説明

積分型光検出器を使用したフーリエ係数測定法

【課題】周期的に変わる光信号強度に対して積分型光検出器によりリアルタイムで測定したとき、その波形を分析する従来の方法における演算式の複雑性、読み出し時間に対する近似補正、積分時間の制限的可変性などの問題を改善する。
【解決手段】振幅が一定の時間周期で変わる光に対し、積分型光検出器を使用して前記周期の間、一定の時間間隔で露光量Sjを測定したとき、前記光の強度波形の正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nを、前記測定された露光量Sjに関する等式に対して離散フーリエ変換を行う。任意の積分時間と特定の読み出し時間に対して完全に補正された露光量計算法と、離散フーリエ変換とを使用することにより、近似なく正規化されたフーリエ係数を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間によって周期的に変わる光信号強度に対し、積分型光検出器で露光量をリアルタイムで測定するとき、その波形を分析するための正規化されたフーリエ係数を得る方法{MEASUREMENT OF FOURIER COEFFICIENTS USING INTEGRATING PHOTOMETRIC DETECTOR}に関するものである。
【背景技術】
【0002】
時間tによって周期的に変わる光信号強度に対し、積分型光検出器(integrating photometric detector)を使用してリアルタイムで測定するとき、その波形を分析するためにフーリエ係数(Fourier coefficient)が用いられる。このような測定装置において、もし誤差がないと仮定する場合、特定の波長に対して電圧又は電流のような電気的信号で光検出器によって測定される光の強度I’(t)は、
【数1】

のように、光の強度平均値I’、正規化されたフーリエ係数α’2n、β’2n(normalized Fourier coefficient)、及び周期Tで構成された式で表現される。ここで、2Nは0ではない正規化されたフーリエ係数のうち、最高次数を表す自然数である。
【0003】
式(1)で表される代表的な事例は、光部品回転型楕円計測器(rotating optical element ellipsometer)において光検出器により測定される光の強度値である。楕円計測器は、任意の試片に入射した光が反射された後に有するようになる偏光状態の変化を測定し、分析することにより、試片の物性を見出す測定装置である。光部品回転型楕円計測器は、このような偏光状態の変化を線形偏光子(linear polarizer)、又は補償器(compensator)のような光部品が一定の速度で回転する状態で、光の強度を光検出器で測定する。特に、半導体素子、及び平板ディスプレイなど、多様なナノ薄膜工程で製造されたナノ薄膜に対する物性を評価するために、非破壊的で、且つ非接触式のリアルタイム測定装置である楕円計測器を広く使用している。
【0004】
光部品回転型楕円計測器の様々な類型のうち、偏光子(polarizer)回転型、検光子(analyzer)回転型楕円計測器の場合は、その主要装置が、光源、偏光子(線形偏光子)、試片、検光子(線形偏光子)、光検出器で同一に構成されたが、偏光子又は検光子の何れか一つのみが一定の速度でそれぞれ回転しながら測定をする。このとき、光検出器によって測定される光の強度である式(1)において、α’、β’のように2次項の正規化されたフーリエ係数以外には全て0の値を有するため、Nが1である場合に該当する。単一補償器回転型楕円計測器の場合は、前記測定装置において補償器が偏光子と試片、又は試片と検光子の間にさらに一つ追加され、この補償器のみ一定の速度で回転しながら測定をする。このとき、光検出器によって測定される光の強度である式(1)において、α’,β’,α’,β’のように2次と4次項のフーリエ係数のみが0ではないため、Nが2である場合に該当する。二重補償器回転型楕円計測器の場合は、光源、偏光子、補償器、試片、補償器、検光子、光検出器のように装置が構成されており、2つの補償器が相対的に一定の速度比で回転しながら測定をする。この場合は、式(1)において有効な最高次数項のフーリエ係数がα’32とβ’32であるため、Nは16になる。
【0005】
楕円計測器では、式(1)のように光検出器によって測定された光強度の波形から、正規化されたフーリエ係数α’2n、β’2nをさらに正確に得る方法が非常に重要である。最近、一番広く普及されているリアルタイム光部品回転型分光楕円計測器においては、光検出器として、殆どCCD検出器アレイ(detector array)又はフォトダイオード検出器アレイ(photodiode detector array)を使用する。このような光検出器は、測定される光量値が、光の強度だけでなく、積分時間Tint(integration time)にも比例するため、積分型光検出器と呼ばれる。このような積分型光検出器は、測定時に光量が多すぎるが、あるいは足りない場合に積分時間を適切に減らすか、増やすことにより、適切な条件で測定すれば良いが、測定時の積分時間は該当光検出器の最小積分時間よりはいつも多いか、同じく設定しなければならない。上記のフーリエ係数を得るために、式(1)のように時間に対して周期的に変化する光の強度を上記の積分型光検出器を使用して周期Tの間、一定の時間間隔T/MでM回分割して測定し、積分時間は、このように分割された時間間隔に正確に合わせた、即ち、Tint=T/Mという特殊な条件で測定される光量値、即ち露光量Sは、
【数2】

のように表現される。式(2)のような連立方程式を正規化されたフーリエ係数に対して解くと、露光量Sで表現された正規化されたフーリエ係数α’2n、β’2nの演算式を得るようになるが、これはアダマール変換(Hadamard transform)と呼ばれる。光部品回転型楕円計測器で積分型光検出器を使用する場合に、式(2)は、式(1)のフーリエ係数を得る代表的な方法として使用されてきた。しかし、実際の積分型光検出器では、積分時間の間に各画素(pixel)に累積された光量を読み出し、その状態を初期化する時間、即ち、読み出し時間T(read time)の間に光検出器が反応をしないため、これを考慮して式(2)の露光量を、
【数3】

のように補正し、読み出し時間Tが露光量測定時間間隔T/Mより非常に短いと仮定して、Tに対し1次近似して得られた式を使用している。
【0006】
前記アダマール変換を使用する従来技術の偏光子、又は検光子回転型楕円計測器の場合に、式(1)においてTは偏光子、又は検光子の機械的回転(mechanical turn)の周期であり、Nは既に言及したように1であり、周期Tの間に測定される回数Mの最小値は6であるが、システムが正常状態であるか否かを知るためにβ’を追加で測定しなければならないため、測定回数を8に増やし、このとき、各区間で測定された露光量値がT/2周期に対して対称性を有するため、前半期で測定されたS,S,S,Sのみで構成された4つの連立方程式から4つの未知係数I’,α’,β’,β’を得ることができる。
【0007】
一方、前記アダマール変換を使用する従来技術の単一補償器回転型楕円計測器の場合には、Tは補償器の機械的回転周期であり、Nは2であり、周期Tの間に測定される回数Mの最小値は10であるが、システムが正常状態であるか否かを知るためにβ’を追加で測定しなければならないため、測定回数を16に増やして使用した。以前の場合と同一に測定される露光量値の対称性を考慮してS(j=1,2,3,…,8)の測定値から6つの未知係数I’,α’,β’,α’,β’,β’を得るために連立方程式の解を使用した。
【0008】
最後に、前記アダマール変換を使用する従来技術の二重補償器回転型楕円計測器の場合には、36個の連立方程式を解いて36個の未知係数を非常に複雑な形態で得た。
【0009】
前記アダマール変換を使用する従来技術の光部品回転型楕円計測器において、0ではないフーリエ係数の最高次数2Nは、楕円計測器の種類によって異なるように決定され、式(1)を式(2)に代入して得た連立方程式を解いて露光量測定値Sからの光強度の平均値I’と、正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nとを得る複雑な形態の数式を使用し、最終的には、式(3)から得た読み出し時間に対する1次近似式を使用して読み出し時間の誤差を補正した。
【0010】
積分型光検出器製作技術の発展により、読み出し時間、及び最小積分時間が最近1ms水準、又はそれ以下に減り、測定感度は大きく向上された。さらに速い測定のために、測定時間を数msまで減らすことができるようになったため、測定時間の間隔に比べて読み出し時間の比率が段々と増加している。従って、正確な測定のためには従来技術の読み出し時間に対する1次近似方法より、さらに正確な補正方法が必要になった。また、従来技術のアダマール変換を使用する場合には、読み出し時間と積分時間の和が測定時間の間隔と正確に一致するように設定しなければならないため、光の強度が強すぎる場合には、短い積分時間の間でも光量がたやすく飽和状態に到達するので、光源の出力を減らすためにはやむを得ず、絞り(iris diaphragm)又は中性フィルター(neutral density filter;ND filter)などの光部品を追加で使用して、光ビームの一部を遮蔽しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した周期的に変わる光信号強度に対して積分型光検出器によりリアルタイムで測定したとき、その波形を分析してフーリエ係数を得る従来の方法における演算式の複雑性、読み出し時間に対する近似補正、積分時間の制限的可変性などの問題を改善するためになされたものであって、任意の積分時間、及び読み出し時間に対する露光量測定を完全に補正し、最小測定回数を従来技術より減らすことができ、相対的に非常に簡潔なフーリエ係数測定式を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、振幅が一定の時間周期で変わる光に対し、積分型光検出器を使用して前記周期の間、一定の時間間隔で露光量Sを測定したとき、前記光の強度波形の正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nを、前記測定された露光量Sに関する式に対して離散フーリエ変換(discrete Fourier transform)を行って決定することを特徴とする積分型光検出器を使用したフーリエ係数測定法に関するものである。
【0013】
本発明において、前記測定された露光量Sに関する式は、
【数4】

であり、
前記光の強度波形の正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nはそれぞれ、
【数5】

である。
ここで、T:周期、M:周期Tの間に一定の時間間隔で露光量を測定する回数、T:読み出し時間(read time)、Tint:積分時間(integration time)、
【数6】

I’(t):光の強度、I’:光強度の平均値、α’2n,β’2n:正規化されたフーリエ係数(normalized Fourier coefficient)、2N:0ではない正規化されたフーリエ係数のうち、最高次数を表す自然数、
【数7】

である。
【発明の効果】
【0014】
以上で説明したように、本発明による積分型光検出器を使用したフーリエ(Fourier)係数測定法は、周期的に変わる光信号強度に対して積分型光検出器によりリアルタイムで測定したときに、その波形を分析する従来の方法と比べて、任意の積分時間、及び特定の読み出し時間に対して完全に補正され、光部品回転型楕円計測器に適用する場合、測定回数を約2倍減らすことができ、相対的に非常に簡潔な測定式を提供するものである。
【0015】
本発明を光素子回転型楕円計測器に適用する場合、光強度によって積分時間を任意調節して最適の条件で測定することができ、さらに速い測定が可能であるため、企業で活用する場合には生産性が向上され、また、読み出し時間に対して完全に補正された方法を使用したため、従来の技術より正確な測定が可能な長所がある。
【発明を実施するための具体的な内容】
【0016】
上記した従来技術の問題を解決するために、まず、積分型光検出器を使用して測定される露光量に対する式(3)を、特定の読み出し時間T(read time)と任意の積分時間Tint(integration time)に対し、
【数8】

のように補正した。式(1)を式(4)に代入して簡単な計算を行うと、露光量Sに対する結果式が得られ、これに対し、任意の次数項に対する離散フーリエ変換(discrete Fourier transform)を使用すると、該当次数項に対する正規化されたフーリエ係数が得られるようになる。
【0017】
式(1)を式(4)に代入すると、
【数9】

のように読み出し時間と積分時間に対して補正された露光量測定式が得られるようになる。特に、Tint=T/M,T=0である場合に、式(5)は従来の露光量式(2)と一致するようになる。未知係数を得るために、一周期Tの間に一定の時間間隔で露光量を測定する回数Mに対する特殊な条件下で成立される式(6)と式(7)のような三角関数の直交性を使用して、
【数10】

これを次のような露光量に対する離散フーリエ演算に適用すると、
【数11】

のように与えられる。ここで、
【数12】

である。
式(9)と式(10)の連立方程式を解くと、
【数13】

のように、式(1)の任意の次数2nに対する正規化されたフーリエ係数が得られる。任意の積分時間に対して一定の時間間隔で測定された露光量Sから式(8〜10)のd,a2n,b2nが計算され、これらの値を式(11)と式(12)に代入すると、読み出し時間の誤差が完全に補正された、正規化されたフーリエ係数α’2nとβ’2nが得られるようになる。
【0018】
本発明を偏光子又は検光子回転型楕円計測器に適用する場合、式(1)においてTは偏光子又は検光子の機械的回転(mechanical turn)周期であり、α’とβ’以外の高次項の正規化されたフーリエ係数は0の値を有するようになり、Nは1になるため、何れか一つの波長に対して測定される光の強度は、
【数14】

のような式で与えられる。本発明の式(11)と式(12)を使用すると、測定回数Mの最小値は5であり、偏光子又は検光子が付着された回転装置の方位角値が0°,72°,144°,216°,288°であるときに光エンコーダ(optical encoder)でTTLパルスがそれぞれ一つずつ生成され、この信号が光検出器の外部トリガー(external trigger)信号として伝達されると、S,S,S,S,Sの露光量値がそれぞれ測定される。従って、式(8〜10)にn=1,2及びM=5を代入すると、
【数15】

のように、積分型光検出器によって測定されたS,S,S,S,Sの値からd,a,b,a,bの値が計算される。このように得られた値を式(8)、式(11)、及び式(12)に代入すると、
【数16】

のような関係が得られる。ここで、β’は式(13)から分かるように、システム誤差(error)がないときは、0でなければならないため、システムの状態を点検するのに使用され、また、α’とβ’は光学モデルを使用して分析することにより、試片の物性を得るのに使用される。偏光子又は検光子回転型楕円計測器に対する従来技術において機械的回転周期Tの間に測定される回数Mの値は8であるが、同一な条件で、本発明では上記したようにMの値を5まで減らすことができるため、測定速度が1.6倍まで向上されることができる。
【0019】
本発明を単一補償器回転型楕円計測器に適用する場合には、Tは補償器の機械的回転の周期であり、Nは2であり、周期Tの間に測定される回数Mの最小値は7になって、S(j=1,…,7)の値が測定され、式(8〜10)からd,a(j=2,4,6),b(j=2,4,6)が計算され、これらの値を式(8)、式(11)及び式(12)に代入すると、I’,α’,β’,α’,β’,α’,β’の値が計算される。ここで、α’,β’,α’,β’は試片の物性値を計算するのに使用し、α’とβ’はシステムが正常状態であるか否かを点検するために使用される。同一な条件で、従来技術は測定回数Mを16にし、6つの連立方程式の解を使用して6つの未知の係数を得た。従って、本発明は単一補償器回転型楕円計測器に適用する場合、従来の技術より少ない測定回数を使用するため、2.3倍速い測定が可能である。
【0020】
従来の方法において、測定すべき正規化されたフーリエ係数の最高次項が36である二重補償器回転型楕円計測器の場合、Mの最小値が72である反面、本発明を適用すると、測定回数Mを37にすることができるため、本発明の測定速度が1.9倍速い。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の代表的な適用分野は、半導体及びディスプレー産業用の測定装備として多く使用されている光素子回転型楕円計測器において、正規化されたフーリエ係数(normalized Fourier coefficient)を測定する方法に使用することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振幅が一定の時間周期で変わる光に対し、積分型光検出器を使用して前記周期の間、一定の時間間隔で露光量Sを測定したとき、前記光の強度波形の正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nを、前記測定された露光量Sに関する等式に対して離散フーリエ変換(discrete Fourier transform)を行うことにより決定することを特徴とする積分型光検出器を使用したフーリエ係数測定法。
【請求項2】
前記測定された露光量Sに関する等式は、
【数17】

であり、
前記光の強度波形の正規化されたフーリエ係数α’2n,β’2nはそれぞれ、
【数18】

であることを特徴とする請求項1に記載の積分型光検出器を使用したフーリエ係数測定法。
{T:周期、
M:周期Tの間に一定の時間間隔で露光量を測定する回数、
:読み出し時間(read time)、
int:積分時間(integration time)、
【数19】

I’(t):光の強度、
I’:光の強度の平均値、
α’2n,β’2n:正規化されたフーリエ係数(normalized Fourier coefficient)、
2N:0ではない正規化されたフーリエ係数のうち、最高次数を表す自然数、
【数20】


【公開番号】特開2011−75548(P2011−75548A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163899(P2010−163899)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(595027240)コリア リサーチ インスティチュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス (19)
【Fターム(参考)】