってガイド凹溝内を移動し、ガイド凹溝内の移動距離分に対応して、受止保持部が、待機位置側に平行移動する。と同時に、ガイド凹溝内を移動する所定の固定軸支部若しくは可動軸支部は、エネルギー吸収材の抵抗を受けつつ移動することから、エネルギー吸収材が、移動体の運動エネルギーを吸収して、移動体の受止保持部との衝撃を緩和できることとなる。
【0008】
一方、受止保持部が移動体の受止を回避した際には、アクチュエータが、連結部を逆方向に移動させて、クロスリンクの各リンクを、固定リンク片や可動リンク片と略平行となるように、倒すように移動させることから、受止保持部が、平行移動しつつ、待機位置に復帰されることとなる。この時、規制部が、変形せずに、所定の固定軸支部若しくは可動軸支部の引込用凹溝内への引き込みを防止するため、クロスリンクが、円滑に復帰する方向へ移動できて、受止保持部を待機位置に平行移動させる。
【0009】
そして、本発明に係る受止装置では、平行リンク機構の一対のクロスリンクを両縁部の相互に配置させた可動リンク片が、固定リンク片と対応させて、受止本体部の裏面側において、一対のクロスリンクの計四本のリンクの先端部側で四点支持されつつ、二つのクロスリンク間の広い幅寸法を確保し、かつ、各クロスリンクの二つのリンクの軸支部位間の長い長さ寸法を確保して、広い面状に配置させることができる。そのため、受止保持部の受止面が広い面積としていても、可動リンク片が、受止保持部の裏面側で広い面積を確保して、配置させることができるとともに、一対のクロスリンクや保持ベース側の固定リンク片と協働して、受止保持部を、安定して、支持し、かつ、平行移動させることができる。
【0010】
また、移動体の運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材は、ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部に抵抗を与えるように、それらの固定軸支部や可動軸支部の周囲に設けても、平行リンク機構が、安定して受止保持部を待機位置側へ平行移動させつつ、それらの固定軸支部や可動軸支部を移動させることができることから、ガイド凹溝を移動する固定軸支部若しくは可動軸支部の移動ストロークに対応させて、安定した運動エネルギーの吸収特性を、確保することができる。
【0011】
したがって、本発明に係る移動体の受止装置では、移動体を受け止める受止保持部が受止面を広い面積としていても、一つの駆動機構により、安定して受止保持部を支持して平行移動させることができ、また、安定して、受止保持部を平行移動させつつ、移動体の運動エネルギーを吸収することができる。
【0012】
そして、本発明に係る移動体の受止装置では、ガイド凹溝が、引き込まれた固定軸支部側の引込用凹溝に、連通するように配設することが望ましい。このような構成では、ガイド凹溝を、摺動溝を設けた可動軸支部側でなく、摺動溝の無い分、配置スペースに余裕が生ずる固定軸支部側に、設けることができて、強度を確保して容易に摺動溝やガイド溝を配設することができる。
【0013】
また、本発明に係る移動体の受止装置では、アクチュエータを、可逆回転可能とした出力軸にピニオンを設けたモータから構成し、連結部を、ピニオンに噛合するラックを設けて、ピニオンの回動により、往復移動可能に構成すれば、モータの正転と逆転とにより、簡便に、受止保持部を往復移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る一実施形態の受止装置を配置させた車両の斜視図である。
【図2】実施形態の受止装置を配置させた車両の概略部分縦断面図である。
【図3】実施形態の受止装置の作動時の概略横断面図であり、図2のIII−III部位に対応する。
【図4】実施形態の受止装置の概略斜視図であり、受止保持部を受止位置に配置させた状態を示す。
【図5】実施形態の受止装置の概略斜視図であり、受止保持部を待機位置に配置させた状態を示す。
【図6】実施形態の受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図7】実施形態の受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【図8】実施形態の変形例における受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図9】図8に示す受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【図10】実施形態の他の変形例における受止装置の作動時を示す概略横断面図である。
【図11】図10に示す受止装置の作動時を示す概略横断面図であり、歩行者を受け止めて歩行者の運動エネルギーを吸収する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の受止装置Sを図面に基づいて説明すると、実施形態の受止装置Sは、図1〜3に示すように、車両Vに衝突する際の歩行者Mを、受け止める移動体、とするもので、フロントバンパ5とその上方のフードパネル6との間で、ラジエータ8の前方に配置されるフロントグリル17を保持して、構成されている。
【0016】
なお、本明細書での上下・前後・左右の方向は、受止装置Sが車両Vに搭載された状態を基準とするもので、車両Vの上下・前後・左右の方向と一致するものである。
【0017】
受止装置Sは、制御装置11により作動を制御されるものであり、制御装置11は、車両Vの歩行者Mとの衝突前に、ミリ波レーダ等からなる衝突予測センサ12からの信号に基づき、車両Vの歩行者Mとの衝突を予測した際、受止装置Sの駆動機構21を作動させて、図3,6に示すように、待機位置WPから受止位置SPまで、歩行者Mを受け止めるための受止保持部16を繰り出すように構成されている。さらに、制御装置11は、歩行者Mとの実際の衝突を検知する圧力センサ等からなる衝突検知センサ13からの信号を入力するように構成されており、受止装置Sを作動後、一定時間経過しても、衝突検知センサ13からの信号に基づいて歩行者Mとの衝突を検知しなければ、歩行者Mの受止を回避できたと判断し、受止保持部16を受止位置SPから待機位置WPに復帰させるように、受止装置Sを作動させる。
【0018】
そして、受止装置Sは、図2〜5に示すように、バンパリインフォースメント2から延びるブラケット3に連結された保持ベース20と、フロントグリル17を有した受止保持部16と、受止保持部16を移動させる駆動機構21と、エネルギー吸収材63と、を備えて構成されている。なお、バンパリインフォースメント2は、車両Vのボディ側部材1であり、安定して保持できれば、保持ベース20のボディ側部材1側への連結部位は、バンパリインフォースメント2に限定されるものではない。
【0019】
受止保持部16は、前面側のフロントグリル17と、フロントグリル17をその後面側で保持する保持板18と、を備えて構成されている。この受止保持部16では、歩行者Mを受け止める受止面16aが、フロントグリル17の前面側の上下左右に広い面積として、設定されている。また、保持板18は、実施形態の場合、駆動機構21の後述する可動リンク片29の基板部30と兼用としている。また、受止保持部16の待機位置WP側に配置される保持ベース20も、駆動機構21の後述する固定リンク片23の基板部24と兼用としている。
【0020】
駆動機構21は、平行リンク機構22と、平行リンク機構22を移動させる駆動源45と、を備えて構成されている。駆動源45は、制御装置11に作動を制御されるアクチュエータ46と、平行リンク機構22の後述する可動軸支部42Sの支持軸43を連結させた連結部51と、を備えて構成されている。アクチュエータ46は、実施形態の場合、出力軸(回転駆動軸)48を正転と逆転とに回転可能なモータ(実施形態の場合、DCモータ)47から構成され、このモータ47の出力軸48には、先端にピニオン49が組み付けられている。
【0021】
連結部51は、内周面にピニオン49に噛合するラック53を設けた挿入孔52を備えた長方形板状としている。連結部51は、後面51a側を後述する規制部59に支持されている。
【0022】
なお、モータ47は、出力軸48に駆動力を伝達するまでに、モータ本体に対して、歯車を利用した減速機構を連結させて構成してもよい。
【0023】
平行リンク機構22は、保持ベース20側の固定リンク片23と、受止保持部16の保持板18側の可動リンク片29と、一対のクロスリンク35と、を備えて構成されている。
【0024】
固定リンク片23と可動リンク片29とは、受止保持部16の移動方向(実施形態の場合、前後方向)に沿って、相互に対向するように配置されている。そして、これらの固定リンク片23と可動リンク片29とは、前後で対向し、相互に平行として、受止保持部16の移動方向(実施形態の場合、前後方向)と直交方向の上下方向と左右方向とに広く延びる略長方形の基板部24,30と、基板部24,30の両縁から、実施形態の場合、上下の縁から、相互に接近するように伸びる支持壁25,26,31,32と、を備えて構成されている。これらの支持壁25,26,31,32は、クロスリンク35の各リンク36,37の元部36a,37aや先端部36b,37bを軸支する部位となる。
【0025】
一対のクロスリンク35は、それぞれ、同長の二つのリンク36,37を相互に交差させるとともに交差部位35aで相互にピン38によって軸支させて構成され、固定リンク片23と可動リンク片29との両縁側相互、実施形態の場合、上縁側の支持壁25,31相互と、下縁側の支持壁26,32相互と、に各リンク36,37の元部36a,37aや先端部36b,37bを軸支させている。
【0026】
そして、固定リンク片23側の支持壁25,26に軸支されるリンク37,37の元部37a側が、可動軸支部42(42S)とし、左右方向に沿って延びるように支持壁25,26に設けられた摺動溝27に摺動可能として、支持壁25,26に軸支されている。実施形態の場合、リンク37,37の元部37a相互が、一本の支持軸43によって連結されて、可動軸支部42(42S)を構成し、その支持軸43が、左右方向に沿って、摺動溝27内を摺動可能として、支持壁25,26に支持されている。
【0027】
また、可動リンク片29側の支持壁31,32に軸支されるリンク36,36の先端部36b側が、可動軸支部42(42M)とし、左右方向に沿って延びるように支持壁31,32に設けられた摺動溝33に摺動可能として、支持壁31,32に軸支されている。実施形態の場合、リンク36,36の先端部36b相互が、一本の支持軸43によって連結されて、可動軸支部42(42M)を構成し、その支持軸43が、左右方向に沿って、摺動溝33内を摺動可能として、支持壁31,32に支持されている。
【0028】
なお、リンク37,37の先端部37bは、相互に一本の支持軸41によって連結される固定軸支部40(40S)として、その支持軸41を可動リンク片29の支持壁31,32に設けた軸支孔34に回動可能に支持させている。また、リンク36,36の元部36aも、相互に一本の支持軸41によって連結される固定軸支部40(40M)として、その支持軸41を固定リンク片23の支持壁25,26に設けた軸支孔28に回動可能に支持させている。
【0029】
そして、実施形態の場合、リンク37,37の元部37a相互を連結する可動軸支部42Sの支持軸43が、連結部51を貫通しつつ連結部51と連結されている。そのため、図3のA,Bに示すように、モータ47の出力軸48が時計回り方向に回転すれば、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、右方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の左端27a側から右端27b側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の左端33a側から右端33b側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、固定リンク片23や可動リンク片29と略平行な状態から、前後方向に沿う方向に立ち上がるように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23から離れる前方側へ、平行移動させることとなる。そして、受止保持部16が、待機位置WPから歩行者Mを受け止める受止位置SPまで、平行移動する。
【0030】
逆に、図3のB,Aに示すように、モータ47の出力軸48が反時計回り方向に回転すれば、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、左方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の右端27b側から左端27a側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の右端33b側から左端33a側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、倒れるように回転し、すなわち、固定リンク片23や可動リンク片29に沿うように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23に接近させる後方側へ、平行移動させることとなる。そして、受止保持部16が、受止位置SPから待機位置WPに復帰することとなる。
【0031】
さらに、実施形態の場合、固定リンク片23側の支持壁25,26には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの周囲に、受止位置SPに配置された受止保持部16における歩行者Mの受止時、受止保持部16を待機位置WP側の後方側へ平行移動可能に、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sの支持軸41,43を引き込み可能な引込用凹溝55,56が、配設されている。引込用凹溝55は、摺動溝27から連なって後方側に延びるように配設されている。引込用凹溝56は、軸支孔28から連なって後方側に延びるように配設されている。これらの引込用凹部55,56は、左右方向の開口幅寸法を支持軸41,43の外径寸法と略等しく設定されており、支持軸41,43を左右にずらすことなく後方移動させることとなる。
【0032】
各引込用凹溝55,56の周囲には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを制限する規制部58,59が、配設されている。これらの規制部58,59は、歩行者Mの受止回避時には、受止保持部16の待機位置WP側への復帰を可能とするように、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを規制し、そして、歩行者Mの受止時には、固定軸支部40Sと可動軸支部42Sとの引込用凹溝55,56内への引き込みを、変形して可能にするものである。
【0033】
規制部58は、軸支孔28付近の固定リンク片23の基板部24から切り起した板金製として、固定軸支部40Sの支持軸41の後方移動を規制するように、支持軸41の後面41a側を支持している。そして、この規制部58は、受止保持部16の歩行者Mの受止時における可動リンク片29の後方押圧時、リンク36,36を経て、支持軸41が後方に押圧されることから、その際、後方移動するように、塑性変形する。なお、実施形態の場合、この規制部58は、エネルギー吸収材63と一体的に形成されている。
【0034】
規制部59は、摺動溝27付近の固定リンク片23の基板部24から切り起こして形成した板金製として、可動軸支部42Sを連結させた連結部51の後方移動を規制するように、連結部51の後面51a側を支持している。この規制部59も、受止保持部16の歩行者Mの受止時における可動リンク片29の後方押圧時、リンク37,37と支持軸43とを経て、連結部51が後方に押圧されることから、その際、後方移動するように、塑性変形する。
【0035】
固定軸支部40Sを引き込む引込用凹溝56には、引込用凹溝56内に引き込まれた固定軸支部40Sの支持軸41を、固定リンク片23の基板部24に沿って移動可能なガイド凹溝61が連通されている。このガイド凹溝61は、受止保持部16を待機位置WP側の後方側へ平行移動可能に、引込用凹溝56に引き込んだ支持軸41を移動させるものであり、引込用凹溝56側の元部61aから先端部61bを右方側に向けて、形成されている。
【0036】
さらに、ガイド凹溝61の周囲には、歩行者Mの運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材63が、配設されている。このエネルギー吸収材63は、ガイド凹溝61を元部61a側から先端部61b側に移動する固定軸支部40Sの支持軸41に抵抗を与えつつ塑性変形して、その抵抗時の塑性変形により、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することとなる。実施形態の場合、エネルギー吸収材63は、既述したように、基板部24から切り起して形成されて、支持軸41のガイド凹溝61を移動する側の右方側を囲んで、支持軸41を係止するように、元部63aから延びる先端部63b側を屈曲させている。すなわち、先端部63bが、支持軸41の後面41aから右面41bを経て前面41c側に至るように、屈曲されている(図3参照)。
【0037】
そして、この実施形態の受止装置Sでは、制御装置11が衝突予測センサ12からの信号により歩行者Mの車両Vとの衝突を予測したならば、制御装置11がモータ47に作動信号を出力する。すると、図3や図6のA,Bに示すように、モータ47の出力軸48が時計回り方向に回転し、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、右方へ移動する。そのため、可動軸支部42Sが摺動溝27の左端27a側から右端27b側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の左端33a側から右端33b側へ摺動しつつ、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、固定リンク片23や可動リンク片29と略平行な状態から前後方向に沿う方向に、立ち上がるように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23から離れる前方側へ、平行移動させることとなる。その結果、フロントグリル17と一体的な受止保持部16が、図1の二点鎖線や図6のBに示すように、待機位置WPから歩行者Mを受け止める受止位置SPまで、平行移動する。
【0038】
なお、実施形態の場合、受止保持部16の繰出時における受止位置SPでの位置規制は、摺動溝27の右端27b側の支持軸43の位置規制により、行っている。
【0039】
そして、受止保持部16が、受止面16aによって歩行者Mを受け止めれば、図7のAに示すように、可動リンク片29が後方へ押圧されて、リンク36,37を経て、支持軸41,43が後方に押圧されることから、規制部58,59が、後方移動するように、塑性変形して、固定リンク片23側の固定軸支部40Sや可動軸支部42Sの支持軸41,43が、引込用凹溝55,56に引き込まれて、受止保持部16が、若干(寸法D1分)後方へ移動する。そしてさらに、歩行者Mを受け止めている受止保持部16が待機位置WP側の後方へ移動して、可動リンク片29が後方へ押圧されれば、図7のBに示すように、引込用凹溝56に引き込んだ支持軸41が、エネルギー吸収材63の抵抗を受けつつ、ガイド凹溝61の元部61a側から先端部61bに移動し、その際、エネルギー吸収材63が、塑性変形しつつ、歩行者Mの運動エネルギーを吸収して、歩行者Mの車両V(受止保持部16)との衝撃を緩和できることとなる。
【0040】
一方、受止保持部16の繰出後、制御装置11が、所定時間経過しても、衝突検知センサ13からの信号を入力せずに、歩行者Mの衝突(受止)を回避した際には、図3や図6のB,Aの順に示すように、出力軸48を反時計回り方向に回転させるように、モータ47を作動させる。すると、ピニオン49にラック53を噛合させている連結部51が、左方へ移動し、可動軸支部42Sが摺動溝27の右端27b側から左端27a側へ摺動し、かつ、可動軸支部42Mが摺動溝33の右端33b側から左端33a側へ摺動する。そのため、クロスリンク35のリンク36,37相互が、固定軸支部40S,40Mを回転中心として、倒れるように回転し、すなわち、固定リンク片23や可動リンク片29に沿うように回転し、可動リンク片29を、固定リンク片23に接近させる後方側へ、平行移動させることとなり、そして、受止保持部16は、受止位置SPから待機位置WPに復帰され、次の歩行者Mとの衝突に備えることができる。この時、規制部58,59は、変形せずに、固定軸支部40Sや可動軸支部42Sの支持軸41,43の引込用凹溝55,56内への引き込みを防止するため、クロスリンク35が、円滑に復帰する方向へ移動できて、受止保持部16を待機位置WPに平行移動させる。
【0041】
そして、実施形態に係る受止装置Sでは、平行リンク機構22の一対のクロスリンク35を上下両縁の相互に配置させた可動リンク片29が、固定リンク片23と対応させて、受止保持部16の裏面側(後面側)において、一対のクロスリンク35の計四本のリンク36,37の先端部36b,37b側で四点支持されつつ、二つのクロスリンク35,35間の広い幅寸法BL(図4参照)を確保し、かつ、各クロスリンク35,35の二つのリンク36,37の軸支部位間(固定軸支部40と可動軸支部42との間の距離)の長い長さ寸法LL(図4参照)を確保して、広い面状に配置させることができる。そのため、受止保持部16の受止面16aが広い面積としていても、可動リンク片29が、受止保持部16の裏面側で上下左右に広い面積を確保して、配置させることができるとともに、一対のクロスリンク35や保持ベース20側の固定リンク片23と協働して、受止保持部16を、安定して、支持し、かつ、平行移動させることができる。
【0042】
また、移動体としての歩行者Mの運動エネルギーを吸収するエネルギー吸収材63は、ガイド凹溝61を移動する固定軸支部40Sの支持軸41に抵抗を与えるように、その支持軸41の周囲に設けても、平行リンク機構22が、安定して受止保持部16を待機位置WP側へ移動させつつ、固定軸支部40Sを移動させることができることから、ガイド凹溝61を移動する固定軸支部40Sの支持軸41の移動ストロークに対応させて、安定した運動エネルギーの吸収特性を、確保することができる。
【0043】
したがって、実施形態の受止装置Sでは、移動体としての歩行者Mを受け止める受止保持部16が受止面16aを上下左右に広い面積としていても、一つの駆動機構21により、安定して、受止保持部16を支持して平行移動させることができ、また、安定して、受止保持部16を平行移動させつつ、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することができる。
【0044】
また、実施形態の受止装置Sでは、駆動機構21が平行リンク機構22から構成されており、受止保持部16が待機位置WPに配置されている際の固定リンク片23から可動リンク片29までの厚さ分の容積で、駆動機構21を収納できて、可動リンク片29(基板部30)の面積が広くとも、コンパクトに収納できる。
【0045】
なお、実施形態の場合、図7のA,Bに示すように、エネルギー吸収時の支持軸41の移動ストロークは、ガイド凹溝61の元部61aから先端部61bまでの支持軸41が移動できる長さ寸法L2によって、規定されており、その長さ寸法L2は、実施形態の場合、受止保持部16の受止面16aが、受止位置SPから、寸法D1(引込用凹溝55,56の長さ寸法L1に対応する)分、後方移動した後において、寸法D2分、後方移動して、受止面16aがフロントバンパ5の前面5aと略面一となる位置に配置された際(図2参照)、支持軸41の移動を停止させて、フロントグリル17のそれ以上の後方移動を停止させるように、設定されている。換言すれば、受止位置SPから歩行者Mを受け止めて後方移動する移動距離D0(図2参照)は、寸法D1+寸法D2、であり、寸法D2分の移動距離を、ガイド凹溝61の長さ寸法L2が規定している。
【0046】
そして、実施形態の場合、歩行者Mの受止時の受止保持部16の待機位置WP側への移動距離D0の増減は、引込用凹溝55,56の長さ寸法L1やガイド凹溝61の長さ寸法L2の増減によって、正比例させるように、調整でき、さらに、歩行者Mの運動エネルギーの吸収量は、塑性変形するエネルギー吸収材63の曲げ剛性や、エネルギー吸収材63を塑性変形させつつ支持軸41を移動させるガイド凹溝61の長さ寸法L2の増減によって、正比例させるように、調整することができる。
【0047】
また、実施形態の受止装置Sでは、ガイド凹溝61が、引き込まれた固定軸支部40Sの支持軸41側の引込用凹溝56に、連通するように配設されている。そのため、ガイド凹溝61が、摺動溝27を設けた可動軸支部42Sの支持軸43側でなく、摺動溝27の無い分、配置スペースに余裕が生ずる固定軸支部40S側に、設けられていることから、強度を確保して容易に摺動溝27やガイド凹溝61を配設することができる。
【0048】
この点を考慮しなければ、図8,9に示すように、ガイド凹溝61Aを、摺動溝27側の引込用凹溝55から連なるように、設けたり、あるいは、図10,11に示すように、ガイド凹溝61,61Bを、軸支孔28側の引込用凹溝56と摺動溝27側の引込用凹溝55との両方に設けて、それらの周囲に、支持軸41,43のガイド凹溝61A,61B内の移動時、支持軸41,42に抵抗を与えるエネルギー吸収材63A,63,63Bを配設させてもよい。
【0049】
なお、図8,9に示すエネルギー吸収材63Aは、塑性変形して、歩行者Mの運動エネルギーを吸収するものであり、摺動溝27とガイド凹溝61Aとの間の、板金製の支持壁25,26の一部から構成され、支持軸41のガイド凹溝61A内での移動時、支持軸41に抵抗を与えつつ、摺動溝27側に曲げ塑性変形されるように構成されている。
【0050】
また、図10,11に示すエネルギー吸収材63Bは、支持軸41に強い摩擦抵抗を与えるように、ガイド凹溝61Bの内周面に凹凸を設けて構成されており、支持軸41のガイド凹溝61B内での移動時、支持軸41に対し、エネルギー吸収材63Bの凸部の塑性変形や弾性変形を伴う摺動抵抗を与えて、歩行者Mの運動エネルギーを吸収することとなる。
【0051】
そして、上記のように、エネルギー吸収材としては、ガイド凹溝内を移動する支持軸に抵抗を与えて、移動体の運動エネルギーを吸収できれば、塑性変形してエネルギー吸収する他、摩擦(摺動)抵抗によるもの、あるいは、塑性変形と摩擦抵抗とを複合させてエネルギー吸収するもの、あるいは、弾性変形してエネルギー吸収できるもの等から、構成してもよい。
【0052】
さらに、実施形態では、ガイド凹溝61やエネルギー吸収材63は、エネルギー吸収時、可動リンク片29が平行移動できれば、固定リンク片23側だけでなく、可動リンク片29側、あるいは、固定リンク片23と可動リンク片29との両方に、配設していもよい。
【0053】
また、実施形態の受止装置Sでは、アクチュエータ46が、可逆回転可能とした出力軸48にピニオン49を設けたモータ47から構成され、連結部51が、ピニオン49に噛合するラック53を設けて、ピニオン49の回動により、往復移動可能に構成されており、モータ47の正転と逆転とにより、簡便に、受止保持部16を往復移動させることができる。
【0054】
なお、受止保持部16を往復移動できれば、アクチュエータ46としては、実施形態のような電動の他、油圧、空気圧等を利用したモータ、あるいは、油圧や空気圧を利用したシリンダタイプのアクチュエータを利用してもよい。
【0055】
また、実施形態では、移動体としての歩行者を受け止める受止装置Sについて説明したが、助手席の乗員の膝、運転者を含めた乗員の上半身、あるいは、車両と衝突した歩行者を上面側に載せたフードパネル等を、移動体として、それらの移動体を、運動エネルギーを低減させて受け止める受止装置に、本発明を実施してもよい。
【符号の説明】
【0056】
16…受止保持部、
20…保持ベース、
21…駆動機構、
22…平行リンク機構、
23…固定リンク片、
27,33…摺動溝、
29…可動リンク片、
35…クロスリンク、
36,37…リンク、
40(40S,40M)…固定軸支部、
41,43…支持軸、
42…可動軸支部、
45…駆動源、
46…アクチュエータ、
47…モータ、
48…出力軸、
49…ピニオン、
51…連結部、
53…ラック、
55,56…引込用凹溝、
58,59…規制部、
61,61A,61B…ガイド凹溝、
63,63A,63B…エネルギー吸収材、
WP…待機位置、
SP…受止位置、
M…(移動体)歩行者、
S…受止装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、前記移動体を受け止めた前記受止保持部の前記待機位置側方向への移動時に、前記移動体の運動エネルギーを吸収可能とし、かつ、前記受止保持部の前記受止位置への繰出後に前記移動体の受け止めを回避した際、前記受止保持部を待機位置に復帰させる移動体の受止装置であって、
前記受止保持部を移動させる駆動機構が、平行リンク機構と駆動源とを備えて構成され、
前記平行リンク機構が、
前記受止保持部の待機位置側の保持ベースと前記受止保持部とに配設されて、前記受止保持部の移動方向に沿って、相互に対向するように配置される前記保持ベース側の固定リンク片、及び、前記受止保持部側の可動リンク片、を備えて、
前記固定リンク片と前記可動リンク片との両縁側に、それぞれ、リンクを相互に交差させるとともに交差部位で相互に軸支させるクロスリンク、を配設させるとともに、前記リンクの一方の端部側を、前記固定リンク片若しくは前記可動リンク片に回動自在に軸支させる固定軸支部とし、前記リンクの他方の端部を、前記可動リンク片若しくは前記固定リンク片に設けた摺動溝に摺動可能に軸支させた可動軸支部として、
構成され、
前記駆動源が、
前記固定リンク片側の前記可動軸支部と一体的に連結される連結部と、
該連結部を前記摺動溝に沿って往復移動可能に保持して前記保持ベース側に配置される可逆式のアクチュエータと、
を備えて構成され、
前記固定軸支部と前記可動軸支部との周囲における前記固定リンク片側若しくは前記可動リンク片側に、受止位置に配置された前記受止保持部における移動体の受止時、前記受止保持部を待機位置側へ移動可能に、前記固定軸支部と前記可動軸支部とを引き込み可能な引込用凹溝が、配設されるとともに、
該引込用凹溝の周囲に、移動体の受止回避時における前記受止保持部の待機位置側への復帰を可能に、前記固定軸支部と前記可動軸支部との前記引込用凹溝内への引き込みを規制し、かつ、移動体の受止時における前記固定軸支部と前記可動軸支部との前記引込用凹溝内への引き込みを、変形して、可能にする規制部が、配設され、
前記固定軸支部側若しくは前記可動軸支部側の少なくとも一方の前記引込用凹溝に、前記受止保持部を待機位置側へ移動可能とするように、前記引込用凹溝内に引き込まれた前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部を、前記固定リンク片に沿って移動可能なガイド凹溝が、連通されるとともに、
前記ガイド凹溝を移動する前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部の周囲に、移動する前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部に抵抗しつつ、移動体の運動エネルギーを吸収可能なエネルギー吸収材が、配設されて構成されていることを特徴とする移動体の受止装置。
【請求項2】
前記ガイド凹溝が、引き込まれた前記固定軸支部側の前記引込用凹溝に、連通するように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の移動体の受止装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが、可逆回転可能とした出力軸にピニオンを設けたモータを備えて構成され、
前記連結部が、前記ピニオンに噛合するラックを備え、前記ピニオンの回動により、往復移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の移動体の受止装置。
【請求項1】
車両に搭載されて、作動時に、待機位置から移動体を受け止め可能な受止位置まで、受止保持部を繰り出し、前記移動体を受け止めた前記受止保持部の前記待機位置側方向への移動時に、前記移動体の運動エネルギーを吸収可能とし、かつ、前記受止保持部の前記受止位置への繰出後に前記移動体の受け止めを回避した際、前記受止保持部を待機位置に復帰させる移動体の受止装置であって、
前記受止保持部を移動させる駆動機構が、平行リンク機構と駆動源とを備えて構成され、
前記平行リンク機構が、
前記受止保持部の待機位置側の保持ベースと前記受止保持部とに配設されて、前記受止保持部の移動方向に沿って、相互に対向するように配置される前記保持ベース側の固定リンク片、及び、前記受止保持部側の可動リンク片、を備えて、
前記固定リンク片と前記可動リンク片との両縁側に、それぞれ、リンクを相互に交差させるとともに交差部位で相互に軸支させるクロスリンク、を配設させるとともに、前記リンクの一方の端部側を、前記固定リンク片若しくは前記可動リンク片に回動自在に軸支させる固定軸支部とし、前記リンクの他方の端部を、前記可動リンク片若しくは前記固定リンク片に設けた摺動溝に摺動可能に軸支させた可動軸支部として、
構成され、
前記駆動源が、
前記固定リンク片側の前記可動軸支部と一体的に連結される連結部と、
該連結部を前記摺動溝に沿って往復移動可能に保持して前記保持ベース側に配置される可逆式のアクチュエータと、
を備えて構成され、
前記固定軸支部と前記可動軸支部との周囲における前記固定リンク片側若しくは前記可動リンク片側に、受止位置に配置された前記受止保持部における移動体の受止時、前記受止保持部を待機位置側へ移動可能に、前記固定軸支部と前記可動軸支部とを引き込み可能な引込用凹溝が、配設されるとともに、
該引込用凹溝の周囲に、移動体の受止回避時における前記受止保持部の待機位置側への復帰を可能に、前記固定軸支部と前記可動軸支部との前記引込用凹溝内への引き込みを規制し、かつ、移動体の受止時における前記固定軸支部と前記可動軸支部との前記引込用凹溝内への引き込みを、変形して、可能にする規制部が、配設され、
前記固定軸支部側若しくは前記可動軸支部側の少なくとも一方の前記引込用凹溝に、前記受止保持部を待機位置側へ移動可能とするように、前記引込用凹溝内に引き込まれた前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部を、前記固定リンク片に沿って移動可能なガイド凹溝が、連通されるとともに、
前記ガイド凹溝を移動する前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部の周囲に、移動する前記固定軸支部若しくは前記可動軸支部に抵抗しつつ、移動体の運動エネルギーを吸収可能なエネルギー吸収材が、配設されて構成されていることを特徴とする移動体の受止装置。
【請求項2】
前記ガイド凹溝が、引き込まれた前記固定軸支部側の前記引込用凹溝に、連通するように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の移動体の受止装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが、可逆回転可能とした出力軸にピニオンを設けたモータを備えて構成され、
前記連結部が、前記ピニオンに噛合するラックを備え、前記ピニオンの回動により、往復移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の移動体の受止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−51369(P2011−51369A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199335(P2009−199335)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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