移動端末位置推定装置、移動端末位置推定方法及び電波環境指標算出方法
【課題】
RSSI(Received Signal Strength Indicator:受信電界強度)を利用した移動端末の位置推定は、フェージングとNLOS(Non Line Of Sight:見通し外)、すなわち電波環境の影響で、位置推定の誤差が一定しないという問題がある。
【解決手段】
移動端末は、アクセスポイントから送信される信号を帯域可変して受信してRSSIを算出し、そこから電波環境指標を算出する。この指標算出をアクセスポイント毎に行うことによって位置推定時の各アクセスポイントの重みづけに用いる。
RSSI(Received Signal Strength Indicator:受信電界強度)を利用した移動端末の位置推定は、フェージングとNLOS(Non Line Of Sight:見通し外)、すなわち電波環境の影響で、位置推定の誤差が一定しないという問題がある。
【解決手段】
移動端末は、アクセスポイントから送信される信号を帯域可変して受信してRSSIを算出し、そこから電波環境指標を算出する。この指標算出をアクセスポイント毎に行うことによって位置推定時の各アクセスポイントの重みづけに用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LANなどの無線通信システムの移動端末位置の推定に係り、特にアクセスポイントから受信した受信信号より、受信電界強度を利用して移動端末位置を推定する移動端末位置推定装置、移動端末位置推定方法及び電波環境指標算出方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来、GPSを搭載しない移動端末に搭載された無線機で、無線LANのアクセスポイント(以下APと表現)から送信される信号の受信電界強度(RSSI: Received Signal Strength Indicator)を測定・収集し、収集したRSSIデータから、移動端末の位置を推定するシステムが知られている。
【0003】
例えば、複数のAPによるRSSIのパターンが、場所によって異なるという性質を利用し、あらかじめ測定対象の場所毎にRSSIパターンの収集を行ってデータベースを構築し、実際の利用時には、得られたRSSIパターンと、データベースの内のRSSIパターンが最も近くなる場所を推定結果として出力する方法がある。また、別の例ではAPからの距離と、RSSIの値との関係が、電界強度の距離減衰(パスロス)曲線に近似できる事を利用し、得られたRSSIの組み合わせから距離を推定し、推定された距離と、あらかじめ与えられるAPの位置の情報から、例えば、三辺測量の原理を用いて移動端末の位置を推定する方法を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−47556号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 B VolJ89−B No−5 pp.742−750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の無線チャネルにおいては、信号の多重反射(マルチパス)と、移動端末自身及び周辺の人・物体の移動があり、その結果として、フェージングが生じて、RSSI値は大きく変動する。そのため、前述したようなRSSIを用いた位置推定方式は大きな影響を受ける。そのため、フェージング対策を行うのが一般的である。例えば、非特許文献1では、RSSIのフェージングによる変動を指数分布と見なした上で、最尤推定法を用い、移動端末の位置推定の性能の向上を図っている。しかしながら、フェージングの特性は各場所で大きく異なる。そのため、上記のようなフェージング対策を施したとしても、場所による測定誤差のばらつきが生じる。また、フェージング対策によりフェージングの影響を除いたRSSIが算出できても、移動端末とAPの間に障害物がある場合は位置推定の誤差が大きくなる。これは、移動端末とAP間に障害物がある見通し外の状態(NLOS:Non Line of Sightと呼ばれる)では、電波が障害物を通過する際の吸収、端部での回折、あるいは他の物体に反射して迂回される等の距離減衰以外の減衰を受けるため、移動端末とAP間の直線距離が計算出来ないことに起因する。これに対し、例えば、特許文献1では遮蔽物などの影響を受けた環境下での端末位置の推定システムとして電波の到来時刻と受信信号強度から位置推定を行うシステムが開示されている。なお、NLOSに対し、見通しがある状態はLOS(LOS:Line of Sight)と呼ばれる。
【0007】
RSSIを利用した移動端末の位置推定は、上述したように、フェージングとNLOSの影響、すなわち電波環境のために、位置推定の誤差が一定しないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
無線通信システムの移動端末周辺の複数のアクセスポイントから受信した無線通信システムに係る受信信号、たとえば通信パラメータおよび同期情報を通知するためにAPから定期的に送信されるビーコンパケットなど、から算出した各アクセスポイントのRSSIを、受信信号を帯域幅可変して算出した帯域可変RSSI及び、それを用いて算出される電波環境指標の評価基準で判定し、判定結果を考慮に入れたアクセスポイントのRSSIより移動端末の測位計算を行い、移動端末の位置を推定する。
【0009】
また、受信信号の帯域幅の可変はアクセスポイントからの受信信号の本来の帯域より狭帯域に設定し、RSSIの評価は電波環境指標としてのCDF(Cummulative Disribution Function:確率密度関数)の傾き、あるいはRSSIの分散値で行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通信先との電波環境を判定し、判定結果に応じて移動端末の位置推定を予測し、精度の良い移動端末位置の推定ができる移動端末位置装置、移動端末位置推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の移動端末位置推定システムを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の移動端末位置推定の基本手順を示す図である。
【図3】本発明の移動端末の位置推定算出手順(最小二乗法)を示す図である。
【図4】本発明の移動端末の位置推定算出手順(最尤推定法)を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態の移動端末の位置推定RSSI算出手順を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態の電波環境算出とその判定手順(その1)を示す図である。
【図7】本発明の電波環境指標算出とその判定手順(その1)のLOS/NLOS判定例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)の分散値を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その3)を示す図である。
【図11】本発明の電波環境指標算出その判定手順(その3)の帯域可変RSSI算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
図1は本発明の一実施形態の移動端末位置推定システムを示す図である。移動端末位置推定システムは、無線ネットワーク1内の複数の移動端末2(1つの移動端末のみ図示)及び複数のアクセスポイントAP3−i(i=1〜N)と移動端末位置推定装置4と、で構成する。
【0013】
移動端末位置推定装置4は、移動端末2の内部に構成されている。移動端末2は、複数のAPからの信号、たとえばビーコンパケット、を受信機10で受信し、受信信号は、移動端末位置推定装置4に送られる。移動端末位置推定装置4では、受信した各アクセスポイントの時間域信号を受信信号の帯域幅で決まる受信信号所定周期でサンプリングして、RSSI計算部1(11)の経路とRSSI計算部2(14)への経路に送り出す。
【0014】
なお、本発明を実施するためには、必ずしもこの構成である必要はない。例えば、移動端末位置推定装置4は、移動端末2とネットワークを経由して接続され、受信機10のデータを送る事が可能な別のサーバ上でも良い。さらに、各計算部は、必ずしも同じ端末・サーバ上に存在する必要はなく、各部位が相互に接続され、所定のデータのやりとりが可能であればよい。また、以下の説明ではAPから移動端末2へ送られた信号を用いてRSSIを計算し、それを用いて位置推定を行うが、電波の相反性より、移動端末2から送信された信号を、各APで受信した信号に対して同様の演算を行ってもよい。
説明は1つのAPからの受信信号の流れについて説明するが、全てのAPからの受信号について行われる。
【0015】
RSSI計算部1(11)の経路では受信信号所定周期の各サンプリング点の振幅よりRSSIを算出するRSSI計算部1(11)、算出したRSSIと以下に述べる電波環境指標計算・判定部15での判定結果を基に移動端末2の位置測位を行う測位計算部12で構成する。
【0016】
一方、RSSI計算部2(14)の経路では、受信信号の所定周期の信号の帯域幅を可変にする帯域幅可変部13、帯域幅を可変させた受信信号の帯域幅可変RSSIを算出するRSSI計算部2(14)、算出したRSSIより電波環境指標を算出、判定しRSSI計算部1(11)の算出したRSSIを移動端末2の位置測位に適用するか否かのフラグを生成する電波環境指標計算・判定部15で構成する。さらにRSSI算出に用いる情報の保持、算出したRSSIを一時的に保持するDB(データベース)16で構成する。
【0017】
帯域幅可変部13、電波環境指標計算・判定部15、測位計算部12の処理内容について説明する。
1)帯域幅可変部13は受信機10からの受信信号の所定周期の信号列より受信信号の帯域幅を時間間引きにより、あるいは帯域指定により、あるいはフィルタを用いて帯域幅可変を行う。
【0018】
時間間引きによる帯域可変は、受信機10からの受信信号所定周期のサンプリング点の信号列の信号を間引くことにより帯域幅を可変にする。例えば、元の信号列を2回に1回間引くことにより帯域が元の帯域の1/2となり、さらに同じ間引を行うと帯域は1/4に低下した信号が生成できる。
【0019】
帯域指定による帯域可変は、受信機からの受信信号所定周期のサンプリング点の信号列をFFT変換により周波数領域に変換し、得られた周波数領域中で帯域指定を行い、帯域幅を可変にする。
【0020】
フィルタを用いた帯域幅可変は、所定の帯域特性を持たせたディジタルフィルタを構成して受信信号の帯域幅を可変にする。ここで、フィルタは必ずしもディジタルフィルタである必要はなく、例えばアナログフィルタでもよい。
2)電波環境指標計算・判定部15は、電波環境指標として累積確率密度関数(CDF:Cumulative Distribution Function)、あるいは分散値を算出して、位置推定に用いる各APからのRSSIのLOS、NLOSの判定を行う。
【0021】
LOS、NLOSの判定は、位置端末位置推定装置4の位置から等距離にAPが位置していてもNLOSの場合、環境により電波が大きな減衰を受けてRSSIが小さくなり、位置推定誤差の要因となる。従って、APがLOSの状態にあるかNLOSの状態にあるかを判別し、LOS判定のAPのRSSIにより位置算出することが重要である。
【0022】
電波環境指標計算・判定部15は、算出されたRSSIのCDFの傾きによりLOSかNLOSの判定評価を行う。なお、信号帯域幅とそのLOS、NLOSの判定について、一般的に次の性質が知られている。RSSI測定の帯域幅がコヒーレント帯域幅よりも十分大きいと、複数パスの平均化効果により、RSSI値のフェージング変動は小さくなる。逆に言えば、RSSI測定の帯域幅が十分小さければ、RSSI値のフェージングの変動は大きく見える。また、LOS環境では、フェージング変動は小さく、NLOS環境では、フェージング変動は大きくなる。従って、RSSIの傾きによるLOSあるいはNLOSの判定において、RSSI測定の帯域幅が広い場合にはLOSとNLOSのフェージング変動の差があまり無い場合でも、RSSI測定の帯域幅を狭くすることにより、顕著な差が見られ、LOSとNLOSの弁別が容易になる。
【0023】
また、電波環境指標計算・判定部15は、算出されたRSSIの分散値の大きさ(集中度)によりLOSかNLOSの判定評価を行う。LOS環境の場合、RSSIの分散値は大きくなる。
3)測位計算部12は移動端末位置を算出する。受信信号のRSSIを基に移動端末の位置を推定する方法については、最小二乗法、あるいは最尤推定法が知られている。複数APと、各APについて、複数パケットのRSSIから移動端末2の位置を推定する手順は図3、図4で説明する。
【0024】
図2は本発明の一実施形態の移動端末位置推定の基本手順を示す図である。
【0025】
S1:受信信号情報、帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標算出のパラメータの初期設定を行う。
【0026】
受信信号情報は、受信信号の帯域幅で決まる所定周期Taと2つの所定最小数M1、所定最小数M2である。M1は受信信号の通信プロトコル上の1つのパケットの受信信号からRSSIを算出するのに必要な最小サンプル数であり(RSSI算出最小サンプル数)、M2は移動端末2の位置推定に用いるために必要なRSSIの最小数である(測位算出最小RSSI数)。
【0027】
帯域幅可変情報は受信信号の帯域幅可変の方法である。電波環境指標は指定する電波環境指標である。パラメータ(所定最小数2種)は電波環境指標評価に必要な所定数であり、帯域可変RSSI算出最小サンプル数と電波環境指標算出最小パケット数である。
S2:受信機10からのAP毎の信号を所定周期Taでサンプリングする。下記S3〜S8の処理はAPの数N全てについて行う。
S3、S4、S5:所定数M2のパケットについて、パケット毎に測位計算に用いるRSSIを算出する手順である。
【0028】
順次受信する通信プロトコルの1つのパケットより、Taの周期でサンプリングし、その数が該当のパケットでのRSSIを算出するのに必要な所定数M1になるまでサンプリング値を保持し、M1になった場合そこからRSSIを算出し、保持する。同様に、順次受信するM2個のパケットについてRSSIを算出し保持する。S6〜S8の処理によるフラグ指示が「該当のAPのRSSIは位置測位に適用可能」の場合、該当APのM2個のRSSIを測位計算部12に送る。
S6、S7、S8:指定した電波環境指標を基にS3、S4、S5で算出した該当のAPのRSSIが測位計算に適用可能か否かの判定を行う手順である。
【0029】
1つのパケットからの受信信号の帯域幅を可変(受信信号の帯域幅より狭帯域にする)した信号をサンプリングし、その数が指定した帯域可変RSSI算出に必要な所定の数(帯域可変RSSI算出最小サンプル数)になるまで、サンプリング値を保持する。所定数になった場合、保持するサンプリング値より帯域可変RSSIを算出し、保持する。
【0030】
次のパケットより同様に電波環境指標評価の所定数(電波環境指標算出最小パケット数)のパケットについて行う。保持する電波環境指標算出最小パケット数の帯域可変RSSIより、指定の電波環境指標を算出し、所定の基準を満たすか否か判定し、判定結果により以下のフラグを生成する。
ア.所定値を満たす :該当のAPのM2個のRSSIは移動端末位置測位に適用する。
イ.所定値を満たさない:該当のAPのM2個のRSSIは移動端末位置測位に適用しない。
S9:位置測位に適用可能と判定されたAPの各々、M2個のRSSIより移動端末の位置を算出する。(位置測位の方法図3、図4)
次に、複数(N個)のAPから、AP毎に複数M2個のパケットから算出したRSSIから移動端末2の位置を推定する方法として、最小二乗方法、最尤推定法について説明する。下記の「i」、「k」は後述するAPの数(N)、AP毎に複数のRSSIを算出するパケットの数M2に対応し、i=1〜N、k=1〜M2となる。
【0031】
一般的に、電波は距離rによる減衰を受けるため、送信電力一定の場合の受信電力pは送信電力が一定とすれば、(式1)と表される。
【0032】
【数1】
ここで、α、βは環境により決まるパラメータである。(式1)を基に移動端末の位置推定の手順を図3、図4で説明する。
【0033】
図3は本発明の移動端末の位置推定算出手順(最小二乗法)を示す図である。
S11:位置xiにあるi番目のAPのk番目の信号によるRSSI値を(式2)で算出する。
【0034】
位置x=(x,y)にある移動端末の位置xiにあるi番目のAPから受信したk番目の信号によるRSSI値(pi,k)は(式1)を用いて(式2)となる。
【0035】
【数2】
ここで、nは雑音である。
S12:移動端末の推定位置を(式3)、(式4)、(式5)で算出する。
1)APのk番目の信号による移動端末の推定位置を(式3)で算出する。
【0036】
この時、移動端末が得た全てのAPからの受信電力を
【0037】
【数3】
なるベクトルとすれば、移動端末のk番目の信号からの推定位置
【0038】
【数4】
は(式3)となる。
【0039】
【数5】
ここで、
【0040】
【数6】
であり、
【0041】
【数7】
である。
【0042】
2)全てのAPを加味した移動端末の位置を(式4)で算出する。
【0043】
全てのAPを加味した、RSSIを算出する数(k=1〜M2)の信号から推定する移動端末の位置は(式4)となる。
【0044】
【数8】
3)AP毎に重みの重要度を加味した移動端末の位置を(式5)で算出する。
【0045】
AP毎のRSSIに重要度を加味する場合は、移動端末の推定位置は(式5)となる。
【0046】
【数9】
ここで、WはAP毎の重要度に対応した重み行列で、0≦wi≦1であり、wiが「1」に近い程、該当のAPのデータが重視され、「0」の場合は全く反映されない。
【0047】
図4は本発明の移動端末の位置推定算出手順(最尤推定法)を示す図である。
【0048】
最小二乗法は通信路が白色雑音のみの影響を受けるAWGN(Additive White Gaussian Noise)を想定したものと等価である。しかし、一般に無線通信路はフェージングの影響を受ける。信号がレイリーフェージングを受ける場合、その信号電力は指数分布になる。そこで、レイリーフェージングの影響を受けた場合について移動端末の位置推定について説明する。
S15:移動端末とAPの距離rでの確率密度(式6)、尤度(式7)を算出する。
【0049】
受信電力の距離rでの条件付き確率密度分布は、平均電力
【0050】
【数10】
を用いて(式6)となる。
【0051】
【数11】
また、尤度はP=(P1,P2,・・・Pk)但し、Pk=(Pi,k,P2,k,・・・Pi,k・・・Pn,k))を用いて(式7)と表される。
【0052】
【数12】
S16:移動端末の位置を(式8)で算出する。
【0053】
移動端末の位置の位置を尤度を用いて算出する。求める推定位置
【0054】
【数13】
は尤度が最大になる地点であり、対数尤度を用いて(式8)で算出できる。
【0055】
【数14】
ここで、尤度は(式9)である。
【0056】
【数15】
S17:対数尤度を(式10)算出する。
【0057】
対数尤度は(式10)となる。
【0058】
【数16】
S18:AP毎に重要度を加味した重み行列を導入した対数尤度を(式11)で算出する。
【0059】
AP毎の重みを加味した重み行列を導入した対数尤度を算出する。
AP毎の重みを加味した重み行W(W=(w1,w2,・・wi・・・wN))とすると、重み付き対数尤度は(式11)で表される。
【0060】
【数17】
S19:移動端末の位置を対数尤度(式10)あるいは(式11)を用いて(式8)で算出する。
【0061】
移動端末の位置を対数尤度、重み付き対数尤度を用いて算出する。(式9)の代わりに(式10)を用いて移動端末の位置を推定する。さらにAP毎の重要度に応じて重み付けを行う場合は、(式9)の代わりに(式11)を用いて電波環境に対応したて移動端末の位置を推定できる。なお、(式11)の先頭行の
【0062】
【数18】
は、2行目以降で用いられる演算を実行するための演算子である。また、重み行列の要素wiは、0≦wi≦1であり、最小二乗法と同様にwiが「1」に近い程、該当のAPのデータが重視され、「0」の場合は全く反映されない。
【0063】
図5は本発明の一実施形態の移動端末の位置推定用RSSI算出手順を示す図である。
【0064】
S21:受信信号情報として、受信信号取得所定周期Ta、RSSI算出最小サンプル数M1、測位算出最小RSSI数M2の初期設定を行う。
【0065】
受信信号取得所定周期Taは受信信号の帯域幅で決まる所定周期である。M1は1つのパケットについてRSSI算出するために必要な所定周期Taの受信信号サンプル数である。M2は1つのパケットから算出するRSSIを測位計算に必要な複数のパケットついて行うために必要な最小パケット数である。
S22:S23〜S26の手順をAP毎に全てのAPについて行う。
S23:測位計算に用いる該当APのRSSIを算出する手順である。
【0066】
該当APの1つのパケットより位置対応の受信信号サンプリングを帯域で定まる受信信号取得周期Ta間隔でM1個取得し、サンプル数がM1になった時、このAPでのRSSIを算出し、保持する。
S24、S25、S26:S23の処理を順次受信する所定のパケット数M2について行う手順である。
【0067】
S23の処理を順次、次のパケットより、取得したM2個のRSSIを算出し保持する。
S27:電波環境指標判定結果が所定の基準を満たすAPの各々、M2個のRSSIを測位計算部に送る。
【0068】
図6は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その1)を示す図である。電波環境指標としてRSSIのCDFの傾きからLOS/NLOS判定について説明する。
【0069】
S31:帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標パラメータ(閾値)、パラメータ所定数の初期設定を行う。
【0070】
帯域幅可変は、受信信号の間引きで行い、その信号取得間隔はTbである。電波環境指標はCDFであり、CDFの傾きの閾値はLである。また、パラメータ所定数は、帯域可変RSSI算出サンプル数M1aと電波環境指標(CDF)算出最小パケット数M2aである。
【0071】
M1aは1つのパケットについて帯域可変した受信信号よりRSSI算出するために必要な所定周期Tbの受信信号サンプル数であり、M2aは、サンプル数M1aから算出する1つのパケットのRSSIを、電波環境指標(CDF)の評価のために必要とする最小パケット数である。
S32:以下の処理をAP毎に全てのAPについて行う。
S33、S34、S35、S36:該当のAPからの受信信号のパケットを帯域可変した信号列のM1a個のサンプル数から帯域可変RSSIを算出する手順である。
【0072】
該当APの時刻Tj(j=1)での受信信号をサンプリングし、その時刻でのサンプル値を保持する。j=j+1とし、時刻Tj=Tj+Tbの時刻の受信信号を順次サンプリングする。帯域幅可変の処理は、例えば、信号取得周期Tbを2×Taとして順次サンプリングする信号系列の帯域は、元の受信信号の帯域の1/2となる(具体的には、帯域幅の信号を2回に1回間引くと帯域は1/2となる)。M1a個のサンプル値より該当のパケットでのRSSIを算出し保持する。
S37、S38:S33〜S36の処理を所定パケット数M2a行い、電波環境指標CDFを評価する手順である。
【0073】
M2aのパケットについて、各々、帯域可変RSSIを算出する(S33〜S36)を行い、保持する該当のAPのM2a個の帯域可変RSSIより算出されるCDFの傾きが閾値Lを越えたか否かにより評価し、LOS/NLOS判定を行う(LOS/NLOS判定:図7)
S39:LOS、NLOS判定結果によりフラグを生成する手順である。
【0074】
評価結果により、以下のフラグを生成する。
LOS判定:[該当のAPを測位計算に適用する」フラグ
NLOS判定:「該当のAPは測位計算に適用しない」フラグ
なお、図7に示す傾きがLより大きい場合はLOS判定であり、小さい場合はNLOS判定であるが、後に記載するように大きさに応じてウェイトwiを計算しても良い。
【0075】
図7は本発明の電波環境指標算出とその判定手順(その1)のLOS/NLOS判定例を示す図である。
【0076】
RSSIの累積確率密度分布関数CDF(Cummulative Distoribution Function)を基にLOS指標とその判定例を示している。
【0077】
二次元座標で表現したCDF特性の傾き算出の切片(所定の立ち上がり点、収束域点の値)より特性の傾きgを算出する。gは(式12)のように表わされる。
【0078】
【数19】
ここで、C1、C2は得られたRSSIのCDFとし、f−1(c)は図面化したCDF特性を近似した関数の逆関数である。
ア.LOS判定
この場合、傾きgが所定の閾値より大きいのでLOSと判定する。
イ.NLOS判定
この場合、傾きgが所定の閾値より小さいのでNLOSと判定する。
【0079】
図8は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)を示す図である。図6で述べた電波環境指標CDFの傾きでの評価を分散値の大きさでの評価に変えた手順である。一部重複して説明する。
【0080】
S41:帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標パラメータ(閾値)、パラメータ所定数の初期設定を行う。
【0081】
帯域幅可変は信号間引きで行い、その信号取得周期はTbである。電波環境指標は分散値であり、その分散値閾値はBである。また、パラメータ所定数は帯域可変RSSI算出サンプル数M1bと電波環境指標(分散)算出最小パケット数M2bである。
【0082】
M1bは1つのパケットについて、帯域可変した受信信号よりRSSIを算出するために必要な所定周期Tbの受信信号サンプル数であり、M2bは、サンプル数M1bから算出する1つのパケットのRSSIを、電波環境指標分散の評価のために必要とする最小パケット数である。
S42: 以下の処理をAP毎に全てのAPについて行う。
S43、S44、S45、S46:各APからの1つのパケットの受信信号から帯域可変した信号列からM1b個のサンプル数から帯域可変RSSIを算出する手順である。
【0083】
該当APの時刻Tj(j=1)での受信信号をサンプリングし、サンプル値を保持する。j=j+1とし、時刻Tj=Tj+Tbの時刻の受信信号を順次サンプリングする。帯域幅可変の処理は、図5の例と同様である。
S47、S48:S44〜S46の処理を所定パケット数M2b行い、電波環境指標分散を評価する手順である。
【0084】
M2bのパケットについて、各々、帯域可変RSSIを算出する(S43〜S46)を行い、保持する該当のAPのM2b個の帯域可変RSSIの分散値が閾値Bを越えたか否かにより評価する。こちらも、CDFの場合と同様、値の大きさに応じたウェイトwiを与えてもよい。(分散判定:図9)
S49:分散値判定結果により以下のフラグを生成する。
所定値を満たす:「該当のAPは測位計算に適用する」フラグ
所定値を満たさない:「該当のAPは測位計算に適用しない」フラグ
なお、分散値がBより小さい場合(所定値を満たす)はLOS判定であり、大きい場合(所定値を満たさない)はNLOS判定である。
【0085】
図9は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)の分散値を示す図である。電波環境指標としてRSSIの分散値の判定について説明する。
【0086】
1つのAPiからの各時刻でのRSSIをPi,k(k=1〜M2b)とすると分散は(式13)で表される。
【0087】
【数20】
図10は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その3)を示す図である。
S51:帯域幅可変情報、電波環境指標パラメータ、所定数パラメータM1c、M2cの初期設定を行う。
【0088】
帯域幅可変は受信信号をFFTにより変換した周波数域の領域を指定する。また、FFT計算の受信信号取得周期は受信信号帯域幅で決まる所定周期Taである。所定数パラメータは帯域可変RSSI算出サンプル数M1cと、電波環境指標算出最小パケット数M2cである。
【0089】
M1cは1つのパケットについて受信信号の帯域幅で決まる所定周期Taの受信信号サンプル数であり、Taの周期で取得したサンプル数でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)変換を行う。ここで、周波数領域に変換する信号処理であれば、必ずしもFFTでなくても良い。例えば、DFT(Digital Fourier Transform)などでも良い。M2cはサンプル数M1cから算出するRSSIを、電波環境指標(CDFあるいは分散)の評価のために必要とする最小パケット数である。
S52:対象の全てのAPについて、S53〜S55の処理を行う。
S53、S54:各APからの1つのパケットの受信信号からFFT変換した周波数領域に指定した領域のRSSIを算出する手順である。
【0090】
受信信号の所定周期Taの間隔で受信信号をM1c個取得し、FFTを行い、周波数軸上への信号変換を行う。周波数軸上の指定された帯域の振幅を用いてその帯域でのRSSIを算出する。不連続に複数の領域を指定した場合はそのRSSIを算出し、保持する。
S55、S56:S53〜S54の処理を所定のパケット数M2c行い、電波環境指標(CDF、あるいは分散)による評価手順である。
【0091】
保持する該当のAPのM2c個のRSSIより電波環境指標(CDFあるいは分散値)により、評価し、判定した結果により、以下のフラグを生成する。
所定値を満たす :該当のAPは移動端末位置測位に適用する」フラグ
所定値を満たさない:該当のAPは移動端末位置測位に適用しない」フラグ
【0092】
なお、測位計算に用いる受信信号取得所定周期のRSSIの信号系列をFFT変換する代わりにチャネル推定等時に得られる周波数応答のデータを使い帯域を指定する方法も考えられる。また、変調方式がOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の場合、OFDM復調時に作成する周波数軸上のデータを使い帯域を指定する方法も考えられる。
【0093】
図11は本発明の電波環境指標算出その判定手順(その3)の帯域可変RSSI算出例を示す図である。
【0094】
ア.で示す受信信号は帯域可変部13でFFT変換行い周波数域領域に変換され、イ.で示す帯域幅の信号となる。帯域幅可変部13で、例えば、ウ.で示す4つの周波数域を指定し、その領域のRRSIのRSSIをRSSI計算部2(14)で算出する。その結果RSSI#1、RSSI#2、RSSI#3、RSSI#4を得る。これらを用いてこのAPでの帯域可変RSSIを得る。
【0095】
今回、傾きg、あるいは分散値が所定の閾値を満たすか否かにより、該当のAPを測位計算に用いるか否かの判定に用いる方法について示したが、さらに、傾きg、あるいは分散値の値、通信路の他の環境要素等を評価し、図3、図4で述べたAP毎に測位計算に適用する重みを決定するパラメータを用いて移動端末の位置を推定する事も考えられる。
【0096】
以上より、帯域可変した受信信号のRSSIのCDF、あるいは分散によるLOS、NLOS判定評価により、フェージング、移動端末とAP間での障害物による影響(障害物による吸収、端部での回折)、あるいは他の物体に反射して迂回される等の距離減衰以外の減衰を受けた電波による影響(電波環境指標のばらつき、雑音等)を低減することにより、移動端末の位置推定の誤差を低減し、位置推定を精度良く実現できる。
【符号の説明】
【0097】
1 無線ネットワーク
2 移動端末
3−1、3−2、3−i AP(アクセスポイント)
4 移動端末位置推定装置
10 受信機
11 RSSI計算部1
12 測位計算部
13 帯域幅可変部
14 RSSI計算部2
15 電波環境指標計算・判定部
16 DB(データベース)
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LANなどの無線通信システムの移動端末位置の推定に係り、特にアクセスポイントから受信した受信信号より、受信電界強度を利用して移動端末位置を推定する移動端末位置推定装置、移動端末位置推定方法及び電波環境指標算出方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来、GPSを搭載しない移動端末に搭載された無線機で、無線LANのアクセスポイント(以下APと表現)から送信される信号の受信電界強度(RSSI: Received Signal Strength Indicator)を測定・収集し、収集したRSSIデータから、移動端末の位置を推定するシステムが知られている。
【0003】
例えば、複数のAPによるRSSIのパターンが、場所によって異なるという性質を利用し、あらかじめ測定対象の場所毎にRSSIパターンの収集を行ってデータベースを構築し、実際の利用時には、得られたRSSIパターンと、データベースの内のRSSIパターンが最も近くなる場所を推定結果として出力する方法がある。また、別の例ではAPからの距離と、RSSIの値との関係が、電界強度の距離減衰(パスロス)曲線に近似できる事を利用し、得られたRSSIの組み合わせから距離を推定し、推定された距離と、あらかじめ与えられるAPの位置の情報から、例えば、三辺測量の原理を用いて移動端末の位置を推定する方法を採っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−47556号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 B VolJ89−B No−5 pp.742−750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際の無線チャネルにおいては、信号の多重反射(マルチパス)と、移動端末自身及び周辺の人・物体の移動があり、その結果として、フェージングが生じて、RSSI値は大きく変動する。そのため、前述したようなRSSIを用いた位置推定方式は大きな影響を受ける。そのため、フェージング対策を行うのが一般的である。例えば、非特許文献1では、RSSIのフェージングによる変動を指数分布と見なした上で、最尤推定法を用い、移動端末の位置推定の性能の向上を図っている。しかしながら、フェージングの特性は各場所で大きく異なる。そのため、上記のようなフェージング対策を施したとしても、場所による測定誤差のばらつきが生じる。また、フェージング対策によりフェージングの影響を除いたRSSIが算出できても、移動端末とAPの間に障害物がある場合は位置推定の誤差が大きくなる。これは、移動端末とAP間に障害物がある見通し外の状態(NLOS:Non Line of Sightと呼ばれる)では、電波が障害物を通過する際の吸収、端部での回折、あるいは他の物体に反射して迂回される等の距離減衰以外の減衰を受けるため、移動端末とAP間の直線距離が計算出来ないことに起因する。これに対し、例えば、特許文献1では遮蔽物などの影響を受けた環境下での端末位置の推定システムとして電波の到来時刻と受信信号強度から位置推定を行うシステムが開示されている。なお、NLOSに対し、見通しがある状態はLOS(LOS:Line of Sight)と呼ばれる。
【0007】
RSSIを利用した移動端末の位置推定は、上述したように、フェージングとNLOSの影響、すなわち電波環境のために、位置推定の誤差が一定しないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
無線通信システムの移動端末周辺の複数のアクセスポイントから受信した無線通信システムに係る受信信号、たとえば通信パラメータおよび同期情報を通知するためにAPから定期的に送信されるビーコンパケットなど、から算出した各アクセスポイントのRSSIを、受信信号を帯域幅可変して算出した帯域可変RSSI及び、それを用いて算出される電波環境指標の評価基準で判定し、判定結果を考慮に入れたアクセスポイントのRSSIより移動端末の測位計算を行い、移動端末の位置を推定する。
【0009】
また、受信信号の帯域幅の可変はアクセスポイントからの受信信号の本来の帯域より狭帯域に設定し、RSSIの評価は電波環境指標としてのCDF(Cummulative Disribution Function:確率密度関数)の傾き、あるいはRSSIの分散値で行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通信先との電波環境を判定し、判定結果に応じて移動端末の位置推定を予測し、精度の良い移動端末位置の推定ができる移動端末位置装置、移動端末位置推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の移動端末位置推定システムを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態の移動端末位置推定の基本手順を示す図である。
【図3】本発明の移動端末の位置推定算出手順(最小二乗法)を示す図である。
【図4】本発明の移動端末の位置推定算出手順(最尤推定法)を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態の移動端末の位置推定RSSI算出手順を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態の電波環境算出とその判定手順(その1)を示す図である。
【図7】本発明の電波環境指標算出とその判定手順(その1)のLOS/NLOS判定例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)の分散値を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その3)を示す図である。
【図11】本発明の電波環境指標算出その判定手順(その3)の帯域可変RSSI算出例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
図1は本発明の一実施形態の移動端末位置推定システムを示す図である。移動端末位置推定システムは、無線ネットワーク1内の複数の移動端末2(1つの移動端末のみ図示)及び複数のアクセスポイントAP3−i(i=1〜N)と移動端末位置推定装置4と、で構成する。
【0013】
移動端末位置推定装置4は、移動端末2の内部に構成されている。移動端末2は、複数のAPからの信号、たとえばビーコンパケット、を受信機10で受信し、受信信号は、移動端末位置推定装置4に送られる。移動端末位置推定装置4では、受信した各アクセスポイントの時間域信号を受信信号の帯域幅で決まる受信信号所定周期でサンプリングして、RSSI計算部1(11)の経路とRSSI計算部2(14)への経路に送り出す。
【0014】
なお、本発明を実施するためには、必ずしもこの構成である必要はない。例えば、移動端末位置推定装置4は、移動端末2とネットワークを経由して接続され、受信機10のデータを送る事が可能な別のサーバ上でも良い。さらに、各計算部は、必ずしも同じ端末・サーバ上に存在する必要はなく、各部位が相互に接続され、所定のデータのやりとりが可能であればよい。また、以下の説明ではAPから移動端末2へ送られた信号を用いてRSSIを計算し、それを用いて位置推定を行うが、電波の相反性より、移動端末2から送信された信号を、各APで受信した信号に対して同様の演算を行ってもよい。
説明は1つのAPからの受信信号の流れについて説明するが、全てのAPからの受信号について行われる。
【0015】
RSSI計算部1(11)の経路では受信信号所定周期の各サンプリング点の振幅よりRSSIを算出するRSSI計算部1(11)、算出したRSSIと以下に述べる電波環境指標計算・判定部15での判定結果を基に移動端末2の位置測位を行う測位計算部12で構成する。
【0016】
一方、RSSI計算部2(14)の経路では、受信信号の所定周期の信号の帯域幅を可変にする帯域幅可変部13、帯域幅を可変させた受信信号の帯域幅可変RSSIを算出するRSSI計算部2(14)、算出したRSSIより電波環境指標を算出、判定しRSSI計算部1(11)の算出したRSSIを移動端末2の位置測位に適用するか否かのフラグを生成する電波環境指標計算・判定部15で構成する。さらにRSSI算出に用いる情報の保持、算出したRSSIを一時的に保持するDB(データベース)16で構成する。
【0017】
帯域幅可変部13、電波環境指標計算・判定部15、測位計算部12の処理内容について説明する。
1)帯域幅可変部13は受信機10からの受信信号の所定周期の信号列より受信信号の帯域幅を時間間引きにより、あるいは帯域指定により、あるいはフィルタを用いて帯域幅可変を行う。
【0018】
時間間引きによる帯域可変は、受信機10からの受信信号所定周期のサンプリング点の信号列の信号を間引くことにより帯域幅を可変にする。例えば、元の信号列を2回に1回間引くことにより帯域が元の帯域の1/2となり、さらに同じ間引を行うと帯域は1/4に低下した信号が生成できる。
【0019】
帯域指定による帯域可変は、受信機からの受信信号所定周期のサンプリング点の信号列をFFT変換により周波数領域に変換し、得られた周波数領域中で帯域指定を行い、帯域幅を可変にする。
【0020】
フィルタを用いた帯域幅可変は、所定の帯域特性を持たせたディジタルフィルタを構成して受信信号の帯域幅を可変にする。ここで、フィルタは必ずしもディジタルフィルタである必要はなく、例えばアナログフィルタでもよい。
2)電波環境指標計算・判定部15は、電波環境指標として累積確率密度関数(CDF:Cumulative Distribution Function)、あるいは分散値を算出して、位置推定に用いる各APからのRSSIのLOS、NLOSの判定を行う。
【0021】
LOS、NLOSの判定は、位置端末位置推定装置4の位置から等距離にAPが位置していてもNLOSの場合、環境により電波が大きな減衰を受けてRSSIが小さくなり、位置推定誤差の要因となる。従って、APがLOSの状態にあるかNLOSの状態にあるかを判別し、LOS判定のAPのRSSIにより位置算出することが重要である。
【0022】
電波環境指標計算・判定部15は、算出されたRSSIのCDFの傾きによりLOSかNLOSの判定評価を行う。なお、信号帯域幅とそのLOS、NLOSの判定について、一般的に次の性質が知られている。RSSI測定の帯域幅がコヒーレント帯域幅よりも十分大きいと、複数パスの平均化効果により、RSSI値のフェージング変動は小さくなる。逆に言えば、RSSI測定の帯域幅が十分小さければ、RSSI値のフェージングの変動は大きく見える。また、LOS環境では、フェージング変動は小さく、NLOS環境では、フェージング変動は大きくなる。従って、RSSIの傾きによるLOSあるいはNLOSの判定において、RSSI測定の帯域幅が広い場合にはLOSとNLOSのフェージング変動の差があまり無い場合でも、RSSI測定の帯域幅を狭くすることにより、顕著な差が見られ、LOSとNLOSの弁別が容易になる。
【0023】
また、電波環境指標計算・判定部15は、算出されたRSSIの分散値の大きさ(集中度)によりLOSかNLOSの判定評価を行う。LOS環境の場合、RSSIの分散値は大きくなる。
3)測位計算部12は移動端末位置を算出する。受信信号のRSSIを基に移動端末の位置を推定する方法については、最小二乗法、あるいは最尤推定法が知られている。複数APと、各APについて、複数パケットのRSSIから移動端末2の位置を推定する手順は図3、図4で説明する。
【0024】
図2は本発明の一実施形態の移動端末位置推定の基本手順を示す図である。
【0025】
S1:受信信号情報、帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標算出のパラメータの初期設定を行う。
【0026】
受信信号情報は、受信信号の帯域幅で決まる所定周期Taと2つの所定最小数M1、所定最小数M2である。M1は受信信号の通信プロトコル上の1つのパケットの受信信号からRSSIを算出するのに必要な最小サンプル数であり(RSSI算出最小サンプル数)、M2は移動端末2の位置推定に用いるために必要なRSSIの最小数である(測位算出最小RSSI数)。
【0027】
帯域幅可変情報は受信信号の帯域幅可変の方法である。電波環境指標は指定する電波環境指標である。パラメータ(所定最小数2種)は電波環境指標評価に必要な所定数であり、帯域可変RSSI算出最小サンプル数と電波環境指標算出最小パケット数である。
S2:受信機10からのAP毎の信号を所定周期Taでサンプリングする。下記S3〜S8の処理はAPの数N全てについて行う。
S3、S4、S5:所定数M2のパケットについて、パケット毎に測位計算に用いるRSSIを算出する手順である。
【0028】
順次受信する通信プロトコルの1つのパケットより、Taの周期でサンプリングし、その数が該当のパケットでのRSSIを算出するのに必要な所定数M1になるまでサンプリング値を保持し、M1になった場合そこからRSSIを算出し、保持する。同様に、順次受信するM2個のパケットについてRSSIを算出し保持する。S6〜S8の処理によるフラグ指示が「該当のAPのRSSIは位置測位に適用可能」の場合、該当APのM2個のRSSIを測位計算部12に送る。
S6、S7、S8:指定した電波環境指標を基にS3、S4、S5で算出した該当のAPのRSSIが測位計算に適用可能か否かの判定を行う手順である。
【0029】
1つのパケットからの受信信号の帯域幅を可変(受信信号の帯域幅より狭帯域にする)した信号をサンプリングし、その数が指定した帯域可変RSSI算出に必要な所定の数(帯域可変RSSI算出最小サンプル数)になるまで、サンプリング値を保持する。所定数になった場合、保持するサンプリング値より帯域可変RSSIを算出し、保持する。
【0030】
次のパケットより同様に電波環境指標評価の所定数(電波環境指標算出最小パケット数)のパケットについて行う。保持する電波環境指標算出最小パケット数の帯域可変RSSIより、指定の電波環境指標を算出し、所定の基準を満たすか否か判定し、判定結果により以下のフラグを生成する。
ア.所定値を満たす :該当のAPのM2個のRSSIは移動端末位置測位に適用する。
イ.所定値を満たさない:該当のAPのM2個のRSSIは移動端末位置測位に適用しない。
S9:位置測位に適用可能と判定されたAPの各々、M2個のRSSIより移動端末の位置を算出する。(位置測位の方法図3、図4)
次に、複数(N個)のAPから、AP毎に複数M2個のパケットから算出したRSSIから移動端末2の位置を推定する方法として、最小二乗方法、最尤推定法について説明する。下記の「i」、「k」は後述するAPの数(N)、AP毎に複数のRSSIを算出するパケットの数M2に対応し、i=1〜N、k=1〜M2となる。
【0031】
一般的に、電波は距離rによる減衰を受けるため、送信電力一定の場合の受信電力pは送信電力が一定とすれば、(式1)と表される。
【0032】
【数1】
ここで、α、βは環境により決まるパラメータである。(式1)を基に移動端末の位置推定の手順を図3、図4で説明する。
【0033】
図3は本発明の移動端末の位置推定算出手順(最小二乗法)を示す図である。
S11:位置xiにあるi番目のAPのk番目の信号によるRSSI値を(式2)で算出する。
【0034】
位置x=(x,y)にある移動端末の位置xiにあるi番目のAPから受信したk番目の信号によるRSSI値(pi,k)は(式1)を用いて(式2)となる。
【0035】
【数2】
ここで、nは雑音である。
S12:移動端末の推定位置を(式3)、(式4)、(式5)で算出する。
1)APのk番目の信号による移動端末の推定位置を(式3)で算出する。
【0036】
この時、移動端末が得た全てのAPからの受信電力を
【0037】
【数3】
なるベクトルとすれば、移動端末のk番目の信号からの推定位置
【0038】
【数4】
は(式3)となる。
【0039】
【数5】
ここで、
【0040】
【数6】
であり、
【0041】
【数7】
である。
【0042】
2)全てのAPを加味した移動端末の位置を(式4)で算出する。
【0043】
全てのAPを加味した、RSSIを算出する数(k=1〜M2)の信号から推定する移動端末の位置は(式4)となる。
【0044】
【数8】
3)AP毎に重みの重要度を加味した移動端末の位置を(式5)で算出する。
【0045】
AP毎のRSSIに重要度を加味する場合は、移動端末の推定位置は(式5)となる。
【0046】
【数9】
ここで、WはAP毎の重要度に対応した重み行列で、0≦wi≦1であり、wiが「1」に近い程、該当のAPのデータが重視され、「0」の場合は全く反映されない。
【0047】
図4は本発明の移動端末の位置推定算出手順(最尤推定法)を示す図である。
【0048】
最小二乗法は通信路が白色雑音のみの影響を受けるAWGN(Additive White Gaussian Noise)を想定したものと等価である。しかし、一般に無線通信路はフェージングの影響を受ける。信号がレイリーフェージングを受ける場合、その信号電力は指数分布になる。そこで、レイリーフェージングの影響を受けた場合について移動端末の位置推定について説明する。
S15:移動端末とAPの距離rでの確率密度(式6)、尤度(式7)を算出する。
【0049】
受信電力の距離rでの条件付き確率密度分布は、平均電力
【0050】
【数10】
を用いて(式6)となる。
【0051】
【数11】
また、尤度はP=(P1,P2,・・・Pk)但し、Pk=(Pi,k,P2,k,・・・Pi,k・・・Pn,k))を用いて(式7)と表される。
【0052】
【数12】
S16:移動端末の位置を(式8)で算出する。
【0053】
移動端末の位置の位置を尤度を用いて算出する。求める推定位置
【0054】
【数13】
は尤度が最大になる地点であり、対数尤度を用いて(式8)で算出できる。
【0055】
【数14】
ここで、尤度は(式9)である。
【0056】
【数15】
S17:対数尤度を(式10)算出する。
【0057】
対数尤度は(式10)となる。
【0058】
【数16】
S18:AP毎に重要度を加味した重み行列を導入した対数尤度を(式11)で算出する。
【0059】
AP毎の重みを加味した重み行列を導入した対数尤度を算出する。
AP毎の重みを加味した重み行W(W=(w1,w2,・・wi・・・wN))とすると、重み付き対数尤度は(式11)で表される。
【0060】
【数17】
S19:移動端末の位置を対数尤度(式10)あるいは(式11)を用いて(式8)で算出する。
【0061】
移動端末の位置を対数尤度、重み付き対数尤度を用いて算出する。(式9)の代わりに(式10)を用いて移動端末の位置を推定する。さらにAP毎の重要度に応じて重み付けを行う場合は、(式9)の代わりに(式11)を用いて電波環境に対応したて移動端末の位置を推定できる。なお、(式11)の先頭行の
【0062】
【数18】
は、2行目以降で用いられる演算を実行するための演算子である。また、重み行列の要素wiは、0≦wi≦1であり、最小二乗法と同様にwiが「1」に近い程、該当のAPのデータが重視され、「0」の場合は全く反映されない。
【0063】
図5は本発明の一実施形態の移動端末の位置推定用RSSI算出手順を示す図である。
【0064】
S21:受信信号情報として、受信信号取得所定周期Ta、RSSI算出最小サンプル数M1、測位算出最小RSSI数M2の初期設定を行う。
【0065】
受信信号取得所定周期Taは受信信号の帯域幅で決まる所定周期である。M1は1つのパケットについてRSSI算出するために必要な所定周期Taの受信信号サンプル数である。M2は1つのパケットから算出するRSSIを測位計算に必要な複数のパケットついて行うために必要な最小パケット数である。
S22:S23〜S26の手順をAP毎に全てのAPについて行う。
S23:測位計算に用いる該当APのRSSIを算出する手順である。
【0066】
該当APの1つのパケットより位置対応の受信信号サンプリングを帯域で定まる受信信号取得周期Ta間隔でM1個取得し、サンプル数がM1になった時、このAPでのRSSIを算出し、保持する。
S24、S25、S26:S23の処理を順次受信する所定のパケット数M2について行う手順である。
【0067】
S23の処理を順次、次のパケットより、取得したM2個のRSSIを算出し保持する。
S27:電波環境指標判定結果が所定の基準を満たすAPの各々、M2個のRSSIを測位計算部に送る。
【0068】
図6は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その1)を示す図である。電波環境指標としてRSSIのCDFの傾きからLOS/NLOS判定について説明する。
【0069】
S31:帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標パラメータ(閾値)、パラメータ所定数の初期設定を行う。
【0070】
帯域幅可変は、受信信号の間引きで行い、その信号取得間隔はTbである。電波環境指標はCDFであり、CDFの傾きの閾値はLである。また、パラメータ所定数は、帯域可変RSSI算出サンプル数M1aと電波環境指標(CDF)算出最小パケット数M2aである。
【0071】
M1aは1つのパケットについて帯域可変した受信信号よりRSSI算出するために必要な所定周期Tbの受信信号サンプル数であり、M2aは、サンプル数M1aから算出する1つのパケットのRSSIを、電波環境指標(CDF)の評価のために必要とする最小パケット数である。
S32:以下の処理をAP毎に全てのAPについて行う。
S33、S34、S35、S36:該当のAPからの受信信号のパケットを帯域可変した信号列のM1a個のサンプル数から帯域可変RSSIを算出する手順である。
【0072】
該当APの時刻Tj(j=1)での受信信号をサンプリングし、その時刻でのサンプル値を保持する。j=j+1とし、時刻Tj=Tj+Tbの時刻の受信信号を順次サンプリングする。帯域幅可変の処理は、例えば、信号取得周期Tbを2×Taとして順次サンプリングする信号系列の帯域は、元の受信信号の帯域の1/2となる(具体的には、帯域幅の信号を2回に1回間引くと帯域は1/2となる)。M1a個のサンプル値より該当のパケットでのRSSIを算出し保持する。
S37、S38:S33〜S36の処理を所定パケット数M2a行い、電波環境指標CDFを評価する手順である。
【0073】
M2aのパケットについて、各々、帯域可変RSSIを算出する(S33〜S36)を行い、保持する該当のAPのM2a個の帯域可変RSSIより算出されるCDFの傾きが閾値Lを越えたか否かにより評価し、LOS/NLOS判定を行う(LOS/NLOS判定:図7)
S39:LOS、NLOS判定結果によりフラグを生成する手順である。
【0074】
評価結果により、以下のフラグを生成する。
LOS判定:[該当のAPを測位計算に適用する」フラグ
NLOS判定:「該当のAPは測位計算に適用しない」フラグ
なお、図7に示す傾きがLより大きい場合はLOS判定であり、小さい場合はNLOS判定であるが、後に記載するように大きさに応じてウェイトwiを計算しても良い。
【0075】
図7は本発明の電波環境指標算出とその判定手順(その1)のLOS/NLOS判定例を示す図である。
【0076】
RSSIの累積確率密度分布関数CDF(Cummulative Distoribution Function)を基にLOS指標とその判定例を示している。
【0077】
二次元座標で表現したCDF特性の傾き算出の切片(所定の立ち上がり点、収束域点の値)より特性の傾きgを算出する。gは(式12)のように表わされる。
【0078】
【数19】
ここで、C1、C2は得られたRSSIのCDFとし、f−1(c)は図面化したCDF特性を近似した関数の逆関数である。
ア.LOS判定
この場合、傾きgが所定の閾値より大きいのでLOSと判定する。
イ.NLOS判定
この場合、傾きgが所定の閾値より小さいのでNLOSと判定する。
【0079】
図8は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)を示す図である。図6で述べた電波環境指標CDFの傾きでの評価を分散値の大きさでの評価に変えた手順である。一部重複して説明する。
【0080】
S41:帯域幅可変情報、電波環境指標、電波環境指標パラメータ(閾値)、パラメータ所定数の初期設定を行う。
【0081】
帯域幅可変は信号間引きで行い、その信号取得周期はTbである。電波環境指標は分散値であり、その分散値閾値はBである。また、パラメータ所定数は帯域可変RSSI算出サンプル数M1bと電波環境指標(分散)算出最小パケット数M2bである。
【0082】
M1bは1つのパケットについて、帯域可変した受信信号よりRSSIを算出するために必要な所定周期Tbの受信信号サンプル数であり、M2bは、サンプル数M1bから算出する1つのパケットのRSSIを、電波環境指標分散の評価のために必要とする最小パケット数である。
S42: 以下の処理をAP毎に全てのAPについて行う。
S43、S44、S45、S46:各APからの1つのパケットの受信信号から帯域可変した信号列からM1b個のサンプル数から帯域可変RSSIを算出する手順である。
【0083】
該当APの時刻Tj(j=1)での受信信号をサンプリングし、サンプル値を保持する。j=j+1とし、時刻Tj=Tj+Tbの時刻の受信信号を順次サンプリングする。帯域幅可変の処理は、図5の例と同様である。
S47、S48:S44〜S46の処理を所定パケット数M2b行い、電波環境指標分散を評価する手順である。
【0084】
M2bのパケットについて、各々、帯域可変RSSIを算出する(S43〜S46)を行い、保持する該当のAPのM2b個の帯域可変RSSIの分散値が閾値Bを越えたか否かにより評価する。こちらも、CDFの場合と同様、値の大きさに応じたウェイトwiを与えてもよい。(分散判定:図9)
S49:分散値判定結果により以下のフラグを生成する。
所定値を満たす:「該当のAPは測位計算に適用する」フラグ
所定値を満たさない:「該当のAPは測位計算に適用しない」フラグ
なお、分散値がBより小さい場合(所定値を満たす)はLOS判定であり、大きい場合(所定値を満たさない)はNLOS判定である。
【0085】
図9は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その2)の分散値を示す図である。電波環境指標としてRSSIの分散値の判定について説明する。
【0086】
1つのAPiからの各時刻でのRSSIをPi,k(k=1〜M2b)とすると分散は(式13)で表される。
【0087】
【数20】
図10は本発明の一実施形態の電波環境指標算出とその判定手順(その3)を示す図である。
S51:帯域幅可変情報、電波環境指標パラメータ、所定数パラメータM1c、M2cの初期設定を行う。
【0088】
帯域幅可変は受信信号をFFTにより変換した周波数域の領域を指定する。また、FFT計算の受信信号取得周期は受信信号帯域幅で決まる所定周期Taである。所定数パラメータは帯域可変RSSI算出サンプル数M1cと、電波環境指標算出最小パケット数M2cである。
【0089】
M1cは1つのパケットについて受信信号の帯域幅で決まる所定周期Taの受信信号サンプル数であり、Taの周期で取得したサンプル数でFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)変換を行う。ここで、周波数領域に変換する信号処理であれば、必ずしもFFTでなくても良い。例えば、DFT(Digital Fourier Transform)などでも良い。M2cはサンプル数M1cから算出するRSSIを、電波環境指標(CDFあるいは分散)の評価のために必要とする最小パケット数である。
S52:対象の全てのAPについて、S53〜S55の処理を行う。
S53、S54:各APからの1つのパケットの受信信号からFFT変換した周波数領域に指定した領域のRSSIを算出する手順である。
【0090】
受信信号の所定周期Taの間隔で受信信号をM1c個取得し、FFTを行い、周波数軸上への信号変換を行う。周波数軸上の指定された帯域の振幅を用いてその帯域でのRSSIを算出する。不連続に複数の領域を指定した場合はそのRSSIを算出し、保持する。
S55、S56:S53〜S54の処理を所定のパケット数M2c行い、電波環境指標(CDF、あるいは分散)による評価手順である。
【0091】
保持する該当のAPのM2c個のRSSIより電波環境指標(CDFあるいは分散値)により、評価し、判定した結果により、以下のフラグを生成する。
所定値を満たす :該当のAPは移動端末位置測位に適用する」フラグ
所定値を満たさない:該当のAPは移動端末位置測位に適用しない」フラグ
【0092】
なお、測位計算に用いる受信信号取得所定周期のRSSIの信号系列をFFT変換する代わりにチャネル推定等時に得られる周波数応答のデータを使い帯域を指定する方法も考えられる。また、変調方式がOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の場合、OFDM復調時に作成する周波数軸上のデータを使い帯域を指定する方法も考えられる。
【0093】
図11は本発明の電波環境指標算出その判定手順(その3)の帯域可変RSSI算出例を示す図である。
【0094】
ア.で示す受信信号は帯域可変部13でFFT変換行い周波数域領域に変換され、イ.で示す帯域幅の信号となる。帯域幅可変部13で、例えば、ウ.で示す4つの周波数域を指定し、その領域のRRSIのRSSIをRSSI計算部2(14)で算出する。その結果RSSI#1、RSSI#2、RSSI#3、RSSI#4を得る。これらを用いてこのAPでの帯域可変RSSIを得る。
【0095】
今回、傾きg、あるいは分散値が所定の閾値を満たすか否かにより、該当のAPを測位計算に用いるか否かの判定に用いる方法について示したが、さらに、傾きg、あるいは分散値の値、通信路の他の環境要素等を評価し、図3、図4で述べたAP毎に測位計算に適用する重みを決定するパラメータを用いて移動端末の位置を推定する事も考えられる。
【0096】
以上より、帯域可変した受信信号のRSSIのCDF、あるいは分散によるLOS、NLOS判定評価により、フェージング、移動端末とAP間での障害物による影響(障害物による吸収、端部での回折)、あるいは他の物体に反射して迂回される等の距離減衰以外の減衰を受けた電波による影響(電波環境指標のばらつき、雑音等)を低減することにより、移動端末の位置推定の誤差を低減し、位置推定を精度良く実現できる。
【符号の説明】
【0097】
1 無線ネットワーク
2 移動端末
3−1、3−2、3−i AP(アクセスポイント)
4 移動端末位置推定装置
10 受信機
11 RSSI計算部1
12 測位計算部
13 帯域幅可変部
14 RSSI計算部2
15 電波環境指標計算・判定部
16 DB(データベース)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信システムの移動端末の周辺に在る複数アクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信する信号受信手段と、
前記各アクセスポントから受信した信号から各アクセスポイントの受信電界強度を算出する受信電界強度算出手段と、
前記各アクセスポントから受信した前記信号の帯域幅を可変させる帯域幅可変手段と、
前記帯域幅可変手段で得られた受信信号の電界強度を算出する帯域幅可変電界強度算出手段と、
前記帯域幅可変電界強度算出手段から各アクセスポイントの電波環境指標を算出して、前記電波環境指標を評価・判定する電波環境指標計算・判定手段と、
前記算出した各アクセスポイントの電波環境指標の判定結果に応じて前記各アクセスポイントの受信電界強度より前記移動端末の位置推定を行なう位置推定計算部と、
を備えて前記移動端末の位置を推定することを特徴とする移動端末位置推定装置。
【請求項2】
無線通信システムの移動端末の周辺に在る複数アクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信し、
前記各アクセスポントから受信した信号から各アクセスポイントの受信電界強度を算出する受信電界強度を算出し、
前記各アクセスポントから受信した前記信号の帯域幅を可変し、
前記帯域幅可変して得られた受信信号の電界強度を算出し、
前記帯域幅可変電界強度算出結果から各アクセスポイントの電波環境指標を算出して前記電波環境指標を評価・判定し、
前記算出した各アクセスポイントの電波環境指標の判定結果に応じて前記各アクセスポイントの受信電界強度より前記移動端末の位置推定を行なって、
前記移動端末の位置を推定することを特徴とする移動端末位置推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記各アクセスポイントから受信した前記信号の帯域幅の可変は前記信号の有する通常の帯域幅より狭い帯域に変化させることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記算出する電波環境指標は、前記帯域幅を可変した受信電界強度の累積確率密度分布の傾き、あるいは分散値であることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記受信信号のサンプリング間隔を変化させて前記帯域幅を可変にすることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項6】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記受信信号の周波数応答を複数の帯域に分割して前記帯域幅を可変にすることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項7】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記電波環境指標に応じて前記移動端末の位置推定に用いる前記各アクセスポイントの受信電界強度は前記電波環境指標の条件を満たすか否かで選択して前記移動端末の位置を推定することを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項8】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記電波環境指標に応じて前記移動端末の位置推定を行う際には前記各アクセスポイントの電波環境指標の値に対応して重みを付けて用いることで前記移動端末の位置を推定することを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項9】
請求項4に記載の移動端末位置推定方法において、
前記移動端末の位置推定に用いる前記アクセスポイント毎の前記受信電界強度は、前記帯域幅を可変した受信電界強度の累積確率密度分布の傾きが所定以上である、又は前記帯域幅を可変した受信電界強度の分散値が所定以下であることを特徴とする請求項4記載の移動端末位置推定方法。
【請求項10】
無線通信システムのアクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信し、
前記アクセスポント毎の受信信号から受信電界強度を算出する受信電界強度を算出し、
前記アクセスポント毎の前記受信信号の帯域幅を可変して受信し、
前記帯域幅の可変で得られた受信信号の電界強度を算出し、
前記帯域幅可変電界強度算出結果から電波環境指標を算出して前記電波環境指標を評価・判定することを特徴とする電波環境指標算出方法。
【請求項1】
無線通信システムの移動端末の周辺に在る複数アクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信する信号受信手段と、
前記各アクセスポントから受信した信号から各アクセスポイントの受信電界強度を算出する受信電界強度算出手段と、
前記各アクセスポントから受信した前記信号の帯域幅を可変させる帯域幅可変手段と、
前記帯域幅可変手段で得られた受信信号の電界強度を算出する帯域幅可変電界強度算出手段と、
前記帯域幅可変電界強度算出手段から各アクセスポイントの電波環境指標を算出して、前記電波環境指標を評価・判定する電波環境指標計算・判定手段と、
前記算出した各アクセスポイントの電波環境指標の判定結果に応じて前記各アクセスポイントの受信電界強度より前記移動端末の位置推定を行なう位置推定計算部と、
を備えて前記移動端末の位置を推定することを特徴とする移動端末位置推定装置。
【請求項2】
無線通信システムの移動端末の周辺に在る複数アクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信し、
前記各アクセスポントから受信した信号から各アクセスポイントの受信電界強度を算出する受信電界強度を算出し、
前記各アクセスポントから受信した前記信号の帯域幅を可変し、
前記帯域幅可変して得られた受信信号の電界強度を算出し、
前記帯域幅可変電界強度算出結果から各アクセスポイントの電波環境指標を算出して前記電波環境指標を評価・判定し、
前記算出した各アクセスポイントの電波環境指標の判定結果に応じて前記各アクセスポイントの受信電界強度より前記移動端末の位置推定を行なって、
前記移動端末の位置を推定することを特徴とする移動端末位置推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記各アクセスポイントから受信した前記信号の帯域幅の可変は前記信号の有する通常の帯域幅より狭い帯域に変化させることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記算出する電波環境指標は、前記帯域幅を可変した受信電界強度の累積確率密度分布の傾き、あるいは分散値であることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項5】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記受信信号のサンプリング間隔を変化させて前記帯域幅を可変にすることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項6】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記受信信号の周波数応答を複数の帯域に分割して前記帯域幅を可変にすることを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項7】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記電波環境指標に応じて前記移動端末の位置推定に用いる前記各アクセスポイントの受信電界強度は前記電波環境指標の条件を満たすか否かで選択して前記移動端末の位置を推定することを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項8】
請求項2に記載の移動端末位置推定方法において、
前記電波環境指標に応じて前記移動端末の位置推定を行う際には前記各アクセスポイントの電波環境指標の値に対応して重みを付けて用いることで前記移動端末の位置を推定することを特徴とする請求項2記載の移動端末位置推定方法。
【請求項9】
請求項4に記載の移動端末位置推定方法において、
前記移動端末の位置推定に用いる前記アクセスポイント毎の前記受信電界強度は、前記帯域幅を可変した受信電界強度の累積確率密度分布の傾きが所定以上である、又は前記帯域幅を可変した受信電界強度の分散値が所定以下であることを特徴とする請求項4記載の移動端末位置推定方法。
【請求項10】
無線通信システムのアクセスポイントから前記無線通信システムに係る信号を受信し、
前記アクセスポント毎の受信信号から受信電界強度を算出する受信電界強度を算出し、
前記アクセスポント毎の前記受信信号の帯域幅を可変して受信し、
前記帯域幅の可変で得られた受信信号の電界強度を算出し、
前記帯域幅可変電界強度算出結果から電波環境指標を算出して前記電波環境指標を評価・判定することを特徴とする電波環境指標算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−173070(P2012−173070A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33973(P2011−33973)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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