説明

移動経路諸元推定方法

【課題】 任意の個数の複数の飛行の種類から成る一連の飛行について、切れ目のない連続した飛行経路を推定する手段を提供する。
【解決手段】
予め用意した移動体の観測時刻毎の観測値を元に、該移動体の位置、速度、加速度及び角速度の少なくともひとつを含む移動経路の諸元を推定する。また、移動体が一種類の運動により移動した区間の複数からなる移動経路の諸元を推定する。まず移動経路の諸元の要素と、区間毎の基本状態変数との対応関係、及び、移動経路の諸元の次数を、その区間の運動の種類に応じて区間毎に求める。次に観測値を元に予め求めた区間毎の基本状態遷移行列と、対応関係とに応じた区間毎の状態遷移行列を求める。次に全区間における次数及び状態遷移行列に応じた計画係数データ行列を求める。最後に計画係数データ行列、及び、観測値に基づく観測データ列に応じて、移動経路の諸元の推定値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から観測して得られた移動体の位置及び時刻を元に、移動体の現在位置、速度、加速度、移動経路等を推定する技術に関する。特に、レーダー等のセンサから航空機等の目標についての観測値をレーダーデータ等の形で保存しておき、その後において、保存しておいたこれらのレーダーデータを入力し、その目標の飛行の状況、すなわち位置、速度等を推定し、その推定結果を飛行経路諸元として出力する装置が考えられている。ここでは、この様な装置を飛行経路推定装置と呼ぶ。
【背景技術】
【0002】
飛行経路推定装置を構成する方式については、いろいろなものが考えられている。特に、推定精度に高い精度が求められる用途には、特定の等速直進飛行(以降、単に「直進」又は「CV」と呼ぶ)を行っていると考えられる時間帯のレーダーデータのみを対象にして、そのレーダーデータの軌跡から最小二乗法により回帰直線を求め、この回帰直線を飛行経路諸元とする方法が一般的である。また、等加速度飛行(以降、単に「等加速度」又は「CA」と呼ぶ)や等速旋回飛行(以降、単に「旋回」又は「CT」と呼ぶ)を行っていると考えられる時間帯についても、それらの時間帯ごとに同様に最小二乗法により回帰線を求め、これを飛行経路諸元とする方法がある。
【0003】
このような技術に対して、本願発明者らは特許文献1に記載の飛行経路推定装置に関する発明を出願している。この飛行経路推定装置によれば、航空機の飛行について、直進の後に旋回し、その後にまた直進に戻り飛行を続ける場合のような、複数の飛行の種類から成る一連の飛行についての飛行経路を求めたい場合、特に「直進→旋回→直進」の3つの区間から成る飛行経路、及び「直進→等加速度→直進」の3つの区間から成る飛行経路について、その飛行経路を推定することができる。
【0004】
ここで、本発明の理解を容易にするため、特許文献1に記載の発明について説明する。尚、以降の説明で参照する数式中、ベクトル及び行列の表式の右肩のつけている記号「T」は、ベクトル及び行列の「転置」を表す。
【0005】
まず、図7を参照して、「直進→等加速度→直進」の目標の飛行経路を推定する従来の飛行経路推定装置1の構成を示す。レーダーデータ入力部2、飛行経路区間構成データ入力部6、飛行経路諸元推定結果出力部4、及び飛行経路諸元仮推定値入力部5は、飛行経路推定装置1の外部に想定される構成要素である。
【0006】
図7において、区間1経過時間設定部15、区間2経過時間設定部17、区間3経過時間設定部19、及び観測データ列設定部110は、レーダーデータ入力部2からある航空機についてのレーダーデータを入力する。レーダーデータはレーダーが検知した航空機の位置を示すXY直交座標上でのX及びY座標値、及びその検出の時刻からなる。レーダーデータ入力部2からk番目に入力したレーダーデータのX座標値、Y座標値、その時刻をそれぞれxmk、ymk、tと表記し、kは1からnまでとする。尚、xmkの添字kはxの添字mと同じ大きさで記してあるがmの添字である。ymjの添字kも同様である。
【0007】
飛行経路区間構成データ入力部6は、飛行経路推定装置1内の各構成部分に飛行経路区間構成データを供給する。飛行経路区間構成データは、区間1開始時刻t1S、区間1終了時刻t1E、区間2終了時刻t2E、区間3終了時刻t3Eから成る。なお、以降において、区間1開始時刻をt1S推定基準時刻tとして扱う。
【0008】
区間1経過時間設定部15はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1開始時刻t1S及び区間1終了時刻t1Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間1の開始時刻からの経過時間ΔT1kを次の数1のように設定する。
【0009】
【数1】

【0010】
区間2経過時間設定部17はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1終了時刻t1E及び区間2終了時刻t2Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間2の開始時刻からの経過時間ΔT2kを数2のように設定する。
【0011】
【数2】

【0012】
区間3経過時間設定部19はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間2終了時刻t2E及び区間3終了時刻t3Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間3の開始時刻からの経過時間ΔT3kを数3に示すように設定する。
【0013】
【数3】

【0014】
区間1状態遷移行列設定部16は、区間1経過時間設定部15からレーダーデータの時刻の区間1の開始時刻からの経過時間ΔT1kを入力し、区間1状態遷移行列Φk1を数4に示すように設定する。
【0015】
【数4】

【0016】
区間2状態遷移行列設定部18は、区間2経過時間設定部17からレーダーデータの時刻の区間2の開始時刻からの経過時間ΔT2kを入力し、区間2状態遷移行列Φk2を数5に示すように設定する。
【0017】
【数5】

【0018】
区間3態遷移行列設定部20は、区間3経過時間設定部19からレーダーデータの時刻の区間3の開始時刻からの経過時間ΔT3kを入力し、区間3状態遷移行列Φk3を数6に示すように設定する。
【0019】
【数6】

【0020】
計画係数データ行列作成部21は、区間1状態遷移行列設定部16、区間2状態遷移行列設定部18、及び区間3状態遷移行列設定部20から、それぞれ区間1状態遷移行列Φk1、区間2状態遷移行列Φk2、及び区間3状態遷移行列Φk3を入力し、計画係数データ行列Fを数7に示すように設定する。
【0021】
【数7】

【0022】
観測データ列設定部110は、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータのX及びY座標値を使用し、観測データ列Lを数8に示すよう設定する。
【0023】
【数8】

【0024】
飛行経路諸元推定部12は、計画係数データ行列作成部21から計画係数データ行列F(ただしkは1からn)を入力し、また、観測データ列設定部110から観測データ列L(ただしkは1からn)を入力すると、これらに基づき飛行経路諸元推定値β^を数9に示すように推定し、その結果を飛行経路諸元推定結果出力部4に出力する。この時、ここで推定する飛行経路諸元の推定値β^は数10に示す要素から成っている。
【0025】
【数9】

【0026】
【数10】

【0027】
次に、図8を参照して、「直進→旋回→直進」の目標の飛行経路を推定する従来の飛行経路推定装置1Aの構成を示す。レーダーデータ入力部2、飛行経路区間構成データ入力部6、飛行経路諸元推定結果出力部4、及び飛行経路諸元仮推定値入力部5は、飛行経路推定装置1Aの外部に想定される構成要素である。
【0028】
区間1経過時間設定部15及び22、区間2経過時間設定部17及び24、区間3経過時間設定部19及び26、及び観測データ列設定部110は、レーダーデータ入力部2からある航空機についてのレーダーデータを入力する。レーダーデータはレーダーが検知した航空機の位置を示すXY直交座標上でのX及びY座標値、及びその検出の時刻から成る。ここでは、レーダーデータ入力部2からk番目に入力したレーダーデータのX及びY座標値及びその時刻をそれぞれxmk、ymk、tと表記し、kは1からnまでとする。尚、xmkの添字kはxの添字mと同じ大きさで記してあるがmの添字である。ymjの添字kも同様である。
【0029】
飛行経路区間構成データ入力部6は、飛行経路推定装置1A内の各構成部分に飛行経路区間構成データを供給する。この飛行経路区間構成データは、区間1開始時刻t1S、区間1終了時刻t1E、区間2終了時刻t2E、区間3終了時刻t3Eから成る。なお、以降において、区間1開始時刻t1Sを推定基準時刻tとして扱う。
【0030】
また、飛行経路諸元仮推定値入力部5は、飛行経路推定装置1A内の各構成部分に飛行経路諸元仮推定値βを供給する。この飛行経路諸元仮推定値βは、数11に示す内容から成る。
【0031】
【数11】

【0032】
区間1経過時間設定部15及び22はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1開始時刻t1S及び区間1終了時刻t1Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間1の開始時刻からの経過時間ΔT1kを数1に示すように設定する。
【0033】
区間2経過時間設定部17及び24はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1終了時刻t1E及び区間2終了時刻t2Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間2の開始時刻からの経過時間ΔT2kを数2に示すように設定する。
【0034】
区間3経過時間設定部19及び26はk番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間2終了時刻t2E及び区間3終了時刻t3Eとに基づき、レーダーデータの時刻の区間3の開始時刻からの経過時間ΔT3kを数3に示すように設定する。
【0035】
区間1状態遷移行列設定部16Aは、区間1経過時間設定部15からレーダーデータの時刻の区間1の開始時刻からの経過時間ΔT1kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間1状態遷移行列Φk1を数12に示すように設定する。
【0036】
【数12】

【0037】
区間2状態遷移行列設定部18Aは、区間2経過時間設定部17からレーダーデータの時刻の区間2の開始時刻からの経過時間ΔT2kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間2状態遷移行列Φk2を数13に示すように設定する。
【0038】
【数13】

【0039】
区間3状態遷移行列設定部20Aは、区間3経過時間設定部19からレーダーデータの時刻の区間3の開始時刻からの経過時間ΔT3kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間3状態遷移行列Φk3を数14に示すように設定する。
【0040】
【数14】

【0041】
計画係数データ行列作成部21は、区間1状態遷移行列設定部16A、区間2状態遷移行列設定部18A、及び区間3状態遷移行列設定部20Aから、それぞれ区間1状態遷移行列Φk1、区間2状態遷移行列Φk2、及び区間3状態遷移行列Φk3を入力し、計画係数データ行列Fを数15に示すように設定する。
【0042】
【数15】

【0043】
観測データ列設定部110は、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータのX及びY座標値を使用し、観測データ列Lを数8に示すよう設定する。
【0044】
区間1予測状態遷移行列設定部23は、区間1経過時間設定部22からレーダーデータの時刻の区間1の開始時刻からの経過時間ΔT1kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間1予測状態遷移行列Φ’k1を数16に示すように設定する。
【0045】
【数16】

【0046】
区間2予測状態遷移行列設定部25は、区間2経過時間設定部24からレーダーデータの時刻の区間2の開始時刻からの経過時間ΔT2kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間2予測状態遷移行列Φ’k2を数17に示すように設定する。
【0047】
【数17】

【0048】
区間3予測状態遷移行列設定部27は、区間3経過時間設定部26からレーダーデータの時刻の区間3の開始時刻からの経過時間ΔT3kを入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力すると、これらに基づき区間3予測状態遷移行列Φ’k3を数18に示すように設定する。
【0049】
【数18】

【0050】
予測係数データ行列作成部28は、区間1予測状態遷移行列設定部23、区間2予測状態遷移行列設定部25、及び区間3予測状態遷移行列設定部27から、それぞれ区間1予測状態遷移行列Φ’k1、区間2予測状態遷移行列Φ’k2、及び区間3予測状態遷移行列Φ’k3を入力し、予測係数データ行列F’を数19に示すように設定する。
【0051】
【数19】

【0052】
予測観測データ列作成部113は、予測係数データ行列作成部28から予測係数データ行列F’を入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力し、これらに基づき予測観測データ列L’を数20に示すように作成する。
【0053】
【数20】

【0054】
観測残差データ列作成部114は、観測データ列設定部110から観測データ列Lを入力し、また、予測観測データ列作成部113から予測観測データ列L’を入力すると、これらに基づき観測残差データ列ΔLを数21に示すように作成する。
【0055】
【数21】

【0056】
飛行経路諸元残差推定部13は、計画係数データ行列作成部21から計画係数データ行列F(ただし、kは1からn)を入力し、また、観測残差データ列設定部114から観測残差データ列ΔL(ただし、kは1からn)を入力すると、これらに基づき飛行経路諸元残差推定値Δβ^を数22により推定する。
【0057】
【数22】

【0058】
飛行経路諸元推定値作成部14は、飛行経路諸元残差推定部13から飛行経路諸元残差推定値Δβ^を入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力し、これらに基づき飛行経路諸元推定値β^を数23に示すように設定し、その結果を飛行経路諸元推定結果出力部4に出力する。この時、ここで推定する飛行経路諸元の推定値β^は数24に示す要素から成っている。
【0059】
【数23】

【0060】
【数24】

【0061】
【特許文献1】特開2004−264104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0062】
上述のように、従来技術によれば、直進・等加速度・旋回の区間を、特定の組み合わせで組み合わせてなる飛行経路を求めることができたが、これら飛行種類を任意の組み合わせで求めることができなかった。
【0063】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、任意の個数の複数の飛行の種類から成る一連の飛行について、切れ目のない連続した飛行経路を推定する手段を提供することである。ここでいう飛行の種類は、「直進」、「等加速度」、「旋回」である。
【課題を解決するための手段】
【0064】
上述の課題を解決するため、本発明は、予め用意した移動体の観測時刻毎の観測値を元に、該移動体の位置、速度、加速度及び角速度の少なくともひとつを含む移動経路の諸元を推定する方法であって、移動体が一種類の運動により移動した区間の複数からなる移動経路の諸元を推定する方法において、移動経路の諸元の要素と、区間毎の基本状態変数との対応関係を示すδ、及び、移動経路の諸元の次数Pを、その区間の運動の種類に応じて区間毎に求める段階と、観測値を元に予め求めた区間毎の基本状態遷移行列Φと、対応関係δとに応じた区間毎の状態遷移行列Φ ̄を求める段階と、全区間における次数P及び状態遷移行列Φ ̄に応じた計画係数データ行列Fを求める段階と、計画係数データ行列F、及び、観測値に基づく観測データ列Lに応じて、移動経路の諸元の推定値β^を求める推定段階とを含むことを特徴とする移動経路諸元推定方法を提供する。
【0065】
また、観測値を元に予め求めた区間毎の基本予測状態遷移行列Φ’と、対応関係δとに応じた予測状態遷移行列Φ’ ̄を求める段階と、全区間における次数P及び予測状態遷移行列Φ’ ̄に応じた予測係数データ行列F’を求める段階とを更に含み、推定段階に代わって、計画係数データ行列F及び予測係数データ行列F’に応じた移動経路諸元残差推定値Δβ^を求める段階と、移動経路諸元残差推定値Δβ^に応じて移動経路諸元推定値β^を求める段階とを含むことを特徴とする移動経路諸元推定方法を提供する。
【0066】
運動の種類は、直進運動、等加速度運動、等速旋回運動からなることが考えられる。
【0067】
移動経路は、4以上の区間からなり、連続する2つの区間の運動の種類は異なるときに特に有効である。
【0068】
また、本発明は、上述の方法を実現するためのコンピュータプログラム、記録媒体、情報処理装置、移動経路諸元推定システムを提供する。
【発明の効果】
【0069】
本発明によれば、任意の個数の複数の飛行の種類から成る一連の飛行について、切れ目のない連続した飛行経路を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
本発明の実施の形態である飛行経路推定装置について以下に説明する。本発明の飛行経路推定装置では、上述の特許文献1に記載の飛行経路推定装置の構成と比較して、飛行経路諸元要素構成部を追加する点で異なる。
【0071】
また、計画係数データ行列設定部の構成を変更する点で異なる。計画係数データ行列設定部の変更点は、特許文献1の発明が所定の数の区間に対応する構成であるのに対し、本発明では任意の数の区間に対応する構成である点、及び、各区間xに対応する区間x状態遷移行列構成変換部を追加する点である。
【0072】
更に、後述する実施例2では、観測残差データ列設定部の構成を変更した点で異なる。観測残差データ列設定部の変更点は、特許文献1の発明が所定の数の区間に対応する構成であるのに対し、本発明では任意の数の区間に対応する構成である点、及び、各区間xに対応した処理部ごとに区間x予測状態遷移行列構成変換部を追加する点である。
【0073】
(ア)飛行経路諸元要素構成部
状態変数とは、これから推定しようとしている飛行経路諸元の要素で構成される。状態変数の構成は、例えば、単一の「直進」区間の場合には数25、単一の「等加速度」区間の場合には数26、及び単一の「旋回」区間の場合には数27の様に設定できる。
【0074】
【数25】

【0075】
【数26】

【0076】
【数27】

【0077】
複数の飛行の区間の場合には、状態変数の構成は、その飛行経路を構成する飛行の種別に応じて設定され、単一の「等加速度」区間の場合の数26や、単一の「旋回」区間の場合の数27の構成と、一般には同一にはならない。
【0078】
しかし、複数の飛行の区間の組み合わせの内、「直進→等加速度→直進」の飛行経路の場合には、単一の「等加速度」区間の場合と同一の数26のように設定できる。また、「直進→旋回→直進」の飛行経路の場合には、単一の「旋回」区間の場合と同一の数27の様に設定できる。
【0079】
そこで、特許文献1に記載の飛行経路推定装置では、「直進→等加速度→直進」の飛行経路の推定を行う際に、単一の「等加速度」区間の場合と同じ状態変数の構成を適用して推定した。また、「直進→旋回→直進」の飛行経路の推定を行う際に、単一の「旋回」区間の場合と同じ状態変数の構成を適用して推定した。
【0080】
さて、先の「直進→等加速度→直進」の飛行経路、及び「直進→旋回→直進」の飛行経路は、複数の飛行の区間から成る飛行経路の場合の内、たまたま状態変数の構成を、単一の「等加速度」区間の場合と同一の数26や、単一の「旋回」区間の場合と同一の数27の様に設定できる場合であり、予めその構成をいずれか一方に設定することができた。
【0081】
しかし、従来の構成の飛行経路推定装置では、このように状態変数の構成を予め決まった構成に設定する作りになっているため、一般の複数の飛行の区間から成る飛行経路の場合には対応できない問題があった。
【0082】
本発明では、状態変数の構成を予め決まった構成に設定する点を改めた。即ち、本発明では、状態変数の構成を予め設定するのではなく、飛行経路の構成が分かった時点で、その飛行経路を構成する飛行の種別に応じて設定する。このため、本発明の飛行経路推定装置には、推定対象の飛行経路の構成に応じ、飛行経路諸元の構成を設定する処理部として、飛行経路諸元要素構成部35を追加している。
【0083】
(イ)区間x状態遷移行列構成変換部・区間x予測状態遷移行列構成変換部
特許文献1に記載の従来技術における区間1状態遷移行列設定部16及び16A、並びに区間1予測状態遷移行列設定部23等では、前述の様に飛行経路諸元の構成が予め分かっていた。このため、その構成のとおりに対応する状態遷移行列を設定することができた。しかし、任意個数の飛行経路に対しては、飛行経路諸元の構成が予め分かっていないため、飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列を設定できない問題があった。
【0084】
ところで、従来の構成の区間1状態遷移行列設定部16及び16A、並びに区間1予測状態遷移行列設定部23、等に該当する部分では、飛行経路諸元の構成が予め分かっていないため、飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列を設定することはできないものの、その飛行の種別(「直進」、「等加速度」、又は「旋回」)に応じたある基本的な状態遷移行列だけは算定できる。この基本的な状態遷移行列は、飛行経路諸元の構成が単一の「直進」、「等加速度」、又は「旋回」区間の場合の飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列である。基本的な状態遷移行列と、飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列との違いは、その構成が推定対象の飛行経路諸元の構成に対応していない点だけである。この点を考えると、この対応関係さえ分かれば、後で単一区間の飛行経路諸元の構成に応じた基本的な状態遷移行列は、飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列に変換することが出来るはずであるとの発想に至る。
【0085】
そこで、この発想のとおりに、従来の構成の区間1状態遷移行列設定部16及び16A、並びに区間1予測状態遷移行列設定部23、等に該当する部分で、その区間の飛行の種類に応じた基本的な状態遷移行列を先ず算定しておき、その後で飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元の構成との対応関係のデータが得られた時点にてその対応関係に基づき、この基本的な状態遷移行列を飛行経路諸元の構成と対応する状態遷移行列に変換する処理部を区間1状態遷移行列構成変換部29や区間1予測状態遷移行列構成変換部32、等の追加の処理部として追加する構成とし、これにより、先の「飛行経路諸元の構成に応じた状態遷移行列を設定できない問題」を解決しているものである。
【実施例1】
【0086】
本発明の実施例1として、「旋回を含まない一連の飛行経路」を推定する飛行経路推定装置の構成例について図1を参照して説明する。飛行経路推定装置1Bが、本発明の飛行経路推定装置の内部の構成を示しており、その他のレーダーデータ入力部2、飛行経路区間構成データ入力部6、飛行経路諸元推定結果出力部4、及び飛行経路諸元仮推定値入力部5は、この飛行経路推定装置の外部に想定される構成要素である。
【0087】
区間1経過時間設定部15A、区間2経過時間設定部17A、・・・、区間m経過時間設定部19A(ただし、mは1からM、ただしMは飛行経路を構成する区間の総数)、及び観測データ列設定部110は、レーダーデータ入力部2からある航空機についてのレーダーデータを入力する。レーダーデータはレーダーが検知した航空機の位置を示すXY直交座標上でのX及びY座標値、及びその検出の時刻から成る。
【0088】
ここでは、レーダーデータ入力部2からk番目に入力したレーダーデータのX及びY座標値及びその時刻をそれぞれxmk、ymk、tと表記し、kは1からnまでとする。尚、xmkの添字kはxの添字mと同じ大きさで記してあるがmの添字である。ymjの添字kも同様である。
【0089】
飛行経路区間構成データ入力部6は、飛行経路推定装置1B内の各構成部分に飛行経路区間構成データを供給する。この飛行経路区間構成データは、区間1開始時刻t1S、…、区間m終了時刻tmE(ただし、mは1からM)から成る。なお、以降において、区間1開始時刻t1Sを推定基準時刻tとして扱う。
【0090】
飛行経路諸元要素構成部35は、飛行経路区間構成データ入力部6から飛行経路区間構成データを入力すると、飛行経路諸元要素構成データβ、飛行経路諸元要素構成対各区間基本状態変数構成対応データδ、及び飛行経路諸元次数データPを、数28に示すように作成する。
【0091】
【数28】

【0092】
区間1経過時間設定部15A、区間2経過時間設定部17A、…、区間m経過時間設定部19A(ただし、mは1からM)はいずれも同一内容の動作を行う。すなわち、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1開始時刻t1S、区間m終了時刻tmE(ただし、mは1からM)とに基づき、レーダーデータの時刻の区間1、区間2、…、区間m(ただし、mは1からM)の開始時刻からの経過時間ΔTmkを数29に示すように設定する。
【0093】
【数29】

【0094】
区間1状態遷移行列設定部16B、区間2状態遷移行列設定部18B、…、区間m状態遷移行列設定部20B(ただし、mは1からM)は、それぞれ区間1経過時間設定部15A、区間2経過時間設定部17A、…、区間m経過時間設定部19A(ただし、mは1からM)から、レーダーデータの時刻の区間1、区間2、…、区間m(ただし、mは1からM)の開始時刻からの経過時間ΔTmkを入力し、区間1基本状態遷移行列、区間2基本状態遷移行列、…、区間m基本状態遷移行列Φkm(ただし、mは1からM)を数30に示すように設定する。
【0095】
【数30】

【0096】
区間1状態遷移行列構成変換部29、区間2状態遷移行列構成変換部30、…、区間m状態遷移行列構成変換部31(ただし、mは1からM)は、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元要素構成対各区間基本状態変数構成対応データδを入力し、かつ、それぞれ区間1状態遷移行列設定部16B、区間2状態遷移行列設定部18B、…、区間m状態遷移行列設定部20B(ただし、mは1からM)から、区間1基本状態遷移行列、区間2基本状態遷移行列、…、区間m基本状態遷移行列Φkm(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、区間1状態遷移行列、区間2状態遷移行列、…、区間m状態遷移行列Φ ̄km(ただし、mは1からM)を、図3に示すように設定する。図3に示すように、δが示すΦkmとΦ ̄kmの対応関係に基づいてΦkmの全要素をΦ ̄kmにコピーする。即ち、Φkmのa行b列の要素を、δのa番目の要素の値(これをa’とする)とb番目の要素の値(これをb’とする)に基づき、Φ ̄kmのa’行b’番目にコピーする。ただし、Φ ̄kmの初期値はP×Pの単位行列とする。
【0097】
計画係数データ行列作成部21Aは、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元次数データを入力し、区間1状態遷移行列構成変換部29、区間2状態遷移行列構成変換部30、…、区間m状態遷移行列構成変換部31(ただし、mは1からM)から、それぞれ区間1状態遷移行列、区間2状態遷移行列、…、区間m状態遷移行列Φ ̄km(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、計画係数データ行列Fを数31に示すように設定する。
【0098】
【数31】

【0099】
観測データ列設定部110は、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータのX及びY座標値を使用し、観測データ列Lを数8に示すよう設定する。
【0100】
飛行経路諸元推定部12は、計画係数データ行列作成部21Aから計画係数データ行列Fを入力し、また、観測データ列設定部110から観測データ列Lを入力すると、これらに基づき飛行経路諸元推定値β^を数9に示すように推定し、その結果を飛行経路諸元推定結果出力部4に出力する。この時、ここで推定する飛行経路諸元の推定値β^は、飛行経路諸元要素構成部35が作成した飛行経路諸元要素構成データβの示す要素から成っている。
【実施例2】
【0101】
本発明の実施例2として、「旋回を含む一連の飛行経路」を推定する飛行経路推定装置の構成例について図2を参照して説明する。飛行経路推定装置1Cが、本発明の飛行経路推定装置の内部の構成を示しており、その他のレーダーデータ入力部2、飛行経路区間構成データ入力部6、飛行経路諸元推定結果出力部4、及び飛行経路諸元仮推定値入力部5は、この飛行経路推定装置の外部に想定される構成要素である。
【0102】
区間1経過時間設定部15A及び22A、区間2経過時間設定部17A及び24A、…、区間m経過時間設定部19A及び26A(ただし、mは1からM)、及び観測データ列設定部110は、レーダーデータ入力部2からある航空機についてのレーダーデータを入力する。レーダーデータはレーダーが検知した航空機の位置を示すXY直交座標上でのX及びY座標値、及びその検出の時刻から成る。
【0103】
ここでは、レーダーデータ入力部2からk番目に入力したレーダーデータのX及びY座標値及びその時刻をそれぞれxmk、ymk、tと表記し、kは1からnまでとする。尚、xmkの添字kはxの添字mと同じ大きさで記してあるがmの添字である。ymkの添字kも同様である。
【0104】
飛行経路区間構成データ入力部6は、飛行経路推定装置1C内の各構成部分に飛行経路区間構成データを供給する。この飛行経路区間構成データは、区間1開始時刻t1S、…、区間m終了時刻tmE(ただし、mは1からM)から成る。なお、以降において、区間1開始時刻t1Sを推定基準時刻tとして扱う。
【0105】
また、飛行経路諸元仮推定値入力部5は飛行経路推定装置1C内の各構成部分に飛行経路諸元仮推定値βを供給する。この飛行経路諸元仮推定値βの構成は飛行経路諸元要素構成データに示す要素構成と同様である。
【0106】
飛行経路諸元要素構成部35は、飛行経路区間構成データ入力部6から飛行経路区間構成データを入力すると、飛行経路諸元要素構成データβ、飛行経路諸元要素構成対各区間基本状態変数構成対応データδ、及び、飛行経路諸元次数データPを、数28に示すように作成する。
【0107】
区間1経過時間設定部15A及び22A、区間2経過時間設定部17A及び24A、…、区間m経過時間設定部19A及び26A(ただし、mは1からM)はいずれも同一内容の動作を行う。すなわち、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータの時刻tと、飛行経路区間構成データ入力部6から入力した飛行経路区間構成データの区間1開始時刻t1S及び、区間1終了時刻t1E、区間2終了時刻t2E、…、区間m終了時刻tmE(ただし、mは1からM)とに基づき、レーダーデータの時刻の区間1、区間2、…、区間m(ただし、mは1からM)の開始時刻からの経過時間ΔTmkを数29に示すように設定する。
【0108】
区間1状態遷移行列設定部16C、区間2状態遷移行列設定部18C、…、区間m状態遷移行列設定部20C(ただし、mは1からM)は、それぞれ区間1経過時間設定部15A、区間2経過時間設定部17A、…、区間m経過時間設定部19A(ただし、mは1からM)からレーダーデータの時刻の区間1、区間2、…、区間m(ただし、mは1からM)の開始時刻からの経過時間ΔTmkを入力し、区間1基本状態遷移行列、区間2基本状態遷移行列並びに区間m基本状態遷移行列Φ’km(ただし、mは1からM)を数32に示すように設定する。
【0109】
【数32】

【0110】
区間1状態遷移行列構成変換部29、区間2状態遷移行列構成変換部30、…、区間m状態遷移行列構成変換部31(ただし、mは1からM)は、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元要素構成対各区間基本状態変数構成対応データを入力し、かつ、それぞれ区間1状態遷移行列設定部16C、区間2状態遷移行列設定部18C、…、区間m状態遷移行列設定部20C(ただし、mは1からM)から、区間1基本状態遷移行列、区間2基本状態遷移行列、…、区間m基本状態遷移行列Φ’km(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、区間1状態遷移行列、区間2状態遷移行列、…、区間m状態遷移行列Φ’ ̄km(ただし、mは1からM)を図3に示すように設定する。
【0111】
計画係数データ行列作成部21Aは、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元次数データを入力し、区間1状態遷移行列構成変換部29、区間2状態遷移行列構成変換部30、…、区間m状態遷移行列構成変換部31(ただし、mは1からM)から、それぞれ区間1状態遷移行列、区間2状態遷移行列、…、区間m状態遷移行列Φ’ ̄km(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、計画係数データ行列Fを数33に示すように設定する。
【0112】
【数33】

【0113】
観測データ列設定部110は、k番目のレーダーデータを入力すると、そのレーダーデータのX及びY座標値を使用し、観測データ列Lを数8に示すよう設定する。
【0114】
区間1予測状態遷移行列設定部23A、区間2予測状態遷移行列設定部25A、…、区間m予測状態遷移行列設定部27A(ただし、mは1からM)は、それぞれ区間1経過時間設定部22A、区間2経過時間設定部24A、…、区間m経過時間設定部26A(ただし、mは1からM)からレーダーデータの時刻の区間1、区間2、…、区間m(ただし、mは1からM)の開始時刻からの経過時間ΔTmkを入力し、区間1基本予測状態遷移行列、区間2基本予測状態遷移行列、…、区間m基本予測状態遷移行列Φ’km(ただし、mは1からM)を数32に示すように設定する。
【0115】
区間1予測状態遷移行列構成変換部32、区間2予測状態遷移行列構成変換部33、…、区間m予測状態遷移行列構成変換部34(ただし、mは1からM)は、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元要素構成対各区間基本状態変数構成対応データを入力し、かつ、それぞれ区間1予測状態遷移行列設定部23A、区間2状態遷移行列設定部25A、…、区間m状態遷移行列設定部27A(ただし、mは1からM)から、区間1基本予測状態遷移行列、区間2基本予測状態遷移行列、…、区間m基本予測状態遷移行列Φ’km(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、区間1予測状態遷移行列、区間2予測状態遷移行列、…、区間m予測状態遷移行列Φ’ ̄km(ただし、mは1からM)を図3に示すように設定する。ただし、この場合には図3内のΦkmとΦ ̄kmをそれぞれΦ’kmとΦ’ ̄kmに読み替える。
【0116】
予測係数データ行列作成部28Aは、飛行経路諸元要素構成部35から飛行経路諸元次数データPを入力し、区間1予測状態遷移行列構成変換部32、区間2予測状態遷移行列構成変換部33、…、区間m予測状態遷移行列構成変換部34(ただし、mは1からM)から、それぞれ区間1予測状態遷移行列、区間2予測状態遷移行列、並びに区間m予測状態遷移行列Φ’ ̄km(ただし、mは1からM)を入力すると、これらに基づき、予測係数データ行列F’を数33に示すように設定する。
【0117】
予測観測データ列作成部113は、予測係数データ行列作成部28Aから予測係数データ行列F’を入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力し、これらに基づき予測観測データ列L’を数34に示すように作成する。
【0118】
【数34】

【0119】
観測残差データ列作成部114は、観測データ列設定部110から観測データ列Lを入力し、また、予測観測データ列作成部113から予測観測データ列L’を入力すると、これらに基づき観測残差データ列ΔLkを数21に示すように作成する。
【0120】
飛行経路諸元残差推定部13は、計画係数データ行列作成部21Aから計画係数データ行列F(ただし、kは1からn)を入力し、また、観測残差データ列作成部114から観測残差データ列ΔL(ただし、kは1からn)を入力すると、これらに基づき飛行経路諸元残差推定値Δβ^を数35により推定する。
【0121】
【数35】

【0122】
飛行経路諸元推定値作成部14は、飛行経路諸元残差推定部13から飛行経路諸元残差推定値Δβ^を入力し、また、飛行経路諸元仮推定値入力部5から飛行経路諸元仮推定値βを入力し、これらに基づき飛行経路諸元推定値β^を数23に示すように設定し、その結果を飛行経路諸元推定結果出力部4に出力する。この時、ここで推定する飛行経路諸元の推定値β^は、飛行経路諸元要素構成部35が作成した飛行経路諸元要素構成データの示す要素から成っている。
【0123】
実施例2の飛行経路推定装置を用いて、「直進→旋回→直進→旋回→・・・→直進」の飛行の種類から成る一連の飛行経路の全区間を推定した例を説明する。
【0124】
図4に、レーダーによる測定対象である航空機が実際に飛行した経路の例を図示する。図中の点線「……」は飛行経路の平面上での位置を示す。この飛行経路は「直進→旋回→直進→旋回→・・・→直進」の15個の区間からなる。すなわち、図の上から始まり、旋回と直進を繰返し図の下へ飛行したものである。
【0125】
図4の実際の飛行経路に沿って、一定の確率分布による誤差を付与して作成したのが図5のレーダーデータである。「+」印がレーダーデータの平面上での位置を示す。
【0126】
実施例2の飛行経路推定装置にて、図5のレーダーデータに基づいて飛行経路の全区間を連続して推定した結果が図6である。図5の「+」印を繋ぐように点線が描かれている。この点線が飛行経路の推定結果である。
【0127】
図4と図6の点線を比較すると、推定した飛行経路が実際の飛行経路を十分に正確に推定していることが見て取れる。
【0128】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者の通常の知識の範囲内でその変更や改良が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施例1である飛行経路推定装置1Bの機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施例2である飛行経路推定装置1Cの機能ブロック図である。
【図3】基本状態遷移行列Φkmと状態遷移行列Φ ̄kmとの対応関係について説明するための図である。
【図4】実施例2による飛行経路の推定結果と実際の飛行経路とを比較して説明するための図である。
【図5】実施例2による飛行経路の推定結果と実際の飛行経路とを比較して説明するための図である。
【図6】実施例2による飛行経路の推定結果と実際の飛行経路とを比較して説明するための図である。
【図7】従来の飛行経路推定装置の機能ブロック図である。
【図8】従来の飛行経路推定装置の機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0130】
1A、1B、1C 飛行経路推定装置
2 レーダーデータ入力部
4 飛行経路諸元推定結果出力部
5 飛行経路諸元仮推定入力部
6 飛行経路区間構成データ入力部
10B、10C 計画係数データ行列設定部
11、11C 観測データ列設定部
12 飛行経路諸元推定部
13 飛行経路諸元残差推定部
14 飛行経路諸元推定値作成部
15A 区間1経過時間設定部
16B、16C 区間1状態遷移行列設定部
17A 区間2経過時間設定部
18B、18C 区間2状態遷移行列設定部
19A 区間m経過時間設定部
20B、20C 区間m状態遷移行列設定部
21A 計画係数データ行列作成部
22A 区間1経過時間設定部
23A 区間1予測状態遷移行列設定部
24A 区間2経過時間設定部
25A 区間2予測状態遷移行列設定部
26A 区間m経過時間設定部
27A 区間m予測状態遷移行列設定部
28A 予測係数データ行列作成部
29 区間1状態遷移行列構成変換部
30 区間2状態遷移行列構成変換部
31 区間m態遷移行列構成変換部
32 区間1予測状態遷移行列構成変換部
33 区間2予測状態遷移行列構成変換部
34 区間m予測状態遷移行列構成変換部
35 飛行経路諸元要素構成部
110 観測データ列設定部
113 予測観測データ列作成部
114 観測残差データ列作成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め用意した移動体の観測時刻毎の観測値を元に、該移動体の位置、速度、加速度及び角速度の少なくともひとつを含む移動経路の諸元を推定する方法であって、移動体が一種類の運動により移動した区間の複数からなる移動経路の諸元を推定する方法において、
移動経路の諸元の要素と、区間毎の基本状態変数との対応関係を示すδ、及び、移動経路の諸元の次数Pを、その区間の運動の種類に応じて区間毎に求める段階と、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本状態遷移行列Φと、前記対応関係δとに応じた区間毎の状態遷移行列Φ ̄を求める段階と、
全区間における前記次数P及び前記状態遷移行列Φ ̄に応じた計画係数データ行列Fを求める段階と、
前記計画係数データ行列F、及び、前記観測値に基づく観測データ列Lに応じて、移動経路の諸元の推定値β^を求める推定段階と
を含むことを特徴とする移動経路諸元推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の移動経路諸元推定方法において、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本予測状態遷移行列Φ’と、前記対応関係δとに応じた予測状態遷移行列Φ’ ̄を求める段階と、
全区間における前記次数P及び前記予測状態遷移行列Φ’ ̄に応じた予測係数データ行列F’を求める段階とを更に含み、
前記推定段階に代わって、
前記計画係数データ行列F及び予測係数データ行列F’に応じた移動経路諸元残差推定値Δβ^を求める段階と、
前記移動経路諸元残差推定値Δβ^に応じて前記移動経路諸元推定値β^を求める段階とを含むことを特徴とする移動経路諸元推定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の移動経路諸元推定方法において、前記運動の種類は、直進運動、等加速度運動、等速旋回運動からなることを特徴とする移動経路諸元推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の移動経路諸元推定方法において、前記移動経路は、4以上の区間からなり、連続する2つの区間の運動の種類は異なることを特徴とする移動経路諸元推定方法。
【請求項5】
予め用意した移動体の観測時刻毎の観測値を元に、該移動体の位置、速度、加速度及び角速度の少なくともひとつを含む移動経路の諸元を推定する方法であって、移動体が一種類の運動により移動した区間の複数からなる移動経路の諸元を推定する処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムにおいて、
移動経路の諸元の要素と、区間毎の基本状態変数との対応関係を示すδ、及び、移動経路の諸元の次数Pを、その区間の運動の種類に応じて区間毎に求める処理と、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本状態遷移行列Φと、前記対応関係δとに応じた区間毎の状態遷移行列Φ ̄を求める処理と、
全区間における前記次数P及び前記状態遷移行列Φ ̄に応じた計画係数データ行列Fを求める処理と、
前記計画係数データ行列F、及び、前記観測値に基づく観測データ列Lに応じて、移動経路の諸元の推定値β^を求める推定処理と
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のコンピュータプログラムにおいて、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本予測状態遷移行列Φ’と、前記対応関係δとに応じた予測状態遷移行列Φ’ ̄を求める処理と、
全区間における前記次数P及び前記予測状態遷移行列Φ’ ̄に応じた予測係数データ行列F’を求める処理とを更にコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
前記推定処理に代わって、
前記計画係数データ行列F及び予測係数データ行列F’に応じた移動経路諸元残差推定値Δβ^を求める処理と、
前記移動経路諸元残差推定値Δβ^に応じて前記移動経路諸元推定値β^を求める処理とをコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項5に記載のコンピュータプログラムにおいて、前記運動の種類は、直進運動、等加速度運動、等速旋回運動からなることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項5に記載のコンピュータプログラムにおいて、前記移動経路は、4以上の区間からなり、連続する2つの区間の運動の種類は異なることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載のコンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載の記録媒体を格納し、前記コンピュータプログラムに従って動作する情報処理装置。
【請求項11】
予め用意した移動体の観測時刻毎の観測値を元に、該移動体の位置、速度、加速度及び角速度の少なくともひとつを含む移動経路の諸元を推定する方法であって、移動体が一種類の運動により移動した区間の複数からなる移動経路の諸元を推定する移動経路諸元推定システムにおいて、
移動経路の諸元の要素と、区間毎の基本状態変数との対応関係を示すδ、及び、移動経路の諸元の次数Pを、その区間の運動の種類に応じて区間毎に求める処理部と、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本状態遷移行列Φと、前記対応関係δとに応じた区間毎の状態遷移行列Φ ̄を求める処理部と、
全区間における前記次数P及び前記状態遷移行列Φ ̄に応じた計画係数データ行列Fを求める処理部と、
前記計画係数データ行列F、及び、前記観測値に基づく観測データ列Lに応じて、移動経路の諸元の推定値β^を求める推定処理部と
を備えることを特徴とする移動経路諸元推定システム。
【請求項12】
請求項11に記載の移動経路諸元推定システムにおいて、
前記観測値を元に予め求めた区間毎の基本予測状態遷移行列Φ’と、前記対応関係δとに応じた予測状態遷移行列Φ’ ̄を求める処理部と、
全区間における前記次数P及び前記予測状態遷移行列Φ’ ̄に応じた予測係数データ行列F’を求める処理部とを更に備える移動経路諸元推定システムであって、
前記推定処理部に代わって、
前記計画係数データ行列F及び予測係数データ行列F’に応じた移動経路諸元残差推定値Δβ^を求める処理部と、
前記移動経路諸元残差推定値Δβ^に応じて前記移動経路諸元推定値β^を求める処理部とを備えることを特徴とする移動経路諸元推定システム。
【請求項13】
請求項11に記載の移動経路諸元推定システムにおいて、前記運動の種類は、直進運動、等加速度運動、等速旋回運動からなることを特徴とする移動経路諸元推定システム。
【請求項14】
請求項11に記載の移動経路諸元推定システムにおいて、前記移動経路は、4以上の区間からなり、連続する2つの区間の運動の種類は異なることを特徴とする移動経路諸元推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−33252(P2007−33252A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217476(P2005−217476)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】