説明

積層フィルムおよびその製造方法

【課題】成形性、特に熱成形性に優れたPPS積層フィルムを提供すること。
【解決手段】最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムからなる積層フィルムであって、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムからなり、最外層の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムが隣接し、積層フィルムの室温破断伸度(Er)と200℃破断伸度(E200)が下記式を満足する積層フィルム。
1≦E200/Er≦1.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、特に熱成形性に優れた積層フィルムに関し、さらに詳しくは、現在自動車メーカーで開発が進んでいるハイブリッド自動車などに使用される駆動用モータやカーエアコンコンプレッサーモータ、あるいは、給湯器モータなどの各種モータ絶縁成形材に好適であり、さらには、金型成型や真空成型、真空圧空成型、インモールド成型など熱成形用部材として好適である積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドフィルムは、優れた耐熱性、難燃性、剛性、耐薬品性、電気絶縁性および低吸湿性などの性質を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品などに好適に使用されている。
【0003】
近年、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略称することがある。)フィルムは、その電気絶縁性や低吸湿性の高さを活かし、電気絶縁材料への適用が進められている。例えば、(1)二軸配向したフィルムを電気絶縁材料として用いることが知られている(特許文献1参照)。また、(2)無配向のPPSのシートも知られている(特許文献2)。さらに、(3)無配向のPPS層に二軸配向PPS層が接着剤を介することなく積層されている積層体が知られている(特許文献3および特許文献4参照)。また、(4)ヒートシール性を付与するために、共重合ポリフェニレンスルフィドからなる層を5μm以下積層した積層フィルムが知られている(特許文献5参照)。また、(5)共重合ポリフェニレンスルフィド積層フィルムを熱ラミネートにより積層した厚物積層フィルムが知られている(特許文献6)。
【0004】
しかしながら、上記の従来のフィルムやシート、積層フィルムおよび積層体は、下記の問題点を有している。すなわち、上記(1)項のフィルムは、モータのスロットライナーやウェッジとして用いる場合、フィルムが裂けてしまったり、フィルムが破断したりする問題があった。また、上記(2)項の無配向のシートは、引裂き強さに富むが、引っ張り伸度が小さく、また融点付近の温度にさらされると急激に強度が低下し、形態保持性が著しく悪化してしまうという問題があった。また、上記(3)項の積層体は、接着剤を介さず耐衝撃性に富んでいるが、引っ張り伸度が十分ではなく、モータ加工においてフィルム割れが発生する問題があった。さらに、(4)(5)項の共重合ポリフェニレンスルフィドを接着層として用いた積層フィルムは、加熱による成形性が十分ではなく、真空圧空成型でフィルム破れが発生する問題があった。
【特許文献1】特開昭55-35456号公報
【特許文献2】特開昭56-34426号公報
【特許文献3】特開平2-45144号公報
【特許文献4】特許第2956254号公報
【特許文献5】特開平4−319436号公報
【特許文献6】特開2007−098941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、これらの問題点を解消し、成形性、特に熱成形性に優れた積層フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層フィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、本発明の積層フィルムは、最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムからなる積層フィルムであって、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムからなり、最外層の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムが隣接し、積層フィルムの室温破断伸度(Er)と200℃破断伸度(E200)が下記式を満足することを特徴とする積層フィルムである。
1≦E200/Er≦1.5
【発明の効果】
【0007】

本発明によれば、以下に説明するとおり、熱成形性に優れた積層フィルムを得ることができる。 本発明の積層フィルムは、ハイブリッド自動車用駆動用モータ、カーエアコンコンプレッサーモータ、あるいは、給湯器モータなどの各種モータ電気絶縁成形材に好適であり、さらには、金型成型や真空成型、真空圧空成型など熱成形用部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の積層フィルムは、最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムからなる。本発明で用いるポリアリーレンスルフィドとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマーあるいはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあげられる。
【0009】
【化1】

【0010】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマの主要構成単位として下記構造式で示されるポリ−p−フェニレンスルフィド単位を好ましくは92モル%より大きく、より好ましくは95モル%以上含む樹脂であることが好ましい。かかるポリ−p−フェニレンスルフィド単位が92モル%以下では、ポリマの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なう場合がある。
【0011】
【化2】

【0012】
繰り返し単位の、好ましくは8モル%未満であれば共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。このような繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基等の置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位、カーボネート単位などが具体例としてあげられ、このうち1つまたは2つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれの形態でも差し支えない。
【0013】
本発明で用いる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとは、上記ポリアリーレンスルフィドを80重量%以上、好ましくは90重量%以上含む樹脂組成物を、溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムであるポリアリーレンスルフィドの含有量が80重量%未満では、組成物としての結晶性が低下し、フィルムの耐熱性、熱寸法安定性、耐加水分解性などが損なわれる場合がある。該組成物中の20重量%未満はポリアリーレンスルフィド以外の他の熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0014】
ポリアリーレンスルフィド以外の熱可塑性樹脂は、例えば、ガラス転移温度が150℃以上かつ、ポリアリーレンスルフィドの融点以下であることが、本発明の熱成形性を得るために好ましい。ガラス転移温度は、より好ましくは、170℃以上、250℃以下、さらに好ましくは、190℃以上、230℃以下である。ガラス転移温度が150℃未満の場合、二軸配向ポリアリーレンスルフィドの耐熱性が損なわれる場合があり、ガラス転移温度がPPSの融点を超えると製膜性が悪化する場合がある。ガラス転移温度が150℃以上である熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン等の各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも一種を含むブレンド物を用いることができる。本発明では、ポリアリーレンスルフィドの混合性および本発明の効果発現の観点から、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンから少なくとも1種以上選ばれることが好ましく、特に、ポリエーテルイミドが好ましく用いられる。
【0015】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる他の熱可塑性樹脂として用いるポリエーテルイミドは、特に限定されないが、例えば、下記一般式で示されるように、ポリイミド構成成分にエーテル結合を含有する構造単位であるポリマを好ましく挙げることができる。
【0016】
【化3】

【0017】
ただし、上記式中R1は、2〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族または脂肪族基、脂環族基からなる群より選択された2価の有機基であり、R2は、前記Rと同様の2価の有機基である。
上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族基
【0018】
【化4】

【0019】
を挙げることができる。
【0020】
本発明では、ガラス転移温度が250℃以下のポリエーテルイミドを用いると本発明の効果を得やすく、ポリアリーレンスルフィドとの相溶性、溶融成形性等の観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましい。
【0021】
【化5】

【0022】
この構造単位を有するポリエーテルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商標名で、サビックイノベーティブプラスチックス社(旧ジーイープラスチックス)より入手可能である。例えば、m−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(前者の式)を有するポリエーテルイミドとして、“ウルテム1000”および“ウルテム1010”が挙げられる。また、p−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(後者の式)を有するポリエーテルイミドとして、“ウルテムCRS5000”が挙げられる。
【0023】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる他の熱可塑性樹脂の分散性向上観点から相溶化剤として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の基を有する化合物をポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂の合計100重量部に対し、0.1〜3重量部添加することが好ましい。
【0024】
かかる相溶化剤の具体例としては、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4‘−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2.2.5.5.−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0025】
また、その他エポキシ基を有するオレフィン共重合体も挙げられる。かかるエポキシ基を有するオレフィン共重合体(エポキシ基含有オレフィン共重合体)としては、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン共重合体が挙げられる。また、主鎖中に二重結合を有するオレフィン系重合体の二重結合部分をエポキシ化した共重合体も使用することができる。
【0026】
オレフィン系(共)重合体にエポキシ基を有する単量体成分を導入するための官能基含有成分の例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
これらエポキシ基含有成分を導入する方法は特に制限なく、α−オレフィンなどとともに共重合せしめたり、オレフィン(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0027】
エポキシ基を含有する単量体成分の導入量はエポキシ基含有オレフィン系共重合体の原料となる単量体全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが適当である。
【0028】
本発明で特に有用なエポキシ基含有オレフィン共重合体としては、α−オレフィンとα、β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合成分とするオレフィン系共重合体が好ましく挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル、スチレン、アクリロニトリル等を共重合することも可能である。またかかるオレフィン共重合体はランダム、交互、ブロック、グラフトいずれの共重合様式でも良い。
【0029】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを共重合してなるオレフィン共重合体は、中でも、α−オレフィン60〜99重量%とα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜40重量%を共重合してなるオレフィン共重合体が特に好ましい。上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。
【0030】
α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g―ポリスチレン、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−アクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体−g−PMMA、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。
【0031】
さらに、相溶化剤の具体例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0032】
上記のエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが本発明の相溶化剤として好ましく、中でも、イソシアネート基を有するアルコキシシランが熱可塑性樹脂を含む二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの分散相の分散不良による粗大分散物を低減しやすく、平均分散径を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなり、本発明の効果が得られやすくなるため最も好ましい。
【0033】
また、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂の間にシロキサン結合を形成しやすく、分散相の界面近傍にシロキサン結合が存在しやすい。TEM−EDX法などを用いて分散相の界面近傍にシリコン原子を検出することができる。本発明では、熱可塑性樹脂からなる分散相の界面にシロキサン結合に起因するシリコン(Si)原子を含むことが好ましい。
上記のエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有する相溶化剤の含有量は、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂の含有量の和を100重量部としたとき、0.05〜3重量部含むことが好ましく、より好ましくは、0.1〜1重量部であり、さらに好ましくは、0.2〜0.5重量部である。相溶化剤の含有量が0.05重量部未満の場合、熱可塑性樹脂の分散性が悪化して、本発明の加熱による破断伸度向上が得られない場合があり、相溶化剤の含有量が3重量部を超えると、製膜時に相溶化剤の未反応末端基の反応によりガスが発生する場合があり、製膜破れが頻発したり、フィルムの破断伸度が低下したりする場合がある。
熱可塑性樹脂の好ましい平均分散径は、50〜500nmであり、より好ましくは70〜300nmの範囲、さらに好ましくは100〜200nmの範囲である。平均分散径を上記の範囲とすることにより、耐熱性および成形性向上のバランスに優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることが可能となる。分散相の平均分散径が50nm未満であると、本発明の加熱成形性を十分に付与することができないことがある。また、平均分散径が500nmより大きいと、耐熱性が悪化したり、製膜延伸時にフィルム破れが発生したりすることがある。
【0034】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステルおよびワックスなどの有機滑剤など他の成分が添加されてもよい。また、フィルム表面に易滑性や耐磨耗性や耐スクラッチ性等を付与するために、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに、無機粒子や有機粒子などを添加することもできる。そのような添加物としては、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式または乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナおよびジルコニア等の無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子、ポリアリーレンスルフィドの重合反応時に添加する触媒等によって析出する、いわゆる内部粒子や、界面活性剤などが挙げられる。
【0035】
本発明の積層フィルムは、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムからなる。本発明で用いる共重合ポリアリーレンスルフィドとは、好ましくは80モル%以上92モル%以下が主成分としてポリ−p−フェニレンスルフィドユニットで構成されていることが好ましい。かかる主成分が80モル%未満では、フィルムの耐熱性低下が著しくなる場合があり、92モル%を超えると、界面接着性を十分高められず、熱成形性が十分でない場合がある。
【0036】
共重合単位としては、下記式に示すポリ−m−フェニレンスルフィド単位、
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0041】
【化9】

【0042】
【化10】

【0043】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複合の単位が存在してもかまわない。好ましい共重合単位は、ポリ−m−フェニレンスルフィド単位である。これらの単位の共重合量は、8モル%以上20モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以上18モル%以下である。かかる共重合成分が8モル%未満では、積層フィルムの界面接着性を十分高められず、熱成形性を十分高められない場合がある。20モル%を超えると、耐熱性の低下が著しくなる場合がある。
【0044】
本発明で用いられる共重合ポリアリーレンスルフィドの上記主成分と共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0045】
本発明においては、共重合ポリアリーレンスルフィドを構成する共重合体の繰り返し単位の残りの部分においては、さらに他の共重合可能な構成単位で構成されてもよいが、例えば、下記式に代表される3官能性フェニルスルフィドは、共重合体全体の1モル%以下であることが好ましい。
【0046】
【化11】

【0047】
本発明の共重合ポリアリーレンスルフィドの融点は、210℃以上260℃以下が好ましく、より好ましくは220℃以上260℃以下であり、さらに好ましくは、230℃以上260℃以下である。かかる共重合ポリアリーレンスルフィドの融点が210℃未満では、耐熱性の低下が著しくなる場合があり、260℃を超えると界面接着性を十分高められない場合があり、熱成形性が悪化する場合がある。共重合ポリアリーレンスルフィドの融点は、共重合成分のモル比によって適宜調製できる。
【0048】
本発明で用いる二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムとは、上記共重合ポリアリーレンスルフィドを80重量%以上、好ましくは90重量%以上含む樹脂組成物を溶融成形してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなるフィルムである。共重合ポリアリーレンスルフィドの含有量が80重量%未満では、界面接着性が損なわれる場合がある。該組成物中の20重量%未満は共重合ポリアリーレンスルフィド以外のポリマを含むことができる。共重合ポリアリーレンスルフィド以外のポリマは、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種ポリマおよびこれらのポリマの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。また,無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0049】
本発明の二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムの厚みが5μm未満の場合、界面接着性を十分得られない場合があり、50μmを超えると、積層フィルムの耐熱性が低下することがある。
【0050】
また、上記二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0051】
本発明の積層フィルムの積層構成は最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム(A層)であり、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルム(B層)からなり、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムが隣接する他は、特に限定されないが、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム(A層)/二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルム(B層)/二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム(A層)、A/B/A/B/Aのように積層してもかまわない。積層構成は適宜変更することができる。
【0052】
本発明の積層フィルムの厚みは、125μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以上400μm以下であり、さらに好ましくは250μm以上350μm以下である。厚みが125μm未満の場合、モータ絶縁フィルムとしての電気絶縁性が十分でない場合があり、厚みが500μmを超えると積層フィルムのラミネート加工性が低下する場合があり、界面接着性が低下し、熱成形性が悪化する場合がある。
【0053】
本発明の積層フィルムは、積層フィルムを構成する各層が二軸配向していることが必要である。各層の配向は、レーザーラマン分光法により積層フィルム断面を測定することにより求めることができる。二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムが配向しているとは、レーザーラマン分光により得られる配向パラメータが、2.0〜8.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは、2.5〜6.0である。配向パラメータが8.0を超えると、分子鎖配向が進み過ぎたり、結晶化が進行しすぎたりして、フィルムの加工時や使用時に破損したり、実用上使用に耐えない場合がある。また、配向パラメータが2.0未満の場合、分子鎖配向が不十分であったり、結晶化の進行が不十分であったりして、構造体の耐熱性が低下する場合がある。一方、二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムが配向しているとは、レーザーラマン分光により得られる配向パラメータが1.3以上であれば配向しているものと言うことができる。
【0054】
二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムの配向パラメータを上記範囲とするためには、例えば、縦延伸における延伸温度や延伸倍率、横延伸前の予熱温度、横延伸における延伸温度や延伸倍率、さらに、延伸後の熱固定温度を本発明の好ましい範囲にすることにより得ることが可能となる。
【0055】
上記レーザーラマン分光による測定方法は特に限定されないが、例えば、レーザーラマン装置(PDP320(フォトンデザイン社製))を用い、マイクロプロ−ブ対物レンズ100倍、対物レンズは、近赤外域(1064〜1300nm)に透過性を有し、NA0.95、色収差補正されているものを使用することができる。クロススリット1mm、スポット径1μm、光源Nd−YAG(波長1064nm、出力:1W)、回折格子 Spectrograph300g/mm、スリット:100μm、検出器InGaAs(Roper Scientific 512)が好ましく用いられる。
【0056】
測定に用いるフィルムは、サンプリングしてエポキシ樹脂に包埋後、ミクロト−ムでフィルム 断面を作製した。フィルム断面がフィルム長手方向または幅方向に平行なものを調整し、各試料の中央点を測定点として、長手方向および幅方向のそれぞれに対して5個の試料を測定して平均値を算出した。測定は、入射光の偏光方向に平行な偏光方向に配置した偏光子を通して検出し、試料を回転させ、レーザー光の偏光方向に対して、フィルム面に平行な偏光方向と垂直な偏光方向をでスペクトルを得た。配向パラメータは、下記式により算出した。
(配向パラメータ)=(I1575/I740)(平行)/(I1575/I740)(垂直)
I1575/I740(平行):フィルム面に平行な偏光方向で測定したラマンスペクトルにおいて、1575cm−1付近のラマンバンドを740cm−1付近のラマンバンド強度で除したもの。
I1575/I740(垂直):フィルム面に垂直な偏光方向で測定したラマンスペクトルにおいて、1575cm−1付近のラマンバンドを740cm−1付近のラマンバンド強度で除したもの。
【0057】
本発明の積層フィルムの室温における破断伸度は、100%以上160%以下であることが本発明の加工性を得るために好ましい。より好ましくは120%以上160%以下であり、さらに好ましくは130%以上160%以下である。室温の破断伸度が100%未満の場合、モータ加工工程でフィルム割れが発生する場合があり、金型成型、あるいは真空圧空成型などの熱成型でフィルム割れが発生する場合がある。破断伸度の上限は特に設けないが160%を超えるとフィルムの強度が低下し、フィルムの耐熱性が低下する場合がある。本発明の積層フィルムの室温の破断伸度とは、フィルム長手方向および幅方向の平均の破断伸度である。本発明の積層フィルムの室温の破断伸度を上記範囲とするためには、積層前の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムを本願規定の延伸倍率および熱処理条件により製膜し、得られた二軸配向フィルムを本願規定のラミネート条件により熱ラミネートし、積層フィルム中のボイドを本願規定の範囲とすることで得ることが可能となる。
【0058】
また、本発明の積層フィルムの200℃における破断伸度は、120%以上、200%以下であることが好ましく、より好ましくは130%以上、200%以下、さらに好ましくは150%以上、200%以下である。200℃における破断伸度が120%未満の場合、金型成型、あるいは真空圧空成型などの熱成型でフィルム割れが発生する場合があり、また、200℃の破断伸度が200%を超えるフィルムを得るためには、延伸工程において延伸倍率を低下する必要があるが、フィルム平面性が悪化したり、フィルムの耐熱性が不十分となる場合がある。本発明の積層フィルムの200℃の破断伸度とは、フィルム長手方向および幅方向の平均の破断伸度である。本発明の積層フィルムの200℃の破断伸度を上記範囲とするためには、積層前の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムを本願規定の延伸倍率および熱処理条件により製膜し、得られた二軸配向フィルムを本願規定のラミネート条件により熱ラミネートし、積層フィルム中のボイドを本願規定の範囲とすることで得ることが可能となる。また、ポリアリーレンスルフィド中に他の熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミドを添加すると200℃の破断伸度が向上するため好ましく用いられる。
【0059】
本発明の積層フィルムは、上記室温破断伸度(Er)と200℃破断伸度(E200)の比(E200/Er)が1以上1.5以下であることが本発明の熱成形性を発現する上で最も重要である。より好ましい比は、1.1以上1.5以下であり、さらに好ましくは、1.2以上1.5以下である。E200/Erの比が1未満の場合、本発明の熱成形性を向上できない場合があり、E200/Erの比が1.5を超えることは実質的に困難である。E200/Erの比を上記範囲とするためには、積層前の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムを本願規定の延伸倍率および熱処理条件により製膜し、得られた二軸配向フィルムを本願規定のラミネート条件により熱ラミネートし、積層フィルム中のボイドを本願規定の範囲とすることで得ることが可能となる。また、ポリアリーレンスルフィド中に他の熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミドを添加することが好ましく用いられる。
【0060】
本発明の積層フィルムは、積層フィルム中に1.5μm以上のボイドが存在しないことが好ましい。積層フィルム中のボイドの測定方法は特に限定はないが、光学顕微鏡の透過法により観察することができる。観察倍率は特に限定されないが、50倍から200倍で観察することができる。積層フィルム中のボイドは、より好ましくは1.0μm以上のボイドが存在しないことが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以上のボイドが存在しないことが好ましい。積層フィルム中に1.5μm以上のボイドが存在する場合、積層フィルムの室温破断伸度が積層前の二軸配向フィルムの室温破断伸度より低下する場合があり、また、積層フィルムの200℃破断伸度が室温破断伸度より低下する場合がある。積層フィルム中のボイドを上記範囲とするためには、積層前の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムおよび二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムを本願規定の延伸倍率および熱処理条件により製膜し、本願規定のラミネート条件により得ることが可能となる。
【0061】
本発明の積層フィルムを積層する方法は、特に限定されないが、接着剤を介することなく積層する方法、あるいは接着剤を介して積層する方法を用いることができる。熱成形性の観点から接着剤を介することなく積層する方法が好ましい。接着剤を介することなく積層する具体的方法としては、熱融着による熱ラミネート法が好ましく用いられる。熱ラミネートの方法は特に限定されないが、プロセス性の点から加熱ロールによる熱ラミネートが特に好ましい。
【0062】
本発明の積層フィルムの用途は、特に限定されないが、ハイブリッド自動車などに使用される駆動用モータやエアコンコンプレッサーモータ、あるいは、給湯器モータなどの各種モータ絶縁材料、金型成型、真空成型、真空圧空成型、インモールド成型など各種熱成形材料用として好適である。
【0063】
次いで、本発明の積層フィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィドとしてポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略記する場合がある)を用い、共重合ポリアリーレンスルフィドとしてPPSに少量のm−フェニレンスルフィド単位を共重合させたポリ−m−フェニレンスルフィド樹脂(以下m−PPS樹脂と略記する場合がある)を用いた場合の積層フィルムの製造を例にとって説明するが、本発明は、下記の記載に限定されないことは無論である。
【0064】
PPS樹脂の製造方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンを、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で高温高圧下で反応させる。必要によって、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることもできる。重合度調整剤として、苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し、230〜280℃の温度で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃の温度で10〜60分間攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃の温度で数回洗浄、乾燥してPPS粒状ポリマを得る。得られた粒状ポリマを、酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃の温度のイオン交換水で数回洗浄し、副生塩、重合助剤および未反応モノマ等を分離する。上記に得られたポリマに必要に応じて、無機または有機の添加剤等を本発明の目的に支障を与えない程度添加し、PPS樹脂を得る。
【0065】
m−PPS樹脂の製造方法としては、例えば、次のような方法がある。硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンおよび副成分モノマを本発明でいう比率で配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で重合助剤の存在下、高温高圧下で反応させる。副成分モノマとしては、
【0066】
【化12】

【0067】
【化13】

【0068】
【化14】

【0069】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO単位を示す。)
【0070】
【化15】

【0071】
【化16】

【0072】
(ここでRは、アルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、これらの複数の副成分モノマが存在してもかまわない。好ましい副成分モノマは、化14である。
【0073】
【化17】

【0074】
次に、本発明の積層フィルムの製造方法について説明する。上記のPPS樹脂単体か、m−PPS樹脂を用いる場合には、PPS樹脂とm−PPS樹脂を別々の溶融押出装置に供給し、個々の原料の融点以上に加熱する。加熱により溶融された各原料は、溶融押出装置と口金出口の間に設けられた合流装置で溶融状態で単層、または2層あるいは3層に積層され、スリット状の口金出口から押し出される。かかる溶融積層体を冷却ドラム上でPPSのガラス転移点以下に冷却し、実質的に非晶状態の単層、または2層あるいは3層積層シートを得る。積層構成は特に限定されないが、2層積層の場合、PPS層/m−PPS層の2層積層が好ましく、3層積層の場合、m−PPS層/PPS層/m−PPS層の3層積層が好ましい。溶融押出装置は周知の装置が適用可能であるが、1軸または2軸のエクストルーダが簡便であり好ましく用いられる。
【0075】
次いで、このようにして得られた非晶状態の単層、または2層あるいは3層積層シートを、PPSのガラス転移点以上冷結晶化温度以下の範囲で、従来公知の逐次二軸延伸機や同時二軸延伸機により二軸延伸した後、240〜280℃の範囲の温度で熱処理を行い二軸配向フィルムを得る。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。まず、未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に3〜4倍、好ましくは3.0〜3.8倍、さらに好ましくは、3.0〜3.7倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+40)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃の範囲である。ここで、Tgとはポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度を表すが、積層フィルムの場合、Tgが高いポリフェニレンスルフィドのTgに合わせて上記範囲で延伸することが好ましい。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0076】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜(Tg+40)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃の範囲である。ここで、Tgとは上記同様ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度を表すが、積層フィルムの場合、Tgが高いポリフェニレンスルフィドのTgに合わせて上記範囲で延伸することが好ましい。延伸倍率は破断伸度を向上させる観点から3〜4倍、好ましくは3.0〜3.6倍、さらに好ましくは3.0〜3.5倍の範囲であり、面積倍率(MD方向の倍率とTD方向の倍率の積)14倍以下が好ましく、13.5倍以下がより好ましく、13倍以下が更に好ましい。
【0077】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する。1段熱固定の場合の好ましい熱固定温度は240〜280℃であり、熱固定工程と緩和処理工程の合計時間は1〜60秒、好ましくは5〜30秒である。より好ましい熱処理は多段熱固定である。この場合、1段目の熱固定温度は160〜220℃、好ましくは180〜220℃であり、処理時間は1〜30秒、好ましくは1〜15秒である。続いて行う2段熱固定の最高温度は240〜280℃、好ましくは、260〜280℃である。さらにこのフィルムを240〜280℃、より好ましく260〜280℃で幅方向に弛緩処理する。弛緩率は、0.1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%の範囲である。240℃以上の2段熱固定および弛緩処理の合計時間は1〜60秒が好ましく、さらに好ましくは5〜30秒である。さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向フィルムを得る。
【0078】
上記方法で得られた二軸配向フィルムは、例えば、二軸配向PPSフィルム/二軸配向m−PPSフィルムの二軸配向2層積層フィルムの2枚をm−PPS層が内側にくるように配置し、熱ラミネートを行い(PPS層/m−PPS層)/(m−PPS層/PPS層)の積層フィルムを得る。また、上記二軸配向2層積層フィルムと二軸配向PPS単膜フィルムを(PPS層/m−PPS層)/PPS層のように積層フィルムとすることもできる。さらに、(PPS層/m−PPS層)/PPS層/(m−PPS層/PPS層)と積層することもできる。また、m−PPS層/PPS層/m−PPS層の二軸配向3層積層フィルムを作製し、二軸配向PPS単膜フィルムとPPS層/(m−PPS層/PPS層/m−PPS層)/PPS層の5層積層フィルムとすることもできる。製膜における安定性およびラミネートにおける平面性向上の観点から(PPS層/m−PPS層)/PPS層/(m−PPS層/PPS層)の積層構成が好ましい。勿論、積層構成はこれらに限定されるものではない。
【0079】
本発明において、二軸配向フィルムの積層方法としては、例えば、高温高圧下で熱ラミネートする方法が好ましい。ラミネート温度は、好ましくは230〜260℃、より好ましくは235〜255℃、さらに好ましくは240〜250℃である。ここでいうラミネート温度とは、金属ロールの表面温度であり、非接触式温度計あるいは接触式温度計で測定することができる。金属ロール表面温度が230℃未満の場合、積層フィルムの界面接着性が十分高められない場合があり、本願発明の高温破断伸度が低下する場合がある。一方、金属ロール表面温度が260℃を超えると、ラミネートの際、二軸配向フィルムの熱収縮による皺発生が大きくなり、平面性に優れた積層フィルムが得られない場合がある。また、ニップロールは、特に限定はないが、金属ロール、セラミックロール、ゴム材質ロールなどを用いることができ、ロール幅方向の均一な圧力負荷の観点からゴム材質ロールが好ましく、フッ素ゴム、シリコンゴムなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、ニップロールは、加熱することが本発明の熱成形性を発現するために好ましく、ロール表面温度は、好ましくは180℃〜240℃であり、より好ましくは、190℃〜240℃であり、さらに好ましくは、200℃〜240℃である。ニップロールの表面温度が180℃未満の場合、積層フィルムの界面接着性が十分高められない場合があり、本願発明の高温破断伸度が低下する場合がある。一方、ニップロール表面温度が240℃を超えることは、量産設備において、ニップロール表面に用いるゴム材質の接着剤の耐熱性の観点から使用が困難である。ラミネート圧力は、好ましくは面圧が1〜20kg/cm、より好ましくは5〜20kg/cmであり、さらに好ましくは、10〜20kg/cmであることが本発明の熱成形性を得るために好ましい。二軸配向フィルムの積層方法は、特に限定はないが、二軸配向PPSフィルム/二軸配向m−PPSフィルムの二軸配向2層積層フィルムのPPS層側を最外層にくるように金属ロール、ニップロールに設置し、金属ロール側の二軸配向2層積層フィルムを金属ロールに抱かせた後ラミネートすることが本願発明のボイド低減の観点から好ましい。本発明においては、最外層が二軸配向PPSフィルムであることが熱ラミネートの生産性向上の観点から重量であり、二軸配向m−PPSフィルムが最外層の場合、金属ロールに熱融着し、生産性が悪化する場合がある。金属ロールに抱かせる角度としては、10〜180度が好ましく、より好ましくは30〜150度、さらに好ましくは、60〜120度である。PPS層/m−PPS層の2層積層二軸配向フィルムをラミネート前に金属ロールに抱かせることで、フィルムの熱収縮による皺がラミネート前に解消することが可能となり、本願規定のボイド抑制を達成することが可能となる。また、ニップロール側のPPS層/m−PPS層の二軸配向2層積層フィルムについてもあらかじめ予熱したのちラミネートすることが、界面の接着性向上の観点から好ましく、ニップロールに抱かせる角度としては、50〜180度が好ましく、より好ましくは60〜180度であり、さらに好ましくは、90〜180度である。
【0080】
ラミネート速度は、0.1〜10m/分、好ましくは0.5〜5m/分、より好ましくは1〜7m/分、さらに好ましくは3〜5m/分であることが、本発明の界面接着性および生産性の観点から好ましい。ラミネートは、PPSのガラス転移点以下で直ちに冷却することが、ラミネートフィルムの平面性と界面接着性および破断伸度の維持の点から好ましい態様である。
【0081】
本発明で用いられる二軸配向m−PPSフィルムおよび二軸配向PPSフィルムは、界面接着性向上の観点から、接着層側にコロナ放電処理やプラズマ処理を施すことも本発明の好ましい態様に含まれる。コロナ放電処理時の雰囲気ガスとしては、空気(EC処理)、酸素(OE処理)、窒素(NE処理)、炭酸ガス(CE処理)等から選ばれる少なくとも1種のガスが挙げられる。これらのうち、経済性の観点からはEC処理を用いることが好ましく、接着性向上の観点からはNE処理、またはCE処理で表面処理することが好ましく、本発明においてはNE処理で表面処理することが接着性向上の観点からより好ましい。また本発明においては、本発明の効果を妨げない限り、必要に応じて他のシート層、不織布などを積層することができる。
【0082】
また、本発明においては、積層フィルムの取り扱い性および加工性を向上させるために、各層に不活性粒子を添加することができる。ここで言う不活性粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンおよび酸化亜鉛などの無機フィラーおよび300℃で溶融しない有機の高分子化合物(例えば、架橋ポリスチレン等)の粒子等を挙げることができる。
[特性の測定方法]
(1)室温および200℃破断伸度
ASTM−D882に規定された次の方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック社製AMF/RTA-100)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃あるいは200℃の温度で引張速度300mm/分で引張試験を行う。破断伸度は、フィルム長手方向n=5の平均値、幅方向n=5の平均値を算出し、得られた長手方向平均値と幅方向平均値の平均値を用いる。
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×長さ100mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:室温、200℃。
【0083】
(2)積層フィルムのボイド観察
サンプルを任意に10cm角、n=30個に切断し、光学顕微鏡の透過法で積層フィルム中のボイドの有無を下記基準により判定した。なお、後述する実施例、比較例では50倍の倍率で観察した。
◎:0.5μm以上のボイドが存在しない
○:1μm以上のボイドが存在しない
△:1.5μm以上のボイドが存在しない
×:1.5μm以上のボイドが存在する。
【0084】
(3)加熱成形性
真空圧空成型機(浅野製作所社製)を用い、資料を幅22cm、長さ30cm(A4版サイズ)に切断し、シート温度255℃になるよう予熱し、φ20mm、高さ10mmの円柱金型で加熱成形し、目視でフィルム割れの発生の有無を下記基準により判定した。なお、加工個数は各試料100枚成型を行った。
◎:不良率が5%未満
○:不良率が5%を超え10%以下
△:不良率が10%を超え20%以下
×:不良率が20%を超える。
【0085】
(4)溶融粘度
フローテスターCFT−500(島津製作所製)を用いて、口金長さを10mm、口金径を1.0mmとして、予熱時間を5分に設定して、310℃で測定した。
剪断速度1000/sでの溶融粘度は、剪断速度500〜1000/sおよび1000〜2000/sでの溶融粘度をそれぞれn=2で測定し、両対数プロット上で直線近似して得られる相関線の剪断速度1000/sでの値とした。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
(1)m−PPS樹脂の製造
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する。)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして91モルのp−ジクロベンゼン、副成分モノマとして10モルのm−ジクロロベンゼン、および0.2モルの1,2,4−トリクロルベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃の温度にて乾燥して、溶融粘度が1000ポイズであり、融点が250℃のメタ体共重合PPS樹脂を得た。次いで、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量%を添加し均一に分散配合して、320℃の温度にて30mmφ2軸押出機によりガット状に押出し、m−PPSのペレットを得た。
【0087】
(2)PPS樹脂の製造
主成分モノマとして101モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマを用いないこと以外は全て上記(1)のm−PPSの製造と同様に実施して、PPS樹脂を製造した。なお、PPS樹脂の溶融粘度は、3000ポイズであり、融点は283℃であった。
【0088】
(3)製膜
前記(1)および(2)で得られたm−PPS樹脂およびPPS樹脂を、それぞれ180℃の温度で3時間、1mmHgの減圧下で乾燥後、別々のエクストルーダに供給し、溶融状態で口金上部にある二重管型の積層装置で2層になるように導き、続いて設けられたTダイ型口金から吐出させ、25℃の温度の冷却ドラムで急冷し、実質的にm−PPS層/PPS層の2層積層シートを得た。次いで、得られた積層シートを、表面温度95℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.7倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向に100℃の温度で3.5倍(面積延伸倍率12.95倍)に延伸し、続いて温度200℃で10秒間熱処理(1段熱固定)を行い、続いて260℃、10秒間熱処理(2段熱固定)を行い、引き続き、260℃の弛緩処理ゾーンで10秒間横方向に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、m−PPS/PPS(15/60μm)の二軸配向2層積層フィルム(A)を得た。また、PPS樹脂単体を上記製膜条件により別途製膜、熱処理して厚み100μmの二軸配向PPS単膜フィルム(B)を得た。
【0089】
(4)積層
上記製膜方法で得られた二軸配向2層積層フィルム(A)および二軸配向PPS単膜フィルム(B)を、A/B/Aのようにm−PPS層が内側になるように熱ラミネートした。ラミネート条件は、加熱ロールとして金属ロール(HCrロール)をロール表面温度が240℃となるよう加熱し、ニップロールはフッ素ゴムロールを用いてロール表面温度が200℃となるよう加熱した。また、ラミネート圧は、20kg/cm、ラミネート速度は、1m/分の条件で行った。二軸配向2層積層フィルム(A)の抱き角は、金属ロール側60度、ニップロール側90度とし、中央層の二軸配向PPS単膜フィルムは金属ロールに30度抱かせて挿入した。ラミネート後は直ちに冷却して巻き取った。上記のようにして得られた厚み250μmの5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2)
実施例1で金属ロールの温度を235℃とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
実施例1で金属ロールの温度を230℃とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
実施例1でラミネート速度を3m/分とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
実施例1でラミネート速度を5m/分とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0094】
(実施例6)
実施例1で金属ロールの抱き角を30度とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0095】
(実施例7)
実施例1で金属ロールの抱き角を10度とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0096】
(実施例8)
実施例1で用いた二軸配向2層積層フィルムおよび二軸配向単膜フィルムの延伸倍率を3.8×3.5倍(面積延伸倍率13.3倍)とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0097】
(実施例9)
実施例1で用いた二軸配向2層積層フィルムおよび二軸配向単膜フィルムの延伸倍率を3.9×3.5倍(面積延伸倍率13.65倍)とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0098】
(実施例10)
実施例1で作製したPPS樹脂95重量部とポリエーテルイミド樹脂(ジーイープラスチック社製 “ウルテム1010”(登録商標)(PEI)5重量部を120℃で3時間減圧乾燥し、さらにPPS樹脂とPEI樹脂の合計100重量部に対して、相溶化剤としてγ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”(登録商標)0.5重量部を配合後、310℃に加熱された、ニーディングパドル混練部を5箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてPPS樹脂/PEI(95/5重量%)のPPS樹脂組成物を得た。
【0099】
上記PPS樹脂組成物および実施例1で用いたm−PPS樹脂を、それぞれ180℃の温度で3時間、1mmHgの減圧下で乾燥後、別々のエクストルーダに供給し、溶融状態で口金上部にある二重管型の積層装置で2層になるように導き、続いて設けられたTダイ型口金から吐出させ、25℃の温度の冷却ドラムで急冷し、実質的にm−PPS/PPS樹脂組成物の2層積層シートを得た。次いで、積層シートを、表面温度115℃の複数の加熱ロールに接触走行させ、加熱ロールの次に設けられた周速の異なる30℃の冷却ロールとの間で長手方向に3.0倍延伸した。このようにして得られた1軸延伸シートを、テンターを用いて長手方向と直交方向に125℃の温度で3.5倍(面積延伸倍率10.5倍)に延伸し、続いて温度200℃で10秒間熱処理(1段熱固定)を行い、続いて260℃10秒間熱処理(2段熱固定)を行い、引き続き、260℃の弛緩処理ゾーンで10秒間横方向に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、m−PPS/PPS樹脂組成物(15/60μm)の二軸配向2層積層フィルムを得た。また、PPS樹脂組成物単体を上記製膜条件により別途製膜、熱処理して厚み100μmの二軸配向単膜フィルムを得た。
【0100】
得られた二軸配向2層積層フィルムおよび二軸配向単膜フィルムは、実施例1と同様に熱ラミネートし5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
(実施例11)
実施例10で用いた二軸配向2層積層フィルムおよび二軸配向単膜フィルムの延伸倍率を3.2×3.5倍(面積延伸倍率11.2倍)とする以外は、実施例10と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
実施例1で金属ロールの温度を200℃、ニップロール温度を150℃とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
(比較例2)
実施例1で金属ロールの抱き角を5度とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
(比較例3)
実施例1でラミネート速度を7m/分とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
(比較例4)
実施例1で用いた二軸配向2層積層フィルムおよび二軸配向単膜フィルムの延伸倍率を4.2×3.6倍(面積延伸倍率15.12倍)とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0106】
(比較例5)
実施例1で1段目の熱固定を260℃、10秒、2段目の熱固定を260℃、10秒、弛緩処理を260℃、10秒とする以外は、実施例1と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
(比較例6)
実施例11で1段目の熱固定を260℃、10秒、2段目の熱固定を260℃、10秒、弛緩処理を260℃、10秒とする以外は、実施例10と同様にして5層積層フィルムを製作した。得られた5層積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の積層フィルムは、成形性、特に熱成形性に優れた積層フィルムであり、現在自動車メーカーで開発が進んでいるハイブリッド自動車などに使用される駆動用モータやエアコンコンプレッサーモータ、あるいは、給湯器モータなどの各種モータ絶縁成形材に好適であり、さらには、金型成型や真空成型、真空圧空成型、インモールド成型など熱成形用部材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層が二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムからなる積層フィルムであって、最外層以外の少なくとも1層が二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムからなり、最外層の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと二軸配向共重合ポリアリーレンスルフィドフィルムが隣接し、積層フィルムの室温破断伸度(Er)と200℃破断伸度(E200)が下記式を満足する積層フィルム。
1≦E200/Er≦1.5
【請求項2】
積層フィルム内に1.5μm以上のボイドが存在しないことを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
最外層のポリアリーレンスルフィドがポリ−p−フェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
共重合ポリアリーレンスルフィドが共重合ポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルムを構成する二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの二軸延伸後の熱固定を2段以上の異なる温度で行う積層フィルムの製造方法であって、その1段目の熱固定の温度が160℃以上、220℃以下、2段目以降に行う熱固定の最高温度が240℃以上、280℃以下である積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
240℃以上の熱固定工程およびさらに行う緩和処理工程の合計時間が1秒以上、60秒以下である請求項5に記載の積層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−274411(P2009−274411A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130457(P2008−130457)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】