説明

移設検知機能付き産業機械

【課題】 不正な移設のための移動が生じたか否かを適切に判定することができ、不正に対応した処置が行える移設検知機能付き産業機械を提供する。
【解決手段】 工作または計測等の作業を行う作業器具を有する機械本体と、この機械本体または機械本体周囲の環境変化を検知する環境変化検知手段と、不正移設判定手段7と、処理手段とを備える。不正移設判定手段7は、環境変化検知手段の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき前記機械本体の不正な移設と判定する。処理手段は、不正な移設であるとの判定結果によって前記作業器具による作業を不能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械や計測機等の産業機械において、法令や契約上の義務違反となる移設等の不正な移設を検知する機能を備えた移設検知機能付き産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
高精度な高機能機械は、不正輸出の管理が厳しく求められる。また、契約上で、決められた設置条件で設置することを、機械のメーカから求めることがある。そのため、不正な移設を検知する装置や方法が種々提案されている。その中で、振動によって移設を検知するものも提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−35595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の移設の検知装置は、いずれも、不正な移設の判定を、今一つ適切に行うことができなかった。例えば、振動をセンシングする場合、通常の自身の動作振動や、地震等の自然振動、周辺装置,周辺環境によって及ぼされる環境振動などを均等に拾ってしまい、その振動が不正な移設のための移動によるものであるかを判定することが難しかった。
【0005】
この発明の目的は、不正な移設のための移動が生じたか否かを適切に判定することができ、不正に対応した処置が行える移設検知機能付き産業機械を提供することである。
この発明の他の目的は、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の移設検知機能付き産業機械は、工作または計測等の作業を行う作業器具(4)を有する機械本体(1)と、この機械本体(1)または機械本体(1)の周囲の環境変化を検知する環境変化検知手段(6)と、この環境変化検知手段(6)の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき前記機械本体の不正な移設と判定する不正移設判定手段(7)と、この不正移設判定手段(7)による不正な移設であるとの判定結果によって前記作業器具(4)による作業を不能としまたは制限する処理手段(8)とを備える。
【0007】
この構成によると、不正移設判定手段(7)は、環境変化検知手段(6)の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき機械本体(1)の不正な移設と判定する。そのため、偶発的な環境変化を排除したり、長距離移設の検出が可能になるなど、不正な移設のための移動が生じたか否かを適切に判定することができる。処理手段(8)は、不正な移設であるとの判定結果が得られた場合に、作業器具(4)による作業を、起動を禁止するなどの制御やその他の処置で不能とし、または繰り返し動作を禁止するなどして作業器具(4)による作業を制限する。
【0008】
この発明において、前記不正移設判定手段(7)は、順次切り換わる複数のモードで互いに異なる基準により判定する複数の判定部(7a,7b)を有し、これら複数の判定部(7a,7b)のなかに、環境変化後の状態が継続する時間の長さを基準として判定を行う複数の判定部(7a)を有し、これら継続時間の長さを基準とする判定部(7a)は、後に実行される判定部ほど、基準となる時間が長く定められ、前記各判定部(7a,7b)は、基準に達したと判定した場合に次のモードに進み、基準に達しないと判定した場合は初期モードに戻り、最終の判定部(7a,7b)が基準に達したと判定した場合に、不正な移設と判定するものであっても良い。
このように複数のモードで判定し、また後に実行される判定部ほど、基準となる時間が長く定められていることにより、地震、偶発的な環境変化や、長距離移動による環境変化等が判定でき、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定することができる。
【0009】
この発明において、前記環境変化検知手段(6)として、振動を検知する手段を設けても良い。振動検出手段によると、環境変化として、移設に伴う振動が検出でき、移設に伴う環境変化が容易に検出できる。
【0010】
この発明において、前記環境変化検知手段(6)として、検出対象となる環境の種類が異なる複数種類の環境変化検知手段(6)があり、前記不正移設判定手段(7)は、環境変化検知手段(6)の種類毎に定められた基準で不正な移設と判定する種類別不正移設判定部(7A)と、これら複数の種類別不正移設判定部(7A)の判定結果から不正な移設と判定する総合判定部(7B)とを有するものとしても良い。
一種類の環境変化だけでは、不正な移設に伴う環境変化であるか否かの検出が困難な場合がある。しかし、検出対象となる環境の種類が異なる複数種類の環境変化検知手段(6)を設け、総合的に判定することにより、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の移設検知機能付き産業機械は、工作または計測等の作業を行う作業器具を有する機械本体と、この機械本体または機械本体周囲の環境変化を検知する環境変化検知手段と、この環境変化検知手段の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき前記機械本体の不正な移設と判定する不正移設判定手段と、この不正移設判定手段による不正な移設であるとの判定結果によって前記作業器具による作業を不能としまたは制限する処理手段とを備えるため、不正な移設のための移動が生じたか否かを適切に判定し、不正に対応した処置を行うことができる。
【0012】
前記不正移設判定手段が、順次切り換わる複数のモードで互いに異なる基準により判定する複数の判定部を有し、これら複数の判定部のなかに、環境変化後の状態が継続する時間の長さを基準として判定を行う複数の判定部を有し、これら継続時間の長さを基準とする判定部は、後に実行される判定部ほど、基準となる時間が長く定められ、前記各判定部は、基準に達したと判定した場合に次のモードに進み、基準に達しないと判定した場合は初期モードに戻り、最終の判定部が基準に達したと判定した場合に、不正な移設と判定するものである場合は、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定することができる。
前記環境変化検知手段として、振動を検知する手段を設けた場合は、移設に伴う環境変化が容易に検出できる。
【0013】
前記環境変化検知手段として、検出対象となる環境の種類が異なる複数種類の環境変化検知手段があり、前記不正移設判定手段は、環境変化検知手段の種類毎に定められた基準で不正な移設と判定する種類別不正移設判定部と、これら複数の種類別不正移設判定部の判定結果から不正な移設と判定する総合判定部とを有する場合は、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る移設検知機能付き産業機械の概念構成を示すブロック図である。
【図2】その機械本体の一例の平面図である。
【図3】その不正移設判定手段の処理例を示す流れ図である。
【図4】この発明の他の実施形態に係る移設検知機能付き産業機械の概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この移設検知機能付き産業機械は、機械本体1と不正移設検知装置5とでなる。機械本体1は、工作機械、半導体基板製造装置等の各種の加工機械、または計測機械等である。機械本体1は、工作または計測等の作業を行う作業器具4を有する機械本体機械部2と、この機械本体機械部2を制御する機械本体制御部3とでなる。なお、ここで言う「工作」は、加工または組立等を言う。機械本体機械部2は、機械本体1を機械部分と制御機器部分とに分けたうちの機械部分であり、機械本体機械部2は制御機器部分である。
【0016】
図2は、機械本体1が工作機械であるタレット型の旋盤の例を示す。同図の機械本体1における機械本体機械部2は、ベッド9上に主軸台10を介して主軸11が回転自在に支持され、タレット型の刃物台13を割出回転自在に搭載した送り台15が、主軸台10の側方でベッド9上に直交2軸方向に進退自在に設置されている。送り台15は、各軸のサーボモータ等の駆動源16,17により進退駆動され、主軸11はサーボモータ等の駆動源18により回転駆動される。主軸11の先端のチャック11aに把持されたワークWが、刃物台13に設置されたバイト等の工具14により加工される。上記主軸11、刃物台13、送り台15、および各駆動源16〜18等が、上記の作業器具4である。
【0017】
機械本体制御部3は、コンピュータ式の数値制御装置およびプログラマブルコントローラからなり、機械本体機械部2に搭載または隣接して設けられ、または機械本体機械部2から離れて設けられている。
不正移設検知装置5は、マイクロコンピュータ等を含む電子回路等からなり、機械本体制御部3とは独立して設けられて機械本体機械部2に内蔵状態等に設置され、または機械本体制御部3に設けられている。不正移設検知装置5は、機械本体制御部3のコンピュータを用いるものであっても良い。
【0018】
図1において、不正移設検知装置5は、環境変化検知手段6と、不正移設判定手段7と、処理手段8とを有する。環境変化検知手段6は、機械本体1または機械本体1の周囲の環境変化を検知する手段であり、この実施形態では、加速度センサからなる振動センサ等の振動を検知する手段とされている。不正移設判定手段7は、環境変化検知手段6の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき、前記機械本体1の不正な移設と判定する手段である。処理手段8は、不正移設判定手段7による不正な移設であるとの判定結結によって前記作業器具4による作業を不能とする手段である。この作業器具4による作業を不能とする処理は、例えば、作業器具4の起動を禁止する制御や、機械本体制御部3の回路を短絡させて損傷させる処理等である。
【0019】
不正移設判定手段7は、順次切り換わる複数のモードで互いに異なる基準により判定する複数の判定部7a,7bを有し、これら複数の判定部7a,7bのなかに、環境変化後の状態が継続する時間の長さを基準として判定を行う複数の判定部7aを有し、これら継続時間の長さを基準とする判定部7aは、後に実行される判定部ほど、基準となる時間が長く定められる。前記各判定部7a,7bは、基準に達したと判定した場合に次のモードに進み、基準に達しないと判定した場合は初期モードに戻り、不正移設判定手段7は、最終の判定部7a,7bが基準に達したと判定した場合に、不正な移設と判定する。
【0020】
図3に不正移設判定手段7の行う処理の流れ図を示す。同図は、環境変化検知手段6(図1)が振動検出手段である場合の例である。まず、機械本体1の電源がオフであるか否かの判定を行い(S1)、電源オンの場合は待機モード(S16)となって終了し、スタートに戻る。電源オフ状態であると、振動監視モード(S2)に入り、振動検出の判定過程(S3)で設定レベル以上の振動が検出されない場合は、終了してスタートに戻る。設定レベル以上の振動が検出されると、監視遅延モード(S5)に入る(S4)。
【0021】
監視遅延モード(S5)では、振動センサからなる環境変化検知手段6の出力を、定められた不感時間(例えば2分)を時間を介して複数回入力する処理を、定められた時間(例えば10分間)または定められた回数だけ繰り返し、その間に、移設有りと判定する定められた回数(例えば3回数)の振動が検出されるか否かの判定を行う(S6)。この判定により、地震や偶発的な振動が移設判定の要件から排除される。判定基準に応じた振動が検出されなかった場合は終了してスタートに戻る。判定基準に応じた振動があった場合は、次の移設監視モード(S8)に入る。
【0022】
移設監視モード(S8)の判定過程(S9)では、このモードに入った後、定められた時間内に環境変化検知手段6からの一定レベル以上の振動検出の信号が一度でも入力されると、移設監視モード(S8)に移行する(S10)。一度も振動検出の信号がない場合は、終了してスタートに戻る。
【0023】
移設判断モード(S11)の判定過程(S12)では、このモードに入った後、定められた基準時間を経過するまでに、定められた移動終了条件を満足する信号が入力されたか否かを監視し、移動終了条件を満足する信号が入力された場合は、移設断定モード(S14)に移行する(S13)。移動終了条件を満足する信号が入力されなかった場合は、終了してスタートに戻る。移動終了条件を満足する信号は、例えば、機械本体1に電源が入力されたことを示す信号である。この他に、環境変化検知手段6として、振動センサの他に気圧計を設けてある場合は、気圧計の圧力上昇の信号を、上記の移動終了条件を満足する信号として用いても良い。
不正輸出を想定すると、移設には数日(例えば3日)の日数を必要とする。したがって、一旦、移設判断モード(S11)になっても、数日以内に電源が投入された場合には不正移設ではないと判定する。これにより、長距離移設か否かを判定でき、工場内移設の場合に不正移設と判定されることが排除できる。なお、航空機で運搬する場合は、上空で気圧が下がり、着陸すると気圧が上がるため、気圧によっても移動の終了が検出できる。
同図の流れ図の処理に従えば、不正移設のみを判定することができる。
【0024】
移設断定モード(S14)では、作業器具4による作業を不能とするか、または機械本体1に制限を加える(S15)。機械本体1に制限を加える処理は、例えばリピートを禁止したり、重要なMコードを使えなくしたり、程度によっては試作のみを許可する処理とされる。上記のリピートの禁止は、例えば機械本体制御部3による数値制御プログラムのリピートを禁止する処理であり、また上記の重要なMコードを使えなくする処理は、例えば機械本体制御部3において登録したおいたMコードを使用できなくしたり、登録したMコードの制御内容となるデータを抹消する処理等とされる。
【0025】
図3の流れ図における、各判定過程S3,S6,S9,S12を行う手段が、図1における不正移設判定手段7の各判定部7a,7bである。このうち、S6,S12の判定を行う手段が、継続時間の長さを基準とする判定部7aであり、他の判定過程S3,S9を行う手段が、他の判定部7bである。
【0026】
この移設検知機能付き産業機械によると、このように、不正移設判定手段7は、環境変化検知手段6の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき機械本体の不正な移設と判定する。そのため、偶発的な環境変化を排除したり、長距離移設の検出が可能になるなど、不正な移設のための移動が生じたか否かを適切に判定することができる。
特に、複数のモードで判定し、かつ後に実行される判定部7aほど、基準となる時間が長く定められていることにより、地震、偶発的な環境変化や、長距離移動による環境変化等が判定でき、不正な移設のための移動であるか否かをより一層正しく判定することができる。
【0027】
図4は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、環境変化検知手段6として、検出対象となる環境の種類が互いに異なる複数種類の環境変化検知手段6を設けたたものである。不正移設判定手段7は、環境変化検知手段6の種類毎に定められた基準で不正な移設と判定する種類別不正移設判定部7Aと、これら複数の種類別不正移設判定部7Aの判定結果から不正な移設と判定する総合判定部7Bとを有する。環境変化検知手段6のうちの一つは、振動センサ等の振動を検出する手段とされている。他の環境変化検知手段6としては、電波時計の受信可否または周波数変化を検出するもの、音を採取して特定言語が含まれるか否かを判定するもの、外気温の検出、酸素濃度の検出(航空機での運搬の場合)、塩分濃度の検出(船舶での運搬の場合)、暗闇の検出、等を行うものを用いることができる。
【0028】
種類別不正移設判定部7Aのうち、振動センサからなる環境変化検知手段6の出力から判定するものには、図3で流れ図で示した処理を行う構成が採用される。ただし、移設断定モード(S14)に入るには、総合判定部7Bによる判定を要する。総合判定部7Bは、各種類別不正移設判定部7Aの全てが判定基準となる条件を満足する場合に、不正な移設であると判定するものとされ、または一部の種類別不正移設判定部7Aが条件不満足であっても、複数の種類別不正移設判定部7Aの判定結果を定められた基準に照らして総合的に判定して不正移設であるか否かを判定するものとしても良い。
【符号の説明】
【0029】
1…機械本体
2…機械本体機械部
3…機械本体制御部
4…作業器具
5…不正移設検知装置
6…環境変化検知手段
7…不正移設判定手段
7a,7b…判定部
7A…種類別不正移設判定部
7B…総合判定部
8…処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作または計測等の作業を行う作業器具を有する機械本体と、この機械本体または機械本体周囲の環境変化を検知する環境変化検知手段と、この環境変化検知手段の検知した環境変化後の状態が継続する時間の長さに基づき前記機械本体の不正な移設と判定する不正移設判定手段と、この不正移設判定手段による不正な移設であるとの判定結果によって前記作業器具による作業を不能としまたは制限する処理手段とを備えた移設検知機能付き産業機械。
【請求項2】
前記不正移設判定手段は、順次切り換わる複数のモードで互いに異なる基準により判定する複数の判定部を有し、これら複数の判定部のなかに、環境変化後の状態が継続する時間の長さを基準として判定を行う複数の判定部を有し、これら継続時間の長さを基準とする判定部は、後に実行される判定部ほど、基準となる時間が長く定められ、前記各判定部は、基準に達したと判定した場合に次のモードに進み、基準に達しないと判定した場合は初期モードに戻り、最終の判定部が基準に達したと判定した場合に、不正な移設と判定する請求項1記載の移設検知機能付き産業機械。
【請求項3】
前記環境変化検知手段として、振動を検知する手段を設けた請求項1または請求項2記載の移設検知機能付き産業機械。
【請求項4】
前記環境変化検知手段として、検出対象となる環境の種類が異なる複数種類の環境変化検知手段があり、前記不正移設判定手段は、環境変化検知手段の種類毎に定められた基準で不正な移設と判定する種類別不正移設判定部と、これら複数の種類別不正移設判定部の判定結果から不正な移設と判定する総合判定部とを有する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の移設検知機能付き産業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−145804(P2011−145804A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4782(P2010−4782)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】