説明

積層体、粘着ラベル、記録媒体、ラベル付き物品、検証具、キット及び判別方法

【課題】可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることを可能とすること。
【解決手段】本発明の識別用積層体10は、反射層13と、前記反射層13の前面の一部と向き合った第1複屈折性部12aと前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部12aとは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部12a,12bの各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品を真正品と非真正品との間で判別する判別技術に関する。
【背景技術】
【0002】
キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体並びに商品券及び株券などの有価証券媒体には、偽造が困難であることが望まれる。そのため、従来から、そのような媒体には、その偽造を抑止すべく、偽造が困難なラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、認証媒体及び有価証券媒体以外の物品についても、偽造品の流通が問題視されている。そのため、このような物品に、認証媒体及び有価証券媒体に関して上述した偽造防止技術を適用する機会が増えている。
【0004】
偽造防止技術は、オバート技術とコバート技術とに分類することができる。
オバート技術は、一般のユーザが物品への適用を容易に認めることができ且つ容易に真偽判定をすることができる偽造防止技術である。代表的なオバート技術では、ホログラムなどの回折構造又はOptically Variable Ink(OVI)などの多層干渉膜を利用する。
【0005】
コバート技術は、物品への適用が一般のユーザに分かり難く、物品へのコバート技術の適用を知っている特定のユーザのみが真偽判定できることを狙った偽造防止技術である。代表的なコバート技術では、蛍光印刷又は万線モアレを利用する。
【0006】
特許文献1には、他のコバート技術が記載されている。このコバート技術では、反射層と配向膜と複屈折性層とを含んだラベルを使用する。配向膜は、反射層の前面上に形成されており、配向方向が45°異なる2つの部分を含んでいる。複屈折性層は、配向膜上に形成された高分子液晶材料からなる。複屈折性層は、配向膜の2つの部分に対応して、遅相軸の方向が45°異なると共に各々が四分の一波長板としての役割を果たす2つの部分を含んでいる。
【0007】
偏光フィルムを介することなしにこのラベルを観察した場合、複屈折性層の一方の部分に対応した領域と他方の部分に対応した領域とを判別することは困難である。偏光フィルムを介して観察すると、それら領域の一方は、他方の領域と比較してより暗く見える。この明部と暗部とが形成する可視像を利用して、このラベルを支持した物品の真正を確認する。
【0008】
ところで、上記のラベルには、薄いことが望まれる。例えば、薄いラベルは、切欠き及び/又はミシン目を形成することにより容易に脆性にすることができる。そのようなラベルは、物品から剥がそうとすると容易に破壊する。したがって、ラベルの貼り替えが困難となる。また、ラベルを薄くすると、材料の使用量が減少する。
【0009】
しかしながら、例えば、上記ラベルの複屈折性層を薄くすると、可視化した潜像のコントラスト比が低下する。すなわち、複屈折性層を薄くすると、可視化した潜像が見辛くなる。
【特許文献1】特開平8−43804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1側面によると、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ複屈折性層とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする識別用積層体が提供される。
【0012】
本発明の第2側面によると、第1側面に係る積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベルが提供される。
【0013】
本発明の第3側面によると、第1側面に係る積層体と、前記積層体の前面を剥離可能に支持した基材と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする転写箔が提供される。
【0014】
本発明の第4側面によると、紙と、前記紙の中に埋め込まれた第1側面に係る積層体とを具備したことを特徴とする記録媒体が提供される。
【0015】
本発明の第5側面によると、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された第1側面に係る積層体とを具備したことを特徴とするラベル付き物品が提供される。
【0016】
本発明の第6側面によると、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った複屈折性層とを具備し、前記複屈折性層は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする検証具が提供される。
【0017】
本発明の第7側面によると、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層とを備えた識別用積層体と、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備えた検証具とを含み、前記第1複屈折性部の波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であり、前記第2複屈折性部の前記波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であることを特徴とするセキュリティキットが提供される。
【0018】
本発明の第8側面によると、真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、前記真正品は、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された識別用積層体とを具備したラベル付き物品であり、前記識別用積層体は、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層とを備え、前記第1及び第2部分の波長λにおける第1リターデイションはλ/4未満であり、検証具を介して前記真正さが未知の物品を観察することにより視認可能な画像に基づいて、前記真正さが未知の物品を前記真正品と前記非真正品との間で判別することを含み、前記検証具は、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備え、前記第1リターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおける第2リターデイションとの和はλ/4であることを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、複屈折性層を薄くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一態様に係る識別用積層体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す積層体のII−II線に沿った断面図である。
【0022】
この識別用積層体10は、図2に示すように、基材16と反射層13と配向膜17と複屈折性層12とを含んでいる。反射層13と配向膜17と複屈折性層12とは、基材16上に順次積層されている。
【0023】
基材16は、例えば、樹脂フィルムである。樹脂フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース、及びポリエチレンナフタレートを使用することができる。樹脂フィルムの厚さは、例えば、12μm乃至200μmの範囲内とする。基材16は、省略することができる。
【0024】
反射層13は、例えば、金属層、合金層、又は高屈折率層である。金属層の材料としては、例えば、アルミニウム、錫、銀、クロム、ニッケル、及び金を使用することができる。合金層の材料としては、例えば、ニッケル−クロム−鉄合金、青銅、及びアルミ青銅を使用することができる。高屈折率層の材料としては、例えば、二酸化チタン、硫化亜鉛、及び三酸化二鉄などの無機誘電体を使用することができる。反射層13として、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層してなる誘電体多層膜を使用してもよい。
【0025】
基材16を使用した場合には、反射層13は、基材16上に形成することができる。この反射層13は、例えば、蒸着、スパッタリング、又はイオンプレーティングにより形成することができる。この反射層13の厚さは、例えば、約10nm乃至約100nmの範囲内とする。なお、反射層13は、例えば、パスター加工、水洗シーライト加工、又はレーザ加工を利用することによりパターニングされた層として形成することができる。すなわち、反射層13は、基材16の前面全体を被覆していてもよく、或いは、基材16の前面の一部のみを被覆していてもよい。
【0026】
基材16を省略した場合、後で転写箔について説明するように、反射層13は、複屈折性層12上に形成してもよい。この場合、反射層13は、上記と同様の方法により形成することができる。或いは、基材16を省略した場合、反射層13として、金属箔及びセラミック板のようにそれ自体を単独で取り扱えるものを使用してもよい。
【0027】
反射層13がハーフミラーや高屈折率層や誘電体多層膜のように光透過性を有している場合、反射層13の背面側に光吸収層を設けてもよい。これにより、可視化した潜像の視認性を高めることができる。光吸収層を設ける場合、光吸収層は、反射層13の背面全体と向き合っていてもよく、或いは、反射層13の背面の一部のみと向き合っていてもよい。光吸収層は、例えば、印刷又はコーティング法により形成することができる。
【0028】
配向膜17は、複屈折性層12に液晶材料を使用した場合、そのメソゲン基の配向を制御するのに利用する。反射層13を複屈折性層12上に形成する場合、配向膜17は、複屈折性層12を間に挟んで反射層13と向き合っていてもよい。或いは、配向膜17は、省略してもよい。
【0029】
配向膜17は、面内方向に隣り合う第1配向部17aと第2配向部17bとを含んでいる。第1配向部17aと第2配向部17bとには、複屈折性層12を形成する前に、例えば光配向法又はラビング法を利用した配向処理を施してある。第1配向部17aと第2配向部17bとでは、液晶材料のメソゲン基を配向させる方向(以下、配向方向という)が異なっている。
【0030】
光配向法では、膜に偏光などの異方性を有する光を照射して、膜内の分子の再配列又は化学反応を誘起する。例えば、アゾベンゼン誘導体の光異性化、桂皮酸エステル、クマリン、カルコン、及びベンゾフェノンなどの誘導体の光二量化又は架橋、並びにポリイミドなどの光分解を生じさせる。これにより、その膜に異方性を付与する。
【0031】
ラビング法では、ポリイミド層及びポリビニルアルコール層などのポリマー層を形成し、その表面をラビング布で擦る。液晶材料のメソゲン基は、ラビング布で擦った方向,すなわち、ラビング方向,に配向する。
【0032】
光配向法を利用する場合、配向膜17は、例えば以下の方法により形成することができる。まず、上記の材料からなる膜を形成する。この膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、その膜の一部を、直線偏光で露光する。その後、先の膜の他の一部を、偏光面(電場ベクトルの振動面)が異なる直線偏光で露光する。これにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0033】
光配向法を利用する場合、配向膜17は、他の方法で形成することもできる。まず、上記の材料からなる膜を形成し、その膜の一部を斜め方向から自然光で露光する。次いで、光照射方向を膜面法線の周りで回転させ、その膜の他の一部を斜め方向から自然光で露光する。これにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0034】
ラビング法を利用する場合、配向膜17は、例えば以下の方法により形成することができる。まず、ポリマー膜を形成する。ポリマー膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、ポリマー膜の全面を、ラビング布で一方向に擦る。次いで、ポリマー膜上にマスクを設置し、これをラビング布で別の方向に擦る。その後、ポリマー膜からマスクを取り除くことにより、配向方向が互いに異なる第1配向部17aと第2配向部17bとを含んだ配向膜17が得られる。
【0035】
複屈折性層12は、面内方向に隣り合う第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bを含んでいる。第1複屈折性部12aは、反射層13の前面の一部と向き合っている。第2複屈折性部12bは、反射層13の前面の他の一部と向き合っている。
【0036】
第1複屈折性部12aは、面内でほぼ一様な光学特性を有している。同様に、第2複屈折性部12bも、面内でほぼ一様な光学特性を有している。典型的には、第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、同一の光学特性を有している。
【0037】
第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、遅相軸の方向が異なっている。第1複屈折性部12aの遅相軸と第2複屈折性部12bの遅相軸とがなす角度は、例えば45°以上であり、通常は80°以上である。典型的には、第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとは、それらの遅相軸が直交するように配置する。
【0038】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、波長がλである光についてのリターデイションがλ/4未満である。波長λは、可視光域内の一波長であって、例えば、緑色光の波長,すなわち、500nm乃至600nmの範囲内の波長,である。典型的には、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々において、波長λが550nmの光についてのリターデイションは、3λ/32乃至5λ/32の範囲内の値に設定する。例えば、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々において、波長λが550nmの光についてのリターデイションをλ/8に設定する。
【0039】
複屈折性層12は、反射層13の前面と直接に接触していてもよい。或いは、複屈折性層12と反射層13との間には、光学的に等方性の透明層が介在していてもよい。
【0040】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの材料としては、例えば、液晶材料を使用することができる。この液晶材料としては、例えば、積層体10の使用温度域で固体であり且つネマチック相又はスメクチック相を呈する液晶材料,典型的には高分子液晶材料,を使用することができる。この場合、複屈折性層12は、例えば、以下の方法により形成することができる。
【0041】
まず、配向膜17上に、高分子液晶層を形成する。高分子液晶層は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、この高分子液晶層を、ネマチック−等方相転移温度(NI点)以下の温度に加熱する。これにより、メソゲン基の配向変化を生じ易くする。第1配向部17a及び第2配向部17bの上部で、それらの配向方向に沿ってメソゲン基が十分に配向した後、高分子液晶層を冷却する。これにより、遅相軸の方向が異なる第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12が得られる。
【0042】
或いは、配向膜17上に、反応性官能基を有する液晶モノマーを含んだ塗膜を形成する。この塗膜は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。次いで、この塗膜に、電子線又は紫外線などのエネルギー線を照射する。或いは、この塗膜を加熱する。これにより、塗膜を硬化させる。以上のようにして、遅相軸の方向が異なる第1複屈折性部12aと第2複屈折性部12bとを含んだ複屈折性層12が得られる。
【0043】
配向膜17が複屈折性を有している場合、配向膜17に関して説明した方法により形成した膜を複屈折性層12として使用すると共に、配向膜17を省略してもよい。或いは、配向膜17に関して説明した方法により形成した膜と複屈折性層12に関して説明した方法により形成した膜との積層体を複屈折性層12として使用すると共に、配向膜17を省略してもよい。
【0044】
第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々として、複屈折性の延伸フィルムを使用してもよい。この延伸フィルムとしては、例えば、一軸又は二軸延伸したポリオレフィンフィルム及びポリエステルフィルムを使用することができる。
【0045】
図3は、図1及び図2に示す識別用積層体の変形例を概略的に示す平面図である。図4は、図3に示す積層体のIV−IV線に沿った断面図である。この識別用積層体10は、以下の構造を採用したこと以外は図1及び図2を参照しながら説明した識別用積層体10と同様の構造を有している。
【0046】
図3及び図4に示す積層体10は、基材16と反射層13との間に介在した回折構造形成層18をさらに含んでいる。回折構造形成層18の反射層13側の主面は、凸パターン又は凹パターンを含んでいる。反射層13の前面は、回折構造形成層18の凸パターン又は凹パターンに対応した凸パターン又は凹パターンを含んでいる。この凸パターン又は凹パターンは、回折構造としてホログラム又は回折格子を形成している。この回折構造は、積層体の前面に回折画像を形成する。図3には、一例として、ホログラフィにより形成した回折画像HGを描いている。
【0047】
ホログラムは、例えば、以下の方法により形成することができる。まず、光学的な撮影方法を利用して、微細な凸パターン又は凹パターンからなるレリーフ型のマスター版を作製する。次いで、電気メッキ法を利用して、マスター版から凹パターン又は凸パターンを複製したニッケル製のプレス版を作製する。その後、回折構造形成層18に、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、回折構造形成層18に、凸パターン又は凹パターンを転写する。さらに、回折構造形成層18上に、反射層13を形成する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
【0048】
ホログラムは、他の方法で形成することも可能である。すなわち、まず、平坦な回折構造形成層18上に、反射層13を形成する。次に、反射層13に、プレス版を加熱しながら押し付ける。これにより、反射層13及び回折構造形成層18に、凸パターン又は凹パターンを転写する。以上のようにして、ホログラムを形成することができる。
なお、このタイプのホログラムは、レリーフ型ホログラムと呼ぶ。
【0049】
回折格子は、光学的な撮影方法を利用しないこと以外はホログラムに関して説明したのと同様の方法により形成することができる。回折格子を形成する場合、各々が回折格子を含んだ複数の画素を配置することにより、グレーティングイメージ又はドットマトリクス(ピクセルグラム等)と呼ばれる画像を表示させてもよい。
【0050】
回折構造形成層18は、省略することができる。例えば、基材16の表面に上述した凸パターン又は凹パターンを形成可能な場合には、回折構造形成層18は不要である。
【0051】
図1乃至図4を参照しながら説明した積層体10の前面は、第1複屈折性部12aに対応した領域AA1と、第2複屈折性部12bに対応した領域AA2とを含んでいる。領域AA1及びAA2の各々は、互いからの判別が困難な潜像を形成している。すなわち、偏光子を使用することなしに積層体10の前面を直接に観察した場合、領域AA1と領域AA2との相違を見出すことは難しい。後述する検証具などの偏光子を介して積層体10の前面を観察すると、領域AA1と領域AA2との間に明るさの相違を生じる。これにより、潜像が可視化する。なお、図3及び図4を参照しながら説明した積層体10は、上記の回折構造を有しているため、図1及び図2を参照しながら説明した積層体10と比較して偽造等がより難しい。
【0052】
次に、潜像の可視化について説明する。
図5及び図6は、図1及び図2に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図である。図5には、領域AA1が光を反射する様子を描いている。図6には、領域AA2が光を反射する様子を描いている。
【0053】
図5及び図6に示す積層体10は、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bとしてλ/8波長板を含んでいる。すなわち、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bの各々は、偏光面が遅相軸ASに対して斜めであり且つ波長がλの直線偏光を入射させた場合に、偏光面が進相軸AFに平行な第1直線偏光と、偏光面が遅相軸ASに平行であり且つ第1直線偏光に対して位相がλ/8だけ遅れた第2直線偏光とを出射する。そして、この積層体10では、第1複屈折性部12aの遅相軸ASと第2複屈折性部12bの遅相軸ASとがなす角度を90°としている。
【0054】
図5及び図6に示す方法では、光源300からの光を検証具200に透過させ、この透過光を積層体10の前面に照射する。そして、積層体10からの反射光を検証具200に透過させ、観察者400は、この透過光を観察する。
【0055】
ここで、検証具200について説明する。
検証具200は、直線偏光子201と複屈折性層202とを含んでいる。複屈折性層202は、直線偏光子201の光入射面の1つと向き合っている。
【0056】
直線偏光子201は、例えば、吸収型偏光層である。吸収型偏光層としては、例えば、延伸したポリビニルアルコール層に沃素を含浸させてなる偏光層を使用することができる。直線偏光子201は、偏光層でなくてもよい。例えば、直線偏光子201として、偏光プリズムを使用してもよい。
【0057】
複屈折性層202は、先の波長λにおけるリターデイションがλ/4未満である。複屈折性層202の波長λにおけるリターデイションと第1複屈折性部12aの波長λにおけるリターデイションとの和はほぼλ/4であり、複屈折性層202の波長λにおけるリターデイションと第2複屈折性部12bの波長λにおけるリターデイションとの和はほぼλ/4である。典型的には、複屈折性層202の波長λが550nmの光についてのリターデイションは、3λ/32乃至5λ/32の範囲内の値に設定する。例えば、複屈折性層202の波長λが550nmの光についてのリターデイションをλ/8に設定する。複屈折性層202としては、例えば、第1複屈折性部12a及び第2複屈折性部12bについて例示したものを使用することができる。
【0058】
直線偏光子201と複屈折性層202とは、複屈折性層202の遅相軸AS’が、直線偏光子201が透過した直線偏光の偏光面に対して斜めになるように配置する。複屈折性層202の遅相軸AS’と直線偏光子201が透過した直線偏光の偏光面とがなす角度は、例えば40°乃至50°の範囲内とし、典型的には45°とする。
【0059】
図5及び図6の方法では、一例として、検証具200に以下の構成を採用している。すなわち、直線偏光子201として吸収型偏光層を使用し、複屈折性層202としてλ/8波長板を使用している。そして、直線偏光子201の透過軸AT’と複屈折性層202の遅相軸AS’とがなす角度を45°としている。
【0060】
また、図5及び図6の方法では、積層体10及び検証具200は、直線偏光子201が光源300及び観察者400と向き合い且つ複屈折性層202が積層体10と向き合うように配置している。ここでは、一例として、複屈折性層202の遅相軸AS’と第1複屈折性部12aの遅相軸ASとを平行とし、複屈折性層202の遅相軸AS’と第2複屈折性部12bの遅相軸ASとを直交させている。加えて、この方法では、積層体10と光源300と観察者400とを、積層体10が光源300からの光を鏡面反射した場合に観察者400が反射光を観察できるように配置している。
【0061】
検証具200を使用することなしに積層体10の前面を観察した場合、領域AA1及びAA2の双方は明部として見え、それらの間に明るさの相違は生じない。したがって、この場合、領域AA1と領域AA2との相違を見出すことは難しく、領域AA1又は領域AA2が形成している潜像が可視化されることはない。
【0062】
検証具200を使用して積層体10の前面を観察する場合、図5及び図6に示すように、光源300が放出する光,例えば自然光LN,を、検証具200の直線偏光子201に入射させる。なお、ここでは、簡略化のため、光源300は、波長がλの光のみを放出するとする。直線偏光子201は、自然光LNのうち、偏光面が透過軸AT’に対して平行な直線偏光LPS(以下、S偏光という)を透過し、偏光面が透過軸AT’に対して垂直な直線偏光LPP(以下、P偏光という)を吸収する。
【0063】
直線偏光子201を出射したS偏光LPSは、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、S偏光LPSを左楕円偏光LLEへと変換する。なお、この左楕円偏光LLEを反射層13側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、複屈折性層202の遅相軸AS’に対して右回りに45°傾いている。
【0064】
複屈折性層202を出射した左楕円偏光LLEは、領域AA1に対応した部分では、図5に示すように第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、左楕円偏光LLEを左円偏光LLCへと変換する。
【0065】
第1複屈折性部12aを出射した左円偏光LLCは、反射層13によって反射される。これにより、左円偏光LLCは右円偏光LRCへと変換される。
【0066】
反射層13からの右円偏光LRCは、第1複屈折性部12aに入射する。第1複屈折性部12aは、右円偏光LRCを右楕円偏光LREへと変換する。なお、この右楕円偏光LREを観察者400側から見た場合、電場ベクトルの終端の軌跡が形成する楕円の長軸は、第1複屈折性部12aの遅相軸ASに対して右回りに45°傾いている。
【0067】
第1複屈折性部12aを出射した右楕円偏光LREは、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、右楕円偏光LREをP偏光LPPへと変換する。
【0068】
複屈折性層202を出射したP偏光LPPは、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、P偏光LPPを吸収する。したがって、領域AA1は、観察者400に向けて光を放出しない。
【0069】
領域AA2に対応した部分では、複屈折性層202を出射した左楕円偏光LLEは、図6に示すように第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、左楕円偏光LLEをS偏光LPSへと変換する。
【0070】
第2複屈折性部12bを出射したS偏光LPSは、反射層13によって反射され、第2複屈折性部12bに入射する。第2複屈折性部12bは、S偏光LPSを左楕円偏光LLEへと変換する。
【0071】
第2複屈折性部12bを出射した左楕円偏光LLEは、複屈折性層202に入射する。複屈折性層202は、左楕円偏光LLEをS偏光LPSへと変換する。
【0072】
複屈折性層202を出射したS偏光LPSは、直線偏光子201に入射する。直線偏光子201は、S偏光LPSを透過する。したがって、領域AA2は、観察者400に向けて光を放出する。
【0073】
このように、領域AA1は観察者400に向けて光を放出せず、領域AA2は観察者400に向けて光を放出する。したがって、観察者400は、領域AA1及びAA2をそれぞれ暗部及び明部として知覚する。以上のようにして、潜像を可視化することができる。
【0074】
なお、検証具200を光線の周りで回転させると、明部と暗部との位置が入れ替わる。例えば、検証具200を光線の周りで90°回転させると、明部と暗部との位置は、図5及び図6を参照しながら説明したのとは逆になる。
【0075】
図7は、図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化した場合に観察可能な画像の一例を示す平面図である。図8は、図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化した場合に観察可能な画像の他の例を示す平面図である。
【0076】
図7には、図3及び図4に示す積層体10が保持している潜像を、図5及び図6を参照しながら説明した方法により可視化した場合に観察可能な画像を描いている。この場合、領域AA1及びAA2は、それぞれ、暗部及び明部として見える。したがって、回折画像HGのうち、領域AA1に対応した部分は視認することはできず、領域AA2に対応した部分のみを視認することができる。
【0077】
図8には、図7に示す状態から、検証具200を紙面法線の周りで90°回転させた場合に観察可能な画像を描いている。この場合、領域AA1及びAA2は、それぞれ、明部及び暗部として見える。したがって、回折画像HGのうち、領域AA2に対応した部分は視認することはできず、領域AA1に対応した部分のみを視認することができる。
【0078】
以上説明したように、この技術では、積層体10の複屈折性層12を薄くすることに伴って不足するリターデイションを、検証具200の複屈折性層202で補っている。これにより、層体10の複屈折性層12を薄くすることに伴うコントラスト比の低下を防止している。すなわち、この技術によると、可視化した潜像の視認性を損なうことなく、積層体10の複屈折性層12を薄くすることができる。
【0079】
上述した積層体10は、真正さが確認されるべき物品に、直接又は間接的に支持させる。そして、真正さが未知の物品を真正品と偽造品などの非真正品との間で判別する場合に、以下に説明するように積層体10を利用することができる。
【0080】
上記の通り、積層体10は、反射層13を含んでいる。したがって、この積層体10を支持させた物品は、光反射性の領域を有している。それゆえ、真正さが未知の物品が光反射性の領域を有していない場合には、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0081】
また、この積層体10は、検証具200を介して観察することにより可視化する潜像を有している。すなわち、この積層体10を支持させた物品の少なくとも一部の領域は、検証具200を介して観察することにより可視化する潜像を有している。それゆえ、真正さが未知の物品がそのような潜像を有していない場合には、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0082】
また、この潜像は、反射層13上に形成されている。それゆえ、真正さが未知の物品が光反射性の領域と潜像を有している領域とを含んでいたとしても、それら領域が同一でなければ、この物品は非真正品であると判断することができる。
【0083】
真正さが未知の物品が先の潜像を保持している場合、可視化した潜像の形状及び/又は大きさを、真正品のそれと比較してもよい。可視化した潜像の形状及び/又は大きさが真正品のそれと異なっていれば、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0084】
真正さが未知の物品が先の潜像を保持している場合、可視化した潜像のコントラスト比を利用して、真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別してもよい。
【0085】
上述した技術では、積層体10が含む複屈折性層12のリターデイションと検証具200が含む複屈折性層202のリターデイションとの双方をλ/8とした場合に、可視化した潜像のコントラスト比を最大とすることができる。例えば、このような設計を採用した場合、非真正品が先の潜像を保持していても、その複屈折性層のリターデイションがλ/8に設定されていない限り、検証具200によって可視化された潜像のコントラスト比は、真正品のそれには及ばない。
【0086】
したがって、例えば、可視化した潜像のコントラスト比を、真正品のそれと比較してもよい。可視化した潜像のコントラスト比が真正品のそれと異なっていれば、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0087】
或いは、複屈折性層202のリターデイションが異なる複数の検証具200を用いるか又はリターデイションが異なる複数の複屈折性層202を含んだ検証具200を用いて潜像を可視化してもよい。例えば、複屈折性層202に、リターデイションがλ/8の部分とλ/4の部分とが面内方向に隣り合った構造を採用する。そして、複屈折性層202を、直線偏光子201の光入射面の一部のみと対向させる。すなわち、検証具200に、直線偏光子、楕円偏光子、及び円偏光子としての機能を与える。直線偏光子又は円偏光子を用いて可視化した潜像のコントラスト比が、楕円偏光子を用いて可視化した画像のコントラスト比と比較してより大きい場合、その物品は非真正品であると判断することができる。
【0088】
物品の判定には、上述した方法の1つのみを利用してもよく、複数を組み合わせて利用してもよい。また、この技術は、他の判定技術と組み合わせてもよい。例えば、図3及び図4を参照しながら説明した回折画像HGを用いる判定技術を利用してもよい。物品の判定に利用する方法を増やすと、非真正品を真正品と誤って判断する確率が低くなる。
【0089】
積層体10は、以下に説明するように、様々な形態で使用され得る。
図9は、図1及び図2に示す積層体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図である。この粘着ラベル20は、積層体10と、その背面上に設けられた粘着層21とを含んでいる。この粘着ラベル20は、例えば、真正さが確認されるべき物品に貼り付けるか、或いは、そのような物品に取り付けられるべきタグなどの他の物品に貼り付ける。こうすると、上述した方法で、物品の真正を確認することができる。
【0090】
この粘着ラベル20は、脆性であってもよい。そのような粘着ラベル20は、例えば、積層体10に、切欠き及び/又はミシン目を形成することにより得られる。粘着ラベル20が脆性である場合、真正さが確認されるべき物品に貼り付けた粘着ラベルを剥がすと、積層体10は容易に破壊する。したがって、粘着ラベル20の貼り替えが困難となる。
【0091】
図10は、図1及び図2に示す積層体を含んだ記録媒体の一例を概略的に示す断面図である。この記録媒体30は、紙31と、この中に埋め込まれた積層体10とを含んでいる。紙31のうち積層体10の前面を被覆している部分には開口が設けられている。これにより、可視化した潜像の視認性を高めている。なお、潜像の可視化が可能であれば、紙31に先の開口は設けなくてもよい。
【0092】
この記録媒体30は、例えば、キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体又は商品券及び株券などの有価証券媒体のための用紙として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、後述する粘着ラベルの一部として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、真正さが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグ又はその一部として使用することができる。或いは、この記録媒体30は、真正さが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部として使用することができる。
【0093】
記録媒体30は、例えば、抄紙の際に繊維の層の間に積層体10を挟みこむことにより得られる。このような方法で得られる記録媒体30は、偽造等が難しい。
【0094】
図11は、図10の記録媒体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図である。この粘着ラベル40は、記録媒体30と、その背面上に設けられた粘着層41とを含んでいる。この粘着ラベル40は、例えば、真正さが確認されるべき物品に貼り付けるか、或いは、そのような物品に取り付けられるべきタグの基材などの他の物品に貼り付ける。
【0095】
図12は、図1及び図2に示したのと類似の構造を有する積層体を用いた転写箔の一例を概略的に示す断面図である。
【0096】
この転写箔50は、基材52と偽造防止用積層体10と接着層51とを含んでいる。基材52は、積層体10の前面を剥離可能に支持している。接着層51は、積層体10の背面に支持されている。
【0097】
基材52は、例えば、樹脂フィルム、紙、又はそれらを含んだ複合材である。樹脂フィルムの材料としては、例えば、基材16に関して例示した材料を使用することができる。
【0098】
積層体10は、基材52上に配向膜17と複屈折性層12と反射層13とを含んでいる。配向膜17と複屈折性層12と反射層13とは、基材52上に順次形成されている。積層体10が含む各構成要素は、図1及び図2を参照しながら説明したのと同様である。
【0099】
なお、複屈折性層12と反射層との積層体を基材10から剥離したときに、配向膜17が基材52上に残留するか又は配向膜17の凝集破壊を生じる場合、配向膜17は積層体10の一部とは考えない。また、配向膜17は、省略することができる。
【0100】
基材52と積層体10との間には、剥離層を介在させてもよい。剥離層の材料としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、及び硝化綿を使用することができる。剥離層は、例えば、グラビアコーティング法又はマイクログラビアコーティング法を利用して形成することができる。また、反射層13の前面は、図3及び図4を参照しながら説明した回折構造を含んでいてもよい。
【0101】
接着層51は、例えば、熱可塑性樹脂からなる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体を使用することができる。
【0102】
この転写箔50は、例えば、以下のようにして使用する。まず、例えばロール転写機又はホットスタンプを用いて、転写箔50を被転写体に接着する。次いで、積層体10から基材52を剥離する。これにより、積層体10を被転写体に貼り付けることができる。
【0103】
高分子液晶材料からなる複屈折性層12の多くは、他の高分子材料からなる同じ厚さの層と比較してより強靭である。そのため、特に、複屈折性層12が高分子液晶材料からなり且つ厚いと、作業性が損なわれることがある。例えば、積層体10を基材52から剥がしたときにバリを生じる可能性がある。複屈折性層12が薄ければ、高い作業性を達成することができる。
【0104】
図13は、偽造防止用積層体を含んだラベル付き物品の一例を概略的に示す断面図である。このラベル付き物品100は、物品101と上述した積層体10とを含んでいる。
【0105】
物品101は、真正さが確認されるべき物品である。物品101は、例えば、キャッシュカード、クレジットカード及びパスポートなどの認証媒体又は商品券及び株券などの有価証券媒体である。物品101は、認証媒体及び有価証券媒体以外の物品でもよい。例えば、物品101は、工芸品又は美術品であってもよい。或いは、物品101は、包装体とこれに収容された内容物とを含んだ包装品であってもよい。
【0106】
積層体10は、物品101に支持されている。例えば、積層体10は、物品101に貼り付けられる。この場合、例えば、図9に示す粘着ラベル20又は図11に示す粘着ラベル40を物品101に貼り付けることにより、積層体10を物品101に支持させることができる。或いは、図12に示す転写箔50を用いて、積層体10を物品101に支持させてもよい。
【0107】
積層体10は、他の方法で物品101に支持させてもよい。
例えば、物品101が紙を含んでいる場合、この紙の中に積層体10を埋め込んでもよい。この場合、ラベル付き物品100は、例えば、抄紙の際に繊維の層の間に積層体10を挟みこみ、その後、必要に応じて紙面への印刷等を行うことにより得られる。なお、潜像の可視化を容易にすべく、紙のうち積層体10の前面を被覆している部分には開口を設けてもよい。また、紙に埋め込む積層体10の形状に特に制限はない。例えば、スレッド状の積層体10を紙に埋め込んでもよい。
【0108】
積層体10を含んだタグを物品101に取り付けることにより、積層体10を物品101に支持させてもよい。物品101へのタグの付け替えが一般ユーザにとって困難であれば、積層体10は、物品101の真正を確認するのに十分に役立つ。
【0109】
積層体10、粘着ラベル20、記録媒体30、粘着ラベル40、転写箔50、及び検証具200の各々は、それ自体を単独で流通させてもよく、或いは、先に説明した判別方法を記載した使用説明書を添付して流通させてもよい。或いは、検証具200と、積層体10、粘着ラベル20、記録媒体30、粘着ラベル40、及び転写箔50の少なくとも1つとを含んだセキュリティキットを流通させてもよい。このセキュリティキットには、上記の使用説明書を添付することができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の実施例について説明する。
グラビアコーティング法により、厚さが16μmのポリエチレンテレフタレート基材上に、大日本インキ工業社製の光配向剤IA−01を0.1μmの厚さに塗布した。次いで、この塗膜の全面を、波長が365nmの直線偏光を用いて、1.0J/cm2の照度で露光した。その後、先の塗膜を、波長が365nmの直線偏光を用いて、2.0J/cm2の照度でパターン露光した。このパターン露光には、フォトマスクを使用した。また、この直線偏光は、その偏光面が全面露光に使用した直線偏光の偏光面に対して垂直となるように照射した。以上のようにして、配向方向が互いに異なる第1及び第2配向部を含んだ配向膜を得た。
【0111】
次いで、マイクログラビアコーティング法により、配向膜上に、大日本インキ製造社製の紫外線硬化型液晶UCL−008を印刷した。65℃で60秒間の加熱後、窒素雰囲気中、この塗膜を0.5J/cm2の照度で紫外線露光して、塗膜を硬化させた。これにより、遅相軸の方向が90°異なる第1及び第2複屈折性部を含んだ複屈折性層を得た。なお、複屈折性層の厚さは0.4μmであり、第1及び第2複屈折性部の各々において常光線屈折率と異常光屈折率との差Δnは0.18であった。すなわち、第1及び第2複屈折性部の各々は、波長λが550nmの一対の直線偏光を透過することにより、それら直線偏光にλ/8の位相差を与えるλ/8波長板である。
【0112】
その後、複屈折性層上に、アクリルポリオールとイソシアネートとを含有した塗工液をコーティングして、厚さが1.0μmの回折構造形成層を形成した。この回折構造形成層には、熱エンボスにより回折構造を転写した。
【0113】
次に、蒸着法により、回折構造形成層上に、厚さが50nmのアルミニウム反射層を形成した。さらに、グラビアコーティング法により、反射層上に、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体からなる厚さが2μmの粘着層を形成した。以上のようにして、転写箔を得た。
【0114】
この転写箔と紙とを粘着層が紙と向き合うように配置し、ホットスタンプにより転写箔を紙に接着した。次いで、複屈折性層からポリエチレンテレフタレート基材を剥離した。以上のようにして、複屈折性層と反射層とを含んだ積層体を、基材から紙へと転写した。
【0115】
この積層体を、検証具を使用することなしに観察した。その結果、第1複屈折性部と第2複屈折性部とを判別することはできなかった。
【0116】
次に、この積層体を、検証具を用いて観察した。検証具としては、吸収型の偏光フィルムとλ/8波長板とを、偏光フィルムの透過軸と波長板の遅相軸とが45°の角度をなすように、アクリル系接着剤を介して貼り合せてなるものを使用した。その結果、第1複屈折性部に対応した領域と第2複屈折性部に対応した領域とを、それぞれ、暗部及び明部として見ることができた。すなわち、潜像を可視像化することができた。
【0117】
次いで、検証具を光線の周りで90°回転させた。この状態で検証具を介して積層体を観察したところ、第1複屈折性部に対応した領域と第2複屈折性部に対応した領域とを、それぞれ、明部及び暗部として見ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の一態様に係る識別用積層体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す積層体のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示す識別用積層体の変形例を概略的に示す平面図。
【図4】図3に示す積層体のIV−IV線に沿った断面図。
【図5】図1及び図2に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図6】図1及び図2に示す積層体が保持している潜像を可視化する方法の一例を概略的に示す図。
【図7】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化した場合に観察可能な画像の一例を示す平面図。
【図8】図3及び図4に示す積層体が保持している潜像を可視化した場合に観察可能な画像の他の例を示す平面図。
【図9】図1及び図2に示す積層体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図。
【図10】図1及び図2に示す積層体を含んだ記録媒体の一例を概略的に示す断面図。
【図11】図10の記録媒体を含んだ粘着ラベルの一例を概略的に示す断面図。
【図12】図1及び図2に示したのと類似の構造を有する積層体を用いた転写箔の一例を概略的に示す断面図。
【図13】偽造防止用積層体を含んだラベル付き物品の一例を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0119】
10…識別用積層体、12…複屈折性層、12a…第1複屈折性部、12b…第2複屈折性部、13…反射層、16…基材、17…配向膜、17a…第1配向部、17b…第2配向部、18…回折構造形成層、20…粘着ラベル、21…粘着層、30…記録媒体、31…紙、40…粘着ラベル、41…粘着層、50…転写箔、51…接着層、52…基材、100…ラベル付き物品、101…物品、200…検証具、201…直線偏光子、202…複屈折性層、300…光源、400…観察者、AA1…領域、AA2…領域、AF…進相軸、AF’…進相軸、AS…遅相軸、AS’…遅相軸、AT’…透過軸、HG…回折画像、LLC…左円偏光、LLE…左楕円偏光、LN…自然光、LPP…直線偏光、LPS…直線偏光、LRC…右円偏光、LRE…右楕円偏光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ複屈折性層とを具備し、前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする識別用積層体。
【請求項2】
前記第1及び第2複屈折性部の各々は波長λが550nmのときのリターデイションがλ/8であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
第1複屈折性部の遅相軸は第2複屈折性部の遅相軸に対して垂直であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記反射層は回折構造を含んでいることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする粘着ラベル。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体と、前記積層体の前面を剥離可能に支持した基材と、前記積層体の背面に支持された粘着層とを具備したことを特徴とする転写箔。
【請求項7】
紙と、前記紙の中に埋め込まれた請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体とを具備したことを特徴とする記録媒体。
【請求項8】
真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された請求項1乃至4の何れか1項に記載の積層体とを具備したことを特徴とするラベル付き物品。
【請求項9】
直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った複屈折性層とを具備し、前記複屈折性層は波長λが550nmのときのリターデイションが3λ/32乃至5λ/32の範囲内にあることを特徴とする検証具。
【請求項10】
前記複屈折性層は波長λが550nmのときのリターデイションがλ/8であることを特徴とする請求項9に記載の検証具。
【請求項11】
反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層とを備えた識別用積層体と、
直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備えた検証具とを含み、
前記第1複屈折性部の波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であり、前記第2複屈折性部の前記波長λにおけるリターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおけるリターデイションとの和はλ/4であることを特徴とするセキュリティキット。
【請求項12】
前記第1複屈折性部と前記第2複屈折性部と前記第2複屈折性層との各々は前記波長λにおけるリターデイションがλ/8であることを特徴とする請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記波長λは550nmであることを特徴とする請求項11又は12に記載のキット。
【請求項14】
真正さが未知の物品を真正品と非真正品との間で判別する方法であって、
前記真正品は、真正さが確認されるべき物品と、前記真正さが確認されるべき物品に支持された識別用積層体とを具備したラベル付き物品であり、
前記識別用積層体は、反射層と、前記反射層の前面の一部と向き合った第1複屈折性部と前記前面の他の部分と向き合い且つ前記第1複屈折性部とは遅相軸の方向が異なる第2複屈折性部とを含んだ第1複屈折性層とを備え、前記第1及び第2部分の波長λにおける第1リターデイションはλ/4未満であり、
検証具を介して前記真正さが未知の物品を観察することにより視認可能な画像に基づいて、前記真正さが未知の物品を前記真正品と前記非真正品との間で判別することを含み、
前記検証具は、直線偏光子と、前記直線偏光子の光入射面と向き合った第2複屈折性層とを備え、前記第1リターデイションと前記第2複屈折性層の前記波長λにおける第2リターデイションとの和はλ/4であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−139508(P2008−139508A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324760(P2006−324760)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】