説明

積層体、及び積層体を用いたモールドの製造方法

【課題】パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成を実現できる積層体、及び、積層体を用いたモールドの製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明の積層体1は、基材11と、基材11上に設けられ、熱反応型レジストを含有するレジスト層12と、レジスト層12上に設けられる少なくとも1層の熱伝導層13と、を具備し、熱伝導層13は、300Kにおける熱伝導率が、0.7W/m・K以上であり、且つ、露光波長における消衰係数が0.2以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細パターンの形成に用いられる積層体に関し、例えば、熱反応型レジストを含有するレジスト層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、光学・磁気記録等の分野において高密度化、高集積化等の要求が高まるにつれ、数百nm〜数十nm程度以下の微細パターン加工技術が必須となっている。そこで、これら微細パターン加工を実現するためにマスク・ステッパー、露光、レジスト材料等の各工程の要素技術が盛んに研究されている。
【0003】
例えば、マスク・ステッパーの工程においては、位相シフトマスクと呼ばれる特殊なマスクを用い、光に位相差を与え、干渉の効果により 微細パターン加工精度を高める技術や、ステッパー用レンズとウエハーとの間に液体を充填し、レンズを通過した光を大きく屈折させることにより、微細パターン加工を可能にする液浸技術などが検討されている。しかしながら、前者ではマスク開発に莫大なコストが必要なことや、後者では高価な装置が必要になることなど製造コストの削減は非常に困難である。
【0004】
一方、レジスト材料においても多くの検討が進められている。現在、最も一般的なレジスト材料は、紫外光、電子線、X線などの露光光源に反応する光反応型有機レジスト(以下、「フォトレジスト」ともいう。)である(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0005】
露光に用いられるレーザー光において、通常レンズで絞り込まれたレーザー光の強度は、図2に示すようなガウス分布形状を示す。このときスポット径は1/eで定義される。一般的にフォトレジストの反応は、E=hν(E:エネルギー、h:プランク定数、ν:波長)で表されるエネルギーを吸収することよって反応が開始される。したがって、その反応は、光の強度には強く依存せず、むしろ光の波長に依存するため、光の照射された部分(露光部分)は、ほぼ全て反応が生じることになる。このため、フォトレジストを使った場合は、スポット径に対して忠実に露光されることになる。
【0006】
光反応型有機レジストを用いる方法は、数百nm程度の微細なパターンを形成するには非常に有効な方法ではあるが、光反応を用いたフォトレジストを用いるため、さらに微細なパターンを形成するには、原理的に必要とされるパターンより小さなスポットで露光する必要がある。したがって、露光光源として波長が短いKrFやArFレーザー等を使用せざるを得ない。しかしながら、これらの光源装置は非常に大型でかつ高価なため、製造コスト削減の観点からは不向きである。また、電子線、X線等の露光光源を用いる場合は、露光雰囲気を真空状態にする必要があるため、真空チェンバーを使用する必要があり、コストや大型化の観点からかなりの制限がある。
【0007】
一方、図2で示すような分布を持つレーザー光を物体に照射すると、物体の温度もレーザー光の強度分布と同じガウス分布を示す(図3参照)。このとき、ある温度以上で反応(熱的変質)するレジストである熱反応型レジストを使うと、図3に示すように、所定温度以上になった部分のみ反応が進むため、スポット径より小さな範囲を露光することが可能となる。すなわち、露光光源を短波長化することなく、スポット径よりも微細なパターンを形成することが 可能となるので、熱反応型レジストを使うことにより、露光光源波長の影響を小さくすることができる。
【0008】
光記録分野においては、WOx、MoOx、その他カルコゲナイドガラス(Ag−As−S系)などを熱反応型レジストとして用い、半導体レーザーや波長476nmレーザーで露光して微細パターンを形成する技術が提案されている(特許文献2、非特許文献2参照)。これら光記録分野で用いられる光ディスクとは、熱反応型レジストが塗布されたディスクにレーザーを照射して、ディスク表面に設けられた微細な凹凸に記録された情報を読み取るメディアの総称である。光ディスクは、トラックピッチと呼ばれる記録単位の間隔が狭いほど、記録密度が向上し、面積ごとに記録できるデータ容量が増加する。そのため、記録密度を向上させるためにレジスト材料による微細な凹凸パターンの加工技術の研究が行われている。
【0009】
これまでに、レジスト層の下層として熱伝導率の低い非レジスト層を設け、この非レジスト層に断熱層の役割を担わせることで、熱吸収効率を上げ、効率よく熱反応型レジストの露光を行う方法(特許文献3参照)や、レジスト層の下層としてレジスト層への露光の反射を抑制する反射防止構造層を設けることで、レジスト特性を向上させる方法(特許文献4参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−144995号公報
【特許文献2】特開2007−315988号公報
【特許文献3】特開2005−332452号公報
【特許文献4】特開平04−330709号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】(株)情報機構 発刊 「最新レジスト材料」 P.59−P.76
【非特許文献2】SPIE Vol.3424 (1998) P.20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3及び特許文献4記載のレジスト材料においては、レジスト層の下層として、断熱層としての非レジスト層や、レジスト層への光の反射を防止する反射防止構造層を設けることにより、熱反応型レジストの熱吸収効率やレジスト特性を向上している。しかしながら、これらの構成においては、パターンピッチの微細化や、均一なパターン形状( パターンの幅やライン形状)の形成に限界があった。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成を実現できる積層体、及び積層体を用いたモールドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる課題を解決すべき鋭意検討し実験を重ねた結果、300Kにおける熱伝導率が1.0W/m・K以上であり、且つ露光波長において消衰係数が0.2以下である熱伝導材料を、熱伝導・光透過型の熱伝導層としてレジスト層の上層に設けて積層体を形成することにより、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のとおりである
【0015】
本発明の積層体は、基材と、前記基材上に設けられ、熱反応型レジストを含有するレジスト層と、前記レジスト層上に設けられる少なくとも1層の熱伝導層とを具備し、前記熱伝導層は、300Kにおける熱伝導率が0.7W/m・K以上であり、且つ、露光波長における消衰係数が0.2以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の積層体においては、前記熱伝導層が、無機化合物を含有することが好ましい。
【0017】
本発明の積層体においては、前記熱伝導層が、酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、及びセレン化物からなる化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。
【0018】
本発明の積層体においては、前記熱伝導層が、酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化錫、酸化錫ドープ酸化インジウム、酸化アルミドープ酸化亜鉛、酸化ガリウムドープ酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、窒化シリコン、酸化アルミ、窒化アルミニウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化 銅、酸化鉄、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化アンチモン、酸化チタンからなる化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。
【0019】
本発明の積層体においては、前記熱伝導層の膜厚が、1nm以上、50nm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の積層体においては、前記基材が、平板状基材、円筒状基材、又はレンズ状基材のいずれかであることが好ましい。
【0021】
本発明の積層体においては、前記レジスト層と前記基材との間に設けられるエッチング層を有することが好ましい。
【0022】
本発明のモールドの製造方法は、上記積層体を用いたモールドの製造方法であって、前記積層体の前記レジスト層をレーザーで露光後、前記熱伝導層を剥離し、前記レジスト層を現像する現像工程と、現像した前記レジスト層をマスクとして、フロン系ガスで前記基材をドライエッチングする エッチング工程と、前記レジスト層を除去する除去工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
本発明のモールドの製造方法は、上記積層体を用いたモールドの製造方法であって、前記積層体を形成する前記レジスト層をレーザーで露光後、前記熱伝導層を剥離し、前記レジスト層を現像する現像工程と、現像した前記レジスト層をマスクとして、フロン系ガスで前記エッチング層をドライエッチングするエッチング工程と、前記レジスト層を除去する除去工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
本発明のモールドの製造方法においては、前記積層体は、スパッタリング法、蒸着法、CVD法のいずれかを用いて得られたことが好ましい。
【0025】
本発明のモールドは、上記モールドの製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0026】
本発明のモールドにおいては、1nm以上、1μm以下の微細パターンを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成を実現できる積層体、及び積層体を用いたモールドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る積層体の断面模式図である。
【図2】レーザー光の強度分布を示した図である。
【図3】レーザー光を照射された部分の温度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
熱反応型レジストが用いられる光記録分野においては、更なる記録密度の向上のため、熱反応型レジストへの微細凹凸パターンの加工技術の研究が行われている。熱反応型レジストにおいては、露光によって温度が上昇した露光部に何らかの熱的変質が生じ、熱的変質した露光部と未変質の未露光部との間に差異が生じる。このため、現像工程を経ることにより(露光により、熱反応レジストが蒸発、昇華等するアブフレーション型の場合は、現像工程は不要)、露光に用いるレーザー光等の波長以下の露光パターンに応じた微細凹凸パターンの形成が可能となる。
【0030】
しかしながら、上記熱反応型レジストを用いた微細凹凸パターン形成においては、露光工程において、露光によって温度が上昇した露光部から未露光部への熱干渉がある程度は避けることができない。この熱干渉により、露光部と未露光部の境界が不鮮明になり、パターンピッチの微細化の妨げになること、及びパターンの形状が不均一になることがある。
【0031】
本発明者らは、熱反応型レジストにおける熱干渉が、熱反応型レジストを含有するレジスト層の表面と接触する空気層を介して生じることに着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、熱反応型レジストを含むレジスト層の上層として、熱伝導・光透過型の熱伝導層(以下、単に「熱伝導層」という)を設けることにより、この熱伝導層を介してレジスト層の露光部から未露光部への熱伝導を制御でき、露光部から未露光部への熱干渉を低減できることを見出した。さらに、本発明者らは、熱伝導層の熱伝導率を空気層とは異なる所定の熱伝導率に設定すると共に、熱伝導層の光透過性について所定の消衰係数に設定することにより、熱伝導層をレジスト層の上層として設けた場合であっても、レジスト層の露光特性を損なうことがなく、熱伝導層の熱伝導率に応じて露光部から未露光部への熱の流れを適切に制御して、パターンピッチの微細化や、均一なパターン形状(パターン幅や、ライン形状が均一)の形成が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る積層体の断面模式図である。図1(a)に示すように、本発明に係る積層体1は、基材11と、この基材11上に設けられた熱反応型レジストを含有するレジスト層12と、このレジスト層12上に設けられた少なくとも1層の熱伝導層13とを備える。熱伝導層13は、光透過性を有する熱伝導材料を含有し、所定の熱伝導率及び所定の光透過性を有する。本発明に係る積層体1においては、レジスト層12の露光面側となるレジスト層12の 上層に熱伝導層13を設け、この熱伝導層13の300Kにおける熱伝導率が、0.7W/m・K以上であり且つ、露光波長における消衰係数が0.2以下となるようにする。これにより、熱伝導層13を介して露光されるレジスト層12の温度分布を適切に制御でき、パターンピッチの微細化、及び均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成が可能となる。
【0033】
本発明において、熱伝導材料を含有する熱伝導層13の役割の1つが、熱の制御である。上述したように、熱反応型レジストを含有するレジスト層12には、露光により熱的変質した露光部と未変質の未露光部との間の差異により、現像工程を経て(熱反応型レジストが蒸発、昇華等のアブレーション型の場合は、現像工程は不要)、露光パターンに応じたパターンが形成される。熱伝導層13を設けずにレジスト層12が空気層と接触した状態においては、露光時にレジスト層12の露光によって温度が上昇した露光部から未露光部への熱干渉が生じる。このため、この熱干渉により、露光部と未露光部との間の境界が不鮮明になり、パターンピッチの微細化や、パターンの形状の均一化が困難になることがある。
【0034】
これに対して、本発明に係る積層体1においては、熱反応型レジストを含有するレジスト層12の上層として、熱伝導材料を含有する熱伝導層13を設けることにより、レジスト層12が空気層と異なる熱伝導率を有する熱伝導層13と接触するので、レジスト層12の露光部から未露光部への熱の流れを制御できる。これにより、レジスト層12の露光部から未露光部への熱干渉を低減することができ、露光部と未露光部との間の境界を明確にすることができる。この結果、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(パターンの幅やライン形状が均一)の形成が可能となる。
【0035】
すなわち、熱伝導層13を設けない状態、つまりレジスト層12が空気層と接触した状態では、空気の熱伝導率0.02W/m・K(@300K)に従い、レジスト層12の露光部から未露光部に熱が伝わる。一方、レジスト層12の上層として熱伝導層13を設けることで、熱伝導材料を含有する熱伝導層13の熱伝導率に応じてレジスト層12から熱伝導層13に熱が伝わるので、レジスト層12の露光部から未露光部への熱干渉を制御することができる。さらに、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱伝導層13の熱伝導率が、300Kにおいて0.7W/m・K以上であると、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状(均一なパターンの幅やライン形状)の形成が可能であることを見出した。
【0036】
また、本発明に係る積層体1においては、レジスト層12の上層に設けられた熱伝導層13を介してレジスト層12が露光される。レジスト層12を構成する熱反応型レジストは、露光により加熱され温度が上昇することで、熱的変質を誘起する材料である。効率よく露光による熱をレジスト層12の熱反応型レジストに伝えるために、 熱伝導層13に用いる熱伝導材料としては、出来る限り露光による光を吸収せず、露光によって熱を発生しない材料、すなわち光透過型の材料であることが好ましい。このため、熱伝導層13としては、露光波長において、着色が少ないか、透明であることが望ましい。このように、熱伝導層13として、光の吸収が少ない光透過型の熱伝導材料を用いることにより、露光時における熱伝導層13の光の吸収による熱伝導層13自体の発熱を低減でき、レジスト層12の熱干渉を効果的に低減することができる。さらに、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、露光波長における熱伝導層13の消衰係数が0.2以下であることにより、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状を実現できることを見出した。
【0037】
以上のことから、本発明に係る積層体において、熱伝導層13は、露光波長における消衰係数が0.2以下であり、且つ、 熱伝導率が0.7W/m・K以上(@300K)である。また、熱伝導層13の熱伝導率としては、0.9W/m・K以上(@300K)であることが好ましく、1.0W/m・K以上(@300K)であることがより好ましく、1.2W/m・K以上(@300K)であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明において、熱反応型レジスト材料を露光する熱源は、加熱でき所望のパターン形状を達成できる手段であれば特に制限はないが、容易にパターンが形成できる手段として、レーザー露光が好ましく、用いられるレーザーとしては、KrFやArFレーザーなどのエキシマレーザーや半導体レーザー、電子 線、X線等を挙げることができる。然るにKrFやArFレーザーなどのエキシマレーザーは装置が非常に大型で高価なこと、電子線、X線などは真空チェンバーを使用する必要があることからコストや大型化の観点からかなりの制限がある。このため、光源装置が非常に小型化でき、安価である半導体レーザーを用いることが好ましい。
【0039】
一般的に、電子線やエキシマレーザー等を用いて露光光源を短波長化することで微細パターンの形成を可能にしてきたが、本発明に係る熱反応型レジストは、半導体レーザーでも十分に微細パターンを形成することが可能あるため、本発明に用いられるレーザーは半導体レーザーが好ましい。
【0040】
本発明においては、熱伝導層13は、無機材料を含有することが好ましい。無機材料は、有機材料に比べ、材料の安定性に優れる。例えば、熱反応型レジストが露光の光を吸収して温度上昇した際に、熱伝導層13を構成する熱伝導材料も高温に晒されるが、無機材料は有機材料に比べ、熱安 定性に優れるものが多く、熱伝導層13に悪影響を及ぼす恐れが少ない。さらには上述の通り、本発明において、熱伝導層13を構成する熱伝導材料には、高い熱 伝導率が要求されるが、これも有機材料に比べて無機材料の方が該当する材料が豊富である。このため、本発明においては、熱伝導層13の熱伝導材料としては、無機材料を含有することが好ましい。
【0041】
本発明においては、熱伝導層13を構成する熱伝導材料としては、酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、及びセレン化物からなる群から選択された少なくとも1つから選択されることを好ましい。
【0042】
さらに、本発明においては、熱伝導層13を構成する熱伝導材料としては、酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化錫、酸化錫ドープ酸化インジウム、酸化アルミドープ酸化亜鉛、酸化ガリウムドープ酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、窒化シリコン、酸化アルミ、窒化アルミニウム、 酸化コバルト、酸化クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化アンチモン、酸化チタンからなる化合物群から選択された少なくとも1つの化合物であることが好ましい。酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化錫ドープ酸化インジウム、酸化アルミドープ酸化亜鉛、酸化ガリウムドープ酸化亜鉛、窒化シリコンであることがより好ましく、酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アルミドープ酸化亜鉛、窒化シリコンであることがさらに好ましい。これらの材料を使用することで、効率よい熱の制御が可能になる。
【0043】
本発明において、熱伝導層13の膜厚は、1nm以上、50nm以下であることが好ましい。ここで、上述したように、本発明においては、熱伝導層13は、露光波長における消衰係数が0.2以下であるが、熱伝導層13の膜厚が厚くなると、露光時のフォーカスが合わせにくくなることや、熱伝導層13での光の吸収の影響が無視できなくなるために、熱伝導層13の膜厚には上限がある。このため、本発明において、熱伝導層13の膜厚は、1nm以上、50nm以下の範囲であることが好ましく、1nm以上、40nm以下の範囲であることがより好ましい。
【0044】
さらには、本発明に係る熱伝導層13は、複数層積層することが可能である。例えば熱伝導層13を2層積層して、熱伝導層13の膜厚等を制御することで、反射防止構造をとり、効率よくレジスト層12の熱反応型レジストに熱を伝えることが可能になる。
【0045】
本発明において、レジスト層12を構成する熱反応型レジストとしては、特に制限はなく、熱伝導層13を構成する熱伝導材料との反応性等の観点から選択することができる。例えば、以下のような熱反応型レジストを挙げることができる。
【0046】
本発明において、熱反応型レジストとしては、不完全酸化物、分解性酸化物、分解性窒化物、分解性炭化物、分解性炭酸化物、 分解性硫化物、分解性セレン化物、溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合金属材料のいずれかを含有することが好ましい。
【0047】
不完全酸化物としては、遷移金属及びXII族〜XV族元素からなる群から選ばれた元素の不完全酸化物であることが好ましい。また、不完全酸化物としては、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Rh、Ag、Hf、Ta、Au、Al、Zn、Ga、In、Sn、Sb、Pb、及びBiからなる群から選ばれた元素の不完全酸化物であることが好ましく、Ti、Cr、Mn、Co、Cu、Nb、Ag、Ta、Au、Sn、Pb、及びBiからなる群から選ばれた元素の不完全酸化物であることがさらに好ましい。
【0048】
分解性酸化物としては、CuO、Co、MnO、Mn、CrO、Cr12、PbO、Pb、TaO、Rh、RuO、MgO、CaO、BaO、ZnO、のいずれかであることが好ましい。また、分解性酸化物としては、CuO、Co、MnO、Mn、CrO、Cr12、PbO、Pb、MgO、CaO、BaO、ZnO、のいずれかであることがより好ましい。さらに、分解性酸化物としては、CuO、Co、MnO、Mn、CrO、Pb、BaO、CaO、のいずれかであることがさらに好ましい。
【0049】
分解性窒素化物としては、Zn、CrN、CuN、FeN、Mg、のいずれかであることが好ましい。また、分解性炭化物としては、NdC、Al、のいずれかであることがより好ましい。
【0050】
分解性炭酸化物としては、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO、ZnCO、CdCO、AgCO、PbCO、NiCO、のいずれかであることが好ましい。また、分解性炭酸化物としては、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO、のいずれかであることがより好ましい。
【0051】
分解性硫化物としては、CuS、Ni、FeS、FeS、Fe、SnS、HfS、TiS、Rh、RuS、Bi、Cr、GaS、BaS、MnS、Nd、のいずれかであることが好ましい。また、分解性硫化物としては、CuS、FeS、SnS、HfSのいずれかであることがより好ましく、FeS、SnS、のいずれかであることがさらに好ましい。
【0052】
分解性セレン化物としては、CuSe、BiSe、FeSe、GaSe、のいずれかであることが好ましい。また、分解性セレン化物としては、CuSeであることがより好ましい。
【0053】
溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合金属材料としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Al、Ga、In、Sn、Pb、Sb、及びBiからなる金属群(α)並びにV、Mo、W、Ge、Se、及びTeからなる金属群(β)からなる群から選択された2種類の金属を含有し、且つ、金属のうち少なくとも1種類が金属群(α)から選択されたものであることが好ましい。
【0054】
また、溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合金属材料としては、Mg、Ti、Zr、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Al、Ga、In、Pb、Sb、及びBiからなる金属群(γ)並びにV、Mo、W、Ge、及びTeからなる金属群(δ)からなる群から選択される2種類の金属を含有し、且つ、金属のうち少なくとも1種類が金属群(γ)から選択されたものであることがより好ましい。
【0055】
さらに、溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合金属材料としては、In−Sb、Sn−Sb、Cr−Sb、Ga−Sb、In−Sn、Ni−Sn、Al−Sn、Bi−Sn、Sn−Pb、Ni−Bi、Zn−Sb、Ni−Cr、Ni−Nb、Al−Ni、Cu−Zr、Ag−Zn、Ge−Sb、Sb−Te、Bi−Te、Ni−W、Zn−Te、Pb−Te、Mo−Nb、W−Nb、Cr−Mo、Cu−Vで表される金属種の組み合わせのうち、いずれかを含有することがさらに好ましい。
【0056】
また、溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合金属材料としては、InSb95、In32Sb68、In68Sb32、InSb99、Sn50Sb50、Cr50Sb50、Ga50Sb50、Ga40Sb60、Ga30Sb70、Ga20Sb80、Ga12Sb88、Ga10Sb90、In47Sn53、In53Sn47、Ni80.7Sn19.3、Al2.2Sn97.8、Bi43Sn57、Sn26Pb74、Sn25Pb75、Sn74Pb26、Ni50Bi50、Ni40Bi60、Ni60Bi40、Ni70Bi30、Ni80Bi20、Ni90Bi10、Zn32Sb68、Ni50Cr50、Ni83.8Nb16.2、Ni59.8Nb40.2、Al97.3Ni2.7、Cu90.6Zr9.4、Ag70Zn30、Ge10Sb90、Ge20Sb80、Ge30Sb70、Ge50Sb50、Bi90Te10、Bi97Te、Ni8119、Zn50Te50、Pb50Te50、Mo40Nb60、Mo50Nb50、W40Nb60、W50Nb50、Cr85Mo15、Sb40Te60、Bi10Te90、Cu8.691.4、Cu13.686.4、Cu18.681.4のいずれかを含有することが特に好ましい。さらに、溶融性複合金属材料、相変化性複合金属材料、酸化性複合 金属材料としては、Sb40Te60、Bi10Te90、Cu8.691.4、Cu13.686.4、Cu18.681.4のいずれかを含有することが最も好ましい。
【0057】
本発明に係る積層体1においては、レジスト層12の熱反応型レジストとしては、上述した熱反応型レジストのうち、Cr1−x(X=0.24)、Nb1−x(X=0.11)、Ta1−x(X=0.17)、Ti1−x(X=0.18)、Sn1−x(X=0.1)、Pb1−x(X=0.21)、Mn、CuO、Co、Pb、BaO、CaCO、FeS、SnS、Bi97Te、Sb40Te60、Ge20Sb80、In32Sb68、InSb95、Mo50Nb50、Ga50Sb50、Ni50Bi50、Ni70Bi30、Zn50Te50、Cu13.686.4、Zn32Sb68のいずれかであることが好ましい。また、これらの熱反応型レジストのうち、Cr1−x(X=0.24)、Nb1−x(X=0.11)、Ta1−x(X=0.17)、Ti1−x(X=0.18)、Sn1−x(X=0.1)、Pb1−x(X=0.21)、Mn、CuO、Co、Pb、BaO、CaCO、FeS、SnS、In32Sb68、InSb95、Ga50Sb50、Ni50Bi50、Ni70Bi30、Zn32Sb68のいずれかであることがより好ましく、Cr1−x(X=0.24)、Nb1−x(X=0.11)、Ta1−x(X=0.17)、Ti1−x(X=0.18)、Sn1−x(X=0.1)、Pb1−x(X=0.21)、Mn、CuO、Co、Pb、BaO、CaCO、FeS、SnSのいずれかであることがさらに好ましく、CuOであることが最も好ましい。
【0058】
本発明に係る積層体1においては、レジスト層12の熱反応型レジストが、少なくとも金属間化合物又は共晶状態を含有することが好ましい。
【0059】
なお、レジスト層12の膜厚としては5nm以上1μm以下の範囲であることが好ましい。レジスト層12の膜厚が薄すぎる場合、露光によりレジスト層12が十分に吸収できないため、必要な温度にまで昇温されなくなってしまう。このため露光によるパターンニングがうまくできない。レジスト層12の膜厚が厚すぎる場合、厚み方向に温度分布が形成されレジスト層12の上下で熱的変質される領域や状態が異なってしまうため、正確なパターンニングができない。以上のことから、レジスト層12の膜厚としては5nm以上1μm以下であることが好ましく、5nm以上500nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることが特に好ましく、10nm以上100nm以下であることが最も好ましい。
【0060】
本発明において、基材11としては、平板状基材、円筒状基材(スリーブ基材、ロール基材、ドラム基材)、又はレンズ状基材であることが好ましい。これらの基材を用いることにより、基材の形状をそのままモールドの 形状として使用できる。基材の形状は、作製するモールドの形状に応じて適時選択することができる。
【0061】
光ディスクの原盤やナノインプリントなどで用いられるモールドの多くは小型で平板形状であるため、簡単な装置により転写することが 可能である。平板形状のモールドにより大面積に転写する場合、大型のモールドを作製する必要があるが、大型のモールド全面に均一にパターンを付与すること、転写時にモールド全面に均一にプレス圧力をかけること、大型のモールドをきれいに離型すること、などの問題がある。一方、スリーブ形状のモールドは、スリーブ基材を用いて作製することができ、このスリーブ形状のモールドによって転写することで、大面積のパターンを容易に作製できる。さらにはレンズ状のモールドは、反射防止構造などをレンズ形状の 基材に直接付与することで、モールドとして使用することもでき、そのままレンズ形状の基材を最終製品として使用することもできる。
【0062】
本発明において、基材11の材質としては、特に制限はないが、加工性に富む金属やガラスなどを用いることが可能である。具体的には、アルミニウム、銅、チタン、SUS、シリコン、ガラス、石英、またはそれらにクロムメッキしたものなどを挙げることができる。石英基板を選択した場合、基材11を直接ドライエッチング処理できるため、アスペクト比を大きくする場合には好適である。
【0063】
また、本発明に係る積層体1においては、基材11とレジスト層12との間にエッチング層14を設けてもよい(図1(b)参照)。
【0064】
一般に、光学材料やフィルム等では、微細パターンのアスペクト比(溝の深さを溝の開口幅で除した値)が高いものが要求され、時にはアスペクト比が10以上のものが求められることもある。膜厚方向の溝の深さは、レジスト層12の厚さがそのまま深さ方向の溝の深さになるため、深く溝を形成するためには、レジスト層12の膜厚を厚くする必要がある。しかし、レジスト層12の膜厚が厚くなることにより、露光による膜厚方向への熱伝導の均一性が失われてしまい、結果として、深さ方向だけでなく、膜面方向の微細パターンの加工精度も低下してしまう。
【0065】
パターン形状を微細化すると共に溝の深さも深くしたパターンを形成したい場合には、これらレジスト層12の下に形成したい溝深さ分の厚みの膜、すなわちエッチング層14を予め成膜しておき、エッチング層14の上にレジスト層12を成膜した積層体を得た後、先ずはレジスト層12のみを露光・現像してレジスト層12に パターン形状を付与する。引き続きパターン付与されたレジスト層12をマスクとして用い、下層のエッチング層14に深い溝を形成する方法が考えられる。この方法を用いることで、必要に応じたアスペクト比を作製することができるため、応用面での展開を広げることができる。
【0066】
また、本発明において、エッチング層14は、レジスト層12をマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングによりエッチング処理され、所望パターンが付与される。このため、エッチング層14としては、フッ素系ガスを用いたドライエッチングで容易にエッチングされるエッチング材料を含むことが好ましい。
【0067】
本発明におけるエッチング層14に用いられるエッチング材料としては、特に制限はなく、例えばSi、Ta、Ge、Te、及びP、並びにそれらの酸化物、窒化物、炭化物、及び硫 化物や、Mo、W、Taのシリサイド等が挙げられ、特に成膜の容易性、経時安定性、強度、コスト等の観点から、Si、及びTa、並びにそれらの酸化物、窒化物、及び炭化物が好ましく、Si、並びにその酸化物、窒化物、及び炭化物がさらに好ましい。
【0068】
また、エッチング層14は、ドライエッチングにより異方性や等方性エッチングが可能で、なおかつ平坦性を有している、またレジスト層12を構成する熱反応型レジストや、基材11との密着性が高いものが好ましい。例えばスパッタリング法を用いてエッチング層14を形成した場合、平坦化には、スパッタリング時の圧力を下げることが効果的であり、密着性向上には、基材11を逆スパッタ処理することや、膜の応力を低減する処理を施すことや、新たに密着層を導入することなどが有効である。
【0069】
さらには、本発明においては、上述したように、熱伝導層13を構成する熱伝導率の高い熱伝導材料が、レジスト層12を 構成する熱反応型レジストと接することで、ピッチパターンの微細化や均一なパターン形状が形成可能であることは説明した。したがって、エッチング層14を構成する材料として熱伝導率の高い熱伝導材料を適用することにより、さらなるピッチパターンの微細化や均一なパターン形状が形成可能になる。このため、本発明に係る積層体1において、エッチング層14を構成するエッチング材料としては、容易にエッチングされ且つ、熱伝導率が高い材料であることが好ましい。
【0070】
本発明に係る積層体を用いたモールドの製造方法について以下に説明する。
本発明に係るモールドの製造方法においては、基材11として、平板状基材、円筒状基材、又はレンズ状基材のいずれかを用い、この基材11上にレジスト層12と熱伝導層13とをこの順に積層した積層体1を用いる。このモールドの製造方法は、熱伝導層13を積層した積層体1を製造した後、積層体1を構成する熱反応型レジストを含有するレジスト層12をレーザーで露光してから、熱伝導層13を剥離してレジスト層12を現像する現像工程と、現像したレジスト層12をマスクとして、フロン系ガスで基材11をエッチングする工程と、レジスト層12を除去して、モールドを製造する除去工程と、を含む。
【0071】
また、本発明に係るモールドの製造方法においては、レジスト層12と基材11との間に設けられたエッチング層14を有する積層体を用いてもよい。このモールドの製造方法においては、基材11上にエッチング層14、レジスト層12、及び熱伝導層13をこの順に積層した積層体1を製造した後、 積層体1を構成する熱反応型レジストを含有するレジスト層12をレーザーで露光してから、熱伝導材料を含有する熱伝導層13を剥離し、レジスト層12を現像する現像工程と、現像したレジスト層12をマスクとして、フロン系ガスでエッチング層14をドライエッチングするエッチング工程と、レジスト層を除去してモールドを製造する除去 工程と、を含む。
【0072】
本発明に係るモールドの製造方法に用いられる基材11としては、フロン系ガスでドライエッチング処理されやすい材質が好ましく、石英、シリコン、ガラスなどが挙げられる。
【0073】
本発明に係る積層体1は、スパッタリング法、蒸着法、又はCVD法を用いて形成されることが好ましい。熱伝導層13と、レジスト層12と、を有する積層体1(さらに、エッチング層14を有する積層体1であってもよい)は、数十nmレベルの微細パターン加工が可能であるため、微細パターンサイズによっては、成膜時の熱反応型レジストの膜厚分布、表面の凹凸が非常に大きく影響することが考えられる。そこで、これらの影響をできる限り少なくするために、膜厚の均一性等の制御がやや困難な塗布法やスプレー法などによる成膜方法より、スパッタリング法や蒸着法やCVD法などの成膜方法で熱反応型レジストを形成することが好ましい。中でも組成の調整、膜厚の均一性、成膜レートの観点等からスパッタリング法が特に好ましい。
【0074】
本発明に係るモールドの製造方法において、熱反応型レジストを含むレジスト層12は、単層であってもよく、複数のレジスト層12を積層した多層構造であってもよい。なお、どのようなレジスト層12(例えば、レジスト層12に用いる熱反応型レジスト、レジスト層12の数など)を選択するかは本発明の効果を奏する範囲内で、工程や要求加工精度等によって適宜変更することができる。
【0075】
上述したように、基材11にドライエッチング可能な材料を適用することで、又はエッチング層14を設けることで、パターンの加工深さを自由に制御でき、かつ、レジスト層12の厚みを加工に最適な膜厚に選択することができるようになる。すなわち、基材11をドライエッチングする場合は、ドライエッチングの処理 時間を制御することで、エッチング層14を設ける場合は、エッチング層14の厚みを制御することで、加工深さを自由に制御できる。また、加工深さはエッチング層14で制御できることから、レジスト層12は、露光や現像が容易な膜厚にすればよい。
【0076】
熱伝導材料を含有する熱伝導層13の剥離、熱反応型レジストを含有するレジスト層12の現像、及び熱反応型レジストの除去には、酸溶液、アルカリ溶液、錯形成剤、及び有機溶剤などを単独又は適時組合せて用いることができる。酸溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、酢酸、シュウ酸、フッ酸、硝酸アンモニウムなどを用いることができ、アルカリ溶液として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などを用いることができる。錯形成剤としては、シュウ酸、エチレンジアミン4酢酸及びその塩、グリシンなどの溶液などの一般的な溶液を単独又は混合溶液として用いることができる。また、現像液中に過酸化水素や過酸化マンガンなどの電位調整剤などを加えることも可能である。さらに、現像液中に界面活性剤などを添加して現像性を向上させることも可能である。また、熱反応型レジストを含有するレジスト層12の現像工程においては、まず酸現像液で現像した後に、アルカリ現像液で 現像して所望の現像を達成する、またはその逆といった、複数段階にわたる現像を行うようにしてもよい。なお、熱伝導材料を含有する熱伝導層13及び熱反応型レジストを含有するレジスト層12の現像工程、除去工程に関しては、選択する熱伝導材料及び熱反応型レジストによっては、不要な場合がある。
【0077】
本発明において、ドライエッチング処理する工程に用いられる装置としては、真空中でフロン系ガスが導入でき、プラズマが形成でき、 エッチング処理ができるものであれば特に制限はなく、例えば、市販のドライエッチング装置、RIE装置、ICP装置などを用いることができる。ドライエッチング処理を行うガス種、時間、電力などは、熱反応型レジストの種類、エッチング層の種類、エッチング層の厚み、エッチング層のエッチングレートなどによって適宜決定しうる。
【0078】
本発明に係るモールドの製造方法においては、熱反応型レジストを含有するレジスト層12を除去する除去工程によりモールドを得る。熱反応型レジストを含有するレジスト層12の除去条件としては、エッチング層14に影響がなければ特に制限はなく、例えば、ウエットエッチング、ドライエッチングなどを用いることができる。
【0079】
本発明に係るモールドは、上記モールドの製造方法によって得られる。本発明においては、これらのモールドの製造方法を用いることにより、1nm以上、1μm以下の範囲の微細パターンを有するモールドを製造することが可能となる。
【0080】
(実施例)
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。まず、本実施例に用いた評価法について説明する。
【0081】
(LER)
LER(line edge roughness)は、パターンの乱れを表す指標で、パターンの壁面に出来た凹凸の大きさを表す。LERは、現像後のレジストの表面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、得られた像をSEMI International Standardsに記載のSEMI P47−0307に従い導出した。LERの値が小さいほどパターン形状が綺麗なことをあらわす。
【0082】
(実施例1)
実施例1においては、以下の条件によりスパッタリング法で積層体を成膜した。基材として50Φの石英基材を選択し、レジスト層の熱反応型レジストとしてCuOを選択した。基材及びレジスト層の材料を固定し、熱伝導層の熱伝導材料として酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化鉛、窒化 シリコン、及びアルミニウムドープ酸化亜鉛を選択し、下記表1に示す条件により6種類の積層体を成膜した。
以上のように成膜した各積層体を以下の条件で露光した。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:1mW〜10mW
送りピッチ:120nm〜350nm
【0083】
なお、露光中にレーザーの強度を変調させることで、さまざまな形状やパターンを作製できるが、本実施例では、露光精度を確かめるために、パターンとして連続の溝形状を形成した。形成するパターン形状は、所望の用途によって孤立した円形、楕円形状等も選択できる。本発明は、露光形状によって何ら制限を受けるものではない。
【0084】
続いて、熱伝導材料を含有する熱伝導層の剥離及び熱反応型レジストを含有するレジスト層の現像を行った。熱伝導材料を含有する熱伝導層の剥離は、下記表1の条件で実施した。熱反応型レジストを含有するレジスト層の現像には0.3wt%のグリシン水溶液を用いた。
【0085】
得られたパターン形状について、AFM(原子間力顕微鏡)測定を実施した。下記表2に層構成(膜厚)、達成可能な最小ピッチ幅と、その際のLERを示す。
【0086】
(実施例2)
基材としてΦ80mm×L400mmの円筒状の石英基材を選択した。レジスト層を構成する熱反応型レジストとして酸化銅を選択し、熱伝導層を構成する熱伝導材料として酸化鉛を選択し、下記表1に示す条件により積層体を成膜した。その後、実施例1と同様に露光、現像を実施した。得られた パターン形状について、AFM(原子間力顕微鏡)測定を実施した。下記表2に層構成(膜厚)、達成可能な最小ピッチ幅と、その際のLERを示す。
【0087】
次に、得られたレジスト層をマスクとして、ドライエッチングによる石英基材のエッチングを行った。ドライエッチングは、エッチングガスとしてSFを用い、処理ガス圧を5Pa、処理電力を400W、処理時間5分の条件で行った。
【0088】
これらパターンが付与された基材から、pH1の塩酸で6分間の条件でレジスト層のみを剥離して転写用のモールドを作製した。厚さ100μmのPETフィルム上にUV硬化樹脂を5μm塗布し、PETフィルムを線速0.5m/分の条件で搬送させながら、モールドを押し当て、モールド表面形状をフィルムに転写した。その結果、レジスト層のパターン溝幅を転写し、かつ、150nmのエッチング層の深さを有するモールドが形成されていることを確認した。
【0089】
(実施例3)
基材としてΦ80mm×L400mmの円筒状のガラス基材を選択した。エッチング層を構成するエッチング材料として酸化シリコンを選択し、レジスト層を構成する熱反応型レジストとして酸化銅を選択し、熱伝導層を構成する熱伝導材料として酸化テルルを選択した。エッチング層上に、レジスト層、及び熱伝導層がこの順に積層されるようにして、下記表1に示す条件で積層体を成膜した。その後、実施例1に記載の方法で露光、現像を実施した。得られた パターン形状について、AFM(原子間力顕微鏡)測定を実施した。下記表2に層構成(膜厚)、達成可能な最小ピッチ幅と、その際のLERを示す。
【0090】
次に、得られたレジスト層をマスクとして、ドライエッチングによる酸化シリコンのエッチングを行った。ドライエッチングは、エッチングガスとしてSFを用い、処理ガス圧を5Pa、処理電力を400W、処理時間6分の条件で行った。
【0091】
これらパターンが付与された基材から、pH1の塩酸で6分間の条件でレジスト層のみを剥離して転写用のモールドを作製した。厚さ100μmのPETフィルム上にUV硬化樹脂を5μm塗布し、PETフィルムを線速0.5m/分の条件で搬送させながら、モールドを押し当て、モールド表面形状をフィルムに転写させた。その結果、レジスト層のパターン溝幅を転写しかつ、150nmのエッチング層の深さを有するモールドが形成されていることを確認した。
【0092】
(比較例1)
レジスト層を構成する熱反応型レジストとしてCuOを選択し、熱伝導層を成膜せずに下記表1に示す条件で積層体を成膜した。その後、実施例1と同様の条件で露光、現像を実施した。
【0093】
得られたパターン形状について、AFM測定を実施した。下記表2に層構成(膜厚)、達成可能な最小ピッチ幅と、その際のLERを示す。熱伝導材料を含有する熱伝導層を有する実施例1の積層体に比較し、到達可能なピッチ幅が大きくまた、LERも悪化した。
【0094】
(比較例2)
熱伝導層を構成する熱伝導材料として、熱伝導率が0.24のポリエチレンと、消衰係数が4のアルミとを選択した以外は、実施例1と同一の条件で積層体を成膜した。次に、熱伝導層の剥離を下記表1に示す条件で実施した。露光、現像は、実施例1と同様にして実施した。
【0095】
得られたパターン形状について、AFM測定を実施した。下記表2に層構成(膜厚)、達成可能な最小ピッチ幅と、及びその際のLERを示す。熱伝導層が所定の消衰係数及び熱伝導率を有する実施例1の積層体と比較し、到達可能な最小ピッチ幅が大きく、また、LERも悪化した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における部材の材質、配置、形状などは例示的なものであり、適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、パターンピッチの微細化や均一なパターン形状の形成を実現できるという効果を有し、例えば、微細パターンを有するモールドの形成に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0100】
1 積層体
11 基材
12 レジスト層
13 熱伝導層
14 エッチング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられ、熱反応型レジストを含有するレジスト層と、前記レジスト層上に設けられる少なくとも1層の熱伝導層と、を具備し、
前記熱伝導層は、300Kにおける熱伝導率が0.7W/m・K以上であり、且つ、露光波長における消衰係数が0.2以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記熱伝導層が、無機化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱伝導層が、酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、及びセレン化物からなる化合物群から選択された少なくとも1つの化合 物を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱伝導層が、酸化テルル、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化錫、酸化錫ドープ酸化インジウム、酸化アルミドープ酸化亜鉛、酸化ガリウムドープ酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、窒化シリコン、酸化アルミ、窒化アルミニウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化アンチモン、酸化チタンからなる化合物群から選択された少なくとも1つの化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記熱伝導層の膜厚が、1nm以上、50nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の 積層体。
【請求項6】
前記基材が、平板状基材、円筒状基材、又はレンズ状基材のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記レジスト層と前記基材との間に設けられるエッチング層を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の 積層体。
【請求項8】
請求項6に記載の積層体を用いたモールドの製造方法であって、
前記積層体の前記レジスト層をレーザーで露光後、前記熱伝導層を剥離し、前記レジスト層を現像する現像工程と、
現像した前記レジスト層をマスクとして、フロン系ガスで前記基材をドライエッチングするエッチング工程と、
前記レジスト層を除去する除去工程と、を含むことを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の積層体を用いたモールドの製造方法であって、
前記積層体を形成する前記レジスト層をレーザーで露光後、前記熱伝導層を剥離し、前記レジスト層を現像する現像工程と、
現像した前記レジスト層をマスクとして、フロン系ガスで前記エッチング層をドライエッチングするエッチング工程と、
前記レジスト層を除去する除去工程と、を有することを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項10】
前記積層体は、スパッタリング法、蒸着法、CVD法のいずれかを用いて得られたことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のモールド製造方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のモールドの製造方法により製造されたことを特徴とするモールド。
【請求項12】
1nm以上、1μm以下の微細パターンを有することを特徴とする請求項11に記載のモールド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−88429(P2012−88429A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233499(P2010−233499)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】