説明

移動体及びその追従構造

【課題】 簡単な構成により、操作感の殆どない状態で、操作主体の移動に伴う追従動作を安定的に行う。
【解決手段】 車体12と、この車体12の上に載置された荷物搭載用の籠体13と、車体12の下部複数箇所に設けられた車輪15と、これら車輪15の一部に回転力を付与する駆動手段としてのモータ17と、車体12の前端側に取り付けられた紐状体18と、車体12と紐状体18との間に形成される上下方向及び左右方向の紐角度θ,φを検出する角度検出手段20と、検出された紐角度θ,φに基づいて前記モータ17の駆動を制御する制御装置21とを備えて移動体10が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体及びその追従構造に係り、更に詳しくは、操作主体の移動に伴う追従動作を簡単な構造で実現可能にする移動体及びその追従構造に関する。
【背景技術】
【0002】
操作者の移動に追従動作する従来の移動体としては、特許文献1に開示された無人電動運搬車が知られている。この運搬車は、前後の車輪と、前側の車輪を左右方向に揺動させるかじ取りリンク機構と、このかじ取りリンク機構を動作させるかじ取りモータと、後側の車輪を駆動させる走行モータと、前端側に設けられた紐状体と、この紐状体が巻回された回転円板と、前記紐状体の操作によって前記かじ取りモータ及び走行モータの駆動を制御する制御ユニットとを備えている。
【0003】
前記回転円板は、モータで前記紐状体の巻き取り方向に回転させられており、当該モータの回転力よりも大きな力で操作者が紐状体を引っ張ると、回転円板から引き出された紐状体の長さが長さ検出器で検出され、回転円板から引き出された紐状体の長さに応じて走行モータの回転速度が制御される。つまり、操作者が紐状体を長く引き出す程、運搬車は早い速度で走行するようになっている。また、紐状体の引き出し部は、左右方向に揺動自在となっており、紐状体を持つ操作者が左右何れかに進路変更すると、その方向に前記引き出し部が動くことになり、その方向及び回転量が検出器で検出されて、これら方向及び回転量に応じ、かじ取りモータの駆動量が制御され、操作者に追従するように前側の車輪が操舵される。
【0004】
つまり、従来における前記無人電動運搬車は、回転円板からの紐状体の引き出し量及びその方向により、当該紐状体を持つ操作者に追従動作するようになっている。
【特許文献1】特開平9−58486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記無人電動運搬車にあっては、次のような不都合がある。
【0006】
前記運搬車の紐状体は、その一端側が回転円板に繋がっており、この回転円板の巻き取り方向にモータによる回転力が付与されているため、操作者による紐状体の引き出し量に拘らず、当該紐状体は、常にテンションが掛かった状態となっている。このため、運搬車は、段差を乗り越える際等、外乱が働いてバランスを崩すと転倒し易くなる。
【0007】
また、例えば、紐状体が長く引き出された状態、すなわち、運搬車が早い速度で走行している状態から、急に減速したい場合、紐状体を瞬時に回転円板に巻き取らせる必要があり、運搬車に対する瞬時の速度変更指令には限界がある。
【0008】
更に、運搬車を一定の速度で走行させるためには、操作者は、一定の力で紐状体を引っ張り続けなければならない等、操作者は、常に操作を意識しながら紐状体を把持していなければならず、操作者にとって、楽な状態で運搬車を追従動作させることができない。
【0009】
また、前記運搬車にあっては、回転円板に対する紐状体の巻取り機構や前輪のかじ取り機構が必要であり、装置構成の複雑化や部品点数の増大化を招来する。
【0010】
更に、前記運搬車にあっては、紐状体が回転円板に巻回された状態になっているため、当該紐状体を交換する際に、外側のカバーを取り外す等、一部の分解が必要となり、紐状体の交換作業に多大な労力がかかる。
【0011】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、簡単な構成により、操作感の殆どない状態で、操作主体の移動に伴う追従動作を安定的に行うことができる移動体及びその追従構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、車体と、この車体の前側に取り付けられた紐状体と、前記車体に回転可能に支持された駆動輪と、この駆動輪に回転力を付与する駆動手段と、前記紐状体と車体との間の紐角度を検出する角度検出手段と、前記紐角度に基づいて前記駆動手段の駆動を制御する制御装置とを備える、という構成を採っている。
【0013】
(2)ここで、前記角度検出手段は、上下方向の紐角度を検出可能に設けられ、
前記制御装置は、前記上下方向の紐角度が増大する程、前記駆動輪の回転速度を増大させるように前記駆動手段を制御する、という構成を採っている。
【0014】
(3)また、前記駆動輪は、前記車体の左右両側に設けられ、
前記駆動手段は、左右両側の前記駆動輪に対してそれぞれ独立して回転力を付与可能に設けられ、
前記角度検出手段は、左右方向の紐角度を検出可能に設けられ、
前記制御装置は、前記紐状体の延出方向に沿って前記車体が移動するように、前記左右方向の紐角度に基づいて左右両側の前記駆動輪の回転速度を変える、という構成も併せて採用することができる。
【0015】
(4)また、前記角度検出手段は、前記紐状体が着脱自在に取り付けられる紐取付部材を備えるとよい。
【0016】
(5)更に、本発明に係る移動体の追従構造は、移動体の前側に取り付けられる紐状体と、これら移動体と紐状体との間の紐角度を検出する角度検出手段と、前記紐角度に基づいて前記移動体の移動速度及び移動方向を制御する制御装置とを備える、という構成を採っている。
【0017】
なお、本特許請求の範囲及び明細書において、位置若しくは方向を示す「前」、「後」、「左」、「右」は、特に明記しない限り、移動体の進行方向を基準とした「前」、「後」、「左」、「右」を意味する。
【0018】
また、「上下方向の紐角度」とは、図1に示されるように、車体12への取り付け部位となる紐状体18の基端側を通って上下方向に延びる仮想基準線Lと、紐状体18の基端側との間に形成された側面視の角度θを意味する。更に、「左右方向の紐角度」とは、図3に示されるように、車体18への取り付け部位となる紐状体18の基端側を通って前後方向に延びる仮想基準線Lと、紐状体18の基端側との間に形成された平面視の角度φを意味する。
【発明の効果】
【0019】
前記(1)及び(5)の構成によれば、紐状体が弛んだ状態で、当該紐状体の操作主体の移動に伴って移動体を追従動作させることができ、操作主体に対して、紐状体を引っ張り続けるという感覚を与えずに、楽な状態で移動体を追従動作させることができる。また、紐状体が弛んだ状態で移動体が追従動作を行うため、移動体が段差を乗り越えるとき等において、当該移動体がバランスを崩すような場合でも、紐状体の弛みによって、そのバランスの崩れを吸収でき、移動体の転倒が防止されて安定的な追従動作が可能となる。更に、紐状体の巻き取り機構や、複雑なセンサ類が不要となり、移動体の追従動作を簡単な構成で実現することができる。
【0020】
特に、前記(2)のように構成することで、操作主体と移動体との離間距離が長くなった場合は、上下方向の紐角度が増大し、これにより、移動体が増速して操作主体と移動体との離間距離が元の状態に戻る。一方、操作主体と移動体との離間距離が短くなった場合は、上下方向の紐角度が減少し、これにより、移動体が減速して操作主体と移動体との離間距離が元の状態に戻る。すなわち、操作主体の移動速度に拘らず、移動体は、操作主体との離間距離をほぼ一定に保つように追従動作することになる。また、このような通常の追従動作の他に、操作主体が紐状体を意図的に上下方向に振ることで、移動体を増減速させることが可能であり、移動体の瞬時の増減速にも十分対応できる。
【0021】
また、前記(3)のように構成することで、一本の紐状体の弛み具合及び延出方向により、移動体の移動速度及び移動方向の制御が行われることになり、従来のリンク機構等の操舵機構が不要となり、装置全体の小型化や部品点数の減少化を促進することができる。
【0022】
更に、前記(4)の構成により、車体に対して紐状体を容易に着脱することができ、紐状体の交換作業を簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0024】
図1には、本実施例に係る移動体の概略側面図が示されている。また、図2には、前記移動体の概略正面図が示されており、図3には、前記移動体の概略平面図が示されている。これらの図において、移動体10は、操作者Hに追従動作して操作者Hによる荷物Bの運搬を支援するものであり、車体12と、この車体12の上に載置された荷物搭載用の籠体13と、車体12の下部複数箇所に設けられた車輪15と、これら車輪15の一部に回転力を付与する駆動手段としてのモータ17と、車体12の前端側に取り付けられた紐状体18と、車体12と紐状体18との間に形成される上下方向及び左右方向の紐角度θ,φ(図1,図3参照)を検出する角度検出手段20と、検出された紐角度θ,φに基づいて前記モータ17の駆動を制御する制御装置21とを備えて構成されている。
【0025】
前記車輪15は、車体12の前後両側に設けられた首振り車輪23,23と、車体12の左右両側に設けられた駆動輪24,24とにより構成されている。前記首振り車輪23,23は、前後両側共に、車体12の左右方向ほぼ中央に設けられており、車体12に対して揺動可能に支持されている。一方、前記駆動輪24,24は、左右両側共に、車体12に対して揺動不能に支持されており、モータ17の駆動で車体12の側面にほぼ沿って前後方向に回転可能となっている。なお、左右の駆動輪24,24は、モータ17,17によってそれぞれ回転力が付与され、それぞれ独立して回転速度が制御されるようになっている。
【0026】
前記紐状体18は、特に限定されるものではないが、殆ど伸縮することなく、可撓性を有するものであれば何でも良く、その先端部分を操作者Hが把持するようになっている。
【0027】
前記角度検出手段20は、車体12の上面の前端側に取り付けられており、図4及び図5に示されるように、平面視ほぼ方形状をなす薄板状のベース26と、このベース26の上面に取り付けられた枠体27と、この枠体27の上方に位置する正面視略U字状のブラケット28と、このブラケット28の対向する側面28A,28A間で回転可能に掛け渡された左右軸部材29と、この左右軸部材29の左右方向ほぼ中央に固定されるとともに、紐状体18の基端側が取り付けられる紐取付部材31と、左右軸部材29に取り付けられた第1のポテンショメータ32と、ブラケット28の底面に取り付けられて、枠体27の内部に向かって延びる回転可能な上下軸部材33と、枠体27の内部に配置されるとともに、上下軸部材33に取り付けられた第2のポテンショメータ35とを備えて構成されている。
【0028】
前記ブラケット28は、上下軸部材33の回転により枠体27に対して左右方向すなわち水平方向に回転可能となっており、この回転角度が第2のポテンショメータ35で検出される。つまり、操作者Hにより、紐状体18が車体12に対して左右方向に動かされたときには、それに伴って、紐取付部材31がブラケット28に一体的に水平回転することになり、前記左右方向の紐角度φ(図3参照)が第2のポテンショメータ35により検出される。
【0029】
前記紐取付部材31は、紐状体18の基端側部分を左右両側から挟み込んで取り付けるようになっており、紐状体18が挟まれる部位は、それらの離間距離が図示しないボルト等により変更可能に設けられ、これにより、紐状体18が着脱自在に装着される。この紐取付部材31は、左右軸部材29の回転によりブラケット28に対して前後方向に揺動可能になっており、この回転角度が第1のポテンショメータ32で検出される。つまり、操作者Hにより、紐状体18が引っ張られ或いは弛められたときには、それに伴って、紐取付部材31がブラケット28に対して前後方向に揺動し、前記上下方向の紐角度θ(図1参照)が第1のポテンショメータ32により検出される。
【0030】
前記制御装置21は、第1及び第2のポテンショメータ32,35でそれぞれ検出された各紐角度θ,φに応じて、左右の駆動輪24,24の回転角速度を決定し、当該回転角速度で左右の駆動輪24,24が駆動するように各モータ17,17を制御する。ここでは、操作者Hと車体12との離間距離が長くなって、紐状体18の弛みが少なくなる程、つまり、上下方向の角度θが増大する程、各駆動輪24,24の回転角速度を増大させるようになっている。また、操作者Hが車体18に対して左右何れかに移動したときには、移動方向側の駆動輪24に対し、その反対側の駆動輪24の回転角速度が速くなるように制御され、前記左右方向の紐角度φが増大する程、各駆動輪24,24の回転角速度の差を増大させるようになっている。これにより、操作者Hが車体12に対して左右方向にずれて移動したような場合でも、車体12は、首振り車輪23,23の揺動を伴い、紐状体18の延出方向となる操作者Hの移動方向にほぼ沿って移動することになる。
【0031】
具体的に、左右の駆動輪24,24の回転角速度は、次式によって求められる。なお、紐角度φは、図3の仮想基準線Lよりも左側の角度に「+」の符号を付し、同右側の角度に「−」の符号を付す。
【数1】

ここにおいて、
は、移動体10の前進速度であり
は、移動体10の左右方向の回転角速度であり
,Kは、紐状体18の材質やその取り付け位置、車体のサイズ等によって定まるゲインであり、
θは、紐状体18の取り付け状態によって定まる上下方向の紐角度の最小値であり、
θmaxは、紐状体18が伸び切った状態の上下方向の紐角度の最大値であり、
φは、左側の紐角度の最大値であり、
φは、右側の紐角度の最大値であり、
Aは、第1のポテンショメータ32に応じて定まる定数であり、
Bは、第2のポテンショメータ33に応じて定まる定数であり、
Cは、左右の駆動輪24,24の離間幅に応じて定まる定数である。
【0032】
以上のように構成された移動体10によれば、操作者Hが加速することによって、移動体10との離間距離が増大すると、紐状体18の弛みが少なくなって上下方向の紐角度θが増大し、移動体10の走行速度が増大する。逆に、操作者Hが減速することによって、移動体10との離間距離が減少すると、紐状体18の弛みが多くなって上下方向の紐角度θが減少し、移動体10の走行速度が減少する。このため、操作者Hが移動している場合には、その速度に拘らず、移動体10と操作者Hとの離間距離をほぼ一定に維持したまま、移動体10が操作者Hに追従して走行することになる。なお、操作者Hが移動体10に対して接近し、所定の最小離間距離になったとき、すなわち、上下方向の紐角度θが最小値θになったときは、移動体10が停止するようになっている。
【0033】
従って、このような実施例によれば、操作者Hが手に持つ紐状体18の弛み具合及びその延出方向に基づいて、移動体10は、操作者Hの移動速度に合わせた走行制御がなされるとともに、操作者Hの移動軌跡にほぼ沿った走行制御がなされる。このため、簡単な構成で、しかも、操作者Hが紐状体18に意図的な引っ張り力を加えることなく、操作者Hに追従した移動体10の走行が可能となる。
【0034】
また、殆どの場合、紐状体18が弛んだ状態で、移動体10を操作者Hに追従させることができ、車体18が図示しない段差等を乗り越えるような場合でも、紐状体18の弛みを使って、車体18のバランスの崩れを吸収することができ、このような場合でも安定した移動体10の走行が可能となる。
【0035】
また、操作者Hが紐状体18を上下方向に動かせば、移動体10の増速及び減速を簡単に行え、移動体10の走行速度を意図的に瞬時に変えることができる。
【0036】
更に、紐状体18が紐取付部材31に対して着脱自在になっているため、紐状体18の交換作業を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0037】
なお、本発明における移動体10の追従構造は、前記実施例のように、操作者Hに対する移動体10の追従のみならず、他の動体、例えば、動物や牽引車等の他の移動体に対して追従動作する移動体に適用することも可能である。
【0038】
また、前記角度検出手段20は、前記実施例の構成に限定されるものではなく、上下方向及び左右方向の紐角度θ,φを検出できる限りにおいて、種々の構成のものを採用することができる。
【0039】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施例に係る移動体の概略側面図。
【図2】前記移動体の概略正面図。
【図3】前記移動体の概略平面図。
【図4】角度検出手段の概略斜視図。
【図5】前記角度検出手段の概略正面図。
【符号の説明】
【0041】
10 移動体
12 車体
15 車輪
17 モータ(駆動手段)
18 紐状体
20 角度検出手段
21 制御装置
24 駆動輪
31 紐取付部材
H 操作者
θ 紐角度
φ 紐角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、この車体の前側に取り付けられた紐状体と、前記車体に回転可能に支持された駆動輪と、この駆動輪に回転力を付与する駆動手段と、前記紐状体と車体との間の紐角度を検出する角度検出手段と、前記紐角度に基づいて前記駆動手段の駆動を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする移動体。
【請求項2】
前記角度検出手段は、上下方向の紐角度を検出可能に設けられ、
前記制御装置は、前記上下方向の紐角度が増大する程、前記駆動輪の回転速度を増大させるように前記駆動手段を制御することを特徴とする請求項1記載の移動体。
【請求項3】
前記駆動輪は、前記車体の左右両側に設けられ、
前記駆動手段は、左右両側の前記駆動輪に対してそれぞれ独立して回転力を付与可能に設けられ、
前記角度検出手段は、左右方向の紐角度を検出可能に設けられ、
前記制御装置は、前記紐状体の延出方向に沿って前記車体が移動するように、前記左右方向の紐角度に基づいて左右両側の前記駆動輪の回転速度を変えることを特徴とする請求項2記載の移動体。
【請求項4】
前記角度検出手段は、前記紐状体が着脱自在に取り付けられる紐取付部材を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の移動体。
【請求項5】
移動体の前側に取り付けられる紐状体と、これら移動体と紐状体との間の紐角度を検出する角度検出手段と、前記紐角度に基づいて前記移動体の移動速度及び移動方向を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする移動体の追従構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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